図1はこの発明の実施例に係るロックアップクラッチの異常検出装置を全体的に示す概略図である。
図1において符号1は車両を示し、車両1には自動変速機(以下「変速機」という)Tが搭載される。変速機Tは前進8速で後進1速の変速段を有するツインクラッチ型の変速機からなり、P,R,N,Dなどのレンジを有する。
変速機Tは、エンジン(内燃機関)10のクランクシャフトに接続される駆動軸10aにトルクコンバータ12を介して接続される、2,4,6,8速の偶数段入力軸(第2入力軸)14を備えると共に、偶数段入力軸14と平行して1,3,5,7速の奇数段入力軸(第1入力軸)16を備える。エンジン10は例えばガソリンを燃料とする火花点火式の内燃機関からなる。
トルクコンバータ12はエンジン10の駆動軸10aに直結されるドライブプレート12aに固定されるポンプインペラ12bと、偶数段入力軸14に固定されるタービンランナ12cと、ロックアップクラッチ12dを有し、よってエンジン10の駆動力(回転)はトルクコンバータ12を介して偶数段入力軸14に伝達される。
また、偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行にアイドル軸18が設けられる。偶数段入力軸14はギア14a,18aを介してアイドル軸18に接続されると共に、奇数段入力軸16はギア16a,18aを介してアイドル軸18に接続され、よって偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18はエンジン10の回転につれて回転する。
また、第1副入力軸20と第2副入力軸22とが奇数段入力軸16と偶数段入力軸14の外周にそれぞれ同軸かつ相対回転自在に配置される。
奇数段入力軸16と第1副入力軸20は第1クラッチ24を介して接続されて第1クラッチ24を介してエンジン10の回転を伝達すると共に、偶数段入力軸14と第2副入力軸22は第2クラッチ26を介して接続されて第2クラッチ26を介してエンジン10の回転を伝達する。第1、第2クラッチ24,26は共に作動油の圧力(油圧)が供給されて動作する湿式多板クラッチからなる。
偶数段入力軸14と奇数段入力軸16の間には、偶数段入力軸14と奇数段入力軸16と平行に出力軸28が配置される。偶数段入力軸14と奇数段入力軸16とアイドル軸18と出力軸28はベアリング30で回転自在に支承される。
奇数段側の第1副入力軸20には1速ドライブギア32と、3速ドライブギア34と、5速ドライブギア36と、7速ドライブギア38が固定されると共に、偶数段側の第2副入力軸22には2速ドライブギア40と、4速ドライブギア42と、6速ドライブギア44と、8速ドライブギア46が固定される。
出力軸28には1速ドライブギア32と2速ドライブギア40に噛合する1−2速ドリブンギア48と、3速ドライブギア34と4速ドライブギア42に噛合する3−4速ドリブンギア50と、5速ドライブギア36と6速ドライブギア44と噛合する5−6速ドリブンギア52と、7速ドライブギア38と8速ドライブギア46と噛合する7−8速ドリブンギア54が固定される。
アイドル軸18には、出力軸28に固定される1−2速ドリブンギア48と噛合するRVS(後進)アイドルギア56が回転自在に支持される。アイドル軸18とRVSアイドルギア56はRVSクラッチ58を介して接続される。RVSクラッチ58は、第1、第2クラッチ24,26と同様、油圧を供給されて動作する湿式多板クラッチからなる。
奇数段入力軸16には1速ドライブギア32と3速ドライブギア34を選択的に第1副入力軸20に締結(固定)する1−3速ギア締結機構60(1-3)と、5速ドライブギア36と7速ドライブギア38を選択的に第1副入力軸20に締結(固定)する5−7速ギア締結機構60(5-7)が配置される。
偶数段入力軸14には2速ドライブギア40と4速ドライブギア42を選択的に第2副入力軸22に締結(固定)する2−4速ギア締結機構60(2-4)と、6速ドライブギア44と8速ドライブギア46を選択的に第2副入力軸22に締結(固定)する6−8速ギア締結機構60(6-8)が配置される。4個のギア締結機構は符号60で総称する。
エンジン10の駆動力は、第1クラッチ24あるいは第2クラッチ26が締結(係合)されるとき、奇数段入力軸16から第1副入力軸20あるいは偶数段入力軸14から第2副入力軸22に伝達され、さらに上記したドライブギアとドリブンギアを介して出力軸28に伝達される。
尚、後進時には、エンジン10の駆動力は偶数段入力軸14、ギア14a、ギア18a、アイドル軸18、RVSクラッチ58、RVSアイドルギア56、1−2速ドリブンギア48を介して出力軸28に伝達される。出力軸28はギア28a,62を介してディファレンシャル機構64に接続され、ディファレンシャル機構64はドライブシャフト66を介して車輪(駆動輪)68に接続される。車両1を車輪68などで示す。
ギア締結機構60は全て、油圧(シフト力)を供給されて動作する。これらギア締結機構60と第1、第2クラッチ24,26,RVSクラッチ58およびトルクコンバータ12に油圧を供給するため、油圧供給回路70が設けられる。
図2は油圧供給回路70の構成の一部、特にロックアップクラッチ12dの制御に関わる部分を具体的に示す回路図である。
油圧供給回路70にあっては、リザーバからオイルポンプによって汲み上げられた作動油は、レギュレータバルブおよびトルコン調圧バルブ(いずれも図示せず)によって必要圧(LC係合圧)に調圧され、油路70aに供給される。
油路70aに供給されたLC係合圧は、分岐路70a1を介してLCシフトバルブ70bに送られ、さらに油路70cを介してトルクコンバータの内圧室12d1に供給されてロックアップクラッチ12dを係合側に押圧する。
一方、油路70aから分岐路70a2を介してLCコントロールバルブ70dに送られる油圧は、ここで適宜調圧された後、油路70e,LCシフトバルブ70bおよび油路70fを介して背圧室12d2に供給されてロックアップクラッチ12dを解放側に押圧する。
ここで、LCコントロールバルブ70dのバルブ位置(調圧ポイント)は、リニアソレノイドバルブ(電磁制御弁)70gから油路70hを介してLCコントロールバルブ70dに送られる油圧(LC制御圧)に応じて変化する。リニアソレノイドバルブ70gは油圧制御弁であり、通電量に比例してスプールを移動させて出力ポートからの出力圧(LC制御圧)をリニアに変更(調圧)する特性を備えると共に、通電されない場合はスプールが閉鎖位置に移動するN/C(ノーマル・クローズ)型のバルブとして構成される。
ロックアップクラッチ12dの係合力(スリップ量)は、内圧室12d1に供給されるLC係合圧と背圧室12d2に供給される油圧の油圧差を調整、より正確にはリニアソレノイドバルブ70gへの通電量を適宜調整することによって制御される。
なお、上記したように、リニアソレノイドバルブ70gの特性は、通電量と出力圧(LC制御圧)とを一次関数(線形の関係)で表すことができる。しかしながら、図6を示して説明したように、このリニアソレノイド70gの特性、特に低出力圧域における特性に異常が発生したような場合、従来技術ではロックアップクラッチ12dの異常を検出することができないという不都合が懸念される。
図2の説明を続けると、トルクコンバータ12の内圧室12d1に供給された油圧のうち一部は油路70iを介して潤滑油として変速機Tの各可動部に供給される。
また、LCシフトバルブ70bの動作はオン・オフソレノイドバルブ70j,70kによって制御される。この実施例においては、オン・オフソレノイドバルブ70j,70kのいずれもが消磁されている場合にLCシフトバルブ70bの位置が図2に示す位置となって上記したロックアップクラッチ係合回路が形成されるように構成される。
他方、オン・オフソレノイドバルブ70j,70kのいずれか一方または両方が励磁されると、LCシフトバルブ70bのスプール位置が紙面左側に移動し、ロックアップクラッチ12dの内圧室12d1に油圧が供給されない(油圧供給が遮断される)回路が形成される。
即ち、オン・オフソレノイドバルブ70j,70kのいずれか一方または両方が励磁されてLCシフトバルブ70bのスプール位置が紙面左側に移動すると、分岐路70a1と油路70fが連通する一方、油路70eはLCシフトバルブ70bによって遮断される。また、内圧室12d1に繋がる油路70cは油路70lと連通し、内圧室12d1に供給されていた油圧が排出される。
従って、この状態にあっては、背圧室12d2に対してのみ油圧が供給されてロックアップクラッチ12dが解放される。
図1の説明に戻ると、変速機Tはシフトコントローラ74を備える。シフトコントローラ74はマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニット(ECU)として構成される。また、エンジン10の動作を制御するために同様にマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットから構成されるエンジンコントローラ76が設けられる。
シフトコントローラ74はエンジンコントローラ76と通信自在に構成され、エンジンコントローラ76からエンジン回転数(原動機の出力回転数)NE、スロットル開度、アクセル開度APなどの情報を取得する。
また、変速機Tには第1、第2、第3、第4回転数センサ82,84,86,90が配置され、それぞれ変速機Tの入力回転数NMを示す信号、第1、第2副入力軸20,22の回転数を示す信号、出力軸28の回転数(変速機Tの出力回転数)NC(換言すれば車速V)を示す信号を出力する。
油圧供給回路70の第1、第2クラッチ24,26やロックアップクラッチ12dなどに接続される油路には複数の油圧センサ94が配置され、第1、第2クラッチ24,26やロックアップクラッチ12dなどに供給される作動油の油圧を示す信号を出力する。
また、車両1の運転席に配置されたレンジセレクタ(図示せず)の付近にはレンジセレクタポジションセンサ102が配置され、P,R,N,Dなどのレンジのうちから運転者に操作(選択)されたレンジを示す信号を出力する。
これらセンサの出力は全てシフトコントローラ74に入力される。シフトコントローラ74は、それらセンサの出力に加えエンジンコントローラ76と通信して得られる情報に基づき、図示しないリニアソレノイドバルブなどを励磁・消磁して第1、第2、RVSクラッチ24,26,58やギア締結機構60、およびロックアップクラッチ12dの動作を制御することで変速機Tの動作を制御する。なお、この明細書においてシフトコントローラ74がロックアップクラッチ12dの異常検出装置を構成する。
以上を前提とし、この発明の実施例に係るロックアップクラッチ12dの異常判定処理について図3から図5を参照しながら説明する。図3はこの実施例に係る当該異常判定処理を示すフロー・チャート、図4はその処理の一部を具体的に示すサブ・フロー・チャート、図5は当該処理に用いるしきい値について説明する図である。
先ず、この発明の実施例に係るロックアップクラッチ12dの異常判定について説明する。上記したように、この発明では、排気ガスを制御したりモニタリングしたりするために用いられる機器(例えば酸素センサやEGR(排気ガス再循環)バルブ)の異常検出処理を実行できるよう、減速走行中にロックアップクラッチ12dが係合されているか否かを判断することを目的の一とする。換言すれば、ロックアップクラッチ12dの状態が、当該機器の異常検出処理を確実に実行できる条件を満たしていることを正確に判断することが目的となり、従って、この発明の実施例にあっては、当該異常検出処理を実行するために必要な条件を具備するか否かに基づいてロックアップクラッチ12dの異常判定を行うこととする。
以下説明すると、S10において、変速機Tが異常検出実施許可条件(所定の判定条件)を具備するか否か判断する(S:処理ステップ)。
S10における所定の判定条件は、車両1が減速走行を開始する前(即ち、車両1の運転者がアクセルペダル(図示せず)を離す前)の状態に基づき、減速走行を開始した際にロックアップクラッチ12dが確実に係合されるべき状況にあることを確認するために設けられる条件である。具体的には、車両1が減速走行を開始する前において、ロックアップクラッチ12dによって変速機Tに伝達されるトルク(ロックアップクラッチ12dのクラッチ伝達トルク)が所定値以上であること、トルクコンバータ12のポンプインペラ12bとタービンランナ12cとの回転数の差(トルクコンバータ12のスリップ率)が所定スリップ率以下であること、変速機Tの変速動作中でないこと、タービンランナ12cの回転数がエンジン10のフューエルカット制御開始条件となる回転数よりも規定回転数以上高いこと、及びロックアップクラッチ12dを構成する機器(例えばLCコントロールバルブ70d等)やエンジン10を制御する機器に故障が発生していないこと、からなる。
即ち、この実施例にあっては減速走行時におけるロックアップクラッチ12dの係合異常を判定することを目的とすることから、減速走行開始前においてロックアップクラッチ12dが十分に係合しているか否かをロックアップクラッチ12dのクラッチ伝達トルク及びトルクコンバータ12のスリップ率に基づいて確認し、その後の減速走行開始後においても少なくとも一定時間以上ロックアップクラッチ12dが係合されると推定される状態にあるか否かを判断することとしている。なお、ロックアップクラッチ12dのクラッチ伝達トルクに代え、ロックアップクラッチ12dの係合力を制御するLC制御圧の値に基づいてロックアップクラッチ12dが十分に係合しているか否かを判断するようにしても良い。LC制御圧は油圧センサ94の出力から得ることができる。また、ポンプインペラ12bの回転数は、エンジン回転数NEから、タービンランナ12cの回転数は、変速機Tの入力回転数NMを示す第1回転数センサ82の出力から、それぞれ算出される。
また、変速機Tの変速動作中は変速ショックを低減するためにロックアップクラッチ12dを積極的にスリップさせるよう制御することが一般的に行われているため、この状態から車両1の減速走行を開始した場合、ロックアップクラッチ12dの異常を正確に判定するために必要な係合状態を確保できない虞がある。そこで、変速機Tの変速動作中でないことを所定の判定条件に加えた。
また、減速走行中におけるロックアップクラッチ12dの係合は、本来フューエルカット時間を延長して燃費の向上を図ることを目的とすることから、減速走行を開始する前の時点で、あるいは減速走行に移行してすぐに、エンジン回転数NEがフューエルカットを禁止するフューエルカット制御開始許可回転数を下回ってフューエルカット時間を十分に確保できなくなることを防ぐため、タービンランナ12cの回転数がエンジン10のフューエルカット制御開始条件となる回転数よりも規定回転数以上高いことを所定の判定条件に加えた。
S10で否定される場合、ロックアップクラッチ12dの異常を正確に判定できない虞があることから、後述する異常判定処理は実行せず、S12からS18に進んで各種フラグ(初回フラグ、減速LC終了フラグ)及びパラメータTLC,ΔVLC(いずれも後述)を初期化してプログラムを終了する。一方、S10で肯定される場合はS20に進み、減速LC時間TLCと減速LC速度差ΔVLCを算出する。
図4はその算出処理を説明するためのサブ・フロー・チャートである。
先ずS100において、車両1が減速ロックアップ走行中か否か、即ち、車両1が減速走行中であること、フューエルカットが実行中であること、及びロックアップクラッチ12dが係合中であること、の全要件を具備しているか否かを判断する。
なお、車両1が減速走行中か否かは、アクセルペダルの踏み込み量を示すアクセルペダルセンサやエンジン10への吸気量を調節するスロットルバルブの開度を示すスロットル開度センサの出力に基づいて判断することができる。また、ロックアップクラッチ12dが係合中か否かは、ロックアップクラッチ12dを制御するリニアソレノイドバルブ70gの通電量やロックアップクラッチ12dのスリップ率に基づいて判断することができる。
車両1が未だ減速走行を開始していない場合、S100の判断は否定されてS102に進む。S102では初回フラグのビットが1か否か判断されるが、初回フラグのビットは初期値が0に設定されることから、S102の判断も最初は否定され、S104からS108に進んで各種パラメータVS(後述),ΔVLC,TLCを初期化して図4サブ・フロー・チャートを終了する。
他方、S100で肯定され、車両1が減速ロックアップ走行中であると判断された場合、プログラムはS110に進み、初回フラグのビットが0か否か判断する。前述の通り、初回フラグのビットは初期値が0に設定されることから、S110の判断は最初肯定され、プログラムはS112に進む。
S112では、第4回転数センサ90の出力から得られる現在の車速をVSとし、S114に進み、減速ロックアップ走行の継続時間を示す減速LC時間TLCの値をリセットする。
次いでプログラムはS116に進み、初回フラグのビットを1にセットする。即ち、初回フラグは、減速ロックアップ走行が開始されて最初の処理(上記したS112,S114の処理)が完了したことを示すためのフラグである。
さらにプログラムはS118に進み、減速ロックアップ走行が終了したことを示す減速LC終了フラグをリセットしてプログラムを終了する。なお、次回以降のプログラムループでは、減速ロックアップ走行が継続する間、S100の判断が肯定された後、S110の判断で否定されて減速LC時間TLCの値が一つずつインクリメントされていく。
その後、減速ロックアップ走行が終了したと判断される場合、S100の判断が否定されると共に、S102の判断は肯定されることからプログラムはS122に進む。S122では減速LC速度差ΔVLCとして、S112で記憶した、減速ロックアップ走行開始時の車速VSと現時点(減速ロックアップ走行終了時)の車速の差を算出する。即ち、減速LC速度差ΔVLCは、減速ロックアップ走行中における車速の減速分を意味する。
さらにプログラムはS124に進み、減速LC時間TLCの値を更新して減速LC時間TLCの値を最終的に決定すると共に、S126において初回フラグのビットの値を0にリセットした後、減速ロックアップ走行が終了したことを示す減速LC終了フラグのビットを1にセットして図4サブ・フロー・チャートを終了する。
図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでプログラムはS22に進み、上記した減速LC終了フラグのビットが1か否か判断する。S22で否定されるとき、即ち未だ減速ロックアップ走行が終了していない場合は以下の処理をスキップしてプログラムを終了する。
一方、S22で肯定される場合はS24に進み、図4のS124で得られた減速LC時間TLCが所定時間TTH(後述)未満か否か判断する。S24で肯定されるときはS26に進み、図4のS122で得られた減速LC速度差ΔVLC(後述)が所定値未満か否か判断し、かかる判断も肯定されるときはS28に進んでロックアップクラッチ12dに異常が発生していると判断してプログラムを終了する。他方、S24またはS26のいずれかで否定されるときはS30に進み、ロックアップクラッチ12dに異常は発生していないと判断してプログラムを終了する。
ここで、上記した所定時間TTH及び所定値ΔVTHについて図5を参照しながら説明する。図5はロックアップクラッチ12dに異常が発生しておらず、従って、排気ガスを制御等するために用いられる機器(例えば酸素センサやEGRバルブ)の異常検出処理を実行するための条件が十分に確保されている状況を示す。なお、図5において斜線で示す部分は、ロックアップクラッチ12dに異常が発生していない場合にロックアップクラッチ12dが係合される領域を表す。
図示するように、車両1が通常減速を行うときの減速LC時間TLCを基準時間T1、そのときの減速LC速度差ΔVLCを基準速度差ΔV1とすると、しきい値となる所定時間TTHは、T1よりも小さく、かつ機器の異常検出処理を実行するために必要となる時間(例えば10msec程度)以上の値に設定される。また、所定値ΔVTHは、通常減速において所定時間TTHで減速される速度差に設定される。即ち、所定時間TTH及び所定値ΔVTHは、いずれも机上試験などによって求める必要はなく、当該機器の異常検出処理に必要な条件として必然的に定まる値に設定される。
この結果、図5に一点鎖線で示すように、車両1が強減速(急ブレーキによる減速など)を行った場合、減速LC時間TLCは所定時間TTHを下回るが、減速LC速度差ΔVLCが所定値ΔVTHを上回ることから、図3のS26で否定されてロックアップクラッチ12dに異常は発生していないと判断できる。
また、図5に破線で示すように、車両1が弱減速(フットブレーキを多用せず、エンジンブレーキや惰性走行による減速)を行った場合、減速LC速度差ΔVLCは所定値ΔVTHを下回るが、減速LC時間TLCが所定時間TTHを上回る結果、図3のS24で否定されてロックアップクラッチ12dに異常は発生していないと判断できる。
他方、ロックアップクラッチ12dに異常が発生する場合、ロックアップクラッチ12dは係合されない、あるいは早期に解放されることとなるため、減速LC時間TLCが所定時間TTHを下回ると共に、減速LC速度差ΔVLCも所定値ΔVTHを下回る結果となり、よって図3のS24,S26の処理で肯定されてロックアップクラッチ12dに異常が発生していると判断することができる。
なお、図示などは省略するが、減速LC速度差ΔVLCや減速LC時間LCを用いず、先行技術(特許第2928734号)と同様、変速機Tの入力回転数NMとエンジン10の出力回転数NEの比率(ETR=NM/NE)を算出し、当該比率に基づいてロックアップクラッチ12dの異常を判定することもできる。
即ち、ロックアップクラッチ12dに異常が発生しておらず、減速走行中にロックアップクラッチ12dが係合されていれば、当該比率ETRは1程度の値となる。しかし、減速走行中にロックアップクラッチ12dに異常が発生している(ロックアップクラッチ12dを係合できない)場合、フューエルカット制御によってエンジン回転数NEが急激に低下する一方、変速機入力回転数NMは車輪側から入力されるトルクの影響を受けて緩やかに低下するため、当該比率ETRは1を超えるはずである。
従って、比率ETRの値を一定時間モニタリングし、その値を適宜設定された所定比率と比較することによってロックアップクラッチ12dに異常が発生しているか否か判断することができる。但し、この場合、比率ETRに対するしきい値(所定比率)を予め机上試験などによって求めておくことが必要となる。
以上の如く、この発明の実施例にあっては、車両1に搭載されるエンジン(内燃機関)10と変速機Tの間に介挿されて前記エンジン10の出力側と前記変速機Tの入力側とを連結可能なロックアップクラッチ12dに異常が発生したか否か判定する異常判定手段とを備えたロックアップクラッチの異常検出装置(シフトコントローラ74)において、前記異常判定手段は、前記変速機Tが所定の判定条件(異常検出実施許可条件)を満たすとき(シフトコントローラ74。S10)、前記車両1が減速走行時に前記エンジン10のフューエルカットを実行すると共に前記ロックアップクラッチ12dを係合する減速ロックアップ走行中か否か判断し(シフトコントローラ。S20,S100)、前記車両1が前記減速ロックアップ走行中と判断するとき、前記ロックアップクラッチ12dに異常が発生したか否か判定する(シフトコントローラ74。S22〜S30)ように構成した。従って、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dに異常が発生したか否かを適確に判定することができる。
また、前記所定の判定条件は、前記減速走行開始前において、少なくとも前記ロックアップクラッチ12dのクラッチ伝達トルクが所定トルク以上であること、トルクコンバータのタービン回転数(NE)が前記フューエルカットの実行許可回転数よりも所定回転数以上高いこと、からなるように構成したので、上記した効果に加え、ロックアップクラッチ12dに異常が発生したと誤判断することを適切に回避することが可能となり、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dに異常が発生したことをより一層精度良く判定することができる。
また、前記異常判定手段は、前記車両1が前記減速ロックアップ走行中であると判断するとき(S100)、前記変速機Tの入力回転数NMに対する前記エンジン10の出力回転数NEの比率ETRを算出すると共に、前記算出した比率ETRが所定比率以上であるとき、前記ロックアップクラッチ12dに異常が発生したと判定するように構成したので、上記した効果に加え、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dに異常が発生したことをより一層精度良く検出することができる。
また、前記異常判定手段は、前記車両1が前記減速ロックアップ走行を開始してから前記減速ロックアップ走行を終了するまでの減速ロックアップ時間TLCが所定時間TTH以上であるとき、前記ロックアップクラッチ12dに異常は発生していないと判定する(S24,S30)ように構成したので、上記した効果に加え、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dの異常の有無をより一層精度良く判定することができる。
特に、変速機Tの回転数NMに対するエンジン10の出力回転数NEの比率ETRに基づいてロックアップクラッチ12dの異常を判定する場合と異なり、予め机上試験を行ってしきい値(所定比率)を定めておく必要がないため、コストの削減も図ることもできる。
また、前記異常判定手段は、前記車両1が前記減速ロックアップ走行を開始したときの車速VSと前記減速ロックアップ走行を終了したときの車速との速度差ΔVLCが所定値ΔVTH以上であるとき、前記ロックアップクラッチ12dに異常は発生していないと判定する(S26,S30)ように構成したので、上記した効果に加え、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dの異常の有無をより一層精度良く判定することができる。
また、前記異常判定手段は、前記車両1が前記減速ロックアップ走行を開始してから前記減速ロックアップ走行を終了するまでの減速ロックアップ時間TLCが所定時間未満TTHであり、かつ、前記車両1が前記減速ロックアップ走行を開始したときの車速VSと前記減速ロックアップ走行を終了したときの車速との速度差ΔVLCが所定値ΔVTH未満であるとき、前記ロックアップクラッチ12dに異常が発生したと判定する(S24−S28)ように構成したので、上記した効果に加え、車両1の減速走行中において、ロックアップクラッチ12dに異常が発生したことをより一層精度良く判定することができる。
なお、上記した実施例にあってはツインクラッチ型の変速機を例にとって説明したが、あくまでも例示に過ぎず、ロックアップクラッチを有する変速機であれば、当然シングルクラッチ型でも良く、CVT型であっても良い。
また、上記において、ロックアップクラッチ12dの異常として図6を示してリニアソレノイドバルブ70gの特性異常について説明したが、上記した実施例において判定できる異常はソレノイドバルブ70gの特性異常に限られるものではない。即ち、低速走行時においてロックアップクラッチ12dが正常に係合しない異常であれば、その原因に因らず異常の発生を判定することができる。