以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録媒体の略斜視図であり、図2は、図1のAで示される部分の略拡大断面図である。
図1に示されるように、本実施態様にかかる光記録媒体10は、円板状をなし、図2において、矢印で示される方向から、レーザビームが照射されて、データが記録され、記録されたデータが再生されるように構成されている。
図2に示されるように、本実施形態にかかる光記録媒体10は、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された情報層20と、情報層20の表面上に形成された光透過層13を備えている。
支持基板11は、光記録媒体10の機械的な支持体として、機能するものである。
支持基板11を形成するための材料は、光記録媒体10の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではなく、たとえば、ガラス、セラミック、樹脂などによって、形成することができる。これらのうち、成形の容易性の観点から、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂がとくに好ましく、本実施形態においては、支持基板11は、ポリカーボネート樹脂によって形成される。
本実施形態においては、支持基板11は、約1.1mmの厚さを有している。
本実施形態においては、レーザビームは、支持基板11とは反対側に位置する光透過層13を介して、照射されるから、支持基板11が、光透過性を有していることは必ずしも必要ではない。
支持基板11の表面には、交互に、グルーブ11aおよびランド11bが形成されている。支持基板11の表面に形成されたグルーブ11aおよび/またはランド11bは、情報層20にデータを記録する場合および情報層20からデータを再生する場合において、レーザビームのガイドトラックとして機能する。グルーブ11aの深さは、λ/(8n)ないしλ/(4n)(λは、レーザビームの波長であり、nは、光透過層13の屈折率である。)に設定することが好ましく、グルーブ11aのピッチは、0.2μmないし0.4μmに設定することが好ましい。
図2に示されるように、支持基板11の表面上には、情報層20が形成されている。
図2に示されるように、情報層20は、支持基板11の表面上に形成された反射膜21と、反射膜21の表面上に形成された第二の誘電体膜22と、第二の誘電膜22の表面上に形成された第二の記録膜23bと、第二の記録膜23bの表面上に形成された第一の記録膜23aと、第一の記録膜23aの表面上に形成された第一の誘電体膜24を備えている。
反射膜21は、光透過層13を介して、情報層20に照射されるレーザビームを反射し、再び、光透過層13から出射させる役割を果たすとともに、レーザビームの照射によって、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生じた熱を効果的に放熱させる役割を果たす。
反射膜21は、Ag、またはAgを含む合金を主成分として含んでいる。本明細書において、元素を主成分として含むとは、ある膜に含まれる元素のうち、その元素の含有率が最も大きいことを意味する。
反射膜21が、かかる組成を有する場合には、優れた光学特性や放熱特性を有するとともに、優れた表面平坦性を有する反射膜を形成し得るから、C/N比などの信号特性に優れた再生信号を得ることが可能となる。
反射膜21が、Agを含む合金を主成分として含む場合には、Mg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Pt、Au、Pd、Nd、In、SnおよびBiなどの金属と、Agとの合金によって、反射膜21を形成することができ、これらのなかでも、高い反射率を有しているAl、Cu、Au、Pd、Nd、In、SnおよびBiの少なくとも1つ金属と、Agとの合金を用いて、反射膜21を形成することが、好ましい。
反射膜21の厚さは、とくに限定されるものではないが、10nmないし300nmであることが好ましく、20nmないし200nmであることが、とくに好ましい。反射膜21の厚さが10nm未満であると、反射膜21の反射率を十分に高くすることが困難になるとともに、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生成された熱を放熱することが困難になる。その一方で、反射膜21の厚さが200nmを越えていると、反射膜21の成膜に長い時間を要するため、生産性が低下し、また、内部応力などによって、クラックが発生するおそれがある。
第二の誘電体膜22は、後述する第一の誘電体膜24とともに、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aを物理的、化学的に保護するとともに、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに記録されたデータを再生するときの光学特性を調整する機能を有している。また、第二の誘電体膜22は、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生じた熱を、適度に、反射膜21側に逃がす役割も果たしている。
本実施態様において、第二の誘電体膜22は、Zn、Al、Ce、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、すなわち実質的に硫黄を含まない誘電体材料を主成分として、含んでいる。本明細書において、実質的に硫黄を含まないとは、不純物として硫黄が含まれている以外には、第二の誘電体膜22に、硫黄が含まれていないことを意味する。
実質的に硫黄を含まない誘電体材料を主成分として含む誘電体膜は、Agを含む反射膜の近傍に形成されても、Agとの間で、化学反応を生じる可能性がきわめて低いため、反射膜の表面が腐食されるのを防止することができる。また、Zn、Al、Ce、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物を主成分として含む誘電体膜は、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームに対して、高い屈折率を有するのに加え、比較的に良好なスパッタリングレートを有するため、光学特性および成膜特性にも優れる。
しかしながら、かかる誘電体膜は、熱伝導率が高いため、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生じた熱を反射膜21側に逃げやすくし、記録感度を悪化させるという問題があった。
そこで、本発明者は、かかる問題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、Zn、Al、Ce、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物を主成分として含む誘電体材料に、窒素を添加させて、誘電体膜を形成することにより、優れた光学特性や成膜特性を保持したまま、熱伝導率を低くできる誘電体膜を形成し得ることを見出した。
したがって、本実施態様において、第二の誘電体膜22には、添加物として、窒素が添加されており、本実施態様によれば、第二の誘電体膜22の熱伝導率を低くすることができるから、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生じた熱を、適度に保持することができ、記録感度を向上させることが可能となる。
本実施態様において、たとえば、第二の誘電体膜22が、Znの酸化物を主成分として含む場合には、第二の誘電体膜22に添加される窒素の添加量は、4原子%ないし7原子%であることが好ましく、5.5原子%ないし6.5原子%であることが、さらに好ましい。
第二の誘電体膜22が、Znの酸化物を主成分として含む場合に、第二の誘電体膜22に添加される窒素の添加量が、4原子%未満、あるいは7原子%を超えるときには、第二の誘電体膜22の熱伝導率を十分に低くすることができないおそれがある。
また、本実施態様において、たとえば、第二の誘電体膜22が、Ceの酸化物とAlの酸化物の混合物を主成分して含む場合には、第二の誘電体膜22に添加される窒素の添加量は、9原子%以上であることが好ましく、10原子%ないし12原子%であることが、さらに好ましい。
第二の誘電体膜22が、Ceの酸化物とAlの酸化物の混合物を主成分として含む場合に、第二の誘電体膜22に添加される窒素の添加量が、9原子%未満のときには、第二の誘電体膜22の熱伝導率を十分に低くすることができないおそれがある。
第二の誘電体膜22の厚さは、とくに限定されるものではないが、10nmないし100nmであることが好ましい。第二の誘電体膜22の厚さが10nm未満であると、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aを、十分に保護できないおそれがある。一方、第二の誘電体膜22の厚さが100nmを越えると、成膜に要する時間が長くなり、光記録媒体10の生産性が低下するおそれがあり、さらに、第二の誘電体膜22のもつ応力によって、情報層20にクラックが発生するおそれもある。
第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aは、データが記録される記録膜であり、二つの記録膜によって、一つの記録層を構成している。第二の記録膜23bは、Cuを主成分として含み、第一の記録膜23aは、Si、GeおよびSnよりなる群から選ばれる一種の元素を主成分として含んでいる。
また、第二の記録膜23bの保存信頼性および記録感度を向上させるために、第二の記録膜23bに、さらに、Al、Zn、Sn、Mg、Auからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が添加されていてもよい。これらの元素を、第二の記録膜23bに添加した場合には、再生信号のノイズレベルを低下させることが可能になるとともに、長期間の保存に対する信頼性を向上させることが可能になる。第二の記録膜23bに添加すべき元素の添加量は、1原子%以上、50原子%未満であることが好ましい。
第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aは、その総厚が、4nmないし40nmとなるように形成されることが好ましい。第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aの総厚が、4nm未満の場合には、データを記録する前後の反射率の変化が小さくなって、高いC/N比の再生信号を得ることができなくなり、一方、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aの総厚が、40nmを越えると、記録感度が悪化するおそれがある。
第一の誘電体膜24は、第二の誘電体膜22とともに、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aを物理的、化学的に保護するとともに、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに記録されたデータを再生するときの光学特性を調整する機能を有している。
第一の誘電体膜24を形成するための材料は、レーザビームの波長領域において、透明な誘電体材料であれば、とくに限定されるものではないが、第一の誘電体膜24は、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物から形成されることが好ましい。
第一の誘電体膜24は、第二の誘電体膜22と異なる誘電体材料を主成分として含むように形成されてもよいし、同じ誘電体材料を主成分として含むように形成されてもよい。
第一の誘電体膜24の厚さは、とくに限定されるものではないが、第二の誘電体膜22と同様の理由から、10nmないし100nmであることが好ましい。
図2に示されるように、情報層20の表面上には、光透過層13が形成されている。
光透過層13は、レーザビームを透過させる層であり、その一方の表面によって、光入射面13aが構成されている。
光透過層13を形成するための材料は、光学的に透明で、使用されるレーザビームの波長領域において、光学吸収や反射が少なく、複屈折が小さいものであれば、とくに限定されるものではないが、スピンコーティング法などによって、光透過層13を形成する場合には、紫外線硬化性樹脂、電子線効果性樹脂などが好ましく用いられ、より好ましくは、紫外線硬化性樹脂によって、光透過層13が形成される。光透過層13は、情報層20の表面上に、光透過性樹脂によって形成されたシートを、接着剤を用いて、接着することによって、形成されてもよい。
以上のような構成を有する光記録媒体10は、たとえば、以下のようにして、製造される。
まず、スタンパ(図示せず)を用い、射出成形法によって、表面に、グルーブ11aおよびランド11bが形成された支持基板11が作成される。
さらに、グルーブ11aおよびランド11bが形成された支持基板11の表面上に、情報層20が形成される。情報層20を形成するにあたっては、まず、支持基板11の表面上に、反射膜21が形成される。反射膜21は、Ag、またはAgを含む合金をターゲットとして用いたスパッタリング法によって、形成される。
次いで、反射膜21の表面上に、第二の誘電体膜22が形成される。本実施態様においては、第二の誘電体膜22は、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用い、ZnO、CeO2、Al2O3、ZrO2などの酸化物をターゲットとして用いたスパッタリング法によって、形成される。その結果、第二の誘電体膜22は、実質的に硫黄を含まない誘電体材料を主成分として含み、添加物として、窒素が添加された組成を有する。第二の誘電体膜22を形成するに際しては、スパッタリングガス中の窒素ガスの割合を制御することによって、第二の誘電体膜22中の窒素の含有量が調整される。
さらに、第二の誘電体膜22の表面上に、第二の記録膜23b、第一の記録膜23aおよび第一の誘電体膜24が、順次、形成される。第二の記録膜23b、第一の記録膜23aおよび第一の誘電体膜24は、いずれも、たとえば、真空蒸着法、スパッタリング法などの気相成長法によって、形成することができる。
最後に、第一の誘電体膜24の表面上に、光透過層13が形成される。光透過層13は、たとえば、粘度調整されたアクリル系の紫外線硬化性樹脂あるいはエポキシ系の紫外線硬化性樹脂を、スピンコーティング法などによって、第一の誘電体膜24の表面に塗布して、塗膜を形成し、紫外線を照射して、塗膜を硬化させることによって、形成することができる。
以上のようにして、光記録媒体10が形成される。
本実施態様においては、第二の誘電体膜22は、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用い、ZnO、CeO2、Al2O3、ZrO2などの酸化物をターゲットとして用いたスパッタリング法によって、形成されており、同一の製造工程で、実質的に硫黄を含まない誘電体材料を主成分として含み、窒素が添加された誘電体層を形成することができる。したがって、新たな製造工程を追加することを要せず、製造コストが増大するのを防止することが可能である。
以上のように構成された本実施態様にかかる光記録媒体10には、次のようにして、データが記録される。
まず、図2に示されるように、所定のパワーを有するレーザビームが、光透過層13を介して、情報層20に照射される。データを高い記録密度で、光記録媒体10に記録するために、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームが、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAを有する対物レンズ(図示せず)を介して、光記録媒体10に集光される。
情報層20にレーザビームが照射されると、情報層20が加熱され、第二の記録膜23bに主成分として含まれる元素と、第一の記録膜23aに主成分として含まれる元素とが混合されて、混合領域が形成される。こうして形成された混合領域は、それ以外の領域と、レーザビームに対する反射率が大きく異なるため、記録マークとして、利用することができる。
本実施態様においては、第二の誘電体膜22が、低い熱伝導率を有するから、情報層20にデータを記録するに際して、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに生じた熱を適度に保持することができ、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aを効率的に加熱することが可能となる。したがって、第二の記録膜23bに主成分として含まれる元素と、第一の記録膜23aに主成分として含まれる元素とを、速やかに、混合させることができ、感度よく、データを記録することが可能となる。
一方、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに記録されたデータは、次のようにして、再生される。
第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23aに記録されたデータを再生するにあたっては、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームが、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAを有する対物レンズを介して、情報層20に照射され、情報層20によって反射されたレーザビームの光量が検出されることによって、記録されたデータが再生される。
本実施態様においては、第二の誘電体膜22が、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームに対して、高い屈折率を有するから、記録マークが形成された領域と、記録マークが形成されていない領域との反射率の差を大きくすることができる。したがって、情報層20に記録されたデータを、感度よく、再生することが可能となる。
図3は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる光記録媒体の層構成を示す略拡大断面図である。
本実施態様にかかる光記録媒体100は、書き換え型の光記録媒体として構成されており、図3に示されるように、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された情報層200と、情報層200の表面上に形成された光透過層13を備え、情報層200は、反射膜21と、反射膜21の表面上に形成された第一の誘電体膜22と、第二の誘電体膜22の表面上に形成された記録膜210と、記録膜210の表面上に形成された第一の誘電体膜24を備えている。
本実施態様においても、光透過層13を介して、レーザビームが照射されて、光記録媒体100にデータが記録され、記録されたデータが再生される。
本実施態様にかかる光記録媒体100の支持基板11、反射膜21、第二の誘電体膜22、第一の誘電体膜24および光透過層13は、図2に示される支持基板11、反射膜21、第二の誘電体膜22、第一の誘電体膜24および光透過層13と同様の機能を有し、同様に構成されている。
すなわち、本実施態様においても、反射膜21は、Ag、またはAgを含む合金を主成分として含み、第二の誘電体膜22は、Zn、Al、Ce、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物を主成分として含み、添加物として、窒素が添加されている。
記録膜210は、相変化材料によって形成されており、結晶状態にある場合の反射率と、アモルファス状態にある場合の反射率とが異なることを利用して、記録膜210にデータが記録され、記録膜210からデータが再生される。
記録膜210を形成するための材料は、とくに限定されるものではないが、高速で、データを直接的に上書きすることを可能にするためには、アモルファス状態から結晶状態への相変化に要する時間(結晶化時間)が短いことが好ましく、このような材料としてはSbTe系材料を挙げることができる。
SbTe系材料としては、SbTeのみでもよいし、結晶化時間をより短縮するとともに、長期の保存に対する信頼性を高めるために、添加物が添加されてもよい。
具体的には、組成式(SbxTe1−x)1−yMy(MはSbおよびTeを除く元素である)で表されるSbTe系材料のうち、0.55≦x≦0.9、0≦y≦0.25であるSbTe系材料によって、記録膜210が形成されることが好ましく、0.65≦x≦0.85、0≦y≦0.25であるSbTe系材料によって、記録膜210が形成されることがより好ましい。
元素Mはとくに限定されるものではないが、結晶化時間を短縮し、保存信頼性を向上させるためには、元素Mが、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、P、Ge、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Mn、Ti、Sn、Pd、N、Oおよび希土類元素よりなる群から選ばれる1または2以上の元素であることが好ましい。とくに、保存信頼性を向上させるためには、元素Mが、Ag、In、Geおよび希土類元素よりなる群より選ばれる1または2以上の元素によって構成されることが好ましい。
記録膜210は、真空蒸着法、スパッタリング法などの気相成長法によって、形成することができる。
以上のような構成を有する光記録媒体100には、次のように、データが記録される。
まず、所定のパワーを有するレーザビームが、光透過層13を介して、情報層200に照射される。図2に示された前記実施態様と同様に、本実施態様においても、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームが、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAの対物レンズを介して、記録膜210に集光される。
レーザビームを照射して、記録膜210の所定の領域を、相変化材料の融点以上の温度に加熱し、急冷することにより、その領域がアモルファス状態となり、一方、レーザビームを照射して、記録膜210の所定の領域を、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、徐冷することにより、その領域が結晶化状態となる。記録膜210のアモルファス状態になった領域により、記録マークが形成され、記録マークの長さと、隣り合った記録マーク間のブランク領域の長さとによって、データが構成され、記録膜210に、データが記録される。
本実施態様においては、第二の誘電体膜22が、低い熱伝導率を有するから、情報層200にデータを記録するときに、記録膜210を効率的に加熱することが可能となる。したがって、レーザビームが照射された記録膜210の領域を、速やかに、相変化材料の融点以上の温度に加熱することができ、感度よく、データを記録することが可能となる。
一方、記録膜210に記録されたデータは、次のようにして、再生される。
記録膜210に記録されたデータを再生するにあたっては、図2に示された前記実施態様と同様に、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームが、λ/NA≦640nmを満たす開口数NAの対物レンズを介して、情報層200に照射され、情報層200によって反射されたレーザビームの光量が検出されることによって、記録されたデータが再生される。
本実施態様においては、第二の誘電体膜22が、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームに対して、高い屈折率を有するから、記録マークが形成された領域と、記録マークが形成されていない領域との反射率差を大きくすることができる。したがって、記録膜210に記録されたデータを、感度よく、再生することが可能となる。
以上のように、本実施態様によれば、製造コストの増大を防止しつつ、所望のように、データを記録することができるとともに、記録されたデータを再生することができ、かつ、長期間の保存に対する信頼性を高めることが可能となる。
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例を掲げる。
実施例1
まず、射出成型法により、厚さが1.1mm、直径が120mmで、表面に、グルーブおよびランドが、0.32μmのグルーブピッチで形成されたポリカーボネート基板を作製した。
次いで、このポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、ポリカーボネート基板の表面上に、98:1:1の割合で、Ag、Nd、Cuを含有し、100nmの厚さを有する反射膜を形成した。
さらに、ポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、アルゴンガスおよび窒素ガスの流量が、それぞれ、10sccmおよび5sccmの混合ガス雰囲気中で、ZnOターゲットを用いて、スパッタリングすることにより、ZnOを主成分として含み、窒素が添加され、25nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した。第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、それぞれ、47.9原子%、47.8原子%および4.3原子%であった。
第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、理学電気工業株式会社製の蛍光X線分析(XRF)装置「RIX2000」(商品名)を用いて、Rh管の管電圧=50kV、管電流=50mAの条件で、X線を発生させ、FP法によって、測定した。
次いで、ポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、第二の誘電体膜の表面上に、Cuを主成分とし、23原子%のAlと13原子%のAuが添加された7.5nmの厚さを有する第二の記録膜、Siを主成分として含み、4.5nmの厚さを有する第一の記録膜、およびZnSとSiO2の混合物を主成分として含み、30nmの厚さを有する第一の誘電体膜を、順次、スパッタリング法により形成し、情報層を形成した。第一の誘電体膜を形成するに際しては、ZnSとSiO2のモル比率が、80:20の混合物ターゲットを使用した。
最後に、情報層の表面上に、少なくとも情報層の表面全体を被うように、紫外線硬化性アクリル樹脂を、スピンコーティング法によって、塗布して、塗膜を形成し、塗膜に、紫外線を照射して、紫外線硬化性アクリル樹脂を硬化させ、100μmの厚さを有する光透過層を形成した。
こうして、サンプル#1を作製した。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、10sccmに変更して、28nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、サンプル#2を作製した。第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、それぞれ、47.1原子%、47.0原子%および5.9原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、15sccmに変更して、31nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、サンプル#3を作製した。第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、それぞれ、46.8原子%、46.7原子%および6.5原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、30sccmに変更して、35nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、比較サンプル#1を作製した。第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、それぞれ、46.3原子%、46.2原子%および7.5原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、50sccmに変更して、38nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、比較サンプル#2を作製した。第二の誘電体膜中のZn、OおよびNの含有量は、それぞれ、46.1原子%、46.0原子%および7.9原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、0sccmに変更して、22nmの厚さを有し、窒素が添加されていない第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、比較サンプル#3を作製した。第二の誘電体膜中のZnおよびOの含有量は、それぞれ、50.0原子%および50.0原子%であった。
次いで、サンプル#1を、パルステック工業株式会社製の光記録媒体評価装置「DDU1000」(商品名)にセットし、以下の条件で、データを記録した。
波長が405nmの青色レーザビームを、開口数NAが0.85の対物レンズを用いて、光透過層を介して、情報層に集光し、下記の記録信号条件で、(1、7)RLL変調方式における2Tないし8Tの長さの記録マークを、ランダムに組み合わせて、サンプル#1の情報層に形成した。データを記録するに際しては、レーザビームの記録パワーPwを、6.2mWに設定し、基底パワーPbを、2.0mWに設定した。
次いで、レーザビームの記録パワーPwを、6.2mWないし8.6mWの範囲で、6.2mWから少しずつ、上げていき、順次、サンプル#1の情報層にデータを記録した。
変調方式:(1,7)RLL
記録線速度:4.9m/秒
チャンネルビット長:112nm
チャンネルクロック:66MHz
次いで、上述の光記録媒体評価装置を用いて、サンプル#2ないし比較サンプル#3につき、サンプル#1と同様にして、情報層にデータを記録した。サンプル#2ないし比較サンプル#3にデータを記録するに際しては、レーザビームの基底パワーPbを2.0mWに固定し、レーザビームの記録パワーPwを、それぞれ、6.2mWないし8.2mWの範囲、5.8mWないし8.0mWの範囲、5.8mWないし8.0mWの範囲、6.4mWないし8.2mWの範囲、7.2mWないし9.8mWの範囲で、少しずつ、上げていった。
次いで、上述の光記録媒体評価装置を用いて、サンプル#1ないし比較サンプル#3の情報層に記録されたデータを再生し、ジッタを測定した。ジッタは、タイムインターバルアナライザによって、再生信号の「ゆらぎσ」を求め、σ/Tw(Tw:クロックの1周期)によって、算出した。データを再生するに際しては、すべてのサンプルにつき、405nmの波長を有するレーザビームおよび開口数NAが0.85の対物レンズを用い、レーザビームの再生パワーPrは、0.35mWとした。
サンプル#1ないし比較サンプル#3のジッタの測定結果が、それぞれ、図4の曲線AないしFに示され、情報層に記録されたデータを再生したときの最小のジッタ、および最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、表1に示されている。
図4および表1から明らかなように、窒素の含有量が4原子%ないし7原子%であるサンプル#1ないし3においては、最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、いずれも8.0mW以下であった。これに対し、窒素の含有量が4原子%ないし7原子%の範囲外である比較サンプル#1ないし3においては、最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、いずれも8.0mWを超えていた。これらの結果から、サンプル#1ないし3においては、記録感度が向上し、データを記録するときのレーザビームの記録パワーPwを低下させることができるのが認められた。
また、図4および表1から明らかなように、サンプル#1ないし3においては、ジッタの最小値が、いずれも、5.5%以下であったのに対し、比較サンプル#1ないし3においては、ジッタの最小値が、いずれも、5.5%を超えていた。これらの結果から、サンプル#1ないし3においては、レーザビームの記録パワーPwを低下させることができるだけでなく、ジッタが低減できることも分かった。
実施例2
アルゴンガスおよび窒素ガスの流量が、それぞれ、35sccm、10sccmの混合ガス雰囲気中で、CeO2ターゲットと、Al2O3ターゲットを用いて、スパッタリングすることにより、CeO2とAl2O3の混合物を主成分として含み、窒素が添加された第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#1と同様にして、サンプル#4を作製した。第二の誘電体膜中のCe、Al、OおよびNの含有量は、それぞれ、20.9原子%、10.4原子%、57.5原子%および11.2原子%であり、また、第二の誘電体膜の厚さは、28nmとした。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、35sccm、15sccmに変更して、31nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#4と同様にして、サンプル#5を作製した。第二の誘電体膜中のCe、Al、OおよびNの含有量は、それぞれ、20.4原子%、10.2原子%、56.0原子%および13.4原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、35sccm、30sccmに変更して、38nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#4と同様にして、サンプル#6を作製した。第二の誘電体膜中のCe、Al、OおよびNの含有量は、それぞれ、19.5原子%、9.7原子%、53.6原子%および17.2原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、35sccm、50sccmに変更して、38nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#4と同様にして、サンプル#7を作製した。第二の誘電体膜中のCe、Al、OおよびNの含有量は、それぞれ、18.9原子%、9.4原子%、52.0原子%および19.7原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、10sccm、5sccmに変更して、25nmの厚さを有する第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#4と同様にして、比較サンプル#4を作成した。第二の誘電体膜中のCe、Al、OおよびNの含有量は、それぞれ、21.8原子%、10.9原子%、59.8原子%および7.5原子%であった。
次いで、混合ガスにおけるアルゴンガスおよび窒素ガスの流量を、それぞれ、35sccm、0sccmに変更して、22nmの厚さを有し、窒素を含まない第二の誘電体膜を形成した点を除き、サンプル#4と同様にして、比較サンプル#5を作製した。第二の誘電体膜中のCe、AlおよびOの含有量は、それぞれ、23.5原子%、11.8原子%および64.7原子%であった。
次いで、実施例1と同様にして、上述の光記録媒体評価装置を用い、サンプル#4ないし比較サンプル#5の情報層にデータを記録した。サンプル#4ないし比較サンプル#5にデータを記録するに際しては、レーザビームの基底パワーPbを2.0mWに固定し、レーザビームの記録パワーPwを、それぞれ、5.2mWないし7.2mWの範囲、5.2mWないし7.2mWの範囲、5.2mWないし7.2mWの範囲、5.2mWないし7.2mWの範囲、5.4mWないし7.2mWの範囲、5.6mWないし7.6mWの範囲で、少しずつ、上げていった。
次いで、実施例1と同様にして、上述の光記録媒体評価装置を用い、サンプル#4ないし比較サンプル#5の情報層に記録されたデータを再生し、ジッタを測定した。
サンプル#4ないし比較サンプル#5のジッタの測定結果が、それぞれ、図5の曲線GないしLに示され、情報層に記録されたデータを再生したときの最小のジッタ、および最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、表2に示されている。
図5および表2から明らかなように、窒素の含有量が9原子%以上であるサンプル#4ないし7においては、最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、いずれも、6.2mW以下であったのに対し、窒素の含有量が9原子%未満である比較サンプル#4および5においては、最小のジッタが得られたデータを記録したときのレーザビームの記録パワーPwが、6.2mWを超えていた。これらの結果から、サンプル#4ないし7においては、記録感度が向上し、データを記録するときのレーザビームの記録パワーPwを低下させることができるのが認められた。
また、図5および表2から明らかなように、サンプル#4ないし7のうち、サンプル#4および5においては、ジッタの最小値が、いずれも、5.6%以下であり、これらのサンプルにおいては、レーザビームの記録パワーPwを低下させることができるだけでなく、ジッタを低減できることも分かった。
本発明は、以上の実施態様および実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
たとえば、図1ないし図3に示された実施態様においては、光記録媒体10、100は、支持基板11と、情報層20、200と、光透過層13とを備え、一層のみの情報層を備えているが、本発明は、情報層が一層である光記録媒体に限定されるものではなく、広く、二層以上の情報層を有する光記録媒体に適用することができる。この場合には、二層以上の情報層が、すべて、記録膜と、実質的に硫黄を含まない誘電体材料を主成分として含み、窒素が添加されている誘電体膜と、Ag、またはAgを含む合金を主成分として含む反射膜とが、レーザビームの光入射面から、順に、積層された積層体を含んでいることは必ずしも必要ではなく、二層以上の情報層のうちの少なくとも一層が、かかる積層体を含んでいればよい。
また、図1ないし図3に示された実施態様においては、光記録媒体10、100は、第二の記録膜23bおよび第一の記録膜23a、記録膜210を挟むように、第二の誘電体膜22および第一の誘電体膜24が形成されているが、本発明においては、第二の誘電体膜22および第一の誘電体膜24の2つ誘電体膜で、記録膜を挟むことは必ずしも必要ではなく、記録マークが形成された領域と、記録マークが形成されていない領域との光反射率の差が十分に大きい場合には、第一の誘電体膜24を省略することもできる。
また、図1および図2に示された実施態様においては、光記録媒体10は、第二の記録膜23bと第一の記録膜23aが、互いに接触するように形成されているが、第二の記録膜23bは、レーザビームが照射されたときに、第二の記録膜23bに主成分として含まれている元素と、第一の記録膜23aに主成分として含まれている元素とが混合して、混合領域が形成されるように、第一の記録膜23aの近傍に配置されていればよく、第二の記録膜23bと第一の記録膜23aの間に、誘電体膜などの一または二以上の他の膜が介在していてもよい。
さらに、図1ないし図3に示される実施態様においては、光記録媒体10、100は、光透過層13を備えているが、光透過層13に代えて、または、光透過層13の表面上に、ハードコート組成物を主成分として含むハードコート層を設けてもよいし、さらに、潤滑性や防汚性の機能を付与するために、ハードコート層に潤滑剤を含ませてもよいし、ハードコート層の表面上に、潤滑剤を主成分として含む潤滑層を、別途、設けるようにしてもよい。