JP4527913B2 - 高強度高炭素鋼線用線材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、橋梁用鋼線、PC鋼線、送電線の補強用鋼線(ACSR)、ばね用鋼線、各種ワイヤロープ、スチールタイヤコード等に広く使われている高強度の高炭素鋼線用線材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
パーライト組織を有する高炭素鋼線材を伸線加工によって強化した高炭素鋼線は、軽量化あるいは工事期間の短縮のために高強度化のニーズが強まっている。通常、橋梁用鋼線、PC鋼線等の高炭素鋼線は、熱間圧延された高炭素鋼線材を再加熱するパテンティング処理を行った後、冷間で伸線加工を行い、最終的に耐食性を確保するために溶融Znめっき、溶融Zn−Alめっき等を行うか、あるいはブルーイング処理を施す行程で製造されている。また、スチールコードは、パテンティング処理後にブラスめっきを行い、湿式伸線を行う工程で製造されている。
【0003】
これらの高炭素鋼線の高強度化を達成する上での最大の課題は、鋼線の延性、特に延性の評価方法の一つであるねじり試験において鋼線の長手方向に生じる縦割れの発生(以下、デラミネーションと言う)を抑制する技術にある。
【0004】
高炭素鋼線におけるデラミネーションの抑制技術あるいは延性低下を防止する技術として、特開平7−179994号公報にはパテンティング処理後のパーライトノジュールサイズを規制する技術が、特開平7−292443号公報にはSiとAl添加量を規制する技術が、特開平8−53737号公報には溶融めっき鋼線の表層硬度を制御する技術が、特開平8−120407号公報にはセメンタイトの平均粒径を規制する技術が、特開平9−87803号公報には固溶N量を規制する技術がそれぞれ提案されている。また、特開昭60−204865号、特開昭63−24046号、特公平3−23674号の各公報にはそれぞれC、Si、Mn、Cr等の化学成分を規制した高強度で高延性の極細鋼線用高炭素線材が提案されている。更に、特開平6−145895号公報では化学成分と非金属介在物組成及び初析セメンタイトの面積分率を制御した高強度高靭性鋼線材が、特開平7−113119号公報では鋼の化学成分と最終ダイスでの減面率を制御する高強度高靭延性極細鋼線の製造方法がそれぞれ開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の技術では、高炭素鋼線の高強度化に関して限界があり、また製造コストも高くなる欠点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き実状に鑑みなされたものであって、橋梁用鋼線、PC鋼線、送電線の補強用鋼線(ACSR)、ばね用鋼線、各種ワイヤロープ、スチールタイヤコード等に広く使われている高炭素鋼線において、ねじり試験時に発生するデラミネーションを抑制し、延性が優れた高炭素鋼線及びその製造方法を低コストで実現する技術を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高炭素鋼線の高強度化の阻害要因であるデラミネーションの支配要因について種々解析した。この結果、パテンティング処理した線材における固溶Cが、デラミネーションの発生に対して著しく影響することを見出した。即ち、パテンティング処理後の組織は、フェライトとセメンタイトの層状組織からなる微細パーライトとなるが、フェライト中の固溶C量が大きい場合には、デラミネーションの発生頻度が著しく増加することを見出した。更に、フェライト中の固溶C量を低コストで制御する手段について検討を進めた。この結果、鋼材面からの解決手段としてMg、Zrを含む微細酸化物や硫化物あるいはこれらの複合物は、固溶C量を低減させる効果があることを見出した。また、パテンティング処理後の最適な冷却速度、あるいはパテンティング処理後の低温焼鈍で、固溶C量を制御できる技術を確立した。
【0008】
以上の新知見に基づき、パテンティング処理した線材におけるフェライト中の固溶C量を制御できれば、高強度の高炭素鋼線において、デラミネーションの発生を防止することができるとの結論に達し本発明をなしたものである。
【0009】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、下記の通りである。
【0010】
(1) 質量%で、
C :0.8〜1.1%、
Si:0.05〜2%、
Mn:0.2〜2%
を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる熱間圧延された線材であって、前記線材に1〜2%の引張ひずみを付与し、引続き、150〜300℃で60〜300秒の時効処理を施した際に、時効処理前後の耐力の増加量が200MPa以下であることを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材。
【0011】
(2) 質量%で、Mg:0.0001〜0.002%、Zr:0.0001〜0.002%、の1種又は2種を含有することを特徴とする前記(1)記載の高強度鋼線用線材。
【0012】
(3) 質量%で、Cr:0.05〜1%、Mo:0.05〜0.5%、Ni:0.05〜1%、V:0.01〜0.5%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の高強度高炭素鋼線用線材。
【0013】
(4) 質量%で、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.002〜0.1%、Nb:0.002〜0.1%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)、(2)又は(3)記載の高強度高炭素鋼線用線材。
【0014】
(5) フェライト中の固溶C量が25ppm以下であることを特徴とする前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の高強度高炭素鋼線用線材。
【0015】
(6) 前記(1)〜(5)の何れか1項に記載の線材を製造する方法であって、前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の成分からなる鋼を熱間圧延した後に、再加熱せずに450〜650℃でパテンティングを行い、引続き、1〜8℃/秒で冷却することを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材の製造方法。
【0016】
(7) 前記(1)〜(5)の何れか1項に記載の線材を製造する方法であって、前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の成分からなる鋼を熱間圧延した後に、再加熱せずに450〜650℃でパテンティングを行い、引続き、150〜300℃の温度範囲で保定することを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
はじめに、本発明の成分限定理由について述べる。
【0019】
C:Cはパテンティング処理後の引張強さの増加及び伸線加工硬化率を高める効果があり、より少ない伸線加工歪で高炭素鋼線の引張強さを高めることができる。Cが0.8%未満では本発明で目的とする高強度の高炭素鋼線を実現することが困難となり、一方、1.1%を超えるとパテンティング処理時に初析セメンタイトがオーステナイト粒界に析出して伸線加工性が劣化し伸線加工中に断線が頻発するため、Cを0.8〜1.1%の範囲に限定した。
【0020】
Si:Siはパーライト中のフェライトを強化させるためと鋼の脱酸のために有効な元素である。0.05%未満では上記の効果が期待できず、一方2%を超えると伸線加工性に対して有害な硬質のSiO2系介在物が発生しやすくなるため、0.05〜2%の範囲に制限した。
【0021】
Mn:Mnは脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、鋼の焼入性を向上させパテンティング処理後の引張強さを高めるために有効な元素であるが、0.2%未満では上記の効果が得られず、一方2%を越えると上記の効果が飽和し、更にパテンティング処理時のパーライト変態を完了させるための処理時間が長くなりすぎて生産性が低下するため、0.2〜2%の範囲に限定した。
【0022】
Mg:Mgを添加すると、Mgの微細な酸化物や硫化物あるいはこれらの複合物が生成する。Mg系の酸化物・硫化物がフェライト中に存在すると、パテンティング処理後の固溶C量を低下させる作用があり、デラミネーションの防止に対して極めて有効な元素であることを見出した。Mgが0.0001%未満では上記の効果が発揮できず、また0.002%を超えて添加しても効果が飽和し製造コストも高くなるため、0.0001〜0.002%に限定した。
【0023】
Zr:ZrもMgと同様に、Zrの微細な酸化物や硫化物あるいはこれらの複合物を生成する。Zr系の酸化物・硫化物がフェライト中に存在すると、パテンティング処理後の固溶C量を低下させる作用があり、デラミネーションの防止に対して極めて有効な元素であるであることが明確になった。Zrが0.0001%未満では上記の効果が発揮できず、また0.002%を超えて添加しても効果が飽和し製造コストも高くなるため、0.0001〜0.002%に限定した。なお、MgとZrの両者を添加する場合、MgとZrの複合酸化物や硫化物が生成するが、複合酸化物や硫化物であっても固溶C量を低下させる効果がある。
【0024】
Cr:Crはパーライトのセメンタイト間隔を微細化しパテンティング処理後の引張強さを高めるとともに特に伸線加工硬化率を向上させる有効な元素であるが、0.05%未満では前記作用の効果が少なく、一方1%を超えるとパテンティング処理時のパーライト変態終了時間が長くなり生産性が低下するため、0.05〜1%の範囲に限定した。
【0025】
Mo:Moは、パテンティング処理時の焼入性を増加させ、パテンティング処理後の引張強さを高める効果がある。0.05%未満では上記の効果が発揮できず、一方0.5%を超えて添加しても効果が飽和するために、0.05〜0.5%の範囲に限定した。
【0026】
Ni:Niはパテンティング処理時に変態生成するパーライトを伸線加工性の良好なものにする作用を有するが、0.05%未満では上記の効果が得られず、1%を超えても添加量に見合うだけの効果が少ないためこれを上限とした。
【0027】
V:Vはパーライトのセメンタイト間隔を微細化しパテンティング処理後の引張強さを高める効果があるが、この効果は0.01%未満では不十分であり、一方0.5%を超えると効果が飽和するため0.01〜0.5%の範囲に制限した。
【0028】
Al:Alは脱酸のためと窒化物を形成することにより、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止させるのに有効である。Alの添加量が0.005%未満では上記作用が十分でないため下限を0.005%に限定した。一方、0.1%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.1%に制限した。
【0029】
Ti:Tiは脱酸及び炭窒化物を形成することにより、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果を有しているが、0.002%未満ではこれらの効果が発揮されず、0.1%を超えて添加しても効果が飽和するため0.002〜0.1%の範囲に限定した。
【0030】
Nb:NbはTiと同様に炭窒化物を生成することにより結晶粒を微細化させるために有効な元素であるが、0.002%未満ではその効果が不十分であり、一方0.1%を超えるとこの効果が飽和するため0.002〜0.1%に制限した。
【0031】
他の元素は特に限定しないが、不純物として含有される成分としてP:0.02%以下、S:0.02%以下、N;0.007%以下が望ましい範囲である。
【0032】
次に、本発明で目的とする高強度の高炭素鋼線において、デラミネーション発生の防止を図るために極めて重要となるフェライト中の固溶C量について述べる。
【0033】
本発明では高炭素鋼線の延性をねじり試験を用いて、デラミネーション発生の有無で評価している。ここで、デラミネーションが発生する鋼線は延性が低いことを意味している。また、線材のフェライト中の固溶C量は、アトムプローブ電界イオン顕微鏡を用いると正確に測定できる。しかし、分析用の試料作成と分析に長時間を要するため、本発明では、フェライト中の固溶C量の大小を簡易的に評価できる方法を採用した。即ち、パテンティング処理後の線材を矯正加工によって直線にし、その後、引張試験機で1〜2%の引張ひずみを線材に付与する。1〜2%の引張ひずみを線材に付与した際の荷重を線材の断面積で除した値を時効前耐力とする。ひずみを付与した後に荷重を除去し、150〜300℃の油浴中において60〜300秒の時効処理を行い、再度、引張試験を行う。この過程を図1に示す。同図において、ひずみを付与した後に、時効処理を行うと耐力が増加する。時効後の耐力を時効後耐力とする。時効後耐力から時効前耐力を引いた値が、本発明で限定している時効前後の耐力の増加量である。ここで、線材中の固溶C量が多いほど、時効前後の耐力の増加量は大きくなる。これは、ひずみを付与するとフェライト中に転位が導入され、その後、時効処理を行うと固溶Cが転位を固着するために起きる現象である。図2にパテンティング処理した線材の時効前後の耐力の増加量、即ち固溶C量と高炭素鋼線のデラミネーション発生の関係について解析した一例を示す。高炭素鋼線は、線径が0.4mmで引張強さが3850MPa前後のものである。同図から明らかなように、時効前後の耐力の増加量が200MPaを超えるとデラミネーションが発生することが分かる。時効前後の耐力の増加量ΔYが200MPaを超えるときの線材の固溶C量は25ppmであった。更に、図3は線径が7mmで引張強さが1950MPa前後の高炭素鋼線の例である。図2の結果と同様に、時効前後の耐力の増加量が200MPa以下では、デラミネーションが発生しないことが分かる。時効前後の耐力の増加量ΔYが200MPaを超えるときの線材の固溶C量は25ppmであった。以上のことから、時効処理前後の耐力の増加量を200MPa以下に限定した。高強度で且つ耐デラミネーション特性を得るための、より好ましい条件は、180MPa以下である。また、引張ひずみを1〜2%に限定した理由は、1%未満では正確にひずみを制御することが困難であり、一方、2%を超えてひずみを線材に付与すると破断の可能性があるため、1〜2%の範囲に限定した。ひずみ付与後の時効処理温度は、150℃未満であるとCの拡散速度が遅くなり、処理時間に長時間を要し、300℃を超えるとパーライト組織自体が変化する可能性があるため、150〜300℃に限定した。
【0034】
また、線材の固溶C量は、以上のことから25ppm以下とした。
【0035】
次に、高強度高炭素鋼線用線材の製造方法の限定理由について、述べる。
【0036】
本発明では、通常の熱間圧延を行った後に、再加熱せずに450〜650℃で直接パテンティングを行うものである。直接パテンティングは、従来の熱間圧延材を冷却し、再加熱した後に行うパテンティングよりも、パテンティング処理後の引張強さが高く高強度化に対して有利であるばかりでなく、低コストで高強度の高炭素鋼線が製造できるからである。直接パテンティング温度が450℃未満では、伸線加工性に有害なベイナイトが発生しやすくなるために、下限を450℃に制限した。一方、650℃を超えると伸線加工性が悪い粗大なパーライト組織になり、更にC含有量の高い鋼では初析セメンタイトが発生しやすいために、パテンティング処理温度の上限を650℃に制限した。
【0037】
パテンティング処理後の冷却速度が、8℃/秒を超えると、ひずみ時効前後の耐力の増加量が200MPaを超え、デラミネーションが発生しやすくなるために、8℃/秒以下に限定した。より好ましい冷却速度は、5℃/秒以下である。一方、冷却速度が1℃/秒より遅いと生産性が低下するため、冷却速度の下限を1℃/秒とする。
【0038】
パテンティング処理後の冷却終了温度は、150℃未満が好ましい条件である。また、本発明の製造方法においては、パテンティング処理後、引続き、150〜300℃の温度範囲に保定しても差し支えがない。ここで、150℃未満では、時効処理前後の耐力の増加量を200MPaに制御することが困難であり、300℃を超えて保定するとパーライト組織が変化し、伸線加工性が劣化しやすくなるために、150〜300℃の温度範囲に限定した。保定時間は、特に限定しないものの、2〜60分が好ましい条件である。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果を更に具体的に説明する。
【0040】
表1に供試材の化学組成を示す。これらの供試材を用いて、種々の線径に熱間圧延した後、直接パテンティングを行った。パテンティング浴は、溶融鉛、溶融塩、空気の3条件で行った。エアパテンティングは、熱間圧延線材に吹きかける空気の風量を調整することで、パテンティング温度を制御した。直接パテンティング処理後に引続き保定する場合、保定時間を30分にした。これらのパテンティング線材の固溶C量はアトムプローブ電界イオン顕微鏡を用いて測定した。また、パテンティング処理線材の時効処理前後の耐力の増加量は、引張ひずみが1.5%、時効温度が250℃、時効時間が90秒の条件で調査した。その後、これらのパテンティング線材を用いて、所定の線径まで伸線加工を行い、用途に応じて、ブルーイング処理あるいは溶融めっきを施した。ブルーイング処理温度は300〜500℃の条件で、溶融亜鉛めっきは450℃の条件で行った。また、最終用途に応じて、パテンティング処理後、銅めっき、もしくはブラスめっきを施した後に、伸線加工を行った。これらの高炭素鋼線について、引張試験とねじり試験を行った。デラミネーション発生の有無は、ねじり試験で判定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表2に供試材の種類、製造条件、引張強さ、デラミネーションの発生の有無等について示す。同表において、試験No.1、3、5、8、10、12、15、17、19、22、24、26、28、30、32、34、36、38が本発明例であり、その他は比較例である。同表に見られるように、本発明例の高炭素鋼線材は、いずれも時効処理前後の耐力の増加量が200MPa以下に制御され、線材の固溶C量は25ppm以下に制御されている。この結果、伸線加工を行った高炭素鋼線において、高強度であるにもかかわらず、ねじり試験においてデラミネーションの発生がなく、高延性化が実現できている。
【0043】
これに対して比較例であるNo.7、21は、いずれも鋼の化学成分が不適切な例である。即ち、No.7はC量が0.72%と低いために高強度化が達成できていない例である。No.21はC含有量が高すぎるためにパテンティング処理時に初析セメンタイトが析出した例である。この結果、伸線加工性が劣化し、伸線加工時に断線が頻発したものである。
【0044】
比較例である試験No.14と40は、いずれも直接パテンティング処理温度が不適切な例である。No.14は、パテンティング処理温度が高すぎたために、粗大なパーライト組織になるとともに初析セメンタイトが析出し、伸線加工中に断線が頻発した例である。また、No.40は、パテンティング処理温度が低すぎたために、伸線加工性を劣化させるベイナイトが生成し、この結果、伸線加工中に断線した例である。
【0045】
比較例である試験No.2、4、6、9、11、13、16、18、25,29、31、33、35、37、39は、いずれもパテンティング処理後の冷却速度が速すぎるために、時効処理前後の耐力の増加量が200MPaを超えた例である。この結果、伸線加工後のねじり試験において、デラミネーションが発生したものである。
【0046】
更に、比較例である試験No.20、23、27は、いずれもパテンティング処理後の保定温度が不適切な例である。即ち、いずれも保定温度が150℃未満であったために、時効処理前後の耐力の増加量が200MPaを超え、この結果、デラミネーションが発生した例である。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【発明の効果】
以上の実施例からも明かなように、本発明は高強度の高炭素鋼線おけるデラミネーションの防止に対して、高炭素鋼線材中の固溶C量の低減が極めて有効であることを見出し、更に時効処理前後の耐力の増加量が200MPa以下であればデラミネーションを防止することができることを明確にし、高強度の高炭素鋼線用線材を実現したものであり、産業上の効果は極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】高炭素鋼線材における時効処理前後の耐力の増加量を求める方法を示す図である。
【図2】高炭素鋼線材における時効処理前後の耐力の増加量と線径が0.4mmの高炭素鋼線におけるデラミネーション発生の有無の関係について解析した一例を示す図である。
【図3】高炭素鋼線材における時効処理前後の耐力の増加量と線径が7mmの高炭素鋼線におけるデラミネーション発生の有無の関係について解析した一例を示す図である。
Claims (7)
- 質量%で、
C :0.8〜1.1%、
Si:0.05〜2%、
Mn:0.2〜2%
を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる熱間圧延された線材であって、前記線材に1〜2%の引張ひずみを付与し、引続き、150〜300℃で60〜300秒の時効処理を施した際に、時効処理前後の耐力の増加量が200MPa以下であることを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材。 - 質量%で、
Mg:0.0001〜0.002%、
Zr:0.0001〜0.002%
の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度鋼線用線材。 - 質量%で、
Cr:0.05〜1%、
Mo:0.05〜0.5%、
Ni:0.05〜1%、
V :0.01〜0.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の高強度高炭素鋼線用線材。 - 質量%で、
Al:0.005〜0.1%、
Ti:0.002〜0.1%、
Nb:0.002〜0.1%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の高強度高炭素鋼線用線材。 - フェライト中の固溶C量が25ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の高強度高炭素鋼線用線材。
- 請求項1〜5の何れか1項に記載の線材を製造する方法であって、請求項1〜4の何れか1項に記載の成分からなる鋼を熱間圧延した後に、再加熱せずに450〜650℃でパテンティングを行い、引続き、1〜8℃/秒で冷却することを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材の製造方法。
- 請求項1〜5の何れか1項に記載の線材を製造する方法であって、請求項1〜4の何れか1項に記載の成分からなる鋼を熱間圧延した後に、再加熱せずに450〜650℃でパテンティングを行い、引続き、150〜300℃で保定することを特徴とする高強度高炭素鋼線用線材の製造方法。
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