以下、本発明に係る車両用ドア開閉装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
1.車両用ドア開閉装置の全体構成の説明
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用ドア開閉装置DOを備えた車両Vの側面図である。図1に示すように、車両Vは、車体Bの側面に開口したドア開口部Oを開閉するドアDを備える。ドアDは、車体Bに固定された前後方向のアッパーガイドレールG1、ウエストガイドレールG2及びロアガイドレールG3によって支持されることで前後方向に開閉可能なスライドドアである。車体Bの側面内部には、ドアDを電動で開閉移動させるための電動開閉装置PSDが設けられている。
ドアDの外側面には、ドアDを車外から開閉する際に操作されるアウトサイドハンドルOHが設けられている。ドアDの内側面には、ドアDを車内から開閉する際に操作されるインサイドハンドルIHと、操作中継装置100を手動操作でアンロック状態及びロック状態に切り替える際に操作されるロック操作ノブLKとが設けられている。ドアDの前部には、ドアDを閉鎖位置に保持するためのフロントドアラッチ装置FDが設けられている。ドアDの下部には、ドアDを全開位置に保持するための全開ラッチ装置ODと、後述のリリース拘束状態を解除させるリリースキャンセル作動を出力可能な開ラッチ連動機構90とが設けられている。ドアDの後部には、フロントドアラッチ装置FDと共にドアDを閉鎖位置に保持するためのリヤドアラッチ装置1が設けられている。
操作中継装置100は、ドアDの内部に設けられている。操作中継装置100は、アウトサイドハンドルOH及びインサイドハンドルIHの手動操作と、モータ32(図2参照)のリリース駆動による電動操作とを中継制御する。操作中継装置100は、この中継制御した各操作をリヤドアラッチ装置1、フロントドアラッチ装置FD及び全開ラッチ装置ODにそれぞれ伝達する。
2.リヤドアラッチ装置の説明
図2は、リヤドアラッチ装置1を車内側から見た側面図である。図2に示すように、リヤドアラッチ装置1は、ラッチユニット2と、クローザ・リリースユニット3とを備える。ラッチユニット2は、車体B側に設けられるストライカS1(図4参照)と噛合し、ドアDを閉鎖位置に保持するための機構である。クローザ・リリースユニット3は、ドアDに対するクローズ機能及びリリース機能を有する。
2.1 ラッチユニットの説明
図2及び図3に示すように、ラッチユニット2は、ドアDに対して取り付けられるハウジング5の内側に、ラッチ(第1ラッチ)7及びラチェット(第1ラチェット)9を含む閉ラッチ機構LCを収容している。ラッチ7は、前後方向を向くラッチ軸6により軸支され、ドアDの閉鎖時にストライカS1と噛合可能である。ラチェット9は、前後方向を向くラチェット軸8により軸支され、ラッチ7の外周に設けられたフルラッチ係合部7a又はハーフラッチ係合部7bに選択的に係合可能である。閉ラッチ機構LCを収容したハウジング5の開口は図示しないカバープレートによって閉塞される。ラッチユニット2は、このカバープレートを介してドアDに取り付けられる。
ラッチ7は、ストライカS1から外れたアンラッチ位置(図3参照)から、ラッチ軸6に外挿されるスプリング(図示せず)の付勢力に抗してクローズ方向(図5中で時計方向)へ所定角度回動するとストライカS1に僅かに噛合するハーフラッチ位置(図4参照)となる。さらにラッチ7がクローズ方向に回動すると、ストライカS1に完全に噛合するフルラッチ位置(図6参照)となる。ラッチ7のフルラッチ位置はドアDの全閉位置に対応する。
ハウジング5の前面側には、ラッチ軸6により軸支され、ラッチ7と一体的に回動可能な検知レバー10及びラッチレバー11と、ラチェット軸8により軸支され、ラチェット9と一体的に回動可能なオープンレバー12とが配置されている(図3参照)。
ラッチレバー11は、ラッチ7と一体的に回動する。ラッチレバー11は、図3に示すようにラッチ7がアンラッチ位置にあるときには、先端部に設けた作動部11aがクローズレバー38のクローズ部38aの移動軌跡外に退避する。ラッチレバー11は、図4に示すようにラッチ7がハーフラッチ位置に回動したときには、作動部11aがクローズ部38aの移動軌跡内に進入する。
ラッチ7のハーフラッチ位置及びフルラッチ位置は、図示しないハーフラッチ検出スイッチ及びフルラッチ検出スイッチによって検出される。これらの検出信号は、車両Vに搭載された制御装置(ECU)C(図1参照)に送信され、クローザ・リリースユニット3のモータ32及び電動開閉装置PSDの停止制御及び駆動制御のトリガーとなる。
ラチェット9は、図示しないスプリングの付勢力によりオープンレバー12と一体的に常時係合方向(例えば、図4中の時計方向)に付勢されている。ラチェット9は、ラッチ7が図3に示すアンラッチ位置にあるときには、ラッチ7の外周に当接している。ラチェット9は、ラッチ7が図4に示すハーフラッチ位置にあるときには、ラッチ7のハーフラッチ係合部7bに係合する係合位置に保持され、ラッチ7が図6に示すフルラッチ位置にあるときには、ラッチ7のフルラッチ係合部7aに係合する係合位置に保持される。
ラチェット9がラッチ7のフルラッチ係合部7aに係合した係合位置にある場合に、アウトサイドハンドルOH又はインサイドハンドルIHがドア開操作されると、ラチェット9は各種要素を介してリリース方向(図4及び図6中で反時計方向)に回動し、図7に示すリリース位置に移動する。これにより、ラチェット9がラッチ7のフルラッチ係合部7aから外れ、ラッチ7がオープン方向に回動するため、ドアDの開扉が可能となる。
図2及び図3に示すように、ラッチユニット2の前記カバープレートには、車内外方向を向く支軸18により、リリース入力レバー19、ブロックレバー20及び緊急入力レバー21がそれぞれ回動可能に軸支されている。
リリース入力レバー19は、ドアD内に配索されるケーブル501を介して操作中継装置100のリリース中継レバー116に連結される。ケーブル501は、例えば操作力を伝達可能なボーデンケーブルであり、後述するケーブル502,503,504,506,507も同様である。アウトサイドハンドルOH若しくはインサイドハンドルIHがドア開操作されるか、又はモータ32を含むリリース電動機構Rがリリース作動すると、リリース中継レバー116を含む各要素を介してリリース入力レバー19が待機位置からスプリング23の付勢力に抗してリリース方向(図4及び図6中の時計方向)へ回動する。これにより、解除部19aによってオープンレバー12のアーム部12aが押し下げられ、ラチェット9がリリース位置に移動するため、上記のようにドアDの開扉が可能となる。
ブロックレバー20は、スプリング23の付勢力によって図3〜図6に示すブロック位置に保持される。ブロックレバー20は、リリース入力レバー19がリリース位置(図7に示す位置)に移動したときには、下部の折曲部20bに折曲部19bが下方から当接し、ブロック位置から反時計方向へ所定角度回動した図7に示すキャンセル位置に回動する。
緊急入力レバー21は、下部に設けた連結部21aがドアD内に配索されるケーブル502を介して操作中継装置100の緊急出力レバー113に連結される。緊急入力レバー21は、アウトサイドハンドルOH又はインサイドハンドルIHのいずれかがドア開操作されることによりブロックレバー20をキャンセル位置に移動させ、クローザ・リリースユニット3のクローズ動作を中断させることができる。
2.2 クローザ・リリースユニットの説明
図2及び図3に示すように、クローザ・リリースユニット3は、クローザ・リリース用のモータ32と、減速機構となる遊星歯車機構33と、リリース出力レバー41とを備える。モータ32の動力は出力ギヤ32aを介して遊星歯車機構33に伝達されて減速され、リリース出力レバー41を作動させる。これらモータ32、遊星歯車機構33及びリリース出力レバー41は、ラチェット9をリリース作動させるリリース電動機構Rを構成するものである。
リリース出力レバー41は、軸44によって軸支されると共に、スプリング46によって図2及び図3中で反時計方向に常時付勢され、図3〜図6に示す待機位置に保持されている。サンギヤ35がモータ32のリリース駆動によってリリース方向(図3〜図6中で反時計方向)に回動すると、これと連動してリリース出力レバー41が待機位置からリリース方向(図3〜図6中で時計方向)へ所定角度回動(以下、「リリース作動」と呼ぶ)する。
リリース出力レバー41の上端部は、ケーブル503を介して操作中継装置100のリリースキャンセル入力中継機構117(以下、「中継機構117」とも呼ぶ)の中継レバー118(図15参照)に連結される。
遊星歯車機構33は、サンギヤ35と、プラネタリーギヤ36と、クローズレバー38と、セクタギヤ39とを備える。サンギヤ35は、支軸34により軸支されている。サンギヤ35は、プラネタリーギヤ36に噛合う外歯ギヤ35aを扇形の円周の外側に有し、車内側へ突出する円柱状の当接部35bを外歯ギヤ35aが形成されていない上部の回転面に有する。プラネタリーギヤ36は、サンギヤ35に対して自転可能且つ公転可能に噛合っている。クローズレバー38は、支軸34により軸支されている。クローズレバー38は、軸37によりプラネタリーギヤ36を軸支している。セクタギヤ39は、支軸34により軸支されている。セクタギヤ39は、出力ギヤ32aと噛合う外歯ギヤ39aを円周の外側に有し、プラネタリーギヤ36と噛合う内歯ギヤ39bを円周の内側に有する。
図4に示すハーフラッチ状態において、サンギヤ35が中立位置から時計方向へ若干回動すると、当接部35bがブロック部20aに当接してサンギヤ35の時計方向への回動が阻止され、モータ32のクローズ駆動をラッチ7に伝達可能となる。また、モータ32がクローズ駆動している最中にブロックレバー20がキャンセル位置(図7に示す位置)に移動すると、ブロック部20aが当接部35bの移動軌跡外に退避してモータ32のクローズ駆動がラッチ7に伝達不能となるためクローズ動作がキャンセルされる。
遊星歯車機構33がニュートラル状態(例えば、図5に示す状態)にある場合、クローズレバー38は、スプリング40により時計方向へ付勢され、ストッパ部31a(図3参照)に上方から当接する待機位置に保持される。この状態において、セクタギヤ39は、外歯ギヤ39aが前方を向く中立位置にセットされる。このセクタギヤ39の中立位置は、セクタギヤ39の下方に配置された検出スイッチ48によって検出され、制御装置Cに送信される。
2.3 クローザ・リリースユニットのクローズ動作の説明
開放状態にあるドアDが電動開閉装置PSDの動力により半ドア位置まで移動して、ストライカS1がハウジング5のストライカ進入溝5aに進入してラッチ7に噛合すると、閉ラッチ機構LCは、図3に示すアンラッチ状態から図4に示すハーフラッチ状態に変化する。ラッチ7のハーフラッチ位置がハーフラッチ検出スイッチにより検出されると、モータ32が制御装置Cによってクローズ制御(正転制御)される。これにより、モータ32がクローズ駆動して出力ギヤ32aが図4に示す矢印方向(時計方向)へ回動する。この際、サンギヤ35の時計方向への回動はブロック位置にあるブロックレバー20のブロック部20aによって阻止される。このため、セクタギヤ39は支軸34を中心に図4に示す矢印方向のクローズ方向(反時計方向)へ回動し、プラネタリーギヤ36の公転に伴い、クローズレバー38はスプリング40の付勢力に抗して、図4に示す矢印方向のクローズ方向(反時計方向)へ回動する。これにより、クローズ部38aが上方移動してラッチレバー11の作動部11aを押上げ、ラッチ7を図5に示すフルラッチ位置へ回動させる。ラッチ7のフルラッチ位置がフルラッチ検出スイッチにより検出されると、モータ32が制御装置Cによって一旦停止制御された後、反転制御される。
モータ32が反転制御されると、クローズレバー38は、プラネタリーギヤ36の公転による回動力とスプリング40の付勢力とを受けて反転し、図6に示すように待機位置に復帰する。そして、セクタギヤ39の中立位置が検出スイッチ48によって検出されると、制御装置Cはモータ32を停止制御する。従って、遊星歯車機構33が作動前のニュートラル状態に戻り、一連のクローズ動作が完了する。
2.4 クローザ・リリースユニットのリリース動作の説明
閉ラッチ機構LCが、図4又は図6に示すハーフラッチ状態又はフルラッチ状態にある場合に、車両Vに設けた操作スイッチ又は携帯用のワイヤレス操作スイッチの操作に基づいてモータ32がリリース駆動すると、セクタギヤ39は支軸34を中心としてリリース方向(時計方向)に回動し、プラネタリーギヤ36が公転しないで時計方向へ自転する。その結果、サンギヤ35は、リリース方向(反時計方向)へ所定角度回動し、当接部35bがリリース出力レバー41のリリース部41aを押圧し、リリース出力レバー41を時計方向へ回動させてリリース作動させる(図7参照)。
このようなリリース電動機構Rのリリース作動は、操作中継装置100等の各種要素を経由してラチェット9に伝達され、ラチェット9を係合位置からリリース位置に回動させる。これにより、ドアDの開扉が可能となる。リリース作動が終了した後、モータ32は反転制御され、リリース出力レバー41及びこのリリース出力レバー41のリリース作動に連動した各種要素は待機位置に戻る。
3.全開ラッチ装置及び開ラッチ連動機構の説明
図9は、全開ラッチ装置OD及び開ラッチ連動機構90の平面図であり、ドアDが全閉位置にある場合の状態を示している。
3.1 全開ラッチ装置の説明
全開ラッチ装置ODは、車体B側に設けられるストライカS2(図10及び図11参照)と噛合し、ドアDを全開位置で保持するための装置である。図9に示すように、全開ラッチ装置ODは、金属製のベースプレート81を有する。ベースプレート81の内面側には、全開ラッチ(第2ラッチ)82及びラチェット(第2ラチェット)83を含む開ラッチ機構LOが設けられている。全開ラッチ装置ODは、ロアアームLCA(図13及び図14)の下面に取り付けられる。ロアアームLCAは、ドア開口部Oに対してドアDをスライド可能に支持する金属製のブラケットである。
全開ラッチ82は、上下方向を向くラッチ軸84により軸支され、ドアDの全開時に係合溝82aでストライカS2と噛合する。ラチェット83は、上下方向を向くラチェット軸85により軸支され、全開ラッチ82の外周に設けられた係合部82bに係合可能である。ラチェット軸85には、ラチェット83と重なるようにリリース入力レバー86が軸支されている。ラッチ軸84及びラチェット軸85の一端はベースプレート81に保持され、他端は支持プレート87に保持されている。全開ラッチ82の外周において係合部82bよりも開ラッチ連動機構90に近接した位置には、突起82cが突設されている。
全開ラッチ82は、ストライカS2から外れたアンラッチ位置(図9参照)から、ラッチ軸84に外挿されるスプリング88の付勢力に抗してラッチ方向(図9中で時計方向)へ所定角度回動すると、ストライカS2に僅かに噛合した位置(図10参照)となる。さらに全開ラッチ82がラッチ方向に回動すると、ストライカS2に完全に噛合するラッチ位置(図11参照)となる。全開ラッチ82のラッチ位置はドアDの全開状態に対応する。
ラチェット83は、ラチェット軸85に外挿されるスプリング89の付勢力により常時係合方向(例えば、図9中の時計方向)に付勢されている。ラチェット83は、ラチェット軸85から略V字となる2方向に突出した部分の先端に爪部83a及び折曲部83bを有する。爪部83aは、全開ラッチ82が図9に示すアンラッチ位置にあるときには、全開ラッチ82の外周に当接している。爪部83aは、全開ラッチ82が図11に示すラッチ位置にあるときには、全開ラッチ82の係合部82bに係合する係合位置に保持され、全開ラッチ82のアンラッチ方向(図11中の反時計方向)への回動を阻止する。ラチェット83が全開ラッチ82の係合部82bに係合した係合位置となると、全開ラッチ82とストライカS2との噛合状態が保持されるため、ドアDが全開状態に保持される。
リリース入力レバー86は、ロアアームLCAの下面に沿ってドアD内へと配索されるケーブル506を介して操作中継装置100の閉用インサイドレバー111(図15参照)に連結される。
ドアDが全開状態にあり、操作中継装置100がアンロック状態にある場合に、インサイドハンドルIHがドア閉操作されると、閉用インサイドレバー111がリリース作動する。このリリース作動はケーブル506を介してリリース入力レバー86に伝達され、リリース入力レバー86が図12に示すようにリリース方向(反時計方向)に回動する。そうすると、リリース入力レバー86の側縁部がラチェット83の折曲部83bを押圧するため、ラチェット83が図12に示すように反時計方向に回動してリリース位置に移動する。これにより、全開ラッチ82とラチェット83との係合状態が解除され、全開ラッチ82はスプリング88の付勢力によってアンラッチ方向に回動し、アンラッチ位置となる。
3.2 開ラッチ連動機構の説明
図9に示すように、開ラッチ連動機構(リリースキャンセル出力機構)90は、全開ラッチ装置ODのベースプレート81の内面に対し、開ラッチ機構LOと並設されている。開ラッチ連動機構90は、開ラッチ機構LOの全開ラッチ82のアンラッチ位置からラッチ位置への移動に連動してリリースキャンセル作動する。このリリースキャンセル作動は、ケーブル504を介して中継機構117に伝達される(図15参照)。中継機構117は、開ラッチ連動機構90からのリリースキャンセル作動が入力されると、リリース拘束状態を解除してドアDの閉鎖を可能とする。
開ラッチ連動機構(連動機構)90は、カムレバー91と、キャンセルレバー92とを備える。
カムレバー91は、上下方向の軸93に軸支され、軸93に外挿されたスプリング(付勢部材)94によって常時図9中で時計方向に付勢されている。カムレバー91は、全開ラッチ82側に突出した先端円弧形状の受け部91aを有する。キャンセルレバー92は、カムレバー91と一体的に回動する。キャンセルレバー92は、ケーブル504の一端に設けられた連結ピン(接続部)95が移動可能に挿入される円弧状の長孔92aを有する。図9に示すように、ドアDが閉鎖位置にあって全開ラッチ82がアンラッチ状態にある場合、連結ピン95は長孔92aの近位縁部に当接した位置にある。カムレバー91及びキャンセルレバー92は一体構造であってもよい。
ドアDが全閉位置から開移動され、全開位置となる直前に図9に示すアンラッチ位置にある全開ラッチ82がストライカS2と当接してラッチ方向(時計方向)へ回動すると、全開ラッチ82の突起82cがカムレバー91の受け部91aを押圧する。これにより、カムレバー91及びキャンセルレバー92は、図10に示すようにキャンセル方向(反時計方向)へ所定角度回動(以下、「リリースキャンセル作動」と呼ぶ)し、長孔92aの縁部によって連結ピン95を引き寄せ移動させる。この連結ピン95の移動により、リリースキャンセル作動がケーブル504を介して中継機構117の切断レバー120(図15参照)に伝達される。その結果、中継機構117が後述するように接続状態から切断状態に切り替わり、リリース電動機構Rのリリース作動を閉ラッチ機構LCのラチェット9に伝達するためのリリース作動伝達経路を切断する。
なお、本実施形態におけるリリース作動伝達経路は、リリース出力レバー41、ケーブル503、中継機構117、連結ロッド128(図15参照)、操作中継装置100のレバー機構103(リリース中継レバー116)、ケーブル501、リリース入力レバー19、ラチェット9を繋ぐ経路であって、当該経路のうち中継機構117が接続又は切断される。
図10に示す位置から全開ラッチ82がさらにラッチ方向(時計方向)へ回動すると、突起82cが受け部91aを乗り越える。そうすると、図11に示すようにカムレバー91及びキャンセルレバー92はスプリング94の付勢力によって初期位置に戻り、これに伴ってケーブル504も初期位置に戻り、全開ラッチ82はラチェット83と係合してラッチ位置となる。
一方、ドアDが全開状態にある場合にインサイドハンドルIHがドア閉操作されると閉用インサイドレバー111及びケーブル506を介してリリース入力レバー86が図11に示す状態から図12に示すようにリリース方向(反時計方向)に回動する。そうすると、ラチェット83がリリース位置に移動するため、全開ラッチ82はスプリング88の付勢力によってアンラッチ方向に回動する。
全開ラッチ82がアンラッチ方向へ回動すると、図12に示すように全開ラッチ82の突起82cがカムレバー91の受け部91aを押圧し、カムレバー91及びキャンセルレバー92を時計方向へ所定角度回動させる。この動作時には、キャンセルレバー92の長孔92aが連結ピン95を空振りし、連結ピン95は移動しないため、ケーブル504に引き寄せ力を生じることがない。
このように、開ラッチ連動機構90は、ドアDの開動作時の全開ラッチ82の動作に応じてリリースキャンセル作動を発生し、このリリースキャンセル作動をケーブル504を介して中継機構117に伝達する。一方、ドアDの閉動作時の全開ラッチ82の動作ではリリースキャンセル作動は発生せず、中継機構117に対する動力伝達はない。
図13及び図14に示すように、ロアアームLCAは、水平方向に沿って配設されるプレート96と、プレート96の両側縁部から下方に突出したフランジ97,97とを備える。全開ラッチ装置OD及び開ラッチ連動機構90は、プレート96の下面(裏面)であってフランジ97,97の内側となる位置に取り付けられる。
図13に示すように、ロアアームLCAの一端には、車体Bのドア開口部Oの底面をスライドするローラ98aを有するスライド機構98が揺動可能な状態で設けられている。ロアアームLCAの他端はドアDに固定される。プレート96の下面に取り付けられた開ラッチ連動機構90及び全開ラッチ装置ODからのケーブル504,506は、プレート96の下面に沿ってドアDへと導かれ、ドアトリムDt内を配索されて、それぞれ操作中継装置100及び中継機構117に接続される。
このように、リリース拘束状態を解除するためのリリースキャンセル作動を発生する開ラッチ連動機構90を全開ラッチ装置ODと共にロアアームLCAの下面に取り付けるため、ドアD内に設置されるリヤドアラッチ装置1や中継機構117等、各種要素の設置スペースを邪魔することなく開ラッチ連動機構90を車両Vに設置することができる。また、全開ラッチ装置OD及び開ラッチ連動機構90は、フランジ97の内側となる位置でプレート96の下面に取り付けられるため、これらをフランジ97の内側に隠しておくことができ、乗降時に踏みつけられて破損すること等が防止できる。開ラッチ連動機構90と中継機構117とを連結するケーブル504をロアアームLCAの下面からドアトリムDt内へと配索することにより、このケーブル504が外部に露出することを防止しつつ、これら開ラッチ連動機構90と中継機構117とを円滑に作動させることができる。
4.操作中継装置の説明
図15は、操作中継装置100及び中継機構117の構成を示す説明図である。図15では、操作中継装置100をブロック構成図で示し、中継機構117を車内側から見た側面図で示している。
図15に示すように、操作中継装置100は、ドアD内に固定される金属製のベースプレート101を備える。操作中継装置100は、ベースプレート101によってロック操作ノブLK、アクチュエータ102及びレバー機構103を支持している。
ロック操作ノブLKは、車内側からの手動操作によりアンロック位置及びロック位置にスライド移動して、レバー機構103をアンロック状態及びロック状態に選択的に切り替える。レバー機構103のアンロック状態及びロック状態の切り替えは、アクチュエータ102の駆動によっても可能である。アクチュエータ102は、車両の適所に設けた操作スイッチ又は携帯用のワイヤレス操作スイッチのアンロック操作及びロック操作によって作動する。
車外側に配設されたアウトサイドハンドルOHが開操作されると、レバー機構103を構成するレバー群が適宜作動し、制御装置Cの制御下にリリース電動機構Rのモータ32及び電動開閉装置PSDが開駆動制御され、ドアDが開動作する。
車内側に配設されたインサイドハンドルIHは、ドアDの開操作及び閉操作を行うことができる。インサイドハンドルIHが開操作されると、レバー機構103を構成するレバー群が適宜作動し、制御装置Cの制御下にリリース電動機構Rのモータ32及び電動開閉装置PSDが開駆動制御され、ドアDが開動作する。インサイドハンドルIHが閉操作されると、レバー機構103を構成するレバー群が適宜作動し、閉用インサイドレバー111及びケーブル506を介して全開ラッチ装置ODをリリース作動させ、電動開閉装置PSDを閉駆動制御してドアDを閉動作させる。
リリース中継レバー116は、ケーブル501,507を介してリヤドアラッチ装置1のリリース入力レバー19及びフロントドアラッチ装置FDのリリースレバー(図示せず)にそれぞれ連結されている。レバー機構103がアンロック状態にあるとき、リリース中継レバー116のリリース作動は、リヤドアラッチ装置1のリリース入力レバー19及びフロントドアラッチ装置FDのリリースレバーにそれぞれ伝達される。
緊急出力レバー113は、ケーブル502を介してリヤドアラッチ装置1の緊急入力レバー21に連結されている(図3参照)。緊急出力レバー113がリリース作動すると、上記のようにブロックレバー20をキャンセル位置に移動させ、クローザ・リリースユニット3のクローズ動作を中断させる。
5.リリースキャンセル入力中継機構の説明
図15及び図16に示すように、中継機構(リリース伝達機構)117は、金属製の支持プレート147を備える。中継機構117は、支持プレート147によって中継レバー118、伝達レバー119及び切断レバー120を支持している。本実施形態の場合、中継機構117は、支持プレート147によって操作中継装置100のベースプレート101に取り付けられる。中継機構117は、操作中継装置100以外、例えばドアDのパネル等に取り付けられていてもよい。
中継機構117は、モータ32のリリース駆動によるリリース出力レバー41のリリース作動を、リヤドアラッチ装置1及びフロントドアラッチ装置FDに伝達可能に接続する接続状態及び伝達不能に切断する切断状態に切替可能である。モータ32のリリース駆動中、リリース電動機構Rにおいてモータ32の故障や固着等の電気的トラブルが発生し、閉ラッチ機構LCがリリース作動した状態に停止したままとなると、ドアDを保持できなくなるリリース拘束状態が発生する。この場合に中継機構117が切断状態に切り替わり、リリース電動機構Rのリリース作動をラチェット9に伝達するためのリリース作動伝達経路が切断されることにより、リリース拘束状態が解除され、ドアDの保持が可能となる。
中継レバー118は、車内外方向を向く軸148によって支持プレート147に軸支されている。中継レバー118は、下端部がケーブル503を介してリヤドアラッチ装置1のリリース出力レバー41に連結されている。中継レバー118は、モータ32のリリース駆動によるリリース出力レバー41のリリース作動に連動し、図15に示す待機位置から反時計方向へ所定角度回動(以下、「リリース作動」と呼ぶ)し、図17に示すリリース位置に移動する。
中継レバー118の下部には、上下方向の制御孔118aが設けられている。制御孔118aは、略三角形状の孔部である。制御孔118aは、切断レバー120側にある略L字状の縁部の頂点(凹部)から反対側に向かって延在した空振り部118bと、空振り部118bの端部(終端)から下方に向かって次第に切断レバー120側へと傾斜した傾斜部118cを有する。制御孔118aには、切断レバー120の作動に従動して上下動するフローティングピン149が摺動可能に係合されている。
伝達レバー119は、中継レバー118と同一の軸148により支持プレート147に軸支されている。伝達レバー119は、切断レバー120が図15及び図17に示す接続位置、すなわち中継機構117が接続状態にあるとき、中継レバー118のリリース作動に連動可能である。この連動により、伝達レバー119は、スプリング150の付勢力に抗して、図15に示す待機位置から中継レバー118と共に反時計方向へ所定角度回動(以下、「リリース作動」と呼ぶ)し、図17に示すリリース位置に移動する。
伝達レバー119の下端部は、連結ロッド128を介して操作中継装置100のレバー機構103に連結されている。伝達レバー119からのリリース作動が連結ロッド128を介して伝達されることにより、レバー機構103はリリース作動し、このリリース作動がリヤドアラッチ装置1及びフロントドアラッチ装置FDに伝達される。
伝達レバー119の下部には、上下方向の長孔119aが設けられている。長孔119aには、フローティングピン149が摺動可能に係合されている。
切断レバー120は、車内外方向を向く軸151により支持プレート147に軸支された略U字状のレバーである。切断レバー120は、上端部がケーブル504を介して開ラッチ連動機構90のキャンセルレバー92に連結されている。切断レバー120は、上記のように開ラッチ連動機構90のキャンセルレバー92がキャンセル方向へリリースキャンセル作動した際、このリリースキャンセル作動に連動可能である。この連動により、切断レバー120は、図15に示す接続位置からスプリング152の付勢力に抗して時計方向へ所定角度回動した図18に示す切断位置に移動する。
切断レバー120の上端部には、ケーブル504の他端に設けられた連結ピン121が移動可能に挿入される長孔120aが形成されている。図15に示す接続位置及び図18に示す切断位置において、連結ピン121は長孔120aの近位縁部に当接する位置にある。上記のように、ドアDの閉動作時に全開ラッチ装置ODの全開ラッチ82が動作した場合、開ラッチ連動機構90ではキャンセルレバー92の長孔92aの作用によってリリースキャンセル作動を発生しない。そこで、本実施形態では、このリリースキャンセル作動の伝達用のケーブル504の中継機構117側への接続部となる連結ピン121も長孔120aで移動可能としたことにより、全開ラッチ82のアンラッチ方向への動作時の切断レバー120の作動をより確実に防止している。ケーブル504は、一端又は他端が移動可能であればよく、長孔92a,120aの一方は連結ピン95,121を移動不能に保持する円形の孔部であってもよい。
切断レバー120の下端部には、円弧状の長孔120bが形成されている。長孔120bには、フローティングピン149が摺動可能に係合されている。
フローティングピン149は、中継レバー118の制御孔118a、伝達レバー119の長孔119a及び切断レバー120の長孔120bを摺動可能に挿通される。
切断レバー120が図15に示す接続位置にある場合、フローティングピン149は、中継レバー118の制御孔118aの下縁部に位置し、中継レバー118と伝達レバー119との間のリリース作動伝達経路を接続し、中継レバー118のリリース作動を伝達レバー119に可能とする。
図18に示すように、中継レバー118及び伝達レバー119がリリース作動した状態にあって、切断レバー120が接続位置から切断位置に移動した場合には、フローティングピン149が制御孔118a内を長孔119aに沿って上動する。これにより、フローティングピン149は、図18に示すように、制御孔118aの空振り部118bの始端(制御孔118aのL字状の縁部の頂点)となる位置に移動する。この位置にフローティングピン149がある状態では、フローティングピン149は、空振り部118bに沿って制御孔118a内を移動可能であり、切断レバー120の長孔120b内も移動可能である一方、伝達レバー119の長孔119a内は移動不能である。従って、中継レバー118と伝達レバー119との間の伝達状態が解除され、リリース作動伝達経路が切断されるため、図19に示すように中継レバー118がリリース作動した状態にあっても、伝達レバー119及びこれと連結ロッド128で連結されたレバー機構103の待機位置への復帰が可能となる。
6.車両用ドア開閉装置の作用の説明
次に、本実施形態に係る車両用ドア開閉装置DOの作用について説明する。
6.1 ドアが全閉状態でのハンドル操作によるリリース作動
ドアDが全閉位置で操作中継装置100がアンロック状態にある場合、アウトサイドハンドルOH又はインサイドハンドルIHが開操作されると、この開操作は操作中継装置100のレバー機構103に伝達される(図15参照)。そうすると、レバー機構103のレバー群を介してリリース中継レバー116がリリース作動し、このリリース作動がケーブル501,507を介してリヤドアラッチ装置1及びフロントドアラッチ装置FDに伝達される。
リヤドアラッチ装置1では、リリース入力レバー19が図6に示す待機位置から図7に示すようにリリース作動する。これにより、ラチェット9がリリース位置に移動してラチェット9とラッチ7の係合状態が解除され、閉ラッチ機構LCがリリース作動する。同時にフロントドアラッチ装置FDもリリース作動するため、ドアDの開扉が可能となる。
6.2 ドアが全開状態でのハンドル操作によるリリース作動
ドアDが全開位置で操作中継装置100がアンロック状態にある場合、インサイドハンドルIHが閉操作されると、この閉操作は操作中継装置100のレバー機構103に伝達される(図15参照)。そうすると、レバー機構103のレバー群を介して閉用インサイドレバー111がリリース作動し、このリリース作動がケーブル506を介して全開ラッチ装置ODに伝達される。
全開ラッチ装置ODでは、リリース入力レバー86が図11に示すラッチ位置から図12に示すようにリリース作動する。これにより、ラチェット83がリリース位置に移動してラチェット83と全開ラッチ82の係合状態が解除され、開ラッチ機構LOがリリース作動するため、ドアDの閉扉が可能となる。
6.3 リリース電動機構によるリリース作動
ドアDが全閉位置で閉ラッチ機構LCがフルラッチ状態にある場合に、車内に設けられた操作スイッチ又はワイヤレス操作スイッチが開操作されると、リリース電動機構Rを構成するモータ32がリリース駆動する。そうすると、セクタギヤ39が図6に示す状態から図7に示すようにリリース方向(反時計方向)へ回動し、プラネタリーギヤ36の反時計方向への自転に連動してサンギヤ35が中立位置からリリース方向へ所定角度回動する。
図7に示すように、リリース方向へ回動したサンギヤ35の当接部35bがリリース出力レバー41のリリース部41aを押圧する。これにより、リリース出力レバー41が待機位置からスプリング46の付勢力に抗してリリース作動する。このリリース作動は、ケーブル503を介して接続状態にある中継機構117の中継レバー118に伝達される。
リリース出力レバー41のリリース作動が伝達されると、中継レバー118は、図15に示す待機位置から図17に示すようにリリース作動する。中継レバー118がリリース作動すると、フローティングピン149の係合作用下に伝達レバー119もリリース作動する。このリリース作動は、連結ロッド128を介して操作中継装置100のレバー機構103に伝達されてリリース中継レバー116をリリース作動させる。
リリース中継レバー116のリリース作動は、ケーブル501,507を介してリヤドアラッチ装置1及びフロントドアラッチ装置FDに伝達される。リヤドアラッチ装置1では、リリース入力レバー19が図6に示す待機位置から図7に示すようにリリース作動する。これにより、ラチェット9がリリース位置に移動させてラチェット9とラッチ7の係合状態が解除され、閉ラッチ機構LCがストライカS1から離脱可能となる。同時にフロントドアラッチ装置FDもリリース作動するため、ドアDの開扉が可能となる。
図3に示すように、セクタギヤ39及びサンギヤ35が反転して中立位置に戻り、リリース作動していたリリース出力レバー41が待機位置に戻る。このため、リリース電動機構Rはリリース作動した状態から待機状態に戻り、リリース作動していた他の要素もそれぞれの待機位置に戻る。
6.4 リリース拘束状態を解除する際のリリースキャンセル動作
ドアDを全閉位置から開動作させる場合において、モータ32のリリース駆動によってリリース出力レバー41をリリース作動させた際、動作不良がなければモータ32の反転駆動により、各種要素が中立位置又は待機位置に戻る。このため、その後のドアDの閉動作時にはラッチ7のフルラッチ係合部7a又はハーフラッチ係合部7bに対するラチェット9の係合が可能となる。
ところが、図7に示すように、ラチェット9がモータ32のリリース駆動によってリリース位置に移動した状態のとき、動作不良を生じた場合、モータ32の反転が不能となる可能性もある。そうすると、リリース出力レバー41がリリース作動した状態で停止し、ラチェット9がリリース位置に停止してラッチ7との係合位置に戻ることができないリリース拘束状態が発生する。リリース拘束状態が発生すると、ラチェット9がリリース位置に停止してラッチ7に係合する係合位置への移動が不能であるため、ドアDを閉位置に保持しておくことができなくなる。なお、このような動作不良の検知は、例えば、ラチェット9のリリース位置を検出する検出スイッチによる検出信号が一定時間以上継続した場合や、セクタギヤ39の中立位置を検出する検出スイッチ48での検出がなされないこと等によって検知される。
そこで、本実施形態に係るドア開閉装置DOでは、中継機構117及び開ラッチ連動機構90を備えることにより、ドアDを開動作させる際に上記リリース拘束状態が発生した場合であってもこれをキャンセルし、ドアDの閉位置での保持束を可能とする。
具体的には、上記のようなリリース作動が行われ、リヤドアラッチ装置1及び中継機構117がそれぞれ図7及び図17に示す位置で停止した状態、すなわちリリース拘束状態が発生した場合であっても、ドアDはそのまま全開位置までは開動作できる。そのため、ドアDが全開位置になる直前のタイミングで全開ラッチ装置ODの開ラッチ機構LOがラッチ状態となり、その際、開ラッチ連動機構90がリリースキャンセル作動する。
開ラッチ連動機構90のリリースキャンセル作動は、キャンセル方向へ回動するキャンセルレバー92からケーブル504を介して図17に示す接続状態にある中継機構117の切断レバー120に伝達される。
リリースキャンセル作動が伝達された切断レバー120は、図18に示すように接続位置から切断位置に移動する。この際、フローティングピン149は、切断位置に移動する切断レバー120の長孔120aによって押圧されて従動する。すなわち、フローティングピン149は、中継レバー118の制御孔118a及び伝達レバー119の長孔119aに沿って上動し、制御孔118aの空振り部118bの始端となる位置(図18参照)に移動する。この状態では、フローティングピン149は、伝達レバー119の待機位置への移動に際して長孔119aによって押圧され、空振り部118bに沿って制御孔118a内を移動可能であると共に長孔120b内も移動可能である。これにより、中継レバー118と伝達レバー119との間の伝達経路、すなわちリリース電動機構Rのリリース作動をラチェット9に伝達するリリース作動伝達経路が切断される。その結果、この時点においてもリリース出力レバー41がリリース作動した状態に停止している場合には、図19に示すように中継レバー118がリリース作動した状態のままで伝達レバー119がスプリング150の付勢力によって待機位置に戻る。なお、動作不良が発生していない通常状態では、フローティングピン149は切断レバー120の動作に合わせて図18に示す位置から図17に示す位置に戻る。
図19に示すように伝達レバー119が待機位置に戻ると、これに追従して連結ロッド128が待機位置に戻る。そうすると、操作中継装置100のレバー機構103を構成するリリース中継レバー116が待機位置に戻り、これに追従してリリース入力レバー19も図8に示すように待機位置に戻る。その結果、図8に示すように、リリース出力レバー41がリリース作動した状態に拘束されたまま、ラチェット9が復帰可能となる。従って、ドアDを全開位置から閉動作させると、ラッチ7がストライカS1に噛合うと共にラチェット9がラッチ7に係合し、ドアDが閉位置で保持される。
その後、リリース拘束状態の原因となる故障等が解消され、リリース出力レバー41がリリース作動状態から待機位置に戻った場合には、リリース出力レバー41の待機位置への移動に追従して、中継レバー118が図19に示すリリース位置から待機位置に戻る。そうすると、中継レバー118の制御孔118aと伝達レバー119の長孔119aが図15に示す位置関係に復帰する。これにより、制御孔118aの空振り部118aの終端にあるフローティングピン149は、スプリング152の付勢力による切断レバー120の接続位置への復帰に連動し、制御孔118aの傾斜部118cを摺接しながら図15に示す位置に戻る。その結果、中継機構117が再び図15に示す接続状態となる。なお、上記の動作不良が生じた場合には、ドアDを全閉状態から電動開閉装置PSDによって自動で開ける際及びドアDを全開状態から自動で閉める際にドアDが応答しなくなる。そのため、ユーザは故障等の発生に容易に気付くことができるため、中継機構117及び開ラッチ連動機構90の作用によってドアDを閉位置に保持した状態で修理等を依頼することができる。
ところで、このようにドアDの開動作によってリリース拘束状態を解除する際には、全開ラッチ装置ODのラチェット83、中継機構117の伝達レバー119、操作中継装置100のレバー機構103及びクローザ・リリースユニット3のレバー群の戻り音が発生する。一方、上記のように、ドアDの閉動作時の全開ラッチ82の動作ではキャンセルレバー92の長孔92a及び切断レバー120の長孔120aの作用によってリリースキャンセル作動は発生しないため、上記の戻り音が発生せずユーザに違和感や不快感を与えることがない。
また、ドアDを全開位置から閉方向へと電動開閉装置PSDによって閉動作させている最中にモータ32の動作不良を検知した際には、制御装置Cは、電動開閉装置PSDを反転制御してドアDを全開位置に向かって開動作させる。これにより、開ラッチ連動機構90のキャンセルレバー92をキャンセル方向に作動させ、中継機構117を切断状態に切り替えてリリース拘束状態を解除することができる。従って、ドアDの閉動作中にリリース拘束状態が発生した場合であっても、これを確実に解消することができ、その後は手動でドアDを閉めることでドアDを閉位置に保持することができる。
以上のように、本実施形態に係る車両用ドア開閉装置DOでは、ドアDを開くだけの通常操作によってリリース拘束状態を解除することができる。このため、リリース拘束状態が発生した場合であってもユーザに特殊な操作を強いることなくドアDを閉位置に保持することが可能となる。
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。