本発明は、印刷システム、とくに印刷媒体が加工食品である場合に好適なものに関する。
量産される固形の加工食品の中に、種類が異なっても厚さの変化が余り大きくないものとして、クッキー、せんべい、チョコレートなどがある。これらを以下、加工食品と言う。
近年、このような加工食品に、可食性インクで絵等の装飾、商品情報、あるいはトレイサビリティ等を印刷することが提案されている。表面の凹凸の深さが限られている加工食品に印刷するには、インクの射程距離が大きいインクジェットプリンタが用いられる。以下、インクジェットプリンタをプリンタと略称する。
また、多量の加工食品に印刷する方式としては、加工食品の製造ライン中に固定式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、製造ラインを流れる加工食品に対して定位置で順次印刷するライン方式と、製造後の加工食品をトレイ上面の所定位置に並べて置き、そのトレイの上方を移動する可動式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、その一まとまりの加工食品に印刷するシリアル方式とが提案されている。
従来のシリアル方式の印刷システムにおいては、プリンタに、印刷ヘッドの主走査方向に対して直角な方向(副走査方向)に往復移動する移動テーブルを設けている。また、加工食品の配置位置を示す複数の指標(目印)が印刷されている位置決め用の台紙が加工食品の種類ごとに用意される。台紙の各指標の印刷位置は、加工食品の種類により異なる。そして、印刷しようとする加工食品の種類に対応する台紙を選択して、移動テーブルの上面に載せる。その台紙の上に透明なトレイを置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置する。
プリンタに接続されている制御装置は、コンピュータで構成されていて、中央制御部(CPU)と、記憶部と、入力部と、表示部とを有する。各加工食品に対する印刷内容は加工食品の種類ごとにデータ化されて、複数種類の印刷データが識別データと共に予め記憶部に記憶されている。そして、ある加工食品に対する印刷を行うときは、作業者が入力部を操作してその加工食品に対応する印刷内容を指定する。そうすると、その指定された印刷内容に対応する印刷データが記憶部から読出され、表示部に表示される。作業者は、表示部に表示された印刷内容を見て、指定に誤りがないことを確認した後、入力部から印刷開始指令信号を入力する。そうすると、読み出された印刷データが制御装置からプリンタに与えられて、プリンタが印刷動作を開始し、印刷ヘッドの主走査とトレイの副走査によりトレイ1個分の加工食品に対する印刷が行なわれる。
トレイ1個分の印刷を終了した後、さらに他のトレイの加工食品に対して同じ印刷内容を印刷する場合は、印刷を終了した1個目のトレイを移動テーブル上面の台紙から手で取り除き、2個目のトレイを1個目のトレイの場合と同様に台紙の上面に置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置した後、再び制御装置から印刷開始指令信号を入力する。3個目以降のトレイついても同様の作業を繰り返す。
先行技術文献は特にない。
したがって、従来は、プリンタ側においては、印刷内容の種類の数と同数の台紙を用意する必要がある。印刷する前に、選択した台紙を移動テーブルに載せ、その台紙の上に透明なトレイを載せ、そのトレイの上面の、台紙の指標に対応する位置に加工食品を配置する必要がある。また、異なる印刷内容を印刷する場合は、台紙をその印刷内容に対応する別の台紙と交換しなければならない場合が多い。一方、制御装置側においては、同じ印刷内容を複数個のトレイ分印刷をするときは、トレイの数と同じ回数だけ印刷開始指令信号を入力しなければならない。そのため、台紙セット、トレイ載置、加工食品配置、そして、印刷開始指令信号の入力などの多くの作業で、印刷作業者の負担が少なくないという問題がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷システムは、(A)インクジェットプリンタと、制御装置と、トレイとからなり、(B)インクジェットプリンタは、前半部の上面に開口するハウジングと、ハウジングの内部に取付けられ、移動テーブルをハウジング内の前部所定位置から後部所定位置までの間を往復移動させる移動テーブル往復機構と、移動テーブル往復機構にその上側において支持され、移動テーブルを上端面に支持して、その移動テーブルの高さを調整する移動テーブル昇降機構と、ハウジングの移動テーブル移動面の上方に設置され、インク噴射方向を下方に向けたノズルを有する印刷ヘッドを含む印刷ユニットと、印刷ヘッドに可食性インクを供給するインク供給部と、トレイに備えられたトレイ識別コード発信手段が発信するトレイ識別コードを受信する受信手段またはトレイ識別コードを表わすバーコード等を読取る読取手段と、受信手段が受信した、または前記読取手段が読取ったトレイ識別コードを制御装置に送信するとともに、制御装置から送信される印刷データを受信する通信機と、受信した印刷データを一時保存する記憶部と、一時保存された印刷データを用いて印刷ユニットによる印刷を制御する印刷制御部とを有するものであり、(C)制御装置は、プリンタから送信されるトレイ識別コードを受信し、後記印刷データを前記プリンタに送信する通信機と、トレイのトレイ識別コードに対応して印刷内容データと当該トレイの加工食品の配置位置を指定する指標配置データからなる印刷データを記憶させてある記憶部と、プリンタから受信したトレイ識別コードに対応する印刷データを読出して通信機に出力する読出部とを有するものであり、(D)トレイは、移動テーブルに交換可能に載置される所定の大きさのものであって、そのトレイの識別コードを発信する発信手段またはトレイ識別コードを表わすバーコード等を有するとともに、そのトレイに載せられる印刷対象加工食品の配置位置を示す指標が所定の配置パターンに従って印刷等されているものであることを特徴とする。
本発明によれば、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することができる。
本発明に係る印刷システムの基本的構成を示す概念図である。
図1の印刷システムの一構成要素であるプリンタの斜視図である。
図2のプリンタの平面図である。
図2のプリンタの正面図である。
図2のプリンタの右側面図である。
プリンタの移動テーブル昇降機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の他の例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構のさらに他の例を示す断面図である。
印刷ユニットの構成の一部を示す図である。
タッチパネルの表示内容の一例を示す図である。
障害物検知センサの取付例を示す図である。
図1のトレイの平面図である。
図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
印刷データテーブルの一例を示す図である。
図1のプリンタの動作の一部を説明するフローチャートである。
図1のプリンタの動作の残部を説明するフローチャートである。
図1の制御装置の処理フローを示すフローチャートである。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[印刷システムの構成]
本発明に係る印刷システムは、概括的には、図1に示すように、プリンタAと、トレイBと、制御装置Cとからなる。
[プリンタ]
図2〜図5に示すように、本発明の実施の形態に係るプリンタAは、ハウジング10と、移動テーブル20と、移動テーブル昇降機構30と、移動テーブル往復機構40と、印刷機構50と、通信部60と、操作部70と、表示部80とを有している。以下にこれらについて順次詳細に説明する。
[ハウジング]
ハウジング10は、プリンタAの外装を兼ねるとともに、上記構成部材20〜80を収容し、取付けるための箱である。ハウジング10は、正面壁11と、正面壁11の左右両端部から後方(図2のy1方向)に延びる側面壁12,13と、側面壁12,13の後端部間を遮蔽する背面壁14と、側面壁12,13の前側部分の上端部から内側に所定の幅を持って延在する上面壁15,16と、側面壁12,13の前後方向(図2のy1,y2方向)の中間部の間に形成された立ち上がり部12’,13’の上端部間に架橋されてハウジング10の上面を遮蔽する天井壁17と、正面壁11、左右の側面壁12,13および背面壁14のそれぞれの下端縁の間の面を遮蔽する底面壁18とを有している。
天井壁17の前端縁には、後述される印刷ユニットの取付空間を形成し、かつ、その取り付けられた印刷ユニットの上側を覆う印刷ユニットカバー19が、印刷ユニットのメンテナンスのために、蝶番19a等により開閉可能に接続されている。印刷ユニットカバー19は、印刷ユニット取付空間の正面側、上面側、側面側および背面側を覆う箱形に形成されている。そして、その印刷ユニットカバー19の上面壁には、プリンタAによる印刷時に発生するインクミストを外部に排出するための網付き孔110が形成され、その孔110の下側にファン(図示せず)が取付けられて、印刷ユニットカバー19に固定されている。
ハウジング10は、移動テーブル昇降機構30、移動テーブル往復機構40および印刷機構50を収容する空間を有する。その空間は、前記機構を取り付ける前は、正面壁11から背面壁14まで連続し、上面壁15,16の間に形成されている開口部111において上方に開放されている。
移動テーブル20は、ハウジング10の空間内で、後述される移動テーブル昇降機構30により上下方向(図2のz1,z2方向)に昇降され、かつ、後述される移動テーブル往復機構40によりハウジング10の開口部111内を前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動される。
[移動テーブル昇降機構]
移動テーブル昇降機構30は、移動テーブル20の高さを、プリンタAの印字ヘッドの最大インク射程距離、たとえば9mmの範囲内で変えるものである。その具体的な構成を図6に示す例について説明する。ハウジング10の正面壁11の外側に回転操作部材としてダイヤル31が備えてある。そのダイヤル31の回転中心に一端が接続されたボールねじ32を正面壁11に貫通させるとともに、ハウジング10の空間内を背面壁14方向に水平に延長させ、そのボールねじ32の両端部を底面壁18に立設した支持部材33により回転可能に、しかし、ボールねじ32の軸方向には移動不能に支持している。
そして、二つの支持部材33の間において、ボールねじ32の長手方向の少なくとも2か所に、少なくとも二組のナット34と固定リング35が装着され、各組のナット34と固定リング35の上側部分にそれぞれ長さが等しい2本のリンク36の一端が枢着され、その2本のリンク36の他端同士も枢着されている。固定リング35は、これにボールねじ32を所定位置まで貫通した後、その固定リング35の両側にOリング等の固定具37を固着することにより、所定位置にボールねじ32に対して回転自在に固定されている。固定リング35の固定方法は任意である。
また、2本のリンク36の他端同士の枢着点には、スライダ38が取付けられ、そのスライダ38は上側の移動テーブル支持板39の底面に設けられた、ボールねじ32の軸方向と平行に延びるガイドレール310に滑動可能に嵌合されている。
上記構成により、図6の(a)のように、移動テーブル支持板39が低位置にある状態で移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を例えば右方向に回すと、ナット34が図6の(a)において右方向(固定リング35方向)に移動する。そのため、上側2本のリンク36のボールねじ32に対する角度が大きくなり、図6の(b)に示されているように、移動テーブル支持板39の高さ位置が上昇する。図6の(b)では、変化量がわかり易いように上昇率が誇張して示されているが、実際のプリンタAにおいては、ダイヤル31を初期位置から例えば90度回転したときに、移動テーブル支持板39の位置が9mm上昇するように、ボールねじ32のねじのピッチが設定されている。
上記移動テーブル昇降機構30は、一種のパンタグラフ機構を利用するものであるが、一組のナット34と固定リング35には、図6に実線で示されているように、上側のみに2本のリンク36を設けることに限らず、図6に破線で示されているように、下側にも2本のリンク36’を設けてもよい。上下にリンク36,36’を備える場合は、ダイヤル31を回す時のリンクの動作安定性が高まるので好ましい。
しかし、移動テーブル昇降機構30には、パンタグラフ構造以外のものを使用することもできる。たとえば、ボールねじ32の代わりに軸を用い、その軸の長手方向の複数個所にカムを固着し、そのカムの上面に移動テーブル支持板39を載せた構造としてもよい、その場合は、ダイヤル31の回転角度に応じて、カムの移動テーブル支持板39に当接する面の高さが変わる。移動テーブル支持板39が所望の高さまで上昇したとき、ダイヤル31をその回転角度に止める手段を備えればよい。
[移動テーブル往復機構]
移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20をハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に一定の距離範囲で水平往復移動させるものである。このような移動テーブル往復機構40は、種々の態様で構成することができる。たとえば、図7に示すように、移動テーブル支持板39に取り付けた可逆モータ41により回転されるボールねじ42を設け、そのボールねじ42を移動テーブル20の下面に固定したナット43に螺合させた構成とすることができる。図7において、44はボールねじ42を回転自在に支持するステイであり、移動テーブル支持板39の上面に固定されている。
可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の挿入指示ボタンSaをタッチすると、一方向に回転し、移動テーブル20を前方(図2のy1方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の前端位置まで前進されると、一つのリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の一方向回転が停止される。また、可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の排出指示ボタンSbをタッチすると、他方向に回転し、移動テーブル20を後方(図2のy2方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の後端位置まで後進されると、他のリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の他方向回転が停止される。
移動テーブル往復機構40は、図8に示すように構成することもできる。図8の(a)はハウジング10の側面側から見た図であり、同図(b)は、(a)の左側から見た図である。この移動テーブル往復機構40は、移動テーブル支持板39の上面に固定された可逆モータ45と、その可逆モータ45の回転軸に固着された歯車46と、歯車支持板47に取付けられ、歯車46および相互に噛み合う歯車48およびピニオン49と、ピニオン49に噛み合って可逆モータ45の正回転および逆回転によりハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動されるラック410とで構成することができる。ラック410は移動テーブル20の下面に固着されている。
可逆モータ45の回転運動をラック410の往復運動に変換する機構は、図8の歯車46,48およびピニオン49の代わりに、図9に示すものとすることができる。すなわち、可逆モータ45の回転軸に固着されたプーリ412と、歯車支持板47に取付けられ、相互に噛み合う2つの歯車48およびピニオン49と、歯車48の軸に固着されたプーリ413と、両プーリ412,413に掛け渡された伝動ベルト414とで構成されたものである。
さらに、移動テーブル往復機構40は、上記ボールねじ式やラック・アンド・ピニオン式に限らず、図示されていないが、リニアモータの直線駆動力で移動テーブル20を移動させるリニアモータ式の移動テーブル往復機構を用いることもできる。
[印刷機構]
印刷機構50は、ハウジング10内に取付けられる印刷ユニット51と、後記制御装置Cから与えられる印刷データに基づいて印刷ユニット51を制御し駆動させる印刷制御部を構成する制御基板52と、後述されるように、印刷ユニット51の印刷ヘッドにインクを供給するインク供給部53とを有する。なお、図示されていないが、印刷制御部には制御装置Cから与えられる印刷データを一時保存するバッファメモリ(記憶部)が接続されている。
印刷ユニット51は、ハウジング10内の空間の移動テーブル20が前後方向に移動される領域の上方の、印刷ユニットカバー19により遮蔽される空間に設けられている。印刷ユニット51は、図10に例示するように、ハウジング10に固定されたステッピングモータ511と、そのステッピングモータ511の回転軸に結合され、移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の移動方向に直角な方向(図3、4および図10のx1,x2方向)に延びるボールねじ512と、ボールねじ512と平行に延びるガイド軸513と、ボールねじ512に螺合され、かつ、延びるガイド軸513に嵌合されているヘッドキャリア514と、そのヘッドキャリア514に固定された印刷ヘッド515とからなっている。印刷ヘッド515は、一例として4色のインクを各別に噴射するノズル(図示省略)を有し、それらのノズルは移動テーブル20の移動面に対して垂直(直角下方)にインクを噴射するように、各ノズルの噴射方向が垂直下方に向けられている。印刷ヘッド515には、印刷制御部から与えられる制御信号により各ノズルからインクを噴射させるためのアクチュエータ(図示せず)が備えられている。
図10の516は、ボールねじ512の他端を回転可能に支持する支持部材である。ガイド軸513は、その一端が、ステッピングモータ511をハウジング10に固定する固定部材517に固定され、他端は支持部材516に固定されている。しかし、ボールねじ512の他端の支持とガイド軸513の固定のための上記の構成は一例であり、他の任意の構成とすることができる。
上記移動テーブル20に載置される後述のトレイBの上面に配置される加工食品は、表面に凹凸面を有することが多い。その一般的な深さの凹凸面に対しても、印刷ヘッド515から噴射される微粒子状の可食性インクを加工食品の表面に適切に着地させるため、本実施の形態においては、印刷ヘッド515にシリアルヘッドを用いている。しかし、本発明は、シリアル式プリンタに限定されるものではなく、多数のノズルをライン状に配置した印刷ヘッドを用いるライン式プリンタにも適用することができる。
インク供給部53は、ハウジング10の正面壁11の左右両側の上部に開閉可能に取り付けたカバー531,532と、そのカバー531の背後に窪んで形成されたインクカートリッジホルダ(図示省略)と、そのインクカートリッジホルダに装着されるインクカートリッジ(図示省略)と、各インクカートリッジからインクを印刷ヘッド515の各ノズルに供給するチューブ(図示省略)とを有する。左右のインクカートリッジホルダには、それぞれ所定の色の可食性インクを充填された2本ずつのインクカートリッジ(合計4本)が装填される。なお、加工食品に対する印刷を終了した後、次の印刷を行うまでに時間が経つ場合は、ノズルおよびチューブ内に残存するインクは、食品衛生に影響を与えない洗浄液で洗浄される。その際に発生する廃シンクを収容するための廃インクボトル533が側面壁12,13の一方または双方の外面に、着脱可能に備えられている。
プリンタAに備えられた通信部60は、後述されるトレイBを載せた移動テーブル20が前方に移動されるときに、そのトレイBに設けられた後記トレイ識別コード発信手段202との間で短距離無線通信(NFC)が可能な送受信機61と、後記制御装置CからプリンタAによる印刷に必要な情報の授受に用いられる通信機62とを含む。送受信機61は、通信可能な範囲内に入ったトレイBのトレイ識別コード発信手段202から発信内容を受信し、その発信内容を制御装置Cに送信するものである。詳細は後述される。
操作部70は、ハウジング10の左側の側面壁12の手前側に設けられた主電源スイッチ71と、正面右側の上面壁16の後半部分に設けられた副電源スイッチ72と、同じ上面壁16に設けられた緊急停止スイッチ73とを含む。また、表示部80は、正面右側の上面壁16の前半部分に設けられたタッチパネルで構成されている。
主電源スイッチ71は、プリンタA全体に対する電源のON/OFFをするものであり、副電源スイッチ72はタッチパネル(80)の電源のON/OFFをするものである。緊急停止スイッチ73は、移動テーブル前後往復機構40および印刷機構50等の駆動系ならびにタッチパネル(80)に何らかの異常事態が発生した場合に、緊急に停止させるためのものである。
タッチパネル(80)は、表示機能と入力機能を兼備するものである。図11に例示するように、タッチパネル(80)の表示画面の下側部分にはメインスイッチのシンボル
マーク(以下、メインスイッチという。)SW1、メンテナンススイッチのシンボルマーク(以下、メンテナンススイッチという。)SW2、表示切替スイッチのシンボルマーク(以下、表示切替スイッチという。)SW3等が表示される。また、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、表示切替スイッチSW3をタッチする度に異なるマークまたは文字が表示される。その表示切替により、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、「使用状態の確認」「印刷ヘッドのノズルチェック」「インク充填および排出」「ノズル詰まりチェック」「RANケーブルチェック」などの文字が表示される。
各文字の表示部分をタッチし、チェックの結果、問題がない場合に表示切替スイッチSW3をタッチして、初期画面を表示させると、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分に、図11に例示するような3個のシンボルマークSa,Sb,Scが表示される。すなわち、移動テーブル20の進入を指示するシンボルマーク(以下、進入指示ボタンという。)Sa、たとえば、プリンタAの内方(図11においては上側)に頂点を有する二等辺三角形と、移動テーブル20の排出を指示するシンボルマーク(以下、排出指示ボタンという。)Sb、たとえば、プリンタAの外方(図11においては下側)に頂点を有する二等辺三角形と、緊急停止が必要な場合に停止を指示するシンボルマーク(以下、停止指示ボタンという。)Sc、たとえば円形とである。シンボルマークの意味を明らかにするため、各シンボルマークの至近位置または中に、それぞれ「挿入」「排出」[停止]などの文字が表示されることが好ましい。
好ましい実施の形態においては、移動される移動テーブル20が移動(副走査)されるときに、その移動テーブルに載せてある加工食品が移動(主走査)される印刷ヘッド515に衝突して印刷ヘッド515を損傷させることを防止するため、印刷ヘッド保護機構が備えられている。この印刷ヘッド保護機構は、移動テーブル20に載せたトレイBの上面に配置されている加工食品の高さが印刷ヘッド515のノズル先端の移動面から所定距離、例えば2mm低い位置よりも高いときに、これを検知して、移動テーブル往復機構40の動作を禁止するように構成されている。
図12に示されている例について、説明する。印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも移動テーブル20の手前側(図2のy2側)の、移動テーブル20の移動面よりも高い位置で、かつ、印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも若干低い位置を、光ビームbが通るように、光電センサを構成する発光素子91と受光素子92の一方を移動テーブル20の移動面の左側に、発光素子91と受光素子92の他方を移動テーブル20の移動面の右側に、対向させて取り付けられている。
そして、光ビームbが遮断されたときは、光電センサが検知信号をブザーなどの警報手段に与える。こうして、移動テーブル往復機構40が駆動されて、挿入される移動テーブル20上のトレイBに載せられた加工食品が光ビームbを遮断するときは、警報手段が鳴動する。これに基づき作業者が表示部80の停止指示ボタンScをタッチすると、移動テーブル往復機構40による移動テーブル挿入動作が停止される。したがって、高さの高い加工食品が印刷ヘッド515のノズル先端の移動面に到達する前に、移動テーブル20の移動が停止される。
移動テーブル20の挿入動作が停止された後は、表示部80の排出指示ボタンSbをタッチして、移動テーブル20を初期位置まで排出させ、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を所定方向に回して移動テーブル20の高さ調整をする。そして、再び、進入指示ボタンSaをタッチすると、移動テーブル20は、途中で止められることなく、所定の位置まで挿入される。
[トレイ]
図1のトレイBは、加工食品を所定の位置に載せるものである。加工食品は、クッキー、せんべい、チョコレートなどの量産される固形の加工食品であって、上面に凹凸が無いもの、またはあっても凹凸の深さが浅いものである。トレイBは加工食品の種類に応じて複数個が用意される。そして、図13に例示するように、トレイBの上面には、加工食品の配置位置を指定する指標(目印)201が記載されている。指標201はトレイBの上面にマトリックス状に配置されている。すなわち、移動テーブル20の往復移動方向(図2のy1,y2方向)と平行な複数の直線Lx1,Lx2,・・・と移動テーブルの往復移動方向に対して直角な複数の直線Ly1,Ly2,・・・をそれぞれ等間隔で描いたとした場合の各交点を中心とする円でそれぞれ指標201が記載されている。各直線Lx1,Lx2,・・・、Ly1,Ly2,・・・の間隔はトレイBの種類、つまり、加工食品の種類により異なる。
指標201がマトリックス状に配置されているのは、後述されるように、プリンタAの印刷ヘッド514に対する印刷位置の制御プログラミングを簡単化するためである。印刷位置の制御プログラミングが容易であるならば、指標201の配置パターンは任意に定めることができる。また、指標201の形状も任意である。
各トレイBには、トレイ識別コード発信手段202が設けられている。トレイ識別コード発信手段202は、少なくとも、そのトレイBの識別コードを発信するものである。トレイ識別コード発信手段202は、誘導電界内に入ると電力を受けて、予め設定されている情報を発信する短距離無線通信(NFC)が可能な発信器、例えば、FeliCa等のワンチップ発信器で構成されていることが望ましい。ワンチップ発信器は、トレイBの所定の位置に埋め込まれる。埋め込まれる位置は、例えば、図13に示すように、トレイBの前端が好ましいが、後端等、指標201の配置の妨げにならない位置であれば、どこでもよい。
前記送受信機61は、トレイBに設けられているワンチップ発信器(202)が所定の距離以内に接近したときに、そのワンチップ発信器に電力を与える。これにより、ワンチップ発信器202は、送受信機61との間で通信可能になる。送受信機61は、移動テーブル上のトレイBに設けられているワンチップ発信器(202)との間で通信可能なエリア内であれば、ハウジング1の天上壁17または印刷ユニットカバー19に限らず任意の位置に取り付けられてもよい。
送受信機61は、いずれかのトレイBのワンチップ発信器(202)から発信内容を受信すると、その受信内容を後述される制御装置Cとの間に設けられているRAN(Rocal Area Network)を介して制御装置Cに送信するように構成されている。
トレイBにワンチップ発信器(102)が埋め込まれているだけでは、後述されるように、プリンタAの送受信機61が受信した内容がプリンタAの表示部70に表示されるまで、そのトレイBに対する印刷内容がわからない不都合があり得る。この不都合を回避するため、トレイBの上面の手前側などに、目視確認が可能な加工食品の種類(商品名)や識別番号等を印刷したシールを貼って置くことが望ましい。
ハウジング10に設けられた通信機62は、後述される制御装置Cの通信部307との間でRANを介して通信を行うものである。そして、後述するように、制御装置Cが出力する印刷データを制御装置Cの通信部307、通信機62を介してプリンタAの制御基板52に与える。
[制御装置]
続いて、制御装置Cについて説明する。制御装置Cは、図14に例示するように、中央演算部(CPU)301と、このCPU301にバス302を介して接続されている記憶部303と、CPU301にインターフェース304を介して接続されている入力部305と、表示部(出力部)306と、通信部307とを有している。プリンタAの通信機62と制御装置Cの通信部307は、ケーブルで直接繋いでもよい。
CPU301は、主としてプリンタAから通信機62、通信部307を介して与えられる情報に基づいて、後述するように、トレイB上の加工食品に対して所定の印刷動作をプリンタAに行わせるために必要な処理および制御を、記憶部303および表示部(出力部)306に対して行う。
記憶部303には、プリンタAを制御するためのシステムプログラムおよび制御装置Cの動作中に発生する各種のワーキングデータのほか、印刷データテーブル303aが格納されている。印刷データテーブル303aには、図15に例示するように、少なくとも、各トレイ識別コードTIDC1〜TIDCnと、そのトレイ識別コードが付けられたトレイに載置される1個の加工食品に対する印刷内容を決める印刷内容データ(図柄、列数、行数)PD1〜PDnおよびそのトレイの各指標の位置を表す指標位置データMPD1〜MPDnとを結合してなる印刷データが記憶されている。
1個の加工食品に対する印刷データ(印刷内容データと指標位置データ)に基づいて、移動されるトレイBの各指標201の位置に対してプリンタの印刷ヘッド515からインクが噴射されることにより、トレイB上の各行ごとの各列の指標、すなわち、トレイ上の全指標201の上に配置されている加工食品に同じ印刷内容が印刷される。
印刷内容データにより表される印刷内容は、各種の図柄、商品情報および/またはトレイサビリティを示す情報等のいずれか一つまたは複数の混合でもよい。
入力部305は、図1に示すように、キーボード305a、マウス305b、または表示部に備えられたタッチパネル305cなどを有する既知のものである。入力部305は、印刷データテーブルの印刷内容の作成・変更、すなわち、図柄の作成・変更、削除、追加や指標の位置の変更などをする場合に用いられる。印刷データは、他の装置で作成されたものをこの制御装置Cにダウンロードしたり、または他の装置で作成されたものを可搬記憶媒体に格納し、その可搬記憶媒体をこの制御装置Cに装填したりして、記憶部303に格納することもできる。
表示部(出力部)306は、入力作業中の入力内容を確認するために表示したり、プリンタAが印刷中の印刷内容および印刷回数を表示したりする。上記のように、表示部(出力部)306の表示画面にタッチパネル305cが備えられる場合がある。
[印刷システムの作用]
(プリンタ側の動作)
次に本実施の形態に係る印刷システムの作用を図16A,図16Bおよび図17を参照しながら説明する。
まず、プリンタAの電源(主電源、副電源)を入れると、一般的な電気機械におけると同様に、制御部が初期化(S101)を行い、正常な状態でスタンバイ状態となる。この時、移動テーブル20は前回の印刷終了時の高さにあり、また、テーブル20の上面全部がプリンタAの前部開口面から上方に開放されている位置、すなわち、始端位置に存在している。
作業者は、印刷対象加工食品に対応するトレイBを選択して、そのトレイBを移動テーブル20の上面の所定位置に載せる(S102)。このトレイBには、前述した1チップ発信器202が取り付けられている。次に作業者は、そのトレイBの各指標201の上に印刷対象加工食品を配置する(S103)。続いて、作業者はその配置された加工食品の外観から、あるいは記憶に基づいて加工食品の厚みを推測し、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を操作して移動テーブル20の高さをトレイ上の加工食品の頂部が障害物検知センサ91,92の光ビームbを遮光しない高さに調整する(S104)。
高さ調整後、タッチパネル80の前進指示ボタンSaをタッチして移動テーブル往復機構40の制御部に前進指示信号を与える(S105においてY)と、その制御部は移動テーブル往復機構40に移動テーブル20の前進を開始させる(S106)。
移動テーブルの高さ調整が適正でないため、障害物検知センサが障害物(加工食品)を検知した時は、制御部は移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の前進を止め、始端位置まで後退させる(S108)。しかし、障害物を検知しないときは、移動テーブルの前進を継続し、その移動テーブル20が前進方向の終端に到達したことが検知される(S109においてY)と、移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20の前進を止める(S110)。
その停止までの間に、送受信機61が1チップ発信器202からトレイ識別コードを受信した場合(S111においてY)は、そのトレイ識別コードを制御装置Cに送信する(S112)。そして、制御装置Cからそのトレイ識別コードに対応する印刷データが送られてくるのを待つ(S113)。印刷データが送られてきたとき(S113においてY)は、その印刷データをプリンタAのバッファメモリに保存する(S114)。
その後、タッチパネル80の後退指示ボタンSbがタッチされたとき(S115でY)は、移動テーブル往復機構40の制御部が移動テーブル20の後退を開始させる(S116)。これとともに、プリンタの印刷制御部が一連の印刷動作のために印刷ヘッドを制御駆動する(S117)。すなわち、移動テーブル往復機構の制御部が出力する制御パルス数を計数し、所定のパルスと同調して(すなわち、副走査と同期して)、バッファメモリから印刷データを読出し、ノズルアクチュエータを駆動して、移動する移動テーブルに載っているトレイBに配置されている加工食品に対して所定のノズルから可食性インクを噴射して所定の印刷内容を印刷する(S117)。
トレイ1個分の印刷が終了した後、後退中の移動テーブル20が始端に到達したことが検知される(S118においてY)と、移動テーブルの後退が停止される(S190)。
こうして、トレイ1個分の印刷を終わった後は、タッチパネル80の印刷停止ボタンScがタッチされたか否か(印刷終了指示が入力されたか否か)を調べる(S120)。印刷終了指示が入力されたときは(S120でY)、バッファメモリに保存された印刷データを消去し、トレイBから受信したトレイ識別コードに対応する印刷処理を終了する。
S120において印刷終了指示が入力されないときは、S102に戻り、次のトレイの載置が行われ、以後、S111まで前回と同様の動作が行われる。
2回目に移動テーブル20に載せたトレイBが、最初に載せたトレイと同じトレイ識別コードを発信する発信器202を有する場合、または、異なるトレイ識別コードを発信する発信器を有する場合は、前回と同様にS111からS120までの処理が行われる。しかし、S111において、トレイからトレイ識別コードを受信しないときは、S122に進み、バッファメモリに印刷データが保存されているか否かを調べ、保存されている場合は、S115に移行し、その後はS116からS120まで実行されて、保存されている印刷データを用いてそのトレイに対する印刷が行われる。すなわち、トレイ識別コード発信器が取り付けられていないトレイであっても、前回印刷したトレイと同じ指標配置パターンを有するトレイであれば、そのトレイに載置された加工食品に対して同一の印刷内容が印刷される。換言すると、1種類の加工食品を複数トレイ分印刷する場合は、最初の1個のトレイにトレイ識別コード発信手段を設け、ほかのトレイには最初のトレイと同じ指標配置パターンを持たせるだけで良く、トレイ識別コード発信手段を設ける必要がない。
(制御装置側の動作)
一方、制御装置Cにおいては、プリンタAからトレイ識別コードを受信するのを待機している(S201)。そして、トレイ識別コードを受信する(S201においてY)と、データベースの中からそのトレイ識別コードに対応して記憶している印刷データを検索し、その印刷データを読出して(S202)、プリンタAに送る(S203)。1回のトレイ識別コード受信に対する印刷データの送信後は、S201に戻り、次のトレイ識別コードの受信を待機する。
[他の実施の形態]
移動テーブル昇降機構40による移動テーブル20の高さ調整は、ボールねじに直結されたダイヤル31を用いる手動調整に代えて、ボールねじを回転させる可逆モータと、その可逆モータの回転方向及び回転量を制御する制御回路と、制御回路に制御信号を与える操作部、たとえばダイヤルなどから構成された高さ調整装置を用いることもできる。
また、移動テーブルの前進距離および後退距離を決める手段としては、上述された終端到達検知センサおよび始端到達検知センサを用いることに代えて、移動テーブル往復機構40のボールねじを回転させるモータにステッピングモータを用い、そのステッピングモータの正転時または逆転時に与えられるパルス数を計数し、その計数値が所定値になった時にステッピングモータの回転を止める方法を用いることもできる。
さらに、トレイのトレイ識別コードは1チップ発信器に発信させることに代えて、トレイ識別コードを表すバーコードもしくはカルラコードを印刷したラベルをトレイに貼付するとともに、プリンタA側にそのトレイのバーコードもしくはカルラコードを読取る読取器を取付けることによってもトレイ識別の目的を達成することができる。
本発明の印刷システムは、可食性インクで加工食品に印刷するプリンタに限らず、加工食品以外の印刷媒体に非可食性インクで印刷するプリンタにも適用可能である。
A インクジェットプリンタ(プリンタ)
10 ハウジング
20 移動テーブル
30 移動テーブル昇降機構
40 移動テーブル往復機構
50 印刷機構
51 印刷ユニット
52 印刷制御部(制御基板)
53 インク供給部
60 通信部
61 送受信機
62 通信機
70 操作部
80 表示部(タッチパネル)
91,92 障害物検知センサ
B トレイ
201 指標
202 トレイ識別コード発信手段(1チップ発信器)
C 制御装置
本発明は、印刷システム、とくに印刷媒体が加工食品である場合に好適なものに関する。
量産される固形の加工食品の中に、種類が異なっても厚さの変化が余り大きくないものとして、クッキー、せんべい、チョコレートなどがある。これらを以下、加工食品と言う。
近年、このような加工食品に、可食性インクで絵等の装飾、商品情報、あるいはトレイサビリティ等を印刷することが提案されている。表面の凹凸の深さが限られている加工食品に印刷するには、インクの射程距離が大きいインクジェットプリンタが用いられる。以下、インクジェットプリンタをプリンタと略称する。
また、多量の加工食品に印刷する方式としては、加工食品の製造ライン中に固定式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、製造ラインを流れる加工食品に対して定位置で順次印刷するライン方式と、製造後の加工食品をトレイ上面の所定位置に並べて置き、そのトレイの上方を移動する可動式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、その一まとまりの加工食品に印刷するシリアル方式とが提案されている。
従来のシリアル方式の印刷システムにおいては、プリンタに、印刷ヘッドの主走査方向に対して直角な方向(副走査方向)に往復移動する移動テーブルを設けている。また、加工食品の配置位置を示す複数の指標(目印)が印刷されている位置決め用の台紙が加工食品の種類ごとに用意される。台紙の各指標の印刷位置は、加工食品の種類により異なる。そして、印刷しようとする加工食品の種類に対応する台紙を選択して、移動テーブルの上面に載せる。その台紙の上に透明なトレイを置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置する。
プリンタに接続されている制御装置は、コンピュータで構成されていて、中央制御部(CPU)と、記憶部と、入力部と、表示部とを有する。各加工食品に対する印刷内容は加工食品の種類ごとにデータ化されて、複数種類の印刷データが識別データと共に予め記憶部に記憶されている。そして、ある加工食品に対する印刷を行うときは、作業者が入力部を操作してその加工食品に対応する印刷内容を指定する。そうすると、その指定された印刷内容に対応する印刷データが記憶部から読出され、表示部に表示される。作業者は、表示部に表示された印刷内容を見て、指定に誤りがないことを確認した後、入力部から印刷開始指令信号を入力する。そうすると、読み出された印刷データが制御装置からプリンタに与えられて、プリンタが印刷動作を開始し、印刷ヘッドの主走査とトレイの副走査によりトレイ1個分の加工食品に対する印刷が行なわれる。
トレイ1個分の印刷を終了した後、さらに他のトレイの加工食品に対して同じ印刷内容を印刷する場合は、印刷を終了した1個目のトレイを移動テーブル上面の台紙から手で取り除き、2個目のトレイを1個目のトレイの場合と同様に台紙の上面に置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置した後、再び制御装置から印刷開始指令信号を入力する。3個目以降のトレイついても同様の作業を繰り返す。
先行技術文献は特にない。
したがって、従来は、プリンタ側においては、印刷内容の種類の数と同数の台紙を用意する必要がある。印刷する前に、選択した台紙を移動テーブルに載せさ、その台紙の上に透明なトレイを載せ、そのトレイの上面の、台紙の指標に対応する位置に加工食品を配置する必要がある。また、異なる印刷内容を印刷する場合は、台紙をその印刷内容に対応する別の台紙と交換しなければならない場合が多い。一方、制御装置側においては、同じ印刷内容を複数個のトレイ分印刷をするときは、トレイの数と同じ回数だけ印刷開始指令信号を入力しなければならない。そのため、台紙セット、トレイ載置、加工食品配置、そして、印刷開始指令信号の入力などの多くの作業で、印刷作業者の負担が少なくないという問題がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷システムは、(A)プリンタと、制御装置と、トレイとからなり、(B)プリンタは、前半部の上面に開口するハウジングと、ハウジングの内部に取付けられ、移動テーブルをハウジング内の前部所定位置から後部所定位置までの間を往復移動させる移動テーブル往復機構と、 移動テーブル往復機構にその上側において支持され、移動テーブルを上端面に支持して、その移動テーブルの高さを調整する移動テーブル昇降機構と、ハウジングの移動テーブル移動面の上方に設置され、インク噴射方向を下方に向けたノズルを有する印刷ヘッドを含む印刷ユニットと、印刷ヘッドにインクを供給するインク供給部と、トレイに備えられたトレイ識別コード発信手段からトレイ識別コードを受信する受信手段またはトレイに備えられたトレイ識別コード表示手段が表示するトレイ識別コードを読取る読取手段と、受信手段が受信した、または読取手段が読取ったトレイ識別コードを制御装置に送信するとともに、制御装置から送信される印刷データを受信する通信機と、受信した印刷データを一時保存する記憶部と、一時保存された印刷データを用いて印刷ユニットによる印刷を制御する印刷制御部とを有するものであり、(C)制御装置は、トレイのトレイ識別コードに対応して印刷内容データと当該トレイの加工食品の配置位置を指定する指標配置データからなる印刷データを記憶させてある記憶部と、プリンタから受信したトレイ識別コードに対応する印刷データを記憶部から読み出す読出部と、プリンタの通信機から送信されるトレイ識別コードを受信するとともに、読出部が読み出した印刷データをプリンタに送信する通信部とを有するものであり、(D)トレイは、移動テーブルに交換可能に載置される所定の大きさのものであって、トレイ識別コード発信手段またはトレイ識別コード表示手段を有するとともに、そのトレイに載せられる印刷対象加工食品の配置位置を示す指標が所定の配置パターンに従って印刷されているものであることを特徴とする。
本発明によれば、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することができる。
本発明に係る印刷システムの基本的構成を示す概念図である。
図1の印刷システムの一構成要素であるプリンタの斜視図である。
図2のプリンタの平面図である。
図2のプリンタの正面図である。
図2のプリンタの右側面図である。
プリンタの移動テーブル昇降機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の他の例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構のさらに他の例を示す断面図である。
印刷ユニットの構成の一部を示す図である。
タッチパネルの表示内容の一例を示す図である。
障害物検知センサの取付例を示す図である。
図1のトレイの平面図である。
図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
印刷データテーブルの一例を示す図である。
図1のプリンタの動作の一部を説明するフローチャートである。
図1のプリンタの動作の残部を説明するフローチャートである。
図1の制御装置の処理フローを示すフローチャートである。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[印刷システムの構成]
本発明に係る印刷システムは、概括的には、図1に示すように、プリンタAと、トレイBと、制御装置Cとからなる。
[プリンタ]
図2〜図5に示すように、本発明の実施の形態に係るプリンタAは、ハウジング10と、移動テーブル20と、移動テーブル昇降機構30と、移動テーブル往復機構40と、印刷機構50と、通信部60と、操作部70と、表示部80とを有している。以下にこれらについて順次詳細に説明する。
[ハウジング]
ハウジング10は、プリンタAの外装を兼ねるとともに、上記構成部材20〜80を収容し、取付けるための箱である。ハウジング10は、正面壁11と、正面壁11の左右両端部から後方(図2のy1方向)に延びる側面壁12,13と、側面壁12,13の後端部間を遮蔽する背面壁14と、側面壁12,13の前側部分の上端部から内側に所定の幅を持って延在する上面壁15,16と、側面壁12,13の前後方向(図2のy1,y2方向)の中間部の間に形成された立ち上がり部12’,13’の上端部間に架橋されてハウジング10の上面を遮蔽する天井壁17と、正面壁11、左右の側面壁12,13および背面壁14のそれぞれの下端縁の間の面を遮蔽する底面壁18とを有している。
天井壁17の前端縁には、後述される印刷ユニットの取付空間を形成し、かつ、その取り付けられた印刷ユニットの上側を覆う印刷ユニットカバー19が、印刷ユニットのメンテナンスのために、蝶番19a等により開閉可能に接続されている。印刷ユニットカバー19は、印刷ユニット取付空間の正面側、上面側、側面側および背面側を覆う箱形に形成されている。そして、その印刷ユニットカバー19の上面壁には、プリンタAによる印刷時に発生するインクミストを外部に排出するための網付き孔110が形成され、その孔110の下側にファン(図示せず)が取付けられて、印刷ユニットカバー19に固定されている。
ハウジング10は、移動テーブル昇降機構30、移動テーブル往復機構40および印刷機構50を収容する空間を有する。その空間は、前記機構を取り付ける前は、正面壁11から背面壁14まで連続し、上面壁15,16の間に形成されている開口部111において上方に開放されている。
移動テーブル20は、ハウジング10の空間内で、後述される移動テーブル昇降機構30により上下方向(図2のz1,z2方向)に昇降され、かつ、後述される移動テーブル往復機構40によりハウジング10の開口部111内を前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動される。
[移動テーブル昇降機構]
移動テーブル昇降機構30は、移動テーブル20の高さを、プリンタAの印字ヘッドの最大インク射程距離、たとえば9mmの範囲内で変えるものである。その具体的な構成を図6に示す例について説明する。ハウジング10の正面壁11の外側に回転操作部材としてダイヤル31が備えてある。そのダイヤル31の回転中心に一端が接続されたボールねじ32を正面壁11に貫通させるとともに、ハウジング10の空間内を背面壁14方向に水平に延長させ、そのボールねじ32の両端部を底面壁18に立設した支持部材33により回転可能に、しかし、ボールねじ32の軸方向には移動不能に支持している。
そして、二つの支持部材33の間において、ボールねじ32の長手方向の少なくとも2か所に、少なくとも二組のナット34と固定リング35が装着され、各組のナット34と固定リング35の上側部分にそれぞれ長さが等しい2本のリンク36の一端が枢着され、その2本のリンク36の他端同士も枢着されている。固定リング35は、これにボールねじ32を所定位置まで貫通した後、その固定リング35の両側にOリング等の固定具37を固着することにより、所定位置にボールねじ32に対して回転自在に固定されている。固定リング35の固定方法は任意である。
また、2本のリンク36の他端同士の枢着点には、スライダ38が取付けられ、そのスライダ38は上側の移動テーブル支持板39の底面に設けられた、ボールねじ32の軸方向と平行に延びるガイドレール310に滑動可能に嵌合されている。
上記構成により、図6の(a)のように、移動テーブル支持板39が低位置にある状態で移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を例えば右方向に回すと、ナット34が図6の(a)において右方向(固定リング35方向)に移動する。そのため、上側2本のリンク36のボールねじ32に対する角度が大きくなり、図6の(b)に示されているように、移動テーブル支持板39の高さ位置が上昇する。図6の(b)では、変化量がわかり易いように上昇率が誇張して示されているが、実際のプリンタAにおいては、ダイヤル31を初期位置から例えば90度回転したときに、移動テーブル支持板39の位置が9mm上昇するように、ボールねじ32のねじのピッチが設定されている。
上記移動テーブル昇降機構30は、一種のパンタグラフ機構を利用するものであるが、一組のナット34と固定リング35には、図6に実線で示されているように、上側のみに2本のリンク36を設けることに限らず、図6に破線で示されているように、下側にも2本のリンク36’を設けてもよい。上下にリンク36,36’を備える場合は、ダイヤル31を回す時のリンクの動作安定性が高まるので好ましい。
しかし、移動テーブル昇降機構30には、パンタグラフ構造以外のものを使用することもできる。たとえば、ボールねじ32の代わりに軸を用い、その軸の長手方向の複数個所にカムを固着し、そのカムの上面に移動テーブル支持板39を載せた構造としてもよい、その場合は、ダイヤル31の回転角度に応じて、カムの移動テーブル支持板39に当接する面の高さが変わる。移動テーブル支持板39が所望の高さまで上昇したとき、ダイヤル31をその回転角度に止める手段を備えればよい。
[移動テーブル往復機構]
移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20をハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に一定の距離範囲で水平往復移動させるものである。このような移動テーブル往復機構40は、種々の態様で構成することができる。たとえば、図7に示すように、移動テーブル支持板39に取り付けた可逆モータ41により回転されるボールねじ42を設け、そのボールねじ42を移動テーブル20の下面に固定したナット43に螺合させた構成とすることができる。図7において、44はボールねじ42を回転自在に支持するステイであり、移動テーブル支持板39の上面に固定されている。
可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の挿入指示ボタンSaをタッチすると、一方向に回転し、移動テーブル20を前方(図2のy1方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の前端位置まで前進されると、一つのリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の一方向回転が停止される。また、可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の排出指示ボタンSbをタッチすると、他方向に回転し、移動テーブル20を後方(図2のy2方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の後端位置まで後進されると、他のリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の他方向回転が停止される。
移動テーブル往復機構40は、図8に示すように構成することもできる。図8の(a)はハウジング10の側面側から見た図であり、同図(b)は、(a)の左側から見た図である。この移動テーブル往復機構40は、移動テーブル支持板39の上面に固定された可逆モータ45と、その可逆モータ45の回転軸に固着された歯車46と、歯車支持板47に取付けられ、歯車46および相互に噛み合う歯車48およびピニオン49と、ピニオン49に噛み合って可逆モータ45の正回転および逆回転によりハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動されるラック410とで構成することができる。ラック410は移動テーブル20の下面に固着されている。
可逆モータ45の回転運動をラック410の往復運動に変換する機構は、図8の歯車46,48およびピニオン49の代わりに、図9に示すものとすることができる。すなわち、可逆モータ45の回転軸に固着されたプーリ412と、歯車支持板47に取付けられ、相互に噛み合う2つの歯車48およびピニオン49と、歯車48の軸に固着されたプーリ413と、両プーリ412,413に掛け渡された伝動ベルト414とで構成されたものである。
さらに、移動テーブル往復機構40は、上記ボールねじ式やラック・アンド・ピニオン式に限らず、図示されていないが、リニアモータの直線駆動力で移動テーブル20を移動させるリニアモータ式の移動テーブル往復機構を用いることもできる。
[印刷機構]
印刷機構50は、ハウジング10内に取付けられる印刷ユニット51と、後記制御装置Cから与えられる印刷データに基づいて印刷ユニット51を制御し駆動させる印刷制御部を構成する制御基板52と、後述されるように、印刷ユニット51の印刷ヘッドにインクを供給するインク供給部53とを有する。なお、図示されていないが、印刷制御部には制御装置Cから与えられる印刷データを一時保存するバッファメモリ(記憶部)が接続されている。
印刷ユニット51は、ハウジング10内の空間の移動テーブル20が前後方向に移動される領域の上方の、印刷ユニットカバー19により遮蔽される空間に設けられている。印刷ユニット51は、図10に例示するように、ハウジング10に固定されたステッピングモータ511と、そのステッピングモータ511の回転軸に結合され、移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の移動方向に直角な方向(図3、4および図10のx1,x2方向)に延びるボールねじ512と、ボールねじ512と平行に延びるガイド軸513と、ボールねじ512に螺合され、かつ、ガイド軸513に嵌合されているヘッドキャリア514と、そのヘッドキャリア514に固定された印刷ヘッド515とからなっている。印刷ヘッド515は、一例として4色のインクを各別に噴射するノズル(図示省略)を有し、それらのノズルは移動テーブル20の移動面に対して垂直(直角下方)にインクを噴射するように、各ノズルの噴射方向が垂直下方に向けられている。印刷ヘッド515には、印刷制御部から与えられる制御信号により各ノズルからインクを噴射させるためのアクチュエータ(図示せず)が備えられている。
図10の516は、ボールねじ512の他端を回転可能に支持する支持部材である。ガイド軸513は、その一端が、ステッピングモータ511をハウジング10に固定する固定部材517に固定され、他端は支持部材516に固定されている。しかし、ボールねじ512の他端の支持とガイド軸513の固定のための上記の構成は一例であり、他の任意の構成とすることができる。
上記移動テーブル20に載置される後述のトレイBの上面に配置される加工食品は、表面に凹凸面を有することが多い。その一般的な深さの凹凸面に対しても、印刷ヘッド515から噴射される微粒子状の可食性インクを加工食品の表面に適切に着地させるため、本実施の形態においては、印刷ヘッド515にシリアルヘッドを用いている。しかし、本発明は、シリアル式プリンタに限定されるものではなく、多数のノズルをライン状に配置した印刷ヘッドを用いるライン式プリンタにも適用することができる。
インク供給部53は、ハウジング10の正面壁11の左右両側の上部に開閉可能に取り付けたカバー531,532と、そのカバー531の背後に窪んで形成されたインクカートリッジホルダ(図示省略)と、そのインクカートリッジホルダに装着されるインクカートリッジ(図示省略)と、各インクカートリッジからインクを印刷ヘッド515の各ノズルに供給するチューブ(図示省略)とを有する。左右のインクカートリッジホルダには、それぞれ所定の色の可食性インクを充填された2本ずつのインクカートリッジ(合計4本)が装填される。なお、加工食品に対する印刷を終了した後、次の印刷を行うまでに時間が経つ場合は、ノズルおよびチューブ内に残存するインクは、食品衛生に影響を与えない洗浄液で洗浄される。その際に発生する廃シンクを収容するための廃インクボトル533が側面壁12,13の一方または双方の外面に、着脱可能に備えられている。
プリンタAに備えられた通信部60は、後述されるトレイBを載せた移動テーブル20が前方に移動されるときに、そのトレイBに設けられた後記トレイ識別コード発信手段202との間で短距離無線通信(NFC)が可能な送受信機61と、後記制御装置CからプリンタAによる印刷に必要な情報の授受に用いられる通信機62とを含む。送受信機61は、通信可能な範囲内に入ったトレイBのトレイ識別コード発信手段202から発信内容を受信し、その発信内容を制御装置Cに送信するものである。詳細は後述される。
操作部70は、ハウジング10の左側の側面壁12の手前側に設けられた主電源スイッチ71と、正面右側の上面壁16の後半部分に設けられた副電源スイッチ72と、同じ上面壁16に設けられた緊急停止スイッチ73とを含む。また、表示部80は、正面右側の上面壁16の前半部分に設けられたタッチパネルで構成されている。
主電源スイッチ71は、プリンタA全体に対する電源のON/OFFをするものであり、副電源スイッチ72はタッチパネル(80)の電源のON/OFFをするものである。緊急停止スイッチ73は、移動テーブル前後往復機構40および印刷機構50等の駆動系ならびにタッチパネル(80)に何らかの異常事態が発生した場合に、緊急に停止させるためのものである。
タッチパネル(80)は、表示機能と入力機能を兼備するものである。図11に例示するように、タッチパネル(80)の表示画面の下側部分にはメインスイッチのシンボル
マーク(以下、メインスイッチという。)SW1、メンテナンススイッチのシンボルマーク(以下、メンテナンススイッチという。)SW2、表示切替スイッチのシンボルマーク(以下、表示切替スイッチという。)SW3等が表示される。また、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、表示切替スイッチSW3をタッチする度に異なるマークまたは文字が表示される。その表示切替により、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、「使用状態の確認」「印刷ヘッドのノズルチェック」「インク充填および排出」「ノズル詰まりチェック」「RANケーブルチェック」などの文字が表示される。
各文字の表示部分をタッチし、チェックの結果、問題がない場合に表示切替スイッチSW3をタッチして、初期画面を表示させると、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分に、図11に例示するような3個のシンボルマークSa,Sb,Scが表示される。すなわち、移動テーブル20の前進(図2のy1方向の移動)を指示するシンボルマーク(以下、前進指示ボタンという。)Sa、たとえば、プリンタAの内方(図11においては上側)に頂点を有する二等辺三角形と、移動テーブル20の後退(図2のy2方向の移動)を指示するシンボルマーク(以下、後退指示ボタンという。)Sb、たとえば、プリンタAの外方(図11においては下側)に頂点を有する二等辺三角形と、緊急停止が必要な場合に停止を指示するシンボルマーク(以下、停止指示ボタンという。)Sc、たとえば円形とである。シンボルマークの意味を明らかにするため、各シンボルマークの至近位置または中に、それぞれ「前進」「後退」[停止]などの文字が表示されることが好ましい。
好ましい実施の形態においては、移動される移動テーブル20が移動(副走査)されるときに、その移動テーブルに載せてある加工食品が移動(主走査)される印刷ヘッド515に衝突して印刷ヘッド515を損傷させることを防止するため、印刷ヘッド保護機構が備えられている。この印刷ヘッド保護機構は、移動テーブル20に載せたトレイBの上面に配置されている加工食品の高さが印刷ヘッド515のノズル先端の移動面から所定距離、例えば2mm低い位置よりも高いときに、これを検知して、移動テーブル往復機構40の動作を禁止するように構成されている。
図12に示されている例について、説明する。印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも移動テーブル20の手前側(図2のy2側)の、移動テーブル20の移動面よりも高い位置で、かつ、印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも若干低い位置を、光ビームbが通るように、光電センサを構成する発光素子91と受光素子92の一方を移動テーブル20の移動面の左側に、発光素子91と受光素子92の他方を移動テーブル20の移動面の右側に、対向させて取り付けられている。
そして、光ビームbが遮断されたときは、光電センサが検知信号をブザーなどの警報手段に与える。こうして、移動テーブル往復機構40が駆動されて、前進される移動テーブル20上のトレイBに載せられた加工食品が光ビームbを遮断するときは、警報手段が鳴動する。これに基づき作業者が表示部80の停止指示ボタンScをタッチすると、移動テーブル往復機構40による移動テーブル前進動作が停止される。したがって、高さの高い加工食品が印刷ヘッド515のノズル先端の移動面に到達する前に、移動テーブル20の移動が停止される。
移動テーブル20の前進動作が停止された後は、表示部80の後退指示ボタンSbをタッチして、移動テーブル20を初期位置まで後退させ、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を所定方向に回して移動テーブル20の高さ調整をする。そして、再び、前進指示ボタンSaをタッチすると、移動テーブル20は、途中で止められることなく、所定の位置まで前進される。
[トレイ]
図1のトレイBは、加工食品を所定の位置に載せるものである。加工食品は、クッキー、せんべい、チョコレートなどの量産される固形の加工食品であって、上面に凹凸が無いもの、またはあっても凹凸の深さが浅いものである。トレイBは加工食品の種類に応じて複数個が用意される。そして、図13に例示するように、トレイBの上面には、加工食品の配置位置を指定する指標(目印)201が記載されている。指標201はトレイBの上面にマトリックス状に配置されている。すなわち、移動テーブル20の往復移動方向(図2のy1,y2方向)と平行な複数の直線Lx1,Lx2,・・・と移動テーブルの往復移動方向に対して直角な複数の直線Ly1,Ly2,・・・をそれぞれ等間隔で描いたとした場合の各交点を中心とする円でそれぞれ指標201が記載されている。各直線Lx1,Lx2,・・・、Ly1,Ly2,・・・の間隔はトレイBの種類、つまり、加工食品の種類により異なる。
指標201がマトリックス状に配置されているのは、後述されるように、プリンタAの印刷ヘッド514に対する印刷位置の制御プログラミングを簡単化するためである。印刷位置の制御プログラミングが容易であるならば、指標201の配置パターンは任意に定めることができる。また、指標201の形状も任意である。
各トレイBには、トレイ識別コード発信手段202が設けられている。トレイ識別コード発信手段202は、少なくとも、そのトレイBの識別コードを発信するものである。トレイ識別コード発信手段202は、誘導電界内に入ると電力を受けて、予め設定されている情報を発信する短距離無線通信(NFC)が可能な発信器、例えば、FeliCa等のワンチップ発信器で構成されていることが望ましい。ワンチップ発信器は、トレイBの所定の位置に埋め込まれる。埋め込まれる位置は、例えば、図13に示すように、トレイBの前端が好ましいが、後端等、指標201の配置の妨げにならない位置であれば、どこでもよい。
前記送受信機61は、トレイBに設けられているワンチップ発信器(202)が所定の距離以内に接近したときに、そのワンチップ発信器に電力を与える。これにより、ワンチップ発信器202は、送受信機61との間で通信可能になる。送受信機61は、移動テーブル上のトレイBに設けられているワンチップ発信器(202)との間で通信可能なエリア内であれば、ハウジング1の天上壁17または印刷ユニットカバー19に限らず任意の位置に取り付けられてもよい。
送受信機61は、いずれかのトレイBのワンチップ発信器(202)から発信内容を受信すると、その受信内容を後述される制御装置Cとの間に設けられているRAN(Rocal Area Network)を介して制御装置Cに送信するように構成されている。
トレイBにワンチップ発信器(102)が埋め込まれているだけでは、後述されるように、プリンタAの送受信機61が受信した内容がプリンタAの表示部70に表示されるまで、そのトレイBに対する印刷内容がわからない不都合があり得る。この不都合を回避するため、トレイBの上面の手前側などに、目視確認が可能な加工食品の種類(商品名)や識別番号等を印刷したシールを貼って置くことが望ましい。
ハウジング10に設けられた通信機62は、後述される制御装置Cの通信部307との間でRANを介して通信を行うものである。そして、後述するように、制御装置Cが出力する印刷データを制御装置Cの通信部307、通信機62を介してプリンタAの制御基板52に与える。
[制御装置]
続いて、制御装置Cについて説明する。制御装置Cは、図14に例示するように、中央演算部(CPU)301と、このCPU301にバス302を介して接続されている記憶部303と、CPU301にインターフェース304を介して接続されている入力部305と、表示部(出力部)306と、通信部307とを有している。プリンタAの通信機62と制御装置Cの通信部307は、ケーブルで直接繋いでもよい。
CPU301は、主としてプリンタAから通信機62、通信部307を介して与えられる情報に基づいて、後述するように、トレイB上の加工食品に対して所定の印刷動作をプリンタAに行わせるために必要な処理および制御を、記憶部303および表示部(出力部)306に対して行う。
記憶部303には、プリンタAを制御するためのシステムプログラムおよび制御装置Cの動作中に発生する各種のワーキングデータのほか、印刷データテーブル303aが格納されている。印刷データテーブル303aには、図15に例示するように、少なくとも、各トレイ識別コードTIDC1〜TIDCnと、そのトレイ識別コードが付けられたトレイに載置される1個の加工食品に対する印刷内容を決める印刷内容データ(図柄、列数、行数)PD1〜PDnおよびそのトレイの各指標の位置を表す指標位置データMPD1〜MPDnとを結合してなる印刷データが記憶されている。
1個の加工食品に対する印刷データ(印刷内容データと指標位置データ)に基づいて、移動されるトレイBの各指標201の位置に対してプリンタの印刷ヘッド515からインクが噴射されることにより、トレイB上の各行ごとの各列の指標、すなわち、トレイ上の全指標201の上に配置されている加工食品に同じ印刷内容が印刷される。
印刷内容データにより表される印刷内容は、各種の図柄、商品情報および/またはトレイサビリティを示す情報等のいずれか一つまたは複数の混合でもよい。
入力部305は、図1に示すように、キーボード305a、マウス305b、または表示部に備えられたタッチパネル305cなどを有する既知のものである。入力部305は、印刷データテーブルの印刷内容の作成・変更、すなわち、図柄の作成・変更、削除、追加や指標の位置の変更などをする場合に用いられる。印刷データは、他の装置で作成されたものをこの制御装置Cにダウンロードしたり、または他の装置で作成されたものを可搬記憶媒体に格納し、その可搬記憶媒体をこの制御装置Cに装填したりして、記憶部303に格納することもできる。
表示部(出力部)306は、入力作業中の入力内容を確認するために表示したり、プリンタAが印刷中の印刷内容および印刷回数を表示したりする。上記のように、表示部(出力部)306の表示画面にタッチパネル305cが備えられる場合がある。
[印刷システムの作用]
(プリンタ側の動作)
次に本実施の形態に係る印刷システムの作用を図16A,図16Bおよび図17を参照しながら説明する。
まず、プリンタAの電源(主電源、副電源)を入れると、一般的な電気機械におけると同様に、制御部が初期化(S101)を行い、正常な状態でスタンバイ状態となる。この時、移動テーブル20は前回の印刷終了時の高さにあり、また、テーブル20の上面全部がプリンタAの前部開口面から上方に開放されている位置、すなわち、始端位置に存在している。
作業者は、印刷対象加工食品に対応するトレイBを選択して、そのトレイBを移動テーブル20の上面の所定位置に載せる(S102)。このトレイBには、前述した1チップ発信器202が取り付けられている。次に作業者は、そのトレイBの各指標201の上に印刷対象加工食品を配置する(S103)。続いて、作業者はその配置された加工食品の外観から、あるいは記憶に基づいて加工食品の厚みを推測し、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を操作して移動テーブル20の高さをトレイ上の加工食品の頂部が障害物検知センサ91,92の光ビームbを遮光しない高さに調整する(S104)。
高さ調整後、タッチパネル80の前進指示ボタンSaをタッチして移動テーブル往復機構40の制御部に前進指示信号を与える(S105においてY)と、その制御部は移動テーブル往復機構40に移動テーブル20の前進を開始させる(S106)。
移動テーブルの高さ調整が適正でないため、障害物検知センサが障害物(加工食品)を検知した時は、制御部は移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の前進を止め、始端位置まで後退させる(S108)。しかし、障害物を検知しないときは、移動テーブルの前進を継続し、その移動テーブル20が前進方向の終端に到達したことが検知される(S109においてY)と、移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20の前進を止める(S110)。
その停止までの間に、送受信機61が1チップ発信器202からトレイ識別コードを受信した場合(S111においてY)は、そのトレイ識別コードを制御装置Cに送信する(S112)。そして、制御装置Cからそのトレイ識別コードに対応する印刷データが送られてくるのを待つ(S113)。印刷データが送られてきたとき(S113においてY)は、その印刷データをプリンタAのバッファメモリに保存する(S114)。
その後、タッチパネル80の後退指示ボタンSbがタッチされたとき(S115でY)は、移動テーブル往復機構40の制御部が移動テーブル20の後退を開始させる(S116)。これとともに、プリンタの印刷制御部が一連の印刷動作のために印刷ヘッドを制御駆動する(S117)。すなわち、移動テーブル往復機構の制御部が出力する制御パルス数を計数し、所定のパルスと同調して(すなわち、副走査と同期して)、バッファメモリから印刷データを読出し、ノズルアクチュエータを駆動して、移動する移動テーブルに載っているトレイBに配置されている加工食品に対して所定のノズルから可食性インクを噴射して所定の印刷内容を印刷する(S117)。
トレイ1個分の印刷が終了した後、後退中の移動テーブル20が始端に到達したことが検知される(S118においてY)と、移動テーブルの後退が停止される(S190)。
こうして、トレイ1個分の印刷を終わった後は、タッチパネル80の印刷停止ボタンScがタッチされたか否か(印刷終了指示が入力されたか否か)を調べる(S120)。印刷終了指示が入力されたときは(S120でY)、バッファメモリに保存された印刷データを消去し、トレイBから受信したトレイ識別コードに対応する印刷処理を終了する。
S120において印刷終了指示が入力されないときは、S102に戻り、次のトレイの載置が行われ、以後、S111まで前回と同様の動作が行われる。
2回目に移動テーブル20に載せたトレイBが、最初に載せたトレイと同じトレイ識別コードを発信する発信器202を有する場合、または、異なるトレイ識別コードを発信する発信器を有する場合は、前回と同様にS111からS120までの処理が行われる。しかし、S111において、トレイからトレイ識別コードを受信しないときは、S122に進み、バッファメモリに印刷データが保存されているか否かを調べ、保存されている場合は、S115に移行し、その後はS116からS120まで実行されて、保存されている印刷データを用いてそのトレイに対する印刷が行われる。すなわち、トレイ識別コード発信器が取り付けられていないトレイであっても、前回印刷したトレイと同じ指標配置パターンを有するトレイであれば、そのトレイに載置された加工食品に対して同一の印刷内容が印刷される。換言すると、1種類の加工食品を複数トレイ分印刷する場合は、最初の1個のトレイにトレイ識別コード発信手段を設け、ほかのトレイには最初のトレイと同じ指標配置パターンを持たせるだけで良く、トレイ識別コード発信手段を設ける必要がない。
(制御装置側の動作)
一方、制御装置Cにおいては、プリンタAからトレイ識別コードを受信するのを待機している(S201)。そして、トレイ識別コードを受信する(S201においてY)と、データベースの中からそのトレイ識別コードに対応して記憶している印刷データを検索し、その印刷データを読出して(S202)、通信部3007を介してプリンタAに送る(S203)。1回のトレイ識別コード受信に対する印刷データの送信後は、S201に戻り、次のトレイ識別コードの受信を待機する。
[他の実施の形態]
移動テーブル昇降機構40による移動テーブル20の高さ調整は、ボールねじに直結されたダイヤル31を用いる手動調整に代えて、ボールねじを回転させる可逆モータと、その可逆モータの回転方向及び回転量を制御する制御回路と、制御回路に制御信号を与える操作部、たとえばダイヤルなどから構成された高さ調整装置を用いることもできる。
また、移動テーブルの前進距離および後退距離を決める手段としては、上述された終端到達検知センサおよび始端到達検知センサを用いることに代えて、移動テーブル往復機構40のボールねじを回転させるモータにステッピングモータを用い、そのステッピングモータの正転時または逆転時に与えられるパルス数を計数し、その計数値が所定値になった時にステッピングモータの回転を止める方法を用いることもできる。
さらに、トレイのトレイ識別コードは1チップ発信器に発信させることに代えて、トレイ識別コードを表すバーコードもしくはカルラコードを印刷したラベルをトレイに貼付するとともに、プリンタA側にそのトレイのバーコードもしくはカルラコードを読取る読取器を取付けることによってもトレイ識別の目的を達成することができる。
本発明の印刷システムは、可食性インクで加工食品に印刷するプリンタに限らず、加工食品以外の印刷媒体に非可食性インクで印刷するプリンタにも適用可能である。
A インクジェットプリンタ(プリンタ)
10 ハウジング
20 移動テーブル
30 移動テーブル昇降機構
40 移動テーブル往復機構
50 印刷機構
51 印刷ユニット
52 印刷制御部(制御基板)
53 インク供給部
60 通信部
61 送受信機
62 通信機
70 操作部
80 表示部(タッチパネル)
91,92 障害物検知センサ
B トレイ
201 指標
202 トレイ識別コード発信手段(1チップ発信器)
C 制御装置
本発明は、印刷システム、とくに印刷媒体が加工食品である場合に好適なものに関する。
量産される固形の加工食品の中に、種類が異なっても厚さの変化が余り大きくないものとして、クッキー、せんべい、チョコレートなどがある。これらを以下、加工食品と言う。
近年、このような加工食品に、可食性インクで絵等の装飾、商品情報、あるいはトレイサビリティ等を印刷することが提案されている。表面の凹凸の深さが限られている加工食品に印刷するには、インクの射程距離が大きいインクジェットプリンタが用いられる。以下、インクジェットプリンタをプリンタと略称する。
また、多量の加工食品に印刷する方式としては、加工食品の製造ライン中に固定式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、製造ラインを流れる加工食品に対して定位置で順次印刷するライン方式と、製造後の加工食品をトレイ上面の所定位置に並べて置き、そのトレイの上方を移動する可動式印刷ヘッドを用いるプリンタを設け、その一まとまりの加工食品に印刷するシリアル方式とが提案されている。
従来のシリアル方式の印刷システムにおいては、プリンタに、印刷ヘッドの主走査方向に対して直角な方向(副走査方向)に往復移動する移動テーブルを設けている。また、加工食品の配置位置を示す複数の指標(目印)が印刷されている位置決め用の台紙が加工食品の種類ごとに用意される。台紙の各指標の印刷位置は、加工食品の種類により異なる。そして、印刷しようとする加工食品の種類に対応する台紙を選択して、移動テーブルの上面に載せる。その台紙の上に透明なトレイを置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置する。
プリンタに接続されている制御装置は、コンピュータで構成されていて、中央制御部(CPU)と、記憶部と、入力部と、表示部とを有する。各加工食品に対する印刷内容は加工食品の種類ごとにデータ化されて、複数種類の印刷データが識別データと共に予め記憶部に記憶されている。そして、ある加工食品に対する印刷を行うときは、作業者が入力部を操作してその加工食品に対応する印刷内容を指定する。そうすると、その指定された印刷内容に対応する印刷データが記憶部から読出され、表示部に表示される。作業者は、表示部に表示された印刷内容を見て、指定に誤りがないことを確認した後、入力部から印刷開始指令信号を入力する。そうすると、読み出された印刷データが制御装置からプリンタに与えられて、プリンタが印刷動作を開始し、印刷ヘッドの主走査とトレイの副走査によりトレイ1個分の加工食品に対する印刷が行なわれる。
トレイ1個分の印刷を終了した後、さらに他のトレイの加工食品に対して同じ印刷内容を印刷する場合は、印刷を終了した1個目のトレイを移動テーブル上面の台紙から手で取り除き、2個目のトレイを1個目のトレイの場合と同様に台紙の上面に置き、そのトレイの上面の、下に見える各指標の上に加工食品を配置した後、再び制御装置から印刷開始指令信号を入力する。3個目以降のトレイについても同様の作業を繰り返す。
先行技術文献は特にない。
したがって、従来は、プリンタ側においては、印刷内容の種類の数と同数の台紙を用意する必要がある。印刷する前に、選択した台紙を移動テーブルに載せ、その台紙の上に透明なトレイを載せ、そのトレイの上面の、台紙の指標に対応する位置に加工食品を配置する必要がある。また、異なる印刷内容を印刷する場合は、台紙をその印刷内容に対応する別の台紙と交換しなければならない場合が多い。一方、制御装置側においては、同じ印刷内容を複数個のトレイ分印刷をするときは、トレイの数と同じ回数だけ印刷開始指令信号を入力しなければならない。そのため、台紙セット、トレイ載置、加工食品配置、そして、印刷開始指令信号の入力などの多くの作業で、印刷作業者の負担が少なくないという問題がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷システムは、(A)プリンタと、制御装置と、トレイとからなり、(B)プリンタは、前半部の上面に開口するハウジングと、ハウジングの内部に取付けられ、移動テーブルをハウジング内の前部所定位置から後部所定位置までの間を往復移動させる移動テーブル往復機構と、移動テーブル往復機構にその上側において支持され、移動テーブルを上端面に支持して、その移動テーブルの高さを調整する移動テーブル昇降機構と、ハウジングの移動テーブル移動面の上方に設置され、インク噴射方向を下方に向けたノズルを有する印刷ヘッドを含む印刷ユニットと、印刷ヘッドにインクを供給するインク供給部と、トレイに備えられたトレイ識別コード発信手段からトレイ識別コードを受信する受信手段またはトレイに備えられたトレイ識別コード表示手段が表示するトレイ識別コードを読取る読取手段と、受信手段が受信した、または読取手段が読取ったトレイ識別コードを制御装置に送信するとともに、制御装置から送信される印刷データを受信する通信機と、受信した印刷データを一時保存する記憶部と、一時保存された印刷データを用いて印刷ユニットによる印刷を制御する印刷制御部とを有するものであり、(C)制御装置は、トレイのトレイ識別コードに対応して印刷内容データと当該トレイの加工食品の配置位置を指定する指標配置データからなる印刷データを記憶させてある記憶部と、プリンタから受信したトレイ識別コードに対応する印刷データを記憶部から読み出す読出部と、プリンタの通信機から送信されるトレイ識別コードを受信するとともに、読出部が読み出した印刷データをプリンタに送信する通信部とを有するものであり、(D)トレイは、移動テーブルに交換可能に載置される所定の大きさのものであって、トレイ識別コード発信手段またはトレイ識別コード表示手段を有するとともに、そのトレイに載せられる印刷対象加工食品の配置位置を示す指標が所定の配置パターンに従って印刷されているものであることを特徴とする。
本発明によれば、表面の凹凸の深さが限られている複数種類の加工食品に対して可食性インクで印刷する印刷システムにおいて、台紙が不要で、印刷内容の指定が簡単にでき、同じ印刷内容を複数回印刷する場合でも、制御装置側における印刷開始指令信号の入力回数を削減することができる印刷システムを提供することができる。
本発明に係る印刷システムの基本的構成を示す概念図である。
図1の印刷システムの一構成要素であるプリンタの斜視図である。
図2のプリンタの平面図である。
図2のプリンタの正面図である。
図2のプリンタの右側面図である。
プリンタの移動テーブル昇降機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の一例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構の他の例を示す断面図である。
プリンタの移動テーブル往復機構のさらに他の例を示す断面図である。
印刷ユニットの構成の一部を示す図である。
タッチパネルの表示内容の一例を示す図である。
障害物検知センサの取付例を示す図である。
図1のトレイの平面図である。
図1の制御装置の構成を示すブロック図である。
印刷データテーブルの一例を示す図である。
図1のプリンタの動作の一部を説明するフローチャートである。
図1のプリンタの動作の残部を説明するフローチャートである。
図1の制御装置の処理フローを示すフローチャートである。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[印刷システムの構成]
本発明に係る印刷システムは、概括的には、図1に示すように、プリンタAと、トレイBと、制御装置Cとからなる。
[プリンタ]
図2〜図5に示すように、本発明の実施の形態に係るプリンタAは、ハウジング10と、移動テーブル20と、移動テーブル昇降機構30と、移動テーブル往復機構40と、印刷機構50と、通信部60と、操作部70と、表示部80とを有している。以下にこれらについて順次詳細に説明する。
[ハウジング]
ハウジング10は、プリンタAの外装を兼ねるとともに、上記構成部材20〜80を収容し、取付けるための箱である。ハウジング10は、正面壁11と、正面壁11の左右両端部から後方(図2のy1方向)に延びる側面壁12,13と、側面壁12,13の後端部間を遮蔽する背面壁14と、側面壁12,13の前側部分の上端部から内側に所定の幅を持って延在する上面壁15,16と、側面壁12,13の前後方向(図2のy1,y2方向)の中間部の間に形成された立ち上がり部12’,13’の上端部間に架橋されてハウジング10の上面を遮蔽する天井壁17と、正面壁11、左右の側面壁12,13および背面壁14のそれぞれの下端縁の間の面を遮蔽する底面壁18とを有している。
天井壁17の前端縁には、後述される印刷ユニットの取付空間を形成し、かつ、その取り付けられた印刷ユニットの上側を覆う印刷ユニットカバー19が、印刷ユニットのメンテナンスのために、蝶番19a等により開閉可能に接続されている。印刷ユニットカバー19は、印刷ユニット取付空間の正面側、上面側、側面側および背面側を覆う箱形に形成されている。そして、その印刷ユニットカバー19の上面壁には、プリンタAによる印刷時に発生するインクミストを外部に排出するための網付き孔110が形成され、その孔110の下側にファン(図示せず)が取付けられて、印刷ユニットカバー19に固定されている。
ハウジング10は、移動テーブル昇降機構30、移動テーブル往復機構40および印刷機構50を収容する空間を有する。その空間は、前記機構を取り付ける前は、正面壁11から背面壁14まで連続し、上面壁15,16の間に形成されている開口部111において上方に開放されている。
移動テーブル20は、ハウジング10の空間内で、後述される移動テーブル昇降機構30により上下方向(図2のz1,z2方向)に昇降され、かつ、後述される移動テーブル往復機構40によりハウジング10の開口部111内を前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動される。
[移動テーブル昇降機構]
移動テーブル昇降機構30は、移動テーブル20の高さを、プリンタAの印字ヘッドの最大インク射程距離、たとえば9mmの範囲内で変えるものである。その具体的な構成を図6に示す例について説明する。ハウジング10の正面壁11の外側に回転操作部材としてダイヤル31が備えてある。そのダイヤル31の回転中心に一端が接続されたボールねじ32を正面壁11に貫通させるとともに、ハウジング10の空間内を背面壁14方向に水平に延長させ、そのボールねじ32の両端部を底面壁18に立設した支持部材33により回転可能に、しかし、ボールねじ32の軸方向には移動不能に支持している。
そして、二つの支持部材33の間において、ボールねじ32の長手方向の少なくとも2か所に、少なくとも二組のナット34と固定リング35が装着され、各組のナット34と固定リング35の上側部分にそれぞれ長さが等しい2本のリンク36の一端が枢着され、その2本のリンク36の他端同士も枢着されている。固定リング35は、これにボールねじ32を所定位置まで貫通した後、その固定リング35の両側にOリング等の固定具37を固着することにより、所定位置にボールねじ32に対して回転自在に固定されている。
固定リング35の固定方法は任意である。
また、2本のリンク36の他端同士の枢着点には、スライダ38が取付けられ、そのスライダ38は上側の移動テーブル支持板39の底面に設けられた、ボールねじ32の軸方向と平行に延びるガイドレール310に滑動可能に嵌合されている。
上記構成により、図6の(a)のように、移動テーブル支持板39が低位置にある状態で移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を例えば右方向に回すと、ナット34が図6の(a)において右方向(固定リング35方向)に移動する。そのため、上側2本のリンク36のボールねじ32に対する角度が大きくなり、図6の(b)に示されているように、移動テーブル支持板39の高さ位置が上昇する。図6の(b)では、変化量がわかり易いように上昇率が誇張して示されているが、実際のプリンタAにおいては、ダイヤル31を初期位置から例えば90度回転したときに、移動テーブル支持板39の位置が9mm上昇するように、ボールねじ32のねじのピッチが設定されている。
上記移動テーブル昇降機構30は、一種のパンタグラフ機構を利用するものであるが、一組のナット34と固定リング35には、図6に実線で示されているように、上側のみに2本のリンク36を設けることに限らず、図6に破線で示されているように、下側にも2本のリンク36’を設けてもよい。上下にリンク36,36’を備える場合は、ダイヤル31を回す時のリンクの動作安定性が高まるので好ましい。
しかし、移動テーブル昇降機構30には、パンタグラフ構造以外のものを使用することもできる。たとえば、ボールねじ32の代わりに軸を用い、その軸の長手方向の複数個所にカムを固着し、そのカムの上面に移動テーブル支持板39を載せた構造としてもよい、その場合は、ダイヤル31の回転角度に応じて、カムの移動テーブル支持板39に当接する面の高さが変わる。移動テーブル支持板39が所望の高さまで上昇したとき、ダイヤル31をその回転角度に止める手段を備えればよい。
[移動テーブル往復機構]
移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20をハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に一定の距離範囲で水平往復移動させるものである。このような移動テーブル往復機構40は、種々の態様で構成することができる。たとえば、図7に示すように、移動テーブル支持板39に取り付けた可逆モータ41により回転されるボールねじ42を設け、そのボールねじ42を移動テーブル20の下面に固定したナット43に螺合させた構成とすることができる。図7において、44はボールねじ42を回転自在に支持するステイであり、移動テーブル支持板39の上面に固定されている。
可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の挿入指示ボタンSaをタッチすると、一方向に回転し、移動テーブル20を前方(図2のy1方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の前端位置まで前進されると、一つのリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の一方向回転が停止される。また、可逆モータ41は、後記タッチパネル(80)の排出指示ボタンSbをタッチすると、他方向に回転し、移動テーブル20を後方(図2のy2方向)に移動させる。移動テーブル20が所定の後端位置まで後進されると、他のリミットスイッチ(図示せず)がONされるため、可逆モータ41の他方向回転が停止される。
移動テーブル往復機構40は、図8に示すように構成することもできる。図8の(a)はハウジング10の側面側から見た図であり、同図(b)は、(a)の左側から見た図である。この移動テーブル往復機構40は、移動テーブル支持板39の上面に固定された可逆モータ45と、その可逆モータ45の回転軸に固着された歯車46と、歯車支持板47に取付けられ、歯車46および相互に噛み合う歯車48およびピニオン49と、ピニオン49に噛み合って可逆モータ45の正回転および逆回転によりハウジング10の前後方向(図2のy1,y2方向)に往復移動されるラック410とで構成することができる。ラック410は移動テーブル20の下面に固着されている。
可逆モータ45の回転運動をラック410の往復運動に変換する機構は、図8の歯車46,48およびピニオン49の代わりに、図9に示すものとすることができる。すなわち、可逆モータ45の回転軸に固着されたプーリ412と、歯車支持板47に取付けられ、相互に噛み合う2つの歯車48およびピニオン49と、歯車48の軸に固着されたプーリ413と、両プーリ412,413に掛け渡された伝動ベルト414とで構成されたものである。
さらに、移動テーブル往復機構40は、上記ボールねじ式やラック・アンド・ピニオン式に限らず、図示されていないが、リニアモータの直線駆動力で移動テーブル20を移動させるリニアモータ式の移動テーブル往復機構を用いることもできる。
[印刷機構]
印刷機構50は、ハウジング10内に取付けられる印刷ユニット51と、後記制御装置Cから与えられる印刷データに基づいて印刷ユニット51を制御し駆動させる印刷制御部を構成する制御基板52と、後述されるように、印刷ユニット51の印刷ヘッドにインクを供給するインク供給部53とを有する。なお、図示されていないが、印刷制御部には制御装置Cから与えられる印刷データを一時保存するバッファメモリ(記憶部)が接続されている。
印刷ユニット51は、ハウジング10内の空間の移動テーブル20が前後方向に移動される領域の上方の、印刷ユニットカバー19により遮蔽される空間に設けられている。印刷ユニット51は、図10に例示するように、ハウジング10に固定されたステッピングモータ511と、そのステッピングモータ511の回転軸に結合され、移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の移動方向に直角な方向(図3、4および図10のx1,x2方向)に延びるボールねじ512と、ボールねじ512と平行に延びるガイド軸513と、ボールねじ512に螺合され、かつ、ガイド軸513に嵌合されているヘッドキャリア514と、そのヘッドキャリア514に固定された印刷ヘッド515とからなっている。印刷ヘッド515は、一例として4色のインクを各別に噴射するノズル(図示省略)を有し、それらのノズルは移動テーブル20の移動面に対して垂直(直角下方)にインクを噴射するように、各ノズルの噴射方向が垂直下方に向けられている。印刷ヘッド515には、印刷制御部から与えられる制御信号により各ノズルからインクを噴射させるためのアクチュエータ(図示せず)が備えられている。
図10の516は、ボールねじ512の他端を回転可能に支持する支持部材である。ガイド軸513は、その一端が、ステッピングモータ511をハウジング10に固定する固定部材517に固定され、他端は支持部材516に固定されている。しかし、ボールねじ512の他端の支持とガイド軸513の固定のための上記の構成は一例であり、他の任意の構成とすることができる。
上記移動テーブル20に載置される後述のトレイBの上面に配置される加工食品は、表面に凹凸面を有することが多い。その一般的な深さの凹凸面に対しても、印刷ヘッド515から噴射される微粒子状の可食性インクを加工食品の表面に適切に着地させるため、本実施の形態においては、印刷ヘッド515にシリアルヘッドを用いている。しかし、本発明は、シリアル式プリンタに限定されるものではなく、多数のノズルをライン状に配置した印刷ヘッドを用いるライン式プリンタにも適用することができる。
インク供給部53は、ハウジング10の正面壁11の左右両側の上部に開閉可能に取り付けたカバー531,532と、そのカバー531の背後に窪んで形成されたインクカートリッジホルダ(図示省略)と、そのインクカートリッジホルダに装着されるインクカートリッジ(図示省略)と、各インクカートリッジからインクを印刷ヘッド515の各ノズルに供給するチューブ(図示省略)とを有する。左右のインクカートリッジホルダには、それぞれ所定の色の可食性インクを充填された2本ずつのインクカートリッジ(合計4本)が装填される。なお、加工食品に対する印刷を終了した後、次の印刷を行うまでに時間が経つ場合は、ノズルおよびチューブ内に残存するインクは、食品衛生に影響を与えない洗浄液で洗浄される。その際に発生する廃シンクを収容するための廃インクボトル533が側面壁12,13の一方または双方の外面に、着脱可能に備えられている。
プリンタAに備えられた通信部60は、後述されるトレイBを載せた移動テーブル20が前方に移動されるときに、そのトレイBに設けられた後記トレイ識別コード発信手段202との間で短距離無線通信(NFC)が可能な送受信機61と、後記制御装置CからプリンタAによる印刷に必要な情報の授受に用いられる通信機62とを含む。送受信機61は、通信可能な範囲内に入ったトレイBのトレイ識別コード発信手段202から発信内容を受信し、その発信内容を制御装置Cに送信するものである。詳細は後述される。
操作部70は、ハウジング10の左側の側面壁12の手前側に設けられた主電源スイッチ71と、正面右側の上面壁16の後半部分に設けられた副電源スイッチ72と、同じ上面壁16に設けられた緊急停止スイッチ73とを含む。また、表示部80は、正面右側の上面壁16の前半部分に設けられたタッチパネルで構成されている。
主電源スイッチ71は、プリンタA全体に対する電源のON/OFFをするものであり、副電源スイッチ72はタッチパネル(80)の電源のON/OFFをするものである。緊急停止スイッチ73は、移動テーブル前後往復機構40および印刷機構50等の駆動系ならびにタッチパネル(80)に何らかの異常事態が発生した場合に、緊急に停止させるためのものである。
タッチパネル(80)は、表示機能と入力機能を兼備するものである。図11に例示するように、タッチパネル(80)の表示画面の下側部分にはメインスイッチのシンボルマーク(以下、メインスイッチという。)SW1、メンテナンススイッチのシンボルマーク(以下、メンテナンススイッチという。)SW2、表示切替スイッチのシンボルマーク(以下、表示切替スイッチという。)SW3等が表示される。また、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、表示切替スイッチSW3をタッチする度に異なるマークまたは文字が表示される。その表示切替により、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分には、「使用状態の確認」「印刷ヘッドのノズルチェック」「インク充填および排出」「ノズル詰まりチェック」「RANケーブルチェック」などの文字が表示される。
各文字の表示部分をタッチし、チェックの結果、問題がない場合に表示切替スイッチSW3をタッチして、初期画面を表示させると、タッチパネル(80)の表示画面の上側部分に、図11に例示するような3個のシンボルマークSa,Sb,Scが表示される。すなわち、移動テーブル20の前進(図2のy1方向の移動)を指示するシンボルマーク(以下、前進指示ボタンという。)Sa、たとえば、プリンタAの内方(図11においては上側)に頂点を有する二等辺三角形と、移動テーブル20の後退(図2のy2方向の移動)を指示するシンボルマーク(以下、後退指示ボタンという。)Sb、たとえば、プリンタAの外方(図11においては下側)に頂点を有する二等辺三角形と、緊急停止が必要な場合に停止を指示するシンボルマーク(以下、停止指示ボタンという。)Sc、たとえば円形とである。シンボルマークの意味を明らかにするため、各シンボルマークの至近位置または中に、それぞれ「前進」「後退」[停止]などの文字が表示されることが好ましい。
好ましい実施の形態においては、移動される移動テーブル20が移動(副走査)されるときに、その移動テーブルに載せてある加工食品が移動(主走査)される印刷ヘッド515に衝突して印刷ヘッド515を損傷させることを防止するため、印刷ヘッド保護機構が備えられている。この印刷ヘッド保護機構は、移動テーブル20に載せたトレイBの上面に配置されている加工食品の高さが印刷ヘッド515のノズル先端の移動面から所定距離、例えば2mm低い位置よりも高いときに、これを検知して、移動テーブル往復機構40の動作を禁止するように構成されている。
図12に示されている例について、説明する。印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも移動テーブル20の手前側(図2のy2側)の、移動テーブル20の移動面よりも高い位置で、かつ、印刷ヘッド515のノズル先端の移動面よりも若干低い位置を、光ビームbが通るように、光電センサを構成する発光素子91と受光素子92の一方を移動テーブル20の移動面の左側に、発光素子91と受光素子92の他方を移動テーブル20の移動面の右側に、対向させて取り付けられている。
そして、光ビームbが遮断されたときは、光電センサが検知信号をブザーなどの警報手段に与える。こうして、移動テーブル往復機構40が駆動されて、前進される移動テーブル20上のトレイBに載せられた加工食品が光ビームbを遮断するときは、警報手段が鳴動する。これに基づき作業者が表示部80の停止指示ボタンScをタッチすると、移動テーブル往復機構40による移動テーブル前進動作が停止される。したがって、高さの高い加工食品が印刷ヘッド515のノズル先端の移動面に到達する前に、移動テーブル20の移動が停止される。
移動テーブル20の前進動作が停止された後は、表示部80の後退指示ボタンSbをタッチして、移動テーブル20を初期位置まで後退させ、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を所定方向に回して移動テーブル20の高さ調整をする。そして、再び、前進指示ボタンSaをタッチすると、移動テーブル20は、途中で止められることなく、所定の位置まで前進される。
[トレイ]
図1のトレイBは、加工食品を所定の位置に載せるものである。加工食品は、クッキー、せんべい、チョコレートなどの量産される固形の加工食品であって、上面に凹凸が無いもの、またはあっても凹凸の深さが浅いものである。トレイBは加工食品の種類に応じて複数個が用意される。そして、図13に例示するように、トレイBの上面には、加工食品の配置位置を指定する指標(目印)201が記載されている。指標201はトレイBの上面にマトリックス状に配置されている。すなわち、移動テーブル20の往復移動方向(図2のy1,y2方向)と平行な複数の直線Lx1,Lx2,・・・と移動テーブルの往復移動方向に対して直角な複数の直線Ly1,Ly2,・・・をそれぞれ等間隔で描いたとした場合の各交点を中心とする円でそれぞれ指標201が記載されている。各直線Lx1,Lx2,・・・、Ly1,Ly2,・・・の間隔はトレイBの種類、つまり、加工食品の種類により異なる。
指標201がマトリックス状に配置されているのは、後述されるように、プリンタAの印刷ヘッド514に対する印刷位置の制御プログラミングを簡単化するためである。印刷位置の制御プログラミングが容易であるならば、指標201の配置パターンは任意に定めることができる。また、指標201の形状も任意である。
各トレイBには、トレイ識別コード発信手段202が設けられている。トレイ識別コード発信手段202は、少なくとも、そのトレイBの識別コードを発信するものである。トレイ識別コード発信手段202は、誘導電界内に入ると電力を受けて、予め設定されている情報を発信する短距離無線通信(NFC)が可能な発信器、例えば、FeliCa等のワンチップ発信器で構成されていることが望ましい。ワンチップ発信器は、トレイBの所定の位置に埋め込まれる。埋め込まれる位置は、例えば、図13に示すように、トレイBの前端が好ましいが、後端等、指標201の配置の妨げにならない位置であれば、どこでもよい。
前記送受信機61は、トレイBに設けられているワンチップ発信器(202)が所定の距離以内に接近したときに、そのワンチップ発信器に電力を与える。これにより、ワンチップ発信器202は、送受信機61との間で通信可能になる。送受信機61は、移動テーブル上のトレイBに設けられているワンチップ発信器(202)との間で通信可能なエリア内であれば、ハウジング1の天上壁17または印刷ユニットカバー19に限らず任意の位置に取り付けられてもよい。
送受信機61は、いずれかのトレイBのワンチップ発信器(202)から発信内容を受信すると、その受信内容を後述される制御装置Cとの間に設けられているRAN(Rocal Area Network)を介して制御装置Cに送信するように構成されている。
トレイBにワンチップ発信器(102)が埋め込まれているだけでは、後述されるように、プリンタAの送受信機61が受信した内容がプリンタAの表示部70に表示されるまで、そのトレイBに対する印刷内容がわからない不都合があり得る。この不都合を回避するため、トレイBの上面の手前側などに、目視確認が可能な加工食品の種類(商品名)や識別番号等を印刷したシールを貼って置くことが望ましい。
ハウジング10に設けられた通信機62は、後述される制御装置Cの通信部307との間でRANを介して通信を行うものである。そして、後述するように、制御装置Cが出力する印刷データを制御装置Cの通信部307、通信機62を介してプリンタAの制御基板52に与える。
[制御装置]
続いて、制御装置Cについて説明する。制御装置Cは、図14に例示するように、中央演算部(CPU)301と、このCPU301にバス302を介して接続されている記憶部303と、CPU301にインターフェース304を介して接続されている入力部305と、表示部(出力部)306と、通信部307とを有している。プリンタAの通信機62と制御装置Cの通信部307は、ケーブルで直接繋いでもよい。
CPU301は、主としてプリンタAから通信機62、通信部307を介して与えられる情報に基づいて、後述するように、トレイB上の加工食品に対して所定の印刷動作をプリンタAに行わせるために必要な処理および制御を、記憶部303および表示部(出力部)306に対して行う。
記憶部303には、プリンタAを制御するためのシステムプログラムおよび制御装置Cの動作中に発生する各種のワーキングデータのほか、印刷データテーブル303aが格納されている。印刷データテーブル303aには、図15に例示するように、少なくとも、各トレイ識別コードTIDC1〜TIDCnと、そのトレイ識別コードが付けられたトレイに載置される1個の加工食品に対する印刷内容を決める印刷内容データ(図柄、列数、行数)PD1〜PDnおよびそのトレイの各指標の位置を表す指標位置データMPD1〜MPDnとを結合してなる印刷データが記憶されている。
1個の加工食品に対する印刷データ(印刷内容データと指標位置データ)に基づいて、移動されるトレイBの各指標201の位置に対してプリンタの印刷ヘッド515からインクが噴射されることにより、トレイB上の各行ごとの各列の指標、すなわち、トレイ上の全指標201の上に配置されている加工食品に同じ印刷内容が印刷される。
印刷内容データにより表される印刷内容は、各種の図柄、商品情報および/またはトレイサビリティを示す情報等のいずれか一つまたは複数の混合でもよい。
入力部305は、図1に示すように、キーボード305a、マウス305b、または表示部に備えられたタッチパネル305cなどを有する既知のものである。入力部305は、印刷データテーブルの印刷内容の作成・変更、すなわち、図柄の作成・変更、削除、追加や指標の位置の変更などをする場合に用いられる。印刷データは、他の装置で作成されたものをこの制御装置Cにダウンロードしたり、または他の装置で作成されたものを可搬記憶媒体に格納し、その可搬記憶媒体をこの制御装置Cに装填したりして、記憶部303に格納することもできる。
表示部(出力部)306は、入力作業中の入力内容を確認するために表示したり、プリンタAが印刷中の印刷内容および印刷回数を表示したりする。上記のように、表示部(出力部)306の表示画面にタッチパネル305cが備えられる場合がある。
[印刷システムの作用]
(プリンタ側の動作)
次に本実施の形態に係る印刷システムの作用を図16A,図16Bおよび図17を参照しながら説明する。
まず、プリンタAの電源(主電源、副電源)を入れると、一般的な電気機械におけると同様に、制御部が初期化(S101)を行い、正常な状態でスタンバイ状態となる。この時、移動テーブル20は前回の印刷終了時の高さにあり、また、テーブル20の上面全部がプリンタAの前部開口面から上方に開放されている位置、すなわち、始端位置に存在している。
作業者は、印刷対象加工食品に対応するトレイBを選択して、そのトレイBを移動テーブル20の上面の所定位置に載せる(S102)。このトレイBには、前述した1チップ発信器202が取り付けられている。次に作業者は、そのトレイBの各指標201の上に印刷対象加工食品を配置する(S103)。続いて、作業者はその配置された加工食品の外観から、あるいは記憶に基づいて加工食品の厚みを推測し、移動テーブル昇降機構30のダイヤル31を操作して移動テーブル20の高さをトレイ上の加工食品の頂部が障害物検知センサ91,92の光ビームbを遮光しない高さに調整する(S104)。
高さ調整後、タッチパネル80の前進指示ボタンSaをタッチして移動テーブル往復機構40の制御部に前進指示信号を与える(S105においてY)と、その制御部は移動テーブル往復機構40に移動テーブル20の前進を開始させる(S106)。
移動テーブルの高さ調整が適正でないため、障害物検知センサが障害物(加工食品)を検知した時は、制御部は移動テーブル往復機構40による移動テーブル20の前進を止め、始端位置まで後退させる(S108)。しかし、障害物を検知しないときは、移動テーブルの前進を継続し、その移動テーブル20が前進方向の終端に到達したことが検知される(S109においてY)と、移動テーブル往復機構40は、移動テーブル20の前進を止める(S110)。
その停止までの間に、送受信機61が1チップ発信器202からトレイ識別コードを受信した場合(S111においてY)は、そのトレイ識別コードを制御装置Cに送信する(S112)。そして、制御装置Cからそのトレイ識別コードに対応する印刷データが送られてくるのを待つ(S113)。印刷データが送られてきたとき(S113においてY)は、その印刷データをプリンタAのバッファメモリに保存する(S114)。
その後、タッチパネル80の後退指示ボタンSbがタッチされたとき(S115でY)は、移動テーブル往復機構40の制御部が移動テーブル20の後退を開始させる(S116)。これとともに、プリンタの印刷制御部が一連の印刷動作のために印刷ヘッドを制御駆動する(S117)。すなわち、移動テーブル往復機構の制御部が出力する制御パルス数を計数し、所定のパルスと同調して(すなわち、副走査と同期して)、バッファメモリから印刷データを読出し、ノズルアクチュエータを駆動して、移動する移動テーブルに載っているトレイBに配置されている加工食品に対して所定のノズルから可食性インクを噴射して所定の印刷内容を印刷する(S117)。
トレイ1個分の印刷が終了した後、後退中の移動テーブル20が始端に到達したことが検知される(S118においてY)と、移動テーブルの後退が停止される(S190)。
こうして、トレイ1個分の印刷を終わった後は、タッチパネル80の印刷停止ボタンScがタッチされたか否か(印刷終了指示が入力されたか否か)を調べる(S120)。印刷終了指示が入力されたときは(S120でY)、バッファメモリに保存された印刷データを消去し、トレイBから受信したトレイ識別コードに対応する印刷処理を終了する。
S120において印刷終了指示が入力されないときは、S102に戻り、次のトレイの載置が行われ、以後、S111まで前回と同様の動作が行われる。
2回目に移動テーブル20に載せたトレイBが、最初に載せたトレイと同じトレイ識別コードを発信する発信器202を有する場合、または、異なるトレイ識別コードを発信する発信器を有する場合は、前回と同様にS111からS120までの処理が行われる。しかし、S111において、トレイからトレイ識別コードを受信しないときは、S122に進み、バッファメモリに印刷データが保存されているか否かを調べ、保存されている場合は、S115に移行し、その後はS116からS120まで実行されて、保存されている印刷データを用いてそのトレイに対する印刷が行われる。すなわち、トレイ識別コード発信器が取り付けられていないトレイであっても、前回印刷したトレイと同じ指標配置パターンを有するトレイであれば、そのトレイに載置された加工食品に対して同一の印刷内容が印刷される。換言すると、1種類の加工食品を複数トレイ分印刷する場合は、最初の1個のトレイにトレイ識別コード発信手段を設け、ほかのトレイには最初のトレイと同じ指標配置パターンを持たせるだけで良く、トレイ識別コード発信手段を設ける必要がない。
(制御装置側の動作)
一方、制御装置Cにおいては、プリンタAからトレイ識別コードを受信するのを待機している(S201)。そして、トレイ識別コードを受信する(S201においてY)と、データベースの中からそのトレイ識別コードに対応して記憶している印刷データを検索し、その印刷データを読出して(S202)、通信部307を介してプリンタAに送る(S203)。1回のトレイ識別コード受信に対する印刷データの送信後は、S201に戻り、次のトレイ識別コードの受信を待機する。
[他の実施の形態]
移動テーブル昇降機構40による移動テーブル20の高さ調整は、ボールねじに直結されたダイヤル31を用いる手動調整に代えて、ボールねじを回転させる可逆モータと、その可逆モータの回転方向及び回転量を制御する制御回路と、制御回路に制御信号を与える操作部、たとえばダイヤルなどから構成された高さ調整装置を用いることもできる。
また、移動テーブルの前進距離および後退距離を決める手段としては、上述された終端到達検知センサおよび始端到達検知センサを用いることに代えて、移動テーブル往復機構40のボールねじを回転させるモータにステッピングモータを用い、そのステッピングモータの正転時または逆転時に与えられるパルス数を計数し、その計数値が所定値になった時にステッピングモータの回転を止める方法を用いることもできる。
さらに、トレイのトレイ識別コードは1チップ発信器に発信させることに代えて、トレイ識別コードを表すバーコードもしくはカルラコードを印刷したラベルをトレイに貼付するとともに、プリンタA側にそのトレイのバーコードもしくはカルラコードを読取る読取器を取付けることによってもトレイ識別の目的を達成することができる。
本発明の印刷システムは、可食性インクで加工食品に印刷するプリンタに限らず、加工食品以外の印刷媒体に非可食性インクで印刷するプリンタにも適用可能である。
A インクジェットプリンタ(プリンタ)
10 ハウジング
20 移動テーブル
30 移動テーブル昇降機構
40 移動テーブル往復機構
50 印刷機構
51 印刷ユニット
52 印刷制御部(制御基板)
53 インク供給部
60 通信部
61 送受信機
62 通信機
70 操作部
80 表示部(タッチパネル)
91,92 障害物検知センサ
B トレイ
201 指標
202 トレイ識別コード発信手段(1チップ発信器)
C 制御装置