以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。説明の便宜のため、図5~9では型が省略されているが、図5~9に示される成形体其々は実際には一つの型内に保持されている。
(金属粉末の調製工程)
本実施形態に係る希土類磁石(焼結磁石)の製造方法では、まず合金を製造する。合金の製造方法は、例えば、ストリップキャスト法であってよい。合金はフレーク状であってよく、インゴット状であってもよい。合金は、希土類元素を含む。希土類元素は、長周期型周期表の第3族に属するSc、Y及びランタノイドからなる群より選ばれる一種以上の元素を含む。ランタノイドは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。原料合金は、希土類元素に加えて、B,N,Fe,Co,Cu,Ni,Mn,Al,Nb,Zr,Ti,W,Mo,V,Ga,Zn,Si及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含んでよい。合金の化学組成は、最終的に得たい希土類磁石の主相及び粒界相の化学組成に応じて調整すればよい。つまり、目的とする希土類磁石の組成に応じて上記元素を含む各出発原料を秤量及び配合して、合金の原料を調製すればよい。希土類磁石は、例えば、ネオジム磁石、サマリウム‐鉄‐窒素磁石、サマリウムコバルト磁石、又はプラセオジム磁石であってよい。希土類磁石の主相は、例えば、Nd2Fe14B,Sm2Fe17N3,SmCo5,Sm2Co17,又はPrCo5であってよい。粒界相は、例えば、主相に比べて希土類元素の含有量が大きい相(Rリッチ相)であってよい。粒界相は、Bリッチ相、遷移金属リッチ相、酸化物相又は炭化物相を含んでもよい。
上記の合金の粗粉砕により、合金の粗粉末を得る。粗粉砕では、例えば、水素を合金の粒界(Rリッチ相)に吸蔵させることより、合金を粉砕してよい。合金の粗粉砕では、ディスクミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル又はスタンプミル等の機械的な粉砕方法を用いてもよい。粗粉砕によって得られた粗粉末の粒径は、例えば、10μm以上100μm以下であってよい。
上記の粗粉末の微粉砕により、合金の微粉末を得る。微粉砕では、ジェットミル、ボールミル、振動ミル、又は湿式アトライター等により、合金粉末を粉砕してよい。微粉砕によって得られた微粉末の粒径は、例えば、0.5μm以上5μm以下であってよい。以下では、場合により、粗粉末又は微粉末は、合金粉末と表記される。
粗粉末へ有機物を添加してよい。微粉末へ有機物を添加してもよい。つまり、微粉砕の前後いずれかにおいて、有機物を合金粉末と混ぜてよい。有機物は、例えば、潤滑剤として機能する。潤滑剤を合金粉末へ添加することにより、合金粉末の凝集が抑制される。また、潤滑剤を合金粉末へ添加することにより、後工程において型と合金粉末との摩擦が抑制され易い。その結果、配向工程において合金粉末が配向し易く、合金粉末から得られる成形体の表面又は型の表面における傷を抑制し易い。有機物は、例えば、長鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸の誘導体のうち少なくともいずれかであってよい。長鎖脂肪酸の誘導体は、長鎖脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸アミド及び長鎖脂肪酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。例えば、有機物は、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸メチル、オクタデシルアミン酢酸塩、オクチルアミン、カプリル酸、ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。潤滑剤は、上記の組成に限定されない。潤滑剤は、粉末状の有機物であってよい。潤滑剤は、液状の有機物であってもよい。粉末状の潤滑剤が溶解した有機溶媒を合金粉末へ添加してもよい。
(成形工程)
成形工程では、上記の手順で得られた金属粉末(合金粉末)を、型内へ供給して、成形体を形成する。成形体の寸法、形状及び構造は限定されない。最終的に得られる希土類磁石の寸法、形状及び構造は、成形体の寸法、形状及び構造と概ね同じであってよい。型の寸法、形状及び構造は、成形体の寸法、形状及び構造に応じで変更されてよく、限定されない。成形工程は、乾式成型であってよい。成形工程は、金属粉末及び有機溶媒から成形体を形成する湿式成型であってもよい。
図1に示されるように、本実施形態において成形体10はアークセグメント型成形体(C字型成形体)である。つまり成形体10は柱体であり、成形体10の長手方向DLに垂直である成形体10の断面10cs(換言すれば、柱体の高さ方向に垂直である柱体の端面)は、円弧状の長辺LA及び円弧状の短辺SAを含み、長辺LA及び短辺SAは互いに略平行である。長辺LA及び短辺SAに略平行な方向は、円弧方向DA(湾曲方向)と表記される。長辺LAの長さがLLと表され、長辺LAの曲率半径がLRと表される場合、長辺LAの開き角θ1(単位:°)は、(360/2π)×(LL/LR)である。短辺SAの長さがSLと表され、短辺SAの曲率半径がSRと表される場合、短辺SAの開き角θ2(単位:°)は、(360/2π)×(SL/SR)である。長辺LAの開き角θ1は、短辺SAの開き角θ2と略等しくてよい。θ1及びθ2が互いに略等しい場合、θ1及びθ2其々は、成形体10の開き角θと表記される。円弧方向DAにおける成形体10の幅Wと長手方向DLにおける成形体10の幅h(柱状体の高さ)との大小関係は限定されない。長辺LAと短辺SAとの最短距離は、成形体10の厚みTと言い換えられてよい。
図2に示されるように、アークセグメント型の成形体10を形成するための型2は、下型8と、下型8の上に配置される筒状の側型6と、側型6に嵌合するパンチ(雄型)と、を含む。図2中では、パンチ(雄型)は省略されている。成形体10の形状及び寸法に対応する空間6aが、側型6を鉛直方向に貫通している。側型6は、型の側壁と言い換えてよい。下型8は板状であってよい。側型6の下部が、下型8の表面に形成された凸部に嵌合することにより、水平方向における側型6の位置が固定されてよい。成形工程では、側型6を下型8の上に載置して、側型6の下面側の開口部(穴)を下型8で塞ぐ。このような配置により、側型6及び下型8がダイを構成する。側型6及び下型8は、キャビティ(雌型)と言い換えられてよい。合金粉末を、側型6の上面側の開口部(穴)からダイ(空間6a)内へ導入する。パンチをダイへ挿入することにより、ダイ内の合金粉末がパンチの先端面で圧縮され、成形体10が形成される。成形体10の形成後、側型6の上面側の開口部は板状の上型4で塞がれる。後述される配向工程では、成形体10は、上型4、側型6及び下型8から構成される型2内に保持される。
成形体の形状は、上述されたアークセグメントに限定されない。例えば、成形体の形状は、扇(annular sector)形の板、多角柱(立方体、直方体、又は矩形の板等)、円柱、その他の柱体、筒(リング)、又は球であってもよい。成形体の断面の形状は、扇形、多角形、弓形(円及び弦で囲まれた形)、円又は環であってもよい。型の形状及び構造は、上記の形状及び構造に限定されず、成形体の形状に応じて変更されてよい。
成形工程において、型2が合金粉末に及ぼす圧力は、0.049MPa以上20MPa以下(0.5kgf/cm2以上200kgf/cm2以下)に調整されてよい。圧力とは、例えば、パンチの先端面が合金粉末に及ぼす圧力であってよい。従来の高圧磁場プレス法よりも低圧で、合金粉末から成形体10を形成することにより、型2と成形体10との摩擦が抑制され易く、型2又は成形体10の破損(例えば成形体10の亀裂)が抑制され易い。圧力が高過ぎる場合、型2が撓んでしまい、目的のダイの容量を確保し難く、目的の成形体10の密度が得られ難い。圧力が高過ぎる場合、金型に比べて耐久性(機械的強度)に劣る樹脂製の型を成形工程に用いることが困難である。圧力が高過ぎる場合、スプリングバックに因り、成形体10に亀裂が形成され易く、希土類磁石に亀裂が残ってしまう。スプリングバックとは、合金粉末の加圧によって形成された成形体10が圧力の解除に伴って膨張する現象である。従来の高圧磁場プレス法では、高圧下で合金粉末の成形及び配向を同時に行う必要があった。一方、本実施形態では、成形及び配向を同時に行う必要がないので、成形工程後に配向工程を行うことができる。成形工程と配向工程とを分けることにより、従来よりも小型で安価な装置(例えば、プレス成形装置、及び磁場印加装置)を各工程に用いることができる。成形工程と配向工程とを分けることにより、配向工程において成形体10中の合金粉末を所望の方向に配向させることが容易である。成形工程及び配向工程を略同時に行ってもよい。
成形工程を経た成形体10(配向工程前の成形体10)の密度は、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形体10の密度は、例えば、成形工程において型2が成形体10に及ぼす圧力によって調整されてよい。成形体10の密度は、例えば、型2内に供給される合金粉末の質量によって調整されてもよい。配向工程前の成形体10の密度が上記の範囲である場合、最終的に得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。配向工程前の成形体10の密度が低いほど、成形体10を構成する合金粉末が自由に回転し易く、磁場に沿って配向し易い。その結果、希土類磁石の表面磁束密度が高まり易い。配向工程前の成形体10の密度が低過ぎる場合、成形体10の機械的強度が不十分であり、後工程における成形体10と型2との摩擦により、成形体10の表面に位置する合金粉末の配向度が乱れる。その結果、希土類磁石の表面磁束密度が低下し易い。また配向工程前の成形体10の密度が低過ぎる場合、成形体10の機械的強度が不十分であるため、希土類磁石に亀裂が生じ易い。配向工程前の成形体10の密度が高過ぎる場合、希土類磁石の変形は抑制され易いが、成形体10を構成する合金粉末が自由に回転し難く、磁場に沿って配向し難い。その結果、希土類磁石の表面磁束密度が低下し易い。
(配向工程)
図3等に示されるように、配向工程では、パルス磁場を発生する第一コイルc1及び第二コイルc2が用いられる。配向工程では、型2が第一コイルc1及び第二コイルc2の間に配置され、型2内に保持された成形体10にパルス磁場が印加される。その結果、成形体10に含まれる合金粉末がパルス磁場に沿って配向される。
第一コイルc1の内径は、2×r1と表される。第一コイルc1の外径は、2×R1と表される。第一コイルc1の中心軸線ax1は、第一コイルc1の内周に一致する円の中心を含み、且つ第一コイルc1の内周面に平行な直線と定義されてよい。第一コイルc1の中心軸線ax1は、第一コイルc1の外周に一致する円の中心を含み、且つ第一コイルc1の外周面に平行な直線と定義されてもよい。第一領域A1は、第一コイルc1及び第二コイルc2の間において、第一コイルc1の中心軸線ax1からの距離がr1よりも大きくR1よりも小さい領域と定義される。
第二コイルc2の内径は、2×r2と表される。第二コイルc2の外径は、2×R2と表される。第二コイルc2の中心軸線ax2は、第二コイルc2の内周に一致する円の中心を含み、且つ第二コイルc2の内周面に平行な直線と定義されてよい。第二コイルc2の中心軸線ax2は、第二コイルc2の外周に一致する円の中心を含み、且つ第二コイルc2の外周面に平行な直線と定義されてもよい。第二領域A2は、第一コイルc1及び第二コイルc2の間において、第二コイルc2の中心軸線ax2からの距離がr2よりも大きくR2よりも小さい領域と定義される。
第一コイルc1の中心軸線ax1及び第二コイルc2の中心軸線ax2のうち一方又は両方は、「中心軸線ax」と表記される。図3~13に示されるように、第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2と略一致してよい。第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2と一致しなくてもよい。例えば、第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2と略平行であってよい。第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2に対して傾いていてもよい。第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2と交差してもよい。
第一コイルc1と第二コイルc2は、同じコイルであってよい。第一コイルc1と第二コイルc2は、異なるコイルであってもよい。例えば、第一コイルc1の内径(2×r1)は、第二コイルc2の内径(2×r2)と等しくてよい。第一コイルc1の内径は、第二コイルc2の内径と異なってもよい。第一コイルc1の外径(2×R1)は、第二コイルc2の外径(2×R2)と等しくてよい。第一コイルc1の外径は、第二コイルc2の外径と異なってもよい。第一コイルc1の中心軸線ax1に平行な方向における第一コイルc1の幅t1は、第二コイルc2の中心軸線ax2に平行な方向における第二コイルc2の幅t2と等しくてよい。第一コイルc1の幅t1は、第二コイルc2の幅t2と異なってよい。
配向工程では、第一コイルc1において発生するパルス磁場と第二コイルc2において発生するパルス磁場が、成形体10に印加される。第一コイルc1において発生するパルス磁場は、「第一パルス磁場」と表記される。第二コイルc2において発生するパルス磁場は、「第二パルス磁場」と表記される。配向工程は、成形体中の合金粉末が、第一パルス磁場及び第二パルス磁場から合成されたパルス磁場に沿って配向する工程と言い換えられてよい。以下では、第一パルス磁場及び第二パルス磁場から合成される磁場は、「合成パルス磁場」と表記される。合成パルス磁場を成形体10に印加する回数は、1回又は複数回であってよい。
配向工程では、第一パルス磁場と第二パルス磁場が同時に発生する。第一パルス磁場の方向は、第二パルス磁場の方向と逆である。例えば、中心軸線ax上において、第一パルス磁場の方向は、第二パルス磁場の方向と逆である。換言すれば、第一コイルc1の内側における第一パルス磁場の方向は、第二コイルc2の内側における第二パルス磁場の方向と逆である。
例えば、第一コイルc1及び第二コイルc2其々が磁石とみなされる場合、第一コイルc1のN極と、第二コイルc2のN極とが向かい合っていてよい。第一コイルc1のN極と第二コイルc2のN極が向かい合っている場合、合成パルス磁場は「N極対向磁場」(N Pole Facing Magnetic field)と表記される。第一コイルc1のS極と、第二コイルc2のS極とが向かい合っていてもよい。第一コイルc1のS極と第二コイルc2のS極が向かい合っている場合、合成パルス磁場は「S極対向磁場」(S Pole Facing Magnetic field)と表記される。第一コイルc1における電流I1の方向、及び第二コイルc2における電流I2の方向に基づき、N極対向磁場又はS極対向磁場が自在に合成されてよい。
第一コイルc1の寸法が第二コイルc2の寸法と略等しく、第一コイルc1の中心軸線ax1が第二コイルc2の中心軸線ax2と略一致し、中心軸線ax上において第一コイルc1のN極と第二コイルc2のN極とが向かい合い、第一パルス磁場の強度が第二パルス磁場の強度と略等しい場合、図4に示される合成パルス磁場(N極対向磁場)が合成される。図4中の曲線は、合成パルス磁場の磁力線である。任意の位置における合成パルス磁場の磁力線の接線は、任意の位置における合成パルス磁場の方向である。
第一コイルc1の寸法が第二コイルc2の寸法と略等しく、第一コイルc1の中心軸線ax1が第二コイルc2の中心軸線ax2と略一致し、中心軸線ax上において第一コイルc1のS極と、第二コイルc2のS極とが向かい合い、第一パルス磁場の強度が第二パルス磁場の強度と略等しい場合、S極対向磁場の磁力線は、図4中のN極対向磁場の磁力線と略同様に分布する。ただし、S極対向磁場の磁力線上の各点における磁場の方向は、N極対向磁場の磁力線上の各点における磁場の方向と逆である。
配向工程では、成形体10の一部分又は全体が、第一領域A1及び第二領域A2のうち少なくともいずれかの領域内に配置される。第一領域A1及び第二領域A2のうち少なくともいずれかの領域は、「ラジアル磁場領域A」と表記される。図4に示されるように、ラジアル磁場領域Aにおける磁力線の分布は、先行技術の配向工程において成形体が配置される領域における磁力線の分布と異なる。先行技術の配向工程において成形体が配置される領域とは、第一コイルc1及び第二コイルc2の間において中心軸線axからの距離がr1以下又はr2以下である領域である。成形体10においてラジアル磁場領域A内に配置された部分では、成形体10を構成する合金粉末の磁化容易軸がラジアルに配向される。その結果、成形体10の焼結によって得られる希土類磁石の磁化方向はラジアルになる。更に、配向工程において中心軸線axと略平行な方向(例えば、成形体10の長手方向DL)に沿った成形体10の表面磁束密度の分布は略均一になる。その結果、同方向(長手方向DL)に沿った希土類磁石の表面磁束密度の分布も略均一になる。希土類磁石の磁化方向がラジアルになり易く、且つ長手方向DLに沿った希土類磁石の表面磁束密度の分布が略均一になり易いことから、成形体10の全体がラジアル磁場領域A内に配置されることが好ましい。同様の理由から、第一領域A1の一部分又は全体が、第二領域A2の一部分又は全体と重なり合うことが好ましく、成形体10の一部分又は全体が、第一領域A1及び第二領域A2が互いに重なり合う領域内に配置されることが好ましい。つまり、ラジアル磁場領域Aは、第一領域A1及び第二領域A2が互いに重なり合う領域であることが好ましい。例えば、図3~13に示されるラジアル磁場領域Aは、第一領域A1の全体が第二領域A2の全体と重なり合っている領域である。
以下では、各図面に基づき、配向工程の詳細が説明される。図5~9、12及び13において、成形体(10a、10b、10c又は10d)と重なる磁力線Hの方向は、成形体内において磁力線Hと重なる位置にある各金属結晶粒(各合金粒子)の磁化容易軸の配向方向を示す。換言すれば、成形体と重なる磁力線Hの方向は、成形体内において磁力線Hと重なる位置にある各磁区の磁気モーメントの方向を示す。成形体と重なる磁力線Hの方向は、成形体の焼結によって得られる希土類磁石の磁化方向と略等しい。
図5及び図6は、N極対向磁場の磁力線Hを示している。図5は、中心軸線axに略平行であり、且つ中心軸線axを含む断面である。図6は、中心軸線axに略垂直な断面である。図6に示されるように、ラジアル磁場領域A内におけるN極対向磁場の磁力線Hは中心軸線axから放射状に拡がっている。図5に示される成形体10a及び成形体10b其々の断面は、中心軸線ax及び各成形体の長手方向DLに略平行であり、各成形体の円弧方向DAに略垂直である。図6に示される成形体10a及び成形体10b其々の断面は、中心軸線ax及び各成形体の長手方向DLに略垂直であり、各成形体の円弧方向DAに略平行である。
図5及び6に示されるように、成形体10aの全体及び成形体10aの全体が、ラジアル磁場領域A内に配置されている。
図6に示されるように、成形体10aの円弧状の短辺(成形体10aの凹面)、及び成形体10aの円弧状の長辺(成形体10aの凸面)其々は、第一コイルc1及び第二コイルc2其々の外周面及び内周面と略平行に配置されている。換言すれば、成形体10aの円弧状の短辺(凹面)、及び成形体10aの円弧状の長辺(凸面)其々の曲率は、コイルc1及びコイルc2其々の外周面及び内周面其々の曲率と略同じ値に調整されてよい。
成形体10aの円弧状の短辺(凹面)は、中心軸線axと向かい合っている。ラジアル磁場領域Aにおいて成形体10aに重なる放射状の磁力線Hは、成形体10aの短辺(凹面)から成形体10aの長辺(凸面)へ向かうので、成形体10a内の各金属結晶粒の磁化容易軸はラジアルに配向され、成形体10aの短辺(凹面)がS極になり、成形体10aの長辺(凸面)がN極になる。
中心軸線axに直交する断面内おいて中心軸線axを中心とする同心円上の合成パルス磁場の強度は略等しく、成形体10aの円弧状の短辺、及び成形体10aの円弧状の長辺其々は、コイルc1及びコイルc2其々の外周面及び内周面と略平行に配置されているので、成形体10aの円弧状の短辺に沿った成形体10aの表面磁束密度の分布は略均一になり、成形体10aの円弧状の長辺に沿った成形体10aの表面磁束密度の分布も略均一になる。つまり、図1に示される円弧方向DAに沿って成形体10の表面磁束密度は略均一になる。
図4及び図5に示されるように、ラジアル磁場領域A内において、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔は略均一である。また成形体10aの長手方向は、中心軸線axに略平行である。したがって、中心軸線axと略平行な方向に沿った成形体10aの表面磁束密度の分布は略均一になる。つまり、図1に示される長手方向DLに沿って成形体10の表面磁束密度が略均一になる。例えば、成形体10aの凸面(円弧上の長辺LAを含む表面)において長手方向DLに沿って測定される表面磁束密度の分布は略均一である。成形体10aの凹面(円弧上の短辺SAを含む表面)において長手方向DLに沿って測定される表面磁束密度の分布も略均一である。
図6に示されるように、成形体10bの円弧状の長辺(凸面)は、中心軸線axと向かい合っている。ラジアル磁場領域Aにおいて成形体10bに重なる放射状の磁力線Hは、成形体10bの長辺(凸面)から成形体10bの短辺(凹面)へ向かうので、成形体10b内の各金属結晶粒の磁化容易軸はラジアルに配向され、成形体10bの長辺(凸面)がS極になり、成形体10bの短辺(凹面)がN極になる。
図4及び図5に示されるように、ラジアル磁場領域A内において、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔は略均一である。また成形体10bの長手方向は、中心軸線axに略平行である。したがって、中心軸線axと略平行な方向に沿った成形体10bの表面磁束密度の分布は略均一になる。
図7及び図8は、S極対向磁場の磁力線Hを示している。図7は、中心軸線axに略平行であり、且つ中心軸線axを含む断面である。図8は、中心軸線axに略垂直な断面である。図8に示されるように、ラジアル磁場領域A内におけるS極対向磁場の磁力線Hは放射状であり、且つ中心軸線axに向かって集束している。図7に示される成形体10c及び成形体10d其々の断面は、中心軸線ax及び各成形体の長手方向DLに略平行であり、各成形体の円弧方向DAに略垂直である。図8に示される成形体10c及び成形体10d其々の断面は、中心軸線ax及び各成形体の長手方向DLに略垂直であり、各成形体の円弧方向DAに略平行である。
図7及び8に示されるように、成形体10cの全体及び成形体10dの全体が、ラジアル磁場領域A内に配置されている。
図8に示されるように、成形体10cの円弧状の短辺(成形体10cの凹面)、及び成形体10cの円弧状の長辺(成形体10cの凸面)其々は、コイルc1及びコイルc2其々の外周面及び内周面と略平行に配置されている。換言すれば、成形体10cの円弧状の短辺(凹面)、及び成形体10cの円弧状の長辺(凸面)其々の曲率は、コイルc1及びコイルc2其々の外周面及び内周面其々の曲率と略同じ値に調整されてよい。
成形体10cの円弧状の短辺(凹面)は、中心軸線axと向かい合っている。ラジアル磁場領域Aにおいて成形体10cに重なる放射状の磁力線Hは、成形体10cの長辺(凸面)から成形体10cの短辺(凹面)へ向かうので、成形体10c内の各金属結晶粒の磁化容易軸はラジアルに配向され、成形体10cの長辺(凸面)がS極になり、成形体10cの短辺(凹面)がN極になる。
成形体10aと同様の理由から、成形体10cの円弧状の短辺に沿った成形体10cの表面磁束密度の分布は略均一になり、成形体10cの円弧状の長辺に沿った成形体10cの表面磁束密度の分布も略均一になる。
図4及び図7に示されるように、ラジアル磁場領域A内において、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔は略均一である。または成形体10cの長手方向は、中心軸線axに略平行である。したがって、中心軸線axと略平行な方向に沿った成形体10cの表面磁束密度は略均一になる。
図8に示されるように、成形体10dの円弧状の長辺(凸面)は、中心軸線axと向かい合っている。ラジアル磁場領域Aにおいて成形体10dに重なる放射状の磁力線Hは、成形体10dの短辺(凹面)から成形体10dの長辺(凸面)へ向かうので、成形体10d内の各金属結晶粒の磁化容易軸はラジアルに配向され、成形体10dの短辺(凹面)がS極になり、成形体10dの長辺(凸面)がN極になる。
図4及び図7に示されるように、ラジアル磁場領域A内において、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔は略均一である。または成形体10dの長手方向は、中心軸線axに略平行である。したがって、中心軸線axと略平行な方向に沿って成形体10dの表面磁束密度は略均一になる。
上記の配向工程を経た成形体を焼結して得られる希土類磁石は、磁化方向が放射状である断面(ラジアル磁化面)を含み、且つラジアル磁化面に略垂直な方向に沿った希土類磁石の表面磁束密度の分布は略均一である。ラジアル磁化面とは、例えば、図6及び図8に示される成形体10a、10b、10c及び10d其々の断面である。上記の配向工程によれば、成形体の形状に関わらず、ラジアル磁化面を含み、且つラジアル磁化面に略垂直な方向に沿った表面磁束密度の分布が略均一である希土類磁石を製造することができる。
図6及び図8に示されるように、ラジアル磁場領域A内における合成パルス磁場(磁力線H)の方向、合成パルス磁場(磁力線H)の方向に対する成形体10の向き、及びラジアル磁場領域A内における成形体10の位置の変更により、成形体10における所望の位置及び方向において合金粉末をラジアルに配向させることができる。
図4に示されるように、中心軸線axとラジアル磁場領域Aとの間の領域では、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔が不均一である。換言すれば、中心軸線axからの距離がr1以下又はr2以下である領域では、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔が不均一である。したがって、中心軸線axとラジアル磁場領域Aとの間の領域において合成パルス磁場が成形体10に印加される場合、中心軸線axと略平行な方向に沿って成形体10の表面磁束密度は不均一になり、ラジアル磁化面に略垂直な方向に沿って希土類磁石の表面磁束密度も不均一になる。
第一パルス磁場の方向と第二パルス磁場の方向とが同じである場合、中心軸線axからの距離がr1以下又はr2以下である領域では、均質なパルス磁場(方向及び強度が一様であるパルス磁場)が形成され、第一領域A1及び第二領域A2のいずれにおいても放射状の磁力線Hが生じ難い。その結果、成形体10中の合金粉末をラジアルに配向させることは困難であり、磁化方向がラジアルである希土類磁石を製造することは困難である。
仮に第一コイルc1及び第二コイルc2のうち一方のみを用いてパルス磁場が成形体10へ印加される場合、中心軸線axに略垂直な方向において放射状の磁力線Hは生じるが、中心軸線axに略平行な方向における磁力線Hの間隔は不均一である。したがって、中心軸線axと略平行な方向に沿って成形体10の表面磁束密度は不均一になり、ラジアル磁化面に略垂直な方向に沿って希土類磁石の表面磁束密度も不均一になる。
成形体10の一部又は全体が配置されるラジアル磁場領域Aの容積は、第一コイルc1の内径及び外径、第二コイルc2の内径及び外径、並びに第一コイルc1と第二コイルc2との距離d等の寸法の変更により、自在に増加又は減少する。したがって、成形体の寸法及び形状に応じてラジアル磁場領域Aの容積を自在に調整することが可能であり、成形体の寸法及び形状に応じて成形体中の合金磁石の配向方向を自在に調整することができる。したがって、寸法、形状及び磁化方向において異なる多品種の希土類磁石を効率的に製造することができる。一方、先行技術のように、一対のコイルのうち少なともいずれかの内周面よりも内側の領域に成形体が配置される場合、成形体の寸法、形状及び向きが制限され、多品種の希土類磁石を効率的に製造することは困難である。
図4~8に示されるような合成パルス磁場における磁力線Hの分布は、コンピュータを用いたシミュレーションによって容易に再現される。第一コイルc1及び第二コイルc2其々の寸法、第一コイルc1及び第二コイルc2の相対的配置、第一コイルc1における電流I1、及び第二コイルc2における電流I2等の制御因子の変更により、合成パルス磁場における磁力線Hの分布が自在に制御されてよい。第一コイルc1及び第二コイルc2の相対的配置とは、例えば、第一コイルc1の中心軸線ax1と第二コイルc2の中心軸線ax2との距離、第一コイルc1の中心軸線ax1と第二コイルc2の中心軸線ax2とがなす角度、及び、第一コイルc1と第二コイルc2との距離d等であってよい。第一コイルc1の寸法が第二コイルc2の寸法と異なる場合であっても、上記の制御因子に基づき、図5~8に示されるような磁力線Hの分布をラジアル磁場領域A内で合成することは可能である。第一コイルc1の中心軸線ax1が第二コイルc2の中心軸線ax2と一致しない場合であっても、上記の制御因子に基づき、図5~8に示されるような磁力線Hの分布をラジアル磁場領域A内で合成することは可能である。
配向工程では、複数の型が用いられてよく、其々の型内に成形体が保持されてよい。第一コイル及び第二コイルのうち少なくともいずれかの周方向に沿って複数の型が並べられた状態において、型内の全ての成形体へ一括してパルス磁場が印加されてよい。例えば図9に示されるように、複数の成形体10a其々の短辺及び長辺が、第一コイルc1及び第二コイルc2其々の外周面及び内周面と略平行になるように、複数の型2が配置されてよい。合成パルス磁場は、中心軸線axを回転軸とする回転対称性を有することができるので、各コイルの周方向に沿って並べられた複数の成形体10a中の合金粉末を同様に且つ同時に配向させることができる。その結果、希土類磁石の生産性が向上する。
図12に示されるように、ラジアル磁場領域A内において複数の型2が中心軸線axに沿って積み重ねられた状態において、型2内の全ての成形体10aへ一括してパルス磁場が印加されてもよい。その結果、希土類磁石の生産性が向上する。図12に示される成形体10aの断面は、中心軸線ax及び成形体10aの長手方向DLに略平行であり、成形体10aの円弧方向DAに略垂直である。
成形工程では、型2が第一型として用いられてよい。配向工程は、第一型(型2)内に保持された成形体10aに合成パルス磁場を印加して、成形体10aに含まれる合金粉末を配向させる第一配向工程と、第一配向工程を経た成形体10aに再び合成パルス磁場を印加して、成形体10aに含まれる合金粉末を配向させる第二配向工程と、を含んでよい。図13に示されるように、第二配向工程では、第一配向工程を経た複数の成形体10aが第一型から取り出され、一つの第二型2a内に保持されてよい。図13に示される成形体10aの断面は、中心軸線ax及び成形体10aの長手方向DLに略平行であり、成形体10aの円弧方向DAに略垂直である。第二型2a内の複数の成形体10aは中心軸線axに沿って積み重ねられてよく、第二型2a内で積み重ねられた全ての成形体10aへ一括して合成パルス磁場が印加されてよい。焼結工程では、積み重ねられた複数の成形体10aが焼結されてよい。仮に第二配向工程が実施されず、第一配向工程を経た複数の成形体10aが積み重ねられた状態で焼結される場合、複数の成形体10aが互いに焼結し難く、希土類磁石が高い機械的強度を有することが困難である。一方、第二配向工程が実施される場合、積み重ねられた複数の成形体10aが互いに焼結し易く、高い機械的強度を有する長尺の希土類磁石を製造することができる。第二配向工程の合成パルス磁場における磁力線Hの分布は、第一配向工程の合成パルス磁場における磁力線Hの分布と略同じであってよい。第二配向工程では、複数の第二型2aが用いられてよく、其々の第二型2a内に複数の成形体10aが保持されてよい。第一コイルc1及び第二コイルc2のうち少なくともいずれかの周方向に沿って複数の第二型2aが並べられた状態において、第二型2a内の全ての成形体10aへ一括してパルス磁場が印加されてよい。その結果、希土類磁石の生産性が向上する。
第一コイルc1及び第二コイルc2の一方又は両方は、空芯コイルであってよい。空芯コイルの耐電力は大きく、空芯コイルのインダクタンスは小さく、高周波電流において生じるコア損失(鉄損)は空芯コイルでは生じ難い。したがって、第一コイルc1及び第二コイルc2の一方又は両方が空芯コイルである場合、合成パルス磁場の電源として高周波電源を用い易い。合成パルス磁場の高い強度を、空芯コイルを用いずに達成するためには、大型の磁場配向装置が必要であり、希土類磁石の製造コストが過大になる。ただし、磁心(鉄芯)及び着磁ヨークのうち少なくともいずれかの強磁性体が、第一コイルc1及び第二コイルc2のうち少なくともいずれかの内部又は端部に配置されてもよい。強磁性体が、第一コイルc1及び第二コイルc2の間に配置されていてもよい。ただし、成形体以外の強磁性体が第一コイルc1及び第二コイルc2の近傍に存在する場合、合成パルス磁場の磁力線Hの分布が乱れたり、合成パルス磁場の強度が低下したりする可能性がある。
第一パルス磁場の強度は、第一コイルc1の内径(2×r1)及び第一コイルc1における電流I1のうち少なくともいずれかの制御因子に基づき制御されてよい。r1の減少に伴い、第一パルス磁場の強度が増加し、電流I1の増加に伴い、第一パルス磁場の強度が増加する。
第二パルス磁場の強度は、第二コイルc2の内径(2×r2)及び第二コイルc2における電流I2のうち少なくともいずれかの制御因子に基づき制御されてよい。r2の減少に伴い、第二パルス磁場の強度が増加し、電流I2の増加に伴い、第二パルス磁場の強度が増加する。
第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と同じであってよい。第一パルス磁場の強度が第二パルス磁場の強度と同じである場合、合成パルス磁場の磁力線は、図4に示されるような対称性を有し易い。第一パルス磁場の強度は、第二パルス磁場の強度と異なっていてもよい。
合成パルス磁場は、交番磁場(alternating magnetic field)であってよい。つまり合成パルス磁場は、時間の経過に伴って強度及び方向の変化を繰り返す磁場であってよく、上述のN極対向磁場とS極対向磁場とが交互に発生してよい。合成パルス磁場は、減衰する交番磁場であってよい。換言すると、合成パルス磁場は、時間の経過に伴って反転を繰り返しながら減衰してよい。成形体10に最初に印加される合成パルス磁場のパルス波(第一パルス波PW1)の最大強度(振幅)は、第一パルス波PW1に続いて成形体10に印加される合成パルス磁場のパルス波(第二パルス波PW2)の最大強度よりも大きくてよい。第二パルス波PW2の方向は、第一パルス波PW1の方向と逆であってよい。第一パルス波PW1の印加により、成形体10を構成する合金粉末を配向させ、第二パルス波PW2の印加により、成形体10が脱磁(degauss)されてよい。交番磁場の発生方法は、交流方式又は直流反転方式であってよい。
ラジアル磁場領域Aにおける合成パルス磁場の強度は、例えば、796kA/m以上7958kA/m以下(10kOe以上100kOe以下)、又は2387kA/m以上4775kA/m以下(30kOe以上60kOe以下)であってよい。合成パルス磁場の強度が796kA/m以上である場合、合金粉末の配向度が十分に向上し易い。合金粉末の配向度が高いほど、得られる希土類磁石の表面の磁束密度が高まり易い。合成パルス磁場の強度が7958kA/mを超える場合、合成パルス磁場の強度が増加しても合金粉末の配向度が向上し難くなる。また、合成パルス磁場の強度が7958kA/mを超える場合、大型の磁場発生装置が必要になり、配向工程に係る費用が増加する。ラジアル磁場領域Aにおける合成パルス磁場の強度は、必ずしも上記の範囲に限定されない。
合成パルス磁場の持続時間は、例えば、10μ秒以上0.5秒以下であってよい。合成パルス磁場の持続時間とは、成形体10への合成パルス磁場の印加を開始した時点から印加を終了するまでの時間である。合成パルス磁場の持続時間が10μ秒以上である場合、合金粉末の配向度が十分に高まり易い。合成パルス磁場の持続時間が長い程、合成パルス磁場を発生させる第一コイルc1及び第二コイルc2における発熱量が大きくなり、電力が浪費される傾向がある。合成パルス磁場として最初に成形体10へ印加される第一パルス波PW1の半周期は、例えば、0.01ミリ秒以上100ミリ秒以下、好ましくは1ミリ秒以上30ミリ秒以下であってよい。第一パルス波PW1の半周期が上記の範囲内である場合、個々の合金粉末の回転が合成パルス磁場の印加に追随し易く、合金粉末が配向し易い。その結果、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性(例えば表面の磁束密度)が向上し易い。流動性の高い合金粉末及び流動性の低い合金粉末のいずれを用いた場合であっても、第一パルス波PW1の半周期が短いほど、合金粉末の配向度が向上して、希土類磁石の表面の磁束密度が高まる傾向がある。
合成パルス磁場は、従来の高圧磁場プレス法で多用された静磁場に比べて、高い磁場強度を有しており、短時間で成形体10へ印加される。したがって、合成パルス磁場を用いた配向工程により、静磁場を用いる場合に比べて、短時間で配向度の高い成形体10が得られ、結果的に表面の磁束密度が高い希土類磁石が製造される。ただし、仮に電気伝導体(例えば金属)から構成される型内に保持された成形体10に合成パルス磁場が印加されると、静磁場が印加される場合に比べて、型に作用する磁場の強度が短時間で急激に変化するため、電磁誘導によって渦電流が型に流れ易く、逆磁場が生じ易い。
合成パルス磁場の印加に伴う衝撃によって、型2が動くことがある。型2が動くことにより、成形体10中の合金粉末の配向方向が乱れる。また型2が動くことにより、型2に隙間が生じて、合金粉末が隙間から漏れる。したがって、型2の動きを抑制するために、ラジアル磁場領域A内に配置される型2が固定部材で固定されてよい。つまり配向工程では、第一コイルc1、第二コイルc2、及び型2が、固定部材によって固定されてよい。
例えば、図10及び11に示されるように、固定部材30は、第一固定板32、保持具34、第二固定板36及び4つの連結部材38を含む。第一固定板32、保持具34、第二固定板36其々は、正方形又は長方形であってよい。4つの連結部材38其々は、第一固定板32、保持具34、及び第二固定板36其々の四隅に形成された連結穴を貫通する。図11に示されるように、保持具34は、凹部が形成された第一部材34aと、板状の第二部材34bと、第三部材34c(ボルト又はねじ等)と、を含む。成形体10を内包する型2は、第一部材34aの凹部に嵌合する。型2を第一部材34aと第二部材34bで挟み、第三部材34cにより第二部材34bを第一部材34aに固定することより、型2が保持具34に固定される。第一固定板32、第一コイルc1、保持具34、第二コイルc2、及び第二固定板36は、この順に重ねられる。第一固定板32、保持具34及び第二固定板36を連結部材38によって互いに固定することにより、第一コイルc1、第二コイルc2、及び型2其々が固定される。固定部材30の形状及び構造は、限定されない。
合成パルス磁場の磁力線Hの分布が乱れ難く、成形体10中の合金粉末をラジアルに配向させ易いことから、固定部材30の一部分又は全体は非磁性体であってよい。非磁性体は、常磁性体及び強磁性体のいずれでもない物質と言い換えられてよい。例えば、非磁性体は、樹脂、ステンレス鋼、アルミニウム、モリブデン、タングステン、炭素質材料、及びセラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一種の物質であってよい。例えば、固定部材30の一部分又は全体を構成する非磁性体は、樹脂であってよい。ただし、固定部材30の一部分又は全体は、磁性体(Fe,Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属等)であってもよい。例えば、保持具34の全体が樹脂からなっていてよく、第一固定板32及び第二固定板36其々が鉄からなっていてもよい。
型2の一部又は全部は、上述された非磁性体であってよい。型2の一部又は全部が非磁性体から形成されている場合、合成パルス磁場の磁力線Hの分布が乱れ難く、成形体10中の合金粉末をラジアルに配向させ易い。型2の一部又は全部が非磁性体から形成されている場合、配向工程において型2自体の磁性に起因する型2の振動が抑制され易く、型2内に保持された成形体10の破損が抑制され易い。例えば、型2の一部又は全部を構成する非磁性体は、樹脂であってよい。下型8、側型6、及び上型4の全てが非磁性体であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6のみが非磁性体であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8のみが非磁性体であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、上型4のみが非磁性体であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6及び上型4が非磁性体であってよく、下型8は非磁性体以外の物質であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び側型6が非磁性であってよく、上型4は非磁性体以外の物質であってよい。下型8、側型6、及び上型4のうち、下型8及び上型4が非磁性体であってよく、側型6は非磁性体以外の物質であってよい。型2の一部又は全部は、上述された磁性体であってもよい。
型2の一部又は全部は、樹脂であってよい。型2の一部又は全部が、樹脂から形成されている場合、型2内に配置された成形体10に合成パルス磁場を印加する際に、型2において渦電流が流れ難く、逆磁場も発生し難い。逆磁場を抑制することにより、合金粉末の配向方向が逆磁場によって乱されることが抑制される。その結果、磁化方向が放射状である断面(ラジアル磁化面)を含み、且つラジアル磁化面に略垂直な方向に沿った表面磁束密度の分布が略均一である希土類磁石を容易に製造することができる。また逆磁場を抑制することにより、成形体10を構成する合金粉末が逆磁場によって型2の表面に引き寄せられる現象が抑制される。その結果、成形体10の密度が均一になり易く、焼結工程において焼結体(希土類磁石)に亀裂が発生し難くなる。さらに型2の一部又は全部が樹脂から形成されているため、配向工程において、渦電流損に起因する型2の温度上昇が抑制され、型2自体に瞬間的に衝撃(磁力)が作用し難い。その結果、型2が消耗し難くなる。上記の通り、本発明の効果を得易いことから、樹脂から形成された型2が金型よりも好ましいが、金型を用いる場合であっても本発明の効果を得ることは可能である。
仮に金型内に保持された成形体10に合成パルス磁場を印加する場合、金型を構成する金属(例えば鉄)の飽和磁束密度が限られているため、金型内の成形体10に実効的に作用する磁場の強度は、金型外の合成パルス磁場の強度よりも低い。しかし、型2が樹脂から形成されている場合、強い合成パルス磁場が型2によって遮蔽されることなく型2内の成形体10へ印加され易い。
固定部材30及び型2のうち少なくとも一方に含まれる樹脂は絶縁性樹脂であってよい。絶縁性樹脂から構成される固定部材30及び型2を用いることにより、配向工程において、渦電流及び逆磁場が抑制され易く、固定部材30及び型2に瞬間的に衝撃が作用し難い。同様の理由から、固定部材30及び型2のうち少なくとも一方に含まれる樹脂の抵抗率は、例えば、1Ω・m以上1×1020Ω・m以下、好ましくは1×109Ω・m以上1×1016Ω・m以下であってよい。
固定部材30及び型2のうち少なくとも一方に含まれる樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン(高密度ポリエチレンなど)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、エチルセルロース、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、アタクチック・ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6.66)、ポリイミド、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、パラフィンワックス及びシリコン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であってよい。金属及び黒鉛よりも抵抗率が高い導電性プラスチックから構成される型2を用いてもよい。その結果、型2の帯電が抑制され、型2の帯電に起因する合金粉末の型2への付着が抑制される。
型2において渦電流が流れる部分と成形体10との接触面積が広い程、渦電流に起因する焼結体の亀裂、及び磁気特性の劣化が起き易い。本実施形態では、下型8、側型6、及び上型4のうち、側型6と成形体10との接触面積が、下型8及び上型4其々と成形体10との接触面積よりも広い。したがって、下型8、側型6、及び上型4のうち、少なくとも側型6が樹脂から形成されていてよい。成形体10と接触する面積が広い側型6を樹脂から形成することにより、側型6における渦電流及び逆磁場の発生が効果的に抑制され、合金粉末の配向方向が逆磁場によって乱され難い。
型2のうち、樹脂から形成される部分の位置は限定されない。型2の寸法及び形状、又は合成パルス磁場の方向に応じて、型2のうち渦電流を抑制する必要がある部分を樹脂から形成すればよい。例えば、型2のうち、合金粉末を配向させる合成パルス磁場の方向に対して周回する回路を形成する部分において、渦電流及び逆磁場が生じ易い。したがって、型2のうち、合金粉末を配向させる合成パルス磁場の方向に対して、周回する回路を形成する部分である側型6が樹脂から形成される場合、渦電流及び逆磁場が抑制され易い。
型2の一部が樹脂から形成されている場合、型2のうち樹脂以外の部分は、例えば、鉄、ケイ素鋼、ステンレス、パーマロイ、アルミニウム、モリブデン、タングステン、炭素質材料、セラミックス、及びシリコン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種から形成されていてよい。型2のうち樹脂以外の部分は、合金(例えば、アルミニウム合金)から形成されていてもよい。
仮に、下型8、側型6、及びパンチの全てが金属から形成されている場合、成形工程において側型6とパンチとの摩擦により、金属屑が側型6又はパンチの表面から脱離して、成形体10に混入する場合がある。成形体10に混入した金属屑(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)は、最終的に得られる希土類磁石の磁気特性を損なう場合がある。対照的に、型2の一部又は全部が樹脂から形成されている場合、型2が金属のみから構成されている場合に比べて、型2の摩耗屑(樹脂)が希土類磁石の磁気特性に及ぼす影響が抑制される。例えば、成形工程において摩擦し合う側型6及びパンチのうち、一方(例えば、側型6)が樹脂であり、他方(例えば、パンチ)が金属である場合、側型6とパンチとの摩擦により、金属屑の代わりに、金属よりも硬度が低い樹脂屑が生じ易い。樹脂屑は、金属屑に比べて、希土類磁石の磁気特性を損ない難い。例えば、側型6のみが樹脂から形成され、下型8、パンチ及び上型4が、金属(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)から形成されていてよい。
焼結過程におけるネオジム磁石の収縮率には異方性があるため、収縮後のネオジム磁石(焼結体)の形状(特に複雑な形状)を精密に予測することは困難である。したがって、ネットシェイプのためには、型2の寸法及び形状を調整するための試行錯誤が必要であり、型2の材料としては、切削し易い樹脂が適している。つまり、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石を効率的に製造するためには、樹脂から形成された型2が適している。従来の金型は、加工し難く、高価であるため、多様な用途に応じた多品種の希土類磁石の製造に適していない。
同一の型2を用いた成形工程及び配向工程を繰り返す場合、成形及び配向の度に型2内を清掃してよい。例えば、型2内に残った余分な合金粉末を磁場で吸引することによって、型2内を清掃してよい。成形及び配向の度に型2内を清掃することにより、型2内で成形される合金粉末の秤量の精度が向上し、得られる成形体10の密度及び寸法のばらつきが抑制される。その結果、最終的に得られる希土類磁石の密度、寸法及び磁気特性のばらつきが抑制される。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、型2内を清掃する際に、型2自体が磁場によって吸引されるので、型2を清掃し難い。しかし、型2が、強磁性を有しない樹脂から形成されている場合、型2自体が磁場によって吸引されないので、型2内を清掃し易い。仮に、型2が強磁性を有する金属(例えば鉄)から形成されている場合、配向工程において型2自体が着磁して、合金粉末が型2に付着してしまうため、合金粉末の配向方向が乱れたり、成形体10の機械的強度が損なわれたりする。しかし、樹脂から構成される型2を用いることにより、型2自体の着磁が抑制される。
合金粉末を型2内へ供給しながら、型2内で成形される合金粉末の質量を、型2の質量と合わせて、測定してもよい。型2内で成形される合金粉末の質量と、型2の質量と、を同時に測定する場合、型2の質量が重い程、秤の精度が低下して、合金粉末自体の質量の測定の精度も低下する。しかし、従来の金属よりも軽い樹脂から構成される型2を用いることにより、合金粉末の質量を型2自体の質量と共に高い精度で測定することができる。
型2内の合金粉末を加圧しながら、合金粉末を合成パルス磁場で配向させてもよい。つまり、配向工程においても、型2内の成形体10を圧縮してよい。型2が成形体10に及ぼす圧力は、上記の理由により、0.049MPa以上20MPa以下に調整してよい。
成形工程及び配向工程を経た成形体10の密度は、3.0g/cm3以上4.4g/cm3以下、好ましくは3.2g/cm3以上4.2g/cm3以下、より好ましくは3.4g/cm3以上4.0g/cm3以下に調整されていてよい。成形体10の密度は、例えば、型2が成形体10に及ぼす圧力によって調整されてよい。成形体10の密度は、例えば、型2内に供給される合金粉末の質量によって調整されてもよい。
焼結工程又は下記の加熱工程の前に、型2の一部又は全体が、成形体10から分離されてよい。
(加熱工程)
分離工程に続く加熱工程において、成形体が焼結温度よりも低い温度で加熱されてよい。例えば加熱工程では、成形体10を加熱して、成形体10の温度を200℃以上450℃以下に調整してよい。例えば加熱工程では、赤外線を成形体10へ照射することにより、成形体10が加熱されてよい。成形工程では、合金粉末にかかる圧力が、従来の高圧磁場プレス法よりも低いため、合金粉末が押し固まり難く、得られる成形体10が崩れ易い。しかし、加熱工程によって、成形体10の機械的強度が増加し、製造過程における成形体10の破損が抑制される。ただし加熱工程は必須ではない。
成形体10の温度を200℃以上450℃以下に調整することにより、成形体10の保形性が向上するメカニズムは明らかではない。例えば、合金粉末に添加されている有機物(例えば、潤滑剤)が、200℃以上での加熱により分解して炭素になり、合金粉末(合金粒子)同士が炭素を介して結着される可能性がある。その結果、成形体10の保形性が向上する可能性がある。仮に加熱工程において成形体10の温度が450℃を超えた場合、合金粉末を構成する金属の炭化物が生成したり、合金粉末(合金粒子)同士が直接焼結したりする可能性がある。一方、成形体10の温度が200℃以上450℃以下に調整される場合、金属の炭化物は必ずしも生成せず、合金粒子同士は必ずしも直接焼結しない。
(焼結工程)
焼結工程では、配向工程を経た成形体10を加熱して焼結させる。配向工程後、上記の加熱工程を経ることなく、焼結工程が実施されてよい。配向工程後、上記の加熱工程を経て、焼結工程が実施されてもよい。
以下の理由により、焼結工程では、型2の一部又は全部から分離された成形体10が加熱されてよい。好ましくは、焼結工程では、型2から完全に分離された成形体10が加熱されてよい。ただし、焼結工程では、型2と共に成形体10が加熱されてもよい。
仮に、焼結工程において、成形体10を樹脂製の型2から分離せず、成形体10及び型2を共に加熱した場合、型2を構成する樹脂が分解して、樹脂に由来する炭素成分が成形体10に混入してしまう。焼結工程の過程で樹脂から構成される型が焼失したとしても、焼失に伴って生成した炭素成分が成形体10中に混入することを十分に抑制することは困難である。その結果、焼結体(希土類磁石)中に炭素成分が残存し、炭素成分が希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)を損なう。一方、型2から分離された成形体10を加熱する場合、樹脂に由来する炭素成分が成形体10に混入し難く、希土類磁石の磁気特性(例えば、保磁力)が炭素成分によって損なわれ難い。
仮に、焼結工程において、成形体10と型2の一部又は全部とを一括して加熱した場合、成形体10と型2との間の熱膨張率の差に起因して、成形体10に応力が作用し易く、成形体10が変形したり、破損したりすることがある。さらに、焼結工程において、成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合、加熱対象全体の体積及び熱容量が大きい。その結果、一括して加熱される成形体10の数量が制限され、焼結工程に要する時間が長くなり、エネルギーが浪費され、希土類磁石の生産性が低下する。一方、型2から分離された成形体10を加熱する場合、成形体10と型2の全部とを一括して加熱した場合に比べて、加熱対象全体の体積及び熱容量が小さい。その結果、多数の成形体10を一括して昇温させ易く、焼結工程に要する時間及びエネルギーが抑制され易く、希土類磁石の生産性が向上する。
焼結温度は、例えば900℃以上1200℃以下であればよい。焼結時間は、例えば0.1時間以上100時間以下であればよい。焼結工程が繰り返されてもよい。焼結工程では、不活性ガス又は真空中で成形体10が加熱されてよい。不活性ガスは、アルゴン等の希ガスであってよい。
焼結体の時効処理が実施されてよい。時効処理は不活性ガス又は真空中で実施されてよい。時効処理は、温度の異なる多段階の熱処理から構成されてもよい。
焼結体は切削又は研磨されてよい。焼結体の表面に保護層が形成されてもよい。保護層は、例えば、樹脂層、又は無機物層(例えば、金属層若しくは酸化物層)であってよい。保護層の形成方法は、例えば、めっき法、塗布法、蒸着重合法、気相法、又は化成処理法であってよい。
(着磁工程)
着磁工程では、ラジアル磁場領域内で焼結体が着磁される。着磁工程では、配向工程に用いた第一コイルc1及び第二コイルc2により発生させた合成パルス磁場が焼結体に印加されてよい。着磁工程において焼結体に印加される合成パルス磁場(その磁力線の分布)は、配向工程において成形体10に印加される合成パルス磁場と略同じであってよい。着磁工程のラジアル磁場領域における焼結体の位置及び向きは、配向工程のラジアル磁場領域における成形体10の位置及び向きと略同じであってよい。合成パルス磁場(パルス波)が焼結体に印加される回数は1回又は複数回であってよい。着磁工程でも、焼結体の位置が冶具等で固定されてよい。着磁工程において焼結体に印加される合成パルス磁場は、直流磁界による合成パルス磁場であってもよい。以上のような着磁工程により着磁された焼結体(希土類磁石)の磁化方向の分布が、配向工程を経た成形体10中の合金粉末の配向方向と略同様である限り、着磁工程において焼結体に印加される合成パルス磁場は、配向工程において成形体10に印加される合成パルス磁場と異なってもよい。
以上の方法により、希土類磁石(焼結磁石)が製造される。希土類磁石の形状は、成形体の形状と略同じであってよい。
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
ストリップキャスト法により、29質量%のNd、1質量%のDy、1質量%のB、及び残部(balance)のFeを含むフレーク状の合金を作製した。合金を水素吸蔵法により粗粉砕して、粗粉末を得た。粗粉末にオレイン酸アミド(潤滑剤)を添加した。続いて粗粉末を不活性ガス中でジェットミルにより粉砕して、微粉末(希土類元素を含む合金粉末)を得た。微粉末中のオレイン酸アミドの含有量は、0.1質量%であった。微粉末の粒子径(D50)は、4μmに調整した。
成形工程では、型内へ充填された微粉末を型で圧縮することにより、成形体が形成された。型としては、図2に示される形状及び構造を有する型2が用いられた。成形工程に用いられたパンチ、上型4、側型6及び下型8は、絶縁性のプラスチック(非磁性体)からなっていた。
成形体としては、図1に示されるアークセグメント型の成形体10(C字型成形体)が形成された。成形体10の厚みTは、5mmであった。長手方向DLにおける成形体10の幅hは、20mmであった。円弧方向DAにおける成形体10の幅Wは、50mmであった。長手方向DLに垂直な方向における成形体10の断面10csの面積は、約2.5cm2であった。成形体10の開き角θは、60°であった。成形工程において、成形体10の密度は3.6g/cm3(3.6g/cc)に調整された。
配向工程では、第一コイルc1及び第二コイルc2が用いられた。第一コイルc1及び第二コイルc2のいずれも空芯コイルであった。第一コイルc1及び第二コイルc2其々の寸法及び形状は互いに同じであった。第一コイルc1の内径(2×r1)及び第二コイルc2の内径(2×r2)のいずれも、56mmであった。つまり、r1及びr2のいずれも、28mmであった。第一コイルc1の外径(2×R1)及び第二コイルc2の外径(2×R2)のいずれも、132mmであった。つまり、R1及びR2のいずれも、66mmであった。第一コイルc1の中心軸線ax1に平行な方向における第一コイルc1の幅t1は、20mmであった。第二コイルc2の中心軸線ax2に平行な方向における第二コイルc2の幅t2も、20mmであった。
図10及び11に示されるように、第一コイルc1、第二コイルc2、及び型2(成形体10を保持する型2)が、固定部材30によって固定された。固定部材30によって固定された。固定部材30を構成する第一固定板32及び第二固定板36のいずれも鉄からなっていた。固定部材30を構成する保持具34(型2が固定された保持具34)の全体が、絶縁性のエンジニアリングプラスチック(非磁性体)からなっていた。図11に示される第一固定板32、保持具34及び第二固定板36其々の寸法は、縦180mm×横180mmであった。
固定部材30によって固定された第一コイルc1、第二コイルc2、及び成形体10其々の位置及び向きは、図5及び6に示される第一コイルc1、第二コイルc2、及び成形体10a其々の位置及び向きと略一致していた。つまり、第一コイルc1の中心軸線ax1は、第二コイルc2の中心軸線ax2と略一致していた。第一領域A1の全体は、第二領域A2全体と重なり合っていた。つまり、ラジアル磁場領域Aは、第一領域A1の全体が第二領域A2の全体と重なり合っている領域であった。成形体10の全体がラジアル磁場領域A内に配置された。成形体10の円弧方向DAは、第一コイルc1及び第二コイルc2其々の内周面及び外周面に略平行であった。成形体10の長手方向DLは、中心軸線axに略平行であった。中心軸線axに略平行な方向における第一コイルc1と第二コイルc2との距離dは、31mmであった。つまり、第一コイルc1及び第二コイルc2の間隔は、31mmであった。中心軸線axに略平行な方向における第一コイルc1と成形体10の間隔は、同方向における第二コイルc2と成形体10の間隔と等しかった。成形体10は、中心軸線axに略垂直な方向において、ラジアル磁場領域Aの中央に配置された。中心軸線axと成形体10の中心との距離は、46mmであった。成形体10の中心とは、成形体10の厚みTを等分する円弧と言い換えられる。成形体10の厚みTを等分する円弧の曲率半径は、75.8mmであった。
第一コイルc1、第二コイルc2、型2及び成形体10が上記のように配置された状態において、配向工程が実施された。配向工程では、第一コイルc1及び第二コイルc2によって発生するN極対向磁場(パルス磁場)が、型2内の成形体10へ印加された。各コイル印加された電圧は、2500Vであった。ラジアル磁場領域A内のパルス磁場の強度は、3.23T以上3.84T以下である範囲内に制御された。
配向工程に続く焼結工程では、型2から取り出された成形体10が、真空雰囲気中において焼結された。成形体10の長手方向DLが鉛直方向になるように成形体10を平面上に立てた状態で、成形体10が焼結された。焼結温度(最高温度)は1080℃に調整された。焼結時間は4時間に調整された。焼結工程に続いて、時効処理が実施された。時効処理では、焼結体が900℃(最高温度)で1時間加熱された。続いて、焼結体が500℃(最高温度)で1時間加熱された。
焼結工程によって得られた焼結体の全表面の研削後、着磁工程が実施された。着磁工程では、配向工程における成形体10と同様に、N極対向磁場(パルス磁場)が焼結体へ印加された。
以上の工程により、実施例1の希土類磁石が作製された。希土類磁石の形状は、焼結工程前の成形体10の形状と略同じであった。
(実施例2及び3)
実施例2の配向工程では、成形体10の全体がラジアル磁場領域A内に配置された。ただし、実施例2の配向工程における成形体10の中心と中心軸線axとの距離は、実施例1の配向工程における成形体10の中心と中心軸線axとの距離よりも短かった。実施例2の配向工程における成形体10は、中心軸線axに向かって10mm平行に移動した実施例1の成形体10に相当する。
実施例3の配向工程では、成形体10の全体がラジアル磁場領域A内に配置された。ただし、実施例3の配向工程における成形体10の中心と中心軸線axとの距離は、実施例1の配向工程における成形体10の中心と中心軸線axとの距離よりも長った。実施例3の配向工程における成形体10は、第一コイルc1及び第二コイルc2其々の外周面に向かって5mm平行に移動した実施例1の成形体10に相当する。
ラジアル磁場領域A内における成形体10の位置を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2及び3其々の希土類磁石が作製された。
(比較例1)
比較例1の配向工程における成形体10の全体は、中心軸線axとラジアル磁場領域Aとの間に配置された。つまり、比較例1の配向工程では、N極対向磁場(パルス磁場)が、ラジアル磁場領域Aの外に配置された成形体10へ印加された。中心軸線axに平行な方向における比較例1の成形体10の位置は、同方向における実施例1の成形体10の位置と略同じであった。
配向工程における成形体10の位置を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の希土類磁石が作製された。
[希土類磁石の円弧方向に沿った表面磁束密度の測定]
以下の方法により、実施例1~3其々の希土類磁石の表面磁束密度が測定された。
図14に示される治具40及びホール素子42が、表面磁束密度の測定に用いられた。図14では、説明の便宜上、希土類磁石の符号が成形体と同様に10aと表記される。治具40は、回転軸axrに対して自在に回転する円柱であった。希土類磁石(10a)の円弧状の短辺(図1中の成形体10の短辺SAに対応する辺)が、治具40の表面に接するように、希土類磁石(10a)が治具40の表面に固定された。つまり、希土類磁石(10a)の凹面が治具40の表面に接するように、希土類磁石(10a)が治具40の表面に固定された。長手方向DLにおける希土類磁石(10a)の中心が、ホール素子42の直下に位置するように、ホール素子42の位置が固定された。ホール素子42と希土類磁石(10a)の表面(凸面)との距離は、0.5mmに維持された。治具40を回転さながら、希土類磁石(10a)の表面磁束密度をホール素子42によって連続的に測定することにより、円弧方向DAに沿った表面磁束密度の分布が得られた。つまり、希土類磁石(10a)の表面(凸面)の全体が、円弧方向DAに沿ってホール素子42で走査された。
円弧方向DAに沿った実施例1~3其々の表面磁束密度の分布は、図15に示される。図16では、コンピュータを用いたシミュレーションによって再現された実施例1の表面磁束密度の分布が、実施例1の測定された表面磁束密度の分布と比較される。図15及び16其々の横軸は、希土類磁石(10a)の開き角θに対応する。図15及び16其々の横軸の原点(0°)は、円弧方向DAにおける希土類磁石(10a)の表面(凸面)の中央を示す。図15は、円弧方向DAにおける希土類磁石(10a)の両端部の表面磁束密度が僅かに高いものの、実施例1~3其々の円弧方向DAに沿った表面磁束密度の分布が略均一であることを示している。図15は、各コイルの中心軸線と成形体との距離の減少に伴って表面磁束密度が増加する傾向を示している。図16は、測定された表面磁束密度の分布が、シミュレーションの結果と略一致することを示している。
[希土類磁石の長手方向に沿った面磁束密度の測定]
以下の方向により、実施例1及び比較例1其々の希土類磁石の表面磁束密度が測定された。
円弧方向DAにおける希土類磁石(10a)の中心が、ホール素子42の直下に位置するように、ホール素子42の位置が固定された。ホール素子42と希土類磁石(10a)の表面(凸面)との距離は、0.5mmに維持された。希土類磁石(10a)を長手方向DLに沿って平行に移動さながら、希土類磁石(10a)の表面磁束密度をホール素子42によって連続的に測定することにより、長手方向DLに沿った表面磁束密度の分布が得られた。つまり、希土類磁石(10a)の表面(凸面)が、長手方向DLに沿ってホール素子42で走査された。
長手方向DLに沿った実施例1及び比較例1其々の表面磁束密度の分布は、図17に示される。コンピュータを用いたシミュレーションによって再現された実施例1の表面磁束密度の分布も、図17に示される。図17の横軸は、希土類磁石(10a)の長手方向DLに対応する。図17の横軸における8mmは、長手方向DLにおける希土類磁石(10a)の表面(凸面)の中央を示す。図17に示されるように、実施例1の長手方向DLに沿った表面磁束密度の分布は、略均一であった。実施例1の測定された表面磁束密度の分布は、シミュレーションの結果と略一致した。比較例1の場合、長手方向DLにおける希土類磁石(10a)の両端部の表面磁束密度が、同方向における希土類磁石(10a)の中央の表面磁束密度よりも著しく低かった。
(実施例4及び5)
実施例4の配向工程では、成形体10の密度が3.55g/cm3(3.55g/cc)に調整された。実施例5の配向工程では、成形体10の密度が3.50g/cm3(3.50g/cc)に調整された。成形体10の密度を除いて実施例1と同様の方法で、実施例4及び5其々の希土類磁石が作製された。実施例1と同様の方法で、円弧方向DAに沿った実施例4及び5其々の表面磁束密度の分布が測定された。実施例4及び5其々の表面磁束密度の分布は、実施例1の分布及びそのシミュレーションの結果と合わせて、図18に示される。