本発明は、疎水性高分子材料からなる複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、前記内表面又は前記外表面のいずれか一方が、下記式(I):
ただし、R3は、水素原子またはメチル基を表わし、R1は、炭素数1〜4のアルキレン基を表わし、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を表わす、で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位)を有する高分子(以下、「本発明に係る高分子」または「アルコキシアルキル(メタ)アクリレート系重合体」とも称する)および溶媒を含む表面張力が40〜55dyn/cmである高分子含有溶液で被覆される、人工肺に関する。上記構成を有する人工肺によれば、肉薄の中空糸膜でも血漿成分の漏出(血漿リーク)を抑制・防止できる。
また、本発明は、疎水性高分子材料からなる複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、上記式(I)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する高分子および溶媒を含む表面張力が40〜55dyn/cmである高分子含有溶液で、前記中空糸膜の内腔を形成する内表面または外表面を被覆することを有する、製造方法に関する。上記方法によれば、肉薄の中空糸膜でも血漿成分の漏出(血漿リーク)を抑制・防止できる人工肺が製造できる。
本発明の人工肺は、特定の表面張力を有する高分子含有溶液を中空糸膜外表面または内表面に塗布することによって形成された被覆(被膜)を中空糸膜の外表面または内表面に有することを特徴とする。当該被覆を有する中空糸膜を利用してなる人工肺は、肉薄の中空糸膜でも循環後の血漿成分の漏出(血漿リーク)を抑制・防止できる。ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は下記メカニズムに限定されるものではない。
すなわち、特許文献1の実施例では、ポリメトキシエチルアクリレートを水・メタノール・エタノール混合溶媒(6:1:3)に溶解した高分子含有溶液を、肉厚が50μmの中空糸膜の外表面(血液流通側)に流して、人工肺の血液接触部全体に合成高分子を被覆して、人工肺を作製していた。このような方法によって作製された人工肺は、確かに血漿成分の漏出が少ない。しかし、本発明者らは、人工肺の小型化(患者への負担の低減)を目的として、さらに中空糸膜の肉厚を薄くして検討を行ったところ、肉厚を薄くすると、循環中または循環後に血漿成分の人工肺(中空糸膜)からの漏出(血漿リーク)が観察される頻度が高くなった。
このため、肉薄な中空糸膜での血漿リーク(ゆえにガス交換能の低下)の原因について鋭意検討を行った。通常、高分子含有溶液をガス交換用多孔質中空糸膜の血液接触部全体に塗布する際、高分子含有溶液が中空糸膜の細孔に浸透して血液流通側の細孔内壁には高分子の被覆(被膜)が形成されている。このような人工肺に血液を循環させると、血漿成分がこの高分子の被覆(被膜)を伝って細孔内にしみ込む。しかし、肉厚(膜厚)の厚い(外径と内径との差の大きい)中空糸膜では、高分子の被覆(被膜)は細孔内壁全体には(被覆が形成されない側の中空糸膜面にまで)完全に形成されないため、血漿成分が高分子の被覆(被膜)を伝って内腔にリークする(血漿リークを起こす)ことは少なかったまたはなかった。これに対して、肉薄な(外径と内径との差の小さい)中空糸膜では、高分子の被覆(被膜)が細孔内壁全体に(被覆が形成されない側の中空糸膜面にまで)完全に形成されやすいため、血漿成分が細孔を伝って内腔にリークしやすい(下記比較例1)ため、ガス交換能が低下する問題も起きやすいと推測した。
上記事情をかんがみて、高分子の細孔内への浸透を抑制することが肉薄な中空糸膜での血漿リークの低減に重要であると考え、高分子の細孔内への浸透を抑制する方法について鋭意検討を行った。その結果、中空糸膜の外表面(中空糸膜外部血液灌流型人工肺の場合)または内表面(中空糸膜内部血液灌流型人工肺の場合)に高分子の被覆(被膜)を形成する際の高分子含有溶液(塗布液)の表面張力を40〜55dyn/cmと高く設定することによって、高分子含有溶液(塗布液)が中空糸膜の内部層まで浸透するリスクを抑制できることを見出した。そのため、ガス交換用多孔質膜を薄くした場合やコート液を多く塗布した場合でも、ガス交換用多孔質中空糸膜の内面層(中空糸膜外部血液灌流型人工肺の場合)または外面層(中空糸膜内部血液灌流型人工肺の場合)は、形成素材の疎水性状態を維持しており、高い血漿の漏出防止作用を備えている。ゆえに、本発明の人工肺は、肉薄の中空糸膜でも血液(例えば、血漿成分)の血液流通側とは反対側への漏出(血漿リーク)を有効に抑制・防止できる。
上記効果は、中空糸膜の肉厚が50μm未満である場合に特に顕著に達成できる。このため、本発明は、疎水性高分子材料からなる複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、前記内表面と前記外表面との間の肉厚は、20μm以上50μm未満であり、前記内表面又は前記外表面のいずれか一方が、上記式(I)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する高分子を含む被膜で被覆され、かつ血漿リーク性能が、15mmHg以下である、人工肺を提供する。
また、通常、高分子含有溶液(塗布液)の表面張力が本発明によるように高い場合には、高分子が高分子含有溶液(塗布液)中に均一に溶解することが一般的に困難になる。高分子含有溶液にはある程度の分子量分布を有する高分子が溶解しているが、このうち低分子量の高分子が血液中に溶出しやすいことを見出した。このため、特に分子量が大きい高分子を高分子含有塗布液に使用することにより、被覆(被膜)中の低分子量の高分子含有量を低減して、血液への被覆(特に高分子)の溶出を抑制・できるため、好ましい。
上記に加えて、本発明に係る高分子は、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。ゆえに、本発明の人工肺は、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。具体的には、以下では、好ましい実施形態として、中空糸膜外部血液灌流型人工肺について説明するが、本発明の人工肺は中空糸膜内部血液灌流型人工肺であってもよく、この場合でも下記実施の形態を適宜変更することによって適用できる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[人工肺]
本発明の人工肺を図面を参照しながら以下で説明する。
図1は、本発明の中空糸膜外部血液灌流型人工肺の一実施形態の断面図である。図2は、本発明の中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用されているガス交換用多孔質中空糸膜の拡大断面図である。図3は、本発明の人工肺の他の実施形態の断面図である。
図1において、本発明の人工肺1は、多数のガス交換用多孔質中空糸膜3をハウジング2内に収納し、中空糸膜3の外面側に血液が流れ、中空糸膜3の内部に酸素含有ガスが流れるタイプの人工肺である。そして、図2において、血液接触部となる中空糸膜3の外面(外表面3a’、または外表面3a’および外面層3a)に本発明に係る高分子(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート系重合体)18が被覆されている。本発明に係る高分子(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート系重合体)18の被覆(被膜)は、中空糸膜3の外表面3a’に選択的に形成される。図2では、中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用される中空糸膜の外表面3a’に本発明に係る高分子18の被覆(被膜)が形成された形態を示している。かような形態の中空糸膜は、外表面3a’側に血液が接触し、内表面3c’側に酸素含有ガスが流通される。なお、本発明では、上述したように、中空糸膜内部血液灌流型人工肺としてもよい。よって、中空糸膜は、上記形態とは逆の構成、すなわち、内表面3c’に本発明に係る高分子18の被覆(被膜)が形成された形態としてもよい。
なお、本明細書において、「高分子が中空糸膜の外面を被覆する」とは、高分子の被覆(被膜)が中空糸膜の外表面(血液が流れる側の表面)または外表面および外面層に形成されることを意図する。一方、「高分子が中空糸膜の外表面を被覆する」とは、高分子の被覆(被膜)が中空糸膜の外表面(血液が流れる側の表面)に形成されることを意図する。また、「高分子が中空糸膜の外面層を被覆する」とは、高分子が一部中空糸膜の外面層(細孔の外表面近傍)内に浸透して被覆(被膜)を形成することを意図する。なお、このような場合であっても、下記に詳述するように、高分子は中空糸膜の内面(内表面)(酸素含有ガスが流れる側の表面)には実質的に存在しない。すなわち、本発明に係る高分子の被覆(被膜)は、中空糸膜の血液接触部(外表面)に選択的に形成される。なお、本発明に係る高分子の被覆(被膜)は、中空糸膜の血液接触部(外表面)の少なくとも一部に形成されればよいが、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)などの観点から、中空糸膜の血液接触部(外表面)全体に形成されることが好ましい。すなわち、本発明に係る高分子は、前記人工肺の血液接触部(外表面)全体を被覆することが好ましい。
図2に係る実施形態において、本発明に係る高分子は、中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cに存在してもよいが、中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cには実質的に存在していないことが好ましい。本明細書において、「本発明に係る高分子が中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cには実質的に存在していない」とは、中空糸膜の内面(酸素含有ガスが流れる側の表面)付近に、本発明に係る高分子の浸透が観察されないことを意味する。
本実施形態に係る中空糸膜型人工肺1は、血液流入口6と血液流出口7とを有するハウジング2と、ハウジング2内に収納された多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をハウジング2に液密に支持する一対の隔壁4,5とを有し、隔壁4,5とハウジング2の内面および中空糸膜3の外面間に形成された血液室12と、中空糸膜3の内部に形成されたガス室と、ガス室と連通するガス流入口8およびガス流出口9とを有するものである。
具体的には、本実施形態の中空糸膜型人工肺1は、筒状ハウジング2と、筒状ハウジング2内に収納されたガス交換用中空糸膜3の集合体と、中空糸膜3の両端部をハウジング2に液密に保持する隔壁4,5とを有し、筒状ハウジング2内は、第1の流体室である血液室12と第2の流体室であるガス室とに区画され、筒状ハウジング2には血液室12と連通する血液流入口6および血液流出口7が設けられている。
そして、筒状ハウジング2の端部である隔壁4の上方には中空糸膜3の内部空間であるガス室に連通する第2の流体流入口であるガス流入口8を有するキャップ状のガス流入側ヘッダー10が取り付けられている。よって、隔壁4の外面とガス流入側ヘッダー10の内面により、ガス流入室13が形成されている。このガス流入室13は、中空糸膜3の内部空間により形成されるガス室と連通している。
同様に、隔壁5の下方に設けられ中空糸膜3の内部空間に連通する第2の流体流出口であるガス流出口9を有するキャップ状のガス流出側ヘッダー11が取り付けられている。よって、隔壁5の外面とガス流出側ヘッダー11の内面により、ガス流出室14が形成されている。
中空糸膜3は、疎水性高分子材料からなる多孔質膜であり、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様のものが使用され、特に制限されない。このように中空糸膜(特に中空糸膜の内面)が疎水性高分子材料からなることにより、血漿成分の漏出を抑制することができる。
ここで、中空糸膜の内径は、特に制限されないが、好ましくは50〜300μm、より好ましくは80〜200μmである。中空糸膜の外径は、特に制限されないが、好ましくは100〜400μm、より好ましくは130〜200μmである。中空糸膜の肉厚(膜厚)は、好ましくは20μm以上50μm未満、より好ましくは25μm以上50μm未満、さらにより好ましくは25〜45μm、さらに好ましくは25〜40μm、さらに好ましくは25〜35μm、特に好ましくは、25〜30μmである。なお、本明細書において、「中空糸膜の肉厚(膜厚)」とは、中空糸膜の内表面と外表面との間の肉厚を意図し、式:[(中空糸膜の外径)−(中空糸膜の内径)]/2で算出される。すなわち、中空糸膜の内表面と前記外表面との間の肉厚は、20μm以上50μm未満であることが好ましく、25μm以上50μm未満、25〜45μm、25〜40μm、25〜35μm、25〜30μmの順でさらに好ましい。ここで、中空糸膜の肉厚の下限を上記のようにすることによって、中空糸膜の強度を十分確保できる。また、製造上の手間やコストの点でも満足でき、大量生産の観点からも好ましい。また、中空糸膜の空孔率は、好ましくは5〜90体積%、より好ましくは10〜80体積%、特に好ましくは30〜60体積%である。中空糸膜の細孔径は、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.05〜1μmである。また、多孔質膜に使用される材質としては、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様の材料が使用できる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート等の疎水性高分子材料などが挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン樹脂が好ましく使用され、ポリプロピレンがより好ましい。中空糸膜の製造方法は、特に制限されず、公知の中空糸膜の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、中空糸膜は、延伸法または固液相分離法により壁に微細孔が形成されてなることが好ましい。
筒状ハウジング2を構成する材料もまた、公知の人工肺のハウジングに使用されるのと同様の材料が使用できる。具体的には、ポリカーボネート、アクリル・スチレン共重合体、アクリル・ブチレン・スチレン共重合体などの疎水性合成樹脂が挙げられる。ハウジング2の形状は、特に制限されないが、例えば円筒状であり、透明体であることが好ましい。透明体で形成することにより、内部の確認を容易に行うことができる。
本実施形態における中空糸膜の収納量は、特に制限されず、公知の人工肺と同様の量が適用できる。例えば、ハウジング2内に、その軸方向に向けて並列に約5,000〜100,000本の多孔質中空糸膜3が収納されている。さらに、中空糸膜3は、ハウジング2の両端に中空糸膜3の両端がそれぞれ開口した状態で隔壁4,5により液密状態に固定されている。隔壁4,5は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。ハウジング2内の上記隔壁4,5ではさまれた部分は、中空糸膜3の内部側のガス室と中空糸膜3の外側の血液室12とに仕切られている。
本実施形態では、ガス流入口8を有するガス流入側ヘッダー10およびガス流出口9を有するガス流出側ヘッダー11が、ハウジング2に液密に取り付けられている。これらヘッダーも、いずれの材料で形成されてもよいが、例えば、上述のハウジングに用いられる疎水性合成樹脂により形成されうる。ヘッダーはいずれの方法によって取り付けられてもよいが、例えば、ヘッダーは、超音波、高周波、誘導加熱などを用いた融着、接着剤を用いた接着または機械的に嵌合させることによって、ハウジング2に取り付けられる。また、締め付けリング(図示しない)を用いて行ってもよい。中空糸膜型人工肺1の血液接触部(ハウジング2の内面、中空糸膜3の外面)は、全て疎水性材料により形成されることが好ましい。
図2に示されるように、この中空糸膜型人工肺1の少なくとも血液接触部となる中空糸膜3の外表面3a’(さらには場合によっては外面層3a;以下、同様)には、本発明に係る高分子18が被覆されている。上述したように、中空糸膜の内部層3bまたは内面層3cには、この高分子が実質的存在していないことが好ましい。高分子が実質的に存在していないため、中空糸膜の内部層または内面層が膜の基材自身が持つ疎水性の特性がそのまま保持され、血漿成分の漏出(リーク)を有効に防止できる。特に、中空糸膜の内部層3bおよび内面層3c双方に本発明に係る高分子が実質的に存在していないことが好ましい。また、中空糸膜3は、中央にガス室を形成する通路(内腔)3dを備えている。加えて、中空糸膜3は、その外表面3a’と内表面3c’を連通する開口部3eを有している。かような構成を有する中空糸膜は、本発明に係る高分子18によって被覆された外表面3a’側に血液が接触し、一方、内表面3’側に酸素含有ガスが流通される形態で使用される。すなわち、本発明における好ましい一実施形態は、中空糸膜3が、酸素含有ガスが流れる内腔を形成する内表面3c’と、血液と接触する外表面3a’と、を有し、外表面3a’が、本発明に係る高分子で被覆される形態(すなわち、外部灌流型)である。また、本発明における好ましい一実施形態は、中空糸膜3が、酸素含有ガスが流れる内腔を形成する内表面3c’と、血液と接触する外表面3a’と、を有し、外表面3a’が、本発明に係る高分子を含む被膜で被覆される形態(すなわち、外部灌流型)である。
本発明では、高分子被覆は、中空糸膜の外表面(外部灌流型)または内表面(内部灌流型)に選択的に形成される。このため、血液(特に血漿成分)が中空糸膜の細孔内部に浸透しにくいまたは浸透しない。ゆえに、中空糸膜よりの血液(特に血漿成分)の漏出を有効に抑制・防止できる。特に本発明に係る高分子が中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cに実質的に存在しない場合には、中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cは、素材の疎水性状態を維持しているため、高い血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)をさらに有効に抑制・防止できる。したがって、本発明の人工肺は、高いガス交換能を長期間にわたって維持できる。
また、本発明によると、中空糸膜の外表面または内表面に、高分子被覆を均一に形成できる。このため、中空糸膜の血液接触部での血小板の粘着/付着および活性化が少ない。また、被覆が中空糸膜から剥離するのも抑制・防止できる。
本実施形態に係る高分子の被覆は、人工肺の中空糸膜の外表面または内表面に必須に形成されるが、外表面または内表面に加えて、他の構成部材(例えば、血液接触部全体)に形成されてもよい。当該構成をとることにより、人工肺の血液接触部全体において、血小板の粘着/付着および活性化をさらにより有効に抑制・防止できる。また、血液接触面の接触角が低くなるので、プライミング作業が容易となる。なお、この場合には、本発明に係る高分子の被覆は血液が接触する他の構成部材に形成されることは好ましいが、血液接触部以外の中空糸膜もしくは中空糸膜の他の部分(例えば、隔壁中に埋没する部分)には、高分子が被覆されていなくてもよい。このような部分は、血液と接触しないので、高分子を被覆しなくても特に問題とならない。
また、本発明の人工肺は、図3に示すようなタイプのものであってもよい。図3は、本発明の人工肺の他の実施形態を示す断面図である。また、図4は、図3のA−A線断面図である。
図3において、人工肺20は、側面に血液流通用開口32を有する内側筒状部材31と、内側筒状部材31の外面に巻き付けられた多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる筒状中空糸膜束22と、筒状中空糸膜束22を内側筒状部材31とともに収納するハウジング23と、中空糸膜3の両端を開口した状態で、筒状中空糸膜束22の両端部をハウジングに固定する隔壁25,26と、ハウジング23内に形成された血液室17と連通する血液流入口28および血液流出口29a、29bと、中空糸膜3の内部と連通するガス流入口24およびガス流出口27とを有するものである。
本実施形態の人工肺20は、図3および図4に示されるように、ハウジング23は、内側筒状部材31を収納する外側筒状部材33を備え、筒状中空糸膜束22は内側筒状部材31と外側筒状部材33間に収納されており、さらに、ハウジング23は、内側筒状部材内と連通する血液流入口または血液流出口の一方と、外側筒状部材内部と連通する血液流入口または血液流出口の他方とを備えている。
具体的には、本実施形態の人工肺20では、ハウジング23は、外側筒状部材33、内側筒状部材31内に収納され、先端が内側筒状部材31内で開口する内筒体35を備える。内筒体35の一端(下端)には、血液流入口28が形成されており、外側筒状部材33の側面には、外方に延びる2つの血液流出口29a,29bが形成されている。なお、血液流出口は、一つであってもまたは複数であってもよい。
そして、筒状中空糸膜束22は、内側筒状部材31の外面に巻き付けられている。つまり、内側筒状部材31が筒状中空糸膜束22のコアとなっている。内側筒状部材31の内部に収納された内筒体35は、先端部が第1の隔壁25付近にて開口している。また、内側筒状部材31より、突出する下端部に血液流入口28が形成されている。
そして、内筒体35、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31、さらに、外側筒状部材33は、それぞれがほぼ同心的に配置されている。そして、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の一端(上端)および外側筒状部材33の一端(上端)は、第1の隔壁25により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内側筒状部材内部および外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。
また、内筒体35の血液流入口28より若干上方となる部分、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の他端(下端)および外側筒状部材33の他端(下端)は、第2の隔壁26により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内筒体35と内側筒状部材内部間に形成される空間および外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。また、隔壁25,26は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。
よって、本実施形態の人工肺20では、内筒体35の内部により形成される血液流入部17a、内筒体35と内側筒状部材間に形成される実質的に筒状空間となっている第1の血液室17b、中空糸膜束22と外側筒状部材33との間に形成される実質的に筒状空間となっている第2の血液室17cを備え、これらにより血液室17が形成されている。
そして、血液流入口28から流入した血液は、血液流入部17a内に流入し、内筒体35(血液流入部17a)内を上昇し、内筒体35の上端35a(開口端)より流出し、第1の血液室17b内に流入し、内側筒状部材31に形成された開口32を通過して、中空糸膜に接触し、ガス交換がなされた後、第2の血液室17cに流入し、血液流出口29a,29bより流出する。
また、外側筒状部材33の一端には、ガス流入口24を備えるガス流入用部材41が固定されており、同様に、外側筒状部材33の他端には、ガス流出口27を有するガス流出用部材42が固定されている。なお、内筒体35の血液流入口28は、このガス流出用部材42を貫通して外部に突出している。
外側筒状部材33としては、特に制限されないが、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、外側筒状部材の内径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の内径と同様でありうるが、32〜164mm程度が好適である。また、外側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10〜730mm程度が好適である。
また、内側筒状部材31の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内側筒状部材の外径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の外径と同様でありうるが、20〜100mm程度が好適である。また、内側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10〜730mm程度が好適である。
内側筒状部材31は、側面に多数の血液流通用開口32を備えている。開口32の大きさは、筒状部材の必要強度を保持する限り、総面積が大きいことが好ましい。このような条件を満足するものとしては、例えば、正面図である図5、図5の中央縦断面図である図6、さらに図5のB−B線断面図である図7に示されるように、開口32を筒状部材の外周面に等角度間隔で複数(例えば、4〜24個、図では、長手方向に8個)設けた環状配置開口を、筒状部材の軸方向に等間隔で複数組(図では、8組/周)設けたものが好適である。さらに、開口形状は、丸、多角形、楕円形などでもよいが、図5に示すような、長円形状のものが好適である。
また、内筒体35の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内筒体35の先端開口と第1の隔壁25との距離は、特に制限されず、公知の人工肺に使用されるのと同様の距離が適用できるが、20〜50mm程度が好適である。また、内筒体35の内径もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内筒体の内径と同様でありうるが、10〜30mm程度が好適である。
筒状中空糸膜束22の厚さは、特に制限されず、公知の人工肺に使用される筒状中空糸膜束の厚さと同様でありうるが、5〜35mmが好ましく、特に10mm〜28mmであることが好ましい。また、筒状中空糸膜束22の外側面と内側面間により形成される筒状空間に対する中空糸膜の充填率もまた、特に制限されず、公知の人工肺における充填率が同様にして適用できるが、40〜85%が好ましく、特に45〜80%が好ましい。また、中空糸膜束22の外径は、公知の人工肺に使用される中空糸膜束の外径と同様でありうるが、30〜170mmが好ましく、特に、70〜130mmが好ましい。ガス交換膜としては、上述したものが使用される。
そして、中空糸膜束22は、内側筒状部材31に中空糸膜を巻き付けること、具体的には、内側筒状部材31をコアとして、中空糸膜ボビンを形成させ、形成された中空糸膜ボビンの両端を、隔壁による固定の後、コアである内側筒状部材31とともに中空糸膜ボビンの両端を切断することにより、形成することができる。なお、この切断により、中空糸膜は、隔壁の外面において開口する。なお、中空糸膜の形成方法は、上記方法に限定されるものではなく、他の公知の中空糸膜の形成方法を同様にしてあるいは適宜修飾して使用してもよい。
特に、中空糸膜は、1本あるいは複数本同時に、実質的に平行でかつ隣り合う中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることが好ましい。これにより、血液の偏流をより有効に抑制できる。また、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、以下に制限されないが、中空糸膜の外径の1/10〜1/1となっていることが好ましい。さらに、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、30〜200μmが好ましく、特に好ましくは50〜180μmである。
さらに、中空糸膜束22は、中空糸膜が、1本あるいは複数本(好ましくは、2〜16本)同時に、かつ隣り合うすべての中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることによって、形成されたものであるとともに、中空糸膜を内側筒状部材上に巻き付ける際に、内側筒状部材31を回転させるための回転体と中空糸膜を編み込むためのワインダーとが、下記式(1)の条件で動くことによって内側筒状部材31に巻きつけられることにより形成されたものであることが好ましい。
上記条件とすることによって、血液偏流の形成をより少ないものとすることができる。このときの巻取り用回転体の回転数とワインダー往復数の関係であるnは、特に制限されないが、通常、1〜5であり、好ましくは2〜4である。
なお、上記他の実施形態に係る人工肺では、血液が筒状中空糸膜束22の内側より流入し、中空糸膜束22を通過した血液が中空糸膜束22の外側に流れた後、人工肺20より流出するタイプのものとなっているが、これに限られるものではない。上記他の実施形態とは逆に、血液が筒状中空糸膜束22の外側より流入し、中空糸膜束22を通過した血液が中空糸膜束22の内側に流れた後、人工肺20より流出するタイプのものであってもよい。
また、中空糸膜型人工肺20においても、図2に示すように、この中空糸膜型人工肺1の少なくとも中空糸膜3の外表面3a’(さらには外面層3a)に、本発明に係る高分子18が被覆されていることが好ましい。ここで、本発明に係る高分子は、中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cに存在してもよいが、中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cには実質的に存在していないことが好ましい。また、中空糸膜3は、中央にガス室を形成する通路3dを備えている。ここで、中空糸膜の好ましい形態(内径、外径、肉厚、空孔率など)は、特に制限されないが、上記図1において記載したものと同様の形態が採用できる。
本実施形態に係る人工肺20では、中空糸膜3は互いに接触するとともに何重にも積み重ねられたいわゆるボビン状となっている。本実施形態では、高分子被覆は、均一に中空糸膜の外表面または内表面に選択的に形成される。このため、中空糸膜の内面層への血液(特に血漿成分)の漏出も抑制・防止できる。すなわち、血液接触部である中空糸膜3の外表面3a’(さらには外面層3a)が選択的に高分子により被覆されていることにより、血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)を有効に抑制・防止できる。特に本発明に係る高分子が中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cに実質的に存在しない場合には、中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cは、素材の疎水性状態を維持しているため、高い血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)をさらに有効に抑制・防止できる。なお、本実施形態では、血液流路が複雑でかつ狭い部分を多く備え、ガス交換能には優れるが、血小板の粘着/付着および活性化の点においては、ボビンタイプでない外部血液灌流型の人工肺より劣る場合がある。しかしながら、上述したように、高分子被覆は均一であるため、中空糸膜の血液接触部での血小板の粘着/付着および活性化が少ない。また、被覆(特にコートむら部分)が中空糸膜から剥離するのも抑制・防止できる。
また、本実施形態に係る高分子の被覆は、人工肺の中空糸膜の外表面または内表面に必須に形成されるが、外表面または内表面に加えて、他の構成部材(例えば、血液接触部全体)に形成されてもよい。当該構成をとることにより、人工肺の血液接触部全体において、血小板の粘着/付着および活性化をさらにより有効に抑制・防止できる。また、血液接触面の接触角が低くなるので、プライミング作業が容易となる。なお、この場合には、本発明に係る高分子の被覆は血液が接触する他の構成部材に形成されることは好ましいが、血液接触部以外の中空糸膜もしくは中空糸膜の他の部分(例えば、隔壁中に埋没する部分、中空糸相互の接触部)には、高分子が被覆されていなくてもよい。このような部分は、血液と接触しないので、高分子を被覆しなくても特に問題とならない。
[本発明に係る高分子(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート系重合体)]
本発明に係る高分子(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート系重合体)は、下記式(I):
で表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する。本発明に係る高分子は、抗血栓性および生体適合性に優れる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。すなわち、「アルコキシアルキル(メタ)アクリレート」は、アルコキシアルキルアクリレートのみ、アルコキシアルキルメタアクリレートのみ、ならびにアルコキシアルキルアクリレートおよびアルコキシアルキルメタアクリレートすべての場合を包含する。
上記一般式1において、R1は、炭素原子数1〜4のアルキレン基を表わす。ここで、炭素原子数1〜4のアルキレン基としては、特に制限されず、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基の直鎖または分岐鎖のアルキレン基がある。これらのうち、エチレン基、プロピレン基が好ましく、抗血栓性および生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、エチレン基が特に好ましい。R2は、炭素原子数1〜4のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基の直鎖または分岐鎖のアルキル基がある。これらのうち、メチル基、エチル基が好ましく、抗血栓性および生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、メチル基が特に好ましい。R3は、水素原子またはメチル基を表わす。なお、本発明に係る高分子が2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する場合には、各構成単位は、同一であってもあるいが異なるものであってもよい。
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタアクリレート、メトキシエチルメタアクリレート、エトキシメチルメタアクリレート、エトキシエチルメタアクリレート、プロポキシメチルメタアクリレート、ブトキシエチルメタアクリレート等が挙げられる。これらのうち、抗血栓性および生体適合性のさらなる向上効果の観点から、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチルアクリレートが好ましく、メトキシエチルアクリレート(MEA)が特に好ましい。すなわち、本発明に係る高分子がポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)であることが好ましい。上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
本発明に係る高分子は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を必須に有するものであり、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の1種もしくは2種以上から構成される重合体(単独重合体)であってもまたは1種もしくは2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位および当該アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る1種もしくは2種以上の単量体由来の構成単位(他の構成単位)から構成される重合体(共重合体)であってもよい。なお、本発明に係る高分子が2種以上の構成単位から構成される場合には、高分子(共重合体)の構造は特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。また、重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。
ここで、本発明に係る高分子がアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて他の構成単位を有する場合の、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)としては、特に制限されにない。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタアクリレート、エチレン、プロピレン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート、メタアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、共重合性単量体としては、分子内にヒドロキシル基やカチオン性基を有しないものが好ましい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよく、ラジカル重合やイオン重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法により合成することができる。ここで、共重合体の全構成単位中、共重合性単量体に由来する構成単位の割合は、特に制限されないが、抗血栓性および生体適合性などを考慮すると、共重合性単量体に由来する構成単位(他の構成単位)が、共重合体の全構成単位中、0モル%を超えて50モル%以下であることが好ましい。50モル%を超えると、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートによる効果が低下してしまう可能性がある。
また、本発明に係る高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは80,000以上である。当該重量平均分子量の高分子を使用すれば、肉薄の中空糸膜に対しても、血漿成分の漏出(血漿リーク)を十分抑制できる。その一方、上述したように、高分子の分子量を大きくすることによって、被覆(被膜)中の低分子量の高分子含有量を低減できる。当該分子量によって、被覆(特に低分子量の高分子)の血液への溶出を抑制・防止できる。この被覆(特に低分子量の高分子)の血液への溶出をより抑制・防止するという観点からは、本発明に係る高分子の重量平均分子量は、より好ましくは250,000〜600,000、特に好ましくは300,000〜500,000である。上記範囲に含まれる場合には、被覆(特に低分子量の高分子)の血液への溶出を更に有効に抑制・防止できる。このため、このような高分子を低濃度で含む被膜で表面を被覆された中空糸膜を有する人工肺であっても、優れた抗血栓性を発揮・維持できる。また、抗血栓性および生体適合性の点からも好ましい。なお、本発明に係る高分子の重量平均分子量が高すぎる場合には、高分子含有溶液中で高分子が凝集または沈殿しやすくなり、安定した高分子含有溶液を調製することが困難なる可能性がある。また、本明細書において、「低分子量の高分子」とは、重量平均分子量が100,000未満の高分子を意味する。
本明細書において、「重量平均分子量」は、標準物質としてポリスチレンを、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)をそれぞれ使用するゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。具体的には、高分子をテトラヒドロフラン(THF)に10mg/mlの濃度となるように溶解し、試料を調製する。このようにして調製された試料について、GPCシステムLC−20(島津製作所製)にGPCカラムLF−804(Shodex社製)を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準物質としてポリスチレンを用いて、高分子のGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作製した後、この曲線に基づいて高分子の重量平均分子量を算出する。
また、本発明に係る高分子は、公知の方法によって製造できる。具体的には、下記式(II):
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、および必要であれば上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)の一種または二種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌して、単量体溶液を調製し、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要であれば共重合性単量体を(共)重合させる方法が好ましく使用される。なお、上記式(II)において、置換基R1、R2及びR3は、上記式(I)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記単量体溶液の調製で使用できる重合溶媒は、用いられる上記式(II)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要であれば共重合性単量体を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;及びクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの溶解しやすさ、上記したような重量平均分子量の高分子の得やすさなどを考慮すると、メタノールが好ましい。また、単量体溶液中の単量体濃度は、特に制限されないが、濃度を比較的高く設定することによって、得られる高分子の重量平均分子量を大きくすることができる。このため、上記したような重量平均分子量の高分子の得やすさなどを考慮すると、単量体溶液中の単量体濃度は、好ましくは15〜60重量%であり、より好ましくは20〜50重量%であり、特に好ましくは25〜45重量%である。なお、上記単量体濃度は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体を使用する場合には、これらの単量体の合計濃度を意味する。
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシピバレート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、モノマー合計量に対して、0.0001〜1モル%が好ましい。または、重合開始剤の配合量は、100重量部の単量体(複数種の単量体を用いる場合は、その全体)に対して、好ましくは0.005〜2重量部であり、より好ましくは0.05〜0.5重量部である。このような重合開始剤の配合量であれば、所望の重量平均分子量を有する高分子がより効率よく製造できる。
上記重合開始剤は、単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体;以下、同様)及び重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液の形態で単量体及び重合溶媒とそのまま混合されてもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様溶媒が例示できる。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであってもまたは異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。また、この場合の他の溶媒における重合開始剤の濃度は、特に制限されないが、混合のしやすさなどを考慮すると、重合開始剤の添加量が、他の溶媒100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
また、重合開始剤を溶液の形態で使用する場合には、単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体)を重合溶媒に溶解した溶液を、重合開始剤溶液の添加前に予め脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、メタノール溶液を0.5〜5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、メタノール溶液を30℃〜80℃程度、好ましくは下記の重合工程における重合温度に調温してもよい。
次に、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び他の単量体を(共)重合する。ここで、重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
重合条件は、上記単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体)が重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、重合温度は、好ましくは30〜80℃であり、より好ましくは40℃〜55℃である。また、重合時間は、好ましくは1〜24時間であり、好ましくは5〜12時間である。上記したような条件であれば、上記したような高分子量の重合体がより効率的に製造できる。また、重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
重合後の重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
精製後の重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
(人工肺の製造方法)
本発明の人工肺では、中空糸膜の外表面または内表面が上記したような本発明に係る高分子および溶媒を含む表面張力が40〜55dyn/cmである高分子含有溶液で被覆される。すなわち、本発明は、疎水性高分子材料からなる複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、下記式(I):
ただし、R3は、水素原子またはメチル基を表わし、R1は、炭素数1〜4のアルキレン基を表わし、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を表わす、
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する高分子および溶媒を含む表面張力が40〜55dyn/cmである高分子含有溶液で、前記中空糸膜の内腔を形成する内表面または外表面を被覆することを有する、製造方法をも提供する。
以下では、本発明の人工肺の製造方法の好ましい形態について説明する。なお、本発明は、表面張力が40〜55dyn/cmである高分子含有溶液で中空糸膜の外表面または内表面を被覆する以外は、下記好ましい形態に限定されない。
まず、人工肺(例えば、図1または図3のような構造のもの)を組み立てた後、人工肺の血液流通側に、表面張力が40〜55dyn/cmとなるように溶媒に本発明に係る高分子を溶解させた高分子含有溶液を接触させる(流通させる)ことによって、中空糸膜の外表面または内表面(すなわち、血液接触部)に本発明に係る高分子を被覆する。または、高分子含有溶液による中空糸膜の被覆は、人工肺組立前に行ってもよい。
ここで、高分子含有溶液の表面張力は、40〜55dyn/cmである。上記表面張力が40dyn/cm未満であると、高分子が中空糸膜の細孔の内表面(酸素含有ガスが流れる側の表面)まで浸透してしまうため、肉薄の中空糸膜では血液循環後に血漿リークが発生する確率が上昇してしまう。逆に、上記表面張力が55dyn/cmを超えると、高分子のコート溶媒中への分散性が低下し、凝集等が発生しやすくなり、やはり好ましくない。高分子の中空糸膜の細孔への浸入をより抑制・防止するとの観点からは、高分子含有溶液の表面張力は、好ましくは42〜53dyn/cmであり、より好ましくは45〜50dyn/cmである。
本明細書において、高分子含有溶液の表面張力は、下記方法に従って測定された値である。
(高分子含有溶液の表面張力の測定方法)
デュヌイ氏表面張力計(伊藤製作所製)を用いて測定する。詳細には、鋼線の中央に取付けた細桿の先に白金環を吊し、水平の位置で高分子含有溶液の液面と接触させ、ノブを廻し鋼線を捩って白金環を引上げ液体の表面から離れた瞬間を目盛板と指針で読取り、その値を高分子含有溶液の表面張力(dyn/cm)とする。
高分子含有溶液の上記表面張力は、上記範囲であれば特にその制御方法は特に制限されない。例えば、(a)高分子含有溶液中の本発明に係る高分子の濃度を適切な範囲に制御する;(b)溶媒を適切に選択する;上記(a)及び(b)を適宜組み合わせる方法が好ましく適用できる。これらのうち、上記(a)及び(b)が好ましく、(b)の方法が特に好ましい。
上記のうち、(a)については、高分子含有溶液中の本発明に係る高分子の濃度は、特に制限されない。被覆の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、好ましくは0.01〜5.0重量%、より好ましくは0.05〜1.0重量%である。なお、高分子含有溶液中の高分子の濃度が0.5重量%以下と低い場合には、高分子の配合量が少なく、高分子が界面活性剤としてほとんど作用しない。このため、このような低濃度の高分子では、高分子含有溶液(塗布液)の表面張力は実質的に変化しない。したがって、低濃度の高分子含有溶液(塗布液)を中空糸膜の外表面または内表面に塗布する(高分子被覆を形成する)場合には、下記で詳述するように溶媒を適切に選択することが好ましい。また、高分子含有溶液による中空糸膜の被覆は、人工肺組立前に行ってもよい。
また、上記(b)については、高分子含有溶液の調製に使用される溶媒は、本発明に係る高分子を溶解でき、かつ高分子含有溶液の表面張力を40〜55dyn/cmに制御できるものであれば特に制限されない。溶媒は、中空糸膜の細孔の酸素含有ガスが流れる側の表面(内表面または外表面)までの、好ましくは細孔の中央部までの高分子含有溶液の浸透をより有効に防止する観点から、溶媒が水を含むことが好ましい。また、高分子含有溶液の調製に使用される水以外の溶媒は、特に制限されないが、本発明に係る高分子の溶解性及び高分子含有溶液の表面張力の制御のしやすさを考慮すると、メタノール、アセトン、エタノールであることが好ましい。上記水以外の溶媒は、1種単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、本発明に係る高分子のさらなる溶解性の向上及び高分子含有溶液の表面張力のさらなる制御のしやすさを考慮すると、メタノールであることが好ましい。すなわち、溶媒は、水およびメタノールから構成されることが好ましい。ここで、水及びメタノールの混合比は、特に制限されないが、本発明に係る高分子のさらなる溶解性の向上及び高分子含有溶液の表面張力のさらなる制御のしやすさを考慮すると、水:メタノールの混合比(体積比)が、5〜99:1であることが好ましく、6〜49:1であることがより好ましく、7〜30:1であることが特に好ましい。すなわち、溶媒は、5〜99:1の混合比(体積比)で水及びメタノールから構成されることが好ましく、6〜49:1の混合比(体積比)で水及びメタノールから構成されることがより好ましく、7〜30:1の混合比(体積比)で水及びメタノールから構成されることが特に好ましい。
本発明では、中空糸膜の外表面または内表面を高分子含有溶液と接触(高分子含有溶液の人工肺の血液流通側への流通)させて、中空糸膜の外表面または内表面に高分子の塗膜を形成する。ここで、高分子含有溶液の中空糸膜の外表面または内表面への塗布量は特に制限されない。
また、高分子の被覆方法は、特に制限されないが、充填、ディップコーティング(浸漬法)、噴霧、スピンコーティング、滴下、ドクターブレード、刷毛塗り、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、混合溶液含浸スポンジコート等、従来公知の方法を適用することができる。
また、高分子の塗膜の形成条件は、特に制限されない。例えば、高分子含有溶液と中空糸膜との接触時間(高分子含有溶液の人工肺の血液流通側への流通時間)は、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、1〜5分が好ましく、1〜3分がより好ましい。また、高分子含有溶液と中空糸膜との接触温度(高分子含有溶液の人工肺の血液流通側への流通温度)は、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、5〜40℃が好ましく、15〜30℃がより好ましい。
上記高分子含有溶液との接触後に、塗膜を乾燥させることによって、本発明に係る高分子による被覆(被膜)を中空糸膜の外表面または内表面に形成する。ここで、乾燥条件は、本発明に係る高分子による被覆(被膜)が中空糸膜の外表面または内表面(さらには外面層)、または内表面(さらには内面層)に形成できる条件であれば特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、5〜50℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。また、乾燥時間は、60〜300分が好ましく、120〜240分がより好ましい。または、好ましくは5〜40℃、より好ましくは15〜30℃のガスを中空糸膜に連続してまたは段階的に流通させることによって、塗膜を乾燥させてよい。ここで、ガスの種類は、塗膜に何ら影響を及ぼさず、塗膜を乾燥できるものであれば特に制限されない。具体的には、空気、および窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスなどが挙げられる。また、ガスの流通量は、塗膜を十分乾燥できる量であれば特に制限されないが、好ましく5〜150Lであり、より好ましく30〜100Lである。
このような形成方法によれば、中空糸膜の外表面側に被覆(被膜)を形成した場合、抗血栓性材料が中空糸膜の内部層さらには内表面まで浸透することが有効に抑制・防止され、抗血栓性材料が優先的に中空糸膜の外表面にとどまる。また、中空糸膜の内表面側に被覆(被膜)を形成した場合、抗血栓性材料が中空糸膜の内部層さらには外表面まで浸透することを有効に抑制・防止して、抗血栓性材料が優先的に中空糸膜の内表面にとどまる。
このため、本発明の人工肺は、血液(特に血漿成分)が高分子被覆(被膜)を伝って細孔内にしみ込むことが少ないか、またはしみ込まないので、血液(例えば、血漿成分)の漏出(血漿リーク)を有効に抑制・防止できる。
具体的には、本発明の人工肺は、耐血漿リーク性能が、15mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることがより好ましく、8mmHg以下であることが特に好ましい。なお、耐血漿リーク性能は、低いほど好ましいため、下限は特に制限されず、検出限界が下限である。上述したように、本発明によって、20μm以上50μm未満という薄い肉厚の中空糸膜に対しても、上記したような耐血漿リーク性能を達成することが初めて可能になった。すなわち、本発明は、疎水性高分子材料からなる複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、前記内表面と前記外表面との間の肉厚は、20μm以上50μm未満であり、前記内表面又は前記外表面のいずれか一方が、下記式(I):
ただし、R3は、水素原子またはメチル基を表わし、R1は、炭素数1〜4のアルキレン基を表わし、R2は、炭素数1〜4のアルキル基を表わす、
で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する高分子を含む被膜で被覆され、かつ耐血漿リーク性能が、15mmHg以下である、人工肺を提供する。
本明細書において、耐血漿リーク性能は、下記実施例で測定される値を採用する。
また、特に高分子量(特に重量平均分子量が25万から60万)の高分子を使用すると、血液へのコーティング材(特に高分子)の溶出を抑制・防止できる。具体的には、高分子の溶出量が、20%以下であることが好ましく、10%以下であることが好ましく、5%以下(下限:0%)であることが特に好ましい。なお、本明細書において、高分子の溶出量は、下記実施例で測定される値を採用する。
加えて、本発明に係る高分子は、抗血栓性生体適合(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。ゆえに、本発明の人工肺は、抗血栓性生体適合(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
製造例1:重量平均分子量31万のPMEAの合成
2−メトキシエチルアクリレート(MEA)60g(0.46mol)をメタノール135gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液(1)を調製した。別途、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業(株)製)0.06gをメタノール5gに溶解して、重合開始剤溶液(1)を調製した。次に、この重合開始剤溶液(1)をモノマー溶液(1)に添加し、50℃で5時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をエタノールに滴下し、析出した重合体(PMEA(1))を回収した。なお、回収した重合体(PMEA(1))の重量平均分子量を測定したところ、310,000であった。
製造例2:重量平均分子量42万のPMEAの合成
2−メトキシエチルアクリレート(MEA)80g(0.61mol)をメタノール115gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液(2)を調製した。別途、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業(株)製)0.08gをメタノール5gに溶解して、重合開始剤溶液(2)を調製した。次に、この重合開始剤溶液(2)をモノマー溶液(2)に添加し、50℃で5時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をエタノールに滴下し、析出した重合体(PMEA(2))を回収した。なお、回収した重合体(PMEA(2))の重量平均分子量を測定したところ、420,000であった。
製造例3:重量平均分子量49万のPMEAの合成
2−メトキシエチルアクリレート(MEA)80g(0.61mol)をメタノール115gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、43℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液(3)を調製した。別途、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業(株)製)0.08gをメタノール5gに溶解して、重合開始剤溶液(3)を調製した。次に、この重合開始剤溶液(3)をモノマー溶液(3)に添加し、43℃で8時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をエタノールに滴下し、析出した重合体(PMEA(3))を回収した。なお、回収した重合体(PMEA(3))の重量平均分子量を測定したところ、490,000であった。
製造例4:重量平均分子量8.5万のPMEAの合成
2−メトキシエチルアクリレート(MEA)20g(0.16mol)をトルエン75gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、80℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液(4)を調製した。別途、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN,和光純薬工業(株)製) 0.02gをトルエン 5gに溶解して、重合開始剤溶液(4)を調製した。次に、この重合開始剤溶液(4)をモノマー溶液(4)に添加し、80℃で8時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をノルマルヘキサンに滴下し、析出した重合体(PMEA(4))を回収した。なお、回収した重合体(PMEA(4))の重量平均分子量を測定したところ、85,000であった。
製造例5:重量平均分子量41万のPMEAの合成
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)をメタノール25gに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でN2バブリングを1時間行い、モノマー溶液(5)を調製した。別途、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業(株)製)0.015gをメタノール3gに溶解して、重合開始剤溶液(5)を調製した。次に、この重合開始剤溶液(5)をモノマー溶液(5)に添加し、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合反応を行った。所定時間重合後、重合溶液をエタノールに滴下し、析出した重合体(PMEA(5))を回収した。なお、回収した重合体(PMEA(5))の重量平均分子量を測定したところ、410,000であった。
実施例1
上記製造例1で合成したPMEA(1)(重量平均分子量=31万)を、PMEA(1)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(1)を調製した。
別途、内径が120μm、外径が170μm、肉厚が25μm、空孔率が約40体積%の多孔質ポリプロピレン製のガス交換用多孔質中空糸膜が約50,000本をハウジングに収納し、膜面積が1.9m2である特開平11−114056号公報の図1に記載される血液外部灌流型中空糸膜人工肺(a)を作製した。
上記で調製したコート液(1)を、この人工肺(a)の血液流路に充填し、25℃で120秒間静置した後、コート液を除去して、80Lの流量の空気を流して、中空糸膜を乾燥して、被覆が外表面に形成された中空糸膜を有する血液外部灌流型中空糸膜人工肺(1)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(1)を人工肺(1)とも称する。
実施例2
上記製造例1で合成したPMEA(1)(重量平均分子量=31万)を、PMEA(1)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=85:15(体積比))に分散させ、表面張力が42dyn/cmのコート液(2)を調製した。
実施例1において、コート液(1)の代わりに、上記コート液(2)を使用する以外は、実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺を人工肺(2)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(2)を人工肺(2)とも称する。
実施例3
上記製造例2で合成したPMEA(2)(重量平均分子量=42万)を、PMEA(2)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(3)を調製した。
実施例1において、コート液(1)の代わりに、上記コート液(3)を使用する以外は、実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺を人工肺(3)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(3)を人工肺(3)とも称する。
実施例4
上記製造例3で合成したPMEA(3)(重量平均分子量=49万)を、PMEA(3)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(4)を調製した。
実施例1において、コート液(1)の代わりに、上記コート液(4)を使用する以外は、実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺を人工肺(4)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(4)を人工肺(4)とも称する。
実施例5
上記製造例4で合成したPMEA(4)(重量平均分子量=8.5万)を、PMEA(4)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(5)を調製した。
実施例1において、コート液(1)の代わりに、上記コート液(5)を使用する以外は、実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺を人工肺(5)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(5)を人工肺(5)とも称する。
比較例1
上記製造例1で合成したPMEA(重量平均分子量=31万)を、PMEA濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールとエタノールの混合溶媒(水:メタノール:エタノールの混合比=6:1:3(体積比))に分散させ、表面張力が37dyn/cmのコート液(6)を調製した。
実施例1において、コート液(1)の代わりに、上記コート液(6)を使用する以外は、実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺を人工肺(6)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(6)を人工肺(6)とも称する。
参考例1
上記製造例1で合成したPMEA(1)(重量平均分子量=31万)を、PMEA(1)の濃度が0.1重量%となるように、水とメタノールとエタノールの混合溶媒(水:メタノール:エタノールの混合比=6:1:3(体積比))に分散させ、表面張力が37dyn/cmのコート液(7)を調製した。
別途、内径が195μm、外径が295μm、肉厚が50μm、空孔率が約35%の多孔質ポリプロピレン製のガス交換用多孔質中空糸膜(中空糸膜)約20,000本をハウジングに収納し、膜面積が1.8m2である特開平11−114056号公報(EP 0 908 191 A1、またはUS 6,495,101 B1に相当)の図1に記載される血液外部灌流型中空糸膜人工肺(b)を作製した。
上記で調製したコート液(7)を、この人工肺(b)の血液流路に充填し、25℃で120秒間静置した後、コート液を除去して、80Lの流量の空気を流して、中空糸膜を乾燥して、血液外部灌流型中空糸膜人工肺(7)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(7)を人工肺(7)とも称する。
実験1:耐血漿リーク性能試験
上記実施例1、2及び5の人工肺(1)、(2)及び(5)、比較例1の人工肺(6)、ならびに参考例1の人工肺(7)について、下記方法によって、耐血漿リーク性能を評価した。結果を下記表1に示す。
図8は、耐血漿リーク性能試験の試験系を示す図である。図8に示されるように、本試験系は、リザーバー、ローラーポンプ、評価サンプルでない熱交換器内蔵人工肺(以下、「コントロール人工肺」とも称する)によって構成される。このうち、リザーバーは、ソフトバッグタイプのものを使用する。なお、本試験回路はいずれにおいても大気に開放されない、閉鎖回路となっている。
作動流体にはウシ血漿を用い、血漿リークを加速させるためにヘモコンセントレーターによって表面張力43±2dyn/cmとなるように濃縮(除水)したものを作動流体として使用する。このウシ血漿(作動流体)をローラーポンプによって回路内を循環させ、熱交換器によって温度を37±0.5℃に制御する。コントロール人工肺に酸素ガス(94体積%酸素ガス、6体積%窒素ガス)を吹送することでウシ血漿中の酸素分圧が上昇し、評価サンプルである人工肺(以下、「サンプル人工肺」とも称する)には酸素分圧650±50mmHg程度の高酸素分圧のウシ血漿を流入させる。サンプル人工肺に窒素ガス(100体積%窒素ガス)を吹送することで、サンプル人工肺出口の血漿の酸素分圧はサンプル人工肺の入口と比較して低下する。この酸素分圧の差によって連続的にガス交換性能を測定することができる。
実験を9時間行い、実験開始時(0時間目)と実験開始後9時間目との酸素分圧の差を耐血漿リーク性能として評価する。よって、この酸素分圧差が小さければ小さいほど耐血漿リーク性能が高いことを意味する。また、血漿リークを加速させるためにサンプル人工肺の背圧(出口圧力)を1000mmHgとする。
上記表1の結果から、本発明の人工肺(1)、(2)及び(5)は、表面張力が本発明の範囲から外れるコート液で中空糸膜を被覆した比較例1の人工肺(6)に比して、血漿のリークを有意に抑制できる(耐血漿リーク性能が有意に低い)ことが分かる。
また、上記表1の結果から、本発明の人工肺は、肉厚が薄い中空糸膜に対しても、肉厚の厚い参考例1と同等程度に、循環後の血漿リークを有効に抑制できることが分かる。なお、参考例1の人工肺(7)では、耐血漿リーク性能が低い(血漿リークを抑制できる)が、これは、中空糸膜の肉厚が厚いため、血漿が中空糸膜の孔中に侵入しても、中空糸の内腔にまで通過しないため、耐血漿リーク性能が低い(血漿リークを抑制できる)結果となるものと考察される。
実施例6
上記製造例1で合成したPMEA(1)(重量平均分子量=31万)を、PMEA(1)の濃度が0.2重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(8)を調製した。
実施例7
上記製造例2で合成したPMEA(2)(重量平均分子量=42万)を、PMEA(2)の濃度が0.2重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(9)を調製した。
実施例8
上記製造例3で合成したPMEA(3)(重量平均分子量=49万)を、PMEA(3)の濃度が0.2重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(10)を調製した。
実施例9
上記製造例4で合成したPMEA(4)(重量平均分子量=8.5万)を、PMEA(4)の濃度が0.2重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が46dyn/cmのコート液(11)を調製した。
実験2:溶出量試験
上記実施例6〜9で調製したコート液(8)〜(11)について、下記方法によって、PMEA被覆の溶出量をPMEA塗布量の減少率を指標として評価した。結果を下記表2に示す。
予め重量を測定した厚さが50μmで7.5cm×7.5cmの大きさの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(塗布前重量a(g))を準備する。このポリプロピレンフィルム上に、各コート液を、それぞれ、塗布する。塗布後、塗膜を室温(25℃)で72時間乾燥して、PMEA被覆をポリプロピレンフィルム上に形成する。このようにして得られたPMEA被覆が形成されたフィルムの重量(塗布乾燥後重量b(g))を測定する。次に、このPMEA被覆が形成されたフィルムを生理食塩水中に浸漬し、5日間、37℃に設定したインキュベータ中に置く。所定時間浸漬した後、生理食塩水からフィルムを取り出し、蒸留水で洗浄し、50℃で48時間乾燥する。そして、乾燥後のフィルムの重量(浸漬後重量c(g))を測定した。
生理食塩水に浸漬する前のPMEA塗布量[=(塗布乾燥後重量b(g))−(塗布前重量a(g))]、および生理食塩水に浸漬した後のPMEA塗布量[=(浸漬後重量c(g))−(塗布前重量a(g))]を算出し、これらの値から、下記式(1)に基づいて、PMEA塗布量の減少率(%)を算出する。
下記表2の結果から、実施例6〜8のコート液(8)〜(10)で形成した被覆は、実施例9のコート液(11)で形成した被覆に比較して、PMEA塗布量の減少率が有意に低いことが示される。これらの結果から、実施例6〜8のPMEA(1)〜(3)による被覆は、実施例9の分子量がより低いPMEA(4)の被覆よりも、コート層が安定であることが考察される。
また、上記表1の結果を合わせて考慮することにより、コート液の表面張力を調節した上で、さらに高分子の重量平均分子量を大きくすることによって、生理食塩水への高分子の溶出を有効に抑制できると推測される。また、この結果から、コート液の表面張力を調節した上で、さらに高分子の重量平均分子量を大きくすることによって、血液への高分子の溶出量を有効に低減できることが期待される。
実施例10
上記製造例5で合成したPMEA(5)(重量平均分子量=41万)を、PMEA(5)の濃度が0.05重量%となるように、水とメタノールの混合溶媒(水:メタノールの混合比=95:5(体積比))に分散させ、表面張力が48dyn/cmのコート液(12)を調製した。
上記実施例1と同様にして、血液外部灌流型中空糸膜人工肺(a)を作製した。
上記で調製したコート液(12)を、この人工肺(a)の血液流路に充填し、25℃で120秒間静置した後、コート液を除去して、常温(25℃)で240分間、送風乾燥して、中空糸膜を乾燥して、被覆が外表面に形成された中空糸膜を有する血液外部灌流型中空糸膜人工肺(8)を製造した。なお、このようにして得られた血液外部灌流型中空糸膜人工肺(8)を人工肺(8)とも称する。
実験3:血液循環試験
上記実施例10で得られた人工肺(8)について、下記方法に従って、抗血栓性を評価した。すなわち、人工肺(8)を体外循環回路(血液循環回路)に組み込み、ヘパリン(0.45単位/ml)添加ヒト新鮮血90mlおよび生理食塩水110mlを混合した希釈ヒト新鮮血(へパリン:0.2単位/ml)で充填した。室温(25℃)で、500ml/minの速度で、人工肺(8)内に希釈ヒト新鮮血を循環させた。循環開始から60分後に、体外循環回路から血液をサンプリングし、血小板数を測定し、循環開始前の血小板数(100%)に対する循環後の血小板数の割合(血小板数維持率)を求めた。その結果、血小板数維持率は、91%であった。
上記結果から、本発明の人工肺は高い維持率で血小板を維持できることが分かる。すなわち、凝固系、血小板系の活性化を起点とした血小板の凝集、基材への付着等による血小板数の低下が少なく、優れた抗血栓性を有すると確認できる。
本出願は、2015年3月10日に出願された日本特許出願番号2015−47600号および2015年7月29日に出願された日本特許出願番号2015−150084号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。