ところで、岸壁の船舶係留装置の結索部に結索される船舶は、津波発生時には基本的に港外避難が望ましいとされている。しかし、近海を漁場とする小型漁船やプレジャーボートなどの小型船舶は、船員が船内にいることが少ないため、津波発生時には基本的に係船状態が多い。一方、貨物船などの大型船舶は、船員が船内に留まっていることが多いため、港外避難がしやすい状況にある。
その場合、前記従来の船舶係留装置のように、基板が岸壁に埋設されて強固に固定されていると、係船状態の小型船舶の係留ロープの長さが、津波によって異常な高さまで海面が上昇した際に越えてしまうことがある。
このとき、係留ロープが破断すると、小型船舶が漂流してしまい、陸上の建物や逃げ惑う避難者に接触するなどして、陸上での災害が発生する。一方、係留ロープが破断しなければ、小型船舶が海中に引き込まれて沈没や転覆して港内の障害物となったりして、多くの小型船舶が損失する上、海中にオイルや燃料が流出して海を汚染させたりし、海上での被害が発生する。
そこで、津波によって異常な高さまで海面が上昇した際に、その海面の上昇に伴って上昇する浮き桟橋などに船舶係留装置を設け、この船舶係留装置の結索部に小型船舶の係留ロープの先端を結索することで、海面が上昇しても船舶係留装置の結索部を浮き桟橋と共に上昇させて係留ロープの長さを越えないようにし、係留ロープの破断による陸上での災害の発生や、小型船舶の沈没や転覆による海上での災害の発生を効果的に防止することが考えられる。
しかし、浮き桟橋では、係船する小型船舶同士の間隔を確保しなければならないため、海面上に相当大きな設置スペースを必要とする。
しかも、浮き桟橋の設置に多額の費用が発生する上、整備にも多額の経費が発生するといった問題もある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、海面上での設置スペースを必要とせず、設置の費用及び整備の経費を安価にした上で、係留ロープの破断による陸上での災害の発生や、小型船舶の沈没や転覆による海上での災害の発生を効果的に防止することができる船舶係留装置を提供することにある。
前記目的を達成するため、本発明が講じた解決手段は、船舶係留装置として、岸壁に接岸した小型船舶からの係留ロープの先端を結索する結索部を備え、かつ重力による沈降と均衡する浮力を有する浮体と、前記岸壁に設けられ、前記浮体の結索部より下方へ延びる管状の基部を保持する一方、前記浮体の浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇した際の前記小型船舶からの前記係留ロープを介した引っ張り力とにより前記基部を離脱させる保持管と、前記保持管の内部に収容され、前記浮体の基部に先端が連結された索状物と、を備える。そして、前記索状物を、異常高さまで上昇した海面と前記岸壁との距離から前記小型船舶の喫水の高さを差し引いた長さ以上に設定するとともに、
前記保持管の外面形状を、上端に行くに従い先細り状となる略円錐形状又は半紡錘形状に形成することを特徴としている。
また、前記小型船舶は、総トン数が10トン程度未満でかつ喫水が1m程度未満であることが好ましい。
また、前記保持管は、前記浮体の基部を海側から対峙して拘束する拘束部と、前記浮体の基部を反海側に誘導する誘導部とを備えることが好ましい。
また、前記保持管を、鋳鉄よりなる管体によって形成する一方、前記浮体を、鋳鉄よりなる中空体によって形成する。そして、前記保持管と前記浮体の基部との間に、当該両者の癒着を防止する癒着防止部材を介在することが好ましい。
前記浮体の結索部に、その上端より略水平に突出する中空の顎を設けることが好ましい。
また、前記浮体の結索部に、係船環を設けていてもよい。
また、前記浮体の海側に、その浮体に対する海側からの前記係留ロープを介した引っ張り力による当該浮体の基部の不測の離脱を防止する離脱防止部材を設けることが好ましい。
これに対し、前記小型船舶を、外洋に面する防波堤の裏に係船する。そして、前記防波堤に設けられた前記保持管に基部が保持される前記浮体の外洋側に、その浮体に対して前記防波堤をまわり込んでその裏側の内海から作用する波力による前記浮体の基部の不測の離脱を防止する離脱防止部材を設けていてもよい。
そして、前記離脱防止部材は、前記係留ロープを介した引っ張り力が前記保持管のほぼ軸芯方向から作用した際に前記浮体の基部の離脱を許容することがこのましい。
また、前記岸壁において前記保持管に基部が保持された前記浮体を、前記小型船舶の喫水の高さとほぼ同じ高さに設定していればよい。
更に、前記保持管を、前記岸壁の海側に沿って複数設ける一方、前記浮体の基部を、前記各保持管にそれぞれ個別に保持する。そして、前記各浮体の結索部同士の間に、補助索状物を張設し、この補助索状物の長手方向複数箇所に、前記小型船舶からの係留ロープの先端をそれぞれ個別に結索する係船環を設けていてもよい。
また、前記索状物に、前記浮体の浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇する前記小型船舶からの前記係留ロープを介した引っ張り力を減衰するようにその引っ張り力によって前記浮体の基部からの長さを段階的に変更する長さ変更手段を設けていてもよい。
そして、前記長さ変更手段に、前記索状物よりも長さが短くかつ互いに長さが段階的に異なる複数本の短尺索状物を設け、前記各短尺索状物を、異常高さまでの海面上昇に伴って上昇する前記小型船舶からの前記係留ロープを介した引っ張り力を減衰するようにその引っ張り力によって長さの短い順に段階的に破断又は連結解除していてもよい。
また、前記浮体の結索部に、その上部より前記保持管に向かう水分の伝い流れを先端側へ導く略環状の突起を設けることがこのましい。
また、前記保持管の下端に、当該保持管内に対する水分の給排を可能とする給排孔を設けることがこのましい。
また、前記浮体を、その下部の横断面形状よりも上部の横断面形状が大きくなるように形成していてもよい。
また、前記浮体の内部に、当該浮体に対し浮力を作用させる超軽量な発泡材を充填していてもよい。
以上、要するに、岸壁に接岸した小型船舶からの係留ロープの先端を結索部に結索した浮体の基部を岸壁の保持管に保持し、浮体をその浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇した際の小型船舶からの係留ロープを介した引っ張り力とにより保持管から離脱させ、異常高さまで上昇した海面と岸壁との距離から小型船舶の喫水の高さを差し引いた長さ以上の索状物によって浮体の基部を保持管に繋いでおくことで、係船した小型船舶の係留ロープの長さが、津波によって異常な高さまで海面が上昇した際に越えてしまっても、索状物によって補われる。このため、係留ロープが破断することなく小型船舶の漂流が防止される上、小型船舶が沈没や転覆して港内の障害物となって損失したり、海中へのオイルや燃料の流出による海の汚染も防止される。これにより、浮き桟橋のような海面上での設置スペースを必要とせず、設置の費用及び整備の経費を安価にした上で、係留ロープの破断による陸上での災害の発生や、小型船舶の沈没や転覆による海上での災害の発生を効果的に防止することができる。
しかも、保持管の外面形状を上端に行くに従い先細り状となる略円錐形状又は半紡錘形状に形成することで、小型船舶からの係留ロープが保持管の下端部付近に結わえられていても、津波による異常高さまでの海面上昇に伴って小型船舶が上昇した際に係留ロープが保持管の外面形状に沿って浮体まで円滑に案内され、津波発生時に係留ロープが保持管に止まる不具合を確実に防止することができる。
また、小型船舶を、総トン数が10トン程度未満でかつ喫水が1m程度未満とすることで、浮体をその浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇した際の小型船舶からの係留ロープを介した引っ張り力とにより保持管から円滑に離脱させることができる。
また、保持管に、浮体の基部を海側から対峙して拘束する拘束部と、反海側に誘導する誘導部とを設けることで、海側から小型船舶の引っ張り力が作用した際に拘束部によって浮体の基部が海側から拘束されて保持管からの離脱を効果的に防止できる。一方、反海側から小型船舶の引っ張り力が作用した際に誘導部によって浮体の基部が誘導されて反海側へ円滑に離脱させることができる。
また、保持管を鋳鉄よりなる管体によって形成する一方、浮体を鋳鉄よりなる中空体によって形成し、保持管と浮体の基部との間に、当該両者の癒着を防止する癒着防止部材を介在することで、保持管と浮体の基部との間に錆などによる癒着が癒着防止部材によって確実に防止され、津波により異常高さまで海面が上昇した際に浮体の基部を保持管からより円滑に離脱させることができる。
浮体の結索部にその上端より略水平に突出する顎を設けることで、結索部に先端を結索した係留ロープの外れを確実に防止することができる。しかも、この顎が中空に形成されているので、浮体の浮力を増大させることにも寄与できる。
また、浮体の結索部に係船環を設けることで、小型船舶からの係留ロープの結索を好みに応じて選択することができる。
また、浮体の海側に、その浮体に対する海側からの係留ロープを介した引っ張り力による当該浮体の基部の不測の離脱を防止する離脱防止部材を設けることで、海側から小型船舶の引っ張り力が作用した際に離脱防止部材によって保持部からの浮体の基部の離脱を確実に防止できる。
これに対し、小型船舶を外洋の裏に係船する防波堤に設けた保持管に基部を保持した浮体の外洋側に、内海から係留ロープが結索されて浮体の基部の不測の離脱を防止する離脱防止部材を設けることで、防波堤をまわり込んでその裏側の内海から波力が作用した際に浮体を離脱防止部材により拘束して保持管からの浮体の不測の離脱を効果的に防止できる。一方、津波によって反外洋側となる内海側から小型船舶の引っ張り力が作用した際に小型船舶からの係留ロープが離脱防止部材の外面を滑って離脱し、係留ロープを結索した状態のままで浮体の基部を保持管から内海側へ円滑に離脱させることができる。
そして、係留ロープを介した引っ張り力が保持管のほぼ軸芯方向から作用した際に離脱防止部材によって浮体の基部の離脱が許容されることで、通常の係留時に横方向からの波力による係留ロープを介した引っ張り力が保持管の軸芯とほぼ直交する方向から作用しても、離脱防止部材によって浮体の基部の離脱が規制される。これにより、通常の係留時に横方向からの波力によって浮体の基部が保持管から不慮に離脱することを防止できる。
また、岸壁において保持管に基部が保持された浮体を小型船舶の喫水の高さとほぼ同じ高さに設定することで、津波により異常高さまで海面が上昇して小型船舶が岸壁に乗り上げた際に保持管からの浮体の基部の離脱を円滑に行うことができる。
更に、岸壁の海側に沿って複数設けた保持管に浮体の基部をそれぞれ個別に保持し、各浮体の結索部同士の間に張設した補助索状物の長手方向複数箇所に、小型船舶からの係留ロープの先端をそれぞれ個別に結索する係船環を設けることで、各浮体をその浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇した際の各小型船舶からの引っ張り力とにより各保持管から円滑に離脱させ、係留ロープの破断による陸上での災害の発生や、各小型船舶の沈没や転覆による海上での災害の発生を安価で効率よく防止することができる。
また、索状物に、浮体の浮力と津波による異常高さまでの海面上昇に伴って上昇する小型船舶からの係留ロープを介した引っ張り力を減衰するようにその引っ張り力によって浮体の基部からの長さを段階的に変更する長さ変更手段を設けることで、小型船舶からの係留ロープを介した引っ張り力がその引っ張り力によって索状物の長さを段階的に変更する度に減衰される。これにより、津波による海面上昇に伴って漂流する小型船舶の漂流速度も索状物の長さが段階的に変更される度に減速し、漂流する小型船舶との接触による被害を低減することができる。しかも、津波による異常高さまでの海面上昇に応じて段階的に索状物の長さが変更されることにより、小型船舶の無用な長さの索状物による漂流を防止することができる。
そして、索状物よりも長さが短くかつ互いに長さが段階的に異なる複数本の短尺索状物を、異常高さまでの海面上昇に伴って上昇する小型船舶からの係留ロープを介した引っ張り力を減衰するようにその引っ張り力によって長さの短い順に段階的に破断又は連結解除することで、長さ変更手段を複数本の短尺索状物によって簡単に構成でき、小型船舶の無用な長さの索状物による漂流を防止することができる。
また、浮体の結索部に設けた略環状の突起によって、結索部の上部より保持管に向かう水分の伝い流れを先端側へ導くことで、保持管内への水分の伝い流れによる浸入を効果的に防止することができる。
また、保持管の下端に、当該保持管内に対する水分の給排を可能とする給排孔を設けることで、給排孔を水抜き孔として機能させることが可能となり、保持管内に浸入した水分を給排孔から確実に排出することができる。しかも、給排孔を海水取り入れ孔として機能させることも可能となり、津波による海面上昇時に給排孔から保持管内に水分(海水)を取り込んで浮体に対する浮力を効果的に作用させることができる。
また、浮体の下部の横断面形状よりも上部の横断面形状を大きくなるように形成することで、浮体の浮心を重心よりも上部に位置させることが可能となり、浮体を安定した姿勢で浮かせて、浮体の安定性及び復元性を図ることができる。
また、浮体の内部に充填された超軽量な発泡材によって当該浮体に対し浮力を作用させることで、浮体が不慮に損壊して内部の空気が洩れ出したとしても、浮体の浮力が直ちに損なわれることがなく、発泡材の浮力によって浮体を浮かせることができる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
図1は本発明の第1の実施の形態に係る船舶係留装置の結索部に小型船舶からの係留ロープの先端を結索した状態を示す説明図、図2は船舶係留装置の保持管に浮体が保持されている状態を示す断面図、図3は船舶係留装置の保持管から津波により海面が上昇した際に浮体が離脱した状態を示す断面図をそれぞれ示している。
図1において、船舶係留装置1は、岸壁3に接岸した小型船舶2からの係留ロープ21の先端を結索する結索部10を備えている。この場合、小型船舶2としては、総トン数が10トン程度未満でかつ喫水Kが1m程度未満の小型漁船やプレジャーボートなどを対象としている。
結索部10は、当該結索部10より下方へ延びる円管状の基部11と一体形成され、この基部11と共に、厚さ10mm程度の鋳鉄によって空気が密閉された中空体よりなる浮体12に設けられている。この浮体12は、頭部が結索部10よりも拡径され、重力による沈降と均衡する浮力を有している。
また、図2及び図3に示すように、船舶係留装置1は、岸壁3に底部が固設された有底円筒形状の保持管13を備え、この保持管13に浮体12の基部11が保持されている。そして、保持管13は、浮体12の基部11を挿通して保持可能な内径に形成され、浮体12の浮力と津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って上昇した際の小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力とによって基部11を離脱させるようになっている。この場合、保持管13は、鋳鉄により形成されている。
更に、船舶係留装置1は、索状物としてのチェーン14を備え、このチェーン14が保持管13の内部に収容されている。チェーン14の基端は、保持管13の底部を岸壁3に固定するアンカー部材31に連結されている。また、チェーン14の先端は、浮体12の基部11の下面に連結されている。このチェーン14は、異常高さまで上昇した海面Sと岸壁3との距離から小型船舶2の喫水Kの高さを差し引いた長さ以上に設定されている。
したがって、本実施の形態では、係船した小型船舶2の係留ロープ21の長さが、津波によって異常な高さまで海面Sが上昇した際に越えてしまっても、チェーン14によって補われる。このため、係留ロープ21が破断することなく小型船舶2の漂流が防止される上、小型船舶2が沈没や転覆して港内の障害物となって損失したり、海中へのオイルや燃料の流出による海の汚染も防止される。これにより、浮き桟橋のような海面S上での設置スペースを必要とせず、設置の費用及び整備の経費を安価にした上で、係留ロープ21の破断による陸上での災害の発生や、小型船舶2の沈没や転覆による海上での災害の発生を効果的に防止することができる。
また、小型船舶2として、総トン数が10トン程度未満でかつ喫水が1m程度未満の小型漁船やプレジャーボートを対象とすることで、浮体12をその浮力と津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って持ち上げられた際の小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力とにより保持管13から円滑に離脱させることができる。
なお、本実施の形態では、保持管13の底部をアンカー部材31によって岸壁3に固定したが、図4及び図5に示すように、岸壁3に設けた凹部32に船舶係留装置61の保持管612の上端が面一となるように埋設し、その保持管612に浮体611下部の基部11が挿通されて保持されていてもよい。このとき、浮体611の基部11は下方に延設されて保持管612の内周面との接触面積が拡張されているので、高潮時や波浪などで浮体611が保持管612から離脱し難くしているものの、津波により異常高さまで海面Sが上昇した際には円滑に離脱するようにしている。また、浮体611上部の結索部10が保持管612より上方へ露呈しているため、小型船舶2からの係留ロープ21が非常に結索し易いものとなる。
また、図6及び図7に示すように、岸壁3に設けた凹部32に上端が面一となるように埋設した船舶係留装置62,63の保持管622,632の内周面に対し浮体621,631下部の基部11の外周面との間に10mm程度の隙間Pを存して挿通されていてもよい。この場合、結索部10を保持管622より上方へ露呈させた浮体621(図6参照)、又は保持管632とほぼ面一状の上面に結索部としての係船環15を備えた浮体631(図7参照)は、チェーン14でアンカー部材31に連結されていても、浮体621,631が非常に大径(例えば400mm程度)に形成されて高い浮力を得ているため、津波時に係船ブイとして機能させることも可能である。
次に、本発明の第2の実施の形態を図8に基づいて説明する。
この実施の形態では、保持管及び浮体の基部の形状を変更している。なお、保持管及び浮体の基部を除くその他の構成は前記第1の実施の形態を同じであり、同一部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。図8は本発明の第2の実施の形態に係る船舶係留装置の保持管に浮体が保持されている状態を示す断面図を示している。
すなわち、本実施の形態では、図8に示すように、船舶係留装置64の保持管16は、岸壁3に設けた凹部32に上端が若干突出するように埋設されている。この保持管16の内部は、内管161によって環状に区画され、その環状の区画部162内に連通路163を介して通常の海面Sよりも高所からの海水が取り込まれるようになっている。また、保持管16の上端には、複数の空気孔164が穿設され、津波により異常な高さまで海面Sが上昇した際に連通路163を介して区画部162内に浸入した海水の水頭が上昇するようにしている。
また、浮体641の頭部は、基部11よりも大きく拡径され、環状の区画部162の上端開口165に載置されて当該上端開口165を閉塞している。これにより、浮体641の頭部に対し区画部162の上端開口165からの水頭の上昇によって積極的に作用する浮体641の浮力と津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って持ち上げられた際の小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力とにより保持管16から浮体641の基部11を円滑に離脱させることができる。
そして、内管161の海側に位置する略半周部分には、浮体641の基部11を海側から対峙して拘束する拘束部41が設けられている。このとき、拘束部41は、内管161の海側に位置する略半周部分を上下方向で同一径に形成することで、上下方向で同一径に形成された浮体641の基部11の海側に位置する略半周部分に対し10mm程度の隙間Pを存して対峙し、海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に拘束部41つまり内管161の海側に位置する略半周部分によって浮体641の基部11が海側から拘束されて保持管16からの離脱を効果的に防止できる。
また、内管161の反海側に位置する略半周部分には、浮体641の基部11を反海側へ誘導する誘導部42が設けられている。このとき、誘導部42は、内管161の反海側に位置する略半周部分の径を下端に行くに従い漸減させることで、これと同様に下端に行くに従い径を漸減させた浮体641の基部11の反海側に位置する略半周部分との間に10mm程度の隙間Pを存していて、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に誘導部42によって浮体641の基部11が保持管16の内管161に沿って誘導されて反海側へ円滑に離脱させることができる。
なお、本実施の形態では、内管161の反海側に位置する略半周部分に誘導部42を設け、この誘導部42を、下端に行くに従い径を漸減させた浮体641の基部11の反海側に位置する略半周部分との間に10mm程度の隙間Pを存するように、内管161の反海側に位置する略半周部分の径を同様に漸減させたが、図9〜図11に示すように、上面に係船環15を備えた船舶係留装置65の浮体651の基部11を外方から保持する保持管652の反海側に位置する略半周部分の上部に誘導部43が設けられていてもよい。この誘導部43は、竹の切り口である「そぎ」のように切除され、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に誘導部43によって浮体651の基部11が保持管652の切除部分から誘導されて反海側へ円滑に離脱させることが可能となる。
また、図12〜図14に示すように、上面に係船環15を備えた船舶係留装置66の浮体661の基部11をその内方で保持する保持管662の反海側に拘束部44が設けられる一方、海側に誘導部45が設けられていてもよい。この保持管662は、竹の切り口である「そぎ」のように反海側を海側よりも高くして切除され、海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に拘束部44つまり保持管662の反海側に位置する高い部分によって浮体661の基部11が反海側から拘束されて保持管662からの離脱を効果的に防止できる。また、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に誘導部45によって浮体661の基部11が保持管662の反海側よりも低い海側から誘導されて反海側へ円滑に離脱させることが可能となる。
また、図15に示すように、船舶係留装置66の各浮体661(図33では一方のみ示す)の基部11の下端に、後述するワイヤーロープ5(図31参照)を結策する結索部としての結索環52が取り付けられていてもよい。
また、図16に示すように、船舶係留装置67の浮体671の結索部10の上端より反海側へ向かって略水平に突出する中空の顎17を一体的に設けることで、結索部10に先端を結索した係留ロープ21の外れを確実に防止するようにしてもよい。この顎17が中空に形成されていることにより、浮体671の浮力を増大させることにも寄与している。この場合、浮体671は、その海側と反海側とに分割された保持管672によって保持され、その保持管672のうちの海側の略半円弧状に形成された嵩高い拘束部46によって海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に浮体671全体を海側から拘束して保持管672からの浮体671の離脱を効果的に防止する一方、保持管672の反海側の略半円弧状に形成された嵩低い誘導部47によって浮体671の基部11が反海側へ円滑に離脱することを可能にしている。
また、図17〜図19に示すように、船舶係留装置68は、上面に係船環15を備えた浮体681の基部11をその内方で保持する保持管682の反海側に拘束部44が設けられる一方、海側に誘導部45が設けられ、更に、浮体681の海側の半円弧状部分を外方から覆う鋳鉄製の略半円弧状の嵩高い離脱防止部材48を設けていてもよい。この場合には、海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に浮体681全体を離脱防止部材48により海側から拘束すると共に保持管682の拘束部44により反海側からも拘束して保持管682からの浮体681の不測の離脱を効果的に防止する一方、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に誘導部45によって浮体681の基部11が保持管682の反海側よりも低い海側から誘導されて反海側へ円滑に離脱させることが可能となる。
また、図20に示すように、船舶係留装置69に、保持管692に保持される浮体691の基部11の下面に先端を連結した索状物としてのワイヤーロープ18の基端とアンカー部材31との間にコイルばね33が連結されていてもよい。この場合には、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際のアンカー部材31への大きな衝撃が緩和され、実施する上で非常に有利なものとなる。
また、図21に示すように、船舶係留装置70の保持管702に保持される浮体701の海側の半円弧状部分と離脱防止部材48との間に、当該両者701,48の癒着を防止する癒着防止部材としての略半円環形状の間隙材34が介在されていてもよい。この間隙材34としては、エラスタイトなどが適用される。この場合には、浮体701と離脱防止部材48との間に錆などによる癒着が間隙材34によって確実に防止され、津波により異常高さまで海面が上昇した際に浮体701を離脱防止部材48から円滑に離脱させることが可能となる。
また、図22〜図25に示すように、船舶係留装置71の保持管712に保持される浮体711の頭部に、結索部10に先端を結索した係留ロープ21の不測の外れを防止する突起19,19,…が設けられていてもよい。そして、各突起19は、反海側に突出する顎17とは逆向きとなる海側、及び顎17とは直交する左右方向にそれぞれ突出し、係留ロープ21の先端の結索状態を確保している。この場合には、浮体711の結索部10からの係留ロープ21の不測の外れを確実に防止することが可能となる。
次に、本発明の第3の実施の形態を図26〜図29に基づいて説明する。
この実施の形態では、補助拘束部の形状を変更している。図26は本発明の第3の実施の形態に係る船舶係留装置の保持管に浮体が保持されている状態を側方から示す側面図、図27は船舶係留装置を上方から示す平面図、図28は船舶係留装置の保持管に対し離脱防止部材によって浮体の不測の離脱を防止する状態を説明する説明図、図29は船舶係留装置の保持管に対し浮体の不測の離脱を防止する状態を説明する説明図をそれぞれ示している。
すなわち、本実施の形態では、図26及び図27に示すように、船舶係留装置72の浮体721の海側には、この浮体721の海側の半円弧状部分を外方から覆う鋳鉄製の略半円弧状の嵩高い離脱防止部材35が設けられている。この離脱防止部材35は、その上端より反海側へ向かって斜め上方へ折曲形成された折曲片351,351を備えている。また、保持管722は、浮体721の基部11の反海側に位置する略半周部分に対し内方から対峙している。そして、図28及び図29に示すように、海側から小型船舶2の引っ張り力が作用して浮体721が海側へ傾くと、当該浮体721の海側に位置する略半周部分の上端が離脱防止部材35の折曲片351,351と当接する上、浮体721の基部11の反海側の下端部が保持管722の反海側の略半周部分と当接し、浮体721の傾きが海側から規制されて保持管722からの離脱を効果的に防止できる。
また、保持管722の海側端には、浮体721の基部11を反海側へ誘導する誘導部42が設けられ、津波によって反海側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に誘導部42によって浮体721の基部11が保持管722の海側端に沿って誘導されて反海側へ円滑に離脱させることができる。
また、図30に示すように、岸壁3において保持された船舶係留装置74の浮体741の高さHが、小型船舶2の喫水Kの高さH1とほぼ同じ高さに設定されていてもよい。この場合、津波により異常高さまで海面Sが上昇して小型船舶2が岸壁3に乗り上げた際に保持管からの浮体741の基部11の離脱を円滑に行うことが可能となる。
次に、本発明の第4の実施の形態を図31に基づいて説明する。
この実施の形態では、2つの船舶係留装置の係船環同士の間に張設した補助索状物に複数の小型船舶を係留している。なお、補助索状物を除くその他の構成は前記第1の実施の形態と同じであり、同一部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。図31は本発明の第4の実施の形態に係る船舶係留装置の2つの保持管に保持されている浮体同士の間に張設した補助索状物に複数の小型船舶を係留した状態を示す斜視図を示している。
すなわち、本実施の形態では、図31に示すように、船舶係留装置63の2つの浮体631,631をそれぞれ個別に保持する保持管632,632は、岸壁3の海側に沿って互いに間隔を隔てて2つ設けられている。各浮体631の係船環15,15同士の間には、補助索状物としてのワイヤーロープ5が張設されている。このワイヤーロープ5の長手方向4箇所には、小型船舶2からの係留ロープ21の先端をそれぞれ個別に結索する係船環51,51,…が設けられている。
したがって、本実施の形態では、岸壁3の海側に沿って設けた2つの保持管632,632に浮体631,631の基部11をそれぞれ個別に保持し、各浮体631の係船環15,15同士の間に張設したワイヤーロープ5の長手方向4箇所に、小型船舶2からの係留ロープ21の先端をそれぞれ個別に結索する係船環51,51,…が設けられているので、各浮体631をその浮力と津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って上昇した際の各小型船舶2からの引っ張り力とにより各保持管632から円滑に離脱させ、係留ロープ21の破断による陸上での災害の発生や、各小型船舶2の沈没や転覆による海上での災害の発生を抑え、2基の保持管632,632により複数隻の小型船舶2,2,…に対応できるなど安価で効率よく防止することができる。
なお、本実施の形態では、ワイヤーロープ5を各浮体631の係船環15,15同士の間に張設したが、図32及び図33に示すように、反海側に顎17を突出させた船舶係留装置73の浮体731の結索部10同士(図32及び図33では一方のみ示す)の間にワイヤーロープ5が張設されていてもよい。このワイヤーロープ5は、浮体731の海側の半円弧状部分を外方から覆う離脱防止部材48を含んだ状態で結索されている。
また、図34に示すように、浮体731の海側の半円弧状部分を外方から覆う離脱防止部材49の面積が下端に行くに従い拡大されるように、離脱防止部材49の両端が側面視で傾斜していてもよい。これにより、図31に示すような係留方法をとった場合でも、津波時における反海側からの小型船舶2からの引っ張り力により図33に示すようにワイヤーロープ5が引っ張り上げられたときに円滑に浮体731を離脱させることができる。
また、前記第4の実施の形態では、各浮体631の係船環15,15同士の間のワイヤーロープ5の長手方向4箇所に係船環51,51,…を設けたが、各浮体の係船環同士の間に張設したワイヤーロープの長手方向に設けられる係船環は、複数であれば幾つ設けられていてもよい。
次に、本発明の第5の実施の形態を図35及び図36に基づいて説明する。
この実施の形態では、防波堤裏の係留施設に船舶係留装置を設けている。図35は本発明の第5の実施の形態に係る船舶係留装置を防波堤裏の係留施設に設けた場合の平面図、図36は船舶係留装置の保持管及び浮体を側方から示す側面図をそれぞれ示している。
すなわち、本実施の形態では、図35に示すように、複数隻の小型船舶2,2,…をそれぞれ個別に係留する船舶係留施設75は、外洋Gからの波を防ぐ防波堤81裏側の内海Uに設置されている。この場合、外洋Gで発生した津波は、防波堤81を乗り越えて小型船舶2に作用するため、防波堤81裏の船舶係留装置75では、離脱防止部材48や浮体751の顎17を設ける方向を変更している。なお、防波堤81裏の岸壁3の船舶係留装置76では、図示しないが離脱防止部材や浮体の顎を設ける方向は前記各実施の形態の場合と同じである。
具体的には、図36に示すように、防波堤81裏に係留される小型船舶2からの係留ロープ21は、内海Uから防波堤81側となる外洋G側(海側)に向かって延びている。このため、船舶係留装置75の浮体751の海側の半円弧状部分を覆う離脱防止部材48は、浮体751の内海U側ではなく外洋G側に設けられ、浮体751に対して防波堤81をまわり込んでその裏側の内海Uから作用した波力による保持管からの浮体751の基部の不測の離脱を防止している。また、浮体751の顎17は、外洋G側ではなく内海U側へ略水平に突出している。このとき、小型船舶2からの係留ロープ21は、離脱防止部材48と共に浮体751の結索部10に結索されている。これにより、防波堤81をまわり込んでその裏側の内海Uから波力が作用した際に浮体751を離脱防止部材48により拘束して保持管からの不測の離脱を効果的に防止できる。一方、津波によって反外洋G側となる内海U側から小型船舶2の引っ張り力が作用した際に小型船舶2からの係留ロープ21が離脱防止部材48の外面を滑って離脱し、係留ロープ21を結索した状態のままで浮体751の基部11を保持管から内海U側へ円滑に離脱させることができる。
また、前記各実施の形態では、浮体12,611,621,631,641,651,661,671,681,691,701,711,721,731,741,751、保持管13,612,622,632,16,652,662,672,682,692,712,722及び離脱防止部材35,48,49をそれぞれ鋳鉄により形成したが、鋼、アルミニウム、マグネシウム、チタン、又はステンレスなど、若しくはこれらの合金により形成されていてもよい。
また、前記第2の実施の形態のその他の変形例では、浮体701の海側の半円弧状部分と離脱防止部材48との間に間隙材34を介在させたが、浮体と保持管との間に癒着防止部材としての間隙材を介在させて当該両者の癒着を防止するようにしてもよい。
次に、本発明の第6の実施の形態を図37及び図38に基づいて説明する。
この実施の形態では、船舶係留装置の形状を変更している。図37は本発明の第6の実施の形態に係る船舶係留装置を前方から示す断面図、図38は船舶係留装置の浮体を取り外した状態で上方から見た平面図をそれぞれ示している。
すなわち、本実施の形態では、図37及び図38に示すように、船舶係留装置82は、略円筒形状の保持管821と、浮体822とを備えている。保持管821は、岸壁3に固設された略円板状の支持板823上に立設されている。この保持管821の下端の周方向等間隔置きの4箇所には、支持板823との間に空隙を形成して保持管821内に対する水分の給排を可能とする給排孔824,824,…が設けられている。これにより、各給排孔824を水抜き孔として機能させることが可能となり、保持管821内に浸入した水分を各給排孔824から確実に排出することができる。
また、浮体822の基部11は、保持管821の内周面に対し隙間820を存して遊嵌状態に収容されるように小径に形成されている。浮体822の頭部は、保持管821よりも上方において基部11の横断面形状よりも横断面形状が大きくなるように形成つまり拡径されている。このとき、各給排孔824を海水取り入れ孔として機能させることも可能となり、津波による海面Sの上昇時に各給排孔824から保持管821内に水分(海水)を取り込んで浮体822に対する浮力を効果的に作用させることができる。これにより、基部11を保持管821から積極的に浮き上がらせる浮体822の浮力と、津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って持ち上げられた際の小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力とによって、保持管821から浮体822の基部11を円滑に離脱させることができる。
更に、支持板823の中心部上には、当該支持板823にチェーン(図示せず)の一端を固定する岸壁側アイプレート825が取り付けられている。一方、支持板823と対向する浮体822の下面には、浮体822にチェーンの他端を固定する浮体側アイプレート826が取り付けられている。
なお、本実施の形態では、岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826とをチェーンを介して固定したが、図39に示すように、岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826とが離脱防止部材としての自由端を有する有端環状のクリップリング827を介して連結されていてもよい。このクリップリング827は、その自由端が常に上方(浮体側アイプレート826側)へ向くように岸壁側アイプレート825に対し溶接などにより固着され、係留ロープ21を介した引っ張り力が保持管821のほぼ軸芯方向(ほぼ上下方向)から作用した際にのみ変形して開口し、保持管821からの浮体822の基部11の離脱を許容している。このため、通常の係留時に横方向からの波力による係留ロープ21を介した引っ張り力が保持管821の軸芯とほぼ直交する横方向(図では左右方向)から作用しても、クリップリング827が閉口状態に保たれて浮体822の基部11の離脱が規制される。これにより、通常の係留時に横方向からの波力によって浮体822の基部11が保持管821から不慮に離脱することを防止できる。
また、本実施の形態では、浮体822の基部11を保持管821の内周面に対し隙間820を存して遊嵌状態で収容したが、図40に示すように、浮体822の基部11の外周面及び保持管821の内周面のいずれか一方に、他方に対する当接を緩衝する略管形状のFRP製の緩衝材829が取り付けられ、この緩衝材829を介して浮体822の基部11が保持管821の内周面に当接していてもよい。この場合、通常の係留時に横方向からの波力による係留ロープ21を介した引っ張り力が保持管821の軸芯とほぼ直交する横方向から作用しても、その横方向からの係留ロープ21を介した引っ張り力による保持管821の内周面に対する浮体822の基部11の当接による衝撃を緩衝材829によって緩衝することができる。一方、係留ロープ21を介した引っ張り力が保持管821のほぼ軸芯方向から作用すると、浮体822の基部11が緩衝材829を介して保持管821の内周面から円滑に摺動して離脱し易いものとなり、保持管821からの浮体822の基部11の離脱をスムーズに行うことができる。なお、緩衝材829は、略管形状でなくともよく、浮体822の基部11と保持管821の内周面との互いの当接(直接触)を回避しつつ隙間820を埋める形状であれば、周方向で複数に分割された緩衝材であってもよい。
次に、本発明の第7の実施の形態を図41及び図42に基づいて説明する。
この実施の形態では、船舶係留装置の構成を変更している。図41は本発明の第7の実施の形態に係る船舶係留装置を前方から示す断面図、図42は船舶係留装置のワイヤーロープに備えた長さ変更手段を説明する説明図をそれぞれ示している。
すなわち、本実施の形態では、図41に示すように、船舶係留装置83は、岸壁側アイプレート825に基端を連結しかつ浮体側アイプレート826に先端を連結した索状物としてのワイヤーロープ830を備えている。また、船舶係留装置83は、浮体822の浮力と津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って上昇する小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力Tによって浮体822の基部11からの長さを段階的に変更する長さ変更手段831を備えている。この長さ変更手段831は、図42に示すように、ワイヤーロープ830よりも長さが短い2本の第1及び第2短尺ロープ832,833(短尺索状物)を備えている。この第1及び第2短尺ロープ832,833は、津波による異常高さまでの海面Sの上昇に伴って上昇する小型船舶2から係留ロープ21を介して作用する引っ張り力T1によって破断するような脆弱なものが用いられている。
また、ワイヤーロープ830並びに第1及び第2短尺ロープ832,833のうち、ワイヤーロープ830が長さ15mに、第1短尺ロープ832が長さ10mに、第2短尺ロープ833が長さ5mにそれぞれ設定されている。そして、第1及び第2短尺ロープ832,833は、互いに長さが5m毎に段階的に異なっており、異常高さまでの海面Sの上昇に伴って上昇する小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力T1によって長さの短い順、つまり第2短尺ロープ833、第1短尺ロープ832の順に段階的に破断する。
具体的には、第2短尺ロープ833は、小型船舶2が漂流して岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826との直線距離Lが5m離れた時点で急激に作用する引っ張り力T1によって破断し、小型船舶2の漂流速度V(図42に実線で示す)を大幅に低減させている。このとき、第1短尺ロープ832の引っ張り力Tはほとんど作用しておらず、小型船舶2の漂流速度Vが徐々に増加する。そして、岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826との直線距離Lが10m離れた時点で、第1短尺ロープ832に急激に作用する引っ張り力T1によって当該第1短尺ロープ832が破断し、小型船舶2の漂流速度Vを大幅に低減させている。
このように、長さの短い順番通りに第2及び第1短尺ロープ833,832を段階的に破断させることによって、小型船舶2からの係留ロープ21を介した引っ張り力Tを減衰させるように、その引っ張り力Tによって岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826との直線距離Lを段階的に変更させているので、漂流する小型船舶2との接触による被害を低減することができる。しかも、津波による異常高さまでの海面Sの上昇に応じて5m毎に長さの異なる第2及び第1短尺ロープ833,832の破断によって岸壁側アイプレート825と浮体側アイプレート826との直線距離Lが段階的に変更されることにより、互いに長さの異なる2本の第1及び第2短尺ロープ832,833によって長さ変更手段831を簡単に構成でき、小型船舶2の無用な長さのワイヤーロープ830による漂流を防止することができる。
なお、本実施の形態では、小型船舶2から係留ロープ21を介して引っ張り力T1が作用した際に第1及び第2短尺ロープ832,833をそれぞれ順に破断させたが、引っ張り力T1が作用した際に第1及び第2短尺ロープの両端のうちの一方が岸壁側アイプレート又は浮体側アイプレートに対して連結解除されるようにしていてもよい。また、長さ変更手段831を2本の第1及び第2短尺ロープ832,833によって構成したが、互いに長さの異なる3本以上の短尺ロープ(短尺索状物)によって長さ変更手段が構成されていてもよい。
次に、本発明の第8の実施の形態を図43及び図44に基づいて説明する。
この実施の形態では、船舶係留装置の構成を変更している。図43は第8の実施の形態に係る船舶係留装置の浮体に突起を備えた状態で前方から示す断面図、図44は浮体を下方から見た底面図をそれぞれ示している。
すなわち、本実施の形態では、図43及び図44に示すように、船舶係留装置85の浮体851の外周面と基部11の外周面とを略水平に連結する円盤状の連結片852より浮体851及び基部11と同心上に下方へ先端が突出する断面略三角形状の突起853が周方向へ延びて環状に形成されている。これにより、結索部10の上部より連結片852を介して保持管821に向かう水分の伝い流れを突起853の先端側(下端側)へ導いて、保持管821内への水分の伝い流れによる浸入を効果的に防止することができる。
このとき、係留ロープ21が小型船舶2からの引っ張り力によって浮体851を上方に引っ張ると、突起853に係留ロープ21が接触して無用な破断力が係留ロープ21に作用するため、突起853の材質は金属よりも柔軟な合成ゴムや軟質樹脂などの材質とすることがこのましい。
次に、本発明の第9の実施の形態を図45に基づいて説明する。
この実施の形態では、船舶係留装置の浮体の構成を変更している。図45は本発明の第9の実施の形態に係る船舶係留装置の浮体を前方から示す正面図を示している。
すなわち、図45に示すように、船舶係留装置86の浮体861は、下端に行くに従い先細り状となる半紡錘形状に形成され、下部に位置する基部862の横断面形状よりも上部に位置する頭部863の横断面形状が大きくなっている。このように、基部862の横断面形状よりも頭部863の横断面形状が大きくなる浮体861では、浮心Xを重心Yよりも上方に位置させることが可能となり、海面Sに浮いた際に天地逆転させることなく姿勢を速やかに復元させて浮体861を安定した姿勢で浮かせることができ、浮体861の安定性及び姿勢の復元性を図ることができる。
なお、本実施の形態では、浮体861を下端に行くに従い先細り状にして下部の横断面形状よりも上部の横断面形状が大きくなる半紡錘形状に形成したが、図46に示すように、船舶係留装置87の浮体871は、略円筒状の頭部872と、下側に行くに従い若干小径となる略円錐筒形状の基部873と、頭部872と基部873との間を連結し、基部873側に行くに従い小径となる略円錐筒形状の連結部874とを備え、基部873の横断面形状よりも頭部872の横断面形状が直径で2倍以上大きくなっている。このように、基部873の横断面形状よりも頭部872の横断面形状が飛躍的に大きくなる浮体871では、浮心Xを重心Yよりもさらに上方に位置させることが可能となり、海面Sに浮いた際に天地逆転させることなく姿勢を速やかに復元させて浮体871を安定した姿勢で浮かせることができ、浮体871の安定性及び姿勢の復元性をより図ることができる。
次に、本発明の第10の実施の形態を図47〜図50に基づいて説明する。
この実施の形態では、船舶係留装置の構成を変更している。図47は本発明の第10の実施の形態に係る船舶係留装置の離脱防止部材を備えた状態で前方から示す断面図、図48は浮体の基部を切り欠いた状態で保持管を状から見た平面図、図49は図48の単一のストッパの拡大図、図50は離脱防止部材の突起がスムーズに滑走する際のストッパの斜面の条件を模式的に説明する説明図をそれぞれ示している。
すなわち、図47〜図49に示すように、船舶係留装置88の浮体881は、略円筒状の頭部882と、この頭部よりも小径な略円筒形状の基部883と、頭部882と基部883との間を連結し、基部883側に行くに従い小径となる略円錐筒形状の連結部884とを備え、基部883の横断面形状よりも頭部882の横断面形状が直径で略2倍程度大きくなっている。
また、保持管89の外面形状は、上端に行くに従い先細り状となる略円錐形状に形成されている。これにより、小型船舶2からの係留ロープ21が保持管89の下端部付近に結わえられていても、津波による異常高さまでの海面S上昇に伴って小型船舶2が上昇した際に係留ロープ21が保持管89の外面に沿って円滑に浮体881の基部883まで案内され、津波発生時に係留ロープ21が保持管89に止まる不具合を確実に防止することができる。
一方、保持管89の内面形状は、上下方向で径が不変な均一径に形成されている。また、保持管89の内面には、係留ロープ21を介した引っ張り力が保持管89のほぼ軸芯方向(上下方向)から作用した際に浮体881の基部883の離脱を許容する離脱防止部材90が設けられている。この場合においても、保持管89は鋳鉄により形成されている。
離脱防止部材90は、保持管89の内面の周方向等間隔置きの4箇所より浮体881の基部883側に突設された鋳鉄よりなるストッパ901,901(図47では2箇所のみ示す)と、浮体881の基部883(外面)の周方向等間隔置きの4箇所より保持管89側に突設された先端の丸いピン状の突起902,902,902(図47では3箇所のみ示す)とを備えている。各突起902は、浮体881と同様に鋳鉄により形成されている。そして、浮体881の基部883は、通常の係留時に連結部884が保持管89の上端に当接して保持管89に保持されている。このとき、浮力が発生した浮体881は、地球の自転によるコリオリ力によって北半球では反時計回りに回転し、南半球では時計回りに回転することから、北半球に位置する日本では反時計回りに回転することが判明している。
また、各ストッパ901の周方向一側面には、浮体881に浮力が生じた際に各突起902をそれぞれ個別に案内する案内面903が設けられている。この案内面903は、略鉛直方向へ延びる上下両端部とこの上下両端部の間を傾斜で繋ぐ中間部とを有し、上端部が下端部よりも反時計回りに変位している。更に、案内面903の下端に対し周方向他側において対応する保持管89の対応位置には、突片904が浮体881の基部883側に向きに突設されている。そして、浮体881の基部883は、保持管89の各ストッパ901の内周面に対し隙間を存して遊嵌状態で保持され、各突起902の先端も保持管89の内周面に対し同様に隙間を存して保持されている。これにより、浮体881の基部883の各突起902を、通常の係留時に案内面903の下端と突片904との間において確実に拘束することができる。一方、浮体881に浮力が生じた際に反時計回りに回転する浮体881に伴って保持管89の案内面903に沿ってスムーズに案内され、浮体881に浮力が生じた際に保持管89から円滑に離脱させることができる。
ここで、離脱防止部材90の各突起902がスムーズに滑走する際の各ストッパ901の案内面903の中間部(斜面)の条件について説明する。
図50に示すように、浮体881の浮力をP、ストッパ901の個数をa、各突起902とストッパ901の案内面903との摩擦係数をBとすると、各突起902が案内面903を駆け上がる力Qは、
Q=P/a・cosθ
となり、各突起902とストッパ901の案内面903との摩擦抵抗力tは、
t=B・P/a・sinθ
となる。
次に、各突起902が案内面903を駆け上がる力Qが摩擦抵抗力tよりも大きくなる(Q>t)ように、ストッパ901の個数a及び案内面903の中間部の傾斜角度θを求める。このとき、離脱防止部材90の誤作動を防止する上で、可能な限り案内面903の中間部の傾斜角度θを大きくする必要がある。
そこで、P/a・cosθ>B・P/a・sinθ
=cosθ>B・sinθ
=tanθ<1/B
これにより、案内面903の中間部の傾斜角度θは、浮体881の浮力Pやストッパ901の個数aとは無関係であって、各突起902とストッパ901の案内面903との摩擦係数Bに支配されていることが判る。
次に、各突起902とストッパ901の案内面903との摩擦係数Bについて考察するに、一般的に鉄同士の摩擦係数Bは0.52である。また、摩擦係数Bが0.3〜0.4程度であれば、かなり磨いた面同士であれば、摩擦係数Bを0.2とする文献もある。但し、摩擦係数Bは、接触面同士の材質、油等の潤滑剤の有無、表面粗さなどの影響を受ける。
そこで、摩擦係数Bを0.52(0.4)として試算すると、
tanθ<1/0.52(1/0.4)
=tanθ<1.923(2.5)
となり、案内面903の中間部の傾斜角度θは、θ<62.5°(68.2°)
であればよく、浮体881の浮上安全性を考慮して、傾斜角度θが最大60°以下であればよいことが判る。
なお、本実施の形態では、保持管89の外面形状を上端に行くに従い先細り状となる略円錐形状に形成したが、半紡錘形状又は角錐形状などに形成されていてもよい。
また、前記各実施の形態では、船舶係留装置1,61〜76,82〜83,85〜88の浮体12,611〜751,822,851〜881の内部に空気を密閉したが、図51に示すように、浮体822の内部には、当該浮体822に対し浮力を作用させる超軽量な発泡ウレタンなどの発泡材92が充填されていてもよい。この場合には、浮体822が不慮に損壊して内部の空気が洩れ出したとしても、浮体822の浮力が直ちに損なわれることがなく、発泡材92の浮力によって浮体822を浮かせることができる。このとき、発泡材92は、浮体822の内部に隙間なく充填される必要がなく、浮体822の損傷部位から抜け出さない程度の大きさに設定された充填材であればどのような形状であってもよく、充填材同士の隙間についても、浮体822を浮かせることが可能な充填材さえ充填されていれば、どのような大きさであってもよい。
更に、前記各実施の形態では、船舶係留装置1,61〜76,82〜83,85〜88の浮体12,611〜751,822,851〜881及び保持管13,612〜632,652〜692,712,722,821,89をそれぞれ鋳鉄により形成したが、少なくとも浮体がステンレスやアルミニウムなどの金属又はFRPなどの合成樹脂等によって形成されていてもよい。