以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下では、まず本実施形態に係る位置決め方法を実施する位置決め装置(40)を利用して組み立てられるスクロール圧縮機(10)の構造について説明し、次に位置決め装置(40)と位置決め方法について説明する。
−スクロール圧縮機の構造−
図1に示すように、上記スクロール圧縮機(10)は、いわゆる全密閉形に構成されている。このスクロール圧縮機(10)は、縦長の密閉容器状に形成されたケーシング(15)を備えている。このケーシング(15)は、縦長の円筒状に形成された1つの胴部材(16)と、それぞれ椀状に形成されて胴部材(16)の上端と下端に1つずつ取り付けられた鏡板部材(17,18)とによって構成されている。
ケーシング(15)の内部には、下から上へ向かって順に、下部軸受部材(23)と、圧縮機モータ(25)と、圧縮機構(30)とが配置されている。また、ケーシング(15)の内部には、上下に延びるクランク軸(20)が設けられている。
ケーシング(15)には、上側の鏡板部材(17)を貫通する吸入管(11)が固定され、この吸入管(11)は圧縮機構(30)の吸入口に連通している。また、ケーシング(15)には、胴部材(16)を貫通する吐出管(12)が圧縮機構(30)と圧縮機モータ(25)との間の位置に設けられている。圧縮機構(30)には上記吸入管(11)を介して低圧ガスが吸入され、圧縮機構(30)で圧縮された高圧ガスはケーシング(15)内における圧縮機構(30)の下方の空間に充満した後、吐出管(12)から吐出される。ケーシング(15)の内部は、圧縮機構(20)の上方の空間(S1)が低圧空間で、下方の空間(S2)が高圧空間になっている。
クランク軸(20)は、主軸部(21)と偏心部(22)とを備えている。主軸部(21)は、その上端部がやや大径に形成されている。偏心部(22)は、主軸部(21)の上端部よりも小径の円柱状に形成され、主軸部(21)の上端面に立設されている。この偏心部(22)は、その軸心が主軸部(21)の軸心に対して偏心している。
下部軸受部材(23)は、ケーシング(15)の胴部材(16)の下端付近に固定されている。下部軸受部材(23)の中心部には滑り軸受け(23a)が形成されており、この滑り軸受けは主軸部(21)の下端部を回転自在に支持している。
圧縮機モータ(25)は、いわゆるブラシレスDCモータである。この圧縮機モータ(25)は、ステータ(26)とロータ(27)とを備えており、駆動用モータを構成している。ステータ(26)は、ケーシング(15)の胴部材(16)に固定されている。このステータ(26)は、ケーシング(15)の胴部材(16)に取り付けられた給電端子(19)と電気的に接続されている。一方、ロータ(27)は、ステータ(26)の内側に配置され、クランク軸(20)の主軸部(21)に固定されている。
圧縮機構(30)は、可動スクロール(31)と、固定スクロール(34)と、ハウジング部材(36)としてのハウジング(36)とを備えている。
ハウジング(36)は、その中央部が窪んだ比較的厚肉の円板状に形成されており、その外周部が胴部材(16)の上端部と接合されている。また、ハウジング(36)の中央部には、クランク軸(20)の主軸部(21)が挿通している。このハウジング(36)は、クランク軸(20)の主軸部(21)を回転自在に支持する軸受け(36a)を構成している。
可動スクロール(31)は、可動側鏡板(31a)と、その前面側(図1における上面側)に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(32)と、その背面側(図1における下面側)に突出した円筒状の突出部(33)とを備えている。この可動スクロール(31)は、図1には示していないが図13のオルダムリング(39)を介してハウジング(36)の上面に載置されている。また、可動スクロール(31)の突出部(33)には、クランク軸(20)の偏心部(22)が挿入されている。つまり、可動スクロール(31)は、クランク軸(20)に係合している。
固定スクロール(34)は、比較的厚肉の円板状に形成され、固定側鏡板(34a)を有している。この固定スクロール(34)の中央部には、渦巻き壁状の固定側ラップ(35)が設けられている。固定側ラップ(35)は、固定スクロール(34)を下面側から彫り込むことによって形成されている。
図2に示すように、圧縮機構(30)では、固定スクロール(34)の固定側ラップ(35)と、可動スクロール(31)の可動側ラップ(32)とが噛み合わされている。固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)とが互いに噛み合うことによって、固定側ラップ(35)の外周面と可動側ラップ(32)の内周面との間、及び固定側ラップ(35)の内周面と可動側ラップ(32)の内周面との間に、複数の圧縮室(37)が形成されている。
−固定スクロールの位置決め装置−
本実施形態の位置決め装置(40)は、上記スクロール圧縮機(10)を組み立てる過程において、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)との位置関係に基づいて固定スクロール(34)を位置決めするためのものである。具体的にいうと、この位置決め装置(40)は、スクロール圧縮機(10)の組立過程で形成される後述の組立体(11)に固定スクロール(34)を取り付ける際に、固定スクロール(34)の位置を調節して固定スクロール(34)と可動スクロール(31)の位置関係を適正化するためのものである。
上記組立体(11)は、胴部材(16)とハウジング(36)と圧縮機モータ(25)と下部軸受部材(23)とクランク軸(20)と可動スクロール(31)とを一体に組み立てたものである。この組立体(11)では、ハウジング(36)と圧縮機モータ(25)と下部軸受部材(23)とが胴部材(16)に固定され、可動スクロール(31)がクランク軸(20)と係合した状態でハウジング(36)上に載置されている。この組立体(11)において、圧縮機モータ(25)のステータ(26)は、給電端子(19)と電気的に接続されている。
上記位置決め装置(40)の構成について、図3を参照しながら説明する。この位置決め装置(40)は、第1フレーム体(45)と第2フレーム体(60)を備えている。
第1フレーム体(45)は、それぞれ1枚ずつの台座板(46)および上部板(47)と、4本の支柱部材(48)とを備えている。台座板(46)は、四角形状に形成されて概ね水平に設けられている。支柱部材(48)は、台座板(46)の角部に1本ずつ立設されている。支柱部材(48)は台座板(46)を貫通しており、支柱部材(48)の下端は台座板(46)から下方へ突出している。上部板(47)は、立設された4本の支柱部材(48)の上端に固定されている。
台座板(46)の上面では、その中央部に円筒状のガイド部材(50)が突設されている。このガイド部材(50)は、組立体(11)を台座板(46)へ載せる際に胴部材(16)を所定の位置へ案内するためのものであって、その内径が胴部材(16)の外径より若干大きくなっている。台座板(46)の中央には、貫通孔(52)が形成されている。この貫通孔(52)は、ガイド部材(50)と同心円状に形成された円形の孔であって、台座板(46)を貫通している。
台座板(46)の下面には、ブラケット(54)を介してロータリーエンコーダ(53)が取り付けられている。ロータリーエンコーダ(53)は、貫通孔(52)の下方に配置されており、その回転軸(53a)が貫通孔(52)へ向かって上方へ延びている。ロータリーエンコーダ(53)の回転軸(53a)には、カップリング(55)が取り付けられている。このカップリング(55)は、クランク軸(20)の下端部に設けられているオイルピックアップ(20a)が貫通孔(52)から下方へ突出した部分と、ロータリーエンコーダ(53)の回転軸(53a)とを連結している。なお、オイルピックアップ(20a)は、図1では省略しているが、図3には示しているようにクランク軸(20)と一体に設けられている。このオイルピックアップは、図示しないオイルポンプを装着することにより、クランク軸(20)の中心部を上下方向へのびる給油路(図示せず)を通じて潤滑油を軸受けや圧縮機構(30)の摺動部に供給する。
上部板(47)には、固定スクロール(34)を下方へ押し付けるための押圧機構(56)が取り付けられている。この押圧機構(56)は、下方へ延びるロッド(57a)を備えており、上部板(47)の概ね中央に配置されている。ロッド(57a)の先端には該ロッド(57a)よりも断面積の大きな押え部材(58)が取り付けられている。この押え部材(58)の下面には、後述するガイド(41)が取り付けられている。押圧機構(56)は、エアシリンダ(57)などを用いてロッド(57a)を送り出すことで、押え部材(58)とガイド(41)とを下方へ移動させて、固定スクロール(34)に押圧力を付与するように構成されている。
ガイド(41)の構成について、図4を参照しながら説明する。上記ガイド(41)は、ベースプレート(59)と、互いに直交するX軸レール(49a)及びY軸レール(49b)と、X軸レール(49a)及びY軸レール(49b)に係合する直線運動軸受け(51)と、ベースプレート(59)の下面に設けられた、図3に示す3本の押さえロッド(28)とを備えている。
X軸レール(49a)は、同じ長さの2本のレール部材から構成されている。これら2本のX軸レール(49a)は、ベースプレート(59)の上面に所定の間隔で平行に並べられて固定されている。Y軸レール(49b)は、同じ長さの2本のレール部材から構成されている。これら2本のY軸レール(49b)は、押え部材(58)の下面に所定の間隔で平行に並べられて固定されている。
各押さえロッド(28)の下端には、固定スクロール(34)の回り止めをするためのスパイク(28a)が形成されている。押さえロッド(28)は、ガイド(41)が固定スクロール(34)に押圧力を付与している状態で固定スクロール(34)が移動する時に、固定スクロール(34)がガイド(41)に対して滑ることを禁止するためのものである。押さえロッド(28)の下端にスパイク(28a)が形成されているため、押さえロッド(28)と固定スクロール(34)との接触面には、固定スクロール(34)とハウジング(36)との接触面よりも大きな摩擦力が発生する。
直線運動軸受け(51)は、X軸レール(49a)とY軸レール(49b)とが交差する箇所に1つずつ設けられている。つまり、ガイド(41)には、合計4つの直線運動軸受け(51)が設けられている。各々の直線運動軸受け(51)は、略直方体であって、下面にX軸方向の溝が形成され、上面にY軸方向の溝が形成されている。各直線運動軸受け(51)には、下面の溝にX軸レール(49a)が嵌め込まれ、上面の溝にY軸レール(49b)が嵌め込まれていて、Z軸方向(ベースプレート(59)の面直角方向)へ抜け止めが施されている。直線運動軸受け(51)のX軸方向及びY軸方向の溝には、図示していないが多数のボール部材が埋設されている。各直線運動軸受け(51)は、多数のボール部材を介してX軸レール(49a)及びY軸レール(49b)に接しており、レールに沿って真っ直ぐ移動する転がり案内構造になっている。これによって、ガイド(41)は、固定スクロール(34)に押圧力を付与している状態において、互いに直交するX軸方向及びY軸方向への固定スクロール(34)の平行移動を許容するが、該固定スクロール(34)の回転を規制する。
第2フレーム体(60)は、1つの枠状部材(61)と4本の支柱部材(62)とを備えており、台座板(46)の上に固定されている。各支柱部材(62)の長さは、組立体(11)を構成する胴部材(16)の高さよりもやや短くなっている。これら4本の支柱部材(62)は、それぞれが台座板(46)の上に立設されており、ガイド部材(50)の周囲に等間隔で配置されている。枠状部材(61)は、四角形あるいは円形の枠状に形成され、4本の支柱部材(62)の上に載せられている。枠状部材(61)は、各支柱部材(62)に固定されており、組立体(11)の上部を囲むように配置されている。
枠状部材(61)には、組立体(11)を固定するためのクランプ機構(63)が設けられている。このクランプ機構(63)は、固定用部材を構成している。クランプ機構(63)は、枠状部材(61)の内側へ突出した可動式のクランプヘッド(64)を複数備えている。そして、クランプ機構(63)は、組立体(11)を構成する胴部材(16)の外周面にクランプヘッド(64)を押し当てて、組立体(11)を胴部材(16)の径方向の両側から挟み込むことによって組立体(11)を拘束するように構成されている。クランプ機構(63)は、例えばX軸方向とY軸方向の径線上の合計4箇所に設けるとよい。
枠状部材(61)の上には、固定スクロール(34)のX軸方向の位置とY軸方向の位置とを検出する2つの位置検出機構(65)と、X軸上とY軸上に2つずつ、合計4つの打撃ユニット(70)とが設置されている。位置検出機構(65)としては、例えば電気マイクロメータ(66)を用いることができる。電気マイクロメータ(66)は、電気信号を利用して測定対象の位置や寸法を測定するものである。なお、上記位置検出機構(65)には、電気マイクロメータ(66)に代えてレーザー変位計などの他の位置測定器を用いてもよい。レーザー変位計は、固定スクロール(34)へ向けてレーザー光線を照射し、反射光からこの固定スクロール(34)の変位量を計測するものである。
各打撃ユニット(70)は、円柱状に形成されており、その先端側に突起が形成されたヘッド部(74)を備えている(図6参照)。これら4つの打撃ユニット(70)は、固定スクロール(34)に衝撃力を与えて該固定スクロール(34)を移動させる移動機構(75)を構成している。
図5に示すように、4つの打撃ユニット(70)は、上記組立体(11)のハウジング(36)上の固定スクロール(34)を中心として放射状に90°間隔で配置されている。つまり、固定スクロール(34)の第1の径方向(X軸方向)に沿って2つの打撃ユニット(70)が配置され、この径方向と直交する第2の径方向(Y軸方向)に沿って残り2つの打撃ユニット(70)が配置されている。また、各打撃ユニット(70)は、それぞれのヘッド部(74)の突起が固定スクロール(34)側を向く姿勢となっている。つまり、1つの径方向に沿って配置された2つの打撃ユニット(70)は、固定スクロール(34)を挟んで互いに向かい合っている。
第1の径方向は上記ガイド(41)のX軸方向と平行になっている。第2の径方向は上記ガイド(41)のY軸方向と平行になっている。すなわち、ガイド(41)が固定スクロール(34)の移動を許容するX軸方向及びY軸方向と、上記打撃ユニット(70)によって固定スクロール(34)に与えられる衝撃力の方向とが一致している。上記打撃ユニット(70)によって固定スクロール(34)にX軸方向の衝撃力が与えられると、X軸レール(49a)が直線運動軸受け(51)のX軸方向の溝に案内され、固定スクロール(34)がX軸方向に移動する。上記打撃ユニット(70)によって固定スクロール(34)にY軸方向の衝撃力が与えられると、Y軸レール(49b)が直線運動軸受け(51)のY軸方向の溝に案内され、固定スクロール(34)がY軸方向に移動する。
打撃ユニット(70)の構成について、図6を参照しながら説明する。打撃ユニット(70)は、本体部(71)とエアシリンダ部(100)とを1つずつ備えている。本体部(71)とエアシリンダ部(100)とは、それぞれの外形が概ね円柱状となっており、同軸上に配置されている。
本体部(71)は、基部(72)と圧電素子(73)とヘッド部(74)とを備え、全体として円柱状に形成されている。具体的に、この本体部(71)では、共に円柱状に形成された基部(72)とヘッド部(74)が同軸に配置され、基部(72)とヘッド部(74)の間に圧電素子(73)が挟み込まれている。また、ヘッド部(74)の先端側(即ち圧電素子(73)とは反対側)には、突起が形成されている。本体部(71)において、圧電素子(73)に電圧を印加すると、圧電素子(73)が本体部(71)の軸方向へ伸長し、それに伴ってヘッド部(74)が押し出される(図6(B)参照)。一方、圧電素子(73)への通電を停止すると、圧電素子(73)の長さが元に戻り、それに伴ってヘッド部(74)が引き戻される(図6(A)参照)。
エアシリンダ部(100)は、シリンダ(101)と、ピストン(102)と、ロッド(103)とを備えている。シリンダ(101)は、中空の円筒状に形成されている。ピストン(102)は、シリンダ(101)内に挿入され、シリンダ(101)の軸方向へ移動可能となっている。ロッド(103)は、シリンダ(101)と同軸上に配置されている。このロッド(103)は、その基端がピストン(102)に接続され、先端がシリンダ(101)の外部へ延びている。ロッド(103)の先端は、本体部(71)の基部(72)の端面に接合されている。シリンダ(101)の内部は、ピストン(102)によって第1エア室(104)と第2エア室(105)とに区画されている。ロッド(103)とは反対側の第1エア室(104)には、第1エア配管(106)が接続されている。一方、ロッド(103)側の第2エア室(105)には、第2エア配管(107)が接続されている。
上記打撃ユニット(70)において、第1エア配管(106)から第1エア室(104)へ空気が供給されると同時に第2エア室(105)から第2エア配管(107)へ空気が排出されると、ピストン(102)が第2エア室(105)側へと移動し、本体部(71)が打撃ユニット(70)の先端側(図6における左側)へ送り出される。また、第2エア配管(107)から第2エア室(105)へ空気が供給されると同時に第1エア室(104)から第1エア配管(106)へ空気が排出されると、ピストン(102)が第1エア室(104)側へと移動し、本体部(71)が打撃ユニット(70)の基端側(図6における右側)へ引き戻される。
図7に示すように、上記位置決め装置(40)には、インバータ(81)と、インバータ(81)のドライバ(82)と、制御器(制御手段)(80)とが設けられている。このうち、インバータ(81)とドライバ(82)は、給電手段(83)を構成している。
インバータ(81)は、その入力側が商用電源(85)に接続され、その出力側が上記組立体(11)の給電端子(19)に接続される。一方、ドライバ(82)には、ロータリーエンコーダ(53)の出力信号が入力される。
上記位置決め装置(40)には、図7には示していないが、クランク軸(20)の位相を測定するためのレーザ変位計(91)が設けられている(図18参照)。この位相測定用のレーザー変位計(91)は、クランク軸(20)及び可動スクロール(31)の位相を測定するものであって、ロータリーエンコーダ(53)とともに本願発明の位相検知機構(90)を構成している。
上記ドライバ(82)は、ロータリーエンコーダ(53)の出力信号に基づいてクランク軸(20)の回転角度や角速度を算出し、それに応じてインバータ(81)の出力電流値や出力周波数に関する指令値を定める。そして、ドライバ(82)は、インバータ(81)の出力が指令値に対応したものとなるように、インバータ(81)に対してスイッチングのタイミング等の指令を出力する。インバータ(81)は、ドライバ(82)からの指令に応じて動作し、交流電流を上記組立体(11)の圧縮機モータ(25)へ供給する。上記制御器(80)には、インバータ(81)の出力電流に関する指令値や、クランク軸(20)の回転角度に関する情報がドライバ(82)から入力される。
上記制御器(80)は、クランク軸(20)が回転している間の所定の回転位置(位相)をロータリーエンコーダ(53)で検出しながら、可動スクロール(31)の位相ないし回転角度に基づいて固定スクロール(34)の移動方向を決定するとともに、打撃ユニット(70)
により固定側ラップ(35)の外周面が所定の位置において可動側ラップ(32)の内周面から離れる方向へ所定距離(数ミクロンから10ミクロン程度)だけ移動させた後、可動スクロール(31)を約180°反転させる制御を行う。このとき、可動側ラップ(32)の外周面が固定側ラップ(35)の内周面に接触すると可動側ラップ(32)の反発力で固定スクロール(34)が移動する。固定スクロール(34)の移動を電気マイクロメータ(66)で検出すると、その位置を固定スクロール(34)の可動範囲の限界点として認識する。一方、固定スクロール(34)の打撃後に可動スクロール(31)を反転させても固定スクロール(34)が移動しなければ、両ラップ(31,35)がまだ接触しておらず、可動範囲の限界点に達していないと考えられるので、固定スクロール(34)の打撃と可動スクロール(31)の反転を両ラップ(31,35)が接触するまで繰り返す。
この操作をX軸のプラス方向(第1方向)とマイナス方向(第2方向)について行うと、固定スクロール(34)のX軸の可動範囲の両端を検出できるので、固定スクロール(34)をX軸の可動範囲の中心に移動させる。次に、同様の操作をY軸のプラス方向とマイナス方向について行った後、可動スクロール(31)をY軸の可動範囲の中心に移動させる。この時点で固定スクロール(34)はほぼ中心に位置決めされているが、1回目のX軸方向の芯出しはY軸中心が出ていない状態で行っているため、本実施形態ではより確実に芯出しをするために、再度X軸のプラス方向とマイナス方向について同様の操作を行い、その可動範囲の中心に固定スクロール(34)をセットする制御を行う。
打撃ユニット(70)の具体的な制御は以下の通りである。位相検知機構(90)の信号から固定スクロール(34)の移動方向が定められると、制御器(80)は、その移動方向に対応する打撃ユニット(70)を制御する。具体的に、まず制御器(80)は、打撃ユニット(70)のヘッド部(74)の突起が固定スクロール(34)に接触するように、第1エア配管(106)から第1エア室(104)へ空気を供給すると同時に第2エア室(105)から第2エア配管(107)へ空気を排出して、本体部(71)を移動させる。打撃ユニット(70)を移動させると、制御器(80)は、打撃ユニット(70)の圧電素子(73)へパルス電圧を印加する。打撃ユニット(70)の圧電素子(73)へパルス電圧を印加すると、パルス波形に応じて圧電素子(73)が伸縮する。この時、圧電素子(73)の伸長に伴って押し出されたヘッド部(74)の慣性力が固定スクロール(34)に作用し、該固定スクロール(34)が僅かに(数ミクロンから10ミクロン程度)移動する。固定スクロール(34)が移動すると、ヘッド部(74)は固定スクロール(34)から離れるので、再びヘッド部(74)の突起が固定スクロール(34)に接触するように打撃ユニット(70)を移動させる。そして、再び打撃ユニット(70)の圧電素子(73)へパルス電圧を印加する。すると、圧電素子(73)の伸縮によって固定スクロール(34)が僅かに移動する。この繰り返しによって、ハウジング(36)へ押し付けられた状態の固定スクロール(34)は徐々に移動してゆく。固定スクロール(34)の移動が終了すると、制御器(80)は、第2エア配管(107)から第2エア室(105)へ空気を供給すると同時に第1エア室(104)から第1エア配管(106)へ空気を排出して、打撃ユニット(70)を元の位置に引き戻す。
この制御器(80)の動作について、図5を参照しながら説明する。なお、この段落における「右」「左」「上」「下」は、何れも図5におけるものを意味している。例えば、固定スクロール(34)をX軸の左側(または右側)へ移動させる場合には、制御器(80)が右側(または左側)の打撃ユニット(70)を制御する。具体的には、制御器(80)が、エアシリンダ部(100)の第1エア室(104)及び第2エア室(105)内の空気量を調節して本体部(71)を移動させながら該本体部(71)の圧電素子(73)へパルス電圧を供給し、固定スクロール(34)へ左向き(または右向き)の衝撃力を作用させる。また、固定スクロール(34)をY軸の下側(または上側)へ移動させる場合には、制御器(80)が上側(または下側)の打撃ユニット(70)を制御する。
−固定スクロールと可動スクロールの構造−
図8は、胴部材(16)とハウジング(36)と圧縮機モータ(25)と下部軸受部材(23)とクランク軸(20)と可動スクロール(31)とを組み立てた組立体(11)の平面図、図9はさらに固定スクロール(34)をセットした状態の平面図である。また、図10は可動スクロール(31)の平面図、図11は固定スクロール(34)の平面図である。
可動スクロール(31)は、固定側鏡板(34a)の外周面の3箇所に、径方向外周へ突出して動的バランスをとるための外周凸部(31b)を有している。固定スクロール(34)は、固定側鏡板(34a)の外周縁部の3箇所に、軽量化のための切り欠き(34b)を有している。
図8に示すように、ハウジング(36)には、固定スクロール(34)を取り付けるための取付部(36b)が4箇所に設けられている。この取付部(36b)には、固定スクロール(34)を位置決めするための位置決めピン(38a)(図14参照)を打ち込む2つのハウジング側位置決めピン孔(36c)と、固定スクロール(34)を締結手段であるボルト(38b)(図15参照)で締め付けるための5つのボルト穴(36d)とが形成されている。
固定スクロール(34)には、ハウジング側位置決めピン孔(36c)に対応する位置に2つの固定スクロール側位置決めピン孔(34c)が形成され、ハウジング(36)のボルト穴(36d)に対応する位置に5つのボルト通し孔(34d)とが形成されている。そして、固定スクロール(34)は、ハウジング(36)に対して位置決めピン(38a)で仮位置決めされた後に、ボルト(38b)によってハウジング(36)に固定される。この状態を図9に示している。
この図9の状態において、可動スクロール(31)の回転を、固定スクロール(34)の切り欠き(34b)を通して、検知部でもある外周凸部(31b)の移動から観測することができる。このように固定スクロール(34)の切り欠き(34b)から可動スクロール(31)の外周凸部(31b)を観測できるようにしているのは、位相検知機構(90)を構成するレーザー変位計(91)のセンサ部(92)(図18参照)を切り欠き(34b)の上方に位置させて、可動スクロール(31)の外周凸部(31b)を検出し、この外周凸部(31b)の位置とロータリーエンコーダ(53)の回転位置信号とに基づいて、圧縮機モータ(25)の回転中に、クランク軸(20)の位相、つまり可動スクロール(31)の位相を検知するためである。
上記各位置決めピン孔(34c,36c)は、ハウジング(36)及び固定スクロール(34)の外周縁部に形成されている。位置決めピン(38a)に対する位置決めピン孔(34c,36c)のクリアランスは、直径に対して例えば30μm±10μmの精度に設定されている。ここで、位置決めピン孔(34c,36c)のピッチ円直径がφ130mmであるとすると、回転(θ)方向の位置のずれは基礎円直径によって若干異なるものの約1.5μm以下となり、θ方向に関しては十分な位置精度を得ることができる。
−固定スクロール(34)の位置決め方法−
次に、上記位置決め装置(40)を用いて行われる固定スクロール(34)の位置決め方法について、固定スクロール(34)の位置決めの前段取りを含む固定工程(第1位置決め工程)と、固定スクロール(34)の芯出しを含む位置決め工程(第2位置決め工程)とに分けて、これらを順に説明する。
固定スクロール(34)の位置決めの前段取り工程を、図12から図16に示している。図12の前段取り第1工程では、可動スクロール(31)をクランク軸(20)に装着する前の組立体(11)をハウジング(36)が上側に位置する姿勢で搬送パレット(95)に載せた状態で、潤滑油として用いる冷凍機油(96)をハウジング(36)の軸受け(36a)に注油する。この潤滑油(96)には、組み立て後のスクロール圧縮機(10)に用いられる冷凍機油(96)よりも粘度の低い冷凍機油(96)が用いられる。例えば、圧縮機の組み立て後に用いる冷凍機油(96)がVG68であるとすると、組み立て工程時の潤滑油(96)にはVG32やVG22などの低粘度のものが用いられる。高粘度の油を用いると特に低外気温時に軸受けに油が均一に供給されず、位置決め工程を行うときのような低速回転では油膜厚さが不均一になるためクランク軸(20)の芯がずれた状態で組み立てを行ってしまうおそれがあるのに対して、このように低粘度の油を用いると組み立て時におけるクランク軸(20)の芯ずれのおそれを回避できる。下部軸受部材(23)の軸受け(23a)にも予め低粘度の油を給油しておけば、クランク軸(20)の芯ずれをより効果的に防止できる。
図13の前段取り第2工程では、オルダムリング(39)と可動スクロール(31)を組立体(11)に組み付けて、摺動部に潤滑油(96)を注油する。この潤滑油(96)にも、組み立て後のスクロール圧縮機(10)の冷凍機油(96)よりも粘度の低い冷凍機油(96)が用いられる。
図14の前段取り第3工程では、固定スクロール(34)をハウジング(36)及び可動スクロール(31)の上に載せて固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が互いに噛み合った状態にして、位置決めピン(38a)を用いて固定スクロール(34)をX−Y軸方向に関して暫定的に位置決めする。ただし、上述したように位置決めピン(38a)のピッチ円直径とクリアランスとの関係から、固定スクロール(34)はθ方向には十分な精度で位置決めされるので、θ方向の位置決めはこの位置決めピン(38a)を最終位置決めの手段とする。
図15の前段取り第4工程では、位置決めピン(38a)を位置決めピン孔(34c,36c)に挿入したまま固定スクロール(34)をハウジング(31)にボルト(38b)で締め付け、固定スクロール(34)を仮固定する。
図16の前段取り第5工程では、位置決めピン(38a)を抜き取る作業を行う。以上により前段取りの全工程が終了するので、図17に示すように組立体(11)を芯出し組み立て設備(位置決め装置(40))に搬入する。なお、図17では芯出し組み立て設備(40)を簡略化して表している。
次に、芯出しの各工程(第2位置決め工程)について説明する。
図18は、組立体(11)を芯出し組み立て設備(40)に搬入した状態を示している。この状態を芯出し第1工程とすると、この芯出し第1工程では、組立体(11)は、ハウジング(36)が上側に位置する姿勢で搬送パレット(95)とともに台座板(46)の上に載せられ(図3及び図7では搬送パレット(95)を省略している)、組立体(11)の回りには、押圧機構(56)、クランプ機構(63)、打撃ユニット(70)、ロータリーエンコーダ(53)及びカップリング(55)、位置検出機構(65)、位相検知機構(90)、そして図3には示していないナットランナー(97)、給電コネクタ(42)等が待機している。この図18以降の工程図は各工程の動作イメージを示す図であり、クランプ機構(63)や打撃ユニット(70)などに関する細部の具体構造は図3や図7のものと若干異なっているが、機能的には図3や図7のものと差異はないため、以降はこのイメージ図を用いて動作を説明する。
組立体(11)を台座板(46)に載せた状態では、図3や図7に示すように胴部材(16)(ないし搬送パレット(95))の下端部がガイド部材(50)の内側に嵌り込み、クランク軸(20)の下端面が貫通孔(52)の上方に位置するとともに、オイルピックアップ(20a)が貫通孔(52)から下方へ突出する。
図19の芯出し第2工程では、組立体(11)の胴部材(16)の外周面にクランプ機構(63)のクランプヘッド(64)を押し当てて組立体(11)を周囲から固定し、給電端子(19)に給電コネクタ(42)を接続する。また、ロータリーエンコーダ(53)の回転軸(53a)をクランク軸(20)のオイルピックアップ(20a)にカップリング(55)で連結するとともに、押圧機構(56)のエアシリンダ(57)を動作させて固定スクロール(34)を組立体(11)のハウジング(36)に押し付ける。
図20の芯出し第3工程では、ナットランナー(97)が下降し、ボルト(38b)を緩める作業を行う。ボルト(38b)を締めたままでは、後に打撃ユニット(70)を用いて行う固定スクロール(34)の移動(位置調整)を行えないためである。
ボルト(38b)を緩める作業が終わると、図21の芯出し第4工程を行う。この第4工程では、ナットランナー(97)が上昇するとともに、位相検知機構(90)のレーザー変位計(91)が前進する。このとき、レーザー変位計(91)のセンサ部(92)は、固定スクロール(34)の切り欠き(34b)(図9参照)の上方に位置する。
そして、図22の芯出し第5工程では、図7のドライバ(82)により圧縮機モータ(25)にインバータ(81)から通電してクランク軸(20)を例えば1秒間に4回転程度の低速一定の回転速度で回転させ、レーザー変位計(91)で固定スクロール(34)の切り欠き(34b)を通して可動スクロール(31)の外周凸部(31b)を検出する。そして、ドライバ(82)は、この外周凸部(31b)の位置とロータリーエンコーダ(53)の回転位置信号とに基づいて、クランク軸(20)の位相、つまり可動スクロール(31)の位相を検知する。
可動スクロール(31)の位相検知が終了すると、図23の芯出し第6工程を行う。この第6工程では、位相検知機構(90)のレーザー変位計(91)を後退させ、打撃ユニット(70)を前進させる。また、位置検出機構(65)である電気マイクロメータ(66)を、X軸上に配置されたものとY軸上に配置されたものの両方とも前進させて、固定スクロール(34)の位置を検出できる状態にする。
次に行う図24の芯出し第7工程では、圧縮機モータ(25)によりクランク軸(20)及び可動スクロール(31)を回転させたまま、打撃ユニット(70)で固定スクロール(34)を移動させて位置決めする。その際、一旦X軸方向について固定スクロール(34)の可動範囲の両端を検出してその中心位置に固定スクロール(34)を位置決めする第1芯出し作業と、Y軸方向について固定スクロール(34)の可動範囲の両端を検出してその中心位置に固定スクロール(34)を位置決めする第2芯出し作業と、再度X軸方向について固定スクロール(34)の可動範囲の両端を検出してその中心位置に固定スクロール(34)を位置決めする第3芯出し作業とを順に行う。
各芯出し作業では、固定スクロール(34)の位相ないし回転角度が検出されているので、その位相に基づいて、まず、所定の位置(隙間の狭い位置または接触している位置)について固定側ラップ(35)の外周面が可動側ラップ(32)の内周面から離れる方向へ移動するように該固定スクロール(34)をX軸のマイナス方向(またはプラス方向)へ移動させる。これは、図25に示すように可動スクロール(31)がX軸のプラス方向端(図の右側端)にある状態で図の右側の打撃ユニット(70)を動作させると、押圧機構(56)で固定スクロール(34)の回転を規制しているにもかかわらず、摩擦力を打撃力が上回って固定スクロール(34)が回転してしまうおそれがあるため、位置決め精度が不正確になるおそれがあるためである。
そこで、本実施形態では、図26に示すように可動スクロール(31)がX軸のマイナス方向端(図の左側端)にある状態で図の右側の打撃ユニット(70)を動作させる。そして、可動スクロール(31)を反転させたときに固定スクロール(34)が変位するかどうかを判別し、固定スクロール(34)の変位が検知されなければ両ラップ(32,35)が接触していないので固定スクロール(34)の打撃と可動スクロール(31)の反転を繰り返す。一方、固定スクロール(34)の移動を検知すると両ラップ(32,35)が接触して固定スクロール(34)が押し戻されたと判断し、その位置を可動範囲の一端と判断する。同様の操作をX軸のプラス方向(またはマイナス方向)について行って、両ラップ(32,35)の可動範囲の他端を検知する。このようにして、X軸やY軸についてマイナス方向とプラス方向の2箇所(複数箇所)で両ラップ(32,35)の接触位置を検出し、その中心に固定スクロール(34)を位置決めする。
なお、第1から第3の芯出し作業の具体内容は以下の通りである。
まず、第1芯出し作業においては、X軸のマイナス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をX軸方向の第1接触位置とした後、X軸のプラス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をX軸方向の第2接触位置として、第1接触位置と第2接触位置の中央位置を固定スクロール(34)のX軸方向の中心位置とする。
また、第2芯出し作業においては、Y軸のマイナス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をY軸方向の第1接触位置とした後、Y軸のプラス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をY軸方向の第2接触位置として、第1接触位置と第2接触位置の中央位置を固定スクロール(34)のY軸方向の中心位置とする。
さらに、第3芯出し作業においては、X軸のマイナス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をX軸方向の第1接触位置とした後、X軸のプラス方向への固定スクロール(34)の移動と可動スクロール(31)の反転を繰り返して、固定側ラップ(35)と可動側ラップ(32)が接触したことを検出した位置をX軸方向の第2接触位置として、第1接触位置と第2接触位置の中央位置を固定スクロール(34)のX軸方向の中心位置とする。
以上のように、芯出し第7工程は、固定スクロール(34)の可動範囲の両端をX軸方向とY軸方向のそれぞれについて検知した後にその可動範囲の中央に該固定スクロール(34)を位置決めする工程であり、第1から第3の芯出し作業を経ることにより、固定スクロール(34)の中心が求められて固定スクロール(34)が位置決めされる。
この芯出し第7工程で打撃ユニット(70)により固定スクロール(34)を移動させるとき、固定スクロール(34)の移動方向が押圧機構(56)のガイド(41)によりX軸方向とY軸方向に規制されていて、しかも所定の位置(隙間の狭い位置または接触している位置)についてラップ(32,35)同士が離れる方向への打撃が加えられるので、固定スクロール(34)は回転せずに平行移動をする。
固定スクロール(34)の位置決めが完了すると、次に図27に示す芯出し第8工程を行う。この芯出し第8工程では、まず、圧縮機モータ(25)への通電が止められ、クランク軸(20)及び可動スクロール(31)の回転が停止する。そして、打撃ユニット(70)と電気マイクロメータ66)が後退し、ナットランナー(97)が下降してボルト(38b)が締め付けられ、固定スクロール(34)がハウジング(36)に締結される。このとき、固定スクロール(34)は正確に位置決めされている。
その後、図28に示す芯出し第9工程へ移行する。この芯出し第9工程では、ナットランナー(97)が上昇するとともに、エアシリンダ(57)のロッド(57a)が後退することにより押圧機構(56)の押さえ部材(58)が上昇する。また、ロータリーエンコーダ(53)とカップリング(55)が一体的に下降してクランク軸(20)のオイルピックアップ(20a)から外れ、さらにクランプ機構(63)が後退するとともに給電コネクタ(42)が後退して給電端子(19)から外れる。
以上により固定スクロール(34)の位置決めを行う工程全てが完了する。そして、図29に示すように組立体(11)を芯出し組み立て設備である位置決め装置(40)から搬出するワーク搬出工程を行う。
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、ハウジング部材(36)に固定スクロール(34)を位置決めピン(38a)でθ方向に位置決めする第1位置決め工程と、上記第1位置決め工程後に固定スクロール(34)をX軸方向とY軸方向に位置決めする第2位置決め工程とを行い、固定スクロール(34)のθ方向への位置決めを位置決めピン(38a)による簡単な工程にしているが、位置決めピン(38a)と位置決めピン(38a)用の孔(34c,36c)のクリアランスがθ方向のずれに対して与える影響が殆どないため、固定スクロール(34)をθ方向に十分な精度で位置決めできる。また、その後にX軸方向とY軸方向の位置決めを行うことにより固定スクロール(34)の組付けを正確に行うことができる。さらに、θ方向の位置決めを位置決めピン(38a)による簡単な方法で行えるので、位置決めに要するサイクルタイムが長くなるのも防止できるし、機構が複雑になるのも防止できる。
また、位置決めピン(38a)を固定スクロール(34)の外周縁部に設けているので、内周部に設ける場合に比べて、上記クリアランスによる固定スクロール(34)のθ方向のずれの影響が小さくなり、位置決め精度を高めることができる。なお、位置決めピン(38a)は、3箇所に設けるより2箇所に設けた方が固定スクロール(34)の位置決めを簡単に行えるし、位置決めピン(38a)を少なくとも2箇所に設けると確実な位置決めが可能となる。
さらに、第1位置決め工程において、上記ハウジング部材(36)に固定スクロール(34)を位置決めピン(38a)でθ方向に位置決めした後に固定スクロール(34)をハウジング部材(36)にボルト(38b)によって固定するとともに、上記位置決めピン(38a)を抜き出す作業を行った後、第2位置決め工程において、固定スクロール(34)をハウジング部材(36)に押し付けた状態で上記ボルト(38b)による固定を解除して、固定スクロール(34)をX軸方向とY軸方向に位置決めする作業を行うようにしている。この方法では、ハウジング部材(36)に対して固定スクロール(34)を位置決めピン(38a)でセットする作業を前段取り工程として人手で行える。これに対して、全ての作業を自動化すると設備が複雑になり、コストが高くなるが、本実施形態では設備の複雑化やコストアップを防止できる。また、位置決めピン(38a)のセットを設備内で人手により行うと、人手による作業と設備による作業を交互に行う必要が生じるため、作業者の待ち時間や設備の待ち時間が発生して生産性が低下するが、本実施形態によれば生産性の低下を防止できる。
さらに、本実施形態では、第2位置決め工程において、可動スクロール(31)の位相が検知された状態で固定スクロール(34)がX軸方向とY軸方向に位置決めされるので、固定スクロール(34)をより正確に位置決めすることが可能となる。
また、上記第2位置決め工程において可動スクロール(31)の位相を検知する際に、可動スクロール(31)の外周凸部(31b)を固定スクロール(34)の切り欠き(34b)を通して検知することができる。つまり、位置決め工程中に可動スクロール(31)の位相を検知できるので、位置決めを行う前に予め位相検知を行う必要がなく、工程を簡素化できる。
さらに、本実施形態では、第2位置決め工程において、上記固定スクロール(34)を上記ハウジング部材(36)に押し付けた状態で該固定スクロール(34)に衝撃力を与えることによって上記固定スクロール(34)を移動させるようにしているので、固定スクロール(34)の位置を微調整しながら位置決めを行える。したがって、位置決め精度を高められる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態では打撃にユニット(70)のヘッド部(74)を進退させるためにエアシリンダ部(100)を用いているが、その代わりにクランク機構やカム機構などを用いてもよい。また、固定スクロール(34)を移動させる手段である打撃ユニット(70)は、必ずしも圧電素子(73)を用いた構成にする必要はなく、ボールネジによる送り機構を用いた移動機構(75)を用いるなど、他の構成を採用することも可能である。要するに、移動機構(75)は固定スクロール(34)を位置調整できる機構であれば構成は適宜変更してもよい。
さらに、上記実施形態では、可動スクロール(31)を回転させながら固定スクロール(34)の位置決めを行うようにしているが、可動スクロール(31)を所定の位置で停止させて固定スクロール(34)の打撃と可動スクロール(31)の反転を行い、X軸方向やY軸方向の位置決めを行うようにしてもよい。
また、上記実施形態では、組立体(11)に固定スクロール(34)を組み付けた後に可動スクロール(31)の切り欠き(34b)を通してレーザー変位計(91)により可動スクロール(31)の位相を検知するようにしているが、組立体(11)に可動スクロール(31)や固定スクロール(34)を組み付ける前にクランク軸(20)の偏心部(22)を予めレーザー変位計などの位相検知機構(90)で検知するようにしてもよい。
要するに、本発明は固定スクロール(34)のθ方向の位置決めを位置決めピン(38a)で簡単かつ正確に行えるようにしたことを特徴とするものであり、その他の具体的な構成は適宜変更してもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。