JP4502171B2 - 回転部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のオルタネータ、電磁クラッチおよびアイドラプーリ等のエンジン補機に使用されるグリース封入軸受、燃料噴射ポンプに使用される転がり軸受、トランスミッション内の歯車や無段変速機用転動体等のトルク伝達部品を支持する転がり軸受、エアコンディショナーのコンプレッサに使用される転がり軸受、トロイダル式無段変速機内のディスクやパワーローラ等の転動体、ならびに自動車用の各種歯車を含む回転部材に関し、とくに、回転中に基材である鋼中へ侵入した水素による水素脆性的な短寿命剥離の抑制機能を有する回転部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車に使用されるパワートレインは、燃費向上や高出力化等の観点から、小型・軽量化が求められている。これに伴い、各部位に使用される転がり軸受や歯車等の回転部材は、小型・軽量化に加えて、高荷重や高速回転という厳しい環境下での運転を余儀なくされている。
【0003】
例えば、オルタネータや電磁クラッチ等に使用されるグリース封入軸受の場合では、エンジンからの振動を受けるために、高荷重、高速回転および高振動という厳しい環境下で使用される。その結果、NTN Technical Review No.61や、NSK Technical Journal No.656に記載されているように、転走面内部に特異な形態の組織変化が発生し、短寿命で剥離することがあった。
【0004】
この短寿命剥離の原因は、高荷重、高速回転および高振動という厳しい環境下での使用が転走面の鏡面摩耗を引き起こし、これによる金属新生面の形成が触媒的な作用を成してグリースを分解し、その際に発生した水素が鋼中に侵入して、水素脆性的な剥離を招いたためと考えられる。
【0005】
また、エアコンディショナーのコンプレッサの中で冷媒とともに潤滑剤を混合した潤滑条件下で使用される転がり軸受の場合では、従来冷媒として使用されていたフロンが地球環境に影響を及ぼすことから、冷媒がヒドロフルオロカーボン類(HFC)に代替されつつある。この冷媒の代替に伴い、潤滑剤もフロンに可溶なナフテン系やパラフィン系等の鉱油系潤滑剤から、HFCに可溶なポリアルキレングリコール(PGA)やポリオールエステルなどに変更されている。その結果、トライボロジスト第37巻11号(1992)や特開平08−177864号公報に記載されているように、転走面内部に特異な形態の組織変化が発生し、従来に比べて短寿命で剥離することがあった。
【0006】
この短寿命剥離の原因は、潤滑剤の変更により、潤滑膜の形成状態が変化したことで転動体と軌道輪間でミクロな金属接触を生じ、金属接触により露出した金属新生面が潤滑剤中の炭化水素または混合水分を分解し、その際に発生した水素が金属内部に侵入して、内部の組織を脆化させたことによると考えられる。
【0007】
このように、どちらの軸受の場合にも、▲1▼炭化水素または混入水分の分解による水素原子またはイオンの発生過程→▲2▼発生した水素原子またはイオンの鋼中内部への侵入過程→▲3▼侵入した水素による材料の脆化過程を経て、転走面内部での水素脆性的な剥離を招いていると考えられる。
【0008】
これまで、このような水素脆性的な短寿命剥離対策としては、黒染め処理により転動面に四三酸化鉄を形成させたもの(特開平2−190615号公報)や、不活性化剤を含む潤滑剤を用い、不活性化剤の反応が促進されるように転走表面が改質処理されているもの(特開2001−20958号公報)や、基材のCr含有量を増加させ、表面にFeCrO4等の不活性酸化膜を形成させたもの(特開平08−177864号公報)などがあった。
【0009】
これらは、転走表面に不活性被膜を形成させ、新生面生成による触媒作用を抑制することで、炭化水素または混入水分の分解反応を起こりにくくして、発生する水素量を減らすこと、つまりは前述の▲1▼の過程である水素発生過程を改善したものである。しかし、炭化水素の分解反応に対する触媒作用は新生面だけでなく、混入水分や添加剤分解等により生成した酸等にも存在するため、潤滑環境によっては不活性被膜のみでは水素の発生を完全に抑えることはできず、発生してしまった水素の鋼中への侵入を阻止することは難しい。
【0010】
また、Al,Nb,N等を鋼に添加し、オーステナイト結晶粒の微細化によって水素脆化に強い金属組織にした従来例(特開平5−255809号公報)がある。これは結晶粒の微細化により、材料の耐水素脆化性を向上させたこと、つまりは前述▲3▼の材料の脆化過程を改善したものである。しかし、結晶粒の微細化は水素の侵入経路である結晶粒界の面積率を増やすため、鋼中への水素の侵入量が増加する場合があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上のことから、従来にあっては、改善されていなかった▲2▼の水素の侵入過程を改善し、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、鋼中への水素の侵入を確実に抑止することで、水素脆性的な短寿命剥離を抑止する回転部材が必要であった。
【0012】
そして、このような水素脆性的な短寿命剥離現象は、前述のようにオルタネータ、電磁クラッチあるいはアイドラプーリー等自動車のエンジン用補機に使用されるグリース封入軸受や、エアコンディショナーのコンプレッサに使用される軸受などで発生する場合があるとの報告があるが、高荷重下や高振動下で使用される自動車用の転動部材あるいは摺動部材等の回転部材、すなわちトロイダル式無段変速機に使用される転動体ディスクやパワーローラ、トランスミッション内の歯車や無段変速機用転動体等のトルク伝達部品ならびにこれらを支持する転がり軸受、エンジンの燃料噴射ポンプに使用される転がり軸受等についても、小型・軽量化あるいは大容量化していくうえで前述の水素脆性的な現象が起こる可能性があった。
【0013】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、従来において改善されていなかった鋼中への水素原子またはイオンの侵入過程に着目し、転がり接触または摺動接触を伴う回転中に発生した水素を鋼中内部に侵入拡散し難くする水素トラップ層(遮断層)を接触面に設けることにより、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、内部への水素の侵入を確実に抑制して、水素脆性的な短寿命剥離を抑止することができる回転部材を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる回転部材は、請求項1に記載しているように、オイル潤滑、グリース潤滑、あるいは冷媒としてのヒドロフルオロカーボン類とこれに可溶な潤滑剤との混合潤滑下において、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触する鉄鋼製の回転部材であって、
その接触面に、基材よりも水素の拡散係数が低い元素または化合物の濃化部から成る水素遮断層を有し、
前記基材よりも水素の拡散係数が低い元素または化合物は、ニッケル(Ni)またはその化合物であり、
前記水素遮断層は、接触面にニッケル(Ni)またはその化合物の被膜を電気めっきまたは無電解めっきにより形成した後、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触することにより当該被膜成分を基材内に浸透拡散させて成ることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係わる自動車用転がり軸受は、請求項2に記載しているように、請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴としており、本発明に係わるトロイダル式無段変速機用転動体は、請求項3に記載しているように、請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴としており、本発明に係わる自動車用歯車は、請求項4に記載しているように、請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴としている。
【0018】
【発明の作用】
本発明に係わる回転部材では、油やグリース等の炭化水素を潤滑剤として用いた潤滑条件下において、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触する鉄鋼製の回転部材の接触面に、基材よりも水素の拡散係数が低い元素または化合物としての、ニッケル(Ni)またはその化合物の濃化部から成る水素遮断層を形成し、この際、前記接触面に、ニッケル(Ni)またはその化合物の被膜を電気めっきまたは無電解めっきにより形成した後、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触することにより当該被膜成分を基材内に浸透拡散させて水素遮断層を形成し、この水素遮断層により、転動あるいは摺動中に炭化水素あるいは混入水分等の分解等により生成した水素が鋼中内部へ侵入するのを抑制する。
【0019】
このとき、接触面に形成した水素遮断層では、基材よりも水素の拡散係数が低いので水素の拡散が表面で遅れることとなり、表面に水素をトラップすることにより、内部の応力が高い部位への水素侵入を遅延させて、単位時間当たりの水素侵入量を低下させる。また、水素遮断層が、ニッケル(Ni)またはその化合物の濃化部で構成してあって、基材表面に濃化部が存在するので、長期の使用中に被膜が摩耗あるいは剥がれることによる機能の低下が防止され、長期間にわたって侵入水素の遮断効果が安定的に得られることとなる。
【0020】
なお、濃化部は、回転部材の接触面全面に形成することが好ましいが、接触面中の水素の発生し易い部位、例えば油膜が薄くなり易く、水素が発生し易いと考えられる接触楕円の端部付近に形成されていれば、充分な水素の遮断効果が得られるため、必ずしも接触面全面に形成する必要はない。
【0021】
また、水素の拡散係数が低い元素または化合物中の水素拡散係数Dは、103/T(K)≧2でD≦10−5(cm2/s)であると好ましく、さらに、103/T(K)≧2.5でD≦10−6(cm2/s)であるとより好ましく、さらに、300(K)でD≦10−8(cm2/s)であるとより一層好ましい。
【0022】
一般に、材料中の水素の拡散係数は、Arrehniusの関係{exp(−Q/RT)}を満足し、温度上昇とともに増加する。また、自動車に使用される歯車や軸受等の回転部材の場合、最も厳しい条件で使用された場合でも、大半は約200℃以下の温度環境下で使用されている。鉄鋼材料の水素拡散係数は、この温度域においては、103/T(K)=2〜2.5でおおよそ10−4〜10−3(cm2/sec)程度であり、103/T(K)=3.3(300K)でおおよそ10−6〜10−4(cm2/sec)程度である。
【0023】
本発明のように、基材である鉄鋼材料に対して、約200℃以下の温度域において、水素の拡散係数が大幅に低い元素または化合物を濃化部として形成することにより、水素遮断層での水素遮断効果が著しく向上する。
【0024】
上記の水素拡散係数を満足する元素あるいは化合物としては、Pd,NiおよびCuなどの元素や、TiFeH,Ti2NiH2,Mg2NiH0.3およびLaNi5H6等の金属間化合物等が挙げられるが、本発明に係わる回転部材ではニッケル(Ni)またはその化合物を採用している。なお、各材料の水素拡散係数の測定例を図1、2に示す。
【0032】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わる回転部材によれば、オイル潤滑、グリース潤滑、あるいは冷媒としてのヒドロフルオロカーボン類とこれに可溶な潤滑剤との混合潤滑下で使用される鉄鋼製の回転部材において、転がり接触または摺動接触を伴う回転中に発生した水素を鋼中内部に侵入拡散し難くする水素遮断層を接触面に設けたことから、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、内部への水素の侵入を確実に抑制して、水素脆性的な短寿命剥離を抑止することができ、長期間にわたって侵入水素の遮断効果を安定的に得ることができる。
また、本発明の回転部材によれば、電気めっきまたは無電解めっきにより接触面に被膜を形成した後、相手部材と転がり接触または摺動接触することにより被膜成分を基材内に浸透拡散させて水素遮断層を形成することから、比較的簡単に水素遮断層を設けることができ、低コスト化などにも貢献することができる。
【0046】
本発明の請求項2に係わる自動車用転がり軸受によれば、請求項1に記載の回転部材を用いたことにより、自動車のオルタネータ、電磁クラッチおよびアイドラプーリ等のエンジン補機に使用されるグリース封入軸受、燃料噴射ポンプに使用される転がり軸受、トランスミッション内の歯車や無段変速機用転動体等のトルク伝達部品を支持する転がり軸受、ならびにエアコンディショナーのコンプレッサに使用される転がり軸受等の転動面において、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、内部への水素の侵入を確実に抑制して、水素脆性的な短寿命剥離を抑止することができ、長期にわたって良好な性能を維持することができる
【0047】
本発明の請求項3に係わるトロイダル式無段変速機用転動体によれば、請求項1に記載の回転部材を用いたことにより、とくにディスクやパワーローラ等の転動体の転動面において、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、内部への水素の侵入を確実に抑制して、水素脆性的な短寿命剥離を抑止することができ、長期にわたって良好な性能を維持することができる。
【0048】
本発明の請求項4に係わる自動車用歯車によれば、請求項1に記載の回転部材を用いたことにより、摺動接触する歯面において、使用環境や潤滑環境が変わって発生する水素量が増加しても、内部への水素の侵入を確実に抑制して、水素脆性的な短寿命剥離を抑止することができ、長期にわたって良好な性能を維持することができる。
【0049】
【実施例】
以下、本発明に係わる回転部材に関していくつかの実施例を挙げて、その有用性を参考例及び比較例と対比して説明する。なお、本発明に係る各測定値は、以下の方法で測定した値を用いた。
【0050】
[被膜厚測定方法]
作成した試料の被膜厚は、被膜形成部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察にて定量した。
【0051】
[被膜のりん含有量測定方法]
作成した試料の被膜のリンの含有量は、市販の蛍光X線分析装置を用いて定量した。リンの含有量が既知で含有量の異なる複数個のサンプルを測定し、各サンプルの強度から強度−含有量の検量線を作成した。また、同様の条件で本発明の回転部材を適当なサイズに切り出して測定した。この測定強度を前述の検量線に基づきリン含有量に換算した。
【0052】
[濃化層測定方法]
作成した試料の濃化層の厚さ(深さ)は、オージェ分光分析装置(PHI製SAM4300)を用い、接触面からデプスプロファイルを測定することにて定量した。
【0053】
[被膜構成元素の水素拡散係数]
The Metal−Hydrogen Systems−Basic Bulk Properties,Springer(1993)、日本金属学会会報、24(1985)に記載の深井らの測定値(図1,図2)を引用した。
【0054】
次に、本実施例に係わる回転部材の製造方法について説明する。
回転部材については、相手部材に対して転がり接触をする部材、あるいは相手部材に対して微少な滑りを伴って転がり接触をする部材(例えば軸受)として、図3に示すスラスト玉軸受、図4に示す自動車用オルターネータの回転軸を支持する深溝玉軸受、および図5に示すスラストころ軸受を用いて本発明の優位性を評価し、また、相手部材に対して摺動接触する部材(例えば歯車)として、図6に示す小ローラおよび大ローラを用いて本発明の優位性を評価した。
【0055】
図3に示すスラスト玉軸受の内輪および外輪、ならびに図6に示す小ローラおよび大ローラは、表1に示す組成の素材を鍛造により成形して粗加工した後、図7に示す熱処理条件にて浸炭窒化焼入れを行った。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、転がり接触をする部位(接触面)に研削または研削超仕上げを行った。なお、図3に示すスラスト玉軸受については、完成後のベアリング溝部の表面硬さがHV700〜HV720で、表面粗さがRa0.03程度となるようにした。また、図6に示す小ローラおよび大ローラについては、転がり接触をする部位の表面硬さがHV700〜HV720で、表面粗さがRa0.2程度となるようにした。図4に示すオルタネータの深溝玉軸受および図5に示すスラストころ軸受については、材質SUJ2の市販の軸受を用いた。
【0058】
次に、上記軸受およびテストピースに対して、下記条件により種々の被膜および濃化層を形成した。
[Niを主成分とする被膜の作成条件]
(1)被膜を施す基材:転がり軸受のレース面、小ローラおよび大ローラ
(2)めっき浴の組成:以下のA〜F
A.ストライクめっき浴(Ni系)
塩化ニッケル 200 g/L
塩酸 80 g/L
ほう酸 30 g/L
pH 1以下
めっき浴温度 50〜55℃
電流密度 0.1〜10 A/dm2
B.電気めっき浴(Ni系)
60%スルファミン酸ニッケル 800g/L
塩化ニッケル 15 g/L
ほう酸 45 g/L
サッカリンソーダ 5 g/L
50%次亜リン酸 0または1g/L
pH 4〜5
めっき浴温度 55〜60℃
電流密度 1〜10 A/dm2
C. 無電解めっき浴(Ni系)
塩化ニッケル 16g/L
次亜リン酸ナトリウム 24 g/L
コハク酸ナトリウム 16 g/L
リンゴ酸 18 g/L
ジエチルアミン 10 g/L
pH 5〜6
めっき浴温度 90〜95℃
【0059】
[Cuを主成分とする被膜の作成条件]
D.電気めっき浴(Cu系)
シアン化第一銅 60g/L
シアン化ナトリウム 75 g/L
炭酸ナトリウム 30 g/L
pH 12〜13
めっき浴温度 50〜60℃
電流密度 2〜5 A/dm2
E.無電解めっき浴(Cu系)
硫酸銅 10g/L
ロッセル塩 50 g/L
水酸化ナトリウム 10 g/L
ホルマリン(37%) 10g/L
安定剤 微 量
pH 11〜13
めっき浴温度 室 温
【0060】
[Pdを主成分とする被膜の作成条件]
F.電気めっき浴(Pd系)
塩化パラジウムナトリウム 5g/L
亜硝酸ナトリウム 15 g/L
塩化ナトリウム 35 g/L
pH 5〜7
めっき浴温度 40〜45℃
電流密度 0.5〜1 A/dm2
【0061】
[Niの濃化層作成条件]
(1)被膜を施す基材:スラスト玉軸受、深溝玉軸受の内輪と外輪のレース面、小ローラおよび大ローラ
(2)めっき浴の組成:前述のNiストライクめっき浴(A)、電気めっき浴(B)および無電解めっき浴(C)等と同一のものを使用した。
(3)慣らし運転条件:本実施例では、簡易的な被膜形成後の慣らし運転により濃化層を形成した。
▲1▼スラスト玉軸受:トラクション油強制潤滑下において、面圧2〜3GPaで1〜10時間慣らし運転を実施した。
▲2▼深溝玉軸受:グリース潤滑下において、軸荷重約1kN程度で1〜10時間慣らし運転を実施した。
▲3▼スラストころ軸受:クリーンな油浴中において、荷重約3kNで1〜10時間慣らし運転を実施した。
▲4▼小ローラ:トラクション油強制潤滑下において、面圧1〜2GPaで1〜10時間慣らし運転を実施した。
【0062】
(実施例1,3)
転がり軸受の内輪および外輪のベアリング溝部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。なお、電気めっき法にてNiを主成分とする被膜を形成する際のめっき浴(B)として、実施例3では50%次亜リン酸1g/L添加した浴を使用し、実施例1では50%次亜リン酸を添加しないメッキ浴を使用した。
【0063】
(実施例2)
転がり軸受の内輪および外輪のベアリング溝部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、無電解めっき法(Cの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。
【0064】
(実施例4,5(5.1〜5.3))
転がり軸受の内輪および外輪のベアリング溝部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した後に、前述の慣らし運転条件で慣らし運転を実施してNi濃化層を基材表層に形成した。なお、実施例4については、慣らし運転を施した面に、Niを主成分とするストライクめっき(Aの浴を使用)と電気めっき法(Bの浴を使用)によるNiを主成分とする被膜を順次形成した。
【0065】
(参考例1,2)
転がり軸受けのレース面に、Cuを主成分とするめっき被膜を形成した。このCuめっきの形成に際し、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)を採用した。なお、参考例2については、Cuめっき後に前述の慣らし運転を実施し、慣らし運転後に再度Cuめっきを施した。
【0066】
(参考例3)
転がり軸受けのレース面に、Fの浴を使用して電気めっき法にてPdを主成分とするめっき被膜を形成した。
【0067】
(比較例1)
めっき処理を施さない試料を用意した。
【0068】
(比較例2)
特開平2−190615号公報に記載の表面処理(酸化鉄処理)を施した。
【0069】
(実施例6)
深溝玉軸受の外輪部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。
【0070】
(実施例7)
深溝玉軸受の外輪部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した後に、前述の慣らし運転条件で慣らし運転を実施してNi濃化層を基材表層に形成した。また、慣らし運転を施した面に、Niを主成分とするストライクめっき(Aの浴を使用)と電気めっき法(Bの浴を使用)によるNiを主成分とする被膜を順次形成した。
【0071】
(実施例8)
深溝玉軸受の外輪部に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した後に、前述の慣らし運転条件で慣らし運転を実施してNi濃化層を基材表層に形成した。
【0072】
(参考例4)
深溝玉軸受の外輪部に、Cuを主成分とするめっき被膜を形成した。このCuめっきの形成に際し、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)を採用した。
【0073】
(比較例3)
めっき処理を施さない深溝玉軸受を用意した。
【0074】
(実施例9)
スラストころ軸受のころ転動面に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。
【0075】
(実施例10)
スラストころ軸受のころ転動面に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した後に、前述の慣らし運転条件で慣らし運転を実施してNi濃化層を基材表層に形成した。
【0076】
(参考例5)
スラストころ軸受のころ転動面に、Cuを主成分とするめっき被膜を形成した。このCuめっきの形成に際し、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)を採用した。
【0077】
(参考例6)
スラストころ軸受のころ転動面に、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)にてCuを主成分とするめっき被膜を形成した。後に、前述の慣らし運転を実施してCu濃化層を基材面に形成した。
【0078】
(比較例4)
転動面にめっき処理を施さないスラストころ軸受を用意した。
【0079】
(実施例11)
スラストころ軸受のころ転動面に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。このめっき被膜形成後、真空炉にて130℃×20時間のベーキング処理を実施した。
【0080】
(実施例12)
スラストころ軸受のころ転動面に、Niを主成分とするストライクメッキ(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した後に、前述の慣らし運転条件で慣らし運転を実施してNi濃化層を基材表層に形成した。
【0081】
(参考例7)
スラストころ軸受のころ転動面に、Cuを主成分とするめっき被膜を形成した。このCuめっきの形成に際し、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)を採用した。
【0082】
(比較例5)
転動面にめっき処理を施さない別のスラストころ軸受を用意した。
【0083】
(実施例13)
小ローラに対して、Niを主成分とするストライクめっき(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。
【0084】
(実施例14)
小ローラに対して、実施例13と同様に、Niを主成分とするストライクめっき(Aの浴を使用)を施した後、電気めっき法(Bの浴を使用)にてNiを主成分とする被膜を形成した。その後、このNi被膜を形成した小ローラに対し、前述の条件で慣らし運転を行い、その後、慣らし運転を施した面に対して、Niを主成分とするストライクめっき(Aの浴を使用と)電気めっき法(Bの浴を使用)によるNiを主成分とする被膜を順次形成することにより、小ローラの摺動面上にNi濃化部を形成した。
【0085】
(参考例8)
小ローラおよび大ローラに対して、Cuを主成分とするめっき被膜を形成した。このCuめっきの形成に際し、電気めっきによる方法(Dの浴を使用)を採用した。
【0086】
(比較例6)
めっき処理を施さない小ローラを用意した。
【0087】
次に、各実施例、参考例および比較例に係る回転部材の評価方法について説明する。
[1]スラスト玉軸受(T−CVTを模擬:実施例1〜5、参考例1〜3、比較例1,2)
図3に示す軸受転動疲労試験機を用いて、内外輪のレース面(ベアリング溝部)の転動疲労寿命試験を行った。図3に示す軸受転動疲労試験機は、筐体20内において、内輪7と外輪6の間に複数のボール8を介装した軸受を収容し、プレート21により外輪6の下面を保持すると共に、内輪7の上面に回転軸22を所定の加圧力で当接させ、プレート21を通して内輪7の内側に潤滑油を供給しながら、回転軸22とともに内輪7を回転させる構造である。
【0088】
なお、潤滑にはトラクション油を用い、3L/minの強制潤滑下で最大接触面圧が3.6GPaとなるように試験条件を設定した。また、転動疲労寿命は、振動センサーにて検知し、内輪7または外輪6のベアリング溝部7a,6aがフレーキングに至るまでの試験時間を寿命とした。
【0089】
表2に、本実施例1〜5、参考例1〜3および比較例1,2における試験前のベアリング溝部の被膜および濃化層の特性値、被膜および濃化層形成方法と合わせて、上記試験条件にて評価した転動疲労寿命試験結果の一覧を示す。また、表3には、ベアリング溝部の組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
[2]深溝玉軸受(エンジン補機/オルタネータ、アイドラプーリ、エアコン電磁クラッチ用軸受を模擬:実施例6〜11、参考例4、比較例3)
図4に示すベンチ急加減速試験機と、回転軸の支持に深溝玉軸受(6303タイプ)を使用した自動車用オルタネータの実機を用い、ベンチで急加減速試験を行った。図4に示すベンチ急加減速試験機は、基台31上で水平方向に移動可能なホルダ32と、基台31の下側に配置した駆動モータ33と、基台31上に配置した中間プーリ34を備えており、ホルダ32にオルタネータ30を取り付ける。また、駆動モータ33の出力プーリ35と中間プーリ34に第1のベルト36を巻き掛けると共に、中間プーリ34とオルタネータ30の入力プーリ37に第2のベルト38を巻き掛ける。そして、両ベルト36,38および中間プーリ34を介して駆動モータ33によりオルタネータ30を回転駆動し、この際、ホルダ32を水平方向に移動させて第2ベルト38の張力を変えることにより、オルタネータ30における回転部分への負荷を変化させる構造である。
【0093】
なお、軸荷重は約1.8kNとし、入力プーリ37の回転数を数秒間で2000rpm→14000rpm→2000rpmのように変化させる急加減速を繰返しながら評価した。また、転動疲労寿命は、振動センサーにて検知し、フロント側軸受の内輪または外輪のベアリング溝部がフレーキングに至るまでの試験時間を寿命とした。
【0094】
表4に、本実施例6〜8、参考例4および比較例3における試験前の深溝玉軸受の被膜および濃化層の特性値、被膜および濃化層形成方法と合わせて、上記試験条件にて評価した転動疲労寿命試験結果の一覧を示す。また、表5には、深溝玉軸受の組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示す。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
[3]スラストころ軸受(燃料ポンプころ軸受を想定:実施例9,10、参考例5,6、比較例4) 図5に示すスラスト試験機を用い、ころ軸受(NSK製FNTA−2542C)の転動試験を行った。図5に示すスラスト試験機は、筐体40内において、内輪41と外輪42の間に多数の針状ころ43を介装した軸受を収容し、筐体40の内部底面で外輪42の下面を保持すると共に、内輪41の上面に回転軸44を所定の加圧力で当接させ、筐体40内に潤滑油を供給して、回転軸44とともに内輪41を回転させる構造である。
【0098】
なお、エンジンオイル中に水分を加えて約1000ppmの水分を含む潤滑油を作成し、この潤滑油を筐体40内に供給して転動試験を行った。また、転動疲労寿命は、振動センサーにて検知し、転動体(ころ)がフレーキングに至るまでの試験時間を寿命とした。
表6に、本実施例9,10、参考例5,6および比較例4における試験前のスラストころ軸受の被膜および濃化層の特性値、被膜および濃化層形成方法と合わせて、上記試験条件にて評価した転動疲労寿命試験結果の一覧を示す。また、表7には、スラストころ軸受の組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示す。
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
[4]スラストころ軸受(エアコンコンプレッサー内の軸受を想定:実施例11,12、参考例7、比較例5)
図5に示すころ軸受(NSK製FNTA−2542C)について、スラスト試験機を用いると共に、特開平08−177864号公報に記載された条件を参考にして、白灯油97%と潤滑剤であるポリアルキレングリコール(PAG)3%を配合した潤滑混合液を作成し、この潤滑混合液中で転動試験を行った。また、転動疲労寿命は、振動センサーにて検知し、転動体(ころ)がフレーキングに至るまでの試験時間を寿命とした。
【0102】
表8に、本実施例11,12、参考例7および比較例5における試験前のスラストころ軸受の被膜および濃化層の特性値、被膜および濃化層形成方法と合わせて、上記試験条件にて評価した転動疲労寿命試験結果の一覧を示す。また、表9には、スラストころ軸受の組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示す。
【0103】
【表8】
【0104】
【表9】
【0105】
[5]ローラーピッチング試験(歯車を模擬:実施例13,14、参考例8、比較例6)
図6に示す小ローラ50および大ローラ51について、図4に示すローラーピッチング試験機を用いて、小ローラ50の転動疲労寿命試験を行った。この試験は、歯車のような比較的大きな滑りを伴って転がり接触する回転部材の転動疲労寿命を評価するために実施した。
【0106】
なお、潤滑にはトラクション油を用い、2L/minの強制潤滑下で最大接触面圧が3.0GPaとなるようにし、試験機に備わる歯車により、相対すべり率が60%という試験条件を設定した。また、転動疲労寿命は、振動センサーにて検知し、小ローラ50または大ローラ51が剥離に至るまでの試験時間を寿命とした。
【0107】
表10に、本実施例13,14、参考例8および比較例6における試験前のスラストころ軸受の被膜および濃化層の特性値、被膜および濃化層形成方法と合わせて、上記試験条件にて評価した転動疲労寿命試験結果の一覧を示す。
【0108】
【表10】
【0109】
また、図8(a)(b)には、スラスト玉軸受の剥離部近傍における転がり方向断面の組織写真を示す。図8(a)(b)には形態の異なる白色組織が観察されているが、スラスト玉軸受を用いた実験条件では、全ての剥離品の剥離部近傍に図8(a)に示すAタイプまたは図8(b)に示すBタイプの組織変化が観察された。Aタイプは、比較的長寿命の試料に観察された。一方、Bタイプは、比較的短寿命の試料に観察された。なお、表2、表4、表6、表8、表10には、転動疲労試験結果と合わせて、組織変化形態を同時に示す。
【0110】
さらに、表11には、組織変化形態の異なる転動疲労試験後の試料から転動部を切り出し、鋼中の拡散性水素量を測定した結果を示す。なお、測定は昇温脱離ガス分析装置(日本真空技術(株)UPM−ST−200R型)を用い、加熱温度400℃以下にて放出された水素量を拡散性水素量とした。
【0111】
【表11】
【0112】
表11から明らかなように、短寿命でフレーキングを生じたBタイプの場合、Aタイプに比べて水素侵入量が多いことが判る。これにより、Bタイプは侵入水素が起因となった水素脆性的な剥離形態であると言える。つまり、侵入水素を抑制することで組織変化形態がBタイプからAタイプにシフトして長寿命化することが考えられる。
【0113】
先の表2に示すように、ベアリング溝部に対する転動疲労寿命試験の結果、微少な滑りしか伴わない純転がり条件下において、表面に水素遮断層を設けた本発明は、Aタイプの組織変化形態を呈しており、比較例に対して、大幅に転動疲労寿命が向上していることが確認された。
【0114】
図9および図10には、Niめっきを施したものと、Niめっき後に慣らし運転を実施したものとをオージェ分光分析によりNi濃化層を確認した結果を示す。図9(b)および図10(b)は、PHI製SAM4300を用いて、転走表面からスパッタリングを行いながら深さ方向の元素のデプスプロファイルを測定した結果を示すグラフである。図9(a)および図10(a)には、Niめっき層と基材内のNi濃化部の位置関係を模式的に示す。
【0115】
基材の転送表面は、図9(a)および図10(b)に示すように、仕上げ加工時の粗さの凹凸が存在し、Niめっき層が粗さの谷の部分にも詰まっている。このため、図9(b)および図10(b)に示すNiめっき層では、粗さの山(基材)と谷(Niめっき膜)の面積率の変化に伴い、Niの濃度が低下する。一方、図10(b)に示すように、Ni濃度が深さ方向に棚状に存在する部位(図中にNi濃化層と表記)は、粗さの谷よりも深い位置に形成されており、図10(a)に示すように,皮膜中のNiが基材内に拡散浸透してNi濃化層を形成していることを表している。
【0116】
なお、図中のNiめっき層と基材の境界線は、断面SEM観察とめっき前の基材表面粗さにより総合的に判定した。そして、図9(a)(b)に示すNiめっき処理のみでは殆ど認められないNi濃化層が、図10(a)(b)に示す慣らし運転を実施したものには確認された。
【0117】
また、図9のようにNiめっき処理のみのもの(実施例1,2等)でも、前述の耐久試験条件で試験を実施し、試験後の転走面を分析したところ、図10と同様のNi濃化層が確認された。このことから、めっき処理後に慣らし運転を施さない場合であっても、通常の運転中に形成されることが判明した。また、慣らし運転を挟むめっき処理もしくは慣らし運転+めっき処理を施すことで、濃化層の形成を促進し、Ni被膜+Ni濃化層の相乗効果で寿命は更に延びたものと考えられる。
【0118】
なお、実施例では濃化層を被膜形成後の慣らし運転等により得ているが、被膜形成後にローラーバニシングや直接イオン注入等を行うことにより濃化層を形成しても構わない。
【0119】
表4、表6および表8に示す各転動部材(回転部材)にあっても、表2の場合と同様に、短寿命品はいびつな形態の白色組織(Bタイプ/水素脆性型の破損モード)を呈している。この白色組織の一例として、表4,6の場合を図11に示し、表8の場合を図12に示す。しかし、本発明により、表5、表7および表9等に示すように水素侵入を大幅に抑制し、Bタイプの剥離を抑止してDEC型もしくは組織変化なしの状態にシフトし、長寿命の結果が得られている。このDEC型の組織の一例を図13に示す。なお、本実施例では取り扱わなかったが、トランスミッション内で使用される軸受等においても同様の効果があることは言うまでもない。
【0120】
また、表10に示す小ローラおよび大ローラの各試験条件下での破損モードは、軸受単体試験と異なり、長寿命のものには転走部内部に前述のような白色組織変化は見られなかった。一方、短寿命のものには図8(b)に似た不規則な形態の白色組織(Bタイプ)が観察された。前述の軸受試験機の結果から、ローラーピッチング試験機におけるBタイプの組織変化を伴う短寿命剥離も、侵入水素による水素脆性的な剥離と予想される。
【0121】
そして、大きな滑りを伴って転がり接触する条件下においても、表面に水素遮断層を設けた本発明によれば、内部の組織変化を生じておらず、比較例に対して大幅に転動疲労寿命が向上していることが確認された。なお、転がり軸受と同様に、慣らし運転後および耐久後の表面にはNi濃化層やCu濃化層が形成されていた。
【図面の簡単な説明】
【図1】各材料の水素拡散係数の測定値を示すグラフである。
【図2】各材料の水素拡散係数の測定値を示すグラフである。
【図3】スラスト玉軸受の軸受転動疲労試験を説明する断面図である。
【図4】深溝玉軸受のベンチ急加減速試験を説明する側面図である。
【図5】スラストころ軸受のスラスト試験を説明する断面図である。
【図6】小ローラおよび大ローラのローラーピッチング試験を説明する側面図(a)および軸線方向からの正面図(b)である。
【図7】浸炭窒化焼入れを行う際の熱処理条件を示す説明図である。
【図8】スラスト玉軸受の剥離部近傍における転がり方向断面を示すAタイプの組織写真(a)、およびBタイプの組織写真(b)である。
【図9】Niめっき処理を施した回転部材においてオージェ分光分析によりNi濃化層を確認した結果を模式的に示す図(a)およびグラフ(b)である。
【図10】Niめっき処理後に慣らし運転を実施した回転部材においてオージェ分光分析によりNi濃化層を確認した結果を示す図(a)およびグラフ(b)である。
【図11】転動部材の剥離部近傍における断面組織(白色組織あり)を示す写真である。
【図12】転動部材の剥離部近傍における断面組織(白色組織あり)を示す写真である。
【図13】転動部材の剥離部近傍における断面組織(白色組織なし)を示す写真である。
【符号の説明】
6 外輪(回転部材)
7 内輪(回転部材)
41 内輪(回転部材)
42 外輪(回転部材)
50 小ローラ(回転部材)
51 大ローラ(回転部材)
Claims (4)
- オイル潤滑、グリース潤滑、あるいは冷媒としてのヒドロフルオロカーボン類とこれに可溶な潤滑剤との混合潤滑下において、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触する鉄鋼製の回転部材であって、
その接触面に、基材よりも水素の拡散係数が低い元素または化合物の濃化部から成る水素遮断層を有し、
前記基材よりも水素の拡散係数が低い元素または化合物は、ニッケル(Ni)またはその化合物であり、
前記水素遮断層は、接触面にニッケル(Ni)またはその化合物の被膜を電気めっきまたは無電解めっきにより形成した後、相手部材と転がり接触あるいは摺動接触することにより当該被膜成分を基材内に浸透拡散させて成ることを特徴とする回転部材。 - 請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴とする自動車用転がり軸受。
- 請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動体。
- 請求項1に記載の回転部材を用いたことを特徴とする自動車用歯車。
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