以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
−内燃機関の構成−
まず、本発明を適用する内燃機関(以下、エンジンともいう)について説明する。図1は本発明を適用するエンジンの概略構成を示す図である。なお、図1にはエンジンの1気筒の構成のみを示している。
この例のエンジン1は、車両に搭載されるポート噴射式4気筒ガソリンエンジンであって、その各気筒を構成するシリンダブロック1a内には上下方向に往復動するピストン1cが設けられている。ピストン1cはコネクティングロッド16を介してクランクシャフト15に連結されており、ピストン1cの往復運動がコネクティングロッド16によってクランクシャフト15の回転へと変換される。
エンジン1のクランクシャフト15は、トルクコンバータ(またはクラッチ)等を介して変速機(図示せず)に連結されており、エンジン1からの動力を変速機を介して車両の駆動輪に伝達することができる。
変速機は、例えば、クラッチ及びブレーキ等の摩擦係合要素と遊星歯車機構とを用いて変速段(例えば、前進6段・後進1段)を設定する有段式の自動変速機であって、この変速機の各レンジ(パーキングレンジP、リバースレンジR、ニュートラルレンジN、ドライブレンジD)はシフトレバー50(図2参照)の操作によって切り替えられる。シフトレバー50のシフト操作位置(P、R,N,Dレンジ)はシフトポジションセンサ41によって検出される。なお、変速機としては、ベルト式無段変速機などの無段変速機であってもよい。
エンジン1のクランクシャフト15には、エンジン1の始動時に起動するスタータ(モータ)10が連結されており、このスタータ10を起動することによりエンジン1のクランキングを行うことができる。
また、クランクシャフト15にはシグナルロータ17が取り付けられている。シグナルロータ17の外周面には複数の歯(突起)17aが等角度(この例では、例えば10°CA(クランク過度))ごとに設けられている。また、シグナルロータ17は、歯17aの2枚分が欠落した欠歯部17bを有している。
シグナルロータ17の側方近傍には、クランク角を検出するクランクポジションセンサ31が配置されている。クランクポジションセンサ31は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際にシグナルロータ17の歯17aに対応するパルス状の信号(電圧パルス)を発生する。このクランクポジションセンサ31の出力信号からエンジン回転数Neを算出することができる。
エンジン1のシリンダブロック1aにはエンジン冷却水の水温を検出する水温センサ32が配置されている。また、シリンダブロック1aの上端にはシリンダヘッド1bが設けられており、このシリンダヘッド1bとピストン1cとの間に燃焼室1dが形成されている。エンジン1の燃焼室1dには点火プラグ3が配置されている。点火プラグ3の点火タイミングはイグナイタ4によって調整される。イグナイタ4はECU(Electronic Control Unit)200によって制御される。
エンジン1のシリンダブロック1aの下部には、潤滑油(エンジンオイル)を貯留するオイルパン18が設けられている。オイルパン18に貯留された潤滑油は、エンジン1の運転時に、異物を除去するオイルストレーナを介してオイルポンプ(図示せず)によって汲み上げられて、ピストン1c、クランクシャフト15、コネクティングロッド16などエンジン各部に供給され、その各部の潤滑・冷却等に使用される。そして、このようにして供給された潤滑油は、エンジン各部の潤滑・冷却等のために使用された後、オイルパン18に戻され、再びオイルポンプによって汲み上げられるまでオイルパン18内に貯留される。
エンジン1の燃焼室1dには吸気通路11と排気通路12とが接続されている。吸気通路11の一部は吸気ポート11a及びインテークマニホールド11bによって形成されている。吸気通路11にはサージタンク11cが設けられている。また、排気通路12の一部は排気ポート12a及びエキゾーストマニホールド12bによって形成されている。
エンジン1の吸気通路11には、吸気を濾過するエアクリーナ7、熱線式のエアフロメータ33、吸気温センサ34(エアフロメータ33に内蔵)、エンジン1の吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ5などが配置されている。
スロットルバルブ5は、サージタンク11cの上流側(吸気流れの上流側)に設けられており、スロットルモータ6によって駆動される。スロットルバルブ5の開度はスロットル開度センサ35によって検出される。スロットルバルブ5のスロットル開度はECU200によって駆動制御される。
具体的には、クランクポジションセンサ31の出力信号から算出されるエンジン回転数Neと、ドライバのアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ5のスロットル開度を制御している。目標吸気量は、一例としてエンジン回転数Neおよびアクセル開度に応じた最適な値を実験・計算等によって適合して、吸気量マップとして設定しておき、このマップを参照して決定すればよい。
より詳細には、スロットル開度センサ35を用いてスロットルバルブ5の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するように、スロットルバルブ5のスロットルモータ6をフィードバック制御している。このようなスロットルバルブ5の制御システムは、「電子スロットルシステム」と称されており、ドライバのアクセルペダルの操作とは独立してスロットル開度を制御することができる。例えば、後述するエンジン始動時の吸入空気量の増量制御を実行することが可能である。
エンジン1の排気通路12には三元触媒8が配置されている。三元触媒8においては、燃焼室1dから排気通路12に排気された排気ガス中のCO、HCの酸化及びNOxの還元が行われ、それらを無害なCO2、H2O、N2とすることで排気ガスの浄化が図られている。
三元触媒8の上流側(排気流れの上流側)の排気通路12にフロント空燃比センサ37が配置されている。フロント空燃比センサ37は、空燃比に対してリニアな特性を示すセンサである。また、三元触媒8の下流側の排気通路12にはリアO2センサ38が配置されている。リアO2センサ38は、排気ガス中の酸素濃度に応じて起電力を発生するものであり、理論空燃比に相当する電圧(比較電圧)よりも出力が高いときはリッチと判定し、逆に比較電圧よりも出力が低いときはリーンと判定する。これらフロント空燃比センサ37及びリアO2センサ38の出力信号は空燃比フィードバック制御(例えば、特開2010−007561号公報に記載の技術参照)に用いられる。
吸気通路11と燃焼室1dとの間に吸気バルブ13が設けられており、この吸気バルブ13を開閉駆動することにより、吸気通路11と燃焼室1dとが連通または遮断される。また、排気通路12と燃焼室1dとの間に排気バルブ14が設けられており、この排気バルブ14を開閉駆動することにより、排気通路12と燃焼室1dとが連通または遮断される。これら吸気バルブ13及び排気バルブ14の開閉駆動は、クランクシャフト15の回転がタイミングチェーン等を介して伝達される吸気カムシャフト21及び排気カムシャフト22の各回転によって行われる。
吸気カムシャフト21の近傍には、特定の気筒(例えば第1気筒)のピストン1cが圧縮上死点(TDC)に達したときにパルス状の信号を発生するカムポジションセンサ39が設けられている。カムポジションセンサ39は、例えば電磁ピックアップであって、吸気カムシャフト21に一体的に設けられたロータ外周面の1個の歯(図示せず)に対向するように配置されており、その吸気カムシャフト21が回転する際にパルス状の信号(電圧パルス)を出力する。なお、吸気カムシャフト21(及び排気カムシャフト22)は、クランクシャフト15の1/2の回転速度で回転するので、クランクシャフト15が2回転(720°回転)するごとにカムポジションセンサ39が1つのパルス状の信号を発生する。
そして、吸気通路11には、一例として吸気ポート11aに燃料を噴射するよう、各気筒毎にインジェクタ(燃料噴射弁)2が配置されている。これらインジェクタ2は共通のデリバリパイプ101に接続されていて、デリバリパイプ101には、後述する燃料供給系100の燃料タンク104から燃料が供給されるようになっている。インジェクタ2の駆動はECU200によって制御され、各気筒毎に所定のタイミングで燃料噴射が行われる。
こうしてインジェクタ2から吸気ポート11a内に噴射された燃料は吸入空気と混合され、吸気バルブ13の開弁に伴い各気筒内の燃焼室1dに導入される。この混合気は、気筒の圧縮行程の終盤に点火プラグ3によって点火されて燃焼・爆発する。このときに生じた高温高圧の燃焼ガスによりピストン1cが押し下げられ(膨張行程)、クランクシャフト15から駆動トルクが出力される。燃焼ガスは、排気バルブ14の開弁に伴い排気通路12に排出される。
なお、燃料供給系100は、各気筒のインジェクタ2に共通に接続されたデリバリパイプ101、このデリバリパイプ101に接続された燃料供給管102、燃料ポンプ(例えば電動ポンプ)103、及び、燃料タンク104などを備えており、以下に述べるECU200によって燃料ポンプ103の駆動が制御されることにより、燃料タンク104内に貯留の燃料を、燃料供給管102を介してデリバリパイプ101に供給することができる。そして、このような構成の燃料供給系100によって各気筒のインジェクタ2に燃料が供給される。
−ECU−
ECU200は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203及びバックアップRAM204などを備えている。
ROM202は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU201は、ROM202に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM203は、CPU201での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM204は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU201、ROM202、RAM203及びバックアップRAM204は、バス207を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース205及び出力インターフェース206と接続されている。
入力インターフェース205には、クランクポジションセンサ31、水温センサ32、エアフロメータ33、吸気温センサ34、スロットル開度センサ35、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ36、フロント空燃比センサ37、リアO2センサ38、及び、カムポジションセンサ39、及び、シフトレバー50のシフト操作位置を検出するシフトポジションセンサ41などの各種センサ類が接続されている。また、入力インターフェース205にはイグニッションスイッチ40が接続されており、イグニッションスイッチ40がオン操作されると、スタータ10によるエンジン1のクランキングが開始される。
出力インターフェース206には、インジェクタ2、点火プラグ3のイグナイタ4、スロットルバルブ5のスロットルモータ6、スタータ10、及び、燃料供給系100の燃料ポンプ103などが接続されている。
そして、ECU200は、前記した各種センサの検出信号に基づいて、インジェクタ2の駆動制御(燃料の噴射量及び噴射時期の制御)、点火プラグ3による点火時期の制御、スロットルバルブ5のスロットルモータ6の駆動制御(吸入空気量の制御)、空燃比フィードバック制御などを含むエンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU200は、下記の「エンジン始動制御」を実行する。
以上のECU200により実行されるプログラムによって、本発明の内燃機関の始動制御装置が実現される。
−エンジン始動制御−
まず、インジェクタ2を備えたエンジン1にあっては、上述したように、エンジン停止中(ソーク中)にインジェクタ2から燃料が洩れる油密洩れが生じる場合がある。このインジェクタ2の油密洩れは、前回にエンジン停止したときの運転条件や環境条件によって大きくなる。例えば、低速高負荷運転状態や登坂走行状態でのエンジン停止時で燃温・燃圧が高い場合、また、夏季等の外気温が高く燃温・燃圧が高い場合には、インジェクタ2の油密洩れが大きくなる。インジェクタ2の油密洩れが大きくなるとインテークマニホールド11b(吸気ポート11a)内のHCの濃度が高くなる。そして、そのHC濃度が高くなることにより、混合気の空燃比がリッチとなって可燃空燃比の範囲を超えた場合には、燃焼状態が悪化してエンジン1が始動不良(失火状態)になる場合がある。
そこで、本実施形態では、そのようなエンジン停止中のインジェクタ2の油密洩れを考慮して、油密洩れが大きくて始動に厳しい条件下であることが想定されるエンジン始動時に、実際に失火状態を判定すれば、各気筒毎のインジェクタ2による燃料噴射量を減量補正するとともに吸入空気量を増量することで、混合気の空燃比の適正化を図るようにしている。以下、その制御(エンジン始動制御)の例について図3のフローチャートを参照して説明する。
図3の制御ルーチンは、ECU200において実行されるもので、イグニッションスイッチ40がON操作された時点(IG−ON)で開始される(START)。そして、まずはステップST101において、水温センサ32及び吸気温センサ34の各出力信号からエンジン始動時(再始動時)の水温及び吸気温を認識し、それらエンジン再始動時の水温及び吸気温と、前回のエンジン1の停止時の水温及び吸気温とに基づいてインジェクタ2の油密洩れ想定条件が成立した否かを判定する。
この油密洩れ想定条件は、エンジン1の停止時の運転条件や環境条件を考慮し、例えば燃温・燃圧などに基づいてインジェクタ2の油密洩れが大きいと想定される条件であり、具体的には、下記の条件J1、条件J2及び条件J3の全ての条件が成立したか否かを判定する。
条件J1:前回のエンジン停止時の水温が所定の水温判定値以上で、かつ、前回のエンジン停止時の吸気温が所定の吸気温判定値以上であること
条件J2:エンジン再始動時の水温が所定の水温判定値以下で、かつ、エンジン再始動時の吸気温が所定の吸気温判定値以下であること
条件J3:前回のエンジン停止時の水温に対するエンジン再始動時の水温の低下値([前回停止時の水温]−[再始動時の水温])が、前回停止時水温ごとに設定した水温低下判定値以上であること
各条件J1〜J3について説明する。
(条件J1)
エンジン1が停止するときの水温及び吸気温が高い場合、エンジン停止中におけるインジェクタ2の油密洩れが大きくなる。この点を考慮して、前回のエンジン停止時の水温が所定の水温判定値以上で、かつ、前回のエンジン停止時の吸気温が所定の吸気温判定値以上であることを油密洩れ想定条件の1つとしている。
なお、エンジン停止時の水温判定値については、エンジン停止時の水温とエンジン1の始動性が悪化する可能性のある油密洩れ量との関係を、実験・シミュレーション等によって取得しておき、その関係に基づいて始動性が悪化する可能性のある水温(停止時水温)を求める。そして、その結果を基に適合した値(水温判定値)を設定する。また、エンジン停止時の吸気温判定値についても同様な処理により適合した値を設定する。
ここで、この条件J1において、前回エンジン停止時の水温と、前回エンジン停止時の吸気温との2つのパラメータを用いている理由について説明する。
例えば、エンジン始動後、水温が暖機温度(エンジン1の暖機が完了したとみなせる温度:例えば80℃程度)に達するまでにエンジン1が停止された場合、吸気温よりも水温が低い状態となる場合があるので、水温のみで判定を行うと、実際のインジェクタ2の温度を反映した判定とはならない。また、エンジン1の運転状態によっては、水温よりも吸気温の方が低くなる場合があって、吸気温(エアクリーナ7の近傍の吸入空気の温度)のみで判定を行うと、正確な判定が行えない場合がある。このような点を考慮して、この例では、水温及び吸気温をパラメータとして条件J1を設定している。
(条件J2)
前回のエンジン停止後から再始動時までのエンジン停止時間(ソーク時間)が長いほどインジェクタ2の油密洩れが大きくなる点を考慮して、エンジン再始動時の水温が所定の水温判定値以下で、かつ、エンジン再始動時の吸気温が所定の吸気温判定値以下であることを油密洩れ想定条件の1つとしている。すなわち、エンジン停止時の水温及び吸気温が上記判定値以上である場合、エンジン停止時間(ソーク時間)が長いほど、それに伴い再始動時の水温及び吸気温が低くなる点を利用し、それら水温及び吸気温が判定値以下であることを油密洩れ想定条件の1つとしている。
なお、エンジン再始動時の水温判定値及び吸気温判定値については、上記ソーク時間と油密洩れ量との関係等を考慮して、実験・計算等によって適合した値を設定する。また、この条件J2においても、前記した条件J1と同様な理由により、水温及び吸気温をパラメータとして条件J2を設定している。
(条件J3)
エンジン停止時の水温が例えば90℃以上でかつ油温が90℃以上である場合、潤滑油の温度(油温)による影響等により水温が低下しにくい傾向となる。この点を考慮して、水温については上記条件J2に加えて、前回のエンジン停止時の水温に対するエンジン再始動時の水温の低下値([前回のエンジン停止時の水温]−[再始動時のエンジン水温])が、停止時水温ごとに設定した水温低下判定値以上であることを条件としている。この条件J3に用いる水温低下判定値は、エンジン停止時の水温に基づいて図4のマップ(テーブル)を参照して求める。
図4のマップは、前記した油温の影響を考慮して、実験・計算等によって適合した値(水温低下判定値)をマップ化したものであって、ECU200のROM202内に記憶されている。この図4に示すマップでは、水温が90℃以上である場合は、水温が90℃よりも低い側に対して、水温低下判定値が小さい側の値となるように設定されている。
なお、図4のマップにおいて、80℃と90℃との間の水温低下判定値については一定の値(10℃)とする。また、90℃と105℃との間の水温低下判定値については補間計算により水温低下判定値を求めるようにする。
ここで、インジェクタ2の油密洩れ想定条件としては、エンジン停止中におけるインジェクタ2の油密洩れに起因する再始動時の燃焼悪化(エンジン始動不良)が想定されるものであれば、他の条件であってもよい。例えば、前回エンジン停止時とエンジン再始動時との水温差が所定値以上で、かつ、再始動時の吸気温が所定値以下であるという条件であってもよい。また、このような条件に加えて前記した条件J3を設定した条件であってもよい。
図3のフローチャートに戻って、上記ステップST101の判定結果が否定判定(NO)である場合、つまり、油密洩れ想定条件が不成立である場合はステップST110に進む。ステップST110では、通常始動時の燃料噴射量及び吸入空気量にてエンジン1を始動する(通常の始動制御)。なお、通常始動時の燃料噴射量及び吸入空気量はそれぞれ、例えば、エンジン始動時の条件(水温、吸気温及びこれまでの補正値など)に基づいて通常始動時用の噴射量マップ及び吸気量マップから算出される。
一例として図5の中段に示すように、通常始動時には第1〜第4気筒のそれぞれのインジェクタ2により所定の順番で燃料の噴射が行われる。図の例では第4気筒、第2気筒、第1気筒、第3気筒の順番に燃料噴射が行われ、基本的には各気筒毎の所定のタイミング(例えば膨張行程の終盤)にて吸気ポート11a内に燃料が噴射される。この燃料は吸入空気と混合されて混合気となり、排気行程の終盤に吸気バルブ13が開弁すると各気筒内の燃焼室1dに導入される。
また、できるだけ始動時間を短縮するために、スタータ10によるクランキングの開始直後、各気筒毎の最初の(1回目の)燃料噴射は、図5の左端に表れているように、前記とは異なるタイミングで実行される。図の例ではクランキングに伴い吸気カムシャフト21が回転し、カムポジションセンサ39が第1気筒の圧縮上死点(TDC)においてパルス信号(気筒識別信号)を発生すると、インジェクタ2による燃料の噴射が開始される。
このとき、即ち第1気筒の圧縮上死点において、最初に点火タイミング(図には仮想線で示す)を迎える気筒は第3気筒であるが、第3気筒は直ちに圧縮行程に移行してしまい燃料の供給はできない。そこで、まず、吸気行程にある第4気筒のインジェクタ2を駆動し、次に排気行程にある第2気筒のインジェクタ2を駆動して、それぞれ燃料を噴射させる。なお、噴射パルスが重なると、デリバリパイプ101の燃圧の変動によって噴射量がばらつくおそれがあるので、噴射パルスは少しだけずらしている。
そうして最初に燃料を噴射する第4気筒は吸気行程にあり、次いで燃料を噴射する第2気筒は排気行程にあって、いずれも本来の噴射タイミングよりは遅いが、噴射された燃料の一部は混合気となって気筒内に導入される。また、続く第1気筒へは概ね本来の噴射タイミングで燃料が噴射されることになり、続く第3気筒への噴射タイミングは本来のタイミングよりも早くなる。始動時は一般に燃料の気化が悪くなりやすいので、早めに噴射することは好ましい。
そのように第4気筒、第2気筒、第1気筒、第3気筒の順に行われた各気筒毎の最初の燃料噴射の後に、図5の上段に示すように各気筒毎に圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて、即ちTDC近傍の所定のタイミングで点火プラグ3により点火が行われ(各気筒毎の1回目の点火)、混合気が燃焼・爆発する(初爆)。これによりクランクシャフト15の回転が加速されて、図5の下段に仮想線のグラフで示すようにエンジン回転数が立ち上がる。
これに対し上記ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合、即ち油密洩れ想定条件が成立している場合はステップST102に進んで、まず、前記通常の始動制御(ステップST110)と同じく通常始動時用の燃料噴射量及び吸入空気量にて始動制御を開始する。そして、ステップST103では、前記のように各気筒毎に点火が行われたにもかかわらず、混合気が良好に燃焼しない失火状態であるか否か判定する。
すなわち、油密洩れが大きくなくて混合気の空燃比が可燃範囲内にあれば、前記のように各気筒それぞれの点火によって初爆が起き、エンジン回転数が立ち上がるが、油密洩れが大きくてインテークマニホールド11b(吸気ポート11a)内のHCの濃度が高くなっていると、混合気の空燃比が過度にリッチになってしまい、失火することがある。
失火が起きた場合には、図5に破線で示すようにエンジン回転数がなかなか立ち上がらないので、例えば点火から所定時間内にエンジン回転数が所定の判定値に達していなければ、失火状態にあると判定することができる。また、図示はしないが、例えばエンジン回転数の変化率dNe/dtが所定の判定値に達していなければ、失火状態にあると判定することもできる。
なお、前記したよう始動時の最初の燃料噴射は必ずしも好ましいタイミングでは行われず、1回目の点火による燃焼状態はやや不安定になりやすいので、本実施形態では、各気筒毎2回目の点火が終了した後に、クランクポジションセンサ31の出力信号から失火状態の判定を行うようにしている。しかし、失火状態を判定する好適なタイミングはそれに限定されず、少なくとも各気筒毎1回目の点火が終了した後にしてもよい。
そして、前記ステップST103で失火状態が判定されず否定判定(NO)であれば、前記ステップ110へ進んで通常の始動制御を継続する。一方、肯定判定(YES)であれば、つまり、インジェクタ2の油密洩れ想定条件が成立している場合に失火状態が判定されれば、ステップST104に進んで、スロットルバルブ5の開度(スロットル開度)を通常始動時よりも大きく設定し、吸入空気量を通常始動時よりも増量する(つまり掃気制御を実行する)。
このときのスロットル開度、つまり吸入空気量を増量補正する制御(掃気制御)を実行する際のスロットルバルブ5の開度は、吸気通路11が負圧とならない開度とすればよい。具体的には、エンジン始動時のクランキング回転数などをパラメータとして、実験・計算等によって適合した値(スロットル開度)を用いればよい。この吸入空気増量補正用のスロットル開度は一定値であってもよいし、後述するように、クランキング回転数等に応じて可変に設定するようにしてもよい。
なお、吸気通路11が負圧とならないスロットル開度とは、エンジン始動時にスロットルバルブ5を通常始動時よりも大きく開いた場合に、吸気管負圧(インマニ負圧)が生じない範囲のスロットル開度であり、例えば、そのインマニ負圧が生じないスロットル開度範囲の下限開度にマージン(開き側の値)を加えた開度のことである。このスロットル開度については、吸気管負圧(インマニ負圧)が生じない範囲で、新気量が最大(掃気効果が最大)となるような開度を設定する。
続いて、図3のフローのステップST105では、各気筒毎のインジェクタ2による燃料噴射量を通常始動時よりも減量する。この減量分は予め設定した一定量であってもよいし、可変とすることもできる。可変とする場合は、例えば水温センサ32の出力信号から得られる水温(エンジン始動時の水温)や吸気温などをパラメータとして、油密洩れの大きいときほど減量補正量が多くなるよう、実験・計算等によって適合した値をマップ化しておき、このマップを参照して減量補正量を決定すればよい。なお、減量補正後の燃料噴射量は、少なくともエンジン1の始動が可能な分量を確保する。
そうして各気筒毎の燃料噴射量を減量補正すれば、その分は混合気の空燃比がリーンになるので、油密洩れが大きい場合でも気筒内の燃焼室1aにおける空燃比のリッチ化を効果的に抑制できる。このため、点火プラグ3により点火されると失火することなく混合気が燃焼・爆発し(初爆)、図5の下段に実線のグラフで示すようにエンジン回転数が立ち上がる。そして、エンジン1のクランキングによって混合気の掃気が進み、空燃比が適正化されることと相俟って、エンジン回転数は速やかに上昇する。
その後、図3のフローチャートのステップST106では、クランクポジションセンサ31の出力信号から算出されるエンジン回転数Neが、所定の判定値Thneに到達したか否か判定し、否定判定(NO)である場合は、始動時のエンジン回転数Neがこの判定値Thneに達するまで待機する。そして、肯定判定(YES)となった時点、即ち、始動時のエンジン回転数Neが判定値Thneに達した時点でステップST107に進む。
なお、ステップST106の判定に用いる判定値Thneは、エンジン始動時のクランキング中に、HCが高濃度の混合気を十分に掃気することが可能になるエンジン回転数を実験・計算等によって取得しておき、その結果を基に適合した値(例えば、1000rpm)とすればよい。
ステップST107では、燃料噴射量の減量を終了し、インジェクタ2による燃料噴射量を通常制御の状態に戻すとともに、吸入空気量の増量も終了し、スロットルバルブ5を通常制御時の開度に制御して吸入空気量を通常制御の状態に戻す。その後、この制御ルーチンを一旦終了する(RETURN)。
以上、説明したように本実施形態では、エンジン停止中におけるインジェクタ2の油密洩れが大きくて、油密洩れ想定条件が成立している場合に、エンジン始動時に失火状態が判定されれば、インジェクタ2による燃料の噴射量が減量補正されるとともに、吸入空気量の増量によってHCが高濃度の混合気の掃気が促進される(掃気制御)。これにより、混合気の空燃比が可燃範囲内の適正な値になって、燃焼状態が改善される。
しかも、吸入空気量が増量されることで、気筒内で燃焼する混合気量は多くなり、前記の燃焼状態の改善とも相俟ってトルクアップが図られる。この結果、図5の下段に実線のグラフで示すように、燃料の減量及び空気量の増量を行わない場合(破線のグラフで示す)に比べて早期に初爆を得て、エンジン回転数を速やかに立ち上げることができる。つまり、インジェクタ2からの油密洩れが大きくても良好なエンジン始動を実現できる。
一方、失火状態が判定されなければ、油密洩れ想定条件が成立していても前記燃料の減量補正や空気量の増量補正は行われないので、仮に想定に誤りがあって油密洩れが大きくなかった場合に、前記のような補正制御に起因して混合気の空燃比が適正値よりもリーンになったり、エンジン回転数が高く吹け上がったりすることはない。つまり、油密洩れの予想に基づく補正制御に起因してエンジン1の始動性が低下したり、燃費が悪化したり、違和感を生じたりする心配はない。
なお、本実施形態において、前記のようにインジェクタ2の油密洩れ対策として燃料噴射量を減量し、かつ吸入空気量を増量する場合、その増量する吸入空気量は一定量であってよいし、可変に設定するようにしてもよい。
増量する吸入空気量を可変に設定する場合、エンジン始動時のクランキング回転数が高くなるのに伴って吸気通路の負圧(インマニ負圧)が高くなる点を考慮して、エンジン始動時のクランキング回転数が高くなるのに応じてスロットルバルブ5の開度を大きくして吸入空気量を徐々に多く(または段階的に多く)することにより、吸気通路11が負圧とならないようにしてもよい。
この場合、水温センサ32の出力信号から得られる水温(エンジン始動時の水温)及びスタータ10によるクランキング回転数(クランクポジションセンサ31の出力信号から認識)に基づいて、図6に示すマップを参照して、スロットルバルブ5のスロットル開度θを設定することで、クランキング回転数に応じて吸入空気量を徐々に多く(または段階的に多く)していくという制御を行えばよい。
一例として図6に示すマップは、水温及びクランキング回転数をパラメータとして、吸気通路11が負圧とならないスロットル開度θを実験・計算等によって適合した値をマップ化したものであって、例えばECU200のROM202内に記憶しておく。図6のマップにおいては、水温が高いほど、及び、クランキング回転数が高くなるほど、スロットル開度θが大きくなるように設定されている。
−エンジン始動制御の変形例−
次に、前記したエンジン始動制御の変形例について、図7のフローチャートを参照して説明する。この変形例では、前記の実施形態のようにエンジン始動時に吸入空気量を増量した場合に、始動完了時のエンジン回転数が通常よりも高く吹け上がってしまうおそれがあることに着目して、点火時期の遅角制御などによりエンジン1の無用な回転上昇を抑制するようにしたものである。
よって、図7のフローチャートには、燃料噴射量の減量や吸入空気量の増量をするステップは表していないが、この変形例においても燃料噴射量の減量や吸入空気量の増量は前記実施形態と同様に行われる。
また、この変形例においてもECU200は、水温センサ32及び吸気温センサ34の各出力信号に基づいて、エンジン1が停止するごとに、そのエンジン停止時の水温及び吸気温を認識しており、そのエンジン停止時の水温及び吸気温をRAM203等に順次記憶・更新する。
図7の制御ルーチンは、イグニッションスイッチ40がON操作された時点(IG−ON)で開始される。この処理ルーチンが開始されると、まずは、ステップST201においてインジェクタ2の油密洩れ想定条件が成立し、かつ失火状態が判定されているか否か判定する。このステップST201の判定処理は、前記した図3のステップST101,ST103の判定処理と同じであるので、ここでは、その詳細な説明は省略する。
ステップST201の判定結果が否定判定(NO)である場合、即ち油密洩れ想定条件が成立していないか、或いは失火状態が判定されていないかのときはステップST210に進む。一方、ステップST201の判定結果が肯定判定(YES)である場合、即ち油密洩れ想定条件が成立しており、かつ失火状態が判定されているきはステップST202に進む。
ステップST202では、クランクポジションセンサ31の出力信号から算出されるエンジン回転数Neが掃気完了回転数(前記した掃気終了の判定値Thneと同じ値:例えば、1000rpm)以上にまで上昇するか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合(エンジン回転数Neが掃気完了回転数にまで上昇しない場合)はステップST220に進む。
ステップST202の判定結果が肯定判定(YES)である場合は、エンジン始動時の燃料の減量補正及び掃気制御(吸入空気量の増量)により、エンジン回転数が速やかに上昇したと判定してステップST203に進む。
ステップST203では、エンジン始動時の掃気制御(吸入空気量の増量)を完了した後に、エンジン回転数Neの吹き上がりを抑制するために点火遅角制御を実施する。具体的には、点火時期C(例えば−10°BTDC(BTDCに対して10°[CA]遅角))を設定して、点火プラグ3(イグナイタ4)の点火時期制御(遅角制御)を行う。
次に、ステップST204において、「回転上昇終了判定時間ta(図8参照)に到達」、または、「エンジン始動後に所定時間が経過」のいずれか1つの条件が成立した否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はステップST203の遅角制御を継続する。なお、回転上昇終了判定時間taは、エンジン始動時に燃料の減量及び吸入空気量の増量を行った場合に、エンジン始動時t1(またはクランキング開始時)からエンジン回転数Neの上昇が終了するまでの時間であり、実験・計算等によって適合する。また、エンジン始動後の経過時間は、例えば、エンジン始動後にエンジン回転数が安定するまでの時間であり、実験・計算等によって適合する。
そして、上記ステップST204の判定結果が肯定判定(YES)となった時点でステップST205に進む。ステップST205では、クランクポジションセンサ31の出力信号から算出される現在のエンジン回転数Ne及びエンジン負荷率klに基づいて、予め実験・計算等によって適合されたマップを参照して点火時期を算出するとともに、上記ステップST203で遅角させた点火時期を徐々に進角させる徐変処理を行って(図8参照)、実際の点火時期を上記点火時期の算出値(通常制御値)へと変化させる。その後、この制御ルーチンを一旦終了する(RETURN)。
なお、上記負荷率klは、例えば、最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値として、エンジン回転数Ne及び吸気圧に基づきマップ等を参照して算出することができる。
一方、上記ステップST201の判定結果が否定判定(NO)である場合、つまり、インジェクタ2の油密洩れ想定条件が不成立であるか、もしくは失火状態が判定されない場合(通常始動時である場合)には、ステップST210に進む。ステップST210では、「クランクポジションセンサ31の出力信号から算出されるエンジン回転数Neが始動判定回転数(図8参照:例えば500rpm)以上」、または、「スタータ信号がOFF」のいずれか1つの条件が成立したか否かを判定する。その判定結果が否定判定である場合はステップST220に進む。ステップST220おいては、点火時期A(例えば、5°BTDC)に設定した後に、この制御ルーチンを一旦終了する。
上記ステップST210が判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST211に進む。ステップST211では、点火時期B(例えば、2°BTDC)を設定して点火プラグ3の点火時期制御(遅角制御)を行う。
次に、ステップST212において、「回転上昇終了判定時間tb(図8参照)に到達」、「エンジン始動後に所定時間が経過」、または、「Dレンジにシフト変更有」のいずれか1つの条件が成立したか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合は、ステップST211の点火時期制御を継続する。
なお、回転上昇終了判定時間tbは、通常始動時の吸入空気量で始動を行った場合に、エンジン始動時t3(またはクランキング開始時)からエンジン回転数Neの上昇が終了するまでの時間であり、実験・計算等によって適合する。また、エンジン始動後の所定時間は、例えば、エンジン始動後にエンジン回転数が安定するまでの時間であり、実験・計算等によって適合する。
そして、上記ステップST212の判定結果が肯定判定(YES)となった時点でステップST213に進む。ステップST213では、クランクポジションセンサ31の出力信号から算出される現在のエンジン回転数Ne及びエンジン負荷率klに基づいて、予め実験・計算等によって適合されたマップを参照して点火時期を算出するとともに、点火時期を徐々に進角させる徐変処理を行って(図8参照)、実際の点火時期を上記点火時期の算出値へと変化させる。その後、この制御ルーチンを一旦終了する。
次に、この変形例のエンジン始動制御について図8のタイミングチャートを参照して具体的に説明する。
まず、インジェクタ2の油密洩れ想定条件が成立しており、かつ失火状態が判定されている場合について説明する。
上述したように油密洩れ想定条件が成立している場合に、エンジン始動時に失火状態が判定されれば、インジェクタ2による燃料の噴射量が減量補正されるとともに、スロットル開度が通常始動制御時よりも大きく設定され、吸入空気量が通常始動制御時に対して増量される。この吸入空気量の増量によって、インジェクタ2からインテークマニホールド11b(吸気ポート11a)内に洩れた燃料(HC)の掃気が促進されるので、燃料噴射量の減量と相俟って混合気の空燃比が適正化される。これにより、燃焼状態が良好となってエンジン回転数が速やかに上昇するようになる。
この上昇過程において、エンジン回転数Neが始動判定回転数(例えば、500rpm)を超え(t1)、その後に掃気完了回転数(例えば、1000rpm)に到達した時点t2で、燃料噴射量の減量や吸入空気量の増量を終了する(スロットル開度を通常制御時に戻す)。さらに、点火時期を−40°BTDCとして点火時期遅角を行う。このような点火時期遅角制御により、エンジン回転数Neが掃気完了回転数に到達した後に吹き上がることを抑制することができる。
この点火時期遅角制御は前記した回転上昇終了判定時間taに達するまで継続される。そして、回転上昇終了判定時間taに達した時点で、上記t2時点で遅角した点火時期を徐々に進角させる徐変処理を行って、実際の点火時期をエンジン始動後の通常制御値(現在のエンジン回転数Ne及び負荷率klにて算出した点火時期)へと変化させる。
ここで、この例の制御にあっては、点火時期遅角制御の継続中に、例えばt4の時点でドライバのシフトレバー50の操作により、シフトレンジがNレンジからDレンジにシフトされた場合であっても、点火時期遅角制御を継続する。このようにすることで、Nレンジからのシフト変化時におけるドライバビリティの悪化や、エンジン1の回転上昇(図8において破線で示す回転上昇)を抑制することができる。
次に、インジェクタ2の油密洩れ想定条件が不成立であるか、或いは失火状態が判定されていないかの少なくとも一方の場合(通常始動制御)について説明する。
油密洩れ想定条件が不成立であるか或いは失火状態が判定されていない場合は、燃料噴射量の減量補正が行われず、また、スロットル開度は通常始動制御時の開度に設定されたまま、通常始動時の吸入空気量にて始動制御が行われる。クランキング開始後、エンジン回転数Neが始動判定回転数(例えば、500rpm)に達した時点t3で点火時期を遅角側に設定する。この状態は、前記した回転上昇終了判定時間tbに達するまで継続される。そして、エンジン回転数Neが回転上昇終了判定時間tbに達した時点で、点火時期を徐々に進角させる徐変処理を行って、実際の点火時期をエンジン始動後の通常制御時の点火時期(現在のエンジン回転数Ne及び負荷率klにて算出)へと変化させる。
なお、通常始動時においては、上記吸入空気量増量時と比較してエンジン回転数の上昇(トルクアップ)が小さいので、回転上昇終了判定時間tbに達するまでに、例えばt4のタイミングで、ドライバのシフトレバー50の操作により、シフトレンジがNレンジからDレンジにシフトされても、そのNレンジからのシフト変化時におけるドライバビリティへの影響は少なくて済む。そこで、この例では、シフト操作があった時点t4で点火時期を徐々に進角させる徐変処理を行って、実際の点火時期をエンジン始動後の通常制御時の点火時期へと変化させる(図8の破線参照)。
−他の実施形態−
上述した実施形態では、エンジン始動時に油密洩れ想定条件が成立していて、かつ失火状態が判定された場合に、燃料噴射量を減量するとともに吸入空気量を増量するようにしているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、図9のフローチャートに一例を示すように、吸入空気量の増量(掃気制御)は実行する一方で、燃料噴射量の減量補正は行わないようにしてもよい。
図示のフローにおいてステップST301〜303,310ではそれぞれ、図3に示すフローのステップST101〜103,110と同様の処理を行う。すなわち、ステップST301では油密洩れ想定条件の成立を判定し、ステップST302では通常始動時用の燃料噴射量及び吸入空気量にて始動制御を開始する。そして、ステップST303では失火状態か否か判定する。
そして、失火状態が判定されれば(YES)ステップST304に進んで、図3に示すフローのステップST104と同様に吸入空気量を増量し、ステップST305ではステップST106と同様にエンジン回転数Neが判定値に到達したか否かを判定して、この判定値に達するまでは空気量の増量を継続する一方、判定値に達すればステップST306に進んで空気量の増量を終了する。
また、上述の実施形態では、吸入空気量の増量(掃気制御)を終了する時期を、エンジン回転数が判定値にまで達した時点としているが、本発明はこれに限定されず、例えば、エンジン始動時におけるエンジン回転数の変化率dNe/dt(図5を参照)が所定の判定値(例えば、HCが高濃度の混合気を十分に掃気することが可能になる回転数上昇率)に達した時点で、吸入空気量の増量を終了するようにしてもよい。また、エンジン始動時にエンジン回転数が判定値以上になり、かつ、エンジン回転数の変化率が所定値以上になった時点で吸入空気量の増量を終了するようにしてもよい。
また、エンジン始動時に燃料噴射量を減量したり、吸入空気量を増量する補正制御を、クランクシャフト15の回転回数が所定値以上になったときに終了するようにしてもよい。この場合、クランクシャフト15が360°回転するごとに1カウントずつアップし、そのカウント値が所定値(例えば、HCが高濃度の混合気を十分に掃気することが可能になるカウント値(機関回転回数))以上になった場合に、補正制御を終了する。
また、上述の実施形態では、4気筒エンジンに本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られることなく、例えば6気筒エンジンなど、他の任意の気筒数のエンジンの始動制御にも適用可能である。また、直列多気筒エンジンのほか、V型多気筒エンジンの始動制御にも本発明を適用することができる。