[go: up one dir, main page]

JP7628404B2 - クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 - Google Patents

クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 Download PDF

Info

Publication number
JP7628404B2
JP7628404B2 JP2020142382A JP2020142382A JP7628404B2 JP 7628404 B2 JP7628404 B2 JP 7628404B2 JP 2020142382 A JP2020142382 A JP 2020142382A JP 2020142382 A JP2020142382 A JP 2020142382A JP 7628404 B2 JP7628404 B2 JP 7628404B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
clad
steel plate
less
base material
clad steel
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2020142382A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2022038084A (ja
Inventor
真知 川
雄介 及川
信二 柘植
潤平 安藤
剛志 橋本
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Stainless Steel Corp filed Critical Nippon Steel Stainless Steel Corp
Priority to JP2020142382A priority Critical patent/JP7628404B2/ja
Publication of JP2022038084A publication Critical patent/JP2022038084A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7628404B2 publication Critical patent/JP7628404B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Pressure Welding/Diffusion-Bonding (AREA)
  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Description

本発明は、接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板とその製造方法および上記クラッド鋼板を用い水素を含むガスを使用する溶接またはガウジングを含む製造工程で製造した溶接構造物に関する。
ステンレス鋼やNi基合金は耐食性に優れることから厳しい腐食環境において適した素材である。上述の腐食環境として、油井環境、海水や汽水に曝されるような高塩化物環境、各種酸溶液に曝されるプラント設備やケミカルタンカー等が例示される。そしてこのような腐食環境において、ステンレス鋼やNi基合金は海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材ポンプ・バルブ類、熱交換器などに使用されている。
一方でステンレス鋼やNi基合金(以下「高合金鋼」と総称する。)は耐食性を確保するためCr、Ni、Moなどの合金元素が多く含有されており、炭素鋼や低合金鋼と比較すると材料コストはもちろん、加工や溶接などのコストも高い。また合金元素の高騰などによって価格が大きく変動することも考えられる。そのため、主にコストの面からその使用が制限される場合がある。
上述のようにコストの面を考慮した場合、加工や溶接などの観点からはクラッド鋼板を材料として使用することが有効である。クラッド鋼板とは、異なる二種類以上の金属を貼り合せた材料をいう。クラッド鋼板は、高合金鋼のみからなる鋼板(以下、「ソリッド鋼板」と称する。)と比較し、高合金鋼を使用する量を低減することができ、材料コストを低減することができるとともに、異材溶接箇所を少なくできるため溶接時の溶材コストなども低下することができる。
また、クラッド鋼板においては、母材に優れた特性を有する材料を貼り合せることで(以下、貼り合せた素材を「合せ材」と記載する。)、合せ材と母材とがそれぞれ有する優れた特性を双方とも得ることができる。
例えば、合せ材に、その使用環境で要求される特性を有する高合金鋼を用い、母材にその使用環境で要求される靭性および強度を有する炭素鋼または低合金鋼を用いた場合が考えられる。このような場合、上述のようにコストを低減することができるだけでなく、ソリッド鋼板と同等の特性と、炭素鋼および低合金鋼と同等の強度および靭性とを確保できる。このため、経済性と機能性とが両立できる。
以上のような経緯から、ステンレス鋼やNi基合金を用いたクラッド鋼板のニーズは、近年各種産業分野で益々高まっている。しかしながら、クラッド鋼板を利用する際には、合せ材と母材との接合部での剥離を防止することが重要である。使用中に合せ材と母材とが剥離すると、所望する耐食性等の特性、および強度が得られない場合がある。また、例えば、構造物の穴あき、倒壊などの危険が生じることも考えられる。そのため、クラッド鋼において合せ材と母材の剥離を防止することは重要である。
特許文献1にはオーステナイト系ステンレスクラッド板において、圧延前の板厚/圧延後の板厚で計算される圧下比を950℃以上で1.5以上とし、900℃以下の温度域における制御圧延において、累積圧下率を50%以上、圧延終了温度を750℃以上とする熱間圧延を行った後に、冷却速度3℃/s以上、冷却停止温度550℃以上とする加速冷却を行い、その後放冷することで母材の低温靭性、HAZ靭性並びに合せ材の耐食性に優れたクラッド鋼板を製造する技術が開示されている。
特許文献1に限らず、高温での圧下比を規定することで接合強度を向上させる技術は多くある。これら文献における接合強度とは製造された鋼板としての強度であり、例えばJIS G 0601のせん断強さ試験などで評価される。
しかしながら、クラッド鋼板は種々の溶接で組み立てられた構造物として実際に使用される。したがって、剥離に対する溶接の影響についても考慮する必要がある。
特許文献2にはオーステナイト系ステンレスクラッド鋼板について、圧延後の焼戻しの温度・時間を規定することで界面のマルテンサイトの遅れ破壊を防止する技術が開示されている。
また、非特許文献1ではSUS316Lおよびインコネル625のクラッドについて、界面のマルテンサイトの水素脆化感受性を評価している。
特許文献3には二相ステンレスクラッド鋼板について厚さ100μmのNiインサート材を挿入し、1240℃又は1200℃に加熱して圧延を実施する技術が実施例によって具体的に開示されている。
特許第6127939号公報 特開平6-7803号公報 特開昭62-110880号公報
櫛田ら,鉄と鋼,Vol.75(1989),p1508
ステンレス鋼やNi基合金を合せ材とするクラッド鋼板では圧延時の加熱中に、CrやNiが合せ材から母材側へ、Cが母材から合せ材側へ拡散することによって、界面に元素の拡散層が生じる。拡散層中は各元素の濃度が徐々に変化するが、元素濃度によってはマルテンサイト変態が開始する温度が高く、マルテンサイト変態が生じる臨界冷却速度が遅い領域で、圧延後の冷却中にマルテンサイトが生じる場合がある。
通常の使用や溶接では界面のマルテンサイトは界面剥離に影響を与えないが、例えば界面のマルテンサイトが厚く、硬度も高いクラッド鋼板について、溶接ガスに水素を用いた溶接を施した場合に、マルテンサイトに水素が入るとともに、構造上の応力や溶接時の変形、溶接部近傍での母材の変態などによって界面に応力が生じ、その複合によって水素脆化が生じる可能性が想定される。
本発明者は、マルテンサイトはその硬度が高いほど水素脆化感受性が高くなること、さらに、拡散層中のマルテンサイト幅が大きいほど微小な水素脆化が大きな界面剥離につながる危険性が高くなることを認識した。さらに本発明者は、溶接時の水素脆化によるクラッドの界面剥離を抑制するためには、界面のマルテンサイトの硬度と幅、鋼中の水素濃度およびマルテンサイトに付加される応力を制御することが解決すべき課題であると知見した。
前記特許文献2に、界面のマルテンサイトの遅れ破壊を防止する技術の開示がある。しかしながら、この技術は製造時の遅れ破壊の防止であり、溶接構造物についての防止技術の開示はない。また焼戻し工程が増えることはコスト増加につながるため、実用上焼戻しなしでの界面のマルテンサイトの耐水素脆化性を向上させる技術が求められるが、その解決手段については開示も示唆もない。
前記非特許文献1には、界面のマルテンサイトの水素脆化感受性の評価方法についての記載はある。しかしながら、実際のクラッド鋼においては、加熱温度と圧下比に応じて拡散層の幅が異なると推定されるが、拡散層の幅と水素脆化感受性の関係についての記載も示唆もない。
クラッド鋼板を製造する際に、界面の元素拡散とそれに伴うCr炭窒化物や金属間化合物の析出を抑制するために、合せ材と母材の間にインサート材を挿入して製造する場合がある(特許文献3参照)。このインサート材として高温でFCC構造であり元素の拡散係数が比較的小さい純NiやNiを多量に含む合金の箔やメッキが使われる場合がある。
本発明者は、鋭意検討の結果、このようなインサート材を挿入すると、Niがオーステナイト安定化元素であることにより上記のマルテンサイト変態が抑制され、溶接時の水素脆化によるクラッドの界面剥離を抑制する傾向にあることを知見した。さらに本発明者は、インサート材の厚みと加熱温度、時間によっては、インサート材を超えて元素が拡散して合せ材とインサート材の界面または母材とインサート材の界面にマルテンサイトが生じ、水素脆化が生じる可能性を想定しインサート材を活用する場合の解決すべき課題と知見した。
前記特許文献3には二相ステンレスクラッド鋼板について100μmのNiインサート材を挿入する場合の技術の開示はあるものの、加熱時間の記載がなく、界面のマルテンサイト相に関する記載もない。
上記記載の課題認識に鑑み、本発明は、接合面の耐水素脆化性が良好な耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物を提供することを目的とする
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のクラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物を要旨とする。
[1]母材と、前記母材に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
前記合せ材は、耐食性合金からなり、
前期母材と合せ材の間にインサート材が挿入された構造であり、
クラッド鋼板の母材とインサート材の界面において、ナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅が5μm以下であることを特徴とするクラッド鋼板。
[2]請求項1に記載のクラッド鋼板において、母材の成分組成が質量%で、C:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有する請求項1に記載のクラッド鋼板。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
[3]前記母材の成分組成が、さらに前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%,Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、[2]に記載のクラッド鋼板。
[4]前記クラッド鋼板の合せ材が、質量%でCr:10%以上を含有するステンレス鋼またはニッケル基合金であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板。
[5]前記インサート材が質量%でNi:20%以上かつCr:10%未満を含有することを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板の製造方法であって、母材と合せ材の間にインサート材を挿入し、圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、1又は2以上の前記クラッド素材を組み立てたクラッド圧延素材について加熱炉内の最高加熱温度Temp(℃)、加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)を用いて式(2)から計算されるクラッド加熱パラメタの値d(μm)が挿入したインサート材の厚みThick(μm)の値未満である加熱の後に熱間圧延を行い、母材と合せ材の界面のナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅を5μm以下とすることを特徴とするクラッド鋼板の製造方法。
d=2.27×10×√(Time)×exp(-1.64×10/(Temp+273))・・・式(2)
[7][1]~[5]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物。
[8]前記クラッド鋼板が、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用されることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板。
本発明によれば、良好な接合面の耐水素脆化性を有するクラッド鋼板を得ることができる。
式(2)の関係が、耐水素脆化特性に及ぼす影響を示す図である。
本発明者らは上記の課題に対し、以下の検討を行なった。具体的には、種々のステンレス鋼およびNi基合金を合せ材とするクラッド鋼板において、インサート材の組成、厚み、素材の加熱温度、加熱時間を変化させて界面の元素拡散と金属組織について調査し、界面の耐水素脆化性との関係を評価した。その結果、以下(a)、(b)の知見を得た。
以下、ナノ硬さとは、ISO 14577に規定する計装化押し込み硬さ試験(ナノインデンテーション試験ともいう。)に準拠して評価した材料の硬さを意味する。
(a)クラッド鋼板の母材とインサート材の界面の近傍のナノ硬さが7GPa以上の領域が薄いほどクラッド鋼板の水素脆化感受性が低くなる傾向にある。このため、ナノ硬さが7GPa以上の領域を5μm以下にすることが有効である。
(b)クラッド鋼板の圧延素材においては、母材となる炭素鋼または低合金鋼と、合せ材となるステンレス鋼またはNi基合金とがインサート材を挟んで接している。界面の合金元素のプロファイルは素材加熱の温度・時間および圧下比によって整理できた。またCrが質量%で10%以上含まれている合せ材を用い、さらにインサート材の厚みを超えてCrが拡散した場合にクラッド鋼板の母材とインサート材の界面の近傍にナノ硬さが7GPa以上の領域が生じることを確認した。これはNiに比べてCrが最も拡散が速く、さらに焼入れ性を高める元素であるため、Crの含有量のみが高くNiなどのオーステナイト安定化元素の含有量が低い領域でマルテンサイト変態が生じるためである。
したがって、接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板を得るためには、インサート材の厚みに応じて加熱時のCr拡散を制御する必要がある。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.本発明の構成
本発明に係るクラッド板は、母材と、母材に接合されたインサート材とインサート材に接合された合せ材とを備える。母材は後述の炭素鋼または低合金鋼からなる。また合せ材は耐食性合金からなり、耐食性合金としてCrを10%以上含有するステンレス鋼やNi基合金などを例示できる。インサート材としてNiを20%以上含有しかつCrを10%未満含有する合金や純Niを例示できる。さらに、前記母材と前記インサート材の界面においてナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅が5μm以下である。
2.クラッド界面の特性
本発明に関わるクラッド鋼板の界面特性について説明する。良好な接合面の耐水素脆化性を有するクラッド鋼板を得るためにはクラッド界面での硬質なマルテンサイト相の生成を抑制する必要がある。
2-1.クラッド鋼板の母材とインサート材界面のナノ硬さ
クラッド鋼板の母材とインサート材の界面においてナノ硬さが7GPa以上の領域の板厚方向の幅は5μm以下とする。ナノ硬さが7GPa以上の領域の板厚方向の幅が5μm超では硬質で水素脆化感受性の高いマルテンサイトの領域が大きいため溶接ガスに水素を含有する溶接を実施した際に界面が剥離する場合がある。好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。ナノ硬さが7GPa以上の領域が小さいほど水素脆化感受性は低くなるため下限は設けない。
3.母材の成分組成
母材は炭素鋼または低合金鋼からなる。また母材の好ましい成分組成は、質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有する鋼板である。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
Cは鋼の強度を向上させる元素であり、0.020%以上含有させることで十分な強度を発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性および靭性の劣化を招く。したがって、C量は0.020~0.200%とする。好ましくは0.040%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。一方上限値は0.100%以下が好ましく、0.080%以下がさらに好ましい。より好ましい範囲は0.040%~0.100%であり、更に好ましい範囲は0.050%~0.080%である。
Siは脱酸に有効であり、また鋼の強度を向上させる元素である。しかしながら、1.00%を超えると鋼の表面性状及び靭性の劣化を招く。したがって、Si量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下である。Siは含有しなくても良い。Siの好ましい含有量下限は0.01%である。
Mnは鋼の強度を上昇させる元素であり、0.10%以上含有させることでその効果が発現する。しかしながら、3.00%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Mn量は0.10~3.00%とする。好ましくは0.50~2.00%であり、更に好ましくは0.90%~1.60%である。
Pは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、P量は0.050%以下とする。好ましくは0.020%以下である。
Sは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、S量は0.050%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
Ceq(炭素当量)は、鋼の成分組成から硬度と溶接性を見積もるために用いられる値であり、式(1)で計算される。Ceqが高いほど硬さは向上し、溶接性は劣化する。Ceqが0.20未満では構造物として十分な強度が得られない。したがって、Ceqは0.20以上とする。好ましくは0.23以上である。Ceqが0.40超では溶接性が劣化し、パス間温度管理や後熱処理が必要になるなど溶接コストが増加する。したがって、Ceqは0.40以下とする。好ましくは0.35以下である。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
前記母材の成分組成にさらに、前記Feの一部に替えて質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%、Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
Niは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってNiを含有する場合、Ni量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいNi含有量下限値は0.01%である。
Crは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCrを含有する場合、Cr量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいCr含有量下限値は0.01%である。
Moは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってMoを含有する場合、Mo量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいMo含有量下限値は0.01%である。
Cuは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCuを含有する場合、Cu量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいCu含有量下限値は0.01%である。
Coは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると熱間での加工性が損なわれて生産性が低下する。したがってCoを含有する場合、Co量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいCo含有量下限値は0.01%である。
SeおよびTeは鋼板中のMn、Si、Al等の酸化しやすい元素が鋼板表面に拡散されて酸化物を形成することを抑制し、鋼板の表面性状やめっき性を高める。しかしながら、合計で0.10%を超えるとこの効果が飽和する。したがって、SeおよびTeを添加する場合はSeとTeの合計量は0.10%以下とする。より好ましくは0.05%以下である。好ましいSe+Te含有量下限値は0.01%である。
Alは鋼の脱酸に効果がある元素である。しかしながら、0.300%を超えると溶接部の靭性の劣化を引き起こす。したがってAlを含有する場合、Al量は0.300%以下とする。好ましくは0.100%以下である。好ましいAl含有量下限値は0.005%である。
Vは炭窒化物を形成することで鋼の強度を上昇させる。しかしながら、0.100%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってVを含有する場合、V量は0.100%以下とする。好ましくは0.050%以下である。好ましいV含有量下限値は0.001%である。
Tiは結晶粒を微細化させて強度を増加させる元素であり、0.001%以上の添加でその効果が発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Ti量は0.001~0.200%とする。好ましくは0.005~0.100%であり、更に好ましくは0.010~0.050%である。
Nbは再結晶温度を上げる元素であり、0.001%以上の添加でその効果が発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Nb量は0.001~0.200%とする。好ましくは0.005~0.100%であり、更に好ましくは0.010~0.050%である。
Caは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0050%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってCaを含有する場合、Ca量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0030%以下である。好ましいCa含有量下限値は0.0003%である。
Bは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.0030%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってBを含有する場合、B量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0020%以下である。好ましいB含有量下限値は0.0003%である。
REMは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0100%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってREMを含有する場合、REM量は0.0100%以下とする。好ましくは0.005%以下である。好ましいREM含有量下限値は0.0003%である。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合せた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有することができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
本発明の母材の成分組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
4.合せ材
本発明の合せ材は、耐食性合金からなる。耐食性合金が、Crを10%以上含有するステンレス鋼またはニッケル基合金であると好ましい。前述のように、耐食性合金はCrを多く含有し、そのCrの拡散によってクラッド界面の焼入れ性が上がりマルテンサイトに変態しやすくなるとともに、母材側の炭素が合せ材側に拡散し、母材側界面に硬質なマルテンサイト相が形成され、接合面の耐水素脆化性を低下させる原因となる。即ち、Crを多く含有する耐食性合金を用いる場合に、本発明の効果が発揮される。合せ材のCr含有量が10%以上であれば、本発明を適用することによる効果が顕著に表れる。Cr含有量が15%以上であればより顕著に効果が発揮できる。
5.インサート材
本発明のインサート材は、質量%でNi:20%以上かつCr:10%未満を含有する合金であると好ましい。前述のようにNiはオーステナイトを安定化しマルテンサイト変態を抑制する元素であり、Crは焼入れ性を高めマルテンサイト変態を促進する元素である。Ni含有量が20%以上かつCr含有量が10%未満のインサート材を用いる場合に本発明の効果が発揮される。Ni含有量は好ましくは30%以上であり、更に好ましくは50%以上である。Ni含有量が多いほどマルテンサイト変態は抑制されるため上限は設けない。またFeマトリックス中のCrの拡散速度はNiの拡散速度よりも速いため、インサート材のCrの含有量が多い場合はNi含有量によらず、母材側でCrのみが高くNiなどのオーステナイト安定化元素の含有量が低い領域が生じてしまう。このためインサート材のCr含有量は10%未満とする。Cr含有量は好ましくは5%未満であり、更に好ましくは1%未満である。Cr含有量が少ないほどマルテンサイト変態は抑制されるため下限は設けない。その他の元素も特に制限はされないが、B、Al、Si、Ti、Nb、Mg、REM、Caは酸化物、炭化物、窒化物を生成しやすい元素であり、界面にそれらの析出物が生じると接合不良部や破断の起点が生じて耐剥離性が低下するため、それぞれ含有量は1%未満とすることが望ましい。
本発明は接合界面組織の制御による接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板および製造方法についての技術であり、合せ材やインサート材の種類・分類は特に規定されない。合せ材の例としてステンレス鋼またはニッケル基合金を例示できる。ステンレス鋼にはオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、二相系ステンレス鋼があり、ニッケル基合金にはインコネル、インコロイ、ハステロイなどの商品名で種々の合金成分がある。またインサート材の例としてNi合金や純Niを例示できる。Ni合金にはインバー合金やパーマロイなどの商品名で種々の合金成分が有る。
6.製造方法
本発明に係るクラッド鋼板の製造方法について説明する。前述のように良好な接合面の耐水素脆化性を得るためには金属組織を制御する必要があるが、そのような金属組織は鋼やインサート材の成分組成と適切な製造条件を組み合わせることで実現できる。
上記のクラッド鋼板において、母材と合せ材の間にインサート材を挿入し、圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、1又は2以上の前記クラッド素材を組み立てたクラッド圧延素材について加熱炉内の最高加熱温度Temp(℃)、加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)を用いて式(2)から計算されるクラッド加熱パラメタの値d(μm)が挿入したインサート材の厚みThick(μm)の値未満である加熱の後に熱間圧延を行い、クラッド鋼板を製造する。
d=2.27×10×√(Time)×exp(-1.64×10/(Temp+273))・・・式(2)
6-1.クラッド素材
クラッド素材は、以下に記載の方法により製造される。まず合せ材と母材について具体的には、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法で母材となる炭素鋼および低合金鋼ならびに合せ材となる耐食性合金を溶製した後、連続鋳造法または造塊-分塊法によりスラブを作成する。得られたスラブを通常用いられる条件で熱間圧延し、熱延板である合せ材及び母材とする。得られた熱延板に対し、必要に応じて、焼鈍、酸洗、研磨などを施してもよい。
上記の合せ材および母材の間にインサート材を挿入し、圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材を組み立てる。インサート材を挿入する方法として、箔を挟んで組み立てる方法や、事前に表面にメッキを着けた母材または合せ材を用いて組み立てる方法などを例示できる。箔を挟んで組み立てる場合、インサート材については、熱間圧延までは上記母材と同様の製造方法とし、さらに冷間圧延を施して所定の厚さに圧延し、必要に応じて焼鈍、酸洗を施す。圧着面を真空にする方法は特に規定されないが、真空中で電子ビーム溶接する方法や、予め真空引き用の穴を開けておき大気中でアーク溶接やレーザー溶接で4周を溶接した後に真空ポンプで真空引きする方法などが例示できる。真空度は0.1Torr以下であれば界面の酸化物などが少ない良好な接合界面が得られ、より好ましくは0.05Torr以下であり、真空度は高いほど接合界面が良好になる傾向が有るため特に下限は設けない。
得られたクラッド素材はそのままクラッド圧延素材として熱間圧延に供してもよいし、2つのクラッド素材の間に剥離剤を塗布して重ねるように組み立てたものをクラッド圧延素材として熱間圧延に供してもよい。2つを重ねる場合は冷却時の板反りを少なくするために母材同士、合せ材同士はそれぞれ等厚であることが望ましい。もちろん、クラッドの組立方式およびインサート材の挿入方法は上記で記述したものに限定する必要はない。
6-2.圧延素材の加熱
続いて、得られたクラッド圧延素材を加熱炉内の最高加熱温度Temp(℃)、加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)を用いて式(2)からd(μm)が計算される。計算されるクラッド加熱パラメタの値d(μm)が、挿入したインサート材の厚みThick(μm)の値未満である加熱をおこなう。d(μm)が挿入したインサート材の厚みThick(μm)を超える場合はCrが母材側まで拡散するため、母材とインサート材の界面近傍においてマルテンサイト変態が生じ得る領域の幅が大きくなり、界面の耐水素脆化性が低下する。好ましくはdが0.7×Thick未満である。
d=2.27×10×√(Time)×exp(-1.64×10/(Temp+273))・・・式(2)
加熱炉内の最高加熱温度Temp(℃)、加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)、インサート材の厚みThick(μm)は上記の関係を満たすように適宜定めれば良いが、界面の耐水素脆化性以外の特性や製造性の観点から以下に好ましい範囲を例示する。
加熱炉内の最高加熱温度Tempは1050以上1250℃以下とするのが好ましい。最高加熱温度Tempが1050℃未満であると熱間加工性が悪化し、接合強度も劣化する。このため、最高加熱温度Tempは1050℃以上であるのが好ましく、1100℃以上であるのがより好ましい。一方、最高加熱温度Tempが1250℃超であると、加熱炉内で鋼片が変形したり熱延時に疵が生じやすくなったり、母材の粒径が大きくなり強度や靭性が低下したりするとともに、界面での拡散が速くなる。このため、最高加熱温度Tempは1250℃以下であるのが好ましく、1200℃未満であるのがより好ましい。
加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)は短いほど界面での元素拡散距離が短くなるため下限は特に設けないが、板厚中央まで温度を均一にさせるには30分以上の加熱が望ましい。
インサート材の厚みThick(μm)は厚いほど合せ材から母材へのCr拡散を抑制するが、インサート材のコストの観点から500μm以下とすることが望ましい。また厚みが薄いと最高加熱温度Tempや加熱時間Timeに制約が生じ製造コストが増加するため30μm以上とすることが望ましい。より望ましくは200μm以下50μm以上である。
上述のように、界面のマルテンサイト相の領域の大きさは、Crの拡散が主に影響する。Cr拡散は数百℃以上の温度で生じるものの、温度が高くなるに連れて拡散距離は指数関数的に大きくなるため、実質的な拡散は素材加熱時間のうち最高温度近傍で保持されている間で生じる。また圧延時および冷却時は板温度が速やかに低下するため拡散は無視できるほど小さい。したがって、Crの拡散には加熱の温度、時間を考慮すれば十分である。
6-3.熱間圧延
加熱した圧延素材は熱間圧延によって目的の板厚まで圧延される。熱間圧延は合せ材の耐食性、母材の強度および靭性など目的とする特性に合わせて適当な圧延条件で実施すればよい。圧延後に焼鈍を実施する場合は、焼鈍温度(℃)および焼鈍時間(分)を用いて式(2)で計算される値がインサート材の厚みThick(μm)を圧下比で除した値未満とする必要がある。ここで圧下比とはクラッド素材の厚さ/製品厚さで計算される値である。
本発明によれば、接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板を得ることができる。本発明に係るクラッド鋼板、及び本発明のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物は、溶接時の剥離対策や付加的な熱処理などを必要としない。また、上記クラッド鋼板は、使用用途の制限がなく、従来、ソリッド鋼板が用いられていた構造部材に適用できる。このため、上記クラッド鋼板は、低コスト化に大きく貢献するものである。本発明のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物は、水素を含むガスを使用する溶接またはガウジングを含む製造工程で製造した溶接構造物とすることができる。
本発明のクラッド鋼板は、耐水素脆化性に優れるので、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用しても通常想定される溶接条件であれば水素脆化が生じることがない。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す成分組成の合せ材および表2に示す成分組成の母材を溶製して鋼片とし、熱間圧延、焼鈍、酸洗または表面研磨の工程を経て合せ材は厚さ30mm、母材は厚さ130mmの鋼板を製造した。得られた合せ材と母材の間に表3に示す成分の厚さ50~200μmの箔をインサート材として挿入し、圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド圧延素材を作成した。得られたクラッド圧延素材について、表4に示す熱間圧延条件で熱間圧延を行い厚さ16mmのクラッド鋼板を製造した。表3、表4において、本発明範囲から外れる数値・項目に下線を付している。
Figure 0007628404000001
Figure 0007628404000002
Figure 0007628404000003
クラッド鋼板の圧延において表4に記載の条件を変化させ、各特性値を調べた。以下、表4における製造条件の項目について説明する。表4において、Tempは圧延前の加熱炉内の最高加熱温度(℃)を示し、Timeは加熱炉内での加熱温度が最高加熱温度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間(分)を示す。Thickは組立時に挿入したインサート材の厚さ(μm)を示す。dは上記TempおよびTimeから式(2)で計算されるクラッド加熱パラメタの値(μm)を示す。
d=2.27×10×√(Time)×exp(-1.64×10/(Temp+273))・・・式(2)
表4において、Lは界面近傍でナノ硬さが7GPa以上である領域の幅(μm)を示す。ナノ硬さの測定はISO 14577に規定する計装化押し込み硬さ試験に準拠し、母材側、インサート材側に界面から板厚方向に各10μm範囲を0.5μmピッチで実施した。ナノ硬さ測定の条件は適宜選択すればよいが、例えば荷重1000μN、押し込み指定荷重まで5sec、保持0sec、戻り5secとする測定を各位置で3回実施し、その平均値をナノ硬さとする測定を例示できる。ナノ硬さが7GPa以上ある領域の範囲を読み取り、Lとした。
耐水素脆化性の評価として下記の試験を実施した。試験片は板厚方向の長さを確保するため、クラッド鋼板の合せ材側に合せ材と同じ鋼種を溶接し、母材側に母材と同じ鋼種を溶接し、クラッド界面を含む平行部が4φ×20mmでクラッド界面に60°、ρ=0.1mm、のノッチを入れて3φとした丸棒試験片を作成した。溶接による熱影響を抑制するため、溶接方法として入熱が小さく溶接金属の幅を小さくできる電子ビーム溶接を選択し、溶接後に研削を実施した。なお、試験片の断面観察を実施し、溶接金属が界面から2mm以上離れていることを確認している。
作成した試験片を引張前に3質量%NaCl+3g/L・NHSCN水溶液中で電流密度10(A/m)×72(hr)の陰極チャージを行った後、3%NaCl+3g/L・NHSCN水溶液中で10(A/m)陰極チャージしながら平行部の歪速度:1×10-3(1/s)で破断まで引張った。引張前および引張中の陰極チャージをせずに引っ張る試験を別途実施し、破断までのストロークを比較し、チャージ有り材のストローク/チャージなし材のストロークが0.25以上であれば良好(○)、0.25未満であれば不良(×)と評価し、表4の「耐水素」欄に記載した。
靭性の評価として、母材側の表層から1mm~11mm深さからJIS Z 2241に準拠した10mm厚の2mmVノッチ試験片を3つ採取し、試験温度-40℃でシャルピー衝撃試験を実施した。得られた3つの衝撃値のうちの最低値を表4の「衝撃値」欄に記載した。衝撃値は50J/cm以上を有していれば実用上は問題ない。好ましくは100J/cm以上である。
製造条件および上記の結果をまとめて表4および図1に示す。図1は、式(2)から計算されるクラッド加熱パラメタの値dと挿入したインサート材の厚みThickとの差(Thick-d)を横軸、界面でナノ硬さが7GPa以上である領域の幅Lを縦軸とし、○は耐水素脆化性が良好、×は不良を示す図である。図中に「インサート材不適」と記載したプロットは、インサート材の成分組成が好適範囲から外れている。Thick-d<0の場合、あるいはインサート材不適の場合に、Lが5μmを超え、耐水素脆化性が不良となっている。
Figure 0007628404000004
表4の番号1~41は本発明例であり、好ましい製造条件を満足し、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さLが5μm以下であり、良好な接合面の耐水素脆化性を有する。番号42~47は比較例であり、好ましい製造条件を満足せず、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さLが5μm超であり、接合面の耐水素脆化性が不良である。
上述したように、本発明例では良好な接合面の耐水素脆化性が得られた。一方、比較例では好ましい製造条件を満足せず、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さLが本発明の規定から外れたため、接合面の耐水素脆化性が不良であった。
本発明によれば、接合面の耐水素脆化性が良好なクラッド鋼板を得ることができ、産業上極めて有用である。合せ材として耐食性合金を適用すれば、本発明のクラッド鋼板は、腐食環境として、海水に曝されるような高塩化物環境、リン酸または硫酸などの酸溶液に曝されるプラント設備等での腐食環境等に適用可能性がある。具体的には、海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材、ポンプ・バルブ類、熱交換器などである。
L :界面でナノ硬さが7GPa以上である領域の幅(μm)
Thick:圧延素材でのインサート材の厚み(μm)
d :(2)式で計算されるクラッド加熱パラメタの値(μm)

Claims (6)

  1. 母材と、前記母材に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
    前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
    前記合せ材は、耐食性合金からなり、
    前記母材と合せ材の間にインサート材が挿入された構造であり、
    前記母材の成分組成が質量%で、C:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有し、
    前記インサート材が質量%でNi:20%以上かつCr:10%未満を含有する鋼またはNi基合金、もしくは純Niであり、
    クラッド鋼板の母材とインサート材の界面において、ナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅が5μm以下であることを特徴とするクラッド鋼板。
    ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。含有しない元素については当該元素の含有量を0として式(1)の計算を行う。
  2. 前記母材の成分組成が、さらに前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%,Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載のクラッド鋼板。
  3. 前記クラッド鋼板の合せ材が、質量%でCr:10%以上を含有するステンレス鋼またはニッケル基合金であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のクラッド鋼板。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法であって、母材と合せ材の間にインサート材を挿入し、圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、前記クラッド素材をそのままクラッド圧延素材とし、又は2以上の前記クラッド素材を組み立ててクラッド圧延素材とし、前記クラッド圧延素材について加熱炉内の最高加熱温度Temp(℃)、加熱炉内での加熱温度が最高加熱温
    度Temp-20℃となった時点から加熱炉抽出までの時間Time(分)を用いて式(2)から計算されるクラッド加熱パラメタの値d(μm)が挿入したインサート材の厚みThick(μm)の値未満である加熱の後に熱間圧延を行い、母材とインサート材の界面のナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅を5μm以下とすることを特徴とするクラッド鋼板の製造方法。
    d=2.27×10×√(Time)×exp(-1.64×10/(Temp+273))・・・式(2)
  5. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物。
  6. 前記クラッド鋼板が、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用されることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板。
JP2020142382A 2020-08-26 2020-08-26 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 Active JP7628404B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020142382A JP7628404B2 (ja) 2020-08-26 2020-08-26 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020142382A JP7628404B2 (ja) 2020-08-26 2020-08-26 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2022038084A JP2022038084A (ja) 2022-03-10
JP7628404B2 true JP7628404B2 (ja) 2025-02-10

Family

ID=80497766

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2020142382A Active JP7628404B2 (ja) 2020-08-26 2020-08-26 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7628404B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN116024475B (zh) * 2022-10-25 2024-03-22 北京酷捷科技有限公司 一种铬钼均热板及其制备方法和应用

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014101568A (ja) 2012-11-22 2014-06-05 Jfe Steel Corp 溶接部靭性に優れた高靭性高耐食性Ni合金クラッド鋼板及びその製造方法
JP2019188463A (ja) 2018-04-27 2019-10-31 Jfeスチール株式会社 クラッド鋼板の製造方法およびクラッド鋼板の製造設備
WO2021182525A1 (ja) 2020-03-13 2021-09-16 日鉄ステンレス株式会社 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014101568A (ja) 2012-11-22 2014-06-05 Jfe Steel Corp 溶接部靭性に優れた高靭性高耐食性Ni合金クラッド鋼板及びその製造方法
JP2019188463A (ja) 2018-04-27 2019-10-31 Jfeスチール株式会社 クラッド鋼板の製造方法およびクラッド鋼板の製造設備
WO2021182525A1 (ja) 2020-03-13 2021-09-16 日鉄ステンレス株式会社 クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物

Also Published As

Publication number Publication date
JP2022038084A (ja) 2022-03-10

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR102415777B1 (ko) 2상 스테인리스 클래드 강판 및 그 제조 방법
JP6477735B2 (ja) 二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法
CN112789364B (zh) 奥氏体系不锈钢复合钢板和母材钢板以及复合钢板的制造方法
JP6573060B1 (ja) クラッド鋼板
JP7628404B2 (ja) クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物
JP7272438B2 (ja) 鋼材およびその製造方法、ならびにタンク
JP7357761B2 (ja) クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物
JPH0636993B2 (ja) 耐食性および靭性に優れたステンレスクラッド鋼板の製造方法
JP5741454B2 (ja) −196℃におけるシャルピー試験値が母材、溶接継手共に100J以上である靭性と生産性に優れたNi添加鋼板およびその製造方法
JP2019007055A (ja) 母材が高強度で低温靱性に優れたクラッド鋼板およびその製造方法
JP7474079B2 (ja) クラッド鋼板およびその製造方法
JP2022186396A (ja) クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物
JP7246568B2 (ja) 溶接構造体及び貯蔵タンク
CN114402088B (zh) 复合钢及其制造方法
JPH0825040B2 (ja) 優れた低温靭性を有するクラッド鋼板の製造方法
JP7054078B2 (ja) 二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法
JP7054079B2 (ja) 二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法
WO2022202020A1 (ja) 鋼板及び溶接継手
JP2024123793A (ja) クラッド鋼板およびその製造方法
JP2023145050A (ja) クラッド鋼板およびその製造方法
JP2023039270A (ja) クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物
JP2023082763A (ja) クラッド鋼板およびその製造方法
WO2024101317A1 (ja) クラッド鋼板およびその製造方法
JP2024124853A (ja) 複相ステンレス鋼材および拡散接合体
WO2024252784A1 (ja) クラッド鋼板、その製造方法およびラインパイプ

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20230427

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20240425

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20240521

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20240607

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20240903

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20241003

A911 Transfer to examiner for re-examination before appeal (zenchi)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A911

Effective date: 20241010

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20250107

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20250129

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7628404

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150