JP7076325B2 - 厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 - Google Patents
厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 Download PDFInfo
- Publication number
- JP7076325B2 JP7076325B2 JP2018144318A JP2018144318A JP7076325B2 JP 7076325 B2 JP7076325 B2 JP 7076325B2 JP 2018144318 A JP2018144318 A JP 2018144318A JP 2018144318 A JP2018144318 A JP 2018144318A JP 7076325 B2 JP7076325 B2 JP 7076325B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- mass
- temperature
- less
- thick steel
- rolling
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Active
Links
Images
Landscapes
- Heat Treatment Of Steel (AREA)
Description
構造物の安全性を確保するために使用される鋼材には将来的な腐食量を想定してあらかじめ板厚を増加させるか、腐食を防止するために塗装が施される。しかし板厚が増加すると溶接施工負荷が増加する。また、前記塗装の場合には、定期的なメンテナンスとして塗り直しが必要となり、経済的に好ましくない。そのため、鋼材そのものに耐腐食性を付与することが要求される。
地震などにより構造物に荷重が負荷されたときに早期に降伏(塑性変形)することにより、地震等のエネルギーを吸収し安全性を確保する考え方がある。しかし一度降伏した場合に、当該箇所を交換しなければならなくなるため、経済的には好ましくない。よって、地震などがあっても変形しない鋼材を使用することにより、安全性および経済性を確保する考え方がある。この場合、鋼材には高い降伏強度が求められる。
溶接構造物において、溶接継手部は応力集中が生じやすい形状となっているため、亀裂が発生しやすい。安全性確保の観点から、亀裂の発生進展を防止するため、溶接継手部の特に熱影響部(Heat Affected Zone、以下「HAZ」ということがある)の低温靭性が優れていることが要求される。また、溶接施工面から、溶接割れを安定して抑制する必要がある。
C :0.03~0.05質量%、
Si:0.15~0.55質量%、
Mn:1.40~1.90質量%、
P :0質量%超、0.020質量%以下、
S :0質量%超、0.006質量%以下、
Al:0.01~0.07質量%、
Cu:0.30~0.50質量%、
Ni:0.10~0.30質量%、
Cr:0.45~0.75質量%、
Nb:0.015~0.050質量%、
Ti:0.003~0.030質量%、
B :0質量%以上、0.0007質量%以下、
N :0.0010~0.0100質量%、および
Ca:0.0003~0.0060質量%を満たし、
残部が鉄および不可避的不純物からなり、降伏強度が500MPa以上、母材の全組織に占める島状マルテンサイト(MA)の分率が4.0面積%以下であり、かつ
下記式(1)で表されるPmが1.0以上、2.3以下であると共に、下記式(2)で表されるPcmが0.200質量%以下の厚鋼板である。
Pm=(50×[C])2×(1.2×[Si]+1)×{0.3×([Mn]-1.4)}×(0.3×[Cu]+1)×(0.25×[Ni]+1)×(1.2×[Cr]+1)×(30×[Mo]+1)×(2.75×[V]+1)×(100×[B]+1)×(3×[Nb]+1) …(1)
Pcm[質量%]=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] …(2)
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]および[Nb]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、BおよびNbの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
態様1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、
前記加熱後の熱間圧延工程と、
前記熱間圧延後の焼戻し工程を含み、
前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度~(仕上圧延温度-150℃)の冷却開始温度から、室温~680℃の冷却停止温度までを、平均冷却速度0.5℃/s以上で冷却し、
前記焼戻し工程では、400℃から下記式(4)により求められるAc1変態点までの温度域で焼戻しを行う厚鋼板の製造方法である。
Ar3変態点=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo] …(3)
Ac1変態点=723-14×[Mn]+22×[Si]-14.4×[Ni]+23.3×[Cr] …(4)
ただし、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]、[Mo]および[Si]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、Ni、MoおよびSiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
態様1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、前記加熱後の熱間圧延工程を含み、
前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度未満であって(仕上圧延温度-150℃)以上の冷却開始温度から、200~480℃の急冷停止温度までを、平均冷却速度12℃/s以上で冷却する厚鋼板の製造方法である。
Ar3変態点=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo] …(3)
ただし、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]および[Mo]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
MAは、前述の通り硬質な組織であり、MAを低減することによって可動転位が低減する。その結果、外力が付加されたときに塑性変形が起こりにくくなり、降伏強度が上昇する。本発明では、厚鋼板(母材)の全組織に占めるMAの分率を4.0面積%以下とする。前記MAの分率は、好ましくは3.8面積%以下、より好ましくは3.6面積%以下である。前記MAの分率は低ければ低いほど好ましく、最も好ましくは0面積%である。
本発明の厚鋼板の成分組成において、下記式(1)で算出されるPmを1.0以上、2.3以下に制御する。
Pm=(50×[C])2×(1.2×[Si]+1)×{0.3×([Mn]-1.4)}×(0.3×[Cu]+1)×(0.25×[Ni]+1)×(1.2×[Cr]+1)×(30×[Mo]+1)×(2.75×[V]+1)×(100×[B]+1)×(3×[Nb]+1) …(1)
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]および[Nb]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、BおよびNbの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
Pcm[質量%]=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] …(2)
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
Cは、鋼板の強度を高める効果があるが、硬質相を増加させ延性を劣化させる元素でもある。高強度を確保するため、C量は0.03質量%以上とする。C量は、好ましくは0.032質量%以上、より好ましくは0.034質量%以上である。一方、硬質相の増加を抑えて延性を確保するため、C量は0.05質量%以下とする。C量は、好ましくは0.048質量%以下、より好ましくは0.046質量%以下である。
Siは、固溶強化により高強度を確保するために必要な元素である。この作用を有効に発揮させるため、Si量は0.15質量%以上とする。Si量は、好ましくは0.16質量%以上、より好ましくは0.17質量%以上である。しかし、Si量が過剰になるとMAが生成しやすくなる。MAの生成を抑えて上記(b)及び(c)の特性を確保するため、Si量は0.55質量%以下とする。Si量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、強度と靭性を確保する上で有効な元素である。こうした効果を発揮させるため、Mnを1.40質量%以上含有させる。Mn量は、好ましくは1.45質量%以上、より好ましくは1.50質量%以上である。しかしながらMnを過剰に含有させると、HAZにMAが生成しやすくなり溶接性などの劣化を招く。よって本発明ではMn量を1.90質量%以下とする。Mn量は、好ましくは1.85質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下である。
Pは、母材と溶接部の靭性に悪影響を及ぼす不可避的不純物である。こうした不都合を招かないように、その含有量を0.020質量%以下に抑制する。P量は、好ましくは0.019質量%以下、より好ましくは0.018質量%以下である。尚、工業上0質量%にすることは困難であり、下限は0.002質量%程度である。
Sは、靭性や鋼板の板厚方向の延性に悪影響を及ぼす不可避的不純物であり、少ない方が好ましい。こうした観点から、S量は0.006質量%以下に抑制する。S量は、より好ましくは0.003質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下である。
Alは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼中のNを固定して、固溶Nによる母材靭性劣化を防ぐ効果もある。このような効果を発揮させるため、Al量を0.01質量%以上含有させる。Al量は、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.020質量%以上である。一方、Al量が過剰になると、アルミナ系の粗大な介在物が形成しやすく、母材靭性の確保が困難になる。よって本発明では、Al量は0.07質量%以下とする。Al量は、好ましくは0.065質量%以下、より好ましくは0.050質量%以下である。
Cuは、スケール層を緻密化し防食性を高める作用を発揮することで耐候性を向上させる元素である。また強度確保のためにも必要な元素である。これらの作用を有効に発揮させるため、Cu量は0.30質量%以上とする必要がある。Cu量は、好ましくは0.31質量%以上、より好ましくは0.32質量%以上である。しかし、Cu量が過剰となると析出により延性を低下させるだけでなく、焼入れ性が過剰となり熱間加工時に割れなどが生じやすくなる。よってCu量は、0.50質量%以下とする必要がある。Cu量は、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.44質量%以下、更に好ましくは0.43質量%以下である。
Niは、焼入れ性を向上させる効果があると同時に、Cu添加により生じやすくなる熱間加工時の割れを抑制する効果がある。このような効果を発揮させるため、Ni量を0.10質量%以上含有させる必要がある。Ni含有量は、好ましくは0.11質量%以上、より好ましくは0.12質量%以上である。しかし、Niを過剰に含有させると焼入れ性が過剰となり、上記(b)及び(c)の特性が得られない。よって、Ni量は0.30質量%以下とする。Ni量は、好ましくは0.29質量%以下、より好ましくは0.28質量%以下である。
Crは、スケール層を緻密化し防食性を高める作用を発揮することで耐候性を向上させる元素である。また強度確保のためにも必要な元素である。これらの作用を有効に発揮させるため、Cr量は0.45質量%以上とする必要がある。Cr量は、好ましくは0.46質量%以上、より好ましくは0.47質量%以上である。しかし、Crを過剰に含有させると焼入れ性が過剰となり、所望とする上記(b)及び(c)の特性が得られない。よって、Cr量は0.75質量%以下とする。Cr量は、好ましくは0.70質量%以下、より好ましくは0.55質量%以下である。
Nbは、炭化物、炭窒化物を形成して強度を向上させるのに有効な元素である。このような効果を得るには、Nb量を0.015質量%以上含有させる必要がある。Nb量は、好ましくは0.016質量%以上、より好ましくは0.017質量%以上である。一方、Nbが過剰に含まれるとHAZ靭性が劣化するため、Nb量は0.050質量%以下とする必要がある。Nb含有量は、好ましくは0.049質量%以下、より好ましくは0.048質量%以下である。
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、熱間圧延前の加熱時におけるオーステナイト粒、即ちγ粒の粗大化を防止し、母材靭性の向上に寄与する元素である。また、鋼中のNを固定して、固溶Nによる母材靭性の劣化を防ぐ効果もある。これらの効果を発揮させるには、Tiを0.003質量%以上含有させる必要がある。Ti含有量は、好ましくは0.004質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上である。一方、Ti量が過剰になると、TiNが粗大化して母材靭性が劣化するので、0.030質量%以下とする必要がある。Ti量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下である。
Bの含有量が過剰になると焼入れ性が過剰となるため、上記(b)と(c)の特性が得られない。よってB量は、0.0007質量%以下とする。B量は好ましくは0.0005質量%以下、より好ましくは0.0003質量%以下である。
Nは、TiN、AlNを生成し、熱間圧延前の加熱時、および溶接時におけるγ粒の粗大化を防止し、母材靭性やHAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。Nの含有量が0.0010質量%未満であると、上記TiN等が不足し、上記γ粒が粗大になり、母材靭性が劣化する。よってN量は0.0010質量%以上とする必要がある。N量は、好ましくは0.0012質量%以上であり、より好ましくは0.0014質量%以上である。一方、N量が0.0100質量%を超えて過剰になると、固溶Nの増大により、母材靭性とHAZ靭性に悪影響を及ぼす。よって、N量は0.0100質量%以下とする。N量は、好ましくは0.0080質量%以下、より好ましくは0.0070質量%以下である。N量は、更に0.0060質量%以下、より更には0.0050質量%以下とすることもできる。
Caは、MnSの球状化に寄与し、母材靭性や板厚方向の延性の改善に有効な元素である。このような効果を発揮させるため、Ca量を0.0003質量%以上とする。Ca量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.0007質量%以上、更に好ましくは0.0009質量%以上である。一方、介在物の粗大化を抑制して母材靭性を確保するため、Ca量を0.0060質量%以下とする。好ましくは0.0050質量%以下、より好ましくは0.0040質量%以下である。Ca量は、更に0.0030質量%以下、より更には0.0020質量%以下とすることもできる。
Moは、焼入れ性を高めるとともに、鋼中で炭化物を生成しやすい元素である。この効果を得るには、Mo量を0質量%超とすることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.10質量%以上である。しかし、Moが過剰に含まれると焼入れ性が過剰となり、結果として耐溶接割れ性が劣化するので、Moを含有する場合、Mo量は0.30質量%以下とすることが好ましい。Mo量はより好ましくは0.25質量%以下である。
次に本発明に係る厚鋼板の製造方法について説明する。
本発明者らは、所定の成分組成を有する鋼片に、後述する熱間圧延を行い、その後に後述する焼戻しを行うか、前記熱間圧延後の冷却条件を制御することによって、上述の所望の鋼組織を有し、その結果、上述の所望の特性を有する厚鋼板が得られることを見出した。
(製造方法I)
前記成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、前記加熱後の熱間圧延工程と、前記熱間圧延後の焼戻し工程を含み、前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度~(仕上圧延温度-150℃)の冷却開始温度から、室温~680℃の冷却停止温度までを、平均冷却速度0.5℃/s以上で冷却し、前記焼戻し工程では、400℃から下記式(4)により求められるAc1変態点までの温度域で焼戻しを行う。
(製造方法II)
前記成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、前記加熱後の熱間圧延工程を含み、前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度未満であって(仕上圧延温度-150℃)以上の冷却開始温度から、200~480℃の急冷停止温度までを、平均冷却速度12℃/s以上で冷却する。
Ar3変態点(℃)=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo] …(3)
Ac1変態点(℃)=723-14×[Mn]+22×[Si]-14.4×[Ni]+23.3×[Cr] …(4)
ただし、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]、[Mo]および[Si]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、Ni、MoおよびSiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
(i)鋼片の加熱工程
前記成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する。鋼片の加熱温度を1250℃以下とすることでオーステナイト粒の粗大化を抑制できる。その結果、微細な結晶が得られやすく高強度を確保しやすい。加熱温度は、一方、圧延時の過度な変形抵抗の増加を抑えて熱間圧延を容易に行うため、加熱温度は900℃以上とする。加熱温度は、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上であり、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1150℃以下である。
熱間圧延工程では、表面温度が上記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度~(仕上圧延温度-150℃)の冷却開始温度から室温~680℃の冷却停止温度までを、平均冷却速度0.5℃/s以上で冷却する。
400℃から上記式(4)により求められるAc1変態点の範囲内の焼戻し温度で、焼戻しを行う。
上記温度域、特に焼戻し温度400℃以上で焼戻しを行うことによって、母材のMAを全組織に占める面積率で4.0%以下に低減させることができる。その結果、降伏強度が向上する。上記焼戻し温度は好ましくは500℃以上である。一方、焼戻し温度がAc1変態点を超えると、組織の一部が逆変態し、その後空冷されるため、ポリゴナルフェライトが混在するようになる。その結果、強度低下を招く。また、逆変態部は組織が粗いため、靭性低下も招く。よって、焼戻し温度はAc1変態点以下とする。焼戻し温度は、好ましくは700℃以下である。
本発明には、前記厚鋼板を溶接して得られる溶接構造物も含まれる。溶接構造物は、溶接継手部と非溶接部を有し、前記溶接継手部は、溶接金属と溶接熱影響部を有する。本発明の溶接構造物は、前記非溶接部が本発明に係る厚鋼板からなり、前記溶接継手部における溶接熱影響部は、その組織に占める島状マルテンサイト(MA)の割合が抑えられている。破壊の発生起点となるMAを低減させることで、HAZ靭性を向上できる。本発明においては、HAZのMA分率が4.4面積%以下に抑えられている。
ある温度域における累積圧下率[%]=(H1-H2)/H1×100
ここでH1:ある温度域の温調開始厚[mm]
H2:ある温度域の温調完了厚[mm]
試験No.23、25、27~30では、厚鋼板から12.5mm×33mm×55mmの試料を採取し、該試料に対し、溶接入熱が10kJ/mm相当となる条件の熱サイクルを付与して溶接構造物のHAZに相当するサンプルを得た。この溶接入熱は例えば橋梁の施工において用いられるサブマージアーク溶接(SAW、Submerge-Arc metal-Welding法)において現実的に適用される最大の入熱量に相当する。
前記熱サイクルまたは溶接を施していない厚鋼板、または溶接継手サンプルの非溶接部において、表面から板厚t/4の深さの箇所で、板厚方向±3mmの範囲を「測定領域」とした。各鋼板について、圧延方向に垂直な面で切断し、その断面をレペラ試薬で腐食し、上記測定領域内を1000倍にて光学顕微鏡で1視野観察した。画像解析により、MA部分の面積を求めMA分率を算出した。尚、いずれの例においても、全組織に占めるフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計の割合は90面積%以上であった。
熱サイクルを施したサンプルは板厚t/2の深さの箇所で、また、溶接継手サンプルはHAZ部の表面から板厚t/4の深さの箇所で、それぞれ板厚方向±3mmの範囲内を測定領域とした。各鋼板について、圧延方向に垂直な面で切断し、その断面をレペラ試薬で腐食し、上記測定領域内を1000倍にて光学顕微鏡で1視野観察した。そして画像解析により、MA部分の面積を求めMA分率を算出した。
各厚鋼板から、JIS Z 2201の4号試験片を作製した。仕上げ厚9mmの鋼材のみJIS Z 2201の5号試験片を作製した。前記4号試験片は、厚鋼板の表面から板厚t/4の深さ位置から、圧延方向と垂直方向に切り出した。前記5号試験片は、厚鋼板の全厚で、圧延方向と垂直方向に切り出した。前記試験片を用いて、JIS Z 2241に従って各1回の引張試験を行い、降伏強度YS、YPおよび引張強度TSを測定した。そして、降伏強度(YS、YP)が500MPa以上、かつ引張強度(TS)が570MPa以上の場合を高強度であると評価した。
熱サイクルを付与したサンプル、または、溶接継手のHAZから、JIS Z 2242のVノッチシャルピー衝撃試験片を3本ずつ採取した。尚、熱サイクルを施したサンプルは、試験片全体がHAZに相当する組織となっているため、採取位置は特に問わない。3本の試験片を用いて、試験温度-5℃における吸収エネルギーを求めた。当該吸収エネルギーの最小値が47J以上であるとき、HAZの靭性が優れていると評価した。
Claims (6)
- 成分組成が、
C :0.03~0.05質量%、
Si:0.15~0.55質量%、
Mn:1.40~1.90質量%、
P :0質量%超、0.020質量%以下、
S :0質量%超、0.006質量%以下、
Al:0.01~0.07質量%、
Cu:0.30~0.50質量%、
Ni:0.10~0.30質量%、
Cr:0.45~0.75質量%、
Nb:0.015~0.050質量%、
Ti:0.003~0.030質量%、
B :0質量%以上、0.0007質量%以下、
N :0.0010~0.0100質量%、および
Ca:0.0003~0.0060質量%を満たし、
残部が鉄および不可避的不純物からなり、降伏強度が500MPa以上、厚鋼板の表面から板厚t/4の深さの箇所で、全組織に占める島状マルテンサイト(MA)の分率が4.0面積%以下(0面積%を含む)であり、全組織に占めるフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計の割合は90面積%以上であり、かつ
下記式(1)で表されるPmが1.0以上、2.3以下であると共に、下記式(2)で表されるPcmが0.200質量%以下である厚鋼板。
Pm=(50×[C])2×(1.2×[Si]+1)×{0.3×([Mn]-1.4)}×(0.3×[Cu]+1)×(0.25×[Ni]+1)×(1.2×[Cr]+1)×(30×[Mo]+1)×(2.75×[V]+1)×(100×[B]+1)×(3×[Nb]+1) …(1)
Pcm[質量%]=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] …(2)
ただし、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]および[Nb]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、BおよびNbの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。 - 更に、Mo:0質量%超、0.30質量%以下と、V:0質量%超、0.10質量%以下のうちの少なくとも1種の元素を含む請求項1に記載の厚鋼板。
- 溶接入熱が10kJ/mmのサブマージアーク溶接を施して溶接継手部を形成したときに、該溶接継手部における溶接熱影響部の全組織に占めるMAの分率が4.4面積%以下である請求項1または2に記載の厚鋼板。
- 溶接継手部と非溶接部を有する溶接構造物であって、
前記非溶接部は、請求項1~3のいずれかに記載の厚鋼板からなり、
前記溶接継手部における溶接熱影響部の全組織に占めるMAの分率が4.4面積%以下である溶接構造物。 - 請求項1~3のいずれかに記載の厚鋼板を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、
前記加熱後の熱間圧延工程と、
前記熱間圧延後の焼戻し工程を含み、
前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度~(仕上圧延温度-150℃)の冷却開始温度から、室温~680℃の冷却停止温度までを、平均冷却速度0.5℃/s以上で冷却し、
前記焼戻し工程では、400℃から下記式(4)により求められるAc1変態点までの温度域で焼戻しを行う厚鋼板の製造方法。
Ar3変態点=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo] …(3)
Ac1変態点=723-14×[Mn]+22×[Si]-14.4×[Ni]+23.3×[Cr] …(4)
ただし、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]、[Mo]および[Si]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、Ni、MoおよびSiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。 - 請求項1~3のいずれかに記載の厚鋼板を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、900~1250℃に加熱する工程と、
前記加熱後の熱間圧延工程を含み、
前記熱間圧延工程では、表面温度が下記式(3)により求められるAr3変態点~950℃の温度域で、累積圧下率が20%以上となる圧延を行い、かつ表面温度が650~900℃の温度域で仕上げ圧延を行い、熱間圧延後、仕上圧延温度未満であって(仕上圧延温度-150℃)以上の冷却開始温度から、200~480℃の急冷停止温度までを、平均冷却速度12℃/s以上で冷却する厚鋼板の製造方法。
Ar3変態点=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo] …(3)
ただし、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]および[Mo]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2018144318A JP7076325B2 (ja) | 2018-07-31 | 2018-07-31 | 厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2018144318A JP7076325B2 (ja) | 2018-07-31 | 2018-07-31 | 厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2020019995A JP2020019995A (ja) | 2020-02-06 |
JP7076325B2 true JP7076325B2 (ja) | 2022-05-27 |
Family
ID=69587464
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2018144318A Active JP7076325B2 (ja) | 2018-07-31 | 2018-07-31 | 厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP7076325B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
KR102255818B1 (ko) * | 2019-06-24 | 2021-05-25 | 주식회사 포스코 | 내부식성이 우수한 고강도 구조용 강재 및 그 제조방법 |
CN113444973A (zh) * | 2021-06-30 | 2021-09-28 | 重庆钢铁股份有限公司 | 一种桥梁用Q420qENH免热处理钢板及其制造方法 |
Citations (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2002053912A (ja) | 2000-08-01 | 2002-02-19 | Kobe Steel Ltd | 音響異方性が小さく溶接性に優れた非調質型低降伏比高張力鋼板の製造方法 |
JP2005126818A (ja) | 2003-09-29 | 2005-05-19 | Jfe Steel Kk | 疲労特性に優れた鋼材および高周波焼入れ用鋼素材 |
JP2013087334A (ja) | 2011-10-19 | 2013-05-13 | Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp | 溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板およびその製造方法 |
-
2018
- 2018-07-31 JP JP2018144318A patent/JP7076325B2/ja active Active
Patent Citations (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2002053912A (ja) | 2000-08-01 | 2002-02-19 | Kobe Steel Ltd | 音響異方性が小さく溶接性に優れた非調質型低降伏比高張力鋼板の製造方法 |
JP2005126818A (ja) | 2003-09-29 | 2005-05-19 | Jfe Steel Kk | 疲労特性に優れた鋼材および高周波焼入れ用鋼素材 |
JP2013087334A (ja) | 2011-10-19 | 2013-05-13 | Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp | 溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板およびその製造方法 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2020019995A (ja) | 2020-02-06 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP4768447B2 (ja) | 溶接熱影響部の靭性に優れた耐候性鋼板 | |
JP4972451B2 (ja) | 溶接熱影響部および母材の低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼板並びにその製造方法 | |
JP7045459B2 (ja) | 低温での耐破壊特性に優れた極地環境用高強度鋼材及びその製造方法 | |
JP5096088B2 (ja) | 靭性および疲労亀裂発生抑制特性に優れた溶接継手 | |
JP4926406B2 (ja) | 疲労き裂伝播特性に優れた鋼板 | |
JP6006477B2 (ja) | 低温靭性と強度のバランスに優れた高強度鋼板の製造方法、及びその制御方法 | |
JP5659758B2 (ja) | 優れた生産性と溶接性を兼ね備えた、PWHT後の落重特性に優れたTMCP−Temper型高強度厚鋼板の製造方法 | |
JP7262288B2 (ja) | 母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板およびその製造方法 | |
JP7411072B2 (ja) | 低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法 | |
JP5407478B2 (ja) | 1層大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高強度厚鋼板およびその製造方法 | |
JP7236540B2 (ja) | 溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法 | |
JP6086090B2 (ja) | 溶接熱影響部靭性に優れた非調質低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法 | |
JP7076325B2 (ja) | 厚鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 | |
JP4279231B2 (ja) | 溶接熱影響部の靭性に優れた高強度鋼材 | |
KR101024802B1 (ko) | 고장력 후강판의 제조 방법 | |
JP5515954B2 (ja) | 耐溶接割れ性と溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高張力厚鋼板 | |
JP2020537047A (ja) | 低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法 | |
JP2002266048A (ja) | 溶接性および均一伸びに優れた高張力厚鋼板 | |
JP4833611B2 (ja) | 溶接性及びガス切断性に優れた溶接構造用490MPa級厚手高張力耐火鋼及びその製造方法 | |
JP2688312B2 (ja) | 高強度高靭性鋼板 | |
JP7410438B2 (ja) | 鋼板 | |
JP4652952B2 (ja) | 大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた高張力鋼板 | |
JP3842720B2 (ja) | 靭性に優れた溶接用鋳鋼 | |
JP3541746B2 (ja) | Ctod特性に優れた高強度厚鋼板及びその製造方法 | |
JP6164171B2 (ja) | 高温強度と溶接性に優れた低降伏比高張力鋼板およびその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20201130 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20210928 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20211102 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20211227 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20220510 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20220517 |
|
R151 | Written notification of patent or utility model registration |
Ref document number: 7076325 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151 |