先ず、本発明が適用されるエレベータ装置の概略構成を図6に基づき説明する。
一般に、エレベータ装置は、建築物1000に設けられた昇降路200内に昇降体(乗りかご)300と釣合いおもり400とを主ロープ500によって連結し、昇降体300がガイドレール700に沿って昇降可能となるように構成している。昇降路200の上部に形成した機械室100内には、主ロープ500を巻掛けた巻上機600、この巻上機600等を制御する制御盤(図示省略)、調速機などを配置している。調速機は、昇降路200内の昇降行程全域に亘って張られた無端状の調速用ロープ1と、機械室100に設置され、調速用ロープ1を巻掛けた綱車4などから構成される。昇降体300には、非常時に楔によってガイドレール700を把持する非常止め装置800と、この非常止め装置800を駆動し、昇降体300側に軸支された作動レバー900が設けられている。作動レバー900には、調速用ロープ1が連結されている。なお、本発明が適用されるエレベータ装置は、図6に示す構成に限定されるものではない。例えば、昇降路200の上部に機械室を設けずに、昇降路200の頂部において固定部(例えばガイドレール700の頂部)に調速機を設置するようにしても良い。
次に、本実施例のエレベータ装置における調速機について説明する。図1に示すように、無端状をなし昇降路に配置されて昇降体に連結された調速用ロープ1と、水平軸3に固定されて調速用ロープ1が巻き掛けられた綱車4と、この綱車4の回転速度を調速し、上昇過速度を検出する第1の調速機Aと、水平軸3とクラッチ5を介して連結され、昇降体の下降運転時、綱車4の回転速度を調速し、下降過速度を検出する第2の調速機Bと、水平軸3に取付けられるエンコーダ6と、昇降体の上昇運転時など第2の調速機への綱車の回転が伝達解除された時、第2の調速機Bの回転体B1の回転を阻止する回転阻止機構7を備えている。
水平軸3は、例えば、ガイドレール頂部に設けた枠2に軸受を介して支持されている。水平軸3の一方に第1の調速機Aの回転体A1が固定して設けられ、水平軸3の他方の側に第2の調速機Bの回転体B1がクラッチ5を介して取り付けられている。クラッチ5は、カム式ワンウェイクラッチ(カムクラッチ)が用いられ、カム式ワンウェイクラッチの内輪が水平軸3に固定され、外輪が回転体B1に固定されている。クラッチ5により、昇降体の下降運転時、綱車4の回転を第2の調速機の回転体B1に伝達し、昇降体の上昇運転時、第2の調速機への綱車4の回転を伝達解除する。
第1の調速機Aは、回転体A1と、この回転体A1に取付けられ、回転体A1の回転速度に応じて変位する振り子(図示省略)とを有している。また、第2の調速機Bは、回転体B1と、この回転体B1に取付けられ、回転体B1の回転速度に応じて変位する振り子(図示省略)とを有している。第1の調速機Aは、乗りかごの昇降速度が定格速度の1.3倍に達すると、振り子の変位により、第1の調速機Aにおける乗りかご停止用スイッチが投入されるように構成され、乗りかごの昇降速度が定格速度の1.3倍に達したことを検出する。また、第2の調速機Bも、乗りかごの昇降速度が定格速度の1.3倍に達すると、振り子の変位により、第2の調速機Bにおける乗りかご停止用スイッチが投入されるように構成され、乗りかごの昇降速度が定格速度の1.3倍に達したことを検出する。第1の調速機A及び第2の調速機Bとしては、具体的には、例えば、特許文献1に記載のようなフライウェイト調速機構が用いられるが、これに限定されるものではない。
本実施例のエレベータ装置は、昇降体、すなわち乗りかごの昇降による急激な気圧変化により、乗客の耳がつんとなる耳閉感を低減するため、上昇方向の定格速度より、下降方向の定格速度を低く設定してある。これに応じて、上昇用となる第1の調速機Aは、乗りかごの昇降速度が上昇方向の定格速度の1.3倍に達したことを検出すると、乗りかごを駆動する巻上機の電源及びこの巻上機を制御する制御装置の電源をそれぞれ遮断する。
一方、下降用となる第2の調速機Bは、乗りかごの昇降速度が下降方向の定格速度の1.3倍に達したことを検出すると、乗りかごを駆動する巻上機の電源及びこの巻上機を制御する制御装置の電源をそれぞれ遮断する。また、第2の調速機Bは、何らかの原因により乗りかごの下降速度が定格速度の1.4倍に達すると、乗りかごに設けられた非常止め装置を動作させて、乗りかごを機械的に非常停止させる。すなわち、回転体B1に取付けられた振り子がさらに変位することで、例えば、特許文献1に記載のような機構により、調速用ロープ1を挟み込んで調速用ロープ1の移動を停止させる。そして、図6に示すように、移動を停止した調速用ロープ1に連結された作動レバー900は、昇降体300のさらなる降下により引き上げられ、引き上げられた作動レバー900により非常止め装置800を作動させ、楔(図示省略)によりガイドレール700を把持して、昇降体300を機械的に非常停止させる。なお、第2の調速機Bは、クラッチ5により、昇降体の上昇運転時、綱車4の回転が伝達解除され調速を停止する。
このように上昇方向における所定の過速度を検出すると共に、下降方向における所定の過速度を検出するため、上昇用となる第1の調速機Aと下降用となる第2の調速機Bの調速設定値は異なる値に設定されている。
次に、本実施例における回転阻止機構について説明する。上述したように、本実施例では、昇降体の上昇運転時など第2の調速機への綱車の回転が伝達解除された時、第2の調速機Bの回転体B1の回転を阻止する回転阻止機構7を備えている。
回転阻止機構7は、図1及び図2に示すように、回転体B1と同軸に設けられるローラ7aと、このローラ7aに押圧力を付与する押圧力付与装置7bから構成されている。ローラ7aは、回転体B1またはカム式ワンウェイクラッチの外輪に固定され、回転体B1と一緒に回転する。押圧力付与装置7bは、枠2に台座70を介して固定されている。
また、押圧力付与装置7bは、ローラ7aに摺動可能に接するシュー72aと、このシュー72aをローラ7a方向に押圧するばね73と、シュー72a,ばね73を支持する筐体74を備えている。シュー72aはボルト72bを支点として回動可能に筐体74に取り付けられている。ばね73は筺体74のブラケット部74aに、ばね調整ねじ75を介して取り付けられている。
シュー72aは、ローラ7aに常時接するように押し付けられており、ローラ7aを介して第2の調速機Bの回転体B1に所定の抵抗を付勢している。乗りかごの上昇運転時、クラッチ5により第2の調速機Bは水平軸3の回転が伝達解除された状態となるが、クラッチ5内(内輪と外輪との間)で作用する摩擦抵抗により、回転体B1は回転しようとする。この回転体B1の回転を阻止するように、回転阻止機構7による抵抗値が設定される。言い換えれば、この抵抗値は、上昇運転時、クラッチ5により回転体B1への水平軸3の回転が伝達解除された際、回転阻止機構7の抵抗(ローラ7aとシュー72aとの間の摩擦抵抗)に抗して回転体B1が回転することを阻止する値に設定されている。
また、回転阻止機構7による抵抗値は、下降運転時、クラッチ5が噛み合った際、回転体B1の回転を妨げることのない値に設定されている。なお、実際には、下降運転時において回転阻止機構7により回転体B1が受ける抵抗は、水平軸3の回転力に比べると小さなものであることから、下降運転時における回転体B1の回転に支障をきたすものではない。
本実施例によれば、乗りかごの上昇運転時、回転阻止機構7によって第2の調速機Bの回転体B1の回転を阻止することにより、誤検出を防ぎ、信頼性の向上を図ることができる。また、下降運転時の停止から、直ちに、再下降運転しても、本実施例では、下降運転中に途中階に停止した際、第2の調速機Bの回転体B1の回転は速やかに阻止されているので、クラッチ5は常に停止状態にある第2の調速機Bの回転体B1に噛み合うことになる。これによって、本実施例では、噛み合う際の衝撃を低減し、静音化を図ると共に、装置にかかる負荷を低減して、延命化を図ることができる。
なお、本実施例では、第2の調速機Bの回転体B1の回転を阻止するために、回転体B1と同軸に設けられるローラ7aに押圧力を付与するようにしているが、回転体B1に直接押圧力を付与するようにしても良い。すなわち、本実施例では、回転体B1または回転体B1と同軸に設けられ、回転体B1と一緒に回転する回転体に押圧力を付与するものである。
次に、本発明に係るエレベータ装置の実施例2を図3及び図4に基づき説明する。なお、実施例1に示すものと同等のものには同一符号が付してある。また、実施例1と同様な構成についての説明は省略する。
本実施例のエレベータ装置は、実施例1に示す回転阻止機構7と異なる構造の回転阻止機構17を備えている。この回転阻止機構17は、図3及び図4に示すように、回転体B1と同軸に設けられる第1のローラ171と、この第1のローラ171と対向するように配置される第2のローラ172と、これらの第1のローラ171と第2のローラ172とに巻き掛けられるベルト173と、枠2に取付けられると共に、第2のローラ172を回動可能に支持するローラブラケット174と、第1のローラとは反対方向に第2のローラ172に対してばね力を付勢するばね175とを備えている。
第1のローラ171は、回転体B1またはカム式ワンウェイクラッチの外輪に固定され、回転体B1と一緒に回転する。第2のローラ172は、ローラブラケット174に軸176を介して回動可能に支持されている。また、ローラブラケット174は、台座170に軸177を介して回動可能に取り付けられている。ローラブラケット174が取り付けられる台座170は、枠2に固定されている(図3では図示省略)。ばね175は、台座170に固定されたばね取り付け部179と、ローラブラケット174に固定されたばね取り付け部180との間に設けられ、ばね調整ねじ178によりばね力が調整される。
本実施例では、第2のローラ172を第1のローラ171とは反対方向に付勢することによって、ベルト173にかかる張力を大きくして第1のローラ171を介して回転体B1に抵抗を付勢している。この抵抗値は、実施例1と同様な考えで、ばね調整ねじ178により調整される。
本実施例にあっては、回転体B1と同軸に第1のローラ171が設けられ、この第1のローラ171に、第2ローラにより第1のローラとは反対方向に引っ張られるベルト173が巻き掛けられていることにより、第2の調速機の回転体B1に所定の抵抗を付勢している。これによって、実施例1と同様の効果を得ることができる。
次に、本発明に係るエレベータ装置の実施例3を図5に基づき説明する。なお、実施例1または実施例2に示すものと同等のものには同一符号が付してある。また、実施例1、実施例2と同様な構成についての説明は省略する。
本実施例における回転阻止機構27では、実施例2における第2のローラ172に代えて、カム式ワンウェイクラッチ(カムクラッチ)273の外輪に固定される第2のローラ272を備えている。カム式ワンウェイクラッチ273の内輪が固定される軸を有する台座は枠2に固定されている。カム式ワンウェイクラッチ273は、昇降体の下降運転時、第1のローラ171、すなわち回転体B1と同じ方向に、第2のローラ272が回転するようにし、昇降体の上昇運転時、第2のローラ272が反対方向には回転しないようにしている。
従って、本実施例においては、上昇運転時には、回転体B1の回転が阻止され、実施例1や実施例2と同様な効果を奏することができる。
また、ベルト173に張力を付与する機構(図示省略)を設ければ、回転体B1に抵抗を効果的に付勢することができ、下降運転において、停止後、下降運転に移行する際に実施例1や実施例2と同様な効果を奏することができる。