図1は、車両用自動変速機(以下、自動変速機という)10の骨子図である。図2は複数の変速段を成立させる際の摩擦係合要素すなわち摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース26内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。この入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸である。また、出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置40に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)42と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置40、および一対の車軸44を介して一対の駆動輪46へ伝達されるようになっている(図3参照)。なお、この自動変速機10やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその中心線Cの下半分が省略されている。
トルクコンバータ32は、エンジン30の動力を流体を介することなく入力軸22に直接伝達するロックアップ機構としてのロックアップクラッチ34を備えている。このロックアップクラッチ34は、係合側油室36内の油圧と解放側油室38内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップオン)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸22に直接伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPすなわちトルク容量がフィードバック制御されることにより、車両の駆動(パワーオン)時には例えば50rpm程度の所定のスリップ量でタービン軸(入力軸22)をエンジン30の出力回転部材に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には例えば−50rpm程度の所定のスリップ量でエンジン30の出力回転部材をタービン軸に対して追従回転させられる。
自動変速機10は、第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段(前進ギヤ段)が成立させられるとともに、後進変速段「R」の後進変速段(後進ギヤ段)が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
図2の作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。特に、第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)にはクラッチC1のみを係合させ、エンジンブレーキを作用させるときにはクラッチC1とブレーキB2とを係合させる。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
このように本実施例の自動変速機10は、複数の係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、図2の作動表から明らかなように、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチにより各変速段の変速を行うことができる。
また、上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路50(図3参照)のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部およびエンジン30から駆動輪46までの動力伝達系の概略構成を説明するブロック線図である。
図3において、電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御やロックアップクラッチ34のオンオフ制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する変速制御用や油圧制御回路50のリニアソレノイドバルブSLUおよびソレノイドバルブSLを制御するロックアップクラッチ制御用等に分けて構成される。
例えば、電子制御装置100には、アクセル開度センサ54により検出されたアクセルペダル52の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度信号、エンジン回転数センサ56により検出されたエンジン30の回転数であるエンジン回転数NEを表す信号、冷却水温センサ58により検出されたエンジン30の冷却水温TWを表す信号、吸入空気量センサ60により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁62の開度θTHを表すスロットル弁開度信号、車速センサ66により検出された出力回転部材24の回転数NOUTすなわち車速Vに対応する車速信号、ブレーキスイッチ70により検出された常用ブレーキであるフットブレーキ(ホイールブレーキ)の作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル68の操作(オン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー72のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転数センサ76により検出されたタービン回転数NT(=入力軸22の回転数すなわち自動変速機10の入力回転数NIN)を表す信号、AT油温センサ78により検出された油圧制御回路50内の作動油の温度であるAT油温TOIL表す信号などがそれぞれ供給される。
また、電子制御装置100からは、電子スロットル弁62の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ80への駆動信号、エンジン30の点火時期を指令する点火信号、エンジン30の吸気管または筒内に燃料を供給し或いは停止する燃料噴射装置82によるエンジン30への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、シフトインジケータを作動させるためのレバーポジションPSH表示信号、自動変速機10のギヤ段を切り換えるために油圧制御回路50内のシフト弁を駆動するシフトソレノイドを制御する信号およびライン圧を制御するリニヤソレノイド弁を駆動するための指令信号、ロックアップクラッチ34の係合、解放、スリップ量を制御するリニヤソレノイド弁を駆動するための指令信号などがそれぞれ出力される。
また、シフトレバー72は例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力回転部材24の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。この「S」ポジションにおいては、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー72の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。
図4は、油圧制御回路50のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。
図4において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置100からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、例えば自動変速機10の入力トルクTINに応じた伝達トルク容量が確保されるような係合装置の係合油圧が得られるように、エンジン30により回転駆動される機械式のオイルポンプ28(図1参照)から発生する油圧を元圧として図示しない例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、スロットル弁開度θTH等で表されるエンジントルクTEに応じた値に調圧されるようになっている。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側係合装置と係合側係合装置との掴み替えによる所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→2速のダウンシフトでは、解放側係合装置となるブレーキB3が解放されると共に係合側係合装置となるブレーキB1が係合され、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるようにブレーキB3の解放過渡油圧とブレーキB1の係合過渡油圧とが適切に制御される。
図5は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、エンジン出力制御手段102は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ80により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置82による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御するなどしてエンジン30の出力制御を実行する。例えば、エンジン出力制御手段102は、予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ80を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
また、上記エンジン出力制御手段102は、アクセル開度Accが略零(全閉)の車両停止時や減速時等には、アイドル回転数NIDLを目標値制御するようにスロットル制御を実行する。例えば、エンジン出力制御手段102は、予め記憶された関係からエンジン冷却水温TWや触媒温度信号に基づいて暖機後の通常のアイドル回転数NIDLに比較して高く設定されたファーストアイドル回転数NIDLFとなるように、またその暖機後の通常のアイドル回転数NIDLとなるようにスロットル制御を実行する。
変速制御手段104は、例えば図6に示すような車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機10の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段104は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力、油圧指令)を油圧制御回路50へ出力する。
油圧制御回路50は、その指令に従って、自動変速機10の変速が実行されるように油圧制御回路50内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3を作動させる。
図6の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図6の変速線図における変速線は、例えば実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。
例えば、変速制御手段104は、図6の点aに示されるように自動変速機が第3速ギヤ段とされている車両走行中に、アクセルペダル52が戻し操作される減速操作により車両状態が例えば図6の点bに示されるようにアクセル開度Accが零と判定されるアクセルオフとされて、実際のアクセル開度Accが3速→4速アップシフトを実行すべき3速→4速アップシフト線(すなわち車速V1における3速→4速アップシフトを実行すべき変速点Acc3−4)を横切ったと判断した場合には、解放側係合装置としてのブレーキB3の作動油圧を低下させてブレーキB3を解放開始させ、その係合トルクがある程度維持されているときに係合側係合装置としてのクラッチC2の作動油圧を上昇させてクラッチC2の係合を開始させてその係合トルクを発生させ、この状態で第3速ギヤ段の変速比γ3から第4速ギヤ段の変速比γ4へ移行させつつ、ブレーキB3の解放とクラッチC2の係合とを完了させるパワーオフアップ変速指令(3→4オフアップ変速出力)を油圧制御回路50に出力する。
また、変速制御手段104は、例えば図6の点cに示されるようにアクセルオフとされている車両走行中に、アクセルペダル52が踏込み操作される加速操作により車両状態が例えば図6の点dに示されるようにアクセルオンされて、実際のアクセル開度Accが4速→3速ダウンシフトを実行すべき4速→3速ダウンシフト線(すなわち車速V2における4速→3速ダウンシフトを実行すべき変速点Acc4−3)横切ったと判断した場合には、解放側係合装置としてのクラッチC2の作動油圧を低下させてクラッチC2を解放開始させ、その係合トルクがある程度維持されているときに係合側係合装置としてのブレーキB3の作動油圧を上昇させてブレーキB3の係合を開始させてその係合トルクを発生させ、この状態で第4速ギヤ段の変速比γ4から第3速ギヤ段の変速比γ3へ移行させつつ、クラッチC2の解放とブレーキB3の係合とを完了させるパワーオンダウン変速指令(4→3パワーオンダウン変速出力)を油圧制御回路50に出力する。
例えば、上記オフアップ変速出力やパワーオンダウン変速出力では、変速ドレン指令値として解放側係合装置を速やかに解放する為に作動油が急速排出されるような最小の油圧指令値が出力されると共に、変速アプライ指令値として係合側係合装置の作動油圧供給開始時にはパッククリアランスを速やかに詰める為に作動油が急速充填されるような高い油圧指令値が出力され、そのまま高い油圧で係合されるとショックが発生する可能性があるので係合開始時点では一旦低い油圧指令値すなわち定圧待機圧指令値が出力され、タービン回転数NTがオフアップシフトの変速先ギヤ段の同期回転数に対して所定値以内に低下すると(或いはタービン回転数NTがパワーオンダウンシフトの変速先ギヤ段の同期回転数に対して所定値以内に上昇すると)係合側係合装置の係合完了時の油圧値に向かって漸増するような油圧指令値すなわちスイープアップ指令値が出力される(図8、9、10参照)。
また、変速制御手段104は、係合側係合装置の係合過程においてアクセルオンやアクセルペダル52の踏増し等の加速操作が行われた場合は、その加速操作に応じてエンジントルクTEが増大させられることから、自動変速機10の入力トルクTINに応じた伝達トルク容量を確保するために、エンジントルクTEの増大に応じて係合側係合装置の係合圧が増大させられるように変速アプライ指令値を増大補正する。例えば、前記スイープアップ指令値が増大補正されると、係合側係合装置はその増大補正が行われない場合に比較してより速やかに係合させられて伝達トルク容量が確保される。
ここで、前記係合側係合装置とは、各クラッチツウクラッチ変速に関して係合される(新たに係合される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えば1速→2速アップシフトではブレーキB1が、2速→3速アップシフトではブレーキB3が、3速→4速アップシフトではクラッチC2が、4速→5速アップシフトではブレーキB3が、5速→6速アップシフトではブレーキB1がそれぞれ相当する。また、前記解放側係合装置とは、各クラッチツウクラッチ変速に関して解放される(新たに解放される)側の油圧式摩擦係合装置であり、例えばアップシフトに引き続いて同じギヤ段間のダウンシフトが行われる場合には、各アップシフトにおける係合側係合装置がそのダウンシフトにおける解放側係合装置に相当する。
ところで、上記パワーオフアップ変速中においては、タービン回転数NTがパワーオフアップ変速の変速先ギヤ段の同期回転数NUPへ移行する際に、係合側係合装置の係合タイミングが遅れるとタービン回転数NTがその変速先ギヤ段の同期回転数NUPより低下する所謂アンダーシュートが生じる。自動変速機10のばらつきなどに因っては前記スイープアップ指令値の学習前などの理由により係合側係合装置の係合タイミングの遅れが比較的大きくなって、アンダーシュート量U(=変速先ギヤ段の同期回転数NUP−タービン回転数NT)が比較的大きくなる可能性がある(図10参照)。
このようなアンダーシュート量Uが大きなときに加速操作が行われると、前記スイープアップ指令値が増大補正されることにより係合側係合装置が急速に係合させられてタービン回転数NTが変速先ギヤ段の同期回転数NUPへ急速に引き上げられることから、急激な負トルクが発生して変速ショックが増大する可能性がある。
そこで、エンジン出力遅延制御手段106は、アンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値α以上のときに加速操作が行われた場合には、パワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧がその加速操作に伴うパワーオンダウン変速の開始によって所定圧PDN以下に低下するまで、例えばパワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧指令値がその加速操作に伴うパワーオンダウン変速の開始によって所定圧指令値PDN以下に低下させられてから規定時間T経過するまで、加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大時期を遅延する。
但し、所定圧PDN以下に低下するよりも前に、例えば規定時間T経過するよりも前に、アンダーシュート量Uが変速ショックを抑制する必要がない程度まで小さくされた場合は、エンジン出力を増大開始しても問題は生じ難い。或いは、加速操作が行われてもパワーオンダウン変速が実行(判断)されない場合は、パワーオフアップ変速における係合側係合装置はそのまま完全係合されて解放されないので、その係合側係合装置の係合圧は低下させられない。
そこで、エンジン出力遅延制御手段106は、前述の機能に替えて或いは加えて、アンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値α以上のときに加速操作が行われた場合には、タービン回転数NTが変速先ギヤ段の同期回転数NUPに対してそのアンダーシュート量規定値αよりも小さく設定されたアンダーシュート量規定値βより近くに上昇するまで、すなわちタービン回転数NTの上昇によってタービン回転数NTと変速先ギヤ段の同期回転数NUPとの回転差がそのアンダーシュート量規定値αよりも小さく設定されたアンダーシュート量規定値βより小さくなるまで、加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大時期を遅延する。
具体的には、アンダーシュート判定手段108は、前記変速制御手段104によるパワーオフアップ変速中にタービン回転数NTが変速先ギヤ段の同期回転数NUPに対してアンダーシュート量規定値α以上に低下している状態か否かを、すなわちアンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値α以上に増大している状態か否かを判定する。このアンダーシュート量規定値αは、加速操作に伴って前記スイープアップ指令値が増大補正された場合に生じる変速ショックを抑制する必要がある程のアンダーシュート量Uであることを判断するための予め実験的に求められて記憶された所定値である。
加速操作判定手段110は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに、すなわちアンダーシュート判定手段108によりタービン回転数NTが変速先ギヤ段の同期回転数NUPに対してアンダーシュート量規定値α以上に低下していると判定されているときに加速操作が行われたか否かを、例えばアクセル開度Accが所定開度Acc’以上増大したか否かに基づいて判定する。この所定開度Acc’は、アンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値α以上のときに加速操作に伴って前記スイープアップ指令値が増大補正された場合に生じる変速ショックを抑制する必要がある程のアクセル開度Accの増大量であることを判断するための予め実験的に求められて記憶された判定値である。
規定時間判定手段112は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には、パワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧がその加速操作に伴うパワーオンダウン変速の開始によって所定圧PDN以下に低下させられたか否かを、例えばパワーオフアップ変速における係合側係合装置すなわちパワーオンダウン変速における解放側係合装置を解放するために変速制御手段104により出力される変速ドレン指令値が所定圧指令値PDN以下に低下させられてから規定時間T経過したか否かに基づいて判定する。
前記所定圧PDNは、パワーオンダウン変速における解放側係合装置が解放される係合圧の大きさすなわち伝達トルク容量を持たない程度の係合圧の大きさであって、零乃至略零はもちろんのこと伝達トルク容量を持たない程度の係合油圧として予め実験的に求められて記憶された値である。また、前記所定圧指令値PDNは、前記所定圧PDNに相当する油圧指令値であって、予め実験的に求められて記憶された規定時間計数開始判断値である。また、前記規定時間Tは、変速ドレン指令値に対する実際の係合油圧の応答遅れを考慮してパワーオンダウン変速における解放側係合装置が確実に解放されるための予め実験的に求められて記憶された所定時間である。
前記エンジン出力遅延制御手段106は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には、前記変速制御手段104によりパワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧が増大補正されないように、前記規定時間判定手段112によりパワーオフアップ変速における係合側係合装置すなわちパワーオンダウン変速における解放側係合装置を解放するための変速ドレン指令値が所定圧指令値PDN以下に低下させられてから規定時間T経過したと判定されるまで、加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大時期を遅延する遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する。例えば、エンジン出力遅延制御手段106は、加速操作に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大時期を遅延する遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する。
言い換えれば、エンジン出力遅延制御手段106は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には前記遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する一方で、前記規定時間判定手段112により規定時間T経過したと判定された場合にはその遅延指令の出力を終了(解除)する。
アンダーシュート減少判定手段114は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には、タービン回転数NTが変速先ギヤ段の同期回転数NUPに対してアンダーシュート量規定値βより近くに上昇したか否かを、すなわちアンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値βより減少したか否かを判定する。
前記アンダーシュート量規定値βは、エンジン出力の増大に伴って前記スイープアップ指令値が増大補正されたとしても変速ショックを抑制する必要がない程度のアンダーシュート量Uであることを判断するための予め実験的に求められて記憶された所定値である。前記アンダーシュート量規定値αを第1の所定値とすれば、このアンダーシュート量規定値βはその第1の所定値よりも小さく設定された第2の所定値である。
前記エンジン出力遅延制御手段106は、前述の機能に替えて或いは加えて、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には、前記変速制御手段104によりパワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧が増大補正されないように、前記アンダーシュート減少判定手段114によりアンダーシュート量Uがタービン回転数NTの上昇によってアンダーシュート量規定値βより減少したと判定されるまで、加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大時期を遅延する遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する。例えば、エンジン出力遅延制御手段106は、加速操作に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大時期を遅延する遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する。
言い換えれば、エンジン出力遅延制御手段106は、前記アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに前記加速操作判定手段110により加速操作が行われたと判定された場合には前記遅延指令をエンジン出力制御手段102に出力する一方で、前記アンダーシュート減少判定手段114によりアンダーシュート量Uがタービン回転数NTの上昇によってアンダーシュート量規定値βより減少したと判定された場合にはその遅延指令の出力を終了(解除)する。
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちパワーオフアップ変速が実行されるときに急激な負トルクの発生を抑制して変速ショックを低減する制御作動を説明するフローチャートであり、所定の周期で例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図8および図9は、図7のフローチャートに示す制御作動を説明するタイムチャートである。
図7において、前記変速制御手段104に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、例えば図6に示すような変速線図から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて自動変速機10の変速を実行すべきか否かが判断されて、すなわちアクセルペダル52が戻し操作される減速操作により実際のアクセル開度Accがアップシフト(以下、第1変速とする)を実行すべきアップシフト線を横切ったか否かが判断されて、その判断した変速段が得られるためのパワーオフアップ変速指令(以下、第1変速出力とする)が出力されたか否かが判定される。
図8のt1時点および図9のt1時点は、アクセルオフによってオフアップシフトすなわち第1変速が判断され、その第1変速のための第1変速出力が出力されたことを示している。図8のt1時点以降および図9のt1時点以降に示すように、アクセルオフおよび第1変速出力によってタービン回転数NTは第1変速の変速先ギヤ段の同期回転数(以下、第1変速同期回転数という)NUP1に向かって漸減させられる。
前記S1の判断が否定される場合は繰り返しこのS1が実行させられるが肯定される場合は前記アンダーシュート判定手段108に対応するS2において、タービン回転数NTが第1変速同期回転数NUP1に対してアンダーシュート量規定値α以上に低下している状態か否かが、すなわちアンダーシュート量U1(=NUP1−NT)がアンダーシュート量規定値α以上に増大している状態か否かが判定される。
前記S2の判断が肯定される場合は、すなわちタービン回転数NTが第1変速同期回転数NUP1に対してアンダーシュート量規定値α以上に低下していると判定されている場合は、前記加速操作判定手段110に対応するS3において、加速操作すなわちアクセルオン(パワーオン)が行われたか否かが、例えばアクセル開度Accが所定開度Acc’以上増大したか否かに基づいて判定される。
図8のt2時点および図9のt2時点は、タービン回転数NTが第1変速同期回転数NUP1に対してアンダーシュート量規定値α以上に低下しているときにアクセルオンが行われたことを示している。また、図8のt3時点は、アクセルオンによってパワーオンダウンシフトすなわち第2変速が判断され、その第2変速のための第2変速出力が出力されたことを示している。図8のt3時点以降に示すように、アクセルオンおよび第2変速出力によってタービン回転数NTは第2変速の変速先ギヤ段の同期回転数(以下、第2変速同期回転数という)NDN2に向かって漸増させられる。
前記S3の判断が否定される場合は繰り返しこのS3が実行させられるが肯定される場合は前記規定時間判定手段112に対応するS4において、第1変速における係合側係合装置の係合圧(第1変速アプライ油圧)がアクセルオンに伴う第2変速出力の出力開始によって所定圧PDN以下に低下させられたか否かが、例えば第1変速における係合側係合装置すなわち第2変速における解放側係合装置を解放するために出力される第2変速ドレン指令値が所定圧指令値PDN以下に低下させられてから規定時間T経過したか否かに基づいて判定される。
図8のt3時点は、第2変速ドレン指令値が所定圧指令値PDN以下に低下させられたことを示している。また、図8のt4時点は、そのt3時点からすなわち第2変速ドレン指令値が所定圧指令値PDN以下に低下させられてから規定時間T経過したことを示している。
前記S4の判断が否定される場合は前記アンダーシュート減少判定手段114に対応するS5において、タービン回転数NTが第1変速同期回転数NUP1に対してアンダーシュート量規定値βより近くに上昇したか否かが、すなわちアンダーシュート量U1がアンダーシュート量規定値βより減少したか否かが判定される。
図9のt3時点は、アンダーシュート量U1がアンダーシュート量規定値βより減少したことを示している。
前記S5の判断が否定される場合は前記S4に戻される。前記S4およびS5の判断がいずれも否定される場合は、言い換えれば前記S4およびS5の判断の少なくとも一方が肯定されるまでは、前記エンジン出力遅延制御手段106に対応する図示しないステップにおいて、加速操作に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大時期を遅延する遅延指令がエンジン出力制御手段102に出力される。
図8の二点鎖線に示すように、規定時間T経過が経過するt4時点まで、t2時点のアクセルオンに伴うアクセル開度Accの増大に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大開始時期が遅延される。また、図9の二点鎖線に示すように、アンダーシュート量U1がアンダーシュート量規定値βより減少するまで、t2時点のアクセルオンに伴うアクセル開度Accの増大に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大開始時期が遅延される。
図8および図9の破線に示す従来例では、t2時点において、アクセルオンに伴うアクセル開度Accの増大に応じてスロットル弁開度θTHが増大開始されるため、第1変速における係合側係合装置を係合するために出力される第1変速アプライ指令値が増大補正されて急激な負トルクが発生する。この従来例に対して、図8および図9の二点鎖線に示す本実施例では、スロットル弁開度θTHの増大開始時期が遅延されるので、第1変速アプライ指令値の増大補正が回避されて急激な負トルクの発生が抑制される。
前記S4の判断が肯定されるか或いは前記S5の判断が肯定される場合は前記エンジン出力遅延制御手段106および前記エンジン出力制御手段102に対応するS6において、前記遅延指令の出力が終了(解除)させられ、予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ80が駆動されてアクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHが増加させられる。或いは、前記S2の判断が否定される場合はエンジン出力制御手段102に対応する同じくS6において、同様に、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHが増大させられる。
図8のt4時点および図9のt3時点は、前記遅延指令の出力が終了(解除)させられたことによるスロットル弁開度θTHの増大開始時期を示している。そして、図8のt4時点以降および図9のt3時点以降にて、アクセル開度Accに合わせてスロットル弁開度θTHが増大させられる。
上述のように、本実施例によれば、アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに加速操作が行われた場合には、パワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合圧がその加速操作に伴うパワーオンダウン変速の開始によって所定圧PDN以下に低下するまで、エンジン出力遅延制御手段106によりその加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大開始時期が遅延されるので、パワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合中には自動変速機10の入力トルクTINが増大させられず、その入力トルクTINに応じた伝達トルク容量を確保するために係合側係合装置の係合圧を増大補正する必要がないことから、係合側係合装置が急係合させられることが回避されてタービン回転数NTがパワーオフアップ変速の変速先ギヤ段の同期回転数NUPへ急速に引き上げられることが回避される。よって、急激な負トルクの発生が抑制されて変速ショックが低減される。
また、本実施例によれば、タービン回転数NTの上昇によってアンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値βより減少した場合には、エンジン出力遅延制御手段106によりエンジン出力の増大時期の遅延が終了させられるので、係合側係合装置の係合圧が所定圧PDN以下に低下する前であっても、アンダーシュート量Uが変速ショックを抑制する必要がない程度まで小さくされた場合は、速やかにエンジン出力が増大開始させられる。
また、本実施例によれば、アンダーシュート判定手段108の判定が肯定されているときに加速操作が行われた場合には、アンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値βより減少するまで、エンジン出力遅延制御手段106によりその加速操作に応じて大きくされるエンジン出力の増大開始時期が遅延されるので、自動変速機10の入力トルクTINが増大させられず、その入力トルクTINに応じた伝達トルク容量を確保するためにパワーオフアップ変速における係合側係合装置の係合中に係合側係合装置の係合圧を増大補正する必要がないことから、アンダーシュート量Uがアンダーシュート量規定値βより減少するまで係合側係合装置が急係合させられることが回避される。よって、急激な負トルクの発生が抑制されて変速ショックが低減される。
また、本実施例によれば、エンジン出力遅延制御手段106は、加速操作に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大時期を遅延するのでエンジン出力の増大時期が簡単に遅延させられる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、エンジン出力遅延制御手段106は、加速操作に応じて大きくされるスロットル弁開度θTHの増大時期を遅延することによりエンジン出力の増大時期を遅延したが、燃料噴射装置82による燃料噴射量の増大時期を遅延したり、イグナイタ等の点火装置による点火時期を遅角制御するなどしてエンジン出力の増大時期を遅延してもよい。
また、前述の実施例において、アンダーシュート量Uは、タービン回転数NTと変速先ギヤ段の同期回転数NUPとを比較するものであったが、このタービン回転数NTに替えてエンジン回転数NEを用いてもよい。
また、前述の実施例において、減速操作や加速操作は、アクセルペダル52の戻し操作や踏込み操作であったが、アクセルペダル52に替えて減速操作や加速操作が行える操作部材による操作であっても良い。例えば、その操作部材として、足の操作に因らず手動操作により減速操作や加速操作が行えるレバースイッチやロータリースイッチ等が用いられる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。