JP3583402B2 - ポリエステル繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、染色性、深色性および耐光性に優れたポリエステルを一成分とした複合繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレ−ト繊維に代表されるポリエステル系繊維は、多くの優れた特性を有するため広範囲に使用されているが、羊毛、絹等の天然繊維、レ−ヨン、アセテ−ト等の半合成繊維に比較して色の鮮明性、深み、特に黒色の色の深み、発色性などが劣る欠点がある。
このような欠点は、通常、ポリエステル系繊維が鮮明性の乏しい分散染料で染色されること、ならびにポリエステル繊維の屈折率(繊維軸に対して直角方向の屈折率)が1.7と他の繊維に比較して高く、繊維表面の光の反射率が高くなり、結果としてポリエステル系繊維からなる布帛表面からの白色反射散乱強度が大きくなることなどの要因が挙げられる。
【0003】
これらの解決策として、ポリエステル系繊維にカチオン染料、酸性染料等の鮮明性の優れた染料の染着座席を導入する改質が種々提案されているが、色の鮮明性は向上されるが、ポリエステル系繊維の高屈折率に起因する光反射散乱は減少せず、本質的に色の深みの改善効果は奏されていない。
【0004】
一方ポリエステル系繊維表面を屈折率の低い化合物で被覆することにより、濃色化が向上し、色の深みが増すことも提案されており、屈折率の低い化合物として、有機フッ素系化合物、有機ケイ素系化合物等が提案されている(特公平2−42938号公報)。
また、ポリエステル系繊維の表面に光の波長よりも細かいピッチの微細な凹凸を形成することで、繊維表面の光の反射散乱を抑制する方法も提案されている(特公昭62−20304号公報、特公昭62−28229号公報)。
【0005】
しかしながら、ポリエステル系繊維表面に屈折率の低い化合物を被覆する方法により得られた繊維は、ドライクリ−ニングに対する被覆物の耐久性が乏しく、また十分な濃色効果がたとえ達成できたとしても、風合、染色物の染色堅牢度低下、耐光性の低下等の問題が生じる。
さらに繊維表面の微細な凹凸を形成する方法では、後加工工程中、該凹凸が損傷を受けて繊維表面の光の反射散乱を抑制する効果が低下したり、着用時の摩耗等の影響で外観不良を生じる場合がある。
【0006】
また、ポリエステル系繊維一利用方法として高収縮糸がある。かかる高収縮糸の利用方法として、(1)高収縮糸と低収縮糸とを組み合わせ、熱処理により糸長差を生じせしめ、布帛に膨らみ感を持たせる利用方法、(2)高収縮糸に単糸デニ−ルの大きい糸、低収縮糸に単糸デニ−ルの小さい糸を組み合わせて使用し、熱処理により糸長差を生じせしめ、布帛の表面に配置された単糸デニ−ルの小さい糸により布帛に表面タッチの優しさを、糸の芯に配置された単糸デニ−ルの大きい糸により布帛に張り・腰を持たせる利用方法、(3)パイル編み物や立毛品のグランド糸として使用し、ル−プや毛羽の密度を向上させる利用方法、(4)複合紡糸の一成分として高収縮ポリマ−を用い、潜在捲縮糸とする利用方法、(5)一体成型、立体成型時に利用する方法などがある。
【0007】
このような高収縮糸の製造方法としては、従来、ポリエステルを重合する際の重合成分としてイソフタル酸を共重合させ、酸成分を変性させることが一般的に行われてきた。これは酸成分の変性による方法が、重合工程におけるグリコ−ル成分の分離回収が容易であるためと考えられる。しかしながら、酸成分を変性することにより高収縮繊維を得るためには、共重合成分の共重合量を高くしなくてはならず、そのためポリエステルが本来有している優れた性能を悪化させるという問題がある。
【0008】
そこで、最近は、イソフタル酸等の酸成分のみの変性ではなく、グリコール成分の変性もされるようになってきている。その中で最もよく見られるのは、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を共重合したポリエステル、イソフタル酸とビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を共重合したポリエステルである。これらのポリエステルは酸成分のみの変性と比較して、少ない共重合量で高収縮性能が発現しており、ポリエステルが本来有している性能を維持した上で高収縮・高収縮応力特性を付与する手段として有効ではある。
しかしながら、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物を共重合したポリエステルは耐光性、染色堅牢度が非常に劣る問題点を有している。
【0009】
また、高収縮繊維を得る他の手段として、ポリエステル繊維の延伸糸の熱処理温度を低下させ、ポリエステルの結晶化度を低下させる方法がある。この方法では確かに高収縮糸が得られるが、乾熱収縮時の応力が低下し、また、高収縮糸を得る他の方法として、ポリエステル繊維の延伸時の熱処理温度を低下させ、結晶化度を下げる方法がある。この方法では確かに高収縮糸が得られるが、乾熱収縮時の応力が低下し、熱収縮応力の小さい高収縮糸しか得られない。そのため、高収縮繊維、低収縮繊維を組み合わせた糸を混繊して織編物等の布帛にした場合、高収縮の効果が発現しにくい。
【0010】
本発明は、染色性、深色性に優れるうえに高収縮・高収縮応力特性を有する繊維を得るため検討した結果、特異的な化学構造を有する化合物を特定量ポリエステルに共重合させることにより、染色性、深色性、収縮特性を満足させる繊維が得られることがわかった。
この特異的な化学構造を有する化合物を5〜100モル%共重合させたポリエステルはUS DEFENSIVE PUBLIKATION T896033に開示されているが、該ポリエステルを繊維化することは困難であった。
本発明はこの特異的な化学構造を有する有する化合物を特定量共重合させることにより、繊維化が可能で、しかも得られた繊維が染色性、深色性に優れているのみならず、高収縮・高収縮応力特性を有し、しかも耐光性、染色堅牢度に非常に優れていることを見出したのである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、染色性、深色性に優れているのみならず、高収縮・高収縮応力特性を有し、しかも耐光性、染色堅牢度に非常に優れているポリエステルを一成分とした複合繊維を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記構造式(1)で示される化合物を2〜20モル%共重合してなるポリエステル〔以下、PES(I)と称する〕からなる繊維〔以下、PES繊維(II)と称する〕である。
【0013】
【化2】
【0014】
本発明は、PES(I)を一成分とした複合繊維である。
【0015】
本発明は、PES繊維(II)を一成分とした異収縮混繊糸である。
【0016】
本発明は、PES繊維(I)からなるステープルを一成分とする混合紡績糸である。
【0017】
【発明の実施の形態】
上記PES(I)に含有される、構造式(1)で示される化合物において、エステル形成性官能基としては、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、そのエステル形成性誘導体が挙げられる。ヒドロキシアルキル基を構成するアルキルに限定はないが、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等の炭素数が1〜4のアルキルが好ましく、分岐したアルキルでもよい。また、カルボキシル基のエステル形成性誘導体とは、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシブチル基等炭素数1〜4のアルキルが好ましい。
そして、該化合物は1つまたは2つのエステル形成性官能基を有していることが必要であり、ポリエステル分子鎖中に共重合されることがポリエステル繊維として高い収縮特性の発現、重合性等の点で好ましく、エステル形成性官能基の数は2つであることが好ましい。その場合、エステル形成性官能基は同じ種類の基であっても異なった種類の基であってもよい。
【0018】
さらに、該化合物においてエステル形成性官能基が結合している以外の炭素には水素原子、アルキル基が結合しているが、重合性を阻害しない点でエステル形成性官能基が結合している以外の炭素には水素原子が結合していることが好ましい。なお、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が挙げられ、該基は分岐していてもよい。
【0019】
このような化合物として、ノルボルナン2,3−ジメタノール、ノルボルナン2,3−ジエタノール、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸ジエチルエステル、パーヒドロジメタノナフタレンジメタノール、パーヒドロジメタノナフタレンジエタノール、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、トリシクロデカンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸ジメチルエステル、トリシクロデカンジカルボン酸ジエチルエステル等が挙げられ、これらの化合物においてエステル形成性官能基が結合している以外の炭素にアルキル基が結合した化合物も挙げられる。また、アルキル基以外の化合物としてスルホニル基等の他の置換基が結合してる化合物も本発明には包含される。上述の化合物の中でも重合性、製糸性、繊維強度、収縮性能の点でノルボルナン2,3−ジメタノール、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル、パーヒドロジメタノナフタレンジメタノール、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、トリシクロデカンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸ジメチルエステルが好ましい。さらに重合性の観点から見ると、ノルボルナン2,3−ジメタノール、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸、ノルボルナン2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル、パーヒドロジメタノナフタレンジメタノール、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸、パーヒドロジメタノナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルは2つのエステル形成性官能基がトランス位に位置することが好ましい。
【0020】
本発明におけるポリエステルとは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコ−ル、トリメチレングルコール、テトラメチレングリコールから選択された少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。また本発明の目的を損なわない範囲内で構造式(1)で示される化合物以外に第3成分を共重合させても差支えない。
かかる第3成分として、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエ−テルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ジフェノキシエタン−4′,4″−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、ジフェノキシケトンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジメチル−5−ナトリウムスルホイソフタレート、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;デカリンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシアクリル酸等のヒドロキシカルボン酸;これらのエステル形成性誘導体から誘導されたカルボン酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン;ヘキサメチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル等の脂肪族ジオ−ル;ヒドロキノンカテコ−ル、ナフタレンジオ−ル、レゾルシン、ビスフェノ−ルA、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノ−ルS、ビスフェノ−ルSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族ジオ−ル;シクロヘキサンジメタノ−ル等の脂肪族ジオ−ルなどを挙げることができる。これらの第3成分は1種のみまたは2種類以上が共重合されていてもよい。
【0021】
本発明のPES(I)には、ポリエステルが実質的に線状である範囲内でトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸等の多価カルボン酸;グリセリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、ペンタエリスルト−ル等の多価アルコ−ルが共重合されていてもよい。
【0022】
構造式(1)で示される化合物の含有量はポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対して2〜20モル%、好ましくは3〜18モル%の範囲である。該含有量が2モル%未満の場合、ポリエステルの結晶化度の低下、繊維の収縮率の上昇が不十分であることから、所期の目的の繊維が得られない。一方、含有量が20モル%を越える場合、ポリエステルの重合性が低下するとともに、結晶性のポリエステルが得られにくくなり、たとえ得られたとしてもポリエステルの融点が低くなり、ポリエステル繊維に要求される耐熱性を満足するものではない。
また該化合物の含有量が増す程、ポリエステルの結晶化度および融点が低下するが、該ポリエステル繊維の収縮率は上昇する傾向にあるので、繊維各用途に要求される耐熱性、収縮性能、染色性等を考慮して本発明の範囲内で含有量を変化させればよい。
本発明に係わるポリエステルは、通常の方法で重合することができる。たとえば、テレフタル酸とアルキレングリコールを直接エステル化させるか、テレフタル酸ジメチル等のテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコ−ルとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とアルキレンオキシドとを反応させるかしてテレフタル酸のアルキレングリコ−ルエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第一段階の反応、そして第一段階で得られた反応生成物を、三酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム、テトラアルコキシエタン等の重合触媒を用いて、減圧下230〜300℃で所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。その際、構造式(1)で示される化合物の所望量を重縮合反応が終了するまでの任意の段階、たとえばポリエステルの出発原料に添加したり、エステル交換反応後で重縮合反応前に添加することができる。
また、ポリエステルの重合度を高めるために液相で重合を行なった後に固相重合を行うことも可能である。
【0023】
本発明のPES(I)は固有粘度〔フェノ−ル/テトラクロロエタン(重量比50/50)の混合溶媒を用い、30℃で測定〕が0.4〜1.5の範囲であることが好ましい。該PES(I)の固有粘度が0.4未満の場合、繊維化した場合の繊維強度、収縮特性が不十分となり、所期の目的が奏されにくい。一方、該PES(I)の固有粘度が1.5を越えるとポリエステルの溶融粘度が高くなり過ぎ、紡糸・延伸等の製糸性が悪化していくので好ましくない。
【0024】
本発明のPES(I)には、必要に応じ、本発明を損なわない範囲内で酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、艶消剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃補助剤、潤滑剤、着色剤、可塑剤、無機充填剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0025】
PES繊維(II)は、一般的な溶融紡糸法によって容易に繊維化することができる。得られた紡糸原糸は通常の方法で延伸すればよく、通常のポリエステル繊維の延伸条件で延伸することができる。延伸は加熱ロ−ラ−で予熱後、巻取ロ−ラの速度に応じる延伸倍率で延伸して熱処理することによりなされる。またスピンドロ−のような紡糸延伸が直結した方法で延伸して熱処理してもよい。
【0026】
該PES繊維(II)の横断面は、円形、三葉形〜八葉形などの多葉形、T字形、V字形、扁平形、方形等の異形の任意の断面形状であることができ、また中実繊維に限らず、中空繊維や多孔質繊維であってもよい。繊維の太さ(繊度)もとくに限定されず、所期の目的に応じて任意の太さ(繊度)にすることができる。また、PES繊維(II)は繊維軸方向に繊度斑を有していてもよい。
また、PES繊維(II)はフィラメントのみならず、ステープルファイバーとしても利用できる。
【0027】
このようにして得られたPES繊維(I)は複屈折率Δnが下記式(2)を満足するものである。
−5.55×A+80≦Δn×103≦−5.55×A+165 (2)
〔ただし、Aは構造式(1)で示される化合物の含有量(モル%)である。〕
複屈折率Δnがかかる範囲内にあることにより、該ポリエステル繊維は染色した場合の染色性、深色性に優れているのである。
【0028】
また、構造式(1)で示される化合物をポリエステルの分子鎖に含有させることにより、該分子鎖に対し、該化合物の脂肪族環状骨格が側鎖として位置するような構造をとることから、該化合物の含有量が低くても非晶性が増し、二次転移点温度の低下が抑制され、熱を受けて繊維が収縮する際、繊維内部の緩和時の応力が蓄積されるため高収縮であり、しかも耐熱性、染色堅牢度、耐光性に優れた繊維となるのである。かかる耐光性は、カーボンアーク灯に対する耐光堅牢度として示すことができ、上記のPES繊維(II)は4級以上である。またこの際の染色条件はとくに限定されるものではなく、あらゆる分散染料、カチオン染料、酸性染料によって薄色から濃色にわたって染色された繊維に対して有効である。
【0029】
PES繊維(II)は延伸条件によって高収縮率のみならず、高収縮応力をも有することができる。
一般的に高い収縮率を有する繊維の収縮応力は低いものであるが、本発明のポリエステル繊維は延伸条件によって高収縮率および高収縮応力を合わせ持つものである。
すなわち、一般的な溶融紡糸法によって紡糸されたポリエステル繊維はいったん捲取られた後、または捲取ることなく延伸に供され、延伸は熱延伸にて行われる。延伸ゾーンに供給される前に75〜95℃程度の温度の加熱ローラで予熱することが好ましい。そして150℃以下の温度、好ましくは140℃以下の温度で切断延伸倍率の0.68倍以上、好ましくは0.70倍以上の延伸倍率で延伸される。延伸温度が150℃を越えると収縮率が低下し、延伸倍率が切断延伸倍率の0.68倍未満の場合、十分な熱収縮応力を有する繊維が得られないばかりか、残留伸度が大きすぎ衣料用繊維としては使用できにくい。
【0030】
このようにして延伸して得られた延伸ポリエステル繊維〔以下、延伸PES繊維(III)と称する〕は、180℃における乾熱収縮率が20%以上、乾熱最大収縮応力が250mg/d以上、かつ98℃における湿熱収縮率が15%以上という、高い収縮率、高い収縮応力を有するのである。乾熱収縮率、乾熱最大収縮応力、湿熱収縮率の3者を同時に満足することにより、後述する芯鞘加工糸の芯部フィラメントとして、また異収縮混繊糸の一成分として用いると、風合いが良好で、後加工により適度な張り腰と反発感、膨らみを有する織編物等の布帛を得ることができるのである。
180℃における乾熱収縮率が20%未満の場合、該延伸PES繊維(II)を後述の芯鞘加工糸の芯部フィラメントとして利用し、織編物に形成したものは十分な収縮が発現せず、嵩高性が不満足なものとなりやすい。乾熱収縮率の上限についてはとくに限定はないが、糸質の劣化を考慮すると、80%以下であることが好ましい。とくに20〜75%の範囲であることがより好ましい。
また98℃における湿熱収縮率が15%未満の場合、上述の乾熱収縮率との差が大きくなり、このような延伸PES繊維(II)を用いたを織編物は、その加工時、たとえば熱水処理、染色等の湿熱処理後の熱セット等の乾熱処理での収縮が大きすぎるために形態安定性、形態均質性に欠けたものとなってしまいやすい。湿熱収縮率の上限については特に限定はないが、繊維物性、とくに織編物等の布帛のへたり等を考慮すると、75%以下であることが好ましい。とくに15〜70%の範囲であることがより好ましい。そして、乾熱収縮率と湿熱収縮率の差についてはとくに限定されないが、上述の理由により、1〜30%の範囲であることが好ましい。
さらに、収縮応力は、拘束下にある糸や織編物の収縮の起こり易さを左右するため、収縮応力が大きい程拘束下でも収縮しやすい。180℃における乾熱最大収縮応力が250mg/d以上であると拘束下でも十分収縮するのである。
【0031】
該延伸PES繊維(III)の利用方法として、異収縮混繊糸、芯鞘加工糸がある。
まず、異収縮混繊糸への利用について説明する。
従来、収縮率の異なるポリエチレンテレフタレート繊維からなる異収縮混繊糸はソフト感とドレープ性に富んだシルクライクな織編物用として、婦人用ドレス、ブラウス等を中心に使用されている。このような混繊糸は、沸水収縮率の異なる延伸糸の混繊、同一物性の未延伸糸を熱処理条件を変えて延伸し混繊することによって得られている。しかしながら、これらの方法では単に沸水収縮率差を設けて混繊糸としているに過ぎず、製織編までの熱履歴により熱収縮率差が初期よりも小さくなり、さらには織編物とした場合、その織編拘束の中で熱収縮率差に起因して蓄積される応力が小さいので、風合の乏しいものとなる。
このような従来の異収縮混繊糸において、上記の延伸PES繊維(III)を高収縮繊維として用いると、上記の問題点が解決されるうえに耐光性という実用性能が大きく優れるのである。
異収縮混繊糸は、上記の延伸PES繊維(III)を高収縮繊維群に、かかる延伸PES繊維(III)よりも収縮率の低い繊維を低収縮繊維群として、これらの繊維群が混繊交絡または混合紡糸されてなる。高収縮繊維群と低収縮繊維群との98℃における湿熱収縮率(以下、単に湿熱収縮率と称する)差は8%以上であることが好ましい。該湿熱収縮率差が8%未満の場合、織編物とした後の工程で十分な熱収縮挙動が得られにくい。すなわち、織編物にした後で芯部に高収縮繊維群を配置させ、鞘部に低収縮繊維群を配置させた特定の構造を形成させるためには、高収縮繊維群と低収縮繊維群との湿熱収縮率差のみを目安とするだけでは不十分であり、高収縮繊維群と低収縮繊維群の湿熱収縮率差と高収縮繊維群の最大乾熱収縮応力との相乗効果により、織編物にした後の工程で十分な熱収縮挙動を起こし、張り、腰、膨らみ感等の風合いが良好となるのである。
織編物にした後の工程で十分な熱収縮挙動を起こすためには、高収縮繊維群と低収縮繊維群の湿熱収縮率差が8〜60%、とくに10〜55%の範囲にあることが好ましい。
【0032】
また、かかる異収縮混繊糸は、湿熱収縮率が10〜55%、とくに10〜50%の範囲であることが好ましい。該湿熱収縮率が10%未満の場合、織編物にした時の張り、腰、膨らみ感等の風合が不十分であり、一方55%を越えると混繊糸の熱安定性が劣る場合がある。
【0033】
さらに、該混繊糸を構成する高収縮繊維群の各繊維、すなわち延伸PES繊維(III)の単糸繊度は1〜10デニール、低収縮繊維群の単糸繊度は5デニール以下が好ましく、高収縮繊維群と低収縮繊維群との重量比は前者:後者=2:1〜1:5の範囲であることが織編物の風合いの点から好ましい。なお、低収縮繊維群を構成するポリマーの種類にとくに限定はなく、ポリエステル、レーヨン、ポリアミド等、上記延伸PES繊維(III)より湿熱収縮率が8%以上小さければよい。
【0034】
また、該混繊糸において、延伸PES繊維(III)と低収縮繊維との糸長差は4%以上であることが好ましい。該糸長差が4%未満の場合、該混繊糸を用いた織編物は膨らみ感、ソフト感等の風合に欠けたものとなってしまう。該糸長差は初期の目的に応じて設定すればよく、上限はとくに限定されないが、30%以下であることが好ましい。
【0035】
該混繊糸は、通常の紡糸混繊方式、延伸混繊方式、エアー加工混繊方式等により製造され、加工工程、製織編時の糸条通過安定性を得るために、インターレース、タスラン(ヘバライン ファイバー テクノロジー Inc 登録商標)等の空気交絡処理を施していてもよい。また該混繊糸はループ毛羽が形成されていてもよい。
【0036】
次に芯鞘加工糸への利用について説明する。
上記延伸PES繊維(III)を芯鞘構造加工糸の芯部分に用いることにより、柔軟で風合に優れたスパンライクな加工糸が得られる。このような芯鞘加工糸は、仮撚による嵩高性を有し、仮撚後の加工糸の解舒性のために、空気絡合による糸間の絡合が糸長方向で特定の間隔で成されていることが望ましい。これによって芯鞘各糸条が集束され、柔軟で風合に優れた加工糸が得られる。空気絡合処理は仮撚加工の前でも後でもよく、所期の目的に応じて決定すればよい。仮撚温度は該加工糸を構成する芯糸および鞘糸のうち、低融点糸の融点以下の温度で行うことが好ましく、仮撚数Tは通常のポリエステル加工糸の仮撚数でよく、下記式の範囲内であることが好ましい。
T=T0{150/〔D×(R1/R2)〕}1/2
R1/R2=k・r
(ただし、1200≦T0≦2800、0.9≦k≦1.4であり、R1は供給糸の供給ローラの速度、R2はデリバリーローラの速度、rは嵩高糸の製造において用いられる常用のR1とR2の速度比、Dは供給糸の繊度(デニール)である。)
【0037】
芯糸、鞘糸の繊度は用途に応じて選定すべきであるが、一般的に総繊度において鞘糸≧芯糸とすることが好ましい。鞘糸をして用いられる繊維を構成するポリマーとしては、ポリエステルが好ましく、該ポリエステルは変性されていてもよい。またポリエステルとポリアミドとからなる複合繊維を用いることも可能である。
【0038】
本発明に係わるPES(I)の繊維への利用方法として複合繊維、混合紡績糸がある。
まず、複合繊維について説明する。
PES(I)を他の繊維形成ポリマーと複合させて繊維化させ、該複合繊維を上述の延伸条件で延伸することにより、複合形態によって2成分の収縮率差による自己捲縮性の発現が見られたり、PES(I)に伴う高い収縮性に付随して繊維軸方向に繊維形成性ポリマーの細かい皺の発現が見られたり、大きい収縮差による効率良い剥離の発現が見られたりする。このように、天然繊維よりなる布帛の有する伸縮性、張り、腰、膨らみ、ぬめり、しなやかさ、ソフトさ等の優れた特性を発揮することが可能となる。
【0039】
複合形態としてはサイドバイサイド型、芯鞘型、偏心芯鞘型、多層積層型、放射状型等が挙げれるが、該PES(I)の高収縮性が発揮でき得る形態であれば、目的に応じて選択することができる。
従来の捲縮付与型の複合繊維としてサイドバイサイド型や偏心芯鞘型で、重合度の異なるポリエチレンテレフタレート同士を複合化した繊維、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとを複合化した繊維、イソフタル酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を共重合したポリエステルとポリエチレンテレフタレートとを複合化した繊維等が挙げられるが、これらの複合繊維は、収縮特性が不十分であったり、たとえ収縮特性が満足できても耐光堅牢度に大きな欠点があった。上述のPES(I)と繊維形成性ポリマーからなる複合繊維は収縮特性を満足する上に耐光性という欠点をも解消したのである。この複合繊維の有する収縮特性を利用して、該複合繊維を一成分とした不織布が有用である。
【0040】
次に混合紡績糸について説明する。
上述の延伸PES繊維(III)をステープルファイバーとし他の合成繊維および/または天然繊維と通常の混合紡糸方式で製造された混合紡績糸からなる織編物は、熱処理することにより、延伸PES繊維(III)からなるステープルファイバーが織編物拘束の下でも十分に収縮するので、該織編物に嵩高性が発現し、また、従来品に比較し耐光性にも優れているため実用性が非常に高いものである。
延伸PES繊維(III)からなるステープルファイバーならびに、他の合成繊維および/または天繊維の繊度、カット長、撚係数、混紡率はとくに限定されず、所期の目的に応じて適宜設定することができる。
【0041】
ここまではPES(I),PES繊維(II)、延伸PES繊維(III)を利用した複合繊維、混繊糸、芯鞘加工糸、混合紡績糸について説明したが、本発明はこれら繊維を用いた布帛をも包含するものである。
該布帛としては、織編物、不織布、延伸PES繊維(III)をグランド糸またはパイル糸としたパイル製品などを挙げることができる。該布帛に含有される上述の延伸PES繊維(III),複合繊維、混繊糸、混合紡績糸、芯鞘加工糸等は20重量%以上、好ましくは30重量%以上である。該含有量が20重量%未満の場合、布帛の拘束下で、本発明の繊維が十分収縮することができず、目的としたものが得られない。たとえ得られたとしても、その布帛の芯的存在である収縮性の高い繊維が少ないため、張り、腰、反発感、膨らみ等に欠けたものとなってしまう。また該布帛に外力が付与されると、のびたり、へたったりという形態安定性に欠けたものとなってしまう。
該布帛の高収縮性を有する繊維を含んでいるために、従来品が有していた風合不足、耐光性不良という問題点を解消したものが得られ、また、パイル製品では高密度で嵩高いものが得られるようになる。
【0042】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、以下の実施例、比較例、参考例における各物性は以下の方法により測定した。
【0043】
〔構造式(1)で示される化合物の含有量(モル%)〕
重水素化トリフルオロ酢酸を溶媒としてポリエステルの1H−NMR測定結果に基づき算出した。
【0044】
〔ポリエステルの固有粘度(dl/g)〕
フェノ−ル/テトラクロロエタン(等重量比)の混合溶媒を用い、30℃で測定した。
【0045】
〔ポリエステルの融点(℃)、ガラス転移点温度(℃)および結晶化度(J/g)〕Differential Scanning Calorimeter (メトラ−TA3000、パ−キンエルマ−社製)を使用し、試料10mg、昇温および降温速度10℃/分の条件で、窒素置換を行ないながら測定し、同じ試料でこの操作を2回繰り返して2回目の値を実測値とした。また試料に熱処理を施し、十分に結晶化させた後の結晶融解熱(J/g)を上記装置により測定し結晶化度として示した。
【0046】
〔ポリエステル繊維の複屈折率〕
ナトリウム光源を用い、偏光顕微鏡の光路にべレックスコペンセーターを挿入し、α−ブロモナフタレン中で測定した値である。
【0047】
〔ポリエステル繊維の乾熱収縮率(Dsr:%)〕
初荷重1mg/d下で試料に50cm間隔の印をつけ、ついで試料を180℃に昇温された乾熱雰囲気中に5mg/dの荷重下10分間放置し、その後取り出して1mg/dの荷重下で印の間隔Lcmを測定し、次式により算出した。
乾熱収縮率(Dsr:%)=〔(50−L)/50〕×100
【0048】
〔ポリエステル繊維の乾熱収縮応力(mg/d)〕
オ−トグラフに20cmのヤ−ンを取り付け、50mg/dの初荷重をかけた後、1℃/分の昇温速度で昇温し、収縮により発現する力を測定した。
【0049】
〔ポリエステル繊維の湿熱収縮率(Wsr:%)〕
初荷重1mg/d下で試料に50cm間隔の印をつけ、ついで試料を98℃の熱水中に5mg/dの荷重下30分間放置し、その後取り出して1mg/dの荷重下で印の間隔L´cmを測定し、次式により算出した。
湿熱収縮率(Wsr:%)=〔(50−L´)/50〕×100
【0050】
〔混繊糸の湿熱収縮率(Wsr′:%)〕
上述のポリエステル繊維の湿熱収縮率の測定と同様の方法で測定して求めた。
【0051】
〔混繊糸を構成する各繊維の湿熱収縮率差(ΔW%)〕
混繊糸を構成する繊維群を分別した後、上述の沸水収縮率の測定方法にしたがってそれぞれの沸水収縮率を求め、その差で示した。
【0052】
〔混繊糸の糸長差(l%)〕
混繊糸の50cm間隔で印をつけ、混繊糸を構成する繊維群を分別した後、それぞれの繊維群に1mg/dの荷重をかけた状態でその間隔l1、l2を測定し、その差で示した。
【0053】
〔耐光堅牢度〕
下記の染色条件で染色されたサンプルにつきJIS L0842−1988に準拠して測定した。
【0054】
〔布帛の深色度(K/S)〕
サンプル布の分光反射率(R)をカラ−アナライザ−(自動記録式分光光度計、日立製作所製)で測定し、下記式ク−ベルカ−ムンク(Kubelka−Munk)の式から求めた。この値が大きい程深色度が大であることを示す。なお、サンプル布は上記の染色条件において染料濃度が3.0%で染色したものを用いた。
K/S=(1−R)2/2R
(Rはサンプル布の可視部反射率曲線の最大吸収波長位置における反射率である。)
【0055】
〔布帛の風合、伸縮性の評価〕
サンプル布の膨らみ、ソフト感、張り、腰、きしみ感の風合、伸縮性を一対比較による官能評価を行った。
【0056】
〔参考例A〕
ノルボルナン2,3−ジメタノール(表1に示される化合物)を4.2モル%、エチレングリコール95.8モル%からなるジオール原料とテレフタル酸とから、ジオール原料:テレフタル酸=1.2:1となるように調整してスラリーを形成し、このスラリーを加圧下(絶対圧2.5kg/cm2)、温度250℃でエステル化率が95%になるまでエステル化反応を行い、低重合体を製造した。次に触媒として350ppmの三酸化アンチモンを添加し、絶対圧1torrの減圧下に280℃で1.5時間低重合体を重縮合し、固有粘度が0.65dl/gのポリエステルを得た。このポリエステルをノズルからストランド状に押し出して切断し、直径2.8mm、長さ3.2mmの円柱状チップを得た。
得られたポリエステルチップをMNRにより解析したところ、ノルボルナン2,3−ジメタノールが全ジカルボン酸成分に対して、5モル%共重合されているポリエステルであることが確認された。また、該ポリエステルチップのTgは78℃、Tmは241℃、結晶化処理後の結晶融解熱は36J/gであった。
【0057】
〔参考例B〜Q〕
表1に示された化合物を用いて、また表1に示される共重合量にする以外は参考例Aと同様にしてポリエステルを製造し、ポリエステルチップを得た。各々のポリエステルについて、固有粘度、Tg、Tm、結晶化融解熱を測定し表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
〔参考例a〜q〕
固有粘度が0.70dl/gのポリエチレンテレフタレート(参考例a)、表2に示された化合物を用いて、また表2に示される共重合量にする以外は参考例Aと同様にしてポリエステルを製造し、ポリエステルチップを得た。各々のポリエステルについて固有粘度、Tg、Tm、結晶化融解熱を測定し表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
〔参考例1〕
参考例Aで得られたポリエステルチップを押し出し機にて溶融押し出しし、290℃で0.25φ×24ホールの丸孔ノズルから吐出し、1000m/分で巻き取った。ついで85℃のホットプレート、100℃(参考例1−1)、120℃(参考例1−2)のホットプレートを用い、500m/分の速度で延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。延伸倍率はそれぞれ3.20倍であり、切断延伸倍率の0.75倍であった。
これらのマルチフィラメントの諸物性を表に示す。
ノルボルナン2,3−ジメタノールを特定量共重合したポリエステルからなり繊維は高い乾熱収縮率、湿熱収縮率を有しながら、乾熱収縮応力も高いものであった。
また、これらのマルチフィラメントを編地のグランド糸として使用し、立毛編物を試作したところ、毛羽密度が高く、高級感のある編地であった。さらに、該編地に上述の染色条件で染色を施したところ、複屈折率が低く、それに起因した深色度が高い編物であり、耐光堅牢度も5級と良好で全く問題がなかった。
【0063】
【表4】
【0064】
〔比較参考例1〕
参考例aで得られたポリエチレンテレフタレートを用いて、参考例1と同様にして紡糸・延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。
このマルチフィラメントの諸物性を測定し、表に示す。
参考例1で得られた繊維に比較し乾熱収縮応力は同等であったが、乾熱収縮率、湿熱収縮率が極端に低いものであった。
また、これらのマルチフィラメントを編地のグランド糸として使用し、立毛編物を試作したところ、毛羽密度が疎で高級感に欠けたものであった。さらに参考例1と同様にして該編物に染色を施したところ、耐光堅牢度は5級と高いものであったが、複屈折率が高く、深色性の低いものであった。
【0065】
【表5】
【0066】
〔参考例2〜17〕
参考例B〜Qで得られたポリエステルチップを用い、参考例1と同様にして、紡糸・延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた各マルチフィラメントの諸物性を表に示す。比較参考例1で得られた繊維と同等の高い乾熱収縮応力を有していながら、高い乾熱収縮率、湿熱収縮率をも有していた。ついで、参考例1と同様にして該マルチフィラメントをグランド糸とした編地を作成し、染色を施したが、各マルチフィラメントの低複屈折率に起因した高い深色性を示すとともに、耐光堅牢度も問題がなく、実用性の非常に高いものであった。
【0067】
〔比較参考例2〜7〕
参考例a〜gで得られたポリエステルチップを用い、参考例1と同様にして紡糸・延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた各マルチフィラメントの諸物性を表に示す。比較参考例1で得られた繊維と同等の高い乾熱収縮応力を有してはいるが、乾熱収縮率、湿熱収縮率が低く、各マルチフィラメントをグランド糸とした編地は毛羽密度が疎で高級感に欠けたものであった。
【0068】
〔比較参考例8〜13〕
参考例h〜mで得られたポリエステルチップを用い、参考例1と同様にして紡糸・延伸を行おうとしたが、ポリエステルが非晶性であるため、延伸時に糸切れが多発し、満足な延伸糸が得られなかった。
【0069】
〔比較参考例14〕
参考例nで得られたポリエステルチップを用い、参考例1と同様にして紡糸・延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた各マルチフィラメントの諸物性を表に示す。乾熱収縮率および湿熱収縮率は参考例で得られたマルチフィラメントと同じレベルであったが、乾熱収縮応力が非常に低かった。このマルチフィラメントをグランド糸とした編物は収縮応力が低いために十分な収縮が得られず、毛羽密度が疎で高級感に欠けるものであった。
【0070】
〔比較参考例15〜17〕
参考例o〜qで得られたポリエステルチップを用い、参考例1と同様にして紡糸・延伸を行い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られた各マルチフィラメントの諸物性を表に示す。乾熱収縮率、乾熱収縮応力、湿熱収縮率ともに参考例で得られたマルチフィラメントと同じレベルであったが、参考例1と同様にして編地を作製して染色を施し耐光堅牢度を測定したところ、1〜2級と低く、実用的ではなかった。
【0071】
〔参考例18〕
高収縮繊維群として参考例1−1で得られたマルチフィラメントを用い、低収縮繊維群として比較参考例1−2のマルチフィラメントを用いて流体処理装置によりエアー圧5kg/cm2で処理して2個/インチの交絡を付与した混繊糸を巻き取った。該混繊糸を構成する繊維群の湿熱収縮率差ΔW%は15%、該混繊糸の湿熱収縮率Wsr′%は20%、糸長差は10%であった。
該混繊糸に300T/Mの撚を加えて、経緯使用で製織を行い、通常の加工工程により染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。
該ツイル織物の官能評価の結果、膨らみ感、ソフト感、張り、腰、きしみ感は全て良好であり、優れた風合を有するものであった。また該織物は深色性にも優れ、耐光堅牢性も良好であった。
【0072】
〔比較参考例18〕
高収縮繊維群として、比較参考例2−1で得られたマルチフィラメントを用いる以外は参考例18と同様にして混繊糸を作製した。該混繊糸を構成する繊維群の湿熱収縮率差ΔW%は4%、該混繊糸の湿熱収縮率Wsr′%は12%、糸長差は2%であった。
該混繊糸に300T/Mの撚を加えて、経緯使用で製織を行い、通常の加工工程により染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。
該ツイル織物の官能評価の結果、膨らみ感、ソフト感が非常に欠けており、風合の悪いものであった。
【0073】
〔比較参考例19〕
高収縮繊維群として比較参考例16−1で得られたマルチフィラメントを用いる以外は参考例18と同様にして混繊糸を作製した。該混繊糸を構成する繊維群の湿熱収縮率差ΔW%は4%、該混繊糸の湿熱収縮率Wsr′%は12%、糸長差は2%であった。
該混繊糸に300T/Mの撚を加えて、経緯使用で製織を行い、通常の加工工程により染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。
該ツイル織物の官能評価の結果、膨らみ感、ソフト感が非常に欠けており、風合の悪いものであった。
【0074】
〔参考例19〕
高収縮繊維群として参考例1−1で得られたマルチフィラメントを用い、低収縮繊維群として比較参考例1−2のマルチフィラメントを用いて流体処理装置によりエアー圧5kg/cm2で処理して2個/インチの交絡を付与した後、仮撚温度180℃、仮撚数2000T/Mの仮撚を行い、芯鞘加工糸を得た。
この糸に300T/Mの撚を加えて、経緯使用で製織を行い、通常の加工工程により染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。該織物を構成する芯鞘加工糸の芯糸と鞘糸の糸長差は8%であった。
該ツイル織物の官能評価の結果、膨らみ感、ソフト感、張り、腰、きしみ感は全て良好であり、優れた風合を有するものであった。また該織物は深色性にも優れ、耐光堅牢性も良好であった。
【0075】
〔比較参考例20〕
高収縮繊維群として比較参考例2−1で得られたマルチフィラメントを用い、仮撚温度を200℃とする以外は参考例19と同様にして芯鞘加工糸を得た。
該加工糸を用いて参考例19と同様にしてツイル織物を作製した。該織物を構成する芯鞘加工糸の芯糸と鞘糸の糸長差は2%であった。該糸長差が2%であるため、すなわち高収縮繊維群として用いたマルチフィラメントの収縮率が小さいために織物としての風合が欠けたものであった。
【0076】
〔比較参考例21〕
高収縮繊維群として比較参考例16−1で得られたマルチフィラメントを用い、仮撚温度を200℃とする以外は参考例19と同様にして芯鞘加工糸を得た。該加工糸を用いて参考例19と同様してツイル織物を作製した。該織物を構成する芯鞘加工糸の芯糸と鞘糸の糸長差は7%であった。
該織物の風合は参考例19と同様に良好であったが、耐光堅牢性が1〜2級であり、非常に悪いものであった。
【0077】
〔実施例1〕
参考例Aで得られたポリエステルチップと、参考例aで得られたポリエステルチップをサイドバイサイド型の複合形態となるようにして紡糸を行い、ついで参考例1と同様にして延伸を行い、75デニール/24フィラメントの複合マルチフィラメントを得た。
該複合繊維に300T/Mの撚を加えて、経緯使用で製織を行い、通常の加工工程より染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。
得られた織物を構成する繊維は、その繊維を構成するポリエステルの収縮率差により、加工工程中きめ細かいスパイラル状の捲縮を発現し、織物としては適度な伸縮性を有しており、ウール織物と同等の膨らみ、張り、腰、反発感を有していた。さらに染色による深色性にも優れ、また耐光堅牢度も良好で実用に耐えられるものであった。
また、上記のサイドバイサイド型複合繊維を51mmに切断したステープルファイバーを用いて抄紙法で不織布を作製した。該不織布は加工工程中の熱処理によりきめの細かい捲縮が発現し、伸縮性に富んだものであった。さらに該不織布は染色による深色性に優れ、耐光堅牢度も良好であった。
【0078】
〔比較例1〕
実施例1において、参考例Aで得られたポリエステルチップに代えて、参考例bで得られたポリエステルチップを用いる以外は実施例1と同様にして複合マルチフィラメントを得た。ついで該複合マルチフィラメントを用いて実施例1と同様にしてツイル織物を作製し、官能評価を行った。
得られた織物を構成する繊維は、その繊維を構成するポリエステルの収縮率差が小さいため、きめの細かい捲縮の発現が少なく、織物としての伸縮性、膨らみ、張り、腰、反発感に欠けていた。
【0079】
〔比較例2〕
実施例1において、参考例Aで得られたポリエステルチップに代えて、参考例pで得られたポリエステルチップを用いる以外は実施例1と同様にして複合マルチフィラメントを得た。ついで該複合マルチフィラメントを用いて実施例1と同様にしてツイル織物を作製し、官能評価を行った。
得られた織物は伸縮性、風合に優れたものであったが、耐光堅牢度が1〜2級と低く、耐光性に非常に劣るものであった。
【0080】
〔実施例2〕
実施例1で得られた複合繊維を51mmに切断したステープルファイバーと、繊度が1デニール、カット長51mmのポリエチレンテレフタレートステープルファイバーとを用いて、50:50の重量比で混合紡績糸を作製した。この混合紡績糸を経緯使いで製織を行い、通常の加工工程により染色仕上げまでを施し、ツイル織物を作製した。
得られた織物は加工工程中の熱処理により、複合ステープルファイバーにきめの細かい捲縮が発現しており、織物として適度な伸縮性を有していた。また、ポリエチレンテレフタレートステープルファイバーが織物表面にループ、毛羽として位置することにより、ウール織物と同等の膨らみ、張り、腰、反発感をも有していた。さらに染色による深色性に優れ、耐光堅牢度も良好であった。
【0081】
産業上の利用可能性
本発明の繊維は、染色性、深色性に優れているのみならず、高収縮率、高い収縮応力特性をも有し、しかも耐光性、染色堅牢度に非常に優れており、かかる繊維単独使用のみならず、かかる繊維を一成分した混繊糸、芯鞘加工糸、混合紡績糸としても有用である。、また本発明の繊維を構成するポリエステルを一成分とした複合繊維はきめの細かい捲縮が発現するので、かかる複合繊維を一部用いることにより伸縮性に富んだ布帛が得られる。
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