JP4991650B2 - ヘッドスライダ及び磁気記憶装置 - Google Patents

Description

本発明は、ヘッドスライダ及び磁気記憶装置に係り、特に磁気記録媒体からの浮上量が非常に小さい状態で用いられるのに適したヘッドスライダ及びこのようなヘッドスライダを備えた磁気記憶装置に関する。本発明は、このようなヘッドスライダを製造する製造方法にも関する。

近年、磁気ディスク装置に代表される磁気記憶装置の記憶容量を増大するために、磁気ディスクに代表される磁気記録媒体の記録密度を向上する工夫がなされている。例えば、ヘッド素子を搭載するヘッドスライダは、磁気記録媒体からの浮上量が数ｎｍまで減少している。このようにヘッドスライダの浮上量が非常に小さくなるに伴い、磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤がヘッドスライダに付着し易くなってきている。例えば、ヘッドスライダが振動して磁気記録媒体の表面と偶発的に接触したり、磁気記録媒体の表面から潤滑剤が蒸発すると、ヘッドスライダの磁気記録媒体の表面と対向する面（以下、媒体対向面と言う）上に潤滑剤が付着する。ヘッドスライダの媒体対向面に付着した潤滑剤が堆積すると、堆積した潤滑剤がある程度の塊となって磁気記録媒体上に落下する可能性がある。このような堆積した潤滑剤の塊が磁気記録媒体上に落下すると、磁気記録媒体の表面が汚染されると共に、この塊がヘッドスライダの安定な浮上を阻害したりヘッド素子にダメージを与えてしまう可能性がある。

磁気ディスク装置の場合、ヘッドスライダと磁気ディスクとの間には、回転する磁気ディスクにより空気流が発生する。そこで、この空気流により、ヘッドスライダの媒体対向面に潤滑剤が堆積して塊が形成されにくくする構造（以下、潤滑剤汚れ防止構造と言う）とすることが考えられる。しかし、空気流は、ヘッドスライダの上流側から下流側に流れるため、上記潤滑剤汚れ防止構造を有するヘッドスライダの場合であっても、下流側においてヘッドスライダの媒体対向面から垂直方向に延在する端面（以下、流出端面と言う）上に潤滑剤が付着する。つまり、ヘッドスライダの媒体対向面に堆積した潤滑剤が大きな塊に成長する前に堆積した潤滑剤を空気流により連続的に媒体対向面の外に排出しても、媒体対向面から排出された潤滑剤の一部は空中に蒸散され、一部はヘッドスライダの流出端面に回り込んで付着する。

ヘッドスライダの流出端面に付着した潤滑剤が堆積すると、堆積した潤滑剤がある程度の塊となって磁気記録媒体上に落下する可能性があり、磁気記録媒体の表面が汚染されると共に、この塊がヘッドスライダの安定な浮上を阻害する可能性がある。又、ヘッドシーク時等にヘッドスライダと磁気ディスクとの間の剪断応力や圧力のバランスが変化した際等に、流出端面に付着した潤滑剤が媒体対向面に逆流する可能性もある。

従来、媒体対向面の形状としては、様々なものが提案されている。（特許文献１、特許文献２等）。
特開平１０−１１７３１号公報 特開２００３−１０９３４０号公報

従来の磁気記憶装置では、磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤が、ヘッドスライダの流出端面に付着し易いという問題があった。

そこで、本発明は、磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤が、ヘッドスライダの流出端面へ付着するのを抑制可能なヘッドスライダ及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。

本発明の一観点によれば、磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを備え、前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより高く、かつ前記媒体対向面に近い側から前記垂直方向に沿って遠い側に向かって高くなっている、ヘッドスライダが提供される。

本発明の一観点によれば、磁気記録媒体と、上記ヘッドスライダを備えた磁気記憶装置が提供される。

開示のヘッドスライダ及び磁気記憶装置によれば、磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤が、ヘッドスライダの流出端面へ付着するのを抑制可能となる。

開示のヘッドスライダは、表面自由エネルギーが媒体対向面の表面自由エネルギーより大きい流出端面を有する。これにより、ヘッドスライダが振動して磁気記録媒体の表面と偶発的に接触したり、磁気記録媒体の表面から潤滑剤が蒸発した場合に、流出端面に到達する潤滑剤を薄く広く拡散させて、流出端面からの潤滑剤の蒸散を促進させることができる。従って、潤滑剤がヘッドスライダの流出端面に堆積して塊となることを抑制することができる。

更に、ヘッドスライダの流出端面の媒体対向面に近い側から遠い側にかけて表面自由エネルギーに変化を付けることにより、流出端面から媒体対向面への潤滑剤の逆流を抑制することができる。

従って、磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤が、ヘッドスライダの流出端面へ塊となって堆積したり、浮上面に逆流するのを確実に抑制することができる。

以下に、本発明のヘッドスライダ、磁気記憶装置及びヘッドスライダの製造方法の各実施例を、図面と共に説明する。

図１は本発明の第１実施例におけるヘッドスライダの斜視図であり、図２は図１に示すヘッドスライダの平面図である。図１は、ヘッドスライダ１を、ヘッドスライダ１の媒体対向面２の側から見た図であり、図２も同様に媒体対向面２の側から見た図である。媒体対向面２とは、ヘッドスライダ１の磁気記録媒体（図示せず）の潤滑層が設けられた表面と対向する面を言う。言うまでもなく、この磁気記録媒体とは、ヘッドスライダ１による情報記録及び／又は再生の対象となる磁気ディスク等の媒体である。

図１及び図２に示すように、ヘッドスライダ１は、浅溝面２１、深溝面２２、サイドパッド面２３、クエット流促進面２４、センターパッド面（又は、浮上面）２５、ヘッド素子２６及び流出端面２７を有する。最上面を浮上面２５とし、この浮上面２５を基準として、数百ｎｍの深さに浅溝面２１が設けられており、約１．５μｍの深さに深溝面２２が設けられており、浅溝面２１と深溝面２２の中間の０．５μｍ〜１．０μｍの深さにクエット流促進面２４が設けられている。サイドパッド面２３は、浮上面２５と同じ高さである。この例では、クエット流促進面２４において剪断応力ベクトルの淀み点が生じないよう構造となっている。尚、図１では、各部の浮上面２５に対する深さ（又は、高さ）が見やすいように誇張されて図示されている。

媒体対向面２は、例えば表面自由エネルギーが４０ｍＮ／ｍのアルチック（Ａｌ_２Ｏ_３・ＴｉＣ）で形成されている。流出端面２７は、通常は、例えば表面自由エネルギーが３０ｍＮ／ｍ〜４０ｍＮ／ｍのアルミナ（Ａｌ_２Ｏ_３）で形成されている。

ヘッドスライダ１が磁気ディスク装置（図示せず）に装着されて磁気ディスクが回転されると、ヘッドスライダ１と磁気ディスクとの間には、回転する磁気ディスクにより空気流が発生する。この例では、ヘッドスライダ１は、この空気流により、媒体対向面２に潤滑剤が堆積して塊が形成されにくくする構造（潤滑剤汚れ防止構造）を有する。しかし、空気流は、ヘッドスライダ１の上流側ＵＳから下流側ＤＳに流れるため、上記潤滑剤汚れ防止構造を用いても、下流側ＤＳにおいてヘッドスライダ１の媒体対向面２から垂直方向に延在する流出端面２７上に潤滑剤が付着する可能性がある。尚、流出端面２７は、媒体対向面２から概ね垂直方向に延在するものであっても良い。

空気流は、図２中、左側から右側に向かって流れ、従って、流出端面２７は、ヘッド素子２６よりも空気流の下流側ＤＳに設けられている。つまり、流出端面２７は、ヘッド素子２６に対して磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、ヘッド素子２６より下流側に設けられ、媒体対向面２から概ね垂直方向に延在する。

ヘッドスライダの流出端面は、一般的にはアルミナ（Ａｌ_２Ｏ_３）で形成されており、表面自由エネルギーは３０ｍＮ／ｍ〜４０ｍＮ／ｍ程度である。これに対し、一般的に磁気ディスクで使用されている潤滑剤の表面自由エネルギーは２０ｍＮ／ｍ前後である。このため、アルミナ流出端面に付着した潤滑剤の濡れ性は、強くはじく程でもなく、薄く濡れ広がるという程でもない中間的な濡れ性を示す。本発明者らは、流出端面に潤滑剤が堆積して塊を形成する原因の一つが、この流出端面と潤滑剤の表面自由エネルギーの関係に依存することを見出した。

そこで、本実施例では、図３に示すように、流出端面２７に金属膜を形成することで流出端面２７の表面自由エネルギーを高める。図３は、図１に示すヘッドスライダ１の流出端面２７を示す側面図である。図３において、複数の端子２９は、ヘッド素子２６に接続された端子を含み、この例では、ヘッド素子２６の近傍に設けられた、浮上量制御用ヒータ（図示せず）に接続された端子も含む。流出端面２７に形成される金属膜としては、Ｗ（６，８１４ｍＮ／ｍ）、Ｐｔ（３，７４７ｍＮ／ｍ）、Ｎｉ（３，７００ｍＮ／ｍ）、Ｃｏ（３，５８０ｍＮ／ｍ）、Ａｕ（２，５１６ｍＮ／ｍ）等を使うことができる。ここで、括弧内に示す各金属膜の表面自由エネルギーの数値は、「化学便覧」、第２版、日本化学学会編によるものであり、２０℃又は５．５℃における固体金属に対する値である。これらの金属膜は、スパッタ等の周知の成膜方法で形成することができる。

磁気ディスクの潤滑層を形成する潤滑剤は特に限定されないが、一般的に磁気ディスクで使用されている潤滑剤の表面自由エネルギーは２０ｍＮ／ｍ前後である。これに対し、流出端面２７に形成された金属膜の表面自由エネルギーは高く、潤滑剤の表面自由エネルギーの２００倍以上である。このため、潤滑剤、特に、媒体対向面２から流出端面２７の金属膜に回り込んだ潤滑剤は、流出端面２７の表面自由エネルギーの高い金属膜を自らが覆い、系全体のエネルギーを下げる方向に作用して、この金属膜上を薄く濡れ広がるように移動するので、堆積して塊を形成しにくくなる。又、潤滑剤は、媒体対向面２に逆流しにくくなる。この結果、潤滑剤の流出端面２７から空気中への蒸散も促進され、この点からも堆積して塊を形成しにくくなる。

尚、金属膜程ではないものの、スライダのＡＢＳ（Air Bearing Surface）の保護膜としても一般的に使用されているダイヤモンドライクカーボン（６５ｍＮ／ｍ〜７０ｍＮ／ｍ）等のカーボン膜を流出端面２７に形成するようにしても良い。この場合、流出端面２７に形成されたカーボン膜の表面自由エネルギーは高く、潤滑剤の表面自由エネルギーの３倍以上である。このため、潤滑剤、特に、媒体対向面２から流出端面２７の金属膜に回り込んだ潤滑剤は、流出端面２７のカーボン膜上を薄く濡れ広がるように移動するので、堆積して塊を形成しにくくなる。又、潤滑剤は、媒体対向面２に逆流しにくくなる。この結果、潤滑剤の流出端面２７から空気中への蒸散も促進され、この点からも堆積して塊を形成しにくくなる。要は、流出端面２７の少なくとも表面を、潤滑剤の表面自由エネルギーと比較して高い表面自由エネルギーを有する材料で形成すれば良い。

このように、潤滑剤の表面自由エネルギーに対し、流出端面２７上の潤滑剤が薄く濡れ広がるような表面自由エネルギーを有する材料で流出端面２７を形成することで、潤滑剤の流出端面２７への局所的な堆積を抑制することができる。これにより、潤滑剤が流出端面２７上に堆積して塊となって磁気ディスク上に落下する現象を防止することができる。この結果、磁気ディスクの表面が堆積した潤滑剤の塊で汚染されたり、この塊がヘッドスライダの安定な浮上を阻害したりヘッド素子にダメージを与えてしまう現象を防止することができる。

次に、本発明の第２実施例におけるヘッドスライダを、図４と共に説明する。図４は、本発明の第２実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。説明の便宜上、ヘッドスライダ１の基本構成は図１及び図２と同様であるものとする。

本実施例では、流出端面２７の媒体対向面２に近い側から遠い側にかけて、表面自由エネルギーに傾斜を持たせている点で上記第１実施例と異なる。図４中、梨地が濃い領域程表面自由エネルギーが高いことを示す。

例えば、流出端面２７に金属膜又はカーボン膜を形成した後、例えばフッ素系の潤滑剤を金属膜に塗布し、媒体対向面２に近い側から遠い側にかけて（図４中、左側から右側にかけて）開口率が減少するように作られたマスク（図示せず）を用いて波長１７２ｎｍ程度の紫外線を照射してフッ素系潤滑剤を部分的に硬化させる。その後、フッ素系潤滑剤の未硬化部分を溶剤で洗浄して除去する。この結果、媒体対向面２に近い側には潤滑剤が多く残り、遠い側には潤滑剤が少なく残るか全く残らない状態の流出端面２７を形成することができる。これにより、流出端面２７の表面自由エネルギーに連続的な変化を持たせることができ、媒体対向面２から流出端面２７に回り込んだ潤滑剤は、媒体対向面２に近い側から遠い側に向かって拡散し易く、その逆方向には拡散しにくくなる。

本実施例によれば、上記第１実施例と比較すると、潤滑剤は媒体対向面２に更に逆流しにくくなる。

次に、本発明の第３実施例におけるヘッドスライダを、図５と共に説明する。図５は、本発明の第３実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。説明の便宜上、ヘッドスライダ１の基本構成は図１及び図２と同様であるものとする。

本実施例では、流出端面２７の媒体対向面２に近い側から遠い側にかけて、表面自由エネルギーが互いに異なる２以上の領域を設けている点で上記第１実施例と異なる。

例えば、流出端面２７に金属膜又はカーボン等の表面自由エネルギーが高い膜を形成した後、例えばフッ素系の潤滑剤を金属膜に塗布し、流出端面２７の媒体対向面２に近い側から遠い側にかけて（図５中、左側から右側にかけて）２以上の領域に分けて紫外線の照射量を少なくする。２以上の領域に分けた流出端面２７に対する紫外線の照射は、例えば複数のマスクを用いて複数回に分けて行う。照射量の多い領域では潤滑剤の硬化膜厚が厚く、即ち未硬化分が少なく、照射量の少ない領域では硬化膜厚が薄く、即ち未硬化分が多くなる。その後、フッ素系潤滑剤の未硬化部分を溶剤で洗浄して除去する。この結果、媒体対向面２に近い側には潤滑剤が多く残り、遠い側には潤滑剤が少なく残るか全く残らない状態の流出端面２７を形成することができる。図５に示す例では、流出端面２７が表面自由エネルギーＳＦＥ１を有する領域２７−１、表面自由エネルギーＳＦＥ２を有する領域２７−２、及び表面自由エネルギーＳＦＥ３を有する領域２７−３に分けられており、ＳＦＥ１＜ＳＦＥ２＜ＳＦＥ３である。これにより、流出端面２７の表面自由エネルギーに段階的な変化を持たせることができ、媒体対向面２から流出端面２７に回り込んだ潤滑剤は、媒体対向面２に近い側から遠い側に向かって拡散し易く、その逆方向には拡散しにくくなる。

本実施例によれば、上記第１実施例と比較すると、潤滑剤は媒体対向面２に更に逆流しにくくなる。

次に、本発明の第４実施例におけるヘッドスライダを、図６と共に説明する。図６は、本発明の第４実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。説明の便宜上、ヘッドスライダ１の基本構成は図１及び図２と同様であるものとする。

本実施例では、流出端面２７に表面自由エネルギーの高い領域２７Ａと、表面自由エネルギーの低い領域２７Ｂを、夫々所定の形状、所定の位置及び所定の間隔で設けている点で上記第１実施例と異なる。

表面自由エネルギーの低い領域２７Ｂは、媒体対向面２に近い側から遠い側にかけて幅が狭くなるような形状（本実施例では三角形）に形成され、流出端面２７上の媒体対向面２の近傍に図６中縦方向（ヘッドスライダ１の幅方向）に沿って一定間隔で形成されている。これにより、媒体対向面２から流出端面２７に回り込んだ潤滑剤は、媒体対向面２に近い側から遠い側に向かって拡散し易く、その逆方向には拡散しにくくなる。例えば、流出端面２７に金属膜又はカーボン等の表面自由エネルギーの高い膜を成膜した後、フッ素系の潤滑剤を塗布し、潤滑剤を残したい領域２７Ｂの形状の複数の開口を有するマスク（図示せず）を用いて紫外線を照射して硬化させる。その後、領域２７Ａに対応するフッ素系潤滑剤の未硬化部分を溶剤で洗浄して除去する。これにより、流出端面２７の表面自由エネルギーに変化を持たせることができ、媒体対向面２から流出端面２７に回り込んだ潤滑剤は、媒体対向面２に近い側から遠い側に向かって拡散し易く、その逆方向には拡散しにくくなる。

本実施例によれば、上記第１実施例と比較すると、潤滑剤は媒体対向面２に更に逆流しにくくなる。

尚、領域２７Ｂの形状にフッ素系潤滑剤を硬化させる方法は、上記の方法に限定されるものではない。

次に、本発明の第５実施例における磁気記憶装置を、図７及び図８と共に説明する。本実施例では、磁気記憶装置は、磁気ディスク装置又はハードディスクドライブ（ＨＤＤ：Hard Disk Drive）である。図７は、本実施例における磁気記憶装置の一部を示す断面図であり、図８は、図７の磁気記憶装置の一部を上部カバーを取り外して示す平面図である。

図７及び図８において、ベース１１３にはモータ１１４が取り付けられており、このモータ１１４は複数の磁気ディスク１１６が固定されたハブ１１５を回転する。磁気ディスク１１６からの情報の読み取りはスライダ１１７に固定されたＭＲ（Magneto-Resistive）ヘッドにより行われる。ＭＲヘッドには、ＧＭＲ（Giant Magneto-Resistive）ヘッド、ＴｕＭＲ（Tunneling Magneto-Resistive）ヘッド等を使用可能である。ＭＲヘッドにはインダクティブヘッドが組み合わされており、上記ヘッド素子を構成している。磁気ディスク１１６への情報の書き込みは、インダクティブヘッドにより行われる。

スライダ１１７は、上記第１乃至第４実施例のいずれかの構成を有する。スライダ１１７はサスペンション１１８に接続されており、サスペンション１１８はスライダ１１７を磁気ディスク１１６の記録面の方向に押し付ける。磁気ディスク１１６の記録面には、潤滑剤で形成された潤滑層が設けられている。スライダ１１７の媒体対向面は上記の如くパターン化されており、特定のディスク回転速度及びサスペンション剛性では、スライダ１１７が磁気ディスク１１６の記録面より所定の浮上量だけ浮いた位置を浮上するようになっている。サスペンション１１８は、アクチュエータ１２０に接続された強固なアーム１１９に固定されている。これにより、磁気ディスク１１６の広範囲にわたって情報の読み取り、書き込みを行うことが可能となる。

勿論、磁気ディスク１１６の数は図７に示すように３つに限定されるものではなく、１枚、２枚、或いは、４枚以上の磁気ディスク１１６を磁気記憶装置内に設けても良い。

更に、本実施例における磁気記録媒体は、磁気ディスクに限定されるものではなく、本発明は、磁気カードを含む各種磁気記録媒体に適用可能である。

ところで、上記第２乃至第４実施例において、表面自由エネルギーの低い部分を形成する方法は、上記の方法に限定されるものではない。例えばアルミナで形成された流出端面２７に金属膜等の表面自由エネルギーの高い膜を形成した後に、表面自由エネルギーを低くしたい領域の形状に合わせて金属膜等をエッチングにより除去し、下地のアルミナを露出させても良い。アルミナの表面自由エネルギーは３０ｍＮ／ｍ〜４０ｍＮ／ｍ程度であり、金属膜の表面自由エネルギーより低いので、上記第２乃至第４実施例と同様の効果を得ることができる。

上記各実施例は、媒体対向面に潤滑剤が堆積して塊が形成されにくくする潤滑剤汚れ防止構造を有するが、開示のヘッドスライダの媒体対向面は潤滑剤汚れ防止構造を有するものに限定されるものではない。ただし、潤滑剤汚れ防止構造を有する媒体対向面を有するヘッドスライダの場合、ヘッドスライダと回転する磁気ディスクとの間の空気流により媒体対向面から流出端面へ回り込む潤滑剤の量が、潤滑剤汚れ防止構造を有さない媒体対向面の場合と比較すると多いので、その分潤滑剤の堆積を抑制する効果は大きくなる。

尚、本発明は、以下に付記する発明をも包含するものである。
（付記１）
磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、
前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、
前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを備え、
前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより大きい、ヘッドスライダ。
（付記２）
前記流出端面の表面自由エネルギーは、前記媒体対向面に近い側から前記垂直方向に沿って遠い側に向かって高くなっている、付記１記載のヘッドスライダ。
（付記３）
前記流出端面の表面自由エネルギーは、前記媒体対向面に近い側から前記垂直方向に沿って遠い側に向かって連続的又は段階的に高くなっている、付記２記載のヘッドスライダ。
（付記４）
前記流出端面は、表面自由エネルギーが高い第１の領域と表面自由エネルギーが低い第２の領域を有し、
前記第２の領域は、前記媒体対向面近傍において、前記垂直方向とは直交する方向に沿って所定の間隔で、且つ、前記媒体対向面に近い側から遠い側にかけて、幅が狭まる形状で形成されている、付記１記載のヘッドスライダ。
（付記５）
前記流出端面は金属膜で形成されている、付記１乃至４のいずれか１項記載のヘッドスライダ。
（付記６）
前記流出端面はカーボン膜で形成されている、付記１乃至４のいずれか１項記載のヘッドスライダ。
（付記７）
前記流出端面の少なくとも表面自由エネルギーが所定値以上の領域は、金属膜で形成されている、付記１乃至４のいずれか１項記載のヘッドスライダ。
（付記８）
前記流出端面の表面自由エネルギーは、前記磁気記録媒体の表面に設けられた潤滑層を形成する潤滑剤の表面自由エネルギーの概ね３倍以上である、付記１乃至７のいずれか１項記載のヘッドスライダ。
（付記９）
前記磁気記録媒体と、
付記１乃至８のいずれか１項記載のヘッドスライダを備えた、磁気記憶装置。
（付記１０）
磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを有し、前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより大きいヘッドスライダの製造方法であって、
前記流出端面に金属膜又はカーボン膜を形成する工程と、
前記金属膜又はカーボン膜の上にフッ素系潤滑剤を形成する工程と、
前記媒体対向面に近い側から遠い側にかけて開口率が減少するマスクを用いて前記フッ素系潤滑剤を紫外線で硬化させる工程と、
未硬化のフッ素系潤滑剤を洗浄して除去する工程を有する、ヘッドスライダの製造方法。
（付記１１）
磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを有し、前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより大きいヘッドスライダの製造方法であって、
前記流出端面に金属膜又はカーボン膜の上にフッ素系潤滑剤を形成する工程と、
所定形状の開口を有し、開口位置が前記媒体対向面に近い側から遠い側にかけて平行移動した複数のマスクを用いて、前記マスク毎に紫外線照射量を逓減しながら、前記フッ素系潤滑剤をの硬化膜厚を逓減させる工程と、
未硬化のフッ素系潤滑剤を洗浄して除去し、媒体対向面に近い側から遠い側にかけて、硬化して残ったフッ素系潤滑剤の厚さが逓減した前記流出端面を形成する工程を有する、ヘッドスライダの製造方法。
（付記１２）
磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを有し、前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより大きいヘッドスライダの製造方法であって、
前記流出端面に金属膜又はカーボン膜を形成する工程と、
前記金属膜又はカーボン膜を部分的にエッチングして、前記金属膜又はカーボン膜より表面自由エネルギーが低い下地膜を露出させる工程を有する、ヘッドスライダの製造方法。

以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。

本発明の第１実施例におけるヘッドスライダの斜視図である。 図１に示すヘッドスライダの平面図である。 図１に示すヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。 本発明の第２実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。 本発明の第３実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。 本発明の第４実施例におけるヘッドスライダの流出端面を示す側面図である。 本発明の第５実施例における磁気記憶装置の一部を示す断面図である。 図７の磁気記憶装置の一部を上部カバーを取り外して示す平面図である。

符号の説明

１，１１７ ヘッドスライダ
２ 媒体対向面
２６ ヘッド素子
２７ 流出端面
１１６ 磁気ディスク

Claims (5)

1. 磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、
   前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、
   前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを備え、 前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより高く、かつ
   前記媒体対向面に近い側から前記垂直方向に沿って遠い側に向かって高くなっている、ヘッドスライダ。
2. 前記流出端面の少なくとも表面自由エネルギーが所定値以上の領域は、金属膜で形成されている、請求項１記載のヘッドスライダ。
3. 磁気記録媒体の記録面と対向する媒体対向面と、
   前記媒体対向面に設けられたヘッド素子と、
   前記ヘッド素子に対して前記磁気記録媒体が相対運動する運動方向上、前記ヘッド素子より下流側に設けられ、前記媒体対向面から概ね垂直方向に延在する流出端面とを備え、 前記流出端面の表面自由エネルギーは前記媒体対向面の表面自由エネルギーより高く、かつ、
   前記流出端面は、表面自由エネルギーが高い第１の領域と表面自由エネルギーが低い第２の領域を有し、
   前記第２の領域は、前記媒体対向面近傍において、前記垂直方向とは直交する方向に沿って所定の間隔で、且つ、前記媒体対向面に近い側から遠い側にかけて、幅が狭まる形状で形成されている、ヘッドスライダ。
4. 前記流出端面の少なくとも表面自由エネルギーが所定値以上の領域は、金属膜で形成されている、請求項３記載のヘッドスライダ。
5. 前記磁気記録媒体と、
   請求項１乃至４のいずれか１項記載のヘッドスライダを備えた、磁気記憶装置。

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