以下、本開示における典型的な実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。まず、本実施形態の眼科用レーザ治療装置について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の眼科用レーザ治療装置の外観を示す斜視図である。図2は、本実施形態のレーザ治療装置の光学系と制御系の概略構成を示す図である。
本実施形態のレーザ治療装置30は、図1に示すように、本体部31と、架台32と、コントロールパネル33と、ジョイスティック34と、電源部35とを備えている。本体部31には、治療用レーザ光源、エイミング用光源、導光光学系等が設けられている。架台32は、上下動が可能となっている。この架台32に、本体部31が搭載されており、本体部31は架台32とともに上下動するようになっている。
コントロールパネル33は、レーザ照射条件等を設定する操作パネルであり、操作パネルから治療モードを選択することができるようになっている。ジョイスティック34は、架台32のテーブル上で本体部31を前後左右に移動して、治療用レーザ光を患部に照射するための照準合わせを行うものである。このジョイスティック34に設けられた回転ノブを回転操作することにより、本体部31を上下に移動させて上下方向の照準合わせを行うようになっている。また、ジョイスティック34の頭部にトリガスイッチ34aが設けられており、トリガスイッチ34aの操作により治療用レーザ光が患部に向けて出射(照射)される。
また、本体部31には、フォーカスシフトノブ36及び励起ビームサイズ変更ノブ37が設けられている。フォーカスシフトノブ36の操作により、後述する凸レンズ49bを光軸方向に移動させ、エイミング光の焦点位置に対して治療用レーザ光の焦点位置を0~500μmの範囲で手前側または奥側にずらすことができるようになっている。また、励起ビームサイズ変更ノブ37の操作により、後述するマイクロチップレーザ1に入射する励起光LB1のビームサイズを変更することができるようになっている。そして、電源部35には、電源スイッチ35aが設けられている。この電源スイッチ35aの操作により、レーザ治療装置30の電源がオン・オフされるようになっている。
ここで、本体部31に備わる光学系と制御系について、図2を参照しながら説明する。レーザ治療装置30は、図2に示すように、レーザ光源41と、レーザ光源から出射される治療用レーザ光を患者眼Eに照射するためのレーザ照射光学系40と、患者眼Eを観察するための双眼の顕微鏡56と、患者眼Eにスリット照明を投影するためのスリット投影光学系65と、制御部70とを備えている。本実施形態のレーザ光源41は、主波長1064nmの治療用レーザ光を出射する光源であり、マイクロチップレーザ1と、励起光源であるレーザダイオード42と、マイクロチップレーザ1とレーザダイオード42との間に配置されたズーム光学系10とを備えている。
本実施形態のマイクロチップレーザ1は、図3及び図4に示すように、レーザ媒質2、可飽和吸収体3、放熱体4、第1反射部5、及び第2反射部6を備えており、これらが一体化されて構成されている。このマイクロチップレーザ1は、例えば、光軸L方向に沿った中心軸を有する円柱状をなしており、励起光LB1の入射側(図3では左側)から、放熱体4、第1反射部5、レーザ媒質2、可飽和吸収体3、第2反射部6の順で、光軸L方向に並んで配置されている。つまり、第1反射部5と第2反射部6との間に、レーザ媒質2及び可飽和吸収体3が配置されており、第1反射部5及び第2反射部6により、レーザ媒質2からの放出光を共振させる光共振器を構成している。なお、マイクロチップレーザ1の形状は、円柱状に限られることはなく、多角柱状(例えば直方体形状など)であってもよい。
レーザ媒質2は、光活性物質を含有しており、励起光源(本実施形態ではレーザダイオード42)から出射する励起光LB1が入射することで光活性物質が励起され、その光活性物質から放出光を発生するものである。レーザ媒質2としては、例えば、母材としてのYAG結晶中のイットリウム(Y)を他の希土類元素で置換したものを用いることができる。本実施形態では、レーザ媒質2として、例えばNd:YAG結晶を用いている。そのため、励起光LB1の主波長が808nmであり、放出光(レーザ光LB2)の主波長が1064nmとなる。なお、励起光LB1の波長は、808nmに限られることはなく、例えば885nmであってもよい。また、レーザ媒質2としては、Nd:YAG結晶に限られることなく、例えばYb:YAG結晶などを用いることもできる。
可飽和吸収体3は、光吸収の飽和により光吸収率が小さくなるものであって、光共振器において受動Qスイッチとして作動する。すなわち、可飽和吸収体3は、光強度が小さいときには光吸収率が大きく、光強度が所定値を超えると光吸収が飽和して光吸収率が急に小さくなる特性を有する。この可飽和吸収体3は、レーザ媒質2に接合されている。本実施形態では、可飽和吸収体3として、例えばCr:YAG結晶を用いている。
放熱体4は、励起光LB1を透過する光透過性材料である。放熱体4は、第1反射部5(レーザ媒質2)に接合されており、レーザ媒質2で発生する熱を外部に放出する。本実施形態では、放熱体4として、例えば非ドープYAG結晶を用いている。なお、放熱体4としては、非ドープYAG結晶に限られることなく、例えばサファイアやダイヤモンドなどを用いることもできる。
第1反射部5は、励起光LB1を透過させ、レーザ媒質2から放出される放出光を反射させる全反射ミラーとして作用する。第1反射部5は、誘電体多層膜であり、レーザ媒質2の可飽和吸収体3との接合面23とは反対側の端面2aに形成されている。言い換えると、レーザ媒質2と放熱体4との間に第1反射部5が形成されている。第2反射部6は、レーザ媒質2からの放出光の一部を透過させ残部を反射させるハーフミラーとして作用する。第2反射部6は、誘電体多層膜であり、可飽和吸収体3のレーザ媒質2との接合面23とは反対側の端面3bに形成されている。これにより、第1反射部5及び第2反射部6は、その間にレーザ媒質2及び可飽和吸収体3を共振光路上に有し、レーザ媒質2からの放出光を共振させる光共振器を構成する。
このようなマイクロチップレーザ1では、次のようにしてレーザ光LB2が出射される。すなわち、励起光LB1により励起されたレーザ媒質2から発生した放出光は、可飽和吸収体3に到達する。このとき、レーザ媒質2からの放出光のパワーが小さいうちは、可飽和吸収体3の光吸収率が大きく、光共振器においてレーザ発振が起こらない。その後、レーザ媒質2からの放出光のパワーが大きくなっていき、可飽和吸収体3における光強度が所定値を超えると、可飽和吸収体3の光吸収が飽和して光吸収率が急激に減少する。可飽和吸収体3の光吸収率が減少すると、レーザ媒質2からの放出光が、可飽和吸収体3を透過して、第1反射部5と第2反射部6との間で往復する。これにより、レーザ媒質2において誘導放出が生じ、光共振器においてレーザ発振が起こる。このようなレーザ発振が生じると直ちに、レーザ媒質2からの放出光のパワーが小さくなり、可飽和吸収体3の光吸収率が大きくなって、光共振器においてレーザ発振が終了する。以上のような動作が繰り返されることにより、マイクロチップレーザ1から、パルス状のレーザ光LB2が出力される。
ここで、本実施形態では、ズーム光学系10によって、レーザダイオード42から出射される励起光LB1のビームサイズが変更されてマイクロチップレーザ1に入射されるようになっている。このズーム光学系10は、図5に示すように、励起光LB1の光軸L3上に固定的に配置されたレンズ11,14と、光軸L3に沿って移動可能に配置されたズームレンズ12,13と、ズームレンズ12,13を移動させるモータ77,78とを備えている。ズームレンズ12,13は、ビームサイズを変更する役割を持ち、制御部70からの指令に基づきモータ77,78の駆動が制御されて光軸L3上を移動する。ズームレンズ12は凸レンズ、ズームレンズ13は凹レンズであり、ここではズームレンズ12がバリエータ、ズームレンズ13がコンペンセータの役割を持つ。
本実施形態では例えば、後嚢切開を行う場合には、制御部70は、図5に示すようにズームレンズ12,13を光軸L3方向に移動させて、励起光LB1のビームサイズを小さくする(低倍率)。このとき本実施形態では、励起光LB1のビームサイズを1mmに設定している。一方、虹彩切開を行う場合には、制御部70は、図6に示すようにズームレンズ12,13を光軸L3方向に移動させて、励起光LB1のビームサイズを大きくする(高倍率)。このとき本実施形態では、励起光LB1のビームサイズを2mmに設定している。このようにして、制御部70はズーム光学系10を制御することにより、マイクロチップレーザ1に入射する励起光LB1のビームサイズを切り替えている(変更している)。なお、本実施形態では、低倍率と高倍率の2段階で励起光LB1のビームサイズを切り替えているが、ズームレンズ12,13を連続的に移動させて、励起光LB1のビームサイズを連続的に変更することもできる。なお、本実施形態では励起光LB1のビームサイズを変更するための操作手段として励起ビームサイズ変更ノブ37(図1参照)が設けられている。
ここで、本実施形態におけるマイクロチップレーザ1に入射する励起光のビームサイズと、マイクロチップレーザ1から出射する治療レーザ光の1パルスあたりのエネルギ量との関係を図7に示す。本実施形態のマイクロチップレーザ1では、励起光LB1のビームサイズに応じて出射する治療レーザ光のエネルギ量が変化する。すなわち、励起光LB1のビームサイズが大きくなると、治療レーザ光のエネルギ量が大きくなり、励起光LB1のビームサイズが小さくなると、治療レーザ光のエネルギ量が小さくなる。なお、虹彩切開に必要なパルスエネルギが5.0mJとするなら、励起光LB1のビームサイズを大きくすれば(1.8mm以上にすれば)、パルスエネルギが5.0mJ以上の治療レーザ光をマイクロチップレーザ1から出射することができる。つまり、本実施形態のズーム光学系10は、レーザ光源41から出射される治療用レーザ光のエネルギ量を調節するための第1調節手段と言える。
そして、本実施形態ではマイクロチップレーザ1から出射する治療レーザ光のスポットサイズは、マイクロチップレーザ1に入射する励起光LB1のビームサイズにより決まる。つまり、励起光LB1のビームサイズを大きくすれば、治療レーザ光のスポットサイズが大きくなり、励起光LB1のビームサイズを小さくすれば、治療レーザ光のスポットサイズが小さくなる。
従って、ズーム光学系10によって励起光LB1のビームサイズを大きくして、レーザ光源41から出射する治療レーザ光のスポットサイズを大きくすることにより、治療レーザ光のエネルギ量を大きくすることができる。つまり、例えば、従来装置のように治療レーザ光のスポットサイズを大きくした場合に、治療レーザ光の単位面積当たりのエネルギ量が小さくなることがない。そのため、本実施形態のレーザ治療装置30では、治療レーザ光のスポットサイズを大きくしてもプラズマを発生させるために十分なエネルギ量(5.0mJ以上)を確保し易い。従って、本実施形態のレーザ治療装置30によれば、治療レーザ光のスポットサイズを150μmに拡大して患部に照射した場合に、照射部位にプラズマを安定して発生させ易い。そのため、大きなスポットサイズ(本実施形態では150μm)の治療レーザ光による虹彩切開を行い易い。
図2に戻って、本実施形態のレーザ照射光学系40には、1/2波長板45、偏光板46、ビームスプリッタ47、安全シャッタ48、凹レンズ49a及び凸レンズ49b、ダイクロイックミラー50、エキスパンダレンズ51、ダイクロイックミラー52、対物レンズ53、コンタクトレンズ54が備わっている。これらの光学素子は、レーザ光源41側から上記の順で光軸L1上に配置されている。
1/2波長板45は、レーザ光源41から出射された治療用レーザ光の偏光方向を回転させる。偏光板46は、ブリュースタ角に配置されている。1/2波長板45は、制御部70からの指令によって回転され、偏光板46との組み合わせによって患者眼Eの患部に照射される治療用レーザ光のエネルギ量を調整する。つまり、本実施形態では偏光板46と1/2波長板45とにより、レーザ光源41から出射された治療用レーザ光のエネルギ量を調節するための第2調節手段が構成される。本実施形態のレーザ治療装置30は、第1調節手段と第2調節手段とでエネルギ量が調節された治療レーザ光を出射できる。レーザ治療装置30が第1調節手段を備えることで、例えば、大きなスポットサイズ且つ大きなエネルギ量で患部を治療し易い。またレーザ治療装置30が第2調節手段を備えることで、例えば、レーザ光源41から出射された治療用レーザ光のビーム特性(品質)を維持したままエネルギ量を減衰し易い。なおレーザ治療装置30が第2調節手段を備えなくてもよい。この場合、例えば、レーザ治療装置30の構成をより簡素にし易い。
ビームスプリッタ47は、偏光板46を通過した治療用レーザ光の一部を反射する。ビームスプリッタ47によって反射された治療用レーザ光は、光検出器55に検出される。安全シャッタ48は、テスト発振や異常発生時等所定の場合に治療用レーザ光を遮断する。安全シャッタ48を通過した治療用レーザ光は、凹レンズ49a及び凸レンズ49bによって光束を広げられて整えられた後、ダイクロイックミラー50で可視光半導体レーザ60からのエイミング光(主波長633nm)と同軸にされる。可視光半導体レーザ60を出射したエイミング光は、レンズ61を通過して平行光束とされた後、光軸L2を挟んで対称に設けられた2つの開口を持つアパーチャ62によって2つの光束に分離される。
エキスパンダレンズ51は、治療用レーザ光束及びエイミング光束を広げる。ダイクロイックミラー52は、エイミング光の一部及び治療用レーザ光を反射して観察光を透過する。また、ダイクロイックミラー52は、光軸L1(L2)を対物レンズ53の光軸と同軸にする。ダイクロイックミラー52で反射された治療用レーザ光は、対物レンズ53及びコンタクトレンズ54を介して患者眼Eの患部に集光される。
また、2光束に分離されたエイミング光は、ダイクロイックミラー52で反射された後、対物レンズ53及びコンタクトレンズ54により、治療用レーザ光の基準の集光位置で集光する。治療用レーザ光の集光位置は、レンズ移動機構59に設置されている凸レンズ49bを光軸L1方向に移動することにより、エイミング光の集光位置に対してシフトするようになっている。また、スリット投影光学系65からの光束は、コンタクトレンズ54を介して患者眼Eを照明する。
制御部70は、装置全体の制御を行う。この制御部70は、レーザ光源41に接続されており、制御部70からの指令に基づいてレーザダイオード42及びズーム光学系10(モータ77,78)が制御されて、レーザ光源41(マイクロチップレーザ1)から出射される治療レーザ光のスポットサイズが変更される。また、制御部70には、光検出器55からの信号を検出処理する検出回路71が接続されており、検出回路71で処理された信号が制御部70に入力される。また、制御部70には、1/2波長板45の回転位置を検出する位置検出用ポテンショメータ72も接続されている。そして、患者眼Eに照射する治療用レーザ光の出力の調節は、1/2波長板45の回転位置によって決定される。そのため、位置検出用ポテンショメータ72によって1/2波長板45の回転位置を検出することにより、治療用レーザ光の照射予定出力を制御部70で算出することができる。その算出結果は、コントロールパネル33に表示され、術者が確認することができるようになっている。さらに、制御部70は、安全シャッタ48を開閉駆動するモータ73にも接続されており、制御部70からの制御信号によってモータ73が制御される。
また、制御部70は、凸レンズ49bを光軸L1方向に移動させるモータ74にも接続されており、制御部70からの制御信号によってモータ74が制御される。モータ74の回転軸は、フォーカスシフトノブ36の回転軸に連結している。移動量検出用ポテンショメータ75は、モータ74の回転を検出することで凸レンズ49bの移動量を検知する。この移動量検出用ポテンショメータ75は、制御部70に接続されている。そして、制御部70は、治療用レーザ光のフォーカス位置が、術者により又は治療モードに応じて設定されたフォーカスシフト位置となるように、モータ74の駆動量を制御して凸レンズ49bを光軸L2方向に移動させる。なお、制御部70には、各治療モード毎に設定されている設定値(励起光LB1のビームサイズやフォーカス位置など)を記憶するメモリ76が接続されている。
このレーザ治療装置30を用いて患者眼Eを処置(治療)する手順について説明する。まず、術者は、電源スイッチ35aを操作して本体部31の電源を投入する。電源が入ると制御部70は、安全シャッタ48の駆動確認等の初期化動作を実施する。この初期化動作の終了後、術者は、コントロールパネル33のスイッチや種々の設定ノブを操作して、患者眼Eの治療目的に応じてレーザ照射の出力や照射パルス数等のレーザ照射条件を設定するとともに、必要に応じてフォーカスシフト位置の調整を行う。なお、本実施形態では、コントロールパネル33において、複数の治療モードから1つのモードを選択することにより、選択された治療に適した各種設定値が設定されるようになっている。治療モードとしては、例えば、白内障治療の後嚢切開を行う後嚢切開モード(第1治療モード)、緑内障治療の虹彩切開を行う虹彩切開モード(第2治療モード)等が設定されている。
このような事前の準備が完了したら、患者眼Eを所定の位置に配置する。術者は、ジョイスティック34を操作し、患者眼Eに対しての概ねの位置合わせを行う。そして、治療用レーザ光を照射可能な状態にした後、ジョイスティック34を操作して、2つの光束に分割されたエイミング光が患部に1点で重なるようにさらに照準合わせを行う。エイミング光による照準合わせが完了したら、術者は、トリガスイッチ34aを押して治療用レーザ光の照射を行う。
ここで、後嚢切開モード(第1治療モード)が選択されている場合には、ズーム光学系10において図5に示すようにズームレンズ12,13が光軸L3方向に移動させられ、励起光LB1のビームサイズが小さくされてマイクロチップレーザ1に入射する。これにより、マイクロチップレーザ1からスポットサイズ8μmの治療レーザ光(第1治療レーザ光)が出射される。マイクロチップレーザ1から出射された治療用レーザ光は、レーザ照射光学系40に導光され、エイミング光のフォーカス位置に対して凸レンズ49bの移動により設定された分だけシフトした位置に集光するようにして照射される。そして、患者眼Eに照射された治療用レーザ光によって照射部位でプラズマが発生して光破壊が生じることにより後嚢切開が行われる。
一方、虹彩切開モード(第2治療モード)が選択されている場合には、ズーム光学系10において図6に示すようにズームレンズ12,13が光軸L3方向に移動させられ、励起光LB1のビームサイズが後嚢切開モード時よりも大きくされてマイクロチップレーザ1に入射する。これにより、マイクロチップレーザ1からスポットサイズが150μmの治療レーザ光(第2治療レーザ光)が出射される。マイクロチップレーザ1から出射された治療用レーザ光は、レーザ照射光学系40に導光され、エイミング光のフォーカス位置に対して治療用レーザ光が集光するようにして照射される。そして、上記のようにマイクロチップレーザ1では、レーザ光のスポットサイズを大きくしても照射部位にプラズマを安定して発生させることができる。従って、患者眼Eに照射されたスポットサイズ150μmの治療用レーザ光であっても、照射部位でプラズマが発生して光破壊が生じるので虹彩切開を行い易い。これにより、虹彩切開を短時間で効率的に行うことができるため、術者及び患者の負担を軽減することができる。なお、前述の説明では、制御部70は術者が選択した治療モードを検出し、検出結果に基づきズームレンズ12,13の移動を自動で行う。しかし本実施形態では治療モードによらず、術者は励起ビームサイズ変更ノブ37を操作することで任意のビームサイズに変更することも可能である。これにより、例えば、患部状態に応じたより好適なスポットサイズで治療を行い易い。
そして、本実施形態のレーザ治療装置30によれば、レーザ光源41にマイクロチップレーザ1を用いているため、患者眼Eに対して、常に同一パルス形状のレーザ光を照射し易い。そのため、例えば、従来のレーザ治療装置よりも低いパルスエネルギで安定して一定の大きさのプラズマを発生させることができ、高精度な処置(切開精度の向上)を短時間で行うことができる。これにより、患部以外(眼内レンズや正常な他の眼組織)へのレーザ光による影響を低減することができる。従って、レーザ治療装置30によれば、低侵襲(高効率)な処置が可能になる。
また、本実施形態のレーザ治療装置30では、繰り返し周波数を50Hz以上で治療用レーザ光を患者眼Eに照射することができる。そして、レーザ治療装置30では、患者眼Eに対して、常に同一パルス形状のレーザ光を照射することができる。これらのことにより、レーザ治療装置30によれば、治療用レーザ光のスキャン照射(連続照射)による処置が可能となり、例えば、後嚢切開において、治療用レーザを円形や十字に連続照射することができる。その結果として、処置時間の短縮や操作の簡易化を図ることができるので、術者及び患者の負担を軽減することができる。
なお、このような治療用レーザ光のスキャン照射を行う場合には、例えば、図8に示すように、レーザ照射光学系40において、レンズ移動機構59とダイクロイックミラー50との間に、走査部80を設けておけばよい。この走査部80は、レーザ光源41(マイクロチップレーザ1)からの治療用レーザ光の進行方向を変える(レーザ光を偏向する)光スキャナを有するユニットである。例えば、走査部80は、レゾナントスキャナ81とガルバノミラー82とにより構成することができ、これらの動作は制御部70により制御される。そして、例えば、レゾナントスキャナ81によって治療用レーザ光の主走査を行い、ガルバノミラー82によって治療用レーザ光の副走査を行えばよい。また、走査部80の光スキャナとして、例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等を用いてもよい。
ここで、上記したレーザ治療装置30では、励起光源であるレーザダイオード42を1つ備えるレーザ光源41を例示している。しかしながら、レーザ光源41として、励起光源であるレーザダイオード42を複数設けることもできる。これにより、マイクロチップレーザ1から複数本の治療用レーザ光を出射させることが可能となる。例えば、図9に示すように、3つのレーザダイオード42a,42b,43cを設けることができる。もちろん、励起光源として配置するレーザダイオードは、3つに限られることなく、2つであっても良いし4つ以上であっても良い。
このようにレーザダイオード42を複数設ける場合には、制御部70により、各レーザダイオード42a,42b,43cの出射タイミングが制御される。例えば、制御部70により、各レーザダイオード42a,42b,43cから励起光LB1a,LB1b,LB1cを同時に出射させることにより、マイクロチップレーザ1から複数の治療用レーザ光LB2a,LB2b,LB2cが出射される。そして、この複数の治療用レーザ光LB2a,LB2b,LB2cは、レーザ照射光学系40により合波・集光されて最終的には1つのレーザ光LB2となり、患者眼Eの患部に照射される。従って、1パルス照射時と比べて大きなエネルギの治療用レーザ光LB2を患者眼Eに照射することができる。これにより、励起光源として高出力のレーザダイオードを使用する必要がなくなる。また、マイクロチップレーザ1に入射する励起光の出力が低くなるとともに、励起光がレーザ媒質2の複数箇所に入射する。そのため、マイクロチップレーザ1における発熱が抑えられるとともに放熱効率が向上する。これにより、マイクロチップレーザ1の高出化も図ることができる。
また、例えば、制御部70により、各レーザダイオード42a,42b,43cからタイミングをずらして励起光LB1a,LB1b,LB1cを出射させることにより、マイクロチップレーザ1から治療用レーザ光LB2a,LB2b,LB2cが異なるタイミングで連続して照射される。これにより、レーザ治療装置30において、患者眼Eの患部に対して治療用レーザ光LB2a,LB2b,LB2cをタイミングをずらして照射する並列パルス照射を行うことができる。なお、治療用レーザ光の照射間隔は、処置する患部の組織の特性に応じて決めればよい。
このような並列パルス照射を行うことにより、2パルス目以降の治療用レーザ光LB2b,LB2cのパルスエネルギを小さくしても患部に対して適切な処置を行うことができる。そのため、処置に必要となる治療用レーザのパルスエネルギを従来よりも小さくすることができるので、患部における手術痕が綺麗で患部周辺への影響が少ない処置を実現することができる。また、患者眼Eに照射する治療用レーザ光のエネルギを従来よりも小さくしても従来と同様の処置ができるため、低侵襲な処置が可能となる。さらに、治療用レーザ光の出力を抑えることができるため、レーザ治療装置30の低コスト化及び小型化を図ることもできる。
さらに、レーザダイオード42を複数設ける場合には、患者眼Eの処置で一般的に(多く)実施される治療用レーザ光の照射パターン形状に配置することもできる。例えば、図10に示すように、レーザダイオード42a~42iを十字状に配置したり、図11に示すように、レーザダイオード42a~42lを円形状に配置することができる。そして、このように配置された各レーザダイオード42a,42b,43c,・・・から、制御部70によって励起光を同時に出射させることにより、1パルス照射で所望のパターンでの処置(切開)が可能となるため、レーザ治療装置30の操作性が向上するとともに処置時間を大幅に短縮することができる。その結果として、術者及び患者の負担を大幅に軽減することができる。
なお、上記した実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、本開示のレーザ治療装置に搭載されるマイクロチップレーザは、受動Qスイッチとして作動させるための可飽和吸収体を備える。しかし、共振器内に受動Qスイッチを配置しないマイクロチップレーザを搭載したレーザ治療装置にも本開示の技術を適用できる。