JP3546127B2 - 高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼及びタービンロータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高圧部と低圧部とを一体化した蒸気タービンのロータに用いられる優れた高温強度を備えた高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼、該耐熱鋼により形成された高低圧一体型タービンロータ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高低圧一体型ロータとは、高圧部(中圧部を含む)と低圧部とが一体化したロータを称し、その特徴は高圧部には高いクリープ強度が、低圧部には引張強度と靱性というように1本のロータで全ての材料特性が要求される点である。図1にロータ直径とロータ温度の関係で整理した場合のロータ材の選定基準の例を示す。高圧ロータ用Cr−Mo−V鋼及び低圧ロータ用3.5Ni−Cr−Mo−V鋼の使用可能範囲をそれぞれ斜線で示す。また、低圧ロータ用2.5Ni−Cr−Mo−V鋼のそれは枠表示で示す。さらに、Cr−Mo−V鋼の改良材として開発された高低圧一体型ロータ用2.25Cr−Mo−V鋼(例えば、特公昭54−19370号公報)の使用可能範囲をメッシュで示す。図1のように2.25Cr−Mo−V鋼の高低圧一体型ロータ材の使用可能範囲は広く、従来の高圧ロータ材および低圧ロータ材のそれらを大部分内包している。
【0003】
この2.25Cr−Mo−V鋼を用いた高低圧一体型ロータの製造実績は、比較的最近のことであるが、従来の高低圧一体型ロータ材のこれまでの製造実績は以下のとおりである。当初は小型のものが多く、ロータ温度が480℃程度以下の場合には、クリープ強度は比較的低いが靱性が良好な2.5Ni−Cr−Mo−V鋼が使用され、480℃を越え550℃程度までの場合には、クリープ強度の優れたCr−Mo−V鋼が使用されていた。ただし、Cr−Mo−V鋼を使用する場合には、靱性確保のため通常の高圧ロータの場合よりオーステナイト化温度を下げたり、焼入れ冷却速度を早くしたりする処置がとられていた。その後、プラントの高温大型化に伴い、ロータの直径も大きくなる傾向にあり、Cr−Mo−V鋼のロータ中心部での靱性低下が問題となってきた。その対策として、これまで主に2.5Ni−Cr−Mo−V鋼で検討されていた要求性能の異なる高圧部と低圧部にそれぞれ最適な熱処理を施す傾斜熱処理法がCr−Mo−V鋼にも適用され、高圧部の高温強度を確保しながら低圧部の靱性改善がはかられるようになった。しかしながら、このような対策を講じたCr−Mo−V鋼傾斜熱処理ロータ材といえども、必要な強度を確保しながら、ロータ中心部での必要な靱性の確保は、ロータ直径に限界(1600mm程度まで)がありそれ以上の大型化は難しいのが現状であった。
【0004】
これに対して、図1にメッシュの使用可能範囲で示した2.25Cr−Mo−V鋼ロータ材は、高低圧一体型蒸気タービンの高温大型化に対処するために開発された新しいロータ材である。このロータ材は、最大径1950mmまでの製造実績を有し、十分に大型化に耐え得る熱処理特性を有し、中心部のFATT(Fracture Appearance Transition Temperature:破面遷移温度:Vノッチシャルピー衝撃試験片の脆性破面率が50%になる温度を指し、この温度が低いほど靱性が優れる、以下FATTと略称する)が20〜60℃と靱性に優れた材料である。また、このロータ材の通常の常温の0.2%耐力は70〜75kgf/mm2 級とすることもでき、十分大型化が可能となっている。
【0005】
しかし、これらいずれの材料でも538℃対応のCr−Mo−V鋼ロータ材のクリープ強度を超える十分な高温クリープ強さを得ようとした場合、高靱性を要求される低圧部の軸芯においては、破面遷移温度(FATT)を室温以下にすることは達成できず、しかも、566℃の高温クリープ強さの目標値(例えば、566℃/105 時間におけるクリープ破断応力σ=14kgf/mm2 )そのものを満足することが達成できていない。一方、従来より566℃対応の高中圧ロータ材として広く用いられている12%Cr系耐熱鋼(例えば、特公昭40−4137号公報)は、高温クリープ強さには優れているものの、靱性が不足しているため、高圧ロータあるいは中圧ロータ用材料としてのみ使用されてきた。したがって12%Cr系耐熱鋼では、例えば高低圧一体型ロータ用材料として用いた場合、高圧部に必要とされる高温クリープ強さには優れているものの、低圧部において充分な靱性が得られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記のような従来技術の実状に鑑み、12%Cr系耐熱鋼において、優れた高温クリープ強さを維持すると同時に、優れた靱性をも兼ね備えた12%Cr系耐熱鋼を提供し、さらに、優れた高温クリープ強さと優れた靱性とを兼ね備えた高低圧一体型タービンロータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は高温及び常温でも強度を有し、かつ常温でも優れた靱性を有する化学組成の高低圧一体型蒸気タービン用ロータ材を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、12%Cr系耐熱鋼において、高温クリープ強さを低下させることなく靱性を大幅に改善するために、従来の12%Cr系耐熱鋼よりもNi含有量を増加させ、Si、Mn及びその他の不可避的不純物の含有量を低減させることにより、マルテンサイト組織のちみつ化が可能で、高温強度を確保しながら靱性が改善できることを見出し本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)の構成を有するものである。
(1)重量%でC:0.05〜0.2%、Ni:2.5%以下、Cr:9.5〜10.5%、Mo:0.3〜2%、V:0.1〜0.3%、N:0.01〜0.08%及びNb:0.02〜0.15%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、該不可避的不純物のうちのSi、Mn、P及びSの含有量が重量%でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以下、P:0.015%以下、S:0.008%以下であり、0.2%耐力が76.8kgf/mm 2 以上であることを特徴とする高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼。
【0009】
(2)前記(1)に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊する工程と、該工程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を1000〜1150℃に加熱して焼入れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素体に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程とを具備することを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造方法。
【0010】
(3)前記(1)に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊する工程と、該工程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を高中圧部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上でかつ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に加熱して焼入れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素体に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程とを具備することを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造方法。
【0011】
(4)前記(1)に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊し、得られた鋼塊を所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形し、該成形物を1000〜1150℃に均一加熱するか又は高中圧部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上でかつ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に傾斜加熱して焼入れした後、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施すことによって得られるM23C6 型炭化物および金属間化合物を主として結晶粒界及びマルテンサイト境界に析出させ、かつMX型炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させた耐熱鋼より形成されてなることを特徴とする高低圧一体型タービンロータ。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る高強度耐熱鋼の化学成分組成及びその限定理由について説明する。なお、以下の説明において、含有量を表す%は、重量比とする。
【0013】
C:Cは、焼入れ性を確保し、マルテンサイト変態を促進させるとももに、合金中のFe、Cr、Mo、V、Wなどと結合してM23C6 型炭化物を結晶粒界、マルテンサイトラス粒界上に形成するとともにNb、Vなどと結合してMX型炭化窒化物をマルテンサイトラス内に形成する。これより、両者の炭化物の析出強化により室温引張強さ及び高温クリープ強さを向上させる。しかし、C含有量が0.05%未満では充分な室温引張強さ、高温クリープ強さが得られず、また、0.2%を超えて含有させると、低温靱性が劣化し、さらに、炭化物の粗大化が起こりやすくなり高温クリープ強さも劣化するので、その含有量を0.05〜0.2%に限定する。望ましくは、0.10〜0.15%の範囲である。
【0014】
Ni:Niは本発明鋼において、靱性を向上させるが、高温クリープ強さを低下させる作用を有している。しかし、その含有量が0.2%未満では高低圧一体型ロータに必要な著しい靱性の向上が認めらられず、また、2.5%を超えて含有させると従来材と同等の高温クリープ強さを維持することをが難しくなるので、その含有量を2.5%以下に限定する。望ましくは、0.2〜1%の範囲である。
【0015】
Cr:Crは、本発明鋼の主要構成成分であり、耐酸化性及び高温耐食性を高め、さらに、合金中に固溶して、合金の強度を向上させるが、その含有量が9.5%未満では、充分な耐酸化性や強度を得ることができず、10.5%を超えて含有させると有害なデルタフェライトを生成し、低温における延性、靱性及び高温におけるクリープ強さを低下させるので、その含有量を9.5〜10.5%に限定する。
【0016】
Mo:Moは、合金中に固溶し、焼入性を増大し低温及び高温における強度を高めるとともに、微細炭化物を形成し、高温クリープ強さを向上させる。また、焼戻し脆化の抑制に寄与する元素である。その含有量が0.3%未満ではその作用効果が少なく、2%を超えて含有させると逆にクリープ強さが低下するので、その含有量を0.3〜2%に限定する。望ましくは、0.6〜1.4%の範囲である。
【0017】
V:Vは、微細炭化物、炭窒化物をマルテンサイトラス内に形成、高温クリープ強さを向上させるが、その含有量が0.1%未満ではその作用効果が不十分であり、下限を0.1%とする。また、0.3%を超えて含有させるとデルタフェライトを生成し、高温クリープ強さが低下するとともに、靱性が低下するのでその上限を0.3%とする。望ましくは、0.15〜0.25%の範囲である。
【0018】
N:Nは、Nb、Vなどと結合して窒化物を形成し、高温クリープ強さを向上させるが、その含有量が0.01%未満では充分な強度及び高温クリープ強さを得ることができず、0.08%を超えて含有させると鋼塊の製造が困難となり、かつ熱間加工性が悪くなるので、その含有量を0.01〜0.08%に限定する。望ましくは、0.02〜0.04%の範囲である。
【0019】
Nb:Nbは、微細炭化物、炭窒化物を形成し、高温クリープ強さを向上させるとともに、結晶粒の微細化を促進し、低温靱性を向上させるのに必要な元素である。その作用効果を得るためには,少なくとも0.02%含有させる必要がある。しかし、0.15%を超えて含有させると、粗大な炭化物および炭窒化物が析出し、靱性を低下させるため、その上限を0.15%とする。望ましくは、0.03〜0.07%の範囲である。
【0020】
不可避的不純物であるSi、Mn、P及びSについては以下のとおりである。Siは、脱酸材として通常使用されるが、Si含有量が高いと、鋼塊内部の偏析が増加し、また、焼戻し脆化感受性が極めて大となり切欠靱性が損なわれるため、極力低減することが望ましい。現在、真空カーボン脱酸性などの適用により、Si含有量を低減させているが、その許容含有量を工業的に可能な精錬技術の限界を考慮して0.1%以下に制限する。
【0021】
Mnは、溶解時の脱酸、脱酸剤として一般的に使用されている。しかし、MnはSと結合して非金属介在物を形成し、靱性を低下させ、また、Siと同様に焼戻し脆化感受性を増大させる作用がある。現在、炉外精錬などの精錬技術によりS量の低減が容易となり、Mnを合金成分として添加する必要がなくなってきている。本発明では、Mnを不可避的不純物とし、その許容含有量を精錬技術の限界を考慮して0.3%以下に制限する。
【0022】
Pは、焼戻し脆化感受性を増大させる元素であり、経年劣化させ減少させ、信頼性を向上させるためには、極力減少させることが望ましく、その許容含有量を精錬技術の限界を考慮して0.015%以下とする。
Sは、大型鋼塊においてV偏析及び逆V偏析の生成傾向を助長し、また、Mn、Nb、V、Feなどと硫化物を形成し、靱性を劣化させるので、とりべ精錬などにより極力低減することが望ましく、その許容含有量を現状の精錬技術の限界を考慮して0.008%以下とする。
【0023】
また、その他の不可避的不純物としてAs、Sn、Sbが挙げられる。これらの不純物は、Pと同様に焼戻し脆化感受性を増大させる元素であり、極力低減することが望ましい。しかし、これらの不純物元素は、原材料に付随して不可避的に混入するものであり、精錬によって除去することは困難である。したがって、原材料の厳選によるところが大きく、焼戻し脆化感受性低減の見地からAs:0.008%以下、Sn:0.01%以下、Sb:0.005%以下とすることが望ましい。
【0024】
前記組成の鋼種を用いて、本発明の製造方法によりタービンロータを製造すれば、鋼塊は、焼入れ時の加熱により組織がオーステナイト化され、焼入れでマルテンサイト変態して十分な強度が得られ、さらに、焼戻しによって靱性が向上する。
【0025】
本発明に係る高強度耐熱鋼は、均一な焼戻しマルテンサイト組織を有しており、高低圧一体型ロータの熱処理としては均一熱処理を標準とする。すなわち、焼入れ時の加熱温度を適正範囲とすることにより、高中圧部(高圧部と中圧部)と低圧部とで同一の加熱温度としても、全体として均一な、高中圧部に必要な高い高温クリープ強度と、低圧部に必要な優れた靱性を有する材料が得られる。
なお、高低圧一体型ロータの熱処理法として、所望により傾斜熱処理を採用することも可能である。傾斜熱処理とは、例えば高中圧部と低圧部との間に断熱性仕切板を設け、高中圧部と低圧部の加熱温度及び冷却速度を変えることにより、高中圧部と低圧部とにそれぞれ異なった材料特性が付与できる(強度、靱性、組織等が軸方向に沿って緩やかに変化する)方法である。
【0026】
次に、高低圧一体型タービンロータを製造する際の焼入れ及び焼戻し時の温度について説明する。
焼入れ加熱温度(オーステナイト化温度)は均一熱処理の場合は1000〜1150℃とする。この温度が1000℃未満では、十分な高温クリープ強さが得られず、また1150℃を超えると、高温での切欠弱化、低温靱性の低下などが認められることから上記範囲とする。
【0027】
高中圧部と低圧部の加熱温度に差を設けて傾斜熱処理とする場合には、高中圧部のオーステナイト化温度は均一熱処理と同じ1000〜1150℃でよい。低圧部では高い靱性が要求される低圧部のオーステナイト化温度は高中圧部よりも低い方が望ましく、950℃以上でかつ高中圧部の加熱温度よりも30〜80℃低い温度とする。950℃未満では、フェライト相が生成しやすく、低温の強度が十分に得られない。なお、低圧部のオーステナイト化温度を、高中圧部のオーステナイト化温度よりも30〜80℃低い温度とするのは、傾斜熱処理の作用効果を得るには30℃以上の温度差を付ける必要があり、また、その温度差が80℃を超えると製造が難しいためである。
【0028】
焼戻し温度については、530℃未満では十分な焼戻し効果が得られず、したがって、良好な靱性が得られない。また、700℃を超えた焼戻し温度では、所望の強度が得られないため、焼戻し温度は530〜700℃と限定する。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例において高圧部とは高圧部、中圧部及び低圧部に分けた場合の高中圧部に相当する。
(実施例1)
供試材として用いた13種類の耐熱鋼の化学組成を表1に示す。このうちNo.1からNo.9は本発明に係る耐熱鋼の化学組成範囲内の鋼であり、No.10〜No.13は本発明に係る耐熱鋼の化学組成範囲外の比較材である。これらの比較材はいずれもMnの添加量が本発明の範囲外であるが、さらに、No.11はSiの添加量が、No.12はMoの添加量が本発明の範囲に入らない鋼である。No.12は例えば特開昭62−103345号公報に開示されている鋼で、高中圧蒸気タービン用ロータ材として使用されているものであり、No.11は従来材の12%Cr鋼成分である。
【0030】
これらの耐熱鋼を実験室的規模の真空溶解炉にて溶解し、50kg鋼塊を溶製した。これらの鋼塊を実機のロータ材を想定して均一加熱と鍛造(据込1/2.8U、鍛伸3.7Sの鍛練)を行って、小型鍛造材を製作した。その後、この鍛造材を結晶粒度調整を目的に予備熱処理(例えば、1050℃空冷及び650℃空冷)を施した。この鍛造材を、高圧部直径1200mmの大型高低圧一体型ロータの中心部の焼入冷却速度をシミュレートした条件で熱処理した。すなわち、1070℃で15時間加熱して完全にオーステナイト化後、ロータの高圧部中心部の焼入冷却速度:約100℃/hの冷却速度で焼入れした後、550℃で15時間の1次焼戻しと660℃〜700℃で23時間の2次焼戻しを行った。
【0031】
次に、低圧部直径2000mmの大型高低圧一体型ロータの中心部の焼入冷却速度シミュレートした熱処理を行った。すなわち、1070℃で15時間加熱後、ロータの低圧部中心部の焼入冷却速度:約40℃/hの冷却速度で焼入れした後、前述の高圧部と同様に550℃で15時間の1次焼戻しと660〜700℃で23時間の2次焼戻しを行った。
なお、焼戻し処理の条件は、高圧部及び低圧部ともにロータ材の設計に必要な強度、すなわち室温における0.2%耐力が70kg/mm2 以上となるように調整されたものである。
【0032】
本発明鋼No.1〜No.9及び比較鋼No.10〜No.13について室温(20℃)において引張試験及び衝撃試験を行った。シャルピー衝撃試験結果より衝撃値及び50%FATTを求め、引張性質とともに表2に示す。また、本発明鋼No.1〜No.9及び比較鋼No.10〜No.13を600℃及び650℃の各温度でクリープ破断試験を実施、その結果から565℃の105 時間におけるクリープ破断強度を外挿により推定した。結果を表2に合わせて示す。
【0033】
表2から明らかなように、いずれの本発明鋼の場合も室温における0.2%耐力は76.8kg/mm2 以上の強度レベルとなっており、高低圧一体型蒸気タービンロータ材として十分な強度を有している。また、伸び、絞りも一般のロータ材で要求される伸び16%以上、絞り45%以上を十分に満足している。一方、衝撃特性であるが、高低圧一体型蒸気タービンロータ材の低圧部50%FATTの目標値は+20℃であるが、本発明鋼であるNo.1〜No.9はいずれの場合も目標値以下であり、充分な靱性を有していることがわかる。これに対して、比較鋼であるNo.10〜No.13の50%FATTは25〜45℃と高く目標値を満足せず、高低圧一体型ロータ材として靱性が不十分であることがわかる。
【0034】
さらに、表2から本発明鋼No.1〜No.9の565℃×105 hrクリープ破断強度は、いずれも14kgf/mm2 以上あり、クリープ破断強度が改善されており、格段にクリープ破断寿命が長いことがわかる。なお、比較鋼No.10及びNo.12は、上述の通り靱性が目標値を満足しないものの、565℃×105 hのクリープ破断強度は14kgf/mm2 以上あり、本発明鋼のそれらと同等とみなすことができる。これらの材料試験結果より明らかなように、本発明鋼は、高温クリープ強さ、靱性ともに優れていた。これに対して、比較鋼は高温クリープ強さと靱性の両方を満足することはできなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の高強度耐熱鋼は高温クリープ強さに優れ、靱性の著しく良好な高強度耐熱鋼であり、かかる特性が要求される高圧部と低圧部を一体化したタービンロータ軸材などの耐熱材料として適用が可能である。
また、焼戻し脆化感受性に影響を及ぼす不純物元素含有量を低減させることによって、より一層の信頼性が得られるようになった。なお、従来鋼よりも、優れた高温クリープ強さが得られることから、本鋼種が高低圧一体型のロータ軸材のみならず、比較的靱性を要求されない中圧、高圧、超高圧用のロータ軸材料などに適用の範囲が広がる効果もある。また、本発明の高強度耐熱鋼はタービンロータのみならずボルト等のタービン部材等にも適用可能である。
【0038】
本発明の方法によれば、前記高強度耐熱鋼からなる高低圧一体型タービンロータを容易に製造することができる。さらに、この方法における熱処理方法は、均一熱処理を標準としているが、所望により傾斜熱処理を採用することも可能であり、その場合には、焼入れ温度を高、中圧部と低圧部とで変化させることにより、部位に応じて、適した機械的特性(高温クリープ強さ、靱性)が得られる効果がある。
【0039】
本発明に係る高低圧一体型ロータは高温クリープ強さに優れ、さらに靱性に著しく良好であるため、タービンの使用蒸気温度を向上させて(例えば566℃対応以上)の熱効率の向上やタービンロータの大容量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ロータ直径とロータ温度の関係で整理した場合のロータ材の選定基準の例を示す図。
Claims (4)
- 重量%でC:0.05〜0.2%、Ni:2.5%以下、Cr:9.5〜10.5%、Mo:0.3〜2%、V:0.1〜0.3%、N:0.01〜0.08%及びNb:0.02〜0.15%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、該不可避的不純物のうちのSi、Mn、P及びSの含有量が重量%でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以下、P:0.015%以下、S:0.008%以下であり、0.2%耐力が76.8kgf/mm 2 以上であることを特徴とする高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼。
- 請求項1に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊する工程と、該工程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を1000〜1150℃に加熱して焼入れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素体に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程とを具備することを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造方法。
- 請求項1に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊する工程と、該工程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を高中圧部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上でかつ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に加熱して焼入れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素体に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程とを具備することを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造方法。
- 請求項1に記載の高強度耐熱鋼となる組成の原材料を溶解、精錬、造塊し、得られた鋼塊を所望形状のタービンロータ素体に鍛造成形し、該成形物を1000〜1150℃に均一加熱するか又は高中圧部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上でかつ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に傾斜加熱して焼入れした後、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施すことによって得られるM23C6 型炭化物および金属間化合物を主として結晶粒界及びマルテンサイト境界に析出させ、かつMX型炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させた耐熱鋼より形成されてなることを特徴とする高低圧一体型タービンロータ。
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