発明の概要
本発明者らは、第1抗原もしくはエピトープの結合が第2抗原もしくはエピトープの結合を必ずしも促進するものでない二特異的抗体を作るのが望ましいことを理解した。本発明者らはまた、その解決は、第1抗原もしくはエピトープの結合接触部を1つの可変ドメインに、そして第2抗原もしくはエピトープの結合接触部を他の可変ドメインに作製し、両ドメインが相互に相補的であるように選択することにあり、そして異なる特異性の相補的な両方の単一可変ドメイン;例えば、第1抗原もしくはエピトープと結合する重鎖可変ドメインと第2抗原もしくはエピトープと結合する軽鎖可変ドメインを一緒に運ぶことにより先行技術の二特異的抗体を上回るもっと顕著な利点を導きうることを理解した。従って、それぞれのVH/VL対は2つの結合特異性を有する。これらのドメインの複合物を「二重特異性(dual-specific)」リガンドと呼ぶ。
本発明者らは、相補的な可変ドメインの利用により、2つのドメイン表面が一緒にパックされ溶媒から隔離されることを見出した。さらに、相補的なドメインはお互いを安定化することができる。さらに、これは先に記載したハイブリッドハイブリドーマの欠点なしにあるいは重鎖もしくは軽鎖をサブユニット界面で操作する必要なしに、二重特異性IgG抗体を作製することを可能にする。本発明の二重特異性リガンドは少なくとも1つのVH/VL対を有する。それ故に、本発明による二特異的IgGは、Y形状分子のそれぞれのアーム上に1対づつ、2つのかかる対を含むものでありうる。従って、使用される鎖の比がその調製の成功を決定してしまうので実用的困難をもたらす従来の二特異的抗体もしくはダイアボディ(diabody)と異なり、本発明の二重特異性リガンドは鎖バランスの問題がない。従来の二特異的抗体における鎖アンバランスは2つの異なるVL鎖と2つの異なるVH鎖との会合からもたらされ、ここでVL鎖1はVH鎖1と一緒に抗原もしくはエピトープ1と結合することができかつVL鎖2はVH鎖2と一緒に抗原もしくはエピトープ1と結合することができ、そして2つの正しい対形成はある方法でお互いと会合している。従って、単一分子内でVL鎖1がVH鎖1と対になりかつVL鎖2がVH鎖2と対になったときにのみ二特異性が作製される。かかる二特異的分子は2つの異なる方法で作製することができる。これらは、第1に、それぞれ異なる抗原もしくはエピトープと結合する2つの存在するVH/VL対形成の会合(例えば、二特異的IgGにおける)により作製することができる。この場合、全ての分子が二特異的である分子の集団を作製するためには、VH/VL対形成は1:1比で全て一緒にならなければならない。これは決して起こらず(相補的CHドメインを「ノブインツーホール(knobs into holes)」操作により増強したとしても)、二特異的分子および1つの抗原もしくはエピトープとだけ結合できるが他とは結合しない分子の混合物を生じる。第2の二特異的抗体を作製する方法は、2つの異なるVH鎖の2つの異なるVL鎖との同時会合による(例えば、二特異的ダイアボディ(diabody)における)。この場合、VL鎖1とVH鎖1が対形成しかつVL鎖2とVH鎖2が対形成する優先性(VLおよびVHドメインの「ノブインツーホール(knobs into holes)」操作により増強しうる)の傾向はあるが、この対形成は決して全ての分子で達成されないで混合組成物を生じ、それにより、抗原もしくはエピトープと結合できない不正な対形成を生じる。
本発明による二重特異性リガンド手法に従って構築した二特異的抗体は、これらの問題を全て克服する。何故なら、それぞれ、抗原もしくはエピトープ1との結合はVHまたはVLドメイン内に存在しかつ抗原もしくはエピトープ2との結合は相補的VHまたはVLドメイン内に存在するからである。VHとVLドメインは1:1ベースで対を形成するので、全てのVH/VL対形成は二特異的でありうるし、従ってこれらのVH/VL対形成を利用して構築した全てのフォーマット(Fv、scFv、Fabs、ミニボディ(minibodies)、IgGその他)は100%二特異的活性を有しうる。
第1の態様においては、本発明は従って、第1の結合特異性を有する第1の単一免疫グロブリン可変ドメインおよび第2の結合特異性を有する相補的免疫グロブリン単一可変ドメインを含んでなる二重特異性リガンドを生産する方法であって、
(a)第1エピトープと結合する能力により第1可変ドメインを選択するステップ、
(b)第2エピトープと結合する能力により第2可変領域を選択するステップ、
(c)それらの可変領域を組み合わせるステップ;ならびに
(d)前記第1および第2エピトープと結合する能力により二重特異性リガンドを選択するステップを含んでなる前記方法を提供する。
本発明のコンテキストにおいては、第1と第2の「エピトープ」は同じでなくかつ単一の単一特異的リガンドが両エピトープに結合することはないと理解される。両エピトープは異なる抗原上または同じ抗原上にあってもよいが、十分な距離で分離されていて、従来の抗体の単一の単特異的VH/VL結合対が結合しうる単一部分形成するものではない。実験的には、もし2つのエピトープに対して、1本鎖抗体型の個々の可変ドメイン(ドメイン抗体またはdAb)の両方が別々に単特異的VH/VLリガンドと競合するのであれば、これらの2つのエピトープは十分に離れていないので本発明による分離したエピトープとみなされない。
本発明の二重特異性リガンドは、WO 02/02773に記載のリガンドを含まない。従って、本発明のリガンドは、協同していずれかの1以上の抗原もしくはエピトープと結合する相補的VH/VL対を含むものではない。代わりに、本発明によるリガンドはそれらのVドメインが異なる特異性を有するVH/VL相補的対を含んでなる。
さらに、本発明によるリガンドは非構造的に関係するエピトープもしくは抗原に対して異なる特異性を有するVH/VL相補的対を含むものである。構造的に関係するエピトープもしくは抗原は、十分な構造的類似性を有していて、協同的方法で作用して抗原もしくはエピトープと結合する従来のVH/VL相補的対が結合するエピトープもしくは抗原であり;構造的に関係するエピトープの場合、エピトープは構造上十分に類似しているのでVH/VL二量体の抗原結合部位が形成する同じ結合ポケットに「適合(fit)」する。
本発明の好ましい実施形態においては、それぞれの単一可変ドメインを、相補的可変領域の不在のもとでその標的抗原もしくはエピトープとの結合について選択することができる。代わりの実施形態においては、単一可変ドメインを、相補的可変領域の存在のもとでその標的抗原もしくはエピトープとの結合について選択してもよい。従って、第1の単一可変ドメインを第3の相補的可変ドメインの存在のもとで選択してもよく、第2の可変ドメインを第4の相補的可変ドメインの存在のもとで選択してもよい。この場合、第1(または第2)の可変ドメインの結合活性は、相補的第3(または第4)可変ドメインの存在のもとでを除くと、明らかでない。第3または第4の相補的可変ドメインは、試験している単一ドメインと同じ特異性を有する自然コグネイト可変ドメインまたは「ダミー」可変ドメインなどの非コグネイト相補的ドメインであってもよい。
単一可変ドメインは異なる抗原もしくはエピトープに対する結合活性について選択した抗体から誘導するのが有利である。
本発明の二重特異性リガンドはただ2つの相補的可変ドメインを含んでなるのが好ましいが、複数のかかるリガンドを同じタンパク質中に一緒に組込んでもよく、例えば2つのかかるリガンドをIgGまたはIgMなどの多量体免疫グロブリン中に組込むことができる。あるいは、他の実施形態においては、複数の二重特異性リガンドを組み合わせて多量体を形成する。例えば、2つの異なる二重特異性リガンドを組合わせて四特異的分子を作製する。
二重特異性リガンドを非免疫グロブリン多リガンド構造中に組合わせて、標的分子と増加したアビディティで結合する多価複合体を形成することができる。かかる多量体の例では、V領域が同じ抗原上の異なるエピトープと結合し、それにより優れたアビディティを提供する。一実施形態においては、WO 0069907(Medical Research Council)に記載のように多価複合体をスカフォールドタンパク質上に構築することができ、これは例えば細菌GroELの環構造または他のシャペロンポリペプチドに基づいている。
当業者は、本発明の方法によって作られる二重特異性リガンドの軽および重鎖可変領域は、同じポリペプチド鎖上、または代わりに、異なるポリペプチド鎖上にあってもよいことを理解するであろう。可変領域が異なるポリペプチド鎖上にある場合、それらはリンカー、一般的にフレキシブルリンカー(ポリペプチド鎖などの)、化学連結基、または当技術分野で公知のいずれか他の方法を経由して連結することができる。
第1と第2の抗原結合ドメインは共有結合または非共有結合により会合していてもよい。ドメインが共有結合で会合している場合、その会合は例えば、ジスルフィド結合により媒介することができる。
第1および第2の抗原もしくはエピトープは様々である。それらは、天然もしくは合成のポリペプチド、タンパク質もしくは核酸であってもまたその部分であってもよい。当業者は、選択は広くかつ多様であることを理解するであろう。それらは、例えばヒトまたは動物タンパク質、サイトカイン、サイトカイン受容体、酵素に対する酵素補因子、またはDNA結合タンパク質であってもよい。適当なサイトカインおよび増殖因子としては、限定されるものでないが、ApoE、Apo-SAA、BDNF、カルジオトロフィン-1(Cardiotrophin-1)、EGF、EGF受容体、ENA78、エオタキシン(Eotaxin)、エオタキシン-2(Eotaxin-2)、エキソダス-2(Exodus-2)、FGF-酸性、FGF-塩基性、繊維芽細胞増殖因子-10(30)、FLT3リガンド、フラクタルカイン(Fractalkine)(CX3C)、GDNF、G-CSF、GM-CSF、GF-βl、インスリン、IFNγ、IGF-I、IGF-II、IL-lα、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8(72 a.a.)、IL-8(77 a.a.)、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18(IGIF)、インヒビンα、インヒビンβ、IP-10、ケラチノサイト増殖因子-2(KGF-2)、KGF、レプチン(Leptin)、LIF、リンフォタクチン(Lymphotactin)、ミューラー(Mullerian)阻害物質、単球コロニー阻害因子、単球誘引タンパク質(30 ibid)、M-CSF、MDC(67 a.a.)、MDC(69 a.a.)、MCP-1(MCAF)、MCP-2、MCP-3、MCP-4、MDC(67 a.a.)、MDC(69 a.a.)、MIG、MIP-lα、MIP-1β、MIP-3α、MIP-3β、MIP-4、骨髄前駆体阻害因子-1(MPIF-1)、NAP-2、ニューロツリン(Neurturin)、神経成長因子、β-NGF、NT-3、NT-4、オンコスタチンM(Oncostatin M)、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PF-4、RANTES、SDF1α、SDF1β、SCF、SCGF、幹細胞因子(SCF)、TARC、TGF-α、TGF-β、TGF-β2、TGF-β3、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF-α、TNF-β、TNF受容体I、TNF受容体II、TNIL-1、TPO、VEGF、VEGF受容体1、VEGF受容体2、VEGF受容体3、GCP-2、GRO/MGSA、GRO-β、GRO-γ、HCC1、1-309、HER 1、HER 2、HER 3およびHER 4が挙げられる。サイトカイン受容体としては、前記サイトカインに対する受容体が挙げられる。このリストは決して全てを尽くすものでないことは理解されるであろう。二重特異性リガンドが(同じまたは異なる抗原上の)2つのエピトープと結合する場合、その抗原をこのリストから選択してもよい。
抗原もしくはエピトープが二重特異性リガンドとの結合を競合して、それらが両方とも同時に結合しなくてもよい。あるいは、それらが両方とも同時に結合して二重特異性リガンドが抗原もしくはエピトープを橋掛けしてもよい。
本発明の一実施形態においては、可変ドメインを、第1及び/または第2の抗原もしくはエピトープに対する抗体から誘導する。好ましい実施形態においては、可変ドメインを、単一の可変抗体ドメインのレパートリーから誘導する。
第2の態様においては、本発明は、第1の結合特異性を有する第1の単一免疫グロブリン可変ドメインおよび第2の結合特異性を有する相補的免疫グロブリン単一可変ドメインを含んでなる二重特異性リガンドを提供する。
本発明の第2の態様による二重特異性リガンドは、本発明の第1の態様の方法により有利に入手できる。
本発明のこの態様の好ましい実施形態においては、リガンドはある抗体の1つの単一重鎖可変ドメインおよびある抗体の相補的単一軽鎖可変ドメインを含んでなり、2つの領領域が会合して相補的なVH/VL対を形成することができる。
この性質の二重特異性リガンドは、2つの相補的な可変領域表面が一緒にパックされ溶媒から隔離され、お互いの安定化を助けることを可能にする。
二重特異性リガンドは、有利に標的分子と結合しうる第1のドメイン、およびリガンドの半減期を延長する分子もしくは基と結合しうる第2ドメインを含みうる。例えば、分子もしくは基がHSAまたは細胞マトリックスタンパク質などの嵩の大きい薬剤であってもよい。好ましい実施形態においては、二重特異性リガンドは、半減期を増強する分子もしくは基との置換だけで標的分子と結合できるのであってもよい。従って、例えば、二重特異性リガンドを被験者の血流の循環中にHSAなどの嵩の大きい分子により維持される。標的分子と遭遇すると、二重特異性リガンドの結合ドメイン間の競合により、HSAの置換えと標的の結合が起こる。
第3の態様において、本発明は少なくとも本明細書に定義した二重特異性リガンドをコードする1以上の核酸分子を提供する。二重特異性リガンドは単一核酸分子上にコードされてもよいし;あるいは、それぞれの相補的ドメインを別の核酸分子にコードされてもよい。リガンドを単一核酸分子によりコードする場合、相補的ドメインを融合ポリペプチドとしてscFv分子のような方法で発現してもよいし、または別々に発現して次いで、例えば化学連結剤を用いて一緒に連結してもよい。別々の核酸から発現したリガンドは適当な手法により一緒に連結しうる。
核酸はさらに、発現時に宿主細胞からポリペプチドを取出すためのシグナル配列をコードしてもよく、かつ発現時に繊維状バクテリオファージ粒子の表面成分(または選択ディスプレイシステムの他の成分)と融合させてもよい。
さらなる態様においては、本発明は、本発明による核酸を含んでなるベクターを提供する。
なおさらなる態様においては、本発明は本発明によるベクターを用いてトランスフェクトした宿主細胞を提供する。
かかるベクターからの発現は、例えばバクテリオファージ粒子の表面上に選択のための可変ドメインを作るように構成することができる。これは、ディスプレイされた可変領域の選択、従って本発明の方法を利用する「二重特異性リガンド」の選択を可能にする。
本発明はさらに少なくとも本発明による二重特異性リガンドを含んでなるキットを提供する。
本発明による二重特異性リガンドは、好ましくは、重および軽鎖ドメインの組合わせを含むものである。例えば、二重特異性リガンドはscFvの形態で一緒に連結しうるVHドメインおよびVLドメインを含むものであってもよい。さらに、リガンドは1以上のCHまたはCLドメインを含むものであってもよい。例えば、リガンドはCH1ドメイン、CH2またはCH3ドメイン、および/もしくはCLドメイン、Cμ1、Cμ2、Cμ3またはCμ4ドメイン、またはそれらのいずれかの組合わせを含むものであってもよい。ヒンジ部ドメインも含んでよい。ドメインのかかる組合わせは、例えば、IgGもしくはIgMなどの自然抗体またはFv、scFv、FabまたはF(ab')2分子などのそれらのフラグメントを模倣してもよい。VH、VL、CH1およびCLドメインを含んでなるIgG分子の単一アームなどの他の構造が予測される。
本発明の好ましい実施形態においては、可変領域は単一ドメインV遺伝子レパートリーから選択する。一般的に単一抗体ドメインのレパートリーを、繊維状バクテリオファージの表面上でディスプレイする。好ましい実施形態においては、それぞれの単一抗体ドメインをファージレパートリーと抗原との結合により選択する。
さらなる態様においては、本発明は、本発明の方法により得ることができる二重特異性リガンド、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでなる組成物を提供する。
さらに、本発明は、本発明による「二重特異性リガンド」または組成物を用いて疾患を治療する方法を提供する。
本発明の好ましい実施形態においては、疾患は癌である。例えば、「架橋」二重特異性リガンドを用いて、癌マーカーに対して細胞傷害性T細胞を補充するか、または癌細胞の表面上の2つの異なる抗原もしくはエピトープと結合し、それにより細胞表面と結合するアフィニティまたは特異性を増加することができる。架橋二重特異性リガンドからなる完全なIgGについては、抗体は4つの抗原または4つのエピトープと結合することができるであろう。あるいは、もし1つの抗原もしくはエピトープの結合が他の結合と置換されば、かかる抗体を用いて癌細胞表面マーカーとの結合時に薬物を放出することができる。二重特異性IgGなどの二重特異性抗体が少なくとも二価である場合、抗腫瘍薬および細胞傷害性T細胞マーカーなどの多エフェクターを同じ細胞に送達することができる。
さらなる態様においては、本発明は、本発明による二重特異性リガンドまたは組成物を用いる疾患の診断を含む、診断の方法を提供する。従って、一般的に、分析物の二重特異性リガンドとの結合を利用して置換え時にシグナルを発生させる薬剤と置換することができる。例えば、分析物(第2抗原)の結合は、特にもし酵素がその活性部位を通して抗体に保持されていれば、抗体と結合した酵素(第1抗原)と置換しイムノアッセイの基礎を提供することができる。
発明の詳細な説明
定義
相補的(complementary) 2つの免疫グロブリンドメインがコグネイト対またはグループを形成する構造のファミリーに属するかまたはそのようなファミリーから誘導されてその特徴を保持する場合、それらのドメインは「相補的」である。例えば、抗体のVHドメインとVLドメインは相補的であり;2つのVHドメインは相補的でない。相補的ドメインは、T細胞受容体のVαおよびVβ(またはγおよびδ)ドメインなどの、他の免疫グロブリンスーパーファミリーに見出すことができる。本発明の文脈において、相補的ドメインは、標的分子に協同して結合しないが、同じもしくは異なる分子上にあってもよい異なる標的エピトープに独立して作用する。
免疫グロブリン この用語は、抗体分子の特徴である免疫グロブリンフォールドを保持し、2つのβシートおよび通常保存されたジスルフィド結合を含有するポリペプチドのファミリーを意味する。免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーは、免疫系における広範な役割(例えば、抗体、T細胞受容体分子、その他)、細胞接着における関与(例えば、ICAM分子)および細胞内シグナル伝達(例えば、PGDF受容体などの受容体分子)を含む細胞および非細胞のin vivo相互作用の多くの態様に関わる。本発明は、相補的ドメインを持つ全ての免疫グロブリンスーパーファミリー分子に応用しうる。好ましくは、本発明は抗体に関する。
組合わせ(combining) 本発明による相補的可変ドメインを組合せて1群の相補的ドメインを形成する;例えば、VLドメインをVHドメインと組合わせる。ドメインの共有結合または非共有結合的手段による連結を含む複数の方法で、ドメインを組合わせることができる。
ドメイン ドメインはフォールドしたタンパク質構造であって、タンパク質の残りから独立したその3次構造を保持する。一般的に、ドメインはタンパク質の個別の機能特性に関わり、多くの場合、タンパク質および/またはドメインの残りの機能を失うことなく、加え、除去しまたは他のタンパク質に伝達することができる。単一抗体可変ドメインにより、本発明者らは、抗体可変ドメインの特徴をもつ配列を含むフォールドしたポリペプチドドメインを意味する。従って、これは、完全な抗体可変ドメインおよび、例えば1以上のループが抗体可変ドメインの特徴でない配列により置換えられている改変された可変ドメイン、または末端切断されているかまたはNもしくはC末端伸張部を含む抗体可変ドメイン、ならびに全長ドメインの結合活性と特異性を少なくとも部分的に保持する可変ドメインのフォールドしたフラグメントを含む。
レパートリー 多様な変異体、例えばその1次配列が異なるポリペプチド変異体のコレクション。本発明に使用されるライブラリーは少なくとも1000個のメンバーを含むポリペプチドのレパートリーを包含しうる。
ライブラリー ライブラリーという用語は、不均一なポリペプチドまたは核酸の混合物を意味する。ライブラリーは単一ポリペプチドまたは核酸配列を有するメンバーからなる。この意味ではライブラリーはレパートリーと同義である。ライブラリーメンバー間の配列差はライブラリーに存在する多様性に関わる。ライブラリーは単純なポリペプチドもしくは核酸の混合物の形態をとってもよいし、または核酸のライブラリーを用いて形質転換した生物または細胞、例えば細菌、ウイルス、動物もしくは植物細胞などの形態であってもよい。好ましくは、それぞれの個々の生物または細胞は1つだけまたは限られた数のライブラリーメンバーを含有する。有利なのは、核酸を発現ベクター中に組込んで、核酸がコードするポリペプチドを発現させることである。従って、好ましい態様においては、ライブラリーは宿主生物の集団の形態をとり、それぞれの生物が核酸形態のライブラリーの単一メンバーを含有する発現ベクターの1以上のコピーを含有し、それを発現してその対応するポリペプチドメンバーを産生できるものであってもよい。
抗体 天然に抗体を産生するいずれかの種から誘導されたまたは組換えDNA技術により作製されたか;血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクトーマ、酵母もしくは細菌から単離された、抗体(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE)またはフラグメント(Fab、F(Ab')2、Fv、ジスルフィド連結したFv、scFv、ジスルフィド連結したscFv、ダイアボディ(diabody)など)。
二重特異性リガンド 本明細書に定義した第1の免疫グロブリン単一可変ドメインおよび第2の免疫グロブリン単一可変ドメインを含んでなるリガンドであって、ここでそれらの可変領域は単特異的免疫グロブリンが通常結合していない2つの抗原または同じ抗原上の2つのエピトープと結合することができる。例えば、2つのエピトープは同じハプテン上にあってもよいが同じエピトープではなく、または1つの単特異的リガンドが結合するだけ十分に近接していない。本発明による二重特異性リガンドは、異なる特異性を有する相互に相補的な可変ドメイン対からなり、同じ特異性を有する相互に相補的な可変ドメイン対を含有しない。
抗原 本発明によるレパートリーのメンバーの小画分と結合するリガンド。抗原は、ポリペプチド、タンパク質、核酸または他の分子であってもよい。一般的に、本発明による二重特異性リガンドは特定の抗原に対する標的特異性について選択される。従来の抗体およびそのフラグメントの場合、可変ループ(L1、L2、L3およびHl、H2、H3)の定義する抗体結合部位が抗原と結合することができる。
エピトープ 免疫グロブリンVH/VL対が通常、結合する構造の単位。エピトープは最小抗体結合部位を規定し、従って抗体特異性の標的を表す。単一ドメイン抗体の場合、エピトープは隔離した可変ドメインが結合する構造の単位を表す。
特異的ジェネリックリガンド レパートリーの全てのメンバーと結合するリガンド。一般的に上に定義した抗原結合部位を通して結合するものではない。例としてはプロテインAおよびプロテインLが挙げられる。
選択 結合相互作用がドメインと抗原もしくはエピトープとの間、または抗体と抗原もしくはエピトープとの間で行われるスクリーニングにより誘導される、またはダーウィン選択プロセスにより誘導される。このようにして、第1の可変ドメインを、相補的可変ドメインの存在または不在のもとで抗原もしくはエピトープとの結合について選択することができる。
ユニバーサルフレームワーク Kabat(「免疫学上重要なタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」, US Department of Health and Human Services)が定義した配列に保存された抗体の領域に対応するか、またはChothiaおよびLesk((1987) J. Mol. Biol. 196: 910-917)が定義したヒト生殖系列免疫グロブリンレパートリーもしくは構造に対応する単一抗体フレームワーク配列。本発明は、超可変領域の変化だけを通して実質的にいずれの結合特異性の誘導も可能であることが見出されている、単一フレームワークまたはかかるフレームワークのセットの使用を提供する。
発明の詳細な説明 別に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術および科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学の分野の)が通常理解するのと同じ意味を有する。分子、遺伝および生化学的方法の標準技術を使用する(一般的に、本明細書に参照により組み入れられる、Sambrookら, 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, 第2版 (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.およびAusubelら, 「分子生物学の短いプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」 (1999) 第4版 John Wiley & Sons, Incを参照)。
本発明による二重特異性リガンドは、抗体工学の分野でscFv、「ファージ」抗体および他の操作された抗体分子を調製するために使用される、先に確立された技術により調製することができる。抗体、そして特に二特異的抗体を調製する技術は、例えば、次の総説およびそれらに引用された参考文献に記載されている:Winter & Milstein, (1991) Nature 349:293-299;Plueckthun (1992) Immunological Reviews 130:151-188;Wrightら, (1992) Crti. Rev. Immunol. 12:125-168;Holliger, P. & Winter, G. (1993) Curr. Op. Biotechn. 4,446-449 ;Carter,ら (1995) J. Hematother. 4,463-470;Chester, K.A. & Hawkins, R.E. (1995) Trends Biotechn. 13,294-300;Hoogenboom, H.R. (1997) Nature Biotechnol. 15,125-126 ;Fearon, D. (1997) Nature Biotechnol. 15,618-619 ;Pluckthun, A. & Pack, P. (1997) Immunotechnology 3,83-105;Carter, P. & Merchant, A.M. (1997) Curr. Opin. Biotechnol. 8,449-454;Holliger, P. & Winter, G. (1997) Cancer Immunol. Immunother. 45,128-130。
本発明は2つの異なる抗原もしくはエピトープに対する相補的可変ドメインの選択を提供し、次いで可変ドメインの組合わせを提供する。
可変ドメインを選択するために使用する技術は、当技術分野で公知のライブラリーおよび選択方法を使用する。ヒトB細胞から回収して再配列したV遺伝子を利用する自然ライブラリー(Marksら (1991) J Mol. Biol., 222:581;Vaughanら (1996) Nature Biotech., 14:309)は当業者に周知である。合成ライブラリー(Hoogenboom & Winter (1992) J. Mol. Biol., 227:381;Barbasら (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4457;Nissimら (1994) EMBO J, 13:692;Griffithsら (1994) EMBO J, 13:3245;De Kruifら (1995) J . Mol. Biol., 248:97)は、免疫グロブリンV遺伝子を通常PCRを利用してクローニングすることにより調製する。PCRプロセスにおける誤りは高度の無作為化に導きうる。VH及び/またはVLライブラリーを、標的抗原もしくはエピトープに対して別々に選択してもよく、その場合、単一ドメイン結合を直接、または一緒に選択する。
本発明による二重特異性リガンドを作る好ましい方法は、可変ドメインのレパートリーを第1の抗原もしくはエピトープとの結合に対して選択し、可変ドメインのレパートリーを第2の抗原もしくはエピトープとの結合に対して選択する選択系を用いることを含むものである。次いで選択した可変の、第1および第2可変ドメインを組み合わせて、その二重特異性を第1および第2両方の抗原もしくはエピトープとの結合について選択する。
A. ライブラリーベクター系
当技術分野では、本発明における利用に適当である様々な選択系が公知である。かかる系の例を以下に記載する。
バクテリオファージλ発現系を、直接バクテリオファージプラークとしてまた溶原物質(lysogen)のコロニーとしてスクリーニングすることができ、両法は先に記載されていて(Huseら (1989) Science, 246:1275;CatonおよびKoprowski (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87;Mullinaxら (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87:8095;Perssonら (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 88:2432)、本発明で利用される。かかる発現系はライブラリーの106までの異なるメンバーをスクリーニングするのに利用しうるが、これらはさらに大きい数(106メンバーより大きい)のスクリーニングには実際上適当でない。
ライブラリーの構築に特に利用されるのは、核酸をそれが発現するポリペプチドと結合することができる選択ディスプレイ系である。本明細書に使用される選択ディスプレイ系は、適当なディスプレイ手法により、ジェネリック及び/または標的リガンドと結合することによりライブラリーの個々のメンバーの選択を可能にする系である。
大きなライブラリーの所望のメンバーを単離する選択プロトコルは当技術分野で公知であり、典型的なのはファージディスプレイ技術である。かかる系は多様なペプチド配列を繊維状バクテリオファージの表面上にディスプレイするものであり(ScottおよびSmith (1990) Science, 249:386)、標的抗原と結合する特異的抗体フラグメントのin vitro選択および増幅用の抗体フラグメント(およびそれらをコードするヌクレオチド配列)のライブラリーを作製するために有用であることが証明されている(McCaffertyら、WO 92/01047)。VHおよびVL領域をコードするヌクレオチド配列を、それらを大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に指向させるリーダーシグナルをコードする遺伝子断片と連結すると、その結果、得られる抗体フラグメントが典型的にはバクテリオファージコートタンパク質(例えば、pIIIまたはpVIII)との融合物として、バクテリオファージの表面上にディスプレイされる。あるいは、抗体フラグメントがλファージカプシド(ファージボディ)の外側にディスプレイされる。ファージに基づくディスプレイ系の利点は、生物学的系であるので、選択したライブラリーメンバーを含有するファージを細菌細胞中で増殖することにより、選択したライブラリーメンバーを簡単に増幅できることである。さらに、ポリペプチド ライブラリーメンバーをコードするヌクレオチド配列がファージもしくはファージベクターに含有されるので、配列決定、発現およびその後の遺伝子操作が比較的、簡単である。
バクテリオファージ抗体ディスプレイライブラリーおよびλファージ発現ライブラリーを構築する方法は当技術分野では周知である(本明細書に参照により組み入れられる、McCaffertyら (1990) Nature, 348:552;Kangら (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 88:4363;Clacksonら (1991) Nature, 352:624;Lowmanら (1991) Biochemistry, 30:10832;Burtonら (1991) Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A., 88:10134;Hoogenboomら (1991) Nucleic Acids Res., 19:4133;Changら (1991) J. Immunol., 147:3610;Breitlingら (1991) Gene, 104:147;Marksら (1991) 前掲;Barbasら (1992) 前掲;HawkinsおよびWinter (1992) J Immunol., 22:867;Marksら, 1992, J Biol. Chem., 267:16007;Lernerら (1992) Science, 258:1313)。
1つの特に有利な手法は、scFvファージライブラリーの利用である(Hustonら, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A., 85:5879-5883;Chaudharyら (1990) Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A., 87:1066-1070;McCaffertyら (1990) 前掲;Clacksonら (1991) Nature, 352:624;Marksら (1991) J. Mol. Biol., 222:581;Chiswellら (1992) Trends Biotech., 10: 80;Marksら (1992) J. Biol. Chem., 267)。バクテリオファージコートタンパク質上にディスプレイしたscFvライブラリーの様々な実施形態が記載されている。ファージディスプレイ手法の精緻化も、例えば、本明細書に参照により組み入れられるWO 96/06213およびWO 92/01047 (Medical Research Councilら)ならびにWO 97/08320 (Morphosys)に記載の通り公知である。
ポリペプチドのライブラリーを作製する他の系は、ライブラリーメンバーのin vitro合成に無細胞の酵素機構を利用する。一方法においては、RNA分子を、標的リガンドに対する選択とPCR増幅とを交互に繰返すことにより選択する(TuerkおよびGold (1990) Science, 249:505;EllingtonおよびSzostak (1990) Nature, 346:818)。類似の技術を利用して予め定めたヒト転写因子と結合するDNA配列を同定することができる(Thiesen and Bach (1990) Nucleic Acids Res., 18:3203;Beaudry and Joyce (1992) Science, 257:635;WO 92/05258およびWO 92/14843)。類似の方法で、大きなライブラリーを作製する方法として、in vitro翻訳を利用してポリペプチドを合成することができる。一般的に安定化ポリソーム複合体を含んでなるこれらの方法は、さらに、WO 88/08453、WO 90/05785、WO 90/07003、WO 91/02076、WO 91/05058、およびWO 92/02536に記載されている。WO 95/22625およびWO 95/11922(Affymax)に開示された、ファージに基づくものでない代わりのディスプレイ系は、ポリソームを利用して選択のためのポリペプチドをディスプレイする。
さらなるカテゴリーの技術は、遺伝子とその遺伝子産物との連関を可能にする人工コンパートメント内のレパートリーの選択に関わる。例えば、所望の遺伝子産物をコードする核酸を油中水(water-in-oil)エマルジョンにより形成したマイクロカプセル内で選択することができる選択系が、WO 99/02671、WO 00/40712およびTawfik & Griffiths (1998) Nature Biotechnol 16(7), 652-6に記載されている。所望の活性を有する遺伝子産物をコードする遺伝子エレメントをマイクロカプセル中にコンパートメント化し、次いで転写及び/または翻訳させてそれらのそれぞれの遺伝子産物(RNAまたはタンパク質)をマイクロカプセル内に産生させる。続いて、所望の活性を有する遺伝子産物を産生する遺伝子エレメントを選別する。この手法は、所望の活性を様々な手段により検出することにより目的の遺伝子産物を選択する。
B.ライブラリー構築
選択を意図するライブラリーは、例えば、上述の当技術分野で公知の技術を利用して構築するか、または市販元から購入することができる。本発明に有用であるライブラリーは、例えばWO 99/20749に記載されている。一度、ベクター系を選択しかつ目的のポリペプチドをコードする1以上の核酸配列をライブラリーベクター中にクローニングすると、突然変異を起こさせた後に発現させることによりクローニングした分子内に多様性を作製することができる;あるいは、コードされたタンパク質を上記のように発現させて選択した後に突然変異させて、さらに選択を繰り返して実施することができる。構造的に最適化したポリペプチドをコードする核酸配列の突然変異は、標準の分子的方法により実施する。特に有用なのはポリメラーゼ連鎖反応、もしくはPCRである(本明細書に参照により組み入れられる、MullisおよびFaloona (1987) Methods Enzymol., 155:335)。熱的に安定なDNA依存DNAポリメラーゼにより触媒されるDNA複製の複数サイクルを利用して目的の標的配列を増幅するPCRは、当技術分野で周知である。様々な抗体ライブラリーの構築は、Winterら (1994) Ann. Rev. Immunology 12,433-55、およびそれに引用された参考文献に考察されている。
PCRは、テンプレートDNA(少なくとも1fg;さらに有用なのは、1-1000ng)および少なくとも25pmolのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて実施する;プライマープールが非常に不均一であるときは、それぞれの配列がプールの小画分の分子によってしか表されず、後の増幅サイクルで量が制限となるので、大量のプライマーを使用するのが有利でありうる。典型的な反応混合物は、DNA 2μl、オリゴヌクレオチドプライマー25pmol、10X PCRバッファー1(Perkin-Elmer、Foster City、CA)2.5μl、1.25μM dNTP 0.4μl、Taq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer、Foster City、CA)0.15μl(または2.5単位)および全容積を25μlとする脱イオン水を含む。鉱油を上に重ね、PCRをプログラマブル・サーマルサイクラー(thermal cycler)を用いて実施する。PCRサイクルの各ステップの長さと温度、ならびにサイクル数は、実施するストリンジェンシー条件によって調節する。アニーリング温度と時間は、プライマーがテンプレートとアニールする予想効率および容認しうるミスマッチの程度の両方により決定する;明らかなように、核酸分子を同時に増幅しかつ突然変異させるときは、少なくとも合成の第1ラウンドでミスマッチが必要となる。プライマーアニーリング条件のストリンジェンシーを最適化する能力は、通常の当業者が備える知識内に十分ある。30℃〜72℃のアニーリング温度を利用する。テンプレート分子の初期変性は通常92℃〜99℃で4分間にて行い、その後、変性(94〜99℃で15秒〜1分間)、アニーリング(温度を以上考察したように決定して;1〜2分間)、および伸張(増幅産物の長さに依存して、72℃、1〜5分間)の20〜40サイクルを実施する。最終伸張は一般的に72℃にて4分間であり、その後、4℃にて不定(0〜24時間)のステップがあってもよい。
C.相補的単一ドメインの組み合わせ
本発明によるドメインが一度選択されると、共有結合および非共有結合による方法を含む当技術分野で公知の様々な方法によって組合わせることができる。
好ましい方法は、例えばscFv分子との接続について記載されたポリペプチドリンカー(Birdら, (1988) Science 242:423-426)の利用を含む。リンカーは好ましくはフレキシブルであり、2つの単一ドメインの相互作用を許す。より低いフレキシビリティのダイアボディ(diabody)で使用されるリンカーも利用することができる(Holligerら, (1993) PNAS (USA) 90:6444-6448)。
相補的可変ドメインを、リンカー以外の方法を利用して組合わせてもよい。例えば、天然または操作したシステイン残基を通して得られるジスルフィド架橋を利用してVH-VL二量体を安定化してもよいし(Reiterら, (1994) Protein Eng. 7: 697-704)または可変ドメイン間の界面をリモデリングして「適合」を改良し、こうして相互作用の安定性を改良することによってもよい(Ridgewayら, (1996) Protein Eng. 7:617-621;Zhuら, (1997) Protein Science 6:781-788)。
免疫グロブリンの可変ドメイン、特に抗体VHおよびVLドメインを接続または安定化する他の技術を適当に使用してもよい。
本発明によれば、二重特異性リガンドは溶液中で「開いた(open)」または「閉じた(closed)」コンフォメーションで存在しうることが予測される。「開いた」コンフォメーションは、それぞれの免疫グロブリンドメインが他のドメインと未会合の形態で存在するコンフォメーションである;言換えれば、それぞれのドメインが溶液中で単一ドメインとして存在する(例えば、リンカー経由で他のドメインと組合わされているにも関わらず)。「閉じた」コンフィギュレーションは、2つのドメイン(例えば、VHおよびVL)が、抗体結合部位を形成する会合したVH-VL対の形態のように、会合した形態で存在するコンフィギュレーションである。例えば、scFvは、VHおよびVLドメインを連結するために使われるリンカーの配置に依って、閉じたまたは開いたコンフォメーションでありうる。もしリンカーが十分にフレキシブルであってドメインが会合するのを許するか、またはドメインらを会合した位置で硬直して保持すれば、恐らくドメインは閉じたコンフォメーションを取りうるであろう。しかし、短いまたは硬直したリンカーを用いてVHとVLドメインを離れたまま保つと、閉じたコンフォメーションを形成するのを阻止することができる。
Fabフラグメントおよび完全抗体は主に閉じたコンフォメーションで存在しうるが、開いたおよび閉じた二重特異性リガンドは、様々な状況のもとで恐らく様々な平衡状態で存在すると理解されよう。標的とリガンドの結合は恐らく平衡のバランスを開いたコンフォメーションの方にシフトする。従って、本発明によるリガンドは溶液中で2つのコンフォメーションで存在しうるのであって、その1つ(開いた形態)は2つの抗原もしくはエピトープと独立して結合できるのに対して、代わりのコンフォメーション(閉じた形態)は1つの抗原もしくはエピトープとしか結合できない;従って、後者のコンフォメーションにおいては複数の抗原もしくはエピトープがリガンドとの結合を競合する。
溶液中で二重特異性リガンドの開いた形態はこのように閉じた形態と平衡して存在しうるが、平衡は閉じた形態の方が有利であろうと予想される;さらに、開いた形態は標的結合により閉じたコンフォメーションに封鎖されうる。好ましくは、従って、本発明の二重特異性リガンドは2つの(開いたおよび閉じた)コンフォメーションの間で平衡して存在する。
本発明による二重特異性リガンドは、開いたまたは閉じたコンフォメーションを有利にするために改変することができる。例えば、ジスルフィド結合によるVH-VL相互作用の安定化は閉じたコンフォメーションを安定化する。さらに、ドメインを接続するために利用するリンカーを、開いた形態が有利になるように構築することができる;例えば、大きなアミノ酸残基の好都合な位置における組込み、またはドメインを物理的に離れた位置に保ちうる適当な硬直した構造の設計などにより、リンカーがドメインの会合を立体的に妨げることができる。
D.二重特異性リガンドの特性決定
二重特異性リガンドとその特異的抗原もしくはエピトープとの結合は、当業者に親しまれかつELISAを含む方法により試験することができる。本発明の好ましい実施形態においては、結合をモノクローナルファージELISAを用いて試験する。
ファージELISAはいずれの適当な方法によって実施してもよい:例示のプロトコルを以下に記述する。
それぞれの選択のラウンドにおいて産生したファージの集団を、選択した抗原もしくはエピトープとの結合についてELISAによりスクリーニングして、「ポリクローナル」ファージ抗体を同定することができる。次いでこれらの集団からの単一感染細菌コロニー由来のファージをELISAによりスクリーニングして、「モノクローナル」ファージ抗体を同定することができる。可溶性抗体フラグメントを抗原もしくはエピトープとの結合についてスクリーニングすることも望ましく、これも、ELISAにより、例えば、CもしくはN末端タグに対する試薬を用いて実施することができる(例えば、Winterら (1994) Ann. Rev. Immunology 12,433-55およびそれに引用された参考文献を参照)。
選択したファージモノクローナル抗体の多様性はまた、PCR産物のゲル電気泳動により(Marksら 1991, 前掲;Nissimら 1994 前掲)、プロービング(Tomlinsonら, 1992 J. Mol. Biol. 227,776)またはベクターDNAの配列決定により評価することもできる。
E.「二重特異性リガンド」の構造
上記のように本明細書においては、抗体を、抗体(例えば、IgG、IgM、IgA、IgA、IgE)または少なくとも1つの互いに相補的であって互いと会合してVH/VL対を形成しうる重鎖および軽鎖可変ドメインを含んでなるフラグメント(Fab、Fv、ジスルフィド連結したFv、scFv、ダイアボディ(diabody))として定義した。抗体は、天然に抗体を産生するいずれの種から誘導してもよいし、または組換えDNA技術により作製してもよい;あるいは、血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクトーマ、酵母または細菌から単離してもよい。
本発明の好ましい実施形態においては、二重特異性リガンドは、抗体の少なくとも1つの単一重鎖可変ドメインおよび抗体の1つの単一軽鎖可変ドメインを含んでなり、2つの領域が会合して相補的VH/VL対を形成することができる。
かかるリガンドの第1および第2の可変ドメインは、同じポリペプチド鎖上にあってもよい。あるいは、それらは別のポリペプチド鎖上にあってもよい。それらが同じポリペプチド鎖上にある場合、それらは、上記のように、優先的にペプチド配列であるフレキシブルリンカーにより連結されていてもよい。
第1および第2の可変ドメインは、共有結合によりまたは非共有結合により会合していてもよい。それらが共有結合により会合している場合、共有結合はジスルフィド結合であってもよい。
可変ドメインを、例えば本明細書に記載のファージディスプレイ技術を用いて、選択されV遺伝子レパートリーから選択する場合、これらの可変ドメインはユニバーサルフレームワーク領域を含むものであり、それらは本明細書に定義した特異的ジェネリックリガンドにより認識することができる。ユニバーサルフレームワーク、ジェネリックリガンドその他の使用はWO 99/20749に記載されている。
V遺伝子レパートリーを利用する場合、ポリペプチド配列の変異は可変ドメインの構造ループ内に位置するのが好ましい。いずれかの可変ドメインのポリペプチド配列をDNAシャッフリングによりまたは突然変異により改変してそれぞれの可変ドメインのその相補的対との相互作用を増強することができる。
本発明の好ましい実施形態においては、「二重特異性リガンド」は1本鎖Fvフラグメントである。本発明の代わりの実施形態においては、「二重特異性リガンド」は抗体のFab領域からなる。
さらなる態様においては、本発明は少なくとも本明細書に定義した「二重特異性リガンドをコードする核酸を提供する。
当業者は、抗原もしくはエピトープの両方が同時に同じ抗体分子と結合しうることを理解するであろう。あるいは、それらは同じ抗体分子との結合を競合しうる。例えば、両方のエピトープが同時に結合する場合、二重特異性リガンドの両方のVHおよびVLドメインは独立してそれらの標的エピトープと結合することができる。ドメインが競合する場合、VHはその標的と結合することができるが、VLがそのコグネイト標的と結合するのと同時に結合できない;またはVLはその標的と結合することができるが、VHがそのコグネイト標的と結合するのと同時に結合できない。
可変領域は、標的抗原もしくはエピトープに対する抗体から誘導することができる。あるいは、それらは、糸状細菌の表面上に発現された単一抗体ドメインのレパートリーから誘導することができる。選択は以下に記載の通り実施することができる。
一般的には、本発明の性能に必要な核酸分子およびベクター構築物は、Sambrookら (1989) 「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning : A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor, USAなどの標準研究室マニュアルに記述されたように構築しかつ操作することができる。
本発明の核酸の操作は典型的には組換えベクターで実施する。
従って、さらなる態様においては、本発明は、少なくとも本明細書に定義した「二重特異性リガンド」をコードする核酸を含んでなるベクターを提供する。
本明細書に使用される場合、ベクターは、異種DNAを発現および/またはその複製の目的で細胞中に導入するために利用する分離したエレメントを意味する。かかるベクターを選択するかまたは構築し、次いで使用する方法は、通常の技術をもつ当業者には周知である。多数のベクターが一般的に入手しうるのであって、それらとしては細菌プラスミド、バクテリオファージ、人工染色体およびエピソームベクターが挙げられる。かかるベクターを単純なクローニングおよび突然変異に利用することができる;あるいは遺伝子発現ベクターを使用する。本発明により使用するベクターを選択して、所望のサイズ、典型的には長さで0.25キロ塩基(kb)〜40kb以上の配列をコードするポリペプチドに適応させることができる。in vitroクローニングをした後のベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換する。それぞれのベクターは様々な機能成分を含有し、一般的に、クローニング(または「ポリリンカー」)部位、複製起点および少なくとも1つの選択マーカー遺伝子を含む。もし所与のベクターが発現ベクターであれば、さらに1以上の次の機能成分:エンハンサーエレメント、プロモーター、転写終結およびシグナル配列を有し、そしてそれぞれはクローニング部位の近くに位置して本発明によるポリペプチドレパートリーメンバーをコードする遺伝子と機能しうる形で連結されている。
クローニングおよび発現ベクターは両方とも、一般的に、1以上の選択した宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含有する。典型的には、クローニングベクターにおいてこの配列はベクターが宿主染色体DNAから独立して複製することを可能にする配列であり、複製起点または自律複製配列を含む。かかる配列は、様々な細菌、酵母およびウイルスに対して周知である。プラスミドpBR322由来の複製起点はほとんどのグラム陰性菌用に適当であり、その2μmプラスミド起点は酵母用に適当であり、そして様々なウイルス起点(例えば、SV40、アデノウイルス)は哺乳類動物細胞のクローニングベクター用に有用である。一般的に、複製起点は哺乳類動物発現ベクターに対して必要でないが、COS細胞などの高レベルのDNAを複製しうる哺乳類細胞においては使用される。
クローニングまたは発現ベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含有することが有利である。この遺伝子は、選択培地で増殖させる形質転換宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする。従って、選択遺伝子を含有するベクターを用いて形質転換されていない宿主細胞は培地中で生存しえない。典型的な選択遺伝子は、抗生物質および他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートまたはテトラサイクリンに対する耐性を与える、栄養要求欠損を補完する、または増殖培地中で利用できない重要な栄養を補給するタンパク質をコードする。
本発明によるベクターの複製は大腸菌(E.coli)で実施するのが最も好都合であるので、大腸菌(E.coli)選択マーカー、例えば、抗生物質アンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子を利用する。これらは、pBR322などの大腸菌(E.coli)プラスミドまたはpUC18またはpUC19などのpUCプラスミドから得ることができる。
発現ベクターは通常、宿主生物が認識しかつ目的のコード配列と機能しうる形で連結されたプロモーターを含有する。かかるプロモーターは誘導性であっても構成的であってもよい。用語「機能しうる形で連結された」は、記載した成分がそれらの意図された方法でそれらが機能することを可能にする関係に並置されたことを意味する。コード配列と「機能しうる形で連結された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列と共存しうる条件のもとで達成される方法でライゲートされている。
真核生物宿主での使用に適当であるプロモーターとしては、例えば、β-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系ならびにtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが挙げられる。細菌系で使用するプロモーターはまた一般的に、コード配列と機能しうる形で連結されたシャイン-デルガーノ(Shine-Delgarno)配列を含有しうる。
好ましいベクターは、ポリペプチドライブラリーメンバーに対応するヌクレオチド配列の発現を可能にする発現ベクターである。従って、第1および/または第2抗原もしくはエピトープによる選択は、ポリペプチドライブラリーメンバーを発現する単一クローンの別々の増殖と発現によりまたはいずれかの選択ディスプレイ系の利用により実施することができる。上記の通り、好ましい選択ディスプレイ系はバクテリオファージディスプレイである。従って、ファージまたはファージミドベクターを利用することができる。好ましいベクターは、大腸菌(E.coli)複製起点(2本鎖複製用)およびまたファージ複製起点(1本鎖DNAの産生用)を有するファージミドベクターである。かかるベクターの操作および発現は当技術分野で周知である(HoogenboomおよびWinter (1992) 前掲;Nissimら (1994) 前掲)。簡単に説明すると、ベクターは、(NからC末端へ)pelBリーダー配列(発現したポリペプチドを細胞膜周辺腔へ向ける)、マルチクローニングサイト(ライブラリーメンバーのヌクレオチドバージョンをクローニングするための)、場合によっては、1以上のペプチドタグ(検出のための)、場合によっては、1以上のTAG停止コドンおよびファージタンパク質pIIIからなる発現カセットの上流に、ファージミドに選択性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子およびlacプロモーターを含有する。従って、大腸菌(E.coli)の様々なサプレッサーおよび非サプレッサー株を用いてかつグルコース、イソプロピルチオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)またはVCS M13などのヘルパーファージの添加により、ベクターは無発現のプラスミドとして複製し、大量のポリペプチドライブラリーメンバーだけを産生するか、またはそのいくつかがそれらの表面上にポリペプチド-pIII融合物の少なくとも1コピーを含有するファージを産生することができる。
本発明によるベクターの構築は、従来のライゲーション技術を使用する。単離したベクターまたはDNA断片を切断し、仕立て、そして所望の形態で再連結して所要のベクターを作製する。もし所望であれば、正しい配列が構築したベクター中に存在することを確認する分析を既知の方法で実施することができる。発現ベクターを構築し、in vitro転写物を調製し、DNAを宿主細胞中に導入し、そして発現と機能を評価する分析を実施するための、適当な方法は当技術分野では公知である。DNA、RNAもしくはタンパク質のサザンもしくはノーザン分析、ウェスタンブロット、ドットブロット、in situハイブリダイゼーション、免疫細胞化学、または核酸もしくはタンパク質分子の配列分析などの従来の方法により、サンプル中の遺伝子配列の存在を検出するか、またはその増幅および/もしくは発現を定量する。当業者は、もし所望であれば、これらの方法を改変しうる方法を容易に想像するであろう。
F.二重特異性リガンド構築に利用するスカフォールド(scaffold)
i. 主鎖コンフォメーションの選択
免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーは全て、それらのポリペプチド鎖に対して類似のフォールドを共有する。例えば、抗体はそれらの一次配列については高度に多様化しているが、配列および結晶学的構造を比較すると、予想と異なり、抗体の6つの抗原結合ループのうちの5つ(Hl、H2、LI、L2、L3)は限られた数の主鎖コンフォメーションまたは正準構造をとることが明らかになっている(ChothiaおよびLesk (1987) J. Mol. Biol., 196:901;Chothiaら (1989) Nature, 342:877)。従って、ループ長さとキー残基の分析により、大部分のヒト抗体に見出されるHI、H2、LI、L2およびL3の主鎖コンフォメーションの予測が可能となっている(Chothiaら (1992) J. Mol. Biol., 227:799;Tomlinsonら (1995) EMBO J., 14:4628;Williamsら (1996) J. Mol. Biol., 264: 220)。H3領域は(Dセグメントの使用により)配列、長さおよび構造の点で遥かに多様であるが、これも短いループ長さに対しては、ループおよび抗体フレームワークのキー位置における長さおよび特定の残基の存在、もしくは残基のタイプに依存する限られた数の主鎖コンフォメーションを形成する(Martinら (1996) J. Mol. Biol., 263:800;Shiraiら (1996) FEBS Letters, 399:1)。
本発明の二重特異性リガンドは、VHドメインのライブラリーおよびVLドメインのライブラリーなどのドメインライブラリーからアセンブルするのが有利である。さらに、本発明の二重特異性リガンドをそれ自身、ライブラリーの形態で提供することができる。本発明の一態様においては、二重特異性リガンドおよび/またはドメインのライブラリーをある特定のループ長さおよびキー残基を選んで設計して、既知であるメンバーの主鎖コンフォメーションを保証する。これらが自然で見出される免疫グロブリンスーパーファミリー分子の真のコンフォメーションであって、上記のように、これらが非機能性である機会を最小化することが有利である。生殖系列V遺伝子セグメントは、抗体またはT細胞受容体ライブラリーを構築するための1つの適当な基本フレームワークとして役立つ;他の配列も利用しうる。変異が低頻度で起こり得て、少数の機能性メンバーが改変した主鎖コンフォメーションを有しうるが、その機能に影響を与えない。
正準構造理論も利用し、リガンドがコードする異なる主鎖コンフォメーションの数を評価し、リガンド配列に基づいて主鎖コンフォメーションを予測し、そして正準構造に影響を与えない多様性のための残基を選ぶ。ヒトVκドメインにおいては、L1ループは4種の正準構造の1つを採り得て、L2ループは単一正準構造を有し、そしてL3ループについてはヒトVκドメインの90%が4もしくは5種の正準構造のうちの1種を採ることがわかっている(Tomlinsonら (1995) 前掲);従って、Vκドメイン単独で、異なる正準構造が組合わさってある範囲の異なる主鎖コンフォメーションを作製することができる。VλドメインがL1、L2およびL3ループに対する異なるある範囲の正準構造をコードし、かつVκおよびVλドメインがHlおよびH2ループに対する複数の正準構造をコードしうるいずれかのVHドメインと対形成しうるのであれば、これら5つのループに対して観察される正準構造組合わせの数は非常に大きい。これは、主鎖コンフォメーションにおける多様性の作製が広範囲の結合特異性の作製のために必須でありうることを示唆する。しかし、単一の既知主鎖コンフォメーションに基づく抗体ライブラリーを構築することにより、予想に反して、実質的に全ての抗原を標的とするのに十分な多様性を作製するために主鎖コンフォメーションの多様性を必要としないことを見出した。さらに驚くべきことに、単一の主鎖コンフォメーションはコンセンサス構造である必要はなく、単一の天然のコンフォメーションを全てのライブラリーの基礎として利用することができる。従って、好ましい態様においては、本発明の二重特異性リガンドは単一の既知主鎖コンフォメーションを持つ。
選ばれる単一主鎖コンフォメーションは、問題の免疫グロブリンスーパーファミリータイプの分子の中でありふれたものであることが好ましい。コンフォメーションがありふれているとは、相当数の天然の分子がそのコンフォメーションを採ることが観察されるときである。従って、本発明の好ましい態様においては、免疫グロブリンドメインのそれぞれの結合ループに対する異なる主鎖コンフォメーションの天然の存在を別々に考察し、次いで天然の異なるループに対する主鎖コンフォメーションの所望の組合わせを持つ可変ドメインを選ぶ。もし利用しうるものがなければ、最も近い等価物を選んでもよい。異なるループに対する主鎖コンフォメーションの所望の組み合わせは、所望の主鎖コンフォメーションをコードする生殖系列遺伝子セグメントを選択することにより作製することが好ましい。選択した生殖系列遺伝子セグメントは自然で頻繁に発現されることがさらに好ましく、そしてそれらが全ての自然の生殖系列遺伝子セグメントのなかで最も頻繁に発現されることが最も好ましい。
二重特異性リガンドまたはそのライブラリーを設計する上で、6つの抗原結合ループのそれぞれに対する異なる主鎖コンフォメーションの出現率を別々に考察することができる。H1、H2、LI、L2およびL3に対して、天然の分子の抗原結合ループの20%〜100%の間で採用される所与のコンフォメーションを選ぶ。典型的には、その観察される出現率は35%以上(すなわち、35%〜100%)そして、理想的には、50%以上またはさらに65%以上である。大多数のH3ループは正準構造を有しないが、それでも正準構造をディスプレイするループの中からありふれた主鎖コンフォメーションを選択するのが好ましい。従って、ループのそれぞれに対して、自然のレパートリーにで最も頻繁に観察されるコンフォメーションを選択する。ヒト抗体において、各ループに対する最も一般的な正準構造(CS)は次の通りである:Hl-CS1(発現レパートリーの79%)、H2-CS3(46%)、L1-VκのCS2(39%)、L2-CS1(100%)、L3-VκのCS1(36%)(計算は70:30のκ:λ比を仮定する、Hoodら (1967) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol, 48:133)。正準構造を有するH3ループに対しては、残基94から残基101までの塩橋(salt-bridge)をもつ7個の残基のCDR3長さ(Kabatら (1991) 「免疫学的に重要なタンパク質の配列(Sequences of proteins of immunological interest)」, U. S. Department of Health and Human Services)が最も普通であると思われる。EMBLデータライブラリー中の少なくとも16種のヒト抗体配列は、このコンフォメーションを形成するために必要なH3長さおよびキー残基ならびに抗体モデル化の基礎として利用しうるタンパク質データバンク中の少なくとも2つの結晶学的構造(2cgrおよび1tet)を備える。この正準構造の組合わせを有する最も頻繁に発現する生殖系列遺伝子セグメントは、VHセグメント3-23(DP-47)、JHセグメントJH4b、VκセグメントO2/O12(DPK9)およびJκセグメントJκ1である。VHセグメントDP45およびDP38も適当である。従って、これらのセグメントを組合わせて、所望の単一の主鎖コンフォメーションをもつライブラリーを構築する基礎として使用することができる。
あるいは、隔離した結合ループのそれぞれに対する異なる主鎖コンフォメーションの天然の存在に基づく単一の主鎖コンフォメーションを選ぶ代わりに、主鎖コンフォメーションの天然の存在の組合わせを単一主鎖コンフォメーションの基礎として利用する。抗体の場合、例えば、2、3、4、5または6個全てのいずれかの抗原結合ループに対する、正準構造組合わせの天然の存在を決定することができる。ここで、選ばれるコンフォメーションは天然の抗体においてありふれていることが好ましく、天然のレパートリーにおいて最も頻繁に観察されることが最も好ましい。従って、ヒト抗体において、例えば、5種の抗原結合ループ、H1、H2、LI、L2およびL3の自然の組合わせを考察するときに、正準構造の最も頻繁な組合わせを決定し、次いで、H3ループに対する最も一般的なコンフォメーションと組合わせて単一の主鎖コンフォメーションを選ぶ基礎とする。
ii. 正準配列の多様化
複数の既知の主鎖コンフォメーションまたは好ましくは単一の既知主鎖コンフォメーションを選択し終わると、構造および/または機能的多様性をもつレパートリーを作製するために、分子の結合部位を変えることにより本発明による二重特異性リガンドまたは本発明で使用するライブラリーを構築することができる。これは、それらの構造および/または機能に十分な多様性を持つ変異体を作製して、その結果、それらがある範囲の活性を提供できるようにすることを意味する。
所望の多様性を、典型的には1以上の位置において選択した分子を変えることにより作製する。変える位置は無作為に選んでもよいが、好ましくは選択する。次いで変異を、現存アミノ酸を天然もしくは合成のいずれかのアミノ酸もしくはその類似体を用いて置換えて非常に多数の変異体を作る無作為化によるか、または、現存アミノ酸を1以上の規定したアミノ酸のサブセットを用いて置換しより限られた数の変異体を作ることによって実施する。
かかる多様性を導入する様々な方法は報告されている。誤差易発性PCR(Hawkinsら (1992) J. Mol. Biol., 226:889)、化学突然変異誘発(Dengら (1994) J Biol. Chem., 269:9533)または細菌変異誘発株(Lowら (1996) J. Mol. Biol., 260:359)を利用して無作為突然変異を分子をコードする遺伝子中に導入することができる。選択した位置に変異を誘発する方法も当技術分野で周知であり、PCR利用のまたは非利用のミスマッチオリゴヌクレオチドまたは変性オリゴヌクレオチドの利用を含む。例えば、抗原結合ループを標的とする突然変異により複数の合成抗体ライブラリーが作製されている。ヒト破傷風トキソイド結合FabのH3領域を無作為化してある範囲の新しい結合特異性が作製されている(Barbasら (1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4457)。無作為または半無作為H3およびL3領域を生殖系列V遺伝子セグメントに付加して、非突然変異フレームワーク領域をもつ大きなライブラリーが作製されている(Hoogenboom & Winter (1992) J. Mol. Biol., 227:381;Barbasら (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4457;Nissimら (1994) EMBO J, 13:692;Griffithsら (1994) EMBO J., 13:3245;De Kruifら (1995) J. Mol. Biol., 248:97)。かかる多様化は、若干数のまたは全ての他の抗原ループを含むまで拡張されている(Crameriら (1996) Nature Med., 2:100;Riechmannら (1995) Bio/Technology, 13:475;Morphosys, WO 97/08320, 前掲)。
ループ無作為化はH3単独に対して近似的に1015より多い構造および他の5グループに対して同様に大きい数の変異体を作製する可能性を有するので、現在の形質転換技術を用いてまたは無細胞系を用いてすら、全ての可能な組み合わせを表現するライブラリーを作ることは実行可能でない。例えば、今日まで構築されている最大のライブラリーの1つでは、この設計のライブラリーの潜在的多様性のごくわずかでしかない6x1010種の異なる抗体が作製された(Griffithsら (1994) 前掲)。
好ましい実施形態においては、分子の所望の機能を作製するか改変するのに直接関わる残基だけを多様化する。多くの分子にとって、その機能は標的と結合することであろう、従って多様性は標的結合部位に集中する一方、分子の全体パッキングに対してまたは選ばれた主鎖コンフォメーションを維持するために重要な残基を変えることは避けるべきである。
抗体ドメインに適用する正準配列の多様性
抗体二重特異性リガンドの場合、標的に対する結合部位はほとんどの場合、抗原結合部位である。従って、非常に好ましい態様においては、本発明は、抗原結合部位の残基だけが変化した抗体二重特異性リガンドのアセンブリーのまたはそれに対するライブラリーを提供する。これらの残基は、ヒト抗体レパートリーにおいては極度に多様であり、高分解能で抗体/抗原複合体と接触することが知られている。例えば、L2においては、天然抗体において位置50および53が多様であって抗原と接触することが知られている。本発明で使用するライブラリーにおける2個の多様化と比較して、対照的に、従来の手法は、Kabatら(1991, 前掲)が規定した対応する相補性決定領域(CDR1)の全ての残基、7個程度の残基を多様化することになろう。このことは、ある範囲の抗原結合特異性を作製するために要する機能的多様性の見地から著しい改善を表す。
自然においては、抗体多様性は2つのプロセス:すなわち、ナイーブな一次レパートリーを作製する生殖系列V、DおよびJ遺伝子の体細胞組換え(いわゆる生殖系列と接合部の多様性)、ならびに得られる再配列V遺伝子の体細胞超変異の結果である。ヒト抗体配列の分析は、一次レパートリーの多様性が抗原結合部位中心に集中するのに対して、体細胞超変異は多様性を一次レパートリーで高度に保存される抗原結合部位の周辺領域に広げることを示す(Tomlinsonら (1996) J. Mol. Biol., 256:813を参照)。この相補性は恐らく配列空間を探索する効率的な方法として進化したものでありかつ、明らかに抗体にとってユニークであるが、容易に他のポリペプチドレパートリーに応用することができる。変える残基は標的との結合部位を形成する残基のサブセットである。標的結合部位の残基の様々な(オーバーラップを含む)サブセットを、もし所望であれば、選択中の様々な段階で多様化する。
抗体レパートリーの場合、抗原結合部位の若干数の、しかし全てでない、残基を多様化した初期「ナイーブな」レパートリーを作製する。本明細書でこの文脈において使用される用語「ナイーブな(naive)」は、予め定めた標的をもたない抗体分子を意味する。これらの分子は、その免疫系がまだ多様な抗原刺激によりチャレンジされていない胎児および新生個体の場合のように、免疫多様化を受けていない個体の免疫グロブリン遺伝子がコードする分子を表す。次にこのレパートリーをある範囲の抗原もしくはエピトープに対して選択する。もし必要であれば、次いでさらなる多様性を初期レパートリーで多様化した領域外に導入することができる。この成熟したレパートリーを改変された機能、特異性またはアフィニティについて選択することができる。
本発明は、二重特異性リガンドまたは二重特異性リガンドのナイーブなライブラリーを構築するための、抗原結合部位における若干数のもしくは全ての残基を変化させた結合ドメインの2つの異なるナイーブなレパートリーを提供する。「一次」ライブラリーは自然の一次レパートリーを模倣し、生殖系列V遺伝子セグメントにおいて多様である(生殖系列多様性)かまたは組換えプロセスを通して多様化されて(接合多様性)、抗原結合部位中心の残基に制限された多様性を有する。これらの多様化される残基は、限定されるものでないが、H50、H52、H52a、H53、H55、H56、H58、H95、H96、H97、H98、L50、L53、L91、L92、L93、L94およびL96を含む。「体細胞」ライブラリーにおいては、多様性は組換えプロセス中に多様化される(接合多様性)かまたは高度に体細胞的に突然変異した残基に制限される。これらの多様化される残基は、限定されるものでないが、H31、H33、H35、H95、H96、H97、H98、L30、L31、L32、L34およびL96を含む。これらのライブラリーの多様化に適当であるとして上に掲げた全ての残基は1以上の抗体-抗原複合体において接触することが知られている。両ライブラリーにおいて、抗原結合部位の全ての残基が変えられるのではないが、もしそうすることが所望であれば、選択中に残りの残基を変えることによりさらなる多様性を組みこむ。当業者には、いずれかのこれらの残基(または抗原結合部位を含む追加の残基)のいずれかのサブセットを、抗原結合部位の初期および/またはその後の多様化に利用しうることは明らかであろう。
本発明に使用するライブラリーの構築において、選んだ位置の多様化は典型的には核酸レベルで実施し、複数の可能なアミノ酸(全てで20種またはそれらのサブセット)をその位置に組込むことができるようにポリペプチドの配列を規定するコード配列を改変することによる。IUPAC命名法を用いると、最も多用なコドンはNNKであり、全てのアミノ酸ならびにTAG停止コドンをコードする。所要の多様性を導入するために、NNKコドンを利用することが好ましい。同じ目的を達成する他のコドンも利用されており、それにはさらなる停止コドンTGAおよびTAAの産生を生じるNNNコドンが挙げられる。
ヒト抗体の抗原結合部位における側鎖多様性の特徴は、ある特定のアミノ酸残基に有利に働く顕著なバイアスである。もしVH、Vκ、およびVλ領域のそれぞれの10箇所の最も多様な位置のアミノ酸組成を合計すると、側鎖多様性の76%以上は、7種の異なる残基だけに由来し、これらの残基はセリン(24%)、チロシン(14%)、アスパラギン(11%)、グリシン(9%)、アラニン(7%)、アスパラギン酸(6%)およびトレオニン(6%)である。主鎖フレキシビリティを与えうる親水性残基および小さい残基に偏ったこのバイアスは恐らく、広範囲の抗原もしくはエピトープと結合するよう素因化された表面の進化を反映し、一次レパートリーの抗体に必要な乱交雑を説明する助けとなろう。
このアミノ酸分布を模倣することが好ましいので、変える位置のアミノ酸分布は好ましくは抗体の抗原結合部位に見られるアミノ酸分布を模倣する。ある範囲の標的抗原に対してある特定のポリペプチド(正確な抗体ポリペプチドでなく)の選択を許すアミノ酸置換におけるかかるバイアスをポリペプチドレパートリーに適用することは容易である。変える位置のアミノ酸分布にバイアスをもたせる様々な方法(トリ-ヌクレオチド変異原性の利用を含む、WO 97/08320を参照)があり、そのなかで、合成が容易であるので好ましい方法は、通常の縮重コドンの利用である。縮重コドンの全ての組合わせ(それぞれの位置において等しい比での単一、二重、三重および四重縮重)がコードするアミノ酸プロフィールを自然アミノ酸利用と比較することにより、最も代表的なコドンを計算することが可能である。コドン(AGT)(AGC)T、(AGT)(AGC)Cおよび(AGT)(AGC)(CT)(すなわち、それぞれIUPAC命名法を用いるとDVT、DVCおよびDVY)は所望のアミノ酸プロフィールに最も近いコドンである:これらは、22%セリンおよび11%チロシン、アスパラギン、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、トレオニンおよびシステインをコードする。従って、ライブラリーは、それぞれの多様化位置においてDVT、DVCまたはDVYコドンを用いて構築することが好ましい。
G:本発明による二重特異性リガンドの用途
本発明の方法により選択した二重特異性リガンドは、in vivo治療および予防上の応用、in vitroおよびin vivo診断上の応用、in vitroアッセイおよび試薬での応用、その他に利用することができる。例えば抗体分子を、当業者に公知の方法によりELISA技術などのアッセイ技術に基づく抗体に利用することができる。
以上に言及したように、本発明により選択した分子は診断、予防および治療方法に使用される。本発明により選択した二重特異性抗体は、診断ではウェスタン分析におよび標準免疫組織化学的方法によるin situタンパク質検出に使用される;これらの応用における使用のために、選択したレパートリーの抗体を当技術分野で公知の技術によって標識することができる。さらに、かかる抗体ポリペプチドを樹脂などのクロマトグラフィ支持体と複合化すると、調製アフィニティクロマトグラフィ法に利用することができる。このような技術は全て当業者に周知である。
本発明による二重特異性リガンドの診断上の用途としては、2つの標的と競合して結合し、2つの標的が同時に結合できない二重特異性リガンドの能力(閉じたコンフォメーション)、または代わりに2つの標的と同時に結合するその能力(開いたコンフォメーション)を利用する、分析物の均一系アッセイが挙げられる。
真の均一系イムノアッセイフォーマットは、診断関係および薬物発見と開発に用いる研究アッセイシステムの製造者が熱心に探し求めている。主な診断関係市場としては、病院、医師事務所および診療所におけるヒト試験、商用基準(commercial reference)研究室、血液バンク、および家庭、非ヒト診断薬(例えば、食品試験、水質試験、環境試験、生物防御、および獣医学試験)、ならびに最終的には研究(薬物開発;基礎研究およびアカデミック研究)が挙げられる。
現在、全てのこれらの市場は、化学発光、ELISA、蛍光または稀にはラジオイムノアッセイ技術などで構築したイムノアッセイシステムを利用している。これらのアッセイフォーマットは分離ステップ(非結合試薬から結合試薬の分離)を必要とする。複数の事例では、数段階の分離ステップが必要である。これらの追加のステップは、試薬および自動化を加え、時間がかかり、かつアッセイの最終成果に影響を与える。ヒトの診断においては、分離ステップを自動化して、問題をカバーできるが、問題を除去することはできない。ロボット、追加の試薬、追加のインキュベーション時間などは、相当な費用と複雑性を付け加える。非常に低レベルの試験分子を用いて文字通り数百万のサンプルを一度に試験する、ハイスループットスクリーニングなどの薬物開発においては、さらなる分離ステップを追加することはスクリーニングの実施能力を失わせうる。しかし、分離を避けることは、読出し結果に過度に多いノイズを生じる。従って、現在のアッセイフォーマットから得られる範囲の感度を提供する真の均一系フォーマットが必要とされる。アッセイは高感度かつ大きな動的範囲で完全に定量的な読出し結果を与えることが有利である。感度は、所要のサンプル量を減少するので、重要な要件である。両方のこれらの特徴は均一系が提供する特徴である。これは、看護試験の点で、およびサンプルが高価である薬物開発において非常に重要である。当技術分野で現在利用しうる不均一系は大量のサンプルと高価な試薬を必要とする。
均一系アッセイの応用としては癌試験があり、この場合、最大のアッセイは前立腺特異的抗原であり、前立腺癌について男性をスクリーニングするのに使用される。他の応用としては受精試験があり、妊娠を試みる女性に対する妊娠のβ-hcgを含む一連の試験を提供する。肝炎、HIV、風疹、ならびに他のウイルスおよび微生物および性感染症を含む感染症疾患に対する試験が挙げられる。血液バンクは、特にHIV、A型、B型、C型、非A型、非B型肝炎の試験を利用する。治療薬モニタリング試験は、有効性および毒性を避けるための患者における処方薬のレベルのモニタリングを含み、それらとしては例えば、不整脈に対するジゴキシン、および精神病性の事例におけるフェノバルビタールレベル;喘息に対するテオフィリンが挙げられる。診断試験はさらに、コカイン、マリファナなどの乱用薬試験に有用である。代謝試験が甲状腺機能、貧血および他の生理学的障害と機能を測定するために利用される。
均一系イムノアッセイフォーマットはさらに、標準臨床化学アッセイの製造に有用である。イムノアッセイと化学アッセイを同じ計器に包含すると、診断試験において非常に有利である。適当な化学アッセイとしては、グルコース、コレステロール、カリウムなどの試験が挙げられる。
均一系イムノアッセイのさらに大きな応用は薬物発見および開発である:ハイスループットスクリーニングとしては超大容積の標的に対するコンビナトリアル化学ライブラリーの試験が挙げられる。シグナルを検出し、次いでポジティブグループをより小さいグループに分割し、そして最終的には細胞において、次いで動物において試験する。均一系アッセイはこれらの試験のタイプの全てにおいて利用することができる。薬物開発、特に動物研究および臨床試験においては、イムノアッセイが多用されている。均一系アッセイはこれらの方法を大いに加速しかつ簡単化する。他の応用としては、食品および飲料試験:肉および他の食品の大腸菌(E.coli)、サルモネラ菌などに対する試験、その他;水処理施設における大腸菌(E.coli)を含む全てのタイプの汚染物に対する試験を含む水質試験;および獣医学的試験が挙げられる。
広い実施形態においては、本発明は、本発明による二重特異性リガンドと結合する検出可能な薬剤を含んでなる結合アッセイであって、該薬剤の検出可能な特性が分析物と二重特異性リガンドとの結合により改変されることを特徴とする前記結合アッセイを提供する。かかるアッセイは、二重特異性リガンドの以上の特性をそれぞれ利用する複数の異なる方法で構成することができる。
二重特異性リガンドが閉じたコンフォメーションである場合、アッセイは薬剤の分析物による直接的もしくは間接的置換に依って、薬剤の検出可能な特性に変化が起こる。例えば、薬剤が検出可能な終点を有する反応を触媒しうる酵素であれば、前記酵素にリガンドが結合してその活性部位を妨害すると、それにより酵素を不活性化しうる。二重特異性リガンドと同様に結合する分析物は、酵素と置換し、その活性部位を遊離させて酵素を活性化する。その後、酵素は基質と反応できるので、検出可能な事象が起こる。代わりの実施形態においては、リガンドが酵素と活性部位の外側で結合して、酵素のコンフォメーションに影響を与えてその活性を改変してもよい。例えば、活性部位の構造をリガンドの結合により束縛するか、または活性に必要な補因子の結合を阻止してもよい。
アッセイの物理的実施は、当技術分野で公知のいずれの形態をとってもよい。例えば、二重特異性リガンド/酵素複合体を試験ストリップ上に提供してもよい;基質を試験ストリップの異なる領域に提供し、分析物を含有する溶媒がリガンド/酵素複合体を通過して移動し、酵素と置換し、酵素を基質域に運んでシグナルを生じてもよい。あるいは、リガンド/酵素複合体を試験スティックもしくは他の固相上に提供し、分析物/基質溶液中に浸漬し、分析物の存在に応答して酵素を溶液中に遊離させてもよい。
分析物のそれぞれの分子は1つの酵素分子を遊離することが可能であるので、所与の時間に作製されるシグナル強度は溶液中の分析物の濃度に依存し、アッセイは定量的である。
閉じたコンフォメーションで分析物を用いるさらなる構成が可能である。例えば、二重特異性リガンドを酵素とアロステリック部位で結合するように構成して、それにより酵素を活性化することができる。かかる実施形態においては、酵素は分析物の不在のもとで活性がある。分析物を加えると酵素と置換し、アロステリック活性化を除去して酵素を不活性化する。
酵素活性を分析物濃度の基準として利用する上記の実施形態においては、酵素の活性化または不活性化は酵素活性の増加または低下を意味し、酵素がシグナル発生反応を触媒する能力として測定される。例えば酵素が、検出可能でない基質の検出可能な形態への変換を触媒してもよい。例えば、当技術分野では、西洋わさびペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)が色素生産または化学発光基質と一緒に広く使用され、市販されている。酵素活性の増加または減少のレベルは、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%のように10%〜100%の間にあり;活性の増加の場合、増加は100%以上、すなわち、200%、300%、500%以上、または、もし阻害された酵素のベースライン活性が不検出であれば、パーセントとして測定できない。
さらなる構成においては、二重特異性リガンドは酵素とでなく、酵素/基質対の基質と結合してもよい。従って、分析物との結合を通して二重特異性リガンドから基質が遊離されるまで、酵素は基質を利用できない。この構成の実施法は、酵素と結合する構成と同様である。
さらに、アッセイは、リガンドと結合するとフルオレセインがクエンチされるようなコンフォメーションで、フルオレセインまたは他の蛍光体などの蛍光分子と結合するように構成することができる。この場合、分析物とリガンドとの結合は蛍光分子と置換しシグナルを生じうる。本発明に有用である蛍光分子の代替物としては、ルシフェリン/ルシフェラーゼなどの発光剤、およびイムノアッセイで通常利用されるHRPなどの薬剤を含む色素生産薬が挙げられる。
アッセイはさらに、「開いた」コンフォメーションの二重特異性リガンドを用いて構成することができる。このコンフォメーションにおいては、二重特異性リガンドは2つの標的と同時に結合することができる。例えば、第1の実施形態においては、酵素が基質と低いアフィニティを有し;かつ酵素または基質が分析物である場合、二重特異性リガンドが酵素および基質と結合するようにアッセイを構成することができる。二重特異性リガンドにより基質と酵素の両方が一緒になると、両者の相互作用が増強されて、シグナルの増強を生じる。
あるいは、二重特異性リガンドが、上記のように、分析物の結合によりクエンチされる蛍光分子と結合してもよい。従って、この実施形態においては、蛍光は分析物が不在のもとで検出可能であるが、分析物の存在のもとではクエンチされる。
かかるアッセイの基本的な実施法は、閉じたコンフォメーションアッセイについて上に提供した通りである。
本発明により調製した二重特異性リガンドの治療および予防上の用途としては、本発明により選択されたリガンドのヒトなどの哺乳類レシピエントへの投与が挙げられる。二重特異性は抗体が多量体抗原と大きなアビディティで結合することを可能にしうる。二重特異性抗体は、腫瘍細胞系統の死滅を媒介する細胞傷害性T細胞を補充する上で、2つの抗原の架橋を可能にすることができる。
少なくとも90〜95%均一性の実質的に純粋な抗体またはその結合タンパク質が、哺乳類動物への投与には好ましく、そして、特に哺乳類動物がヒトであるとき、製薬用途には98〜99%以上の均一性が最も好ましい。部分的にまたは所望の均一性まで精製すると、選択したポリペプチドは診断もしくは治療に(体外を含めて)またはアッセイ方法の開発および実施、免疫蛍光染色などに利用することができる(LefkoviteおよびPernis, (1979および1981) 「免疫学的方法(Immunological Methods)」, Volumes IおよびII, Academic Press, NY)。
本発明の選択した抗体またはその結合タンパク質は典型的には、炎症症状、アレルギー過敏症、癌、細菌もしくはウイルス感染、および自己免疫障害(限定されるものでないが、I型糖尿病、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、クローン病および重症筋無力症)を予防し、抑制しまたは治療する上で用途を見出しうる。
本出願において、用語「予防」は疾患の誘導前の(prior to induction)保護組成物の投与に関わる。「抑制」は疾患の臨床発現前であるが、誘導事象後の組成物の投与を意味する。「治療」は、疾患症候群が明らかになった後の保護組成物の投与に関わる。
疾患から保護しかつ疾患を治療する上での抗体またはその結合タンパク質の有効性をスクリーニングするために利用しうる動物モデル系は入手可能である。感受性マウスにおける全身性エリテマトーデス(SLE)の試験方法は当技術分野で公知である(Knightら (1978) J Exp. Med., 147:1653;Reinerstenら (1978) New Eng. J. Med., 299:515)。重症筋無力症(MG)は、SJL/J雌マウスにおいて他の種由来の可溶性AchRタンパク質を用いて疾患を誘導することにより試験する(Lindstromら (1988) Adv. Immunol., 42:233)。関節炎は、マウスの感受性株において、II型コラーゲンの注射により誘導する(Stuartら (1984) Ann. Rev. Immunol., 42:233)。放線菌熱ショックタンパク質の注射により感受性ラットにアジュバント関節炎を誘導するモデルが記載されている(Van Edenら (1988) Nature, 331:171)。甲状腺炎は、記載(Maronら (1980) J. Exp. Med., 152:1115)のように、サイログロブリンの投与によりマウスに誘導される。インスリン依存性糖尿病(IDDM)は自然に発生するかまたはKanasawaら (1984) Diabetologia, 27:113に記載のようにマウスのある特定の株に誘導することができる。マウスおよびラットのEAEはヒトのMSのモデルとして役立つ。このモデルにおいて、脱髄疾患はミエリン塩基性タンパク質の投与により誘導される(Paterson (1986) 「免疫病理学教科書(Textbook of immunopathology)」, Mischerら, 編, Grune and Stratton, New York, pp.179-213;McFarlinら (1973) Science, 179:478;およびSatohら (1987) J. Immunol., 138:179を参照)。
一般的に、本発明で選択した抗体は、精製した形態で薬理学的に適当な担体と一緒に利用されるであろう。典型的なこれらの担体としては、水またはアルコール/水の溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられ、いずれも塩類および/または緩衝化媒質を含む。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム液、ならびに乳酸加リンゲル液が挙げられる。もしポリペプチド複合体を懸濁液に保つことが必要であれば、適当な生理学的に許容されるアジュバントは、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアルギン酸塩などの粘稠剤を選んでもよい。
静脈内ビヒクルとしては、リンゲルのデキストロース液に基づく、液および栄養補充剤および電解質補充剤が挙げられる。抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなどの保存剤および他の添加剤も存在してよい(Mack (1982) 「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, 第16版)。
本発明の選択したポリペプチドは、別々にまたは他の薬剤と一緒に投与する組成物として用いてもよい。これらとしては、シクロスポリン、メトトレキセート、アドリアマイシンまたはシスプラチンおよび免疫毒素などの様々な免疫治療薬が挙げられる。製薬組成物としては、本発明の選択した抗体、受容体またはそれらの結合タンパク質、またはさらに、異なる標的リガンドを用いて選択したポリペプチドなどの異なる特異性を有する本発明により選択したポリペプチドの組み合わせと、様々な細胞傷害性または他の薬剤とを一緒にした「カクテル」が挙げられ、それらは投与前にプールされていてもされていなくてもよい。
本発明による製薬組成物の投与経路は、当業者に公知のいずれのものであってもよい。限定されるものでないが免疫療法を含む治療法のために、本発明の選択した抗体、受容体またはそれらの結合タンパク質を、標準の技術に従っていずれの患者に投与することもできる。投与はいずれの適当なモードによってもよく、非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、経皮、肺経路経由、または、適当に、カテーテルを用いる直接流入によるのであってもよい。投与の用量と頻度は、患者の年齢、性別および症状、他の薬物の併用投与、反徴候および臨床医が考慮すべき他のパラメーターに依存しうる。
本発明の選択したポリペプチドは凍結乾燥して保存し、使用前に適当な担体で再構成することができる。この技術は通常の免疫グロブリンに有効であることが示されていて、当技術分野で公知の凍結乾燥および再構成技術を使用することができる。当業者は、凍結乾燥と再構成は様々な程度の抗体活性損失を生じうる(例えば、通常の免疫グロブリン、IgM抗体はIgG抗体より大きな活性損失を有しがちである)こと、および使用レベルを上方調節して補償しなければならないことを理解するであろう。
選択した本発明のポリペプチドまたはそのカクテルを含有する組成物を、予防および/または治療処置のために投与することができる。ある特定の治療上の応用においては、選択した細胞の集団の少なくとも部分的な阻害、抑制、モジュレーション、死滅、または複数のその他の測定可能なパラメーターを達成するのに十分な量を「治療上有効な用量」と定義する。この用量を達成するために必要な量は、疾患の重篤度および患者自身の免疫系の全般的状態に依存しうるが、一般的に、体重1キログラム当たり、選択した抗体、受容体(例えば、T細胞受容体)またはそれらの結合タンパク質の0.005〜5.0mgの範囲にあり、さらに通常は0.05〜2.0mg/kg/用量の用量が使用される。従って、予防上の応用には、本発明の選択したポリペプチドまたはそのカクテルを含有する組成物も同様かわずかにそれより低い用量を投与してもよい。
本発明により選択したポリペプチドを含有する組成物を予防および治療上の処置に利用して、哺乳類動物における選択した標的細胞集団の改変、不活性化、死滅または除去を助けることができる。さらに、本明細書に記載した選択したポリペプチドのレパートリーを体外でまたはin vitroで用いて、標的細胞集団を異種細胞コレクションから選択的に死滅し、欠失しまたはさもなければ効果的に除去することができる。哺乳類動物からの血液を体外で選択した抗体、細胞表面受容体またはそれらの結合タンパク質と組合わせて、それにより望ましくない細胞を血液から死滅するかさもなければ除去し、そして標準技術により哺乳類動物へ戻すことができる。
本発明を、説明の目的だけで、以下の実施例においてさらに記載する。
実施例1. ヒト血清アルブミン(HSA)およびβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)に対する二重特異性scFv抗体(K8)の選択
本実施例は、β-galとHSAに対する二重特異性抗体を作る方法であって、生殖系列(ダミー)VHドメインと連結したVκ可変ドメインのレパートリーをβ-galについて選択しかつ生殖系列(ダミー)Vκドメインと連結したVH可変ドメインのレパートリーをHSAとの結合について選択する前記方法を説明する。選択した可変VHHSAおよびVκβ-galドメインを次いで組合わせ、そして抗体をβ-galおよびHSAとの結合について選択する。
4つのヒトファージ抗体ライブラリーを本実験に使用した。
ライブラリー1 生殖系列Vκ/DVT VH 8.46 x 107
ライブラリー2 生殖系列Vκ/NNK VH 9.64 x 107
ライブラリー3 生殖系列VH/DVT Vκ 1.47 x 108
ライブラリー4 生殖系列VH/NNK Vκ 1.45 x 108
全てのライブラリーは、相補性決定領域(CDR2およびCDR3)に組みこまれた側鎖多様性をもつVH(V3-23/DP47およびJH4b)およびVκ(O12/O2/DPK9およびJκ1)の単一ヒトフレームワークに基づく。
ライブラリー1およびライブラリー2はダミーVκ配列を含有するが、VHの配列は位置H50、H52、H52a、H53、H55、H56、H58、H95、H96、H97およびH98(それぞれDVTまたはNNKがコードされた)において多様化されている(図1)。ライブラリー3およびライブラリー4はダミーVH配列を含有するが、Vκの配列は位置L50、L53、L91、L92、L93、L94およびL96(それぞれDVTまたはNNKがコードされた)において多様化されている(図1)。ライブラリーはファージミドpIT2/ScFvフォーマット(図2)であり、ジェネリックリガンドプロテインAおよびプロテインLとの結合について前選択されているので、未選択ライブラリーのクローンの大部分は機能性である。上記ライブラリーのサイズは前選択後のサイズに対応する。ライブラリー1とライブラリー2を混合した後、抗原上で選択して単一VH/ダミーVκライブラリーを得て、かつライブラリー3とライブラリー4を混合して単一Vκ/ダミーVH ライブラリーを形成した。
3ラウンドの選択をβ-galでVκ/ダミーVHライブラリーを用いて実施し、かつ3ラウンドの選択をHSAでVH/ダミーVκライブラリーを用いて実施した。β-galの場合、ファージ力価は第1ラウンドで1.1x106から第3ラウンドで2.0x108まで上昇した。HSAの場合、ファージ力価は第1ラウンドで2x104から第3ラウンドで1.4x109まで上昇した。選択は、KM13ヘルパーファージ(D2とD3ドメインの間にプロテアーゼ切断部位をもつpIIIタンパク質を含有する)を使用しかつファージをPBS中1mg/mlのトリプシンを用いて溶出したことを除くと、Griffithら(1993)が記載の通り実施した。トリプシンの添加はヘルパーファージ(しかしファージミドからではない)から誘導されるpIIIタンパク質を切断し、c-mycタグにおける切断により結合したscFvファージ融合物を溶出し(図2)、それによりファージが機能性scFvを発現するのをさらに強化しかつ対応するバックグラウンドを低下する(Kristensen & Winter、1998)。選択はHSAまたはβ-galで100μg/ml濃度にてコートした免疫チューブを用いて実施した。
結合をチェックするために、それぞれの選択の第3ラウンドから得た24個のコロニーをモノクローナルファージELISAによりスクリーニングした。ファージ粒子はHarrisonら(1996)が記載したように作った。96-ウエルELISAプレートを、100μlのHSAまたはβ-gal(PBS中10μg/ml濃度にて)を用いて一夜、4℃にてコートした。標準ELISAプロトコルに従い(Hoogenboomら, 1991)、抗M13-HRPコンジュゲートにより結合ファージを検出した。クローンの選択により、50μl上清を用いて1.0より大きいELISAシグナルを得た(データは示してない)。
次に、DNAプレップを、QIAプレップ・スピン・ミニプレップキット(QIAprep Spin Miniprep kit)(Qiagen)を用いて、VH/ダミーVκライブラリーからHSA上で選択しかつVκ/ダミーVHライブラリーからβ-gal上で選択して作った。ほとんどの多様性にアクセスするために、DNAプレップを選択の3ラウンドのそれぞれから作りかつ次いでそれぞれの抗原について一緒にプルした。次いでDNAをSalT/NotIを用いて一夜37℃にて消化した。フラグメントをゲル精製した後、β-gal上で選択したVκ/ダミーVHライブラリーからのVκ鎖を、HSA上で選択したVH/ダミーVκライブラリーのダミーVκ鎖の代わりに、ライゲートして、3.3x109クローンのライブラリーを作製した。
このライブラリーを、次いでHSA(第1ラウンド)およびβ-gal(第2ラウンド)、すなわちHSA/β-gal選択、またはβ-gal(第1ラウンド)およびHSA(第2ラウンド)、すなわちβ-gal/HSA選択、のいずれかで選択した。選択は上記の通り実施した。それぞれの場合、第2ラウンド後に、48個のクローンを、モノクローナルファージELISA(上記の通り)および可溶性scFvフラグメントELISAにより、HSAおよびP-galとの結合について試験した。可溶性抗体フラグメントはHarrisonら(1996)に記載の通り作り、ブロッキングバッファーとして2%Tween/PBSを用いかつ結合したscFvをプロテインL-HRPにより検出したことを除くと標準ELISAプロトコルに従った(Hoogenboomら, 1991)。HSA/β-gal選択から得た3クローン(E4、E5およびE8)およびβ-gal/HSAから得た2クローン(K8およびK10)は両方の抗原と結合することができた(データは示してない)。これらのクローンからのscFvを、プライマーLMB3およびpHENseq(表1)を用いてPCR増幅しかつIgnatovichら(1999)に記載の通り配列決定した。配列分析は、全てのクローンが同一であることを明らかにした。従って、二重特異性抗体をコードする1つのクローン(K8)だけを選んで、以後の研究を実施した(図3)。
実施例2. K8抗体の結合特性の特性決定
最初に、K8抗体の結合特性を、モノクローナルファージELISAにより特性決定した。96ウエルプレートを100μlのHSAおよびβ-gal、ならびにアルカリホスファターゼ(APS)、ウシ血清アルブミン (BSA)、ピーナッツ・アグルチニン、リゾチームおよびシトクロムc(交差反応性をチェックするため)(PBS中濃度10μg/mlにて)を用いて一夜、4℃にてコートした。K8クローンからのファージミドを、Harrisonら(1996)が記載の通り、KM13を用いて救出し、ファージを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。標準ELISAプロトコルに従い(Hoogenboomら, 1991)、抗M13-HRPコンジュゲートにより結合ファージを検出した。ファージ表面上にディスプレイすると、二重特異性K8抗体が1.0より大きい吸収シグナルでHSAおよびβ-galと結合することが見出された(図4)。BSAとの強い結合も観察された(図4)。HSAとBSAはアミノ酸レベルで76%相同性であるので、K8抗体がこれらの構造的に関係した両方のタンパク質を認識したのは驚くに当たらない。他のタンパク質との交差反応性は検出されなかった(図4)。
第2に、K8抗体の結合特性を可溶性scFv ELISAで試験した。可溶性scFvフラグメントの産生は、Harrisonら(1996)の記載の通り、IPTGにより誘導した。K8 scFvの発現レベルを決定するため、可溶性抗体フラグメントを50ml誘導液の上清から、Harlow & Lane(1988)に記載の通り、タンパク質およびセファロースカラムを用いて精製した。次いでOD280を測定し、タンパク質濃度をSambrookら(1989)の記載の通り計算した。K8 scFvは上清中に19mg/lにて産生した。
次いで可溶性scFv ELISAを既知濃度のK8抗体フラグメントを用いて実施した。96ウエルプレートを100μlのHSA、BSAおよびβ-gal(10μg/mlにて)を用いておよび100μlのプロテインA(lμg/ml濃度にて)を用いてコートした。50μlのK8 scFvの連続希釈物を適用し、結合した抗体フラグメントをプロテインL-HRPを用いて検出した。ELISA結果は、K8抗体の二重特異性を確証した(図5)。
β-galとの結合がK8 scFv抗体のVκドメインにより決定されかつHSA/BSAとの結合がVHドメインにより決定されることを確証するため、SalI/NotI消化によりK8 scFv DNAからVκドメインをカットし、Sall/Notl消化したダミーVH鎖を含有するpIT2ベクター中にライゲートした(図1および2)。得られるクローンK8Vκ/ダミーVHの結合特性を可溶性scFv ELISAにより分析した。可溶性scFvフラグメントの産生をHarrisonら(1996)の記載のようにIPTGにより誘導し、scFvを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性scFv ELISAは実施例1に記載の通り実施し、結合したscFvをプロテインL-HRPを用いて検出した。ELISA結果は、このクローンがなおβ-galと結合しうるがBSAとの結合は無効化したことを示した(図6)。
実施例3. APSおよびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(K8V κ /V H 2およびK8V κ /V H 4)およびBCL10タンパク質およびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(K8V κ /V H C11)の作製と特性決定
本実施例は、APSおよびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(K8V/VH2およびK8Vκ/VH4)およびBCL10タンパク質およびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(K8Vκ/VHCl1)を作る方法であって、生殖系列(ダミー)Vκドメインと連結したVH可変ドメインのレパートリーを最初にAPSおよびBCL10タンパク質との結合について選択する前記方法を記載する。選択した個々のVHドメイン(VH2、VH4およびVHCll)を次いで個々のβ-galと結合するVκドメイン(K8scFvから、実施例1および2)と組合わせ、抗体を二重特異性について試験する。
実施例1に記載したVH/ダミーVκscFVライブラリーを利用して、APSについて3ラウンドの選択およびBCL10タンパク質について2ラウンドの選択を実施した。BC10タンパク質はアポトーシスの調節に関わり、このタンパク質の突然変異型は複数の腫瘍型において見出されていて、BCL10が一般にヒト癌の病原性に関わりうることを示す(Willisら、1999)。
APSの場合、ファージ力価は第1のラウンドで2.8x105から第3ラウンドで8.0x108に上昇した。BCL10の場合、ファージ力価は第1のラウンドで1.8x105から第3ラウンドで9.2x107に上昇した。選択を、実施例1に記載の通りAPSまたはBCL10(100μg/ml濃度にて)のいずれかをコートした免疫チューブを用いて実施した。
結合をチェックするために、第3ラウンドのAPS選択物からの24個のコロニーおよび第2ラウンドのBCL10選択物からの48個のコロニーを可溶性scFv ELISAによりスクリーニングした。96-ウエルプレートを100μ1のAPS、BCL10、BSA、HSAおよびβ-gal(10μg/ml濃度にて)を用いてPBS中で一夜、4℃にてコートした。可溶性scFvフラグメントの産生をHarrisonら(1996)に記載の通りIPTGにより誘導し、scFvを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性scFv ELISAを実施例1に記載の通り実施し、結合したscFvをプロテインL-HRPを用いて検出した。2クローン(VH2およびVH4)はAPSと結合しかつ1クローン(VHC11)はBCL10に対して特異的であることが見出された(図3、7)。他のタンパク質との交差反応性は観察されなかった。
二重特異性抗体を作製するため、これらのクローンのそれぞれをSalI/NotIを用いて消化してダミーVκ鎖を除去し、そして代わりにK8 scFvからのβ-gal結合Vκドメインを含有するSalI/Notlフラグメントをライゲートした。作製したクローン(K8Vκ/VH2、K8Vκ/VH4およびK8Vκ/VHC11)の結合特性を、上記の通り、可溶性scFv ELISAで試験した。全てのクローンは、他のタンパク質といずれの交差反応性もなく、二重特異性であることを見出した(図8)。
実施例4. APSに対する単一V H ドメイン抗体(V H 2sdおよびV H 4sd)の作製および特性決定
本実施例は、APSに対するVH2およびVH4可変ドメイン(実施例3に記載)は相補的可変ドメインの不在のもとでこの抗原と結合しうることを実証する。
scFvクローンVH2およびVH4(実施例3に記載)のDNAプレップをNcoI/XhoIを用いて消化してVHドメインを切り出した(図2)。次いでこれらのドメインをNcoI/XhoI消化したpIT1ベクター(図2)中にライゲートして遺伝子IIIとのVH単一ドメイン融合体を作製した。
作製したクローン(VH2sdおよびVH4sd)の結合特性を次いで、モノクローナルファージELISAにより試験した。ファージ粒子を、Harrisonら(1996)に記載の通り作製した。96-ウエルELISAプレートを、100μlのAPS、BSA、HSA、β-gal、ユビキチン、α-アミラーゼおよびミオシン(10μg/ml濃度にて)を用いてPBS中で一夜、4℃にてコートした。標準ELISAプロトコルに従い(Hoogenboomら, 1991)、抗M13-HRPコンジュゲートにより結合ファージを検出した。ELISA結果は、繊維状バクテリオファージの表面上にディスプレイすると、VH単一ドメインは特異的にAPSを認識することを実証した(図9)。可溶性VH2sdおよびVH4sdのELISAはファージELISAと同じ結果を与え、これらの単一ドメインも可溶性フラグメントとしてAPSを認識できることを示した(図10)。
実施例5. 単一抗体ドメインのレパートリーから、APSに対する単一V H ドメイン抗体の選択およびβ-galに対する単一V κ ドメイン抗体の選択
本実施例は、バージン単一抗体可変ドメインのレパートリーを相補的可変ドメインの不在のもとでこれらの抗原との結合について選択することにより、APSに対する単一VHドメイン抗体およびβ-galに対する単一Vκドメイン抗体を作る方法を記載する。
2つのヒトファージ抗体ライブラリーを本実験に使用した。
ライブラリー5 NNK VH単一ドメイン 4.08 x 108
ライブラリー6 NNK Vκ単一ドメイン 2.88 x 108
ライブラリーは、相補性決定領域(CDR2およびCDR3)に側鎖多様性が組みこまれたVH(V3-23/DP47およびJH4b)およびVκ(O12/O2/DPK9およびJκ1)に対する単一ヒトフレームワークに基づいている。ライブラリー5のVH配列(相補的Vκ可変ドメインは不在)を位置H50、H52、H52a、H53、H55、H56、H58、H95、H96、H97およびH98(NNKがコードされた)にて多様化する。ライブラリー6のVκ配列(相補的VH可変ドメインは不在)を位置L50、L53、L91、L92、L93、L94およびL96(NNKがコードされた)にて多様化する(図1)。ライブラリーはファージミドpIT1/単一可変ドメインフォーマット(図2)である。
ライブラリー5およびライブラリー6を用いて、APSおよびβ-galについて2ラウンドの選択をそれぞれ実施した。APSの場合、ファージ力価は、第1ラウンドで9.2x105から第2ラウンドで1.1x108まで上昇した。β-galの場合、ファージ力価は、第1ラウンドで2.0x106から第2ラウンドで1.6x108まで上昇した。選択は、実施例1に記載の通りAPSまたはβ-galのいずれかを100μg/ml濃度にてコートした免疫チューブを用いて実施した。
第2のラウンドの後、それぞれの選択から得た48個のクローンをそれぞれの抗原との結合について、可溶性単一ドメインELISAで試験した。96-ウエルプレートを、ライブラリー5から選択したクローンのスクリーニングについては100μlのAPSおよびBSA(ネガティブ対照)(10μg/mlにて)を用いて、かつライブラリー6から選択したクローンのスクリーニングについては100μlのβ-galおよびBSA(ネガティブ対照)(10μg/mlにて)を用いてコートした。可溶性VκおよびVH単一ドメインフラグメントの産生をHarrisonら(1996)に記載のIPTGにより誘導し、そして単一ドメインを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性scFvドメインELISAは実施例1に記載の可溶性scFv ELISAの通り実施し、結合したVκおよびVH単一ドメインをプロテインL-HRPおよびプロテインA-HRPを用いてそれぞれ検出した。ライブラリー5から選択した5つのVH単一ドメイン(VHA10sd、VHA1sd、VHA5sd、VHC5sdおよびVHC11sd)は、APSと結合することを見出しかつライブラリー6から選択した1つのVκ単一ドメイン(VκE5sd)はβ-galと結合することを見出した。どのクローンもBSAと交差反応しなかった(図3、11)。
実施例6. APSおよびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(V κ E5/V H 2およびV κ E5/V H 4)の作製および特性決定
本実施例は、APSおよびβ-galに対する二重特異性scFv抗体(VκE5/VH2およびVκE5/VH4)が、相補的可変ドメインの不在のもとでβ-galとの結合について選択したVκE5sd可変ドメイン(実施例5に記載)を相補的可変ドメインの不在のもとでAPSとの結合について選択したVH2およびVH4可変ドメイン(実施例3に記載)と組合わせることにより作製できることを実証する。
これらの二重特異性抗体を作製するために、VκE5sd(実施例5)を含有するpIT1ファージミドをNcoI/XhoIを用いて消化した(図2)。クローンVH2およびVH4(実施例3)からのVH可変ドメインを含有するNcoI/XhoI断片を次いでファージミド中にライゲートして、scFvクローンVκE5/VH2およびVκE5/VH4をそれぞれ作製した。
産生したクローンの結合特性を可溶性scFv ELISAで試験した。96-ウエルプレートを100μlのAPS、β-galおよびBSA(ネガティブ対照)(10μg/ml濃度にて)を用いてPBS中で一夜4℃でコートした。可溶性scFvフラグメントの産生をHarrisonら(1996)に記載のIPTGにより誘導し、そしてscFvを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性scFvドメインELISAは実施例1に記載の通り実施し、結合したscFvをプロテインL-HRPを用いて検出した。VκE5/VH2およびVκE5/VH4クローンの両方は二重特異性であることを見出した。BSAとの交差反応性は検出されなかった(図12)。
実施例7. 存在するscFv二重特異性抗体をFabフォーマットに変換するベクターの構築
a.C κ ベクターおよびC κ /gIIIベクターの構築
Cκ遺伝子を、Fabライブラリーから選択した個々のクローンA4(Griffithら、1994)から、CkBACKNOTを5'(バック)プライマーとしておよびCKSACFORFLを3'(フォワード)プライマーとして用いて(表1)、PCR増幅した。30サイクルのPCR増幅を、Pfuポリメラーゼを酵素として用いたことを除いてIgnatovichら(1997)に記載の通り実施した。PCR産物をNotI/EcoRIを用いて消化し、Notl/EcoRI消化したベクターpHEN14Vκ(図13)中にライゲートしてCκベクターを作製した(図14)。
遺伝子IIIを、次いで、pIT2 ベクター(図2)からG3BACKSACを5'(バック)プライマーとしておよびLMB2を3'(フォワード)プライマーとして用いて(表1)、PCR増幅した。30サイクルのPCRを上記の通り実施した。PCR産物をSacI/EcoRIを用いて消化し、SacI/EcoRI消化したCκベクター(図14)中にライゲートしてCκ/gIIIファージミドを作製した(図15)。
b.C H ベクターの構築
CH遺伝子を、Fabライブラリーから選択した個々のクローンA4(Griffithら、1994)から、CHBACKNOTを5'(バック)プライマーとしておよびCHSACFORを3'(フォワード)プライマーとして用いて(表1)、PCR増幅した。30サイクルのPCRを上記の通り実施した。PCR産物をNotI/BglIIを用いて消化し、Notl/BglII消化したベクターPACYC4VH(図16)中にライゲートしてCHベクターを作製した(図17)。
実施例8. V κ E5/V H 2 Fabクローンの構築およびその結合特性のV κ E5/V H 2 scFvバージョン(実施例6)と比較
この実施例は、VκとVH可変ドメインが異なるポリペプチド鎖上に位置するときにVκE5/VH2 scFv抗体の二重特異性が保持されることを実証する。さらに、VκE5/VH2 Fabクローンのβ-galおよびAPSとの結合は競合になる。対照的に、VκE5/VH2 scFv抗体は両方の抗原と同時に結合することができる。
VκE5/VH2 Fabを作製するために、VκE5/VH2 scFvクローンからのDNAをSalI/Notlを用いて消化し、その精製したVκE5可変ドメインを含有するDNAフラグメントをSalI/Notl消化したCκベクター中にライゲートした(図14)。ライゲーション産物を用いてコンピテントな大腸菌(Escherichia coli)TG-1細胞を、Ignatovichら(1997)に記載の通り、形質転換し、そして形質転換体(VκE5/Cκ)を1%グルコースおよび100μg/mlアンピシリンを含有するTYEプレート上で増殖した。
VκE5/VH2 scFvクローンからのDNAをまたSfiI/XhoIを用いても消化し、その精製したVH2可変ドメインを含有するDNAフラグメントをSfil/XhoI消化したCHベクター中にライゲートした(図17)。ライゲーション産物を用いてコンピテントな大腸菌(E. coli)TG-1細胞を上記のように形質転換し、そして形質転換体(VH2/CH)を1%グルコースおよび10μg/mlクロラムフェニコールを含有するTYEプレート上で増殖した。
次いでDNAプレップをVκE5/Cκクローンから作り、これを用いてVH2/CHクローンをChungら(1989)に記載の通り形質転換した。形質転換体を1%グルコース、100μg/mlアンピシリンおよび10μg/mlクロラムフェニコールを含有するTYEプレート上で増殖した。
VκE5/CκおよびVH2/CHプラスミドの両方を含有するクローンを次いでIPTGにより誘導して可溶性VκE5/VH2 Fabフラグメントを産生させた。誘導は、クローンを2種の抗生物質(100μg/mlアンピシリンおよび10μg/mlクロラムフェニコール)を含有する培地に維持したことを除いて、Harrisonら(1996)が記載した通り実施し、IPTGの添加後、その温度を25℃にて一夜保った。
可溶性VκE5/VH2 Fabの結合をELISAにより試験した。96-ウエルプレートを、100μlのAPS、β-galおよびBSA(ネガティブ対照)(10μg/ml濃度にて)を用いてPBS中一夜、4℃にてコートした。Fabを含有する上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性Fab ELISAを実施例1に記載の通り実施し、結合したFabをプロテインA-HRPを用いて検出した。ELISAはVκE5/VH2 Fabの二重特異性を実証した(図18)。
産生したVκE5/VH2 Fabをまた、プロテインA-セファロースを用いてHarlow & Lane(1988)が記載した通り、50ml上清から精製し、非還元SDS-PAGEゲル上で泳動した。ゲルのクーマシー染色は、Fabフラグメントに対応する50kDaのバンドを表した(データは示してない)。
競合ELISAを次いで実施し、VκE5/VH2 FabとVκE5/VH2 scFvの結合特性を比較した。96-ウエルプレートを100μlのβ-gal(PBS中10μg/ml濃度にて)を用いて一夜、4℃にてコートした。VκE5/VH2 FabおよびVκE5/VH2 scFvを含有する上清を、プロテインA-HRPの検出時にODが0.2となるように選んで希釈した。50μlの希釈したVκE5/VH2 FabおよびVκE5/VH2 scFv上清を、36、72および180μmolの未変性APSまたは70℃まで10分間加熱して変性したAPSのいずれかとともに室温で1時間インキュベートし、次いで氷上で直接冷却した。ネガティブ対照として、50μlの希釈したVκE5/VH2 FabおよびVκE5/VH2 scFv上清を未変性のまたは変性したBSAとともに同じインキュベーションで処理した。これらのインキュベーション後に、混合物を次いでβ-galでコートしたELISAプレート上において、さらに1時間インキュベートした。結合したVκE5/VH2 FabおよびVκE5/VH2 scFvフラグメントをプロテインA-HRPを用いて検出した。
ELISAはVH2可変ドメインがAPSの変性型を認識することを実証した(図19)。この結果はVH2可変ドメインを含有するどの構築物もAPSコートしたチップと結合できなかったときのBIAcore実験により確証した(データは示してない)。ELISAも明らかに、VκE5/VH2 Fabフラグメントについては変性APSによる非常に効率的な競合が達成されたが、VκE5/VH2 scFvの場合にはβ-galとの結合は競合抗原の影響を受けないことを示した(図19)。これは、VκとVH可変ドメインが独立して挙動するscFvはより開いた構造を表す事実により説明することができよう。かかる自由度はFabフォーマットにおいては制限されうる。
以上に詳述した全ての開示および前記開示に引用した参考文献は、本明細書に参照により組み入れられる。本発明の範囲と精神から逸脱することなく、記載した本発明の方法およびシステムの様々な改変と変法は当業者に明らかであろう。本発明は特定の好ましい実施形態と関連づけて記載されているが、請求項に記載された本発明はかかる特定の実施形態に不当に限定されるものでないことは理解されなければならない。実際、分子生物学または関係分野の業者に明らかである、本発明を実施するために記載したモードの様々な改変は次の請求の範囲に包含されると意図している。