図1は、本発明が好適に適用される動力伝達装置8の骨子図であり、図2は、その動力伝達装置8に備えられた車両用自動変速機(以下、単に自動変速機という)10において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両等に好適に用いられるものであって、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。上記入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン28によって回転駆動されるトルクコンバータ30のタービン軸である。また、上記出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図4に示す差動歯車装置34に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)36と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン28の出力は、トルクコンバータ30、自動変速機10、差動歯車装置34、及び1対の車軸38を介して1対の駆動輪(前輪)40へ伝達されるようになっている。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
上記エンジン28は、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ30は、上記エンジン28のクランク軸に連結されたポンプ翼車30aと、上記自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車30bと、一方向クラッチを介して上記自動変速機10のハウジング(変速機ケース)26に連結されたステータ翼車30cとを備えており、上記エンジン28により発生させられた動力を上記自動変速機10へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。また、上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ32が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ32が完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bが一体回転させられる。
図2の作動表は、前記自動変速機10により成立させられる各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2、B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放をそれぞれ表している。前記自動変速機10に備えられたクラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、図3を用いて後述する油圧制御回路42のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられると共に係合、解放時の過渡油圧などが制御されるようになっている。
前記自動変速機10では、前記第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられると共に、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1及びブレーキB2の係合により第1速ギヤ段「1st」が、クラッチC1及びブレーキB1の係合により第2速ギヤ段「2nd」が、クラッチC1及びブレーキB3の係合により第3速ギヤ段「3rd」が、クラッチC1及びクラッチC2の係合により第4速ギヤ段「4th」が、クラッチC2及びブレーキB3の係合により第5速ギヤ段「5th」が、クラッチC2及びブレーキB1の係合により第6速ギヤ段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2及びブレーキB3の係合により後進ギヤ段「Rev」が成立させられ、クラッチC、ブレーキBのいずれもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。本実施例の自動変速機10では、第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
図3は、前記動力伝達装置8に備えられた油圧制御回路42のうちリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL4、SL5に関する部分を示す回路図である。この図3に示すように、上記油圧制御回路42では、ライン油圧PLを元圧としてリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置44からの指令信号に応じた油圧が調圧され、前記自動変速機10に備えられたクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2、B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ等)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3にそれぞれ係合圧として供給されるようになっている。このライン油圧PLは、前記エンジン28によって回転駆動される機械式のオイルポンプや電磁式オイルポンプからの出力圧から図示しないリリーフ型調圧弁等により、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。また、上記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成とされたものであり、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5からの出力圧(係合圧) は、ソレノイドの電磁力に従って入力ポートと出力ポートまたはドレーンポートとの間の連通状態が変化させられることにより出力圧が調圧制御され、前記油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3に供給される。そのようにして、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5にそれぞれ備えられたソレノイドは、電子制御装置44により独立に励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。
また、前記油圧制御回路42には、上記リニアソレノイドバルブSL1及びSL2の出力圧すなわちクラッチC1及びクラッチC2の係合圧を検出するための油圧スイッチSC1及び油圧スイッチSC2が、上記リニアソレノイドバルブSL1とクラッチC1の油圧アクチュエータAC1との間、及びリニアソレノイドバルブSL2とクラッチC2の油圧アクチュエータAC2との間にそれぞれ接続されている。これら油圧スイッチSC1及び油圧スイッチSC2は、クラッチC1及びクラッチC2の係合圧が係合完了を判定するために予め設定された所定値例えばライン圧PLに近い値以上となった場合に出力信号を発生する。上記クラッチC1及びクラッチC2は、図2に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられるものである。すなわち、上記クラッチC1またはクラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされている。
図4は、前記動力伝達装置8等を制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック線図である。この図4に示す電子制御装置44は、例えばROM、RAM、CPU、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理することで、前記動力伝達装置8に関する種々の制御等を実行する。また、所謂アクセル開度として知られるアクセルペダル46の操作量ACCがアクセル操作量センサ48により検出されると共に、そのアクセル操作量ACCを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。アクセルペダル46は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであり、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン28の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ50、エンジン28の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ52、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ54、エンジン28の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)及びその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ56、車速V(出力回転部材24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ58、エンジン28の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ60、常用ブレーキであるフットブレーキペダル62の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ64、シフトレバー66のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ68、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ70、油圧制御回路42内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ72等が設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無、シフトレバー66のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOILなどを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。
前記電子制御装置44は、基本的な制御として、例えば、図5に示すような予め記憶された関係から実際のアクセル開度ACC(%)等に基づいてスロットル開度θTH(%)を制御するスロットル開度制御、図6に示すような予め記憶された関係から実際のアクセル開度ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)と車速V(km/h)等とに基づいて前記自動変速機10のギヤ段を自動的に切り換える変速制御、その変速制御に関するフィードバック制御及び学習制御、図7に示すような予め記憶された関係から出力軸回転速度(車速)NOUT及びスロットル開度θTH等に基づいて前記トルクコンバータ30に備えられたロックアップクラッチ32の係合、解放、或いはスリップを実行する制御等を実行する。
図8は、前記シフトレバー66を備えたシフト操作装置74を説明する図である。このシフト操作装置74は例えば運転席の横に配設されており、そのシフト操作装置74に備えられたシフトレバー66は、前記自動変速機10の出力回転部材24をロックするための駐車位置「P」、後進走行のための後進走行位置「R」、自動変速機10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立位置「N」、自動変速モードで第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速される前進走行位置「D」(最高速レンジ位置)、第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速され且つ各ギヤ段でエンジンブレーキが作用させられる第4エンジンブレーキ走行位置「4」、第1速ギヤ段乃至第3速ギヤ段の範囲で自動変速され且つ各ギヤ段でエンジンブレーキが作用させられる第3エンジンブレーキ走行位置「3」、第1速ギヤ段乃至第2速ギヤ段の範囲で自動変速され且つ各ギヤ段においてエンジンブレーキが作用させられる第2エンジンブレーキ走行位置「2」、第1速ギヤ段で走行させられ且つエンジンブレーキが作用させられる第1エンジンブレーキ走行位置「L」へそれぞれ操作可能に設けられている。また、上記シフト操作装置74には、スポーツ走行などのためのマニアル変速モードへ切り換えるためのモード切換スイッチ76が設けられている。このモード切換スイッチ76によってマニアル変速モードが選択されると、図示しないステアリングホイールに設けられた手動変速操作釦が有効化される。
図9は、前記電子制御装置44に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図9に示す回転速度差算出手段80は、前記トルクコンバータ30の入力側に対する出力側の回転速度差、すなわちエンジン回転速度NEに対するタービン回転速度NTの実際の回転速度差NSLP(=NE−NT)を算出する。ロックアップクラッチ制御手段82は、加速走行時には、前記電子制御装置44のROM等に予め記憶された図7に示すような関係から、車両の走行状態例えば出力軸回転速度(車速)NOUT及びスロットル開度θTHに基づいて前記ロックアップクラッチ32の解放領域、スリップ制御領域、係合領域の何れであるかを判断し、図示しない油圧制御回路を介して前記ロックアップクラッチ32がその判定された状態となるように制御する。スリップ制御領域内と判定されると、ロックアップクラッチ制御手段82は、上記回転速度差算出手段80により算出される前記トルクコンバータ30の入力側に対する出力側の回転速度差が所定の目標値となるように前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御すなわちフレックスロックアップ制御を行う。また、減速走行時においても、エンジン回転速度NEを引き上げてフューエルカット領域を拡大するために、ロックアップクラッチ制御手段82は、スロットル開度が零であり且つ車速Vが所定値以上であることを条件として、予め決定された目標値である目標スリップ回転速度NSLP *(例えば、−50rpm程度)と実際のスリップ回転速度NSLP(=NE−NT)との回転速度差dNSLP(=NSLP−NSLP *)が解消されるように前記ロックアップクラッチ32をスリップ係合させるフィードバック制御を、変速中であっても実行する。
変速制御手段84は、前記自動変速機10による変速動作を制御する。例えば、図6に示す予め記憶された関係すなわち変速線図から実際のアクセル開度ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)と車速V(km/h)とに基づいて前記自動変速機10の変速段を決定し、この決定された変速段および係合状態が得られるように前記油圧制御回路42に備えられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する。この図6の変速線図における変速線は、実際のアクセル開度ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、上記値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。この変速制御の過程では、前記自動変速機10の入力トルクTINを推定し、変速に関与する油圧式摩擦係合装置の係合トルク容量すなわち係合圧またはその元圧であるライン圧をその入力トルクTINに応じた大きさに制御する。
変速フィードバック制御手段86は、上記変速制御手段84による解放側油圧式摩擦係合装置と係合側油圧式摩擦係合装置との掴み換え(クラッチツウクラッチ)による、惰行走行時或いは非加速走行時に発生するダウン変速すなわちパワーオフダウン変速に際し、その変速のイナーシャ相中における前記自動変速機10の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTの変化状態が予め定められた目標変化状態となるように前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧をフィードバック制御を行う。具体的には、イナーシャ相開始後から変速後のギヤ段の同期回転速度に至るまで(例えば、後述する図10に示す前記タービン回転速度NTが所定値Nα乃至Nβの範囲内であるときすなわち時点t2乃至t3までの間)における上記タービン回転速度NTが単位時間あたり一定の変化量(率)ΔNT*で上昇させられるように、すなわち目標値である目標タービン回転速度変化量(率)ΔNT*と実際のタービン回転速度変化量ΔNTとの差が解消されるように前記係合側油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータに対応するリニアソレノイドバルブへの係合側油圧指令値をフィードバック制御する。
変速学習制御手段88は、イナーシャ相の初期において検出される前記自動変速機10の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTの変化率ΔNTに基づいて前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を行う。具体的には、パワーオフダウン変速中のタービン回転速度NTの立ちがるイナーシャ相開始後において別途変速フィードバック制御手段86により実行されるフィードバック制御の影響が反映される前の所定時間後において検出される実際のタービン回転速度変化量ΔNTが目標タービン回転速度変化量ΔNT*となるように、次回のパワーオフダウン変速におけるイナーシャ相開始前の前記係合側油圧式摩擦係合装置の定圧待機区間における定圧待機圧を更新する。これにより、それに続く変速フィードバック制御手段86によるフィードバック初期条件が整えられてそのフィードバック制御が安定化され、タービン回転速度NTの落ち込みやタイアップが発生しないようにされる。
図10は、前記自動変速機10における解放側油圧式摩擦係合装置と係合側油圧式摩擦係合装置との掴み換えによるパワーオフダウン変速に際してのタービン回転速度NT、係合側油圧式摩擦係合装置の油圧指令値、及び解放側油圧式摩擦係合装置の油圧指令値それぞれの変化を例示するタイムチャートである。この図10に示すように、前記変速制御手段84によりパワーオフダウン変速が判断され、変速開始点t0においてその変速が出力されると、解放側油圧式摩擦係合装置の係合圧が低下させられるようにその解放側油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータに対応するリニアソレノイドバルブへの係合側油圧指令値が一旦零まで低下させられると共に、係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧が上昇させられるようにその係合側油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータに対応するリニアソレノイドバルブへの係合側油圧指令値が所定値IFFまで上昇させられて所定時間維持されることによりファーストフィルが行われた後、所定値IREGまで低下させられその指令値が所定の待機圧が得られてイナーシャ相の開始まで維持され、定圧待機区間において定圧待機圧が得られるようにする。この定圧待機時における係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧(待機圧)は変速学習制御手段88による学習制御により調節された値である。また、この係合側油圧式摩擦係合装置の定圧待機に際して解放側油圧式摩擦係合装置の係合圧は漸減させられる。次に、イナーシャ相の開始が判定されたイナーシャ相開始点t1では、上記定圧待機区間が終了させられると同時に、係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧が所定の増加率で漸増させられてタービン回転速度NTがN0からN1まで上昇させられる。このイナーシャ相では、その開始初期のt2時点において変速学習制御手段88による学習制御のためのタービン回転速度NTの変化率ΔNTが検出されるとともに、タービン回転速度NTの単位時間あたりの変化量ΔNTが一定(目標タービン回転速度変化量ΔNT*)となるように前記変速フィードバック制御手段86による前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧をフィードバック制御が行われる。
図9に戻って、学習禁止手段90は、前記パワーオフダウン変速時に前記ロックアップクラッチ制御手段82による前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御が行われる場合において、前記回転速度差算出手段80により算出される回転速度差NSLP(=NE−NT)が前記目標値NSLP *よりもたとえば25rpm程度高く設定された第1所定値NSRP1(たとえば−25rpm)以上である(未満でない場合すなわちNSLP≧NSRP1)場合、すなわち上記回転速度差NSLPが第12図の学習禁止判定領域C内の場合には、前記パワーオフダウン変速時に前記ロックアップクラッチ制御手段82による前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御が行われているか否かに拘わらず、変速学習制御手段88による係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止する。一般に、前記パワーオフダウン変速のイナーシャ相中においては、エンジン回転速度NEよりもタービン回転速度NTの方が大きいため、そのエンジン回転速度NEに対するタービン回転速度NTの回転速度差すなわち前記ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPは通常負の値とされるが、何らかの外乱、たとえばロックアップクラッチ32のつかみ過ぎや補機のオフなどによるエンジン出力トルクTEの上昇等により、そのスリップ量NSLPが零近傍となったり或いは正の値となった場合には被駆動トルクは極小となり、正の値である場合には駆動状態に転じたりするため、イナーシャ相開始となるタイミングは解放側油圧式摩擦係合装置の係合圧(解放側油圧)への依存度が増すことになる。従って、変速学習制御手段88により学習される係合側油圧式摩擦係合装置の定圧待機区間の指示油圧に対して、イナーシャ相が開始されるときの実油圧が安定しないことから、イナーシャ相初期のタービン回転速度NTの変化率ΔNTも安定せず、それに基づく学習制御が困難となる。上記学習禁止手段90では、前記回転速度差算出手段80により算出される実際の回転速度差NSLPが前記目標値NSLP *よりも高く設定された第1所定値NSRP1以上である(未満でない)場合には、変速学習制御手段88による係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止することで、斯かる弊害の発生が好適に抑制されている。
また、学習禁止手段90は、前記回転速度差算出手段80により算出される回転速度差NSLPが前記目標値NSLP *よりもたとえば25rpm程度低く設定された第2所定値NSRP2(たとえば−75rpm)以上でない(未満である場合すなわちNSLP<NSRP2)場合、すなわち上記回転速度差NSLPが第12図の学習禁止判定領域B内の場合には、変速学習制御手段88による係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止する。何らかの外乱、たとえばロックアップクラッチ32のつかみが弱くなったり、タービン回転速度NTが高く振れたり、補機のオンなどによるエンジン出力トルクTEの低下等により、前記ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが前記目標値NSLP *から大きく乖離して上記第2所定値NSRP2未満となる場合には被駆動トルクが小さくなり、変速学習制御手段88により学習される係合側油圧式摩擦係合装置の定圧待機時の指示油圧より低い油圧でイナーシャ相開始の判断がなされることが考えられる。この場合、タービン回転速度の変化量ΔNTの学習制御開始時の指示油圧と実油圧が乖離した状態となり、安定した学習制御を行うことができない。学習禁止手段90では、前記回転速度差算出手段80により算出される実際の回転速度差NSLPが前記目標値NSLP *よりも低く設定された第2所定値NSRP2以上でない場合(未満である場合)には、変速学習制御手段88による係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止することで、斯かる弊害の発生を好適に抑制できる。
また、学習禁止手段90は、前記パワーオフダウン変速の開始から自動変速機10の入力軸回転速度NTが変速前ギヤ段の同期回転速度に基づいて予め定められた所定範囲Aを逸脱するまでの間、すなわち同期回転速度から所定回転速度以上離れるまでの間において、変速学習制御手段88による係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止するための制御、すなわち回転速度差NSLPに基づく判定を行う。これは、イナーシャ相開始以降はタービン回転速度NTが引き上げられて前記ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが正常に判断できなくなることを踏まえたものであり、本実施ではこのようにすることで、必要十分な範囲において前記学習制御を禁止でき、誤学習が生じるのを避けることができる。
図11は、前記電子制御装置44によるパワーオフダウン変速時の変速学習制御(学習禁止制御)の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、回転速度差算出手段80の動作に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記ロックアップクラッチ32のスリップ量、すなわちエンジン回転速度NEに対するタービン回転速度NTの実際の回転速度差NSLP(=NE−NT)が算出される。次に、S2において、S1にて算出されたロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが目標値NSLP *たとえば−50rpmよりも高く設定された第1所定値NSRP1たとえば−25rpm以上である(未満でない)か否かが判断される。このS2の判断が肯定される場合には、学習禁止手段90の動作に対応するS3において、前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御が禁止された後、本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が否定される場合には、S4において、ロックアップクラッチ32のスリップ制御中すなわち減速フレックスロックアップ制御中であるか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、学習制御手段88の動作に対応するS5において、自動変速機10の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTに基づく前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御が許可され、S8以下の処理が実行されるが、S4の判断が肯定される場合には、ロックアップクラッチ制御手段82の動作に対応するS6において、ロックアップクラッチ32の減速フレックスロックアップ制御が継続された後、S7において、S1にて算出された前記ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが前記目標値NSLP *たとえば−50rpmよりも低く設定された第2所定値NSRP2たとえば−75rpm未満である(以上でない)か否かが判断される。このS7の判断が肯定される場合には、上述したS3以下の処理が実行されるが、S7の判断が否定される場合には、上述したS5の処理が実行された後、S8において、前記自動変速機10の入力回転速度すなわちタービン回転速度NTが所定の範囲内であるか否かが判断される。このS8の判断が肯定される場合には、上述したS1以下の処理が再び実行されるが、S8の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられる。
図12は、上記学習制御手段88の学習禁止の判定に用いられる第1所定値NSRP1および第2所定値NSRP2の、ロックアップクラッチ制御手段82において用いられる目標値NSLPに対する大小関係を示している。ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが目標値NSLP *よりも低く設定された第2所定値NSRP2(たとえば−75rpm)以上でない(未満である場合、すなわちNSLP<NSRP2)場合とは、スリップ量NSLPが大きく低下して学習禁止判定領域B内にいる状態を示している。また、ロックアップクラッチ32のスリップ量NSLPが目標値NSLP *よりも高く設定された第1所定値NSRP1(たとえば−25rpm)以上である(未満でない場合すなわちNSLP≧NSRP1)場合とは、スリップ量NSLPが零に向かって上昇して学習禁止判定領域C内にいる状態を示している。
このように、本実施例によれば、流体伝動装置であるトルクコンバータ30の入力側に対する出力側の回転速度差NSLPを算出する回転速度差算出手段80(S1)と、その回転速度差算出手段80により算出される回転速度差NSLPが所定の目標値NSLP *となるように前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御を行うロックアップクラッチ制御手段82(S6)と、前記パワーオフダウン変速時に前記ロックアップクラッチ制御手段82による前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御が行われる場合において、前記回転速度差算出手段80により算出される回転速度差NSLPが前記目標値NSLP *よりも低く設定された第2所定値NSLP2未満であり学習禁止判定領域B内にいる場合には、前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止する学習禁止手段90(S3)とを、有することから、前記パワーオフダウン変速時に前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御を継続させた場合であっても自動変速機10の入力軸回転速度に基づいて行われる学習制御において誤学習が生じるのを好適に防止できる。
また、本実施例において、学習禁止手段90は、回転速度差算出手段80により算出される回転速度差NSLPが前記目標値NSLP *よりも高く設定された第1所定値NSLP1以上であり学習禁止判定領域C内にいる場合には、前記パワーオフダウン変速時にロックアップクラッチ制御手段82による前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御が行われているか否かに拘わらず、前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止するものであるため、パワーオフダウン変速に際しての油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御において、前記自動変速機10の入力回転速度差の変化が外乱により不安定となることに起因する誤学習を好適に防止できる。
また、本実施例において、学習禁止手段90は、前記パワーオフダウン変速の開始から前記自動変速機10の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NTが変速前ギヤ段の同期回転速度に基づいて予め定められた所定範囲Aを逸脱するまでの間において前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を禁止するための制御を行うものであるため、必要十分な範囲において前記学習制御を禁止することができる。
また、本実施例において、前記係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御は、その係合側油圧式摩擦係合装置のパワーオフダウン変速におけるイナーシャ相開始前の待機圧の学習制御であるため、そのパワーオフダウン変速における前記係合側油圧式摩擦係合装置のイナーシャ相開始前の待機圧の学習制御において誤学習が生じるのを好適に防止できる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、学習制御手段88は、このときの自動変速機10の入力軸回転速度に基づいて係合側油圧式摩擦係合装置の前記パワーオフダウン変速におけるイナーシャ相開始前の待機区間の待機圧の学習制御を行うものであったが、その学習制御の対象となる値は制御の態様に応じて適宜定められ得るものである。たとえば,ファーストフィルのための係合側油圧指令値IFFの大きさ、或いはその時間幅が学習制御によって制御されてもよい。
また、前述の実施例において、学習禁止手段90は、回転速度差NSLPが目標値NSLP *よりも高く設定された第1所定値NSLP1以上であり学習禁止判定領域C内にいる場合や、目標値NSLP *よりも低く設定された第2所定値NSLP2未満であり学習禁止判定領域B内にいる場合には、上記学習制御手段88による学習制御を禁止するものであったが、変速フィードバック制御手段86が学習制御項を含む制御式に従って変速フィードバック制御を実行する場合には、その変速フィードバック制御手段86の学習制御項の作動(演算)を禁止するものであってもよい。
また、前述の実施例では、3組の遊星歯車装置12、16、18の組み合わせから成る前進6速の自動変速機10の制御に本発明が適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ロックアップクラッチを備えた流体伝動装置を介して動力源に連結されると共に、複数の油圧式摩擦係合装置を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させる車両用自動変速機に広く適用され得るものである。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。