以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
〔水添共重合体(X)〕
本実施形態の水添共重合体(X)は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなる重合体を水素添加した水添共重合体(a)、(b1)および(b2)を含む。水添共重合体(X)は、複数の水添共重合体を含む、いわゆるポリマーブレンドである。より具体的には、水添共重合体(X)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック、および共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(ただし、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック及び共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックは除く。)からなる群から選択される1つ以上の重合体ブロックの水素添加物からなる、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)、および水添共重合体(b2)を含む。
水添共重合体(a)の含有量と、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)の含有量との質量比(a)/{(b1)+(b2)}は、45/55~95/5である。
水添共重合体(a)は、粘弾性測定(1Hz)において、tanδピークを0℃以上に1個以上有し、水添共重合体(b1)は、粘弾性測定(1Hz)においてtanδピークを-25℃以上0℃未満に1個以上有し、水添共重合体(b2)は、粘弾性測定(1Hz)においてtanδピークを-25℃未満に1個以上有する。水添共重合体(X)は、tanδピーク温度が0℃以上かつtanδ高さが1.0以上のピークを少なくとも1つ有し、かつ、tanδピーク温度が0℃未満かつtanδピーク高さが0.2未満のピークを少なくとも2つ有する。
本実施形態の水添共重合体は、上記の構成を備えることにより、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂やゴム状重合体と混合した場合の樹脂組成物において、耐摩耗性、低温機械特性、及び各特性のバランスが良好なものとなる。
以下、各成分について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、70質量%を超えて100質量%以下含むことをいい、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下含むことを言う。
(芳香族ビニル化合物)
水添共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、以下に限定されものではないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等が挙げられる。
これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンが好ましい。なお、ビニル芳香族と共役ジエンを含むブロック(いわゆるランダムブロック)に含まれるビニル芳香族化合物としては、反応性の観点でスチレンが好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体を10質量%以下の割合で含有していてもよい。該他の不飽和単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等から選択される少なくとも1種が挙げられ、結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
(共役ジエン化合物)
水添共重合体を構成する共役ジエン化合物としては、共役二重結合を有するジオレフィンであれば特に限定されず、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリブタジエンのtanδピーク温度(ガラス転移温度)は-90℃、ポリイソプレンのガラス転移温度は-73℃、ポリスチレンのガラス転移温度は100℃(日本ゴム協会誌、1968年41巻12号、P1111~P1117)であり。ブロック(B1)に含まれる、共役ジエンと芳香族ビニル化合物の共重合比は、共役ジエン化合物の種類によって最適な含有量は異なる。ブロック(B1)において、芳香族ビニル化合物がスチレン、共役ジエン化合物でイソプレンを使用した場合は、共役ジエン化合物としてブタジエンを使用した場合よりも、ガラス転移温度が高いので、ブロック(B1)中の芳香族ビニル化合物含有量が少なくても、tanδピーク温度を上げることができる。
(水素添加率)
本実施形態において、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)の全共役ジエン化合物の80モル%以上が水素添加されていることが好ましい。水素添加率は、共重合体のTanδにも影響するので、好ましい水素添加率は共重合体とポリプロピレンの相溶性といった特性の他、Tanδへの影響も踏まえて設定される。すなわち、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)の全共役ジエン化合物単位の水素添加率(共役ジエン単位に由来する炭素-炭素二重結合の水素添加率)は80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、90モル%であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、100モル%以下であることが好ましい。
水素添加率が80モル%以上であることにより、水添ブロック共重合体とポリプロピレンとの溶解パラメータ値が近づき、分散が良好になるために、得られる樹脂組成物の耐摩耗性、低温特性、および耐傷つき性が向上する。この水素添加率は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法により測定できる。
(水添共重合体(a))
本実施形態の水添共重合体(X)は、水添共重合体(a)を含有する。
水添共重合体(a)は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなる水添重合体ブロック(以下重合体ブロックB1と記す)を有する。
さらには、水添共重合体(a)は、ビニル芳香族化合物を主体とするブロック(以下重合体ブロックAと記す場合がある。)を少なくとも1つ有することが好ましい。
水添共重合体(a)は、例えば、下記一般式で表されるような構造を有することが好ましい。また、水添共重合体(a)は、下記構造を複数種類、任意の割合で含む混合物でもよい。
(A-B1)n
A-(B1-A)n
B1-(A-B1)n
[(B1-A)n]m-Z
[(A-B1)n]m-Z
[(B1-A)n-B1]m-Z
[(A-B1)n-A]m-Z
上記水添共重合体(a)を表す各一般式において、Aはビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックであり、B1はビニル芳香族化合物及び共役ジエン化合物からなる重合体ブロックである。
0℃以上に現れるtanδピーク温度には、共重合体のブロック構造自体よりもビニル芳香族化合物及び共役ジエン化合物からなるランダムブロック(B1)の構造や共重合比が主に影響するので、tanδピーク温度を制御する観点では、B1ブロックに着目して設計するのが好ましい。
前記重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物の含有量が、90質量%を超えるものである。前記重合体ブロックB1は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物の含有量が20~90質量%であるものである。これにより、重合体ブロックAと、重合体ブロック(B1)とは、明確に区別される。
重合体ブロックAと重合体ブロック(B1)との境界線は必ずしも明瞭に区別される必要はない。
また、nは1以上の整数、好ましくは1~5の整数である。
mは2以上の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは2~8の整数である。
Zはカップリング剤残基を表す。ここで、カップリング残基とは、重合体ブロックAと重合体ブロック(B1)を、重合体ブロックA-重合体ブロックA間、重合体ブロック(B1)-重合体ブロック(B1)間、又は重合体ブロックA-重合体ブロック(B1)間において結合させるために用いられるカップリング剤の結合後の残基を意味する。
カップリング剤としては、以下に限定されないが、例えば、後述するポリハロゲン化合物や酸エステル類等が挙げられる。
重合体ブロックAがビニル芳香族化合物と他の単量体単位との共重合体である場合には、重合体ブロックA中のビニル芳香族化合物は、均一に分布していてもテーパー状に分布していてもよく、また、均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。さらに、前記重合体ブロックAには、ビニル芳香族化合物の含有量が異なる部分が複数個共存していてもよい。
また、重合体ブロック(B1)中のビニル芳香族化合物は均一に分布していても、テーパー状に分布していてもよい。さらに、ビニル芳香族化合物は均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。さらに、上記重合体ブロック(B1)には、ビニル芳香族化合物の含有量が異なる部分が複数個共存していてもよい。
水添共重合体(a)中の全ビニル芳香族化合物の含有量は30質量%~90質量%であることが好ましく、より好ましくは35~80質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。
また、水添共重合体(a)中の共役ジエン化合物の含有量は好ましくは10質量%~70質量%であり、より好ましくは20~65質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%である。
水添共重合体(a)中の全ビニル芳香族化合物の含有量が30質量%以上であれば、得られる樹脂組成物が耐摩耗性に優れる。全ビニル芳香族化合物の含有量が90質量%以下であれば、本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物が低温機械特性に優れる。
なお、全ビニル芳香族化合物の含有量は、後述する実施例記載の方法で紫外線分光光度計を用いて262nmの吸収強度より算出することが可能である。
水添共重合体(a)中の水添重合体ブロック(B1)におけるビニル芳香族化合物の含有量は20~90質量%であることが好ましい。含有量の上限はより好ましくは85質量%であり、さらに好ましくは80質量%である。含有量の下限は好ましくは30質量%であり、より好ましくは35質量%であり、さらに好ましくは40質量%である。
水添共重合体(B1)中のビニル芳香族化合物の含有量が20質量%以上であれば、本実施形態の水添共重合体とポリプリピレン樹脂やゴム状重合体との樹脂組成物の耐摩耗性に優れる、という効果が得られる。ビニル芳香族化合物の含有量が90質量%以下であれば、樹脂組成物の低温機械特性が優れる、という効果が得られる。
なお、ビニル芳香族化合物の含有量は、重合時のビニル芳香族化合物のフィード量により、上記数値範囲に調整することができ、核磁気共鳴装置(NMR)により測定できる。
水添共重合体(a)において、前記ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAの含有量は、水添共重合体(a)の質量に対して、1質量%~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%~35質量%、さらに好ましくは10質量%~30質量%である。
水添共重合体(a)中の重合体ブロックAの含有量が1質量%以上であれば、得られるポリプロピレン樹脂組成物のCS(圧縮永久歪み(C-set))及び低べたつきに優れる傾向にある。ブロック重合体Aの含有量が40質量%以下であれば、得られるポリプロピレン樹脂組成物の加工性に優れる傾向にある。
なお、重合体ブロックAの含有量は、単量体の添加量によって調整することができる。
水添共重合体(a)における重合体ブロックAの含有量は、水添前の共重合体(a’)を四酸化オスミウムを触媒として、t-ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)(以下、四酸化オスミウム分解法と称する。)で求めたビニル芳香族化合物を主体とする重合体の質量(ただし、平均重合度が約30以下のビニル芳香族化合物は除かれている)を用いて算出することができる。
また、水添共重合体(a)における重合体ブロックAの含有量は、水素添加後の共重合体(水添共重合体(a))を用いて、Y.Tanaka,et al.,RUBBER CHEMISTRY and TECHNOLOGY 54,685(1981)に記載の方法で、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
NMR法を、ビニル芳香族化合物をスチレン、共役ジエン化合物を1,3-ブタジエンとした場合を例に挙げて具体的に説明する。
水添共重合体(a)30mgを重水素化クロロホルム1gに溶解した試料を用いて1H-NMRを測定し、重合体ブロックA(この場合、ポリスチレンブロックとなる)の含有量(Ns値)を全積算値に対する化学シフト6.9ppm~6.3ppmの積算値の比率から求めた。
ブロックスチレン強度(b-St強度)
=(6.9ppm~6.3ppmの積算値)/2
ランダムスチレン強度(r-St強度)
=(7.5ppm~6.9ppmの積算値)-3×(b-St)
エチレン・ブチレン強度(EB強度)
=全積算値-3×{(b-St強度)+(r-St強度)}/8
NMR法で得られるポリスチレンブロック含有量(Ns値)
=104×(b-St強度)
/[104×{(b-St強度)+(r-St強度)}+56×(EB強度)]
ここで、四酸化オスミウム分解法で測定した水素添加前の共重合体(a’)中のブロック重合体Aの含有量(「Os値」と称する)とNMR法により測定した水素添加後の水添共重合体(a)中のブロック重合体Aの含有量(「Ns値」と称する。)の間には下記式で表される相関関係がある。
Os値=-0.012(Ns値)2+1.8(Ns値)-13.0
水添共重合体(a)における共役ジエン化合物中の水添前のビニル結合量は、5mol%~95mol%が好ましく、より好ましくは10mol~85mol%であり、さらに好ましくは12mol~80mol%である。
水添共重合体(a)の水添前のビニル結合量が5mol%以上であると本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物において、水添共重合体とポリプロピレン樹脂との相溶性に優れたものとなる。
水添前のビニル結合部分は、水添後は主鎖に結合したエチレンになるが、この構造が主鎖に側鎖としてメチルが結合したポリプロピレンに近いために、水添前のビニル結合量が多いほど両者の相溶性が増し、SP値(溶解度パラメーター)が近づくと考えられる。
前記水添前のビニル結合量が95mol%以下であれば、本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物の低べたつき性と加工性に優れる傾向にある。
なお、本実施形態において、ビニル結合量とは、全共役ジエンに対する、1,2-ビニル結合量(1,2-結合で重合体に組み込まれている共役ジエン)と3,4-ビニル結合量(3,4-結合で重合体に組み込まれている共役ジエン)の合計含有量(ここで、共役ジエンとして1,3-ブタジエンを使用した場合には、1,2-ビニル結合含有量、共役ジエンとしてイソプレンを使用した場合には、3,4-ビニル結合含有量)をいう。
水素添加前の共役ジエンに基づくビニル結合含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。水添共重合体(a)中の共役ジエン化合物単量体単位に由来するミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、後述する極性化合物等の使用により任意に変えることができる。
(水添共重合体(b1))
本実施形態の水添共重合体(X)は、水添共重合体(b1)を含有する。
水添共重合体(b1)は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなる水添重合体ブロック(以下重合体ブロックB2と記す)を有する。
さらには、水添共重合体(b1)は、ビニル芳香族化合物を主体とするブロック(以下重合体ブロックA’と記す場合がある。)を少なくとも1つ有することが好ましい。
水添共重合体(b1)は、例えば、下記一般式で表されるような構造を有することが好ましい。また、水添共重合体(b1)は、下記構造を複数種類、任意の割合で含む混合物でもよい。
(A’-B2)n
A’-(B2-A)n
B2-(A’-B2)n
[(B2-A’)n]m-Z
[(A’-B2)n]m-Z
[(B2-A’)n-B2]m-Z
[(A’-B2)n-A’]m-Z
上記水添共重合体(b1)を表す各一般式において、A’はビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックであり、B2はビニル芳香族化合物及び共役ジエン化合物からなる重合体ブロックである。
-25℃以上0℃未満に現れるtanδピーク温度には、共重合体のブロック構造自体よりもビニル芳香族化合物及び共役ジエン化合物からなるランダムブロック(B2)の構造や共重合比が主に影響するので、tanδピーク温度を制御する観点では、B2ブロックに着目して設計するのが好ましい。
前記重合体ブロックA’は、ビニル芳香族化合物の含有量が、90質量%を超えるものである。重合体ブロックB2は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなり、ビニル芳香族化合物の含有量が5~40質量%であるものである。これにより、重合体ブロックA’と、重合体ブロック(B2)とは、明確に区別される。
重合体ブロックA’と重合体ブロック(B2)との境界線は必ずしも明瞭に区別される必要はない。
また、nは1以上の整数、好ましくは1~5の整数である。
mは2以上の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは2~8の整数である。
Zはカップリング剤残基を表す。ここで、カップリング残基とは、重合体ブロックA’と重合体ブロック(B2)を、重合体ブロックA’-重合体ブロックA’間、重合体ブロック(B2)-重合体ブロック(B2)間、又は重合体ブロックA’-重合体ブロック(B2)間において結合させるために用いられるカップリング剤の結合後の残基を意味する。
カップリング剤としては、以下に限定されないが、例えば、後述するポリハロゲン化合物や酸エステル類等が挙げられる。
重合体ブロックA’がビニル芳香族化合物と他の単量体単位との共重合体である場合には、重合体ブロックA’中のビニル芳香族化合物は、均一に分布していてもテーパー状に分布していてもよく、また、均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。さらに、前記重合体ブロックA’には、ビニル芳香族化合物の含有量が異なる部分が複数個共存していてもよい。
また、重合体ブロック(B2)中のビニル芳香族化合物は均一に分布していても、テーパー状に分布していてもよい。さらに、ビニル芳香族化合物は均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数個存在していてもよい。さらに、上記重合体ブロック(B2)には、ビニル芳香族化合物の含有量が異なる部分が複数個共存していてもよい。
水添共重合体(b1)中の全ビニル芳香族化合物の含有量は10質量%~50質量%であることが好ましく、より好ましくは13~45質量%であり、さらに好ましくは15~40質量%である。
また、水添共重合体(b1)中の共役ジエン化合物の含有量は好ましくは50質量%~90質量%であり、より好ましくは55~87質量%であり、さらに好ましくは60~85質量%である。
水添共重合体(b1)中の全ビニル芳香族化合物の含有量が10質量%以上であれば、得られる樹脂組成物が耐摩耗性に優れる。全ビニル芳香族化合物の含有量が50質量%以下であれば、本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物が低温機械特性に優れる。なお、全ビニル芳香族化合物の含有量は、後述する実施例記載の方法で紫外線分光光度計を用いて262nmの吸収強度より算出することが可能である。
水添共重合体(b1)中の水添重合体ブロック(B2)におけるビニル芳香族化合物の含有量は5~40質量%である。含有量の上限はより好ましくは37質量%であり、さらに好ましくは35質量%である。含有量の下限は好ましくは7質量%であり、より好ましくは10質量%であり、さらに好ましくは12質量%である。
水添共重合体(b1)中のビニル芳香族化合物の含有量が5質量%以上であれば、本実施形態の水添共重合体とポリプリピレン樹脂やゴム状重合体との樹脂組成物の耐摩耗性に優れる、という効果が得られる。ビニル芳香族化合物の含有量が40質量%以下であれば、樹脂組成物の低温機械特性が優れる、という効果が得られる。なお、ビニル芳香族化合物の含有量は、重合時のビニル芳香族化合物のフィード量により、上記数値範囲に調整することができ、核磁気共鳴装置(NMR)により測定できる。
水添共重合体(b1)において、前記ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA’の含有量は、水添共重合体(b1)の質量に対して、3質量%~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5質量%~35質量%、さらに好ましくは7質量%~30質量%である。
水添共重合体(b1)中の重合体ブロックA’の含有量が3質量%以上であれば、得られるポリプロピレン樹脂組成物のCS(圧縮永久歪み(C-set))及び低べたつきに優れる傾向にある。ブロック重合体A’の含有量が40質量%以下であれば、得られるポリプロピレン樹脂組成物の加工性に優れる傾向にある。なお、重合体ブロックA’の含有量は、単量体の添加量によって調整することができる。
水添共重合体(b1)における重合体ブロックA’の含有量は、水添前の共重合体(b1’)を四酸化オスミウムを触媒として、t-ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)(以下、四酸化オスミウム分解法と称する。)で求めたビニル芳香族化合物を主体とする重合体の質量(ただし、平均重合度が約30以下のビニル芳香族化合物は除かれている)を用いて算出することができる。
また、水添共重合体(b1)における重合体ブロックA’の含有量は、水素添加後の共重合体(水添共重合体(b1))を用いて、Y.Tanaka,et al.,RUBBER CHEMISTRY and TECHNOLOGY 54,685(1981)に記載の方法で、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
NMR法を、ビニル芳香族化合物をスチレン、共役ジエン化合物を1,3-ブタジエンとした場合を例に挙げて具体的に説明する。
水添共重合体(b1)30mgを重水素化クロロホルム1gに溶解した試料を用いて1H-NMRを測定し、重合体ブロックA’(この場合、ポリスチレンブロックとなる)の含有量(Ns値)を全積算値に対する化学シフト6.9ppm~6.3ppmの積算値の比率から求めた。
ブロックスチレン強度(b-St強度)
=(6.9ppm~6.3ppmの積算値)/2
ランダムスチレン強度(r-St強度)
=(7.5ppm~6.9ppmの積算値)-3×(b-St)
エチレン・ブチレン強度(EB強度)
=全積算値-3×{(b-St強度)+(r-St強度)}/8
NMR法で得られるポリスチレンブロック含有量(Ns値)
=104×(b-St強度)
/[104×{(b-St強度)+(r-St強度)}+56×(EB強度)]
ここで、四酸化オスミウム分解法で測定した水素添加前の共重合体(b1’)中のブロック重合体A’の含有量(「Os値」と称する)とNMR法により測定した水素添加後の水添共重合体(b1)中のブロック重合体A’の含有量(「Ns値」と称する。)の間には下記式で表される相関関係がある。
Os値=-0.012(Ns値)2+1.8(Ns値)-13.0
水添共重合体(b1)における共役ジエン化合物中の水添前のビニル結合量は、50mol%~95mol%が好ましく、より好ましくは55mol~90mol%であり、さらに好ましくは60mol~85mol%である。
水添共重合体(b1)の水添前のビニル結合量が50mol%以上であると本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物において、水添共重合体とポリプロピレン樹脂との相溶性に優れたものとなる。
水添前のビニル結合部分は、水添後は主鎖に結合したエチレンになるが、この構造が主鎖に側鎖としてメチルが結合したポリプロピレンに近いために、水添前のビニル結合量が多いほど両者の相溶性が増し、SP値(溶解度パラメーター)が近づくと考えられる。
前記水添前のビニル結合量が95mol%以下であれば、本実施形態の水添共重合体を用いたポリプロピレン樹脂組成物の低べたつき性と加工性に優れる傾向にある。
なお、本実施形態において、ビニル結合量とは、全共役ジエンに対する、1,2-ビニル結合量(1,2-結合で重合体に組み込まれている共役ジエン)と3,4-ビニル結合量(3,4-結合で重合体に組み込まれている共役ジエン)の合計含有量(ここで、共役ジエンとして1,3-ブタジエンを使用した場合には、1,2-ビニル結合含有量、共役ジエンとしてイソプレンを使用した場合には、3,4-ビニル結合含有量)をいう。
水素添加前の共役ジエンに基づくビニル結合含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。水添共重合体(b1)中の共役ジエン化合物単量体単位に由来するミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、後述する極性化合物等の使用により任意に変えることができる。
(水添共重合体(b2))
本実施形態の水添共重合体(X)は、水添共重合体(b2)を含有する。
水添共重合体(b2)は、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを有する。
本実施形態において、水添ブロック共重合体(b2)中の、全芳香族ビニル化合物の含有量は、2~30質量%であることが好ましい。水添ブロック共重合体(b2)における全芳香族ビニル化合物の含有量は、得られる樹脂組成物の低ベタツキ性の観点から、2質量%以上であることが好ましい。一方、得られる樹脂組成物の低温機械特性及び加工性の観点から、30質量%以下であることが好ましい。上記同様の観点から、水添ブロック共重合体(b2)における全芳香族ビニル化合物単位の含有量は、3~25質量%であることがより好ましく、4~22質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらにより好ましい。
水添ブロック共重合体(b2)中の、全芳香族ビニル化合物単位の含有量は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法より測定できる。詳細は後述する実施例に記載する。
本実施形態において、水添ブロック共重合体(b2)の水添前のビニル結合量が40モル%を超えていることが重要である。水添ブロック共重合体(b2)の水素添加前に含まれる全共役ジエン化合物単位中のビニル結合量は、得られる樹脂組成物の低温機械特性及び加工性をより良好なものとする観点から、45モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更により好ましい。生産性の観点から、上限値としては99モル%以下が好ましく、95モル%以下がさらに好ましい。
ここで、ビニル結合量とは、水添前の共役ジエンの1,2-結合、3,4-結合、及び1,4-結合の結合様式で組み込まれているうち、1,2-結合及び3,4-結合で組み込まれているものの割合とする。水素添加前に含まれる全共役ジエン単位中のビニル結合量は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法により測定できる。
水添ブロック共重合体(b2)の構造は、例えば線状、分岐状、放射状、櫛形状などいかなる形態をとっても構わないが、所望する物性等に応じて好適な構造とすることができる。
水添共重合体(b2)は、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックCと共役ジエン化合物からなる重合体ブロックDとが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、櫛形状又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。例えば、C-Dで示されるジブロック共重合体、C-D-Cで示されるトリブロック共重合体、C-D-C-Dで示されるテトラブロック共重合体、C-D-C-D-Cで示されるペンタブロック共重合体、(C-D)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。ブロックDにおける水添前のビニル結合量は40mol%以上であることが好ましく、より好ましくは60mol%以上である。水添前のビニル結合量の上限は、例えば、95mol%、90mol%、85mol%等としてもよい。
また、水添ブロック共重合体(b2)には、本発明の目的を損なわない範囲内で、重合体ブロックC及び重合体ブロックD以外の、他の重合性単量体からなる重合体ブロックが存在していてもよい。
本実施形態で使用される水添共重合体(b2)は、水素添加前の1,2-結合量と3,4-結合量との合計が5~30%であり、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックEをさらに有していてもよい。水添共重合体(b2)が、重合体ブロックEをさらに含むことにより、樹脂組成物の低温機械特性、低ベタツキ性がより向上する傾向にある。なお、水添共重合体(b2)における重合体ブロックEの含有量は2~30質量%であることが好ましく、3~25質量%がより好ましく、4~20質量%がさらに好ましい。重合体ブロックEの含有量が上記範囲内であることにより、得られる樹脂組成物の低温機械特性、ポリプロピレンとの相溶性が向上する傾向にある。
本実施形態で使用される水添共重合体(b2)は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のランダムからなる重合体ブロックFをさらに有していてもよい。水添共重合体(b2)が、重合体ブロックFをさらに含むことにより、樹脂組成物の耐傷つき性、耐摩耗性、低ベタツキ性がより向上する傾向にある。なお、水添共重合体(b2)における重合体ブロックFの含有量は2~80質量%であることが好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。重合体ブロックFの含有量が上記範囲内であることにより、得られる樹脂組成物の耐傷つき性、耐摩耗性、低ベタツキ性が向上する傾向にある。
(tanδ)
前記水添共重合体(X)は、tanδピーク温度が0℃以上(好ましくは0℃以上50℃以下)かつtanδ高さが1.0以上(好ましくは1.0以上5.0以下)のピークを少なくとも1つ(好ましくは1~3つ)有し、かつ、tanδピーク温度が0℃未満(好ましくは-50℃以上0℃未満)かつtanδピーク高さが0.2未満(好ましくは0.01以上0.2未満)のピークを少なくとも2つ(好ましくは2~5つ)有する。
tanδピーク高さには、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)、および水添共重合体(b2)それぞれが元々有しているtanδピーク高さの影響もあるものの、水添共重合体(X)のtanδピークとしては、混合した質量比の影響が支配的である。そのため、tanδピーク高さは、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)、および水添共重合体(b2)の含有量の質量比(a)/{(b1)+(b2)}で制御できる。得られる樹脂組成物の耐摩耗性、低温特性および各種性能バランスの観点から、45/55~95/5であり、50/50~93/7が好ましく、55/45~90/10がさらに好ましく、60/40~88/12がよりさらに好ましい。
水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)は、各々別々の重合器で得られた水添共重合体ペレットを所定の質量比となるようにブレンドしてもよいし、所定の質量比となるように調整した重合溶液のブレンドを脱溶剤し、単一のペレットとして成形してもよい。
tanδピーク温度およびtanδピーク高さは、使用する水添共重合体の種類により制御できる。
水添共重合体(a)は、粘弾性測定(1Hz)において、0℃以上(好ましくは0℃以上50℃以下)にtanδピークを1個以上有し、0℃未満にピークを有さないことが好ましい。0℃以上のtanδピークの数は、好ましくは1~3個であり、より好ましくは1~2個である。
水添共重合体(b1)は、粘弾性測定(1Hz)において-25℃以上0℃未満にtanδピークを1個以上有し、0℃以上及び-25℃未満にピークを有さないことが好ましい。-25℃以上0℃未満のtanδピークの数は、好ましくは1~5個であり、より好ましくは1~3個である。
水添共重合体(b2)は、粘弾性測定(1Hz)において-25℃未満(好ましくは-50℃以上-25℃未満)にtanδピークを1個以上有し、-25℃以上にピークを有さないことが好ましい。-25℃未満のtanδピークの数は、好ましくは1~5個であり、より好ましくは1~3個である。
各重合体が所定の温度域にピークを有するように各水添共重合体のブロック構造を設定した上で、ビニル結合量や水添率などを調整するのはピーク温度を制御する容易さの観点で好ましい態様である。具体的には水添共重合体(a)及び水添共重合体(b1)についてはランダムブロックのピークがこの温度域に存在し易く、水添共重合体(b2)については共役ジエンブロックのピークがこの温度域に存在し易いので、それぞれこれらのブロックに着目してピーク温度を設定するのが好ましい。
これにより、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び、水添共重合体(b2)とは、明確に区別できる。ただし、(a)と(b1)、(b1)と(b2)のピーク温度が近すぎると、2つのピークが合成されて1つに見えてしまうので、混合後もそれぞれのピークトップが観察される程度に離れた位置にピークを示すよう水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び、水添共重合体(b2)のピーク温度を設定するのが好ましい。
水添共重合体のtanδピーク温度およびtanδピーク高さは、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックおよび/または共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックのランダム共重合体ブロック中の芳香族ビニル化合物の含有量や、水添前のビニル結合量、水添率を調整することにより制御することができる。
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物からなるランダム共重合体ブロック中の芳香族ビニル化合物の含有量は、水添共重合体の製造工程における各単量体の添加量を調整することにより制御することができる。ランダム共重合体中の芳香族ビニル化合物の含有量が増加することによりtanδピーク温度は上がる傾向にあり、減少することにより下がる傾向にある。ランダム共重合体中の芳香族ビニル化合物の含有量が増加することによりtanδピーク高さは下がる傾向にあり、減少することにより上がる傾向にある。
水添前の共重合体のビニル結合量は、ルイス塩基、例えばエーテル、アミン等のビニル化剤を使用することや、その使用量、重合温度を調整することにより制御できる。水添前のビニル結合量が50%以上の場合、水添前のビニル結合量が増加することによってtanδピーク温度が上がる傾向にあり、減少することにより下がる傾向にある。tanδピーク高さは、ビニル結合量の分布が生じることにより、下がる傾向にある。ビニル結合量の分布は、重合温度の不安定さから生じる。
水添率は、例えば、水添時の触媒量や水素フィード量を調整することにより制御することができる。水添率が増加することによりtanδピーク温度が下がる傾向にあり、減少することにより上がる傾向にある。tanδピーク高さは、水添率の分布が生じることにより、下がる傾向にある。水添率の分布は、水添反応温度の不安定さから生じる。
(水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)の製造方法)
水添共重合体(a)及び水添共重合体(b)の製造方法としては、以下に限定されないが、例えば、特公昭36-19286号公報、特公昭43-17979号公報、特公昭46-32415号公報、特公昭49-36957号公報、特公昭48-2423号公報、特公昭48-4106号公報、特公昭51-49567号公報、特開昭59-166518号公報、等に記載された方法が挙げられる。
水素添加前の共重合体は、以下に限定されないが、例えば、炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の重合開始剤を用いて、所定の単量体を用い、リビングアニオン重合を行う方法等により得られる。
炭化水素溶媒としては、特に限定されず、例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
重合開始剤としては、一般的に、共役ジエン化合物及びビニル芳香族化合物に対しアニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物を用いることができる。
例えば、炭素数1~20の脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、炭素数1~20の芳香族炭化水素アルカリ金属化合物、炭素数1~20の有機アミノアルカリ金属化合物等が挙げられる。
重合開始剤に含まれるアルカリ金属としては、以下に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
なお、アルカリ金属は、1分子中に1種、又は2種以上含まれていてもよい。
重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、n-ペンチルリチウム、n-ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、トリルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec-ブチルリチウムの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec-ブチルリチウムと少量の1,3-ブタジエンの反応生成物等が挙げられる。
さらにまた、米国特許5,708,092号明細書に開示されている1-(t-ブトキシ)プロピルリチウム及びその溶解性改善のために1~数分子のイソプレンモノマーを挿入したリチウム化合物、英国特許2,241,239号明細書に開示されている1-(t-ブチルジメチルシロキシ)ヘキシルリチウム等のシロキシ基含有アルキルリチウム、米国特許5,527,753号明細書に開示されているアミノ基含有アルキルリチウム、ジイソプロピルアミドリチウム及びヘキサメチルジシラジドリチウム等のアミノリチウム類も使用することができる。
重合開始剤としてのリチウム化合物の使用量は、目的とするブロック共重合体の分子量によるが、一般的には0.01~0.5phm(単量体100質量部当たりに対する質量部)を用いることができる。重合開始剤としてのリチウム化合物の使用量は、好ましくは0.03~0.3phmであり、より好ましくは0.05~0.15phmである。
有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物を共重合する際に、共重合体に組み込まれる共役ジエン化合物に起因するビニル結合(1,2-結合又は3,4-結合)の含有量の調整や、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合性を調整するために、ビニル結合量調整剤として第3級アミン化合物やエーテル化合物を添加することができる。
第3級アミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記式で示される化合物が挙げられる。
R1R2R3N
(式中、R1、R2、及びR3は、炭素数1~20の炭化水素基又は第3級アミノ基を有する炭化水素基である。)
このような化合物としては、以下に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N-エチルピペリジン、N-メチルピロリジン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラエチルエチレンジアミン、1,2-ジピペリジノエタン、トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルエチレントリアミン、N,N'-ジオクチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの中でもN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンが好ましい。
また、エーテル化合物としては、直鎖状エーテル化合物や環状エーテル化合物等を用いることができる。
直鎖状エーテル化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールのジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールのジアルキルエーテル化合物等が挙げられる。
また、環状エーテル化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、2,5-ジメチルオキソラン、2,2,5,5-テトラメチルオキソラン、2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパン、フルフリルアルコールのアルキルエーテル等が挙げられる。
第3級アミン化合物又はエーテル化合物の使用量は、前記有機アルカリ金属化合物の重合開始剤に対し、好ましくは0.1~4(モル/アルカリ金属1モル)、より好ましくは0.2~3(モル/アルカリ金属1モル)である。
水添共重合体(a)、(b1)及び(b2)の製造工程において、共重合を行う際に、ナトリウムアルコキシドを共存させてもよい。
ナトリウムアルコキシドは、以下に限定されないが、例えば、下記式で示される化合物である。特に、炭素原子数3~6のアルキル基を有するナトリウムアルコキシドが好ましく、ナトリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ペントキシドがより好ましい。
NaOR
(式中、Rは炭素原子数2~12のアルキル基である)
水添共重合体(a)、(b1)及び(b2)の重合工程におけるナトリウムアルコキシドの使用量は、ビニル結合量調整剤(第3級アミン化合物又はエーテル化合物)に対し、好ましくは0.01以上0.1未満(モル比)であり、より好ましくは0.01以上0.08未満(モル比)、さらに好ましくは0.03以上0.08未満(モル比)、さらにより好ましくは0.04以上0.06未満(モル比)である。
ナトリウムアルコキシドの量がこの範囲にあると、ビニル結合量が高い共役ジエン化合物を含む共重合体ブロックと、分子量分布が狭いビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを有し、かつ分子量分布が狭く、高い強度を有する共重合体を高生産率で製造できる傾向にある。
有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物を共重合する方法は、特に限定されず、バッチ重合であっても連続重合であっても、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
重合温度は、特に限定されないが、通常は0~180℃であり、好ましくは30~150℃である。
重合に要する時間は条件によって異なるが、通常は48時間以内であり、好ましくは0.1~10時間である。
また、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合圧力は、上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されるものではない。
さらに、重合終了時に2官能基以上のカップリング剤を必要量添加してカップリング反応を行ってもよい。
2官能基以上のカップリング剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
2官能基カップリング剤としては、以下に限定されないが、例えば、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン等のジハロゲン化合物、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸エステル類等の酸エステル類等が挙げられる。
3官能基以上の多官能カップリング剤としては、以下に限定されないが、例えば、3価以上のポリアルコール類、エポキシ化大豆油、ジグリシジルビスフェノールA等の多価エポキシ化合物、式R1(4-n)SiXn(ここで、R1は炭素数1~20の炭化水素基、Xはハロゲン、nは3又は4の整数を表す)で表されるハロゲン化珪素化合物、及びハロゲン化錫化合物が挙げられる。
ハロゲン化珪素化合物としては、以下に限定されないが、例えば、メチルシリルトリクロリド、t-ブチルシリルトリクロリド、四塩化珪素、及びこれらの臭素化物等が挙げられる。
ハロゲン化錫化合物としては、以下に限定されないが、例えば、メチル錫トリクロリド、t-ブチル錫トリクロリド、四塩化錫等の多価ハロゲン化合物等が挙げられる。また、炭酸ジメチルや炭酸ジエチル等も使用可能である。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)は、上述のような方法で得たブロック共重合体のリビング末端に、官能基含有原子団を生成する変性剤を付加反応させたものであってもよい。
官能基含有原子団としては、以下に限定されないが、例えば、水酸基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、カルボキシル基、チオカルボキシル酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、シラノール基、アルコキシケイ素基、ハロゲン化スズ基、アルコキシスズ基及びフェニルスズ基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1種含有する原子団等が挙げられる。
官能基含有原子団を有する変性剤としては、以下に限定されないが、例えば、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、4-メトキシベンゾフェノン、γ-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルフェノキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルプロポキシシラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、N,N'-ジメチルプロピレンウレア、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
変性剤の付加量は、変性前の水添共重合体100質量部に対し、0.01~20質量部が好ましく、より好ましくは0.1~15質量部、さらに好ましくは0.3~10質量部である。
変性剤の付加反応温度は、好ましくは0~150℃、より好ましくは20~120℃である。
変性反応に要する時間は、変性反応条件によって異なるが、好ましくは24時間以内であり、より好ましくは0.1~10時間である。
水添共重合体(a)、(b1)及び(b2)を製造するために用いられる水添触媒としては、特に限定されず、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報、特公平1-53851号公報、特公平2-9041号公報等に記載された水添触媒を使用することができる。
好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物及び/又は還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
チタノセン化合物としては、特に限定されないが、例えば、特開平8-109219号公報に記載された化合物等が挙げられ、具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル構造、インデニル構造、及びフルオレニル構造を有する配位子を少なくとも1つ以上持つ化合物等が挙げられる。
還元性有機金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
水添反応の反応温度は、通常0~200℃、好ましくは30~150℃である。
水添反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.1~15MPa、より好ましくは0.2~10MPa、さらに好ましくは0.3~5MPaである。
水添反応の反応時間は、通常3分~10時間、好ましくは10分~5時間である。
なお、水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、あるいはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
水添反応終了後の反応溶液から、必要に応じて触媒残査を除去してもよい。
水添共重合体と溶媒を分離する方法としては、以下に限定されないが、例えば、水添共重合体の溶液に、アセトン又はアルコール等の水添共重合体に対して貧溶媒となる極性溶媒を加えて、水添共重合体を沈澱させて回収する方法、あるいは、水添共重合体の溶液を撹拌下熱湯中に投入し、スチームストリッピングにより溶媒を除去して回収する方法、水添共重合体の溶液を直接加熱することによって溶媒を留去する方法等が挙げられる。
水添共重合体(a)、(b1)及び(b2)中の共役ジエン化合物に由来する脂肪族二重結合の水素添加率(水添率ともいう)は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
水素添加率が70%以上であれば、本実施形態の水添共重合体の熱劣化(酸化劣化)を抑制することができるため、本実施形態の水添共重合体を含有する熱可塑性エラストマー組成物の熱劣化(酸化劣化)による機械的強度等性能の低下を抑制することができる。
また、水素添加率が80%以上であれば、より優れた耐候性を得ることができる。水素添加率の上限値は特にないが、100%以下であることが好ましく、99%以下であることが好ましい。
ここでの水素添加率は、水添共重合体の水添前の共役ジエン化合物単量体単位に基づく脂肪族二重結合のうち、水素添加された脂肪族二重結合の割合をいう。
水素添加率は、例えば、水素添加時の触媒量によって制御することができ、水素添加速度は、例えば、水素添加時の触媒量、水素フィード量、圧力及び温度等によって制御することができる。
水添共重合体中のビニル芳香族化合物に基づく(芳香族)二重結合の水素添加率については特に限定されず、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。ここで、芳香族二重結合の水素添加率とは、水素添加する前の芳香族二重結合のうち、水素添加された二重結合の割合をいう。
なお、水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
本実施形態の水添共重合体には、例えば、製造中に酸化防止剤を添加するなどして、その表面及び/又は内部に酸化防止剤を含ませてもよい。
なお、後述する本実施形態の樹脂組成物にも下記の酸化防止剤を添加してもよい。
酸化防止剤としては、以下に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)プロピオネート、テトラキス-〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン]、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムとポリエチレンワックス(50%)の混合物、オクチル化ジフェニルアミン、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ブチル酸,3,3-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチレンエステル、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニル-アクリレート、及び2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)-エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)は、ペレット化してもよい。
ペレット化の方法としては、例えば、一軸又は二軸押出機から水添共重合体(a)、(b1)および(b2)をストランド状に押出して、ダイ部前面に設置された回転刃により、水中で切断する方法;一軸又は二軸押出機から水添共重合体をストランド状に押出して、水冷又は空冷した後、ストランドカッターにより切断する方法;オープンロール、バンバリーミキサーにより溶融混合した後、ロールによりシート状に成形し、さらに当該シートを短冊状にカットした後に、ペレタイザーにより立方状ペレットに切断する方法等が挙げられる。
なお、水添共重合体(a)、(b1)および(b2)のペレットの大きさ、形状は特に限定されない。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)は、必要に応じて前記ペレットに、ペレットブロッキングの防止を目的としてペレットブロッキング防止剤を配合してもよい。
ペレットブロッキング防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビスステアリルアミド、タルク、アモルファスシリカ等が挙げられる。
ペレットブロッキング防止剤の好ましい配合量としては、水添共重合体(a)、(b1)および(b2)に対して500~6000ppmであり、より好ましい量としては、1000~5000ppmである。ペレットブロッキング防止剤は、ペレット表面に付着した状態で配合されていることが好ましいが、ペレット内部にある程度含むこともできる。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の重量平均分子量は、50,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは80,000~450,000、さらに好ましくは100,000~400,000である。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の重量平均分子量が50,000以上であれば、ペレットの取り扱い性(耐ブロッキング性)が良好となる傾向にある。水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の重量平均分子量が500,000以下であれば、十分な流動性と成形加工性が得られる傾向にある。
水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.01~8.0、より好ましくは1.01~6.0、さらに好ましくは1.01~5.0である。分子量分布が上記範囲内にあれば、より良好な成形加工性が得られる傾向にある。
なお、GPCにより測定した水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の分子量分布の形状は特に限定されず、ピークが二ヶ所以上存在するポリモーダルの分子量分布を持つものでもよいし、ピークが一つであるモノモーダルの分子量分布を持つものでもよい。
なお、水添共重合体(a)、(b1)および(b2)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布〔Mw/Mn;重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比〕は、後述する実施例に記載の方法でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したクロマトグラムのピークの分子量を、市販の標準ポリスチレンの測定から求めた検量線(標準ポリスチレンのピーク分子量を使用して作成)を使用して求めることができる。
水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)のメルトフローレート(MFR;ISO 1133に準拠)は、0.01~100g/10分未満の範囲にあることが好ましく、0.1~80g/10分以下であることがより好ましく、1.0~50g/10分以下であることが更に好ましい。0.01g/10分以上の場合、得られる樹脂組成物の流動性を十分に確保できる傾向にあり、100g/10分以下の場合、得られる樹脂組成物及びシート状成型体の低ベタツキ性を十分に確保できる傾向にある。
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、上述した水添共重合体(a)、(b1)および(b2)を含有する本実施形態の水添共重合体(X)と、ポリプロピレン樹脂(c)を含有する。
(ポリプロピレン樹脂(c))
ポリプロピレン樹脂(c)としては、ホモポリプロピレンの他、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンも使用できる。
ここで、ランダムポリプロピレンにおける「ランダム」とは、プロピレンとプロピレン以外のモノマーを共重合したもので、プロピレン以外のモノマーがプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれ、実質的にプロピレン以外のモノマーが連鎖しないものをいう。
ランダムポリプロピレンとしては、プロピレン単位の含有量が99質量%未満であれば特に限定されない。
ランダムポリプロピレンとしては、例えば、プロピレンとエチレンのランダム共重合体又はプロピレンと炭素数4~20のα-オレフィンのランダム共重合体などが挙げられる。
α-オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。好ましくは、炭素数2~8のα-オレフィンであり、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。
これらのα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンも1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態の樹脂組成物において、水添共重合体(a)の含有量と、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)の含有量の質量比(a)/{(b1)+(b2)}は、45/55~95/5であることが好ましく、ポリプロピレン樹脂(c)を含有する樹脂組成物の耐摩耗性、低温機械特性、さらに特性バランスの観点から、{(a)+(b1)+(b2)}/(c)=5/95~95/5であることがより好ましく、樹脂組成物の低べたつき性、加工性の観点から10/90~90/10であることがさらに好ましく、15/85~85/15であることがさらにより好ましい。得られる樹脂組成物の低べたつき性の観点から、水添共重合体(a)は95質量%以下が好ましく、加工性の観点から、水添共重合体(b1)+(b2)は95質量%以下が好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、要求される性能に応じて、その他の添加剤を併用してもよい。添加剤としては、特に限定されず、例えば、滑剤、難燃剤、安定剤、着色剤、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、流れ増強剤、ステアリン酸金属塩といった離型剤、シリコーンオイル、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤、銅害防止剤、架橋剤、核剤等が挙げられる。
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物の製造方法としては、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)、水添共重合体(b2)及びポリプロピレン樹脂、さらに必要に応じて他の成分を、その各成分の特性に応じた配合量でドライブレンドする方法、通常の高分子材料の混合に供される装置によって調製する方法が挙げられる。
それら混合装置としては、以下に限定されないが、例えば、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、単軸押出機、2軸押出機等の混練装置が挙げられ、押出機による溶融混合法が、生産性、良混練性の観点から好ましい。混練時の溶融温度は、適宜設定することができるが、通常130~300℃の範囲内であり、150~250℃の範囲であることが好ましい。
〔樹脂組成物の成形体〕
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態の樹脂組成物の成形体である。
成形体としては、射出成型板、押出シート状成形体(シート、フィルム)、チューブ、バック、医療用成形体、例えば医療用チューブ、医療用フィルム、自動車部材、例えば自動車内装表皮材、医療用輸液バック、並びに包装材、例えば食品包装材、及び衣料包装材等が挙げられるが、本実施形態の成形体は、上記に限定されるものではない。
本実施形態の成形体は、以下に述べる方法により成形することができる。本実施形態の樹脂組成物は、熱により軟化又は溶融させることで成形できる。例えば、圧縮成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、中空成形、シート成形、回転成形、ラミネート成形、カレンダー成形、真空成形、加熱成形、及び押出成形といった、従来の成形方法を用いて成形することができる。
これらの成形技法は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、生産性の観点から、射出成形が好ましい。
一方、例えばチューブの成形方法としては、特に限定されないが、例えば、本実施形態の樹脂組成物を押出機に投入して溶融し、これをダイに通して管状にし、水冷又は空冷してチューブとする方法が挙げられる。
押出機としては単軸又は多軸の押出機を使用することができ、また複数台の押出機を使用して多層押出した多層チューブを成形することもできる。また、ポリプロピレン樹脂(c)を用いた樹脂組成物を製造する際の押出機から直接チューブとして成形することもできる。
成形体であるチューブは、本実施形態の目的を阻害しない範囲で他のポリマーを積層して多層チューブとしてもよい。上記の他のポリマーは、1種単独で用いてもよく又は2種以上を組み合わせて、単層又は層毎に種類が異なっていてもよい多層で積層して用いることができる。
上記多層構造であるチューブの上記他のポリマーからなる層は、付与する所望の性能により、最内層、中間層、最外層のいずれにあってもよい。
本実施形態では、さらに、肉厚の増加を抑えて柔軟性を維持した上で耐圧性等を向上するために、編組補強糸や螺旋補強体を巻き付けて耐圧チューブ(ホース)とすることができる。
編組補強糸は、厚み方向での内部又は層間に設けられ、ビニロン、ポリアミド、ポリエステル、アラミド繊維、炭素繊維、金属ワイヤー等を用いることができ、螺旋補強体は外周に設けられ、金属、プラスチック等を用いることができる。
シート状成形体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を押出機に投入して押出す成形法として、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられる。
インフレーション成形としては、通常の空冷インフレーション成形、空冷2段インフレーション成形、高速インフレーション成形、水冷インフレーション成形等を採用できる。
また、ダイレクトブロー、インジェクションブロー等のブロー成形法、プレス成形法を採用することもできる。用いる押出機としては、単軸又は多軸の押出機を使用することができ、また複数台の押出機を使用して多層押出した多層シートを成形することもできる。
また、樹脂組成物を製造する際の押出機から直接シートとして成形することもできる。
シート状成形体は、単層シートとしてもよいが、本実施形態の主旨を損なわない範囲で他のポリマーを積層して多層シートとしてもよい。かかる他のポリマーとしては、以下に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合ゴム(EPM)及びエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)等のオレフィン系重合体;ポリエステルエラストマー、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂;ポリアクリル酸メチル及びポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー及びポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;スチレン単独重合体、アクリロニトリル-スチレン樹脂、及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂等のスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、及びスチレン-イソプレン共重合体ゴム等のスチレン系エラストマー並びにその水素添加物又はその変性物;天然ゴム;合成イソプレンゴム及び液状ポリイソプレンゴム並びにその水素添加物又は変性物;クロロプレンゴム;アクリルゴム;ブチルゴム;アクリロニトリル-ブタジエンゴム;エピクロロヒドリンゴム;シリコーンゴム;フッ素ゴム;クロロスルホン化ポリエチレン;ウレタンゴム;ポリウレタン系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;軟質塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらの他のポリマーの1種又は2種以上のブレンドを、単層又は層毎に種類が異なっている多層で積層して用いてもよい。
他のポリマーとの積層化にあっては、多層Tダイ法、多層インフレーション法及び押出しラミネーション法等の共押出し成形法、ウエットラミネーション、ドライラミネーション及びプレス成形等の一般的な多層シート又はフィルム成形法、コインジェクションブロー等の多層インジェクションブロー並びに多層ダイレクトブロー等のブロー成形法を採用することができる。
また成形された多層積層体は、未延伸のままであってもよく、あるいは一軸又は二軸延伸してもよい。
前記バックは、前記シート状成形体から成形することができる袋状の成形体をいう。バックとしては、食品包装用バック、衣類包装用バック、医療用バック、例えば医療用輸液バック、薬品包装用バック等が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物は、後述の実施例で示すとおり、耐摩耗性、低温機械特性及び各特性のバランスに優れており、特に用途を限定せずに用いることができる。この特性を活かして、各種衣料類の包装、各種食品の包装、日用雑貨包装、工業資材包装、各種ゴム製品、樹脂製品、皮革製品等のラミネート、紙おむつ等に用いられる伸縮テープ、ダイシングフィルム等の工業用品、建材や鋼板の保護に用いられる粘着保護フィルム、粘着フィルムの基材、食肉鮮魚用トレー、青果物パック、冷凍食品容器等のシート用品、テレビ、ステレオ、掃除機等の家電用品用途、バンパー部品、ボディーパネル、サイドシール、内装(インパネ、ドアトリム、エアバッグカバー等)表皮材等の自動車内外装部品用途材料、道路舗装材、防水材料、遮水シート、土木パッキン、日用品、レジャー用品、玩具、工業用品、ファニチャー用品、筆記用具、透明ポケット、ホルダー、ファイル背表紙等の文具、輸液バック等の医療用具等の幅広い用途に好適に用いることができる。
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
上述した水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)、(b2)を含む本実施形態の水添共重合体(X)は、ゴム状重合体を組み合わせることによって、耐摩耗性と低温機械特性及び各種性能バランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られる。熱可塑性エラストマー組成物としては、典型的には高分子量SEBS/PP/オイルを基本配合として、中分子量成分として本実施形態の水添共重合体を配合したものである。
ゴム状重合体は、ビニル芳香族化合物を含むものであり、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個含むものであることが好ましく、また、ビニル芳香族化合物を含み、ビニル芳香族化合物が60質量%以下のゴム又はエラストマーも好ましい。具体的には、スチレンブタジエンゴム及びその水素添加物(ただし、本実施形態の水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)は除く)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン-ブタジエン・イソプレンブロック共重合体及びその水素添加物等が挙げられる。ゴム状重合体の重量平均分子量は、1万~150万であることが好ましく、より好ましくは2万~100万、さらに好ましくは3万~80万である。ゴム状重合体の重量平均分子量が1万以上であれば、十分な機械的強度が得られる傾向にあり、重量平均分子量が150万以下であれば、成形加工性が良好となる傾向にある。
上述した水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)、熱可塑性樹脂及び/又はゴム状重合体を混合することにより、耐摩耗性、低温機械特性及び各種性能バランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。熱可塑性樹脂とゴム状重合体は、両方を含有してもよいし、どちらか一方のみを含有してもよい。
熱可塑性エラストマー組成物に含まれる水添共重合体(a)及び水添共重合体(b1)、水添共重合体(b)の質量和と、熱可塑性樹脂及びゴム状重合体の合計質量(熱可塑性樹脂とゴム状重合体のいずれか一方のみが含有される場合は、その含有される方の質量)との比は、〔(a)+(b1)+(b2)〕/(熱可塑性樹脂組成物及びゴム状重合体の合計)=20/80~100/0であることが好ましく、より好ましくは25/75~95/5、さらに好ましくは30/70~90/10である。
水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)の質量和の含有量が上記範囲であれば、熱可塑性エラストマー組成物は、耐摩耗性、低温機械特性及び各種性能バランスに優れる。
また、熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂とゴム状重合体の両方を含む場合、熱可塑性樹脂/ゴム状重合体の質量比は95/5~5/95であることが好ましく、より好ましくは、80/20~20/80、さらに好ましくは70/30~30/70である。
熱可塑性エラストマー組成物は、軟化剤を含有していてもよい。
軟化剤としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、パラフィンワックス、流動パラフィン、ホワイトミネラルオイル、植物系軟化剤等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性エラストマー組成物や成形体の低温特性や耐ブリード性等の観点から、パラフィン系オイル、流動パラフィン、ホワイトミネラルオイルがより好ましい。軟化剤の40℃における動粘度は、好ましくは500mm2/秒以下である。軟化剤の40℃における動粘度の下限値は特に限定されないが、10mm2/秒であることが好ましい。軟化剤の40℃における動粘度が500mm2/秒以下であれば、熱可塑性エラストマー組成物の流動性がより向上し、成形加工性がより向上する傾向にある。軟化剤の動粘度は、ガラス製毛管式粘度計を用いて試験する方法等によって測定することができる。熱可塑性エラストマー組成物において、軟化剤の配合量は、本実施形態の水添共重合体、熱可塑性樹脂及びゴム状重合体の合計量100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、より好ましくは10~80質量部、さらに好ましくは15~60質量部である。
熱可塑性エラストマー組成物は、オレフィン系エラストマーをさらに含有してもよい。オレフィン系樹脂、オレフィン系エラストマーとしては、炭素数2~20のα-オレフィン重合体又は共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸エステルとの共重合体が挙げられる。オレフィン系エラストマーは、以下に限定されないが、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチルペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、1-ブテン単独重合体、1-ブテン-エチレン共重合体、1-ブテン-プロピレン共重合体、4-メチルペンテン単独重合体、4-メチルペンテン-1-プロピレン共重合体、4-メチルペンテン-1-ブテン共重合体、4-メチルペンテン-1-プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。
熱可塑性エラストマー組成物は、粘着付与剤を含有してもよい。粘着付与剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、クマロン-インデン樹脂、p-t-ブチルフェノール-アセチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、水添テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性水添フェノール樹脂、スチレン樹脂、アルファメチルスチレン樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・脂環族系石油樹脂、脂肪族・芳香族系炭化水素樹脂、水添変性脂環族系炭化水素樹脂、水添脂環族系炭化水素樹脂、炭化水素系粘着化樹脂、ポリブテン、液状ポリブタジエン、シス-1,4-ポリイソプレンゴム、水添ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム、ロジン系樹脂等が挙げられる。
本実施形態の水添共重合体を含有する熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、上述した成分以外に、さらにその他の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、光安定剤、結晶核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、相溶化剤、粘着性付与剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(熱可塑性エラストマー組成物の製造方法)
熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により製造できる。例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、ラボプラストミル、ミックスラボ、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解又は分散混合後、溶剤を加熱除去する方法等が用いられる。熱可塑性エラストマーの形状は特に限定されないが、例えば、ペレット状、シート状、ストランド状、チップ状等を挙げることができる。また、溶融混練後、直接成形品とすることもできる。
(熱可塑性エラストマー組成物の成形品)
熱可塑性エラストマー組成物は、耐摩耗性、低温機械特性及び各種性能バランスに優れており、かかる特性を活かして、押出成形品、射出成形品、中空成形品、圧空成形品、真空成形品、高周波融着成形品、オーバーモールド成形品、及びスラッシュ成形品等に好適に用いられる。
特に、耐摩耗性、低べたつき性及び各種性能バランスが必要とされる成形品に好適である。例えば、食品・飲料・医薬品・精密機器等の包装材、チューブ(カテーテルを含む)、バッグ、容器、トレー、その他の部材、自動車部品や自動車内装表皮材(ドアトリム、インパネ、エアバッグカバー等)、家電・OA機器関連部品、工業部品、家庭用品、玩具等が挙げられる。なお、上述の押出成形品や射出成形品は、複層押出成形品、複層射出成形品であってもよい。このとき、本実施形態の水添共重合体や上述した熱可塑性エラストマー組成物を全ての層に用いてもよいし、何れか1層のみ、あるいは2層以上に使用してもよい。
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例及び比較例に適用した、評価方法及び物性の測定方法について下記に示す。
〔水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)の構造の特定方法、物性の測定方法〕
(全ビニル芳香族化合物の含有量(全スチレン含有量))
水添前の共重合体を用い、紫外分光光度計(島津製作所製、UV-2450)を用いて262nmの吸収強度より、各々の共重合体の全ビニル芳香族化合物の含有量(質量%)を算出した。
なお、水添前後で全ビニル芳香族化合物単量体単位の含有量は大きくは変化しないので、水素添加前の共重合体について得られた全ビニル芳香族化合物単量体単位(スチレン単量体単位)の含有量を、水添共重合体の全ビニル芳香族化合物単量体単位の含有量(全スチレン含有量)とした。
(重合体ブロックB1、B2又はDのビニル結合量)
水添前の共重合体の重合過程のステップ毎にサンプリングしたポリマーを、核磁気共鳴装置(BRUKER社製、DPX-400)を用い、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法によりビニル結合量(1,2-結合量)を測定した。溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度は50mg/mL、観測周波数は400MHz、化学シフト基準にテトラメチルシランを用い、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数64回、パルス幅45°、及び測定温度26℃で行った。ビニル結合量は、1,4-結合及び1,2-結合に帰属されるシグナルの積分値から各結合様式の1Hあたりの積分値を算出した後、1,4-結合と1,2-結合の合計に対する1,2-結合の比率から算出した。
(水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)のポリスチレンブロック含有量(Os値))
水添前の共重合体を用い、I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Soi.1,429(1946)に記載の四酸化オスミウム分解法で測定した。
水添前の共重合体の分解には、オスミウム酸の0.1g/125mL第3級ブタノール溶液を用いた。ここで得られたポリスチレンブロックの含有量を「Os値」と称する。
(重合体ブロックB1又はB2中のビニル芳香族化合物量)
水添ブロック共重合体を測定サンプルとし、プロトン核磁気共鳴法(1H-NMR、JOEL RESONABCE社製ECS400)により、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックとビニル芳香族化合物と共役ジエンからなる重合体ブロック又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物からなる重合体ブロックを区別した。
溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度は50mg/mL、観測周波数は400MHz、化学シフト基準にテトラメチルシランを用い、パルスディレイ2.904秒、スキャン回数256回及び測定温度23℃で行った。芳香族に帰属されるシグナルの積分強度から各結合様式の1Hあたりの積分値からランダム性とブロック性の芳香族を算出した後、前記(1)の方法で全スチレン含有量を算出し、含有割合を算出した。
(水添共重合体の重量平均分子量)
GPC〔装置:東ソーHLC8220、カラムTSKgel SuperH-RC×2本〕を用いて測定した。溶媒にはテトラヒドロフランを用いた。測定条件は、温度35℃で行った。重量平均分子量が既知の市販の標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を使用し、ポリスチレン換算した重量平均分子量を求めた。
(水添共重合体の水素添加率(水添率))
核磁気共鳴装置(BRUKER社製、DPX-400)により水添共重合体の水素添加率を測定した。水素添加後の共重合体である水添共重合体を用いて、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)により測定した。具体的には、4.5~5.5ppmの残存二重結合に由来するシグナル及び水素添加された共役ジエンに由来するシグナルの積分値を算出し、その比率を算出した。
(水添共重合体の粘弾性測定(tanδピーク))
動的粘弾性スペクトルを下記の方法により測定し、損失係数tanδのピーク温度(tanδピーク温度)を得た。まず、水添共重合体を厚さ2mmのシートに成形した後に幅10mm、長さ35mmのサイズにカットし、測定用試料とした。装置ARES-G2(ティーエイインスツルメントー株式会社製、商品名)の捻りタイプのジオメトリーに測定用試料をセットし、実効測定長さは25mm、ひずみ0.5%、周波数1Hz、測定範囲-100℃から100℃まで、昇温速度3℃/分の条件により測定した。
〔ポリプロピレン樹脂組成物の製造〕
表3に示す配合割合(質量部)に基づき、二軸押出機(日本製鋼所製「TEX-30αII」、シリンダー口径30mm)によって、設定温度220℃で溶融混練してポリプロピレン樹脂組成物のペレットを得た。射出成形温度220℃、金型温度40℃で成形し、ポリプロピレン樹脂組成物の成形体(厚み2.0mm、鏡面仕上げ、シボなし)を得た。
ポリプロピレン樹脂((c)成分)としては、PM801A(PP/サンアロマー製;MFR=15、表3中、「h-pp」と記載する。)を使用した。水添共重合体(X)としてA1~A15を用いた。
(ポリプロピレン樹脂組成物成形体の物性評価)
(耐傷つき性)
射出成形体(皮シボなし)(5cm×15cm)を試験片とし、スクラッチテスター KK‐01(カトーテック社製)を使用し、ISO19252に準じてスクラッチ荷重:1N、スクラッチ距離:100mm、スクラッチ速度:100mm/sec、チップ:ステンレスφ=1.0mmにて試験を行い、測定部分を目視にて観察した。
4:光を反射させても、傷跡が全く観察されないレベル
3:光を反射させると、傷跡がやや観察されるレベル
2:光を反射させると、傷跡が明確に観察されるレベル
1:光を反射させなくても、傷跡が明確に観察されるレベル
(低温機械特性(引張伸び(-30℃))
JIS K6251に準拠し、恒温槽付き引張試験機(ミネベア、Tg-5kN)を用いて、-30℃、3号ダンベル、クロスヘッドスピード500mm/分で次のとおり引張試験を実施し、破断伸びを評価した。
5:破断伸びが500%以上
4:破断伸びが400%以上500%未満
3:破断伸びが300%以上400%未満
2:破断伸びが200%以上300%未満
1:引張弾性率が200%未満
(モルフォロジー観察(TEM観察))
ポリプロピレン樹脂組成物の射出成形体の断面を四酸化ルテニウムで染色した後、ミクロトームにより得られた超薄切片を倍率5000~100000倍で透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。
(モルフォロジー観察(AFM観察))
ポリプロピレン樹脂組成物の成形体(プレス成形又は射出成形)を、ミクロトームにより平滑面を作製し、試料片を得た。試料片の平滑面を、前述の測定条件によりAFM(Bruker Dimension Icon,Peak Force QNM mode/OLTESPA型Si単結晶プローブ)で観察し、弾性率マッピング図を得た。
〔熱可塑性エラストマー組成物の製造〕
表4に示す配合割合(質量部)に基づき、二軸押出機(日本製鋼所製「TEX-30αII」、シリンダー口径30mm)によって、設定温度220℃で溶融混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
射出成形温度220℃、金型温度40℃で成形し、熱可塑性エラストマー組成物の成形体(厚み2.0mm、皮シボなし、皮シボ付き)とした。水添共重合体(X)としては、A1~A15を用いた。
ポリプロピレン樹脂として、PM801A(PP/サンアロマー製;MFR=15)を用いた。ゴム状重合体としてスチレン系熱可塑性エラストマー、タフテックN504(スチレン含有量32質量%、旭化成製)を使用した。軟化剤としてパラフィンオイル、PW-90(出光興産社製)を使用した。表4中、「オイル」と記載した。
(熱可塑性エラストマー組成物成形体の物性評価)
(耐摩耗性)
学振型摩擦試験器(テスター産業株式会社製、AB-301型)を用い、成形体表面(皮シボ加工面)を、摩擦布カナキン3号綿、荷重500gで摩擦後、シボ深さを測定し、シボ深さ残存率(下記(式1)で計算)によって、以下の基準で判定した。シボ深さは東京精密社製の表面粗さ計E-35Aで測定した。
シボ深さ残存率(%)=(摩擦後のシボ深さ)/(摩擦前のシボ深さ)×100 (式1)
5:摩擦回数10000回後に、シボ深さ残存率が80%以上
4:摩擦回数10000回後に、シボ深さ残存率が80%未満65%以上
3:摩擦回数10000回後に、シボ深さ残存率が65%未満50%以上
2:摩擦回数10000回後に、シボ深さ残存率が50%未満25%以上
1:摩擦回数10000回後に、シボ深さ残存率が25%未満
(低温破断伸び)
JIS K6251に準拠し、恒温槽付き引張試験機(ミネベア、Tg-5kN)を用いて、-30℃、3号ダンベル、クロスヘッドスピード500mm/分で次のとおり引張試験を実施し、破断伸びを評価した。
4:破断伸びが200%以上
3:破断伸びが100%以上200%未満
2:破断伸びが50%以上100%未満
1:引張弾性率が50%未満
(耐油性)
JIS K6258に準拠し、日本サン石油(株)製のIRM902オイルに試験片を浸漬して、浸漬前後での質量を測定した。浸漬前の試験片の質量を100%として浸漬によって増加した分の質量分率(%)を膨潤率として算出した。
4;膨潤率が 30%以下
3;膨潤率が 30%以上50%未満
2;膨潤率が 50%以上70%未満
1;膨潤率が 70%以上
(触感)
射出成形シートを用い、しっとり感、サラサラ感、柔らかさの観点から以下の基準で評価を行った。評価は、評価員10人の平均をとった。
A:しっとり感、サラサラ感、柔らかさのバランスがよく、極めて心地よい感覚である。
B:しっとり感、サラサラ感、柔らかさのバランスが少し崩れているが不快感はない。
C:しっとり感、サラサラ感、柔らかさのバランスが悪く、不快な感覚である。
〔水添共重合体の製造〕(水添触媒の調製)
共重合体の水添反応に用いた水添触媒を下記の方法で調製した。
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビスシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させ、水添触媒を得た。
(水添共重合体)
水添共重合体(a-1)~(a-4)、水添共重合体(b1-1)、及び水添共重合体(b2-1)~(b2-5)を、下記のようにして作製した。
<水添共重合体(a-1)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン20質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.084質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して0.35モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、スチレン47質量部を含むシクロヘキサン溶液と、ブタジエン33質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で1時間重合した。
次に、安息香酸エチルをn-ブチルリチウム1モルに対して0.25モル添加し、70℃で10分間反応させた。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量67質量%、ポリスチレンブロック含有量20質量%、重合体ブロック(B1)の水添前のビニル結合量は25%、重量平均分子量19.3万であった。
また、GPC曲線のピーク面積比より求めたカップリング率は50%であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は18℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(a-1)を得た。
<水添共重合体(a-2)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン10質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.067質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して0.35モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、スチレン47質量部を含むシクロヘキサン溶液と、ブタジエン33質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で1時間重合した。
次に、スチレン10質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入し、70℃で20分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量67質量%、ポリスチレンブロック含有量20質量%、重合体ブロック(B1)の水添前のビニル結合量は21%、重量平均分子量15.4万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は9℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(a-2)を得た。
<水添共重合体(a-3)>
攪拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用してバッチ重合を
行った。
先ず、スチレン15質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.085質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して0.8モル添加し、70℃で5分間重合した。
次に、ブタジエン3質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて70℃で5分間重合した。
次に、ブタジエン29質量部とスチレン50質量部(濃度20質量%)を含むシクロヘキサン溶液を反応温度が一定になるように供給し、70℃で45分間重合した。
次にブタジエン3質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、70℃で5分重合した。
最後に、テトラエトキシシランをn-ブチルリチウム1モルに対して0.2モル添加し、70℃で30分間反応した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量65質量%、ポリスチレンブロック含有量15質量%、ブロック共重合体(B1)の水添前のビニル結合量は25%、重量平均分子量30.1万であった。
また、GPC曲線のピーク面積比より求めたカップリング率は70%であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は98%、tanδピーク温度は25℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(a-3)を得た。
<水添共重合体(a-4)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン7.5質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.080質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して0.35モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、スチレン36質量部を含むシクロヘキサン溶液と、ブタジエン49質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で1時間重合した。
次に、スチレン7.5質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で20分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量51質量%、ポリスチレンブロック含有量51質量%、重合体ブロック(B1)の水添前のビニル結合量は22%、重量平均分子量15.1万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は-14℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(a-4)を得た。
<水添共重合体(b1-1)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン7.5質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.066質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して1.8モル添加し、さらに、ナトリウム-t-ペントキシドをn-ブチルリチウム1モルに対して0.05モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、スチレン22質量部を含むシクロヘキサン溶液と、ブタジエン63質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で1時間重合した。
次に、スチレン7.5質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で20分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量37質量%、ポリスチレンブロック含有量15質量%、重合体ブロック(B2)の水添前のビニル結合量は70%、重量平均分子量15.6万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は-25℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b1-1)を得た。
<水添共重合体(b2-1)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、ブタジエン10質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.05質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)をn-ブチルリチウム1モルに対して0.05モル添加し、70℃で10分間重合した。
次に、ブタジエン85質量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて、TMEDAをn-ブチルリチウム1モルに対して1.5モルと、ナトリウム-t-ペントキシドをn-ブチルリチウム1モルに対して0.05モル添加し、60℃で1時間重合した。
次に、スチレン5質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で20分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量5質量%、ポリスチレンブロック含有量5質量%、重合体ブロックブロックEの含有量10質量%、重合体ブロックDの水添前のビニル結合量は74%、重量平均分子量25.4万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は98%、tanδピーク温度は-31℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b2-1)を得た。
<水添共重合体(b2-2)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン6.5質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.065質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)をn-ブチルリチウム1モルに対して1.8モルさらに、ナトリウム-t-ペントキシドを1モルのTMEDAに対して0.045モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、ブタジエン82質量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて、60℃で1時間重合した。
次に、スチレン6.5質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で20分間重合した。
次に、ブタジエン5質量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて、60℃で10分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量13質量%、ポリスチレンブロック含有量13質量、重合体ブロックDの水添前のビニル結合量は80%、重量平均分子量20.8万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は-28℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b2-2)を得た。
<水添共重合体(b2-3)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン12質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.158質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して1.8モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、ブタジエン88質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で1時間重合した。
次に、テトラエトキシシランをn-ブチルリチウム1モルに対して0.24モル添加し、70℃で10分間反応させた。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量12質量%、ポリスチレンブロック含有量12質量%、重合体ブロックDの水添前のビニル結合量は81%、重量平均分子量25.3万であった。
また、GPC曲線のピーク面積比より求めたカップリング率は92%であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は98%、tanδピーク温度は-30℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b2-3)を得た。
<水添共重合体(b2-4)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン9質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.084質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンをn-ブチルリチウム1モルに対して1.8モル、さらに、ナトリウム-t-ペントキシドをn-ブチルリチウム1モルに対して0.05モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、スチレン25質量部を含むシクロヘキサン溶液と、ブタジエン21質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて、70℃で45分間重合した。
次に、ブタジエン45質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で1時間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた重合体は、スチレン含有量34質量%、ポリスチレンブロック含有量9質量%、重合体ブロックブロックFの含有量46質量%、重合体ブロックDのビニル結合量77mol%、重量平均分子量14.8万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は98%、tanδピーク温度は25℃と-30℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b2-4)を得た。
<水添共重合体(b2-5)>
撹拌装置とジャケットを具備する槽型反応器(内容積10L)を使用して、バッチ重合を行った。
まず、スチレン9質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入した。
次に、n-ブチルリチウムを全モノマー100質量部に対して0.11質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)をn-ブチルリチウム1モルに対して0.45モル添加し、70℃で20分間重合した。
次に、ブタジエン82質量部を含むシクロヘキサン溶液を加えて、60℃で1時間重合した。
次に、スチレン9質量部を含むシクロヘキサン溶液を投入して、60℃で20分間重合した。
その後、メタノールを添加し、重合反応を停止した。
上記のようにして得られた共重合体は、スチレン含有量18質量%、ポリスチレンブロック含有量18質量%、重合体ブロックDの水添前のビニル結合量は50%、重量平均分子量10.2万であった。
さらに、得られた共重合体に、上記のようにして調製した水添触媒を、共重合体100質量部当たり、Ti基準で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度80℃で、水添反応を行った。
得られた水添共重合体の水添率は99%、tanδピーク温度は-50℃であった。
次に、安定剤として、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、水添共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、水添共重合体(b2-5)を得た。
各水添共重合体の物性、並びに水添共重合体(X)の組成及び物性を下記の表1及び表2に示す。
〔ポリプロピレン樹脂組成物〕
下記表3より、実施例1~9においては、特定の構成にある水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)を含有したポリプロピレン樹脂組成物は、耐傷つき性、低温機械特性、及び各特性のバランスにおいて、点数「1」がなく、優れていることが分かった。
表3より、比較例1~6においては、ポリプロピレン樹脂組成物の、耐傷つき性、低温機械特性、及び各特性バランスにおいて、点数「1」が存在し、劣っていることが分かった。
図1に水添共重合体である製造例1(A1)、及び比較製造例5(A14)の損失正接の温度依存性を示す。図1によると、水添共重合体である製造例1(A1)は、粘弾性測定(1Hz)において、tanδピーク温度が0℃以上かつtanδ高さが1.0以上のピークを1つ有し、かつ、tanδピーク温度が0℃未満かつtanδピーク高さが0.2未満のピークを2つ有し、水添共重合体である比較製造例5(A14)は、粘弾性測定(1Hz)において、tanδピーク温度が0℃以上かつtanδ高さが1.0未満のピークを1つ有し、かつ、tanδピーク温度が0℃未満かつtanδピーク高さが0.2以上のピークを2つ有している。
実施例1及び比較例1の、水添共重合体とポリプロピレン樹脂との樹脂組成物の成形体を、透過型電子顕微鏡(ルテニウム染色)でモルフォロジー観察した像を、図2(A)、(B)に示す(上部は倍率20000倍、下部は倍率50000倍)。(A)実施例1のポリプロピレン樹脂組成物の成形体の透過型電子顕微鏡(ルテニウム染色)でモルフォロジー観察した像を示す。(B)比較例1のポリプロピレン樹脂組成物の成形体の透過型電子顕微鏡(ルテニウム染色)でモルフォロジー観察した像を示す。図2で、黒色の部分は、水添共重合体、白色の部分はポリプロピレン樹脂を示す。
図2より、実施例1の樹脂組成物においては、水添共重合体A1は、ポリプロピレン樹脂中で共連続構造を形成し、比較例1の樹脂組成物においては、水添共重合体A10はポリプロピレン樹脂と海島構造を形成している。これによると、ポリプロピレン樹脂組成物においては、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)を特定割合で併用することで、ポリプロピレン樹脂組成物のモルフォロジーが海島構造から共連続構造に変化したことが分かった。
「海島構造」とは、ポリプロピレン樹脂と水添共重合体がそれぞれ単独で存在する状態を示し、「共連続構造」とは、マトリックスとなる成分の水添ブロック共重合体が存在し、ポリプロピレン樹脂が、その一部または全体を覆う状態で連続的につながった形状を有する状態を示す。ポリプロピレン樹脂組成物は、このように単純な海島構造を形成せずに、共連続構造を形成するため、耐摩耗性、低温機械特性、さらに各特性のバランスを高度に満足することができる。ポリプロピレン樹脂組成物が共連続構造を形成しているか否かは、透過型電子顕微鏡を用いて確認できる。
実施例1、比較例2および比較例3のポリプロピレン樹脂組成物の射出成形板のAFM(原子間力顕微鏡)による弾性率マッピング図(弾性率を色のグラデーションで表示し、樹脂組成物中の弾性率分布を示す)を図3(A)~(C)に示す。
図3(A)は、実施例1の成型板のAFMによる弾性率マッピング図を示す。
図3(B)は、比較例2の成型板のAFMによる弾性率マッピング図を示す。
図3(C)は、比較例3の成形板のAFMによる弾性率マッピング図を示す。
これによると、水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)を特定割合で併用することで、ポリプロピレン樹脂組成物の射出成形板(A)では、水添共重合体(a)(a-1:黒色)とポリプロピレン樹脂(白色)の界面に水添共重合体(b1)および水添共重合体(b2)が相容化剤として取り囲むように偏在していることがわかる。一方、ポリプロピレン樹脂組成物の射出成型板(B)および(C)では、界面の存在は示唆されなかった。
特性構造の水添共重合体を、特定割合を含有した、本実施形態のポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレンと水添共重合体の界面強度が強化され、耐摩耗性、低温機械特性、及び各特性のバランスを高度に満足することができる。
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
下記表4より、実施例10~18においては、本発明の構成要件を満たす特定の範囲にある水添共重合体(a)、水添共重合体(b1)及び水添共重合体(b2)を含有した熱可塑性エラストマー組成物は、耐摩耗性、低温機械特性、及び各種性能バランスにおいて、点数「1」および「C」がなく、優れることが分かった。
比較例7~12においては、本発明の構成要件を満たさないので、熱可塑性エラストマー組成物は、耐摩耗性、低温機械特性、及び各種性能バランスにおいて、点数「1」および「C」が存在し、劣ることが分かった。