JP5141016B2 - 無血清浮遊培養による胚性幹細胞の神経分化誘導法 - Google Patents
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Description
最近、本発明者らは、マウスやサルの胚性幹細胞から高効率で神経細胞へ分化誘導する方法(SDIA法)を開発した(国際公開WO01/088100号パンフレット、国際公開WO03/042384号パンフレット、Kawasakiら,Neuron,vol.28,p.31−40(2000)、Kawasakiら,Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA,vol.99,p.1580−1585(2002)、Mizusekiら,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,vol.100,p.5828−5833(2003)、Ootoら,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,vol.44,p.2689−2693(2003)参照)。この方法を用いて、パーキンソン病の移植治療への応用が期待されるドパミン分泌神経細胞、筋萎縮性側索硬化症への治療応用が想定されている運動ニューロンの試験管内産生にマウス、サルの胚性幹細胞から成功している(国際公開WO01/088100号パンフレット、国際公開WO03/042384号パンフレット、Kawasakiら,Neuron,vol.28,p.31−40(2000)、Kawasakiら,Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA,vol.99,p.1580−1585(2002)、Mizusekiら,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,vol.100,p.5828−5833(2003)、Ootoら,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,vol.44,p.2689−2693(2003)参照)。また、胚性幹細胞から神経細胞を分化誘導する他の方法としては、多段階分化法が知られている(Leeら,Nature Biotech.,vol.18,p.675−679(2000)参照)。
しかしながら、SDIA法、多段階分化法では、ドパミン神経などの中脳組織は効率良く分化誘導できるが、終脳組織等の前脳組織は低効率でしか誘導できなかった。
以上のような背景から、胚性幹細胞から終脳組織等の前脳組織を効率良く分化誘導できる方法の開発が切望されていた。
本発明者らは、SDIA法、多段階分化法により前脳組織、特に終脳組織が低効率でしか分化誘導できなかった理由として、1)SDIA法におけるフィーダー細胞との共培養、2)多段階法における線維芽細胞増殖因子(FGF)の培地への添加、3)胚様体(embryoid body)の血清及びレチノイン酸(RA)処理が、前脳を分化誘導し難い環境を作っているとの仮説をもとに、フィーダー細胞、FGF、血清、RAの非存在下において胚性幹細胞の分化誘導条件を鋭意検討した。その結果、本発明者らは、無血清培地における胚性幹細胞の浮遊凝集体の培養により、ES細胞から神経系細胞を高効率で分化誘導できること、特に、フィーダー細胞、FGF、血清及び/又はRAの非存在下という条件により、並びに他の種々の培養条件を至適化することにより、85〜95%の細胞を神経系細胞に分化誘導できることを見出した。また、同時に、かかる条件下での培養により、終脳組織等の前脳組織及び小脳組織のみならず、感覚器系細胞を効率良く分化誘導することにも成功した。さらに、この方法によれば、誘導源として動物由来細胞を使用することなく胚性幹細胞を分化誘導できるため、胚性幹細胞の培養により得られる細胞の移植が同種移植のリスクレベルまで軽減できる。即ち、本発明は下記の通りである:
(1)無血清培地において胚性幹細胞を浮遊凝集体として培養することを特徴とする、胚性幹細胞の分化誘導方法;
(2)胚性幹細胞の浮遊凝集体がフィーダー細胞の非存在下で培養される、上記(1)の方法;
(3)胚性幹細胞の浮遊凝集体が、Nodalシグナル阻害剤又はWntシグナル阻害剤の存在下で培養される、上記(1)の方法;
(4)胚性幹細胞の浮遊凝集体が、Nodalシグナル阻害剤及びWntシグナル阻害剤の存在下で培養される、上記(1)の方法;
(5)Nodalシグナル阻害剤がLefty−Aである、上記(3)又は(4)の方法;
(6)Wntシグナル阻害剤がDkk1である、上記(3)又は(4)の方法;
(7)無血清培地が、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない培地である、上記(1)の方法;
(8)無血清培地が、FGFを実質的に含有しない培地である、上記(1)又は(2)の方法;
(9)無血清培地が、レチノイン酸を実質的に含有しない培地である、上記(1)又は(2)の方法;
(10)無血清培地が、BMPを実質的に含有しない培地である、上記(1)又は(2)の方法;
(11)培養開始時の胚性幹細胞の濃度が、1×104〜5×105細胞/mlである、上記(1)の方法;
(12)胚性幹細胞の培養が、細胞非接着性培養器中で行われる、上記(1)の方法;
(13)胚性幹細胞の浮遊凝集体が少なくとも5日間培養されることを特徴とする、上記(1)の方法;
(14)神経系細胞の分化誘導方法である、上記(1)の方法;
(15)胚性幹細胞の浮遊凝集体の培養後に、接着培養することをさらに含む、上記(1)の方法;
(16)前脳神経細胞の分化誘導方法である、上記(1)又は(15)の方法;
(17)終脳神経細胞の分化誘導方法である、上記(1)又は(15)の方法;
(18)Shhシグナル促進剤の存在下で培養する、上記(1)又は(15)の方法;
(19)Shhシグナル促進剤がShhである、上記(18)の方法;
(20)腹側終脳神経細胞への分化を促進する方法である、上記(1)又は(15)の方法;
(21)Wntシグナル促進剤の存在下で接着培養を行う、上記(15)の方法;
(22)Wntシグナル促進剤がWnt3aである、上記(21)の方法;
(23)背側終脳神経細胞への分化を促進する方法である、上記(1)又は(15)の方法;
(24)Wntシグナル促進剤及び/又はBMPシグナル促進剤の存在下で培養する、上記(1)の方法;
(25)BMPシグナル促進剤及び/又はFGFの存在下で培養する、上記(1)の方法;
(26)小脳神経細胞の分化誘導法である、上記(1)、(24)又は(25)の方法;
(27)小脳顆粒細胞又は小脳プルキンエ細胞の分化誘導法である、上記(1)、(24)又は(25)の方法;
(28)無血清培地における胚性幹細胞の浮遊凝集体の培養中に血清を添加することを特徴とする、上記(1)の方法;
(29)Shhシグナル促進剤の存在下で培養する、上記(28)の方法;
(30)Nodalシグナル促進剤の存在下で培養する、上記(28)又は(29)の方法;
(31)Wntシグナル阻害剤及び/又はNodalシグナル阻害剤の存在下で培養する、上記(28)又は(29)の方法;
(32)Lefty−A、Dkk1及びアクチビンの存在下で培養する、上記(28)の方法;
(33)感覚器系細胞の分化誘導法である、上記(28)の方法;
(34)網膜系細胞の分化誘導法である、上記(32)の方法;
(35)無血清培地において胚性幹細胞を浮遊凝集体として培養することにより得られる、胚性幹細胞の浮遊凝集体;
(36)上記(1)〜(34)のいずれかの方法により得られうる細胞培養物;
(37)ES細胞から分化誘導された小脳神経細胞;
(38)小脳顆粒細胞である、上記(37)の細胞;
(39)小脳プルキンエ細胞である、上記(37)の細胞;
(40)ES細胞から分化誘導された、視細胞への分化能を有する網膜系細胞。
本発明は、神経系細胞、感覚器系細胞を効率的に分化誘導できるため神経変性疾患、感覚器疾患等に対する細胞治療の応用という観点から有用である。本発明はまた、従来の分化法では困難であった前脳組織(特に終脳組織)を効率的に分化誘導でき、また、従来成功し得なかった小脳組織の分化誘導を可能とするとともに、視神経に効率良く分化され得る網膜組織の分化誘導を可能とするため、前脳組織、小脳組織、網膜組織等の組織に異常がある疾患に対する細胞治療の応用という観点から特に有用である。本発明はさらに、誘導源として動物由来細胞を使用することなく胚性幹細胞を分化誘導でき、胚性幹細胞の培養により得られる細胞の移植を同種移植のリスクレベルまで軽減できるため有用である。
(1.胚性幹細胞)
「胚性幹細胞(ES細胞)」とは、インビトロにおいて培養することが可能で、かつ、生体を構成するすべての細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。
胚性幹細胞としては、例えば温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトが挙げられる。
具体的には、本発明の方法で用いられる胚性幹細胞としては、例えば、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等の胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞I」と省略)、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞II」と省略)、および胚性幹細胞I又はIIの胚性幹細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変した胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞III」と省略)が挙げられる。
より具体的には、胚性幹細胞Iとしては、初期胚を構成する内部細胞塊より樹立された胚性幹細胞、始原生殖細胞から樹立されたEG細胞、着床以前の初期胚の多分化能を有する細胞集団(例えば、原始外胚葉)から単離した細胞、あるいはその細胞を培養することによって得られる細胞などが挙げられる。
胚性幹細胞Iは、着床以前の初期胚を、文献(Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994))に記載された方法に従って培養することにより調製することができる。
胚性幹細胞IIは、例えば、Wilmutら(Nature,385,810(1997))、Cibelliら(Science,280,1256(1998))、入谷明ら(蛋白質核酸酵素,44,892(1999))、Baguisiら(Nature Biotechnology,17,456(1999))、Wakayamaら(Nature,394,369(1998);Nature Genetics,22,127(1999);Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,14984(1999))、RideoutIIIら(Nature Genetics,24,109(2000))等によって報告された方法を用いることにより、例えば以下のように作製することができる。
哺乳類動物細胞の核を摘出後初期化(核を再び発生を繰り返すことができるような状態に戻す操作)し、除核した哺乳動物の未受精卵に注入する方法を用いて発生を開始させ、発生を開始した卵を培養することによって、他の体細胞の核を有し、かつ正常な発生を開始した卵が得られる。
体細胞の核を初期化する方法としては複数の方法が知られている。例えば、核を提供する側の細胞を培養している培地を、5〜30%、好ましくは10%の仔ウシ胎児血清を含む培地(例えば、M2培地)から3〜10日、好ましくは5日間、0〜1%、より好ましくは0.5%の仔ウシ胎児血清を含む貧栄養培地に変えて培養することで細胞周期を休止期状態(G0期もしくはG1期)に誘導することで初期化することができる。
また、同種の哺乳動物の除核した未受精卵に、核を提供する側の細胞の核を注入し、数時間、好ましくは約1〜6時間培養することで初期化することができる。
初期化された核は除核された未受精卵中で発生を開始することが可能となる。初期化された核を除核された未受精卵中で発生を開始させる方法としては複数の方法が知られている。細胞周期を休止期状態(G0期もしくはG1期)に誘導し初期化した核を、電気融合法などによって同種の哺乳動物の除核した未受精卵に移植することで卵子を活性化し発生を開始させることができる。
同種の哺乳動物の除核した未受精卵に核を注入することで初期化した核を、再度マイクロマニピュレーターを用いた方法などによって同種の哺乳動物の除核した未受精卵に移植し、卵子活性化物質(例えば、ストロンチウムなど)で刺激後、細胞分裂の阻害物質(例えば、サイトカラシンBなど)で処理し第二極体の放出を抑制することで発生を開始させることができる。この方法は、哺乳動物が、例えばマウスなどの場合に好適である。
いったん発生を開始した卵が得られれば、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)等に記載の公知の方法を用い、胚性幹細胞を取得することができる。
胚性幹細胞IIIは、例えば、相同組換え技術を用いることにより作製できる。胚性幹細胞IIIの作製に際して改変される染色体上の遺伝子としては、例えば、組織適合性抗原の遺伝子、神経系細胞の障害に基づく疾患関連遺伝子などがあげられる。染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)等に記載の方法を用い、行なうことができる。
具体的には、例えば、改変する標的遺伝子(例えば、組織適合性抗原の遺伝子や疾患関連遺伝子など)のゲノム遺伝子を単離し、単離したゲノム遺伝子を用いて標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。作製したターゲットベクターを胚性幹細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択することにより、染色体上の遺伝子を改変した胚性幹細胞を作製することができる。
標的遺伝子のゲノム遺伝子を単離する方法としては、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)やCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)等に記載された公知の方法があげられる。また、ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems製)やUniversal GenomeWalkerTM Kits(CLONTECH製)などを用いることにより、標的遺伝子のゲノム遺伝子を単離することができる。
標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターの作製、及び相同組換え体の効率的な選別は、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)等に記載の方法にしたがって作製することができる。なお、ターゲットベクターは、リプレースメント型、インサーション型いずれでも用いることができ、また、選別方法としては、ポジティブ選択、プロモーター選択、ネガティブ選択、ポリA選択などの方法を用いることができる。
選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法やPCR法等があげられる。
また、胚性幹細胞は、所定の機関より入手でき、また、市販品を購入することもできる。例えば、ヒト胚性幹細胞であるKhES−1、KhES−2及びKhES−3は、京都大学再生医科学研究所より入手可能である。
胚性幹細胞は、自体公知の方法により維持培養できる。例えば、胚性幹細胞は、ウシ胎児血清(FCS)、KnockoutTM Serum Replacement(KSR)、LIFを添加した無フィーダー細胞による培養により維持できる。
(2.本発明の方法により胚性幹細胞から分化誘導可能な細胞)
本発明の方法により、胚性幹細胞の分化細胞を得ることができる。胚性幹細胞の分化細胞は、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、外胚葉系細胞のいずれであってもよいが、好ましくは外胚葉系細胞である。外胚葉系細胞としては、例えば、神経系細胞、表皮系細胞、感覚器系細胞、色素細胞、神経堤由来間葉細胞が挙げらる。
本発明の方法により得られた細胞がいずれの細胞であるかは、自体公知の方法、例えば細胞マーカーの発現により確認できる。例えば、本発明の方法により得られた細胞が内胚葉系細胞又は中胚葉系細胞であるか否かは、内胚葉系細胞マーカー(例えば、Sox17、AFP)、中胚葉系細胞マーカー(例えば、Brachyury、Flk1、Mox)の発現により確認できる。
本発明の方法により得られた細胞が外胚葉系細胞であるか否かは、例えば、神経系細胞マーカーの発現により確認できる。神経系細胞マーカーとしては、例えば、NCAM、TuJ1、チロシン水酸化酵素(TH)、セロトニン、ネスチン、MAP2、MAP2ab、NeuN、GABA、グルタメート、ChAT、Sox1が挙げられる。
また、本発明の方法により得られた細胞が外胚葉系細胞であるか否かは、表皮系細胞マーカー(例えば、サイトケラチン)、感覚器系細胞マーカー(例えば、RPE、ロドプシン)、色素細胞マーカー(例えば、TRP−1)、神経堤由来間葉系細胞マーカー(例えば、SMA)の発現により確認することもできる。
以下、本発明の方法により分化誘導可能な外胚葉系細胞の例として、神経系細胞、感覚器系細胞について詳述する。
(2.1.神経系細胞)
本発明の方法により得られる神経系細胞としては、例えば、神経幹細胞、神経細胞、神経管の細胞、神経堤の細胞などが挙げられる。
神経幹細胞とは、神経細胞、アストロサイト(astrocyte)およびオリゴデンドロサイト(oligodendrocyte)に分化しうる能力を有し、かつ自己複製能力を有する細胞をいい、脳内において神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを供給する機能を有している。従って、神経幹細胞であることを確認する方法としては、実際に脳に移植してその分化能を確認する方法、インビトロで神経幹細胞を神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化誘導させて確認する方法などが挙げられる(Mol.Cell.Neuroscience,8,389(1997);Science,283,534(1999))。また、このような機能を有した神経幹細胞は、神経前駆細胞での発現が確認されているマーカーである細胞骨格蛋白質ネスチンを認識する抗ネスチン抗体で染色可能である(Science,276,66(1997))。従って抗ネスチン抗体で染色することにより神経幹細胞を確認することもできる。
神経細胞(neuron)とは、他の神経細胞あるいは刺激受容細胞からの刺激を受け別の神経細胞、筋あるいは腺細胞に刺激を伝える機能を有する細胞をいう。
神経細胞は、神経細胞が産生する神経伝達物質の違いにより分類でき、例えば、分泌する神経伝達物質などの違いで分類されている。これらの神経伝達物質で分類される神経細胞としては、例えば、ドパミン分泌神経細胞、アセチルコリン分泌神経細胞、セロトニン分泌神経細胞、ノルアドレナリン分泌神経細胞、アドレナリン分泌神経細胞、グルタミン酸分泌神経細胞などがあげられる。ドパミン分泌神経細胞、ノルアドレナリン分泌神経細胞、アドレナリン分泌神経細胞を総称してカテコールアミン分泌神経細胞と呼ぶ。
あるいは、本発明の方法により得られる神経幹細胞、神経細胞等の神経系細胞は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる神経系細胞は、高頻度、例えば約80%以上、好ましくは約80〜90%の頻度で、Sox1陽性である。また、本発明の方法により得られる神経系細胞は、後述する前脳神経細胞マーカー、小脳神経細胞マーカーが陽性であることを特徴とする。
別の観点では、神経細胞は、神経細胞が存在する部位の違いにより分類できる。これらの存在部位で分類される神経細胞としては、例えば、前脳神経細胞、中脳神経細胞、小脳神経細胞、後脳神経細胞、脊髄神経細胞などが挙げられる。本発明の方法はこれら任意の神経細胞を分化誘導できるが、なかでも、前脳神経細胞、小脳神経細胞を効率的に分化誘導できる。以下、前脳神経細胞、小脳神経細胞について詳述する。
(2.1.1.前脳神経細胞)
本発明の方法によれば、神経細胞として前脳神経細胞、特に終脳神経細胞がより効率的に分化誘導できる。前脳神経細胞とは、前脳組織(即ち、終脳及び間脳から構成される組織)に存在する神経細胞、あるいは前脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。前脳神経細胞は、終脳神経細胞、間脳神経細胞(例えば、視床細胞、視床下部細胞)に分類できる。終脳神経細胞はさらに、背側細胞(例えば、大脳皮質細胞)、腹側細胞(例えば、大脳基底核細胞)に分類できる。
本発明の方法により得られた細胞が前脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、前脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。前脳神経細胞マーカーとしては、Otx1(前脳)、Bf1(終脳)、Emx1(終脳背側)、Gsh2及びNkx2.1(終脳腹側)などが挙げられる。
本発明の方法によれば、前脳神経細胞のなかでも終脳神経細胞を効率的に分化誘導できる。
一つの局面では、本発明の方法は、終脳神経細胞のなかでも、腹側終脳神経細胞を効率的に分化誘導でき、また逆に、腹側前脳神経細胞への分化を抑制することができる。腹側終脳神経細胞とは、腹側終脳組織に存在する神経細胞、あるいは腹側終脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。腹側終脳組織としては、例えば、大脳基底核が挙げられる。
本発明の方法により得られた細胞が腹側終脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、腹側終脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。腹側終脳神経細胞マーカーとしては、例えば、大脳基底核神経細胞マーカー(例えば、Gsh2、Mash1)、視床下部神経細胞マーカー(例えば、Nkx2.1、Nkx2.2)が挙げられる。
別の局面では、本発明の方法は、終脳神経細胞のなかでも、背側終脳神経細胞を効率的に分化誘導でき、また逆に、背側前脳神経細胞への分化を抑制することができる。背側終脳神経細胞とは、背側終脳組織に存在する神経細胞、あるいは背側終脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。背側終脳組織としては、例えば、大脳皮質が挙げられる。
本発明の方法により得られた細胞が背側終脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、背側終脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。背側終脳神経細胞マーカーとしては、例えば、大脳皮質神経細胞マーカー(例えば、Pax6、Emx1)が挙げられる。
あるいは、別の観点では、本発明の方法により得られる前脳神経細胞(特に、終脳神経細胞)は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる前脳神経細胞は、高頻度、例えば約10%以上、好ましくは約10〜50%、より好ましくは約10%〜30%の頻度で、Bf1陽性である。従来のSDIA法では、約1%の頻度でしか、胚性幹細胞からBf1+細胞を分化誘導できなかったが、本発明の方法により、高頻度でBf1+細胞を得ることが可能となった。
本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約20%以上、好ましくは約20〜80%、より好ましくは約20〜50%の細胞が、Gsh陽性であり得る。また、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約5%以上、好ましくは約5〜50%、より好ましくは約5〜20%の細胞が、Nkx2.1陽性であり得る。さらに、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約10%以上、好ましくは約10〜90%、より好ましくは約10〜50%の細胞が、Pax陽性であり得る。また、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約5%以上、好ましくは約5〜50%、より好ましくは約5〜20%、最も好ましくは約10〜20%の細胞が、Emx1陽性であり得る。
(2.1.2.小脳神経細胞)
本発明の方法によれば、神経細胞として小脳神経細胞が効率的に分化誘導できる。小脳神経細胞とは、小脳組織に存在する神経細胞、あるいは小脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。小脳神経細胞としては、例えば、小脳顆粒細胞、プルキンエ細胞、これら細胞の前駆細胞が挙げられる。小脳神経細胞の分化誘導に成功したという報告はこれまでになされていなかったが、本発明の方法により、小脳神経細胞を得ることが可能となった。
本発明の方法により得られた細胞が小脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、小脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。小脳神経細胞マーカーとしては、例えば、小脳顆粒細胞マーカー(例えば、Math1、Pax6、Zic1)、プルキンエ細胞マーカー(例えば、L7)が挙げられる。
また、本発明の方法により得られた細胞が小脳神経細胞であるか否かは、その表現型により確認できる。例えば、得られた細胞が小脳顆粒細胞であるか否かは、平行線維軸索に接着して移動可能であること、及び/又はT型の軸索が伸長していることを識別することで確認できる。
あるいは、本発明の方法により得られる小脳神経細胞は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる小脳神経細胞は、高頻度、例えば30%以上、好ましくは約30〜60%、より好ましくは約40%〜50%の頻度で、Math1陽性である。
本発明の方法により得られるMath1+細胞のうち、例えば約40%以上、好ましくは約40〜60%、より好ましくは約50%の細胞が、Pax6及び/又はZic1陽性であり得る。また、本発明の方法により得られるMath1+細胞のうち、例えば約40%以上、好ましくは約40〜80%、より好ましくは約50〜60%の細胞が、Ki67陽性であり得る。
(2.2.感覚器系細胞)
本発明の方法によれば、胚性幹細胞から感覚器系細胞が効率的に分化誘導できる。感覚器系細胞とは、感覚器に存在する神経細胞、あるいは感覚器に存在する細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。本発明の方法により得られる感覚器系細胞としては、網膜細胞、嗅上皮細胞、内耳有毛細胞が挙げられる。
本発明の方法により得られた細胞が感覚器系細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、感覚器系細胞マーカーの発現により確認できる。感覚器系細胞マーカーとしては、例えば、Rx(網膜前駆細胞)、Crx(視細胞)、ロドプシン(視細胞)が挙げられる。
本発明の方法によれば、感覚器系細胞のなかでも網膜系細胞(即ち、網膜細胞又はその前駆細胞)を効率的に分化誘導できる。
あるいは、本発明の方法により得られる感覚器系細胞は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる感覚器系細胞は、高頻度、例えば5%以上、好ましくは約5〜20%、より好ましくは約10%〜15%の頻度で、Rx陽性である。
本発明の方法により得られるRx+細胞のうち、例えば約1%以上、好ましくは約1〜10%、より好ましくは約1〜5%の細胞が、Crx及び/又はロドプシン陽性であり得る。
本発明の方法により得られる網膜系細胞は、網膜組織との組織培養により、視細胞に効率良く分化し、例えば約10%以上、好ましくは約10%〜30%(例、約20%)のロドプシン陽性率を示し得る。本発明の方法により得られる網膜系細胞はまた、視細胞層内への侵入能を有し、視細胞内に侵入した細胞の約30%以上、例えば約30%〜50%(例、約40%)がロドプシン陽性であり得、さらに、外節構造などの視細胞特異的な形態を示し得る。
(3.無血清培地における胚性幹細胞の浮遊凝集体の培養方法)
胚性幹細胞を「浮遊凝集体として培養する」とは、集合し塊を形成した胚性幹細胞群を、培養培地中において、細胞培養器に対し非接着性の条件下で培養することをいう。以下、このような培養を、必要に応じて浮遊培養と省略する。
胚性幹細胞を浮遊培養する場合、浮遊凝集体の形成をより容易にするため、並びに/あるいは、効率的な分化誘導(例えば、神経系細胞、感覚器系細胞等の外胚葉系細胞への分化誘導)のために、フィーダー細胞の非存在下で培養を行うのが好ましい。
浮遊培養で用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
胚性幹細胞を浮遊培養する場合、培地としては無血清培地が用いられる。ここで、無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。
浮遊培養で用いられる無血清培地は、例えば、血清代替物を含有するものであり得る。血清代替物は、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、knockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutmax(Gibco社製)が挙げられる。
また、本発明の方法で用いられる無血清培地は、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有できる。例えば、2−メルカプトエタノールは、胚性幹細胞の培養に適する濃度で使用される限り限定されないが、例えば約0.05〜1.0mM、好ましくは約0.1〜0.5mM、より好ましくは約0.2mMの濃度で使用できる。
浮遊培養に用いられる無血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。しかしながら、調製の煩雑さを回避するという観点からは、かかる無血清培地として、市販のKSRを適量(例えば、1−20%)添加した無血清培地(GMEM又はdMEM、0.1mM 2−メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸Mix、1mMピルビン酸ナトリウム)を使用できる。
浮遊培養で用いられる培養器は、細胞の浮遊培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
胚性幹細胞を浮遊培養する場合、培養器は細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないものを使用できる。
培養開始時の胚性幹細胞の濃度は、胚性幹細胞の浮遊凝集体をより効率的に形成させるように適宜設定できる。培養開始時の胚性幹細胞の濃度は、胚性幹細胞の浮遊凝集体を形成可能な濃度である限り特に限定されないが、例えば、約1×104〜約5×105細胞/ml、好ましくは約3×104〜約1×105細胞/mlであり得る。
浮遊培養における培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。
具体的には、浮遊培養としては、例えば、胚性幹細胞の維持培養後、分散処理した胚性幹細胞を適切な培地(例えば、Glasgow MEM培地500mlに5%のKSR、100×非必須アミノ酸溶液5ml、100×ピルビン酸5mlおよび1×10−1M 2−メルカプトエタノール0.5mlを添加した培地。必要に応じて後述する因子などを適量含んでいてもよい。)に懸濁し、細胞非接着性の培養器に、1×104〜5×106細胞/mlの細胞濃度で播種し、例えば、少なくとも5日間37℃で5%の二酸化炭素を通気したCO2インキュベーターにて培養する方法が挙げられる。
浮遊培養後、凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)し、次いで細胞を接着条件下でさらに培養できる(以下、必要に応じて接着培養と省略)。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリックス等(例えば、ポリDリジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。また、接着培養における培養温度、CO2濃度等の培養条件は、当業者であれば容易に決定できる。
浮遊培養及び接着培養では、既知の分化誘導物質を併用できる。例えば、胚性幹細胞から神経系細胞を分化誘導する場合には、既知の神経系細胞への分化誘導物質を併用できる。このような分化誘導物質としては、例えば、NGF(Biochem.Biophys.Res.Commun.,199,552(1994))、レチノイン酸(Dev.Biol.,168,342(1995);J.Neurosci.,16,1056(1996))、BMP阻害因子(Nature,376,333−336(1995))、IGF(Genes & Development,15,3023−8(2003))が挙げられる。また、胚性幹細胞から感覚器系細胞を分化誘導する場合には、既知の感覚器系細胞への分化誘導物質を併用できる。このような分化誘導物質としては、例えば、FGF、Shh、血清などが挙げられる。
上述した浮遊培養法、及び浮遊培養と接着培養との組合せ法によれば、培養期間等を適宜設定することで、胚性幹細胞から外胚葉系細胞等の分化細胞を得ることができる。しかしながら、後述する方法論を適宜さらに組合せることで、神経系細胞、感覚器系細胞をより効率的に分化誘導できる。
(3.1.神経系細胞の分化誘導)
神経系細胞として前脳神経細胞、小脳神経細胞の分化誘導を例に挙げ、より好適な浮遊培養を行うために組合せるべき方法論を以下詳述する
(3.1.1.前脳神経細胞の分化誘導)
前脳神経細胞は、上述した浮遊培養により、又は必要に応じて上述した浮遊培養と接着培養との組合せにより胚性幹細胞から分化誘導できる。好ましくは、前脳神経細胞の分化効率の向上・安定化等の観点から、以下に述べる方法論を併用できる。
一つの方法論は、線維芽細胞増殖因子(FGF)、レチノイン酸(RA)及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てを実質的に含有しない無血清培地、あるいはFGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが実質的に不活化された無血清培地における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に終脳神経細胞)への分化を促進する場合に有用である。
BMPシグナル促進剤は、BMPにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。BMPシグナル促進剤としては、例えば、BMPファミリーに属する蛋白(例えば、BMP2、BMP4、BMP7、GDF)、BMP受容体、Smad蛋白が挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないBMPシグナル促進剤は、BMP4である。
FGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てを実質的に含有しない無血清培地とは、FGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てを全く含有しない無血清培地、あるいは胚性幹細胞の浮遊凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養(例えば、分化誘導を目的とする培養)に不利な影響を与えない程度の量でこれら因子を含有する無血清培地をいう。かかる無血清培地は、例えば、培地成分としての上記因子の未添加、または上記因子を含有する培地からの上記因子の除去処理(例えば、抗FGF抗体、抗RA抗体、抗BMP抗体の使用)により調製できる。
FGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが実質的に不活化された無血清培地とは、上記因子を含有する無血清培地に対する阻害剤の添加により、胚性幹細胞の浮遊凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養に不利な影響を与えない程度にまでFGF、RA及びBMPシグナル促進剤の活性が喪失した無血清培地をいう。かかる無血清培地は、FGF、RA、BMPシグナル促進剤に対する阻害剤を適量培地に添加することで適宜調製できる。FGF阻害剤としては、例えば、抗FGF抗体、可溶型FGF受容体、FGF受容体阻害剤(例えば、Su5402)が挙げられる。RA阻害剤としては、例えば、抗RA抗体、可溶型RA受容体、RA受容体阻害剤が挙げられる。BMPシグナル阻害剤としては、例えば、抗BMP抗体、可溶型BMP受容体、BMP受容体阻害剤が挙げられる。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養において、FGF、RA、BMPシグナル促進剤を含有する無血清培地、あるいはFGF、RA、BMPシグナル促進剤が不活化されていない無血清培地を使用することも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、これら培養条件を切り替えることも可能である。
別の方法論は、Nodalシグナル阻害剤及び/又はWntシグナル阻害剤の存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に終脳神経細胞)への分化効率を向上・安定化させる場合に有用である。また、Nodalシグナル阻害剤、Wntシグナル阻害剤の併用により、さらに著しい効果が期待できる。
Nodalシグナル阻害剤は、Nodalにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Nodalシグナル阻害剤としては、例えば、Lefty−A、Lefty−B、Lefty−1、Lefty−2、可溶型Nodal受容体、Nodal抗体、Nodal受容体阻害剤が挙げられるが、なかでも、Lefty−Aが好ましい。
浮遊培養に用いられるNodalシグナル阻害剤の濃度は、浮遊凝集体の神経分化促進、あるいは上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばLeftyについては約0.1〜100μg/ml、好ましくは約0.5〜50μg/ml、より好ましくは約1.0〜10μg/ml、最も好ましくは約5μg/mlであり得る。
Nodalシグナル阻害剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後(例えば、培養10日以内の時期)に培地に添加してもよい。好ましくは、Nodalシグナル阻害剤は、培養5日以内の時期に培地に添加される。
Wntシグナル阻害剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル阻害剤としては、例えば、Dkk1、Cerberus蛋白、Wnt受容体阻害剤、可溶型Wnt受容体、Wnt抗体、カゼインキナーゼ阻害剤、ドミナントネガティブWnt蛋白が挙げられるが、なかでも、Dkk1又はCerberus蛋白が好ましい。
浮遊培養に用いられるWntシグナル阻害剤の濃度は、浮遊凝集体の神経分化促進、あるいは上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばDkk1については約0.05〜20μg/ml、好ましくは約0.1〜10μg/ml、より好ましくは約0.5〜5.0μg/ml、最も好ましくは約1μg/mlであり得る。
Wntシグナル阻害剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後(例えば、培養10日以内の時期)に培地に添加してもよい。好ましくは、Wntシグナル阻害剤は、培養5日以内の時期に培地に添加される。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Nodalシグナル阻害剤及び/又はWntシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、これら培養条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地、あるいはNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤が実質的に不活化された無血清培地における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に終脳神経細胞)への分化を促進する場合に有用である。
Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地とは、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を全く含有しない無血清培地、あるいは胚性幹細胞の浮遊凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養(例えば、分化誘導を目的とする培養)に不利な影響を与えない程度の量のNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を含有する無血清培地をいう。Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地は、例えば、培地成分としてのNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の未添加、またはNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤含有培地からのNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の除去処理により調製できる。
また、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤が実質的に不活化された無血清培地とは、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤含有無血清培地に対するNodalシグナル阻害剤及び/又はWntシグナル阻害剤の添加により、胚性幹細胞の浮遊凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養に不利な影響を与えない程度にまでNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の活性が喪失した無血清培地をいう。
Nodalシグナル促進剤は、Nodalにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Nodalシグナル促進剤としては、例えば、Nodal、TGFβファミリーに属する蛋白(例えば、アクチビン)、Smad蛋白、活性型Nodal受容体が挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないNodalシグナル促進剤は、Nodalである。
Wntシグナル促進剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル促進剤としては、例えば、Wntファミリーに属する蛋白(例えば、Wnt1〜16)、GSK3阻害剤、Wnt受容体、Li+イオンが挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないWntシグナル促進剤は、Wnt3aである。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、これら培養条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、浮遊培養を少なくとも5日間継続することである。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に終脳神経細胞)への分化を促進する場合に有用である。なお、5日未満の培養であっても勿論、前脳神経細胞を、従来法に比べ効率的に分化誘導できることは云うまでもない。
さらに別の方法論は、Shhシグナル促進剤の存在下における胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、腹側終脳神経細胞への分化を促進する場合、背側終脳神経細胞への分化を抑制する場合に有用である。
Shhシグナル促進剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル促進剤としては、例えば、Hedgehogファミリーに属する蛋白(例えば、Shh)、Shh受容体、Shh受容体アゴニストが挙げられるが、なかでも、Shhが好ましい。
浮遊培養に用いられるShhシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えば約1.0〜1000nM、好ましくは約5.0〜500nM、より好ましくは約10〜500nM、最も好ましくは約30〜300nMであり得る。
Shhシグナル促進剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、例えば浮遊培養2日後以降、好ましくは浮遊培養4日後以降に培地に添加できる。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Shhシグナル促進剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、Shhシグナル阻害剤の存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。Shhシグナル促進剤の添加により、胚性幹細胞の腹側前脳神経細胞への分化が促進されること、胚性幹細胞の背側前脳神経細胞への分化が抑制されること等が予想される。従って、Shhシグナル阻害剤を用いれば、腹側前脳神経細胞分化の抑制、背側前脳神経細胞分化の促進等の効果が期待できると考えられる。
Shhシグナル阻害剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル阻害剤としては、例えば、Shhシグナル促進剤に対する抗体、Shhシグナル促進剤のドミナントネガティブ変異体、可溶型Shh受容体、Shh受容体アンタゴニストが挙げられるが、なかでも、Shh抗体、Shhドミナントネガティブ変異体が好ましい。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Shhシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、胚性幹細胞の浮遊培養後に接着培養を行うことである。凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)後に、細胞を接着培養に供することができる。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリックス等(例えば、ポリDリジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。接着培養は、例えば1日以上、好ましくは1〜14日、より好ましくは2〜5日行うことができる。
さらに別の方法論は、浮遊培養後の接着培養を、Wntシグナル促進剤の存在下で行うことである。かかる方法論は、例えば、背側終脳神経細胞への分化を促進する場合、腹側終脳神経細胞への分化を抑制する場合に有用である。
浮遊培養後の接着培養に用いられるWntシグナル促進剤としては、例えば、Wntファミリーに属する蛋白(例えば、Wnt3a)、GSK3阻害剤、Wnt受容体、Li+イオンなどが挙げられるが、なかでもWnt3aが好ましい。
浮遊培養後の接着培養に用いられるWntシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度である限り限定されないが、例えば、Wnt3aについては約0.1〜500ng/ml、好ましくは約1.0〜100ng/ml、より好ましくは約5.0〜50ng/ml、最も好ましくは約50ng/mlであり得る。
Wntシグナル促進剤は、接着培養開始時に既に培地に添加されてもよく、接着培養直後から数日後(例えば、接着培養開始4日以降、または接着培養10日以内の期間)に培地に添加してもよい。好ましくは、Wntシグナル促進剤は、接着培養5日以内の時期に培地に添加される。
上述した各種方法論は、前脳神経細胞、あるいは特定の前脳神経細胞(例えば、終脳神経細胞、腹側終脳神経細胞、背側終脳神経細胞)を効率的に得るために適宜組合せることができる。例えば、同一の効果を奏する方法論を組合せることで、より優れた効果が期待できる。
(3.1.2.小脳神経細胞の分化誘導)
小脳神経細胞は、上述した浮遊培養により、又は必要に応じて上述した浮遊培養と接着培養との組合せにより胚性幹細胞から分化誘導できる。好ましくは、小脳神経細胞の分化効率の向上等の観点から、以下に述べる方法論を併用できる。
一つの方法論は、FGF及び/又はRAを実質的に含有しない無血清培地、あるいはFGF及び/又はRAが実質的に不活化された無血清培地における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、小脳神経細胞への分化を促進する場合に有用である。なお、本方法論の詳細は上述した通りである。
別の方法論は、浮遊培養を少なくとも5日間継続することである。かかる方法論は、例えば、小脳神経細胞への分化を促進する場合に有用である。なお、5日未満の培養であっても勿論、小脳神経細胞を、従来法に比べ効率的に分化誘導できることは云うまでもない。
また別の方法論は、Wntシグナル促進剤の存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、小脳神経細胞、及び特定の小脳神経細胞(例えば、小脳顆粒細胞、小脳プルキンエ細胞)への分化を促進する場合に有用である。なお、Wntシグナル促進剤は上記と同様である。
浮遊培養に用いられるWntシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばWnt3aについては約0.1〜1000ng/ml、好ましくは約1.0〜100ng/ml、より好ましくは約2.0〜50ng/ml、最も好ましくは約5.0〜50ng/mlであり得る。
Wntシグナル促進剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後に培地に添加してもよい。例えば、Wntシグナル促進剤は、培養5〜10日、好ましくは5〜8日の時期に培地に添加される。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Wntシグナル促進剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、これら培養条件を切り替えることも可能である。
さらに別の方法論は、BMPシグナル促進剤の存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、小脳神経細胞、及び特定の小脳神経細胞(例えば、小脳顆粒細胞、小脳プルキンエ細胞)への分化を促進する場合に有用である。なお、BMPシグナル促進剤は上記と同様である。
浮遊培養に用いられるBMPシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばBMP4については約0.01〜100nM、好ましくは約0.05〜10nM、より好ましくは約0.1〜1.0nM、最も好ましくは約0.5〜1.0nMであり得る。
BMPシグナル促進剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後に培地に添加してもよい。例えば、BMPシグナル促進剤は、培養5〜10日、好ましくは5〜8日の時期に培地に添加される。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、BMPシグナル促進剤の非存在下で行うことも可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。
また、小脳神経細胞、特に小脳顆粒細胞、小脳プルキンエ細胞への効率的な分化を可能とするため、上記2つの方法論を組合せることができる。即ち、Wntシグナル促進剤及びBMPシグナル促進剤の存在下における胚性幹細胞の浮遊培養もまた好ましい。
また別の方法論は、FGFの存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。FGFは、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後に培地に添加してもよい。例えば、FGFは、培養4〜12日、好ましくは5〜10日の時期に培地に添加される。なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、FGFの非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。
浮遊培養に用いられるFGFの濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばFGF8bについては約0.1〜500ng/ml、好ましくは約1〜200ng/ml、より好ましくは約10〜200ng/ml、最も好ましくは約20〜100ng/mlであり得る。
なお、小脳神経細胞、特に小脳プルキンエ細胞への効率的な分化を可能とするため、上記方法論を組合せることができる。即ち、BMPシグナル促進剤及びFGF(例えば、FGF8b等のFGF8)における胚性幹細胞の浮遊培養もまた好ましい。
さらに別の方法論は、胚性幹細胞の浮遊培養後に接着培養を行うことである。凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)後に、接着培養に供することができる。例えば、小脳プルキンエ細胞の分化を促進する場合には、凝集塊のまま接着培養に供してもよい。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリックス等(例えば、ポリDリジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。接着培養は、例えば1日以上、好ましくは1〜20日間、より好ましくは5〜20日間、最も好ましくは10〜15日間行うことができる。
上述した各種方法論は、小脳神経細胞、あるいは特定の小脳神経細胞(例えば、小脳顆粒細胞、小脳プルキンエ細胞)を効率的に得るために適宜組合せることができる。例えば、同一の効果を奏する方法論を組合せることで、より優れた効果が期待できる。
また、得られた小脳神経細胞をさらに分化させることもできる。例えば、実施例9記載のようにMath1+細胞を分離した後、哺乳動物の胎児又は新生児小脳の分散細胞と凝集させ、共培養することでさらなる分化を誘導できる(Development 106,441−447(1989);Development 128,3133−3144(2001))。例えば、かかる方法により、平行線維軸索に接着して移動可能であるという特徴、及び/又はT型の軸索の伸長という特徴を示す小脳顆粒細胞が得られる(これらは、小脳顆粒細胞の特徴である)。
以上の通り、本発明の方法は、種々の神経系細胞の分化誘導を可能とするため極めて有用である。
(3.2.感覚器系細胞の分化誘導)
感覚器系細胞は、上述した浮遊培養により、又は必要に応じて上述した浮遊培養と接着培養との組合せにより胚性幹細胞から分化誘導できる。好ましくは、感覚器系細胞の分化効率の向上等の観点から、以下に述べる方法論を併用できる。
一つの方法論は、FGF、RA、BMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てを実質的に含有しない無血清培地、あるいはFGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが実質的に不活化された無血清培地における、胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞への分化を促進する場合に有用である。なお、本方法論の詳細は上述した通りである。
別の方法論は、浮遊培養を少なくとも5日間継続することである。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞への分化を促進する場合に有用である。なお、5日未満の培養であっても勿論、感覚器系細胞を、従来法に比べ効率的に分化誘導できることは云うまでもない。
また別の方法論は、胚性幹細胞の浮遊凝集体(数日培養したもの)を含む無血清培地への血清の添加である。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞(例えば、網膜細胞、視細胞)への分化を促進する場合に有用である。
血清は、任意の動物、好ましくは哺乳動物に由来する血清を使用できる。血清が由来する哺乳動物は、胚性幹細胞が由来する哺乳動物(上述)と同様である。血清の濃度は、感覚器系細胞を効率的に分化可能であるような濃度である限り限定されないが、例えば約0.5〜30%、好ましくは約1.0〜20%、より好ましくは約3〜10%、最も好ましくは約5%であり得る。
胚性幹細胞の浮遊凝集体を含む無血清培地に血清を添加する時期は、感覚器系細胞への分化を可能とする限り特に限定されないが、例えば、浮遊培養開始から3〜7日以内である。なお、感覚器系細胞への分化は、血清の非存在下でも可能である。また、浮遊培養の途中に、血清の存在下又は非存在下の条件を切り替えることも可能である。
さらに別の方法論は、胚性幹細胞の浮遊凝集体(数日培養したもの)を含む無血清培地へのShhシグナル促進剤の添加である。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞(例えば、網膜細胞、視細胞)への分化を促進する場合に有用である。なお、Shhシグナル促進剤は、上記と同様である。
浮遊培養に用いられるShhシグナル促進剤の濃度は、感覚器系細胞への分化を促進可能である限り限定されないが、例えば約0.1〜500nM、好ましくは約0.5〜100nM、より好ましくは約1.0〜50nM、最も好ましくは約3.0〜30nMであり得る。
胚性幹細胞の浮遊凝集体を含む無血清培地にShhシグナル促進剤を添加する時期は、感覚器系細胞への分化を可能とする限り特に限定されないが、例えば、浮遊培養開始から7日以内(例えば、3〜7日)である。なお、感覚器系細胞への分化は、Shhシグナル促進剤の非存在下でも可能である。また、浮遊培養の途中に、Shhシグナル促進剤の存在下又は非存在下の条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、Nodal、アクチビン等のNodalシグナル促進剤の存在下における胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞(例えば、網膜細胞、視細胞)への分化を促進する場合に有用である。なお、Nodalシグナル促進剤は、上記と同様である。
浮遊培養に用いられるNodalシグナル促進剤の濃度は、感覚器系細胞をより効率的に産生できる濃度であり得る。かかる濃度は、例えば約1〜10000ng/ml、好ましくは約10nM〜1000ng/ml、より好ましくは約20〜500ng/ml、最も好ましくは約50〜200ng/mlであり得る。
胚性幹細胞の浮遊凝集体を含む無血清培地にNodalシグナル促進剤を添加する時期は、感覚器系細胞への分化を可能とする限り特に限定されないが、例えば、浮遊培養開始から7日以内(例えば、3〜7日後)である。なお、感覚器系細胞への分化は、Nodalシグナル促進剤の非存在下でも可能である。また、浮遊培養の途中に、Nodalシグナル促進剤の存在下又は非存在下の条件を切り替えることも可能である。
また、感覚器系細胞への効率的な分化を可能とするため、上記3つの方法論を組合せることができる。即ち、血清とShhシグナル促進剤の併用、血清とNodalシグナル促進剤の併用、Shhシグナル促進剤とNodalシグナル促進剤の併用、血清とShhシグナル促進剤及びNodalシグナル促進剤の併用もまた好ましい。
さらに別の方法論は、Dkk1等のWntシグナル阻害剤及び/又はLefty−A等のNodalシグナル阻害剤の存在下における胚性幹細胞の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、感覚器系細胞(例えば、網膜細胞、視細胞)への分化を促進する場合に有用である。かかる方法論の併用もまた好ましい。なお、Wntシグナル阻害剤、Nodalシグナル阻害剤は、上記と同様である。
浮遊培養に用いられるWntシグナル阻害剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばDkk1については約0.01〜100μg/ml、好ましくは約0.1〜10μg/ml、より好ましくは約0.5〜5.0μg/ml、最も好ましくは約1.0μg/mlであり得る。
浮遊培養に用いられるNodalシグナル阻害剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばLefty−Aについては約0.01〜20μg/ml、好ましくは約0.05〜5μg/ml、より好ましくは約0.1〜1.0μg/ml、最も好ましくは約0.5μg/mlであり得る。
Wntシグナル阻害剤及びNodalシグナル阻害剤は、胚性幹細胞の浮遊培養開始時に既に培地に添加されていてもよく、また、例えば、培養開始から5日以内の時期に培地に添加されてもよい。勿論、異なる時期にそれぞれ培地に添加されてもよい。
また、感覚器細胞(例えば、網膜細胞、視細胞)への分化を特に効率良く行うために、所定の因子の組合せ、例えば、Lefty(例えば、Lefty−A)、Dkk1、血清およびアクチビンの存在下における胚性幹細胞の浮遊培養もまた好ましい。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Wntシグナル阻害剤及び/又はNodalシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。
また別の方法論は、胚性幹細胞の浮遊培養後に接着培養を行うことである。凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)後に、接着培養に供することができる。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリックス等(例えば、ポリDリジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。接着培養の期間は、例えば1日以上であり得る。
さらに別の方法論は、浮遊培養後に、接着条件下で長期培養することである。かかる方法論は、感覚器系細胞、特に視細胞への分化を促進する場合に有用である。長期培養のための培養期間は、感覚器系細胞への分化を可能とする期間である限り特に限定されないが、例えば、例えば3日以上、好ましくは5〜25日間、より好ましくは7〜20日間、最も好ましくは7〜18日間であり得る。
上述した各種方法論は、感覚器系細胞、あるいは特定の感覚器系細胞(例えば、網膜系細胞、視細胞)を効率的に得るために適宜組合せることができる。例えば、同一の効果を奏する方法論を組合せることで、より優れた効果が期待できる。
以上の通り、本発明の方法は、種々の感覚器系細胞の分化誘導を可能とするため極めて有用である。
(4.細胞培養物、及び医薬としての使用)
本発明はまた、本発明の方法により得られる細胞培養物を提供する。本発明の細胞培養物は、例えば、胚性幹細胞の浮遊凝集体、浮遊凝集体を分散処理した細胞、分散処理細胞の培養により得られる細胞などであり得る。また、本発明は、かかる細胞培養物より被験体に投与し得る程度に単離・精製された均質な細胞、例えば、終脳神経細胞等の前脳神経細胞、小脳神経細胞等の神経系細胞、網膜前駆細胞等の感覚器系神経細胞を提供する。
本発明の方法により得られた細胞は、神経系細胞、例えば前脳神経細胞、感覚器系細胞の障害に基づく疾患の治療薬、又はその他の原因による細胞損傷状態において当該細胞を補充するためなどに用いることができる。神経系細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、てんかん、脳外傷、脊髄損傷、運動神経疾患、神経変性疾患、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、神経毒物の障害に起因する疾患などが挙げられる。具体的には、前脳神経細胞、特に終脳神経細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、脳外傷が挙げられる。また、小脳神経細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、脊髄小脳変性症、アルコール性小脳変性症、小脳部の外傷が挙げられる。また、感覚器系細胞の障害に基づく疾患としては、網膜色素変性症、黄班変性症、緑内障、糖尿病性網膜症が挙げられる。さらに、これら細胞の補充が所望される状態としては、脳外科手術後(例えば、脳腫瘍摘出後)が挙げられる。
また、本発明の方法により得られた細胞、例えば、神経系細胞、感覚器系細胞を、当該細胞の障害に基づく疾患の治療薬として用いる場合、当該細胞の純度を高めた後に被験体に移植することが好ましい。
細胞の純度を高める方法は、公知となっている細胞分離精製の方法であればいずれも用いることができるが、例えば、フローサイトメーターを用いる方法(例えば、Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition,Acad.Press(1993)、Int.Immunol.,10,275(1998)参照)、パニング法(例えば、Monoclonal Antibodies:principles and pactice,Third Edition,Acad.Press(1993)、Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL Pressat Oxford University Press(1996)、J.Immunol.,141,2797(1988)参照)、ショ糖濃度の密度差を利用する細胞分画法(例えば、組織培養の技術(第三版),朝倉書店(1996)参照)が挙げられる。
本発明の分化細胞の純度を高める方法は、上述のような胚性幹細胞を分化誘導して得られた細胞、例えば、神経系細胞、感覚器系細胞を、抗癌剤を含む培地中で培養する工程を含む。これにより、未分化な状態の細胞を除去することができ、より純度の高い分化細胞を得ることが可能で、医薬としてより好適となる。即ち、抗癌剤で処理することにより、目的とする分化細胞以外の細胞、例えば未分化な細胞を除去することができる。
ここで、抗癌剤としては、マイトマイシンC、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、アラCまたはメトトレキセートなどが挙げられる。これら抗癌剤は、分化誘導した細胞よりも未分化な状態の細胞に、より細胞毒性を示す濃度で用いることが好ましい。具体的には、上述した培養方法に準じて、これら抗癌剤を用いた培養を行い、至適濃度を決定することができ、例えば、これら抗癌剤を生体に用いる日本薬局方記載の濃度の100分の1〜1倍の濃度で含む培地を用い、5%の二酸化炭素を通気したCO2インキュベーターで、37℃で数時間、好ましくは2時間培養する方法を挙げることできる。
ここで使用する培地としては、分化誘導した細胞を培養することが可能な培地であればいかなるものも用いることができる。具体的には、上述の培地等を挙げることができる。
また、移植医療においては、組織適合性抗原の違いによる拒絶がしばしば問題となるが、体細胞の核を核移植した胚性幹細胞、又は染色体上の遺伝子を改変した胚性幹細胞を用いることで当該問題を克服できる。
また、体細胞の核を核移植した胚性幹細胞を用いて分化誘導することで、体細胞を提供した個体の細胞、例えば、神経系細胞、感覚器系細胞を得ることができる。このような個体の細胞は、その細胞自身が移植医療として有効のみならず、既存の薬物がその個体に有効か否かを判断する診断材料としても有用である。さらに、分化誘導した細胞を長期に培養することで酸化ストレスや老化に対する感受性の判定が可能であり、他の個体由来の細胞と機能や寿命を比較することで神経変性疾患等の疾患に対する個体のリスクを評価することができ、それら評価データは将来の発病率が高いと診断される疾患の効果的な予防法を提供するために有用である。
胚性幹細胞から分化誘導された細胞、例えば神経系細胞は、自体公知の方法により、患者の疾患部位に移植できる(例えば、Nature Neuroscience,2,1137(1999)参照)。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
1.1.EB5細胞の浮遊培養による解析
初めに、無血清浮遊凝集(SFEB:Serum−free Floating culture of Embryoid body−like Aggregates)法を用いて、マウスES細胞(E14由来)であるEB5細胞(Nature Genet.,Vol.24:372(2000))を培養した。
具体的には、ES細胞としては、1%ウシ胎児血清、10%KSR(Knockout Serum Replacement)、LIFを添加した無フィーダー細胞による通常の培養法により維持培養されたものをSFEB法に用いた(Neuron,Vol.28:31−40(2000)参照)。次いで、ES細胞コロニーをトリプシン・EDTA処理で単細胞にした後、細胞非接着性の培養プラスチックシャーレ(10cm径)に6×104細胞/ml 10ml播種し、37℃、5%CO2で5日間インキュベートした。このとき、培地としては、GMEM 500ml、100×NEAA 5ml、100×pyruvate 5ml、1×10−1M 2−メルカプトエタノール0.5ml、5%KSR(Knockout Serum Replacement)からなる分化培地を用いた。また、ゼラチンコート培養ディッシュを用いること以外はSFEB法と同様の条件で、EB5細胞を接着下で培養し、コントロールとした。
その結果、SFEB法によりES細胞を浮遊凝集培養したとき、ES細胞は十分に増殖し、多数のNCAM+細胞(>60%)を生じた(免疫染色法により解析)。一方、接着培養したコントロールでは、単一のES細胞は少数の小さなコロニーしか形成せず、また、このコロニーには、僅かなNCAM+細胞(<20%)しか含まれていなかった。
1.2.レポーター遺伝子導入マウスES細胞の浮遊培養による解析
次いで、定量的な解析のため、ES細胞として、神経マーカーSox1遺伝子にGFP(green fluorescent protein)を相同組換えにてノックインしたマウスES細胞(以下、必要に応じて、Sox1/GFP−mES細胞と省略。Naure Biotechnology Vol.21:183−186(2003)参照)を用いて、SFEB法により培養した。なお、培養条件は、ES細胞としてSox1/GFP−mES細胞を用いた以外は、上記1.1.のSFEB法と同様であった。
その結果、FACSにより解析したところ、Sox1/GFP−mES+細胞は3〜5日間増加したが、E−カドヘリン+細胞は最初の5日間除々に減少した。また、同様の結果が、免疫染色試験により得られた。さらに、SFEB法の5日後には、60−85%の細胞がSox1−GFP陽性であり、培養を3×104〜1×105初期細胞/mlの範囲で開始した場合に、Sox1−GFP+集団の割合が高かった(>60%)。
以上1.1.及び1.2.より、適切な培養条件下で培養したとき、ES細胞は効率的に凝集し、血清及びフィーダー細胞の非存在下で神経系細胞を速やかに生じることが示された。
実施例2:内因性Nodal、Wntシグナルの阻害は、SFEB法によるES細胞の神経系細胞への分化効率をさらに向上させる
次いで、本発明者らは、SFEB法による神経系細胞への分化効率をより向上させるため、中胚葉系細胞への分化促進剤であるNodal、Wnt、BMPの阻害により、神経系細胞への分化効率が向上するか否かを検討することとした。抗Nodal試薬としてはLefty−A(R&D社製)、抗Wnt試薬としてはDkk1(R&D社製)、抗BMP試薬としてはBMPRIA−Fc receptobody(R&D社製)を用いて、SFEB法による培養0日目に分化培地に添加した。なお、用いた濃度は、それぞれLefty−A;5μg/ml、Dkk1;1μg/ml、BMPRIA−Fc receptobody;1.5μg/mlであった。
その結果、Lefty−A又はDkk1の添加により、Sox1−GFP+細胞の頻度が上昇することが明らかとなった。また、上記1.2.の方法では、最適な初期細胞密度5×104細胞/mlの条件下でさえも、GFP発現の絶対値が実験毎に10〜15%程度変動していたが、予想外にも、Lefty−A又はDkk1の添加によりGFP発現の値が安定化した。さらに、Lefty−A、Dkk1の併用により、Sox1−GFP+細胞の頻度が約90%と著しく増加した。また興味深いことに、初期の細胞密度が高い場合(2×105細胞/ml)であっても、この併用によりSox1−GFP+細胞が高い頻度(約80%)で保たれた。一方、BMPRIA−Fc receptobodyの添加は、Sox1−GFP+細胞の頻度に有意に影響しなかった。
次いで、本発明者らは、Nodal及びWntの効果を、Nodal蛋白質(R&D社製)及びWnt3a蛋白質(R&D社製)をSFEB培養物に添加することで試験した。その結果、SFEB法における0〜5日目、2〜5日目でのNodal蛋白質(5μg/ml)、Wnt3a蛋白質(50ng/ml)の添加は、Sox1−GFP+細胞の頻度を有意に抑制することが確認された。
以上より、Nodal又はWntシグナルの阻害により、ES細胞の神経系細胞への分化効率が向上し、且つその分化効率が安定化すること、並びにNodal、Wntシグナル双方の阻害により、ES細胞の神経系細胞への分化効率が著しく向上することが示唆された。
実施例3:SFEB法による神経分化メカニズムの解析
次いで、本発明者らは、SFEB法による神経系細胞への優先的分化が、培養中の幾つかの選択バイアスによって引き起こされているのか、又は神経運命への直接的な分化によって引き起こされているのかを検討することとした。
先ず、本発明者らは、Sox1−GFP+細胞の割合が増加している培養3日目及び4日目に、非神経集団で細胞死が増加しているか否かをTUNELアッセイ(Int.J.Oncology,1,639−648(1992))により試験した。
その結果、TUNEL+アポトーシス細胞の割合は、Sox1−GFP−(3日目では5.5±0.7%、4日目では4.8±1.4%、n=3)と、Sox1−GFP+(3日目では4.8±0.9%、4日目では4.6±1.5%、n=3)集団との間で有意差を示さなかった。このことは、Sox1−GFP細胞が、SFEB法による培養中、アポトーシスにより能動的に排除されていないことを示す。
次に、本発明者らは、Sox1−GFP−、Sox1−GFP+集団における細胞増殖のパラメータをBrdU取り込みアッセイ、及びホスホヒストンH3免疫染色アッセイにより比較した。
その結果、BrdU標識細胞の割合(30分間の暴露)は、Sox1−GFP−(3日目では45.3±0.4%、4日目では40.9±1.2%、n=3)とSox1−GFP+(3日目では49.6±2.6%、4日目では42.4±1.1%、n=3)集団との間で10%未満の差異を示した。同様の状況が、ホスホーヒストンH3+細胞の比率で観察された(Sox1−GFP−集団において、3日目では1.2±0.5%、4日目では1.0±0.7%;Sox1−GFP+集団において、3日目では1.5±0.7%、4日目では1.3±0.6%、n=3)。これらの結果は、SFEB法によるES細胞の神経系細胞への高い分化効率に、増幅の偏りが主要な役割を果たさないことを示す。
以上より、SFEB法による優先的な神経分化が、選択的な細胞死又は増殖ではなく、直接的な神経分化に起因することが示唆された。
実施例4:SFEB法は、ES細胞が終脳神経細胞に高効率で分化することを可能とする
マウスES細胞(EB5細胞)を、実施例1と同様にSFEB法により5日間無血清浮遊培養した後、トリプシン・EDTA処理により分散し、ポリDリジン・ラミニンコートした細胞培養用スライドに播種して、分化培地(上記の通り)で2日間、GMEM+N2培地(組成:GMEM+1xN−2 Supplement(Gibco製、x100濃度のものを希釈して使用)、0.1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 2−メルカプトエタノール)で3日間培養した。最終的に得られた分化細胞を、抗Bf1抗体を用いて蛍光抗体法により解析した。なお、比較のため、SDIA法によりES細胞の神経分化を行い、蛍光抗体法により同様に解析した。
その結果、SFEB法による分化細胞のうち約15%の細胞が、終脳神経細胞に特異的な核蛋白質であるBf1陽性であった。一方、SDIA法により得られた分化細胞では、Bf1+細胞の割合は僅かであった(約1%)。
次いで、Bf1以外のマーカーの発現について検討することとした。なお、マーカーに対する抗体としては、抗Pax6抗体(DSHB製)、抗Gsh2抗体、抗Nkx2.1抗体を用いた。なお、抗Gsh2抗体、抗Nkx2.1抗体としては、合成ペプチドをウサギに免疫して自ら作製したものを用いた。
その結果、Bf1+細胞のうち、約40%の細胞が大脳背側部(大脳皮質などが発生)のマーカー(Pax6陽性)を発現し、25%の細胞が大脳腹側中間部(大脳基底核などが発生)のマーカー(Gsh2陽性)を発現した。また、10%程度の細胞が終脳最腹側部(視床下部などが発生)のNkx2.1を発現していた。
以上より、SFEB法は、ES細胞から終脳神経細胞への分化を効率的に誘導できること、並びに終脳神経細胞として大脳皮質、大脳基底核、視床下部等の細胞を分化誘導できることが明らかとなった。
実施例5:ES細胞から終脳神経細胞への分化は、培養後初めの5日間が重要である
SFEB法によるES細胞のBf1+細胞への高効率の分化は、極めて興味深い。そこで、SFEB法、SDIA法によるBf1+細胞への分化率の差異につき、タイムウインドウ(time window)の観点から、詳細に検討することとした。
その結果、Bf1+細胞は、SFEB法により5日間培養し、次いでSDIA法によりさらに5日間培養したとき高頻度に生じた(11%)。反対に、SDIA法により初めの5日間培養し、ラミニン・ポリ−D−リジン・フィブロネクチンコートしたディッシュでさらに5日間培養したとき僅かなBf1+細胞のみが観察された(<2%)。
以上より、ES細胞からBf1+細胞への効率的な分化には、分化誘導期の初めの5日間が決定的な役割を果たすことが示唆された。
実施例6:SFEB法は、レチノイン酸処理の併用により尾側(caudal)組織の前駆細胞を誘導する
次いで、SEFA法と尾側化(caudalizing)因子との併用の効果を検討するため、レチノイン酸(RA)を用いて試験した。なお、SEFA法は、実施例1と同様に行い、RA(Sigma製)は培養3−5日後に0.2μMとなるように培地に添加した。
その結果、尾側化因子は、Bf1+細胞をほぼ完全に排除した(<1%以下)。また、RT−PCR解析により、吻側マーカーであるBf1、Otx2がRAによるSFEB誘導神経細胞において完全に抑制されたのに対し、尾側マーカーHoxb4が誘導された。
以上より、SEFA法と尾側化因子とを併用した場合、尾側組織に対応する細胞を分化誘導し得ることが示された。
実施例7:パターン形成因子による亜領域(subregional)マーカーの変動
次いで、本発明者らは、SFEBにおける部分領域マーカーの発現が、外因性のパターン形成(patterning)因子により変動するか否かを検討することとした。なお、パターン形成因子としては、Shh(R&D社製)を用いた。
その結果、SFEB法による培養4日目から、Shhを3−300nM培地に添加すると、用量依存的様式で、Bf1+細胞のうちPax6+細胞の割合が著しく減少し、Nkx2.1+細胞、Gsh+細胞などの腹側細胞の割合が約2倍に増加した。また、総細胞数中のBf1+細胞の占める割合は、Shh処理により影響されなかった。さらに、Shh処理は、SFEB誘導神経組織の長期培養において、腹側終脳の特徴を呈する神経細胞(Bf1+/Islet1/2+、ChAT+)を増加させたが、GluT1+グルタミン産生神経細胞(典型的には背側)の分化を抑制した。このことは、SFEBにより誘導される終脳神経細胞は、胚と同様の様式でShhシグナリングに応答することを示す。
以上より、SFEB法をShh処理と組合せることで、腹側終脳神経細胞を効率的に分化誘導できること、及びSFEBにより誘導される終脳神経細胞は、胚と同様の様式でShhシグナリングに応答することが明らかとなった。
実施例8:Wntシグナル因子による背側終脳組織の分化誘導
実施例4、6と同様にES細胞をSFEB法で5日間培養し神経分化誘導を行い、引き続き、トリプシン・EDTA処理で分散しポリDリジン・ラミニンコートした細胞培養用スライドに播種して、培養した。Wnt3aを5ng/mlまたは50ng/mlの濃度で6日目より添加し合計10日間培養したところ、腹側終脳マーカーであるNkx2.1、Bf1両陽性の細胞数は著しく低下し、逆に背側終脳マーカーであるPax6、Bf1両陽性の細胞数は増加した。Wnt3a 50ng/mlの場合、Bf1陽性細胞のうち約75%が背側マーカーであるPax6を発現しており、また約1割が大脳皮質前駆細胞のマーカーの一つであるEmx1を発現した。
以上より、SFEB法においてWntシグナルを培養後期に作用させることで、背側終脳細胞を効率的に分化誘導できることが示唆された。
実施例9:BMPとWntの組合せによる小脳神経前駆細胞の分化誘導
無血清浮遊培養を7日間継続したこと以外は、実施例4と同様にSFEB法でES細胞を神経分化誘導した。培養7日目から1日間の培養にはB27 supplement(Gibco製)添加のNeurobasal(Gibco製)培地を用いて、浮遊培養を継続した。5日後より培養8日まで0.5nM BMP4(R&D製)、10ng/ml Wnt3a(R&D製)、50ng/ml FGF8b(R&D製)を培地に添加した。培養開始8日後には細胞塊をそのままあるいはトリプシン・EDTA処理による分散後に、ポリDリジン・ラミニンコートした細胞培養用スライドに播種し、B27 supplement添加のNeurobasal培地を用いて、接着培養を行った。9日で免疫染色を行ったところ、小脳顆粒細胞の前駆細胞に特異的なマーカーMath1、Pax6、Zic1を発現している細胞を多数認めた。40−50%の細胞がMath1陽性であり、そのうち50%以上がPax6やZic1陽性であった。さらに小脳顆粒細胞の前駆細胞には分裂が盛んな細胞が含まれていることが知られているが、Math1陽性細胞の半分程度が分裂可能な細胞に特異的なマーカーKi67を発現していた。なお、このような顆粒細胞マーカーの誘導にはBMPおよびWntの処理が必須であったが、FGFの処理は必須ではなかった。
さらに培養8日目に細胞塊のままで接着培養を開始したものを合計20日間培養したところ、約50%の細胞塊の中に小脳プルキンエ細胞特異的なマーカーL7に陽性の大型ニューロンが複数(10個程度)存在していることが確認された。この分化誘導効率はBMP4とWntの組み合わせであるが、FGF8bとの組み合わせを検討したところ、顆粒細胞の分化と異なり、小脳プルキンエ細胞分化には、BMP4とFGF8bとの組み合わせも有効であり、陽性細胞数はBMP4とWntの組み合わせに比して4倍に増加した。
小脳顆粒細胞前駆細胞を分離するために、EB5細胞にMath1プロモーター(Development 127,127,1185−1196(2000))下流にGFPを結合したマーカー遺伝子を通常の方法で遺伝子導入した株を樹立した。上記の要領で培養した8−10日の細胞から蛍光細胞ソーターを用いて、GFP陽性分画を分離したところ、約9割の細胞がMath1−GFP陽性の細胞に純化された。これらの細胞はPax6、Zic1などを発現していた。またこれらの細胞を、マウス胎児小脳や新生仔小脳の分散した細胞と凝集させ、共培養することでニューロンへの分化を誘導した(Development 106,441−447(1989);Development 128,3133−3144(2001))。すると、ES細胞から分化誘導した細胞は2日目にはマウス小脳由来の小脳細胞が伸展させた平衡線維軸索に接着した移動をすることが観察され(小脳顆粒細胞の特徴の一つ)、さらに共培養開始後2−3日目からは自ら小脳顆粒細胞の特徴であるT型の軸索を伸ばしていることが確認された。
以上より、本発明の方法をBMP、Wntと組合せて用いることにより、小脳組織の神経細胞を分化誘導できることが示唆された。
実施例10:BMPとWntの組合せによる小脳神経前駆細胞の分化誘導
ES細胞からの小脳組織の分化誘導はこれまで報告がないが、SDIA法で分化させた神経細胞をBMP4で処理することでMath1が誘導されることは本発明者らが既に報告している(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,100,5828−5833参照)。しかし、Math1は小脳以外にも橋、延髄、脊髄の背側中枢神経系の神経細胞にも発現しており、Math1の発現だけでは小脳組織であるとは云えない。そこで、SDIA法によりES細胞をPA6細胞上に播種して0.5−1nMのBMP4を4日ないしは5日目から添加し、9日間培養したところ、1−2割程度の細胞がMath1陽性になった。しかしながら、その殆どの細胞は他の小脳顆粒細胞のマーカーであるPax6、Zic1などを発現しておらず、またKi67(分裂可能な細胞のマーカー)も陰性であった。従って、SDIA法で誘導されたMath1陽性細胞は小脳の顆粒細胞ではなく、橋、延髄、脊髄等のMath1陽性細胞であると想定された。
以上より、本発明の方法が、ES細胞からの小脳神経細胞の分化誘導に初めて成功したことが確認された。
実施例11:SFEB法による網膜前駆細胞の分化誘導
EB5細胞をSFEB法によって5日間無血清浮遊培養を行い、その後細胞塊をそのまま、ポリDリジン・ラミニン・フィブロネクチンコートした細胞培養用スライドに播種し、KSRを含むSFEBの分化培地のまま、合計8日間培養した。網膜前駆細胞特異的なマーカーRxに対する自ら作成した抗体を用いて免疫染色を行ったところ、15−30%程度の細胞塊(コロニー)にRx陽性の細胞集団が確認された。培養開始後3〜5日の間に5%牛胎児血清、または100ng/mlアクチビン(R&D製)処理、または3−30nM Shh処理をすることで、Rxのコロニー陽性率が50%(約2倍)に増加した。さらに、別途培養0−5日に1μg/ml Dkk1、0.5μg/ml Lefty−Aを添加することで、約7割のコロニーがRx陽性となり、細胞レベルでも10−15%程度の細胞が陽性となった。Dkk1、Nodal処理と同時に、さらに血清、又はShh、またはアクチビン処理を行うことも可能であり、コロニー陽性率がさらに5−10%程度上昇した。また、これらの細胞を長期(計14〜18日)接着培養することで、1−5%のコロニーに複数の視細胞マーカーCrxやロドプシン陽性の細胞を確認した。ES細胞よりSFEB法でLeftyA(0−5日目に添加)、Dkk1(0−5日目に添加)、血清(3−5日目のみに添加)、アクチビン(4−6日目のみに添加)存在下に培養した場合、全体の2−3割の細胞が網膜前駆細胞に分化したが、これらの細胞を蛍光標識後、胎生17.5日のマウス網膜組織と12日間共培養することで、2割の細胞が視細胞マーカーロドプシン陽性になった。特に網膜組織の視細胞層内に侵入した細胞については、その4割はマーカーロドプシン陽性であり、外節構造など視細胞に特異的な形態を示した。
実施例12:ヒトES細胞を用いた神経分化誘導
ヒトES細胞は京都大学再生医科学研究所中辻憲夫研究室で樹立したヒト胚盤胞由来の胚性幹細胞をヒトES細胞に関する指針に従い、分与を受け、中辻憲夫研究室の方法に従い、37℃にて5%CO2下に、マウス胎児線維芽細胞(マイトマイシン処理で不活性化;MEF)を蒔いたプラスチック培養皿の上で維持培養した。用いた培養液はD−MEM−F12(Sigma D6421)をベースに、最終20%のKSR(invitrogen/Gibco−BRL)、1X NEAA(non−essential amino acids;invitrogen/Gibco−BRL)、2mM L−グルタミン酸、0.1mMの2−メルカプトエタノールを添加したものである。植え継ぎは3−4日毎におこない、解離液(リン酸バッファー緩衝生理的食塩水に0.25%トリプシン、1mg/mlコラーゲナーゼIV液、1mM CaCl2を添加したもの;すべてinvitrogen/Gibco−BRL)を用いて、ES細胞をフィーダー細胞から解離し、ピペット操作で100個程度の小塊にしたのち、前日に播種したMEFのフィーダー層のうえに蒔いた。
神経分化誘導には、上記の解離させたES細胞小塊を、35mmの培養皿に3500塊の割合で播種し、15日間無血清浮遊凝集塊培養を行った。培養液は2mlの分化誘導培地(マウスを同様のG−MEM、KSR、2−メルカプトエタノールを添加したもの;ただし、KSRは5%、10%または20%の添加を試した)を用いた。さらに分化誘導培養開始後最初の10日間はNodal阻害剤のLefty A(1μg/ml)、Wnt阻害剤のDkk1(500ng/ml)、BMP阻害剤の可溶性BMPR1A−Fc(1.5μg/ml;すべてR&D社製)を添加した。15日間の無血清浮遊培養後、ポリ−D−リジン/ラミニン/フィブロネクチンでコートした培養皿上に播種し、接着培養(培養液は同じ分化誘導培地)を5日間行い、固定し免疫染色を行った。
その結果、ヒトES細胞はKSRが10%および20%存在下に無血清浮遊凝集塊培養が可能であった。5%KSRでは増殖が悪く、15日間の浮遊培養により多くが死滅した。5日間の接着培養後の免疫染色では、ほぼすべての細胞コロニーで神経前駆細胞マーカーのネスチンが陽性で、未分化ES細胞マーカーのOct3/4は陰性であった。大脳前駆細胞のマーカーBf1は50%のコロニーで陽性であった。
(考察)
SFEBにおける選択的神経分化
本発明者らは、インビトロにおいて、ES細胞の選択的神経分化を可能にする浮遊凝集塊体の培養法の開発に成功した。この手順の効率、速度、扱いやすさは、SDIA法に匹敵する。SFEB法は、フィーダー細胞、血清、神経パターン形成活性を有する増殖因子(例えば、FGF、BMP、Wnt)の存在を必要としない。むしろ、神経分化の効率は、内因性Wnt及びNodalシグナルが拮抗される場合に、さらにより増強される。これらの知見は、ES細胞の浮遊凝集体が、阻害因子の非存在下で神経分化プログラムを自律的に開始することを示す。原始内胚葉、中胚葉を効率的に生じる、血清含有培地中で培養された胚様体(EB)と対照的に、4%未満のSFEB凝集体のみが、原始内胚葉マーカーAFP及びHnf4、又は中胚葉マーカーBranchyury陽性の細胞をごく一部含んでいた。
興味深いことに、ES細胞凝集体の浮遊培養物自体は、接着培養物とは、細胞運命の規定に対して異なる効果を有するようである。例えば、コラーゲンコートしたディッシュ上で培養され、BMP(5nM)処理されたES細胞は、flk1+外側板に効率的に分化誘導される。一方、SFEB法により培養され、BMP処理されたES細胞は、E−cad+/Oct3/4−細胞(典型的には非外胚葉)を効率的に生成するが、神経分化を完全に抑制しつつflk1+細胞を生成しなかった。これらのRNAプロフィールの解析により、この差異を調節しているシグナリングの種類を解明することは興味深い。
本出願は、2004年6月18日に日本で出願された特願2004−181770を基礎としており、その内容は本明細書中に援用される。
Claims (18)
- フィーダー細胞の非存在下、以下の工程(1)および(2):
(1)無血清培地において、胚性幹細胞の浮遊凝集体を形成させる工程;
(2)無血清培地において、Nodalシグナル阻害剤及びWntシグナル阻害剤の存在下で、(1)で得られた胚性幹細胞の浮遊凝集体を浮遊培養する工程;
を含むことを特徴とする、胚性幹細胞を網膜前駆細胞へと分化誘導する方法。 - Nodalシグナル阻害剤がLefty−Aである、請求項1記載の方法。
- Wntシグナル阻害剤がDkk1である、請求項1又は2記載の方法。
- 無血清培地が、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を含有しない無血清培地である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
- 培養開始時の胚性幹細胞の濃度が、1×104〜5×105細胞/mlである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
- 胚性幹細胞の浮遊培養が、細胞非接着性培養器中で行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
- 胚性幹細胞の浮遊凝集体が少なくとも5日間浮遊培養されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
- 胚性幹細胞の浮遊凝集体の浮遊培養後に、接着培養することをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
- 浮遊凝集体を含む無血清培地にShhシグナル促進剤を添加する工程を更に含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
- Shhシグナル促進剤がShhである、請求項9記載の方法。
- Shhシグナル促進剤を、浮遊凝集体の培養開始後3〜7日の間に無血清培地に添加する、請求項9又は10記載の方法。
- 浮遊凝集体を含む無血清培地に血清を添加する工程を更に含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
- 血清を、浮遊凝集体の培養開始後3〜7日の間に無血清培地に添加する、請求項12記載の方法。
- 浮遊凝集体を含む無血清培地にアクチビンを添加する工程を更に含む、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
- アクチビンを、浮遊凝集体の培養開始後3〜7日の間に無血清培地に添加する、請求項14記載の方法。
- 胚性幹細胞の浮遊凝集体を、Lefty−A、Dkk1及びアクチビンの存在下で培養する、請求項12記載の方法。
- 網膜前駆細胞がRx陽性網膜前駆細胞である、請求項1〜16のいずれか1項記載の方法。
- 無血清培地が、FGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ以上を含有しない無血清培地、あるいはFGF、RA及びBMPシグナル促進剤からなる群より選ばれる1つ以上が不活性化された無血清培地である、請求項1〜17のいずれか1項記載の方法。
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