本発明は自動二輪車用空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、スパイラルベルト層の改良に係る自動二輪車用空気入りタイヤに関する。
高性能二輪車用タイヤでは、タイヤの回転速度が高速となるため、遠心力の影響が大きく、タイヤのトレッド部分が外側に膨張してしまい、操縦安定性能を害する場合がある。このため、タイヤのトレッド部分に、有機繊維やスチールの補強部材(スパイラル部材)を、タイヤ赤道面と概略平行となるように、巻回するタイヤ構造が開発されている。
このスパイラルベルト層に用いられるスパイラル部材としては、例えば、ナイロン繊維や、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)、スチールなどが挙げられる。中でも、芳香族ポリアミドやスチールは、高温時においても伸張せずにトレッド部分の膨張を抑制することができることから、最近、注目されつつある。かかるスパイラル部材をタイヤのクラウン部分に巻きつけた場合に、いわゆる「たが」効果(タイヤクラウン部をスパイラル部材で拘束することで、高速でタイヤが回転した場合でもタイヤが遠心力で膨らむことを防止し、高い操縦安定性能や耐久性を発揮させる効果)を高めることができるので、これらスパイラル部材の改良に係る技術が、これまでに多数提案されてきている(例えば、特許文献1〜5)。
これらスパイラル部材を巻きつけたタイヤは、高速時の操縦安定性能が優れ、トラクションが非常に高いことが知られている。しかし、車両(バイク)を大きく倒した場合の旋回性能については、スパイラル部材を巻きつけた場合でも、操縦安定性能が飛躍的に向上することはない。そのため、消費者やレースを行うライダーからは、バイクを大きく倒した時のグリップ性能の向上を要望されることもある。
特開2004−067059号公報
特開2004−067058号公報
特開2003−011614号公報
特開2002−316512号公報
特開平09−226319号公報
二輪車用の空気入りタイヤでは、二輪車が車体を傾けて旋回することから、直進時と旋回時とでは、タイヤトレッド部が地面と接する場所が異なる。すなわち、直進時にはトレッド部分の中央部分を使い、旋回時にはトレッド部分の端部を使う特徴がある。そのため、タイヤの形状が、乗用車用タイヤに比べて非常に丸い。この丸いクラウン形状(タイヤのトレッド部分の形状をクラウン形状と呼ぶ)によって、特に旋回中においては、次のような独特な特性を有する。
自動二輪車用のタイヤでは、特に車体を大きく倒した場合の旋回性能については、タイヤのトレッドの片側の端部が接地してグリップを発生させている。車体を大きく倒して旋回する場合、図6のような接地状態となる。このときの接地形状について考察すると、図示するように、接地形状のセンター寄りと、接地形状のトレッド端部寄りでは、トレッドの変形状態が異なる。トレッドのタイヤ回転方向(タイヤ赤道方向、またはタイヤ前後方向とも呼ぶ)の変形を見てみると、タイヤのセンター寄りではドライビング状態であり、タイヤのトレッド端部寄りではブレーキング状態である。
ここで、ドライビング状態とは、タイヤ赤道方向に沿って輪切りにした場合に、そのトレッドの変形が、トレッド下面(タイヤ内部の骨格部材に接している面)がタイヤ進行方向後方に剪断され、路面に接地しているトレッド表面がタイヤ進行方向前方に変形している剪断状態であり、ちょうどタイヤに駆動力をかけたときに起こる変形である。一方、ブレーキング状態はドライビング状態の逆であり、トレッドの変形は、タイヤ内部側(ベルト)が前方に剪断され、路面に接地しているトレッド表面が後方に変形している剪断状態であり、制動したときのタイヤの動きとなる。
図6のように、キャンバー角(CA)が40度のように大きな角度で傾いて旋回する場合は、タイヤに駆動力や制動力が加わっていない状態での回転でも、トレッドセンター寄りの接地領域にドライビング状態が現れ、トレッド端部寄りにブレーキング状態が現れる。これは、タイヤのベルト部の半径の差(径差)による。自動二輪車用のタイヤでは、タイヤクラウン部が大きな丸みを帯びているため、回転軸からベルトまでの距離が、トレッドセンター部と、トレッド端部で大きく異なる。図6の場合では、接地形状のセンター寄りの位置での半径R1は、接地形状のトレッド端部寄りの位置での半径R2よりも明らかに大きい。タイヤが回転する角速度は同じであるので、ベルト部の速度(タイヤが路面に接触している場合は、路面に沿ったタイヤ赤道方向の速度をいう。ベルト半径にタイヤ角速度をかけたもの)は、半径の大きいR1の部分の方が速い。タイヤのトレッド表面は、路面に接触した瞬間は、前後方向に剪断されていないが、路面に接触したままタイヤの回転に合わせて進み、路面から離れるときには前後方向の剪断変形を受けている。このとき、ベルトの速度が速いタイヤセンター寄りのトレッドはドライビング状態の剪断変形となり、タイヤのトレッド端部では、ベルトの速度が遅いのでブレーキング状態となる。これが、トレッドの前後方向の変形形態である。
このような旋回中の余計な変形によって、トレッドが前方や後方の逆の剪断変形を起こすことから、無駄な挙動を含み、旋回時のタイヤグリップ力に無駄が生じる。理想的には、接地しているトレッドの変形が全て同じ挙動であれば、グリップ力は最大になるが、先のような余計な変形が発生して、接地している場所によってはグリップ力が発生しない場合がある。例えば、タイヤが傾いたまま加速するときを考えると、タイヤに駆動力が加わるわけであるが、すでにドライビング状態にあるセンター寄りのトレッドは、駆動力がタイヤに加わるとすぐに駆動グリップを発揮する一方、すでにブレーキング状態にあるトレッド端のトレッドは、一度ブレーキング変形がニュートラルに戻り、それから駆動側の変形へとシフトするため、なかなか駆動力に寄与できない。トレッド端部をドライビング状態にするためには、大きなトラクション力が必要であり、このようなトラクション力を加えるためにアクセルを開いてタイヤに駆動力を加えると、もともとドライビング状態にあるタイヤセンター側のトレッドが滑って空転状態に陥りやすい。
このような問題に対して、もともとブレーキング側にあるタイヤショルダー部(トレッド端部)のトレッド変形を、少しでもドライビング側にしておけば、トレッド端部でもトラクション力を大きく発揮できると考えられる。このためには、トレッド端部でのベルトの速度を速めることが解決方法の1つである。ところが、ベルトの速度は先に述べたようにベルト半径によって決まっており、ベルト半径を大きくすると二輪車のタイヤとして存在できなくなる。そこで、トレッドの端部については、接地してから赤道方向にベルトが伸びやすくすることで、ベルト速度を速めることが考えられる。すなわち、大CA時の旋回において、接地形状のセンター側半分についてはベルトが赤道方向に伸びない構造とし、トレッド端側の半分についてはベルトが赤道方向に伸びるようにすれば、接地してからトレッド側のベルトが伸びることでトレッド端側のベルト速度が増し、トレッド端側のブレーキング変形を少なくすることができる。その結果、大CA時のトラクション(バイクを大きく傾けた旋回からの加速)性能が向上する。
従来の二輪車用タイヤにおいては、スパイラルベルト層をトレッドの全領域に巻き付けることが普通である。このようなタイヤであると、トレッドのショルダー部のベルトを赤道方向に延ばすことはできない。そこで、スパイラルベルト層をトレッド端部の範囲に巻かずに、センター側だけの配設することとすれば、大CA時、すなわち、大きくキャンバー角度が付く旋回時に、トレッド端部のベルト速度が増して、トラクショングリップを向上させることができる。また、大CA時にトレッドショルダー部のベルト速度が増すということは、トレッドショルダー部のベルト速度がトレッドセンター側のベルト速度に近づくことを意味し、これにより、接地しているトレッドの余計な動きが抑制される。すなわち、これまで逆方向の剪断を持っていたトレッドが、同じ方向の剪断を持つこととなり、無駄な動きが排除されて、偏摩耗の発生も抑制することができる。また、トレッドセンター部にはスパイラルベルト層が配設されているため、高速走行時(速度が速い=バイクが直立している)のタイヤの遠心力による膨張を抑制することができ、結果として、高速時の操縦安定性能を、全幅のスパイラルベルト層を持つタイヤ並みに維持することができる。
しかしながら、トレッド端部の範囲にスパイラルベルト層を巻かない場合、車体を倒していく際に急にスパイラルベルト層が無い領域が接地することは、急なグリップ変化(剛性段差の変化)の要因にもなり、ライダーがタイヤの段差を感じて車体を倒し込めなくなるという問題が発生することもある。
そこで本発明の目的は、高速時の操縦安定性能を高めると共に、特に車両(バイク)を大きく倒す深いコーナリング時から加速する時のトラクション性能と車体倒しこみ時の安定性を向上させることができる自動二輪車用空気入りタイヤを提供することにある。
上記観点から、本発明者はさらに検討した結果、スパイラルベルト層を巻かない部分に、ここでのベルト伸びを阻害しないような補強部材を配置することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の自動二輪車用空気入りタイヤは、環状に形成されたトレッド部を備える自動二輪車用空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のクラウン部タイヤ半径方向内側に、タイヤ赤道方向に対する角度が0度〜5度であって配設幅がトレッド幅の0.5〜0.8倍であるスパイラルベルト層が、該スパイラルベルト層の幅方向中心とタイヤ赤道とが一致するように配設され、かつ、トレッド部のスパイラルベルト層が配設されていない部分の幅をWとしたとき、当該スパイラルベルト層が配設されていない部分にショルダ部補強ベルト層が配設幅0.5〜2.0Wにて前記スパイラルベルト層に隣接して配設されており、
前記ショルダ部補強ベルト層が1層で、かつ、補強部材が有機繊維コードであり、該ショルダ部補強ベルト層の角度が、タイヤ赤道方向に対して10度以上90度以下であり、
前記ショルダ部補強ベルト層の角度が90度未満の場合、該ショルダ部補強ベルト層がタイヤ赤道に対して線対称に配設されており、かつ、
前記スパイラルベルト層に隣接して、該スパイラルベルト層よりも広幅であって、かつ、タイヤ赤道方向に対する角度が30度以上85度未満である有機繊維からなるベルト交錯層が配設されていることを特徴とするものである。
本発明においては、前記スパイラルベルト層の配設幅はトレッド幅の0.71〜0.8倍であることが好ましく、また、前記トレッド層と前記スパイラルベルト層の間に、該トレッド層に接して、タイヤ赤道方向に対する角度が85度〜90度である有機繊維コードからなるベルト補強層が、トレッド幅の90%以上110%以下の幅で配設されていることが好ましく、さらに、前記ベルト補強層のタイヤ半径方向内側に、該ベルト補強層に隣接して、厚み0.3〜1.5mmの緩衝ゴムが配設されていることが好ましい。
本発明によれば、上記構成としたことにより、高速時の操縦安定性能を高めると共に、特に車両(バイク)を大きく倒す深いコーナリング時から加速する時のトラクション性能と車体倒しこみ時の安定性を向上させることができる自動二輪車用空気入りタイヤを提供することが可能となる。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一好適例の自動二輪車用空気入りタイヤの幅方向断面図を示す。図示するように、本発明の自動二輪車用空気入りタイヤは、環状に形成されたトレッド部11と、その両側からタイヤ半径方向内側に配設された一対のサイドウォール部12と、サイドウォール部12のタイヤ半径方向内側に連なるビード部13とからなり、ビード部13にそれぞれ埋設された一対のビードコア(図示する例ではビードワイヤ1からなる)間にわたり延在してこれら各部を補強する、少なくとも1枚、図示例では2枚のカーカス2を備えている。
本発明のタイヤにおいては、図示するように、トレッド部11のクラウン部タイヤ半径方向内側に、タイヤ赤道方向に対する角度が0度〜5度であって、配設幅がトレッド幅の0.5〜0.8倍であるスパイラルベルト層3が配置されている。ここで、トレッド幅とは、片側のトレッド端からタイヤの表面に沿って逆側のトレッド端までの曲線表面の距離である。この幅の設定の根拠は、バイクが最も大きく倒れるCA50度付近での接地部分、および、バイクをやや起こした位置での接地部分に基づくものである。
CA50度の旋回時には、トレッド全幅の0.2〜0.25倍の幅のトレッドショルダー部の部分のみが接地している(図6参照)。これは、全体の幅の約1/4である。前述のように、大CA時のトレッドセンター部には、スパイラルベルトを巻いて骨格部材が接地範囲で赤道方向に伸びることを防止し、逆に、トレッド端部側ではスパイラルベルトを巻かずに骨格部材を赤道方向に積極的に伸ばすことが求められている。大CA時の接地部の半分は、トレッド幅の0.1倍幅であり、この幅にスパイラルベルトを巻かない場合、両端部の0.1倍幅の部分にはスパイラルベルトが存在しないので、スパイラルベルト層幅はトレッド幅の0.8倍幅となる。
上記の上限は、バイクが最も倒れたときの接地時についての理想的な値である。しかし、バイクが加速する時には、最も倒れた時から加速を始めて徐々に車体を起こす、すなわち、タイヤの接地部分が徐々にセンターよりに移動していく特徴がある。また、バイクが最も加速するのは、バイクが最も倒れたCA50度のときよりも、CA30〜45度の範囲である。このときにトラクション性能を最大にすることを考えると、上記0.8倍幅よりもスパイラルベルト幅は狭いほうが好ましい。そこで、0.5倍をスパイラルベルト幅の下限とした。スパイラルベルト層幅がトレッド幅の0.5倍の場合には、CA30〜40度での接地部分の幅方向中心にスパイラルベルト層端部が位置することになる。スパイラルベルト層幅を0.5倍未満としてしまうと、CA30〜40度の接地形状の幅方向中心から位置がずれてしまい、好ましくない。つまり、スパイラルベルト層が狭すぎることになる。
以上のことから、スパイラルベルト層3の配設幅が、上限であるトレッド幅の0.8倍幅では、バイクが最も倒れるCA50度付近の接地形状の中心にスパイラベルト層端部を位置させることができ、加速初期においてグリップ向上効果が高くなる。また、バイクを大きく倒す低速コーナー(低速コーナーではバイクを大きく倒すことが可能)で効果が高い。一方、スパイラルベルト層3の配設幅が、下限であるトレッド幅の0.5倍幅では、バイクがやや起き上がったところでの接地形状の中心にスパイラルベルト層端部を配置することができ(CA30〜40度)、加速開始から、車体をやや起こした加速中期にグリップ向上効果を発揮することができる。また、バイクをあまり大きく倒さない高速コーナーでのグリップ増大効果を発揮する。なお、本発明においてはスパイラルベルト層の幅方向中心とタイヤ赤道とが一致するように配置する。このことにより、車体倒しこみ時の左右での補強方向を合わせることができる。
スパイラルベルト層3を構成するコードは、有機繊維のコードでも、スチールのコードでも良い。有機繊維のコードの場合は、例えば芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)やナイロンや芳香族ポリケトンなどの撚りコードを使用できる。スチールコードの場合は、例えば線径0.2mmのスチール単線を5本撚ったものや、線径0.4mmのスチールの単線を撚らずにそのまま使うことができる。
また、本発明においては、トレッド端側のスパイラルベルト層3が配置されていない部分に、少なくとも一層のショルダ部補強ベルト層4がスパイラルベルト層3に隣接して配置されている。本構成のように、スパイラルベルト層3を狭くした場合、スパイラルベルト層3がトレッド全幅に有する場合に比べると、車体を倒していく際に急にスパイラルベルト層3が存在しない(ベルト面内剪断剛性が低下する)領域が接地することになる。それゆえ、ここでは車体を倒し終わる際の急なグリップの変化が発生することになり、ライダーがタイヤの段差を感じて車体を倒し込めなくなるという問題が発生する。この急激な剛性段差を緩和するため、スパイラルベルト層3が存在しない部分にショルダ部補強ベルト層4をスパイラルベルト層3に隣接して配置する。本構成を用いることでグリップの変化がなだらかになるため、ライダーは違和感なく車体を倒し込むことが可能となる。また剛性段差を緩和することで、スパイラルベルト層端部に加わる剪断歪も緩和することができるため、端部に発生しやすい亀裂故障も防ぐことが可能となる。
さらに本発明においては、ショルダ部補強ベルト層4は、剛性段差を緩和することを目的として配置しているため、あまりに狭い幅では効果が得られない。そこで、トレッド部におけるスパイラルベルト層3が配置されていない部分の幅をWとしたとき、ショルダ部補強ベルト層4幅は0.5W以上とする必要がある。0.5Wは、効果が得られる下限値である。また上限値については、1.0W以上となるとタイヤサイド部に配置されてしまい、効果は小さくなるが、小さくとも効果は得られるため、実施例の結果から配置幅2.0Wを上限値とした。好適には0.6W〜1.2Wの範囲である。
本発明においては、ショルダ部補強ベルト層4が1層で、かつ、補強部材が有機繊維コードであり、ショルダ部補強ベルト層4の角度が、タイヤ赤道方向に対して10度以上90度以下であることが好ましい。車体倒し込み時に感じる剛性段差は、スパイラルベルト層3が無くなることにより生じる。スパイラルベルト層3が無くなることで失う面内剪断剛性を補うには、角度付の有機繊維のショルダ層補強ベルト層1枚でも十分に効果を得ることができる。また、赤道方向に対してほとんど剛性を持たない90度のベルトであっても、ベルト一層分厚みが増すことで剛性を補う効果を得ることができる。一方、スパイラルベルト層3に角度が近づくにつれ、面内剪断剛性を補う効果は大きくなるが、10度以下ではほぼスパイラルベルト層3と同じ機能となってしまう。そのため、ショルダ部補強ベルト層4の角度の下限値は、ショルダ領域の伸びを大幅に阻害しない10度とした。なお、ショルダ部補強ベルト層4の角度がタイヤ赤道方向に対して90度未満の場合、車体倒しこみ時の左右での補強方向を合わせるため、ショルダ部補強ベルト層4をタイヤ赤道に対して、線対称に配置することが好ましい。
また、本発明においては、ショルダ部補強ベルト層4が1層で、かつ、補強部材がスチールコードであり、ショルダ部補強ベルト層4の角度が、タイヤ赤道方向に対して45度以上90度以下であることも好ましい。前述のように、面内剪断剛性を補うには角度付の有機繊維のショルダ部補強ベルト層1枚での十分に効果を得ることができるが、補強部材がスチールコードであれば、さらに、その効果を良好に得ることができる。補強部材がスチールコードであれば、赤道方向に対してほとんど剛性を持たない90度のショルダ部補強ベルト層4でも、接地して平たくなる際の剛性が高いため、剛性補強の効果は非常に大きい。一方、スパイラルベルト層3に角度が近づくにつれ、面内剪断剛性を補う効果な大きくなるが、スチールは有機繊維よりも非常に面内・面外ともに剛性が高いため、45度以下では骨格部材が面外に曲がりにくくなり、接地面積低下のネガが発生してしまう。したがって、スチール補強ベルトの角度の下限値は45度である。なお、有機繊維のショルダ部補強ベルト層4と同様に、ショルダ部補強ベルト層4の角度がタイヤ赤道方向に対して90度未満の場合、車体倒しこみ時の左右での補強方向を合わせるため、ショルダ部補強ベルト層4をタイヤ赤道に対して、線対称に配置することが好ましい。
さらに本発明においては、ショルダ部補強ベルト層4が複数の層で、かつ、補強部材が有機繊維コードであり、ショルダ部補強ベルト層4の交錯角度が、赤道方向に対して45度〜90度で配置されていることも好ましい。前述のように、面内剪断剛性を補うには角度付の有機繊維のベルト1枚でも十分効果があるが、複数枚の交錯ベルトあれば、本発明の効果を良好に得ることができる。赤道方向に対してほとんど剛性を持たない90度のショルダ部補強ベルト層を用いた場合でも、ベルト複数層分厚みが増すことで剛性を補う効果がある。そこで、ショルダ部補強ベルト層角度の上限値を90度としている。一方、スパイラルベルト層3に角度が近づくにつれ、面内剪断剛性を補う効果は大きくなるが、45度以下では、ほぼスパイラルベルト層3と機能が近づき、タイヤ赤道方向にベルトが伸びにくくなる。したがって、ショルダ部補強ベルト層4の交錯角度の下限値は、ショルダ領域の伸びを大幅に阻害しない45度である。
図2に、本発明の他の好適例の自動二輪車用空気入りタイヤを示す。本発明においては、図示するように、スパイラルベルト層3に隣接して、スパイラルベルト層よりも広幅であって、かつ、タイヤ赤道方向に対する角度が30度以上85度未満である有機繊維からなるベルト交錯層5が配設されていることが好ましい。これは、スパイラルベルトが巻かれていない左右両端部のショルダー部について、ここにベルト交錯層が存在しないと、ベルトの剪断剛性が低下してしまい、ベルトが弱すぎて旋回時のグリップ力が低下するからである。
トレッドショルダー部に配置するベルト交錯層5の赤道方向に対する角度が30度未満になると、これは、すなわち、スパイラルベルト層3の角度に近づく方向であり、タイヤ赤道方向にベルトが伸びにくい特性を持ってくる。こうなると、ショルダー部のベルトを設置領域で赤道方向に延ばすという本発明の趣旨に反することになる。したがって、ベルトが30度未満になると、ショルダー部で骨格部材が赤道方向に伸びにくくなり、ショルダー部のベルト速度が増さずに、ショルダー部のトレッドがブレーキング変形のままとなり、トラクショングリップを得ることができない。一方、ショルダー部のベルトが85度以上となると、ベルト交錯層として十分に交錯効果(互いに逆方向のベルトを重ね合わせることによって、ベルトの面内剪断剛性を高める効果)を得られずに、ショルダー部のベルトの面内剛性が不足して、十分な旋回グリップを得られない。なお、角度については、好ましくは45度以上が、骨格部材が赤道方向に伸びやすいためよい。また、剪断剛性を発揮する上でも、好ましくは80度以下が良い。したがって、好ましくは45度以上80度以下である。
ベルト交錯層5の材質には、有機繊維コードを用いる。スチールコードのようにコードの圧縮方向にも剛性を持つコードをとして配置すると、骨格部材が面外に曲がりにくい特性を持ち、接地面積が小さくなってグリップ力が低下するからである。有機繊維コードであれば、コード方向の圧縮については大きな剛性を持たずに、骨格部材の面外剛性を低下させて接地面積を大きくすることができ、かつ、コードの引張り方向には非常に強い剛性を持つため、効果的に剪断剛性を高めることができるからである。なお、本発明においては、このベルト交錯層5は、図2に示すようにスパイラルベルト層3のタイヤ半径方向外側に配置してもよいし、スパイラルベルト層3の半径方向内側に配置してもよく(図示せず)、スパイラルベルト層3に隣接して配置するものであれば、その配置順に特に制限は無い。
また、本発明においては、図1に示すように、トレッド部11のトレッド層とスパイラルベルト層3との間に、トレッド層に隣接して、タイヤ赤道方向に対する角度が85度〜90度である有機繊維コードからなるベルト補強層6を配置することも好ましい。トレッド部で、スパイラルベルト層3が存在する部分とスパイラルベルト層3が存在しない部分では、その両者の境界での剛性段差は大きい。その段差を緩和させるため、トレッド層に隣接して、すなわち、最外層に配置するベルトとして、タイヤセンターからタイヤショルダーまで連続してベルト補強層を配置することで、この段差を感じにくくすることができる。
ベルト補強層6の角度をタイヤ赤道方向に対して90度としているのは、幅方向に沿ってコードを配置することで、段差を最も効果的に感じさせないようにできるからである。ここで、角度を85度〜90度のように幅を持たせたのは製造上の誤差を含むからである。また、ベルト補強層6の配設幅については、トレッド全幅の90%以上110%以下とした。ベルト補強層6の目的は、段差を感じさせなくすること、すなわち、スパイラルベルトの端部を部材で覆って、最外層のベルトが分断されないようにしている点にある。そのため、配設幅を広くして、トレッドの全領域を覆う配置とすることが好ましい。配設幅をトレッド全幅の90%以上とすれば、十分にスパイラルベルトの段差を覆うことができる。なお、上限については、トレッド幅を超えてサイドウォール部に達してもかまわない。しかし、110%を超えると、タイヤのサイドウォール部にも90度のベルトが存在することになり、サイドウォールがたわみにくくなり、タイヤに硬さが生じる(すなわち、タイヤがたわみにくくなり、乗り心地性能が悪化する)おそれがある。それゆえ、上限を110%とした。
このベルト補強層6の材質を有機繊維とするのは、自動二輪車用のタイヤは断面が非常に丸いため、タイヤ幅方向にコードの圧縮側に剛性を持つスチールを用いると、タイヤがたわみにくくなり、接地面積が減少するからである。有機繊維は、コードの圧縮側には剛性が低く、接地面積を減少させるおそれがない。
なお、ベルト補強層6を設ける理由がスパイラルベルトの端部の段差を解消することにあるため、コードの直径が細すぎては効果が得られない。一方、コードの直径が太すぎると、有機繊維とはいえコードの圧縮側に剛性を持つため、あまりに太すぎるコードも好ましくない。したがって、ベルト補強層6のコードの直径については、0.5mm以上1.2mm以下が好ましい。
ここで、前述したように、ベルト交錯層5はスパイラルベルト層3の内側に設けても外側に設けてもよいので、これらとベルト補強層6との配置順としては、ベルト交錯層5がスパイラルベルト層3よりもタイヤ半径方向内側に存在する場合には、スパイラルベルト層3のすぐタイヤ半径方向外側にベルト補強層6が配置される(図3参照)。一方、ベルト交錯層5がスパイラルベルト層3よりもタイヤ半径方向外側に存在する場合には、2枚のベルト交錯層5のうち外側ベルトのすぐタイヤ半径方向外側にベルト補強層6を配置する(図示せず)。いずれの場合も、ベルト補強層6を、トレッド部11のすぐタイヤ半径方向内側に、トレッド部11に隣接して配置することが必要である。
図4に、本発明のさらに他の好適例に係る自動二輪車用空気入りタイヤの断面図を示す。本発明において、ベルト補強層6を配置する場合には、図示するように、ベルト補強層6のタイヤ半径方向内側に、ベルト補強層6に隣接して、厚み0.3〜1.5mmの緩衝ゴム層7を配置することも好ましい。この緩衝ゴム層7は、ショルダー部のトレッドの摩耗を抑制する効果がある。
図6にタイヤがCA50度で旋回する時のトレッド幅方向の挙動を示したが、その一方、トレッドの赤道方向の変形も、トレッドが路面に接触している領域において、図6のトレッド端部の領域とトレッドセンター部の領域とで異なっている。これは、接地形状のセンター寄りの領域と、接地形状のトレッド端部寄りの領域とで、ベルトの速度が異なるからである。二輪車のタイヤは、幅方向断面において、大きな丸みを持っている。そのため、回転軸からベルトまでの距離であるベルト半径が、トレッドセンター寄りの領域の方が大きい。したがって、ベルトの速度、すなわち、トレッドが路面に接触してから、タイヤの回転が進み、トレッドが路面から離れるまでのベルト速度が、トレッドセンター寄りの領域の方が速くなる。ベルト半径にタイヤの回転角速度をかけたものがベルトの速度になるからである。このベルトの赤道方向の速度差により、タイヤのセンター寄りではトレッドがドライビング状態であり、タイヤのトレッド端部寄り領域ではブレーキング状態である(前述)。
本発明においては、スパイラルベルト層の幅を狭めることで、スパイラルベルト層が配設されていない部分のベルトが赤道方向に接地にともなって伸びて、ベルト速度が向上し、これらのトレッドの余計な変形が緩和されることは前述した。しかし、スパイラルベルトの幅を狭くして緩和するといっても、完全に余計な変形がなくなるわけではない。
ベルト補強層6のタイヤ半径方向内側に緩衝ゴム層7を設けると、緩衝ゴム層7が赤道方向に剪断変形するため、上記のドライビング変形およびブレーキング変形をトレッドの肩代わりして、トレッドの赤道方向の変形がさらに緩和される。一方で、緩衝ゴム層7はその上面にタイヤ幅方向に沿うベルト補強層6を持つため、タイヤ幅方向には剪断変形されにくい。そのため、タイヤ幅方向に対してはトレッドの変形を肩代わりせず、トレッドの横剪断変形は緩衝ゴム層7を配置しても大きいままである。すなわち、緩衝ゴム層7はタイヤ赤道方向のみの変形を肩代わりし、トレッド赤道方向変形を小さくしてグリップ力を更に向上させるとともに、その一方で、タイヤ幅方向の変形は肩代わりせずにトレッドの横変形は大きいまま維持し、横力を高く保てる効果がある。本発明のように、スパイラルベルト層幅を狭くするとともに、このような緩衝ゴム層7を設けると、更にトレッドのタイヤ赤道方向の無駄の変形が抑制されるため、大きな効果となって、非常に好ましい。ベルト補強層6および緩衝ゴム層7は、特には、トレッド幅の90%以上(特には、110%以下)の範囲で、幅広く配置することが好ましい。
本発明のタイヤにおいては、スパイラルベルト層およびショルダ部補強ベルト層に係る上記条件を満足する点のみが重要であり、これにより本発明の所期の効果を得ることができ、それ以外のタイヤ構造や材質等の条件については、特に制限されるものではない。
例えば、本発明のタイヤの骨格をなすカーカス2は、比較的高弾性のテキスタイルコードを互いに平行に配列してなるカーカスプライの少なくとも1枚からなる。カーカスプライの枚数は、1枚でも2枚でもよく、3枚以上でもかまわない。また、カーカス2の両端部は、図1等に示すように両側からビードワイヤ1で挟み込んで係止しても、ビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止しても(図示せず)、いずれの固定方法を用いてもよい。また、タイヤの最内層にはインナーライナーが配置され(図示せず)、トレッド部11の表面には、適宜トレッドパターンが形成されている(図示せず)。本発明は、ラジアルタイヤに限らず、バイアスタイヤにも適用可能である。
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。
(参考例1)
図1に示すような断面構造を有する自動二輪車用空気入りタイヤを、下記条件に従い、タイヤサイズは190/50ZR17にて作製した。供試タイヤは、一対のビードコア間にトロイド状に跨って延在するカーカスプライ(ボディプライ)の2枚からなるカーカスを備えている。ここで、カーカスプライには、ナイロン繊維を用いた。2枚のカーカスの角度は、ラジアル方向(赤道方向に対する角度が90度)とした。また、カーカスプライの端部は、図示するように、ビード部において、両側からビードワイヤで挟みこんで係止した。
カーカスのタイヤ半径方向外側には、スパイラルベルト層を配置した。スパイラルベルト層は、直径0.18mmのスチール単線を1×5タイプで撚ったスチールコードを赤道方向に螺旋巻きする、いわゆるスパイラル状に形成した。スパイラルベルト層は1本の並列したコードを被覆ゴム中に埋設した帯状体を、略タイヤ赤道方向に沿って螺旋状にタイヤ回転軸方向に巻きつける手法で、スパイラルベルト層の打ち込み50本/50mmで形成した。なお、スパイラルベルト層の総幅は、170mmであり、トレッド全幅240mmの0.71倍に相当する。
また、トレッド両端部のスパイラルベルト層が配置されていない部分には、赤道方向に対する角度が45度で、35mm幅の芳香族ポリアミド繊維(ケブラー)からなるショルダ部補強ベルト層が1枚配置した。スパイラルベルト層のタイヤ半径方向外側には、赤道方向に対する角度が90度の芳香族ポリアミド繊維からなるベルト補強層を配置した。芳香族ポリアミド繊維を撚って直径0.7mmのコードとしてこれを打ち込み50本/50mmで、赤道方向に対して90度に配置した。幅はトレッド幅と同じである。
このベルト補強層のタイヤ半径方向外側に、厚さ7mmのトレッド層を配置した。
(参考例2)
スパイラルベルト幅を120mm(トレッド全幅の0.5倍)とした以外は、参考例1と同様に参考例2のタイヤを作製した。
(実施例1)
図2に示すような断面構造を有する自動二輪車用空気入りタイヤを、下記条件に従い作製した。カーカスプライは1枚とし、ラジアル方向に配置した(赤道方向に対する角度が90度)。また、カーカスプライの半径方向外側に、スパイラルベルト層が存在する。スパイラルベルト層の材質および打ち込みは、参考例1と同じである。スパイラルベルト層の半径方向外側にベルト交錯層(表1,2中では「交錯層」と略記する)を2枚配置した。ベルト交錯層は、芳香族ポリアミドを撚った直径0.5mmのコードとし、これを打ち込み50本/50mmで配置することにより形成した。ベルト交錯層の角度は赤道方向に対して60度であり、互いに交錯している。ベルト交錯層の幅は1枚目(内側)が250mmであり、2枚目(外側)が230mmであった。ベルト交錯層の半径方向外側には、赤道方向に対して90度のベルト補強層は設けていない。なお、それ以外は参考例1と同様にして、実施例1のタイヤを作製した。
(実施例2)
図3に示すような断面構造を有する自動二輪車用空気入りタイヤを、下記条件に従い作製した。カーカスプライは1枚とし、ラジアル方向に配置した。また、スパイラルベルト層のタイヤ半径方向内側には、実施例3と同様のベルト交錯層を2枚配置した。したがってこの場合は、カーカスのすぐタイヤ半径方向外側にベルト交錯層が存在し、ベルト交錯層のタイヤ半径方向外側に、スパイラルベルト層が存在する。スパイラルベルト層の構成は実施例1と同じである。このスパイラルベルト層のタイヤ半径方向外側に、タイヤ赤道方向に対する角度が90度のベルト補強層が存在する。最外層のベルト補強層は、参考例1と同じ構成である。最外層のベルト補強層のタイヤ半径方向外側にトレッドが存在する。
(実施例3)
実施例2のスパイラルベルト層の半径方向外側のベルト補強層を取り除いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例3のタイヤを作製した。
(実施例4)
図4に示すような断面構造を有する自動二輪車用空気入りタイヤを、下記条件に従い作製した。最外層のベルト補強層のタイヤ半径方向内側に、厚み0.6mmのゴム層を配置したものである。ゴム層の材質は、ベルト補強層に用いたコーティングゴムと同じである。ゴム層の幅もベルト補強層の幅240mmと同じである。それ以外は、実施例2と同様にして実施例4のタイヤを作製した。
(実施例5〜9、参考例3〜6)
実施例5〜9、参考例3〜6は、実施例2と同様の構成であり、ショルダ部補強ベルト層の種類のみを下記表1、2の示すとおりに変更したものである。
(従来例1)
図5に示すような断面構造を有する自動二輪車用空気入りタイヤを、下記条件に従い作製した。カーカスプライは1枚とし、ラジアル方向に配置した。カーカスのタイヤ半径方向外側にベルト交錯層を配置した。なお、ベルト交錯層の材質は実施例1と同様である。ベルト交錯層のタイヤ半径方向外側に、スパイラルベルト層が1層配置されている。スパイラルベルトはスチールベルトであり、打ち込みは50本/50mmである。
(従来例2)
従来例1から交錯ベルトを取り除いた構成である。また、カーカスプライは2枚とし、ラジアル方向に配置した。
(比較例1)
ショルダ部補強ベルト層がない以外は、実施例2と同様にして比較例1のタイヤを作製した。
(比較例2)
スパイラルベルト層幅が100mmであること以外は、比較例1と同様にして比較例2のタイヤを作製した。
(比較例3)
ショルダ部補強ベルト層の配設幅Wが0.49Wであること以外は、実施例2と同様にして、比較例3のタイヤを作製した。
(参考例7)
ショルダ部補強ベルト(有機繊維コード)の角度が0度であること以外は、実施例2と同様にして、参考例7のタイヤを作製した。
(参考例8)
ショルダ部補強ベルト(スチールコード)の角度が30度であること以外は、実施例2と同様にして、参考例8のタイヤを作製した。
(参考例9)
ショルダ部補強ベルト(有機繊維)の交錯角度が30度であること以外は、実施例2と同様にして、参考例9のタイヤを作製した。
得られた各供試タイヤについて、下記の規定の試験を実施した。なお、表1、2に実施例1〜9、参考例1〜9、比較例1〜3、従来例1、2のタイヤの構造をまとめて示す。なお、ショルダ部の補強ベルトの欄のハの字、逆ハの字とは、ショルダ部の補強ベルトの角度がタイヤ回転方向に対して、ハの字または逆ハの字のいずれで配置されているかを表している。
<ドラム試験>
まず、本発明の主目的である、車体を傾けたときのトラクションが向上しているかどうかを、ドラムを用いて測定した。ドラムを用いたトラクションの測定方法は次のとおりである。
試験機としては、直径3mのドラムに、紙やすりを貼り付けて、紙やすりの表面を路面に見立てた。このドラムを時速80kmで転動させ、その上に、タイヤをCA35度およびCA50度で押し付けた。各供試タイヤには内圧240kPaを充填させ、荷重150kgfで押し付けた。タイヤには、回転軸に動力を伝えるチェーンが掛かっており、駆動力を掛けられる。駆動力はモーターを用いて加えた。タイヤを80km/hで回転させておき、駆動力を加えてタイヤを120km/hまで、3秒の時間で線形に加速させた。このとき、ドラムは80km/hで転動しているため、タイヤに駆動力が掛かった状態となり、車体が傾けた状態でのトラクションを測定できる。
タイヤ回転軸に平行な方向(すなわちタイヤ幅方向)に働く力と、タイヤ回転軸に垂直な方向に働く力とを、タイヤのホイル中心に設置した力センサーでそれぞれ計測し、この力を、キャンバー角度に応じてドラム幅方向とドラム回転方向の力に分解して、ドラム幅方向の力をFy、ドラム回転方向の力をFxとした(Fx、Fyは地面に対しての座標である)。すなわち、Fyはバイクを旋回させる横力を、Fxはバイクを加速させる駆動力を、それぞれ示している。これらを、横軸にFx、縦軸にFyとして描くことで、図7に示すような波形が得られる。これを摩擦楕円と呼ぶが、Fx0においてのFyの切片は駆動力0での純粋な横力を示し、これがキャンバースラストと呼ばれる力である。本試験では、タイヤに駆動力を加えてタイヤの回転を速くすることで、トラクション状態のタイヤのグリップ性能を評価することができる。時間とともに、グラフの波形はFxが正の方向に移動する。Fxの最大値がトラクショングリップの指標といえる。
参考例1のCA35度のFxの最大値を102、CA50度のFxの最大値を103として、他の実施例の性能を指数で評価した。得られた結果を下記表3中に示す。
<実車走行試験>
次に、本発明の二輪車用タイヤの性能改善効果を確認するために、実車を用いた操縦性能比較試験をした結果を説明する。各供試タイヤはリア用のタイヤであったため、リアのみのタイヤを交換して実車試験を行った。フロントのタイヤは常に従来のもので固定した。評価方法を次に記す。
各供試タイヤを1000ccのスポーツタイプの二輪車に装着して、テストコースで実車走行させ、操縦安定性(コーナリング性能)を、テストライダーのフィーリングによる10点法で総合評価した。コースでは、自動二輪車レースを意識した激しい走行を行い、最高速度は180km/hに達した。テスト項目は、低速コーナーのトラクション性能(速度50km/hで車体を大きく倒した状態からの加速性能)、高速コーナーのトラクション性能(速度120km/hでやや車体を倒した状態からの加速性能)、車体倒しこみ時のグリップの安定性(不連続感)、の3つである。得られた試験結果を表3にまとめて示す。
今回の実施例はいずれも、ショルダ部補強ベルト層がなく、スパイラル幅を狭めただけの比較例1と比較して、大幅に倒しこみ時安定性が向上していることは明らかであり、ショルダ部補強ベルト層を追加することによる剛性段差を緩和する効果が非常に大きいことが確かめられた。
参考例1は、交錯ベルトが存在しない。そのため、製造コストを節約できる。従来例2と比べると、交錯ベルトが無いもの同士の比較において、参考例1は、CA35度、CA50度のFx指数が向上し、低速コーナー、高速コーナーともに実車テストでトラクション性能が良くなっていることがわかる。
実施例1と3は、交錯ベルトを2枚備えている。従来例1、2に比べるとトラクション性能において、いずれも大幅な改良効果が見られる。
実施例2と実施例4を比較すると、緩衝ゴム層により、トラクション性能が向上していることがわかる。
実施例2、3、4の関係からは、倒しこみ時安定性に対する最外層の補強ベルト層・緩衝ゴム層の効果がわかる。最外層の補強ベルト層・緩衝ゴム層をそれぞれ追加することで、さらに剛性段差がなくなって安定性が増す結果となっている。
参考例1、2から、スパイラルベルト層幅の影響がわかる。スパイラルベルト層幅を広くすると、大CA時のFx指数が良くなり、つまり、車体を大きく倒す大CA時の低速コーナーに大きな効果が得られる。しかし、従来例1、2のようにトレッド幅全幅とすると、トラクション性能向上の効果は無い。スパイラルベルト層幅を狭くすると、CAが小さいところ、すなわちCA35度程度の高速コーナーで大きな効果が得られる。しかし、比較例2のように狭くしすぎると効果が得られなくなる。
実施例2、5、6および比較例3の関係から、ショルダ部補強ベルト層の配置幅の影響がわかる。倒しこみ時の安定性に対し、ショルダ部補強ベルト層の配置幅は、スパイラルベルトが配置されていない部分の幅Wに対して、0.6W程度の補強があれば効果がある結果となっているが、0.5W未満ではほとんど効果が得られていない。また、2.0Wの場合は、わずかではあるが、1.0Wよりも効果が大きいため、より幅広く配置することが剛性段差緩和には効果がある結果となっている。この結果より、補強ベルト層の配置幅は0.5W〜2.0W程度がよいと言える。
実施例2と7の関係から、補強ベルト層の回転方向に対する向きの影響がわかる。タイヤ赤道に対して線対称であれば、ハの字、逆ハの字いずれに配置されても、倒しこみ時の安定性には影響なく、どちらの配向でも安定性自体を高める効果は変わらない。
実施例2、8、9、参考例7の関係から、ショルダ部補強ベルト層に有機繊維を使用した場合の角度の影響がわかる。角度は90度でも、剛性段差を緩和させる効果がある。また角度を減少させていくに伴い、剛性段差緩和の効果が大きくなるが、0度になる(スパイラルベルトになる)と、ショルダ部のベルト速度増加を阻害するため、駆動性能が大きく低下する。ショルダ部補強ベルト層を有機繊維で配置する場合の角度は、10〜90度が効果的である。
実施例2、参考例3、4、8の関係から、ショルダ部補強ベルト層にスチールを使用した場合の角度の影響がわかる。角度は90度でも、剛性段差を緩和させる効果がある。また角度を減少させていくに伴い、剛性段差緩和の効果が大きくなるが、剛性の高いスチールの場合は角度が30度程度でも、ショルダ部のベルト速度増加を阻害し、駆動性能が大きく低下する。したがって、補強ベルト層をスチールで配置する場合の角度は、45度〜90度が効果的であることがわかる。
実施例2、参考例5、6、9の関係から、ショルダ部補強ベルト層を交錯にした場合の角度・素材の影響がわかる。交錯角度は90度でも、剛性段差を緩和させる効果がある。また角度を減少させていくに伴い、剛性段差緩和の効果が大きくなるが、剛性の高い交錯層の場合は交錯角度が30度程度でも、トレッド端側のベルト速度増加を阻害し、駆動性能が大きく低下する。補強ベルト層を交錯層で配置する場合の角度は、45度〜90度が効果的であることがわかる。
実施例4は、本発明のショルダ部補強ベルト層に、最外層のベルト補強層と緩衝ゴム層を追加したものである。今回の評価では、トラクション性能・倒しこみ時安定性能・耐摩耗性能のいずれも良い結果となっており、従来例と比較するとはるかに高い次元での性能向上が達成できていることがわかる。また、車体の倒しこみ安定性能については、スパイラルベルト層を端部まで配置した従来例を超える結果となっており、本発明を組み合わせることにより、より優れた効果を得ることができることがわかる。
以上の結果から、本発明により、車体を大きく倒した旋回時の操縦安定性能(トラクション性能)と車体を倒しこむ際の安定性を高い次元で両立することが可能であることがわかった。
本発明の一好適例に係る二輪車用空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
本発明の他の好適例に係る二輪車用空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
本発明のさらに他の好適例に係る二輪車用空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
本発明のさらに他の好適例に係る二輪車用空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
従来例に係る二輪車用空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
二輪車が大きなCA(CA50度)で旋回しているときの荷重直下におけるタイヤを示す断面図である。
FxとFyとの関係を示す摩擦楕円を示すグラフである。
符号の説明
1 ビードコア
2 カーカス
3 スパイラルベルト層
4 ショルダ部補強ベルト層
5 ベルト交錯層
6 ベルト補強層
7 緩衝ゴム層
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 ビード部