本発明は、半導体表面形状の測定等の用途に用いられる走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法に関する。
半導体回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化が進行し続ける中で、半導体製造工程における検査計測技術や不良解析技術の重要度が増している。半導体の表面形状計測において用いられている走査型プローブ顕微鏡(以下、本明細書中ではSPM;Scanning Probe Microscopeと称す)は、微小な探針の先端を試料表面に近接または間欠的に接触させながら探針を走査することにより、試料表面の形状を原子オーダーで計測する手法として広く知られている。
SPMを用いた表面形状計測においては、検査領域は数百マイクロメートル四方以下の狭い領域に限定される反面、探針を走査するための機構部には高い位置決め精度が要求される。SPMの探針を試料上で高精度に位置決めするための機構部としては、複数のピエゾを円筒状に組み合わせたチューブ型3次元駆動機構や、積層型のピエゾ棒を3軸組み合わせたトライポッド型3次元駆動機構が用いられてきた。しかしながらこれらの探針駆動機構は、原理的に探針動作に円弧エラーが生じてしまう欠点がある。また同時に、1つの走査軸を駆動するための力が他の2軸に影響を及ぼす構造であるため、探針駆動軸の真直度が悪化する。SPMによる計測精度向上に伴い、これらの影響が3次元像の歪曲として顕在化する場合がある。
また、SPMでは試料表面の立体形状を0.1ナノメートル程度の高い分解能で計測できる利点があるが、試料表面における計測点の位置出しや計測動作に時間を要し、充分な計測スループットが得られないため、半導体製造ラインにおいてはインライン(製造工程中)で使用されず、オフラインでの不良解析用途で用いられるのが主流であった。しかしながら、SPMによる計測結果から各種プロセス装置の異常を即座に察知し、各種プロセス装置の処理条件にフィードバックすることができれば、不良品の作り込みを最低限に抑え、半導体製造ラインの製造歩留まりを向上させることができることから、インラインSPMの実現が期待されている。即ち、インラインSPMを実現する場合、SPMが単位時間当たりにどれだけ多くの計測点を処理(計測)できるかが重要な要素であり、現状の半導体製造ラインにおいては、1点当たり20秒以下の処理時間が要求されている。これは計測スループットに換算すると30WPH(Wafer Per Hour)以上に相当する。
探針の位置決め精度を向上させるための探針駆動機構としては、特許文献1で開示されている3次元微小走査機構がある。これは外枠部に対して弾性部材で接続されたYステージ内に、Yステージと弾性部材で接続されたXZステージ(XステージとZステージを兼用)を形成した3軸ステージを3個のボイスコイルモータによって駆動する機構である。全てのステージは同一部材で一体形成されており、各ステージにはボイスコイルモータの駆動力がスピンドルを介して伝えられる。各ステージの変位によらず、それぞれのスピンドルが各ステージの動作方向に対して常に平行に押し当てられる構造となっている。例えばYステージのみが動作した場合、外枠とYステージを接続している弾性部材が全て均等に弾性変形することで、Y軸以外の動作軸に無用な力がることは無い。以上により、探針の位置決めを3軸独立且つ高精度に制御可能な探針走査機構を実現している。
また、特許文献2においては、弾性部材とピエゾ駆動素子を組み合せた1軸平行平板型微動機構が提案されている。これは、固定部(外枠)と移動部(ステージ)を弾性変形部を介して一体形成し、外枠とステージ間に積層タイプのビエゾを挟み込んで固定した機構である。ステージの移動は弾性変形部の変形方向に制限されることから、ステージの移動方向に生じる回転成分(円弧エラー)を排除することができる。ここで提案されている1軸微動機構を複数組み合せることで、SPMの探針走査機構を構成することが可能である。
また特許文献3には、計測スループットを向上させるためのSPMの構成が開示されている。これは、探針の直上に配置された対物レンズとレーザダイオード並びにフォトダイオードによって構成されるアプローチセンサで試料表面位置を検出し、試料表面を探針先端位置に高速に接近させることによって、SPMが計測動作にはいるまでの時間を短縮し、SPMの計測スループットを向上させるものである。特許文献4においても特許文献3と同じ目的で構成されたアプローチセンサの具体例が開示されている。なお、特許文献3及び特許文献4で示されている構成のSPMによれば、試料上の探針接触位置の直上に対物レンズが配置されている装置構成であることから、観察光学系を用いて試料上の計測位置出しを行った後、試料位置を移動させることなく計測動作にかかることが可能であり、SPMの計測スループットを向上させることができる。
特許第3544453号公報
特開2004−191277号公報
特開2003−202284号公報
特開2004−125540号公報
特許文献1に開示されている探針走査機構では、1つのステージを駆動するための駆動素子(ボイスコイルモータ)が4箇所の弾性変形部に力を加える構造であり、ステージが直線運動を行うことができるのは、4箇所の弾性変形部が全て均等に変形した場合に限定される。即ち、ボイスコイルモータ並びにスピンドルとステージが一直線上に配置されており、弾性変形部がステージの左右両側に存在するために、左右の弾性変形部のばね力に不均等が生じていると、その構造上ステージの真直度が低下すると言う問題点がある。本問題点は特許文献2で示されている1軸微動機構にも同様に当てはまる。
また、特許文献1に開示されている探針駆動機構では、XZステージを駆動するためのボイスコイルモータが探針走査機構の上部に配置されているために、XZステージ底面に取り付けられた探針を真上から観察することができないと言う問題点もある。これは、SPMに試料を搭載して測定動作にかかるまでの間に、試料上の測定点を探針走査機構部とは別に設けた検出部(観察光学系)で検出した後に、試料を探針走査機構部まで移動させる必要性が生じ、SPMの計測スループットが低下する原因となる。例えば、計測位置決めを行う観察光学系位置と、探針走査機構部(SPM像計測位置)との間隔が150ミリメートルの場合、同一ウエハ上で計測位置を変える度にウエハを搭載した試料ステージを動作させる必要があり、その都度2秒〜3秒の時間を要する。これは、ウエハ1枚当たりにすると20秒〜30秒間程度となり、SPMの計測スループットを低下させてしまう。計測スループットの低下は、半導体製造ラインにおいて計測結果を各種プロセス装置に即座にフィードバックする用途でSPMを使用する場合に致命的となる。更に、観察光学系で計測位置決めを実施した後に試料ステージを動作させると、試料ステージの位置決め精度の影響によってSPM像計測位置がずれてしまい、所望の計測点のSPM像が得られない問題点もある。
更に、特許文献3並びに特許文献4に開示されているSPMの探針駆動機構では、探針を3次元に駆動させた場合に、探針の位置決め精度が充分に得られず、計測の結果得られた試料の3次元像に歪みが生じてしまう問題点がある。
本発明の第1の目的は、SPMの探針走査を制御する探針駆動機構部において、各駆動軸の真直誤差を低減することで探針位置を高精度に制御することが可能な走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、SPMの探針走査を制御する探針駆動機構部において、駆動軸の移動量を検出することで探針位置を高精度に制御することが可能な走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法を提供することである。
本発明の第3の目的は、SPMの探針位置を高精度に制御することができ、且つ半導体製造ラインにおいて計測結果を各種プロセス装置の処理条件に即時にフィードバックする用途で用いることが可能な、スループットが高い走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法を提供することである。
上記第一の目的は、ピエゾ素子を挟み込み、ピエゾ素子の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式のステージ駆動機構部を、2個一対で備えたステージによって構成した探針駆動機構を備えた走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により達成される。
また上記第二の目的は、ピエゾ素子を挟み込み、ピエゾ素子の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式のステージ駆動機構部を2個一対で備えたステージによって構成した探針駆動機構において、ステージ変位を変位センサで計測し、ステージ変位をサーボ制御する機能を備えた走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により達成される。
また上記第二の目的は、ピエゾ素子を挟み込み、ピエゾ素子の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式のステージ駆動機構部を2個一対で備えたステージによって構成した探針駆動機構において、ステージ変位を変位センサで計測し、ステージの位置決め誤差を検出してSPM像を補正する機能を備えた走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により達成される。
また上記第三の目的は、ピエゾ素子を挟み込み、ピエゾ素子の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式のステージ駆動機構部を、2個一対で備えたステージによって構成した探針駆動機構を備えたSPMにおいて、探針駆動機構部を構成するステージにスルーホールを設け、探針の直上に観察光学系を配置することができるようにした構成の走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により達成される。
また上記第三の目的は、探針を保持しその位置決めを行う探針駆動機構と、探針駆動機構を制御する探針駆動制御部と、試料を保持しその位置決めを行う試料ステージと、試料ステージの動作を制御するステージ制御部と、探針駆動機構のスルーホールを利用して試料表面或いは探針を観察する観察光学系と、観察光学系で得られた光学像を処理する光学像処理部と、探針の先端が試料表面に接触したことを検知する探針たわみ検出部と、SPM像を採取する際の探針走査を制御する探針走査制御部と、SPM像生成部と、半導体製造工程のホストコンピュータと製造工程の情報やSPMの検査結果を受け渡す機能を備えた全体制御部を備えた走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により実現する。
また、上記第三の目的は、探針を保持しその位置決めを行う探針駆動機構と、探針駆動機構を制御する探針駆動制御部と、探針駆動機構のステージ変位を計測して探針駆動機構のステージをサーボ制御するステージ変位検出部と、試料を保持しその位置決めを行う試料ステージと、試料ステージの動作を制御するステージ制御部と、探針駆動機構のスルーホールを利用して試料表面或いは探針を観察する観察光学系と、観察光学系で得られた光学像を処理する光学像処理部と、探針の先端が試料表面に接触したことを検知する探針たわみ検出部と、SPM像を採取する際の探針走査を制御する探針走査制御部と、SPM像生成部と、半導体製造工程のホストコンピュータと製造工程の情報やSPMの検査結果を受け渡す機能を備えた全体制御部を備えた走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法により実現する。
本発明によれば、走査型プローブ顕微鏡の探針の位置決めを高精度に実施することが可能となり、走査型プローブ顕微鏡による計測精度を向上させることができる。また、観察光学系によって計測点を確認し、試料ステージを移動させること無くSPM像を取得できることから、走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法のスループットを向上させることができる。
また、本発明による走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法を半導体製造工程に適用すれば、走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法による計測結果に基づいて製造装置の処理条件を最適化することが可能となることから、半導体製造工程の歩留まりが向上する。更には、半導体製造工程の歩留まりが向上することから、産業廃棄物を低減させる効果もある。
以下、本発明を実現するに好適な実施例について説明する。
本発明の第1の実施例として、図1から図3を用いて本発明によるSPMの構成を説明する。図1において、103は計測対象である半導体ウエハ、104はウエハ103を真空吸着してX、Y、Z方向並びにXY平面内の回転方向にウエハ103を移動するための試料ステージである。試料ステージの動作は、ステージ制御部111によって制御される。探針102は探針ホルダ102’を介して探針駆動機構101によって保持されている。探針駆動機構101は、ウエハ103上において探針102をX、Y、Z方向に精密に位置決めを行う。なお、探針102はシリコン材料から成り、収束イオンビームによってその先端径が十ナノメートル以下に加工されている。探針102はカンチレバーとその先端に形成された探針によって構成されているが、本明細書中ではカンチレバーと探針を併せて単に探針と称す。探針駆動機構101上には、対物レンズ106を備えた観察光学系鏡筒105が配置されている。観察光学系105はその内部に撮像カメラを有しており、対物レンズ106で拡大されたウエハ103表面の光学像は、光学像処理部108を経由してTVモニタ107上に表示される。なお、観察光学系105並びに対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ方向に上下移動するフォーカス軸を備えている。
図2は図1に示した探針駆動機構101の構造を示した説明図であり、図2(a)は探針駆動機構101のXY平面図、図2(b)は探針駆動機構101のA−A’矢視断面図、図2(c)は探針駆動機構101のYZ平面図をそれぞれ示した図である。探針駆動機構101は、ホルダ201及び202とYステージ203が弾性変形部204a、204b、204c、204dを介して同一平面内に一体形成されており、更にYステージ203の同一平面内にXステージ207がYステージ203と直行する形で、弾性変形部208a、208b、208c、208dを介して一体形成された構造となっている。Xステージ207には、対物レンズ106を貫通させるためのスルーホール211が設けられている。ホルダ201、202とYステージ203との間は、積層型ピエゾ素子(以下本実施例では単にピエゾと称する)205、206が接着されており、Yステージ203はピエゾ205、206が等量だけ同時に伸縮することによってY軸方向に駆動される。ピエゾ205と弾性変形部204a及び204bによって構成される駆動機構と、ピエゾ206と弾性変形部204c及び204dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対称な位置に配置されている。
一般的なピエゾ素子(圧電セラミック素子)は、1ボルトの直流電圧を印加することで1ナノメートル程度の変位変化を得ることができ、これを積層することにより、数十マイクロメートル程度の可動量の一軸駆動素子とすることができる。本実施例で用いたピエゾ205、206は共に、最大可動距離が20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。
Yステージ203とXステージ207との間は、ピエゾ209、210が接着されており、Xステージ207はピエゾ209、210が等量だけ同時に伸縮することによってX軸方向に駆動される。ピエゾ209と弾性変形部208a及び208bによって構成される駆動機構と、ピエゾ210と弾性変形部208c及び208dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対称な位置に配置されている。ピエゾ209、210についても、その最大可動距離は20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。
Xステージ207の底面には、Z軸機構部213がYステージ203とXステージ207の可動平面に対して直交する形で取り付けられている。Z軸機構部213は、固定部218、219とZステージ214が弾性変形部215a、215b、215c、215dを介して同一平面内に一体形成されている。固定部218、219とZステージ214との間にはピエゾ216、217が接着されており、Zステージ214はピエゾ216、217が等量だけ同時に伸縮することによってZ軸方向に駆動される。ピエゾ216と弾性変形部215a及び215bによって構成される駆動機構と、ピエゾ217と弾性変形部215c及び215dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの光軸212’に対してXZ平面上で対称な位置に配置されている。ピエゾ216、217の最大可動距離は10マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。探針102は探針ホルダ102’を介してZステージ214に取り付けられており、探針102の先端位置は、対物レンズの視野中央位置212と一致するようになっている。
以上説明したように、本発明による探針駆動機構101では、探針102を3次元的に駆動するためのXステージ207、Yステージ203、Z214ステージの動作が互いに干渉することがなく、それぞれを独立に動作させることが可能である。また、例えばYステージ203において、ピエゾ205を挟み込んで、ピエゾ205の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部204a、204bで構成される一式のステージ駆動機構部が、Yステージ203の左右両側に一対(ピエゾ206、弾性変形部204c、204d)で配置されていることから、ピエゾ205、206がそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、弾性変形部204a、204b、204c、204dを全て均等に変形させることができる。この結果、Yステージ203のアッベの誤差を排除し、Yステージ203の真直度を従来よりも格段に向上させることが可能となる。この動作原理は、Xステージ207、Zステージ214でも全く同様であることは自明である。なお、探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の動作は、探針駆動制御部110により制御される。
なお積層型のピエゾは、電圧を印加した場合の伸縮変位に個体差が生じる場合がある。また同一のピエゾを用いても、印加電位と変位との間にヒステリシス特性が存在する。この場合は、ピエゾ毎に異なるヒステリシス特性を予め計測しておき、所望の変位にするための印加電圧をピエゾ単位で調節して印加すれば良い。更に、本実施例では探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214を動作させるためにピエゾを用いたが、各ステージの動力源(駆動源)はピエゾに限定される訳ではなく、探針102の位置決めを行うに必要なだけの精度・能力を備えたリニアアクチュエータであれば良い。探針駆動機構101の構成材料としては、アルミニウム合金や熱膨張率(線膨張係数)の低い鉄−ニッケル合金等の材料が用いられる。
探針駆動機構101の上部に配置されている観察光学系鏡筒105及び対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ軸方向に上下動が可能であり、対物レンズ106が探針駆動機構101に接触しないように、Xステージ207に設けられたスルーホール211に挿入される。本発明の探針駆動機構101の構成によれば、探針102上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズ106で探針102を直接観察できると同時に、ウエハ103表面を高解像度で観察することが可能である。例えば対物レンズ106の開口率が0.6以上、より好ましくは0.7以上で、作動距離は6ミリメートルの仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が1マイクロメートル以下の条件で鮮明に観察できる。
なお、探針102の位置を固定したまま、対物レンズ106が探針102に接触しない程度に、対物レンズ106と試料ステージ104を同量(例えば1ミリメートル)下降させることにより、対物レンズ106の視野内に配置された探針102の存在の影響を受けることなく、探針102直下のウエハ103上のパターンを観察することも可能である。これは対物レンズ106の開口率が大きく、探針102が対物レンズ106の視野の一部分のみを占める条件の際に得られる光学的現象を利用したものである。
図3は、探針102とウエハ103表面との接触を検知するための探針たわみ検出部の構成を示す説明図で、探針駆動機構101のXZ平面図である。301は、発振波長が600ナノメートル、発振出力0.1ミリワットのレーザダイオードであり、このレーザダイオード301から発振されたレーザ光は、コリメートレンズ302で平行光に整形されてホルダ201に取り付けられたミラー303(図示せず)でY軸方向に折り返され、Yステージ203に取り付けられたミラー304(図示せず)で再びX軸方向に反射され、ミラー305、306を経て探針102の背面に照射される。
探針102の背面で反射されたレーザ光は、ミラー307、308で反射され、Yステージ203に取り付けられたミラー309(図示せず)でY軸方向に折り返され、ホルダ202に取り付けられたミラー310(図示せず)で再びX軸方向に反射され受光器311で受光される。ここで、レーザダイオード301を探針駆動機構101のホルダ201に、受光器311をホルダ202に、ミラー305、306、307、308を図示しない治具によりZステージ214に固定することで、探針102の位置によらず探針のたわみ量を受光器受311のレーザ受光面上におけるレーザ照射位置の変化として検出することができる。受光器311としては、PSD(ポジションセンシティブデバイス)、イメージセンサ、2分割フォトダイオード等が使用できる。
結果的に、探針102とウエハ103が接触して探針102にたわみが生じると、受光器311の受光面上ではY軸方向にレーザ照射位置が移動することとなる。受光器311では、このレーザ照射位置の変化を電圧信号に変換し、探針たわみ検出部109で探針102とウエハ103表面の接触を検知する。
探針たわみ検出部109、探針駆動制御部110、ステージ制御部111は探針走査制御部112に接続されており、全体制御部114によって全ての装置動作が制御され、SPM像生成部では計測対象試料表面の3次元像が生成される。
以上に述べた通り本発明の第一の実施例によれば、SPMの探針を3次元に走査する機構部において、ピエゾを挟み込みその伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式の駆動機構部が、各ステージの左右両側に一対で配置されていることから、各ステージに用いられている2つのピエゾがそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、各ステージの4箇所の弾性変形部を全て均等に変形させることができる。この結果、各ステージのアッベの誤差を低減し、その真直度を従来よりも格段に向上させることが可能となる。
また、探針を走査する3軸の移動動作が互いに干渉することがなく、それぞれの駆動軸を独立に動作させることが可能である。更に、探針上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズで探針を直接観察できると同時に、計測対象物表面を高解像度で観察することができる。これにより、計測対象試料上の計測点を観察光学系で検出した後、即座に計測動作に移ることが可能となる。また、観察光学系で計測対象試料上の計測点を観察しながら計測動作を実行することもできる。
以上第一の実施例によれば、計測精度並びに計測スループットを向上させた、高精度・高速インラインSPMを実現することができる。
続いて、図4、図5を用いて本発明の第2の実施例によるSPMの構成を説明する。図4において、103は計測対象である半導体ウエハ、104はウエハ103を真空吸着してX、Y、Z方向並びにXY平面内の回転方向にウエハ103を移動するための試料ステージである。試料ステージ104の動作は、ステージ制御部111によって制御される。探針102は探針ホルダ115を介して探針駆動機構101によって保持されている。探針駆動機構101は、ウエハ103上において探針102をX、Y、Z方向に精密に位置決めする。なお、探針102はシリコン材料から成り、収束イオンビームによってその先端径が十ナノメートル以下に加工されている。探針102はカンチレバーとその先端に形成された探針によって構成されているが、本明細書中ではカンチレバーと探針を併せて単に探針と称す。探針駆動機構101上には、対物レンズ106を備えた観察光学系鏡筒105が配置されている。観察光学系105はその内部に撮像カメラを有しており、対物レンズ106で拡大されたウエハ103表面の光学像は、光学像処理部108を経由してTVカメラ107上に表示される。なお、観察光学系105並びに対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ方向に上下移動するフォーカス軸を備えている。
図5は、図4に示した探針駆動機構101の構造を示した説明図であり、図5(a)は探針駆動機構101のXY平面図、図5(b)は探針駆動機構101のXZ平面図、図5(c)は探針駆動機構101のYZ平面図をそれぞれ示した図である。探針駆動機構101は、ホルダ201及び202とYステージ203が弾性変形部204a、204b、204c、204dを介して同一平面内に一体形成されており、更にYステージ203の同一平面内にXステージ207がYステージ203と直行する形で、弾性変形部208a、208b、208c、208dを介して一体形成された構造となっている。
Xステージ207には、対物レンズ106を貫通させるためのスルーホール211が設けられている。ホルダ201、202とYステージ203との間は、積層型ピエゾ素子(以下本実施例では単にピエゾと称する)205、206が接着されており、Yステージ203はピエゾ205、206が等量だけ同時に伸縮することによってY軸方向に駆動される。ピエゾ205と弾性変形部204a及び204bによって構成される駆動機構と、ピエゾ206と弾性変形部204c及び204dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対称な位置に配置されている。
一般的なピエゾ素子(圧電セラミック素子)は、1ボルトの直流電圧を印加することで1ナノメートル程度の変位変化を得ることができ、これを積層することにより、数十マイクロメートル程度の可動量の一軸駆動素子とすることができる。本実施例で用いたピエゾ205、206は共に、最大可動距離が20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。
Yステージ203には、図示しない機構部によって少なくともホルダ201、202のどちらか一方に固定されたY軸用静電容量センサ222と、Y軸用静電容量センサ222に対向するターゲット220が設けられている。ターゲット220とY軸用静電容量センサ222との対向面の間隔は200マイクロメートルである。ここで使用したY軸用静電容量センサ222は、ターゲット220と自身の対向面との間隔を0.1ナノメートルの分解能で計測することが可能であり、Yステージ203の移動量の計測を行う。
ターゲット220とY軸用静電容量センサ222はXY平面上において対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を含むY軸上に配置されている。この配置により、対物レンズの視野中央位置212のステージ変位(探針102の先端位置の変位)を計測することができ、Yステージ203の動作にアッベの誤差が生じた場合でも、計測したステージ変位の誤差要因を最小限にとどめることができるが、Yステージ203の動作精度の影響を考慮する必要が無い場合は、上記で述べたターゲット220とY軸用静電容量センサ222の配置に限定される必要は無い。ターゲット220は、Yステージ203を構成する金属材料と電気的な導通が得られる金属材料から成り、Y軸用静電容量センサ222との対向面には、精密研削処理が施されている。
Yステージ203とXステージ207との間は、ピエゾ209、210が接着されており、Xステージ207はピエゾ209、210が等量だけ同時に伸縮することによってX軸方向に駆動される。ピエゾ209と弾性変形部208a及び208bによって構成される駆動機構と、ピエゾ210と弾性変形部208c及び208dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対称な位置に配置されている。ピエゾ209、210についても、その最大可動距離は20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。
Xステージ207には、図示しない機構部によって少なくともホルダ201、202のどちらか一方に固定されたX軸用静電容量センサ223と、X軸用静電容量センサ223に対向するターゲット221が設けられている。ターゲット221とX軸用静電容量センサ223との対向面の間隔は200マイクロメートルである。ここで使用したX軸用静電容量センサ223は、ターゲット221と自身の対向面との間隔を0.1ナノメートルの分解能で計測することが可能であり、Xステージ207の移動量の計測を行う。ターゲット221とX軸用静電容量センサ223はXY平面上において対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を含むX軸上に配置されている。この配置により、対物レンズの視野中央位置212のステージ変位(探針102の先端位置の変位)を計測することができ、Xステージ207の動作にアッベの誤差が生じた場合でも、計測したステージ変位の誤差要因を最小限にとどめることができるが、Xステージ207の動作精度の影響を考慮する必要が無い場合は、上記で述べたターゲット221とX軸用静電容量センサ223の配置に限定される必要は無い。ターゲット221は、Xステージ207を構成する金属材料と電気的な導通が得られる金属材料から成り、X軸用静電容量センサ223との対向面には、精密研削処理が施されている。
Xステージ207の底面には、Z軸機構部213がYステージ203とXステージ207の可動平面に対して直行する形で取り付けられている。Z軸機構部213は、固定部218、219とZステージ214が弾性変形部215a、215b、215c、215dを介して同一平面内に一体形成されている。固定部218、219とZステージ214との間にはピエゾ216、217が接着されており、Zステージ214はピエゾ216、217が等量だけ同時に伸縮することによってZ軸方向に駆動される。ピエゾ216と弾性変形部215a及び215bによって構成される駆動機構と、ピエゾ217と弾性変形部215c及び215dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの光軸212’に対してXZ平面上で対称な位置に配置されている。ピエゾ216、217の最大可動距離は10マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートルである。探針102は探針ホルダ115を介してZステージ214に取り付けられており、探針102の先端位置は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)と一致するようになっている。
探針ホルダ115の一部は、図示しない機構部によって少なくともホルダ201、202のどちらか一方に固定されたZ軸用静電容量センサ224に対向するように構成されている。探針ホルダ115と静電容量センサ224との対向面の間隔は200マイクロメートルである。ここで使用したZ軸用静電容量センサ224は、探針ホルダ115と自身の対向面との間隔を0.1ナノメートルの分解能で計測することが可能であり、Zステージ214の移動量の計測を行う。探針ホルダ115とZ軸用静電容量センサ224はXZ平面上において対物レンズの光軸212’と重なるZ軸上に配置されている。この配置により、対物レンズの視野中央位置212のステージ変位(探針102の先端位置の変位)を計測することができ、Zステージ214の動作にアッベの誤差が生じた場合でも、計測したステージ変位の誤差要因を最小限にとどめることができる。探針ホルダ115は、Zステージ214を構成する金属材料と電気的な導通が得られる金属材料から成り、Z軸用静電容量センサ224との対向面には、精密研削処理が施されている。
以上説明した通り、本発明による第二の実施例による探針駆動機構101では、探針102を3次元的に駆動するためのXステージ207、Yステージ203、Z214ステージの動作が互いに干渉することがなく、それぞれを独立に動作させることが可能である。また、例えばYステージ203において、ピエゾ205を挟み込んで、ピエゾ205の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部204a、204bで構成される一式のステージ駆動機構部が、Yステージ203の左右両側に一対(ピエゾ206、弾性変形部204c、204d)で配置されていることから、ピエゾ205、206がそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、弾性変形部204a、204b、204c、204dを全て均等に変形させることができる。この結果、Yステージ203の真直度を従来よりも格段に向上させることが可能となる。以上の動作原理は、Xステージ207、Zステージ214でも全く同様であることは自明である。
探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の動作は、探針駆動制御部110により制御されおり、本実施例ではY軸用静電容量センサ222、X軸用静電容量センサ223、Z軸用静電容量センサ224で計測された各ステージの移動量をステージ変位検出部128で検出し、探針走査制御部112を介して探針駆動制御部110にフィードバックを行うステージサーボ機能を付加した。積層型のピエゾは、電圧を印加した場合の伸縮変位に個体差が生じる場合がある。また同一のピエゾを用いても、印加電位と変位との間にヒステリシス特性が存在する。これらは探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の位置決め誤差となり、結果的に探針102の位置決め精度低下に繋がることから、ステージサーボ機能を働かせることで、探針駆動機構101の各ステージに使用されているピエゾ素子の可動分解能、または探針駆動機構101の各ステージに使用されている静電容量センサの変位検出分解能程度の精度で探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の位置を制御できる。
本実施例では、前者(ピエゾ素子の可動分解能)が1ナノメートル、後者(静電容量センサの変位検出分解能)が0.1ナノメートルであるため、探針102の走査を1ナノメートルの位置決め精度で制御することができる。なお、探針駆動機構101の構成材料としては、アルミニウム合金や熱膨張率(線膨張係数)の低い鉄−ニッケル合金等の材料が用いられる。
また本実施例では探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214を動作させるためにピエゾを用いたが、各ステージの動力源(駆動源)はピエゾに限定される訳ではなく、探針102の位置決めを行うに必要なだけの精度・能力を備えたリニアアクチュエータであれば良い。
探針駆動機構101の上部に配置されている観察光学系鏡筒105及び対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ軸方向に上下動が可能であり、対物レンズ106が探針駆動機構101に接触しないように、Xステージ207に設けられたスルーホール211に挿入される。本発明の探針駆動機構101の構成によれば、探針102上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズ106で探針102を直接観察できると同時に、ウエハ103表面を高解像度で観察することが可能である。例えば対物レンズ106の開口率が0.7、作動距離は6ミリメートルの仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が1マイクロメートル以下の条件で鮮明に観察できる。
なお、探針102の位置を固定したまま、対物レンズ106が探針102に接触しない程度に、対物レンズ106と試料ステージ104を同量(例えば1ミリメートル)下降させることにより、対物レンズ106の視野内に配置された探針102の存在の影響を受けることなく、探針102直下のウエハ103上のパターンを観察することも可能である。これは対物レンズ106の開口率が大きく、探針102が対物レンズ106の視野の一部分のみを占める条件の際に得られる光学的現象を利用したものである。
探針たわみ検出部109の構成と動作原理は、本発明の第1の実施例で述べた内容(図3)と同一である。探針たわみ検出部109、探針駆動制御部110、ステージ制御部111は探針走査制御部112に接続されており、全体制御部114によって全ての装置動作が制御され、SPM像生成部では計測対象試料表面の3次元像が生成される。
以上に述べた通り本発明の第二の実施例によれば、SPMの探針を3次元に走査する機構部において、ピエゾを挟み込みその伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式の駆動機構部が、各ステージの左右両側に一対で配置されていることから、各ステージに用いられている2つのピエゾがそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、各ステージの4箇所の弾性変形部を全て均等に変形させることができる。
以上の結果、各ステージのアッベの誤差を低減し、その真直度を従来よりも格段に向上させることが可能となる。また、探針を走査する3軸の移動動作が互いに干渉することがなく、それぞれの駆動軸を独立に動作させることが可能である。また、各ステージに取り付けられた静電容量センサによって各ステージの移動量を計測すると共に、計測結果に基づき探針駆動機構のステージをサーボ制御することで、探針位置を精密に位置決めすることが可能となる。あるいは、ステージのサーボ制御を行わず、各ステージに取り付けられた静電容量センサによって各ステージ移動量の計測値に基づき、SPM像生成部においてSPM像を補正することによって精度の高いSPM像を得ることができる。更に、探針上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズで探針を直接観察できると同時に、計測対象物表面を高解像度で観察することができる。これにより、計測対象試料上の計測点を観察光学系で検出した後、即座に計測動作に移ることが可能となる。
以上本発明の第二の実施例によれば、計測精度並びに計測スループットを向上させた、高精度・高速インラインSPMを実現することができる。
なお、本発明の第2の実施例では、探針駆動機構101の各ステージの移動量を検出するために静電容量センサを用いたが、本発明の実施にあたってはこれに限定されるものではなく、光学センサや超音波センサ等、ピエゾ素子の可動分解能と同程度の変位分解能を有するセンサ、または任意の変位計測分解能を有するセンサを用いることができる。また、探針駆動機構101の各ステージにおけるターゲットの取り付け位置は、本実施例で述べた範囲に限定されるものではない。例えば、Yステージ203に取り付けられたターゲット220をXステージ207に取り付け、静電容量センサ222を対向させることによりYステージ203の変位を計測することもできる。
また本実施例では、Yステージ203のターゲット220、並びにXステージ207のターゲット221を、探針駆動機構101の上面(観察光学系105側)に設けたが、探針駆動機構101の底面(Z軸機後部213側)に設けても良い。更には、図8に示す如く、静電容量センサを探針ホルダ部分に配置することもできる。図8において、探針ホルダ125は、Z軸機構部213と同じ材質で形成され、Zステージ214の底面に取り付けられている。
探針ホルダ125の探針保持部126には、探針102が取り付けられており、Y軸用静電容量センサ222と対向するターゲット部130と、X軸用静電容量センサ223と対向するターゲット部131と、Z軸用静電容量センサ224と対向するターゲット部132が設けられている。それぞれの静電容量センサと対向する探針ホルダ125のターゲット部との間隔は、200マイクロメートルとなっている。全ての静電容量センサの変位検出分解能は0.1ナノメートルで、図示しない機構部によって探針駆動機構部101のホルダ201、または202のどちらか一方、または両方に固定されている。探針102の先端位置は、対物レンズ106の光軸212’と一致している。
Y軸用静電容量センサ222は、XY平面上において対物レンズ106の視野中央位置212(探針102の先端位置)を含むY軸上に配置されており、Yステージ203が移動した時のXY平面内におけるY軸方向の移動量を計測する。X軸用静電容量センサ223は、XY平面上において対物レンズ106の視野中央位置212(探針102の先端位置)を含むX軸上に配置されており、Xステージ207が移動した時のXY平面内におけるX軸方向の移動量を計測する。Z軸用静電容量センサ224は、XZ平面において対物レンズ光軸212’と重なる位置に配置されており、Zステージ214が移動した時のZ軸方向の移動量を計測する。
図8に示す如く配置によって、探針駆動機構101のYステージ203、Xステージ207、Zステージ214の各ステージの変位を計測することでも、前述した第2の実施例と同様に、各ステージの動作にピッチング、ヨーイングが生じても、計測したステージ変位の誤差要因を最小限にとどめ、探針102の正確な移動量を計測することができる。
以下、本発明の第3の実施例による探針ホルダの構造を説明し、本発明によるSPMの一連の動作を説明する。図6は、本発明の第2の実施例で用いた探針ホルダ115の変形例である。探針ホルダ116は、Z軸機構部213と同じ材質で形成され、Zステージ214の底面に取り付けられている。探針ホルダ116の探針保持部124には、探針102が取り付けられており、Y軸用静電容量センサ222a、222bと対向するターゲット部117、118と、X軸用静電容量センサ223a、223bと対向するターゲット部119、120と、Z軸用静電容量センサ224a、224b、224cと対向するターゲット部121、122、123が設けられている。それぞれの静電容量センサと対向する探針ホルダ116のターゲット部との間隔は、200マイクロメートルとなっている。全ての静電容量センサの変位検出分解能は0.1ナノメートルで、図示しない機構部によって探針駆動機構部101のホルダ201、または202のどちらか一方、または両方に固定されている。探針102の先端位置は、対物レンズ106の光軸212’と一致している。
Y軸用静電容量センサ222a、222bは、Yステージ203の移動方向と直行方向に並列に配置されており、探針ホルダ116のターゲット部117、118の2箇所の変位を計測することで、Yステージ203が移動した時のXY平面内におけるY軸方向の移動量を計測する。この際、Y軸用静電容量センサ222a、222bとの間で移動量に差異が生じた場合は、Yステージ203を駆動するピエゾ205、206をそれぞれ独立にサーボ制御することによって、Yステージ203の真直誤差を補正することが可能である。なおこれと同時に、Z軸用静電容量センサ224a、224bの変位を計測することによって、Yステージ203のピッチングによる誤差を検知することができる。また、Z軸用静電容量センサ224b、224cの変位を計測することによって、Yステージ203のヨーングによる誤差を検知することが可能である。
X軸用静電容量センサ223a、223bは、Xステージ207の移動方向と直行方向に並列に配置されており、探針ホルダ116のターゲット部119、120の2箇所の変位を計測することで、Xステージ207が移動した時のXY平面内におけるX軸方向の移動量を計測する。この際、X軸用静電容量センサ223a、223bとの間で移動量に差異が生じた場合は、Xステージ207を駆動するピエゾ209、210をそれぞれ独立にサーボ制御することによって、Xステージ207の真直誤差を補正することが可能である。なおこれと同時に、Z軸用静電容量センサ224b、224cの変位を計測することによって、Xステージ207のピッチングによる誤差を検知することができる。また、Z軸用静電容量センサ224a、224bの変位を計測することによって、Xステージ207のヨーングによる誤差を検知することが可能である。
Z軸用静電容量センサ224a、224b、224cは、XY平面内に並列に配置されており、探針ホルダ116のターゲット部121、122、123の3箇所の変位を計測することで、Zステージ214が移動した時のZ軸方向の移動量を計測する。この際、Z軸用静電容量センサ224b、224cとの間で移動量に差異が生じた場合は、Zステージ214を駆動するピエゾ216、217をそれぞれ独立にサーボ制御することによって、Zステージ214の真直誤差を補正することが可能である。なお、Z軸用静電容量センサ224a、224bの変位を計測することによって、Zステージ214のピッチングによる誤差を検知することができる。また、Y軸用静電容量センサ222a、222bの変位またはX軸用静電容量センサ223a、223bの変位を計測することによって、Zステージ214のヨーングによる誤差を検知することが可能である。
特に、Yステージ203、Xステージ207の動作にピッチング、ヨーイングが生じると、探針102をXY平面内で走査した際の平坦性が悪化する原因となり、結果としてウエハ103の表面形状を計測した3次元SPM像における、高さ方向の計測誤差となって顕在化する。本実施例によれば、探針102のXY平面における位置決め誤差を高精度に検出することができ、検出結果に基づいてSPM像生成部113で生成される3次元形状像を補正し、高精度なSPM像を得ることができる。
続いて、図4、図7を用いて本発明によるSPMの動作を説明する。図7(a)は、本発明によるSPMを用いた半導体製造工程の一部を示した図であり、インラインSPMの機能を併せて説明するものである。製造装置A、製造装置Bの順に処理されたウエハは、1ロット単位で製造装置Cの処理に移るのもと、SPMで計測を行ってから製造装置Cの処理に移るものにわかれる。この割合は、SPMのスループット(単位時間当たりのウエハの処理枚数)を考慮して予めオペレータがホストコンピュータに指示する。全ての製造装置とSPMは、半導体製造ラインのホストコンピュータとデータ網で接続されており、ホストコンピュータでは製造中の全ウエハの履歴や工程等が管理される。また、各装置間のウエハの搬送は図示しない搬送装置が行う。例えば、製造装置Aはドライエッチング装置、製造装置Bはレジスト剥離装置、製造装置Cは成膜装置である。
製造装置Bでの処理が終了したウエハは、ホストコンピュータで管理されているウエハの工程管理情報に基づき、予め決められた割合でSPMに搬送される。SPMでは、搬送されたウエハの工程管理情報をホストコンピュータに問合せ、ウエハ上における計測点の座標情報を得た後、計測を行う。SPMでは、計測の終了後ホストコンピュータにウエハ上の各計測点の計測結果を出力し、ウエハは搬送装置によって製造装置Cに搬送される。
ホストコンピュータではSPMから得た計測結果を解析し、必要に応じて各製造装置の処理条件を変更(最適化)する。例えば、SPMでウエハ上の複数の位置でエッチング段差を計測し、そのばらつきから製造装置A(ドライエッチング装置)のエッチング条件の変更等を行う。或いは、SPMの計測結果を解析した結果、ウエハを製造装置Bに戻して再処理を行うこともる。これらの場合の処理条件は、各製造装置における通常の処理条件とは異なる処理条件で実施されるが、この条件はSPMの計測結果に基づいて適宜ホストコンピュータが決定・管理する。以上のフィードバック(状況に応じてはSPMの計測結果に基づいてSPM以降の製造工程の処理条件を決定するフィードフォワードの場合もある)作業には、オペレータが介在する場合がある。
以上の流れの中で、SPMの計測結果に基づいて各製造装置の処理条件を決定(最適化)するに当たり、SPMによる計測精度が高精度である程、各製造装置の処理条件をきめ細かに設定することができる。また、SPMを半導体製造工程のインライン装置として用いるには、SPMの上流の製造装置で処理が終了したウエハが、SPMを経由しないで次の製造装置で処理されるまでの間に、SPMによる計測を終了するのが理想的であり、従ってインラインSPMのスループット向上は必須課題である。
図7(b)は、本発明によるSPMの一連の動作説明図である。以下、図4と併せてSPMの具体的な動作を説明する。SPMの上流工程の製造装置で処理が終了したウエハは、1ロット単位でケースに格納されて半導体製造ラインの搬送装置によってSPMのウエハカセットに搭載される。SPMでは、ウエハケースのバーコードを読み取って、これに対応した工程情報と検査条件を半導体製造ラインのホストコンピュータから取得する。その後、SPMのローダはウエハカセットからウエハを1枚取り出し、ウエハのオリフラが一定の向きとなるようにして試料ステージ104に搭載する。
ウエハ103は試料ステージ104に真空吸着され、図示しない検出器でウエハ103表面に描画されたウエハ番号を読み取った後に、試料ステージ104に搭載された状態で探針駆動機構101の直下に移動される。この時の試料ステージ104のZ軸方向位置は、下死点で行われる。一方でこれまでの間に、観察光学系105は上死点まで上昇し、図示しないレボルバを回転させて対物レンズ106が交換されて、例えば50倍程度の低倍率のアライメント用対物レンズ(図示せず)に取り替えられる。対物レンズ106とアライメント用対物レンズの同焦距離は同一となっている。続いて観察光学系105を降下させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。この焦点合わせ動作は、光学像処理部108の画像認識によって自動で行われる。
続いて、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)更に降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に観察光学系105の焦点位置を移動しておく。
試料ステージ104は、ウエハ103上のアライメントマーク位置がアライメント用対物レンズ(図示せず)の視野に入る程度の位置までXY方向に移動した後、Z方向に徐々に上昇して観察光学系105の焦点位置にウエハ103表面を一致させ、光学像処理部108でアライメントマークを画像認識する。この時、アライメント用対物レンズの開口率が低い条件では、観察光学系105で得られる光学像において探針102が同時に観察されてしまう場合がある。従ってアライメントマークの画像認識は、観察光学系105の視野内において、アライメントマークと探針102とが重ならないような位置で行うのが望ましい。ウエハ103上のアライメントマークは少なくとも2箇所以上の場所で画像認識されることにより、ウエハ103上のパターンと試料ステージ104のXY座標軸との相関を得て、全体制御部114に記憶される。
ウエハ103のアライメント動作中は、観察光学系105を定量降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置が移動していることから、ウエハ103表面と探針102の先端は接触することがない。アライメント動作終了後は、観察光学系105は上死点まで再度上昇し、図示しないレボルバを回転させて高倍率(例えば100倍)の対物レンズ106に取り替えられる。そして観察光学系105を降下させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。この焦点合わせ動作は、光学像処理部108の画像認識によって自動で行われる。更に、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置を移動しておく。なおここでは、ウエハ103のアライメント時に対物レンズを交換する動作を述べたが、観察光学系105に光学像のズーム機能を備えておき、対物レンズを交換することなく観察倍率を変更する構成でも構わない。
全体制御部はホストコンピュータから得た検査情報(座標情報)に基づき、1点目の計測点が観察光学系105視野に入る位置に試料ステージ104をXY方向に移動させる。光学像処理部では、観察光学系105の視野(TVモニタ107上の表示領域)に含まれた計測点(または計測点の周辺パターン)を画像認識し、試料ステージ104のXY軸を微調整することで計測点の位置出しを精密に行う。対物レンズ106の倍率は100倍であり、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置を移動してウエハ103表面を観察することによって、対物レンズ106の視野内に配置された探針102の存在の影響を受けることなく、ウエハ103表面を高解像度で観察することが可能である。例えば対物レンズ106の開口率が0.7の仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が1マイクロメートル以下の条件で鮮明に観察できる。また探針102直下のウエハ103上のパターンを観察することも可能である。これは対物レンズ106の開口率が大きく、探針102が対物レンズ106の視野の一部分のみを占める条件の際に得られる光学的現象を利用したものである。
なお、計測点の位置出しはオペレータがTVモニタ107を観察して、全体制御部から座標を直接指定して行っても良い。その後、観察光学系105を定量上昇させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。
本発明によるSPMによれば観察光学系105の視野内で計測点が決定されてから、以後の計測動作が終了するまでの間、試料ステージ104を移動させる必要が無い。従来のSPMでは、探針の直上に探針駆動機構が存在するために、観察光学系の視野位置とSPM像計測位置が異なっており、計測点をSPM像計測位置に移動させ、再び精密な位置決めを行うためにステージの動作時間が必要であった。或いは、試料ステージ104を移動させることなく計測点と探針を観察する機能を有していても、探針の直上に探針駆動機構が存在するために、観察光学系の開口率を高くすることができず、充分な解像度でウエハ表面のパターンの観察ができなかった。本発明によるSPMによれば、探針駆動機構101にスルーホール211を設けた構造のため、探針102の直上において、高開口率の対物レンズを用いて、試料ステージ104を動作させることなく、計測点と探針を観察することを可能とした。
次に、探針102の先端をウエハ103表面に接触させる動作を述べる。探針駆動機構101は、弾性変形部を有するステージをピエゾで駆動する構造から成る3次元(X、Y、Z)の探針走査機構部であり、その底部には探針ホルダ115に保持された探針102が取り付けられている。探針駆動機構101には、対物レンズ106を非接触で挿入するスルーホールが設けられており、観察光学系105のフォーカス軸(図示せず)を調整することによって、試料ステージ104を移動させることなく探針102とウエハ103表面の観察が可能である。探針駆動機構101の可動領域は、X軸方向が20マイクロメートル、Y軸方向が20マイクロメートル、Z軸方向が10マイクロメートルで、その詳細な構造は図5の通りである。
探針102の先端とウエハ103表面との接触は、探針たわみ検出部109における検出信号をモニタリングしながら、(1)探針駆動機構101のZ軸の高さを上死点まで上昇、(2)試料ステージ104のZ軸を10マイクロメート上昇、(3)探針駆動機構101のZ軸の高さを下死点まで降下、を繰り返すことで達成される。即ち、前述した(3)の過程で探針102の先端がウエハ103の表面に接触した場合、探針たわみ検出部109の検出信号が変化する。探針走査制御部112では、この変化を捉えて両者の接触を検知するが、詳細な動作原理は図3の説明の通りである。
探針102の先端とウエハ103表面との接触を検知後、探針駆動機構101を駆動して探針102を走査しSPM像を採取する。例えば、ウエハ103上の1マイクロメートル四方の領域をX方向に256分割、Y方向に10分割し、探針102を例えば1マイクロメートル上昇させてから、その接触位置をX方向(Y方向)に順次移動させて、探針102とウエハ103表面との接触検知を繰り返す。但しこの接触検知は、試料ステージ104は移動させず、探針駆動機構101の可動範囲で探針102のみを動作させて実施する。
探針駆動機構101の動作は、探針走査制御部112によって探針駆動制御部110を介して制御されている。探針駆動機構101の各移動軸(X、Y、Zステージ)には、図5に示した通り静電容量センサが取り付けられており、各静電容量センサの変位はステージ変位検出部128で検出され、探針走査制御部112を経由してSPM像生成部114に保存される。
SPM像生成部114では、探針102がウエハ103上の各接触点に接触した状態で計測された探針102の変位(探針駆動機構101のZステージ変位)の、XY平面分布像を生成する。探針駆動機構101に用いられているピエゾ素子は、2キロヘルツから3キロヘルツの応答速度で動作可能であり、以上の計測動作は数秒間で終了し、得られたSPM像(データ)は、全体制御部に保存される。
ウエハ103上での計測座標、計測点数は予め決められており、ウエハ103上で他の計測点が残っている場合は、観察光学系105と試料ステージ104を同量降下させ、ステージ104のXY座標を次の計測点の座標に移動させて再び計測動作に移る。ウエハ103上で他の計測点が存在しない場合は、観察光学系105と試料ステージ104を同量降下させ、ウエハ103を試料ステージ104からアンロードする。ウエハケースに計測すべき次のウエハが存在する場合は、それを試料ステージ104にロードして計測を繰り返し、ウエハケース内の全ウエハの計測が終了した場合は、全体制御部114に保存されたデータをホストコンピュータに出力し、図示しない搬送装置がウエハケースを次の処理装置に搬送する。
従来のSPMにおいては、同一ウエハ上で計測位置を変える度に、計測位置決めを行う観察光学系で計測位置を認識し、探針走査機構部(探針102の位置)まで試料ステージを移動させる必要が有った。計測位置決めを行う観察光学系位置と、探針走査機構部(探針102の位置)との間隔が150ミリメートルの場合、試料ステージの動作に2秒〜3秒の時間を要するが、1枚のウエハ上で10点の計測点が存在すると、計測位置決め動作のための試料ステージの動作時間の合計が20秒〜30秒となり、SPMの計測スループットを大きく低下させる要因となっていた。
本発明のSPMの動作によれば、観察光学系105のフォーカスを調整することによって試料ステージ104を移動させることなく探針102とウエハ103表面の観察ができることから、計測位置決め動作にかかる時間を省略することができる。この結果、計測対象ウエハ1枚当たりの一連の装置動作(ウエハをロードし、例えば9点の計測位置でエッチング段差を計測後、ウエハをアンロードする)にかかる時間を2分以下(30WPH)とすることができ、スループットが向上したインラインSPMを実現することができる。
本発明は、半導体ウエハを対象とした表面形状計測の分野で用いられる走査型プローブ顕微鏡を例として説明したが、本発明による精密位置決め機構は、バイオエレクトロニクス分野やマイクロマシニング分野等で用いられる製品や製造装置向けの精密位置決め装置として応用することができる。
本発明の第1の実施例によるSPMの概略構成図を示すブロック図である。
本発明の第1の実施例によるSPMの探針駆動機構の構造図で、図2(a)は探針駆動機構101のXY平面図、図2(b)は探針駆動機構101のA−A’矢視断面図、図2(c)は探針駆動機構101のYZ平面図である。
探針たわみ検出部の正面の断面図である。
本発明の第2の実施例によるSPMの概略構成図を示すブロック図である。
本発明の第2の実施例によるSPMの探針駆動機構の構造図で、図5(a)は探針駆動機構101のXY平面図、図5(b)は探針駆動機構101のXZ平面図、図5(c)は探針駆動機構101のYZ平面図である。
本発明の第3の実施例による探針ホルダの概略構造を示す斜視図である。
図7(a)は、本発明によるSPMを用いた半導体製造工程の一部を示すブロック図、図7(b)は、本発明によるSPMの一連の動作を説明するフロー図である。
本発明の第2の実施例の変形例における探針ホルダの概略構造を示す斜視図である。
符号の説明
101…探針駆動機構、 102…探針、 103…ウエハ、 104…試料ステージ、 105…観察光学系、 106…対物レンズ、 201、202…ホルダ、 203…Yステージ、 204a、204b、204c、204d…弾性変形部、 205、206、209、210、216、217…ピエゾ素子(駆動源)、 207…Xステージ、 211…スルーホール、 214…Zステージ、 220、221…ターゲット、 222、223、224…静電容量センサ、 301…レーザダイオード、 311…受光器。