以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。なお、図中の矢印Uの向きを上方、矢印Fの向きを前方、矢印Rの向きを右方とする。図1〜図13には、本発明に係る動力伝達機構の組付構造を備えたパワーユニットPUを示している。パワーユニットPUは、エンジンEと動力伝達機構TMとからなり、スクータ型の二輪車に配設される。このパワーユニットPUにより、エンジンEの出力回転が動力伝達機構TMを介して後輪に変速されて伝達され、二輪車を走行させることができる。
パワーユニットPUは、ヘッドカバー1と、シリンダヘッド2と、シリンダブロック3と、ロアケース4と、サイドカバー5と、ベベルギヤケース6とから構成され、これら各部材1〜6が結合されてハウジングHを形成しており、ハウジングHの内外にパワーユニットPUを構成する装置や機構、補機などが配設される。図1,図3に示すようにエンジンEは、ヘッドカバー1と、シリンダヘッド2と、シリンダブロック3と、ロアケース4と、サイドカバー5とから構成された水冷・4ストローク・DOHC・並列3気筒型の内燃機関である。図4に示すように動力伝達機構TMは、ロアケース4と、サイドカバー5と、ベベルギヤケース6とから構成されている。
まず、エンジンEを説明する。シリンダブロック3は、左右に並ぶ3つのシリンダボア3a,3b,3cを内部に形成するシリンダ部3Aと、上下割りのクランクケース12Aの上側ケース半体である上クランクケース部3Bとが一体の大型のハウジング部材になっている。シリンダブロック3は、シリンダ軸11Aを前傾させて二輪車に配設され、シリンダ部3Aを前方に位置させて上クランクケース部3Bを後方に位置させる。各シリンダボア3a〜3cには、ピストン11がシリンダ軸11A方向に摺動自在に配設される。
ロアケース4は、上下割りのクランクケース12Aの下側ケース半体である下クランクケース部4Aと、動力伝達機構TMを内部に収容する変速機ケース部4Bとが一体の大型のハウジング部材になっており、下クランクケース部4Aが上クランクケース部3Bに接合してシリンダブロック3の後方に結合される。このように、本構成例のクランクケース12Aは、シリンダブロック3の上クランクケース部3Bとロアケース4の下クランクケース部4Aとからなり、クランクケース12Aの内部にクランク室12Bが形成され、このクランク室12Bにクランクシャフト12が収容されて回転自在に支持される。なお、シリンダブロック3の上クランクケース部3Bと、ロアケース4の下クランクケース部4Aおよび変速機ケース部4Bとは右側面が開放されており、サイドカバー5がこれらの右側面を覆って結合される。
シリンダブロック3およびロアケース4は、シリンダ軸11Aが鉛直方向に延びる向きではシリンダブロック3とロアケース4との接合面12Cが水平方向に延びて形成されるが、本構成例ではシリンダ軸11Aが略水平方向に前傾されるため、図2に示すように接合面12Cが側面視において後上方から前下方に向けて傾斜して略上下方向に延びて形成される。クランクシャフト12は、中心軸12dが左右方向に延びて配設され、中心軸12dを接合面12C上に位置させて配設される。
図3に示すようにクランクシャフト12は、ウェブ12bを一体に成形した4つのジャーナル12aと、ウェブ12b,12b間を連結する3つのクランクピン12cとから構成されている。ピストン11は、対応するクランクピン12cとコンロッド13を介して連結されている。これにより、ピストン11の往復動とクランクシャフト12の回転とが連動し、ピストン11が一往復するとクランクシャフト12が一回転する。
シリンダヘッド2は、シリンダブロック3のシリンダ部3Aの前部に結合されている。シリンダヘッド2の内壁面と、ピストン11の上面と、シリンダボア3a〜3cの内周面とにより囲まれて各シリンダボア3a〜3cに対応する3つの燃焼室9が形成される。シリンダヘッド2には、図示しない点火プラグが先端部を各燃焼室9に臨ませた状態で取り付けられている。
シリンダヘッド2には、各燃焼室9に開口する吸気口21および排気口24が形成されている。また、シリンダヘッド2の内部には、一端が吸気口21に連通されて他端が外部に連通される吸気通路22と、一端が排気口24に連通されて他端が外部に連通される排気通路25とが形成されている。吸気通路22の外部接続口23には、図示しない吸気マニホールドが取り付けられる。吸気マニホールドに燃料噴射弁を備えた吸気装置およびエアクリーナが取り付けられており、この吸気マニホールド、吸気装置、エアクリーナから吸気系が構成される。排気通路25の外部接続口26は、図示しない排気マニホールドが取り付けられており、この排気マニホールドを介して外部に連通される。
シリンダヘッド2の前部にはヘッドカバー1が結合され、ヘッドカバー1およびシリンダヘッド2により囲まれて動弁室10が形成される。なお、ヘッドカバー1の頂部に設けられた開口から点火プラグが取り付けられる。動弁室10には、吸気口21を開閉する吸気バルブ14および排気口24を開閉する排気バルブ15が設けられる。両バルブ14,15は、バルブスプリング14a,15aにより、常には吸気口21および排気口24を閉じる方向に付勢されている。
動弁室10には、シリンダヘッド2とヘッドカバー1との間にカムシャフトホルダ7が介設されており、カム18,19が一体に成形された吸気および排気カムシャフト16,17が、シリンダヘッド2およびカムシャフトホルダ7により挟まれて回転自在に支持される。吸気カムシャフト16のカム18は吸気バルブ14の上端に当接し、排気カムシャフト17のカム19は排気バルブ15の上端に当接している。両カムシャフト16,17が回転すると、吸気および排気バルブ14,15がカム18,19によりバルブスプリング14a,15aの付勢力に抗して押し下げられ、吸気バルブ14が吸気口21を開放して排気バルブ15が排気口24を開放する。吸気口21が開放されると吸気系からの混合気が燃焼室9に供給され、排気口24が開放されると燃焼室9の内部のガスが排気通路26に導かれて外部に排出される。
両カムシャフト16,17は、クランクシャフト12の回転がカム伝動機構30により伝達されて回転する。図2,図5に示すようにカム伝動機構30は、クランクシャフト12の回転をアイドルシャフト32に設けられたアイドルギヤ列33により伝達し、さらにアイドルギヤ列33の回転をチェーン伝動機構により両カムシャフト16,17に伝達するように構成されている。
本構成例では、アイドルシャフト32は、回転軸である第1アイドルシャフト34と、固定軸である第2アイドルシャフト35とからなる。アイドルギヤ列33は、第1アイドルシャフト34に設けられてカムドライブギヤ31と噛合する第1アイドルギヤ36と、第1アイドルシャフト34に設けられた第2アイドルギヤ37と、第2アイドルシャフト35上を回転自在に設けられて第2アイドルギヤ37と噛合する第3アイドルギヤ38とからなる。また、チェーン伝動機構は、第2アイドルシャフト34に設けられて第3アイドルギヤ38とともに回転するカムドライブスプロケット39と、両カムシャフト16,17にそれぞれ設けられたカムドリブンスプロケット40,41と、3つのスプロケット39〜41の間に掛け渡されたカムチェーン42とからなる。
カム伝動機構30は、カムドライブギヤ31、アイドルギヤ列33、3つのスプロケット39〜41の回転比に応じて、クランクシャフト12が二回転すると両カムシャフト16,17を一回転させる。なお、第1アイドルシャフト34はクランクシャフト12と同一の回転速度で回転し、第2アイドルギヤ37の回転が第3アイドルギヤ38に1/2の回転速度で伝達される。カムチェーン42は、右シリンダボア3cの右方に位置してシリンダブロック3およびシリンダヘッド2の内部を連通して形成されたチェーン室30aの内部に配設される。
アイドルシャフト32はクランクシャフト12に対して下方に位置し、第2アイドルシャフト35は第1アイドルシャフト34に対して前方に位置する。クランクシャフト12は、クランクケース12Aの接合面12Cに形成された4つのクランクジャーナル部12Dによりジャーナル12aが支持されて回転自在になっており、中心軸12dを接合面12C上に位置させている。また、第1アイドルシャフト34は、クランクケース12Aの接合面12Cの左右両端に形成されたアイドルジャーナル部12Eにより支持されて回転自在になっており、クランクシャフト12と同様に中心軸34dを接合面12C上に位置させている。このように、クランクシャフト12および第1アイドルシャフト34は、上下クランクケース部3B,4Aにより挟まれて支持されている。
なお、チェーン室30aの上方には、図2に示すようにクランク室12Bと連通するブリーザ室46が形成されている。ブリーザ室46は、シリンダヘッド2の後上方内壁面とシリンダブロック3の前上方内壁面とにより囲まれて形成される。シリンダブロック3の上クランクケース部3Bおよびサイドカバー5の内壁面には、リブ48が突出して設けられており、このリブ48が隔壁となってジグザグ状のブリーザ通路47が、シリンダブロック3およびサイドカバー5により囲まれて形成される。ブリーザ通路47は、一端47aがクランク室12Bに連通して他端47bがブリーザ室46に連通しており、ブリーザ室46とクランク室12Bとを連通させる。
シリンダヘッド2には上方に突出して配管接続部材49aが圧入され、配管接続部材49aがブリーザ室46に連通される。配管接続部材49aにはブローバイガス配管49の一端が接続され、ブローバイガス配管49の他端は例えばエアクリーナなどの吸気系に接続される。これにより、クランク室12Bの内部のブローバイガスは、クランク室12Bの脈動に応じてブリーザ通路47に流入し、オイル成分を隔壁48に付着させて気液分離され、ブリーザ室46から吸気系に還流し、燃焼室9に供給される。
また、図5に示すようにシリンダブロック3の上クランクケース部3Bの内部空間には、エンジンEを始動させるための始動装置50が設けられる。始動装置50は、電動のスタータモータ51を有し、減速ギヤ列52によりスタータモータ51の駆動力をクランクシャフト12に伝達するように構成されている。
スタータモータ51は、シリンダブロック3の左側面に形成されたモータ取付孔3dに嵌着されてシリンダブロック3に取り付けられ、出力軸をシリンダブロック3の内部に位置させている。減速ギヤ列52は、スタータモータ51の出力軸に取り付けられたスタータピニオン53と、スタータドライブギヤ55、スタータアイドルギヤ56およびスタータドリブンギヤ57からなるスタータギヤ列54とから構成される。スタータギヤ列54は、第1および第2アイドルシャフト34,35に設けられている。スタータドリブンギヤ57は、第1アイドルシャフト34に設けられたワンウェイクラッチ58に取り付けられている。
このような始動装置50によると、ハンドル近傍のセルスイッチの操作によりスタータモータ51が駆動されてスタータピニオン53が回転し、スタータギヤ列53を介して第1アイドルシャフト34を回転させる。第1アイドルシャフト34が回転すると、第1アイドルギヤ36およびカムドライブギヤ31が回転し、クランクシャフト12が回転駆動されてエンジンEが始動する。エンジンEが始動してアイドル状態になると、クランクシャフト12の回転速度がスタータドリブンギヤ57の回転速度を越えてワンウェイクラッチ58によりスタータドリブンギヤ57が空転する。
また、図5に示すようにクランクシャフト12と同じ回転速度で回転する第1アイドルシャフト34に設けられた第1アイドルギヤ36は、左右非対称に成形されて一部が肉厚になっている。この肉厚部36aがバランサウェイトとして機能する。さらに、この肉厚部36aを貫通して円形孔が成形されており、この円形孔には、比重の大きい材料(タングステンなど)により成形されたウェイト部材36bが取り付けられる。このように、カム駆動ギヤ31、第1アイドルギヤ36、第1アイドルシャフト34およびバランサウェイト36a,36bからバランサ機構が構成されており、ピストン11が一往復するとバランサウェイト36a,36bが一回転して振動の打ち消しが図られる。以上のように、第1アイドルシャフト34は、カム伝動機構30、始動装置50およびバランサ機構のシャフトとして共用されているとともに、カムドライブギヤ31および第1アイドルギヤ36は、同じくクランクシャフト12との動力伝達を行うためのギヤ列として共用されており、各機構に専用の軸やギヤ列が複数省略され、エンジンEの小型化が図られている。
図2,図8に示すようにロアケース4の下部には、オイルパン8が下方から取り付けられており、オイルパン8の内部空間がロアケース4の内部空間と連通している。オイルパン8の内部には、エンジンEおよび動力伝達機構TMの潤滑油が蓄えられる。この潤滑油を各潤滑部に供給するためのオイルポンプが、下クランクケース3Bの内部空間に設けられる。
図2,図8に示すようにロアケース4の下クランクケース部4Aの内部空間には、下方に位置して、すなわち、第1アイドルシャフト34の後方に位置して、ポンプシャフト97が左右に延びて回転自在に配設される。ポンプシャフト97は、第1アイドルシャフト34の回転がポンプ伝動機構98を介して伝達されて駆動される。図2に示すようにポンプ伝動機構98は、第1アイドルシャフト34に一体に成形されたポンプドライブスプロケット98aと、ポンプシャフト97に設けられてポンプシャフト97と一体に回転するポンプドリブンスプロケット98bと、両スプロケット98a,98bの間に掛け渡されたポンプチェーン98cとから構成されている。
オイルポンプ61は、ポンプシャフト97の回転により駆動される。オイルポンプ61が駆動されると、オイルパン8に蓄えられた潤滑油が、オイルパン8に設けられたストレーナ62から吸入されて吸入配管66に導かれる。吸入配管66に導かれてオイルポンプ61に流入した潤滑油は、ポンプ吐出油路に圧送され、ロアケース4およびシリンダブロック3の内部に形成された油路を通り、クランクジャーナル部12Dやアイドルジャーナル部12Eなどの各潤滑部に供給される。
また、図9に示すように冷却水を供給するウォーターポンプ81が、ポンプシャフト97の右端部に取り付けられている。ポンプシャフト97が回転して内蔵のインペラが回転すると、ウォーターポンプ81は、ラジエータからの冷却水を吐出配管接続部81aから外部に圧送する。吐出配管接続部81aに接続される配管は、図1に示すようにシリンダブロック3のシリンダ部3Aに取り付けられた配管接続部84に接続される。この配管接続部84は、シリンダブロック3の内部に形成された冷却水通路85に連通し、さらに、この冷却水通路85を介してウォータージャケット83に連通している。ウォーターポンプ81からの冷却水がウォータージャケット83を通過することによりエンジンEの冷却が行われる。このように、本構成例ではオイルポンプ61およびウォーターポンプ81の駆動軸が共用され、エンジンEの小型化が図られている。
次に、動力伝達機構TMを説明する。図4,図13に示すように動力伝達機構TMは、プライマリギヤ列101と、多板クラッチ105と、変速機構110と、ベベルギヤ列121と、プロペラシャフトを構成するシャフト取付部材125とから構成され、ロアケース4の変速機ケース部4Bとベベルギヤケース6との内部に収容される。ベベルギヤケース6は、ロアケース4の左側面に結合される。変速機構110は、変速機ケース部4Bの内部空間に回転自在に収容された変速機シャフト110aを有している。変速機シャフト110aは、互いにクランクシャフト12と平行に配設されたメインシャフト111およびカウンタシャフト112から構成される。
プライマリギヤ列101は、クランクシャフト12と一体に回転するプライマリドライブギヤ102と、メインシャフト111上を回転自在に設けられたプライマリドリブンギヤ103とが噛合して構成される。なお、図2に示すようにプライマリドライブギヤ102は、カムドライブギヤ31と同一の歯車である。カムドライブギヤ31は、カム伝動機構30として機能するとともに、動力伝達機構TMのプライマリギヤ列101として機能し、クランクシャフト12の軸方向の小型化が図られている。
多板クラッチ105は、湿式とされてメインシャフト111の右端部に取り付けられており、ダンパを介してプライマリドリブンギヤ102に取り付けられてプライマリドリブンギヤ103と一体にメインシャフト111上を回転するアウタクラッチ106と、メインシャフト111と一体に回転するインナクラッチ107と、アウタクラッチ106に設けられたアウタプレート108と、インナクラッチ107に設けられたインナプレート109とから構成され、両プレート108,109の係脱によりアウタクラッチ106の回転が係脱自在にインナクラッチ107に伝達される。
この多板クラッチ105には、レリーズ機構150が備えられる。レリーズ機構150は、メインシャフト111の軸孔111aに挿通されて右端部がインナクラッチ107に接続されて左端部がメインシャフト111の左側外方に突出するロッド151と、ロッド151の左端部を内部に収容するレリーズシリンダ152と、ロッド151の左端部が取り付けられてレリーズシリンダ152の内部に摺動自在に配設され、レリーズスプリング154により左方に付勢されたレリーズピストン153とから構成される。このようなレリーズ機構150は、常にはレリーズスプリング154の付勢力によりレリーズピストン153およびロッド151を左方に位置させて両プレート108,109を係合させており、プライマリギヤ列101からの回転をメインシャフト111に伝達させる。図示しないハンドル近傍のクラッチレバーが操作されるとレリーズシリンダ152の油室152aに作動油が供給され、レリーズピストン153がレリーズスプリング154の付勢力に抗して右動する。これにより、ロッド151が右動してインナクラッチ107が押圧され、両プレート108,109が離間してプライマリギヤ列101からのメインシャフト111への回転の伝達が切断される。
変速機構110は、クランクシャフト12の後方に配設されたメインシャフト111と、メインシャフト111の下方に配設されたカウンタシャフト112と、メインシャフト111およびカウンタシャフト112に設けられて変速機ケース部4Bの内部空間に収容される6組の変速ギヤ列G1〜G6と、変速段を変更させるためのシフトドラム機構113とから構成される。変速ギヤ列G1〜G6は、メインシャフト111に設けられた駆動変速ギヤM1〜M6と、カウンタシャフト112に設けられた従動変速ギヤC1〜C6とから構成されており、駆動および従動変速ギヤは、変速ギヤ列を構成するギヤ同士が常時噛合している。変速ギヤ列G1〜G6は、シャフト右側から第1、第5、第4、第3、第6、第2変速ギヤ列の順で並んでいる。図4はニュートラルの状態を示しており、シフトドラム機構113の作動によりいずれか1組のギヤ列のみをメインシャフト111およびカウンタシャフト112と一体に回転させ、メインシャフト111の回転をカウンタシャフト112に伝達する。
第1および第2駆動変速ギヤM1,M2は、メインシャフト111上で固定され、メインシャフト111と一体に回転する。第5および第6駆動変速ギヤM5,M6と第1、第3および第4従動変速ギヤC1,C3,C4とは、シャフト上で固定され、シャフトに対して相対回転自在になっている(以下、空転ギヤと称する)。なお、第3および第4駆動変速ギヤM3,M4は一体に成形されている。この一体の第3および第4駆動変速ギヤM3,M4と、第5および第6従動変速ギヤC5,C6とは、シャフトにスプライン嵌合されてシャフトと一体に回転するとともに軸方向に移動自在になっている(以下、遊動ギヤと称する)。各遊動ギヤは、空転ギヤにより挟まれて配置されるとともに、係合突起119aおよびフォーク溝119bが形成される。
図13に示すようにシフトドラム機構113は、図示しないシフトペダルの操作に応じて回転するシフトスピンドル114と、シフトスピンドル114の回転が連動機構115を介して伝達されてメインシャフト111およびカウンタシャフト112と平行の軸周りに回転するシフトドラム116と、一端がシフトドラム116の外周面に形成された溝116aに係合してシフトドラム116の回転に応じてこの溝116aに沿ってシフトドラム116の軸方向に移動する3つのシフトフォーク117と、シフトフォーク117が枢結されてシフトフォーク117の移動をガイドするフォークシャフト118とから構成される。シフトフォーク117の他端は、遊動ギヤに形成されたフォーク溝119bに係合される。
このようなシフトドラム機構113により、シフトペダルが操作されると、シフトフォーク117が軸方向に移動して各遊動ギヤが軸方向に移動する。これにより、遊動ギヤに形成された係合突起119aが隣接する空転ギヤに対して係脱し、メインシャフト111およびカウンタシャフト112と一体に回転する変速ギヤ列が適宜変更される。
ベベルギヤ列121は、カウンタシャフト112の左端にカウンタシャフト112と一体に成形されたドライブベベルギヤ122と、シャフト取付部材125の一端にシャフト取付部材125と一体に成形されたドリブンベベルギヤ123とが噛合して構成される。ベベルギヤ列121は、ベベルギヤケース6の内部に収容される。
シャフト取付部材125は、一端部にドリブンベベルギヤ123が成形され、他端部にスプライン125aが形成され、ベベルギヤケース6の内部に回転自在に配設される。このスプライン125aに図示しないシャフト本体が取り付けられてプロペラシャフトが構成される。シャフト取付部材125は、ベベルギヤ列121によりカウンタシャフト112からの回転が伝達されてシャフト本体と一体に回転する。なお、プロペラシャフトは、カウンタシャフト112と直交して後方に延び、後輪に動力を伝達可能になっている。このように構成される動力伝達機構TMにより、クランクシャフト12の回転が変速されて後輪に伝達され、二輪車が走行可能になっている。
また、メインシャフト111は、左右両端部がベアリング141,142により支持されて回転自在になっており、右端部を支持するベアリング141がロアケース4に設けられ、左端部を支持するベアリング142がベベルギヤケース6に設けられる。カウンタシャフト112は、左右両端部がベアリング143,144により支持されて回転自在になっており、右端部を支持するベアリング143がロアケース4に設けられ、左端部を支持するベアリング144がベベルギヤケース6に設けられる。なお、カウンタシャフト112の左端部を支持するベアリング144は、第1軸受ホルダ130により保持される。
第1軸受ホルダ130は、円筒状に成形され、筒内部131に右側開口から2つのベアリング144,144が収容される。筒内部131の左側開口には内方に突出するフランジ132が成形されており、このフランジ132にベアリング144が当接される。さらに、右側開口から外側面にネジ成形されたナットが螺着されてベアリング144,144の外輪側が第1軸受ホルダ130の筒内部131に対して固定される。また、同様に右側開口から内側面にネジ成形されたナットが螺着されてベアリング144,144の内輪側がカウンタシャフト112に対して固定される。これにより、ベアリング144,144は、フランジ132と両ナットとにより軸方向に挟持されて第1軸受ホルダ130の筒内部131に保持される。
また、第1軸受ホルダ130の左側開口には、外壁から筒内部131に向けて切れ込んだテーパ面133が形成されている。このテーパ面133は、ベベルドライブギヤ122の外側円錐面122aとの勾配がほぼ等しく、カウンタシャフト122は、ベベルドライブギヤ122の基端部を第1軸受ホルダ130に保持されたベアリング144に当接させ、ベベルドライブギヤ122をなるべく第1軸受ホルダ130に近付けた状態で左端部が支持されている。これにより、カウンタシャフト122の軸方向への小型化が図られるとともに、ベアリング144からドライブベベルギヤ122側へのカウンタシャフト112の突出量が小さくなり、ベベルギヤケース6の内部空間の容量小型化が図られる。
シフトスピンドル114は、右端部がロアケースに設けられた貫通孔により支持され、左端部がベベルギヤケース6に設けられた貫通孔6cに取り付けられたベアリング145より支持されて回転自在になっている。シフトドラム116は、右端部がロアケース4に設けられたベアリング146により支持され、左端部がベベルギヤケース6に設けられたボス孔6dに収容されて支持されて回転自在になっている。フォークシャフト118は、右端部がロアケース4に設けられた貫通孔に支持され、左端部がベベルギヤケース6に設けられたボス孔6eに支持されて固定軸になっている。
シャフト取付部材125は、一端部の端面から軸方向に固定孔125bが設けられている。この固定孔125bには支持シャフト126が圧入され、ベベルギヤケース6に設けられたベアリング147にこの支持シャフト126を支持させることによりシャフト取付部材125の一端部が支持される。シャフト取付部材125の他端部は、第2軸受ホルダ135に保持されたベアリング148により支持される。第2軸受ホルダ135は、第1軸受ホルダ130と同様に略円筒状に成形され、筒内部136にベアリング148を保持しており、ナットによりベアリング148を第2軸受ホルダ135およびプロペラシャフト取付部材125に対して固定するとともに、フランジ137とナットとによりベアリング148が軸方向に挟持される。
ここで、動力伝達機構TMの組付手順について簡単に説明する。第1軸受ホルダ130に保持したベアリング133にカウンタシャフト122の左端部を支持させた状態にして、第1軸受ホルダ130をベベルギヤケース6に組み付ける。ベベルギヤケース6には、第1軸受ホルダ130を組み付けるための嵌合部6hが成形されているとともに、その嵌合部6hにネジ孔6iが所定間隔をおいて周設されている。また、この嵌合部6hには、ダボ孔6jが形成されている。第1軸受ホルダ130は、嵌合部6hに嵌合されるとともに、左端面に保持するベアリング144の軸方向に延びて設けられた図示しないノックピンを嵌合部6hのダボ孔6jに挿入してベベルギヤケース6に対して位置決めされ、右端面からネジ孔6iに向けてボルトを挿入してベベルギヤケース6に締結される。これにより、ドライブベベルギヤ122がベベルギヤケース6の内部空間に収容される。
さらに、第2軸受ホルダ135に保持されたベアリング148に他端部が支持されるとともに、固定孔125bにシャフト部材126が圧入されたシャフト取付部材125が、ベベルギヤケース6に取り付けられる。略円筒状に成形される第2軸受ホルダ135をベベルギヤケース6の取付開口に嵌め合わせるとともに、ベベルギヤケース6に設けられたベアリング147にシャフト部材126を支持させることにより、シャフト取付部材125がベベルギヤケース6に取り付けられ、ベベルドリブンギヤ123がベベルギヤケース6の内部空間に収容される。このように、第1軸受ホルダ130および第2軸受ホルダ135をそれぞれベベルギヤケース6に位置決めさせてカウンタシャフト122およびシャフト取付部材125をベベルギヤケース6に対して組み付けることにより、ベベルドライブギヤ122およびベベルドリブンギヤ123が噛合してベベルギヤ列121が構成される。
さらに、ベベルギヤケース6には、メインシャフト111の左端部が支持される。また、ベベルギヤケース6には、レリーズシリンダ152を収容するレリーズ収容孔6fが形成されており、メインシャフト111の左端部を支持した状態で、レリーズシリンダ152をレリーズ収容孔6fに収容させてレリーズ機構150が取り付けられる。レリーズ機構150は、メインシャフト111の左端部を支持するベアリング142よりも左方に位置して取り付けられる。
また、ベベルギヤケース6にそれぞれ左端部が支持されたメインシャフト111およびカウンタシャフト112には、6組の変速ギヤ列G1〜G6が設けられ、対応する駆動および従動変速ギヤが噛合している。さらに、ベベルギヤケース6には、シフトドラム機構113のシフトスピンドル114、シフトドラム116およびフォークシャフト118のそれぞれの左端部が支持される。シフトドラム116およびフォークシャフト118にはシフトフォーク117が取り付けられ、シフトフォーク117の他端は遊動ギヤのフォーク溝119bに係合される。
このように、予めベベルギヤケース6に、メインシャフト111およびカウンタシャフト112と、シフトスピンドル114と、シフトドラム115と、シフトフォーク117と、フォークシャフト118と、変速ギヤ列G1〜G6と、ベベルギヤ列121と、シャフト取付部材125と、第1および第2軸受ホルダ130,135と、レリーズ機構150とが組み付けられ、変速機構110やベベルギヤ列121などの動力伝達機構TMの構成部材の多くがベベルギヤケース6側でアセンブリ化される。このようにして各部材が組み付けられたベベルギヤケース6が、ロアケース4の取付開口4mを覆って取り付けられる。
図11,図12に示すように、ロアケース4の取付開口4mの外周縁部、およびベベルギヤケース6の外周縁部には、それぞれ所定間隔をおいてボルト挿入孔4n,6kが周設されている。ベベルギヤケース6は、ボルトが整合された両ケース4,6のボルト挿入孔6kに挿入されてロアケース4に結合される。なお、第1軸受ホルダ130には、右端面にダボ孔130pが形成されており、このダボ孔130pにノックピン161が挿入される。このように、ノックピン161は、保持するベアリング144の軸方向に延びて設けられる。また、ロアケース4の取付開口4mの外周縁部についてもダボ孔4pが形成されている。ベベルギヤケース6は、第1軸受ホルダ130に設けられたノックピン161をロアケース4のダボ孔4pに挿入させることにより、ロアケース4に対して位置決めされる。このように第1軸受ホルダ130を利用した位置決めによりベベルギヤケース6がロアケース4に結合されるときに、メインシャフト111、カウンタシャフト112、シフトドラム116およびフォークシャフト118の右端部がロアケース4にそれぞれ支持される。これにより、変速ギヤ列G1〜G6が、ロアケース4の変速機ケース部4Bの内部空間に収容される。
また、ベベルギヤケース6がロアケース4に結合されることにより、ロアケース4の内部に形成されてオイルポンプ61から吐出された潤滑油が流れる変速機供給油路79の端部が、ベベルギヤケース6の内部に形成されたカウンタシャフト供給油路6aの連通孔79aと連通する。カウンタシャフト供給油路6aはベベルギヤケース6の内部空間に開口してドライブベベルギヤ122に対向する。この開口とカウンタシャフト112の軸孔112aとを繋ぐ管状のオイルジョイント162が設けられている。これにより、カウンタシャフト112の軸孔112aに潤滑油が供給される。軸孔112aに供給された潤滑油は、径方向に延びる油孔112bを介して従動変速ギヤに供給される。また、オイルジョイント162には、ベベルギヤケース6の内部空間に開口する貫通孔162aが形成される。オイルジョイント162を流れる潤滑油の一部は、貫通孔162aからベベルギヤケース6の内部空間に噴出してベベルギヤ列121に供給される。
なお、図11,図12に示すように変速機供給油路79との連通孔79aの端部には、ベベルギヤケース6の外周内縁に形成される外周油路79bが繋がっており、この外周油路79bがベベルギヤケース6の内部に形成されたメインシャフト供給油路6bを介してシャフト支持孔6gに連通している。このシャフト支持孔6gには図示しないオイルガイドが設けられており、シャフト支持孔6gに導かれた潤滑油はメインシャフト111の軸孔111aに供給され、プライマリドリブンギヤ103、多板クラッチ105、駆動変速ギヤに供給される。なお、レリーズ機構150の作動油とオイルパン8からの潤滑油とは性質が異なるオイルが利用されており、メインシャフト111の軸孔111aに導かれた潤滑油がレリーズシリンダ152に供給されないように、シャフト支持孔6gには上記オイルガイドの左側に位置してオイルシール163が設けられる。
このようにしてロアケース4およびベベルギヤケース6の内部に収容されたメインシャフト111の右端部に、プライマリドリブンギヤ103が取り付けられてプライマリギヤ列101が構成され、多板クラッチ105が取り付けられる。さらに、シフトスピンドル114およびシフトドラム116の間に連動機構115が介設され、シフトドラム機構113が組み付けられる。そして、開放されたロアケース4の右側面を覆ってサイドカバー5が結合される。
このように本構成例の動力伝達機構TMは、カウンタシャフト112の左端部を支持するベアリング144を保持する第1軸受ホルダ130が、ベベルギヤケース6にボルトを介して固定される。このため、ベベルギヤケース6をロアケース4に結合する前に、第1軸受ホルダ130に保持したベアリング144により支持したカウンタシャフト112をベベルギヤケース6に組み付けることができ、この両ケース4,6の結合前に予めベベルギヤ列121を噛合させてベベルギヤケース6の内部空間に収容させることができる。これにより、ベベルギヤ列121の組立性が向上し、簡易に動力伝達機構TMを組み立てることができる。さらに、第1軸受ホルダ130にベベルギヤケース6をロアケース4に対して位置決めするためのノックピン161が設けられる。これにより、第1軸受ホルダ130を介してベベルギヤケース6に固定されたカウンタシャフト112を精度よくロアケース4に組み付けることができる。
また、メインシャフト111の左端部を支持するベアリング142がベベルギヤケース6に設けられており、カウンタシャフト112とともにメインシャフト111が、予めベベルギヤケース6に組み付けられる。これにより、両ケース4,6の結合前に変速ギヤ列G1〜G6をベベルギヤケース6側で組み立てることができ、変速ギヤ列G1〜G6の組立性が向上する。さらに、シフトドラム機構113が、予めベベルギヤケース6側に組み付けられ、動力伝達機構TMの構成部材の多くがベベルギヤケース6側でアセンブリ化される。これにより、動力伝達機構TMの組立性がより一層向上し、組付誤差の少ない動力伝達機構TMを提供できる。
また、第1軸受ホルダ130は、保持するベアリング144の軸方向に延びて設けられたノックピンにより位置決めされてベベルギヤケース6と一体化され、同じくノックピン161により位置決めされてロアケース4と一体化される。このように、インロー位置決めが回避されることから、メインシャフト111およびカウンタシャフト112の軸間寸法を短くすることができ、変速ギヤ列G1〜G6の大型化が回避され、動力伝達機構TMを小型化が図られる。
そして、本構成例のパワーユニットPUは、クランクケース12Aを形成するシリンダブロック3およびロアケース4の接合面12Cが側面視において略上下方向に延びており、クランクシャフト12の中心軸12dをこの接合面12C上に位置させ、カム伝動機構30、始動装置50およびバランサ機構の軸として共用される第1アイドルシャフト34の中心軸34dを同じく接合面12C上に位置させてクランクシャフト12の下方に配置している。クランクシャフト12の後方、すなわち、ロアケース4の内部空間の後上方にメインシャフト111を配置し、その下方にカウンタシャフト112を配置している。
なお、プライマリギヤ列101はプライマリドリブンギヤ103を大径にしてクランクシャフト12の回転を大きな減速比で減速させてメインシャフト111に伝達するように構成されることから、クランクシャフト12とメインシャフト111との軸間寸法は長くなる。このため、クランクシャフト12の下方に配置される第1アイドルシャフト34と、メインシャフト111の下方に配置されるカウンタシャフト112との間にデッドスペースが形成される。このスペースにポンプシャフト97が配設され、オイルポンプ61およびウォーターポンプ81がポンプシャフト97の左右に取り付けられている。
また、ポンプシャフト97は、ロアケース4の内部空間において下方に配設されており、オイルポンプ61がオイルパン8と近接して配置される。このため、吸入配管66をコンパクトに構成できる。また、第1アイドルシャフト34とカウンタシャフト112との間にポンプシャフト97が配置されることにより、第1アイドルシャフト34とポンプシャフト97との軸間寸法を短くでき、ポンプシャフト97を駆動するためのポンプ伝動機構98をコンパクトに構成できる。このように、本構成例のシャフト配置によりデッドスペースが有効活用され、パワーユニットPUの小型化が図られる。
さらに、第2アイドルシャフト35が、接合面12Cの下方に中心軸34dを位置させる第1アイドルシャフト34の前方に配置されることから、カムドライブスプロケット39が前下方に位置してチェーン室30aのカムドライブスプロケット39側が下方にオフセットされる。このオフセットによりチェーン室30aのカムドライブスプロケット39側の上方にデッドスペースが形成され、ここにブリーザ室46が形成される。これにより、デッドスペースが有効活用されてパワーユニットPUを小型化できる。特に、従来のようにヘッドカバー1の内部にブリーザ室46を形成する必要がなく、ヘッドカバー1の容量を小型化できる。シリンダ軸11Aが前傾されて二輪車に配設される場合には、パワーユニットPUの前後方向の小型化が図られる。