≪第1実施形態≫
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)のセルを示す。このSOFCセルは、長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
このSOFCセルの全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5〜50cmで長手方向に直交する幅方向の長さが1〜10cmの長方形である。このSOFCセルの全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCセルの全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有することが好ましいが、この限りでない。以下、図1に加えて、このSOFCセルの図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCセルの詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。支持基板10の側端部は、外側に(幅方向に)凸となる曲面状を呈している。支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板10の厚さは、1〜5mmである。
支持基板10全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)対する、支持基板10に含まれるNi及び/又はNiOの体積の合計の割合は、Ni換算で3〜40体積%である。以下、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
図2に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)の上には、直方体状の燃料極20が設けられている。燃料極20は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。燃料極20は、後述する固体電解質膜40に接する燃料極活性部22と、燃料極活性部22以外の残りの部分である燃料極集電部21とから構成される。燃料極活性部22を上方からみた形状は、燃料極集電部21が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY2O3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
各燃料極20(より具体的には、各燃料極集電部21)の上面の所定箇所には、インターコネクタ30が形成されている。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。インターコネクタ30を上方からみた形状は、燃料極20が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。インターコネクタ30は、例えば、LaCrO3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
複数の燃料極20が設けられた状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成された部分を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、Y2O3(イットリア)を含有したYSZ(イットリア安定化ジルコニア)で構成される。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
即ち、複数の燃料極20が設けられた状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。ここで、緻密材料からなる「インターコネクタ30及び固体電解質膜40」が、「ガスシール部」に対応する。
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、「電気的接続部」に対応する。
このSOFCセルでは、固体電解質膜40において、支持基板10の側端部に形成された部分(前記絶縁体における前記支持基板の側端部を覆う部分に対応する)では、8.1mol%以上のイットリア(Y2O3)が含まれている。固体電解質膜40において、発電素子部A内において燃料極20と空気極60との間に位置する部分では、8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれている。固体電解質膜40において、支持基板10の主面における発電素子部Aが設けられていない部分では、8.1mol%以上のY2O3が含まれていても8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれていてもよいが、8.1mol%以上のY2O3が含まれていることが好適である。
なお、このような燃料電池セルでは、支持基板10の側端部に形成される緻密な「絶縁体」は、固体電解質膜40のみから形成される必要はない。例えば、図3に示すように、「絶縁体」として、固体電解質膜40の外面に他の緻密な絶縁体80が形成された積層体が用いられてもよい。また、図示はしないが、固体電解質膜40の内面に他の緻密な絶縁体が形成された積層体が用いられてもよい。この場合、他の緻密な絶縁体としては、例えば、10Sc1CeZrO2のような他の固体電解質であってもよいし、ガラス、ZrO2のような固体電解質以外の物質であってもよい。
また、図4に示すように、支持基板10の主面に形成された固体電解質膜40とは個別に、この固体電解質膜40に連続して、YSZからなる緻密な絶縁体80が支持基板10の側端部に形成されてもよい。この場合、YSZからなる緻密な絶縁体80では、8.1mol%以上のイットリア(Y2O3)が含まれている。一方、固体電解質膜40は、YSZからなる必要はない。固体電解質膜40がYSZからなる場合、固体電解質膜40において、発電素子部A内で燃料極20と空気極60との間に位置する部分では、8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれている。固体電解質膜40において、支持基板10の主面における発電素子部Aが設けられていない部分では、8.1mol%以上のY2O3が含まれていても8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれていてもよいが、8.1mol%以上のY2O3が含まれていることが好適である。
以上、説明した「横縞型」のSOFCセルに対して、図5に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O2+2e−→O2− (於:空気極60) …(1)
H2+O2−→H2O+2e− (於:燃料極20) …(2)
発電状態においては、図6に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図5に示すように、このSOFCセル全体から(具体的には、図5において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCセルの製造方法の一例について図7〜図14を参照しながら簡単に説明する。図7〜図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
先ず、図7に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図7に示す支持基板の成形体10gの部分断面を表す図8〜図14を参照しながら説明を続ける。
図8に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図9に示すように、支持基板の成形体10gの上下面の所定位置に、燃料極の成形体(21g+22g)が形成される。各燃料極の成形体(21g+22g)は、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
次に、図10に示すように、各燃料極の成形体21gの外側面の所定箇所に、インターコネクタの成形膜30gが形成される。各インターコネクタの成形膜30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
次に、図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)が埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成された部分を除いた全面(支持基板の成形体10gの側端部の表面を含む)に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。図1に示した態様では、この処理によって前記「絶縁体」の成形膜の形成が完了する。
なお、例えば、図3に示した形態では、この処理の後に更に、支持基板の成形体10gの側端部に形成された固体電解質膜の成形膜40gの外面に、上述した「他の緻密な絶縁体80」の成形膜が印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。また、図4に示した形態では、支持基板の成形体10gの側端部を除いて固体電解質膜の成形膜40gを形成し、その後、支持基板の成形体10gの側端部の表面に、上述した「他の緻密な絶縁体80」の成形膜が印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
次に、図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCセルにおいて空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
次に、図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
次に、図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCセルが得られる。以上、図1に示したSOFCセルの製造方法の一例について説明した。
(支持基板の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体におけるY2O3含有率)
次に、支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率と、そのYSZにおけるクラックの発生の有無との関係について考察するために行われた実験について説明する。この実験に使用された燃料電池セルは、上述した「製造方法」を利用して作製された。
支持基板10の幅方向の寸法は26mm、厚さ方向の寸法は3.5mm、燃料極20の厚さは50μm、固体電解質膜40における支持基板10の主面に形成された部分の厚さは20μm、支持基板10の側端部に形成された「YSZからなる絶縁体」(固体電解質膜40の一部、又は絶縁体80)の厚さは40μm、空気極60の厚さは50μm、インターコネクタ30の厚さは50μm、空気極集電膜70の厚さは50μmであった。
次に、この燃料電池セルの内部に、水素ガスを流し、850℃で、支持基板10及び燃料極20の還元処理が施された。支持基板10にはNiが含まれている。支持基板10全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)対する、支持基板10に含まれるNi及び/又はNiOの体積の合計の割合は、Ni換算で3〜40体積%である。この値は、焼成後且つ還元処理前の値である。この値は、蛍光X線を用いた周知の手法の1つを利用して算出された。
得られた燃料電池セルの燃料ガス流路11に燃料ガスを流通させ、燃料電池セルの外側に酸素含有ガスを流通させ、燃料電池セルをガスバーナーを用いて750℃まで加熱して、燃料電池セルを所定時間に亘り稼働させた。
その後、燃料電池セルに対して、「燃料ガス流路11内に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで30分間で上げた後に750℃から常温まで120分間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(固体電解質膜40の一部、又は絶縁体80、焼成体)について、クラックの有無が確認された。この確認は目視、及び顕微鏡による観察により行われた。
以上の試験が、支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率が異なる種々の燃料電池セルに対してそれぞれ行われた。絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率の調整は、提供されるYSZ材料中(焼成前)における予め仕込まれたY2O3の含有率、並びに、燃料電池セル作製に関わるその他の条件を調整することで行われた。また、絶縁体(焼成体)における調整されたY2O3の含有率は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いた定量分析により計測・取得された。表1は、この絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率と、クラックの有無との関係を示す。なお、各含有率について15個のサンプルが作製され、評価された。
表1によれば、支持基板10の側端部を覆うYSZからなる絶縁体(固体電解質膜40の一部、又は絶縁体80)におけるY2O3の含有率が8.1mol%以上であると、その絶縁体においてクラックが発生せず、一方、Y2O3の含有率が8.1mol%未満であると、その絶縁体においてクラックが発生し易いことが判明した。なお、表1の結果は、支持基板の材料がNi−Y2O3の場合もNi−Y2O3以外の材料、例えばNi−YSZの場合も得られることが判明している。
以下、この結果について、Electrochimica Acta
54(2009)927-934(非特許文献1)、J.Am.Ceram.Soc.,84[11]2652-56
54(2001)(非特許文献2)、Solid State lonics 93(1997)255-261(非特許文献3)を参照しながら考察する。
非特許文献1,2には、「YSZとNiOとが共焼結されると、NiOがYSZ中に固溶すること」、並びに、「NiOが固溶したYSZが還元雰囲気に曝されると、還元されたNiが析出すること」が記載されている。他方、非特許文献3には、「YSZ中のY2O3の含有率が大きいほど、NiOがYSZ中に固溶し難いこと」が記載されている。
以上の記載内容を考慮しながら、上記実験の結果について考察する。上述したように、上記実験にて使用された燃料電池セルでは、後に支持基板10となるNiOを含む成形体10gと、後に「支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」となる「成形膜40g、及び/又は、後に絶縁体80となる成形膜」とが同時焼成されている。この結果、成形体10g中のNiOが、拡散により、YSZからなる「成形膜40g、及び/又は、後に絶縁体80となる成形膜」の内部に移動し得、YSZとNiOとが共焼結され得る。加えて、その後、上記還元処理等により、この焼成体が還元雰囲気に曝されている。
以上より、上記実験にて使用された燃料電池セルでは、非特許文献1,2に記載された現象、即ち、「YSZとNiOとの共焼結によりNiOがYSZ中に固溶する現象」、並びに、「NiOが固溶したYSZが還元雰囲気に曝されることにより還元されたNiが析出する現象」が発生していると推測され得る。そして、非特許文献3の記載内容を考慮すると、「支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が大きいほど、NiOがYSZ中に固溶し難い。このことは、「支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が大きいほど、YSZからなる絶縁体において、還元されたNiが析出し難いことを意味する。
他方、YSZからなる絶縁体において、還元されたNiが析出することに起因して、YSZからなる絶縁体にクラックが発生し得ると考えられる。以上のことから、「支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が大きいほど、その絶縁体にクラックが発生し難い、と推測され得る。即ち、クラック発生を抑制するため、YSZからなる絶縁体におけるY2O3の含有率を調整することが重要である、と推測され得る。
そして、上記実験結果によれば、「支持基板10の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が8.1mol%以上であると、その絶縁体においてクラックが発生しないことが判明した。これにより、燃料電池セルの内外間でのガスの遮断が確実に達成され得、燃料電池セルの発電性能の低下を確実に抑制することができる。
更には、上記第1実施形態では、発電素子部A内において燃料極20と空気極60との間に位置する固体電解質膜40を構成するYSZが、8.1mol%未満のY2O3を含んでいる。これによれば、固体電解質膜を構成するYSZが8.1mol%以上のY2O3を含んでいる場合と比べて、固体電解質膜の酸素イオン伝導性(導電率)が大きくなる。この結果、発電素子部A内の電気抵抗が小さくなり、燃料電池セルの発電効率が高くなる。以上、上記第1実施形態によれば、絶縁体(固体電解質膜40)における支持基板10の側端部を覆う部分のクラックの発生が抑制され、且つ、発電素子部A内の電気抵抗が小さくされ得る。
なお、本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の発電素子部Aが設けられているが、図15に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。また、上記第1実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。
≪第2実施形態≫
図16に示すように、本発明に係る燃料電池セルの実施形態では、薄板状の多孔質の導電性支持体11の一方の主面に、多孔質の燃料側電極12、緻密な固体電解質13、多孔質の導電性セラミックスからなる酸素側電極14が順次積層されている。また、酸素側電極14と反対側の導電性支持体11の主面には、中間膜15、ランタン−クロム系酸化物材料からなるインターコネクタ16、P型半導体材料からなる集電膜17が順次形成されている。
また、導電性支持体11の内部には、複数のガス流路18が長手方向に沿って形成されている。
この燃料電池セルの実施形態は、幅方向(長手方向と直角の方向)の両側にそれぞれ設けられた側端部B,Bと、側端部B,Bを連結する一対の平坦部A,Aと、から構成されている。一対の平坦部A,Aは平坦であり、ほぼ平行である。平坦部A,Aのうちの一方では、導電性支持体11の一方の主面上に燃料側電極12、固体電解質13、酸素側電極14が順に形成され、平坦部A,Aのうちの他方では、導電性支持体11の他方の主面上に中間膜15、インターコネクタ16、集電膜17が順に形成されている。
導電性支持体11の幅方向の寸法(側端部B,B間の距離)は、10〜100mmであり、厚さ方向の寸法(平坦部A,A間の距離)は、0.5〜5mmであることが望ましい。なお、導電性支持体11の形状は、「薄板状」と表現されているが、幅方向の寸法及び厚さ方向の寸法の組み合わせに応じて、「楕円柱状」、或いは、「扁平状」とも表現され得る。
この導電性支持体11は、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm及びPrから選ばれた1種以上からなる希土類元素酸化物とNi及び/又はNiOとを主成分とする材質から構成されることが望ましい。なお、Niに加えて、FeやCu等が含まれていてもよい。
また、導電性支持体11は、「NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)」と、「絶縁性セラミックス」とを含んで構成される、と記載することもできる。絶縁性セラミックスとしては、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y2O3(イットリア)、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl2O4(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」等が使用され得る。導電性支持体11の導電率は、800℃にて、10〜2000S/cmである。導電性支持体11全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)に対する、導電性支持体11に含まれる「Ni及び/又はNiO」の体積の合計の割合は、Ni換算で20〜60体積%である。
導電性支持体11とインターコネクタ16の間に形成される中間膜15は、Ni及び/又はNiOと希土類元素を含有するZrO2を主成分とする材質から構成される。中間膜15中のNi化合物のNi換算量は、全量中35〜80体積%であることが望ましく、更には、50〜70体積%であることがより望ましい。Ni換算量が35体積%以上であることで、Niによる導電パスが増加して、中間膜15の伝導度が向上する。この結果、中間膜15に起因する電圧降下が小さくなる。また、Ni換算量が80体積%以下であることで、導電性支持体11とインターコネクタ16の間の熱膨張係数差を小さくすることができ、両者の界面における亀裂の発生が抑制され得る。
また、電圧降下の減少という観点から、中間膜15の厚さは20μm以下であることが望ましく、更には、10μm以下であることが望ましい。
中希土類元素や重希土類元素の酸化物の熱膨張係数は、固体電解質13における「Y2O3を含有するZrO2」の熱膨張係数より小さい。従って、Niとのサーメット材としての導電性支持体11の熱膨張係数を固体電解質13の熱膨張係数に近づけることができる。この結果、固体電解質13のクラックや、固体電解質13の燃料側電極12からの剥離が抑制され得る。更には、熱膨張係数が小さい重希土類元素酸化物を用いることで、導電性支持体11中のNiを多くでき、導電性支持体11の電気伝導度を上げることができる。この観点からも、重希土類元素酸化物を用いることが望ましい。
なお、希土類元素酸化物の熱膨張係数の総和が固体電解質13の熱膨張係数未満であれば、軽希土類元素のLa、Ce、Pr、Ndの酸化物は、中希土類元素、重希土類元素に加えて含有されていても問題はない。
また、精製途中の安価な複数の希土類元素を含む複合希土類元素酸化物を用いることにより、原料コストを大幅に下げることができる。この場合も、複合希土類元素酸化物の熱膨張係数が固体電解質13の熱膨張係数未満であることが望ましい。
また、インターコネクタ16表面にP型半導体、例えば、遷移金属ペロブスカイト型酸化物からなる集電膜17を設けることが望ましい。インターコネクタ16表面に直接金属の集電部材を配して集電すると、非オーム接触に起因して、電位降下が大きくなる。オーム接触を確保して電位降下を少なくするためには、インターコネクタ16にP型半導体からなる集電膜17を接続する必要がある。P型半導体としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物を用いることが望ましい。遷移金属ペロブスカイト型酸化物としては、ランタン−マンガン系酸化物、ランタン−鉄系酸化物、ランタン−コバルト系酸化物、又は、それらの複合酸化物の少なくとも一種を用いることが望ましい。
導電性支持体11の主面に設けられた燃料側電極12は、Niと希土類元素が固溶したZrO2とから構成される。この燃料側電極12の厚さは1〜30μmであることが望ましい。燃料側電極12の厚さが1μm以上であることで、燃料側電極12としての3層界面が十分に形成される。また、燃料側電極12の厚さが30μm以下であることで、固体電解質13との熱膨張差による界面剥離が防止され得る。
この燃料側電極12の主面に設けられた固体電解質13は、イットリア(Y2O3)を含有したイットリア安定化ジルコニアYSZ(緻密体なセラミックス)から構成される。固体電解質13の厚さは、0.5〜100μmであることが望ましい。固体電解質13の厚さが0.5μm以上であることで、ガス透過が防止され得る。また、固体電解質13の厚さが100μm以下であることで、抵抗成分の増加が抑制され得る。
また、酸素側電極14は、遷移金属ペロブスカイト型酸化物のランタン−マンガン系酸化物、ランタン−鉄系酸化物、ランタン−コバルト系酸化物、又は、それらの複合酸化物の少なくとも一種の多孔質の導電性セラミックスから構成されている。酸素側電極14は、800℃程度の中温域での電気伝導性が高いという観点から、(La,Sr)(Fe,Co)O3系が望ましい。酸素側電極14の厚さは、集電性という観点から、10〜100μmであることが望ましい。
インターコネクタ16は、導電性支持体11の内外間の燃料ガス、酸素含有ガスの漏出を防止するため緻密体とされている。また、インターコネクタ16の内外面は、燃料ガス、酸素含有ガスとそれぞれ接触するため、耐還元性、耐酸化性を有している。
このインターコネクタ16の厚さは、30〜200μmであることが望ましい。インターコネクタ16の厚さが30μm以上であることで、ガス透過が完全に防止され得、200μm以下であることで、抵抗成分の増加が抑制され得る。
このインターコネクタ16の端部と固体電解質13の端部との間には、シール性を向上すべく、例えば、NiとZrO2、或いはY2O3からなる接合層を介在させても良い。
この燃料電池セルの実施形態では、緻密な固体電解質13は、導電性支持体11の一方の主面上のみならず、導電性支持体11の側端部を介して他方の主面上のインターコネクタ16の側端面まで形成されている。即ち、固体電解質13は、両側の側端部B,Bを形成するように、導電性支持体11の他方の主面まで延設され、インターコネクタ16と接合している。
固体電解質13において、導電性支持体11の側端部に形成された部分(前記絶縁体における前記支持基板の側端部を覆う部分に対応する)では、8.1mol%以上のイットリア(Y2O3)が含まれている。固体電解質13において、燃料側電極12と酸素側電極14との間に位置する部分では、8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれている。固体電解質13において、導電性支持体11の主面における発電素子部(燃料側電極12、固体電解質13、及び酸素側電極14が積層された部分)が設けられていない部分では、8.1mol%以上のY2O3が含まれていても8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれていてもよいが、8.1mol%以上のY2O3が含まれていることが好適である。
なお、側端部B,B(導電性支持体11の側端部)は、発電に伴う加熱や冷却に伴い発生する熱応力を緩和するため、外側に凸となる曲面状となっていることが望ましい。
固体電解質13における「導電性支持体11の側端部に形成された部分」の厚さは、破壊を防止するため、40μm以上であることが望ましい。また、導電性支持体11の側端部は、応力を緩和するために、弧状となっていることが望ましい。
また、燃料電池セルの発電能力を向上させるため、固体電解質13における「燃料側電極12と酸素側電極14とで挟持された部分」の厚さは、20μm以下であることが望ましい。
なお、このような燃料電池セルでは、導電性支持体11の側端部に形成される緻密な「絶縁体」は、固体電解質13のみから形成される必要はない。例えば、図17に示すように、「絶縁体」として、固体電解質13の外面に他の緻密な絶縁体19が形成された積層体が用いられてもよい。また、図示はしないが、固体電解質13の内面に他の緻密な絶縁体が形成された積層体が用いられてもよい。この場合、他の緻密な絶縁体としては、例えば、10Sc1CeZrO2のような他の固体電解質であってもよいし、ガラス、ZrO2のような固体電解質以外の物質であってもよい。
また、図18に示すように、「燃料側電極12と酸素側電極14とで挟持された部分のみに形成された固体電解質13とは個別に、この固体電解質13に連続して、YSZからなる緻密な絶縁体19が導電性支持体11の側端部に形成されてもよい。この場合、YSZからなる緻密な絶縁体19では、8.1mol%以上のイットリア(Y2O3)が含まれている。一方、固体電解質13は、YSZからなる必要はない。固体電解質13がYSZからなる場合、固体電解質13において、発電素子部内で燃料側電極12と酸素側電極14との間に位置する部分では、8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれている。固体電解質13において、導電性支持体11の主面における発電素子部が設けられていない部分では、8.1mol%以上のY2O3が含まれていても8.1mol%未満(好ましくは、8.0mol%以下)のY2O3が含まれていてもよいが、8.1mol%以上のY2O3が含まれていることが好適である。
次に、以上説明したような燃料電池セルの製法について説明する。先ず、La、Ce、Pr、Ndの元素を除く希土類元素酸化物粉末とNi及び/又はNiO粉末が混合される。この混合粉末に、有機バインダーと、溶媒とを混合した導電性支持体材料が押し出し成形されて、板状の導電性支持体成形体が作製される。この成形体が乾燥、脱脂される。
また、希土類元素(Y)が固溶したZrO2粉末と有機バインダーと溶媒を混合した固体電解質材料を用いてシート状の固体電解質成形体が作製される。
次に、Ni及び/又はNiO粉末と、希土類元素が固溶したZrO2粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合して作製された、燃料側電極12となるスラリーが、前記固体電解質成形体の一方側に塗布される。これにより、固体電解質成形体の一方側の面に燃料側電極成形体が形成される。
次に、導電性支持体成形体に、前記シート状の固体電解質成形体と燃料側電極成形体の積層体が、燃料側電極成形体が導電性支持体成形体に当接するように、導電性支持体成形体に巻き付けられる。
次に、この積層成形体の側端部B,Bを形成する位置の固体電解質成形体上に、上記のシート状の固体電解質成形体が更に数層積層され、乾燥される。また、固体電解質13となるスラリーが固体電解質成形体上にスクリーン印刷されてもよい。なお、このとき脱脂が行われてもよい。
次に、ランタン−クロム系酸化物粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合したインターコネクタ材料を用いて、シート状のインターコネクタ成形体が作製される。
また、Ni及び/又はNiO粉末と、希土類元素が固溶したZrO2粉と、有機バインダーと、溶媒を混合したスラリーを用いて、シート状の中間膜成形体が作製される。
次に、インターコネクタ成形体と中間膜成形体とが積層される。この積層体の中間膜成形体側が、露出した導電性支持体成形体側に当接するように、この積層体が導電性支持体成形体に積層される。
これにより、導電性支持体成形体の一方主面に、燃料側電極成形体、固体電解質成形体が順次積層されるとともに、他方主面に中間膜成形体、インターコネクタ成形体が積層された積層成形体が作製される。なお、各成形体は、ドクターブレードによるシート成形、印刷、スラリーディップ、並びにスプレーによる吹き付けなどにより作製され得る。また、各成形体は、これらの組み合わせにより作製され得る。
次に、積層成形体が脱脂処理され、酸素含有雰囲気中で1300〜1600℃で同時焼成される。
次に、P型半導体である遷移金属ペロブスカイト型酸化物粉末と、溶媒を混合して、ペーストが作製される。前記積層体がこのペースト中に浸漬される。そして、固体電解質13、インターコネクタ16の表面に、酸素側電極成形体、集電膜成形体が、それぞれディッピング、或いは直接のスプレー塗布により形成される。これらの成形体が1000〜1300℃で焼き付けられることにより、本発明に係る燃料電池セルが作製される。
なお、この時点では、燃料電池セルでは、酸素含有雰囲気での焼成により、導電性支持体11、燃料側電極12、中間膜15中のNi成分が、NiOとなっている。従って、その後、導電性支持体11側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、内側電極が酸素側電極であってもよい。また、酸素側電極14と固体電解質13との間に、反応防止層が形成されてもよい。
また、導電性支持体11と内側電極12とが同じ組成で形成されてもよい。この場合、例えば、NiとY2O3を固溶したZrO2が用いられてもよい。即ち、導電性支持体11が内側電極12を兼ねてもよい。この場合、内側電極12が省略される。
また、酸素側電極14、集電膜17の成形法についても、種々の方法を用いてもよいことは勿論である。
(導電性支持体の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体におけるY2O3含有率)
次に、導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率と、そのYSZにおけるクラックの発生の有無との関係について考察するために行われた実験について説明する。先ず、この実験に使用された燃料電池セルの作製について説明する。
先ず、NiO粉末がNi金属換算量で48体積%、Y等の希土類元素酸化物粉末が52体積%となるように、これらの粉末が混合された。この混合物に、ポアー剤と、PVAからなる有機バインダーと、水からなる溶媒とが加えられ、混合された導電性支持体材料が押出成形されて、板状の導電性支持体成形体が作製された。そして、これが乾燥された。
この導電性支持体成形体を用いて、焼成後に長さが200mmとなるように導電性支持体成形体が加工され、乾燥後、1000℃で仮焼された。
次に、YSZ粉末にアクリル系バインダーとトルエンを加え、固体電解質13となるスラリーが作製された。このスラリーを用いて、ドクターブレード法にてシート状の固体電解質成形体が作製された。
次に、NiO粉末をNiOの金属Ni換算量で48体積%、8YSZ粉末(Y2O3を8モル含有するZrO2)を52体積%となるように混合し、アクリル系バインダーとトルエンを加え、燃料側電極12となるスラリーが作製された。このスラリーが前記固体電解質成形体にスクリーン印刷され、固体電解質成形体と燃料側電極成形体の積層体が作製された。
次に、導電性支持体成形体に、「固体電解質成形体と燃料側電極成形体の積層体」が、導電性支持体成形体側に燃料側電極成形体が当接し、且つ、その両端間が平坦部で所定間隔をおいて離間するように、巻き付けられた。そして、これが乾燥された。
次に、固体電解質13となるスラリー、及び/又は絶縁体19となるスラリーが作製され、ドクターブレード法にてシート状の固体電解質成形体、及び/又は絶縁体成形体が作製された。
次に、「導電性支持体成形体に固体電解質成形体と燃料側電極成形体が積層された積層体」の端部B,Bに、固体電解質成形体、及び/又は絶縁体成形体が積層された。
次に、LaCrO3系材料と、アクリル樹脂からなる有機バインダーと、トルエンとからなる溶媒とを混合したインターコネクタ材料を用いて、インターコネクタシート状成形体が作製された。
また、Ni及び/又はNiO粉末と希土類元素が固溶したZrO2粉と有機バインダーと、溶媒を混合したスラリーを用いて、シート状の中間膜成形体が作製され、先に作製したインターコネクタシート状成形体に積層された。
次に、中間膜成形体とインターコネクタ成形体の積層体が、先に作製された仮焼体である導電性支持体成形体に当接するように積層される。
次に、この積層体が脱バインダー処理され、大気中にて所定温度にて同時焼成された。
次に、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、ノルマルパラフィンからなる溶媒とから、酸素側電極スラリーが作製され、このスラリーが、焼成された固体電解質の表面に吹き付けられる。これにより、酸素側電極成形体が形成される。また、上記スラリーが、焼成したインターコネクタ16の外面に塗布され、1150℃で焼き付けられる。これにより、酸素側電極14が形成されるとともに、インターコネクタ16の外面に集電膜17が形成される。これにより、この実験に使用される燃料電池セルが作製された。
なお、導電性支持体11の幅方向の寸法(側端部B,B間の距離)は26mm、厚さ方向の寸法(平坦部A,A間の距離)は3.5mm、燃料側電極12の厚さは10μm、固体電解質13における「燃料側電極12と酸素側電極14の間に挟持された部分」の厚さは20μm、導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(固体電解質13の一部又は絶縁体19)の厚さは40μm、酸素側電極14の厚さは50μm、中間膜15の厚さは10μm、インターコネクタ16の厚さは50μm、集電膜17の厚さは50μmであった。
次に、この燃料電池セルの内部に、水素ガスを流し、850℃で、導電性支持体11及び燃料側電極12の還元処理が施された。導電性支持体11にはNiが含まれている。導電性支持体11全体の体積(気孔が占める空間の体積を除く)対する、支持体11に含まれるNi及び/又はNiOの体積の合計の割合は、Ni換算で20〜60体積%である。この値は、焼成後且つ還元処理前の値である。この値は、焼成体の断面観察から画像処理等を用いた周知の手法の1つを利用して算出された。
得られた燃料電池セルの燃料ガス流路18に燃料ガスを流通させ、燃料電池セルの外側に酸素含有ガスを流通させ、燃料電池セルをガスバーナーを用いて750℃まで加熱して、燃料電池セルを所定時間に亘り稼働させた。
その後、燃料電池セルに対して、「燃料ガス流路18内に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで30分間で上げた後に750℃から常温まで120分間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(固体電解質13の一部又は絶縁体19、焼成体)について、クラックの有無が確認された。この確認は目視、及び顕微鏡による観察により行われた。
以上の試験が、導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率が異なる種々の燃料電池セルに対してそれぞれ行われた。絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率の調整は、提供されるYSZ材料中(焼成前)における予め仕込まれたY2O3の含有率、並びに、燃料電池セル作製に関わるその他の条件を調整することで行われた。また、絶縁体(焼成体)における調整されたY2O3の含有率は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA−8500F)を用いた定量分析により計測・取得された。表2は、この絶縁体(焼成体)におけるY2O3の含有率と、クラックの有無との関係を示す。なお、各含有率について15個のサンプルが作製され、評価された。
表2によれば、導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体(固体電解質13の一部又は絶縁体19)におけるY2O3の含有率が8.1mol%以上であると、その絶縁体においてクラックが発生せず、一方、Y2O3の含有率が8.1mol%未満であると、その絶縁体においてクラックが発生し易いことが判明した。なお、表2の結果は、支持体の材料がNi−Y2O3の場合もNi−Y2O3以外の材料、例えばNi−YSZの場合も得られることが判明している。
この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様、「導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が大きいほど、その絶縁体にクラックが発生し難い、と推測され得る。即ち、クラック発生を抑制するため、YSZからなる絶縁体におけるY2O3の含有率を調整することが重要である、と推測され得る。
そして、上記実験結果によれば、「導電性支持体11の側端部に形成されたYSZからなる絶縁体」におけるY2O3の含有率が8.1mol%以上であると、その絶縁体においてクラックが発生しないことが判明した。これにより、燃料電池セルの内外間でのガスの遮断が確実に達成され得、燃料電池セルの発電性能の低下を確実に抑制することができる。
更には、上記第2実施形態では、発電素子部内において燃料側電極12と酸素側電極14との間に位置する固体電解質13を構成するYSZが、8.1mol%未満のY2O3を含んでいる。これによれば、固体電解質を構成するYSZが8.1mol%以上のY2O3を含んでいる場合と比べて、固体電解質の酸素イオン伝導性(導電率)が大きくなる。この結果、発電素子部内の電気抵抗が小さくなり、燃料電池セルの発電効率が高くなる。以上、上記第2実施形態によれば、絶縁体(固体電解質13)における導電性支持体11の側端部を覆う部分のクラックの発生が抑制され、且つ、発電素子部内の電気抵抗が小さくされ得る。