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JP5704409B2 - 密閉型リチウム二次電池 - Google Patents

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Description

本発明は、密閉型リチウム二次電池(典型的には密閉型リチウムイオン電池)に関する。詳しくは、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池に関する。
リチウムイオン電池その他のリチウム二次電池は、既存の電池に比べ、小型、軽量かつ高エネルギー密度であって、出力密度に優れる。このため、近年、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や、車両駆動用電源として好ましく用いられている。
かかる電池の一形態として、密閉型リチウム二次電池が挙げられる。該電池は、典型的には、活物質を含む合材層を備えた正負極からなる電極体が、電解質(典型的には、電解液)とともに電池ケースに収容された後、蓋体が装着されて封口(密閉)されることにより構築される。密閉型リチウム二次電池は、一般に電圧が所定の領域(例えば3.0V以上4.2V以下)に収まるよう制御された状態で使用されるが、誤操作等により電池に通常以上の電流が供給されると、所定の電圧を超えて過充電となる場合がある。
かかる場合においても安全を確保し得る技術として、電池ケース内の圧力が所定値以上になると充電電流を遮断する電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)が広く用いられている。一般に、電池が過充電状態になると電解質の非水溶媒等が電気分解され、ガスが発生する。上記電流遮断機構は、このガス発生に基づいて電池の充電経路を切断することで、それ以上の過充電を防止し得るようになっている。上記機構をより迅速に作動させるための手法としては、例えば、正極合材層中に無機化合物を添加する方法が挙げられる。かかる従来技術として、特許文献1〜3には正極合材層中に予め炭酸塩(炭酸リチウム)を含有しておくことで、過充電時に該炭酸塩が分解され、炭酸ガスを大量に発生させ得る方法が記載されている。
また、他の手法として、電解質中に該電解質の非水溶媒よりも酸化電位の低い(即ち、酸化分解反応の始まる電圧が低い)化合物(以下、「過充電防止剤」という。)を、含有させておく手法が知られている。かかる過充電防止剤は、電池が過充電状態になると正極表面において速やかに酸化分解され、ガスを発生させ得る。そして発生したガスにより電池ケース内の圧力が上昇するため、電流遮断機構が迅速に作動し得る。この種の従来技術として、例えば特許文献2、3には、過充電防止剤として芳香族化合物(シクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)等)を添加する方法が記載されている。
特開2003−308843号公報 特開2009−277397号公報 特開2008−277106号公報 特許第3032338号公報
しかしながら、かかるリチウム二次電池では、使用環境および/または保存環境が高温(例えば、50℃〜60℃)となった場合に、電解質の粘性が低下し、芳香族化合物のレドックスシャトル反応が優先的に生じる。このため、過充電防止剤の分解反応が抑制され、ガスの発生量が減少してしまう。とりわけ、車両駆動用電源等に用いられる大型(または大容量)の電池では、電池内の空間体積が比較的大きいことから、電流遮断機構を作動させるためには多量のガスを必要とする。しかし、かかる高温環境下においては、ガス発生量が不足することで電池ケース内の圧力が迅速に上昇せず、電流遮断機構の作動が遅れる虞がある。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電池ケース内の圧力上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池であって、高い電池性能を維持しつつ、且つ従来に比べ信頼性(典型的には、広範な温度環境下における安全性)が向上した該電池を提供することである。
上記目的を実現すべく、正極と負極とを備えた電極体と、電解質とが所定の電池ケース内に収容された密閉型リチウム二次電池が提供される。ここで、上記電解質には、所定の電池電圧を超えた際に、炭酸ガスを発生させ得る脂肪族カルボン酸エステルと、水素ガスを発生させ得る芳香族化合物と、が含まれており、上記電池ケースは、上記炭酸ガスおよび/または水素ガスの発生に伴って、上記電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構を備えていることを特徴とする。
上記電池は、電解質中に2種類の過充電防止剤を有している。そして、後述する試験例に述べるように、上記芳香族化合物は、主に低温〜中温環境下(例えば、0℃〜40℃)において激しく酸化分解され、大量の水素ガスを生じる。一方、脂肪族カルボン酸エステルは、とりわけ高温環境下(典型的には40℃〜70℃、例えば50℃〜60℃)において激しく分解され、大量の炭酸ガスを発生させる。従って、電池ケース内に両者を備えることで、広範な温度環境下(例えば、0℃〜70℃)において所望のガス量を発生させることができる。かかるガスの発生によって電池ケース内に圧力上昇が生じるため、電流遮断機構を安定的に作動させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記脂肪族カルボン酸エステルの添加量が、上記電解質100質量%に対し、2質量%以上15質量%以下であることが挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステルの添加量が上記範囲にある場合、優れた電池性能と、本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを高いレベルで両立させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記脂肪族カルボン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチルおよび酪酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが挙げられる。
上記脂肪族カルボン酸エステルは、リチウム二次電池の電解液として用いられる非水溶媒と親和性が高く、電解液中に均一に混合し得る。さらに、該電池に用いられる他の非水溶媒に比べて低粘度、低沸点であることから、電池性能(例えば、低温特性や急速充放電特性)が高く、且つ信頼性の高い電池を得ることができる。
なお、従来技術として特許文献4には、電解液の溶媒としてプロピオン酸メチルを用いることが記載されている。しかし、かかる従来技術は低温特性の向上を目的としており、且つ該プロピオン酸メチルの含有量を、(電解液中の溶媒成分100体積%に対して)25体積%以上75体積%以下とすることが記載されている。即ち、ここで開示される技術とはプロピオン酸メチルを用いる目的も、含有率も異なっている。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記正極は、正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質を含む正極合材層と、を備えており、上記正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含んでいることが挙げられる。
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、イオン伝導性が高く、該酸化物を用いた電池では高いエネルギー密度を実現し得る。また、熱安定性にも優れることから好ましく用いることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、ニッケル元素、コバルト元素およびマンガン元素のうち少なくとも一部がジルコニウム元素で置換されていることが挙げられる。
構成元素たる遷移金属元素(即ち、Ni、CoおよびMn)の一部がジルコニウム元素(Zr)で置換されたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、結晶安定性や熱安定性に優れるため、該材料を正極に用いた電池では、高い電池性能(例えば、高温環境下における保持特性)を発揮することができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記ジルコニウム元素の量は、上記ジルコニウム元素と上記ニッケル元素と上記コバルト元素と上記マンガン元素の合計100質量%に対し、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが挙げられる。
ジルコニウムの置換量が上記範囲にある場合、より一層結晶安定性や熱安定性に優れる。よって、該材料を正極に用いた電池では、優れた電池性能(例えば、後述する高温環境下における保持特性)と、本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを更に高いレベルで両立させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記芳香族化合物として、シクロヘキシルベンゼンまたはビフェニルを含んでいることが挙げられる。
シクロヘキシルベンゼンやビフェニルは、酸化電位が凡そ4.5V〜4.6Vであるため、例えば4.1V〜4.2Vを上限充電電圧とする電池では、過充電時に速やかに酸化分解され、水素ガスを発生し得る。このため、電流遮断機構をより迅速に作動させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記水素ガスを発生させ得る化合物の添加量が、上記電解質100質量%に対し、0.5質量%以上7質量%以下であることが挙げられる。
ここで開示される技術では、過充電防止剤の反応効率が高いため、従来に比べ少ない量の過充電防止剤で、高温時においても電流遮断機構を確実に作動させるために必要なガス量を得ることができる。従って、優れた電池性能と、本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とをより一層高いレベルで両立させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記電極体は、長尺状の正極集電体上に、所定の幅の正極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の正極と、長尺状の負極集電体上に、所定の幅の負極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の負極と、を備え、上記正極と上記負極とが積層され、長手方向に捲回されてなる捲回電極体であることが挙げられる。
捲回電極体を備えた電池は、リチウム二次電池の中でも高容量なため、信頼性の向上(例えば、誤作動等が生じた場合の安全対策)が殊に重要である。ここで開示される技術によれば、かかる電池の安全性(例えば、過充電や内部短絡が発生した際の安全性)を従来に比べ向上させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、充電上限電圧が3.0V以上4.1V以下で用いられることが挙げられる。
ここで用いられる脂肪族カルボン酸エステルは比較的酸化電位が低く、使用する溶媒等にも拠るが、凡そ4.2V前後で酸化分解され、炭酸ガスを生じる。このため、該電池の充電上限電圧(稼動上限電圧)を上記範囲とすることで、通常使用時における酸化分解(炭酸ガスの発生)を抑制し、必要なとき(即ち、過充電時)にのみ効果的にガスを発生させることができる。
また、ここで開示される密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両が提供される。
上記電池は、信頼性(典型的には、広範な温度環境下における安全性)が向上しているため、高容量、高出力の大型電池であって、且つ使用および/または放置環境が高温になり得る場合に特に有効である。従って、例えば車両(典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)のような電動機)に搭載されるモーター駆動のための動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。
本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。 図1の密閉型リチウム二次電池のII−II線における断面構造を模式的に示す図である。 本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池を備えた車両(自動車)を示す側面図である。 過充電時のガス発生量を示すグラフであり、(A)は例1の結果を、(B)は例10の結果をそれぞれ示す。
本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池(もしくはリチウムイオン二次電池)、リチウムポリマー電池等と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、本明細書において「活物質」とは、正極側又は負極側において蓄電に関与する物質(化合物)をいう。即ち、電池の充放電時において電子の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
なお、本明細書において、過充電状態とは充電深度(SOC:State of Charge)が100%を超えた状態を指す。SOCとは、可逆的に充放電可能な稼動電圧の範囲において、その上限となる電圧が得られる充電状態(即ち、満充電状態)を100%とし、下限となる電圧が得られる充電状態(即ち、充電されていない状態)を0%としたときの充電状態を示す。
以下、ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な実施形態について、説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。かかる構造の密閉型リチウム二次電池は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここで開示されるリチウム二次電池の正極としては、正極活物質と導電材とバインダ(結着剤)等とを適当な溶媒中で混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「正極合材スラリー」という。)を調製し、該スラリーを正極集電体上に付与して正極合材層(正極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
正極合材スラリーを調製する方法としては、上記正極活物質と導電材とバインダとを一度に混練してもよく、何回かに分けて段階的に混練してもよい。特に限定されるものではないが、正極合材スラリーの固形分濃度(NV)は凡そ50%〜75%(好ましくは55%〜65%、より好ましくは55%〜60%)となる。また、正極合材層を形成する方法としては、上記正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に、従来公知の塗布装置(例えば、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を用いて適量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。
正極集電体の素材としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、あるいはそれらを主体とする合金等が挙げられる。集電体の形状は、構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。なお、後述する捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩等が挙げられる。中でも、一般式:LiNiCoMnOで表される層状構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)は、イオン伝導性が高く、該酸化物を用いた電池では高いエネルギー密度を実現し得る。また、熱安定性にも優れることから好ましく用いることができる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める正極活物質の割合は、50質量%以上(典型的には70質量%以上100質量%以下、例えば80質量%以上99質量%以下)であることが好ましい。
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物としては、リチウム以外の構成金属元素としてニッケル、コバルト、マンガンを含むが、これら必須の金属元素の他に、少なくとも一種の金属元素(即ち、Li、Ni、Co、Mn以外の金属元素)または半金属元素を含んでいることが好ましい。かかる元素としては、例えば、周期表の2族(マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属)、4族(チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の遷移金属)、5族(バナジウム(V)、ニオブ(Nb)等の遷移金属)、6族(クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の遷移金属)、8族(鉄(Fe)等の遷移金属)、9族(ロジウム(Rh)等の遷移金属)、10族(パラジウム(Pb)、白金(Pt)等の遷移金属)、11族(銅(Cu)等の遷移金属)、12族(亜鉛(Zn)等の金属)、13族(半金属元素であるホウ素(B)、もしくはアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等の金属元素)、14族(スズ(Sn)等の半金属元素)および希土類(ランタン(La)、セリウム(Ce)等の金属元素)に属するいずれかの元素のうちの一種または二種以上の元素であり得る。例えば、Zr、Mg、Sr、Ti、V、Nb、Mo、W、B、Alを含む場合が好ましく、特にZrを含む場合が好ましい。
上記置換的な構成元素の量は、特に限定されないが、例えば、当該置換元素とNiとCoとMnとの合計100質量%に対し、0.1質量%以上(典型的には0.2質量%以上、例えば0.3質量%以上)であって、1.0質量%以下(典型的には0.8質量%以下、例えば0.7質量%以下)とすることができる。置換的な構成元素(例えばジルコニウム)の置換量が上記範囲にある場合、より一層結晶安定性や熱安定性に優れる。よって、該材料を正極に用いた電池では、優れた電池性能(例えば、後述する高温環境下における保持特性)と、本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを更に高いレベルで両立させることができる。
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。特に限定するものではないが、例えば、D50粒径が凡そ1μm〜25μm(好ましくは2μm〜10μm、より好ましくは6μm〜10μm、例えば6μm〜8μm)の範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を、好ましく用いることができる。なお、本明細書において「粒径」とは一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布おいて、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径ともいう。)を示す。
導電材としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、黒鉛粉末(天然、人造)、炭素繊維(PAN系、ピッチ系)等から選択される、一種または二種以上であり得る。あるいは金属繊維(例えばAl、SUS等)、導電性金属粉末(例えばAg、Ni、Cu等)、金属酸化物(例えばZnO、SnO等)、金属で表面被覆した合成繊維等を用いてもよい。なかでも好ましいカーボン粉末としては、アセチレンブラックが挙げられる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める導電材の割合は、例えば、凡そ0.1質量%〜15質量%とすることができ、凡そ1質量%〜10質量%(より好ましくは2質量%〜6質量%)とすることが好ましい。
バインダとしては、後述する溶媒中に均一に溶解または分散し得る化合物であって、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、溶剤系の液状組成物(分散媒の主成分が有機溶媒である溶剤系組成物)を用いて正極合材層を形成する場合には、有機溶剤に分散または溶解するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が挙げられる。あるいは、水系の液状組成物を用いて正極合材層を形成する場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、セルロース系ポリマー、フッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、ゴム類等が例示される。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等が挙げられる。特に限定するものではないが、正極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、例えば0.1質量%〜10質量%(好ましくは1質量%〜5質量%)とすることができる。
溶媒としては、従来からリチウム二次電池に用いられる溶媒のうち一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。なお、かかる溶媒は水系と有機溶剤に大別され、有機溶媒としては、例えば、アミド、アルコール、ケトン、エステル、アミン、エーテル、ニトリル、環状エーテル、芳香族炭化水素等が挙げられる。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、2−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロペン酸メチル、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、アセトニトリル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられ、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を好適に用いることができる。また、水系溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒であることが好ましい。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒(例えば水)が挙げられる。
また、ここで調製される正極合材スラリーには、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、各種添加剤(例えば、分散剤として機能し得る材料や、過充電時においてガスを発生させ得る無機化合物)等を添加することもできる。該分散剤としては、疎水性鎖と親水性基をもつ高分子化合物(例えばアルカリ塩、典型的にはナトリウム塩)や、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩などを有するアニオン性化合物やアミンなどのカチオン性化合物などが挙げられる。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチラール、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ等が例示され、例えば、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子材料が好ましく用いられる。また、該過充電時にガスを発生させる無機化合物としては、炭酸塩やシュウ酸塩、硝酸塩等が挙げられ、例えば、炭酸リチウムやシュウ酸リチウムが好ましく用いられる。
その後、適当な乾燥手段で正極合材層を乾燥し、正極合材スラリーに含まれていた溶媒を除去する。かかる手法としては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線等を単独または組み合わせて用いることができる。
正極合材スラリーの乾燥後は、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極合材層の厚みや密度を調整することができる。正極集電体上に形成された正極合材層の密度が極端に低い(即ち、正極合材層内の活物質量が少ない)場合は、単位体積当たりの容量が低下する虞がある。また、該正極合材層の密度が極端に高い場合は、特に大電流充放電時や低温下での充放電時において内部抵抗が上昇する傾向にある。このため、正極合材層の密度は、例えば2.0g/cm以上(典型的には2.5g/cm以上)であって、4.2g/cm以下(典型的には4.0g/cm以下)とすることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の負極は、正極と同様、負極活物質とバインダ等とを混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「負極合材スラリー」という。)を調製する。該スラリーを負極集電体上に付与して負極合材層(負極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
負極合材層を形成する方法としては、上述した正極の場合と同様、負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。
負極集電体の素材としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、あるいはそれらを主体とする合金等が挙げられる。
負極集電体の形状は、正極集電体の形状と同様であり得る。
負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上の材料を特に限定することなく使用することができる。例えば、少なくとも一部に黒鉛構造(層状構造)を含む粒子状の炭素粉末(カーボン粒子)、チタン酸リチウム等の酸化物、スズ(Sn)やケイ素(Si)とリチウムの合金等が挙げられる。炭素粉末としては、黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、またはこれらを組み合わせたもの等を用いることができ、なかでも黒鉛(例えば、天然鉱物から採られた天然黒鉛(石墨)や、石油または石炭系の材料から製造された人造黒鉛)を好ましく使用することができる。負極合材層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、通常は凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ90質量%〜99質量%(例えば凡そ95質量%〜99質量%)である。
バインダとしては、上記正極合材層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを適宜選択することができる。典型的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。負極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば1質量%〜10質量%(好ましくは2質量%〜5質量%)とすることができる。その他、既に上述した分散剤として機能し得る各種のポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等の添加剤や導電材等も使用することができる。
負極合材スラリーの乾燥後、正極の場合と同様に、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極合材層の厚みや密度を調製することができる。負極合材層の密度は、例えば、1.1g/cm以上(典型的には1.2g/cm以上、例えば1.3g/cm以上)であって、1.5g/cm以下(典型的には1.49g/cm以下)とすることができる。
上記正極および負極を積層し、電極体が作製される。かかる電極体の形状は特に限定されないが、例えば、長尺状の正極集電体上に、所定の幅の正極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の正極と、長尺状の負極集電体上に、所定の幅の負極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の負極と、が積層され、長手方向に捲回されてなる捲回電極体を用いることができる。かかる電極体(典型的には、該電極体の中心部分)は、相対的に放熱性が低いため、過充電時において、電流遮断機構を作動させるため(即ち、電池ケース内の内圧上昇を生じさせるため)に必要なガスの発生が抑制されてしまう虞がある。しかし、ここで開示される電池は、広範な温度環境下において安定的に所望のガス量を発生させることができるため、かかる場合においてもより確実に電流遮断機構を作動させることができる。
そして、上記電極体と、電解質と、2種以上の過充電防止剤(即ち、過充電時において、炭酸ガスを発生させ得る脂肪族カルボン酸エステルと、水素ガスを発生させ得る芳香族化合物)とともに適当な電池ケースに収容されることにより、密閉型リチウム二次電池が構築される。なお、該ケースには安全機構として、電流遮断機構(電池の過充電時に、該ガスの発生によって生じたケース内圧の上昇に応じて電流を遮断し得る機構)が備えられている。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池は、電解質中に2種類の過充電防止剤を有しているため、広範な温度環境下において過充電時に所望のガス量を発生させることができる。そして、かかるガスの発生により電池ケース内に圧力上昇が生じるため、電流遮断機構を安定的に作動させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。該セパレータとしては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。なお、かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータの厚みは、特に限定されないが、例えば、5μm〜50μm(典型的には10μm〜40μm、例えば10μm〜30μm)とすることができる。セパレータ(典型的には多孔質樹脂シート)の性状も、特に限定されるものではないが、例えば、孔径が0.01μm〜20μm(典型的には0.1μm〜10μm)程度であり、気孔率(空隙率)が、例えば凡そ20体積%〜90体積%(典型的には30体積%〜80体積%)程度のものを用いることができる。また、固体状の電解質を用いた密閉型リチウム二次電池(リチウムポリマー電池)では、上記電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。
電池ケースとしては、従来のリチウム二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。材質としては、例えばアルミニウム、スチール等の比較的軽量な金属材や、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。また、形状(容器の外形)も特に限定されず、例えば、円筒型、角型、直方体型、コイン型、袋体型等の形状であり得る。
電解質には、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解質と同様の一種または二種以上のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解質は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩(リチウム塩)を含有させた組成を有する。
該非水溶媒としては、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を一種または二種以上、特に制限なく用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なかでもカーボネート類を主体とする非水溶媒が好ましく用いられる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく用いられる。なお、非水溶媒には、典型的には上記過充電防止剤として機能し得る脂肪族カルボン酸エステルを(非水溶媒として)用いることなく調製するが、かかる脂肪族カルボン酸エステルを用いることもできる。かかる場合は、例えば、非水溶媒としての添加量と炭酸ガスを発生させ得る過充電防止剤としての添加量との合計が、(上記電解質100質量%に対して)凡そ1質量%以上(典型的には2質量%以上、例えば3質量%以上、好ましくは5質量%以上)であって、20質量%以下(典型的には15質量%以下、例えば10質量%以下、好ましくは8質量%以下)であることが好ましい。
また該支持塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiCSO、LiC(SOCF、LiClO等が例示される。なかでもLiPFが好ましく用いられる。電解質の濃度は特に制限されないが、電解質の濃度が低すぎると電解質に含まれるリチウムイオンの量が不足し、イオン伝導性が低下する傾向がある。また支持電解質の濃度が高すぎると非水電解質の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下する傾向がある。このため、電解質を凡そ0.1mol/L〜2mol/L(好ましくは、凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質が好ましく用いられる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の電解質には、所定の電池電圧を超えた際に、炭酸ガスを発生させ得る脂肪族カルボン酸エステルと、水素ガスを発生させ得る芳香族化合物とが含有されている。上記脂肪族カルボン酸エステルは、とりわけ高温環境下(典型的には40℃〜70℃、例えば50℃〜60℃)において激しく分解され、大量の炭酸ガスを発生させる。一方、上記芳香族化合物は、主に低温〜中温環境下(例えば、0℃〜40℃)において激しく酸化分解され、大量の水素ガスを生じる。従って、電池ケース内に両者を備えることで、広範な温度環境下において所望のガス量を発生させ得ることができる。
かかる過充電防止剤は、上記電解質中に均一に溶解または分散し得る化合物であって、且つ、酸化電位がリチウム二次電池の稼動電圧以上であって、過充電状態において分解されガスを発生させ得るような物質であれば、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。具体的には、例えば3.0V以上4.1V以下の稼動範囲で電池を用いる場合は、上記稼動上限電圧より0.1V以上高い酸化電位を有していることが好ましい。
脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、一般式:R−COO−Rや、一般式:R−CO−CH3−O−R(ここでR、Rは、互いに独立した水素原子もしくは炭素数1〜10(好ましくは、炭素数1〜6)の直鎖または分岐状のアルキル基である。)で示されるようなエステル化合物が挙げられる。上記化学式においてRで表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。より具体的には、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等のプロピオン酸や、酪酸メチル、酪酸エチル等の酪酸が挙げられ、なかでも保存特性に優れたプロピオン酸メチルを好ましく用いることができる。上記脂肪族カルボン酸エステルは、リチウム二次電池の電解液として用いられる非水溶媒と親和性が高く、電解液中に均一に混合し得る。さらに、該電池に用いられる他の非水溶媒に比べて低粘度、低沸点であることから、電池性能(例えば、低温特性や急速充放電特性)が高く、且つ信頼性の高い電池を得ることができる。
上記芳香族化合物の場合と同様に、電解質中に添加する脂肪族カルボン酸エステルの量は特に限定されないが、過剰量を添加すると電池性能(例えば、高温保存特性)が低下する虞がある。このため、電解質100質量%に対する脂肪族カルボン酸エステルの添加量は、例えば凡そ1質量%以上(典型的には2質量%以上、例えば3質量%以上、好ましくは5質量%以上)であって、20質量%以下(典型的には15質量%以下、例えば10質量%以下、好ましくは8質量%以下)とすることができる。添加量が上記範囲にある場合、優れた電池性能と、本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを高いレベルで両立させることができる。
芳香族化合物としては、例えば、ビフェニル化合物、アルキルビフェニル化合物、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、有機リン化合物、フッ素原子置換芳香族化合物、カーボネート化合物、環状カルバメート化合物、脂環式炭化水素等が挙げられる。より具体的には、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、trans−ブチルシクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミノベンゼン、ターフェニル、2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン、tris−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、フェニルフルオライド、4−フルオロフェニルアセテート、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、ビスターシャリーブチルフェニルカーボネート、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等が挙げられる。なかでも、酸化電位が凡そ4.5〜4.6Vと比較的低い、シクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)等の芳香族化合物は、例えば4.1V〜4.2Vを上限充電電圧とする電池で好ましく用いることができる。
電解質中に添加する芳香族化合物の量は特に限定されないが、添加量が極端に少なすぎる場合は、過充電時におけるガス発生量が少なくなり、電流遮断機構が正常に作動しない虞がある。また安全性を重視するあまり過剰量を添加すると、電池性能が低下(例えば、電池抵抗の増加やサイクル特性の悪化)する虞がある。従って、電解質100質量%に対する芳香族化合物の添加量は、例えば凡そ0.1質量%以上(典型的には0.5質量%以上、例えば1質量%以上)であって、10質量%以下(典型的には7質量%以下、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下)とすることができる。ここで開示される電池では、異なる温度環境下において大量のガスを発生させ得る2種の過充電防止剤を含むため、従来に比べ少ない添加量でも、広範な温度環境下において電流遮断機構を作動させるために必要なガス量を得ることができる。
電流遮断機構としては、電池ケース内の圧力の上昇に応じて(即ち、内圧の上昇を作動のトリガーとして)電流を遮断し得るものであれば特に限定されず、この種の電池に設けられる電流遮断機構として従来知られているいずれかのものと同様の機構を適宜採用することができる。一例として、例えば、後述する図2に示すような構成を好ましく用いることができる。かかる構成では、電池ケースの内圧が上昇した際、電極端子から電極体に至る導電経路を構成する部材が変形し、他方から離隔することにより導電経路を切断するように構成されている。
上記構築した電池の稼動電圧範囲は、該電池の備える構成部材(例えば、活物質や非水溶媒等)により異なるため、特に限定されない。しかし、ここで用いられる脂肪族カルボン酸エステルは比較的酸化電位が低く、凡そ4.2V前後で酸化分解されて炭酸ガスを生じる。このため、該電池の充電上限電圧(稼動上限電圧)は3.0V以上(典型的には3.5V以上、例えば4.0V以上)であって、4.2V未満(典型的には4.1V以下)とすることが好ましい。かかる場合においては、通常使用時における酸化分解(炭酸ガスの発生)が抑制され、必要なとき(即ち、過充電時)にのみ効果的にガスを発生させることができる。
特に限定することを意図したものではないが、本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と、非水電解質とを扁平な直方体形状(箱型)の容器に収容した形態の密閉型リチウム二次電池(単電池)を例とし、図1〜3にその概略構成を示す。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
図1は、本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池100の外形を模式的に示す斜視図である。また図2は、上記図1に示した密閉型リチウム二次電池のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す図である。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る密閉型リチウム二次電池100は、捲回電極体80と、ハードケース(外容器)50とを備える。このハードケース50は、上端が開放された扁平な直方体形状(箱型)のハードケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。ハードケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極シートと電気的に接続する正極端子70および該電極体の負極シートと電気的に接続する負極端子72が設けられている。また、蓋体54には、従来の密閉型リチウム二次電池のハードケースと同様に、電池ケース内部で発生したガスをケースの外部に排出するための安全弁55が備えられている。かかる安全弁55は、典型的には電流遮断機構30の作動する圧力以上で開放されるよう設定されている。
電池ケース50の内部には、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20とが、長尺状のセパレータ40Aと40Bとを介して、扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解質とともに収容される。また、正極シート10は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極合材層14が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体12が露出するよう形成されている。同様に、捲回される負極シート20は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極合材層24が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体22が露出するように形成されている。そして、正極集電体12の該露出端部に正極集電板74が、負極集電体22の該露出端部には負極集電板76がそれぞれ付設されており、上記正極端子70および上記負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
また、電池ケース50の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。電流遮断機構30は、電池ケース50の内圧が上昇した場合に少なくとも一方の電極端子から電極体80に至る導電経路(例えば、充電経路)を切断するように構成されていればよく、特定の形状に限定されない。この実施形態では、電流遮断機構30は、蓋体54に固定した正極端子70と電極体80との間に設けられ、電池ケース50の内圧が上昇した場合に正極端子70から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。
より具体的には、上記電流遮断機構30は、例えば第一部材32と第二部材34とを含み得る。そして、電池ケース50の内圧が上昇した場合に第一部材32および第二部材34の少なくとも一方が変形して他方から離隔することにより上記導電経路を切断するように構成されている。この実施形態では、第一部材32は変形金属板であり、第二部材34は上記変形金属板32に接合された接続金属板である。変形金属板(第一部材)32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子70の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板74が接合され、かかる正極集電板74が電極体80の正極10に接続されている。このようにして、正極端子70から電極体80に至る導電経路が形成されている。
また、電流遮断機構30は、プラスチック等により形成された絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース50の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース50の内部に露出している。この電池ケース50の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース50の内圧が作用する。かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース50の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げは、電池ケース50の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース50の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子70から電極体80に至る導電経路が切断され、過充電電流が遮断されるようになっている。
なお、電流遮断機構30は正極端子70側に限らず、負極端子72側に設けてもよい。また、電流遮断機構30は、上述した変形金属板32の変形を伴う機械的な切断に限定されず、例えば、電池ケース50の内圧をセンサで検知し、該センサで検知した内圧が設定圧力を超えると充電電流を遮断するような外部回路を電流遮断機構として設けることもできる。
図3は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を模式的に示す図である。長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極合剤層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極合剤層24が形成された負極シート20とを、長尺状のセパレータ40Aと40Bとともに重ね合わせて長尺方向に捲回し、捲回電極体を作製する。かかる捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。捲回電極体を備えた電池は、リチウム二次電池の中でも高容量なため、信頼性の向上(例えば、誤作動等が生じた場合の安全対策)が殊に重要である。ここで開示される技術によれば、かかる電池の安全性(例えば、過充電や内部短絡が発生した際の安全性)を従来に比べ向上させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池は、各種用途に利用可能であるが、広範な温度環境下における安全性が向上していることを特徴とする。高容量、高出力の大型電池であって、且つ使用および/または放置環境が高温になり得る場合に特に有効である。例えば、図4に示すような自動車等の車両1に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)としてここで開示される密閉型リチウム二次電池100が好適に使用され得る。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)が挙げられる。また、かかる密閉型リチウム二次電池100は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
以下、具体的な試験例として、ここで開示される手法によって該電池の安全性に相違があるか否かを評価した。なお、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
[密閉型リチウム二次電池の構築]
<例1>
正極活物質粉末としてのLiNi0.33Co0.33Mn0.33Zr0.005粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が凡そ100:5:5となるよう、混練機(プラネタリーミキサー)に投入し、固形分濃度(NV)が凡そ50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、正極合材層形成用のスラリー状組成物(正極合材スラリー)を調製した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、乾燥することで正極合材層を形成した。得られた正極をロールプレスし、幅94mm、長さ4500mmのシート状の正極(正極シート(例1))を作製した。
上記と同様に、負極活物質としての天然黒鉛(粉末)とバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率が凡そ100:7となるよう、混練機(プラネタリーミキサー)に投入し、固形分濃度(NV)が凡そ45質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、負極合材層形成用のスラリー状組成物(負極合材スラリー)を調製した。この負極合材スラリーを、厚み凡そ20μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、乾燥することで負極合材層を形成した。得られた負極をロールプレスし、幅100mm、長さ4700mmのシート状の負極(負極シート)を作製した。
次に、上記作製した正極シートと負極シートとを、2枚のセパレータ(ここでは、ポリエチレン(PE)層の両面にポリプロピレン(PP)層が積層された三層構造であって、厚み20μmのものを用いた。)を介して重ね合わせ、捲回した。得られた捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体を作製した。そして、該電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接によりそれぞれ接合した。
かかる捲回電極体と、非水電解質(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1.0mol/Lの濃度で溶解させ、さらに過充電防止剤としてのビフェニル(BP)とプロピオン酸メチル(MP)を、其々2質量%と5質量%の濃度で含有させた電解質(125g)を用いた。)を角型の電池ケースに収容し、該電池ケースに電流遮断機構(CID)を設置した。なお、ここではCIDの作動圧力を0.7MPaに設定した。かかる電池ケースの開口部に蓋体を装着し、溶接して接合することにより定格容量24Ahの密閉型リチウム二次電池(例1)を構築した。
<例2>
例2では、過充電防止剤として、シクロヘキシルベンゼン(CHB:1質量%)とプロピオン酸エチル(EP:3質量%)を用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例2)を構築した。
<例3>
例3では、過充電防止剤として、BP(3質量%)と、CHB(2質量%)とMP(10質量%)を用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例3)を構築した。
<例4>
例4では、過充電防止剤として、BP(3質量%)と、CHB(2質量%)とMP(15質量%)を用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例4)を構築した。
<例5>
例5では、正極活物質としてLiNi0.33Co0.33Mn0.33を用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例5)を構築した。
<例6>
例6では、後に稼動電圧範囲(充電上限電圧)による差異を見極めるため、例1と同様の密閉型リチウム二次電池を新たに構築した。後々区別するために、該電池を密閉型リチウム二次電池(例6)と称す。
<例7>
例7では、過充電防止剤を含有させなかったこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例7)を構築した。
<例8>
例8では、過充電防止剤として、BP(2質量%)のみを用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例8)を構築した。
<例9>
例8では、過充電防止剤として、MP(5質量%)のみを用いたこと以外は例1と同様に、密閉型リチウム二次電池(例9)を構築した。
<例10>
例10では、正極合材層の作製時に、正極活物質粉末としてのLiNi0.33Co0.33Mn0.33Zr0.005粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、添加剤としての炭酸リチウムとを、これら材料の質量比率が凡そ100:5:5:3となるようを用いたこと以外は例8と同様に、密閉型リチウム二次電池(例10)を構築した。
上記構築した電池の特徴を表1に纏める。
Figure 0005704409
[過充電試験]
上記構築した各電池(例1〜10)に対し、25℃の温度環境下において、コンディショニング処理を行った(ここでは、0.3Cの充電レートで4.1Vまで定電流で充電する操作と、0.3Cの放電レートで3.0Vまで定電流で放電する操作を2回繰り返す初期充放電処理を行った)後に、25℃(低温〜中温域)および60℃(高温域)の温度環境下において、過充電試験を実施した。本例では、先ずコンディショニング処理後の各電池をSOC30%の状態に調整し、かかる電池に対して1Cの充電レート(凡そ24Aの充電電流)で、電圧が20Vになるまで定電流充電を行い、電流遮断機構が正常に作動するか否かを確認した。
得られた測定結果を表2の該当箇所に示す。なお、表2中の「CID作動」の欄は、過充電試験中の各電池の外観を観察し、電池の状態変化(具体的には、急速な温度上昇を伴う電池の発熱やケースの変形等)がなく正常に電流遮断機構が作動した場合に、電流遮断機構が十分迅速に作動したものと判断し、「○」と評価した。
表2に示されるように、ガスの発生温度が異なる2種類の過充電防止剤(即ち、芳香族化合物と脂肪族カルボン酸エステル)の両方を含む例1〜6では、25℃および60℃の温度環境下での過充電試験において、電流遮断機構が正常に作動した。一方、過充電防止剤を添加しなかった例7では25℃、60℃ともに電流遮断機構が作動しなかった。また、過充電防止剤として芳香族化合物のみを含む例8および10では、60℃の環境下において電流遮断機構が正常に働かなかった。これは、芳香族化合物のレドックスシャトル反応が優先的に生じたために、分解反応が抑制されて(即ち、ガス発生量が減少し)、電流遮断機構を作動させるのに十分な内圧上昇が生じなかったためと考えられる。なお、例10では正極合材層内に炭酸ガスを発生し得る炭酸ナトリウムをあらかじめ添加したにもかかわらず、本例ではその効果を認められなかった。さらに、過充電防止剤として脂肪族カルボン酸エステルのみを含む例9では、25℃の環境下において電流遮断機構が正常に働かなかった。これは、低温〜中温環境下(例えば、0℃〜40℃)における脂肪族カルボン酸エステルの酸化分解が生じ難いためと考えられる。かかる結果は、本発明の適用効果(即ち、あらゆる環境下における安定的なガスの発生)を示すものである。さらに、該密閉型リチウム二次電池においては、過充電防止剤の反応効率が高いため、従来に比べ少ない量の過充電防止剤で、高温時においても電流遮断機構を確実に作動させるために必要なガス量を得られるものと考えられる。
[高温保存試験]
上記コンディショニング処理後の各電池について3サイクルの充放電(ここでは、4Aの電流で4.1Vまで定電流で充電する操作と、4Aの電流で3.0Vまで定電流で放電する操作を3回繰り返す充放電)を行った。その後、SOC80%の状態になるよう充電(もしくは放電)操作を行って電圧を調整し、かかる電池を60℃の環境下において480時間(凡そ20日間)保存した。そして、高温保存後の電池について、再び同様の条件で3サイクルの充放電を行った。
得られた結果を表2の該当箇所に示す。容量回復率(%)は、高温保存前の放電容量(A)に対する、高温保存後の放電容量(B)の割合(B/A×100(%))として算出した。
Figure 0005704409
表2に示されるように、過充電防止剤として、芳香族化合物を1質量%〜5質量%と、脂肪族カルボン酸エステルを3質量%〜10質量%とを電解質に添加した、例1〜3では90%以上の優れた高温保存特性を示した。よって過充電防止剤の添加量を上記範囲とすることで、優れた高温保存特性と、本発明の効果(広範な温度環境下における安全性の向上)とを、高いレベルで両立させ得ることが示された。また、充電上限電圧を4.1Vとした場合(例1)は、該電圧を4.2Vとした場合(例6)に比べ1割以上高い高温保存特性を示した。これは、稼動電圧範囲をやや低くしたことで、脂肪族カルボン酸エステルが酸化分解されることを抑制し得たためと考えられる。さらに、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いた例5と、Zrを含むリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いた例1では、例1のほうが優れた高温保存特性を示した。よって、Zrを含有させることで、優れた電池性能と、本発明の効果とを更に高いレベルで両立させ得ることが示された。
また、上記電流遮断機構の作動に関与する2種類のガス(即ち、脂肪族カルボン酸エステルの酸化分解により生ずる炭酸ガスと、芳香族化合物の酸化分解により生ずる水素ガス)の寄与を明らかにするため、上記電流遮断機構を備えた角型の電池とは別に、ガスの発生量を定量するためのラミネートシート型の密閉型リチウム二次電池を構築した。
<例1>
例1のラミネートシート型の電池では、先ず、上記例1にて作製した正極シートと負極シートをそれぞれ凡そ45(mm)×45(mm)の寸法に切断したものを、セパレータ(PE製、47(mm)×47(mm))を介して対面に配置し、電極体を作製した。そして、該電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接によりそれぞれ接合した。かかる電極体を非水電解質(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1.0mol/Lの濃度で溶解し、さらに過充電防止剤としてのビフェニル(BP)とプロピオン酸メチル(MP)を、其々2質量%と5質量%の濃度で含有させた電解質(0.8g)を用いた。)とともにラミネートシートに収容して、ラミネートシート型のリチウム二次電池(例1)を構築し、上記角型電池と同様にコンディショニング処理を行った。
<例10>
例10のラミネートシート型の電池では、上記例10にて作製した正極シート(即ち、正極合材層の作製時に、正極活物質粉末としてのLiNi0.33Co0.33Mn0.33Zr0.005粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、添加剤としての炭酸リチウムとを、これら材料の質量比率が凡そ100:5:5:3となるようを用いたもの)を備え、且つ過充電防止剤として、BP(2質量%)のみを用いたこと以外は例1と同様に、ラミネートシート型のリチウム二次電池(例10)を構築し、上記角型電池と同様にコンディショニング処理を行った。
[過充電試験(ガス発生量の測定)]
上記コンディショニング処理後のラミネートシート型の密閉型リチウム二次電池(例1および10)について、アルキメデス法にてセルの体積を測定した。その後、上記電池を25℃および60℃の環境下において、過充電状態(本例では、SOCが160%の状態。)まで1Cのレートで定電流充電し、再びアルキメデス法にてセルの体積を測定した。そして、過充電後のセルの体積(A(cm))から、コンディショニング処理後のセルの体積(B(cm))を差し引いて、過充電時おけるガス発生量(A−B(cm))を算出した。そして、ラミネートシート内のガスを一般的なガスクロマトグラフ(GC)−質量分析(MS)法によって解析し、該ガスの組成を求めた。得られた結果を、図5に示す。なお、図中に示す破線は、電流遮断機構の作動圧を典型的な値に設定した場合に、該電流遮断機構を作動させるために要するガス量の目安を表す。
なお、アルキメデス法とは、測定対象物(本例では、ラミネートシート型の密閉型リチウム二次電池)を、媒液(例えば、蒸留水やアルコール等)に浸漬し、測定対象物が受ける浮力を測定することにより、該測定対象物の体積を求める手法である。
図5に示す結果より、例1の電池においては、25℃の温度環境下では主に芳香族化合物が、60℃の温度環境下では主に脂肪族カルボン酸エステルが、それぞれ酸化分解されガスを発生させていると考えられた。一方、例10の電池においては、炭酸ガスの発生量は温度環境に依存しなかったが、60℃の温度環境下では水素ガスの発生量が減少したため、電流遮断機構を作動させるために必要な十分な量のガスを得ることができなかった。かかる結果は、本発明と従来技術との作用効果の差異を示すものである。即ち、本発明によって、従来に比べ広範な温度環境下における電池の信頼性(安全性)を向上し得ることが示された。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 自動車(車両)
10 正極シート(正極)
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート(負極)
22 負極集電体
24 負極合材層
30 電流遮断機構(CID)
32 変形金属板(第一部材)
34 接続金属板(第二部材)
38 絶縁ケース
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極集電板
76 負極集電板
80 捲回電極体
100 密閉型リチウム二次電池

Claims (8)

  1. 正極と負極とを備えた電極体と、電解質とが所定の電池ケース内に収容された密閉型リチウム二次電池であって、
    ここで、前記電解質には、
    プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸エチルから選択される少なくとも1種の脂肪族カルボン酸エステルと、
    シクロヘキシルベンゼンおよびビフェニルから選択される少なくとも1種の芳香族化合物と、
    が含まれており、
    前記脂肪族カルボン酸エステルの添加量は、前記電解質100質量%に対して3質量%以上15質量%以下であり、
    前記芳香族化合物の添加量は、前記電解質100質量%に対して1質量%以上5質量%以下であり、
    前記電池ケースは、当該電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構を備えていることを特徴とする、密閉型リチウム二次電池。
  2. 前記脂肪族カルボン酸エステルの添加量が、前記電解質100質量%に対し、質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の密閉型リチウム二次電池。
  3. 前記正極は、正極集電体と、該集電体上に形成された正極活物質を含む正極合材層と、を備えており、
    前記正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含んでいる、請求項1または2に記載の密閉型リチウム二次電池。
  4. 前記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、ニッケル元素、コバルト元素およびマンガン元素のうち少なくとも一部がジルコニウム元素で置換されている、請求項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  5. 前記ジルコニウム元素の量は、上記ジルコニウム元素と上記ニッケル元素と上記コバルト元素と上記マンガン元素の合計100質量%に対し、0.1質量%以上1.0質量%以下である、請求項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  6. 前記電極体は、
    長尺状の正極集電体上に、所定の幅の正極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の正極と、
    長尺状の負極集電体上に、所定の幅の負極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の負極と、を備え、
    前記正極と前記負極とが積層され、長手方向に捲回されてなる捲回電極体である、請求項1からのいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  7. 充電上限電圧が3.0V以上4.1V以下で用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  8. 請求項1からのいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両。
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