JP3861137B2 - 高強度機械構造用鋼とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、高強度機械構造用鋼に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、単純な組成からなるためにリサイクル性に優れ、なおかつ複雑な加工熱処理を必要としない、耐遅れ破壊特性に優れた新規な高強度機械構造用鋼とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
近年の構造物の大型化や自動車部品等の軽量化に伴い、今まで以上に高い強度を有する機械構造用鋼の実現が求められている。それと同時に、環境負荷の低減の観点から、材料設計の全般においては、リサイクル性を考慮した単純かつ低合金組成の鋼材の開発が望まれてもいる。
【0003】
しかしながら、鋼を1200MPa以上に高強度化すると、耐遅れ破壊特性が著しく低下することが一般に知られている。そして、1200MPa以上で優れた耐遅れ破壊特性を示す鋼材としては、高合金組成のマルエージング鋼や特殊な加工熱処理を施したピアノ線が知られている程度であり、汎用性のある高強度の機械構造用鋼については実現されていないのが実状である。高強度の機械構造用鋼について耐遅れ破壊特性を向上させることができれば、構造物の安全性や信頼性を高めるだけでなく、使用寿命の長期化や材料の省資源化にもつながるため、社会的な貢献度は極めて大きい。すなわち、汎用性のある高強度の機械構造用鋼の実現には、遅れ破壊を克服することが最重要課題とされている。
【0004】
この課題を解決するために、従来より、遅れ破壊の大半が旧γ粒界を起点とすることに着目して、旧γ粒界の強度を高めることで遅れ破壊を抑制するようにした対策が講じられている。具体的には、旧γ粒界を脆化させるP、S等の不純物元素を低減させ、高温焼きもどしにより粒界セメンタイトを球状化させることで、旧γ粒界の強度を高めるようにする方法がある。
【0005】
この高温焼きもどしによる方法については、耐遅れ破壊特性に優れ、比較的高強度の鋼材が得られる方法がいくつか提案されているのものの、焼きもどし軟化抵抗を示す合金元素の複合添加が必要不可欠とされ、低合金化は実現されていない。また、その加熱処理については、強度低下を避けるため500℃以下の温度で焼きもどすか、あるいはオースフォーミングなどの複雑な加工熱処理を必要としている。
【0006】
一方で、最近になって、V、Ti、Nb等の炭化物の析出に関連する水素トラップを利用して遅れ破壊を抑制することが注目されているが、これらの元素の働きは必ずしも明確ではなく、また低合金化についても有効な策とはなり得ていなかった。
【0007】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、単純な組成からなるためにリサイクル性に優れ、なおかつ複雑な加工熱処理を必要としない、高強度を有する耐遅れ破壊特性に優れた新規な機械構造用鋼を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、以下の通りの発明を提供する。
【0009】
すなわち、まず第1には、この出願の発明は、組成が、重量%で、
C :0.56〜0.7%、
Si:0.2〜2.5%、
Mn:0.05〜1.0%、
Cr:0.2〜1.5%、
Mo:0.3〜1.5%
で、かつ合金元素の総量が、
Si+Mn+Cr+Mo≦5重量%
を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、500℃〜Ae1点
以下の温度範囲で、焼きもどしパラメーター:λが、
λ=T(20+logt)≧15800
(式中、Tは温度(K)、tは時間(h)を示す)となる条件で焼きもどし処理が施され、引張強さ(σB)が1800MPa以上であることを特徴とする高強度機械構造用鋼を
提供する。
【0010】
また、この出願の発明は、上記第1の発明について、第2には、焼入れ処理の前に、鍛錬成形比で50以上の鍛造を施されていることを特徴とする高強度機械構造用鋼を、第3には、不純物としてのP、Sの含有量が、0.01重量%以下であることを特徴とする高強度機械構造用鋼を、第4には、Moの代わりにWが0.3〜1.5重量%含まれていることを特徴とする高強度機械構造用鋼を、また第5には、上記の高強度機械構造用鋼の鋼材を焼入れ処理の前に、鍛錬成形比で50以上の鍛造を施した後、500℃〜Ae 1 点以
下の温度範囲で、焼きもどしパラメーター:λが、
λ=T(20+logt)≧15800
(式中、Tは温度(K)、tは時間(h)を示す)となる条件で焼きもどし処理を施すことを特徴とする引張強さが1800MPa以上の高強度機械構造用鋼の製造方法を提供す
る。
【0011】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0012】
この出願の発明者らは、鋼の高強度化と耐遅れ破壊特性の向上をより単純な組成で実現するために、まず、500℃以上での焼きもどしにおけるMo炭化物の超微細析出による鋼材の2次硬化に着目した。そしてさらに、多数の合金元素の中から、複合添加元素として鉄炭化物に固溶しないSiおよび固溶するCrを選定して、Mo、SiおよびCrの合金元素の複合添加が鉄の強度と遅れ破壊特性に及ぼす影響を詳細に調査した。
【0013】
その結果、この出願の発明者らは、Mo、Si、Cr合金元素の複合添加により、(1)Mo添加による鋼材の硬さの極大が500〜600℃付近に現われること、また(2)Siはおよそ350℃以下の低温域、Crはおよそ400℃以上の高温域での焼きもどしによる軟化を顕著に抑制できること、そして焼きもどし処理後の鋼材についても、(3)1800MPa以上という強度レベルを維持することができることを見出した。そして更なる検討を重ねた結果、上記の高温焼きもどしの条件と効果、および、Mo、Si、Cr、Mn元素の複合添加による効果を巧みに組み合わせることにより、(4)耐遅れ破壊特性を大幅に向上させることができるという全く新しい知見を得るに至った。
【0014】
すなわち、この出願の発明の提供する高強度機械構造用鋼は、Si、Mn、CrおよびMoのみを合金元素とする単純な組成を有し、それぞれが重量%で、
C :0 . 56〜0.7%、
Si:0.2〜2.5%、
Mn:0.05〜1.0%、
Cr:0.2〜1.5%、
Mo:0.3〜1.5%
で、かつその総量が、
Si+Mn+Cr+Mo≦5重量%
を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、500℃〜Ae1点
以下の温度範囲で、焼きもどしパラメーター:λが、
λ=T(20+logt)≧15800
(式中、Tは温度(K)、tは時間(h)を示す)となる条件で焼きもどし処理を施され、引張強さ(σB)が1800MPa以上であることを特徴としている。なおこの出願の
発明では特にことわりのない限り、%表示は全て重量%を示すものとする。
【0015】
この出願の発明の高強度機械構造用鋼は、Mo添加による鋼材の2次硬化を積極的に利用するようにしている。そして、この出願の発明者らにより、Mo鋼には、図1に□で例示したように、550〜600℃(823〜873K)付近にMoの添加による硬度の極大が認められることが見出された。
【0016】
さらに、このMo鋼に対するSi、Cr元素の添加は、Mo添加鋼の焼きもどし硬さに以下のような影響を及ぼすことが見出された。図1において、前述の□は0.6%C−0.2%Mn−1%Mo鋼を、△は1%Cr添加Mo鋼を、▲は2%Si添加Mo鋼を、○は2%Si−1%Cr添加Mo鋼を示している。すなわち、たとえば0.6%C−0.2%Mn−1%Mo鋼の焼入れ硬さ(as−Quenched)は、SiおよびCrの添加に依らずいずれの場合でもHv840程度でほぼ同じである。そして、Siの添加により350℃(623K)以下の低温域で、Crの添加により450℃(723K)以上の高温域で、焼きもどしによる軟化が顕著に遅滞されるのである。さらにSiとCrの複合添加は、550〜600℃(823〜873K)の高温域での焼きもどし後も1800MPa超級の強度(Hv530以上)を維持するのに有効であることが見出された。
【0017】
加えて、この出願の発明の高強度機械構造用鋼における複合添加元素として選定されたSiおよびCrは、たとえば、鉄中のMo、CrおよびSi合金元素の1時間あたりの拡散移動距離を例示した図2からわかるように、Siは400℃(673K)以上で、Crは450℃(723K)以上で、Moは550℃(823K)以上で格子拡散量が顕著になるという特性を示す。すなわち、これらの合金元素の拡散は鋼材中で炭化物の生成と成長とに密接に関係しており、換言すると、炭化物の生成および成長はこれらの合金元素の拡散に律速されることになる。従って、SiおよびCrの添加は、高温域における析出強化を促し、炭化物が均一かつ微細に分散した組織を有する鋼材の実現にも寄与することがわかった。
【0018】
これらの新たな知見を基に、各元素の含有量についてさらに詳細に調査した結果、その含有量は以下の範囲とすることが好適なものとして考慮することができる。
<C> Cは炭化物を形成し、析出強化によって鋼の強度を高める必須元素であり、その含有量は表1に示されているように、好ましくは0.56〜0.7%とする。Cが0.56%未満では炭化物の析出量が少なくなってしまい、焼きもどしにより十分な強度が得られないため好ましくない。一方、0.7%を超える場合には、焼入れ時の焼き割れ感受性が増大すると共に靭性の低下を招いてしまうために好ましくない。
<Si> Siは鋼の脱酸および強度上昇に必要不可欠な合金元素であり、その含有量は0.2〜2.5%とする。とくにSiは、フェライト中に固溶して基地の強度を高める作用が強い上に、セメンタイト粒にはほとんど固溶せず、セメンタイトの生成を抑制し、低温域での焼きもどしによる軟化を遅滞させる作用が強い元素である。従って、脱酸剤として添加したもので鋼中に残るものも含め、他の合金元素とのバランスから含有量を0.2%以上とする。また、過剰な添加は鋼と脆化させてしまうため、その上限は2.5%とする。
<Cr> Crは焼入れ性の向上に必要な合金元素であり、その含有量は0.2〜1.5%とする。Crはセメンタイト中に固溶して高温域での焼きもどしによる軟化を遅滞させる作用が強い元素である。従って、少なくとも0.2%以上含有させる必要がある。好ましくは1%以上を含有させるが、過剰になるとその効果が飽和すると共に靭性が低下してしまうため、上限は1.5%としている。
<Mn> Mnは鋼材中に存在するSの害を阻止し、焼入れ性を高めるために必要な合金
元素であり、その含有量は0.05〜1.0量%とする。含有量が0.05%未満ではこの効果が少ないが、1%を超えて含有されると靭性を劣化させるとともに、焼き戻し後の鋼材の水素透過性を高め、その結果として遅れ破壊を起こしやすくしてしまう。したがって、Mn量は0.05〜1.0%とする。
<Mo> Moは焼入れ性の向上に有効な元素であり、拡散速度が遅く、比較的少量を添加することで、セメンタイト中に固溶して高温域でのセメンタイトの成長を抑制し、焼きもどしによる軟化を遅滞できる元素である。しかしMoはセメンタイト中への固溶量が少なく、Feよりも炭化物形成能が強いという性質があるため、多量に添加した場合には新しく別個の炭化物を形成し、鋼を2次硬化させる効果をも得ることができる。それゆえ、高温焼きもどしで鋼の高強度化を図るこの出願の発明において、Moの含有量は0.3%以上を必要とする。1.5%以上となるとその効果は飽和し、また、過剰な添加は経済性の観点から好ましくない。従って、Mo量は0.3〜1.5%としている。またMoの代わりに、Moと同様の特性を示すWを用いることもできる。
【0019】
さらに、上記の合金元素の総量は、経済性、リサイクル性の観点から、Si+Mn+Cr+Mo≦5を満足する単純組成であることが好ましい。
【0020】
このような極めて限定された単純組成で、炭化物が均一かつ微細に分散した焼き戻し組織を有し、1800MPa以上の強度レベルの鋼材に対し、この出願の発明においては、500℃以上かつAe1点以下の温度で、T(20+logT)≧15800の条件で焼き戻し処理することで優れた耐遅れ破壊特性を付与するようにしている。ここで、前式中のTは焼きもどし温度(単位:K)を、tは焼きもどし時間(単位:h)を示している。この発明の高強度機械構造用鋼は、このような条件で焼きもどし処理を施せばよく、従来のような複雑な加工熱処理を必要としない。
【0021】
さらに、この出願の発明の高強度機械構造用鋼は、焼入れ処理の前に鍛錬成形比で50以上の鍛造を行うことが好ましい。このような処理を行うことで、鋼材に含まれる合金元素の偏析帯の幅を狭めることができ、偏析による機械的性質への悪影響が抑制されて、さらに遅れ破壊特性を向上させることができる。これによって、例えば、負荷応力を0.9σBとする遅れ破壊試験において、遅れ破壊の発生する拡散性水素量の限界値(Hc)を
0.1ppmレベル、さらには0.2ppm、より好適には、0.4ppm以上に高めることができる。
【0022】
また、遅れ破壊特性をさらに向上させるためには、不純物としてのPおよびSの量をそれぞれ0.01%以下と、極力減らすことが望ましい。
【0023】
このように、この出願の発明は、引張り強さが1800MPa以上で耐遅れ破壊に優れた高強度機械構造用鋼を実現するものであって、しかもリサイクル性を考慮した単純組成を有している。すなわち、この出願の発明の高強度機械構造用鋼は、全く新しい合金設計の指針を与えるものとなる。そしてこの発明の高強度機械構造用鋼の実用化により、構造物や自動車材料の軽量化や安全性が向上されることになり、社会的、経済的貢献度は極めて高いものになると期待される。
【0024】
以下に実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0025】
【実施例】
(実施例1)
A:引張り強さ
表1に示したとおりの組成を有し、各種の焼きもどし処理を施したSi−Cr−Mn−Mo鋼(鋼1〜鋼7)の丸棒試験片について引張り試験を行い、その結果を併せて示した。
【0026】
なお、鋼1〜鋼7はいずれもSi+Cr+Mn+Mo≦5重量%を満たしているが、鋼3〜7はこの出願の発明の鋼材の組成から外れている。なお、鋼4は従来鋼のSUP12鋼に、鋼5はSCM440鋼に相当している。
【0027】
【表1】
【0028】
表中のλは焼きもどしパラメータであって、焼きもどし温度T(K)および焼きもどし時間t(h)より、λ=T(20+logt)で求められた値である。Hvはビッカース硬さを、σBは引張強さ(MPa)を示している。また、評価欄における、○は、前記λ≧15800かつσB≧1800を満たす鋼材を、×は満たさない鋼材を示している。
【0029】
表1から、この出願の発明の単純組成を有する鋼1、鋼2に対し、500℃〜Ae1点以下の高温焼きもどしをλ≧15800の条件で施すことで、σB≧1800を満たす鋼材が得られることが示された。
【0030】
一方、従来鋼の鋼4(SUP12鋼)および鋼5(SCM440鋼)に500℃以上の高温焼きもどし処理を施しても、σB≧1800を達成することはできない。また、この出願の発明の鋼材の組成よりもMo量の少ない鋼3、Si量の少ない鋼6、SiおよびCr量の少ない鋼7については、500℃以上の高温焼きもどし処理によりσB≧1800を達成することはできない。従って、500℃以上の高温焼きもどし処理によりσB≧1800を示すこの出願の発明の鋼材を得るには、適切な量のSi,Cr,Moの複合添加が必要であることが示された。
B:遅れ破壊特性
遅れ破壊特性を、前記の表1の備考欄に※印で示した鋼材について評価した。評価方法は、応力集中係数4.9あるいは3.6の切欠き試験片を用意し、負荷荷重を上記Aで測定した引張強さの0.9倍とする定荷重試験法により行った。
【0031】
なお、遅れ破壊試験に際し、陰極チャージによって試験片中の平均水素量を変化させ、Cdメッキを施すことによって、試験片中の水素が散逸しないような状態にした上で荷重を負荷し、試験片が破断するまでの時間を測定した。また、300℃までに放出される水素量を鋼中の拡散性水素量と定義して、この拡散性水素量を四重極質量分析計を用いた昇温分析法により測定した。この昇温分析は、試験片からCdメッキを除去した後に行った。
【0032】
表2に遅れ破壊試験の結果を示した。表中の定荷重試験の結果は、荷重の負荷100時間後に試験片が破断したか破断しなかった(未破断)かを示している。また、備考欄に示した鋼材(a)(b)(c)についての遅れ破壊特性を図3に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
表2および図3より、鋼材中の拡散性水素量が少ないほど遅れ破壊が発生しにくいことがわかる。そして、遅れ破壊が発生する拡散性水素量の限界値(Hc)は、鋼材(a):1%Mo、鋼材(b):0.5%Moでそれぞれ0.4ppm、0.21ppmであり、鋼材(c):0%Moの0.05ppmよりも4倍以上高いことがわかった。この結果から、Moの添加が1800MPa強度レベルの耐遅れ破壊特性の向上に有効であることが示された。
【0035】
また、鋼4(SUP12相当)のHcも0.04ppmときわめて低い値であり、耐遅れ破壊特性が劣ることが示された。一方の、鋼5(SCM440相当)のHcは、応力集中係数が3.6、引張強さが1600MPaレベルの鋼材で0.13ppm、引張強さ1800MPa以上のレベルになると0.1ppm未満と、比較的高めではあるものの、鋼1および鋼2に比較すると1/2以下の低い値となることが示された。
【0036】
以上のことから、Si、Cr、Mn、Mo(Si+Cr+Mn+Mo≦5重量%)の単純合金組成でも、これらを適切な量だけ複合添加し、かつ500℃以上で高温焼きもどしを施した鋼は、引張強さが1800MPa以上の強度レベルでも優れた耐遅れ破壊特性を示すことが示された。
(実施例2)
0.6C−2Si−1Cr−0.2Mn−1Mo鋼について、焼入れ処理前に鍛錬成形比が4の熱間鍛造を施した鋼材と、鍛錬成形比が50の鋼材とを用意し、遅れ破壊特性を評価した。その結果を図4に示した。
【0037】
熱間鍛錬成形比が4の鋼では、遅れ破壊が発生する拡散性水素量の限界値(Hc)が0.2ppmであるのに対し、鍛錬成形比が50の鋼では0.4ppmと2倍程度高くなることがわかった。この結果は、鍛造が耐遅れ破壊特性の向上に有効であることを示している。
【0038】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0039】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、単純な組成からなるためにリサイクル性に優れ、なおかつ複雑な加工熱処理を必要としない、耐遅れ破壊特性に優れた新規な高強度機械構造用鋼が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】0.6%C−0.2%Mn−1%Mo鋼の焼きもどし硬さに及ぼすSi、Cr添加の影響を例示した図である。図中のマーカーの、□はSi、Cr添加なしの0.6%C−0.2%Mn−1%Mo鋼を、△は1%Cr添加を、▲は2%Si添加を、○は2%Si−1%Cr添加を示している。
【図2】鉄材における各合金元素の1時間あたりの拡散移動距離を例示した図である。
【図3】実施例における鋼材(a)(b)(c)についての遅れ破壊特性を例示した図である。
【図4】鍛錬成形比と遅れ破壊特性の関係を例示した図である。
Claims (5)
- 組成が、重量%で、
C :0.56〜0.7%、
Si:0.2〜2.5%、
Mn:0.05〜1.0%、
Cr:0.2〜1.5%、
Mo:0.3〜1.5%
で、かつ合金元素の総量が、
Si+Mn+Cr+Mo≦5重量%
を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、500℃〜Ae1点
以下の温度範囲で、焼きもどしパラメーター:λが、
λ=T(20+logt)≧15800
(式中、Tは温度(K)、tは時間(h)を示す)となる条件で焼きもどし処理が施され、引張強さが1800MPa以上であることを特徴とする高強度機械構造用鋼。 - 焼入れ処理の前に、鍛錬成形比で50以上の鍛造を施されていることを特徴とする請求項1記載の高強度機械構造用鋼。
- 不純物としてのP、Sの含有量が、0.01重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の高強度機械構造用鋼。
- Moの代わりにWが0.3〜1.5重量%含まれていることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の高強度機械構造用鋼。
- 請求項1ないし4のいずれかに記載される高強度機械構造用鋼の鋼材を焼入れ処理の前に、鍛錬成形比で50以上の鍛造を施した後、500℃〜Ae 1 点以下の
温度範囲で、焼きもどしパラメーター:λが、
λ=T(20+logt)≧15800
(式中、Tは温度(K)、tは時間(h)を示す)となる条件で焼きもどし処理を施すことを特徴とする引張強さが1800MPa以上の高強度機械構造用鋼の製造方法。
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