以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。これらの図において、エンジン本体はシリンダヘッド1及びシリンダブロック2で構成され、複数の気筒を有し、図示の実施形態では4つの気筒3A〜3Dを有している。各気筒3A〜3Dにはピストン4が嵌挿され、ピストン4の上方に燃焼室5が形成されている。上記ピストン4はコンロッドを介してクランクシャフト6に連結されている。
各気筒3A〜3Dの燃焼室5の頂部には点火プラグ7が装備され、そのプラグ先端が燃焼室5内に臨んでいる。
さらに、燃焼室5の側方部には、燃焼室5内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁8が設けられている。この燃料噴射弁8は、図略のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ7付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁8の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁8には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒3A〜3Dの燃焼室5に対して吸気ポート9及び排気ポート10が開口し、これらのポート9,10に吸気弁11及び排気弁12が装備されている。これら吸気弁11及び排気弁12は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、後に詳述するように各気筒が所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒の吸・排気弁の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート9及び排気ポート10には吸気通路15及び排気通路16が接続されている。上記吸気ポート9に近い吸気通路15の下流側は、各気筒3A〜3Dに対応して独立した分岐吸気通路15aとされ、この各分岐吸気通路15aの上流端がそれぞれサージタンク15bに連通している。このサージタンク15bの上流側には共通吸気通路15cが設けられるとともに、この共通吸気通路15cには、スロットル弁17が設けられている。このスロットル弁17はアクチュエータ18により駆動され、当該スロットル弁17の上流側及び下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ20と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ19とが配設されている。
また、エンジンには、タイミングベルト等によりクランクシャフト6に連結されたオルタネータ(発電機)26が付設されている。このオルタネータ26は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路26aを内蔵し、このレギュレータ回路26aに入力される後述するECU30からの制御信号に基づき、車両の電気的負荷及び車載バッテリーの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、上記クランクシャフト6に対し、その回転角を検出するクランク角センサが設けられており、当実施形態では、後に詳述するように、互いに一定量だけ位相のずれたクランク角信号を出力する2つのクランク角センサ21,22が設けられている。さらにカムシャフトに対し、その特定回転位置を検出することで気筒識別信号を与えることのできるカム角センサ23が設けられている。なお、この他にもエンジンの制御に必要な検出要素として、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ24、アクセル開度(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサ25等が装備されている。
30は制御手段としてのECU(エンジンコントロールユニット)であり、上記各センサ20〜25からの信号を受け、上記燃料噴射弁8に対して燃料噴射量及び噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火装置に対して点火時期制御信号を出力し、かつ、スロットル弁17のアクチュエータ18に対してスロットル開度を制御する信号を出力し、さらにオルタネータ26のレギュレータ回路26aに対して発電量を制御する信号を出力する。すなわち、このECU30が本願発明にいう制御手段に相当する。
そして、アイドリング時において所定のエンジン停止条件が成立したときに、燃料供給停止等により自動的にエンジンを停止させるとともに、その後のエンジン再始動条件成立時に、自動的にエンジンの再始動を行わせる。このエンジン再始動時に、ピストンの停止位置が特定範囲(適正範囲)にある場合は、まずエンジン停止時の圧縮行程気筒に対して初回の燃焼を実行してピストンを押し下げ、膨張行程にある気筒のピストン上昇によって筒内圧力を高めるようにしてから、当該膨張行程気筒に対して燃料を噴射させて点火、燃焼を行わせ、かつ、上記圧縮行程気筒における初回燃焼後の燃焼室内に燃焼用空気を存在させ、その空気量に応じた燃料を初回燃焼後の適当な時期に供給することにより、当該気筒がピストン上昇に転じて圧縮上死点を越える際に当該気筒で再燃焼を行わせるように制御する。すなわち、エンジンの自動再始動時に、ピストンの停止位置が後述する適正範囲にあるときは、始動初期で一旦エンジンを逆転作動させ、その後正転作動に転じるように制御する。
なお、当実施形態では、停止時膨張行程気筒のピストンが適正範囲内にあるときは上述のように圧縮行程気筒での初回燃焼及び膨張行程気筒での燃焼を行わせる第1再始動制御モードを実行し、一方当該ピストンが適正範囲にないときは圧縮行程気筒での初回燃焼を行わずにスタータ(始動用モータ)31でアシストしつつ膨張行程気筒での燃焼及びその次の圧縮行程気筒での燃焼により始動を行う第2再始動制御モード実行するようになっている。
具体的には、第1再始動制御モードでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。従って、エンジンの自動停止時にピストンが膨張行程の途中にある上記膨張行程気筒内に充分な空気量を確保することを考慮しつつ、当該気筒の圧縮圧力を有効に高めるべく、当該ピストンをこの燃焼に適した所定の適正範囲に停止させておく必要がある。
すなわち、図3(a)、(b)に示すように、エンジンの停止時点で膨張行程気筒および圧縮行程気筒になる気筒では、それぞれ位相が180°CAずれているため、各ピストン4が互いに逆方向に作動し、膨張行程気筒のピストン4が行程中央(上死点後90°CA)よりも下死点側に位置していれば、その気筒内の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎてクランクシャフト6を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
そこで、上記所定の適正範囲Rとして、膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置をやや下死点側に超える所定範囲、例えば圧縮上死点後のクランク角が、上限が100°CAで下限が125°CA、好ましくは上限が105°CAで下限が120°CAとなる範囲内にピストンを停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランクシャフト6をすこしだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、このクランクシャフト6の逆転によって当該気筒内の圧縮圧力を高めるとともに当該気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト6を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる。なお、当実施形態では、圧縮行程気筒の燃焼エネルギーの損失を抑制する手段を講じていることから、この手段が設けられていないエンジンの始動装置と比べて、上記再始動に適するピストン位置の適正範囲が若干拡大されている。
このエンジンの自動停止時におけるピストンの停止位置制御の具体的手法は、種々あるが、ここではスロットル弁17の開度を制御することによってエンジン停止時における膨張行程気筒および圧縮行程気筒の空気による圧縮反力を調整するとともに、エンジンの自動停止過程におけるオルタネータ26の発電量を制御することによってクランクシャフト6の抵抗を通じてエンジンの回転速度を調整し、これによりピストン4の停止位置を制御する場合について説明する。
図4に示すように、エンジンの自動停止条件が成立した時点で、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態および車輪側への駆動力の伝達が可能なドライブ状態を含む複数段に切換可能な自動変速機をドライブ状態からニュートラル状態に切り換えるとともに、エンジンの目標速度を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度(以下、「通常のアイドル回転速度」という)よりも高い値、例えば通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブ状態)に設定されたエンジンでは上記目標速度を自動停止条件成立時のアイドル回転速度としての850rpm程度(自動変速機はニュートラル状態)に設定することにより、エンジンの回転速度Nで安定させる制御を実行し、エンジンの回転速度Nが目標速度で安定した時点t1で燃料噴射を停止させる。
また、エンジンを自動停止させる制御動作の初期段階である上記燃料噴射の停止時期t1で、気筒内空燃比をλ=1にしたときのアイドル時の吸気量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸入流量となるように上記スロットル弁17の開度を設定、つまり上記時点t1の直前の燃焼状態が、気筒内空燃比をλ=1ないしその付近に設定された均一燃焼であるため、スロットル弁17の開度を増大させて(例えば開度を全開時の30%程度に開いて)、エンジンの気筒3A〜3Dに吸入される吸入空気量を大きな値に設定することにより、燃焼ガスの掃気性を確保するとともに、オルタネータ26の発電量を上記自動停止条件の成立時点t0よりも低下させることにより、クランクシャフト6の回転抵抗を低減するように構成されている。
また、上記の時点t1で燃焼噴射を停止することによりエンジンの回転速度Nが低下して予め設定された基準速度、例えば760rpm程度になったことが確認された時点t2で、上記スロットル弁17を閉止してエンジンの気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量を減少させるとともに、オルタネータ26の発電量を増大させ、かつ後述するように上記スロットル弁17の開度およびオルタネータ26の発電量をエンジン回転速度Nの低下度合に対応させて調節することにより、予め行った実験結果等に基づいて設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Nを低下させる制御を実行する。
上記のようにエンジンを自動停止させる際に、燃料噴射の停止時点t1から、クランクシャフト6やフライホイール等が有する運動エネルギーが摩擦による機械的な損失や、各気筒3A〜3Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランクシャフト6は惰性で数回転し、4気筒4サイクルエンジンでは10回前後の圧縮上死点(図4ではAbt: bt=…3,2,1)を迎えた後に停止する。
具体的には、図4に示すように、上記気筒3A〜3Dが圧縮上死点を迎える度にエンジンの回転速度Nが一時的に落ち込んだ後に、圧縮上死点を超えた時点で再び上昇するというアップダウンを繰り返しながらエンジン回転速度Nが次第に低下する。
そして、最後の圧縮上死点を超えた時点t3の後に圧縮上死点を迎えようとする気筒では、慣性力によるピストン4の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン4が押し返されてクランクシャフト6が反転する。このクランクシャフト6の逆転によって膨張行程気筒の空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒のピストン4が下死点側に押し返されてクランクシャフト6が再び正転し始め、このクランクシャフト6の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン4が往復作動した後に停止することになる。このピストン4の停止位置は、上記圧縮行程気筒および膨張行程気筒における圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦等の影響を受け、上記最後の圧縮上死点を超えた時点t3のエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Nの高低によっても変化することになる。
従って、エンジンが自動停止する際に膨張行程にある気筒のピストン4を再始動に適した上記所定の適正範囲R内に停止させるためには、まず上記膨張行程気筒および圧縮行程にある圧縮行程気筒の圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒の圧縮反力が圧縮行程気筒の圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。このために、本発明では、燃料噴射の停止時点t1でスロットル弁17を開放することにより上記膨張行程気筒および圧縮行程にある圧縮行程気筒の両方に所定量の空気を吸入させた後、所定時間が経過した時点t2で上記スロットル弁17を閉止してその開度を低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ただし、実際のエンジンでは、スロットル弁17、吸気ポート9および分岐吸気通路15a等の形状に個体差があることにより、それらを流通する空気の挙動が変化するため、エンジンの自動停止期間中に各気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量にバラツキが生じ、上記のようにスロットル弁17の開閉制御を行っても、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒のピストン停止位置を適正範囲R内に納めることは困難である。
この点につき、当実施形態では、エンジンの自動停止期間中においてエンジンの回転速度が低下する過程で、図5に一例を示すように、各気筒3A〜3Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)nと、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒のピストン停止位置との間に明確な相関関係があることに着目し、燃料噴射を停止した時点t1の後にエンジンの回転速度Nが低下する過程で、各気筒のピストン4が圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度、つまり上死点回転速度nをそれぞれ検出し、この上死点回転速度nの検出値に応じてオルタネータ26の発電量を制御することにより、クランクシャフト6の回転抵抗を調整してエンジン回転速度の落ち込み度合を調節するようにしている。
すなわち、図5は、上記のようにエンジンの回転速度Nが所定速度となった時点t1で燃料噴射を停止し、その後の所定期間に亘りスロットル弁17を開状態に維持するようにして惰性により回転するエンジンの各気筒3A〜3Dに設けられたピストン4が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度nを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒のピストン位置を調べ、このピストン位置を縦軸に取るとともに、上記エンジンの上死点回転速度nを横軸に取って、両者の関係をグラフ化したものである。この作業を繰り返してエンジンの停止動作期間中における上記上死点回転速度nと、膨張行程気筒におけるピストン停止位置との相関関係を示す分布図が得られることになる。
上記の分布図から、エンジンの停止動作期間中における上死点回転速度nと膨張行程気筒におけるピストン停止位置と間に所定の相関関係が見られ、図5に示す例では、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度nがハッチングで示す範囲(適正回転速度範囲)内にあれば、ピストン4の停止位置がエンジンの再始動に適した範囲R(圧縮上死点後の100°〜125°CA)に入ることが分かる。従って、ECU30は、スロットル弁17が閉止された時点t2以降、オルタネータ26の発電量を制御することにより、所定の上死点回転速度nが適正回転速度範囲内に含まれるように制御している。
以上、エンジンの自動停止制御を図6に示すフローチャートに基づいて説明する。図6のフローチャートに示す処理は、エンジンが運転されている状態からスタートし、ECU30は、まずステップS1でアイドルストップ条件が成立したか否かを判定する。この判定は、車速、エンジン温度(エンジン冷却水の温度)等に基づいて行い、例えば車速が0の停車状態ないしは車速が10km/h以下の超低速状態が所定時間以上持続し、かつ、エンジン温度が所定範囲内にあり、さらにエンジンを停止させることに格別の不都合(例えばバッテリー残量が少ないということ)がない状況にある場合等に、アイドルストップ条件成立とする。
アイドルストップ条件が成立したときは(ステップS1でYES)、まず自動変速機をニュートラル状態に自動的に切り換えるとともに、通常のアイドル回転速度よりも高い目標速度にエンジンの回転速度を安定させ、さらにEGR通路に設けられたEGR弁(図示せず)を閉弁して排気還流を停止させる等の初期制御を実行してから、エンジンの回転速度やブースト圧等の所定の条件に基づいてエンジンの各気筒に対する燃料供給を停止し(ステップS2)、次いで一旦スロットル弁17を所定開度に開き(ステップS3)、これにより排気ガスの掃気性を確保するとともに、オルタネータ26の発電量を自動停止条件の成立時点よりも低下させ(ステップS4)、これより、クランクシャフト6の回転抵抗を低減させる。それから、エンジン回転数が所定回転数(図4の例では760rpm程度)以下となるまでこの状態を保ち(ステップS5)、所定回転数以下となればスロットル弁17を閉じ(ステップS6)、これにより各気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量を減少させる。
次いで、オルタネータ28の発電量を予め60A程度に設定された初期値に設定して所定期間(例えば約300ms程度)に亘りオルタネータ28を作動させる発電量の初期制御を実行する(ステップS7)。
続いて、ピストン4が圧縮上死点を通過する際のエンジンの回転速度である上死点回転速度nを検出し(ステップS8)、この上死点回転速度nが図5に示す所定の範囲内(適正回転速度範囲内)にあるかどうかを判定する(ステップS9)。この判定の結果、上死点回転速度nが所定の適正回転速度範囲内にない場合には、上死点回転速度nと上記適正回転速度範囲との間の回転速度の偏差に基づいてオルタネータ26の発電量を算出する(ステップS10)。このように上死点回転速度nが適正回転速度範囲内にない場合、例えば図5で回転速度が470rpmである場合には、この回転速度を挟む適正回転速度範囲(高回転側範囲と低回転側範囲)のうち近接する適正回転速度範囲(この例では低回転側範囲)に基づいて偏差を算出する。具体的には、高回転側範囲の下限値と低回転側範囲の上限値の中間値に基づいて、検出された上死点回転速度がこの中間値よりも高いか低いかを判定することによって偏差の基準となる適正回転速度範囲を決定する。そして、この発電量は、上記回転速度の偏差および現在の発電量に基づいて予め設定されたマップから読み出され、上死点回転速度nが上記基準適正回転速度範囲よりも高い場合には、オルタネータ26の発電量を増大させ、逆に低い場合にはオルタネータ26の発電量を減少ないし停止して(ステップS11)、ステップS12に移行する。
上記ステップS9で上死点回転速度nが所定の適正回転速度範囲内にある場合には、上記ステップS10およびS11をスキップして、エンジンの上死点回転速度nが所定値以下であるか否かを判定する(ステップS12)。この所定値は、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度が低下している過程で最後の上死点を超える際のエンジン回転速度に対応した値であり、例えば260rpm程度に設定されている。上記ステップS12でNOと判定された場合には、ステップS8に戻って上記制御動作を繰り返す。上記ステップS8でYESと判定されてエンジンの上死点回転速度nが上記所定値以下になったことが確認されれば、ステップS13でエンジンが停止したか否かを判定し、エンジンが停止すると、後述の図7の停止位置検出ルーチンによるピストンの停止位置の検出に基づき、上記ステップS14で上記停止位置を検出してECU30に含まれる図外の記憶手段に記憶される。
図7は停止位置検出ルーチンを示している。このルーチンがスタートすると、ECU30は、第1クランク角信号CA1(第1クランク角センサからの信号)および第2クランク角信号CA2(第2クランク角センサからの信号)を調べ、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowまたは第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する。要するに、これらの信号CA1,CA2の位相の関係が図8(a)のようになるか、それとも図8(b)のようになるかを判別することにより、エンジンの正転時か逆転時かを判別する(ステップS20)。
すなわち、エンジンの正転時には、図8(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図8(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。そこで、ステップS20の判定がYESであればエンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS21)、ステップS20の判定がNOの場合は上記CAカウンタをダウンする(ステップS22)。そして、エンジン停止時に上記CAカウンタの値を調べることで停止位置を求めるのである(ステップS23)。
一方、ECU30は、上記のようにして自動停止状態にあるエンジンについて、所定の再始動条件が成立した場合であって、膨張行程気筒のピストン4が所定の適正範囲内にある場合には、第1再始動制御モード(ダイレクトスタートモード)で当該エンジンを自動的に再始動するように制御される。
この第1再始動制御モードによるエンジンの再始動は、上記したように、まずエンジン停止時の圧縮行程気筒に対して燃料を噴射し点火することにより初回の燃焼を実行して当該圧縮行程気筒のピストンを押し下げ、このピストンの運動を該気筒のコンロッドを介してクランクシャフト6に伝達し、このクランクシャフト6の回転運動によって膨張行程気筒のコンロッドを介して当該気筒のピストンを上昇させて筒内圧力を高めてから、当該膨張行程気筒に対して燃料を噴射させて点火、燃焼を行わせ、これによりスタータモータを使用することなく、エンジンの燃焼により発生するトルクのみによってエンジンを再始動させるようにしたものである。このようにエンジンの燃焼により発生するトルクのみによってエンジンを再始動させるようにすれば、スタータモータを使用する場合に比べて、迅速にエンジンを再始動することができ、車両の発進時におけるもたつきを可及的に抑制することができる。
ところで、この第1再始動制御モードによるエンジンの再始動にあっては、エンジン停止時の圧縮行程気筒の燃焼エネルギーを利用して膨張行程気筒の筒内圧力を高めるようにしたものであるが、この圧縮行程気筒の燃焼エネルギーの全てが膨張行程気筒の筒内圧力の上昇に寄与するのではなく、圧縮行程気筒の燃焼エネルギーがクランクシャフト6の摩擦や各気筒3A〜3Dのポンプ仕事によって一部消費される。
従って、上記膨張行程気筒のピストンが適正位置に停止している場合であっても、圧縮行程気筒の燃焼エネルギーが比較的小さくなる下死点側にピストンが停止している場合には、上死点側にピストンが停止している場合に比べて始動の確実性が低下する。そこで、本願発明では、膨張行程気筒のピストンが下死点側に停止している場合に、この始動の確実性を担保するように構成されている。
この始動の確実性を担保すべく、本願発明者は、圧縮行程気筒の燃焼エネルギーの一部消費、特にエンジンの逆転作動時におけるポンプ仕事によって消費される燃焼エネルギーに着目し、この消費されるエネルギーを可及的に抑制して圧縮行程気筒の燃焼エネルギーを効率的に膨張行程気筒の筒内圧力の上昇に寄与させるようにしている。
すなわち、ECU30は、エンジンの再始動条件が成立したときであって、エンジン停止時における膨張行程気筒のピストン位置が所定の基準位置(当実施形態では115°CA)よりも下死点側にあるときは、再始動時からエンジンの正転方向作動後2回目の燃焼(エンジン停止時の吸気行程気筒における初回燃焼)前までの間において、当該膨張行程気筒のピストン位置が上記基準位置よりも上死点側にあるときと比べて上記スロットル弁17の開度を増大、例えばスロットル弁17を全開するように制御している。
ここで、エンジンの停止時には吸気通路の15の圧力が大気圧もしくはこれに近い状態となっており、従って、通常、エンジンの始動時には、過度の吹き上がりを防止するため、吸気通路15の吸気圧力が所定の負圧になるまで、スロットル弁17が全閉状態となされている。しかし、スロットル弁17が全閉状態となされているときにエンジンの逆転作動が実行されると、逆転作動に伴ってエンジン停止時の吸気行程気筒内の空気が吸気通路15に押し戻され、この吸気通路15のスロットル弁17が閉じられていることから、エンジン停止時の吸気行程気筒の排圧が大きくなり、このためポンプ仕事によって消費される燃焼エネルギーが大きくなる。しかも、エンジンの逆転作動時においては、正転作動時に比べてそもそも圧縮行程気筒の燃焼エネルギーが小さいことから過度の吹き上がりを考慮する必要性も少ない。
そこで、上記のようにエンジンの逆転作動期間を含む始動初期にスロットル弁17の開度を全開にすることにより、逆転作動期間における吸気行程気筒の排圧を小さくすることができ、これにより吸気行程気筒のピストン抵抗の軽減を通じて膨張行程気筒の圧縮圧力を効率的に高めることができる。また、このように圧縮行程気筒の燃焼エネルギーを効率的に膨張行程気筒の圧縮圧力に利用することができるため、このような手段を有しないエンジンの始動装置における上記適正範囲に対して、該適正範囲を膨張行程気筒の下死点側に拡大することができる。
一方、ECU30は、エンジンの再始動条件が成立したときであって、エンジン停止時における膨張行程気筒のピストン位置が所定の基準位置(当実施形態では115°CA)よりも上死点側にあるときは、再始動時から上記スロットル弁17の開度を全閉状態とするように制御している。
すなわち、膨張行程気筒のピストン位置が所定の基準位置よりも上死点側にあるとき、言い換えると圧縮行程気筒のピストン位置が下死点側にあるときは、圧縮行程気筒での初回燃焼による燃焼エネルギーを充分に得ることができるので、スロットル弁17を全閉状態とすることにより、エンジン停止時における吸気行程気筒のピストン抵抗を増大させて逆転量が必要以上に大きくなることを有効に防止することができ、またエンジンの逆転作動時における吸気行程気筒のピストンの上昇によりスロットル弁17の下流側の吸気通路15における圧力が増大し、この圧力を利用することによりエンジンの正転作動初期におけるピストン抵抗を低減することができ、エンジンを円滑かつ確実に始動することができる。
以上、エンジンの自動再始動制御を図9および図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
制御動作がスタートすると、エンジン自動停止時の膨張行程気筒のピストン停止位置が所定の適正範囲(当実施形態では100°〜125°CA)内にあるか否かを判定し(ステップS101)、この適正範囲内にない場合には、第1再始動制御モードでの始動が困難と判断して、第2再始動制御モードでの制御、すなわち、スタータモータ31を使用した通常の始動制御を実行し(ステップS102)、後述するステップS123に移行する。
一方、膨張行程気筒のピストン停止位置が所定の適正範囲内にある場合には(ステップS101でYES)、このピストン停止位置が所定の基準位置(当実施形態では115°CA)よりも下死点側にあるか否かを判定する(ステップS103)。当該膨張行程気筒のピストンの停止位置が115°CA以上である場合には、圧縮行程気筒の空気が不足気味であり、当該圧縮行程気筒の燃焼エネルギーの損失を抑制する観点からアクチュエータ18を駆動してスロットル弁17を全開にする(ステップS104)。
これに対して、膨張行程気筒のピストンの停止位置が115°CA未満である場合には、圧縮行程気筒に充分な空気が吸入されて燃焼エネルギーを充分に確保することができ、逆に過度の吹き上がりを防止するために、スロットル弁17を全閉状態に維持する(ステップS104をスキップする)。
そして、停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合や、バッテリー電圧が低下した場合等のエンジン再始動条件成立時(ステップS105の判定がYESのとき)には、ステップS106でピストンの停止位置に基づいて圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の空気量を算出する。つまり、上記停止位置から圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の燃焼室容積が求められ、また、エンジン停止の際には燃料カット後にエンジンが数回転してから停止するので上記膨張行程気筒も新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン停止中に圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の筒内圧は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
なお、上記ステップS101〜S104は、この再始動成立条件の判定(ステップS105)後に実行するものであっても良いが、上記各ステップS101〜S104を予め実行しておくことにより、迅速な再始動が可能となる点で有利である。
続いて、ステップS107で、算出された圧縮行程気筒の空気量に対して所定の圧縮行程気筒1回目用空燃比(A/F=11〜14)となるように燃料を噴射するとともに、ステップS108で、当該圧縮行程気筒の燃料噴射後に燃料の気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火を行う。この場合、圧縮行程気筒1回目用空燃比はピストンの停止位置に応じてマップM1から求められる。そして、圧縮行程気筒の1回目用空燃比は略理論空燃比もしくは理論空燃比よりも多少リッチな空燃比となるように、予め上記マップM1が設定されている。
次にステップS109で、点火してから一定時間内にクランク角センサ21,22のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストンが動いたか否かを判定し、失火によりピストンが動かなかった場合は圧縮行程気筒に対して再点火を繰り返し行う(ステップS110)。
クランク角センサ21,22のエッジが検出されたとき(ステップS109の判定がYESのとき)は、ステップS106で算出した膨張行程気筒の空気量に対して所定の膨張行程気筒用空燃比となるように燃料を噴射する(ステップS111)。この場合、膨張行程気筒用空燃比はそのピストンの停止位置に応じてマップM2から求められる。そして、膨張行程気筒用空燃比は圧縮行程用の1回目の空燃比と同様に、略理論空燃比もしくは理論空燃比よりも多少リッチな空燃比となるように、予め上記マップM2が設定されている。そして、エッジ検出後所定ディレイ時間が経過してから膨張行程に対して点火を行う(ステップSS112)。上記ディレイ時間はピストンの停止位置に応じてマップM3から求められる。
さらに、ステップS113で、圧縮行程気筒のピストンが上死点の近傍に近づいた所定のタイミングで圧縮行程気筒に対して再度燃料を噴射する。この燃料噴射は、圧縮行程気筒での再燃焼のためのものではなく、気化潜熱によって圧縮行程気筒における圧力を低減するために噴射するものであり、停止位置に応じてマップM4から圧縮行程気筒2回目用燃料噴射量を求めるとともに、この噴射燃料によって自着火が発生しないように噴射時期を設定する。
ここで、エンジンの停止によって空気の流れが止まり、エンジン停止時における吸気行程気筒内に吸入された新気温度も上昇する。従って、エンジンを効率的に正転させるためには、エンジンの始動後、当該吸入行程気筒が始めて圧縮行程を迎える際にその自着火を防止しつつ、効率的にエンジンを正転させるように制御することが求められ、当実施形態では次のような制御を実行している。
すなわち、図10に移って、水温センサ24によりエンジンの水温を検出するとともに図示しないタイマや温度センサに基づいてエンジンの停止時間や吸気温度等を検出し、この検出結果から推定される筒内温度と大気圧に基づいて、エンジンの停止時における吸気行程気筒の再始動後初回吸入空気の密度を推定し、この推定値に基づいて当該吸入行程気筒の吸入空気量を算出する(ステップS114)。
続いて、ステップS115において、吸気行程気筒での自着火を防止するため、先に推定された吸気行程気筒の筒内温度に基づいて当該吸気行程気筒用空燃比の補正値が求められる。この補正値は、筒内温度に基づいて予め実験等によって求められたマップM5から算出する。
そして、この空燃比の補正値と、ステップS114で算出された空気量とから当該吸気行程気筒に対して噴射する燃料の噴射量を算出するとともに(ステップS116)、エンジン停止時に温度が上昇した新気を気化潜熱によってその温度上昇を抑制して圧縮圧を低減するように、通常の噴射時期(吸気行程)よりも遅延させて圧縮行程で燃料を噴射する(ステップS117)。この燃料の具体的噴射時期は、エンジンの水温、エンジンの停止時間、および吸気温度等を考慮して設定され、例えば圧縮行程の中期ないしはそれよりも遅い時期に設定されている。
さらに、ステップS104においてスロットル弁17を全開にしている場合には(ステップS118でYES)、エンジン停止時における吸気行程気筒が圧縮上死点を超える際にアクチュエータ18を駆動してスロットル弁17を閉じて全閉状態とする(ステップS119)。
なお、ステップS118の判定は、具体的には例えばステップS104でスロットル弁17の開度を増大した場合には、フラグを立ててこのフラグの有無に判定する。
その後、停止時吸気行程気筒のピストン4が圧縮上死点を超えた直後に点火プラグ7によって点火し(ステップS120)、エンジンの始動初期で充分な慣性力がない時期において逆トルクの発生によって始動の妨げにならないようになされている。
次に、ステップS121に移行して、スロットル弁17よりも下流の分岐吸気通路15aの吸気圧力(吸気管負圧)がエンジンの通常のアイドル運転時における吸気圧力よりも高いか否かを判定し、アイドル運転時の吸気圧力よりも高い場合には、(ステップS121でYES)、各気筒3A〜3Dに吸入される空気量を確保しつつ、過度の吹き上がりを防止する観点から、アイドル運転時のスロットル弁17の開度(例えば全開時の8%の開度)よりも小さい開度(例えば全開時の4〜5%の開度)となるようにスロットル弁17を駆動し(ステップS122)、分岐吸気通路15aの吸気圧力がアイドル運転時の吸気圧力と同程度ないし低くなるまで3A〜3Dに吸入される空気量を絞る。一方、アイドル運転時における吸気圧力と同程度ないし低いと判定した場合(ステップS121でNO)には、通常のエンジン制御に移行して終了する。
なお、図9のフローチャート中のステップS101での判定がNOのときに実行される第2再始動制御モード(スタータモータ始動モード)のルーチンの詳細については図示を省略するが、通常のエンジンの始動と同様の制御が実行される。
以上のような当実施形態の装置における再始動の際の作用を説明する。
多気筒4サイクルエンジンにおいては各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなるサイクルを行うようになっており、4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒3A、2番気筒3B、3番気筒3C、4番気筒3Dと呼ぶと、図11中及び図12中に示すように、上記サイクルが1番気筒3A、3番気筒3C、4番気筒3D、2番気筒3Bの順にクランク角で180°ずつの位相差をもって行われるようになっている。
エンジン停止後に所定の再始動条件が成立したときは、自動的にエンジンを再始動する制御が行われるが、この際、ピストンの停止位置が膨張行程気筒において行程中間部付近の所定適正範囲内にある場合は、第1再始動制御モードのルーチンが実行される。図11は上記第1再始動制御モードによる場合のエンジンの各気筒の行程と始動制御開始時点からの各気筒における燃焼(図中に燃焼の順序に従って(1),(2),(3)……で示す)との関係を示すとともに、各燃焼によるエンジンの動作方向を矢印で示しており、また図12は、上記第1再始動制御モードによる場合のエンジン回転速度、1番目気筒のクランク角、所定の気筒の筒内圧及びスロットル弁17の開度の時間的変化を示している。
これらの図に示すように、上記第1再始動制御モードによる場合には、まず圧縮行程気筒(図示の例では3番気筒)において燃焼空燃比は略理論空燃比ないしはこれよりも若干リッチ空燃比とされつつ初回燃焼(図11中の(1))が行われ、この初回燃焼による燃焼圧(図12中のa部分)で圧縮行程気筒のピストンが下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動され、それに伴い、膨張行程気筒(図示の例では1番気筒)のピストンが上死点に近づくことにより当該気筒内の空気が圧縮されて筒内圧が上昇する(図12中のb部分)。そして、膨張行程気筒のピストンが上死点に充分に近づいた時点で当該気筒に対する点火が行われて、予め当該気筒に噴射されている燃料が燃焼し(図11中の(2))、その燃焼圧(図12中のc部分)でエンジンが正転方向に駆動される。さらに、上記圧縮行程気筒に対してその圧縮行程後半の適当なタイミングで燃料が噴射されることにより、圧縮行程気筒の上死点付近での圧縮圧力が低減される(図11中の(3))。その後、圧縮行程気筒のピストンがこの低減された圧縮圧力に打ち勝って圧縮上死点を超え(図12中のd部分)、続いて圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒に当該圧縮行程の後半で燃料が噴射されるとともに、当該気筒のピストンが上死点を超えた所定のタイミングで点火して(図12中のe部分)、吸気行程気筒における燃焼が行われる(図11中の(4))。その燃焼圧(図12中のf部分)でエンジンの駆動力が高められ、円滑な始動が実行される。
そして、エンジンの停止時における膨張行程気筒のピストンが所定の基準値よりも下死点側にある場合には、図12に示すように、始動時から吸気行程気筒のピストンが上死点を超える際までスロットル弁12が全開状態となされ、エンジンの逆転作動時における吸気行程気筒の排圧を小さくすることにより当該気筒のピストン抵抗を軽減し、これにより圧縮行程気筒のピストン抵抗も軽減することができる。このため、圧縮行程気筒のピストンの押し下げによるエネルギー損失を抑制して膨張行程気筒の圧縮圧力を効率的に高めることができるとともに、当該エネルギー損失の抑制により圧縮行程気筒の適正範囲を上死点側に拡大することができ(言い換えると、膨張行程気筒の適正範囲を下死点側に拡大することができ)、これによりエンジンの始動性を高めることができる。しかも、所定の基準位置を基準にピストン位置を判別するので、エンジンの経年劣化や外部環境の変化等に伴ってエンジンの逆転作動を実行し得るピストン位置の適正範囲が変化した場合であっても始動性を確実に向上することができる。
一方、エンジンの停止時における膨張行程気筒のピストンが所定の基準値よりも上死点側にある場合には、始動時から吸気通路15の吸気負圧が所定の負圧になるまで全閉状態で維持し、エンジンの逆転作動時における吸気行程気筒のピストン抵抗を増大させて逆転量が必要以上に大きくなることを有効に防止することができる。しかも、エンジンの逆転作動時における吸気行程気筒のピストンの上昇によりスロットル弁17の下流側の吸気通路15における圧力が増大し、この圧力を利用することによりエンジンの正転作動初期におけるピストン抵抗を低減することができ(図12中のe部分に相当)、エンジンを円滑かつ確実に始動することができる。
なお、以上説明したエンジンの始動装置は、本発明に係る始動装置が適用される装置の一実施形態であって、装置の具体的な構成等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、変形例を以下に説明する。
(1)上記実施形態では、第1再始動制御モードが実行される場合であって、膨張行程気筒のピストンの停止位置が所定の基準位置よりも下死点寄りの範囲にある場合は、スロットル弁17を全開にするものとなされているが、上記膨張行程気筒のピストンが所定の基準位置よりも上死点よりの範囲にある場合と比べてその開度を大きく設定すれば、このスロットル弁17の開度は特に限定するものではない。また、このスロットル弁17を開いている期間も上記実施形態のものに限定されるものではなく、例えばエンジンの逆転作動終了後にスロットル弁17を閉じるものであってもよい。
(2)上記実施形態では、第1再始動制御モードによる自動再始動時の圧縮行程気筒のピストンが最初に上死点を迎える際の燃焼はなされず、燃料だけが噴射されるものとなされているが、当該気筒でのエンジンの逆転作動のための初回燃焼を理論空燃比よりもリーン空燃比としたリーン燃焼とすることにより、上記最初に上死点を迎える際にも燃焼させることができる。また、初回燃焼後の筒内に空気を補給するようにしてもよく、この場合、吸気弁に対する動弁機構に、少なくとも吸気弁閉時期を変更可能にするバルブタイミング可変機構を設け、エンジン再燃焼時に、圧縮行程気筒の吸気弁閉時期を通常時よりも遅らせて、下死点より所定クランク角だけ圧縮行程に入り込んだ時期となるようにしてもよい。
このようにすると、圧縮行程気筒での初回燃焼により吸気弁閉時期よりも進角側までエンジンが逆転したとき、吸気弁が開かれることにより、筒内ガスの一部と新気が入れ替わり、2回目燃焼のための新気が補給されることとなる。 なお、このような作用に加え、初回燃焼後に吸気弁が開かれると筒内の圧力が低下するため、 その後の膨張行程気筒での燃焼によるエンジン正転時に圧縮行程気筒のピストンに作用する抵抗が軽減され、再始動に有利となる。
また、この圧縮行程気筒での2回目の燃焼を実行するように構成した場合、この燃焼を圧縮自己着火による燃焼となるように制御してもよい。
(3)上記実施形態の構成に加え、排気弁に対する動弁機構に、少なくとも排気弁開時期を変更可能にするバルブタイミング可変機構を設け、エンジン停止時の膨張行程にある気筒がエンジン再始動時に最初に排気行程となるときの排気弁の開時期を通常時よりも遅らせて、略下死点で排気弁が開くようにすることが好ましい。
このようにすると、膨張行程での燃焼によるエネルギーが、略下死点まで、排気通路側に逃げることなく有効に当該気筒のピストンに作用するため、始動性が高められる。
(4)図9に示す例では、エンジン再始動条件成立時に、圧縮行程気筒の初回燃焼用の燃料を噴射した後に膨張行程気筒用の燃料も噴射することにより、圧縮行程気筒の初回燃焼が失敗に終わった場合(再点火を繰り返しても成功しなかった場合)、膨張行程気筒用の燃料噴射を中止することによって無駄な燃料噴射を避けることができるようにしているが、圧縮行程気筒の初回燃焼用の燃料の噴射時期と略同時期に膨張行程用の燃料を噴射してもよい。このように、膨張行程気筒の燃料噴射時期を早めることにより、膨張行程気筒の燃料噴射から点火までに燃料の気化のための時間を稼ぐことができる。なお、圧縮行程気筒の初回燃焼が失敗に終わった場合、再始動制御モードをスタータモータ31でのモータアシストによる始動に変更すればよい。
(5)上記実施形態では、スロットル弁17を共通吸気通路15cに設けられたものについて説明しているが、このスロットル弁17の配置箇所はこれに限定されるものではなく、例えば各分岐吸気通路15aに多連型のスロットル弁を設けるものとしてもよい。
(6)本発明の装置は4気筒以外の多気筒エンジンにも適用可能である。