以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の粘着シートのサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
本明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion : Fundamentals and Practice”, McLaren & Sons, (1966) P. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E*(1Hz)<107dyne/cm2を満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。
この明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、該ポリマーを構成するモノマー単位として、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来するモノマー単位を含む重合物をいう。以下、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを「アクリル系モノマー」ともいう。この明細書におけるアクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を含むポリマーとして定義される。
ここに開示される粘着シートは、上記粘着剤層を基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層が剥離ライナーに保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、ここに開示される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1~図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート1は、基材10の各面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22がそれぞれ設けられ、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート2は、基材10の各面(いずれも非剥離性)にそれぞれ粘着剤層21,22が設けられ、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シートを巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レスの両面粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート3は、基材レスの粘着剤層21の両面21A,21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート4は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート5は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。図6に示す粘着シート6は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート6を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(粘着面)21Bが基材の他面10Bで保護されるようになっている。
<粘着剤層>
ここに開示される粘着剤層は、典型的には、25℃における貯蔵弾性率G´(25℃)が0.15MPa以上であり得る。上記G´(25℃)を有する粘着剤によると、被着体に貼り付けた後の早い段階から良好な耐変形性を好ましく発揮し得る。上記G´(25℃)は、好ましくは0.17MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.23MPa以上である。上記G´(25℃)は、特に好ましくは0.25MPa以上であり、例えば0.3MPa以上であってもよい。また、上記G´(25℃)は、通常は1.0MPa以下とすることが適当であり、軽圧着初期接着性と耐変形性との両立の観点から、好ましくは0.6MPa以下、より好ましくは0.4MPa以下、さらに好ましくは0.35MPa以下であり、例えば0.3MPa以下であってもよく、0.25MPa以下であってもよく、0.2MPa以下であってもよい。
また、ここに開示される粘着剤層は、通常、25℃における損失弾性率G″(25℃)が2.0MPa以下であることが適当である。上記G″(25℃)は、好ましくは1.5MPa以下、より好ましくは1.0MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。上記G″(25℃)は、0.3MPa以下(例えば0.25MPa以下)であってもよい。また、上記G″(25℃)は、通常は0.01MPa以上であることが適当であり、被着体表面への濡れ性、ひいては軽圧着初期接着性等の観点から、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上であり、例えば0.25MPa以上であってもよい。
また、ここに開示される粘着剤層の25℃におけるtanδ(25℃)は、常温での軽圧着初期接着性および耐変形性を考慮して適切に設定され得る。ここで、粘着剤(層)のtanδ(損失正接)とは、該粘着剤(層)の貯蔵弾性率G’に対する損失弾性率G”の比をいう。すなわち、tanδ=G”/G’である。tanδ(25℃)は、例えば凡そ0.3以上とすることが適当であり、耐変形性の観点から、好ましくは凡そ0.5以上、より好ましくは凡そ0.7以上、さらに好ましくは凡そ0.8以上、特に好ましくは凡そ0.9以上(例えば凡そ1以上)である。また、tanδ(25℃)は、例えば凡そ3以下が適当であり、軽圧着初期接着性の観点から、好ましくは凡そ2以下、より好ましくは凡そ1.5以下、さらに好ましくは凡そ1.2以下である。
ここに開示される粘着剤層は、典型的には、85℃における貯蔵弾性率G´(85℃)が0.02MPa以上であり得る。上記G´(85℃)を有することにより、持続的な耐変形性が好ましく得られる。上記G´(85℃)は、具体的には0.022MPa以上であり得る。また上記G´(85℃)は、好ましくは0.025MPa以上、より好ましくは0.027MPa以上である。上記G´(85℃)は、さらに好ましくは凡そ0.03MPa以上(例えば0.035MPa以上)、特に好ましくは0.04MPa以上、さらに特に好ましくは0.05MPa以上である。また、上記G´(85℃)は、通常は1.0MPa以下であることが適当であり、例えば0.5MPa以下、典型的には0.1MPa以下である。上記G´(85℃)は0.05MPa以下であってもよい。
また、ここに開示される粘着剤層の85℃におけるtanδ(85℃)は、持続的な耐変形性を考慮して適切に設定され得る。tanδ(85℃)は、例えば凡そ0.1以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.2以上、より好ましくは0.22以上、さらに好ましくは0.24以上(例えば0.25以上)である。また、tanδ(85℃)は、例えば凡そ2以下が適当であり、好ましくは凡そ1以下、より好ましくは凡そ0.5以下(例えば凡そ0.3以下)である。
ここに開示される粘着剤層は、粘着シートを被着体に圧着するときの温度(圧着温度)における貯蔵弾性率G´(apply)が0.6MPa以下であることが好ましい。上記G´(apply)を有する粘着剤は、軽圧着であっても被着体表面によく濡れて優れた初期接着性を発揮し得る。上記G´(apply)は、より好ましくは0.4MPa以下、さらに好ましくは0.35MPa以下であり、例えば0.3MPa以下であってもよく、0.25MPa以下であってもよい。上記G´(apply)は、例えば0.2MPa以下であってもよい。また、軽圧着初期接着性と耐変形性との両立の観点から、上記G´(apply)は、0.12MPaよりも大きいことが適当であり、好ましくは0.15MPa以上、より好ましくは0.17MPa以上(例えば0.2MPa以上)、さらに好ましくは0.25MPa以上であり、例えば0.3MPa以上であってもよい。上記圧着温度は、圧着作業性や温度管理等の観点から、0℃超60℃未満の範囲から選択される。携帯電子機器用途に用いられる粘着シートの場合、当該用途における温度制限から、上記圧着温度は、20℃~45℃の範囲(典型的には25℃または40℃、好適には25℃)から選択することが望ましい。上記温度範囲での圧着は、100℃程度で実施される従来の熱圧着とは異なり、電子機器等に対して適用可能な熱圧着である。
ここに開示される技術において、粘着剤層の貯蔵弾性率G´(25℃)、G´(85℃)、G´(apply)、損失弾性率G″(25℃)、tanδ(25℃)およびtanδ(85℃)は、動的粘弾性測定により求めることができる。具体的には、測定対象である粘着剤層(基材レス粘着シートの場合は、粘着シート)を複数枚重ね合わせることにより、厚さ約2mmの粘着剤層を作製する。この粘着剤層を直径7.9mmの円盤状に打ち抜いた試料をパラレルプレートで挟み込んで固定し、粘弾性試験機(例えば、ティー・エー・インスツルメント社製、ARESまたはその相当品)により以下の条件で動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率G´(25℃)、G´(85℃)、G´(apply)、損失弾性率G″(25℃)、tanδ(25℃)およびtanδ(85℃)を求める。
・測定モード:せん断モード
・温度範囲 :-70℃~150℃
・昇温速度 :5℃/min
・測定周波数:1Hz
後述の実施例においても上記の方法で測定される。なお、測定対象である粘着剤層は、対応する粘着剤組成物を層状に塗布し、乾燥または硬化することにより形成することができる。
(粘着剤)
ここに開示される技術において、粘着剤層を構成する粘着剤の種類は特に限定されない。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤(天然ゴム系、合成ゴム系、これらの混合系等)、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤等の公知の各種粘着剤から選択される1種または2種以上の粘着剤を含んで構成された粘着剤層であり得る。ここで、アクリル系粘着剤とは、(メタ)アクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50質量%を超えて含まれる成分)とする粘着剤をいう。ゴム系粘着剤その他の粘着剤についても同様の意味である。透明性や耐候性等の観点から好ましい粘着剤層として、アクリル系粘着剤の含有割合が50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である粘着剤層が挙げられる。アクリル系粘着剤の含有割合が98重量%超であってもよく、実質的にアクリル系粘着剤からなる粘着剤層であってもよい。
(アクリル系ポリマー)
特に限定するものではないが、ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記粘着剤層を構成する粘着剤および該粘着剤を形成するための粘着剤組成物は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む。上記アクリル系ポリマーは、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得るモノマー原料の重合物である。ここで主モノマーとは、上記モノマー原料において50重量%を超えて含まれる成分をいう。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば下式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH2=C(R1)COOR2 (1)
ここで、上記式(1)中のR1は水素原子またはメチル基である。また、R2は炭素原子数1~20の鎖状アルキル基(以下、このような炭素原子数の範囲を「C1-20」と表すことがある。)である。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、R2がC1-14の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、R2がC1-10の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、R2がブチル基または2-エチルヘキシル基であるアルキル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
R2がC1-20の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートとして、n-ブチルアクリレート(BA)および2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が挙げられる。
ここに開示される技術は、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分がBAおよび2EHAの少なくとも一方を含み、該モノマー成分に含まれるアルキル(メタ)アクリレートのうちBAと2EHAとの合計量が75重量%以上(通常は85重量%以上、例えば90重量%以上、さらには95重量%以上)を占める態様で好ましく実施され得る。ここに開示される技術は、例えば、上記モノマー成分に含まれるアルキル(メタ)アクリレートが、BA単独である態様、2EHA単独である態様、BAと2EHAとからなる態様等で実施することができる。
上記モノマー成分がBAおよび2EHAを含む場合、BAと2EHAとの重量比(BA/2EHA)は特に限定されず、例えば1/99以上99/1以下であり得る。好ましい一態様において、BA/2EHAは、60/40以上(例えば60/40以上99/1以下)とすることができ、80/20以上であってもよく、90/10以上(例えば90/10以上99/1以下)であってもよい。
ここに開示される技術は、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分がC1-6アルキル(メタ)アクリレートを50重量%以上含む態様で好ましく実施することができる。換言すると、上記アクリル系ポリマーにおけるC1-6アルキル(メタ)アクリレートの重合割合は50重量%以上であることが好ましい。このようにC1-6アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして使用することで、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性を実現し得るアクリル系ポリマーを好ましく設計することができる。モノマー成分に占めるC1-6アルキル(メタ)アクリレートの割合(換言すると重合割合)は、より好ましくは50重量%よりも大きく、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上(例えば80重量%以上、さらには85重量%以上)である。モノマー成分に占めるC1-6アルキル(メタ)アクリレートの割合の上限は、特に制限されず、通常は99重量%以下、他の共重合性モノマーの使用割合との関係から、97重量%以下であることが適当であり、95重量%以下とすることが好ましい。C1-6アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。C1-6アルキル(メタ)アクリレートとしては、C1-6アルキルアクリレートが好ましく、C2-6アルキルアクリレートがより好ましく、C4-6アルキルアクリレートがさらに好ましい。他の一態様では、C1-6アルキル(メタ)アクリレートは、好ましくはC1-4アルキルアクリレートであり、より好ましくはC2-4アルキルアクリレートである。C1-6アルキル(メタ)アクリレートの好適例としてBAが挙げられる。
主モノマーとしてBAを用いる態様において、アクリル系ポリマーにおけるBAの共重合割合は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは50重量%よりも大きく、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上(例えば80重量%以上、さらには85重量%以上)、さらに特に好ましくは90重量%以上(例えば90重量%超)である。BAを主モノマーとして共重合することで、粘着剤は、被着体に良好に接着することができる。また、上記アクリル系ポリマーにおけるBAの共重合割合は、特に限定されず、通常は99重量%以下、他の共重合性モノマー(例えば酸性基含有モノマー)の共重合割合との関係から、97重量%以下であることが適当であり、95重量%以下とすることが好ましい。
ここに開示される技術の好ましい一態様では、主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有するモノマーとして酸性基含有モノマーを使用する。酸性基含有モノマーは、その極性に基づく凝集性向上と、極性被着体に対する良好な結合力を発揮することができる。また、イソシアネート系、エポキシ系架橋剤等の架橋剤を使用する場合には、当該酸性基(典型的にはカルボキシル基)がアクリル系ポリマーの架橋点となる。これらの作用により、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性を好適に実現することができる。酸性基含有モノマーを所定以上の割合で使用することで、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを実現し得るアクリル系ポリマーを好ましく設計することができる。
酸性基含有モノマーとしては、カルボキシ基含有モノマーが好ましく用いられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イソクロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸およびその無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)が挙げられる。また、酸性基含有モノマーは、カルボキシ基の金属塩(例えばアルカリ金属塩)を有するモノマーであってもよい。なかでも、AAおよびMAAが好ましく、AAがより好ましい。1種または2種以上の酸性基含有モノマーを使用する場合、上記酸性基含有モノマーに占めるAAの割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。特に好ましい一態様では、酸性基含有モノマーは、実質的にAAのみからなる。AAは、そのカルボキシ基に基づく極性、架橋点としての役割、Tg(106℃)等の複合的な作用から、ここに開示される酸性基含有モノマーにおいて、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とのバランスを実現するうえで、最適なモノマー材料と考えられる。
ここに開示される技術では、モノマー成分に占める酸性基含有モノマー(典型的にはカルボキシ基含有モノマー)の含有量(換言すると、アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合)は、通常は3重量%以上であり、5重量%以上とすることが適当である。所定量以上の酸性基含有モノマーを使用することで、その凝集性向上作用等に基づき、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを両立し得るアクリル系ポリマーを好ましく実現することができる。アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合は、例えば8重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよく、10重量%超であってもよく、11重量%以上であってもよく、12重量%以上であってもよい。圧着温度を常温よりも高める等して軽圧着初期接着性を得る場合等には、アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合をさらに高めることが可能である。その場合、上記共重合割合を13重量%以上、例えば15重量%以上とすることができる。アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合は、通常は20重量%以下とすることが適当であり、主モノマーを特性を維持する観点から、好ましくは18重量%以下である。上記共重合割合は、15重量%以下、例えば13重量%以下であってもよい。より好ましい一態様では、アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合は凡そ12重量%以下であり、さらに好ましくは凡そ10重量%以下、特に好ましくは凡そ8重量%以下である。C1-6アルキル(メタ)アクリレート(典型的にはBA)を多く含むモノマー組成のアクリル系ポリマーでは、モノマー成分における酸性基含有モノマー(例えばAA)の含有量を上記の範囲とすることが特に効果的である。
ここに開示されるアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分において、上述の主モノマー(典型的にはアルキル(メタ)アクリレート)の含有割合CMに対する酸性基含有モノマーの含有割合CAの比(CA/CM(%); CA/CM×100から求められる。)は、重量基準で、通常は3%以上であり、5%以上とすることが適当であり、7%以上であることが好ましく、例えば8%以上であってもよい。主モノマー(典型的にはアルキル(メタ)アクリレート)に対して所定量以上の酸性基含有モノマーを使用することで、主モノマーによる粘着性能と、酸性基含有モノマーによる凝集性向上作用等に基づき、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを好ましく両立し得るアクリル系ポリマーが好ましく実現される。上記比(CA/CM)は、例えば10%以上であってもよく、11%以上であってもよく12%以上であってもよい。圧着温度を常温よりも高める等して軽圧着初期接着性を得る場合等には、アクリル系ポリマーにおける酸性基含有モノマーの共重合割合をさらに高めることが可能である。その場合、上記比(CA/CM)を15%以上、例えば18%以上とすることができる。上記比(CA/CM)は、通常は25%以下とすることが適当であり、主モノマーを特性を維持する観点から、好ましくは20%以下である。上記比(CA/CM)は、15%以下、例えば13%以下であってもよい。より好ましい一態様では、上記比(CA/CM)は凡そ11%以下であり、さらに好ましくは凡そ9%以下である。C1-6アルキル(メタ)アクリレート(典型的にはBA)を多く含むモノマー組成のアクリル系ポリマーでは、モノマー成分における酸性基含有モノマー(例えばAA)の含有量を上記の範囲とすることが特に効果的である。
ここに開示される技術では、主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有する副モノマーとして、カルボキシ基含有モノマー以外の共重合性モノマーを使用することができる。かかる副モノマーとしては、例えば以下のような官能基含有モノマーを用いることができる。
水酸基含有モノマー:例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類;ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート。
アミド基含有モノマー:例えば(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
エポキシ基を有するモノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えばジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えばN-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン。
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン。
上記官能基含有モノマーは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分が官能基含有モノマーを含む場合、該モノマー成分に占める官能基含有モノマーの割合は、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性その他の要求性能に応じて適宜決定される。上記官能基含有モノマー(例えば水酸基含有モノマー)の割合(共重合割合)は、モノマー成分中、0.01重量%以上(例えば0.02重量%以上、通常は0.03重量%以上)程度とすることが適当であり、さらには0.1重量%以上(例えば0.5重量%以上、通常は1重量%以上)程度であってもよい。また、その上限は、40重量%以下(例えば30重量%以下、通常は20重量%以下)程度とすることが好ましい。より好ましい一態様では、上記酸性基含有モノマー以外の官能基含有モノマーの割合は、例えば10重量%以下、さらには5重量%以下とすることが適当であり、1重量%以下とすることができる。さらに好ましい一態様では、上記酸性基含有モノマー以外の官能基含有モノマー(例えば水酸基含有モノマー)の割合は凡そ0.5重量%以下(例えば凡そ0.2重量%以下)である。アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、上記酸性基含有モノマー以外の官能基含有モノマーを実質的に含まないものであり得る。
アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、該アクリル系ポリマーの凝集力を高める等の目的で、上述した酸性基含有モノマーその他の副モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分の例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α-メチルスチレン等)、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート(例えばフェニル(メタ)アクリレート)、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート(例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート)、アリールアルキル(メタ)アクリレート(例えばベンジル(メタ)アクリレート)等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有モノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;等が挙げられる。
かかる他の共重合成分の量は、目的および用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、通常は、モノマー成分の10重量%以下とすることが好ましい。例えば、上記他の共重合成分としてビニルエステル系モノマー(例えば酢酸ビニル)を用いる場合、その含有量は、モノマー成分の例えば凡そ0.1重量%以上(通常は凡そ0.5重量%以上)とすることができ、また、凡そ20重量%以下(通常は凡そ10重量%以下)とすることが適当である。
アクリル系ポリマーは、他のモノマー成分として、(メタ)アクリロイル基やビニル基等の不飽和二重結合を有する重合性官能基(典型的にはラジカル重合性官能基)を少なくとも2つ有する多官能モノマーを含んでもよい。モノマー成分として、多官能モノマーを用いることにより、粘着剤層の凝集力を高めることができる。多官能モノマーは、架橋剤として用いることができる。
多官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2-エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。これらのうちの好適例として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも好ましい例として1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。反応性等の観点から、通常は、2以上のアクリロイル基を有する多官能モノマーが好ましい。
多官能モノマーの使用量は特に限定されず、該多官能モノマーの使用目的が達成されるように適切に設定することができる。ここに開示される好ましい貯蔵弾性率と他の粘着性能または他の特性とをバランスよく両立する観点から、多官能モノマーの使用量は、上記モノマー成分の凡そ3重量%以下とすることができ、凡そ2重量%以下が好ましく、凡そ1重量%以下(例えば凡そ0.5重量%以下)がより好ましい。多官能モノマーを使用する場合における使用量の下限は、0重量%より大きければよく、特に限定されない。通常は、多官能モノマーの使用量をモノマー成分の凡そ0.001重量%以上(例えば凡そ0.01重量%以上)とすることにより、該多官能モノマーの使用効果が適切に発揮され得る。
アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分の組成は、該アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)が凡そ-15℃以下(例えば凡そ-70℃以上-15℃以下)となるように設計されていることが適当である。ここで、アクリル系ポリマーのTgとは、上記モノマー成分の組成に基づいて、Foxの式により求められるTgをいう。Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
なお、上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。例えば、以下に挙げるモノマーについては、該モノマーのホモポリマーのガラス転移温度として、以下の値を使用する。
2-エチルヘキシルアクリレート -70℃
n-ブチルアクリレート -55℃
エチルアクリレート -22℃
メチルアクリレート 8℃
メチルメタクリレート 105℃
2-ヒドロキシエチルアクリレート -15℃
4-ヒドロキシブチルアクリレート -40℃
酢酸ビニル 32℃
スチレン 100℃
アクリル酸 106℃
メタクリル酸 228℃
上記で例示した以外のモノマーのホモポリマーのガラス転移温度については、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989)に記載の数値を用いるものとする。本文献に複数種類の値が記載されているモノマーについては、最も高い値を採用する。
上記文献にもホモポリマーのガラス転移温度が記載されていないモノマーについては、以下の測定方法により得られる値を用いるものとする。
具体的には、温度計、攪拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた反応器に、モノマー100重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部および重合溶媒として酢酸エチル200重量部を投入し、窒素ガスを流通させながら1時間攪拌する。このようにして重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し10時間反応させる。次いで、室温まで冷却し、固形分濃度33重量%のホモポリマー溶液を得る。次いで、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚さ約2mmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。この試験サンプルを直径7.9mmの円盤状に打ち抜き、パラレルプレートで挟み込み、粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、機種名「ARES」)を用いて周波数1Hzのせん断歪みを与えながら、温度領域-70℃~150℃、5℃/分の昇温速度でせん断モードにより粘弾性を測定し、tanδのピークトップ温度に相当する温度をホモポリマーのTgとする。
特に限定するものではないが、接着性の観点から、アクリル系ポリマーのTgは、凡そ-25℃以下であることが有利であり、好ましくは凡そ-35℃以下、より好ましくは凡そ-40℃以下、さらに好ましくは-45℃以下であり、例えば-50℃以下であってもよく、-55℃以下であってもよい。また、粘着剤層の凝集力の観点から、アクリル系ポリマーのTgは、通常は凡そ-75℃以上であり、好ましくは凡そ-70℃以上である。ここに開示される技術は、アクリル系ポリマーのTgが凡そ-65℃以上凡そ-40℃以下(例えば、凡そ-65℃以上凡そ-45℃以下)である態様で好ましく実施され得る。好ましい一態様において、アクリル系ポリマーのTgは、凡そ-55℃以上凡そ-45℃以下であり得る。他の一態様において、アクリル系ポリマーのTgは、凡そ-65℃以上凡そ-55℃以下であり得る。アクリル系ポリマーのTgは、モノマー組成(すなわち、該ポリマーの合成に使用するモノマーの種類や使用量比)を適宜変えることにより調整することができる。
アクリル系ポリマーのMwは、特に限定されず、例えば凡そ10×104以上500×104以下であり得る。凝集性の観点から、上記Mwは、通常、凡そ30×104以上であり、凡そ45×104以上(例えば凡そ65×104以上)とすることが適当である。好ましい一態様では、アクリル系ポリマーのMwは70×104以上である。また、ここに開示される技術の典型的な一態様では、アクリル系ポリマーのMwは70×104よりも大きいことが適当である。Mwが70×104超のアクリル系ポリマーを用いることにより、その凝集性に基づき、持続的な変形荷重に対して優れた耐変形性が得られる。アクリル系ポリマーのMwは、より好ましくは凡そ75×104以上、さらに好ましくは凡そ90×104以上、特に好ましくは凡そ95×104以上である。さらに特に好ましい一態様では、上記Mwは、凡そ100×104以上(例えば凡そ110×104以上)であり、典型的には120×104以上(例えば130×104以上)である。また、上記Mwは、通常は300×104以下(より好ましくは凡そ200×104以下、例えば凡そ150×104以下)であることが適当である。アクリル系ポリマーのMwは、凡そ140×104以下であってもよい。例えば溶液重合法、エマルション重合法で得られるアクリル系ポリマーでは、上記範囲のMwとすることが好ましい。
ここに開示されるアクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は、特に限定されない。ここでいう分散度(Mw/Mn)とは、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表わされる分散度(Mw/Mn)をいう。好ましい一態様において、アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は15未満である。例えば溶液重合法、エマルション重合法で得られる比較的高分子量(典型的にはMw70万超)のアクリル系ポリマーでは、上記範囲のMw/Mnとすることが好ましい。アクリル系ポリマーのMw/Mnが15未満であることは、当該ポリマーが比較的高分子量である場合に比較的均一な高分子量体を相当量含むことを意味し、高分子量体に基づく凝集性が精度よく発現し、持続的な変形荷重に対して優れた抵抗性(耐変形性)を示す。上記Mw/Mnは、好ましくは12未満、より好ましくは10未満、さらに好ましくは8未満(例えば7.5以下)である。また、上記Mw/Mnは、理論上1以上であり、例えば2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上(典型的には5以上)であってもよい。
他の一態様において、アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は8以上40以下である。アクリル系ポリマーのMw/Mnが8以上40以下であることは、分子量分布が広く、低分子量体と高分子量体とを相当量含むことを意味し得る。低分子量体は、被着体に対する良好な濡れ性から、軽圧着初期接着性発現に寄与し、高分子量体は、その凝集性から、持続的な変形荷重に対する抵抗性(耐変形性)を示す。上記Mw/Mnが8以上であることによって、初期接着性が好ましく発現する。また、上記Mw/Mnが40以下であることにより、分子量分布が適切な範囲内に好ましく制限され、安定した特性(軽圧着初期接着性と耐変形性)が得られる。上記Mw/Mnは、10以上であってもよく、12以上であってもよく、15以上であってもよい。上記Mw/Mnは18以上(例えば20以上)であってもよい。また、上記Mw/Mnは、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下である。
なお、Mw,MnおよびMw/Mnは、重合条件(時間、温度等)や、連鎖移動剤の使用、連鎖移動定数に基づく重合溶媒の選択等によって調節可能である。また、MwおよびMnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により得られた標準ポリスチレン換算の値から求められる。GPC装置としては、例えば機種名「HLC-8320GPC」(カラム:TSKgelGMH-H(S)、東ソー社製)を用いることができる。
<粘着剤組成物>
ここに開示される粘着剤層は、上述のような組成のモノマー成分を、重合物、未重合物(すなわち、重合性官能基が未反応である形態)、あるいはこれらの混合物の形態で含む粘着剤組成物を用いて形成され得る。上記粘着剤組成物は、有機溶媒中に粘着剤(粘着成分)を含む形態の組成物(溶剤型粘着剤組成物)、粘着剤が水性溶媒に分散した形態の組成物(水分散型粘着剤組成物)、紫外線や放射線等の活性エネルギー線により硬化して粘着剤を形成するように調製された組成物(活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物)、加熱溶融状態で塗工され、室温付近まで冷えると粘着剤を形成するホットメルト型粘着剤組成物等の種々の形態であり得る。ここに開示される技術は、粘着特性等の観点から、溶剤型粘着剤組成物または活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える態様で特に好ましく実施され得る。
ここで、本明細書において「活性エネルギー線」とは、重合反応、架橋反応、開始剤の分解等の化学反応を引き起こし得るエネルギーをもったエネルギー線を指す。ここでいう活性エネルギー線の例には、紫外線、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等が含まれる。
上記粘着剤組成物は、典型的には、該組成物のモノマー成分のうち少なくとも一部(モノマーの種類の一部であってもよく、分量の一部であってもよい。)を重合物の形態で含む。上記重合物を形成する際の重合方法は特に限定されず、従来公知の各種重合方法を適宜採用することができる。例えば、溶液重合、エマルション重合、塊状重合等の熱重合(典型的には、熱重合開始剤の存在下で行われる。);紫外線等の光を照射して行う光重合(典型的には、光重合開始剤の存在下で行われる。);β線、γ線等の放射線を照射して行う放射線重合;等を適宜採用することができる。なかでも、溶液重合、光重合が好ましい。これらの重合方法において、重合の態様は特に限定されず、従来公知のモノマー供給方法、重合条件(温度、時間、圧力、光照射量、放射線照射量等)、モノマー以外の使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)等を適宜選択して行うことができる。
例えば、好ましい一態様では、アクリル系ポリマーの合成に溶液重合法が採用され得る。上記溶液重合によると、アクリル系ポリマーが有機溶媒に溶解した形態の重合反応液が得られる。ここに開示される技術における粘着剤層は、上記重合反応液または該反応液に適当な後処理を施して得られたアクリル系ポリマー溶液を含む粘着剤組成物から形成されたものであり得る。上記アクリル系ポリマー溶液としては、上記重合反応液を必要に応じて適当な粘度(濃度)に調製したものを使用し得る。あるいは、溶液重合以外の重合方法(例えば、エマルション重合、光重合、バルク重合等)でアクリル系ポリマーを合成し、該アクリル系ポリマーを有機溶媒に溶解させて調製したアクリル系ポリマー溶液を用いてもよい。
溶液重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~170℃程度(通常は40℃~140℃程度)とすることができる。好ましい一態様において、重合温度を凡そ75℃以下(より好ましく凡そ65℃以下、例えば凡そ45℃~65℃程度)とすることができる。
溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)は、従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類(例えば芳香族炭化水素類);酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;イソプロピルアルコール等の低級アルコール類(例えば、炭素原子数1~4の一価アルコール類);tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。
一方、ここに開示される技術の他の一態様として、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物(典型的には光硬化型粘着剤組成物)を採用する場合、上記活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物としては、環境衛生等の観点から、有機溶媒を実質的に含有しないものが好ましい。例えば、有機溶媒の含有量が約5重量%以下(より好ましくは約3重量%以下、例えば約0.5重量%以下)である粘着剤組成物が好ましい。また、後述するように粘着剤組成物の液膜を一対の剥離フィルムの剥離面間で硬化させる形態での粘着剤層の形成に適することから、溶媒(有機溶媒および水性溶媒を包含する意味である。)を実質的に含まない粘着剤組成物が好ましい。例えば、溶媒の含有量が約5重量%以下(より好ましくは約3重量%以下、例えば約0.5重量%以下)である粘着剤組成物が好ましい。なお、ここで溶媒とは、粘着剤層の形成過程で除去されるべき揮発性成分、すなわち最終的に形成される粘着剤層の構成成分となることが意図されていない揮発性成分をいう。
重合にあたっては、重合方法や重合態様等に応じて、公知または慣用の熱重合開始剤や光重合開始剤を使用し得る。このような重合開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
熱重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えばアゾ系重合開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤、置換エタン系開始剤等を使用することができる。より具体的には、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート等のアゾ系開始剤;例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;例えばフェニル置換エタン等の置換エタン系開始剤;例えば過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組合せ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組合せ等のレドックス系開始剤;等が例示されるが、これらに限定されない。なお、熱重合は、例えば20~100℃(典型的には40~80℃)程度の温度で好ましく実施され得る。
光重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えばケタール系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等を用いることができる。
ケタール系光重合開始剤の具体例には、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、BASF社製の商品名「イルガキュア651」)等が含まれる。 アセトフェノン系光重合開始剤の具体例には、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(例えば、BASF社製の商品名「イルガキュア184」)、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(例えば、BASF社製の商品名「イルガキュア2959」)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(例えば、BASF社製の商品名「ダロキュア1173」)、メトキシアセトフェノン等が含まれる。
ベンゾインエーテル系光重合開始剤の具体例には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテルおよびアニソールメチルエーテル等の置換ベンゾインエーテルが含まれる。
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤の具体例には、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(例えば、BASF社製の商品名「イルガキュア819」)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジ-n-ブトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(例えば、BASF社製の商品名「ルシリンTPO」)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が含まれる。
α-ケトール系光重合開始剤の具体例には、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オン等が含まれる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤の具体例には、2-ナフタレンスルホニルクロライド等が含まれる。光活性オキシム系光重合開始剤の具体例には、1-フェニル-1,1-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)-オキシム等が含まれる。ベンゾイン系光重合開始剤の具体例にはベンゾイン等が含まれる。ベンジル系光重合開始剤の具体例にはベンジル等が含まれる。
ベンゾフェノン系光重合開始剤の具体例には、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が含まれる。
チオキサントン系光重合開始剤の具体例には、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が含まれる。
このような熱重合開始剤または光重合開始剤の使用量は、重合方法や重合態様等に応じた通常の使用量とすることができ、特に限定されない。例えば、重合対象のモノマー100重量部に対して重合開始剤凡そ0.001~5重量部(典型的には凡そ0.01~2重量部、例えば凡そ0.01~1重量部)を用いることができる。
(モノマー成分を完全重合物の形態で含む粘着剤組成物)
好ましい一態様に係る粘着剤組成物は、該剤組成物のモノマー成分を完全重合物の形態で含む。このような粘着剤組成物は、例えば、モノマー成分の完全重合物であるアクリル系ポリマーを有機溶媒中に含む溶剤型粘着剤組成物、上記アクリル系ポリマーが水性溶媒に分散した水分散型粘着剤組成物、等の形態であり得る。なお、本明細書において「完全重合物」とは、重合転化率が95重量%超であることをいう。
(モノマー成分の重合物と未重合物とを含む粘着剤組成物)
好ましい他の一態様に係る粘着剤組成物は、該組成物のモノマー成分(原料モノマー)の少なくとも一部を含むモノマー混合物の重合反応物を含む。典型的には、上記モノマー成分の一部を重合物の形態で含み、残部を未重合物(未反応のモノマー)の形態で含む。上記モノマー混合物の重合反応物は、該モノマー混合物を少なくとも部分的に重合させることにより調製することができる。
上記重合反応物は、好ましくは上記モノマー混合物の部分重合物である。このような部分重合物は、上記モノマー混合物に由来する重合物と未反応のモノマーとの混合物であって、典型的にはシロップ状(粘性のある液状)を呈する。以下、かかる性状の部分重合物を「モノマーシロップ」または単に「シロップ」ということがある。
上記重合反応物を得る際の重合方法は特に制限されず、上述のような各種重合方法を適宜選択して用いることができる。効率や簡便性の観点から、光重合法を好ましく採用し得る。光重合によると、光の照射量(光量)等の重合条件によって、上記モノマー混合物の重合転化率を容易に制御することができる。
上記部分重合物におけるモノマー混合物の重合転化率(モノマーコンバーション)は、特に限定されない。上記重合転化率は、例えば凡そ70重量%以下とすることができ、凡そ60重量%以下とすることが好ましい。上記部分重合物を含む粘着剤組成物の調製容易性や塗工性等の観点から、通常、上記重合転化率は、凡そ50重量%以下が適当であり、凡そ40重量%以下(例えば凡そ35重量%以下)が好ましい。重合転化率の下限は特に制限されないが、典型的には凡そ1重量%以上であり、通常は凡そ5重量%以上とすることが適当である。
上記モノマー混合物の部分重合物を含む粘着剤組成物は、例えば、原料モノマーの全部を含むモノマー混合物を適当な重合方法(例えば光重合法)により部分重合させることにより容易に得ることができる。上記部分重合物を含む粘着剤組成物には、必要に応じて用いられる他の成分(例えば、光重合開始剤、多官能モノマー、架橋剤、後述する(メタ)アクリル系オリゴマー等)が配合され得る。そのような他の成分を配合する方法は特に限定されず、例えば上記モノマー混合物にあらかじめ含有させてもよく、上記部分重合物に添加してもよい。
また、ここに開示される粘着剤組成物は、モノマー成分(原料モノマー)のうち一部の種類のモノマーを含むモノマー混合物の完全重合物が、残りの種類のモノマーまたはその部分重合物に溶解した形態であってもよい。このような形態の粘着剤組成物も、モノマー成分の重合物と未重合物とを含む粘着剤組成物の例に含まれる。
このようにモノマー成分の重合物と未重合物とを含む粘着剤組成物から粘着剤を形成する際の硬化方法(重合方法)としては、光重合法を好ましく採用することができる。光重合法によって調製された重合反応物を含む粘着剤組成物では、その硬化方法として光重合法を採用することが特に好適である。光重合法により得られた重合反応物は、すでに光重合開始剤を含むので、この重合反応物を含む粘着剤組成物をさらに硬化させて粘着剤を形成する際、新たな光重合開始剤を追加しなくても光硬化し得る。あるいは、光重合法により調製された重合反応物に、必要に応じて光重合開始剤を追加した組成の粘着剤組成物であってもよい。追加する光重合開始剤は、重合反応物の調製に使用した光重合開始剤と同じでもよく、異なってもよい。光重合以外の方法で調製された粘着剤組成物は、光重合開始剤を添加することにより光硬化性とすることができる。光硬化性の粘着剤組成物は、厚手の粘着剤層であっても容易に形成し得るという利点を有する。好ましい一態様において、粘着剤組成物から粘着剤を形成する際の光重合は、紫外線照射により行うことができる。紫外線照射には、公知の高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。
(架橋剤)
粘着剤層の形成に用いられる粘着剤組成物(好ましくは溶剤型粘着剤組成物)は、任意成分として、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤を含むことにより、ここに開示される粘弾性特性を好ましく実現することができる。ここに開示される技術における粘着剤層は、上記架橋剤を、架橋反応後の形態、架橋反応前の形態、部分的に架橋反応した形態、これらの中間的または複合的な形態等で含有し得る。上記架橋剤は、通常、専ら架橋反応後の形態で粘着剤層に含まれている。
架橋剤の種類は特に制限されず、従来公知の架橋剤から適宜選択して用いることができる。そのような架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属塩系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される技術において好ましく使用し得る架橋剤として、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤が例示される。
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物を特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に限定するものではないが、エポキシ系架橋剤の具体例として、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-C」および商品名「TETRAD-X」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
エポキシ系架橋剤を使用する態様において、その使用量は特に限定されない。エポキシ系架橋剤の使用量は、例えば、アクリル系ポリマー100重量部に対して、0重量部を超えて凡そ1重量部以下(好ましくは凡そ0.001~0.5重量部)とすることができる。凝集力の向上効果を好適に発揮する観点から、通常、エポキシ系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して凡そ0.002重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.005重量部以上であり、例えば凡そ0.01重量部以上であってもよく、凡そ0.02重量部以上であってもよく、凡そ0.03重量部以上であってもよい。また、過度の架橋による軽圧着初期接着性不足を避ける観点から、通常、エポキシ系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して凡そ0.2重量部以下とすることが適当であり、凡そ0.1重量部以下(例えば0.05重量部以下)とすることが好ましい。
イソシアネート系架橋剤としては、多官能イソシアネート(1分子当たり平均2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいい、イソシアヌレート構造を有するものを包含する。)が好ましく使用され得る。イソシアネート系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
好ましい多官能イソシアネートとして、1分子当たり平均して3個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートが例示される。かかる3官能以上のイソシアネートは、2官能または3官能以上のイソシアネートの多量体(例えば、2量体または3量体)、誘導体(例えば、多価アルコールと2分子以上の多官能イソシアネートとの付加反応生成物)、重合物等であり得る。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの2量体や3量体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(イソシアヌレート構造の3量体付加物)、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート等の多官能イソシアネートが挙げられる。かかる多官能イソシアネートの市販品としては、旭化成ケミカルズ社製の商品名「デュラネートTPA-100」、東ソー社製の商品名「コロネートL」、同「コロネートHL」、同「コロネートHK」、同「コロネートHX」、同「コロネート2096」等が挙げられる。
イソシアネート系架橋剤を使用する態様において、その使用量は特に限定されない。イソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば、アクリル系ポリマー100重量部に対して、凡そ0.5重量部以上凡そ10重量部以下とすることができる。凝集性の観点から、アクリル系ポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、通常、凡そ0.1重量部以上とすることが適当であり、凡そ0.3重量部以上(例えば0.5重量部以上)とすることが好ましい。より好ましい一態様では、アクリル系ポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は凡そ1重量部以上であり、凡そ1.5重量部以上であってもよい。また、アクリル系ポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、通常、凡そ8重量部以下とすることが適当であり、凡そ5重量部以下(例えば凡そ4重量部未満)とすることが好ましい。より好ましい一態様では、アクリル系ポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は凡そ3重量部以下であり、例えば2重量部以下である。
オキサゾリン系架橋剤としては、1分子内に1個以上のオキサゾリン基を有するものを特に制限なく使用することができる。オキサゾリン系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン基は、2-オキサゾリン基、3-オキサゾリン基、4-オキサゾリン基のいずれでもよい。通常は、2-オキサゾリン基を有するオキサゾリン系架橋剤を好ましく使用し得る。例えば、付加重合性オキサゾリンと他のモノマーとを共重合させて得られた共重合体を、オキサゾリン系架橋剤として使用することができる。そのような付加重合性オキサゾリンの非限定的な例として、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、および2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンが挙げられる。
オキサゾリン系架橋剤の例には、特開2009-001673号公報に例示されている架橋剤が含まれる。具体例としては、アクリル骨格またはスチレン骨格からなる主鎖を含み、その主鎖の側鎖にオキサゾリン基を有している化合物が挙げられる。好適例として、アクリル骨格からなる主鎖を含み、その主鎖の側鎖にオキサゾリン基を有しているオキサゾリン基含有アクリル系ポリマーが挙げられる。オキサゾリン系架橋剤の市販品としては、例えば日本触媒社製の商品名「エポクロスWS-500」、「エポクロスWS-700」、「エポクロスK-2010E」、「エポクロスK-2020E」、「エポクロスK-2030E」等が挙げられる。
オキサゾリン系架橋剤を使用する態様において、その使用量は特に限定されない。オキサゾリン系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、例えば0.05重量部以上、0.1重量部以上、または0.5重量部以上とすることができる。いくつかの態様において、アクリル系ポリマー100重量部に対するオキサゾリン系架橋剤の使用量は、1重量部以上でもよく、1.5重量部以上でもよい。オキサゾリン系架橋剤の使用量の増大により、より高い凝集力が得られやすくなる傾向にある。オキサゾリン系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、通常、例えば10重量部以下、8重量部以下、5重量部以下、または3重量部以下とすることができる。
ここに開示される技術は、架橋剤として少なくともエポキシ系架橋剤を使用する態様で好ましく実施され得る。エポキシ系架橋剤のエポキシ基は、アクリル系ポリマーに導入され得る酸性基と反応し、架橋構造を構築し得る。この架橋反応によって粘着剤の凝集性は高まり、Z軸方向の持続的な荷重に対する耐変形性がより好ましく発揮される。かかる態様の例には、エポキシ系架橋剤を単独で使用する態様と、エポキシ系架橋剤と他の架橋剤とを組み合わせて使用する態様とが含まれる。一態様では、上記粘着剤組成物は、架橋剤としてエポキシ系架橋剤を含むがイソシアネート系架橋剤を実質的に含まない。
他の一態様では、上記粘着剤組成物は、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含む。イソシアネート系架橋剤のイソシアネート基は、エポキシ系架橋剤とは異なる反応形態でアクリル系ポリマーに導入され得る酸性基と反応し、架橋構造を構築し得る。基材フィルムの少なくとも一方の表面に粘着剤層を有する形態の粘着シートでは、該基材フィルムに対する投錨性向上の観点から、イソシアネート系架橋剤を用いることが有意義である。
特に好ましい一態様では、上記粘着剤組成物は、架橋剤としてエポキシ系架橋剤とイソシアネート系架橋剤の両方を含む。例えば酸性基を有するアクリル系ポリマーに対してエポキシ系架橋剤とイソシアネート系架橋剤とを併用することにより、軽圧着初期接着性を損なうことなく、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性をさらに向上させ得る。具体的には、後述する実施例で検討されているような強反撥高温高湿条件下においても、長期間に亘ってZ軸方向の耐変形性を保持し得る。エポキシ系架橋剤の含有量CEに対するイソシアネート系架橋剤の含有量CIの比(CI/CE)は、特に限定されず、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性が得られるよう適切に設定される。上記比(CI/CE)は、例えば1よりも大きく、凡そ5以上であることが適当であり、好ましくは凡そ15以上、より好ましくは凡そ30以上、さらに好ましくは凡そ60以上、特に好ましくは凡そ80以上(例えば凡そ100以上)である。また、上記比(CI/CE)は、例えば凡そ1000以下であり、凡そ500以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ200以下、より好ましくは凡そ150以下、さらに好ましくは凡そ120以下(例えば凡そ80以下)である。
ここに開示される粘着剤組成物における架橋剤の含有量(架橋剤の総量)は、特に限定されない。凝集性の観点から、上記架橋剤の含有量は、通常、アクリル系ポリマー100重量部に対して凡そ0.001重量部以上であり、凡そ0.002重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.005重量部以上、より好ましくは凡そ0.01重量部以上、さらに好ましくは凡そ0.02重量部以上、特に好ましくは凡そ0.03重量部以上である。また、軽圧着初期接着性不足を避ける観点から、粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、通常、アクリル系ポリマー100重量部に対して凡そ20重量部以下であり、凡そ15重量部以下とすることが適当であり、凡そ10重量部以下(例えば凡そ5重量部以下)とすることが好ましい。
(粘着付与樹脂)
好ましい一態様では、粘着剤組成物(ひいては粘着剤層)は粘着付与樹脂を含む。上記粘着剤組成物に含まれ得る粘着付与樹脂としては、フェノール系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、変性テルペン系粘着付与樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂等の公知の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。粘着付与樹脂の使用により、軽圧着初期接着力を含む接着力が向上する。
フェノール系粘着付与樹脂の例には、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂およびロジンフェノール樹脂が含まれる。
テルペンフェノール樹脂とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペン類とフェノール化合物との共重合体(テルペン-フェノール共重合体樹脂)と、テルペン類またはその単独重合体もしくは共重合体をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。このようなテルペンフェノール樹脂を構成するテルペン類の好適例としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン(d体、l体およびd/l体(ジペンテン)を包含する。)等のモノテルペン類が挙げられる。水素添加テルペンフェノール樹脂とは、このようなテルペンフェノール樹脂を水素化した構造を有する水素添加テルペンフェノール樹脂をいう。水添テルペンフェノール樹脂と称されることもある。
アルキルフェノール樹脂は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドから得られる樹脂(油性フェノール樹脂)である。アルキルフェノール樹脂の例としては、ノボラックタイプおよびレゾールタイプのものが挙げられる。
ロジンフェノール樹脂は、典型的には、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のフェノール変性物である。ロジンフェノール樹脂の例には、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合する方法等により得られるロジンフェノール樹脂が含まれる。
これらのフェノール系粘着付与樹脂のうち、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペンフェノール樹脂およびアルキルフェノール樹脂が好ましく、テルペンフェノール樹脂および水素添加テルペンフェノール樹脂がより好ましく、なかでもテルペンフェノール樹脂が好ましい。
テルペン系粘着付与樹脂の例には、α-ピネン、β-ピネン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン等のテルペン類(例えばモノテルペン類)の重合体が含まれる。1種のテルペン類の単独重合体であってもよく、2種以上のテルペン類の共重合体であってもよい。1種のテルペン類の単独重合体としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。
変性テルペン樹脂の例としては、上記テルペン樹脂を変性したものが挙げられる。具体的には、スチレン変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。
ここでいうロジン系粘着付与樹脂の概念には、ロジン類およびロジン誘導体樹脂の双方が包含される。ロジン類の例には、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水素添加、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);が含まれる。
ロジン誘導体樹脂は、典型的には上記のようなロジン類の誘導体である。ここでいうロジン系樹脂の概念には、未変性ロジンの誘導体および変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジンおよび重合ロジンを包含する。)の誘導体が包含される。例えば、未変性ロジンとアルコール類とのエステルである未変性ロジンエステルや、変性ロジンとアルコール類とのエステルである変性ロジンエステル等のロジンエステル類;例えば、ロジン類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;例えば、ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体の金属塩;等が挙げられる。ロジンエステル類の具体例としては、未変性ロジンまたは変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)のメチルエステル、トリエチレングリコールエステル、グリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。
炭化水素系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン-オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
粘着付与樹脂の軟化点は特に限定されない。凝集力向上の観点から、軟化点(軟化温度)が凡そ80℃以上(好ましくは凡そ100℃以上)である粘着付与樹脂を好ましく採用し得る。例えば、このような軟化点を有するフェノール系粘着付与樹脂(テルペンフェノール樹脂等)を好ましく用いることができる。好ましい一態様において、軟化点が凡そ135℃以上(さらには凡そ140℃以上)のテルペンフェノール樹脂を用いることができる。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されない。被着体や基材フィルムに対する密着性の観点から、軟化点が凡そ200℃以下(より好ましくは凡そ180℃以下)の粘着付与樹脂を好ましく使用し得る。なお、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定することができる。
好ましい一態様として、上記粘着付与樹脂が1種または2種以上のフェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)を含む態様が挙げられる。ここに開示される技術は、例えば、粘着付与樹脂の総量の凡そ25重量%以上(より好ましくは凡そ30重量%以上)がテルペンフェノール樹脂である態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂の総量の凡そ50重量%以上がテルペンフェノール樹脂であってもよく、凡そ80重量%以上(例えば凡そ90重量%以上)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば凡そ95重量%以上100重量%以下、さらには凡そ99重量%以上100重量%以下)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。
フェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の含有量は、所期の粘弾性特性を満足する限りにおいて特に制限はない。フェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の含有量は、接着力(例えば軽圧着初期接着性)の観点から、アクリル系ポリマー100重量部に対して通常は凡そ1重量部以上であり、凡そ5重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ8重量部以上(典型的には10重量部以上)、より好ましくは凡そ12重量部以上(例えば15重量部以上)である。また、耐変形性等の観点から、上記フェノール系粘着付与樹脂の含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、凡そ45重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ35重量部以下、より好ましくは凡そ30重量部以下、さらに好ましくは30重量部未満(例えば25重量部以下、典型的には20重量部以下)である。
特に限定するものではないが、ここに開示される技術の一態様において、上記粘着付与樹脂は、水酸基価が20mgKOH/gより高い粘着付与樹脂を含み得る。なかでも水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂が好ましい。以下、水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を「高水酸基価樹脂」ということがある。このような高水酸基価樹脂を含む粘着付与樹脂によると、粘着力に加えて、イソシアネート系架橋剤等の架橋剤と相互作用することで凝集力の高い粘着剤層が実現され得る。一態様において、上記粘着付与樹脂は、水酸基価が50mgKOH/g以上(より好ましくは70mgKOH/g以上)の高水酸基価樹脂を含んでいてもよい。また、上記のような高水酸基価樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)は、例えば、C1-6アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとするアクリル系ポリマーと組み合わせて好ましく用いられて、被着体に対して良好な接着力を発揮し得る。
高水酸基価樹脂の水酸基価の上限は特に限定されない。アクリル系ポリマーとの相溶性等の観点から、高水酸基価樹脂の水酸基価は、通常、凡そ300mgKOH/g以下であり、凡そ200mgKOH/g以下が適当であり、好ましくは凡そ180mgKOH/g以下、より好ましくは凡そ160mgKOH/g以下、さらに好ましくは凡そ140mgKOH/g以下である。ここに開示される技術は、粘着付与樹脂が水酸基価30~160mgKOH/gの高水酸基価樹脂(例えばフェノール系粘着付与樹脂、好ましくはテルペンフェノール樹脂)を含む態様で好ましく実施され得る。一態様において、水酸基価30~80mgKOH/g(例えば30~65mgKOH/g)の高水酸基価樹脂を好ましく採用し得る。他の一態様において、水酸基価70~140mgKOH/gの高水酸基価樹脂を好ましく採用し得る。
ここで、上記水酸基価の値としては、JIS K0070:1992に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[水酸基価の測定方法]
1.試薬
(1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mLにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
(2)測定試薬としては、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
(3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
(1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mLおよびピリジン10mLを加え、空気冷却管を装着する。
(2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mLを加えて攪拌した後、蒸留水1mLを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
(3)エタノール5mLで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mLを加えて攪拌する。
(4)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
(5)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
(6)空試験は、試料を入れないで上記(1)~(5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B-C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
C: 試料に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
f: 0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の重量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
高水酸基価樹脂としては、上述した各種の粘着付与樹脂のうち所定値以上の水酸基価を有するものを用いることができる。高水酸基価樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、高水酸基価樹脂として、水酸基価が30mgKOH/g以上のフェノール系粘着付与樹脂を好ましく採用し得る。テルペンフェノール樹脂は、フェノールの共重合割合によって水酸基価を任意にコントロールすることができるので好都合である。
特に限定するものではないが、ここに開示される技術における粘着付与樹脂として、水酸基価が30mgKOH/g未満(例えば20mgKOH/g未満)の粘着付与樹脂を用いることができる。以下、水酸基価が30mgKOH/g未満の粘着付与樹脂を「低水酸基価樹脂」ということがある。低水酸基価樹脂の水酸基価は、凡そ15mgKOH/g以下であってもよく、凡そ10mgKOH/g以下であってもよい。低水酸基価樹脂の水酸基価の下限は特に限定されず、実質的に0mgKOH/gであってもよい。このような低水酸基価樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)は、例えば、C7-10アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとするアクリル系ポリマーとの組み合わせにおいて好ましく用いられて、被着体に対する接着性を良好に発揮し得る。
特に限定するものではないが、高水酸基価樹脂を使用する場合、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂全体に占める高水酸基価樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の割合は、例えば凡そ25重量%以上とすることができ、凡そ30重量%以上が好ましく、凡そ50重量%以上(例えば凡そ80重量%以上、典型的には凡そ90重量%以上)がより好ましい。粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば凡そ95~100重量%、さらには凡そ99~100重量%)が高水酸基価樹脂であってもよい。
粘着付与樹脂を使用する態様において、該粘着付与樹脂の含有量は特に限定されない。粘着付与樹脂の含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して通常は1重量部以上であり、また凡そ5重量部以上とすることができ、凡そ8重量部以上(例えば凡そ10重量部以上)とすることが適当である。ここに開示される技術は、アクリル系ポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量が凡そ12重量部以上(例えば凡そ15重量部以上)である態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂の含有量の上限は特に限定されない。アクリル系ポリマーとの相溶性や耐変形性の観点から、アクリル系ポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、凡そ70重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ55重量部以下、より好ましくは凡そ45重量部以下(例えば凡そ40重量部以下、典型的には凡そ30重量部以下)である。好ましい一態様では、アクリル系ポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は30重量部未満であり、より好ましくは凡そ25重量部以下、さらに好ましくは凡そ20重量部以下である。
((メタ)アクリル系オリゴマー)
ここに開示される粘着剤組成物(ひいては粘着剤層)には、接着力向上等の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させることができる。(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、上記モノマー成分の組成に対応する共重合体のTg(典型的には、粘着剤組成物から形成される粘着剤に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーのTgに概ね対応する。)よりもTgが高い重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させることにより、粘着剤の接着力を向上させ得る。
上記(メタ)アクリル系オリゴマーは、Tgが約0℃以上約300℃以下、好ましくは約20℃以上約300℃以下、さらに好ましくは約40℃以上約300℃以下であることが望ましい。Tgが上記範囲内であることにより、接着力を好適に向上することができる。好ましい一態様では、粘着剤の凝集性の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーのTgは約30℃以上であり、より好ましくは約50℃以上(例えば約60℃以上)であり、また軽圧着初期接着性の観点から、好ましくは約200℃以下、より好ましくは約150℃以下、さらに好ましくは約100℃以下(例えば凡そ80℃以下)である。なお(メタ)アクリル系オリゴマーのTgは、上記モノマー成分の組成に対応する共重合体のTgと同じく、Foxの式に基づいて計算される値である。
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、典型的には約1000以上約30000未満、好ましくは約1500以上約20000未満、さらに好ましくは約2000以上約10000未満であり得る。Mwが上記範囲内にあることで、良好な接着力や保持特性が得られるため好ましい。好ましい一態様では、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーのMwは約2500以上(例えば約3000以上)であり、また、軽圧着初期接着性の観点から、好ましくは約7000以下、より好ましくは約5000以下(例えば約4500以下、典型的には約400以下)である。(メタ)アクリル系オリゴマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。具体的には、東ソー社製のHPLC8020に、カラムとしてTSKgelGMH-H(20)×2本を用いて、テトラヒドロフラン溶媒で流速約0.5ml/分の条件にて測定される。
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート);フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートのようなアリール(メタ)アクリレート;テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。このような(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、イソブチル(メタ)アクリレートやt-ブチル(メタ)アクリレートのようなアルキル基が分岐構造を有するアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸と脂環式アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート);フェニル(メタ)アクリレートやベンジル(メタ)アクリレートのようなアリール(メタ)アクリレート等の環状構造を有する(メタ)アクリレートに代表される、比較的嵩高い構造を有するアクリル系モノマーをモノマー単位として含んでいることが、粘着剤層の接着性をさらに向上させることができる観点から好ましい。また、(メタ)アクリル系オリゴマーの合成の際や粘着剤層の作製の際に紫外線を採用する場合には、重合阻害を起こしにくいという点で、飽和結合を有するものが好ましく、アルキル基が分岐構造を有するアルキル(メタ)アクリレート、または脂環式アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート)を、(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーとして好適に用いることができる。なお、上記の分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートはいずれも、ここに開示される技術における(メタ)アクリレートモノマーに該当する。脂環式炭化水素基は飽和または不飽和の脂環式炭化水素基であり得る。
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成する全モノマー成分に占める(メタ)アクリレートモノマー(例えば、脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート)の割合は、典型的には50重量%超であり、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上(例えば80重量%以上、さらには90重量%以上)である。好ましい一態様では、(メタ)アクリル系オリゴマーは、実質的に(メタ)アクリレートモノマーのみからなるモノマー組成を有する。
(メタ)アクリル系オリゴマーの構成モノマー成分としては、上記の(メタ)アクリレートモノマーに加えて、官能基含有モノマーを用いることができる。上記官能基含有モノマーの好適例としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環(典型的には窒素原子含有複素環)を有するモノマー;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;AA、MAA等のカルボキシル基含有モノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;が挙げられる。これらの官能基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、カルボキシル基含有モノマーが好ましく、AAが特に好ましい。
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成する全モノマー成分が官能基含有モノマーを含む場合、上記全モノマー成分に占める官能基含有モノマー(例えば、AA等のカルボキシル基含有モノマー)の割合は、凡そ1重量%以上とすることが適当であり、好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、また凡そ15重量%以下とすることが適当であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。
(メタ)アクリル系オリゴマーは、その構成モノマー成分を重合することにより形成され得る。重合方法や重合態様は特に限定されず、従来公知の各種重合方法(例えば、溶液重合、エマルション重合、塊状重合、光重合、放射線重合等)を、適宜の態様で採用することができる。必要に応じて使用し得る重合開始剤(例えば、AIBN等のアゾ系重合開始剤)の種類は、概ねアクリル系ポリマーの合成にて例示したとおりであり、重合開始剤量や、任意に使用されるn-ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤の量は、所望の分子量となるよう技術常識に基づいて適切に設定されるので、ここでは詳細な説明は省略する。
上記の観点から、好適な(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、例えば、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)、イソボルニルアクリレート(IBXA)、ジシクロペンタニルアクリレート(DCPA)、1-アダマンチルメタクリレート(ADMA)、1-アダマンチルアクリレート(ADA)の各単独重合体のほか、CHMAとイソブチルメタクリレート(IBMA)との共重合体、CHMAとIBXMAとの共重合体、CHMAとアクリロイルモルホリン(ACMO)との共重合体、CHMAとジエチルアクリルアミド(DEAA)との共重合体、CHMAとAAとの共重合体、ADAとメチルメタクリレート(MMA)の共重合体、DCPMAとIBXMAとの共重合体、DCPMAとMMAの共重合体、等を挙げることができる。
ここに開示される粘着剤組成物に(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させる場合、その含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して例えば0.1重量部以上(例えば1重量部以上)とすることが適当である。(メタ)アクリル系オリゴマーの効果をよりよく発揮させる観点からは、上記(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量は、好ましくは凡そ5重量部以上、より好ましくは凡そ8重量部以上、さらに好ましくは凡そ10重量部以上、特に好ましくは凡そ12重量部以上である。また、アクリル系ポリマーとの相溶性等の観点から、上記(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量は、50重量部未満(例えば40重量部未満)とすることが適当であり、好ましくは30重量部未満、より好ましくは凡そ25重量部以下、さらに好ましくは凡そ20重量部以下である。
好ましい一態様では、粘着剤組成物(ひいては粘着剤層)は、上述の粘着付与樹脂の1種または2種以上と、(メタ)アクリル系オリゴマーの1種または2種以上と、を含む。高分子量のアクリル系ポリマーを含む組成において、粘着付与樹脂と(メタ)アクリル系オリゴマーとを併用することにより、優れた軽圧着初期接着性を得つつ、強反撥等のより過酷な条件に曝される使用態様においてもZ軸方向の持続的荷重に対して高度に優れた耐変形性を発揮し得る。粘着付与樹脂の含有量CTと(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量COの比は、特に限定されず、例えばCT:COは1:9~9:1とすることが適当であり、好ましくは2:8~8:2、より好ましくは3:7~7:3、さらに好ましくは4:6~6:4である。
好ましい一態様に係る粘着剤組成物(ひいては粘着剤層)に含まれる粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーの合計量(総量)は、ここに開示される技術による効果を好ましく発揮する観点から、凡そ1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ10重量部以上、より好ましくは凡そ16重量部以上、さらに好ましくは20重量部以上、特に好ましくは25重量部以上であり、また120重量部未満(例えば凡そ80重量部以下)とすることが適当であり、好ましくは60重量部未満、より好ましくは凡そ50重量部以下、さらに好ましくは凡そ40重量部以下である。
(その他の添加剤)
粘着剤組成物には、上述した各成分以外に、必要に応じてレベリング剤、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤が含まれていてもよい。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
ここに開示される粘着剤層は、従来公知の方法によって形成することができる。例えば、非剥離性の基材に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して乾燥または硬化させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して乾燥または硬化させることにより該表面上に粘着剤層を形成することで、粘着剤層のみからなる基材レスの粘着シートを作製することができる。さらに、上記剥離面に形成した粘着剤層を非剥離性の基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。なお、ここに開示される粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、このような形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
粘着剤組成物の塗布方法としては、従来公知の各種の方法を使用可能である。具体的には、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法等の方法が挙げられる。
ここに開示される技術の一態様では、架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40~150℃程度とすることができ、通常は60~130℃程度とすることが好ましい。粘着剤組成物を乾燥させた後、さらに、粘着剤層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、基材フィルムや粘着剤層内に存在し得る歪の緩和等を目的としてエージングを行ってもよい。
他の一態様では、ここに開示される粘着シートは、剥離フィルムの剥離面上で粘着剤組成物の液膜を乾燥または硬化させて上記剥離面上で硬化した面が第1粘着面である粘着剤層を形成することを含む方法により、好適に製造することができる。この方法によると、流動性を有する状態の粘着剤組成物(液膜)が上記剥離面に接して乾燥または硬化することにより、該剥離面に接して形成される粘着剤層表面の平滑性を精度よく制御することができる。例えば、適切な平滑性を有する剥離面を備えた剥離フィルムを用いることにより、所望の平滑性を有する第1粘着面を安定して(再現性よく)製造することができる。
ここに開示される粘着シートは、上記粘着剤組成物の液膜を一対の剥離フィルムの剥離面間で乾燥または硬化させて粘着剤層を形成することを含む方法で好ましく製造され得る。この方法は、基材レス両面粘着シートの製造方法として好適である。また、このようにして得られた基材レス両面粘着シートを支持基材の非剥離面に貼り合わせることにより、基材付き片面粘着シートや基材付き両面粘着シートの製造にも好ましく適用され得る。一対の剥離フィルムの剥離面間に粘着剤組成物の液膜を配置する方法としては、第1の剥離フィルムの剥離面に液状の粘着剤組成物を塗布し、次いで該粘着剤組成物の液膜に第2の剥離フィルムを被せる方法を採用することができる。他の方法として、第1の剥離フィルムと第2の剥離フィルムとを剥離面を対向させて一対のロール間に供給するとともに、それらの剥離面の間に液状の粘着剤組成物を供給する方法が挙げられる。
粘着剤層の厚さは特に制限されない。粘着剤層の厚さは、通常、凡そ300μm以下が適当であり、好ましくは凡そ200μm以下、より好ましくは凡そ150μm以下、さらに好ましくは凡そ100μm以下である。好ましい一態様に係る粘着シートでは、粘着剤層の厚さは凡そ70μm以下(通常は60μm以下)であり、例えば凡そ50μm以下であってもよく、凡そ40μm以下であってもよい。粘着剤層の厚さの下限は特に制限されないが、接着性、被着体追従性の観点からは、凡そ3μm以上とすることが有利であり、好ましくは凡そ6μm以上、より好ましくは凡そ10μm以上(例えば凡そ15μm以上)であり、さらに好ましくは凡そ25μm以上であり、例えば凡そ35μm以上であってもよく、凡そ45μm以上であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、厚さが凡そ10μm以上凡そ150μm以下(好ましくは凡そ15μm以上凡そ50μm以下)の粘着剤層を備える粘着シートの形態で好適に実施され得る。好適例として、上記厚さの粘着剤層のみからなる基材レス両面接着性粘着シートが挙げられる。
(ゲル分率)
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着剤層のゲル分率は、重量基準で、例えば20%以上とすることができ、通常は30%以上とすることが適当であり、35%以上が好ましい。粘着剤層のゲル分率を適度な範囲で高くすることにより、Z軸方向の持続的な荷重に対する耐変形性が得られやすくなる傾向にある。ここに開示される技術では、ゲル分率が40%以上の粘着剤層とすることがより好ましい。上記ゲル分率は、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上である。上記ゲル分率は例えば55%以上であってもよい。一方、ゲル分率が高すぎると軽圧着初期接着性が不足しがちとなることがあり得る。かかる観点から、粘着剤層のゲル分率は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下(例えば65%以下)がさらに好ましい。
ここで「粘着剤層のゲル分率」とは、次の方法により測定される値をいう。該ゲル分率は、粘着剤層のうち酢酸エチル不溶分の重量割合として把握され得る。
[ゲル分率測定方法]
約0.1gの粘着剤サンプル(重量Wg1)を平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(重量Wg2)で巾着状に包み、口をタコ糸(重量Wg3)で縛る。上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜としては、日東電工社から入手可能な商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)またはその相当品を使用する。
この包みを酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間保持して粘着剤層中のゾル成分のみを上記膜外に溶出させた後、上記包みを取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取り、該包みを130℃で2時間乾燥させ、該包みの重量(Wg4)を測定する。粘着剤層のゲル分率FGは、各値を以下の式に代入することにより求められる。後述の実施例においても同様の方法が採用される。
ゲル分率FG(%)=[(Wg4-Wg2-Wg3)/Wg1]×100
<基材>
ここに開示される粘着シートが片面粘着タイプまたは両面粘着タイプの基材付き粘着シートの形態である態様において、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、樹脂フィルム、発泡体フィルム(発泡体基材)、紙、布、金属箔、これらの複合体等を用いることができる。
ここに開示される技術は、基材フィルム(支持体)の少なくとも一方の表面に上記粘着剤層を有する形態の基材付き粘着シートの形態で実施することができる。例えば、基材フィルムの一方の表面および他方の表面に上記粘着剤層を有する基材付き両面粘着シートの形態で実施され得る。
基材フィルムとしては、ベースフィルムとして樹脂フィルムを含むものを好ましく用いることができる。上記ベースフィルムは、典型的には、独立して形状維持可能な(非依存性の)部材である。ここに開示される技術における基材フィルムは、このようなベースフィルムから実質的に構成されたものであり得る。あるいは、上記基材フィルムは、上記ベースフィルムの他に、補助的な層を含むものであってもよい。上記補助的な層の例としては、上記ベースフィルムの表面に設けられた下塗り層、帯電防止層、着色層等が挙げられる。
上記樹脂フィルムは、樹脂材料を主成分(当該樹脂フィルム中に50重量%を超えて含まれる成分)とするフィルムである。樹脂フィルムの例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂フィルム;塩化ビニル系樹脂フィルム;酢酸ビニル系樹脂フィルム;ポリイミド系樹脂フィルム;ポリアミド系樹脂フィルム;フッ素樹脂フィルム;セロハン;等が挙げられる。樹脂フィルムは、天然ゴムフィルム、ブチルゴムフィルム等のゴム系フィルムであってもよい。なかでも、ハンドリング性、加工性の観点から、ポリエステルフィルムが好ましく、そのなかでもPETフィルムが特に好ましい。なお、本明細書において「樹脂フィルム」とは、典型的には非多孔質のシートであって、いわゆる不織布や織布とは区別される概念(換言すると、不織布や織布を除く概念)である。
上記樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、2層、3層またはそれ以上の多層構造を有するものであってもよい。形状安定性の観点から、樹脂フィルムは単層構造であることが好ましい。多層構造の場合、少なくとも一つの層(好ましくは全ての層)は上記樹脂(例えばポリエステル系樹脂)の連続構造を有する層であることが好ましい。樹脂フィルムの製造方法は、従来公知の方法を適宜採用すればよく、特に限定されない。例えば、押出成形、インフレーション成形、Tダイキャスト成形、カレンダーロール成形等の従来公知の一般的なフィルム成形方法を適宜採用することができる。
他の一態様では、基材材料として、紙や布、金属が用いられる。基材フィルムに用いられ得る紙の例としては、和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等が挙げられる。布の例としては、各種繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等が挙げられる。上記繊維状物質としては、綿、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等が例示される。基材フィルムに用いられ得る金属箔の例としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
なお、ここでいう不織布は、主として粘着テープその他の粘着シートの分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。また、ここでいう樹脂フィルムとは、典型的には非多孔質の樹脂シートであって、例えば不織布とは区別される(すなわち、不織布を含まない)概念である。上記樹脂フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。また、該基材の粘着剤層が設けられる面には、下塗り剤の塗布、コロナ放電処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
上記樹脂フィルム(例えばPETフィルム)には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、着色剤、分散剤(界面活性剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。各種添加剤の配合割合は、通常は凡そ30重量%未満(例えば凡そ20重量%未満、好ましくは凡そ10重量%未満)程度である。
基材フィルムの表面には、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤の塗布等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、基材フィルムと粘着剤層との密着性、言い換えると粘着剤層の基材フィルムへの投錨性を向上させるための処理であり得る。
ここに開示される基材フィルムの厚さは特に限定されない。粘着シートが過度に厚くなることを避ける観点から、基材フィルム(例えば樹脂フィルム)の厚さは、例えば凡そ200μm以下、好ましくは凡そ150μm以下、より好ましくは凡そ100μm以下とすることができる。粘着シートの使用目的や使用態様に応じて、基材フィルムの厚さは、凡そ70μm以下であってよく、凡そ50μm以下でもよく、凡そ30μm以下(例えば凡そ25μm以下)でもよい。一態様において、基材フィルムの厚さは、凡そ20μm以下であってよく、凡そ15μm以下でもよく、凡そ10μm以下(例えば凡そ5μm以下)でもよい。基材フィルムの厚さを小さくすることにより、粘着シートの総厚さが同じであっても粘着剤層の厚さをより大きくすることができる。このことは、基材との密着性向上の観点から有利となり得る。基材フィルムの厚さの下限は特に制限されない。粘着シートの取扱い性(ハンドリング性)や加工性等の観点から、基材フィルムの厚さは、通常は凡そ0.5μm以上(例えば1μm以上)、好ましくは凡そ2μm以上、例えば凡そ4μm以上である。一態様において、基材フィルムの厚さは、凡そ6μm以上とすることができ、凡そ8μm以上でもよく、凡そ10μm以上(例えば10μm超)でもよい。
<発泡体基材>
他の好ましい一態様では、基材として発泡体基材が用いられる。ここに開示される発泡体基材は、気泡(気泡構造)を有する部分を備えた基材であって、典型的には、層状の発泡体(発泡体層)を少なくとも1層含む基材である。上記発泡体基材は、1層または2層以上の発泡体層により構成された基材であり得る。上記発泡体基材は、例えば、1層または2層以上の発泡体層のみにより実質的に構成された基材であり得る。特に限定するものではないが、ここに開示される技術における発泡体基材の一好適例として、単層(1層)の発泡体層からなる発泡体基材が挙げられる。
発泡体基材の厚さは、特に限定されず、粘着シートの強度や柔軟性、使用目的等に応じて適宜設定することができる。薄型化の観点から、発泡体基材の厚さとしては、通常、1mm以下であり、0.70mm以下が適当であり、0.40mm以下が好ましく、0.30mm以下がより好ましい。ここに開示される技術は、加工性等の観点から、発泡体基材の厚さが0.25mm以下(典型的には0.18mm以下、例えば0.16mm以下)である態様で好ましく実施され得る。また、粘着シートの耐衝撃性等の観点から、発泡体基材の厚さは、通常は0.04mm以上であり、0.05mm以上が適当であり、0.06mm以上が好ましく、0.07mm以上(例えば0.08mm以上)がより好ましい。ここに開示される技術は、発泡体基材の厚さが0.10mm以上(典型的には0.10mm超、好ましくは0.12mm以上、例えば0.13mm以上)である態様で好ましく実施され得る。発泡体基材の厚さが大きくなると、耐衝撃性が改善される傾向にある。
発泡体基材の密度(見掛け密度をいう。以下、特記しない場合において同じ。)は特に限定されず、例えば0.1~0.9g/cm3であり得る。耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度は、0.8g/cm3以下が適当であり、0.7g/cm3以下(例えば0.6g/cm3以下)が好ましい。一態様において、発泡体基材の密度は、0.5g/cm3未満であってよく、0.4g/cm3未満(例えば0.5g/cm3以下)であってもよい。また、耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度は、0.12g/cm3以上が好ましく、0.15g/cm3以上がより好ましく、0.2g/cm3以上(例えば0.3g/cm3以上)がさらに好ましい。一態様において、発泡体基材の密度は、0.4g/cm3以上であってよく、0.5g/cm3以上(例えば0.5g/cm3超)であってもよく、さらには0.55g/cm3以上であってもよい。なお、発泡体基材の密度(見掛け密度)はJIS K 6767に準拠して測定することができる。
発泡体基材の平均気泡径は特に限定されないが、応力分散の観点からは、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。平均気泡径の下限は特に限定されないが、段差追従性の観点から、通常は10μm以上が適当であり、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上(例えば50μm以上)がさらに好ましい。一態様において、平均気泡径は、55μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。なお、ここでいう平均気泡径は、発泡体基材の断面を電子顕微鏡で観察して得られる、真球換算の平均気泡径をいう。
ここに開示される発泡体基材を構成する発泡体の気泡構造は特に制限されない。気泡構造としては、連続気泡構造、独立気泡構造、半連続半独立気泡構造のいずれであってもよい。衝撃吸収性の観点からは、独立気泡構造、半連続半独立気泡構造が好ましい。
発泡体基材の25%圧縮強度C25は特に限定されず、例えば20kPa以上(典型的には30kPa以上、さらには40kPa以上)であり得る。C25は、通常、250kPa以上が適当であり、300kPa以上(例えば400kPa以上)が好ましい。このような発泡体基材を備える粘着シートは、落下等の衝撃に対して良好な耐久性を発揮するものとなり得る。例えば、衝撃による粘着シートの千切れがよりよく防止されたものとなり得る。C25の上限は特に制限されないが、通常は1300kPa以下(例えば1200kPa以下)が適当である。一態様において、C25は、1000kPa以下であってもよく、800kPa以下であってもよく、さらには600kPa以下(例えば500kPa以下)であってもよく、360kPa以下であってもよい。好ましい他の一態様において、発泡体基材のC25は、20kPa~200kPa(典型的には30kPa~150kPa、例えば40kPa~120kPa)とすることができる。このような発泡体基材を備える粘着シートは、クッション性に優れたものとなり得る。例えば、落下衝撃を発泡体基材が吸収することにより、粘着シートの剥がれがよりよく防止され得る。
発泡体基材の25%圧縮強度C25は、該発泡体基材を30mm角の正方形状にカットしたものを積み重ねて約2mmの厚さとした測定試料を一対の平板で挟み、それを当初の厚さの25%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重(圧縮率25%における荷重)をいう。すなわち、上記測定試料を当初の厚さの75%に相当する厚さまで圧縮したときの荷重をいう。上記圧縮強度は、JIS K 6767に準拠して測定される。具体的な測定手順としては、上記一対の平板の中央部に上記測定試料をセットし、上記平板の間隔を狭めることで連続的に所定の圧縮率まで圧縮し、そこで平板を停止させて10秒経過後の荷重を測定する。発泡体基材の圧縮強度は、例えば、発泡体基材を構成する材料の架橋度や密度、気泡のサイズや形状等により制御することができる。
発泡体基材の引張伸度は特に限定されない。例えば、流れ方向(MD)の引張伸度が200%~800%(より好ましくは400%~600%)である発泡体基材を好適に採用し得る。また、幅方向(TD)の引張伸度が50%~800%(より好ましくは200%~500%)である発泡体基材が好ましい。発泡体基材の伸びは、JIS K 6767に準拠して測定される。発泡体基材の伸びは、例えば、架橋度や見掛け密度(発泡倍率)等により制御することができる。
発泡体基材の引張強さ(引張強度)は特に限定されない。例えば、流れ方向(MD)の引張強さが5MPa~35MPa(好ましくは10MPa~30MPa)である発泡体基材を好適に採用し得る。また、幅方向(TD)の引張強さが1MPa~25MPa(より好ましくは5MPa~20MPa)である発泡体基材が好ましい。発泡体基材の引張強さは、JIS K 6767に準拠して測定される。発泡体基材の引張強さは、例えば、架橋度や見掛け密度(発泡倍率)等により制御することができる。
発泡体基材の材質は特に制限されない。通常は、プラスチック材料の発泡体(プラスチック発泡体)により形成された発泡体層を含む発泡体基材が好ましい。プラスチック発泡体を形成するためのプラスチック材料(ゴム材料を包含する意味である。)は、特に制限されず、公知のプラスチック材料のなかから適宜選択することができる。プラスチック材料は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
プラスチック発泡体の具体例としては、PE製発泡体、PP製発泡体等のポリオレフィン系樹脂製発泡体;PET製発泡体、PEN製発泡体、PBT製発泡体等のポリエステル系樹脂製発泡体;ポリ塩化ビニル製発泡体等のポリ塩化ビニル系樹脂製発泡体;酢酸ビニル系樹脂製発泡体;ポリフェニレンスルフィド樹脂製発泡体;脂肪族ポリアミド(ナイロン)樹脂製発泡体、全芳香族ポリアミド(アラミド)樹脂製発泡体等のアミド系樹脂製発泡体;ポリイミド系樹脂製発泡体;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製発泡体;ポリスチレン製発泡体等のスチレン系樹脂製発泡体;ポリウレタン樹脂製発泡体等のウレタン系樹脂製発泡体;等が挙げられる。また、プラスチック発泡体として、ポリクロロプレンゴム製発泡体等のゴム系樹脂製発泡体を用いてもよい。
好ましい発泡体として、ポリオレフィン系樹脂製発泡体(以下「ポリオレフィン系発泡体」ともいう。)が例示される。ポリオレフィン系発泡体を構成するプラスチック材料(すなわちポリオレフィン系樹脂)としては、公知または慣用の各種ポリオレフィン系樹脂を特に限定なく用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のPE、PP、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。LLDPEの例としては、チーグラー・ナッタ触媒系直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
ここに開示される技術における発泡体基材の好適例としては、耐衝撃性や防水性、防塵性等の観点から、PE系樹脂の発泡体から実質的に構成されるPE系発泡体基材、PP系樹脂の発泡体から実質的に構成されるPP系発泡体基材等のポリオレフィン系発泡体基材が挙げられる。ここでPE系樹脂とは、エチレンを主モノマー(すなわち、モノマーのなかの主成分)とする樹脂を指し、HDPE、LDPE、LLDPE等の他、エチレンの共重合割合が50重量%を超えるエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体等を包含し得る。同様に、PP系樹脂とは、プロピレンを主モノマーとする樹脂を指す。ここに開示される技術における発泡体基材としては、PE系発泡体基材を好ましく採用し得る。
上記プラスチック発泡体(典型的にはポリオレフィン系発泡体)の製造方法は特に限定されず、公知の各種方法を適宜採用し得る。例えば、上記プラスチック材料、もしくは上記プラスチック発泡体の成形工程、架橋工程および発泡工程を含む方法により製造し得る。また、必要に応じて延伸工程を含み得る。
上記プラスチック発泡体を架橋させる方法としては、例えば、有機過酸化物などを用いる化学架橋法、または電離性放射線を照射する電離性放射線架橋法等が挙げられ、これらの方法は併用され得る。上記電離性放射線としては、電子線、α線、β線、γ線等が例示される。電離性放射線の線量は特に限定されず、発泡体基材の目標物性(例えば架橋度)等を考慮して適切な照射線量に設定することができる。
上記発泡体基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、界面活性剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
ここに開示される技術における発泡体基材は、該発泡体基材を備える粘着シートにおいて所望の意匠性や光学特性(例えば、遮光性、光反射性等)を発現させるために、黒色、白色等に着色されていてもよい。この着色には、公知の有機または無機の着色剤を、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
発泡体基材の表面には、必要に応じて、適宜の表面処理が施されていてもよい。この表面処理は、例えば、隣接する材料(例えば粘着剤層)に対する密着性を高めるための化学的または物理的な処理であり得る。かかる表面処理の例としては、コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン曝露、火炎曝露、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布等が挙げられる。
<剥離ライナー>
ここに開示される技術において、粘着剤層の形成、粘着シートの作製、使用前の粘着シートの保存、流通、形状加工等の際に、剥離ライナーを用いることができる。剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(PE、PP等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記ライナー基材を表面処理して形成されたものであり得る。
<粘着シート>
ここに開示される粘着シートは、23℃、圧着荷重0.1kgの条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度(23℃軽圧着初期接着力)、および40℃、0.05MPa、3秒の条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度(40℃軽圧着初期接着力)のうち少なくとも一方が、8N/20mm以上を満足することが好ましい。上記特性を満足する粘着シートは、常温域における軽圧着、または制限された加熱温度を利用した軽圧着で、被着体表面に対して優れた初期接着性を好ましく発揮し得る。上記粘着シートは、上記圧着温度域で所望の軽圧着初期接着性を実現し得るので、60℃を超えるような加熱が困難な用途(例えば電子機器用途)においても、常温、またはマイルドな加熱で貼り付ける態様で好ましく利用され得る。また、かかる粘着シートは、従来の加熱圧着と比べてハンドリング性にも優れる。
ここに開示される粘着シートは、23℃、圧着荷重0.1kgの条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度(23℃軽圧着初期接着力)が、8N/20mm以上であることが好ましい。この特性を満足することによって、種々の被着体(例えば携帯電子機器部材として使用される材料)に対して優れた軽圧着初期接着性を発揮し得る。また、軽圧着初期接着性に優れる粘着シートは、通常の圧着では破損するおそれのある脆弱被着体への貼り付けが容易である点でも有利である。23℃軽圧着初期接着力は、より好ましくは10N/20mm以上、さらに好ましくは12N/20mm以上、特に好ましくは14N/20mm以上である。上記23℃軽圧着初期接着力の上限は特に制限されないが、通常は凡そ30N/20mm以下(例えば凡そ20N/20mm以下)が適当である。上記23℃軽圧着初期接着力は、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定される。
また、ここに開示される粘着シートは、40℃、0.05MPa、3秒の条件で加熱圧着し、圧着後1分以内に測定される180度剥離強度(40℃軽圧着初期接着力)が、8N/20mm以上であることが好ましい。この特性を満足することによって、40℃程度の加熱による熱圧着(換言すれば、マイルドな熱圧着)で、優れた軽圧着初期接着性を発揮し得る。上記熱圧着は、100℃程度で実施される従来の熱圧着とは異なり、電子機器等に対して適用可能な熱圧着である。40℃軽圧着初期接着力は、より好ましくは10N/20mm以上、さらに好ましくは12N/20mm以上、特に好ましくは14N/20mm以上、最も好ましくは18N/20mm以上である。上記40℃軽圧着初期接着力の上限は特に制限されないが、通常は凡そ30N/20mm以下(例えば凡そ25N/20mm以下)が適当である。上記40℃軽圧着初期接着力は、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定される。
また、ここに開示される粘着シートは、後述の実施例において、厚さ75μmのPETフィルムを用いて測定されるZ軸方向耐変形性試験(23℃または40℃)において合格レベルの耐変形性を有する(すなわち、剥がれが生じない)ものであり得る。上記特性を満足する粘着シートは、実質的に粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)のみからなる引き剥がし荷重に対して優れた軽圧着接着性および耐変形性を有し、かつ当該方向への持続的な引き剥がし荷重に対して変形しにくい。
また、ここに開示される粘着シートは、後述の実施例において、厚さ125μmのPETフィルムを用いて65℃90%RH72時間の条件で測定されるZ軸方向耐変形性試験において、測定終了時の浮き高さが1000μm未満であり得る。上記特性を満足する粘着シートは、実質的に粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)のみからなる引き剥がし荷重に対して特に優れた耐変形性を有し、かつ当該方向への持続的な引き剥がし荷重に対して特に変形しにくい。また、被着体(例えば携帯電子機器や、その構成部品であるモジュール)に貼り付けられた粘着シートが保管時等において高温高湿条件に曝される場合にも、安定した耐変形性を発揮し得る。上記浮き高さは、好ましくは700μm未満、より好ましくは500μm未満、さらに好ましくは300μm未満、特に好ましくは200μm未満(例えば150μm未満)である。なお、上記浮き高さは、粘着シートの厚さ(後述の実施例では50μm)を含む高さである。
また、ここに開示される粘着シートは、JIS Z 0237:2000に準じて測定される30分養生後接着力が、8N/20mm以上であることが好ましい。上記30分養生後接着力を有する粘着シートは、被着体に対して良好な接着性を示す。上記接着力を有する粘着シートは、例えばポリカーボネート(PC)やポリイミド(PI)等の電子機器に用いられる樹脂材料に対して良好な接着性を示す傾向がある。上記30分養生後接着力は、より好ましくは10N/20mm以上、さらに好ましくは12N/20mm以上、特に好ましくは14N/20mm以上(例えば18N/20mm以上)である。上記30分養生後接着力の上限は特に制限されないが、通常は凡そ30N/20mm以下(例えば凡そ25N/20mm以下)が適当である。上記30分養生後接着力は、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定される。
好ましい一態様に係る粘着シートは、23℃軽圧着初期接着力の発現率が50%よりも大きいことが好ましい。上記23℃軽圧着初期接着力発現率は、式: 23℃軽圧着初期接着力発現率(%)=(23℃軽圧着初期接着力/30分養生後接着力)×100;から求めることができる。23℃軽圧着初期接着力および30分養生後接着力の単位は同じである(典型的には[N/20mm])。上記発現率を示す粘着シートは、養生後接着力に比して23℃軽圧着初期接着力が大きいので、軽圧着による貼り付けの直後から良好な接着性が要求される用途に好ましく用いられる。上記23℃軽圧着初期接着力の発現率は、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上である。ここに開示される技術を組み合わせることによって、上記発現率を70%以上、さらには75%以上とすることも可能である。上記23℃軽圧着初期接着力発現率の上限は理想的には100%であるが、凡そ90%以下(例えば85%以下)であってもよい。
他の好ましい一態様に係る粘着シートは、40℃軽圧着初期接着力の発現率が50%よりも大きいことが好ましい。上記40℃軽圧着初期接着力発現率は、式: 40℃軽圧着初期接着力発現率(%)=(40℃軽圧着初期接着力/30分養生後接着力)×100;から求めることができる。40℃軽圧着初期接着力および30分養生後接着力の単位は同じである(典型的には(N/20mm))。この特性を満足することにより、40℃程度の加熱による熱圧着で、粘着シートは、優れた軽圧着初期接着性を発揮し得る。上記40℃軽圧着初期接着力の発現率は、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上である。ここに開示される技術を組み合わせることによって、上記発現率を70%以上、さらには75%以上とすることも可能である。上記40℃軽圧着初期接着力発現率の上限は理想的には100%であるが、凡そ90%以下(例えば85%以下)であってもよい。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートの25℃における貯蔵弾性率G´(25℃)は、0.15MPa以上であり得る。上記貯蔵弾性率G´(25℃)を有する粘着シートは、被着体に貼り付けた後の早い段階から良好な耐変形性を好ましく発揮し得る。上記G´(25℃)は、好ましくは0.17MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.23MPa以上である。上記G´(25℃)は、特に好ましくは0.25MPa以上であり、例えば0.3MPa以上であってもよい。また、上記G´(25℃)は、通常は1.0MPa以下とすることが適当であり、軽圧着初期接着性と耐変形性との両立の観点から、好ましくは0.6MPa以下、より好ましくは0.4MPa以下、さらに好ましくは0.35MPa以下であり、例えば0.3MPa以下であってもよく、0.25MPa以下であってもよく、0.2MPa以下であってもよい。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートの85℃における貯蔵弾性率G´(85℃)は、0.02MPa以上であり得る。これにより、持続的な耐変形性を有する粘着シートが好ましく得られ得る。上記G´(85℃)は、具体的には0.022MPa以上、好ましくは0.025MPa以上、より好ましくは0.027MPa以上である。上記G´(85℃)は、さらに好ましくは凡そ0.03MPa以上(例えば0.035MPa以上)、特に好ましくは0.04MPa以上、さらに特に好ましくは0.05MPa以上である。また、上記G´(85℃)は、通常は1.0MPa以下であることが適当であり、例えば0.5MPa以下、典型的には0.1MPa以下である。上記G´(85℃)は0.05MPa以下であってもよい。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートは、軽圧着初期接着性の観点から、粘着シートを被着体に圧着するときの温度(圧着温度)における貯蔵弾性率G´(apply)が0.6MPa以下であり得る。上記G´(apply)は、好ましくは0.4MPa以下、より好ましくは0.35MPa以下であり、例えば0.3MPa以下であってもよく、0.25MPa以下であってもよい。上記G´(apply)は、例えば0.2MPa以下であってもよい。また、軽圧着初期接着性と耐変形性との両立の観点から、上記G´(apply)は、0.12MPaよりも大きいことが適当であり、好ましくは0.15MPa以上、より好ましくは0.17MPa以上(例えば0.2MPa以上)、さらに好ましくは0.25MPa以上であり、例えば0.3MPa以上であってもよい。上記圧着温度は、圧着作業性や温度管理等の観点から、0℃超60℃未満の範囲から選択される。携帯電子機器用途に用いられる粘着シートの場合、当該用途における温度制限から、上記圧着温度は、20℃~45℃の範囲(典型的には25℃または40℃)から選択することが望ましい。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートは、通常、25℃における損失弾性率G″(25℃)が2.0MPa以下であることが適当である。上記G″(25℃)は、好ましくは1.5MPa以下、より好ましくは1.0MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。上記G″(25℃)は、0.3MPa以下(例えば0.25MPa以下)であってもよい。また、上記G″(25℃)は、通常は0.01MPa以上であることが適当であり、被着体表面への濡れ性、ひいては軽圧着初期接着性等の観点から、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上であり、例えば0.25MPa以上であってもよい。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートの25℃におけるtanδ(25℃)は、例えば凡そ0.3以上であることが適当であり、耐変形性の観点から、好ましくは凡そ0.5以上、より好ましくは凡そ0.7以上、さらに好ましくは凡そ0.8以上、特に好ましくは凡そ0.9以上(例えば凡そ1以上)である。また、上記tanδ(25℃)は、例えば凡そ3以下が適当であり、軽圧着初期接着性の観点から、好ましくは凡そ2以下、より好ましくは凡そ1.5以下、さらに好ましくは凡そ1.2以下である。
また、ここに開示される粘着シートが実質的に粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートである場合には、上記粘着シートの85℃におけるtanδ(85℃)は、例えば凡そ0.1以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.2以上、より好ましくは0.22以上、さらに好ましくは0.24以上(例えば0.25以上)である。また、上記tanδ(85℃)は、例えば凡そ2以下が適当であり、好ましくは凡そ1以下、より好ましくは凡そ0.5以下(例えば凡そ0.3以下)である。
上記粘着シートの貯蔵弾性率G´(25℃)、G´(85℃)、G´(apply)、損失弾性率G″(25℃) 、tanδ(25℃)およびtanδ(85℃)は、粘着剤層に対する動的粘弾性測定と同じ方法で求めることができる。
好ましい一態様に係る粘着シートは、実質的に粘着剤層のみから構成された基材レスの両面接着性の粘着シート(基材レス両面粘着シート)である。このような基材レスの粘着シートは、追従性に優れるので、例えば段差を有するような被着体に対してよく密着し、優れた接着性能を発揮し得る。また、剛性材料同士の固定の際には、圧着ムラが生じ難く、良好な接着固定を実現しやすい。したがって、配線板や筐体など、段差を有し得る剛性部材がその内部に配置された電子機器の部材接合用途に好ましく利用することができる。上記基材レスの両面粘着シートは、その全厚みが粘着剤層から構成されているので、制限された厚み空間において、より強い接着力(例えば軽圧着接着性)を発揮することができる。したがって、携帯電子機器の部材接合用途に特に好ましく利用され得る。
ここに開示される粘着シート(剥離ライナーを含まない。)の総厚は特に限定されない。粘着シートの総厚は、例えば凡そ500μm以下とすることができ、通常は凡そ350μm以下が適当であり、凡そ250μm以下(例えば凡そ200μm以下)が好ましい。ここに開示される技術は、総厚が凡そ150μm以下(より好ましくは凡そ100μm以下、さらに好ましくは凡そ60μm未満、例えば凡そ55μm以下)の粘着シート(典型的には両面粘着シート)の形態で好ましく実施され得る。粘着シートの総厚の下限は特に限定されないが、通常は凡そ10μm以上が適当であり、凡そ20μm以上が好ましく、凡そ30μm以上がより好ましい。粘着シートが発泡体基材を備える場合には、粘着シートの総厚の上限は、通常は、1.5mm以下とすることが適当であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。
<用途>
ここに開示される粘着シートは、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを兼ね備える。このような特徴を活かして、上記粘着シートは、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とが要求される各種用途に利用され得る。例えば、軽圧着で各種部材を固定する用途に好ましく用いられ得る。典型例として、大量生産のため、タクトタイムが厳格に管理されている各種電子機器の部材固定用途が挙げられる。例えば、各種の携帯機器(ポータブル機器)において部材を固定する用途に、ここに開示される粘着シートを用いることにより、常温、または電子機器用途に適用可能な、制限された加熱(60℃未満、典型的には40℃程度のマイルドな加熱)に基づく軽圧着初期接着性を利用して、携帯電子機器製造のタクトタイムを低減することができ、その生産性向上に貢献し得る。上記携帯電子機器の非限定的な例には、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノート型パソコン、各種ウェアラブル機器(例えば、腕時計のように手首に装着するリストウェア型、クリップやストラップ等で体の一部に装着するモジュラー型、メガネ型(単眼型や両眼型。ヘッドマウント型も含む。)を包含するアイウェア型、シャツや靴下、帽子等に例えばアクセサリの形態で取り付ける衣服型、イヤホンのように耳に取り付けるイヤウェア型等)、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、音響機器(携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー等)、計算機(電卓等)、携帯ゲーム機器、電子辞書、電子手帳、電子書籍、車載用情報機器、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯プリンター、携帯スキャナ、携帯モデム等が含まれる。なお、この明細書において「携帯」とは、単に携帯することが可能であるだけでは充分ではなく、個人(標準的な成人)が相対的に容易に持ち運び可能なレベルの携帯性を有することを意味するものとする。
ここに開示される粘着シート(典型的には両面粘着シート)は、種々の外形に加工された接合材の形態で、上述したような携帯電子機器を構成する部材の固定に利用され得る。なかでも液晶表示装置を有する携帯電子機器に好ましく使用され得る。例えば、タッチパネル式ディスプレイ等の表示部(液晶表示装置の表示部であり得る。)を有する電子機器(典型的には、スマートフォン等の携帯電子機器)であって、その大画面化等のために、FPC等の弾性部材を内部空間に折り曲げて収容する機器において、当該弾性被着体を固定する用途に、ここに開示される粘着シートは好ましく用いられる。ここに開示される粘着シートを用いることにより、軽圧着であっても、弾性被着体を折り曲げた状態で固定することができ、かつ該固定状態を持続的に保持することができる。これによって、携帯電子機器内の限られた内部空間に折り曲げられた状態で収容された上記弾性部材は、ここに開示される粘着シートによって精度よく位置決めされ、安定した固定状態に保持され得る。また、上記のような携帯電子機器内部に配置される材料としては、ポリカーボネート、ポリイミドのような極性を有し、かつ剛性の材料が挙げられる。この種の材料(極性かつ剛性樹脂材料)に対して、ここに開示される粘着シートは、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを好ましく発揮し得る。
上記タッチパネル式ディスプレイ等の表示部(液晶表示装置の表示部であり得る。)を有する電子機器(典型的には、スマートフォンやタブレット型パソコン等の携帯電子機器)の開発は、特に近年、大画面化と高機能化との両立に向けられつつある。大画面化については上述のようなFPC等の弾性部材を内部空間に折り曲げて収容するような対策が講じられている。一方、高機能化については、より高精度の圧力感知性能を有する感圧センサーや、顔認証ロック解除機能等の新機能付与が具体化されており、より高性能、より高品質な製品の実現には、それを担うFPC等の回路の高集積化が不可欠である。回路の高集積化手段としては、例えば両面タイプのFPCや多層FPCが挙げられるが、いずれもFPCの剛性増大の方向性であり、後述のZ軸方向耐変形性試験で評価されるようなZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性の向上が要求特性になると予想される。ここに開示される技術の好ましい一態様に係る粘着シートは、後述の強反撥高温高湿条件でのZ軸方向耐変形性試験のような、より過酷な条件において優れた耐変形性を示すものであり得るので、上述の次世代型タッチパネル式ディスプレイ搭載型の電子機器(典型的には、スマートフォン等のタッチパネル式ディスプレイ搭載型携帯電子機器)によりよく適合し、好ましく用いられ得る。
この明細書により開示される事項には以下のものが含まれる。
(1) ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーから選択される少なくとも1種と、を含み、
前記アクリル系ポリマーの重量平均分子量は70×104よりも大きく、
前記アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は15未満である、アクリル系粘着剤組成物。
(2) 前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上の割合で重合されている、上記(1)に記載のアクリル系粘着剤組成物。
(3) 前記アクリル系ポリマーは、酸性基含有モノマーが共重合されている、上記(1)または(2)に記載のアクリル系粘着剤組成物。
(4) 前記アクリル系ポリマーにおける前記酸性基含有モノマーの共重合割合は10重量%未満である、上記(3)に記載の粘着シート。
(5) 前記粘着付与樹脂は、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して30重量部未満の割合で含まれている、上記(1)~(4)のいずれかに記載のアクリル系粘着剤組成物。
(6) 前記(メタ)アクリル系オリゴマーは、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して30重量部未満の割合で含まれている、上記(1)~(5)のいずれかに記載のアクリル系粘着剤組成物。
(7) 前記粘着付与樹脂および前記(メタ)アクリル系オリゴマーの両方を含む、上記(1)~(6)のいずれかに記載のアクリル系粘着剤組成物。
(8) ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーから選択される少なくとも1種と、を含むアクリル系粘着剤層を備え、
前記アクリル系ポリマーの重量平均分子量は70×104よりも大きく、
前記アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は15未満である、粘着シート。
(9) 前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上の割合で重合されている、上記(8)に記載の粘着シート。
(10) 前記アクリル系ポリマーは、酸性基含有モノマーが共重合されている、上記(8)または(9)に記載の粘着シート。
(11) 前記アクリル系ポリマーにおける前記酸性基含有モノマーの共重合割合は10重量%未満である、上記(10)に記載の粘着シート。
(12) 前記アクリル系粘着剤層において、前記粘着付与樹脂は、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して30重量部未満の割合で含まれている、上記(8)~(11)のいずれかに記載の粘着シート。
(13) 前記アクリル系粘着剤層において、前記(メタ)アクリル系オリゴマーは、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して30重量部未満の割合で含まれている、上記(8)~(12)のいずれかに記載の粘着シート。
(14) 前記アクリル系粘着剤層は、前記粘着付与樹脂および前記(メタ)アクリル系オリゴマーの両方を含む、上記(8)~(13)のいずれかに記載の粘着シート。
(15) 前記粘着剤層は、25℃における貯蔵弾性率G´(25℃)が0.15MPa以上である、上記(8)~(14)のいずれかに記載の粘着シート。
(16) 前記粘着剤層は、85℃における貯蔵弾性率G´(85℃)が0.02MPa以上である、上記(8)~(15)のいずれかに記載の粘着シート。
(17) 23℃、圧着荷重0.1kgの条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度、および40℃、0.05MPa、3秒の条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度のうち少なくとも一方が、8N/20mm以上であることを満足する、上記(8)~(16)のいずれかに記載の粘着シート。
(18) 前記粘着剤層のゲル分率は40重量%以上である、上記(8)~(17)のいずれかに記載の粘着シート。
(19) 前記アクリル系ポリマーは架橋されている、上記(8)~(18)のいずれかに記載の粘着シート。
(20) 前記アクリル系ポリマーは、n-ブチルアクリレートが50重量%以上の割合で共重合されている、上記(8)~(19)のいずれかに記載の粘着シート。
(21) 前記粘着剤層は前記粘着付与樹脂を含み、該粘着付与樹脂の凡そ50重量%以上はフェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)である、上記(8)~(20)のいずれかに記載の粘着シート。
(22) 前記フェノール系粘着付与樹脂は、水酸基価が凡そ30mgKOH/g未満のテルペンフェノール樹脂を含む、上記(21)に記載の粘着シート。
(23) 前記粘着剤層は、25℃における損失弾性率G″(25℃)が2.0MPa以下である、上記(8)~(22)のいずれかに記載の粘着シート。
(24) 前記粘着剤層は、溶剤型粘着剤組成物または活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成された粘着剤層である、上記(8)~(23)のいずれかに記載の粘着シート。
(25) 前記粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートとして構成されている、上記(8)~(24)のいずれかに記載の粘着シート。
(26) 厚さが60μm未満の両面接着性粘着シートとして構成されている、上記(8)~(25)のいずれかに記載の粘着シート。
(27) 23℃軽圧着初期接着力の発現率が50%よりも大きい、上記(8)~(26)のいずれかに記載の粘着シート。
(28) 粘着剤層を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、25℃における貯蔵弾性率G´(25℃)が0.15MPa以上であり、85℃における貯蔵弾性率G´(85℃)が0.02MPa以上であり、
23℃、圧着荷重0.1kgの条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度、および40℃、0.05MPa、3秒の条件で圧着後1分以内に測定される180度剥離強度のうち少なくとも一方が、8N/20mm以上であることを満足する、粘着シート。
(29) 前記粘着剤層のゲル分率は40重量%以上である、上記(28)に記載の粘着シート。
(30) 前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含むアクリル系粘着剤層である、上記(28)または(29)に記載の粘着シート。
(31) 前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上の割合で共重合されている、上記(30)に記載の粘着シート。
(32) 前記アクリル系ポリマーは、酸性基含有モノマーが共重合されている、上記(30)または(31)に記載の粘着シート。
(33) 前記酸性基含有モノマーはアクリル酸である、上記(32)に記載の粘着シート。
(34) 前記アクリル系ポリマーにおける前記酸性基含有モノマーの共重合割合は10重量%未満である、上記(32)または(33)に記載の粘着シート。
(35) 前記アクリル系ポリマーは架橋されている、上記(30)~(34)のいずれかに記載の粘着シート。
(36) 前記アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は70×104よりも大きい、上記(30)~(35)のいずれかに記載の粘着シート。
(37) 前記アクリル系ポリマーは、n-ブチルアクリレートが50重量%以上の割合で共重合されている、上記(30)~(36)のいずれかに記載の粘着シート。
(38) 前記粘着剤層は粘着付与樹脂を含み、該粘着付与樹脂の凡そ50重量%以上はフェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)である、上記(28)~(37)のいずれかに記載の粘着シート。
(39) 前記フェノール系粘着付与樹脂は、水酸基価が凡そ30mgKOH/g未満のテルペンフェノール樹脂を含む、上記(38)に記載の粘着シート。
(40) 前記粘着剤層は、25℃における損失弾性率G″(25℃)が2.0MPa以下である、上記(28)~(39)のいずれかに記載の粘着シート。
(41) 前記粘着剤層は、溶剤型粘着剤組成物または活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成された粘着剤層である、上記(28)~(40)のいずれかに記載の粘着シート。
(42) 前記粘着剤層のみからなる基材レス粘着シートとして構成されている、上記(28)~(41)のいずれかに記載の粘着シート。
(43) 厚さが60μm未満の両面接着性粘着シートとして構成されている、上記(28)~(42)のいずれかに記載の粘着シート。
(44) 23℃軽圧着初期接着力の発現率が50%よりも大きい、上記(28)~(43)のいずれかに記載の粘着シート。
(45) 携帯電子機器内において部材を固定するために用いられる、上記(8)~(44)のいずれかに記載の粘着シート。
(46) フレキシブルプリント配線板を固定するために用いられる、上記(8)~(45)のいずれかに記載の粘着シート。
(47) 携帯電子機器内において、折り曲げた状態で収容されたフレキシブルプリント配線板を固定するために用いられる、上記(8)~(46)のいずれかに記載の粘着シート。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
≪実験1≫
<例1-1>
(アクリル系ポリマー溶液の調製)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、モノマー成分としての2EHA90部およびAA10部とを仕込み、さらに重合溶媒として酢酸エチルおよびトルエンを凡そ1:1(体積比)の割合で加え、窒素ガスを導入しながら2時間撹拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として0.2部のBPOを加え、60℃で6時間溶液重合して本例に係るアクリル系ポリマーの溶液を得た。
(粘着剤組成物の作製)
上記で得たアクリル系ポリマーの溶液に、該溶液に含まれるアクリル系ポリマー100部に対して0.05部のエポキシ系架橋剤(商品名「TETRAD-C」、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン、三菱瓦斯化学社製)と、20部のテルペンフェノール樹脂(商品名「タマノル803L」、荒川化学工業社製、軟化点約145~160℃、水酸基価1~20mgKOH/g)とを加え、攪拌混合して本例に係る粘着剤組成物を調製した。
(粘着シートの作製)
剥離ライナーAとして、片面が剥離処理されて剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRV」、厚さ75μm、三菱ポリエステル社製)を、剥離ライナーBとして、片面が剥離処理されて剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRF」、厚さ38μm、三菱ポリエステル社製)を用意した。剥離ライナーAの剥離面に、上記で得た粘着剤組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ50μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層の露出粘着面に剥離ライナーBを、その剥離面が粘着剤層側となるように被せ、本例に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
<例1-2~例1-5>
表1に示すモノマー組成とした他は基本的に例1-1と同様にして各例に係るアクリル系ポリマーの溶液を調製した。得られたアクリル系ポリマーを用いて、例1-1と同様にして各例に係る粘着剤組成物を調製し、各例に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
<例1-6>
(粘着剤組成物の調製)
モノマー成分としての2EHA90部およびAA10部が混合されたモノマー混合物に、光重合開始剤として2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF社製、商品名「イルガキュア651」)0.05部および1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、商品名「イルガキュア184」)0.05部とを混合し、粘度が約15Pa・sになるまで紫外線(UV)を照射して部分重合物(モノマーシロップ)を得た。このモノマーシロップに、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート0.1部を添加し、均一に混合して粘着剤組成物を調製した。なお、粘度は、BH粘度計を用いて、ローター(No.5ローター)、回転数10rpm、測定温度30℃の条件で測定した。
(粘着シートの作製)
上記例1-1と同様の剥離ライナーA(厚さ75μm)およびB(厚さ38μm)を用意し、剥離ライナーAの剥離面に、上記で得た粘着剤組成物を塗布した。粘着剤組成物の塗布量は、最終的に形成される粘着剤層の厚さが150μmとなるように調整した。次いで、上記粘着剤組成物の塗布膜の上に、剥離ライナーBをその剥離面が上記塗布膜に接するようにして被せた。このようにして上記塗布膜を酸素から遮断した。そして、上記粘着剤組成物の塗布膜の両面から、照度5mW/cm2の紫外線(商品名「ブラックライト」、東芝社製)を3分間照射して重合反応を進行させることにより上記粘着剤組成物を硬化させて粘着剤層を形成し、該粘着剤層(すなわち、上記塗布膜の紫外線硬化物)からなる本例に係る粘着シートを得た。なお、上記照度の値は、ピーク感度波長約350nmの工業用UVチェッカー(トプコン社製、商品名「UVR-T1」、受光部型式UD-T36)による測定値である。
<例1-7>
表1に示すモノマー組成とした他は基本的に例1-6と同様にして本例に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
<例1-8>
(アクリル系ポリマー溶液の調製)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、モノマー成分としてのBA93部、AA7部および4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)0.05部と、重合溶媒としての酢酸エチルとを仕込み、窒素ガスを導入しながら2時間撹拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として0.1部のAIBNを加え、60℃で6時間溶液重合して本例に係るアクリル系ポリマーの溶液を得た。
(粘着シートの作製)
上記で得たアクリル系ポリマーの溶液に、該溶液に含まれるアクリル系ポリマー100部に対して1.5部のイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物の75%酢酸エチル溶液、東ソー社製)と、0.01部のエポキシ系架橋剤(商品名「TETRAD-C」、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン、三菱瓦斯化学社製)と、15部のテルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製の商品名「YSポリスターS-145」、軟化点約145℃、水酸基価70~110mgKOH/g)と、15部の(メタ)アクリル系オリゴマーと、を加え、攪拌混合して本例に係る粘着剤組成物を調製した。
得られた粘着剤組成物を用いて、例1-1と同様にして本例に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、次の方法で調製したものを用いた。具体的には、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、滴下ロートを備えた反応容器に、CHMA95部およびAA5部と、重合開始剤としてのAIBN10部と、重合溶媒としてのトルエンとを仕込み、窒素気流中で1時間撹拌して重合系内の酸素を除去した後、85℃に昇温し、5時間反応させて固形分濃度50%の(メタ)アクリルオリゴマーを得た。得られた(メタ)アクリル系オリゴマーのMwは3600であった。
<例1-9~例1-12>
表1に示すモノマー組成とした他は基本的に例1-1と同様にして各例に係るアクリル系ポリマーの溶液を調製した。得られたアクリル系ポリマーを用いて、例1-1と同様にして各例に係る粘着剤組成物を調製した。なお、例1-11では、架橋剤として、エポキシ系架橋剤に代えて3部のイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物の75%酢酸エチル溶液、東ソー社製)を使用した。得られた粘着剤組成物を用いて、例1-1と同様にして例1-9~例1-12に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
[23℃軽圧着初期接着力]
各例に係る粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試料片を作製した。上記粘着シートの一方の粘着面には、厚さ50μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちしている。なお、基材付き片面粘着シートの測定では、上記裏打ちフィルムは不要である。23℃、50%RHの環境下にて、上記試料片の粘着面をステンレス鋼板(SUS304BA板)に圧着して測定サンプルを作製した。上記圧着は、0.1kgのローラを1往復させることにより行った。上記測定サンプルを、引張試験機を使用して、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度[N/20mm]を測定した。上記剥離強度の測定は、ステンレス鋼板への貼付けから1分未満のうちに行った。なお、引張試験機としては、島津製作所社製の「精密万能試験機 オートグラフ AG-IS 50N」を用いたが、その相当品を用いることによっても同等の測定結果を得ることができる。
[40℃軽圧着初期接着力]
例1-4、例1-5、例1-9~例1-12に係る粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試料片を作製した。上記粘着シートの一方の粘着面には、厚さ50μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちしている。なお、基材付き片面粘着シートの測定では、上記裏打ちフィルムは不要である。23℃、50%RHの環境下にて、温度40℃に設定されたプレス機を用いて0.05MPa、3秒間の条件で、上記試料片の粘着面をステンレス鋼板(SUS304BA板)に圧着して測定サンプルを作製した。上記測定サンプルを、引張試験機を使用して、23℃、50%RHの環境下にて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度[N/20mm]を測定した。上記剥離強度の測定は、ステンレス鋼板への圧着から1分未満のうちに行った。なお、引張試験機としては、島津製作所社製の「精密万能試験機 オートグラフ AG-IS 50N」を用いたが、その相当品を用いることによっても同等の測定結果を得ることができる。
[30分養生後接着力]
各例に係る粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試料片を作製した。上記粘着シートの一方の粘着面には、厚さ50μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちしている。なお、基材付き片面粘着シートの測定では、裏打ちフィルムは不要である。23℃、50%RHの環境下にて、上記試料片の粘着面をステンレス鋼板(SUS304BA板)に圧着して測定サンプルを作製した。上記圧着は、2kgのローラを1往復させることにより行った。上記測定サンプルを、23℃、50%RHの環境下に30分間放置した後、引張試験機を使用して、JIS Z 0237:2000に準じて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度[N/20mm]を測定した。この値を30分養生後接着力とした。なお、引張試験機としては、島津製作所社製の「精密万能試験機 オートグラフ AG-IS 50N」を用いたが、その相当品を用いることによっても同等の測定結果を得ることができる。
[Z軸方向耐変形性試験]
図7の(a)に示すように、長さ30mm、幅10mm、厚さ2mmのポリカーボネート(PC)板50と、長さ100mm、幅10mm、厚さ75μmのPETフィルム60と、を用意し、PC板50とPETフィルム60の長手方向の一端を揃えるようにして重ね合わせ、PETフィルム60の残りの部分がPC板50の他端から突出した状態でPC板50とPETフィルム60とを固定した。上記固定には市販の両面粘着テープ(日東電工社製、「No.5000NS」)を使用した。
2枚の剥離ライナーで両粘着面が保護された各例に係る粘着シートを幅3mm、長さ10mmのサイズにカットして粘着シート試料片70を用意した。PC板50のPETフィルムの固定面とは反対側の表面を上側に設置し、上記粘着シート試料片70から一方の剥離ライナーを剥がして、PC板50の幅方向と粘着シート試料片70の長手方向とを一致させて、PC板50の上面において他端から7mmおよび10mmの線上に粘着シート試料片70の幅方向両端が来るようにして粘着シート試料片70をPC板50の上面に貼り付け固定した。上記固定は、粘着シート試料片70のもう一方の剥離ライナーで保護された上面を2kgローラを一往復させることによって行った。
次いで、23℃、50%RHの環境下にて、PC板50に貼り付けた粘着シート試料片70のもう一方の剥離ライナーを剥がして、図7の(b)に示すように、PC板50に固定されたPETフィルム60のPC板50からの突出部分(長さ70mm)をPC板50側に折り返して、粘着シート試料片70とPETフィルム60の他端(自由端)とを一致させて、0.1kgのローラをPETフィルム60上から1往復させることにより、折り曲げられたPETフィルム60の他端を粘着シート試料片70を介してPC板50上面に固定した。PETフィルム60が粘着シート試料片70から剥離するかどうかを60分間観察し、折り曲げられたPETフィルム60の弾性反撥に基づく粘着シート厚さ方向に対する粘着シート試料片70の接着保持力を、23℃Z軸方向耐変形性として評価した。粘着シート試料片70とPETフィルム60との接着状態が保持された場合を「合格」、図7の(c)に示すようにPETフィルム60が剥がれた場合を「不合格」と判定した。
例1-4、例1-5、例1-9~例1-12に係る粘着シートについては、さらに40℃Z軸方向耐変形性を評価した。この評価方法では、PETフィルム60と粘着シート試料片70との貼り合わせを、0.1kgのローラ1往復ではなく、温度40℃に設定されたプレス機を用いて0.05MPa、3秒間の条件で行った。その他は上記と同様の方法で40℃Z軸方向耐変形性を評価した。
この評価方法によると、従来の耐反撥性評価と異なり、実質的に粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)のみからなる引き剥がし荷重に対する軽圧着初期接着性および耐変形性を評価することが可能であり、さらに経時的な観察を行うことにより持続的な耐変形性を評価することができる。
各例に係るアクリル系ポリマーのMw,Mw/Mn、粘着剤層のG´(25℃)[MPa]、G´(85℃)[MPa]、G´(40℃)[MPa]、G″(25℃)[MPa]、ゲル分率[%]、粘着シートの23℃軽圧着初期接着力[N/20mm]、40℃軽圧着初期接着力[N/20mm]、30分養生後接着力[N/20mm]およびZ軸方向耐変形性試験(23℃および40℃)の評価結果を、各例のアクリル系ポリマーのモノマー組成とともに表1に示す。
表1に示されるように、粘着剤層の貯蔵弾性率G´(25℃)が0.15MPa以上、G´(85℃)が0.02MPa以上であり、23℃軽圧着初期接着力または40℃軽圧着初期接着力が8N/20mm以上であった例1-1~例1-8の粘着シートは、所定の圧着温度において軽圧着初期接着性を有しており、Z軸方向耐変形性試験が合格レベルであった。具体的には、23℃軽圧着初期接着力が8N/20mm以上であった例1-1~例1-3、例1-6~例1-8に係る粘着シートは、23℃の軽圧着で良好な初期接着性を有しており、かつ、23℃の軽圧着でZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性を有していた。例1-4,1-5では、23℃での軽圧着初期接着性は測定不能であったが、40℃軽圧着初期接着性は良好であり、Z軸方向耐変形性試験(40℃)において合格レベルの耐変形性を有していた。なお、例1-4,1-5では、40℃軽圧着初期接着力測定、30分養生後接着力測定の双方において裏打ちPETフィルムが剥がれ、20N/20mmを上回る強固な接着力を有していたと考えられる。これに対して、例1-9~例1-12に係る粘着シートは、23℃軽圧着初期接着力および40℃軽圧着初期接着力のいずれも8N/20mm未満であり、23℃および40℃の圧着で行われたZ軸方向耐変形性試験が不合格という結果であった。貯蔵弾性率G´(25℃)が0.15MPa未満であった例1-9~例1-11は、貼り付け初期の耐変形性が低く、これもZ軸方向耐変形性試験が不合格となった一因と考えられる。
≪実験2≫
[Z軸方向耐変形性試験における弾性反撥力評価]
Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性のさらなる向上を目的として、上記Z軸方向耐変形性試験で用いるPETフィルムの厚さの影響を評価した。具体的には、長さ100mm、幅50mmで表2に示す厚さを有するPETフィルムを用意し、粘着シートを用いない他は上記Z軸方向耐変形性試験と同様にして、各PETフィルムにつき、PC板への固定後、その長手方向の一端(自由端)を、側面から見たときヘアピンのように折り返して他端(固定端)に一致させた。そして、上記PETフィルムの自由端を、それを抑えつけていた力から解放し、そのときの戻り反撥力[N/50mm]を市販のロードセルで読み取った。結果を表2に示す。
表2に示されるように、PETフィルムの厚さが大きくなると、ヘアピン状に折り返したPETフィルムの戻り反撥力は大きくなった。具体的には、厚さ75μmと厚さ125μmのPETフィルムを対比すると、厚さ125μmのものでは、厚さ75μmの約4.8倍もの反撥力が生じた。
≪実験3≫
実験2の結果に基づき、実験1のZ軸方向耐変形性試験よりも過酷な試験条件を設定し、それに耐え得る、すなわち、より優れた耐変形性を発揮し得る粘着シートの検討を行った。
<例3-1>
実験1の例1-8と同様にして本例に係る基材レス両面接着性の粘着シート(厚さ50μm)を作製した。
<例3-2~例3-6>
例3-1で用いたアクリル系ポリマーと同じアクリル系ポリマー(Mw132万、Mw/Mn=5.85)を用い、粘着付与樹脂および架橋剤の組成を変更して、例3-1と基本的に同様の方法で各例に係る粘着剤組成物を調製した。得られた粘着剤組成物を用いて、例3-1と同様にして各例に係る基材レス両面接着性の粘着シートを作製した。
なお、例3-2,例3-3で使用した(メタ)アクリル系オリゴマーは、例3-1で使用したものと同じ(メタ)アクリル系オリゴマー(Mw3600)である。また、表中のテルペンフェノール樹脂Aはヤスハラケミカル社製の商品名「YSポリスターS-145」(軟化点約145℃、水酸基価70~110mgKOH/g)であり、テルペンフェノール樹脂Bはヤスハラケミカル社製の商品名「YSポリスターT-115」(軟化点約115℃、水酸基価30~60mgKOH/g)である。
[Z軸方向耐変形性試験(強反撥高温高湿条件)]
折り返して粘着シート試料片で固定するPETフィルムとして、長さ100mm、幅10mm、厚さ125μmのPETフィルムを用い、実験1のZ軸方向耐変形性試験と同様の方法で、粘着シート試料片とPETフィルムの自由端とを23℃50%RHの環境下で0.1kgローラの1往復で固定した後、65℃90%RHの環境に曝した。同環境に72時間曝した後、粘着シート試料片とPETフィルムとの接着状態が保持されたかどうかを確認し、保持されていた場合は、粘着シート試料片からのPETフィルムの浮き高さ[μm]をマイクロスコープを用いて測定した。測定は3回行い、その最低値を記録した。なお、上記浮き高さは、粘着シート試料片の厚さを含む高さである。
この評価方法によると、実験2の結果から、実験1のZ軸方向耐変形性よりも約4.8倍の反撥力に対する抵抗力(耐変形性)を、65℃90%RHという高温高湿の過酷な条件で評価することが可能である。この評価試験でPETフィルムが剥がれず、浮き高さが制限されたものは、実質的に粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)のみからなる引き剥がし荷重に対して、優れた軽圧着初期接着性を有するととともに、当該方向への持続的な引き剥がし荷重に対して特に優れた抵抗性(耐変形性)を示すと評価できる。
各例に係る粘着剤層のG´(25℃)[MPa]、G″(25℃)[MPa]、tanδ(25℃)(G″/G´)、G´(85℃)[MPa]、tanδ(85℃)(G″/G´)、およびZ軸方向耐変形性試験(強反撥高温高湿条件)の評価結果を、各例の粘着剤の組成とともに表3に示す。
表3に示されるように、Mwが70×104よりも大きく、かつ分散度(Mw/Mn)が15未満であるアクリル系ポリマーと、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーから選択される少なくとも1種とを含む粘着剤層を備える例3-1~例3-5に係る粘着シートは、強反撥高温高湿条件のZ軸方向耐変形性試験において、23℃の軽圧着で、Z軸方向の持続的荷重に対して優れた耐変形性を有していた。すなわち、上記の粘着シートは、高温熱圧着によらず、軽圧着初期接着性とZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性とを両立し、さらに強反撥高温高湿という過酷な条件においても優れた耐変形性を発揮した。なかでも、粘着付与樹脂と(メタ)アクリル系オリゴマーとを併用した例3-1~例3-3では、強反撥高温高湿条件のZ軸方向耐変形性試験後の浮き高さが400μm以下に制限されており、特に優れた耐変形性を発揮した。一方、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーのいずれも使用しなかった例3-6の粘着シートは、上記Z軸方向耐変形性試験(強反撥高温高湿条件)の測定中にPETフィルムが剥がれてしまい、Z軸方向の変形負荷に耐えることができなかった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を
限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々
に変形、変更したものが含まれる。