図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の油圧異常検出装置を全体的に示す概略図である。
図1において符号1は車両を示し、車両1には自動変速機(以下「変速機」という)Tが搭載される。変速機Tは前進8速で後進1速の変速段を有するツインクラッチ型の変速機からなり、P,R,N,Dなどのレンジを有する。
変速機Tは、エンジン(原動機)10のクランクシャフトに接続される駆動軸10aにトルクコンバータ12を介して接続される、2,4,6,8速の偶数段入力軸(第2入力軸)14を備えると共に、偶数段入力軸14と平行して1,3,5,7速の奇数段入力軸(第1入力軸)16を備える。エンジン10は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなる。
トルクコンバータ12はエンジン10の駆動軸10aに直結されるドライブプレート12aに固定されるポンプインペラ12bと、偶数段入力軸14に固定されるタービンランナ12cと、ロックアップクラッチ12dを有し、よってエンジン10の駆動力(回転)はトルクコンバータ12を介して偶数段入力軸14に伝達される。
偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行にアイドル軸18が設けられる。偶数段入力軸14はギア14a,18aを介してアイドル軸18に接続されると共に、奇数段入力軸16はギア16a,18aを介してアイドル軸18に接続され、よって偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18はエンジン10の回転につれて回転する。
また、第1副入力軸20と第2副入力軸22とが奇数段入力軸16と偶数段入力軸14の外周にそれぞれ同軸かつ相対回転自在に配置される。
奇数段入力軸16と第1副入力軸20は第1クラッチ24を介して接続されて第1クラッチ24を介してエンジン10の回転を伝達すると共に、偶数段入力軸14と第2副入力軸22は第2クラッチ26を介して接続されて第2クラッチ26を介してエンジン10の回転を伝達する。第1、第2クラッチ24,26は共に作動油の圧力(油圧)が供給されて動作する湿式多板クラッチからなる。
偶数段入力軸14と奇数段入力軸16の間には、偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行に出力軸28が配置される。偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18と出力軸28はベアリング30で回転自在に支承される。
奇数段側の第1副入力軸20には1速ドライブギア32と、3速ドライブギア34と、5速ドライブギア36と、7速ドライブギア38が固定されると共に、偶数段側の第2副入力軸22には2速ドライブギア40と、4速ドライブギア42と、6速ドライブギア44と、8速ドライブギア46が固定される。
出力軸28には1速ドライブギア32と2速ドライブギア40に噛合する1−2速ドリブンギア48と、3速ドライブギア34と4速ドライブギア42に噛合する3−4速ドリブンギア50と、5速ドライブギア36と6速ドライブギア44と噛合する5−6速ドリブンギア52と、7速ドライブギア38と8速ドライブギア46と噛合する7−8速ドリブンギア54が固定される。
アイドル軸18には、出力軸28に固定される1−2速ドリブンギア48と噛合するRVS(後進)アイドルギア56が回転自在に支持される。アイドル軸18とRVSアイドルギア56はRVSクラッチ(第3クラッチ)58を介して接続される。RVSクラッチ58は、第1、第2クラッチ24,26と同様、油圧を供給されて動作する湿式多板クラッチからなる。
奇数段入力軸16には1速ドライブギア32と3速ドライブギア34を選択的に第1副入力軸20に締結(固定)する1−3速ギア締結機構60(1-3)と、5速ドライブギア36と7速ドライブギア38を選択的に第1副入力軸20に締結(固定)する5−7速ギア締結機構60(5-7)が配置される。
偶数段入力軸14には2速ドライブギア40と4速ドライブギア42を選択的に第2副入力軸22に締結(固定)する2−4速ギア締結機構60(2-4)と、6速ドライブギア44と8速ドライブギア46を選択的に第2副入力軸22に締結(固定)する6−8速ギア締結機構60(6-8)が配置される。4個のギア締結機構(変速機構)は符号60で総称する。
エンジン10の駆動力は、第1クラッチ24あるいは第2クラッチ26が締結(係合)されるとき、奇数段入力軸16から第1副入力軸20あるいは偶数段入力軸14から第2副入力軸22に伝達され、さらに上記したドライブギアとドリブンギアを介して出力軸28に伝達される。
尚、後進時には、エンジン10の駆動力は偶数段入力軸14、ギア14a、ギア18a、アイドル軸18、RVSクラッチ58、RVSアイドルギア56、1−2速ドリブンギア48を介して出力軸28に伝達される。出力軸28はギア28a,62を介してディファレンシャル機構64に接続され、ディファレンシャル機構64はドライブシャフト66を介して車輪(駆動輪)68に接続される。車両1を車輪68などで示す。
ギア締結機構60は全て、油圧(シフト力)を供給されて動作する。これらギア締結機構と第1、第2クラッチ24,26とRVSクラッチ58に油圧(シフト力)を供給するため、油圧供給回路70が設けられる。
図2は油圧供給回路70の構成の一部を模式的に示す回路図である。
図2に示すように、油圧供給回路70において、リザーバ(変速機ケース下部に形成されたオイルパン。図示せず)からストレーナを介してオイルポンプ(送油ポンプ。O/P)70aによって汲み上げられた作動油の吐出圧(油圧)は、レギュレータバルブ(REG VLV。第1調圧弁)70bによってライン圧(元圧)に調圧される。
より正確には、オイルポンプ70aから排出される作動油の吐出圧は、レギュレータバルブ70bに接続されるリニアソレノイドバルブ(電磁制御弁。ライン圧調圧弁。L/SolF)70cを介してレギュレータバルブ70bに送られる油圧(信号圧)に基づき、特定のライン圧に調圧される。なお、レギュレータバルブ70bに送られる信号圧は、シフトコントローラ74によって設定されるライン圧指示値(ライン圧目標値)に基づいてリニアソレノイドバルブ(L/SolF)70cへの通電量を適宜制御することによって生成される。
図示は省略するが、オイルポンプ70aはギアを介してトルクコンバータ12のポンプインペラ12bに連結され、よってオイルポンプ70aはエンジン10に駆動されて動作するように構成される。
調圧されたライン圧は、オイルポンプ70aの吐出口に接続される油路70dを介してリニアソレノイドバルブ(第2調圧弁。L/SolA)70e、リニアソレノイドバルブ(第2調圧弁。L/SolB)70f、および偶数クラッチシフトバルブ70gの第2入力ポート70g2に送られる。
リニアソレノイドバルブ70e,70fはいずれも油圧制御弁(電磁制御弁)であり、通電量に比例してスプールを移動させて出力ポートからの出力圧をリニアに変更(調圧)する特性を備えると共に、通電されない場合はスプールが閉鎖位置に移動するN/C(ノーマル・クローズ)型のバルブとして構成される。
リニアソレノイドバルブ70eに送られた油圧はクラッチ圧(奇数クラッチ圧)に調圧(減圧)され、奇数クラッチシフトバルブ70h(第1シフトバルブ)の第1入力ポート70h1に送られる。奇数クラッチシフトバルブ70hはオン・オフソレノイドバルブ(SolA)70iに接続され、バルブ70iへの通電が遮断されると第1入力ポート70h1を介して入力された油圧が油路70j(第1油路)を介して第1クラッチ(奇数段クラッチ)24に供給される。
同様に、リニアソレノイドバルブ70fに送られた油圧はクラッチ圧(偶数クラッチ圧)に調圧(減圧)され、偶数クラッチシフトバルブ(第2シフトバルブ)70gの第1入力ポート70g1に送られる。偶数クラッチシフトバルブ70gもオン・オフソレノイドバルブ(SolB)70kに接続され、バルブ70kへの通電が遮断されると第1入力ポート70g1を介して入力された油圧が油路70l(第2油路)を介して第2クラッチ(偶数段クラッチ)26に供給される。
また、偶数クラッチシフトバルブ70gの第2入力ポート70g2に入力されたライン圧は、オン・オフソレノイドバルブ70kが通電されると油路70m(第3油路)を介して奇数クラッチシフトバルブ70hの第2入力ポート70h2に送られる。第2入力ポート70h2に送られたライン圧は、オン・オフソレノイドバルブ70iが通電されるとサーボシフトバルブ70o,70pを通り油路70n(第3油路)を介してRVSクラッチ58に送られる。なお、サーボシフトバルブ70o,70pの動作はオン・オフソレノイドバルブ(SolC)70q,(SolE)70rによって制御される。
即ち、オン・オフソレノイドバルブ70k,70iが共に通電されるとき、ライン圧が直接(減圧されることなく)RVSクラッチ58に供給される。なお、前記した複数の変速段を確立するギア締結機構60への油圧供給を含む、油圧供給回路70のその他の構成については本願発明に直接関係しないことから、これ以上の説明を省略する。
図1の説明に戻ると、変速機Tはシフトコントローラ74を備える。シフトコントローラ74はマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(ECU)として構成される。また、エンジン10の動作を制御するために同様にマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットから構成されるエンジンコントローラ76が設けられる。
シフトコントローラ74はエンジンコントローラ76と通信自在に構成され、エンジンコントローラ76からエンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度(AP)などの情報を取得する。
また、変速機Tには第1、第2、第3、第4回転数センサ82,84,86,90が配置され、それぞれ変速機Tの入力回転数NMを示す信号、第1、第2副入力軸20,22の回転数を示す信号、出力軸28の回転数(変速機Tの出力回転数)NC(換言すれば車速V)を示す信号を出力する。
油圧供給回路70の第1、第2、RVSクラッチ24,26,58に接続される油路70j,70l,70nには第1から第3油圧センサ94,96,98が配置され、第1、第2、RVSクラッチ24,26,58に供給される作動油の油圧を示す信号を出力する。
また、車両1の運転席に配置されたレンジセレクタ(図示せず)の付近にはレンジセレクタポジションセンサ102が配置され、P,R,N,Dなどのレンジのうちから運転者に操作(選択)されたレンジを示す信号を出力する。
これらセンサの出力は全てシフトコントローラ74に入力される。シフトコントローラ74は、それらセンサの出力に加えエンジンコントローラ76と通信して得られる情報に基づき、リニアソレノイドバルブ70cなどを励磁・消磁して第1、第2、RVSクラッチ24,26,58とギア締結機構60の動作を制御することで変速機Tの動作を制御する。なお、この明細書においてシフトコントローラ74が自動変速機の油圧異常検出装置を構成する。
次いで、この実施例に係る装置の動作を説明する。この実施例は油圧供給回路70を流れる変速機Tの制御油圧、より正確にはその元圧となるライン圧の高圧異常を適切に検出できるようにすることを目的とするが、先ずは車両1の後進走行中に実行されるライン圧高圧異常検出制御について説明する。
図3はその制御を示すフロー・チャートである。なお、図示のフロー・チャートは所定間隔毎に繰り返し実行される。
以下説明すると、S10において車両1が所定の運転条件を満たしており、ライン圧の異常検出制御を実行可能か否か判断する(S:処理ステップ)。所定の運転条件とは具体的には、エンジン10が運転中(IG ON状態)であること、シフトコントローラ74の電源となるバッテリ(図示せず)の電圧が所定値以上であってシフトコントローラ74の動作が保証されていること、エンジン10の回転数が所定範囲内にあること、第1、第2クラッチ24,26またはRVSクラッチ58のうちのいずれかが係合されていること、ライン圧の目標値(ライン圧指示値)が規定値以下であること、および現ドライビングサイクル(IG ONとなってからIG OFFとなるまでの1サイクル)においてこの異常判定処理を行うのが初めてであること、を意味する。
ここで各条件についてより詳しく説明する。図2を示して説明したように、油圧供給回路70に供給される油圧は、エンジン10によって駆動されるオイルポンプ70aによって生成される。従って、エンジン10が回転している状況になければ油圧供給回路70に油圧は発生しない。そこで、エンジン10が運転中(IG ON状態)であることを条件とする。
また、図3に示す制御を実行するシフトコントローラ74自身に十分な電力が供給されていない場合、正確な異常検出制御を実行することはできないため、電源バッテリの電圧が所定値以上であることを条件とする。さらに、エンジン10によって駆動されるオイルポンプ70aから十分かつ安定した油圧が供給されることを確保するために、エンジン10の回転数が所定範囲内にあることを条件とする。
加えて、正確な異常検出を実行するため、油圧が変動する変速動作の実行中でないこと、即ちクラッチの持ち替え動作が行われておらず、いずれかのクラッチ(第1、第2、RVSクラッチ24,26,58)が完全に係合されていることを条件とする。特に、図3に示す例は、車両1の後進走行中にライン圧の高圧異常を検出することを目的とすることから、S10では、RVSクラッチ58が完全係合中であること、別言すれば、RVSギアへのインギア操作が完了していることを条件とする。
また、リニアソレノイドバルブ(L/SolF)70cからの油圧に基づいてレギュレータバルブ70bで調圧されるべきライン圧の目標値(ライン圧指示値)が規定値以下であることを条件とする。上述したように、この実施例にあっては、ライン圧の高圧異常が発生、換言すれば、ライン圧が目標値(指示値)よりも高い値になっていることを検出することを目的とする。しかし、ライン圧指示値自体が高圧に設定されている場合はライン圧の高圧異常を正確に判定することが困難となる。そこでこの実施例では、誤判定を避けるべく、S10においてライン圧指示値が高圧に設定されていないことを確認することとした。従って、S10における規定値は、ライン圧指示値が異常を誤判定するおそれのある高圧に設定されていないことを判断できる値に設定される。
S10で否定される場合はライン圧の高圧異常を正確に判定できないおそれがあることから、後述する処理は行わずにプログラムを終了する。一方、S10で肯定されるときはS12に進み、誤検知防止用のタイマ(誤検知防止タイマ)が経過したか否か判断する。誤検知防止タイマはダウンタイマからなり、前進走行用クラッチ(第1、第2クラッチ24,26のいずれか)からRVSクラッチ58への切り替え(変速)動作完了後、エンジン10が安定した状態(いわゆる定常状態)になったか否かを判断するために設けられる。なお、S12における誤検知防止タイマが経過したことを含めて所定の運転条件が成立した、と判断するように構成しても良い。
S12で否定される間もライン圧を生成するエンジン10の回転が安定していないおそれがあるため、後述する処理をスキップし、S12が肯定されるまで上記した処理が繰り返される。S12で肯定される場合はS14に進み、第3油圧センサ98によって検出される、RVSクラッチ58に入力される油圧(検出圧)がライン圧指示値よりも大きいか否か(より正確にはライン圧の最大値(オイルポンプ70aから吐出される油圧そのままの値)、あるいは第3油圧センサ98が設計上検出可能な最大値付近の値となっているか否か)判断する。
S12における判断について説明すると、図2の油圧供給回路70に示すように、レギュレータバルブ70bによって調圧されたライン圧は、減圧されることなく、偶数クラッチシフトバルブ70g、奇数クラッチシフトバルブ70h、サーボシフトバルブ70o,70pを介してRVSクラッチ58に入力される。即ち、ライン圧に高圧異常が発生していなければ、リニアソレノイドバルブ70cからの油圧に基づいて設定されるライン圧指示値と、RVSクラッチ58に入力される油圧(第3油圧センサ98によって検出される検出圧)とは、理論上同一の値となるため、ライン圧指示値よりも大きな値とはならない。
一方、ライン圧に高圧異常が発生、即ちライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生している場合、オイルポンプ70aから吐出された油圧はレギュレータバルブ70bによって調圧されることなくそのままRVSクラッチ58に入力されるため、検出圧はライン圧指示値よりも大きな値、より正確にはライン圧の最大値あるいは第3油圧センサ98が設計上検出可能な最大値付近の値となる。
従って、S14において検出圧がライン圧指示値よりも大きくないと判断される場合、プログラムはS16に進み、ライン圧に高圧異常は発生していないと判定してプログラムを終了する。他方、S14における判断が肯定される場合、プログラムはS18に進み、NGカウンタの値がしきい値に達したか否か判断する。
NGカウンタは、ライン圧高圧異常が発生している状態の継続時間をカウントするためのものであり、初期値は零に設定される。従って、S18の判断は最初否定され、プログラムはS20に進んでNGカウンタの値を1つインクリメントする。その後、S18の判断が肯定されるまで上記した処理が繰り返される。なお、しきい値はライン圧の高圧異常が確実に発生していると判断できる値に設定され、この明細書において、当該しきい値によって定義される時間を所定時間と呼ぶ。また、S18の判断が肯定されるまでの間にS10,S12,S14のいずれかの判断が否定されるときは、上記したNGカウンタの値は零にリセットされる。
S18の判断が肯定され、ライン圧高圧異常が所定時間以上継続していると判断される場合、プログラムはS22に進み、ライン圧に高圧異常が発生している、即ちライン圧を調圧するリニアソレノイドバルブ(L/SolF)70cに異常が発生していると判定してプログラムを終了する。
なお、ライン圧の高圧異常が発生している状態では、変速機Tへの潤滑油量の低下やロックアップクラッチ12dの容量低下、さらにはトルクコンバータ12の内圧増加に伴うベアリングの剥離・脱落といった不都合が生じる可能性がある。従って、図示は省略するが、S18で肯定される場合、シフトコントローラ74は運転席のダッシュボードに設置された警告装置を用いて運転者に注意を呼び掛けるなど既知のフェールセーフ制御(フェールセーフアクション。FSA(Fail-Safe Action))を実行する。
図4は上記した動作を説明するためのタイム・チャートである。図4において、ライン圧指示値を破線で、第3油圧センサ98のセンサ値(検出圧)を二点鎖線で示す。
以下説明すると、時刻t1において、RVSギアへのインギア操作が完了して所定の運転条件が成立すると、誤検知防止タイマのカウントをスタートさせる。時刻t2においてタイマのカウントが零になると第3油圧センサ98のセンサ値(RVS油圧センサ値。検出圧)とライン圧指示値を比較する。図4に示す例では、時刻t2において検出圧がライン圧指示値よりも大きな値となっていることから、ライン圧高圧異常を判定するためのNGカウンタの値をインクリメントしていく。
しかし、時刻t3において、シフトコントローラ74によって設定され、リニアソレノイド70cの通電量を決定するライン圧指示値の値が規定値を超えて高圧に設定されることから、ライン圧の高圧異常判定(NGカウンタの値)は一度リセットされる。その後、時刻t4においてライン圧指示値が規定値以下に設定されると再び誤検知防止タイマのカウントをスタートさせ、時刻t5においてタイマが零となったときに検出圧とライン圧指示値を比較する。時刻t5にあっても検出圧がライン圧指示値よりも大きな値(より正確には、ライン圧の最大値あるいは第3油圧センサ98が検出可能な最大値付近の値)となっていることから、NGカウンタの値をインクリメントしていく。
時刻t6においてNGカウンタの値がしきい値以上になると、ライン圧に高圧異常が発生したと判定してライン圧高圧異常NGフラグのビットを1にすると共に、車両1に対するフェールセーフ制御(FSA)を開始する。
次いで図5および図6を参照しながら車両1が前進走行中に実行されるライン圧高圧異常検出制御について説明する。図5はその制御を示す図3と同様のフロー・チャート、図6はその動作を説明するための図4と同様のタイム・チャートである。
以下説明すると、S100では、図3フロー・チャートのS10と同様に、所定の運転条件が成立しており、ライン圧の異常検出制御を実行可能か否か判断する。なお、図5では前進走行中の制御を対象とすることから、S100の所定の運転条件にあっては、第1、第2クラッチ24,26のいずれかが完全係合中であってインギア操作が完了していることを条件とする。なお、以下便宜のため第1クラッチ24が係合している場合を例にとって説明する。
S100で否定される場合は以下の処理をスキップする一方、S100で肯定される場合はS102に進み、係合中の第1クラッチ24に供給されるべきクラッチ圧目標値を、ライン圧指示値よりも高い値、より具体的には最大値に設定(増加)する。
図2に示して説明したように、第1、第2クラッチ24,26に供給されるクラッチ圧は、元圧となるライン圧をリニアソレノイドバルブ(L/SolA)70eまたはリニアソレノイドバルブ(L/SolB)70fで調圧(減圧)して生成される。従って、ライン圧が正常な状態であれば、仮にクラッチ圧目標値を最大値に設定しても、検出されるクラッチ圧がライン圧指示値を超えることはない。
しかし、ライン圧が高圧異常を起こしている場合、ライン圧はライン圧指示値にかかわらず常に高圧となることから、クラッチ圧目標値を最大値に設定すると、検出されるクラッチ圧がライン圧指示値よりも大きくなるという現象が発生する。
本発明の発明者はかかる点に着目し、所定の運転条件が成立した場合に、クラッチ圧目標値を意図的に増加させると共に、その後のクラッチ圧(検出圧)とライン圧指示値を比較することにより、ライン圧に高圧異常が発生しているか否かを判定できるようにした。
次いでプログラムはS104に進み、誤検知防止タイマが経過したか否か判断した後、S106に進み、第1の油圧センサ94によって検出される、第1クラッチ24に入力される油圧(検出圧)がライン圧指示値を超えるか否か判断する。なお、S102,S104の処理も含めて所定の運転条件が成立した、と判断するように構成しても良い。
上記したように、ライン圧に高圧異常が発生していなければ検出圧がライン圧指示値を超えることはないため、S106で否定される場合、プログラムはS108に進み、ライン圧に異常は発生していないと判定してプログラムを終了する。他方、S106で肯定される場合、プログラムはS110に進み、NGカウンタの値がしきい値に達したか否か判断する。
図3フロー・チャートのS18において説明したように、NGカウンタの初期値は零に設定されるため、S110の判断は最初否定され、プログラムはS112に進んでNGカウンタの値を1つインクリメントする。その後、S110の判断が肯定されるまで上記した処理が繰り返される。
S110の判断が肯定され、ライン圧高圧異常が所定時間以上継続していると判断される場合、プログラムはS114に進み、ライン圧に高圧異常が発生している、即ちライン圧を調圧するリニアソレノイドバルブ(L/SolF)70cに異常が発生していると判定してプログラムを終了する。なお、図示は省略するが、図5の判定処理が終了すると、S104において増加したクラッチ圧目標値は増加前の値、即ち車両1の運転者の操作などに応じてシフトコントローラ74で決定される値に戻される。
また、図3フロー・チャートと同様、図5フロー・チャートの場合にあっても、S110で肯定される場合、シフトコントローラ74は運転席のダッシュボードに設置された警告装置を用いて運転者に注意を呼び掛けるなど既知のフェールセーフ制御を実行する。
図6を参照しながら上記について説明する。なお、図6において、ライン圧指示値を破線で、第1の油圧センサ94のセンサ値(検出圧)を二点鎖線で示す。また、図6では1速ギヤ(LOWギヤ)で車両1が走行する場合を例にとって説明する。
以下説明すると、時刻t1においてLOWギアへのインギア操作が完了した後、時刻t2において所定の運転条件が成立すると、クラッチ圧目標値を最大値まで増加させると共に、誤検知防止タイマのカウントをスタートさせる。時刻t3においてタイマのカウントが零になると第1の油圧センサ94のセンサ値(検出圧)とライン圧指示値を比較する。
上記したように、ライン圧に高圧異常が発生していなければ検出圧がライン圧指示値を超えることはない。一方、ライン圧に高圧異常が発生している場合、検出圧は、増加されたクラッチ圧目標値に追従して増加する結果、ライン圧指示値よりも高い値を出力することとなる。図6に示す例では、時刻t3において検出圧がライン圧指示値を超えているため、ライン圧高圧異常を判定するためのNGカウンタの値をインクリメントしていく。
その後時刻t4においてNGカウンタの値がしきい値以上になると、ライン圧に高圧異常が発生したと判定してライン圧高圧異常NGフラグのビットを1にすると共に、車両1に対するフェールセーフ制御を開始する。
以上説明した如く、この発明の実施例においては、車両1に搭載される原動機(エンジン)10の回転を第1、第2クラッチ24,26を介して入力する第1入力軸(奇数段入力軸)16、第2入力軸(偶数段入力軸)14と、前記エンジン10の回転を第3クラッチ(RVSクラッチ)58を介して入力するアイドル軸18と、前記第1、第2入力軸16,14と平行に配置される少なくとも1個の出力軸28と、前記第1、第2入力軸16,14と前記出力軸28との間に介挿される複数の変速段と、前記エンジン10によって駆動されるオイルポンプ70aと、前記第1、第2、第3クラッチ24,26,58および前記複数の変速段の変速機構(ギア締結機構)60に対して前記オイルポンプ70aから油圧を供給する油圧供給回路70と、前記油圧供給回路70を制御する制御手段(シフトコントローラ74)とを備えた車両1の自動変速機Tにおいて、前記油圧供給回路70は、前記オイルポンプ70aから吐出される油圧を一次調圧してライン圧を生成可能な第1調圧弁(レギュレータバルブ)70bと、前記制御手段によって設定されるライン圧指示値に基づいて前記第1調圧弁70bの動作を制御するライン圧調圧弁(リニアソレノイドバルブ(L/SolF)70c)と、前記第1調圧弁70bから吐出されたライン圧を、第2調圧弁(リニアソレノイドバルブ(L/Sol A,B)70e,70f)によって調圧した後、第1シフトバルブ(奇数クラッチシフトバルブ)70h、第2シフトバルブ(偶数クラッチシフトバルブ)70gを介して前記第1、第2クラッチ24,26に供給する第1、第2油路70j,70lと、前記ライン圧を、前記第1、第2シフトバルブ70h,70gを介して直接前記RVSクラッチ58に供給する第3油路70m,70nと、前記第1、第2、第3油路70j,70l,70nに設けられて油圧をそれぞれ検出する第1、第2、第3油圧検出手段(第1、第2、第3油圧センサ)94,96,98とを有すると共に、前記制御手段は、前記車両1が所定の運転条件を満たしていると判断されるとき、少なくとも前記第1、第2、第3油圧センサ94,96,98によって検出された油圧(検出圧)と前記ライン圧指示値とに基づいて前記ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したか否か判定するライン圧調圧弁異常判定手段を備えるように構成した。従って、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことを迅速かつ精度良く判定することができる。
また、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことを精度良く判定することができるため、当該装置を利用することで自動変速機Tの潤滑油量の低下やロックアップクラッチ容量の低下といった問題を回避するためのフェールセーフ制御(FSA)も適切に実行することが可能となる。
また、前記所定の運転条件は、少なくとも前記エンジン10の回転数が所定範囲内にあること、前記第1、第2、RVSクラッチ24,26,58のうちいずれかが係合されていること、および前記ライン圧指示値が規定値以下であること、からなるように構成したので、上記した効果に加え、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したと誤って判定することを適切に回避することが可能となり、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことをより一層精度よく判定することができる。
また、前記ライン圧調圧弁異常判定手段は、前記RVSクラッチが係合されている場合、即ち車両1が後進走行をしている場合であって、前記第3油圧センサ98によって検出された油圧(RVS検出圧)が前記ライン圧指示値よりも大きいとき、前記ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生していると判定する(S14,S22)ように構成したので、上記した効果に加え、車両1が後進走行を行った際に、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことをより一層迅速かつ精度良く判定することができる。
また、前記ライン圧調圧弁異常判定手段は、前記第1クラッチ24または第2クラッチ26が係合されている場合、即ち車両1が前進走行をしている場合であって、前記係合されているクラッチに供給されるべき油圧の目標値(クラッチ圧目標値)を前記ライン圧指示値よりも高圧に設定する(S102)と共に、前記第1、第2油圧センサ94,96のうち前記クラッチが係合されている側によって検出された油圧(検出圧)が前記ライン圧指示値よりも高いとき前記ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生していると判定する(S106,S114)ように構成したので、上記した効果に加え、車両の前進走行中においてもライン圧調圧弁に高圧異常が発生したことをより一層迅速かつ精度良く判定することができる。
また、前記ライン圧調圧弁異常判定手段は、前記第3油圧センサ98によって検出された油圧(RVS検出圧)が前記ライン圧指示値よりも大きい状態が所定時間以上継続しているとき、前記ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生していると判定する(S14,S18,S22)ように構成したので、上記した効果に加え、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことをより一層精度良く判定することができる。
また、前記ライン圧調圧弁異常判定手段は、前記第1、第2油圧センサ94,96のうち前記クラッチが係合されている側によって検出された油圧(検出圧)が前記ライン圧指示値よりも高い状態が所定時間以上継続しているとき、前記ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生していると判定する(S106,S110,S114)ように構成したので、上記した効果に加え、ライン圧調圧弁70cに高圧異常が発生したことをより一層精度良く判定することができる。
なお、自動変速機Tの構成は図示した構成に限られるものではなく、上記した油圧供給回路と同様の構成を備えるものであれば、どのような構成であっても良い。
また、所定の運転条件として種々の条件を挙げたが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、例えば作動油の温度などを条件として加えても良い。
また、原動機としてエンジンを例示したが、それに限られるものではなく、例えばエンジンと電動モータとのハイブリッドであっても良い。