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JP5856887B2 - 多孔質膜の製造方法 - Google Patents

多孔質膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、透水性能及び微小病原体に対する阻止性能に優れ、高い耐薬品性を有するのみならず、微小病原体に対する阻止性能を長期間安定して保持し得る、多孔質膜の製造方法に関するものである。
多孔質膜によるろ過プロセスは、凝集沈殿・砂ろ過のような従来の化学的処理プロセスと比較して、分離性能が高く且つ維持管理が容易なことから、用排水処理においてその普及が進んでいる。特に、飲料水製造では、医薬品製造や食品工業分野と同様に、工程内に微生物よりもサイズの小さいウイルス等の微小病原体が混入すると製造ラインが汚染されるだけでなく消費者の集団感染を引き起こす危険があることから、精密ろ過よりもさらに孔径が小さな限外ろ過膜の適用が進んでいる。そして、微小病原体の最小サイズが22nm程度であることから、飲料水用途の限外ろ過膜には、排除能力20nm以下の分離層を有する多孔質膜の開発が求められている。
従来、限外ろ過膜の作製方法としては、種々のものが知られているが、小孔径から大孔径まで比較的広範囲の孔径制御に優れる相分離法が、比較的に多く用いられている。かかる相分離法としては、非溶媒誘起相分離法(以降において、「NIPS法」とも記載する。)と、熱誘起相分離法(以後において、「TIPS法」とも記載する。)が知られている。
NIPS法は、高分子を溶媒に溶解することで調製した均一溶液(製膜原液)を吐出して非溶媒を含む凝固液に接触させることにより、該製膜原液中の溶媒と凝固浴中の非溶媒間に濃度勾配を生じさせ、これを駆動力として非溶媒が製膜原液中の溶媒と置換することで相分離現象が進行するものである。かかるNIPS法では、製膜原液が凝固液と接触した面から多孔質膜内部に向かって前記濃度勾配が減少する影響から、溶媒から非溶媒への置換速度が接触面から多孔質膜内部にかけて遅くなる。溶媒交換速度が遅いほど相分離は進行し、細孔が粗大化する傾向があることから、一般的にはNIPS法で製造された多孔質膜は、接触面は緻密な細孔が形成されるとともに多孔質膜内部に向かうにつれて細孔の孔径が除々に粗大化する、傾斜構造を有するものとなり易い。
また、TIPS法は、高分子を潜在溶媒と高温で混練することで調製した均一溶液(製膜原液)を冷却することにより、熱拡散を発生させ、これを駆動力として相分離を進行させるものである。かかるTIPS法では、発生する熱拡散がNIPS法で発生する濃度拡散よりも極めて早い速度で進行するため、多孔質膜の断面方向での相分離進行度がほぼ等しい。そのため、TIPS法で製造された多孔質膜は、多孔質膜の断面方向に比較的均一な孔径を有する細孔が形成された多孔質構造を有するものとなり易い。
そして、ウイルス除去に必要な小孔径と透水性能とを両立させるためには、透水性能と孔径と膜厚の関係を示したハーゲンポアゼイユの式から分離層の厚みを薄くする必要があるところ、TIPS法では分離層のみを薄膜化させることが困難である。そのため、小孔径且つ高透水性能の多孔質膜を作製する場合には、傾斜構造により数μmの厚みの分離層を容易に製造することが可能な、NIPS法による製造が多用される。
一方、多孔質膜によるろ過プロセスに用いられるろ材としては、例えば、加工性に優れる高分子を中空状に形成した中空糸膜や高分子をシート状に形成した平膜等を複合化した膜モジュール等が用いられている。しかしながら、このような膜モジュールを水処理等に用いる場合、ろ過により分離された濁質によって膜面閉塞が生じ、その結果、透水性能が低下して膜目詰まり生じ易いという問題があった。
上述した膜目詰まりは、一般的に、細孔内及び膜表面に濁質が堆積することによって生じる物理的な閉塞と、膜基材に有機物等が吸着等することによって生じる化学的な閉塞とに分類される。多くの場合、一定時間或いは一定水量をろ過した後に、膜目詰まりを解消して透過水量を回復させるために、膜の洗浄が行われる。例えば、物理的な閉塞を解消する手段としては、ろ過又は逆洗運転時において、原水中に空気を連続的或いは断続的に送ることによって膜を振動させる、エアースクラビング処理が有効な手段として用いられている。
一方、化学的な閉塞を解消する手段としては、蓄積した有機物等を化学薬品、例えば次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤や水酸化ナトリウム等のアルカリを用いて分解除去等することが有効な手段として用いられている。しかしながら、このような化学薬品は、蓄積した有機物を分解するだけでなく、膜を構成する高分子をも分解させ得るため、継続的に薬品洗浄を行うと、膜細孔が粗大化する等して、膜の分離性能を長期間保持することが困難となる。そのため、膜目詰まりによる透過水量の低下を解消しつつ、長期間にわたって分離性能を保持するためには、薬品による洗浄処理を行った後でも分離性能を十分に維持し得る程度の耐薬品性が、分離層に求められている。
近年、このような化学薬品による膜の劣化を防ぐことを目的として、薬品耐性に優れる無機材料やポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系高分子を材料とする膜が製品化されている。しかしながら、これらの材料は溶媒に溶解しにくいことから、NIPS法により、微小病原体の除去に有効な膜形状や高い分離性能を有する膜を作製することが困難であった。
一方、フッ素系高分子の中でも、ポリフッ化ビニリデン樹脂(以後において、「PVDF樹脂」とも記載する。)は、比較的加工性に優れるので、多孔質膜の材料としてよく用いられている。一方、PVDF樹脂は、他のフッ素系高分子と比較して、アルカリに対する耐性が低いという欠点がある。そのため、アルカリでの洗浄を伴う長期の使用に耐え得るPVDF樹脂製の多孔質膜を製造することは、極めて困難であった。
PVDF樹脂を用いてNIPS法により多孔質膜を製造する方法は、これまでに多数の文献において報告されている。例えば、特許文献1には、NIPS法によりβ結晶比率が低く、結晶化度が低く、比面が小さい多孔質膜を製造することで、物理強度が薬品によって低下しない多孔質膜を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、PVDF樹脂と潜在溶媒と無機微粉体とを溶融混練して膜状に成型・冷却し、続いて潜在溶媒及び無機微粉体を順次抽出することにより、膜断面方向に均一結晶構造を有する多孔質膜が得られるとの開示があり、当該多孔質膜の結晶構造はβ結晶比率が低く、結晶化度が低いことから、分離層の化学強度が強く、長期間の使用にわたって分離性能を維持することが可能であることを確認している。さらに、特許文献3には、ウイルスを4log以上除去するPVDF製の限外ろ過膜が開示されている。
国際特許公開第2007/119850公報パンフレット 特許第2835365号 特開2010−94670号公報
しかしながら、上記特許文献に開示された方法により製造されたPVDF製の多孔質限外ろ過膜は、以下の理由により、高い安全性が要求される飲料水へのろ過用途に不向きなものと考えられる。
すなわち、特許文献1に記載された多孔質膜は、膜断面方向に結晶構造が変化しており、膜断面の中央近辺では薬品の劣化に対して強い構造を有している一方で、膜表面近傍の分離層の化学強度が弱い(耐薬品性に劣る)ことから、膜厚全体で担う強度・伸度の劣化は抑えられるものの、長期間の使用に伴って或いは薬品洗浄により分離層が劣化し、分離性能が低下することが容易に予想される。そのため、特許文献1に記載された製法によって作製された多孔質膜は、ウイルス等の微小病原体を長期間除去することが求められる飲料水用途には不向きである。
また、特許文献2に記載された多孔質膜は、TIPS法により作製されており、多孔質膜の断面方向に比較的均一な孔径を有する細孔が形成された多孔質構造を有しているため、ウイルス等の微小病原体の除去性能を担保するために細孔の孔径を微細化すると、透水性能が著しく低下する。また、特許文献2に記載された製法によって多孔質膜を製造すると、添加した無機微粉体が脱落する等して孔が形成されるため、得られる多孔質膜は、ウイルス等の微小病原体の阻止性能が不十分なものとなり易い。とりわけ、製造時に無機微粉体の凝集物等が存在した場合には、無機微粉体の粒径以上の孔径を有する粗大な孔が形成されるため、微小病原体の阻止性能が著しく低下する傾向にある。
さらに、特許文献3に記載されたPVDF製の限外ろ過膜は、ウイルスの除去を目的としたものであり、分離層の耐薬品性に劣るものであることから、薬品洗浄の度に分離層が破壊され、長期の使用に伴ってその分離性能が除々に低下してしまうものである。
本発明は、以上の問題点を鑑みてなされたものであり、透水性能及び微小病原体に対する阻止性能に優れ、薬品洗浄等に対して孔の粗大化を抑制し得る極めて高い耐薬品性を有するのみならず、微小病原体に対する阻止性能を長期間安定して保持し得る、PVDF製多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、NIPS法における、製膜原液の吐出時におけるPVDF樹脂の結晶状態及び溶媒と非溶媒との置換(交換)速度に着目し、これらが所定の条件に調整されるように製膜原液と凝固液の温度を調整して多孔質膜を製造することで、従来の製法で得られる高分子膜と比較して、透水性及び微小病原体に対する阻止性能に優れ、極めて薬品耐性が高いのみならず、微小病原体を長期間安定して十分に除去可能な多孔質膜を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下(1)〜(5)を提供する。
(1) ポリフッ化ビニリデン樹脂及び溶媒を少なくとも含む製膜原液を吐出して非溶媒を少なくとも含む凝固液に接触させて非溶媒誘起相分離法により多孔質膜を製造する、多孔質膜の製造方法であって、
前記製膜原液の吐出温度が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の融点以上、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の分解温度未満であり、且つ、前記凝固液の温度が、前記製膜原液の多孔構造形成開始温度より高いことを特徴とする、
多孔質膜の製造方法
(2) 前記非溶媒に対する前記溶媒の飽和溶解濃度Cmax(溶媒の飽和重量(mg)/非溶媒1L)、及び、前記非溶媒中の溶媒濃度Cが、下記式(1)及び(2);
max≧100(mg/L) ・・・(1)
(Cmax−C)×100/Cmax>80(%) ・・・(2)
の関係を満たすことを特徴とする、
上記(1)に記載の多孔質膜の製造方法。
(3) 前記溶媒とポリフッ化ビニリデン樹脂とのHSP距離が、5.20以上8.00以下を満たすことを特徴とする、
上記(1)又は(2)に記載の多孔質膜の製造方法。
(4) 前記溶媒の沸点が、前記製膜原液の吐出温度+15℃以上であり、且つ、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の分解温度未満を満たすことを特徴とする、
上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法。
(5) ポリフッ化ビニリデン樹脂を含む多孔質膜を製造する方法において、
円環状吐出口を2つ以上有する中空糸成型ノズルを用い、隣接する2つの該円環状吐出口の一方からはポリフッ化ビニリデン樹脂、有機液体及び無機微粉を少なくとも含む溶融混練物を、他方からはポリフッ化ビニリデン樹脂及び前記ポリフッ化ビニリデン樹脂とのHSP距離が5.20以上8.00以下を満たす溶媒を少なくとも含む製膜原液を、請求項1を満たす条件下で同時に吐出し、前記製膜原液の多孔構造形成開始温度より高く、前記溶融混練物の多孔構造形成開始温度よりも低い凝固液に接触させることで多層多孔中空糸構造を形成し、
得られた多層多孔中空糸構造物から前記有機液体を抽出除去することを特徴とする、
多孔質膜の製造方法。
本発明によれば、透水性能及び微小病原体に対する阻止性能に優れ、薬品洗浄等に対して孔の粗大化を抑制し得る極めて高い耐薬品性を有するのみならず、微小病原体に対する阻止性能を長期間安定して保持し得る、多孔質膜を再現性よく簡便に製造することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
本実施形態の多孔質膜の製造方法は、PVDF樹脂及び溶媒を少なくとも含む製膜原液を吐出して非溶媒を少なくとも含む凝固液に接触させることで、NIPS法により相分離を進行させて、多孔質膜を製造するものである。本実施形態では、製膜原液の吐出温度及び製膜原液と接触させる凝固液の温度を調整することにより、所望の相分離が進行される。以下、詳述する。
製膜原液は、多孔質膜を構成する高分子成分として、PVDF樹脂を含有する。ここで、PVDF樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマー、又は、フッ化ビニリデンをモル比で50%以上含有する共重合ポリマーを意味する。PVDF樹脂は、強度に優れる多孔質膜を得る観点から、ホモポリマーであることが好ましい。また、PVDF樹脂が共重合ポリマーである場合、フッ化ビニリデンモノマーと共重合される他の共重合モノマーは、公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素系モノマーや塩素系モノマー等を好適に用いることができる。
PVDF樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、10万以上、100万以下であることが好ましく、20万以上、70万以下であることがより好ましい。重量平均分子量を20万以上、100万以下にすることによって、製膜原液の粘度を紡糸に適した範囲に制御できる。また、重量平均分子量70万以下のPVDF樹脂を用いることで、溶媒と非溶媒との置換(交換)が早く進行し、より薬品耐性の高い分離層を形成することが可能となる。
製膜原液は、溶媒を含む。溶媒とは、1週間以内に80℃でPVDF樹脂を1重量%以上溶解させることができるものを意味する。一方、80℃でPVDF樹脂を1週間以内に溶解できる量が1重量%未満のものを非溶媒と定義する。
ここで、樹脂と溶媒もしくは非溶媒との親和性を推測するツールとして使用される、ハンセンの溶解度パラメーター(以後において、「HSP」とも記載する。)について詳述する。HSPは、ある樹脂がある溶媒もしくは非溶媒にどのくらい溶けるのかを示す溶解性の指標であり、溶解特性を3次元の座標で表し、その距離(以後において、「HSP距離」とも記載する。)が近いもの同士は溶解性が高いと判断するものである。ここで、3次元の座標軸は、分散項dD、極性項dP、水素結合項dHで表される。分散項dDはファンデルワールスの力、極性項dPはダイポール・モーメントの力、水素結合項dHは水、アルコールなどが持つ水素結合力とされる。具体的には、dD、dP、dHを軸とする3次元座標上において、PVDF樹脂の溶解度パラメーターから溶媒もしくは非溶媒の溶解度パラメーターまでのHSP距離を計算することで、PVDF樹脂の溶媒もしくは非溶媒に対する溶解性が評価できる。HSP距離の算定式を、以下に示す。
HSP距離=[4×(dDPVDF−dD溶媒)2+(dPPVDF−dP溶媒)2+(dHPVDF−dH溶媒)2]0.5
熱力学的に、HSP距離が0に近づくほど、樹脂と溶媒もしくは非溶媒との相溶性が高い。ハンセンとアボットが開発したコンピューターソフトウエアHSPiPには、HSP距離を計算する機能と様々な樹脂と溶媒もしくは非溶媒のハンセンパラメーターを記載したデータベースが含まれている。そして、本明細書で用いている溶解度パラメーター(SP値)は、HSPiP 3rd versionに含まれるSolvent listとPolymer listに記載されている値を25℃に補正したものを参照している。ここで、Solvent listに記載されていない樹脂と溶媒もしくは非溶媒については、Y−MBと呼ばれるニューラルネットワーク法を用いた推算方法により算出する。分子構造をHSPiPに付属のY−MB計算ソフトに入力することで、自動的に原子団に分解し、HSP値と分子体積が計算される。
本実施形態では、NIPS法による多孔質膜の製造において、相分離速度を速めることで、耐薬品性が高められた分離層を有する多孔質膜を製造するものである。より具体的には、PVDF樹脂、及び非溶媒に対して任意の親和性を有する溶媒を選択し、適切な非溶媒を含有する凝固液中においてNIPS相分離を誘起することで、相分離速度が高速化され、これにより、高い阻止性能を有する分離層が形成される。
製膜原液に含まれる溶媒として、PVDF樹脂との相溶性が低い溶媒を選択することにより、相分離速度をより高速化することが可能となる。かかる観点から、PVDF樹脂と溶媒とのHSP距離が、5.20以上、8.00以下であることが好ましい。PVDF樹脂とのHSP距離が5.20以上の溶媒を選択することによって、PVDF樹脂との親和性が下がり、溶媒が凝固浴中に拡散されやすくなることから、相分離速度をより高速化し、膜の薬品耐性をさらに向上させることが可能となる。また、PVDF樹脂とのHSP距離が8.00以下の溶媒を選択することによって、製膜原液の多孔構造形成開始温度が低くなり、凝固液の温度を低く設定することができ、これにより、高温の製膜原液と低温の凝固液との温度差により溶媒及び非溶媒の置換(交換)が促進されて相分離速度が高速化することから、分離層の耐薬品性をより向上させることが可能となる。
溶媒の具体例としては、Glycerol Diacetate、Ethyl Lactate、Diethylene Glycol Monobutyl Ether、gamma-Butyrolactone (GBL)、Methylene Chloride、Methyl Acetate、Dimethyl Isosorbide、1,3-Dioxolane、Dibasic Esters (DBE)、Dipropylene Glycol Mono n-Butyl Ether、Sulfolane (Tetramethylene Sulfone)、Methyl Ethyl Ketone (MEK)、Ethylene Glycol Monomethyl Ether、Cyclohexanone、Propylene Glycol Monomethyl Ether、Isophorone、Caprolactone (Epsilon)、Tetrahydrofuran (THF)、Propylene Glycol Phenyl Ether、Texanol等の単一溶媒の他、これらを任意の割合で混合した混合溶媒等が挙げられる。なお、混合溶媒の溶解度パラメーターについては、下式のように、溶媒の重量比(a:b)に基づいて、加成法則により計算したパラメーターを使用する。
[dD混合溶媒、dP混合溶媒、dH混合溶媒]=[(a×dD溶媒1+b×dD溶媒2)、(a×dP溶媒1+b×dP溶媒2)) (a×dH溶媒1+b×dH溶媒2)]/(a+b)
また、製膜原液には、上述したPVDF樹脂及び溶媒以外に、非溶媒や添加剤を含んでいてもよい。添加剤の配合により、膜表面の平均孔径の制御を容易に行うことができる。例えば、非溶媒を含む凝固液に添加剤を配合した製膜溶液を接触させてNIPS相分離を生じさせる際に、又は、PVDF樹脂を凝固させた後に、この添加剤を溶出させることにより、添加剤の種類や配合量或いは製膜条件に応じて、所望する平均孔径を有する膜表面を形成することができる。このような添加剤としては、特に限定されないが、有機化合物、無機化合物等が用いられる。有機化合物としては、PVDF樹脂を溶解させる際に使用する溶媒及びNIPS相分離を起こす際に使用する非溶媒の双方に溶解するものが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストランなどの水溶性ポリマー、界面活性剤、グリセリン、糖類、タンパク質類等を挙げることができる。無機化合物としては、PVDF樹脂を溶解させる際に使用する溶媒及びNIPS相分離を起こす際に使用する非溶媒の双方に溶解するものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
製膜原液における各成分の含有割合は、特に限定されないが、分離性能、透水性能、強度の観点から、製膜原液の総量に対する重量割合で、PVDF樹脂が5重量%以上、35重量%以下であり、溶媒が20重量%以上、95重量%以下であり、添加剤が0重量%以上、40重量%以下であり、非溶媒が0重量%以上、5重量%以下であることが好ましい。PVDF樹脂の含有割合が5重量%以上であると、分離層の強度がより高められる傾向にある。また、PVDF樹脂の含有割合が35重量%以下であると、製膜原液を紡糸に適した粘度に調整することが容易となり、かつ、分離層の緻密化が抑制されて透水性能がより高められる傾向にある。また、長期的に製膜原液のゲル化を招く恐れがあるため、非溶媒の含有割合は、0重量%以上、5重量%以下の範囲が好ましい。
製膜原液の調製方法は、特に限定されず、任意の手法により行うことができる。例えば、上述したPVDF樹脂を添加剤および非溶媒とともに溶媒に混合して攪拌することで、製膜原液を調製することができる。ここで、PVDF樹脂を溶媒に溶解させる際の温度は、PVDF樹脂の融点(Tm)以上であり、且つ、溶媒の沸点未満であることが好ましい。PVDF樹脂の融点(Tm)は、結晶領域の分子鎖が重心の移動を伴って動き出す温度のことであり、PVDF樹脂の化学構造に依存した固有の値である。PVDF樹脂の融点(Tm)は、後述するように、示差走査熱量分析(DSC)によって、求めることができる。このようにPVDF樹脂の融点(Tm)以上で溶媒と混合すると、ポリマーの結晶がほぐれ、ポリマーとの親和性の低い溶媒にも早く溶解させることが可能となる。なお、PVDF樹脂の溶解温度の上限は、溶媒の沸点とされるが、溶媒の引火爆発の危険性を回避して安全に処理を行う観点から、沸点からさらに10℃低い温度であることがましい。また、製膜原液は、溶解中もしくは溶解後において真空ポンプを用いた脱気を行うことが好ましい。脱気工程を経ることで、不純物が少なく、かつ気泡が少ない安定した原液を得ることができる。
かくして得られる製膜原液を、Tダイ或いは中空ノズル等の成型用ノズルから吐出して非溶媒を少なくとも含む凝固液と接触させ、相分離現象を進行させることにより、多孔質膜が作製される。この多孔質膜の製膜は、製膜原液を成型用ノズルから押し出して凝固液中で凝固させる、いわゆる湿式製膜法、或いは、製膜原液を成形用ノズルから押し出した後に所定の空走区間を確保した後に凝固液中で凝固させる、いわゆる乾湿式製膜法のいずれも適用可能である。なお、製膜原液の吐出形状は、特に限定されず、例えば、平膜状、チューブ状、中空糸状等、任意に設定することができる。また、作製する多孔質膜の膜厚は、特に限定されないが、25μmから500μmの範囲とすることが好ましい。膜厚を25μm以上にすることで、膜の破損による微小病原体の流出をより一層確実に防ぐことができる。また、膜厚を500μm以下にすることで、連通性の悪いスポンジ状構造の発生を抑制することができるので、膜の透水性能を著しく向上することが可能となる。
上述した凝固液は、少なくとも非溶媒を含む。凝固液に含まれる非溶媒として、PVDF樹脂を溶解する溶媒と親和性が高いものを選択することで、相分離速度が速まり、膜の耐薬品性をより一層高めることが可能となる。かかる観点から、非溶媒は、溶媒を100mg以上溶解するのもが好ましい。なお、使用する非溶媒は、1種類に限定するものではなく、2種類以上の非溶媒を混合したものでも良い。
非溶媒の具体例としては、水、グリセリン、メタノール、エタノール、2―プロパノール等の単一非溶媒の他、これらを任意の割合で混合した混合非溶媒等が挙げられる。
本実施形態の多孔質膜の製造方法において、凝固液の温度は、製膜原液の多孔構造形成開始温度より高いことが必要とされる。凝固液の温度が製膜原液の多孔構造形成開始温度以下であると、熱誘起相分離が進行して厚く均一に緻密な分離層が生成するため、目的とする小孔径と高透水性を兼ね備えた膜構造が得られない。ここで、本明細書において、製膜原液の多孔構造形成開始温度とは、製膜原液の熱誘起相分離開始温度のことであり、かかる多孔構造形成温度は、温度コントローラー付きの光学顕微鏡を用いて製膜原液を吐出時の温度まで加熱し、2分間ホールドして溶解させた後に、100℃/minで冷却する過程において形成される多孔構造を観察することによって求めることができる。
また、本実施形態において使用する溶媒及び非溶媒は、非溶媒に対する溶媒の飽和溶解濃度をCmax(溶媒の飽和重量(mg)/非溶媒1L)とし、非溶媒中の溶媒濃度をCとしたときに、下記式(1)及び(2)の関係を満たすことが好ましい。
max≧100(mg/L) ・・・(1)
(Cmax−C)×100/Cmax>80(%) ・・・(2)
このような式(1)及び(2)の関係を満たす溶媒及び非溶媒を用いることにより、製膜原液が凝固液と接触した際に溶媒が非溶媒と急速に置換(交換)され、相分離速度が高速化して分離層の耐薬品性がより一層高められる傾向にある。かかる観点から、上記式(1)において、左辺は500(mg/L)以上であることがより好ましく、上記式(2)において、左辺は95%以上であることがより好ましい。なお、上記Cmaxの計測において、エタノールと水のように際限なく溶解する溶媒と非溶媒の組み合わせの場合には、上記Cmaxを∞として、上記式(1)及び(2)の計算に使用し、上記式(2)の左辺の上限値は、100%とする。
本実施形態の多孔質膜の製造方法において、製膜原液の吐出温度は、PVDF樹脂の融点(Tm)以上、PVDF樹脂の分解温度(Td)未満であることが必要とされる。製膜原液の吐出温度をTm以上にすることで、PVDF樹脂の結晶がほぐれた状態から相分離が進行するため、結晶化度が低くなり、より薬品耐性の高い多孔質膜が得られる。製膜原液をTmより低い温度で吐出した場合、吐出までにPVDF樹脂が一部結晶化した状態から相分離が進行するため、結晶化度が高くなり、得られる多孔質膜の耐薬品性が著しく低下する。一方、PVDF樹脂のTd以上で吐出した場合、PVDF樹脂が酸化・分解することにより分子構造が破壊され、物理強度が極端に低下する。
また、均一で安定した品質の多孔質膜を製造する観点から、製膜原液に含まれる溶媒は、その沸点が吐出温度+15℃以上であり、且つ、PVDF樹脂のTd未満であるものを用いることが好ましい。溶媒の沸点が吐出温度+15℃以上であることにより、製膜原液の吐出後における溶媒の沸騰を抑制でき、ピンホール等の欠陥の発生が抑制される。なお、溶媒の沸点の上限は、特に限定されないが、PVDF樹脂の酸化や分解を避ける観点から、PVDF樹脂の分解温度未満であることが好ましい。
PVDF樹脂のTm以上で製膜原液を吐出する際、使用する溶媒やPVDF樹脂の分子量によっては、製膜原液の粘度が低くなり任意の膜形状が保持できないような場合がある。そのような場合には、製膜原液と同時に形態保持流体を吐出することで、任意の形状に保持することができる。このような形態保持流体としては、この種の分野において常用されている公知のものを適宜用いることができ、特に限定されないが、例えば、グリセリンの他、Tetraethylene glycolやethylene glycol等のグリコールエーテルにポリビニルピロリドン等の増粘剤を添加したもの、高分子ポリマーを含む成分を溶媒に溶解した高粘度流体等が挙げられる。形態保持流体は、粘度1.0Pa・s以上、5、000Pa・s以下のものが好ましい。形態保持流体の粘度が1Pa・s以上であると、製膜原液と形態保持流体との混合を抑制でき、任意の形態に保持することが容易になる。また、形態保持流体の粘度が5000Pa・s以下であると、製膜原液と同時吐出した際の可紡性が向上する。なお、上述した形態保持流体の粘度は、「JIS K7117−1」の粘度測定法に基づき、単一円筒型回転粘度計を用いて20℃の条件下で測定した値とする。さらに、形態保持流体は、沸点及び分解温度が、製膜原液の吐出温度未満のものが好ましい。形態保持流体の沸点が吐出温度未満の場合、吐出時に形態保持流体が沸騰せず、多孔質膜内に気泡が混入することがないため、ピンホールの発生を防止できる。また、形態保持流体の分解温度が吐出温度未満の場合、形態保持流体に焦げが発生せず、得られる多孔質膜の強度が低下しない。
さらに中空糸状の多孔質膜の場合、膜の強度を高めたい場合には、本実施形態の製造方法において、例えば円環状吐出口を2つ以上有する中空糸成型ノズル等の多重管状のノズルを用い、隣接する2つの該円環状吐出口の一方からはポリフッ化ビニリデン樹脂、有機液体及び無機微粉を少なくとも含む溶融混練物を、他方からは前述の製膜原液を吐出し、前記製膜原液の多孔構造形成開始温度より高く、前記溶融混練物の多孔構造形成開始温度よりも低い凝固液に接触させて多層多孔中空糸構造を形成し、得られた多層多孔中空糸構造物から前記有機液体を抽出除去させることが好ましい。得られた多層多孔中空糸構造物から前記有機液体を抽出除去することで、極めて物理強度が強く、透水性能が高く、層界面の接着性が良好な、多孔質膜が得られる。ここで、前記溶融混錬物と多層多孔中空糸構造を形成させるにあたって、製膜原液に含まれる溶媒は、PVDF樹脂とのHSP距離が5.20以上、8.00以下であることが好ましい。製膜原液に含まれる溶媒にPVDF樹脂とのHSP距離が5.20以上のものを使用した場合、溶媒がPVDFを容易に溶解するため、該製膜原液から前記溶融混錬物に向けて前記溶媒が潤浸して溶融混練物の粘度が急激に低下することを防止でき、その結果、溶融混錬物の相分離速度が速くなりすぎず、2層の接合部付近においても連通性が良い構造が維持され、最終的に純水透過性能が高く、物理強度が高い多孔質膜が得られる。また、製膜原液に含まれる溶媒にPVDF樹脂と溶媒のHSP距離の差が8.00以下のものを使用した場合には、溶融混錬物に溶媒が浸透しやすいため、接合界面の接着性が良くなり、実使用中に2つの層の剥離を防止できる等の物理強度が高い多孔質膜が得られる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。
実施例及び比較例における、(1)PVDF樹脂の重量平均分子量(Mw)、(2)PVDF樹脂の融点(Tm)、(3)非溶媒に対する溶媒の飽和溶解濃度Cmax、(4)多孔質膜の透水性、(5)多孔質膜のデキストラン除去率、(6)多孔質膜の薬品耐性、(7)多孔質膜の欠陥発生率は、以下の方法で各々測定及び評価を行った。
(1)PVDF樹脂の重量平均分子量(Mw)
PVDF樹脂を1.0mg/mLの濃度でDMFに溶解した試料を50mL用い、以下の条件でGPC測定を行い、その重量平均分子量(PMMA換算)を求めた。
装置 :HPLC−8220GPC (東ソー株式会社)
カラム :Shodex KF―606M、KF−601
移動相 :0.6mL/min DMF
検出器 :示差屈折率検出器
(2)PVDF樹脂の融点(Tm)
PVDF樹脂15mgを密封式DSC容器に密封し、セイコー電子製DSC−6200を用いて昇温速度10℃/minで昇温し、この昇温過程で観察される融解ピークの頂点をPVDF樹脂の融点(Tm)とした。
(3)非溶媒に対する溶媒の飽和溶解濃度(Cmax
非溶媒100mgを25℃で100rpm攪拌し、この非溶媒中にビュレットを用いて溶媒を滴定添加し、1時間以内に溶媒が非溶媒に均一拡散・溶解する最大量(飽和重量)を測定することにより、飽和溶解濃度(Cmax)を算出した。
max=滴定した溶媒の量(mg)/使用した非溶媒の量(0.1L)
(4)多孔質膜の透水性試験(L/(m2・hr))
約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、下記式から純水透水率を決定した。
純水透水率(L/(m2・hr))=(60(min/hr)×透水量(L))/(π×膜内径(m)×膜有効長(m)×測定時間(min))
(5)多孔質膜のデキストラン除去率(%)
湿潤中空糸膜両端の中空部内へ注射針を入れ、温度25℃、ろ過差圧50kPa、膜面線速0.5m/sの条件下、分子量200万のデキストラン(Dextran 2000、Amersham bioscience製)1,000ppm水溶液の外圧クロスフローろ過を25分間行った。次に、初期原水中及び25分ろ過終了後に採取したろ過水のデキストラン濃度を、示唆屈折率計を用いて求めた。最後に、分子量200万のデキストラン除去率を、下記式から求めた。
除去率(%)=(1−(25分ろ過終了後デキストラン濃度)/(初期原水中デキストラン濃度))×100
(6)多孔質膜の薬品耐性試験(5日目孔径保持率(%))
多孔質膜の薬品耐性試験として、5日目孔径保持率(%)による評価を行った、5日目孔径保持率(%)は、湿潤状態の多孔質中空糸膜を40℃の水酸化ナトリウムを4重量%と次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素濃度で0.5重量%溶液との混合水溶液に5日間浸漬し、薬液への浸漬前後で上記(5)の分子量200万のデキストラン除去率の測定を行い、浸漬前のデキストラン除去率(E0)と5日浸漬による薬品劣化後のデキストラン除去率(E5)を下記式に代入して算出した。
5日目孔径保持率(%)=(E5/E0)×100
(7)多孔質膜の欠陥発生数
約1m長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.2MPaの圧力にて空気を中空部内へ注入し、気泡が外表面から出てくる箇所数を計測することにより、欠陥発生数を決定した。
[実施例1]
PVDF樹脂として重量平均分子量が35万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製、Kynar741)24重量%と、K値17のポリビニルピロリドン(BASF製、ルビスコールK17)17重量%と、スルホラン(和光純薬製)59重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は42℃であった。
この製膜原液を2重環紡糸ノズル(最外径1.3mm、中間経0.7mm、最内径0.5mm)から内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに200℃で吐出し、40mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例1の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
[実施例2]
実施例1と同じPVDFホモポリマー20重量%と、K値17のポリビニルピロリドン17重量%と、Triacetin(Aldrich製、99%)63重量%とを混合し、200℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は102℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに250℃で吐出し、40mmの空走距離を通した後、110℃のグリセリン中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例2の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
[実施例3]
PVDF樹脂として重量平均分子量が30万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6008)20重量%と、K値12のポリビニルピロリドン(BASF製、コリドン 12PF)17重量%と、N-Methyl-2-Pyrrolidone(NMP)(関東化学製、特級)63重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は390℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は35℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに180℃で吐出し、20mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例3の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
[実施例4]
PVDF樹脂として重量平均分子量が44万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6012)22重量%と、K値12のポリビニルピロリドン(BASF製、コリドン 12PF)15重量%と、Triacetin(Aldrich製、99%)63重量%とを混合し、220℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は390℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は102℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに230℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、110℃のグリセリン40%とTriacetin40重量%の混合液中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する実施例4の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた実施例4の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
[実施例5]
3重構造の紡糸ノズルを用いて、外層と内層を有する2層中空糸膜の膜構造を有する実施例5の多孔質膜を得た。ここでは、外層には実施例1と同じ製膜原液を、内層にはフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイソレキシス社製、SOLEF6020)34重量%、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)33.8重量%、フタル酸ジブチル6.8重量%、微粉シリカ25.4重量%の溶融混練物を、中空部形成流体には空気をそれぞれ用い、これらを3重環紡糸ノズル(外層最外径2.0mm、内層最外径1.8mm、中空部形成層最外径0.9mm)から同時に吐出すことで、中空糸状成型物を得た。
押し出した中空糸状成型物は、80mmの空走距離を通した後、外層は60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、内層は空走部及び水中において熱誘起相分離を進行させ、20m/分の速度でかせに巻き取った。得られた2層中空糸状押出し物を塩化メチレン中に浸漬させてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)及びフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。続いて、50重量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を膨潤化した。続いて、20重量%NaOH水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去した。
このようにして得られた実施例5の多孔質膜は、高い分離性能を有する外層と高い透水性能及び機械強度を有する内層からなり、外層と内層が非連続的に接合し、両層間の界面も極めて連通性が高い構造を有するものであった。また、実施例5の多孔質膜は、実施例1〜4の多孔質膜と比較して、優れた強度、及び透水性能を示した。
表1に、得られた実施例5の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。
[比較例1]
実施例1と同じPVDFポリマー24重量%と、K17ポリビニルピロリドン17重量%と、スルホラン(和光純薬製)59重量%とを混合し、180℃で溶解させて、製膜原液を調製した。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この原液の多孔構造形成開始温度は42℃であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液であるグリセリン(和光純薬製、特級)とともに140℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、60℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例1の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例1の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例1の多孔質膜は、5日目孔径保持率が10%と極めて低く、実施例1〜5の多孔質膜と比較して、分離層の薬品耐性が低いものであった。
[比較例2]
比較例1と同じ製膜原液を用い、実施例1と同じ紡糸ノズルからグリセリン(和光純薬製、特級)とともに200℃で吐出し、60mmの空走距離を通した後、原液の多孔構造形成開始温度(42℃)以下の23℃の水中で熱誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例2の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例2の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例2の多孔質膜は、実施例1〜5の多孔質膜とは異なり、極めて緻密で厚い分離層が形成されたものとなり、透水性能が極めて低く、孔径保持率の計測が不可能であった。
[比較例3]
PVDF樹脂として重量平均分子量が35万であるフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製、Kynar741)27重量%と、重量平均分子量35000のポリエチレングリコール(メルク社製、ポリエチレングリコール35000)15重量%とを、ジメチルアセトアミド(和光純薬製、特級)58重量%に70℃で溶解させ、製膜原液とした。このフッ化ビニリデンホモポリマーの融点(Tm)は174℃、分解温度は375℃であり、この製膜原液の多孔構造形成開始温度は75℃以上、0℃以下であった。
この製膜原液を実施例1と同じ紡糸ノズルから内部液である水とともに70℃で吐出し、200mmの空走距離を通した後、77℃の水中で非溶媒誘起相分離を進行させ、脱溶媒を行い、中空糸膜の膜構造を有する比較例3の多孔質膜(多孔質中空糸膜)を得た。
表1に、得られた比較例3の多孔質膜の配合組成及び製造条件並びに各種性能を示す。この比較例3の多孔質膜は、実施例1〜5の多孔質膜とは異なり、分離層の薬品耐性が極めて低いものであった。
以上説明したとおり、本発明の多孔質膜の製造方法によれば、透水性能及び微小病原体に対する阻止性能に優れ、薬品洗浄等に対して孔の粗大化を抑制し得る極めて高い耐薬品性を有するのみならず、微小病原体に対する阻止性能を長期間安定して保持し得る、多孔質膜を再現性よく簡便に製造することができる。そのため、膜面に蓄積する濁質等の汚れをアルカリ水溶液等の薬品を用いて洗浄を行うことが求められるろ過用途、長期間にわたり安定したろ過性能が求められるろ過用途において、広く且つ有効に利用でき、例えば、浄水場での浄水処理や、河川水や湖沼水のろ過処理、工業用水のろ過精製及び廃水処理、海水淡水化の前処理等液体のろ過処理等の、濾過によって膜面に蓄積する濁質等の汚れを薬品で洗浄するような、膜に高い透水性と薬品耐性の両立が要求される分野において、広く且つ有効に利用可能である。

Claims (5)

  1. ポリフッ化ビニリデン樹脂及び溶媒を少なくとも含む製膜原液を吐出して非溶媒を少なくとも含む凝固液に接触させて非溶媒誘起相分離法により多孔質膜を製造する、多孔質膜の製造方法であって、
    前記製膜原液の吐出温度が、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の融点以上、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の分解温度未満であり、且つ、前記凝固液の温度が、前記製膜原液の多孔構造形成開始温度より高いことを特徴とする、
    多孔質膜の製造方法。
  2. 前記非溶媒に対する前記溶媒の飽和溶解濃度Cmax(溶媒の飽和重量(mg)/非溶媒1L)、及び、前記非溶媒中の溶媒濃度Cが、下記式(1)及び(2);
    max≧100(mg/L) ・・・(1)
    (Cmax−C)×100/Cmax>80(%) ・・・(2)
    の関係を満たすことを特徴とする、
    請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
  3. 前記溶媒とポリフッ化ビニリデン樹脂とのHSP距離が、5.20以上8.00以下を満たすことを特徴とする、
    請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
  4. 前記溶媒の沸点が、前記製膜原液の吐出温度+15℃以上であり、且つ、前記ポリフッ化ビニリデン樹脂の分解温度未満を満たすことを特徴とする、
    請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
  5. ポリフッ化ビニリデン樹脂を含む多孔質膜を製造する方法において、
    円環状吐出口を2つ以上有する中空糸成型ノズルを用い、隣接する2つの該円環状吐出口の一方からはポリフッ化ビニリデン樹脂、有機液体及び無機微粉を少なくとも含む溶融混練物を、他方からはポリフッ化ビニリデン樹脂及び前記ポリフッ化ビニリデン樹脂とのHSP距離が5.20以上8.00以下を満たす溶媒を少なくとも含む製膜原液を、請求項1を満たす条件下で同時に吐出し、前記製膜原液の多孔構造形成開始温度より高く、前記溶融混練物の多孔構造形成開始温度よりも低い凝固液に接触させることで多層多孔中空糸構造を形成し、
    得られた多層多孔中空糸構造物から前記有機液体を抽出除去することを特徴とする、
    多孔質膜の製造方法。
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