以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の回転電機用ロータ(以下、単に「ロータ」という。)1の断面図、図2はロータ1の正面図、図3は図2のA−A線に沿う要部拡大断面図である。
図1、図2に示したように、ロータ1には、珪素鋼板等の薄板電磁鋼板を用いて円板状に形成し、その薄板円板状鋼板3を厚み方向に複数積層することにより全体として円柱状とした鋼板積層体(以下、「ロータコア」という。)2を有する。磁石を収容するため、このロータコア2にはロータコア2の軸方向に貫通する複数のスロット4,5を、ロータコア2の円周方向に八等分した位置に形成してある。すなわち、ロータコア2の径方向外側に位置するスロット4はロータコア2の軸方向に直交する断面がほぼ一直線状に、また外側スロット4よりも内周側に位置するスロット5はロータコア2の軸方向に直交する断面がくの字状に形成されている。
8つの各外側スロット4には、各外側スロット4の断面形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石11が外側磁石として挿入される。一方、8つの各内側スロット5には、各内側スロット5の断面形状よりも一回り小さな板状またはバー状の永久磁石12が二つで一組の内側磁石として挿入される。そして、外側スロット4と外側磁石11との隙間、内側スロット5と内側磁石12との隙間にエポキシ樹脂等の樹脂材料を注入または充填した後に樹脂を熱硬化させることによって、各磁石11,12を位置決め固定する。
ロータコア2の軸心に形成される軸穴6には、ロータシャフト15が挿通される。ロータコア2の軸穴6の一部に軸心に向けて突出させることにより形成したキー7を、ロータシャフト15の外周に設けたキー溝16と係合させることによって、ロータコア2とロータシャフト15の両者が一体的に回転するよう構成している。
ロータコア2には、小径穴22(第1穴)と、小径穴22より径の大きい大径穴23(第2穴)とで構成される連通穴21を、ロータコア2の円周を八等分する位置にかつ軸穴6と軸心を同じくする同心円上に形成している。詳細には、各内側スロット5の折れ曲り部の内周側に連通穴21を位置させている。連通穴21を構成する小径穴22と大径穴23とは、連通する空間を形成していればよく、同芯状態に形成しても同芯状態に形成していなくてもよい。
図3に示したように、小径穴22を有する薄板円板状鋼板3と、大径穴23を有する薄板円板状電磁鋼板3とを鋼板3の厚み方向に交互に積層することにより、小径穴22と大径穴23とが交互に配置された連通穴21とする。
なお、各連通穴21を構成する小径穴22と大径穴23とは、各連通穴21のそれぞれにおいて交互に配置されればよい。このため、小径穴22のみを有する薄板円板状鋼板と大径穴23のみを有する薄板円板状鋼板とを交互に積層する方法であってよい。さらに、上記した方法に限定されるものでない。例えば、円周方向に配置される複数の連通穴21を小径穴22と大径穴23とが円周方向において交互に設けられた同一形状の薄板円板状鋼板を積層して上記した連通穴21を形成することもできる。すなわち、上記した小径穴22と大径穴23とが円周方向において交互に設けられた同一形状の薄板円板状鋼板を、円周方向の八等分位置の角度だけずらせたものと角度位置をずらせないものとを交互に積層して各連通穴21を形成することができる。また、上記した小径穴22と大径穴23とが円周方向において交互に設けられた同一形状の薄板円板状鋼板を、円周方向に八等分位置ずつずらせて順次積層することによっても、各連通穴21を形成することもできる。
このように、小径穴22と大径穴23とで構成される連通穴21に樹脂31を一定圧力で注入(供給)すると、注入(供給)された樹脂31は小径穴22と大径穴23とに充填される。この場合、連通穴21はロータコア2の軸方向にデコボコしているため、積層された薄板円板状鋼板3と充填された樹脂31との接触面積が、連通穴が単なる円筒状穴である場合よりも増加する。接触面積が増加すると、その分、鋼板3同士を強固に接着できるため、ロータ1の剛性を向上できる。また、大径穴23を有する薄板円板状鋼板3を両側から挟んでいる小径穴22を有する薄板円板状鋼板3同士は、大径穴23に露出して互いに対面する側面(小径穴22の周縁)同士が、充填された樹脂31を介して接着固定される。この点でも、ロータ1の剛性を向上できる。
ところで、連通穴21に一定圧力の樹脂31を供給するだけの比較例では、連通穴21に充填された樹脂31内に空気溜まりが生じることがある。この空気溜まりは、充填された樹脂31の強度を低下させ、ロータコア2の捩れ方向の剛性及び曲げ方向の剛性を低下させ、ロータ1回転時の騒音・振動を悪化させる。また、複数ある連通穴21の一部に空気だまりが偏在する場合には、充填された樹脂31と空気溜まりとの質量の偏在によってロータコア2の回転バランスが低下し、ロータ1回転時の騒音・振動を悪化させる。
この空気溜まりは、下記のメカニズムにより生ずることを本出願人が確認しているので、これを図4を参照して説明する。図4は比較例の場合の樹脂の充填工程を説明するための連通穴21の断面図である。すなわち、比較例では、鉛直上方より連通穴21に一定圧力で注入(供給)された樹脂31は連通穴21を鉛直下方に向かい、小径穴22、大径穴23を順次満たして充填される。その際、図4(A)に示したように、小径穴22から大径穴23に樹脂31が充填される際に大径穴23の周縁へと樹脂31が充填しつつ、その大径穴23の次にくる小径穴22を樹脂31が塞ぐ。このため、大径穴23の周縁領域に連通穴21の外部へと排出されない空気35が残留することとなる。そして、連通穴21への樹脂31の供給圧力により大径穴23の全域に樹脂31が充填されると圧力により潰されて空気が一旦はほぼ消失する。しかしながら、樹脂31の供給圧力がなくなった後には、図4(B)に示したように、大径穴23の内部に残された空気35が充填された樹脂31内で気泡32として浮遊してくる。そして、これら気泡32が順次合体して成長することにより、図4(C)に示したように、連通穴21中央の樹脂31内に空気溜まり33が形成されることとなる。
比較例において空気溜まり33が形成された理由は、一定圧力の樹脂31が連通穴21内の空間を自由に落下するままにしておいた、つまり大径部23の周縁に存在する空気を外気に逃す機会を与えることなく樹脂31を充填したためと考えられる。従って、大径穴23の一つに樹脂31を充填してから隣接する次の大径穴23に樹脂31を充填させる速度を制限する必要がある。大径部23の周縁に存在する空気が気泡となって、まだ樹脂31が充填されていない箇所を経由して連通穴21の外部に逃げる機会が生じ得るようにするのである。そこで本発明の第1実施形態では、大径部23の周縁に存在する空気が気泡となって外気に逃げる機会が生じるように、大径穴23の一つに樹脂31を充填してから隣接する次の大径穴23に樹脂31を充填させる速度を制限するようにした樹脂充填方法を開発した。
以下、初期状態設定工程#1、各連通穴21への樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4を図5,図6,図7,図8を参照して説明する。図5,図6,図7,図8は初期状態設定工程#1、樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4を説明するための連通穴21の縦断面図である。詳細には、図5(A)は初期状態設定工程#1を示したものである。図5(B)、図6(C)、図6(D)、図7(E)、図7(F)は樹脂充填工程#2のうちの樹脂充填開始、ガイド部材下降、樹脂充填、ガイド部材下降、樹脂充填の各工程を示したものである。図8は樹脂充填終了後の後工程#4を示したものである。なお、8つある連通穴21に対する初期状態設定工程#1、樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4は同様であるので、ここでは、1つの連通穴21だけで代表させて示してある。また、1つの連通穴21のうち鉛直方向の最上段の穴を形成しているのは大径穴23であるとする。
図5(A)に示したように、初期状態設定工程#1では連通穴21が鉛直方向を向くように、据え付け台61aの上にロータコア2を配置する。ここで、据え付け台61ajはガイド部材移動設備61の一部を構成するものである。ガイド部材移動設備61はガイド部材41を鉛直方向に移動可能である。
連通穴21は、大径穴23と小径穴22とが連通穴21の軸方向に交互に繰り返される穴であるので、複数ある大径穴23を次のように区別する。すなわち、鉛直方向の上方より第1段目に位置する大径穴23を第1大径穴23a、鉛直方向の上方より第2段目に位置する大径穴23を第2大径穴23b、鉛直方向の上方より第3段目に位置する大径穴23を第3大径穴23cという。以下、同様である。
同様に、複数ある小径穴22を次のように区別する。すなわち、鉛直方向の上方より第1段目に位置する小径穴22を第1小径穴22a、鉛直方向の上方より第2段目に位置する小径穴22を第2小径穴22b、鉛直方向の上方より第3段目に位置する小径穴22を第3小径穴22cという。以下、同様である。
連通穴21を鉛直方向に移動可能な円柱状のガイド部材41を、連通穴21に鉛直下方より挿通しておく。このガイド部材41は、ガイド部材移動設備61に連結する。このガイド部材41は、一定圧力の樹脂31を連通穴21に鉛直上方より注入(供給)するときに樹脂31の最先端(鉛直方向の最下端)を制限するためのものである。このガイド部材41は、ガイド部材41の鉛直方向の上端41aを鉛直下方に移動させる(つまり樹脂31の最先端位置をコントロールする)ことによって、連通穴21の内部に空気溜まりが生じることがないようにするためのものである。
上記のガイド部材移動設備61は、据え付け台61aの他、図示しないが、モータ、このモータの回転速度を遅くする機構、遅くされたモータの回転運動をガイド部材41の上下運動に変換する機構で構成する。そして、当該ガイド部材移動設備61を用い、図5(A)に示す初期状態設定工程#1でモータを逆転させることによってガイド部材41を初期状態に位置させ、樹脂充填工程#2になると、モータを正転させることによってガイド部材41を下降させる。ここで、ガイド部材41の下降させる速度は、モータの回転速度によって任意に制御可能である。
ガイド部材41の上端41aが、連通穴21に一定圧力で供給される樹脂31の最先端(鉛直方向の最下端)位置となるので、第1大径穴23aが開口しかつ第1小径穴22aが全ては開口しない位置をガイド部材41の初期位置として設定しておく。第1大径穴23aが開口する位置にガイド部材41を設定するのは、一定圧力の樹脂31を第1大径穴23aの周縁にまで侵入させるためである。
第1小径穴22aが全ては開口しない位置にガイド部材41を設定するのは、次の理由からである。すなわち、第1大径穴23aに樹脂31を侵入させるときに第1小径穴22aまで全て開口させてしまうと、樹脂31が第2大径穴23bに直ぐに侵入することになって、第1大径穴23aに侵入する樹脂31に作用している圧力が保たれなくなる。一方、樹脂31に作用する一定圧力を保ちつつ、ガイド部材外周41bと第1小径穴22aとの間の隙間42から圧力の一部が漏れるようにしておくと、第1大径穴23aの周縁に存在する空気を気泡として当該隙間42から鉛直下方の外気に逃すことができる。そこで、第1小径穴22aが全ては開口しない位置にガイド部材41の鉛直方向位置を設定することで、樹脂31に作用する一定圧力を保ちつつ、ガイド部材外周41bと第1小径穴22aとの間の隙間42から圧力の一部が漏れるようにするためである。ここで、「大径穴23が開口する」とは、大径穴23の空間にガイド部材41が存在しないことを意味させるものとする。また、「小径穴22が全ては開口しない」とは、小径穴22の空間にガイド部材41の一部が存在することを意味させるものとする。
また、図5(A)に示したように初期状態設定工程#1では第1大径穴23bの上面を覆って、樹脂供給装置51の供給口51bと第1大径穴23aとの隙間から樹脂31が漏れ出ないように樹脂供給装置51の供給口51bを取り付けておく。
次に、図5(B)に示した樹脂充填工程#2に移ると、この樹脂充填工程#2には気泡逃し工程#3を含んでいる。
樹脂充填工程#2では、最初に樹脂供給装置51の供給通路51aに介装している常閉の開閉バルブ51cを全閉状態から全開状態へと切換える。これによって、熱硬化する前には流動体である樹脂31が鉛直上方から連通穴21の上方開口端21aより一定圧力で流入する。このとき、ガイド部材41は第1小径穴22aが全ては開口しない位置にある。このため、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から第1大径穴23aの周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)と共に、第1大径穴23aの直ぐ下にある第1小径穴22aの一部に侵入する。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに第1大径穴23aの周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間42へと移動する。すなわち、気泡はガイド部材41の外周41bと第1小径穴22aとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃される。ここで、ガイド部材41の外周41bと第1小径穴22との隙間42からは圧力の一部が漏れても樹脂31が侵入して流れ落ちることがないように隙間量を予め調整しておく。
図5(B)の状態で一定時間が経過すれば、第1大径部23aを満たす樹脂31の内部の空気は、気泡となってガイド部材41の外周41aと第1小径穴22aとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃されることで完全に抜けているはずである。このため、一定時間が経過したときには、図6(C)に示したようにガイド部材41を、一定量、つまり第2大径穴23bが開口しかつ第2小径穴22bが全ては開口しない位置まで下降させる。
すると、図6(D)に示したように、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から第2大径穴23bの周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)と共に、第2大径穴23bの直ぐ下にある第2小径穴22bに侵入する。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに第2大径穴23bの周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間42へと移動する。すなわち、気泡はガイド部材41の外周41bと第2小径穴22bとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃される。
図6(D)の状態で一定時間が経過すれば、第2段大径部23を満たす樹脂31の内部の空気は、気泡となってガイド部材41の外周41bと第2小径穴22bとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃されることで完全に抜けているはずである。このため、一定時間が経過したときには、図7(E)に示したようにガイド部材41を一定量、つまり第3大径穴23cが開口しかつ第3小径穴22cが全ては開口しない位置まで下降させる。
すると、図7(F)に示したように、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から第3大径穴23cの周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)と共に、第3大径穴23cの直ぐ下にある第3小径穴22cに侵入する。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに第3大径穴23cの周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間42へと移動する。すなわち、気泡はガイド部材41の外周41bと第3小径穴22cとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃される。
以下、上記図7(E)と図7(F)と同様の工程を繰り返す。これによって、ガイド部材41を一定量ずつ下降させるほど、その下降するガイド部材41の上端41aを追いかけるように樹脂31が残りの各大径部23を満たしてゆく。これによって、第1、第2、第3、…、の大径部23の内部を完全31に樹脂31で充填することができる。
このようにして、全ての大径部23への樹脂31の充填を終了したときには、樹脂供給装置51の供給通路51aに介装している開閉バルブ51cを全開状態から全閉状態へと切換えて樹脂31の供給を停止する。これで、樹脂充填工程#2を終了する。
次には図8に示す樹脂充填終了後の後工程#4に移る。樹脂充填終了後の後工程#4では、図8に示したように、樹脂供給装置51を外す。この後は、例えば図8に示した状態でロータコア2の全体を加熱し連通穴21に充填してある樹脂31を固化する。樹脂31を固化した後には据え付け台61aからロータコア2を取り外す。
第1実施形態では、大径部23の周縁に残る空気を気泡として小径部22とガイド部材外周41bとの隙間42をから鉛直下方の外気へと逃すためガイド部材41を一定時間保持させ、その後に一定量下降させて再び一定時間保持させる場合で説明した。しかしながら、この場合に限られない。例えば、ガイド部材41が小径部22を通過している間に、大径部23の周縁に残る空気を気泡として小径部22とガイド部材外周41bとの隙間42から鉛直下方の外気へと逃すことで、ガイド部材41を連続的に下降させることができる。
本実施形態では、大径部23の周縁に侵入した樹脂31の内部に残留する空気を気泡としてガイド部材41の外周41bと、まだ樹脂31の侵入していない連通穴21との間の隙間42を通って鉛直下方の大気中に抜けさせる必要がある。このため、各小径穴22とガイド部材41との隙間量としては、樹脂31にフィラーが含まれている場合に次の条件1を満足するように設定する。
条件1:空気が流出する最少径≪隙間量≪樹脂内部のフィラー径
上記の条件1は、各小径穴22とガイド部材41の外周41bとの間の隙間42を空気は通過するけれども、樹脂に含まれるフィラーは通過し得ないようにするための隙間量に関する条件である。
また、樹脂31にフィラーが含まれていない場合に次の条件2を満足するように、樹脂31に作用させる供給圧力を設定する。
条件2:空気が隙間を排出する最低圧力≪樹脂の供給圧力≪樹脂が隙間を排出する最低圧力
上記の条件2は、各小径穴22とガイド部材41の外周41bとの間の隙間42を空気は通過するけれども、樹脂31に含まれるフィラーは通過し得ないようにするための樹脂に作用させる供給圧力に関する条件である。
ここで、条件2の空気が隙間を排出する最低圧力とは空気の隙間42での圧力損失ΔP1のこと、条件2の樹脂が隙間を排出する最低圧力とは樹脂の隙間42での圧力損失ΔP2のことである。ΔP1,ΔP2は次の式により求めることができる。
ΔP1=f(V,A,L,μ1) …(1)
ΔP2=f(V,A,L,μ2) …(2)
ただし、V:充填速度、
A:隙間42の断面積、
L:隙間42の長さ、
μ1:空気の動粘度、
μ2:樹脂の動粘度、
ここで、第1実施形態の作用効果を説明する。
第1実施形態では、磁石挿入穴4,5とは別の小径穴22(第1穴)を有する薄板円板状鋼板3と、磁石挿入穴4,5とは別の小径穴22より大きい大径穴23(第2穴)を有する薄板円板状鋼板3とを備えている。そして、小径穴、大径穴が軸方向に連通した状態で交互に積層して形成されるロータコア2を備えたロータ1(回転電機用ロータ)の製造方法であって、初期状態設定工程#1と樹脂充填工程#2とを有している。ここで、上記の初期状態設定工程#1は、小径穴22及び大径穴23で構成される連通穴21が鉛直方向を向くようにロータコア2を位置決めすると共に、樹脂31の連通穴21への供給時に樹脂31の最下端を制限するためのガイド部材41を連通穴21に挿通した状態とする工程である。上記の樹脂充填工程#2は、初期状態設定工程#1の後に、連通穴21への一定圧力の樹脂31の供給を開始し、樹脂31が連通穴21に充填するにつれてガイド部材41を下降させる工程である。第1実施形態では、樹脂充填工程#2に、大径穴23の一つを満たす樹脂31内に生じる気泡を、ガイド部材41の外周41bとまだ樹脂の侵入していない連通穴21との間の隙間42より鉛直下方に逃す気泡逃し工程#3を含む。第1実施形態によれば、樹脂31と薄板円板状鋼板3との接触面積が拡大する分、ロータコア2の剛性を高めることができるほか、ガイド部材41により鉛直上方より順番に一つずつ大径穴23の内部を樹脂31で完全に充填することができる。言い換えると、連通穴21に空気溜まりが生じることがないので、充填された樹脂31の強度を低下させることがない。これによって、ロータコア2の捩れ方向の剛性及び曲げ方向の剛性を比較例よりも向上させ、ロータ1回転時の騒音・振動の悪化を防止できる。また、複数ある連通穴21の一部に空気だまりが偏在することもないので、充填された樹脂31と空気溜まりとの質量の偏在によってロータコア2の回転バランスが低下し、ロータ1回転時の騒音・振動を悪化させることを防止できる。
(第2実施形態)
図9は第2実施形態の樹脂充填工程#2を説明するための連通穴の縦断面図である。ここで、図9(E)、図9(F)は樹脂充填工程#2のうちのガイド部材下降、樹脂充填の各工程を示したものである。第1実施形態の図7(E)、図7(F)と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態ではガイド部材41の上端41aを平面で形成していた。一方、第2実施形態はガイド部材41の上端41aに鉛直上方に突出する円錐状の突起71を形成したものである。
このように第2実施形態では、ガイド部材41の上端41bが相違するだけであり、初期状態設定工程#1、各連通穴21への樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4で実行することは第1実施形態と同様である。このため、第1実施形態の図5(A)、図5(B)、図6(C)、図6(D)、図8に対応する図は第2実施形態では省略した。また、各工程での説明も省略する。
第2実施形態によれば、ガイド部材41の上端41bは先が尖った形状であるので、大径穴23(第2穴)の内部への樹脂31の流動性をガイド部材41の上端41bが平面形状である場合より向上できる。
(第3実施形態)
図10,図11,図12は第3実施形態の初期状態設定工程#1、各連通穴21への樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4を説明するための連通穴21の縦断面図である。詳細には、図10(A)は初期状態設定工程#1を示したものである。図10(B)、図11(C)、図11(D)は樹脂充填工程#2のうちの樹脂充填開始、駒下降、充填終了間近の各工程を示したものである。図12は樹脂充填終了後の後工程#4を示したものである。第1実施形態の図5(A)、図5(B)、図6(C)、図6(D)、図8と同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態はガイド部材移動設備61を用いて円柱状のガイド部材41を下降させるものであった。一方、第3実施形態は、円柱状のガイド部材41に代えて、連通穴21を鉛直方向に移動可能な円盤状の駒81を配置したものである。
第3実施形態では、設備は据え付け台91だけで、駒81を鉛直方向に下方移動可能な設備は備えていない。また、据え付け台91には、連通穴21を下降してくる駒81がすっぽり嵌り込む収納穴91bを開けておく。
図10(A)に示したように、初期状態設定工程#1ではこの据え付け台91の上端91aに連通穴21が鉛直方向を向くようにロータコア2を配置する。そして、駒81を鉛直上方の開口端21aから連通穴21の上端に収納する。この場合、駒81の外周81bと第1小径穴22aとの間に所定の摩擦力が働いて駒81が鉛直下方に落下することがないように、駒81の外周81bと第1小径穴22aとの間の隙間量を設定しておく。
なお、ここでは、全ての小径穴22が仕様通りに形成されているものとする。従って、駒81の外周81bと各小径穴22との間には同じ値の摩擦力が働くため、駒81が鉛直下方に自然落下することはない。
また、図10(A)に示したように初期状態設定工程#1では第1大径穴23bの上面を覆って、樹脂供給装置51の供給口51bと第1大径穴23aとの隙間82から樹脂が漏れ出ないように樹脂供給装置51の供給口51bを取り付けておく。
次に、図10(B)に示した樹脂充填工程#2に移ると、この樹脂充填工程#2には気泡逃し工程#3を含んでいる。
樹脂充填工程#2では、最初に樹脂供給装置51の供給通路51aに介装している常閉の開閉バルブ51cを全閉状態から全開状態へと切換える。これによって、熱硬化する前には流動体である樹脂31が鉛直上方から連通穴21の上方開口端21aより一定圧力で流入する。このとき、駒81は第1小径穴22aが全ては開口しない位置にあるとする。このため、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から第1大径穴23aの周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)と共に、第1大径穴23aの直ぐ下にある第1小径穴22aの一部に侵入する。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに第1大径穴23aの周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間82へと移動する。すなわち、気泡は駒81の外周81bと第1小径穴22aとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃される。ここで、駒81の外周81bと第1小径穴22との隙間82からは圧力の一部が漏れても樹脂31が侵入して流れ落ちることがないように隙間量を予め調整しておく。
気泡逃し工程#3が一定時間継続すれば、第1大径部23aを満たす樹脂31の内部の空気は、気泡となってガイド部材41の外周41aと第1小径穴22aとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃されることで完全に抜けているはずである。このため、気泡逃し工程#3が一定時間継続した後には、図11(C)に示したように駒81が、一定量、つまり第2大径穴23bが開口しかつ第2小径穴22bが全ては開口しない位置まで下降しているものとする。
すると、図11(C)に示したように、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から第2大径穴23bの周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)と共に、第2大径穴23bの直ぐ下にある第2小径穴22bに侵入する。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに第2大径穴23bの周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間82へと移動する。すなわち、気泡は駒81の外周81bと第2小径穴22bとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃される。
以下、上記図11(C)と同様の工程を繰り返すと、やがて図11(D)に示したように駒81が収納穴91bに嵌り込む。すると、図11(D)に示したように、一定圧力の樹脂31は連通穴21の中心から最下段の大径穴23の周縁へと加圧状態を保ちつつ侵入する(矢印参照)。このとき、気泡逃し工程#3となり、樹脂31の侵入と入れ替わりに最下段の大径穴23cの縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気は気泡となって、圧力の一部が漏れている隙間82へと移動する。すなわち、気泡は駒81の外周81bと収納穴91bとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃される。
第3実施形態でも、大径部23の周縁に残る空気を気泡として小径部22とガイド部材外周41bとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃すため、便宜上、駒81を一定時間保持させ、その後に一定量下降させて再び一定時間保持させる場合で説明した。しかしながら、この場合に限られない。例えば、駒81が小径部22を通過している間に、大径部23の周縁に残る空気を気泡として小径部22と駒外周81bとの隙間82から鉛直下方の外気へと逃すことで、駒81を連続的に下降させることができる。以下では、駒81を連続的に下降させる場合で説明する。
さて、図10(B)、図11(C)にも示したように連通穴21への樹脂31の注入(供給)中には、充填力F1が駒81に対して鉛直下方の向きに、摩擦力F2が駒81の外周81bとその周縁にある小径穴2のとの間に作用する。ここで、上記の充填力F1は樹脂31に作用する一定圧力に受圧面積を乗算することによって得られる。上記の摩擦力F2は充填力F1と反対向きに作用する。
この場合、摩擦力F2より充填力F1を大きくしておくことで、両者の差の力(F1−F2)に応じて駒81が下方に向けて移動する。言い換えると、この差の力(F1−F2)によって駒81の下降速度が定まる。このため、駒81の下降速度を次のように定める。すなわち、樹脂の侵入と入れ替わりに大径穴23の周縁部から連通穴21の中心へと追い出された空気が気泡として、駒外周81bと小径穴22の隙間82から鉛直下方の外気に逃れる時間があるように駒81の下降速度を設定する。
このように駒81の下降速度を設定することで、駒81が一定量ずつ下降するほど、その下降する駒81の上端81aを追いかけるように樹脂31が各大径部23を満たしてゆく。これによって、第1、第2、第3、…、の大径部23の内部を完全31に樹脂で充填することができる。
全ての大径部23を樹脂が満たした後には、駒81は据え付け台91台に設けている収納穴91bに嵌り込む。これで、樹脂充填工程#2を終了する。
次には図12に示す樹脂充填終了後の後工程#4に移る。樹脂充填終了後の後工程#4では、図12に示したように、樹脂供給装置51を外す。この後は、例えば図12に示した状態でロータコア2の全体を加熱し連通穴21に充填してある樹脂31を固化する。樹脂31を固化した後に据え付け台91からロータコア2を取り外す。この場合、駒81はロータコア2に付属させたままでもよいし、ロータコア2から切り離してもよい。
第3実施形態によれば、ガイド部材は樹脂31の供給圧力を受けて連通穴21を下降し得る駒81である。そして、駒81の鉛直方向上端81aが小径穴22(第1穴)の一つを全ては開口してない位置のとき、駒の下降速度を次のように設定する。すなわち、その小径穴22の直ぐ上方に隣接する大径穴23(第2穴)を満たす樹脂31内に生じる気泡が、駒81の外周81aとまだ樹脂31の侵入していない連通穴21との間の隙間82より鉛直下方に逃されるように駒81の下降速度を設定する。これによって、ガイド部材としての駒81を下降させるための設備(動作機構)を無くすことが可能となり、設備投資額を低減できる。
(第4実施形態)
図13,図14,図15は第4実施形態の初期状態設定工程#1、各連通穴21への樹脂充填工程#2及び樹脂充填終了後の後工程#4を説明するための連通穴21の縦断面図である。詳細には、図13(A)は初期状態設定工程#1を示したものである。図13(B)、図14(C)、図14(D)は樹脂充填工程#2のうちの樹脂充填開始、駒下降、充填終了間近の各工程を示したものである。図15は樹脂充填終了後の後工程#4を示したものである。第3実施形態の図10(A)、図10(B)、図11(C)、図11(D)、図12と同一部分には同一の符号を付している。
第3実施形態は円柱状の駒81に作用する充填力F1と摩擦力F2との差の力を用いて駒81を下降させるものであった。一方、第4実施形態は駒81に作用する充填力と摩擦力との差の力を第3実施形態と同一に保ちつつ、充填力及び摩擦力を第3実施形態よりも増大させるようにしたものである。
これについて説明すると、第3実施形態において、大径穴23の内部に空気が気泡として残存しない範囲で樹脂31に作用させる供給圧力を上昇させることができれば、樹脂充填工程#2に要する作業時間を短縮できる。駒の下降速度は充填力F1と摩擦力F2の差の力に依存するのであるから、駒の下降速度を第3実施形態と同じに保たせるため、充填力をF1からF1’(F1’>F1)へと上昇させた分だけ、供給する樹脂31に作用する充填圧力を上げる。そして、充填力と摩擦力の差の力が第3実施形態と同じになるように、駒の外周と小径穴22との間の摩擦力をF2からF2’(F2’>F2)へと大きくする。この場合、摩擦力は駒の外周の摩擦係数μに依存するものの、摩擦係数μを上げるのはなかなか困難である。そこで、第4実施形態では、駒を、鉛直下方のカップ状部位と鉛直上方の円筒状部位から構成し、樹脂31に作用する圧力により連通穴21の径方向外側に広がる形状とする。
詳細には、駒101を鉛直下方のカップ状部位102と鉛直上方の円筒状部位103から構成する。そして、円筒状部位103が樹脂31に作用する圧力を受けて連通穴21の径方向外側に移動し得るように、弾性を有する材料で駒101の全体を形成する。これによって、円筒状部位103は供給される樹脂31に作用する圧力を受けることにより連通穴21の径方向外側に広がって小径穴22に圧接される。ただし、図13,図14,図15にはロータコア軸方向の断面で駒101を示してある。このため、駒101の当該断面はU字状であり、駒101の鉛直方向上端101aは上方に開口している。
第3実施形態と相違する部分を主に説明すると、第4実施形態では、樹脂31に作用する供給圧力を第3実施形態より上昇させた分、樹脂31に作用する圧力に受圧面積を乗算することによって得られる充填力F1’が第3実施形態の充填力F1より大きくなる。この第3実施形態より大きな充填力F1’は、図13(B)、図14(C)に示したように、駒101に対して鉛直下方の向きに作用する。一方、駒101の外周101bとその周縁にある小径穴2との間に作用する摩擦力F2’はこの充填力F1’と反対向きに作用する。
この場合、摩擦力F2’は第3実施形態の摩擦力F2よりも大きくなる。すなわち、第3実施形態では、樹脂31に作用する圧力が、円筒状部103を連通穴21の径方向外側に広げることによって円筒状部位103を小径穴22に押しつける(圧接する)。この押しつける力F3が駒101の外周101bと小径部22との間に作用する摩擦力をF2からF2’へと増大させる。これは、円筒状部位103のロータコア軸方向の長さが第2実施形態の駒81の厚さと同じでかつ円筒状部位101と第2実施形態の駒81の各外周の摩擦係数が同じであっても、押しつけ力F3が駒外周101bの摩擦係数を見かけ上大きくするためである。ただし、充填力F1’と摩擦力F2’との差の力が、第3実施形態の充填力F1と摩擦力F2との差の力とほぼ同等となるように、円筒状部位103のロータコア軸方向の長さや駒外周10bの摩擦係数を選択しておく。
第3実施形態では、駒101は、鉛直下方のカップ状部位102と鉛直上方の円筒状部位103とから構成されている。そして、円筒状部位103は駒101の鉛直上方より供給される樹脂31に作用する圧力を受けることにより径方向外側に広がって小径穴22(第1穴)に圧接される。駒101の下降速度が第3実施形態と同じとすれば、駒101の円筒状部位103が小径穴22に圧接される分だけ駒101の外周101bと連通穴21との間の摩擦力が大きくなり、その分、樹脂31の供給圧力を上昇させることができる。これによって、連通穴21への樹脂31の充填を終了するまでの時間を短縮することができる。