本発明の電子写真システム用の定着装置と画像形成装置に係わる実施の形態を、図1乃至図7により説明する。
本実施の形態に係わる電子写真システム用の定着装置を備えた画像形成装置としての4サイクル方式のフルカラープリンタは、図1の概略断面構成図に示すように、フルカラープリンタ本体10の内部における図に向かって中央よりもやや右上部に、像担持体としての感光体ドラム12を回転可能に配設する。この感光体ドラム12は、例えば、表面にOPC等よりなる感光体層が被覆された直径が約47mmの導電性円筒体で構成し、図示しない駆動手段により、矢印A方向に沿って約150mm/secのプロセススピードで回転駆動する。
この感光体ドラム12の表面は、帯電手段としての帯電ロール14が転接されて所定の電位に帯電される。この後、感光体ドラム12直下の離れた位置に配置された露光手段としてのROS16(Raster Output Scanner)によって、レーザービーム(LB)による画像露光が施され、画像情報に応じた静電潜像が形成される。
感光体ドラム12の表面上に形成された静電潜像は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の現像器15Y、15M、15C、15Kを周方向に沿って配置した回転式の現像装置15によって現像され、所定の色のトナー像となる。このとき、感光体ドラム12の表面では、形成する画像の色に応じて、帯電・露光・現像の各工程が、所定回数だけ繰り返される。
この回転式の現像装置15は、所定のタイミングで回転駆動され、現像する色に対応した現像器15Y、15M、15C、15Kが、感光体ドラム12と対向する現像位置に移動する。例えば、フルカラーの画像を形成する場合には、感光体ドラム12の表面上で、帯電・露光・現像の各工程が、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色に対応して4回繰り返される。そして、この感光体ドラム12の表面には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色に対応したトナー像が順次形成される。
このようにトナー像が形成されるにあたって感光体ドラム12が回転する回数は、画像のサイズに応じて異なるが、例えば、A4サイズであれば1色の画像を形成するために、感光体ドラム12が3回転する。つまり、感光体ドラム12の表面には、感光体ドラム12が3回転するごとに、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色に対応したトナー像が順次形成される。なお、感光体ドラム12上に順次形成されるトナー像は、一次転写位置を通過する際に、中間転写ベルト18上に互いに重ね合わされた状態で一次転写される。
この感光体ドラム12上に順次形成されるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像は、感光体ドラム12の外周にベルト状の像担持体(中間転写体)としての中間転写ベルト18が巻き付けられた一次転写位置において、中間転写ベルト18上に互いに重ね合わされた状態で、一次転写ロール20によって一次転写される。この中間転写ベルト18上に多重に転写されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像は、二次転写ロール22によって、所定のタイミングで給紙される記録媒体としての記録用紙24上に一括して二次転写される。
この二次転写ロール22は、図示しない駆動源からギアを介して回転駆動される。また、記録用紙24は、フルカラープリンタ本体10の下部に配置された給紙部26から、ピックアップロール28によって送り出されるとともに、フィードロール30及びリタードロール32によって1枚ずつ捌かれた状態で給紙され、レジストロール34によって中間転写ベルト18上に転写されたトナー像と同期した状態で、中間転写ベルト18の二次転写位置へと搬送される。この二次転写ロール22は、所定のタイミングで中間転写ベルト18の表面に接離するように構成する。
この中間転写ベルト18は、複数のロールによって張架されており、感光体ドラム12の回転に同期した所定のプロセススピード(約150mm/sec)で周回動作するように構成する。すなわち、中間転写ベルト18は、感光体ドラム12における回動方向の上流側にて中間転写ベルト18のラップ位置を特定するラップインロール36と、感光体ドラム12上に形成されたトナー像を中間転写ベルト18上に転写する一次転写ロール20と、ラップ位置の下流側にて中間転写ベルト18のラップ位置を特定するラップトロール38と、二次転写ロール22に中間転写ベルト18を介して当接するバックアップロール40と、中間転写ベルト18のクリーニング装置42に対向する第1のクリーニングバックアップロール44と、第2のクリーニングバックアップロール46によって、所定の張力で張架されている。
さらに、このフルカラープリンタ本体10では、装置の小型化を達成しつつ、中間転写ベルト18や大きなスペースを占める回転式の現像装置15などのメンテナンス性を向上させるために、中間転写ベルト18は、感光体ドラム12や帯電ロール14及び二次転写ロール22を含めて、一体的に画像形成ユニット48を構成しており、フルカラープリンタ本体10の上部カバー部分を開くことによって、画像形成ユニット48の全体をフルカラープリンタ本体10の外部へ取り出せるように、画像形成ユニット48を着脱可能に構成する。
また、中間転写ベルト18用のクリーニング装置42は、必要なタイミングで離間位置から中間転写ベルト18の表面に摺擦するように移動操作可能に装着されたスクレーパ及びクリーニングブラシ(図示せず)を備える。これらのスクレーパやクリーニングブラシによって除去された残留トナーや紙粉は、クリーニング装置42の内部に回収されるようになっている。
なお、このフルカラープリンタでは、トナー像の転写工程が終了した後の感光体ドラム12の表面を、この感光体ドラム12が1回転する毎に、感光体ドラム12の斜め下方に配置されたクリーニング装置35のクリーニングブレードによって、残留トナーなどが除去され、次の画像形成工程に備えるようになっている。
上述のようにして中間転写ベルト18からトナー像が転写された記録用紙24は、定着装置50へと搬送されて加熱下で加圧されることによりトナー像が記録用紙24上に定着される。
(定着装置)
図1乃至図4に示すように、定着装置50は、いわゆるフリーベルトニップフューザ(Free Belt Nip Fuser)方式として構成するもので、回転駆動される回動部材としてのヒートロール52と、このヒートロール52が定着ベルト54を介して圧接される加圧部材である圧力パッド56とにより主要部が構成されている。
図示しないが、ヒートロール52は、所定長さの円筒状に形成された金属製のコア(円筒状芯金)の周囲に耐熱性弾性体層及び離型層を積層して構成する。ヒートロール52のコアは、鉄、アルミニウム、SUS等の熱伝導率の高い金属製(ここでは、薄肉高張力鋼管を用いる)の円筒体で構成する。なお、コアの外形および肉厚は、この定着装置50における圧力パッド56の押圧力が小さいため、小径化、薄肉化を図ることができる。
さらに、ヒートロール52における耐熱性弾性体層は、耐熱性の高い弾性体であればどのような材料を用いることも可能である。特に、ゴム硬度が25〜40度(JIS A)程度のゴム、エラストマ等の弾性体を用いるのが好ましく、具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を利用することができる。
ヒートロール52における離型層は、耐熱性の樹脂であれば、どのような樹脂を用いてもよく、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を用いることができるが、離型層のトナーに対する離型性や耐摩耗性の観点から、フッ素樹脂が適している。フッ素樹脂としては、PFA、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)等が使用できる。離型層の厚みとしては、好ましくは10〜50μm、より好ましくは10〜30μmである。離型層の厚みが10μm未満であると、ヒートロール52の歪みに基づき記録用紙24にしわが生じ易くなり、一方、30μmを超えると、離型層が硬くなり、画像に光沢むら等の欠陥が生じる可能性が増え、共に好ましくないからである。
このヒートロール52の内部には、発熱源としてのハロゲンランプが配設されている。なお、ヒートロール52の表面には、温度センサを接触させ、この温度センサによる温度計測値に基づいて画像形成装置の制御部がハロゲンランプの点灯を制御し、ヒートロール52の表面温度が所定の設定温度(例えば、170℃)を維持するように調整する。
このヒートロール52に圧接しながら同期して周回動作する定着ベルト(エンドレスベルト状に形成されたもの)54は、無限軌道状(所定長さの円筒状)に形成する。
この定着ベルト54は、エンドレスベルト状(無端ベルト)に構成され、ベース層と、このベース層のヒートロール52側の面または両面に被覆された離型層とから構成されている。ベース層は、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等のポリマーやSUS、ニッケル、銅等の金属により形成され、その厚みは、30〜200μm、好ましくは50〜125μm、より好ましくは75〜100μm程度である。ベース層の表面に被覆される離型層としては、フッ素樹脂、例えばPFA、PTFE、FEPで形成され、その厚みは5〜100μm、好ましくは10〜30μm程度である。
また、定着ベルト54の内周面は、圧力パッド56上の低摩擦シート部材66との摺擦抵抗を低減するため、いわゆる鏡面仕上げとなる表面粗さRa(算術平均粗さ)を0.5μm以下にする。また、定着ベルト54の外周面は、ヒートロール52からの駆動力を受け易いように、表面粗さRaを1.2〜2.0μmに設定している。すなわち、この定着ベルト54は、内周面の摩擦係数が外周面の摩擦係数より小さくなるように構成する。
これにより、この定着装置50では、後述するように、ヒートロール52が回転駆動されてニップ部分にニップされた記録用紙24を搬送すると同時に記録用紙24を介してヒートロール52の回転動作に連動しながら定着ベルト54をスリップさせることなく周回動作させる。この動作の際に定着装置50では、定着ベルト54の外周面が記録用紙24又はヒートロール52に対してスリップしないように転接し、かつ定着ベルト54の内周面が圧力パッド56を覆う低摩擦シート部材66の上を滑らかに摺動することになる。
さらに、定着ベルト54は、その内周面の硬度を、低摩擦シート部材66の表面の硬度よりも大きく構成する。このように構成することによって、定着ベルト54内周面の硬度が、低摩擦シート部材66表面の硬度以上であるから、後述するように、定着ベルト54内周面が低摩擦シート部材66上を摺動した際に、低摩擦シート部材66が摩滅する量よりも定着ベルト54が摩滅する量の方がより少なくできる。このように構成することによって、定着ベルト54の摩滅を遅らせ、定着ベルト54の使用寿命を延命することができる。
この定着ベルト54(エンドレスベルト状に形成されたもの)は、その内周面に摺接する圧力パッド56上の低摩擦シート部材66と、定着ベルト54の両端内周面部に摺動自在に摺接する各エッジガイド58とに案内されて、回転自在(周回動作自在)に支受されている。そして、定着ベルト54は、圧力パッド56に対応したニップ部分をヒートロール52に所定の圧力で転接させるように装着する。
圧力パッド56は、定着ベルト54の内側にあって、定着ベルト54を介してヒートロール52を所定の圧力分布で押圧するようにし、ヒートロール52との間でニップ部分を構成する。ここで、ニップ部分とは、定着ベルト54とヒートロール52とが弾性変形しながら転接する領域であって、定着ベルト54とヒートロール52の回転方向(記録用紙24の搬送方向)に所定の長さを持ち、かつ定着ベルト54とヒートロール52の長手方向に亘る、略平面視矩形状の領域をいうものとする。
圧力パッド56は、加圧部材となるソフトパッド部材60と、同じく加圧部材となるハードパッド部材62とで構成する。このソフトパッド部材60は、ニップ部分の搬送方向入口側に配置し、記録媒体である記録用紙24の搬送方向に対して広いニップ部分を確保し、記録用紙24が所定の温度となるように加熱し所要の圧力を加えられるように構成する。例えばソフトパッド部材60は、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性材料又は板バネ等で構成することができる。
このフルカラープリンタでは、図3に示すように、ソフトパッド部材60を、角柱状に形成された弾性材料60Aの底面に、金属製の長板材で形成した補助部材60Bを固着して構成する。なお、弾性材料60Aの上面は、略ヒートロール52の外周面に倣う凹形状に形成する。
圧力パッド56のハードパッド部材62は、ニップ部分の搬送方向出口側に配置し、ヒートロール52に強く圧接してコアの周囲に設けた耐熱性弾性体層及び離型層を弾性変形させることにより、ヒートロール52の表面から記録用紙24を剥離させるように構成する。
このハードパッド部材62は、例えば、PPS(ポリフェエレンサルファイド)、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド等の耐熱性を有する樹脂、または鉄、アルミニウム、SUS等の金属を材料しとして形成することができる。ハードパッド部材62の形状は、ニップ部分における外面形状が一定の曲率半径を有する凸曲面形状(いわゆる蒲鉾型)に形成する。
図3に示すように、このハードパッド部材62は、その長手方向に沿って搬送方向上流側に隣接するソフトパッド部材60の設置部62Aを一体的に形成する。すなわち、ハードパッド部材62は、矩形長尺状のパッド部材本体63の一部に形成し、これに隣接した位置に矩形溝状のソフトパッド部材60の設置部62Aを形成する。
そして、設置部62Aには、設置部62Aを底側にしてソフトパッド部材60を嵌め込んで一体的に組み付ける。これにより、ソフトパッド部材60とハードパッド部材62とがそれぞれの長手方向で隣接した、一つの圧力パッド56を構成する。
また、パッド部材本体63の底面における記録用紙24の搬送方向上流側端部には、その長手方向に対して所定間隔を開けた各複数位置に、摺擦部材である低摩擦シート部材66を係着するための小矩形突片状の係止片64をそれぞれ突設する。
図2、図3及び図5に示すように、この低摩擦シート部材66は、ニップ部分に対応して圧力パッド56におけるソフトパッド部材60とハードパッド部材62との表面を十分に覆うように配置する。この低摩擦シート部材66は、圧力パッド56が低摩擦シート部材66を介して定着ベルト54の内周面と強い圧力が負荷された状態で摺接する際の摺擦抵抗(摩擦抵抗)を低減するために設けられるもので、摩擦係数が小さく、耐摩耗性・耐熱性に優れた材質(例えば、多孔質のフッ素樹脂の織物で形成したシート)で、図5に示すような矩形形状に形成する。
また、定着ベルト54内周面に塗布された潤滑剤が、定着ベルト54との摺動部に入り込めるように、低摩擦シート部材66の定着ベルト54側の表面には、微小な凹凸が形成されている。例えば、この凹凸の粗さは、Ra(算術平均粗さ)が5〜30μmで形成されている。これは、凹凸の粗さがRa=5μmより小さければ、定着ベルト54との摺動部に充分な潤滑剤を入り込ませにくいため適当ではなく、その一方で、Ra=30μmより大きければ、凹凸の跡がOHPやコート紙を定着した際に光沢むらとして目立つために好ましくないことに基づくものである。
以上より、この定着装置50では、定着ベルト54の内周面の表面粗さRaより、定着ベルト54の外周面の表面粗さRaが大きく、これと共に、定着ベルト54の外周面の表面粗さRaより、低摩擦シート部材66の表面粗さRaが大きくなるように構成している。
つまり、このように構成することによって、定着ベルト54の外周面側の摩擦抵抗が、内周面側の摩擦抵抗を上回ることになるので、定着ベルト54を回転駆動するヒートロール52によって記録用紙24が搬送される動作に同期して周回動作させることができ、記録用紙24に対する定着処理が安定して実行可能となる。そして、定着ベルト54の内周面に適量の潤滑剤が塗布された状態を維持し、定着ベルト54がスリップすることなく適切に周回動作するようにできる。
また、低摩擦シート部材66は、潤滑剤が滲み込んで裏面から漏れ出ないように、潤滑剤に対する浸潤性のない(難通過性)ように構成している。さらに、この低摩擦シート部材66には、フッ素樹脂からなる多孔質樹脂繊維布をベース層としてヒートロール52側の面にPET樹脂シートをラッピングさせたもの、シンタード成形したPTFE樹脂シート、テフロン(登録商標)を含浸させたガラス繊維シート等を用いることができる。
この低摩擦シート部材66には、長手方向の一方の端部近くで各係止片64に対応した各位置に、それぞれ係着穴68を穿設する。この低摩擦シート部材66の長手方向一端部は、直線状に連なり、かつその一部に切り欠きや凹部を設けないように構成する。さらに、この低摩擦シート部材66を織物で構成する場合には、織物を織っている一方の糸(横糸又は縦糸)を配置する方向が、低摩擦シート部材66の長手方向と一致し、この糸に直交する方向の荷重を糸の長手方向の全体で受けられるようにすることが望ましい。
低摩擦シート部材66に穿設する係着穴68は、両端が半円形の直円形若しくは楕円又は角や切り欠きを持たない形状である滑らかな曲線に囲まれた貫通穴に形成し、応力集中により破断しないようにする。また、この低摩擦シート部材66では、各係着穴68から、低摩擦シート部材における長手方向の一方の端部までの距離を所要量長くして、この低摩擦シート部材66が係着穴68部分から長手方向の一方の端部にかけて破断しないような補強構造とする。なお、低摩擦シート部材66は、各係着穴68部分から低摩擦シート部材における長手方向の一方の端部にかけての部分に、肉厚を厚くしたり、2枚重ねにする等の補強構造を設けても良い。
この低摩擦シート部材66は、その各係着穴68に、パッド部材本体63の各々対応する係止片64を挿通してソフトパッド部材60からハードパッド部材62へかけて巻き付けるように装着する。なお、このようにパッド部材本体63に装着された低摩擦シート部材66は、後述するようにパッド部材本体63を取付部74内に取り付けたとき、低摩擦シート部材66の係着穴68を設けた長手方向一方の端部近くの部分が逃げ溝74Aの縦壁とパッド部材本体63の縦壁との間に所要の圧力がかかるように挟まれる係着構造で係着し、低摩擦シート部材66の各係着穴68部分だけに荷重が集中しないように構成しても良い。
このようにソフトパッド部材60と低摩擦シート部材66とが組み付けられたパッド部材本体63は、ホルダ部材70に取り付けられる。
このホルダ部材70は、図2乃至図4に示すように、アルミニュウム等の金属製で、略断面矩形の一つの角部を小円弧状に突出させた変形筒型に形成する。
このホルダ部材70は、その小円弧状に突出させたガイド角部72を記録用紙24の搬送方向上流側に向けて設置されるもので、このガイド角部72の外周面が定着ベルト54の内周面に摺接してその周回動作をガイドする。
また、このホルダ部材70は、ガイド角部72に隣接した側面部に、パッド部材本体63等の取付部74を形成する。この取付部74は、矩形の浅溝状に形成され、そのガイド角部72に沿って隣接するように係止片64を遊挿するための逃げ溝74Aが形成されている。
この取付部74の載置平面(取付部74の底面における逃げ溝74Aを除いた平面)上には、弾性シート部材76を配置する。この弾性シート部材76は、例えば耐熱性ゴム材料等の耐熱性を有する弾性材料で形成する。この弾性シート部材76は、オイルを吸収して膨張することがなく、100℃程度の熱に耐え得る耐熱性に優れた弾性材料で、ゴム硬度が30度(JIS A)程度の硬度を有する弾性材料によって、長板状(帯状)に構成する。
この弾性シート部材76は、取付部74の載置平面と同形で、一定の厚さに形成し、取付部74の載置平面上に配置する。
また、弾性シート部材76は、ハードパッド部材62が局所的に圧力を受ける部分に対応して配置しても良い。この場合には、弾性シート部材76をハードパッド部材62が局所的に圧力を受ける部分に対応した形状の、単数又は複数の部材に構成し、各々の部材を取付部74の載置平面におけるハードパッド部材62が局所的に圧力を受ける部分に配置する。
さらに、この弾性シート部材76は、取付部74の載置平面上におけるハードパッド部材62の直下となる底面部分にのみ配置しても良い。または、弾性シート部材76を、取付部74の載置平面上におけるハードパッド部材62及びソフトパッド部材60の直下の底面部分にのみ配置しても良い。なお、弾性シート部材76は、取付部74の全面に渡って配置しても良い。
図2乃至図4に示すように、ホルダ部材70には、取付部74と対向する側部の外側面79に長手方向に亘って、潤滑剤塗布部材78を配設する。潤滑剤塗布部材78は、帯状の耐熱性フェルトで構成され、例えば、親和性に優れた粘度300csのアミノ変性シリコーンオイル等の潤滑剤が3g程度含浸されている。そして、潤滑剤塗布部材78は、定着ベルト54の内周面に対して摺接するように配置され、耐熱性フェルトからの浸透圧により、潤滑剤を常時適量ずつ定着ベルト54内周面に補充するよう構成されている。なお、潤滑剤塗布部材78は、耐熱性フェルトからの潤滑剤の補充が過多にならないように、耐熱性フェルトのエッジ部のみを定着ベルト54内周面に接触させるようにすることが望ましい。これにより、定着ベルト54と低摩擦シート部材66との摺動部に潤滑剤を供給し、低摩擦シート部材66を介した定着ベルト54と圧力パッド56との摺擦抵抗をさらに低減して、定着ベルト54の円滑な動作を図っている。
また、この定着装置50では、潤滑剤塗布部材78から潤滑剤を常時適量ずつ定着ベルト54内周面に供給して円滑な動作を行わせられるようにするため、適切な粘度の潤滑剤(潤滑オイル等でも良い)を選んで用いる。これは、潤滑剤の粘度が低すぎると潤滑剤の漏れを生じやすくなり、潤滑剤の粘度が高すぎると摩擦が大きくなり定着ベルト54の摺動性が低下するためである。
このように圧力パッド56上を摺動する定着ベルト54は、その両端内周面部をそれぞれ各エッジガイド58によって回転自在(周回動作自在)に支受される。このエッジガイド58は、断面が略C形状のベルト走行ガイド部材59の外側に設けられている。また、ベルト走行ガイド部材59は、摺擦抵抗を極力小さくし、熱の損失も小さくするため、静止摩擦係数が小さく熱伝導率の低い材質で形成されている。さらに、ベルト走行ガイド部材59には、エッジガイド58の外側に、定着ベルト54の内径よりも大きく張り出すように突設されたフランジ部61が形成されている。
各ベルト走行ガイド部材59は、それぞれねじ部品67をホルダ部材70の筒穴内に設けたねじ穴65に嵌合することによってホルダ部材70の両端部に各々締結する。
また、この定着装置50では、ホルダ部材70の両端部にそれぞれ取り付けたベルト走行ガイド部材59の相対向するフランジ部61の内側面同士の間隔が定着ベルト54の幅と略一致するように設定され、定着ベルト54の幅方向への移動(ベルトウォーク)を規制している。
次に、本実施の形態に係る電子写真システム用の定着装置を備えた画像形成装置であるフルカラープリンタの基本的な作像プロセスについて説明する。
図1に示すようなフルカラープリンタでは、図示しない画像読取装置(IIT)や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置(IPS)により所定の画像処理が施された後、現像装置15、(15Y,15M,15C,15K)によって作像作業が実行される。この画像処理装置(IPS)では、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の所定の画像処理が施される。画像処理が施された画像データを、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換し、レーザ露光器であるROS16に出力する。
ROS16では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザから出射されたレーザビームLBを現像装置15の感光体ドラム12に照射する。現像装置15では、帯電ロール14によって表面が帯電された後、このROS16によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。
感光体ドラム12の表面上に形成された静電潜像は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の現像器15Y、15M、15C、15Kを周方向に沿って配置した回転式の現像装置15によって現像され、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色に対応したトナー像が順次形成される。このようにして感光体ドラム12上に順次形成されるトナー像は、一次転写位置を通過する際に、中間転写ベルト18上に互いに重ね合わされた状態で一次転写される。
そして、中間転写ベルト18上に多重に転写されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像は、二次転写ロール22によって、記録媒体としての記録用紙24上に一括して二次転写される。
このようにして中間転写ベルト18からトナー像が転写された記録用紙24は、定着装置50へと搬入される。
定着装置50では、ヒートロール52が図示しない駆動モータにより矢印B方向に回転し、この回転により定着ベルト54も従動回転されており、トナー像が静電転写された記録用紙24が、ヒートロール52と圧力パッド56との間位置にあるニップ部分に搬入される。そして、記録用紙24がニップ部分を通過する際に、記録用紙24上のトナー像はニップ部分に作用する圧力と、ヒートロール52から供給される熱とによって定着される。
この定着装置50では、略ヒートロール52の外周面に倣う凹形状のソフトパッド部材60によりニップ部分を広く構成することができるため、安定した定着性能を確保することができる。これに加えて、この定着装置50では、ヒートロール52の外周面に食い込むように突出させたハードパッド部材62により、ニップ部分の出口領域(剥離ニップ部)においてヒートロール52表面層の歪みが局所的に大きくなるので、定着処理後の記録用紙24が剥離ニップ部を通過する際に局所的に大きく形成された歪みを通過することになって、ヒートロール52に巻き付くことが無く確実に剥離される。すなわち、ヒートロール52の歪みをハードパッド部材62によって局所的に大きくし、小さい歪み量で高い剥離性能を得ることが可能となる。そのため、ヒートロール52の離型層として、薄膜の耐熱性樹脂を用いた場合においても、記録用紙24における紙しわの発生を抑制できる。また、耐熱性弾性体層と離型層との間の剥がれ等も発生し難く、剥離性能の維持と併せて長期に亘る部品性能の信頼性を向上させることができる。
さらには、ヒートロール52の歪み量を小さく形成できるので、ヒートロール52は、その耐熱性弾性体層を薄肉化することができる。そのため、ヒートロール52の熱容量を小さく構成できるので、ウォームアップタイムを短くするとともに、消費電力の低減を図ることもできる。また、熱伝導率の低い耐熱性弾性体層を薄肉化できるため、ヒートロール52の内面と外面との間の熱抵抗が小さくなって熱応答性の向上を図れるため、画像形成装置の高速化にも適している。
また、本実施の形態に係わる定着装置50では、ホルダ部材70の取付部74に対して弾性シート部材76を介してパッド部材本体63を装着している。よって、この定着装置50では、ハードパッド部材62に局部的に強い荷重が負荷された場合に、パッド部材本体63におけるハードパッド部材62の部分が強い荷重が負荷された部位で局所的に弾性変形(弾性シート部材76を押し潰すように局所的に撓むよう変形)して荷重が集中しないように分散させる。
すなわち、この定着装置50によって局部的に厚みが厚い記録媒体(例えば封筒等)を定着処理する場合には、記録媒体の局部的に厚みが厚い部分がヒートロール52とハードパッド部材62との間位置のニップ部分を通過する際に、ハードパッド部材62上に記録媒体の局部的に厚みが厚い部分が乗った所に大きな荷重が加わる。すると、ハードパッド部材62が、大きな荷重が加わった部分で弾性シート部材76を弾性変形させながらヒートロール52から離れる方向へ凹むように局所的に撓むよう弾性変形して逃げる。このため、ハードパッド部材62は、その長手方向の荷重が加わっている部分の全長に渡って平均的に荷重が負荷されるようになって、ハードパッド部材62における長手方向の荷重の分布が許容範囲内に収まり、適切な定着処理(例えば、記録用紙24に皺がよったり、ヒートロール52の表面に塑性変形に起因する皺がよること等が無く、定着処理すること)が可能となる。なお、定着装置50において、ホルダ部材70の取付部74と、ハードパッド部材62との間に弾性シート部材76を引かない場合には、ハードパッド部材62が弾性変形する余地が無いので、ヒートロール52側に局所的な荷重が加わり、記録用紙24に皺がよったり、ヒートロール52の表面に塑性変形に起因する皺がよることが起こり易くなる。
この定着装置50では、上述したように、トナー像が静電転写された記録用紙24がニップ部分を通過することにより、トナー像が記録用紙24に定着されるが、記録用紙24がニップ部分を通過する際の搬送力は、駆動側のヒートロール52から受ける。すなわち、記録用紙24は、ヒートロール52の回転に伴い、ヒートロール52から摩擦力を受けることによって搬送されている。したがって、記録用紙24がニップ部分を通過する際に記録用紙24は、ヒートロール52からの搬送力を受けるとともに、定着ベルト54側から搬送方向とは逆方向の力(逆搬送力)を受けることとなる。
ところで、定着ベルト54は、ニップ部分においてハードパッド部材62に押圧されることになるため、圧力パッド56から回動方向と逆の方向の力を摺擦抵抗として受ける。そこで、前述したように、定着ベルト54とハードパッド部材62との間には低摩擦シート部材66を介在させるとともに、潤滑剤塗布部材78から定着ベルト54の内周面に潤滑剤を塗布して、定着ベルト54とハードパッド部材62との摺擦抵抗を極力低減するように構成している。
したがって、通常状態では、定着ベルト54がハードパッド部材62から受ける摺擦抵抗は極めて小さく、円滑に回動可能であることから、定着ベルト54は記録用紙24と等速で回動することが可能である。この場合には、記録用紙24が受ける逆搬送力は、定着ベルト54を介したハードパッド部材62からの摺擦抵抗であるから、無視できる程度に小さいレベルである。そのため、記録用紙24は、ヒートロール52と等速に安定して搬送される。
ここで、潤滑剤塗布部材78は、定着ベルト54の内周面に接触するように配置され、定着ベルト54の内周面に対してアミノ変性シリコーンオイル等の潤滑剤を常時補充している。なお、潤滑剤は、これに限定されるものではなく、一般に用いられている潤滑油等で、所要の粘度(例えば、粘度100csから粘度350cs)を持つものを適宜利用できる。
一方、定着ベルト54が周回して潤滑剤塗布部材78の配置位置に戻ってきた際には、定着ベルト54内周面に塗布されている潤滑剤を回収する機能も有している。このように、潤滑剤塗布部材78は、定着ベルト54内周面に対し、潤滑剤の回収と供給とを同時に行うことで、常に一定量の潤滑剤を塗布するとともに、潤滑剤塗布部材78に保持される潤滑剤量をも一定に維持している。
かかる潤滑剤塗布部材78によって潤滑剤が塗布された定着ベルト54は、回動してニップ部分に搬送されるが、ニップ部分におけるハードパッド部材62と定着ベルト54との間の押圧力の下においても、低摩擦シート部材66の定着ベルト54側の表面に微小な凹凸が形成されているため、定着ベルト54に塗布された潤滑剤の大部分は、低摩擦シート部材66の凹部に入り込むようにして、低摩擦シート部材66と定着ベルト54との摺動部に補充される。このようにして、定着ベルト54の内周面に塗付される潤滑剤の循環利用を維持することができ、長期に亘り定着ベルト54をスムーズに回動させることができる。その結果、定着装置50の寿命に至る長い期間に亘り、紙しわや用紙ジャムの発生を抑えることが可能となる。
上述したように、定着装置50でトナー像が定着されて画像形成が完成された記録用紙24は、図1に示すように、定着装置50から搬出されて、フルカラープリンタ本体10の上部に設けられた排出トレイ80上に排出されて集積される。
次に、上述したフルカラープリンタ本体10に設ける定着装置50に用いて好適な潤滑剤の粘度の許容範囲を決定すると共に、定着ベルト54の内周面の表面粗さの許容範囲を決定するために行った実験について、図6及び図7によって説明する。
この実験では、上述のように構成した定着装置50において、潤滑剤粘度(オイル粘度)だけを変化させることにより、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)の評価と、定着ベルト54のベルト摺動性の評価とを行い、図6に示す結果が得られた。
なお、本明細書で「イニシャル(Initial)」というときは、定着装置50を製造してから未使用の定着装置50(初期性能を有する定着装置50)を対象とした実験を意味し、「ライフ(Life)」というときは、定着装置50を製造後、設計上の使用寿命が尽きた定着装置50(ここでは、記録紙100000枚の処理を終えて設計上の使用寿命が尽きた定着装置50)を対象とした実験を意味するものとする。
図6に示す結果から分かるように、この定着装置50では、潤滑剤粘度が50csの潤滑剤を使用すると流動性が高すぎて潤滑剤の漏れを生じた。また、潤滑剤粘度が500csの潤滑剤を使用すると、「ライフ」において、ベルト摺動性が悪化して、紙に皺が発生し又は用紙搬送遅れ(用紙ジャム)が発生した。さらに、潤滑剤粘度が1000csの潤滑剤を使用すると、「イニシャル」においても、ベルト摺動性が悪化して、紙に皺が発生し又は用紙搬送遅れ(用紙ジャム)が発生した。
よって、この定着装置50では、潤滑剤粘度が50csから1000csの潤滑剤を使用することができると判断される。さらに、より高い性能が求められる場合には、潤滑剤粘度が50csから500csの潤滑剤を使用することが望ましい。
次に、定着ベルト54の内周面の表面粗さの許容範囲を決定するために行った実験について見ると、上述のように構成した定着装置50では、潤滑剤粘度(オイル粘度)を50csから500csの間に設定し、ベルト内周面の表面粗さだけを変化させることにより、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)の評価を行い、図7に示す結果が得られた。
この図7に示す結果から分かるように、この定着装置50では、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を0.1μmと0.5μmに設定したとき、「ライフ」及び「イニシャル」において、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を生じることはなかった。しかし、この定着装置50では、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を1μmに設定したとき、「ライフ」において、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を生じた。さらに、この定着装置50では、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を5μmに設定したとき、「ライフ」及び「イニシャル」において、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を生じた。
よって、この定着装置50では、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)が1μm以下(ここで、ベルト内周面の表面粗さRaの下限値は表面仕上げ処理の加工限界である。)となるように構成して使用できると判断される。
さらに、より高い性能が求められる場合には、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)が0.5μm以下(ここで、ベルト内周面の表面粗さRaの下限値は表面仕上げ処理の加工限界である。)となるように構成することが望ましい。
以上より、この定着装置50では、潤滑剤粘度が50csから1000csの潤滑剤を使用し、かつベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を1μm以下で、表面仕上げ処理の加工限界(加工限度)までのベルト内周面の表面粗さRaの下限値までの範囲となるように構成し、さらに望ましくは、この定着装置50で、潤滑剤粘度が50csから500csの潤滑剤を使用し、かつベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を0.5μm以下で、表面仕上げ処理の加工限界までのベルト内周面の表面粗さRaの下限値までの範囲となるように構成すれば、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を生ぜず、かつベルト摺動性が悪化して紙に皺が発生し又は用紙搬送遅れ(用紙ジャム)が発生じないようにできるという結果が確認できた。
この定着装置50では、潤滑剤の粘度を50csから1000cs、さらに望ましくは50csから500csとすることによって、定着ベルト54の内周面に潤滑剤を平均的に極めて薄く塗布できるようにし、しかも定着ベルト54の全内周面上に塗布されない部分ができないように満遍なく塗布できようにする。
この定着装置50では、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を、1μm以下から加工限界まで、さらに望ましくは、0.5μm以下から加工限界までとすることによって、極めて少量の潤滑剤がベルト内周面上で広い範囲に、平均的に薄く引き延ばせるようにできる。しかも、ベルト内周面の表面粗さを小さくする、いわゆる鏡面加工を施した場合には、定着ベルト54内周面と、低摩擦シート部材66との間の摩擦抵抗を低減できるので、より少ない量の潤滑剤によって、定着ベルト54内周面が低摩擦シート部材66上をスムーズに摺動動作できる。
よって、この定着装置50では、潤滑剤の粘度を50csから1000cs、さらに望ましくは50csから500csとすることによって、定着ベルト54の内周面に潤滑剤を平均的に極めて薄く満遍なく塗布できるようにすることと、ベルト内周面の表面粗さRa(算術平均粗さ)を、1μm以下から加工限界まで、さらに望ましくは、0.5μm以下から加工限界までとすることによって、極めて少量の潤滑剤がベルト内周面上で広い範囲に、平均的に薄く引き延ばせるようにすることとが相乗的に作用し、さらに、ベルト内周面がいわゆる鏡面のように平滑な状態(つるつるの状態)となって低摩擦シート部材66との摩擦抵抗が小さくなっていることとも相俟って、必要最小限の微量な潤滑剤によって定着ベルト54の内周面と低摩擦シート部材66との間を適切な潤滑状態に維持し、ベルト摺動性を良好に保って紙に皺が発生し又は用紙搬送遅れ(用紙ジャム)が発生じないようにできる。
しかも、定着ベルト54の内周面に平均的に極微量塗布され、所要の粘度をもった潤滑剤は、そのまま圧力パッド56とヒートロール52との間で圧接されるニップ部分に搾り出されることなく送り込まれるので、このニップ部分の搬送方向手前の部分に潤滑剤が溜まって定着ベルト54の両端部側から流れ出す潤滑剤の漏れを起こさないようにできる。
つまり、定着ベルト54の内周面に対して潤滑剤を極めて薄く均等に余す所無く塗布すれば、ニップ部分の手前に潤滑剤が絞り出されて潤滑剤漏れが生じることを防止できる。また、潤滑剤の粘度が適切に設定されることによって、潤滑剤の粘度が低すぎるために潤滑剤が流出することを防止でき、さらに、潤滑剤の粘度が高すぎるために極少量の潤滑剤が、定着ベルト54の内周面に対して極めて薄く均等に余す所無く塗布できなくなることを防止でき、潤滑剤を定着ベルト54の内周面に対して最良の状態に塗布できる。
特に、潤滑剤として親和性に優れたアミノ変性シリコーンオイルを用いた場合には、このアミノ変性シリコーンオイルが2分子程度の厚さの膜を形成して、良好な潤滑性能を発揮できることから、潤滑剤の粘度を前述した適正値に設定し、定着ベルト54の内周面の表面粗さを前述した適正値に設定することによって奏する作用を相乗的に拡大し、飛躍的に大きな効果が期待できる。
なお、本発明に係わる定着装置において、潤滑剤の粘度を適切に設定し、定着ベルト54の内周面の表面粗さを適切に設定することによって、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を防止し、かつベルト摺動性を良好に保つ手段は、前述した図1乃至図7に示す定着装置に利用するばかりでなく、図示しないが、加熱手段として発熱源が圧接された定着ベルトを用い、加圧手段として加圧ロールを用いて構成した電子写真方式の画像形成装置に用いられる定着装置にも利用できる。
この場合には、例えば、定着ベルトが記録用紙のトナー像担持面側に配置され、定着ベルトの内側に発熱源を有する加圧部材であるセラミックヒータが配設され、このセラミックヒータからニップ部分に熱を供給するように定着装置を構成する。このセラミックヒータは、定着領域の全幅に亘って配置されニップ部分を形成する。さらに、定着ベルトの内周面とセラミックヒータとの間には、摺擦抵抗を小さくするため、低摩擦シート部材を配設する。
また、この場合には、定着ベルトの内周面に摺接して潤滑剤の供給と回収とを同時に行う潤滑剤塗布部材を設け、この潤滑剤塗布部材から所要の粘度に設定された潤滑剤を補充する。また、この潤滑剤塗布部材が摺接する定着ベルトの内周面を鏡面加工して所要の表面粗さ状態に仕上げて構成する。このように構成することにより、前述した図1乃至図7に示すものと同様の作用、効果を奏するようにできる。
また、本発明に係わる定着装置において、潤滑剤の粘度を適切に設定し、定着ベルト54の内周面の表面粗さを適切に設定することによって、潤滑剤の漏れ(オイル漏れ)を防止し、かつベルト摺動性を良好に保つ手段は、種々の構成の定着装置に利用できることは勿論である。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他種々の構成を取り得ることは勿論である。