以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。各図に示すX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各座標軸が示す方向は、全図に共通する。
本実施形態において、希土類磁石とは焼結磁石を意味する。希土類磁石の製造方法では、まず合金を鋳造する。鋳造方法は、例えば、ストリップキャスト法であってよい。合金はフレーク状であってよく、インゴット状であってもよい。合金は、希土類元素Rを含む。希土類元素Rは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。原料合金は、希土類元素Rに加えて、B,N,Fe,Co,Cu,Ni,Mn,Al,Nb,Zr,Ti,W,Mo,V,Ga,Zn,Si及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。合金の化学組成は、最終的に得たい希土類磁石の主相及び粒界相の化学組成に応じて調整すればよい。つまり、目的とする希土類磁石の組成に応じて上記元素を含む各出発原料を秤量・配合して、合金の原料を調製すればよい。希土類磁石は、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、サマリウム‐鉄‐窒素磁石、又はプラセオジム磁石であってよい。希土類磁石の主相は、例えば、Nd2Fe14B,SmCo5,Sm2Co17,Sm2Fe17N3,Sm1Fe7Nx,又はPrCo5であってよい。粒界相は、例えば、主相に比べて希土類元素Rの含有量が大きい相(Rリッチ相)であってよい。粒界相は、Bリッチ相、酸化物相又は炭化物相を含んでもよい。
上記の合金の粗粉砕により、合金の粗大粉末を得る。粗粉砕では、例えば、水素を合金の粒界(Rリッチ相)に吸蔵させることより、合金を粉砕してよい。合金の粗粉砕では、ディスクミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル又はスタンプミル等の機械的な粉砕方法を用いてもよい。粗粉砕によって得られた粗大粉末の粒径は、例えば、10μm以上100μm以下であってよい。
上記の粗大粉末の微粉砕により、合金の微粉末を得る。微粉砕では、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、又は湿式アトライター等により、合金粉末を粉砕してよい。微粉砕によって得られた微粉末の粒径は、例えば、0.5μm以上5μm以下であってよい。以下では、粗大粉末又は微粉末を、合金粉末又は金属粉末と記載する場合がある。
粗粉砕で得た合金粉末へ有機物を添加してよい。微粉砕で得た微粉末へ有機物を添加してもよい。つまり、微粉砕の前後いずれかにおいて、有機物を金属粉末と混ぜてよい。有機物は、例えば、潤滑剤として機能する。潤滑剤を金属粉末へ添加することにより、潤滑剤を金属粉末へ添加することにより、金属粉末の凝集が抑制される。また、潤滑剤を金属粉末へ添加するにより、後工程において型と金属粉末との摩擦が抑制され易い。その結果、配向工程において金属粉末が配向し易く、金属粉末から得られる成形体の表面又は型の表面における傷を抑制し易い。有機物は、例えば、脂肪酸又は脂肪酸の誘導体であってよい。有機物は、例えば、オレイン酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、ラウリン酸アミド、カプリン酸アミド、ペラルゴン酸アミド、カプリル酸アミド、エナント酸アミド、カプロン酸アミド、バレリアン酸アミド及びブチル酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。潤滑剤は、粉末状の有機物であってよい。
成形工程では、上記の手順で得られた合金粉末を、型内へ供給して、成形体を形成する。型の一部又は全部は、樹脂から形成されている。例えば、図1に示されるように、型2は、下型8と、下型8の上に配置される筒状の側型6と、側型6の上に配置される上型4(パンチ)と、を備える。希土類磁石の形状及び寸法に対応する空間6aが、側型6を鉛直方向に貫通している。側型6は、型の側壁と言い換えてよい。下型8は板状であってよい。側型6の下部が、下型8の表面に形成された爪部(stops)に嵌合することにより、水平方向における側型6の位置が固定されてよい。
図1及び図2中の(a)に示されるように、成形工程では、側型6を下型8の上に載置して、側型6の下面6c側の開口部6co(穴)を下型8で塞ぐ。このような配置により、側型6及び下型8がキャビティ(雌型)を構成する。続いて、合金粉末10aを、側型6の上面6b側の開口部6bo(穴)からキャビティ(側型6を貫通する空間6a)内へ導入する。合金粉末10aを、キャビティへ充填してよい。つまり、キャビティを合金粉末10aで満たしてよい。上型4は、コア(雄型)と言い換えてよい。上型4は、キャビティ(側型6を貫通する空間6a)に嵌合する形状を有する。上型4の鉛直方向(Z軸方向)における長さは、側型6の高さよりも長くてよい。この場合、後述する分離工程において、上型4が側型6を貫通し易い。図2中の(b)に示されるように、上型4を側型6内(キャビティ内)へ挿入して、上型4の端面を合金粉末10aに押し当てる。その結果、合金粉末10aがキャビティ内において希土類磁石の形状及び寸法に対応するように成形され、成形体10bが得られる。キャビティ内の成形体10b(合金粉末10a)を、上型4で圧縮してよい。ただし、焼結工程において成形体10bにおける合金粉末同士の焼結だけにより、成形体10bの密度が十分に高まり、所望の密度を有する希土類磁石が得られるので、キャビティ内の合金粉末を圧縮しなくてもよい。図1及び図2に示される下型8、側型6及び上型4の相対的な位置関係が維持されている限り、成形工程では、下型8、側型6、及び上型4が鉛直方向に対して傾いていてよい。換言すると、上型4が側型6の上に位置し、且つ側型6が下型8の上に位置している限り、成形工程では、型2の全体が鉛直方向に対して傾いていてよい。例えば、成形工程では、型2の全体が鉛直方向(Z軸方向)に対してなす角度は、0度以上45度以下であってよい。
成形工程において、型2が合金粉末10aに及ぼす圧力を、0.049MPa以上20MPa以下(0.5kgf/cm2以上200kgf/cm2以下)に調整してよい。圧力とは、例えば、上型4の端面が合金粉末10aに及ぼす圧力であってよい。このように、従来の高圧磁場プレス法よりも低圧で、合金粉末10aから成形体10bを形成することにより、型2と成形体10bとの摩擦が抑制され易く、型2又は成形体10bの破損(例えば成形体10bの亀裂)が抑制され易い。圧力が高過ぎる場合、型2が撓んでしまい、目的のキャビティの容量を確保し難く、目的の成形体10bの密度が得られ難い。従来の高圧磁場プレス法では、高圧下で合金粉末の成形及び配向を同時に行う必要があった。一方、本実施形態では、成形及び配向を同時に行う必要がないので、成形工程後に、配向工程を行うことができる。成形工程と配向工程とを分けることにより、従来よりも小型で安価な装置(例えば、プレス成形装置、及び磁場印加装置)を各工程に用いることができる。成形工程及び配向工程を略同時に行ってもよい。
図1に示されるように、側型6には継ぎ目がなくてよい。つまり、側型6はシームレス(seamless)であってよい。仮に側型6に継ぎ目がある場合(例えば、側型6が複数の部材へ分解可能である場合)、成形工程又は配向工程において、合金粉末10aが、側型6の継ぎ目(隙間)から型2の外へ漏れ出ることがある。その結果、成形体10bの保形性が損なわれ、例えばバリ(burr)が成形体10bに形成されることがある。側型6を複数の部材へ分解することによって側型6を成形体10bから分離する場合、誤って力が成形体10bへ作用して、成形体10bが破損することがある。合金粉末10aが側型6の継ぎ目から型2の外へ漏れ出た場合、成形体10bの寸法、密度及び形状がばらつき、最終的に得られる希土類磁石の寸法、形状、及び磁気特性もばらつくこともある。これらの問題は、継ぎ目がない側型6を用いることにより、抑制され易い。
配向工程では、型2内に保持された成形体10bに磁場を印加して、成形体10bを構成する合金粉末10aを型2内で磁場に沿って配向させる。磁場は、パルス磁場又は静磁場であってよい。例えば、型2内に保持された成形体10bを、型2と共に、空芯コイル(ソレノイドコイル)の内側に配置して、空芯コイルに電流(交流)を流すことにより、型2内の成形体10bに磁場を印加してよい。ダブルコイル又はヘルムホルツコイルに電流を流すことにより、型内の成形体に磁場を印加してよい。ダブルコイルとは、二つのコイルが同一の中心軸を持つように配置された磁場発生装置である。ダブルコイル又はヘルムホルツコイルを用いることにより、空芯コイルを用いる場合に比べて、より均質な磁場を成形体に印加することができる。その結果、成形体における合金粉末の配向性が向上し易く、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性が向上し易い。着磁ヨークを用いて、型2内の成形体10bに磁場を印加してもよい。型2内の成形体10bに印加する磁場の強度は、例えば、796kA/m以上5173kA/m以下(10kOe以上65kOe以下)であってよい。配向工程後、成形体を脱磁してもよい。型内の成形体に印加する磁場の強度は、必ずしも上記の範囲に限定されない。
型2内の合金粉末10aを加圧しながら、合金粉末10aを磁場で配向させてもよい。つまり、配向工程においても、型2内の成形体10bを圧縮してよい。型2が成形体10bに及ぼす圧力は、上記の理由により、0.049MPa以上20MPa以下に調整してよい。
図2中の(b)及び図2中の(c)に示されるように、分離工程では、鉛直方向(Z軸方向)における上型4の位置を固定した状態で、側型6を上へ移動させる。その結果、側型6内へ挿入されていた上型4が側型6を貫通して、上型4の端面が成形体10bを側型6の下方へ押し出す。つまり、側型6内に保持されていた成形体10bが、側型6の下面6cから抜き出される。続いて、図2中の(d)に示されるように、側型6及び上型4を上方へ移動させることにより、下型8の上に載置された成形体10bが、側型6及び上型4から分離する。このように成形体10bを側型6の下方から抜き出すことにより、成形体10bの形状を保った状態で、成形体10bを型2から取り出すことできる。仮に、成形体10bをチャック等で直接掴んで側型6の上方(上面6b側)から取り出す場合、成形体10bが破損し易い。本実施形態では、成形体10bを直接掴むことなく、成形体10bを容易に側型6及び上型4から分離することができる。仮に、側型6を複数の部材へ分解することにより、側型6を成形体10bから分離する場合、誤って力が成形体10bへ作用して、成形体10bが破損することがある。本実施形態では、側型6を分解することなく、成形体10bを容易に側型6及び上型4から分離することができる。図1及び図2に示される下型8、側型6及び上型4の相対的な位置関係が維持されている限り、分離工程では、下型8、側型6、及び上型4が鉛直方向に対して傾いていてよい。換言すると、上型4が側型6の上に位置し、且つ側型6が下型8の上に位置している限り、分離工程では、型2の全体が鉛直方向に対して傾いていてよい。例えば、分離工程では、型2の全体が鉛直方向(Z軸方向)に対してなす角度は、0度以上45度以下であってよい。
分離工程では、以下の手順で、成形体10bを下型8から加熱工程用トレイへ移してもよい。例えば、図3中の(a)に示されるように、側型6及び上型4が成形体10bを保持した状態で、側型6及び上型4を、成形体10bと共に、下型8から分離する。成形体10bを下型8から分離しても、成形体10bと側型6との摩擦、又は成形体10bのスプリングバックにより、成形体10bは側型6の下方から抜け落ち難い。続いて、図3中の(b)に示されるように、側型6及び上型4に保持された成形体10bを、側型6及び上型4と共に、加熱工程用トレイ32の上に載置する。続いて、図3中の(c)に示されるように、鉛直方向(Z軸方向)における上型4の位置を固定した状態で、側型6を上へ移動させる。その結果、側型6内へ挿入されていた上型4が側型6を貫通して、上型4の端面が成形体10bを側型6の下方へ押し出す。つまり、側型6内に保持されていた成形体10bが、側型6の下面6cから抜き出される。続いて、図3中の(d)に示されるように、側型6及び上型4を上方へ移動させることにより、加熱工程用トレイ32の上に載置された成形体10bが、側型6及び上型4から分離する。図3に示される加熱工程用トレイ32、側型6及び上型4の相対的な位置関係が維持されている限り、分離工程では、加熱工程用トレイ32、側型6、及び上型4が鉛直方向に対して傾いていてよい。換言すると、上型4が側型6の上に位置し、且つ側型6が加熱工程用トレイ32の上に位置している限り、分離工程では、加熱工程用トレイ32、側型6、及び上型4が鉛直方向に対して傾いていてよい。
図4中の(a)、図4中の(b)、図4中の(c)及び図4中の(d)に示されるように、筒状の側型6に囲まれた空間6a(キャビティ)は、側型6の下面6cに近づくにつれて拡大してよい。このような側型6の構造は、「逆テーパー」と言い換えてよい。
成形工程では、成形体10bの上部が上型4により加圧されるので、成形体10bの上部の密度は成形体10bの下部の密度よりも高い傾向がある。成形体10bの下部よりも緻密である成形体10bの上部は、成形体10bの下部に比べて、焼結過程で収縮し難い。換言すれば、成形体10bの上部よりも緻密でない成形体10bの下部は、成形体10bの上部に比べて、焼結過程で収縮し易い。したがって、成形体10bの太さが均一である場合、成形体10bの鉛直方向における密度差に因り、成形体10bから得られる焼結体(希土類磁石)の下部が焼結体の上部よりも細くなり易い。鉛直方向における密度差がある成形体10bから、太さが均一である焼結体を得るためには、焼結によって収縮し易い成形体10bの下部を成形体10bの上部よりも太くすればよい。図4に示される各側型6によれば、側型6の下面6cに近づくにつれて拡大する空間6a(キャビティ)の形状に対応するように、下部が上部よりも太い成形体10bを容易に形成することが可能である。
成形工程において成形体10bが型2内で圧縮されると、スプリングバックに因り、成形体10bが側型6の下方から抜き出され難くなることがある。ここで、スプリングバックとは、合金粉末10aを加圧して成形した後、圧力を解除した時に、成形体10bが膨張する現象である。図4に示される各側型6に囲まれた空間6a(キャビティ)は、側型6の下面6cに近づくにつれて拡大しているので、キャビティ内において、成形体10bの下部は成形体10bの上部よりも加圧され難い。したがって、側型6の下方では成形体10bのスプリングバックが起き難く、成形体10bを側型6の下方から抜き出し易い。
図4中の(a)に示される側型6の場合、筒状の側型6に囲まれた空間6aは、側型6の下面6cに近づくにつれて連続的に拡大している。側型6の下面6cに形成された開口部6coは、側型6の上面6bに形成された開口部6boよりも広い。側型6の下面6cに形成された開口部6coは、側型6の上面6bに形成された開口部6boと相似である。空間6aを囲む側型6の内壁は平面から構成される。
図4中の(b)に示される側型6の場合、側型6に囲まれた空間6aの広さ(幅)が一定である部分と、側型6に囲まれた空間6aが下面6cに近づくにつれて拡大する部分と、がある。
図4中の(c)に示される側型6の場合、側型6に囲まれた空間6aの広さ(幅)が一定である部分と、側型6に囲まれた空間6aが下面6cに近づくにつれて拡大する部分と、がある。側型6に囲まれた空間6aが下面6cに近づくにつれて拡大する部分においては、側型6の内壁の少なくとも一部が曲面から構成される。
図4中の(d)に示される側型6の場合、側型6の下面6cに形成された開口部6coは、側型6の上面6bに形成された開口部6boと相似でない。側型6に囲まれた空間6a(キャビティ)の水平方向における縦幅は一定であり、側型6に囲まれた空間6a(キャビティ)の水平方向における横幅は、下面6cに近づくにつれて拡大している。
図3中の(a)及び図3中の(b)に示されるように、成形体10bを下型8から分離して加熱工程用トレイ32へ移す過程で、成形体10bが側型6から抜け落ちることがある。側型6内の空間6a(キャビティ)が逆テーパー状である場合、成形体10bが側型6の下方から抜け落ち易い。成形体10bが側型6から抜け落ちることを防止するために、図3中の(a)に示される型及び成形体10bの全体を回転して、側型6の下面6cを水平方向に向けた後、下型8を加熱工程用トレイ32に置き換えてよい。
型2の一部又は全部は、樹脂から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4の全てが樹脂から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6のみが樹脂から形成されていてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8のみが樹脂から形成されていてもよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、上型4のみが樹脂から形成されていてもよい。型2の形成に用いられる樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレン・テレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの共重合体)、エチルセルロース、パラフィンワックス、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、アタクチック・ポリプロピレン、メタクリル酸共重合体、ポリアミド、ポリブテン、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂及びポリエステル樹脂ならなる群より選ばれる一種又は複数種であってよい。
下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6及び上型4が樹脂から形成されていてもよく、下型8は樹脂以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び側型6が樹脂から形成されていてもよく、上型4は樹脂以外の組成物から形成されてよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び上型4が樹脂から形成されていてもよく、側型6は樹脂以外の組成物から形成されてよい。型2の一部が樹脂から形成されている場合、型2のうち樹脂以外の部分は、例えば、鉄、ケイ素鋼、ステンレス、パーマロイ、アルミニウム、モリブデン、タングステン、炭素質材料、セラミックス、及びシリコン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種から形成されていてよい。型2のうち樹脂以外の部分は、合金(例えば、アルミニウム合金)から形成されていてもよい。型2の全体が、樹脂以外の組成物から形成されていてもよい。
仮に、下型8、側型6、及び上型4の全てが金属から形成されている場合、成形工程において側型6と上型4との摩擦により、金属屑が側型6又は上型4の表面から脱離して、成形体10bに混入する場合がある。成形体10bに混入した金属屑(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)は、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性を損なう場合がある。対照的に、型2の一部又は全部が樹脂から形成されている場合、型2が金属のみから構成されている場合に比べて、型2の摩耗屑(樹脂)が希土類磁石の磁気特性に及ぼす影響が抑制される。例えば、成形工程において摩擦し合う側型6及び上型4のうち、一方(例えば、側型6)が樹脂であり、他方(例えば、上型4)が金属である場合、側型6と上型4との摩擦により、金属屑の代わりに、金属よりも硬度が低い樹脂屑が型の生じ易い。樹脂屑は、金属屑に比べて、希土類磁石の磁気特性を損ない難い。例えば、側型6のみが樹脂から形成され、下型8及び上型4が、金属(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)から形成されていてよい。
仮に金型内に保持された成形体10bにパルス磁場を印加する場合、金型を構成する金属(例えば鉄)の飽和磁束密度が限られているため、金型内の成形体10bに実効的に作用する磁場の強度は、金型外のパルス磁場の強度よりも低い。一方、型2が樹脂から形成されている場合、強いパルス磁場を型2内の成形体10bへ印加することが可能であり、合金粉末10aの配向性が向上する。
焼結過程におけるネオジム磁石の収縮率には異方性があるため、収縮後のネオジム磁石(焼結体)の形状(特に複雑な形状)を精密に予測することは困難である。したがって、ネットシェイプのためには、型2の寸法及び形状を調整するための試行錯誤が必要であり、型2の材料としては、切削し易い樹脂が適している。つまり、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石を効率的に製造するためには、樹脂から形成された型2が適している。従来の金型は、加工し難く、高価であるため、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石の製造に適していない。
同一の型2を用いた成形工程及び配向工程を繰り返す場合、成形及び配向の度に型2内を清掃してよい。例えば、型2内に残った余分な合金粉末10aを磁場で吸引することによって、型2内を清掃してよい。成形及び配向の度に型2内を清掃することにより、型2内で成形される合金粉末10aの秤量の精度が向上し、得られる成形体10bの密度及び寸法のばらつきが抑制される。その結果、最終的に得られる希土類磁石の密度、寸法及び磁気特性のばらつきが抑制される。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、型2内を清掃する際に、型2自体が磁場によって吸引されるので、型2を清掃し難い。しかし、型2が、強磁性を有しない樹脂から形成されている場合、型2自体が磁場によって吸引されないので、型2内を清掃し易い。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、配向工程において型2自体が着磁して、合金粉末10aが型2に付着してしまうため、合金粉末10aの配向性が乱れたり、成形体10bの保形性が損なわれたりする。しかし、樹脂から構成される型2を用いる場合、型2自体の着磁が抑制される。
合金粉末10aを型2内へ供給しながら、型2内で成形される合金粉末10aの質量を、型2の質量と合わせて、測定してもよい。型2内で成形される合金粉末10aの質量と、型2の質量と、を同時に測定する場合、型2の質量が重い程、秤の精度が低下して、合金粉末10a自体の質量の測定の精度も低下する。しかし、従来の金属よりも軽い樹脂から構成される型2を用いる場合、合金粉末10aの質量を型2自体の質量と共に高い精度で測定することができる。
成形工程及び配向工程を経た成形体10b(焼結工程前の成形体10b)の密度は、例えば、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。
分離工程に続いて、加熱工程を行ってよい。加熱工程では、成形体10bを加熱して、成形体10bの温度を200℃以上450℃以下に調整してよい。加熱工程では、成形体10bの温度を200℃以上400℃以下、又は200℃以上350℃以下に調整してもよい。成形工程では、合金粉末10aにかかる圧力が、従来の高圧磁場プレス法よりも低いため、合金粉末10aが押し固まり難く、得られる成形体10bが崩れ易い。しかし、加熱工程によって、成形体10bの保形性が向上する。
加熱工程では、成形体10bの温度が200℃以上になると、成形体10bが固まり始めて、成形体10bの保形性が向上する。換言すると、成形体10bの温度が200℃以上になると、成形体10bの機械的強度が向上する。成形体10bの保形性が向上するため、成形体10bの搬送、又は後工程における成形体10bのハンドリングの際に、成形体10bが破損し難い。例えば、成形体10bを搬送用チャック(chuck)等により掴んで焼結用トレイ上に並べる際に、成形体10bが崩れ難い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の欠陥が抑制される。
仮に加熱工程において成形体10bの温度が450℃を超えた場合、加熱工程後に実施される焼結工程において、成形体10bに亀裂が形成され易い。亀裂が形成される原因は定かでない。例えば、加熱工程における成形体10bの急激な温度上昇により、成形体10b中に残存する水素が、ガスとして成形体10b外へ吹き出すことで、成形体10bに亀裂が形成される可能性がある。しかし、加熱工程において成形体10bの温度を450℃以下に調整することにより、焼結工程における成形体10bの亀裂が抑制される。その結果、最終的に得られる希土類磁石における亀裂も抑制され易い。また、加熱工程において成形体10bの温度を450℃以下に調整するため、成形体10bの昇温又は冷却に要する時間が抑制され、希土類磁石の生産性が向上する。また、加熱工程における成形体10bの温度が450℃以下であり、一般的な焼結温度よりも低いため、型2の一部(例えば下型8)とともに成形体10bを加熱したとしても、型2の劣化又は成形体10bと型2との化学反応が起き難い。したがって、必ずしも耐熱性が高くない組成物(例えば、樹脂)から構成される型2であっても利用することができる。
成形体10bの温度を200℃以上450℃以下に調整することにより、成形体10bの保形性が向上するメカニズムは明らかではない。例えば、合金粉末10aに添加されている有機物(例えば、潤滑剤)が、加熱工程において炭素になり、合金粉末10a(合金粒子)同士が炭素を介して結着される可能性がある。その結果、成形体10bの保形性が向上するのかもしれない。仮に加熱工程において成形体10bの温度が450℃を超えた場合、合金粉末10aを構成する金属の炭化物が生成したり、合金粉末10a(合金粒子)同士が直接焼結したりする可能性がある。一方、成形体10bの温度が200℃以上450℃以下に調整される場合、金属の炭化物は必ずしも生成せず、合金粒子同士は必ずしも直接焼結しない。
加熱工程において成形体10bの温度を200℃以上450℃以下に維持する時間は、特に限定されず、成形体10bの寸法及び形状に応じて適宜調整すればよい。
加熱工程では、赤外線を成形体10bへ照射することにより、成形体10bを加熱してよい。赤外線の照射(つまり輻射熱)によって成形体10bを直接加熱することにより、伝導又は対流による加熱の場合に比べて、成形体10bの昇温に要する時間が短縮され、生産効率及びエネルギー効率が高まる。ただし、加熱工程では、加熱炉内の熱伝導又は対流により、成形体10bを加熱してもよい。赤外線の波長は、例えば、0.75μm以上1000μm以下、好ましくは0.75μm以上30μm以下であってよい。赤外線は、近赤外線、短波長赤外線、中波長赤外線、長波長赤外線(熱赤外線)、及び遠赤外線からなる群より選ばれる少なくとも一つであってよい。上記の赤外線のうち近赤外線は比較的金属に吸収され易い。したがって、近赤外線を成形体へ照射する場合、短時間で金属(合金粉末)を昇温し易い。一方、上記の赤外線のうち遠赤外線は比較的有機物に吸収され易く、金属(合金粉末10a)によって反射され易い。したがって、遠赤外線を成形体10bへ照射する場合、上述した有機物(例えば、潤滑剤)が選択的に加熱され易く、有機物に起因する上記のメカニズムによって成形体10bが硬化し易い。赤外線を成形体10bへ照射する場合、例えば、赤外線ヒーター(セラミックヒーター等)又は赤外線ランプを用いてよい。
型2の一部又は全部と分離された成形体10bを加熱工程において加熱する場合、加熱による型2の劣化(例えば、型2の変形、硬化又は摩耗)が抑制され易く、成形体10bと型2との焼き付きも抑制され易い。また型2の一部又は全部と分離された成形体10bを加熱する場合、型2が熱を断熱し難く、成形体10bが加熱され易い。その結果、成形体10bの保形性が向上する。型2の一部又は全部と分離された成形体10bを加熱する場合、型2が成形体10bと化学的に反応する可能性が低い。そのため、必ずしも型2に耐熱性が要求されるわけではなく、型2の材質が制限され難い。したがって、型2の原料として、所望の寸法及び形状に加工し易く、且つ安価な材料を選定し易い。仮に、加熱工程において成形体10bと型2の全部とを一括して加熱した場合、成形体10bと型2との間の熱膨張率の差に起因して、成形体10bに応力が作用し易く、成形体10bが変形したり、破損したりする。また、加熱工程において成形体10bと型2の全部とを一括して加熱した場合、加熱対象全体の体積・熱容量が大きい。その結果、一括して加熱される成形体10bの数量が制限され、加熱工程に要する時間が長くなり、エネルギーが浪費され、希土類磁石の生産性が低下する。
加熱工程では、例えば、下型8の上に載置された成形体10bを加熱してよい。加熱工程では、加熱工程用トレイ32に載置された成形体10bを加熱してもよい。加熱工程では、成形体10bの酸化を抑制するために、不活性ガス又は真空中で成形体10bを加熱してよい。不活性ガスは、アルゴン等の希ガスであってよい。
加熱工程において、成形体10bの温度を200℃以上450℃以下に調整した後、成形体10bを100℃以下に冷却してよい。加熱工程後の成形体10bの搬送に用いるチャックの表面が樹脂から構成されている場合、成形体10bの冷却により、チャックの表面と成形体10bとの化学反応が抑制され、チャックの劣化、及び成形体10b表面の汚染が抑制される。冷却方法は、例えば、自然冷却であってよい。
配向工程後、焼結工程を行う。配向工程後、上記の加熱工程を経ることなく、焼結工程を行ってよい。配向工程後、上記の加熱工程を経て、焼結工程を行ってよい。焼結工程では、型2の全部から分離された成形体10bを加熱して焼結させる。つまり、焼結工程では、成形体10b中の合金粒子同士が焼結して、焼結体(希土類磁石)が得られる。
焼結工程において焼結させる成形体の密度(焼結工程直前の成形体の密度)は、例えば、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形工程及び配向工程において型が成形体10b(合金粉末10a)に及ぼす圧力が低いほど、焼結工程直前の成形体10bの密度が低い傾向がある。また、成形工程及び配向工程において型2が成形体10b(合金粉末10a)に及ぼす圧力が低いほど、成形体10bを構成する合金粉末10aが自由に回転し易く、磁場に沿って配向し易い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の残留磁束密度が高まり易い。したがって、焼結工程直前の成形体10bの密度が低いほど、希土類磁石の残留磁束密度が高まり易い、といえる。ただし、成形工程及び配向工程において型2が成形体10b(合金粉末10a)に及ぼす圧力が低過ぎる場合、成形体10bの保形性(機械的強度)が不十分であり、分離工程に伴う成形体10bと型2との摩擦により、成形体10bの表面に位置する合金粉末10aの配向性が乱れる。その結果、最終的に得られる希土類磁石の残留磁束密度が低下する。したがって、焼結工程直前の成形体10bの密度が低過ぎる場合、希土類磁石の残留磁束密度が低い、といえる。一方、成形工程から焼結工程に至るまでの間に成形体10b(合金粉末10a)に及ぶ圧力が高いほど、焼結工程直前の成形体10bの密度が高く、成形体10bの保形性(機械的強度)が高まり易い。その結果、最終的に得られる希土類磁石における亀裂が抑制され易い。したがって、焼結工程直前の成形体10bの密度が高いほど、希土類磁石における亀裂が抑制され易い、といえる。ただし、成形工程及び配向工程において型が成形体10b(合金粉末)に及ぼす圧力が高過ぎる場合、スプリングバックに因り、成形体10bに亀裂が形成され易く、成形体10bから得られる希土類磁石に亀裂が残ってしまう。なお、スプリングバックとは、合金粉末を加圧して成形した後、圧力を解除した時に、成形体10bが膨張する現象である。以上の通り、焼結工程直前の成形体10bの密度は、希土類磁石の残留磁束密度及び亀裂に相関している。焼結工程直前の成形体10bの密度が上記の範囲内に調整されることにより、希土類磁石の残留磁束密度が高まり易く、且つ希土類磁石における亀裂が抑制され易い。
仮に、焼結工程において、成形体10bを型2から分離せず、成形体10b及び型2を共に加熱した場合、型2を構成する成分が成形体10bに混入して、得られる希土類磁石の磁気特性を損なう場合がある。例えば、型2を構成する樹脂が分解して、樹脂に由来する炭素成分が成形体10bに混入してしまう。仮に焼結工程の過程で樹脂から構成される型が消失したとしても、消失に伴って生成した炭素成分が成形体10b中に混入することを十分に抑制することは困難である。その結果、焼結体(希土類磁石)中に炭素成分が残存し、炭素成分が希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)を損なう。一方、焼結工程において、型2から分離された成形体10bを加熱する場合、型2に由来する成分が成形体10bに混入し難い。したがって、得られる希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)が型2に由来する成分によって損なわれ難い。
仮に、焼結工程において、成形体10bと型2の一部又は全部とを一括して加熱した場合、成形体10bと型2との間の熱膨張率の差に起因して、成形体10bに応力が作用し易く、成形体10bが変形したり、破損したりすることがある。さらに、焼結工程において、成形体10bと型2の全部とを一括して加熱した場合、加熱対象全体の体積・熱容量が大きい。その結果、一括して加熱される成形体10bの数量が制限され、焼結工程に要する時間が長くなり、エネルギーが浪費され、希土類磁石の生産性が低下する。一方、焼結工程において、型2から分離された成形体10bを加熱する場合、成形体10bと型2の全部とを一括して加熱する場合に比べて、加熱対象全体の体積・熱容量が小さい。その結果、多数の成形体10bを一括して昇温させ易く、焼結工程に要する時間及びエネルギーが抑制され易く、希土類磁石の生産性が向上する。
焼結工程では、下型8に載置された成形体10bを、焼結用トレイの上に移してよい。焼結工程では、加熱工程用に載置された成形体10bを、焼結用トレイの上に移してもよい。加熱工程において成形体10bの保形性が向上しているため、成形体10bを搬送用チャックで掴んで焼結用トレイ上に並べる際に、成形体10bの破損が抑制される。
焼結工程では、複数の成形体10bを焼結用トレイ上に載置してよく、焼結用トレイ上に載置された複数の成形体10bを一括して加熱してよい。多数の成形体10bを狭い間隔で焼結用トレイ上に並べて、多数の成形体10bを一括して加熱することにより、希土類磁石の生産性が向上する。
焼結用トレイの組成は、焼結時に成形体10bと反応し難く、且つ成形体10bを汚染する物質を生成し難い組成物であればよい。例えば、焼結用トレイは、モリブデン又はモリブデン合金から構成されていてよい。
焼結温度は、例えば900℃以上1200℃以下であればよい。焼結時間は、例えば0.1時間以上100時間以下であればよい。焼結工程を繰り返してもよい。焼結工程では、不活性ガス又は真空中で成形体10bを加熱してよい。不活性ガスは、アルゴン等の希ガスであってよい。
焼結体に対して時効処理を施してよい。時効処理では、焼結体を例えば450℃以上950℃以下で熱処理してよい。時効処理では、焼結体を、例えば0.1時間以上100時間以下、熱処理してよい。時効処理は不活性ガス又は真空中で行えばよい。時効処理は、温度の異なる多段階の熱処理から構成されてもよい。
焼結体を切削又は研磨してもよい。焼結体の表面に保護層を形成してもよい。保護層は、例えば、樹脂層、又は無機物層(例えば、金属層若しくは酸化物層)であってよい。保護層の形成方法は、例えば、めっき法、塗布法、蒸着重合法、気相法、又は化成処理法であってよい。
希土類磁石の寸法及び形状は、希土類磁石の用途に応じて様々であり、特に限定されない。希土類磁石の形状は、例えば、直方体状、立方体状、多角柱状、セグメント状、扇状、矩形状、板状、球状、円板状、円柱状、リング状、又はカプセル状であってよい。希土類磁石の断面の形状は、例えば、多角形状、円弦状、弓状、又は円状であってよい。型2又はキャビティの寸法及び形状は、希土類磁石の寸法及び形状に対応するものであり、限定されない。