以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.本発明者による検討>
本発明者は、スラリー濃度と撹拌時間について鋭意検討した結果、本実施形態に係る焼結用原料の造粒方法に想到した。そこで、まず、本発明者が行った検討について説明する。
粉鉱石及び微粉鉱石を焼結用原料として用いて造粒物を作製する場合、粉鉱石は、造粒物の核粒子として機能する。すなわち、粉鉱石のうち、粒度が1mm以上の粒子が核粒子となり、この核粒子の表面に微粉鉱石が付着する。これにより、造粒物が作製される。ここに、微粉鉱石は造粒性が劣っているので、粒度10μm未満の破砕鉱石をバインダとして使用する。具体的には、破砕鉱石が分散したバインダを粉鉱石及び微粉鉱石に添加する。
ここに、適正水分割合及び鉱石持込み水分割合によって、スラリー持込み水分割合の上限値が決まる。したがって、スラリー持込み水分割合が上限値を超えない範囲で、破砕鉱石の添加量を造粒物の総質量に対して3質量%以上7質量%未満とする必要がある。しかし、スラリー濃度が低い場合、このような処理を行うことができない場合があった。
この問題を解決する方法として、スラリー濃度を高めることが挙げられる。ただし、スラリー濃度を高めた場合、スラリーの流動性が低下する。ただし、スラリー濃度を高めた場合、スラリーの流動性が低下する。この場合、スラリーのハンドリング性が著しく低下するという問題があった。そして、スラリーのハンドリング性が低下した場合、例えば、スラリーの製造工程で不具合が生じ、操業が停止する等の問題が生じうる。
このような問題を解決する方法として、スラリーの流動性を高めることが挙げられる。スラリーの流動性を高める方法としては、特許文献4、5、非特許文献2に開示されているように、スラリー温度の上昇、スラリーへの添加剤の添加等によってスラリー中の固体粒子間の相互作用力を低下させる方法が知られている。しかし、スラリーに添加剤を添加する方法では、スラリーの製造コストを高め、ひいては、造粒物の製造コストを高めてしまう。また、単にスラリーの温度を上昇させただけでは、スラリーの製造工程で不具合が生じる場合があった。
そこで、本発明者は、スラリーの製造工程で不具合を生じさせないためのスラリー温度、さらにはスラリー製造装置について詳細に検討を重ね、本実施形態に係る焼結用原料の造粒方法に想到した。以下、本実施形態について詳細に説明する。
<2.焼結鉱製造システムの構成>
まず、図1に基づいて、本実施形態に係る焼結鉱製造システム1の構成について説明する。焼結鉱製造システム1は、主造粒ライン10、副造粒ライン20、及び焼結機30を備える。なお、図1では副造粒ライン20は1本であるが、副造粒ライン20は複数用意されても良い。
主造粒ライン10は、全焼結用原料のうち、主焼結用原料を造粒することで、主造粒物を作製するラインである。ここに、焼結用原料は、主原料である鉄含有原料、焼結反応及び成分調整のために必要な副原料、熱源である炭材(固体燃料)、及び返鉱等で構成される。鉄含有原料は、例えば粉鉱石、微粉鉱石等の鉄鉱石、および製鉄ダスト(製鉄ダスト、製鋼ダスト、スケール等)等である。副原料は、石灰石、ドロマイト、転炉スラグ、珪石および橄欖岩等である。炭材は、例えばコークス粉および無煙炭等である。
粉鉱石は、例えば粒度が10mm未満となる鉄鉱石である。粉鉱石の平均粒度は2~3mm程度であってもよい。平均粒度は、例えば粒度の算術平均値である。もちろん、本実施形態に適用可能な粉鉱石はこの例に限られず、焼結鉱の分野において粉鉱石と称される鉄鉱石は全て本実施形態に適用可能である。なお、本実施形態における粒度は、篩によって測定される。粒度は、目開きの異なる篩によって測定される。例えば、焼結用原料を目開きがXmmの篩に掛けた場合に、篩に残った粒子の粒度はXmm以上となり、篩から落ちた粒子の粒度はXmm未満となる。
微粉鉱石は、例えば粒度が10μm以上100μm未満程度となる鉄鉱石である。上述したように、微粉鉱石は造粒性に劣っている。このため、本実施形態では、バインダ用鉄鉱石(詳細は後述するが、例えば破砕鉱石)によって微粉鉱石を強固に粉鉱石に付着させる。
主焼結用原料は、全焼結用原料のうち、後述する副焼結用原料以外の焼結用原料を意味する。詳細は後述するが、副焼結用原料は、例えば粉鉱石及び微粉鉱石を含む。さらに、副焼結用原料は、微粉鉱石を、副焼結用原料の総質量に対して50~85質量%含む。したがって、これら以外の焼結用原料が主焼結用原料となる。主焼結用原料の質量%は、全焼結用原料の総質量に対して50質量%よりも大きくなることが好ましい。
主造粒ライン10は、ドラムミキサー11、12を備える。ここに、主造粒ライン10にドラムミキサー11、12を配置したのは、ドラムミキサー11、12は単位時間当りの処理量が大きいからである。主造粒ライン10を用いた主焼結用原料の造粒方法は従来の造粒方法と同様であれば良い。すなわち、ドラムミキサー11には、主焼結用原料が投入される。主焼結用原料には、主焼結用原料の造粒性を改善するためのバインダとして生石灰を添加しても良い。これにより、主造粒物の粒度が大きくなり、ひいては、原料充填層の通気性が向上する。また、主焼結用原料には、原料充填層の通気性を悪化させない程度に微粉鉱石を添加しても良い。主焼結用原料に対する微粉鉱石の添加量は、主焼結用原料の総質量に対して概ね10質量%未満程度としてもよい。
ドラムミキサー11は、主焼結用原料及び添加物を水分とともに混練する。ドラムミキサー12は、ドラムミキサー11から排出された主焼結用原料の混練物を造粒することで、主造粒物を作製する。以上の工程により、主焼結用原料を造粒する。このように、ドラムミキサー11(1次ミキサー)は主焼結用原料を混練する機能を担い、ドラムミキサー12(2次ミキサー)は主焼結用原料を造粒する機能を担う。
ここに、ドラムミキサー11、12は、焼結用原料の造粒に使用されるものであればどのようなものであってもよい。また、本実施形態では、ドラムミキサー11、12によって主焼結用原料を造粒することとしたが、主焼結用原料を造粒することができる装置であればどのような装置を用いても良い。
副造粒ライン20は、全焼結用原料のうち、副焼結用原料を造粒することで、副造粒物を作製するラインである。ここに、副焼結用原料は、例えば粉鉱石及び微粉鉱石を含む。副焼結用原料は、微粉鉱石を、副焼結用原料の総質量に対して50~85質量%含むことが好ましい。つまり、微粉鉱石が副焼結用原料の過半を占めることが好ましい。このように、比較的造粒し難い鉄鉱石を主造粒ライン10から分離して造粒することで、造粒を効率的に行うことができる。つまり、造粒しにくい微粉鉱石を副造粒ライン20に集中させることで、スラリーの添加を副造粒ライン20のみで行えばよいことになる。
副焼結用原料には、バインダ用鉄鉱石を含むスラリーが添加される。ここに、バインダ用鉄鉱石は、粒度が10μm未満の鉄鉱石であり、例えば上述した破砕鉱石である。破砕鉱石を含むスラリーは、例えば特許文献1、2に開示された製造方法によって作製可能である。
副焼結用原料は、微粉鉱石を含むので、造粒性が劣る。そこで、バインダ用鉄鉱石を含むスラリーを副焼結用原料に添加することで、副焼結用原料の造粒性を高める。つまり、バインダ用鉄鉱石は、核粒子である粉鉱石の表面に付着し、さらに、粉鉱石と微粉鉱石、あるいは微粉鉱石同士を結着させる。
ここに、スラリー濃度は40質量%以上80質量%未満であることが好ましい。上述したように、副焼結用原料は微粉鉱石を含むので、副焼結用原料の鉱石持込み水分割合は多い。このため、スラリー濃度は比較的高い値、すなわち40質量%以上とされることが好ましい。これにより、バインダ用鉄鉱石の添加量を3質量%以上7質量%未満とすることができる。ここに、副焼結用原料の鉱石持込み水分割合は、副造粒物の総質量に対する鉱石持込み水分の質量%である。本実施形態において、各水分割合は所謂外数となる。バインダ用鉄鉱石の添加量の質量%は、副造粒物の総質量に対する質量%となる。スラリー濃度が40質量%未満となる場合、スラリー中に占めるバインダ用鉄鉱石の割合が少なく、バインダ用鉄鉱石の添加量を3質量%以上7質量%未満とすることが困難となる。また、スラリー濃度が80質量%以上となる場合、スラリーは、スラリーとしての流動性をほぼ失い固体に近い状態となる、流動性がいわゆる流動限界値に達すると判断される為である。なお、本発明者は、鉄鉱石を湿式破砕することでスラリーを作製し、スラリー濃度を検証した。この結果、本発明者は、幾つかの鉄鉱石種において概ね同等の80質量%程度の濃度で流動性が失われたことを確認した。
ここに、スラリー濃度及びスラリー添加量は以下の工程で決定される。すなわち、副造粒物の含水割合(副造粒物の総質量に対する水分の質量%)を決定する。例えば、副造粒物100kgに対して含水量が10kgとなる場合、含水割合は10質量%となる。副造粒物の含水割合は、副造粒物の総質量に対して9~12質量%程度とされることが好ましい。
ついで、鉱石持込み水分割合を特定する。ついで、副造粒物の含水割合と鉱石持込み水分割合の差分をスラリー持込み水分割合の上限値とする。鉱石持込み水分割合は、副造粒物の総質量に対する鉱石持込み水分の質量%である。スラリー持込み水分割合は、副造粒物の総質量に対するスラリー持込み水分の質量%である。ついで、スラリー持込み水分割合が上限値を超えず、かつ、バインダ用鉄鉱石の添加量が副造粒物の総質量に対して3.0質量%以上7.0質量%未満となるように、スラリー濃度及びスラリー添加量を決定する。スラリー持込み水分では副造粒物の水分が不足する場合、別途水分を副焼結用原料に添加しても良い。また、バインダとして生石灰をさらに副焼結用原料に添加しても良い。また、副焼結用原料及び生石灰だけでは焼結反応時に融液源となるCa分や熱源となるC分に乏しい場合、融液源及び熱源を補填するために、副原料やダストやスラグ類を副焼結用原料に添加しても良い。
副造粒ライン20は、高速撹拌ミキサー21、パンペレタイザ22、スラリー製造装置23、及び貯留タンク24を備える。スラリー製造装置23は、上述したスラリーを作製する装置である。スラリー製造装置23は、湿式竪型粉砕機及び湿式横型粉砕機からなる群から選択される何れか1種である。湿式竪型粉砕機は、例えば特許文献1、2に開示されているタワーミルである。湿式竪型粉砕機の詳細な構成は特許文献1、2に開示されているとおりであるが、概要は以下のとおりである。なお、湿式竪型粉砕機の構成は以下の内容に限定されるものではない。湿式竪型粉砕機は、竪型の円筒容器と、円筒容器内に設けられる粉砕部とを備える。円筒容器の中心軸と鉛直軸とのなす角度は45°未満である。粉砕部は、円筒容器の中心軸方向に伸びる回転軸と、回転軸の周面に設けられるスクリュー翼とを備える。また、円筒容器内には、粉砕用の媒体である多数の鋼球が装入されている。
そして、円筒容器内に水及び鉄鉱石が装入される。そして、粉砕部の回転軸が回転することで、鉄鉱石が鋼球とともに撹拌される。これにより、鉄鉱石が粉砕される。鉄鉱石は、粒度が10μm未満となるまで粉砕される。これにより、上述したスラリーが作製される。
円筒容器に隣接する位置には、水簸槽が設けられている。水簸槽にはスラリーが導入される。そして、スラリー中の鉄鉱石のうち、粒度が大きい(すなわち、粒度が10μm以上となる)鉄鉱石は、水簸槽の底面から排出され、円筒容器の下端部から円筒容器に戻される。すなわち、水簸槽では、鉄鉱石を重力によって分級する。具体的には、水簸槽の底面と円筒容器の下端部とが配管で連結されており、粒度が大きい鉄鉱石は、この配管を通って円筒容器に戻される。配管には、ポンプが設置されており、ポンプによる圧力で鉄鉱石が配管内を流動する。粒度が大きい鉄鉱石は、円筒容器内で再度粉砕される。
水簸槽に隣接する位置には、サイクロンが設けられている。サイクロンには、水簸槽から排出されたスラリーが導入される。サイクロンに導入されるスラリーには、粒度が小さい(すなわち、粒度が10μm未満となる)鉄鉱石が多く含まれるが、粒度が大きい鉄鉱石も多少含まれる。そこで、サイクロンでは、さらに鉄鉱石の分級を行う。粒度が大きい鉄鉱石は、サイクロンの底面から排出され、水簸槽の上端部から水簸槽に戻される。具体的には、サイクロンの底面と水簸槽の上端部とが配管で連結されており、粒度が大きい鉄鉱石は、この配管を通って水簸槽に戻される。配管には、ポンプが設置されており、ポンプによる圧力で鉄鉱石が配管内を流動する。粒度が大きい鉄鉱石は、水簸槽を介して円筒容器に戻され、円筒容器内で再度粉砕される。サイクロンの上方からは、粒度が小さい鉄鉱石を含むスラリーが排出される。サイクロンの上方から排出されたスラリーは、貯留タンク24に一時的に貯留される。
一方、湿式横型粉砕機は、湿式横型ボールミルとも称されるものであり、鉄鉱石を湿式粉砕する粉砕機として広く使用されているものである。すなわち、湿式横型粉砕機は、横型の円筒容器を備える。この円筒容器は、中心軸を回転軸として回転可能となっている。また、中心軸と鉛直軸とのなす角度は45°以上90°以下となる。円筒容器内には、粉砕用の媒体である多数の鋼球が装入されている。そして、円筒容器内に水及び鉄鉱石が装入される。そして、円筒容器自体が回転することで、鉄鉱石が鋼球とともに撹拌される。これにより、鉄鉱石が粉砕される。鉄鉱石は、粒度が10μm未満となるまで粉砕される。これにより、上述したスラリーが作製される。湿式横型粉砕機から排出されたスラリーは、貯留タンク24に一時的に貯留される。詳細は後述するが、湿式横型粉砕機で作製されるスラリーの濃度は、40質量%以上60質量%以下に調整される。スラリー濃度が60質量%を超えると、スラリーの製造工程で不具合が生じる。
そこで、湿式横型粉砕機でスラリー濃度が60質量%超のスラリーを作製したい場合、湿式横型粉砕機の出側に濃縮装置を設ければ良い。濃縮装置は、スラリー中の水分を蒸発させる装置である。濃縮装置は、この機能を有する装置であればどのような装置であっても良い。そして、濃縮装置によってスラリー濃度を高めた後に、スラリーを貯留タンク24に貯留する。
貯留タンク24は、スラリー製造装置23から排出されたスラリーを一時的に貯留するタンクである。貯留タンク24からは、必要量のスラリーが切り出され、副造粒ライン20に供給される。貯留タンク24は、スラリー内の鉄鉱石(すなわち、バインダ用鉄鉱石)の分散状態を維持するための攪拌装置が内蔵されていても良い。
本発明者は、スラリーの製造工程で不具合を生じさせないためのスラリー温度、さらにはスラリー製造装置について詳細に検討を重ねた。この結果、スラリー製造装置が湿式竪型粉砕機となる場合、スラリー濃度及びスラリー温度によってスラリーのハンドリング性が変動することを見出した。具体的には、湿式竪型粉砕機を用いてスラリーを作製する場合、スラリー濃度を40質量%以上80質量%未満に調整する。
さらに、スラリー濃度が40質量%以上60質量%以下となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持する。スラリー温度が80℃以上になると、貯留タンク24内でスラリー内の水分が過剰に蒸発するので、バインダ用鉄鉱石と水分との相分離が生じる可能性がある。この結果、貯留タンク24内でスラリーの粘性が著しく増加するので、貯留タンク24の出口、あるいは貯留タンク24と高速撹拌ミキサー21とを連結する配管内で目詰まりが生じてしまう可能性がある。また、当該配管内のスラリーは、当該配管に設置されたポンプによる圧力によって流動するが、当該ポンプを駆動するために多大な電力が必要となる可能性がある。また、ポンプ自体にも目詰まりが発生する可能性がある。その他、配管の先端のノズル(高速撹拌ミキサー21にスラリーを導入する部分)にも目詰まりが発生する可能性がある。また、貯留タンク24内の攪拌装置を駆動するために多大な電力が必要となる可能性がある。このように、スラリー温度が70℃を超えると、スラリーの製造工程で不具合が生じる可能性がある。スラリー温度の上限値は70℃以下であることが好ましい。一方、下限値である25℃は所謂室温状態を意味する。これより低い温度でスラリーを管理すると、スラリーの粘性が著しく高くなるので、上記と同様の問題が生じる可能性がある。
また、スラリー濃度が60質量%超80質量%未満となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を40℃以上80℃未満に保持する。すなわち、スラリー濃度が高い場合、スラリー温度を上記よりも高めに保持する。スラリー温度が80℃以上となる場合の問題点は上述したとおりである。スラリー温度の上限値は70℃以下であることが好ましい。スラリー温度が40℃未満となる場合、スラリーの粘性が増大し、円筒容器の内壁あるいは粉砕部に大量の鉄鉱石が付着する。そして、この鉄鉱石がバインダとなって鋼球が円筒容器の内壁あるいは粉砕部に付着する。この結果、スラリーの収率が著しく低下するか、鉄鉱石の粉砕がほとんどできなくなる可能性がある。また、スラリーが各配管内で目詰まりを起こす可能性がある。このように、スラリー温度が40℃未満となる場合、スラリーの製造工程で不具合が生じる可能性がある。
ここに、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度は、より具体的には、円筒容器内のスラリー温度である。円筒容器内のスラリー温度は、円筒容器内に温度計を設置することで測定可能である。また、スラリー温度を調整する(多くの場合、高める)方法は特に制限されないが、例えば、湿式竪型粉砕機に投入される水の温度を調整する方法、円筒容器内に高温の蒸気を吹き込む方法、蒸気配管を湿式竪型粉砕機内の各構成に巻きつけ、蒸気配管に高温の蒸気を流通させる方法等が挙げられる。これらの方法を用いて、測定温度を目標温度に一致させれば良い。
一方、湿式横型粉砕機を用いてスラリーを作製する場合、スラリー濃度を40質量%以上60質量%以下に調整し、かつ、湿式横型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持する。スラリー温度の上限値は70℃以下であることが好ましい。
スラリー濃度が60質量%を超える場合、スラリー温度を高温に(例えば70℃程度に)維持しても、スラリーの製造工程で不具合が生じる可能性がある。具体的には、スラリーの粘性が増大し、円筒容器の内壁に大量の鉄鉱石が付着する。そして、この鉄鉱石がバインダとなって鋼球が円筒容器の内壁に付着する。この結果、スラリーの収率が著しく低下するか、鉄鉱石の粉砕がほとんどできなくなる可能性がある。このように、スラリー濃度が60質量%を超える場合、スラリーの製造工程で不具合が生じる可能性がある。
また、湿式横型粉砕機内のスラリー温度が80℃以上となる場合の問題点は湿式竪型粉砕機と同様である。
ここに、湿式横型粉砕機内のスラリー温度は、より具体的には、円筒容器内のスラリー温度である。円筒容器内のスラリー温度は、円筒容器内に温度計を設置することで測定可能である。また、スラリー温度を調整する(多くの場合、高める)方法は湿式竪型粉砕機と同様である。これらの方法を用いて、測定温度を目標温度に一致させれば良い。
高速撹拌ミキサー21は、内部に撹拌羽根(アジテータ)やそれに類する機構を有しており、試料に大きな混合、撹拌、せん断力を作用させるミキサーである。通常、攪拌羽根(アジテータ)の周速は、3~30m/秒に調整される(遊佐郁生:『粉体技術の基礎と応用』、化学装置9月号別冊、工業通信社、2005年)。高速撹拌ミキサー21としては、例えば、ミキサー容器と内部の撹拌羽根(アジテータ)が、それぞれ逆方向に回転することで大きな混合撹拌力を発生させる竪型の高速撹拌ミキサー(日本アイリッヒ社製)等が挙げられる。また、高速撹拌ミキサー21の他の例として、レディゲミキサー/プロシェアミキサー(太平洋機工社製)、ダウミキサー等が挙げられる。もちろん、高速撹拌ミキサー21はこれらの例に限られず、焼結鉱の分野において高速撹拌ミキサーと称されるものであれば本実施形態に適用可能である。副焼結用原料は、微粉鉱石を多量に含むため、比表面積が大きく、造粒されにくい。このため、ドラムミキサーでは副焼結用原料を十分混練することができない場合がある。そこで、本実施形態では、副焼結用原料を混練する装置として、高速撹拌ミキサー21を使用する。
高速撹拌ミキサー21の駆動方式は、バッチ式であっても、連続式であっても良い。高速撹拌ミキサー21がバッチ式となる場合、以下の処理が行われる。すなわち、ミキサー投入口に原料(ここでは、副焼結用原料及び添加物)を投入し、蓋をする。ついで、高速撹拌ミキサー21内で原料が混合される。そして、混合後の原料が同じミキサー投入口から排出される。
高速撹拌ミキサー21が連続式となる場合、以下の処理が行われる。すなわち、混練前の原料(すなわち、副焼結用原料及び添加物)が高速撹拌ミキサー21の一端、例えば上部から投入され、もう一端、例えば底部から排出される。
パンペレタイザ22は、高速撹拌ミキサー21から排出された原料混練物を造粒することで、副造粒物を作製する。なお、原料混練物を造粒できる装置はパンペレタイザ22に限られない。すなわち、原料混練物を造立できる装置であれば、どのような装置であっても良い。
副造粒物が作製された後、副造粒ライン20は、主造粒ライン10と合流する。これにより、主造粒物に副造粒物が混合される。その後、主造粒物及び副造粒物は焼結機30に装入される。焼結機30は、主造粒物及び副造粒物を焼成することで、焼結鉱を作製する。
<3.焼結用原料の造粒方法>
つぎに、上述した焼結鉱製造システム1を用いた焼結用原料の造粒方法について説明する。焼結用原料の造粒方法は、主焼結用原料を造粒する主造粒工程と、副焼結用原料を造粒する副造粒工程とを含む。主造粒工程は主造粒ライン10で行われ、副造粒工程は副造粒ライン20で行われる。主造粒工程は、従来と同様であればよい。
副造粒工程は、スラリー製造装置を用いて粒度10μm未満のバインダ用鉄鉱石を含むスラリーを作製するスラリー製造工程と、副焼結用原料及びスラリーとを高速撹拌ミキサーで混練することで、原料混練物を作製する混練物作製工程と、原料混練物を造粒する造粒工程とを含む。ここに、スラリーは、上述したバインダ用鉄鉱石を含む。
上記各工程を行う前に、スラリー濃度及びスラリー添加量を決定する。すなわち、副造粒物の含水割合を決定する。副造粒物の含水割合は、副造粒物の総質量に対して9~12質量%程度とされることが好ましい。
ついで、鉱石持込み水分割合を特定する。ついで、副造粒物の含水割合と鉱石持込み水分割合の差分をスラリー持込み水分割合の上限値とする。ついで、スラリー持込み水分割合が上限値を超えず、かつ、バインダ用鉄鉱石の添加量が副造粒物の総質量に対して3.0質量%以上7.0質量%未満となるように、スラリー濃度及びスラリー添加量を決定する。スラリー持込み水分では副造粒物の水分が不足する場合、別途水分を副焼結用原料に添加しても良い。
ついで、スラリー製造工程、混練物作製工程、及び造粒工程を順次行う。ここに、スラリー製造装置は、湿式竪型粉砕機及び湿式横型粉砕機からなる群から選択される何れか1種である。そして、湿式竪型粉砕機を用いてスラリーを作製する場合、スラリー濃度を40質量%以上80質量%未満に調整する。さらに、スラリー濃度が40質量%以上60質量%以下となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持し、スラリー濃度が60質量%超80質量%未満となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を40℃以上80℃未満に保持する。一方、湿式横型粉砕機を用いてスラリーを作製する場合、スラリー濃度を40質量%以上60質量%以下に調整し、かつ、湿式横型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持する。
以上により、本実施形態によれば、スラリー製造装置として湿式竪型粉砕機及び湿式横型粉砕機のいずれかを使用し、かつ、スラリー製造装置毎にスラリー濃度及びスラリー温度を調整してスラリーを作製する。このため、スラリーのハンドリング性を高めることができる。すなわち、スラリー製造工程において不具合が生じにくくなる。さらに、添加剤を使用することなくスラリーのハンドリング性を高めることができる。
本実施例では、豪州産ピソライト系鉄鉱石を用いてスラリーを作製する試験を行った。そして、スラリー作製時のハンドリング性を評価した。本実施例では、湿式竪型粉砕機として、日本アイリッヒ社製のタワーミルを準備した。また、湿式横型粉砕機として、湿式横型ボールミルを準備した。
<1.貯留タンク内の沈殿試験>
湿式竪型粉砕機を用いてスラリー濃度が40、50、60、70、80質量%となるスラリーを準備した。そして、各濃度のスラリーを貯留タンク24内に貯留した。そして、貯留タンク24内のスラリー温度を25、40、50、60、70、80℃に調整し、貯留タンク24内でのハンドリング性を評価した。なお、貯留タンク24に蒸気配管を巻きつけ、この蒸気配管によってスラリー温度を調整した。
スラリー温度が70℃以下となる場合、スラリー濃度に関わらず、スラリーのハンドリング性で特に問題は生じなかった。
一方、スラリー温度が80℃となる場合、スラリーのハンドリング性に問題が生じた。具体的には、貯留タンク24内でスラリー内の水分が過剰に蒸発し、バインダ用鉄鉱石と水分との相分離が生じた。この結果、貯留タンク24内でスラリーの粘性が著しく増加し、貯留タンク24内がドロドロになった。このため、貯留タンク24の出口、あるいは貯留タンク24と高速撹拌ミキサー21とを連結する配管内で目詰まりが生じてしまう懸念が生じた。さらに、当該配管内のスラリーは、当該配管に設置されたポンプによる圧力によって流動するが、当該ポンプを駆動するために多大な電力が必要となる懸念が生じた。貯留タンク24内の攪拌装置への供給電力を大きくすることで、多少の改善は見られたが、スラリー温度が70℃以下となる場合に比べて消費電力が著しく増大した。この現象は、スラリー濃度が40質量%となる場合であっても確認できた。この結果、スラリー製造装置の種類に関わらず、スラリー温度は25℃以上、80℃未満、好ましくは70℃以下に調整する必要があることが判明した。
<2.スラリー粉砕性評価試験>
湿式竪型粉砕機及び湿式横型粉砕機を用いてスラリーを作製し、スラリー作製時のハンドリング性を評価した。具体的には、各粉砕機に投入する鉄鉱石及び水の配合比を変えることで、スラリー濃度が40、50、60、70、80質量%となるスラリーを作製した。また、各粉砕機内のスラリー温度を25、40、50、60、70℃に調整した。スラリー温度は、各粉砕機に加熱した水を投入し、かつ、各粉砕機の円筒容器内に高温の蒸気を吹き込むことで調整した。なお、スラリー温度が25℃でハンドリング性に問題がなかった場合、それ以上での温度での試験は割愛した。温度が高いほどハンドリング性が良好になると言えるためである。
まず、湿式竪型粉砕機について検証した。スラリー濃度が40質量%以上60質量%以下となる場合、スラリー温度によらず、ハンドリング性に問題は生じなかった。一方、スラリー濃度が70質量%となり、かつスラリー温度が25℃となる場合、ハンドリング性に問題が生じた。具体的には、スラリーの粘性が増大し、円筒容器の内壁及び粉砕部に大量の鉄鉱石が付着した。そして、この鉄鉱石がバインダとなって鋼球が円筒容器の内壁あるいは粉砕部に付着した。この結果、鉄鉱石の粉砕がほとんどできなくなった。この現象は、スラリー温度が40℃以上となる場合には確認されなかった。スラリー濃度が80質量%となる場合、スラリー温度に関わらず、ハンドリング性に問題が生じた。
したがって、スラリー濃度は40質量%以上80質量%未満とする必要が有ることが判明した。さらに、スラリー濃度が40質量%以上60質量%以下となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持し、スラリー濃度が60質量%超80質量%未満となる場合、湿式竪型粉砕機内のスラリー温度を40℃以上80℃未満に保持する必要が有ることが判明した。
つぎに、湿式横型粉砕機について検証した。スラリー濃度が40質量%以上60質量%以下となる場合、スラリー温度によらず、ハンドリング性に問題は生じなかった。しかし、スラリー濃度が70質量%となる場合、スラリー温度を70℃としてもハンドリング性に問題が生じた。具体的には、スラリーの粘性が増大し、円筒容器の内壁及び粉砕部に大量の鉄鉱石が付着した。そして、この鉄鉱石がバインダとなって鋼球が円筒容器の内壁あるいは粉砕部に付着した。この結果、鉄鉱石の粉砕がほとんどできなくなった。したがって、スラリー濃度を40質量%以上60質量%以下に調整し、かつ、湿式横型粉砕機内のスラリー温度を25℃以上80℃未満に保持する必要があることが判明した。
<3.スラリー輸送性確認試験>
貯留タンク24と高速撹拌ミキサー21とを連結する配管内での輸送性を確認したが、上述した各試験でハンドリング性に問題がなかった条件では、輸送性にも問題は生じなかった。つまり、配管内等での目詰まり、ポンプへの供給電力の過剰な増大等は確認されなかった。上記の結果を表1にまとめて示す。表1中、「○」はハンドリング性に問題がなかったことを意味し、「×」はハンドリング性に問題があったことを示す。また、「-」は、試験結果が予測できるという理由(例えば、より低いスラリー温度でハンドリング性に問題がなかった、より低いスラリー濃度でハンドリング性に問題があったという理由)により試験を行わなかったことを意味する。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。