アクチュエータが受ける外力としては、例えば、外部から加わる衝撃や振動の影響でアクチュエータが受ける慣性力や、アクチュエータの軸受摩擦やアクチュエータと電子回路基板とを接続するフレキシブルプリント回路(FPC)の弾性力等による外乱などが考えられる。上記の従来のディスク装置においては、そのような外乱を推定するための外乱推定手段は、ヘッド位置信号とアクチュエータの駆動信号とが入力されて作用する。しかしながら、磁気ディスクに記録されたサーボ情報は一定のサンプリング周期をもつ離散的な状態でディスクに記録されているため、ヘッド位置信号は連続信号ではない。したがって、外乱推定手段が外乱を推定できる制御帯域は、磁気ディスク装置のセクタサーボのサンプリング周波数の影響を受け、セクタサーボのサンプリング周波数によって上限が存在することになる。この上限の存在が、アクチュエータに加わる外力を正確に推定することを困難にしていた。また、外部からアクチュエータに加わる外乱の影響を、実使用においてなんら支障を生じさせない程度にまで軽減することを極めて難しくしていた。その結果、ヘッドを目標トラックに対して常に正確に追従させることが困難であるという問題が生じていた。
一方、アクチュエータの駆動コイルの抵抗値には、駆動コイル毎にばらつきがある場合がある。また、駆動コイルに駆動電流を通電したときに駆動コイルが発熱し、その温度上昇のために抵抗値が変動する場合もある。そのような場合には、駆動コイルの抵抗値の誤差(公称値からのずれ)により、外乱推定手段を含めた位置決め制御系が不安定になるという課題が生じる。
なお、このような課題は磁気ディスク装置に限らず、ディスク装置の全般に共通する課題である。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、アクチュエータのコイルの抵抗値が公称値からずれた場合であっても、外乱推定手段によりアクチュエータに作用する外乱を正確に推定し、目標トラックに対するヘッドの位置決めを高精度かつ安定的に行うことを目的とする。
本発明のディスク装置は、ボイスコイルモータと該ボイスコイルモータに設けられたアームと該アームに取り付けられて情報の記録を行う書き込み用及び/又は情報の再生を行う読み込み用ヘッドとを有するアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動するための駆動信号と前記アクチュエータに加わる外乱を模擬した疑似外乱信号とが入力され、前記アクチュエータを駆動する駆動手段と、前記アクチュエータの駆動に伴って前記ボイスコイルモータに発生する電圧を検出し、該電圧に対応する第1の電圧信号を出力する電圧検出手段と、前記疑似外乱信号を出力する一方、前記駆動信号と外乱を推定した外乱推定信号と前記第1の電圧信号とが入力され、前記記録時及び再生時以外の時に前記ボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように前記第1の電圧信号を調整して第2の電圧信号を生成する電圧信号調整手段と、前記駆動信号と前記第2の電圧信号とから前記アクチュエータに加わる外乱の大きさを推定して前記外乱推定信号を生成する外乱推定手段と、を備えている。
この構成により、外乱推定手段は、アクチュエータを駆動するための駆動信号と電圧信号調整手段の生成する第2の電圧信号とに基づいて、アクチュエータに作用する外乱(例えば、アクチュエータの軸受摩擦、アクチュエータと電子回路基板とを接続するFPCの弾性力、ディスク装置に外部から加わる衝撃や振動によりアクチュエータの受ける慣性力等)の大きさを正確に推定することができる。
また、上記ディスク装置では、ボイスコイルモータの誘起電圧に対応する第1の電圧信号を外乱推定手段にそのまま入力するのではなく、当該第1の電圧信号をボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように調整することによって第2の電圧信号を生成し、外乱推定手段には当該第2の電圧信号を入力する。そのため、アクチュエータのボイスコイルモータの抵抗値にばらつきがあったり、あるいは通電による温度上昇のために抵抗値が変動したとしても、アクチュエータの駆動に伴って前記ボイスコイルモータに発生する電圧信号を正確に求めることができる。
前記電圧信号調整手段には、前記擬似外乱信号がさらに入力され、前記ヘッドを目標位置に位置づけるための位置制御信号と前記外乱推定信号とが入力され、前記駆動信号を出力する補正手段をさらに備えていることが好ましい。
特に、目標トラックにヘッドを追従させるフォローイング動作時においては、アクチュエータに加わる外乱負荷の大きさを正確に推定することが重要である。上記ディスク装置では、外乱推定手段が推定した外乱は外乱推定信号として補正手段に出力される。そして、補正手段は、この外乱推定信号に基づいて、アクチュエータに加わる外乱を打ち消すように位置制御信号を補正する。補正後の位置制御信号は、駆動信号として補正手段から出力される。
上記ディスク装置では、上記駆動信号に基づいてアクチュエータを駆動するので、アクチュエータに加わる外乱を良好に打ち消すことができる。すなわち、アクチュエータに作用する外乱に対する補償を行うので、目標トラックに向かうフォローイング動作時に外乱の変動が大きくても、ヘッドの目標トラックへの位置決め制御を安定して行うことができる。
加えて、外乱推定手段には第1の電圧信号をボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように調整した第2の電圧信号を入力するため、ヘッドの目標トラックへの位置決め制御を安定に行うことができる。すなわち、より多様な条件変化に対しても、位置決め精度を向上させることができる。
前記電圧信号調整手段は、前記外乱推定信号の位相と前記疑似外乱信号の位相とが略等しくなるように前記第2の電圧信号を生成するように構成されている、としてもよい。
このことにより、第1の電圧信号を外乱推定信号の位相と前記疑似外乱信号の位相とが略等しくなるように調整し、調整後の信号を第2の電圧信号として外乱推定手段に入力する。そのため、第1の電圧信号は、ボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように調整された信号(=第2の電圧信号)として、外乱推定手段に供給されることになる。したがって、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
前記電圧信号調整手段は、第1の基準信号と第2の基準信号とを発生する信号発生手段と、前記外乱推定信号と前記第1の基準信号とが入力され、前記外乱推定信号と前記第1の基準信号とを乗算して得られた乗算結果を一定時間積分することによって位相信号を逐次生成する位相比較手段と、前記位相信号を逐次積分することにより補正信号を生成し、前記位相信号の値が所定の範囲内になると前記補正信号を保持する積分手段と、前記駆動信号と前記疑似外乱信号とを合成した信号と前記補正信号とを乗算する乗算手段と、前記乗算手段から出力される信号と前記第1の電圧信号とから前記第2の電圧信号を生成する調整手段とを備え、前記疑似外乱信号は前記第2の基準信号からなり、前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対する前記疑似外乱信号の入力は、前記位相信号の値が所定の範囲内になるまで行われることが好ましい。
この構成によれば、位相信号が所定の範囲内に収まることでボイスコイルモータの抵抗補正の動作完了が判断され、動作完了後は補正後の抵抗値に基づいて位置決め制御が行われる。上記構成によれば、ボイスコイルモータの抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値の変動等があったとしても、アクチュエータの駆動において発生する誘起電圧を短時間で精度よく検出することができ、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
さらに、前記位相信号の値が所定の範囲内になるまで前記補正手段に対する前記外乱推定信号の入力を禁止する入力禁止手段を備えていることが好ましい。
この構成により、外乱推定信号の位相が疑似外乱信号の位相と等しくなるように第2の電圧信号を調整する間は、外乱推定手段は正確な外乱推定信号を生成しないので、その期間は位置決め制御系においてフィードフォワード制御を行わないことにより、位置決め制御系をより安定に動作させることができる。
あるいは、前記電圧信号調整手段は、第1の基準信号と第2の基準信号とを発生する信号発生手段と、前記外乱推定信号と前記第1の基準信号とが入力され、前記外乱推定信号と前記第1の基準信号とを乗算して得られた乗算結果を一定時間積分することによって位相信号を逐次生成する位相比較手段と、前記位相信号を積分することにより補正信号を生成し、所定の時間が経過すると前記補正信号を保持する積分手段と、前記駆動信号と前記疑似外乱信号とを合成した信号と前記補正信号とを乗算する乗算手段と、前記乗算手段から出力される信号と前記第1の電圧信号とから前記第2の電圧信号を生成する調整手段とを備え、前記疑似外乱信号は前記第2の基準信号からなり、前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対する前記疑似外乱信号の入力は、所定の時間行われてもよい。
この構成によれば、疑似外乱信号の入力開始から所定時間が経過することによってボイスコイルモータの抵抗補正の動作完了が判断され、動作完了後は補正後の抵抗値に基づいて位置決め制御が行われる。上記構成によれば、ボイスコイルモータの抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値の変動があったとしても、アクチュエータの駆動において発生する誘起電圧を短時間で精度よく検出することができ、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
さらに、前記疑似外乱信号の入力が開始されてから所定の時間が経過するまで前記補正手段に対する前記外乱推定信号の入力を禁止する入力禁止手段を備えていることが好ましい。
この構成により、外乱推定信号の位相が疑似外乱信号の位相とが等しくなるように第2の電圧信号を調整する間は、外乱推定手段は正確な外乱推定信号を生成しないので、その期間は位置決め制御系においてフィードフォワード制御を行わないことにより、位置決め制御系を安定に動作させることができる。
前記第1及び第2の基準信号は、それぞれディスクの回転周波数の整数倍の周波数を有する信号からなっていることが好ましい。
ディスク装置がディスクの面振れなどによりディスクの回転に同期した外乱を多く受けた場合には、外乱推定手段の生成する外乱推定信号には、ディスクの回転に同期した成分が多く含まれる。上記構成によれば、位相比較手段に入力される第2の基準信号の周波数はディスクの回転周波数の整数倍に等しいので、ディスクの回転に同期した外乱により生じる誤差を低減することができる。その結果アクチュエータの駆動において発生する誘起電圧を、より高精度に求めることができ、位置決め制御系を更に安定に動作させることができる。
前記第1の基準信号と前記第2の基準信号とは、周波数が等しくかつ互いに位相が異なり、前記第1の基準信号の位相は、前記第2の基準信号に対する前記外乱推定信号の位相遅れ分だけさらに遅れていることが好ましい。
このことにより、第1の基準信号の位相を外乱推定信号の位相遅れ分だけ遅らせて位相比較手段に入力するので、位相比較手段の生成する位相信号に誤差が生じにくい。電圧信号調整手段は、ボイスコイルモータの抵抗誤差により発生した電圧降下を補正信号を用いて補正するので、第2の電圧信号には当該電圧降下は含まれず、アクチュエータの駆動によって発生する誘起電圧のみを含むことになる。したがって、外乱推定手段を含めた位置決め制御系をさらに安定に動作させることができる。
前記位相信号は、前記外乱推定信号と前記第1の基準信号とを乗算して得られた乗算結果をディスクの回転周期の整数倍の時間だけ時間積分することにより生成されることが好ましい。
このことにより、ディスク装置がディスクの面振れなどによりディスクの回転に同期した外乱を多く受け、外乱推定手段の生成する外乱推定信号にディスクの回転に同期した成分が多く含まれたとしても、そのようなディスク回転に同期した外乱により生じる誤差を低減することができる。その結果、アクチュエータの駆動において発生する誘起電圧を、より高精度に求めることができ、位置決め制御系を安定に動作させることができる。
前記電圧信号調整手段は、前記外乱推定信号の大きさが最小となるように前記第2の電圧信号を生成する、としてもよい。
なお、上記及び下記において、外乱推定信号の大きさの「最小」とは、必ずしも厳密な意味での最小に限らず、実質的に最小とみなせるものをも含む意味である。外乱推定信号の大きさを検出する際には、所定のサンプリング周期で検出を行う場合が多く、この場合、外乱推定信号は離散的に検出されることになる。このような場合には、検出した複数の値のうちで最も小さい値を最小とみなすことができる。もっとも、外乱推定信号を連続的(アナログ的)に検出し、厳密な意味で最小となるように第1電圧信号の調整を行ってもよいことは勿論である。
上記構成により、第1の電圧信号を疑似外乱信号に対する外乱推定信号の大きさが最小となるように調整し、調整後の信号を第2の電圧信号として外乱推定手段に入力する。そのため、第1の電圧信号は、ボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように調整された信号(=第2の電圧信号)として、外乱推定手段に供給されることになる。したがって、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
前記電圧信号調整手段は、基準信号を発生する信号発生手段と、前記外乱推定信号が入力され、所定の周期ごとに前記外乱推定信号の振幅の最大値を検出すると共に該最大値を保持し、各周期の終了時に該最大値を示す振幅信号を生成する振幅保持手段と、前記第2の電圧信号を生成するための補正信号を出力し、各周期ごとに、該周期の振幅信号と該周期よりも一つ前の周期の振幅信号との差を表す差分信号を生成し、該差分信号が所定範囲内になければ該所定範囲内になるように前記補正信号を調整する一方、前記差分信号が所定範囲内にあれば前記補正信号を維持する差分積分手段と、前記駆動信号と前記疑似外乱信号とを合成した信号と前記補正信号とを乗算する乗算手段と、前記乗算手段から出力される信号と前記第1の電圧信号とから前記第2の電圧信号を生成する調整手段とを備え、前記疑似外乱信号は前記基準信号からなり、前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対する前記疑似外乱信号の入力は、前記差分信号が所定範囲内になるまで行われることが好ましい。
なお、上記及び下記において、外乱推定信号の振幅の「最大値」とは、必ずしも厳密な意味での最大値に限らず、実質的に最大値とみなせるものも含む意味である。振幅を離散的に検出した場合、複数の検出値のうちで最も大きな値を最大値と見なしてもよい。所定の周期は、一定時間の周期であってもよく、一定でない周期であってもよい。
上記構成によれば、差分信号が所定の範囲内に収まることでボイルコイルモータの抵抗補正の動作完了が判断され、動作完了後は補正後の抵抗値に基づいて位置決め制御が行われる。上記構成によれば、ボイルコイルモータの抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値の変動等があったとしても、アクチュエータの駆動により発生する誘起電圧を短時間で精度よく検出することができ、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定して動作させることができる。
前記ディスク装置は、更に、前記差分信号が所定範囲内になるまで前記補正手段に対する前記外乱推定信号の入力を禁止する入力禁止手段を備えていることが好ましい。
この構成により、差分信号が所定範囲内になるように補正信号を調整する間は、外乱推定手段は正確な外乱推定信号を生成しないので、その期間は位置決め制御系においてフィードフォワード制御を行わないことにより、位置決め制御系をより安定的に動作させることができる。
あるいは、前記電圧信号調整手段は、前記外乱推定信号が入力され、所定の周期ごとに前記外乱推定信号の振幅の最大値を検出すると共に該最大値を保持し、各周期の終了時に該最大値を示す振幅信号を生成する振幅保持手段と、前記第2の電圧信号を生成するための補正信号を出力し、各周期ごとに、該周期の振幅信号と該周期よりも一つ前の周期の振幅信号との差を表す差分信号を生成し、該差分信号が所定範囲内になければ該所定範囲内になるように前記補正信号を調整する一方、所定時間が経過した後は該所定時間経過時の補正信号を維持する差分積分手段と、前記駆動信号と前記疑似外乱信号とを合成した信号と前記補正信号とを乗算する乗算手段と、前記乗算手段から出力される信号と前記第1の電圧信号とから前記第2の電圧信号を生成する調整手段とを備え、前記疑似外乱信号は前記基準信号からなり、前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対する前記疑似外乱信号の入力は、前記所定時間が経過するまで行われてもよい。
この構成によれば、疑似外乱信号の入力開始から所定時間が経過することによってボイスコイルモータの抵抗補正の動作完了が判断され、動作完了後は補正後の抵抗値に基づいて位置決め制御が行われる。上記構成によれば、ボイルコイルモータの抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値の変動があったとしても、アクチュエータの駆動により発生する誘起電圧を短時間で精度よく検出することができ、外乱推定手段を含めた位置決め制御系を安定して動作させることができる。
前記ディスク装置は、更に、前記疑似外乱信号の入力が開始されてから前記所定時間が経過するまで前記補正手段に対する前記外乱推定信号の入力を禁止する入力禁止手段を備えていることが好ましい。
この構成により、差分信号が所定範囲内になるように補正信号を調整する所定時間の間は、外乱推定手段は正確な外乱推定信号を生成しないので、その期間は位置決め制御系においてフィードフォワード制御を行わないことにより、位置決め制御系をより安定的に動作させることができる。
前記ディスク装置は、サーボ情報が記録されたディスクと、前記サーボ情報を前記ヘッドで読み取ることによって前記ヘッドの位置を検出する位置検出手段と、前記ヘッドの位置と目標位置とからヘッド位置誤差を算出する位置誤差検出手段と、前記位置誤差をなくすように前記位置制御信号を生成する位置制御手段と、を備えていてもよい。
前記ディスク装置は、前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対して前記疑似外乱信号が入力されているときには前記補正手段に対する前記外乱推定信号の入力を禁止する入力禁止手段を備えていることが好ましい。
前記駆動手段及び前記電圧調整手段に対して前記疑似外乱信号が入力されている期間は、疑似外乱信号の分だけ外乱推定信号は正確性を欠くので、その期間は補正手段に外乱推定信号を入力せず、位置決め制御系においてフィードフォワード制御を行わないことにより、位置決め制御系をより安定に動作させることができる。
前記外乱推定手段は、前記第2の電圧信号と該第2の電圧信号を推定した誘起電圧推定信号とが入力され、前記第2の電圧信号と前記誘起電圧推定信号との誤差を示す誤差信号を出力する比較手段と、前記駆動信号に第1の伝達関数からなる係数を乗算する第1の乗算手段と、前記誤差信号に第2の伝達関数からなる係数を乗算する第2の乗算手段と、前記誤差信号を積分することによって前記外乱推定信号を生成する第1の積分手段と、前記外乱推定信号と前記第2の乗算手段の出力信号との加算値を前記第1の乗算手段の出力信号から減算した減算値が入力され、前記減算値を積分することにより前記誘起電圧推定信号を生成する第2の積分手段と、を備えていることが好ましい。
この構成により、第1の乗算手段の出力は、アクチュエータに作用する駆動トルクに対応した駆動トルク推定信号となる。第2の積分手段の出力(誘起電圧推定信号)は、電圧信号調整手段の生成する第2の電圧信号に対するフィードバック要素となる。第2の電圧信号と誘起電圧推定信号との差分をとる比較手段の出力は、第1の積分手段と第2の乗算手段とに与えられる。前記の差分を積分する第1の積分手段の出力は、アクチュエータが軸受から受ける摩擦やFPCから受ける弾性力や衝撃や振動による慣性力などの外乱に対応した外乱推定信号となる。その外乱推定信号に対して、前記の差分に所定の係数を乗算した第2の乗算手段の出力を加算する。そして、駆動トルク推定信号から前記の加算値との差分をとって第2の積分手段に与える。
第1の積分手段が出力する外乱推定信号は、アクチュエータの受ける外乱を正確に推定したものに相当している。そして、このように正確に割り出した外乱推定信号に基づいて外乱を打ち消すようフィードフォワード制御を行うので、フォローイング動作においてアクチュエータに作用する外乱に対する補償を正確に行うことができる。フォローイング動作時に外乱の変動が大きくても、さらには、アクチュエータのボイスコイルモータの抵抗値にばらつきや変動が生じたとしても、目標トラックに対するヘッドの位置決め制御を安定に行い、より多様な条件変化に対して、位置決め精度を向上させることができる。
本発明のヘッド位置決め制御方法は、ボイスコイルモータと該ボイスコイルモータに設けられたアームと該アームに取り付けられて情報の記録を行う書き込み用及び/又は情報の再生を行う読み込み用ヘッドとを有するアクチュエータを備えたディスク装置における前記ヘッドの位置決めを行う制御方法である。
前記制御方法は、前記ヘッドを目標位置に位置づけるための位置制御信号を生成する工程と、前記位置制御信号と外乱を推定した外乱推定信号とを合成して駆動信号を生成する工程と、前記アクチュエータに加わる外乱を模擬した疑似外乱信号を生成する工程と、前記駆動信号と前記疑似外乱信号とにより前記アクチュエータを駆動する工程と、前記アクチュエータの駆動に伴って前記ボイスコイルモータに発生する電圧を検出し、該電圧に対応する第1の電圧信号を生成する工程と、前記記録時及び再生時以外の時に、前記駆動信号と前記外乱推定信号と前記第1の電圧信号とから、前記ボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれを補正するように前記第1の電圧信号を調整して第2の電圧信号を生成する工程と、前記駆動信号と前記第2の電圧信号とから前記アクチュエータに加わる外乱の大きさを推定して前記外乱推定信号を生成する工程と、を包含する。
前記第2の電圧信号を生成する工程は、前記駆動信号と前記擬似外乱信号と前記外乱推定信号と前記第1の電圧信号とから、第2の電圧信号を生成する工程とすることが好ましい。
前記第2の電圧信号を生成する工程は、前記外乱推定信号の位相が前記疑似外乱信号の位相と略等しくなるように第2の電圧信号を生成する工程としてもよい。
また、前記第2の電圧信号を生成する工程は、前記外乱推定信号の大きさが最小となるように第2の電圧信号を生成する工程としてもよい。
なお、前記位置制御信号を生成する工程は、ディスクに予め記録されているサーボ情報を前記ヘッドで読み取ることによって前記ヘッドの位置を検出する工程と、前記ヘッドの位置と目標位置とからヘッド位置誤差を算出する工程と、前記位置誤差をなくすように前記位置制御信号を生成する工程と、を包含していてもよい。
以上のように本発明によれば、アクチュエータの軸受摩擦、アクチュエータと回路基板とを接続するFPCの弾性力、ディスク装置に外部から加わる衝撃や振動によりアクチュエータに作用する慣性力などの外乱を、正確に推定することができる。したがって、例えば目標トラックに向かうフォローイング動作時にアクチュエータに作用する外乱の変動が大きくても、外乱の変動を精度よく補償することができるので、目標トラックに対するヘッドの位置決め精度を向上させることできる。あわせて、アクチュエータの受ける慣性力を打ち消すことで、ディスク装置の耐衝撃特性を向上させることができ、ヘッドの位置決め制御を安定して行うことができる。
また、本発明では、ボイスコイルモータのコイル抵抗の公称値からのずれ(抵抗誤差)ΔRを調整することにより、アクチュエータの駆動において発生する電圧信号を正確に求めることができる。そして、その結果得られた第2の電圧信号と駆動信号とに基づいて外乱推定信号を生成し、その外乱推定信号と位置制御信号とを合成して駆動信号を生成している。したがって、アクチュエータのボイスコイルモータの抵抗値にばらつきが生じていたり、温度上昇による抵抗値変動により抵抗値が公称値から異なっている場合であっても、位置決め制御系を安定化させることができる。
本発明によれば、アクチュエータの小型軽量化等により、アクチュエータに作用する外乱が位置決め制御系に与える影響が大きくなったとき(特にボイスコイルモータの抵抗値にばらつきや変動があるとき)であっても、より多様な条件変化に対して、ヘッドの位置決め精度を向上させて対応することが可能である。したがって、トラック密度を従来のものより高めることができるので、大容量のディスク装置を実現することができる。
本発明のディスク装置およびその制御方法の実施の形態について、具体的な説明に入る前に、最初に全体内容を総括的に説明する。
本発明に係るディスク装置は、アクチュエータに加わる軸受摩擦や弾性力、衝撃や振動により受ける慣性力などによる外乱の影響を打ち消すために、その外乱の大きさを推定し、外乱の影響を考慮に入れた制御を行う。この外乱の大きさの推定に際しては、ボイスコイルモータに発生する誘起電圧に関連した電圧信号と、アクチュエータを駆動するための駆動信号とを用いる。
ボイスコイルモータの誘起電圧に関しては、誘起電圧の検出結果としての電圧信号を第1の電圧信号として用いることが考えられる。しかし、ボイスコイルモータ毎に抵抗値にばらつきがあったり、あるいはそれに駆動電流を通電したときに発熱し、温度上昇のため抵抗値が変動したりする場合がある。また、ディスク装置の周囲環境温度によって抵抗値が変化することもある。ボイスコイルモータの抵抗値が公称値からずれると、上記第1の電圧信号も変化する。
したがって、外乱推定手段において、誘起電圧を指標する電圧信号として第1の電圧信号をそのまま用いると、ボイスコイルモータの抵抗値のばらつきや抵抗値変動がある場合には、オープンループゲインが零になるゲイン交点周波数での位相に位相余裕がなくなり、制御系が不安定になる(詳細は後述する)。そこで、本発明では、電圧信号調整手段において、疑似外乱信号を駆動手段に与え、駆動信号と疑似外乱信号と外乱推定信号と第1の電圧信号とから、第1の電圧信号を調整した第2の電圧信号を生成する。そして、第1の電圧信号の代わりに第2の電圧信号を外乱推定手段に入力し、外乱の推定に際して第2の電圧信号を用いる。このことにより、ボイスコイルモータの抵抗値がばらついたり抵抗値変動があるときでも、アクチュエータの駆動において発生する電圧信号を正確に求めることができる。
外乱の推定に用いられるもう一つの要素である駆動信号は、アクチュエータの駆動手段に供給される駆動信号である。すなわち、外乱推定手段には、前記第2の電圧信号に加えて、上記駆動信号が入力される。ここで、駆動信号としては、駆動手段に入力するものであってもよいし、あるいは、駆動手段から出力するものであってもよい。また、駆動手段に供給される駆動信号に代えて、その駆動信号を生成するもとになる位置制御信号を用いてもよい。
すなわち、外乱の大きさを推定するための外乱推定手段を設け、この外乱推定手段によって、電圧信号調整手段の生成する第2の電圧信号と駆動手段における駆動信号とを入力して、外乱推定信号を生成させる。駆動信号と第2の電圧信号という2つの要素に基づいて生成した外乱推定信号は、ヘッドに実際に加わる外乱の大きさを正確に推定したものとなる。この結果、アクチュエータの軸受摩擦やアクチュエータと電子回路基板とを接続するFPCの弾性力やディスク装置に外部から加わる衝撃や振動によりアクチュエータの受ける慣性力などの外乱を、正確に推定することができる。
以下、本発明に係るディスク装置およびその制御方法について、具体的な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の実施の形態に係るディスク装置の1例である磁気ディスク装置の構成を示すブロック図である。
図1において、磁気ディスク1は、スピンドルモータ(図示せず)により回転駆動される。磁気ヘッド2は、磁気ディスク1に対してデータを記録/再生するためのものであり、アーム3の先端に搭載されている。アーム3が軸受4の周りを回動することにより、磁気ヘッド2は磁気ディスク1における目標トラックへ移動する。アーム3の他端には駆動コイル5が設けられている。固定子6は空隙を介して対向する一対のヨークからなり、その空隙部分に対応させて、少なくとも一方のヨークに図示しないマグネット(永久磁石)が固着されている。このマグネットは、ヨークの駆動コイル5に対向する面に配置されている。固定子6に配置されたマグネットが発生する磁束と駆動コイル5に通電される電流が作る磁界との相互作用により、アーム3は回転力を受ける。駆動コイル5及び固定子6は、ボイスコイルモータ(VCM:Voice Coil Motor)を構成している。磁気ヘッド2、アーム3、軸受4、駆動コイル5、及び固定子6は、アクチュエータ7を構成している。
駆動器10に含まれる電圧検出器11は、駆動コイル5の両端に発生する電圧を検出し、第1の電圧信号Edを出力する。電圧信号調整器16は、スイッチ18を介して加算器17に対し疑似外乱信号urを出力する。また、電圧信号調整器16は、加算器17で得られた駆動信号u+(=u+ur)と第1の電圧信号Edと外乱推定信号τdestとから第2の電圧信号Ed+を生成し、この第2電圧信号Ed+を外乱推定器12へ出力する。外乱推定器12は、電圧信号調整器16の出力する第2の電圧信号Ed+と駆動信号uとから、アーム3に作用する外乱トルクτdを推定し、外乱推定信号τdestを出力する。
磁気ディスク1の各セクタには予めサーボ情報としてトラックの位置信号が記録されており、この位置信号は磁気ヘッド2により読み込まれる。位置検出器13は、磁気ヘッド2により読み込まれた位置信号により磁気ヘッド2の現在位置を検出し、現在位置と目標トラックの目標位置rとの差を示す位置誤差信号eを生成する。位置制御器14は、位置検出器13で生成された位置誤差信号eが入力されて、その増幅および位相補償を行い、位置制御信号cを生成する。補正器15には、位置制御器14の位置制御信号cが入力されるとともに外乱推定器12の外乱推定信号τdestがスイッチ19を介して入力される。そして、補正器15は補正演算を施した後、駆動信号uを出力する。
駆動器10は、入力された駆動信号(スイッチ18が開いているときは信号u、スイッチ18が閉じているときはu+)に応じて駆動コイル5に駆動電流Iaを通電し、アーム3を軸受4を中心に回動させ、アーム3の先端に取り付けられた磁気ヘッド2を回転移動させる。また、駆動器10は、磁気ディスク1にデータを記録再生するために、磁気ヘッド2を狭いトラックピッチで形成された目標トラックに高い精度で位置決めさせる。
次に、本発明の実施の形態におけるディスク装置の位置決め制御系の動作について図2を用いて説明する。図2は、上記磁気ディスク装置の位置決め制御系の全体構成を示すブロック線図である。なお、図1におけるスイッチ18は開いた状態にあり、スイッチ19は接点b側に設定されているものとする。
図2において、サフィックスsはラプラス演算子を表すものである。また、図2において、セクタサーボのサンプリングによるホールド要素については、説明を簡単にするため、これを省略してある。
図2において、磁気ヘッド2の検出した現在トラック位置をxとすれば、目標トラック位置rに対する位置誤差信号eは、(式1)で表される。この位置誤差信号eは比較器20で得られる。
位置制御器14は、比較器20から出力される位置誤差信号eに伝達関数Gx(z)のディジタルフィルタ処理を施し、位置制御信号cを生成して、補正器15へ出力する。位置決め制御系では、通常のPID制御が施され、位置制御器14の伝達関数は、(式2)で表現される。
ここで、z-1は1サンプル遅延を示し、Kxは位置決め制御系の比例ゲインを示す。係数ad、aiは周波数特性を表す定数を示し、係数adは微分係数、係数aiは積分係数である。位置制御信号cは加算器46を経由して駆動信号uとなる。駆動信号uは、伝達関数がgmの駆動器10において、電圧信号からgm倍の電流信号に変換され、駆動電流Iaとして出力される。駆動コイル5に通電される駆動電流Iaは、アクチュエータ7において、それが作る磁界と前述した固定子6のマグネットの磁束との相互作用により、伝達関数Ktで駆動トルクτに変換される。ここで、伝達関数Ktはアクチュエータ7のトルク定数である。ブロック24の伝達関数(Lb/J・s)は、アーム3に作用する駆動トルクτから磁気ヘッド2の移動速度vへの伝達特性を表す。ここで、Jはアーム3の慣性モーメントを示し、Lbはアーム3の軸受4から磁気ヘッド2までの距離を示している。ブロック25は積分器であり、伝達関数は1/sで表される。この積分器では、磁気ヘッド2の移動速度vが現在トラック位置xに変換される。
ブロック26は、アクチュエータ7が回動することにより駆動コイル5の両端に発生する誘起電圧Eaを出力する。ブロック27は、駆動コイル5に駆動電流Iaが通電されることにより発生する電圧降下分(Ra+La・s)・Iaを出力する。加算器28は、それらを加算し、アクチュエータ7の端子電圧Vaとして出力する。すなわち、以下の(式3)の関係がある。ここで、Raは、駆動コイル5のコイル抵抗、Laは駆動コイル5のインダクタンスを示す。
アクチュエータ7に対しては、種々の外乱τdが作用する。例えば、アクチュエータ7の軸受摩擦や、アクチュエータ7と電子回路基板とを接続するFPCの弾性力や、ディスク装置に外部から加わる衝撃や振動によりアクチュエータ7の受ける慣性力などである。アーム3に作用する外乱τdは、減算器29において、ブロック24の前段に入力される形に表現できる。
電圧検出器11のブロックは、ブロック27の伝達関数に対応した伝達関数をもつブロック39と、減算器36とを含んでいる。ブロック39は、駆動コイル5に駆動電流Iaが通電されることにより発生する電圧降下分(Ran+Lan・s)・Iaを出力し、減算器36でアクチュエータ7の端子電圧Vaから上記電圧降下分を減算することにより、第1の電圧信号Edを出力する。
電圧信号調整器16のブロックは、ブロック27の伝達関数と電圧検出器11に含まれるブロック39の伝達関数との差ΔR+(以下、補正信号と呼ぶ)に駆動器10のブロックの伝達関数の公称値gmnを乗算した電圧降下分ΔR+・gmn・uを出力し、減算器67で第1の電圧信号Edから当該電圧降下分を減算することにより、第2の電圧信号Ed+を出力する。
外乱推定器12のブロックは、駆動器10のブロックの伝達関数と同じ伝達関数をもつブロック32と、アクチュエータ7のブロックの伝達関数と同じ伝達関数をもつブロック33と、ブロック24の伝達関数と同じ伝達関数をもつブロック34と、ブロック26の伝達関数と同じ伝達関数をもつブロック35とを含んでいる。ブロック32とブロック33とを合わせたものが第1の乗算器41、ブロック44が第2の乗算器、ブロック43が第1の積分器、ブロック34とブロック35とを合わせたものが第2の積分器42をそれぞれ構成している。ここで、各定数のサフィックス“n”は公称値を示し、サフィックス“est”を付した変数は推定値を示す。駆動器10のブロックに入力される駆動信号uは、外乱推定器12を構成するブロック32にも入力され、ブロック32とブロック33とで(gmn・Ktn)倍することにより、アーム3に作用する駆動トルクτと同一の駆動トルク推定信号τestが得られる。
ブロック34からは速度推定信号vestが出力される。ブロック35では、速度推定信号vestをKvn倍することにより、誘起電圧推定信号Eaestが得られる。誘起電圧推定信号Eaestは、比較器37に入力され、第2の電圧信号Ed+と比較され、その結果の誤差信号α(=Eaest−Ed+)がブロック43で表される第1の積分器とブロック44で表される第2の乗算器とに入力される。第1の積分器43は、誤差信号αを積分し、外乱推定信号τdestを出力する。ブロック44で表される第2の乗算器に入力された誤差信号αは、g1倍されて加算器38に加えられる。加算器38の出力は減算器31に入力され、減算器31は、ブロック33の出力する駆動トルク推定信号τestから加算器38の出力を減算した信号γをブロック34に出力する。
なお、ブロック44の係数g1とブロック43の係数g2は、外乱推定器12の動作を安定化するための定数であり、その詳細については後述する。
補正器15に含まれるブロック45は、外乱推定信号τdestを1/(gmn・Ktn)倍することにより、アーム3に外乱推定信号τdestに相当する大きさの駆動力を発生させるのに必要な補正信号βを生成する。補正信号βは加算器46において位置制御信号cに加算される。
次に、外乱推定器12の動作について、図3を参照して詳細に説明する。
図3(a)は、図2の外乱推定器12のブロックを書き直したブロック線図であり、駆動信号uの入力から外乱推定信号τdestの出力までの伝達を示す。図3(b)は、図3(a)のブロック線図において、電圧信号Ed+の入力位置(比較器37)を等価的に変換移動することにより、図3(a)のブロック線図を変形したブロック線図である。ここで、説明を簡単にするため、図2の駆動器10のブロックのgmとブロック32のgmnの値とが等しく、以下の(式4)に示したような関係が成り立つと仮定し、駆動電流Ia(=gm・u)と推定電流Iaest(=gmn・u)とが等しいものとした。
電圧信号Ed+は、大きさを(Jn・s)/(Lbn・Kvn)倍すれば、図3(a)の比較器37の入力位置を図3(b)に示す減算器48の入力位置に等価的に移動することができる。
図3(b)の減算器48に着目すると、減算器48の出力であるδは(式5)のように表される。
駆動コイル5のコイル抵抗Raとその公称値Ranとの差をΔRとすれば、(式6)が成り立つ。
コイルインダクタンスLanは、コイル抵抗Ranに比べて十分に小さい。そのため、ここでは図2の位置決め制御系のブロック線図において、電圧検出器11に含まれるブロック39では、駆動電流Iaが駆動コイル5に流れることにより発生する電圧降下分のうち、コイル抵抗Ranの電圧降下分だけを考慮し、コイルインダクタンスLanの電圧降下分を無視する。つまり、以下の(式7)に示すように仮定し、理想的な条件として、(式8)、(式9)に示した関係が成立するものとする。
減算器36および減算器67に着目し、(式3)を代入すれば、第1の電圧信号Edおよび第2の電圧信号Ed+は、それぞれ(式10)、(式11)のように表される。
次に、図2の減算器29、ブロック24及び26に着目すると、(式12)の関係がある。
ここで、理想的な条件として、(式13)、(式14)に示す関係を仮定し、(式11)、(式12)を(式5)に代入すると、(式5)は、(式15)のように変形される。
すなわち、減算器48の出力であるδは、アーム3に加わる外乱τdに等しい。
したがって、図3(b)のブロック線図より、アーム3に加わる外乱τdから外乱推定信号τdestまでの伝達関数を求めると、(式16)に示すようになる。
(式16)から、外乱推定器12は、図2の一点鎖線で囲んだブロック内のループによって、駆動信号uと第2の電圧信号Ed+とから実際の外乱τdを2次遅れ系で推定できることが分かる。
ここで、2次遅れ系の自然角周波数(推定角周波数)をωo、ダンピングファクタをζoとすれば、外乱推定器12の動作を安定化する定数g1およびg2はそれぞれ下記の(式17)および(式18)で表される。
ここで、推定角周波数ωoを位置制御帯域より十分高く設定し、ダンピングファクタζoを0.7〜1に選べば、外乱推定器12により軸受摩擦や弾性力や慣性力などの外乱τdを正確に推定することができる。ただし、ωo及びζoは上記値に限定されるものではない。
(式16)を(式17)、(式18)を用いて変形すると、(式19)に示すようになる。すなわち、図3(a)の外乱推定器12のブロック線図は、図3(c)のブロック52に示すように簡略化することができる。
図2の補正器15のブロックは、外乱推定信号τdestを1/(gmn・Ktn)倍した補正信号βを加算器46へ出力する。すなわち、外乱推定信号τdestを1/(gmn・Ktn)倍することにより、アクチュエータ7に外乱推定信号τdestに相当する大きさの駆動力を発生させるに必要な補正信号βを、加算器46へ入力する。さらに補正信号βは、駆動器10のブロックとアクチュエータ7のブロックとによりgmn・Ktn倍されることから、大きさを合わせるために前もって、外乱推定信号τdestを1/(gmn・Ktn)倍している。
以上をまとめると、本制御系においては、アクチュエータ7に作用する外乱τd、すなわち、アクチュエータ7の軸受摩擦やアクチュエータ7と電子回路基板とを接続するFPCの弾性力やディスク装置に外部から加わる衝撃や振動によりアクチュエータ7の受ける慣性力などによる外乱τdを打ち消すように、外乱推定信号τdestをアクチュエータ7に作用させるように構成されているということができる。
次に、補正器15の動作について、図4を参照して詳細に説明する。
図4(a)は、図2のブロック線図において、補正器15の動作に関連する加算器46から減算器29、ブロック24までの部分を抜き出したブロック線図である。図4(b)は、減算器29に加わる外乱τdとブロック52に加わる外乱τdとを、1つのτdにまとめたブロック線図である。なお、図2のブロック線図と同一の機能を有するものについては同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
図4(a)のブロック線図において、ブロック52は図3(c)のブロック52に相当し、(式16)で表される伝達関数を有する。
したがって、図4(b)より、アーム3に外部から加わる外乱τdは、(式20)の伝達関数で表されるフィルタを通してヘッド位置決め制御系に加わるものと考えることができる。
図5は、(式20)で表される伝達関数Gd(s)の周波数特性を折れ線近似で示したものである。図5に示す伝達関数Gd(s)の周波数特性から、角周波数ωoより低い角周波数ではゲインは0dB以下であり、角周波数の下降に伴って、−20dB/dec(ディケード)の減衰比で減衰している。なお、decは10倍を意味する。図5から分かるように、伝達関数Gd(s)は、角周波数ωoより低い周波数を抑制することができる低域遮断フィルタ特性を有している。
すなわち、本発明の実施の形態におけるディスク装置は、アーム3に外乱τdが作用しても、この外乱τdを外乱推定器12により推定し、外乱τdを外乱推定信号τdestで打ち消すように制御する。したがって、外部から加わった外乱τdは、あたかも(式20)および図5の遮断周波数特性を有するフィルタを通してヘッド位置決め制御系に加わったように作用する。
したがって、本発明の実施の形態におけるディスク装置では、角周波数ωo以下の周波数においては、1次の低域遮断特性で外乱を抑制することができる。
すなわち、本発明の実施の形態におけるディスク装置は、外部から振動や衝撃などが加わりアクチュエータ7に外乱τdが作用しても、この外乱τdを外乱推定器12により推定し、外部から加わった外乱τdを打ち消すように制御するので、あたかもディスク装置に機械的な防振機構を施したような効果を有する。
図6は、図2に示した位置決め制御系のブロック線図において、位置誤差信号eからヘッド位置xまでの伝達を示すオープンループ周波数特性図である。図6の実線で示した波形は、アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranに一致した場合の位置誤差信号eからヘッド位置xまでの伝達を示すオープンループ周波数特性図である。図6(a)のゲイン特性図より、オープンループゲインが零になるゲイン交点周波数fcは800Hzである。また、図6(b)の実線で示した位相特性図より、ゲイン交点周波数fcにおいては、位相余裕θmは50度存在し、安定なヘッド位置決め制御系が構成されていることが分かる。これは、図2の一点鎖線で囲んだ電圧検出器11のブロックにおいて、駆動電流Iaが駆動コイル5に流れることにより発生するコイル抵抗Ranの電圧降下分を求めるために、(Ran+Lan・s)のブロック39を(式7)、(式8)に基づき実際のコイル抵抗Raと全く等しいと仮定し、(式10)より電圧検出器11の第1の電圧信号Edが、アクチュエータ7が回動することにより駆動コイル5の両端に発生する誘起電圧Eaだけを純粋に出力するからである。
以上の説明では、電圧検出器11に含まれるブロック39のコイル抵抗Ranが駆動コイル5のコイル抵抗Raと等しいと仮定した場合、すなわち、(式8)の関係(Ra=Ran)が成立した場合に、位置決め制御系が安定することを示した。
しかし、駆動コイル5のコイル抵抗Ra自体には、抵抗値のばらつきが存在する。また、駆動コイル5に駆動電流Iaが通電されることにより駆動コイル5は発熱し、温度上昇のために抵抗値は変化する。したがって、駆動コイル5のコイル抵抗Raは、最初は公称値Ranに一致していたとしても、動作中に駆動コイル5の温度上昇のため抵抗値が変化し、(式8)が成立しなくなる場合もある。
ここでまず、電圧信号調整器16がない場合について説明する。
図6の破線で示した波形は、図2の位置決め制御系のブロック線図において、アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranに一致せず、さらに電圧信号調整器16がない場合の位置誤差信号eからヘッド位置xまでの伝達を示すオープンループ周波数特性図である。シミュレーションでは、電圧検出器11に含まれるブロック39においてコイルインダクタンスLanの成分を省略し、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranより5%だけ大きい場合について周波数特性を求めた。図6(a)の破線で示したゲイン特性図より、オープンループゲインが零になるゲイン交点周波数fcは300Hzであり、そのときの位相はほぼ−210度である(図6(b)参照)。この場合、位相余裕がないので位置決め制御系は不安定である。
次に、アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranより5%だけ異なる場合(図6の破線)に、オープンループゲインが零になるゲイン交点が、Ra=Ranのとき(図6の実線)に比べて大幅に低下することについて説明する。
アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranと等しくないときには、第1の電圧信号Edは(式10a)のようになる。
すなわち、駆動コイル5のコイル抵抗Raが、コイル自体の抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値変化などにより公称値Ranから異なった場合には、電圧検出器11は、第1の電圧信号Edとして、アクチュエータ7が回動することにより駆動コイル5の両端に発生する誘起電圧Eaと駆動コイル5に駆動電流Iaが通電されることにより発生する電圧降下分ΔR・Iaとの加算結果を出力する。
図7は,電圧信号調整器16がない場合に、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranから異なったときにゲインが変化することを説明するためのブロック線図である。
図7(a)は、図3(b)のブロック線図を(式10a)の第2項に着目して書き直したブロック線図である。図7(b)は、図7(a)のブロック線図を等価変換したブロック線図である。図7(c)は、図7(b)のブロック線図をもとに図2のブロック線図の一部分を書き直したものである。すなわち、RaとRanとが等しくないときは、図2のブロック線図において、駆動器10のブロック(伝達関数はgm)にブロック54、52、45の負帰還ループが追加されたことと等価になる。
図7(c)のブロック線図より位置制御信号cから駆動電流Iaまでの合成伝達関数Gm(s)を求めると、(式21)で表される。
ここで、推定周波数fo(=ωo/2π)は位置制御帯域fcより十分高く設定しているので、(式21)は(式22)のように簡略化できる。
(式22)において、Ra=RanのときにはGm(s)=gmとなるが、Ra≠RanのときにはGm(s)のゲインは低下する。
すなわち,図2の位置決め制御系のブロック線図において、アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranから異なった場合には、位置決め制御系は不安定になる。
本発明は、そのような制御系の不安定性を改善したものである。本発明では、電圧信号調整器16を設け、アクチュエータ7の駆動コイル5のコイル抵抗Raがコイル自体の抵抗値のばらつきや温度上昇による抵抗値変化などにより公称値Ranからずれた場合でも、(式6)で表される抵抗誤差ΔRに基づいて補正することにより、アクチュエータ7の駆動において発生する電圧信号を正確に求め、位置決め制御系を安定に動作させる。
図8は、図1に示す本発明の一実施例における電圧信号調整器16の構成図である。
図8において、符号61は信号発生器を示している。信号発生器61は、周波数が同じで互いに位相の異なる第1の基準信号cosと第2の基準信号sinとを発生する。第2の基準信号sinは、駆動器10に向かって出力される疑似外乱信号urとして、図1の加算器17に出力される。位相比較器62は、外乱推定器12により生成された外乱推定信号τdestと第1の基準信号cosとが入力され、それぞれの信号を乗算して得られた乗算結果を一定時間積分することにより位相信号Pを逐次生成する。位相信号Pはスイッチ63を介して積分器64に出力され、積分器64はスイッチ63が閉じている間は位相信号Pを逐次積分して補正信号ΔR+を生成し、スイッチ63が開いている間は補正信号ΔR+を保持する。乗算器65では、加算器17で得られた駆動信号u+(=u+ur)をブロック66でgmn倍された信号gmn・u+(=Ia)と、積分器64からの補正信号ΔR+とが入力され、生成された乗算結果は減算器67に出力される。減算器67は、減算器67に入力される第1の電圧信号Edから、駆動信号u+がgmn倍された信号gmn・u+と補正信号ΔR+との乗算結果ΔR+・gmn・u+を減算することにより、第2の電圧信号Ed+を生成する。
したがって、第2の電圧信号Ed+は(式23)で表される。
このような信号処理を行う本発明の一実施例の動作について、図面を用いてさらに詳細に説明する。
最初に、抵抗補正の動作を説明する。すなわち、(式6)で表される抵抗誤差ΔRを考慮した補正を行うことにより、アクチュエータ7の駆動により発生する電圧信号を正確に求める補正動作を説明する。
図9は、電圧信号調整器16が疑似外乱信号urを出力したときにおける、この等価外乱に対する外乱推定信号τdestの周波数応答を示す外乱推定特性図である。
図9(a)は、外乱推定特性のゲイン特性を示している。波形71は、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranに等しく、抵抗誤差ΔR(=Ra−Ran)が零のときの波形である。波形72は、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranから±5%だけ異なったときの波形である。
図9(b)は、外乱推定特性の位相特性を示している。波形73は、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranに等しく、抵抗誤差ΔR(=Ra−Ran)が零のときの波形である。波形74および波形75は、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranからそれぞれ+5%、−5%だけ異なったときの波形を示す。図9(a)の外乱推定信号τdestのゲイン特性より、疑似外乱信号urに対するゲインは、抵抗誤差ΔRの存在により0dBよりも大きくなることが分かる。
図9(b)の外乱推定信号τdestの位相特性より、疑似外乱信号urに対する位相は、抵抗誤差ΔRにより大きく変化することが分かる。したがって、逆に外乱推定器12が生成する外乱推定信号τdestの位相から、抵抗誤差ΔRを求めることができる。(式6)で表される抵抗誤差ΔRの補正のためには、一定周波数の疑似外乱信号urを駆動器10に加え、そのときの外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestの位相を検出し、検出した位相が図9(b)の波形73に示す抵抗誤差ΔR=0の場合と同位相になるように、図8の積分器64の生成する補正信号ΔR+を調整すればよい。
次に、図8の位相比較器62の動作について説明する。
位相比較器62には、信号発生器61の発生する第1の基準信号cosと外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestとが入力され、位相比較器62は(式24)で表される演算を行う。
ここで、fmは位相比較器62に入力される第1の基準信号cosの周波数を示し、f、φは位相比較器62に入力される外乱推定信号τdestの周波数と位相をそれぞれ示す。
Tは積分時間である。位相比較器62は、(式24)で表される積分を行い、nT(nは整数)時間毎に積分結果Kpを生成する。
周波数fが周波数fmと一致し、かつ、積分時間Tが周波数fmの周期(1/fm)の整数倍のときは、(式24)の位相φに対する位相感度Kpは、以下の(式25)のように簡単に表現できる。
図10は、(式25)の位相φに対する位相感度Kpをプロットした位相感度特性図である。位相比較器62に入力される外乱推定信号τdestの位相が第1の基準信号cosの位相と一致したときは零となり、位相φに対して位相感度Kpは正弦波状に変化する。なお、図10の縦軸はT/2で規格化してある。
図8の電圧信号調整器16において、位相比較器62の生成する位相信号Pはスイッチ63を介して積分器64に出力されているので、位相比較器62が図10の位相感度特性を有する場合には、第2の基準信号sinに対する外乱推定信号τdestの位相φが零になるまで、積分器64は位相信号Pを積分することになる。そして、積分器64に入力される位相信号Pが零になったときが、積分器64の生成する補正信号ΔR+と、駆動コイル5のコイル抵抗Raと公称値Ranとの抵抗誤差ΔR(=Ra−Ran)とが等しくなったときである。そのときは(式11a)により、以下の(式26)が成立し、第2の電圧信号Ed+は、アクチュエータ7の駆動において発生する誘起電圧Eaと等しくなる。
次に、周波数fが周波数fmと一致せず、かつ、積分時間Tが周波数fmの周期(1/fm)の整数倍のときは、(式24)は以下の(式27)のように表現できる。
図11は、周波数fに対する(式27)の絶対値|Kp|の大きさをプロットした最大感度特性図である。なお、積分時間Tは、ディスクの回転周期に等しくし、周波数fmの周期(1/fm)がディスクの回転周期の1/2倍となるように周波数fmを設定した。また、図11の縦軸はT/2で規格化してある。絶対値|Kp|の大きさは、周波数fが第1の基準信号cosの周波数fmの近傍では大きく、それ以外では急激に小さくなり、周波数fが周波数fmのk倍および(k+0.5)倍(ただしkは整数)の場合には零となる。一般にディスク装置においては、アクチュエータ7は、外部からの衝撃又は振動の影響や、アクチュエータ7の軸受摩擦の影響や、アクチュエータ7と電子回路基板とを接続するFPCの弾性力等の影響を受けるだけでなく、ディスク1の面振れなどによりディスク1の回転に同期した外乱を多く受ける。したがって、外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestには、ディスク1の回転に同期した成分が多く含まれている。そこで、位相比較器62に入力される第1の基準信号cosの周波数fmをディスクの回転周波数の整数倍に等しくすれば、同期成分も比較的正確に考慮することができ、位相比較器62においてディスク回転に同期した外乱により発生する誤差を低減することができる。したがって、第1の基準信号cosの周波数fmをディスク1の回転周波数の整数倍に等しくすれば、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranと異なる場合であっても、(式6)で表される抵抗誤差ΔRを補正信号ΔR+で補正することによって誘起電圧Eaをより高精度に求めることができるので、位置決め制御系を安定に動作させることができる。
図12は、電圧信号調整器16の動作を説明する時間波形図である。
条件としては、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値Ranと異なり、パーセント換算して抵抗誤差ΔRが+5%存在するものと仮定した。また、位相比較器62の積分時間Tをディスクの1回転周期に等しくした。
図12(a)は、図8の積分器64の生成する補正信号ΔR+の時間波形である。補正信号ΔR+の値はディスクの1回転毎に更新され、パーセント換算して5%の値に収束している。図12(a)から分かるように、補正信号ΔR+の値は、ディスクの5回転周期後に抵抗誤差ΔRに応じた一定値ΔR+(=ΔR)に収束しており、高速で、かつ高精度に電圧信号の調整が行われている。
図12(b)は、電圧検出器11から電圧信号調整器16へ入力される第1の電圧信号Edの波形81と、図8の乗算器65および減算器67を経て生成される第2の電圧信号Ed+の波形82とを示す。
駆動コイル5のコイル抵抗Raと公称値Ranとに抵抗誤差ΔRが存在するときは、第1の電圧信号Edの波形81には、アクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaに加えて、抵抗誤差ΔRと駆動電流Iaによる電圧降下ΔR・Iaが含まれることになる((式10a)参照)。それに対して、第2の電圧信号Ed+の波形82は、抵抗誤差ΔRにより発生した電圧降下ΔR・Iaを補正信号ΔR+を用いて補正するので、電圧降下ΔR・Iaは含まれず、誘起電圧Eaのみが含まれる。
電圧信号調整器16において、抵抗補正を行う場合には、図1のスイッチ18を閉じて疑似外乱信号urを加算器17を介して駆動器10に加え、スイッチ19を接点a側に切り換える。次に図8のスイッチ63を閉じ、抵抗補正を行う。位相信号Pが所定の範囲内に収まって、補正信号ΔR+の値が抵抗誤差ΔRに対応した一定値に収束した後は、図8のスイッチ63を開いて補正信号ΔR+の値を保持する。抵抗補正終了後は、図1のスイッチ18を開いて、スイッチ19を接点b側に切り換える。以上により、アクチュエータ7に作用する慣性力などの外乱を外乱推定器12で正確に検出し、目標トラックに対するヘッドの位置決め精度を向上させることができる。加えて、アクチュエータ7の駆動コイル5の抵抗値にばらつきがあったり、あるいは通電によって駆動コイル5の抵抗値が変化したりしても、外乱推定器12を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
なお、上記の例では、電圧信号調整器16において抵抗補正を行い、位相信号が所定の範囲内に収まっていることに基づいて抵抗補正の完了を判断していたが、時間に基づいて抵抗補正の完了を判断してもよい。つまり、所定の時間経過後に抵抗補正が完了しているものと判断してもよい。なお、通常、抵抗補正は短時間で終了する。
また、上記の説明では、一定周波数fmの疑似外乱信号urを駆動器10に加えたときの抵抗誤差ΔR=0における外乱推定信号τdestの位相遅れps(図9(b)の波形73参照)は、十分に小さいので、簡単のために零であると仮定した。しかし、厳密には位相遅れpsは零ではない。この位相遅れを無視したことに起因して位相比較器62で生成される位相信号に誤差が発生する場合には、(式24)において、第1の基準信号cosの位相をpsだけ遅らせればよい。すなわち、(式24)のcos(2πfm・t)の項をcos(2πfm・t−ps)に置き換えて積分を行えばよく、図8の信号発生器61において、第1の基準信号cosの位相をpsだけ遅らせて発生させ、位相比較器62に入力すればよい。このように変更することにより、位相信号Pが零になったとき、外乱推定信号τdestの位相遅れはpsと一致する。電圧信号調整器16は、抵抗誤差ΔRにより発生した電圧降下ΔR・Iaを補正信号ΔR+を用いて補正するので、第2の電圧信号Ed+は電圧降下ΔR・Iaを含まず、アクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaのみを含むので、外乱推定を含めた位置決め制御系をさらに安定に動作させることができる。
(実施形態2)
図13は、図1に示す本発明の一実施例における電圧信号調整器16の構成図である。
信号発生器61は基準信号を発生し、この基準信号は疑似外乱信号urとなって加算器17(図1参照)に出力される。振幅保持器68には、外乱推定器12からの外乱推定信号τdestが入力される。振幅保持器68は、外乱推定信号τdestの振幅の最大値を保持し、一定時間毎に振幅信号Aを逐次生成する。振幅信号Aは差分積分器69に出力され、差分積分器69は振幅信号Aをもとに補正信号△R+を生成する。乗算器65では、加算器17で得られた駆動信号u+(=u+ur)がブロック66でgmn倍された信号gmn・u+(=Ia)と、差分積分器69からの補正信号△R+とが入力され、生成された乗算結果は減算器67に出力される。減算器67は、減算器67に入力される第1の電圧信号Edから、駆動信号u+がgmn倍された信号gmn・u+と補正信号△R+との乗算結果△R+・gmn・u+を減算することにより、第2の電圧信号Ed+を生成する。
したがって、第2の電圧信号Ed+は(式23)で表される。
このような信号処理を行う本発明の一実施例の動作について、図面を用いてさらに詳細に説明する。
最初に、抵抗補正の動作を説明する。すなわち、(式6)で表される抵抗誤差△Rを考慮した補正を行うことにより、アクチュエータ7の駆動により発生する電圧信号を正確に求める補正動作を説明する。
図9(a)の外乱推定信号τdestのゲイン特性より、疑似外乱信号urに対するゲインは、抵抗誤差△Rが零のときに最小となり、抵抗誤差△Rの絶対値が大きくなるほど増大することが分かる。したがって、逆に、外乱推定器12が生成する疑似外乱信号urに応じた外乱推定信号τdestの振幅の大きさから、抵抗誤差△Rを求めることができる。(式6)で表される抵抗誤差△Rの補正のためには、一定周波数の疑似外乱信号urを駆動器10に加え、そのときの外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestの振幅の大きさを検出し、検出した振幅の大きさが最小になるように、図13の差分積分器69が生成する補正信号△R+を調整すればよい。すなわち、一定周波数の疑似外乱信号urに対する外乱推定信号τdestの振幅の大きさが最小になったときに、抵抗誤差ΔRは零となる(図9(a)の波形71に示す抵抗誤差△R=0の場合と一致する。)。
次に、図13の振幅保持器68と差分積分器69の動作について説明する。図14は、振幅保持器68と差分積分器69の動作を説明するフローチャートである。
ステップS1では、補正信号△R+に初期値としてステップ値rを格納する。ステップS2では、外乱推定信号τdestの振幅の大きさに対応する変数A(n)を零に初期化する。続いて、ステップS3において、外乱推定信号τdestの値を読み込む。ステップS4では、外乱推定信号τdestの値と変数A(n)の値との比較を行う。そして、外乱推定信号τdestの値が変数A(n)より大きければステップS5に移行し、逆に、大きくなければステップS6に移行する。
ステップS5では、ステップS3で読み込んだ外乱推定信号τdestの値を、変数A(n)に格納する。ステップS6では、外乱推定信号τdestの値の読み込みを開始してから所定の一定時間が経過したか否かを判定する。一定時間が経過していなければステップS3に戻り、一定時間が経過していればステップS7に移行する。
ステップS7では、外乱推定信号τdestの振幅の大きさに対応する変数A(n)から前回の値を保持する変数A(n−1)を引算し、その結果を変数△Aに格納する。すなわち、ΔA=A(n)−A(n−1)であり、変数△Aは一定時間毎の振幅信号A(n)と前回の振幅信号A(n−1)とを比較して得られた差分信号である。ステップS8では、変数A(n)の内容を変数A(n−1)に格納する。
ステップS9では、変数△Aの絶対値が所定値aよりも小さいか否かを判定する。変数△Aの絶対値が所定値a以上であれば、ステップS10に移行する。ステップS10では、変数△Aの符号を判別し、符号が正の場合はステップS11に移行し、逆に、符号が正でない場合はステップS12に移行する。
ステップS11では、補正信号△R+の内容からステップ値rを引算した値を新たに補正信号△R+に格納し、ステップS2に移行する。一方、ステップS12では、補正信号△R+の内容にステップ値rを加算した値を新たに補正信号△R+に格納し、ステップS2に移行する。
ステップS2〜S12までの操作は、ステップS9において変数△Aの絶対値が所定値a以上であれば繰り返し行われる。これに対し、変数△Aの絶対値が所定値aを越えていなければ、上述のフローを終了する。
以上説明したように、図13の電圧信号調整器16において、差分積分器69の生成する補正信号△R+は、疑似外乱信号urに対して外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestの大きさが最小になるまで、ステップ値rずつ調整されることになる。そして、外乱推定信号τdestの大きさが最小になったときに、差分積分器69の生成する補正信号△R+は、駆動コイル5のコイル抵抗Raと公称値Ranとの抵抗誤差△R(=Ra−Ran)に等しくなる。そのときは(式11a)より、(式26)が成立し、第2の電圧信号Ed+は、アクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaと等しくなる。
図15は、駆動コイル5のコイル抵抗Raの値が公称値からずれている場合の電圧信号調整器16の動作を説明する時間波形図である。ここでは、条件として、駆動コイル5のコイル抵抗Raが公称値から+5%ずれているものと仮定した。すなわち、抵抗誤差ΔRは+5%であるとした。
図15(a)は、図13の電圧信号調整器16の差分積分器69が生成する補正信号△R+の時間波形を示している。横軸は時間を表し、縦軸はコイル抵抗の公称値からのずれを表している。図15(a)より、補正信号△R+の値は一定時間毎に更新され、パーセント換算して5%の値に収束していることが分かる。このように、駆動コイル5のコイル抵抗Raにずれが生じていたとしても、補正信号△R+の値は抵抗誤差△Rに応じた一定値に収束し、短時間でかつ高精度に電圧信号の調整が行われる。
なお、図14のフローチャートの説明では、ステップS11及びS12において、補正信号△R+を調整するステップ値rは一定値に固定していた。しかし、ステップ値rは適宜変更してもよい。図15(a)に示す電圧信号調整器16の動作を説明する時間波形図では、電圧信号調整を開始してから所定時間t1だけ経過したときに、ステップ値rを初期の1/10倍の大きさに切り換えることとした。その結果、ステップ値rを固定したときよりも、補正信号△R+をより高精度に収束させることが可能となった。電圧信号調整器16は、抵抗誤差△Rにより発生した電圧降下分ΔR・Iaを、補正信号△R+を用いて補正する。そのため、第2の電圧信号Ed+は電圧降下分△R・Iaを含まず、アクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaのみを含むので、外乱推定を含めた位置決め制御系をさらに安定に動作させることができる。
図15(b)は、電圧検出器11から電圧信号調整器16へ入力される第1の電圧信号Edの波形101と、図13に示す乗算器65及び減算器67により生成される第2の電圧信号Ed+の波形102とを示す。
駆動コイル5のコイル抵抗Raと公称値Ranとの間に抵抗誤差△Rが存在するときは、波形101で表される第1の電圧信号Edには、アクチュエータ7の駆動によって発生する誘起電圧Eaと、抵抗誤差△Rと駆動電流Iaとによる電圧降下分△R・Iaとが含まれることになる((式10a)参照)。それに対して、波形102で表される第2の電圧信号Ed+では、抵抗誤差△Rにより発生した電圧降下分△R・Iaが補正信号△R+を用いて補正されるので、時間の経過と共に電圧降下分△R・Iaは減少し、第2の電圧信号Ed+はアクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaのみを表すことになる。
電圧信号調整器16において、抵抗補正を行う場合には、図1のスイッチ18を閉じて疑似外乱信号urを加算器17を介して駆動器10に加え、スイッチ19を接点a側に切り換える。次に、前述の抵抗補正を行い、変数△Aの差分信号が所定の範囲内に収まって、補正信号△R+の値が抵抗誤差△Rに対応した一定値に収束した後は、補正信号△R+の値を保持する。その結果、電圧信号調整器16は抵抗誤差△Rにより発生した電圧降下分△R・Iaを補正信号△R+を用いて補正するので、第2の電圧信号Ed+は電圧降下分△R・Iaを含まず、アクチュエータ7の駆動により発生する誘起電圧Eaのみを出力する。抵抗補正終了後は、図1のスイッチ18を開いて、スイッチ19を接点b側に切り換える。
以上により、アクチュエータ7に作用する慣性力などの外乱を外乱推定器12で正確に検出し、目標トラックに対するヘッドの位置決め精度を向上させることができる。加えて、アクチュエータ7の駆動コイル5の抵抗値にばらつきがあったり、あるいは通電によって駆動コイル5の抵抗値が変化したりしても、外乱推定器12を含めた位置決め制御系を安定に動作させることができる。
なお、上記の例では、電圧信号調整器16において抵抗補正を行い、差分信号が所定の範囲内に収まっていることに基づいて抵抗補正の完了を判断していたが、経過時間に基づいて抵抗補正の完了を判断するようにしてもよい。つまり、所定時間が経過すると抵抗補正が完了したと判断するようにしてもよい。なお、通常、抵抗補正は短時間で終了する。
(他の実施形態)
なお、上記の各例では、電圧信号調整器16において抵抗補正を行う場合に、スイッチ19を接点a側に切り換えることにより、外乱推定器12の生成する外乱推定信号τdestを補正器15に加えないようにしていた。しかし、電圧検出器11の出力する第1の電圧信号Edに比べて、抵抗誤差ΔRにより発生する電圧降下ΔR・Iaが比較的小さい場合には、外乱推定信号τdestを補正器15に加えた状態で抵抗補正を行ってもよい。そのときは、スイッチ19が不要となり、図1のディスク装置の構成をより簡単にすることができる。
なお、上述した本発明の実施の形態におけるディスク装置では、外乱推定器12に対する一方の入力信号として、補正器15から出力される駆動信号uを入力するように構成した。ただし、駆動信号uの代わりに駆動器10から出力される駆動電流Iaを用いても、同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
なお、上述してきた実施の形態におけるディスク装置では、乗算器や積分器はアナログフィルタで構成するもので説明したが、ディジタルフィルタで構成することも可能である。さらに、実施の形態の位置決め制御系を構成する各部については、マイクロコンピュータによるソフトウェアにより実現するようにしてもよい。
また、以上の実施の形態では磁気ディスク装置を例に挙げて説明してきたが、本発明は、本例に限定されるものではなく、光ディスク装置、光磁気ディスク装置など、他の態様の情報記録装置にも適用できることは言うまでもないことである。