本発明者らは、PとCr、Mo、WおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素との組み合わせによって粉末の耐食性を大きく高めることができることを新たに見出した。また、本発明者らは、オージェ電子分光法による深さ方向の濃度プロファイルにおいて、Pが粉末の表面近傍に濃縮すると粉末の耐食性を大きく高めることができることを新たに見出した。これらの知見から、本発明者らは、同じ強磁性元素の量であっても高い耐食性を粉末に付与できること、および、同一の耐食性であっても高い飽和磁束密度を粉末に付与できることを導き出し、本発明を完成させた。
以下、本発明の一実施形態である第1の実施形態に係る合金粒子について説明する。
まず、本実施形態に係る合金粒子の化学組成について説明する。本実施形態に係る合金粒子は、FeとPとSiとを含有し、BとCのいずれか1種以上を含有し、CrとMoとWとZrのいずれか1種以上を含有し、Coを任意で含む。以下の説明は、上記のような元素の含有条件を前提として成立するものである。
以下の記載において、特に断りのない限り、「質量部」は、Fe、Co、P、Si、B、C、Cr、Mo、WおよびZrの合計含有量を100質量部としたときの質量部を意味する。同様に、特に断りのない限り、「モル部」は、Fe、Co、P、Si、B、C、Cr、Mo、WおよびZrの合計含有量を100モル部としたときのモル部を意味する。
FeとCoとの合計:90.6質量部以上95.0質量部以下、
Co:0質量部以上30.0質量部以下。
Fe(鉄)およびCo(コバルト)は、強磁性を有し、飽和磁束密度を高める。そのため、充分な飽和磁束密度を得るために、FeとCoの合計量が90.6質量部以上であることが必要である。より高い飽和磁束密度を得る観点から、FeとCoとの合計が90.7質量部以上であると好ましく、91.0質量部以上であるとより好ましい。一方、充分な非晶質相の熱安定性を得るために、FeとCoとの合計が95.0質量部以下であることが必要である。より高い非晶質相の熱安定性を得る観点から、FeとCoとの合計が94.6質量部以下であると好ましく、93.9質量部以下であるとより好ましい。特に、Feは、コストを上げることなく高い飽和磁束密度を得るために必須の元素である。そのため、Feの量が60.6質量部以上であることが必要である。Coは、高価であるため、0質量部であってもよい。すなわち、合金粒子がCoを含まなくてもよい。Coは、Feに比べて単独では飽和磁束密度が小さいが、Feとの相互作用によって大きく飽和磁束密度を高める。そのため、飽和磁束密度を高める観点から、Coの量が、1.0質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であることがより好ましい。一方、Coの量が多くなるにつれCo含有量当たりの飽和磁束密度の増加量が低下する。そのため、Coの量が30.0質量部以下であることが必要である。特に、Coの量が、12.0質量部以下であると好ましく、10.0質量部以下であるとより好ましい。
P:1.0質量部以上6.5質量部以下。
P(リン)は、CrとMoとWとZrとからなる群から選択される少なくとも1つの元素との組み合わせで耐食性を大きく高めるために必須の元素である。充分な耐食性を得るために、Pの量が1.3質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であるとより好ましい。一方、充分な飽和磁束密度を得るために、Pの量が6.5質量部以下であることが必要である。より高い飽和磁束密度を得る観点から、Pの量が5.0質量部以下であると好ましく、4.2質量部以下であるとより好ましい。凝固ステップや乾燥ステップや熱処理ステップで上記合金粒子の表面のBが酸化されて消失することでPが表面近傍に濃縮し、合金粒子が充分な耐食性を得る。
Si:0質量部より多く4.5質量部以下。
Si(ケイ素)は、非晶質相の熱安定性を高めるために必須の元素である。より高い非晶質相の熱安定性を得る観点からは、Siの量は、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましい。一方、充分な飽和磁束密度を得るために、Siの量が4.5質量部以下であることが必要である。より高い飽和磁束密度を得る観点およびより高い非晶質相の熱安定性を得る観点から、Siの量が4.0質量部以下であると好ましい。Siの量は、0.1質量部以上であってもよい。
CrとMoとWとZrとの合計:0.6質量部以上4.2質量部以下。
Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Zr(ジルコニウム)は、Pとの組み合わせで耐食性を大きく高める。そのため、Cr、Mo、WおよびZrのうち、少なくとも1つの元素は必須である。残りの元素の量は、0質量部であってもよい。充分な耐食性を得るために、CrとMoとWとZrとの合計は、0.6質量部以上であることが必要である。より高い耐食性を得る観点から、CrとMoとWとZrとの合計が、1.0質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましい。
一方、充分な飽和磁束密度を得るために、CrとMoとWとZrとの合計が、4.2質量部以下であることが必要である。より高い飽和磁束密度を得る観点から、CrとMoとWとZrとの合計が、3.5質量部以下であると好ましく、2.5質量部以下であるとより好ましい。
B:0質量部以上5.0質量部以下、
C:0質量部以上3.0質量部以下、
BとCとの合計:1.5質量部以上7.5質量部以下。
B(ホウ素)およびC(炭素)は、非晶質相の熱安定性を高める。そのため、BおよびCのうち、少なくとも1つの元素は必須である。非晶質相の熱安定性を充分に高めるために、BとCとの合計は、1.5質量部以上であることが必要である。より高い非晶質相の熱安定性を得る観点からは、BとCとの合計は、2.5質量部以上であることが好ましく、3.0質量部以上であることがより好ましい。また、他の各元素の量の下限から、BとCとの合計は、7.5質量部以下であることが必要である。より高い飽和磁束密度を得る観点から、BとCとの合計が、6.1質量部以下であると好ましく、5.0質量部以下であるとより好ましい。
なお、Bの量の下限は、0質量部である。すなわち、合金粒子がBを含まなくてもよい。より高い非晶質相の熱安定性を得る観点からは、Bの量は、0.5質量部以上であることが好ましく、2.0質量部以上であることがより好ましい。より高い飽和磁束密度を得る観点から、Bの量が、4.0質量部以下であると好ましく、3.9質量部以下であるとより好ましい。
同様に、Cの量の下限は、0質量部である。すなわち、合金粒子がCを含まなくてもよい。より高い非晶質相の熱安定性を得る観点からは、Cの量は、0.5質量部以上、2.5質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上、2.0質量部以下であることがより好ましい。
本実施形態に係る合金粒子は、FeとCoとPとSiとCrとMoとWとZrとBとC以外の元素を不純物として含んでもよい。飽和磁束密度を高めるため、不純物の量は、1.0質量部以下であると好ましく、0.50質量部以下であるとより好ましい。さらに、不純物の量は、1.0モル部以下であると好ましく、0.50モル部以下であるとより好ましい。例えば、不純物として、Ni、Nb、N、O、Al、S、Ca、Ti、V、Cu、Mn、Zn、As、Ag、Sn、Sb、Hf、Ta、Bi、希土類元素(REM)が挙げられる。REMは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。特に、ヒステリシス損を減らし、非晶質相の熱安定性を高めるために、Ca、Ti、Alは、それぞれ0.1質量部以下であると好ましい。同様に、非晶質相の熱安定性を高める観点から、Cuの量は、0.04質量部以下または0.04モル部以下であると好ましく、0.02質量部以下または0.02モル部以下であるとより好ましい。飽和磁束密度を高める観点から、Oの量は0.1質量部以下であると好ましく、0.05質量部以下であるとより好ましい。不純物の量は、0質量部であってもよい。すなわち、合金粒子が不純物を含まなくてもよい。
各元素の量の測定には、上記有効桁の精度が得られる方法を使用する。具体的には、後述の実施例に記載の測定方法および同等の測定方法を定量に適用する。
次に、本実施形態に係る合金粒子の内部組織について説明する。
非晶質相は、合金粒子の体積抵抗率および透磁率を高め、磁気異方性および保磁力を低下させる。そのため、合金粒子が非晶質相を含むことが必要である。この非晶質相の平均の体積割合は、70%以上であることが必要であり、80%以上であると好ましい。非晶質相の平均の体積割合は、100%であってもよい。すなわち、合金粒子内の組織は、1以上の非晶質相からなる組織、もしくは、非晶質相と結晶相との複相組織である。合金粒子が結晶相を含む場合には、保磁力を低下させるために、シェラーの式によって得られる結晶相の各相の平均結晶粒径が30nm以下であると好ましく、25nm以下であるとより好ましい。また、結晶相は、合金相と化合物相とに分類される。合金相は、例えば、体心立方構造のFeの相やFe-Siの相であり、飽和磁束密度を高めるため、合金相の平均の体積割合は、10%以上であってもよい。また、保磁力を低下させるために、化合物相の平均の体積割合は、10%以下であると好ましく、2%以下であると好ましく、1%以下であると特に好ましい。化合物相の平均の体積割合は、0%であってもよい。化合物相としては、例えば、Fe3P、Fe3B、Fe3C、Fe2B、酸化物といった化合物およびその化合物固溶体の相が挙げられる。各相の体積割合は、X線回折法(XRD)で得られたデータのピーク解析により決定される。このピーク解析は、後述の実施例に記載された方法を用いる。ここで、XRDの試料として、破砕等することなく合金粒子をそのまま用いる。また、合金粒子が非晶質相を含むことは、後述の実施例に記載された方法にて非晶質相の量が算出できることとして定義される。
本実施形態に係る合金粒子の表面組織について説明する。
オージェ電子分光法による深さ方向の濃度プロファイルにおいて、Pが粉末の表面近傍に濃縮すると粉末の耐食性を大きく高めることができる。具体的には、オージェ電子分光法による合金粒子の表面の分析とアルゴンイオンの照射による表面の除去とをこの順番で繰り返して合金粒子の深さ方向の成分の濃度プロファイルを決定した場合に、成分の濃度プロファイルのうち、Pの濃度プロファイルが、合金粒子の表面からの深さ0.1nmから10.0nmまでの範囲にピークを有することが好ましい。このようなプロファイルを持つことで、粉末の表面で不働態被膜の形成が促進され耐食性を高めることができる。
特に、成分の濃度プロファイルのうち、合金粒子の表面からの深さ0nm(表面の除去なし)から10.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第1の平均酸素濃度C1で、合金粒子の表面からの深さ10.0nmから50.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第2の平均酸素濃度C2を除して得られるC2/C1の値が0.090以下であると、不働態被膜である酸化物の析出が促進され、耐食性を高める上で好ましい。このC2/C1の値は、0.010以下であるとより好ましく、0.001以下であると特に好ましい。一方、C2/C1の値は、例えば、0以上である。
なお、濃度プロファイルは、Fe、Co、P、Si、B、C、Cr、Mo、W、ZrおよびOの合計含有量を100質量部としたときの各成分の含有量(質量部)として測定される。
また、合金粒子の深さ方向の成分の濃度プロファイルは、例えば、深さ0nm以上、11nm未満の範囲は1.1nm間隔で、深さ11nm以上、100nm以下の範囲は2.2nm間隔で測定される。
オージェ電子分光法(AES)を用いて測定する場合、分光スペクトルの取得においては深さ0nmの位置における測定値のばらつきが大きい。このため、深さ0nmの位置のみ測定を2回行い、その平均値を求めることが好ましい。さらにSN比を向上させるために測定回数を増やして平均値を求めてもよい。
表面組織が上述の特徴点を有すると、上記群に含まれる元素が健全な不働態被膜を形成し、耐食性が著しく向上する。
ここで、オージェ電子分光法で測定する合金粒子は、10個であり、これら10個の合金粒子の濃度プロファイルを平均して用いる。
さらに、第1の実施形態のより好ましい実施形態について説明する。
本実施形態に係る合金粒子のサイズおよび形状について説明する。
合金粒子のサイズは、任意である。コイル部品に適用する周波数帯におけるエネルギー効率および磁心の実効透磁率を高めるために、合金粒子のD50は、1μm以上50μm以下であると好ましく、20μm以上40μm以下であるとより好ましい。特に、高い周波数でのエネルギー効率を重視する場合および合金粒子の充填率を重視する場合には、合金粒子のD50は、1μm以上10μm以下であると好ましく、1μm以上6μm以下であるとより好ましい。また、磁心の成形を容易にしたりコイル部品の絶縁性を確保したりするために、合金粒子のD90は、100μm以下であると好ましく、80μm以下であるとより好ましく、60μm以下であると特に好ましい。合金粒子のD90は、1μm以上であってもよい。ここで、D50およびD90は、それぞれ体積分布の粒子径分布において小さい粒子径からの頻度の累積が50%および90%になる粒子径を意味する。
同様に、合金粒子の形状は、任意である。例えば、形状磁気異方性を積極的に利用する場合は、アスペクト比が、0.10以上0.70以下であってもよい。一方で、異方性を考慮しなくてもコイル部品の透磁率を高めることができるように、アスペクト比が、0.70以上1.0以下であってもよい。合金粒子の充填率を重視する場合には、アスペクト比が、0.70以上0.95以下であると好ましく、0.75以上0.90以下であるとより好ましい。ここで、アスペクト比は、合金粒子の二次元投影像における長軸長に対する短軸長の割合であり、少なくとも10個以上の合金粒子で得られた値を平均して求められる。
合金粒子の表面には、不働態被膜以外に必要に応じて別途被膜が形成されていてもよい。合金粒子間の絶縁性を高めるために、被膜が酸化物や窒化物であってもよい。被膜は、リン酸塩またはSiを含む酸化物が好適である。被膜の形成方法は限定されないが、高い絶縁性を得るためにゾルゲル法やメカノケミカル反応法が好ましい。
本実施形態に係る合金粒子の内部応力について説明する。
保磁力を小さくするために、合金粒子の内部応力は、小さいことが望ましいが、内部応力の定量は困難である。そこで、内部応力が保磁力へ与える影響を考慮して、合金粒子の保磁力が、1000A/m以下であると好ましく、700A/m以下であるとより好ましく、500A/m以下であるとさらに好ましい。合金粒子の保磁力は、0.0A/m以上であってもよく、0.1A/m以上であってもよい。
以下、本発明の一実施形態に係る磁心について説明する。
本実施形態に係る磁心は、上記実施形態に係る合金粒子を含む。安定的な接合のために、磁心が樹脂を含んでもよい。また、樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。さらに、磁心が上記実施形態の合金粒子以外の磁性材料を含んでもよく、酸化物といった非磁性材料を含んでもよい。
以下、本発明の一実施形態に係るコイル部品について説明する。
本実施形態に係るコイル部品は、上記実施形態に係る磁心とコイルとを含む。コイルは、磁心の外周に巻きまわされていてもよく、磁心に内包されていてもよい。コイル部品としては、例えば、インダクタ、リアクトル、これらを含む部品(例えば、DC-DCコンバータ)等が挙げられる。
図1は、本発明のコイル部品の一実施形態としてのインダクタの一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すインダクタにおいては、矩形形状に形成された磁心14の表面略中央部に保護層15が形成されているとともに、保護層15を挟むような形態で磁心14の表面両端部に一対の外部電極16aおよび16bが形成されている。
図2は、図1に示すインダクタの内部構造を示す斜視図である。図2では、説明の都合上、保護層15、外部電極16aおよび外部電極16bを省略している。
磁心14は、例えば、本発明の合金粒子を主成分として含有し、エポキシ樹脂等の樹脂材料を含有した複合材料で形成されている。磁心14には、コイル17が埋設されている。
なお、複合材料中の合金粒子の含有量は、特に限定されるものではないが、体積比率で60体積%以上が好ましい。合金粒子の含有量が60体積%未満であると、合金粒子の含有量が過少になることで透磁率および磁束飽和密度が低下して磁気特性が低下を招くおそれがある。また、合金粒子の含有量の上限は、樹脂材料が、所望の作用効果を奏する程度に含有されていればよいことから、99体積%以下が好ましい。
コイル17は、例えば、平角線がコイル状に巻回された円筒形状とされている。コイル17の端部17aおよび17bは、外部電極16aおよび16bとそれぞれ電気的に接続可能となるように磁心14の端面に露出している。コイル17は、例えば、銅等からなる平角形状のワイヤ導線がポリエステル樹脂またはポリアミドイミド樹脂等の絶縁性樹脂で被覆され、帯状に形成されるとともに空芯を有するようにコイル状に巻回されている。
図1に示すインダクタは、例えば、以下の方法により作製することができる。
まず、本発明の合金粒子と樹脂材料とを混錬し、分散させて複合材料を作製する。次いで、コイル17が複合材料で封止されるようにコイル17を複合材料中に埋め込む。そして、例えば、圧縮成形法を使用して成形加工を施し、コイル17が埋設された成形体を得る。得られた成形体を成形金型から取り出した後、熱処理を行い、表面研磨し、コイル17の端部17aおよび17bが端面に露出した磁心14を得る。
次に、外部電極16aおよび16bの形成部位以外の磁心14の表面に絶縁性樹脂を塗布し、硬化させて保護層15を形成する。
その後、磁心14の両端部に導電性材料を主成分とした外部電極16aおよび16bを形成する。以上により、インダクタが作製される。
外部電極16aおよび16bの形成方法は特に限定されるものでなく、例えば塗布法、めっき法、薄膜形成方法等、任意の方法で形成することが可能である。
図1に示すインダクタは、コイル17が磁心14に埋設されるとともに、磁心14が上述した合金粒子を主成分として含有しているので、高い飽和磁束密度と低い磁気損失を有し、強磁性でヒステリシス特性が小さい良好な軟磁気特性を有する高純度で高品質のコイル部品を高効率で得ることができる。
上記の実施形態では、本発明の合金粒子を使用したデバイスとしてインダクタ等のコイル部品を例示したが、本発明の合金粒子は、高い飽和磁束密度と低い磁気損失を有することから、モータに装備されるステータコアまたはロータコアに応用することも可能である。モータは、通常、複数の電機子歯が同一円周上に等間隔に設けられたステータコアと、上記電機子歯に巻回されたコイルと、上記ステータコアの内部に回動自在に配されたロータコアとを備えている。上述のとおり、本発明の合金粒子は、高い飽和磁束密度と低い磁気損失を有することから、ステータコアおよびロータコアのうちの少なくとも一方、好ましくは双方が、本発明の合金粒子を主成分として含有することにより、電力損失の低い高品質のモータを得ることが可能となる。
以下、本発明の一実施形態に係る電子機器について説明する。
本実施形態に係る電子機器は、上記実施形態に係るコイル部品を含む。電子機器としては、例えば、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータ、サーバー機器、通信機器等が挙げられる。また、電子機器を含むモビリティとして、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、二輪車、航空機、鉄道等が挙げられる。
以下、本発明の一実施形態に係る合金粒子の製造方法について説明する。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、溶解ステップと、凝固ステップとを含む。
溶解ステップでは、原材料を加熱して溶解し、溶湯を調製する。溶湯の化学組成は、所定の化学組成を満たすように、複数の原材料を選定して配合したり、溶湯を精錬したりすることによって制御できる。また、化学組成の適中が容易なように、あらかじめ溶解して凝固させて作製した母合金またはその粉砕物を原材料として使用してもよい。また、互いに異なる化学組成を有する溶湯を混合して目的の溶湯を調製してもよい。原材料の例として、純鉄、銑鉄、鉄系のスクラップ、フェロアロイ(フェロボロン、フェロフォスフォラス、フェロシリコン、フェロクロム)、黒鉛、リン単体、金属クロムが挙げられる。また、特に、溶湯の化学組成は、第1の実施形態に記載の化学組成であってもよい。この化学組成の溶湯は、特に水でアトマイズした後の合金粒子の酸化を著しく低減するのに有効である。加熱方法は、間接抵抗加熱であっても、誘導加熱であっても、アーク加熱でもよい。
均一な化学組成を有し、非晶質相を含む合金粒子を得るため、溶湯の温度は、液相線温度よりも高い温度であることが必要である。また、凝固ステップでの冷却効率を高め、安定的に非晶質相を生成させるため、溶湯の温度は、液相線温度に500℃を加えた温度よりも低いことが好ましい。
溶湯の化学組成を均一にするために、溶解ステップが目的の溶湯温度に溶湯を維持する時間を有すると好ましい。例えば、この時間は、1分以上であると好ましく、5分以上であるとより好ましい。また、蒸気圧の高い元素の散逸や雰囲気中のガスの溶湯中への溶解を低減するために、時間が、60分以下であると好ましく、30分以下であるとより好ましい。
溶湯と接する雰囲気は、大気であってもよい。合金粒子の歩留まりを高めるために、雰囲気が、窒素やアルゴンを含む不活性ガス雰囲気であってもよく、酸素ポテンシャルが制御された雰囲気であってもよい。
凝固ステップでは、溶湯を粉砕して液滴を形成し、この液滴を凝固させて合金粒子を作製する。溶湯の粉砕および凝固には、アトマイズ法が適用できる。このアトマイズ法として、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、燃焼炎ジェットを用いたアトマイズ法およびこれらの組み合わせが選択できる。また、例えば、ガスアトマイズ法および燃焼炎ジェットを用いたアトマイズ法によって溶湯を粉砕した後に水アトマイズ法によって溶湯を急速に冷却してもよい。アトマイズ法に用いる流体は、水であってもよく、不活性ガスのようなガス、ミストを含むガスであってもよい。流体の供給速度は、溶湯が有する熱量を奪って溶湯の凝固中に非晶質相が生じるのに充分な範囲に設定する。特に、非晶質相を安定的に形成するために、流体は、冷却能力が高い水であると特に好ましい。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、凝固ステップの後にさらに乾燥ステップを含んでもよい。この乾燥ステップは、凝固ステップの直後であると好ましい。例えば、凝固ステップ時に水が使用された場合には、乾燥のエネルギー効率を高めるために、水と合金粒子との混合物からサイクロン、ろ過または沈降といった分離方法により湿潤した合金粒子(スラリー)を得てもよい。このスラリーでは、合金粒子が水とガスとの両方に接触するため、ガスが酸素ガスを含む場合、腐食が進行しやすい。そのため、酸素分圧を40Pa以下に低減すると好ましい。また、水中に溶存する酸素を低減するために、アトマイズ法に使用する水や水と合金粒子の混合物に不活性ガスを吹き込んでもよい。雰囲気中の酸素ガスと合金粒子とが直接接触する面積を減らすために、スラリー中の合金粒子の質量を100とした場合に、スラリー中の水の質量が5以上100以下であると好ましく、20以上80以下であるとより好ましい。
加熱、減圧およびこれらの組み合わせによって合金粒子を乾燥することができる。加熱によって乾燥を行う場合には、酸化物量の増大による飽和磁束密度の低下を避けるために、酸素分圧が20Pa以下で温度が100℃以上250℃以下であると好ましく、酸素分圧が2Pa以下で温度が120℃以上200℃以下であるとより好ましい。粒子の凝集や固結あるいは粒子の乾燥容器への付着を防ぐために、乾燥時に攪拌を行ってもよい。また、凝集または固結した粒子あるいは乾燥容器への付着した粒子を解すために、乾燥後に合金粒子に応力を付与してもよい。また、乾燥ステップが複数回行われてもよい。凝固ステップから乾燥ステップの間に、合金粒子の表面に不働態被膜が形成されると考えられる。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、凝固ステップよりも後にさらに分級ステップを含んでもよい。この分級ステップは、凝固ステップ、乾燥ステップ、後述の配合ステップ、後述の熱処理ステップ、後述の表面処理ステップのいずれの直後であってもよい。分級ステップでは、合金粒子の粒度分布を調整する。粒度分布の調整には、例えば、振動ふるい、超音波ふるい、気流分級等を用いることができる。分級方法は、粒子間の慣性力、重量比、流動性の相違に基づいてもよい。目的とする粒度分布は、例えば、上記実施形態のD50やD90の好適範囲を満たすと好ましい。また、分級ステップが複数回行われてもよい。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、凝固ステップよりも後にさらに配合ステップを含んでもよい。この配合ステップは、凝固ステップ、乾燥ステップ、分級ステップ、後述の熱処理ステップ、後述の表面処理ステップのいずれの直後であってもよい。この配合ステップでは、1種以上の粉末同士を混合する。混合する粉末の組み合わせは、少なくとも1種の粉末が本実施形態に係る合金粒子の製造方法で得られている限り任意である。異なる化学組成や組織、粒度分布を有する粉末を2種以上混合してもよい。例えば、D50が50μmの合金粒子とD50が4μmの合金粒子とを混合してもよい。軟磁性材料として、例えば、Fe-Si系結晶粉末、Fe-Si-Cr系結晶粉末、Fe-B系非晶質粉末、Fe-Si-B系非晶質粉末、Fe-Si-B-P系非晶質粉末、鉄粉あるいはナノ結晶粉末が合金粒子と混合されてもよい。非磁性材料として無機フィラーが合金粒子と混合されてもよい。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、凝固ステップよりも後にさらに熱処理ステップを含んでもよい。この熱処理ステップは、凝固ステップ、乾燥ステップ、分級ステップ、配合ステップ、後述の表面処理ステップのいずれの直後であってもよい。熱処理ステップでは、合金粒子に含まれる内部応力(内部歪)を低減するために、合金粒子を加熱する。合金粒子の非晶質相を充分な量確保するために、熱処理温度は、結晶化開始温度よりも低い温度であることが必要である。熱処理温度は、結晶化開始温度よりも20℃以上低いと好ましい。また、充分に内部応力を低減するために、熱処理温度は、300℃以上であると好ましい。昇温速度は、1℃/分以上5000℃/分以下であってもよい。結晶化開始温度は、昇温速度に応じて変化するため、示差走査熱量測定(DSC)によって昇温速度に対応する結晶化開始温度を特定して決定する。DSCでは到達できない昇温速度に対しては、DSCで測定した昇温速度と結晶化開始温度との関係を高い昇温速度側に拡張して結晶化開始温度を決定する。また、充分に内部応力を低減するために、300℃以上の温度に合金粒子が維持される時間は、1分以上であると好ましい。この時間は、粗大な結晶粒の生成を防ぐために、120分以下であると好ましい。酸化物量の増大による飽和磁束密度の低下を避けるために、熱処理の雰囲気は、酸素ポテンシャルが制御された不活性ガス雰囲気であると好ましい。例えば、雰囲気中の酸素分圧が、100Pa以下であると好ましい。加熱方法には、例えば、赤外線のような電磁波を用いてもよく、誘導加熱を用いてもよい。また、加熱された媒質(固体・液体・気体・混合物)に合金粒子を接触あるいは接近させて合金粒子を加熱してもよい。
本実施形態に係る合金粒子の製造方法は、凝固ステップよりも後にさらに表面処理ステップを含んでもよい。この表面処理ステップは、凝固ステップ、乾燥ステップ、分級ステップ、配合ステップ、熱処理ステップのいずれの直後であってもよい。表面処理ステップでは、例えば、化成処理、メカノケミカル反応またはゾルゲル反応等を利用することができる。表面処理ステップにより、必要に応じて別途形成することが可能な被膜を合金粒子の表面に形成することができる。
上記第1の実施形態に係る合金粒子、これらの好適な実施形態に係る合金粒子は、本実施形態に係る合金粒子の製造方法によって好適に製造することができるが、本実施形態以外の製造方法で製造してもよい。
以下、本発明の一実施形態に係る磁心の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態に係る磁心の製造方法では、上述の実施形態に係る合金粒子を使用する。成形方法には、例えば、プレス成形またはモールド成形等が利用できる。具体的には、冷間一軸プレス、熱間一軸プレス、放電プラズマ焼結(SPS)、冷間静水圧プレス、熱間静水圧プレス、シート成形、ポッティング成形、トランスファ成形、射出成形などの成形方法から選択できる。また、上述の実施形態に係る合金粒子に結着剤等の添加剤を混合してもよい。結着剤は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。その他の添加剤は、シランカップリング剤や潤滑剤、硬化促進剤、硬化遅延剤等であってもよい。
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
(合金粒子の作製)
溶解時のスラグ発生に起因する化学組成の変化を考慮した上で合金粒子が表1および表2に示す化学組成になるように原材料を秤量した。原材料の合計の重量は、150gとした。Fe源として、東邦亜鉛株式会社製のマイロン(純度99.95wt%)を用いた。また、Si源、B源、C源、Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、株式会社高純度化学研究所製の材料を使用した。P源およびFe源として、塊状リン化鉄Fe3P(純度99wt%)を用いた。B源として、粒状硼素(純度99.5wt%)を用いた。C源として、粉末状黒鉛(純度99.95wt%)を用いた。Si源、Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、純金属(純度99wt%以上)を用いた。
上記の原材料をアルミナるつぼに入れ、高周波誘導加熱により1.0気圧のアルゴンガス雰囲気中で1400℃まで加熱した。原材料を1400℃で10分間保持して溶湯を調製した。この溶湯をるつぼ下部の穴から流下させ、水アトマイズ法によって溶湯から合金粒子を作製し、沈殿槽中に合金粒子を回収した。
アトマイズ後、沈殿槽を30分間静置して溶解槽中の合金粒子を沈降させ、泥状の合金粒子を回収した。この泥状の合金粒子では、合金粒子の質量100に対して水の質量が50であった。泥状の合金粒子を1Pa以下の圧力で200℃まで加熱後、200℃に180分維持し、合金粒子を乾燥させた。乾燥後の合金粒子を振動ふるい器で分級し、目開き20μmのふるいと目開き53μmのふるいとの間の合金粒子を回収した。
(D50の測定)
合金粒子の平均粒子径D50をレーザー回折式粒子径分布測定装置(Sympatec製HELOS/RODOS)で測定した。分散圧条件は、2bar(200kPa)とした。
(化学組成の定量)
合金粒子が含むBおよびCの量を原子吸光法により測定した。B、C以外の元素(Fe、P、Si、Cr、Mo、W、Zr、Co)の量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS法)により測定した。
(非晶質相の体積割合Vaの測定)
株式会社リガク製のX線回折装置Miniflex(Cu管)を用いθ-2θ法で合金粒子をそのまま測定し、回折強度プロファイルを得た。ステップサイズを0.01°とし、スキャンスピードを5°/分とし、2θのスキャン範囲は、25°以上90°以下とした。回折強度プロファイルでは、2θ=44°近傍に、非晶質相由来のハローと体心立方構造を有する結晶相の(110)面由来の(110)ピークと化合物相のピークとが生じうる。特願2017-532527号に記載の方法で回折強度プロファイルからハローの面積強度Iaと(110)ピークの面積強度Icと化合物相ピークの面積強度Ic’を算出し、下記式(1)により非晶質相の体積割合Vaを求めた。なお、下記式(2)によって体心立方構造を有する結晶相の体積割合Vcを求めることができる。
Va=Ia/(Ia+Ic+Ic’) (1)
Vc=Ic/(Ia+Ic+Ic’) (2)
(表面の濃度プロファイルの決定)
一部の実施例および比較例について、合金粒子の表面から内部への深さ方向の化学組成の変化をオージェ電子分光法(AES)により測定した。この測定では、表面分析とアルゴンイオンの照射による表面の除去とをこの順で繰り返した。測定は、深さ0nm以上、11nm未満の範囲は1.1nm間隔で行い、深さ11nm以上、100nm以下の範囲は2.2nm間隔で行った。測定は、深さ0nmの位置のみ2回行い、その平均値を求めた。深さ0nm以外の位置の測定は各1回行った。AESで測定した合金粒子は、10個であり、これら10個の合金粒子の濃度プロファイルを平均して用いた。
(飽和磁束密度Bsの測定)
粉末用のシリンダーケースに合金粒子を圧密充填した。この合金粒子の飽和質量磁化Msを10kOeの最大磁界で振動試料型磁化測定器(東英工業製VSM-5-15)により測定した。
また、見かけ密度ρをピクノメータ法(株式会社島津製作所製AccuPycII1340)により測定した。置換ガスにHeを用い、試料として25gの合金粒子を用いた。
上記飽和質量磁化Msと上記見かけ密度ρから下記式(3)を用いて飽和磁束密度Bsを計算した。
Bs=4π×Ms×ρ (3)
(保磁力Hcの測定)
合金粒子を粉末測定用のカプセルに充填し、磁場印加時に合金粒子が移動しないようにこのカプセルを圧密した。このカプセル中の合金粒子の保磁力Hcを東北特殊鋼株式会社製の保磁力計K-HC1000で測定した。
(腐食電位Ecorrおよび腐食電流密度icorrの測定)
合金粒子の腐食電位(自然電位)Ecorrと腐食電流密度icorrとを電気化学測定システム(北斗電工株式会社製HZ-5000)で測定した。作用電極、参照電極、対極には、それぞれ株式会社イーシーフロンティア製GRC-3155、RE-2、CE-2を用いた。合金粒子とカーボンペースト(ビー・エー・エス株式会社製CPO[型番001010])とを2:1の質量比で混合して得られた混合物を筒状の作用電極の穴に詰めた。この作用電極を3質量%NaCl水溶液中に1時間浸漬した後、自然電位Ecorrを測定した。その後、自然電位から+300mVまで作用電極に電圧を印加し、アノード分極曲線を得た。スキャンスピードを2mV/sとし、サンプリング間隔を2sとした。アノード分極曲線から得られた腐食電流を参照電極の断面積0.0176cm2で除し、腐食電流密度icorrを求めた。なお、この腐食電流密度icorrは、腐食電位に100mVを加えた電位での電流密度として定義された。耐食性の指標としては、腐食電位を用いた。
表1および表2に、合金粒子のD50、Va、Bs、Hc、Ecorrおよびicorrを示す。
実施例1~58では、合金粒子が本発明の化学組成ならびに組織を有しており、高い飽和磁束密度と優れた耐食性とを備えている。
比較例1~3では、Feの量が少ないため、飽和磁束密度Bsが小さい。
比較例4~5では、Feの量が多いため、非晶質相の熱安定性が低く、保磁力Hcが大きい。
比較例6では、Pの量が少ないため、耐食性の指標である腐食電位Ecorrが小さい。また、腐食電流密度icorrが大きい。
比較例7では、Pの量が多いため、飽和磁束密度Bsが小さい。
比較例8~9では、Bの量が多いため、飽和磁束密度Bsが小さい。
比較例10~11では、Cの量が多いため、保磁力Hcが大きい。
比較例12では、Siの量が多いため、飽和磁束密度Bsが小さく、非晶質相の熱安定性が低く、保磁力Hcが大きい。
比較例13~14では、Crの量が少ないため、耐食性の指標である腐食電位Ecorrが小さい。また、腐食電流密度icorrが大きい。
比較例15~16では、Crの量が多いため、飽和磁束密度Bsが小さい。
比較例17では、BとCとの合計の量が少ないため、非晶質相の熱安定性が低く、保磁力Hcが大きい。
比較例18では、BとCとの合計の量が多いため、飽和磁束密度Bsが小さい。
比較例19では、Coの量が多いため、保磁力Hcが大きい。
比較例20では、Siを含有していないため、保磁力Hcが大きい。
表3に、実施例3、比較例6および比較例13の合金粒子に対するAESの結果を示す。
実施例3では、合金粒子の深さ方向の成分の濃度プロファイルにおいて、Pの濃度プロファイルが、合金粒子の表面からの深さ0.1nmから10.0nmまでの範囲にピークを有している。さらに、合金粒子の表面からの深さ0nmから10.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第1の平均酸素濃度C1で、合金粒子の表面からの深さ10.0nmから50.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第2の平均酸素濃度C2を除して得られるC2/C1の値が0.090以下である。
図3および図4に、実施例3の合金粒子に対するAESの結果を示す。
比較例6では、合金粒子の表面からの深さ0nmから10.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第1の平均酸素濃度C1で、合金粒子の表面からの深さ10.0nmから50.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第2の平均酸素濃度C2を除して得られるC2/C1の値が0.090より大きい。
比較例13では、合金粒子の深さ方向の成分の濃度プロファイルにおいて、Pの濃度プロファイルが、合金粒子の表面からの深さ0.1nmから10.0nmまでの範囲にピークを有していない。さらに、合金粒子の表面からの深さ0nmから10.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第1の平均酸素濃度C1で、合金粒子の表面からの深さ10.0nmから50.0nmまでの酸素の濃度プロファイルを平均して得られる第2の平均酸素濃度C2を除して得られるC2/C1の値が0.090より大きい。
次に、比較例21の合金粒子の作製方法を示す。溶解時のスラグ発生に起因する化学組成の変化を考慮した上で合金粒子が表4に示す化学組成になるように原材料を秤量した。原材料の合計の重量は、150gとした。Fe源として、東邦亜鉛株式会社製のマイロン(純度99.95wt%)を用いた。また、Si源、B源、C源、Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、株式会社高純度化学研究所製の材料を使用した。P源およびFe源として、塊状リン化鉄Fe3P(純度99wt%)を用いた。B源として、粒状硼素(純度99.5wt%)を用いた。C源として、粉末状黒鉛(純度99.95wt%)を用いた。Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、純金属(純度99wt%以上)を用いた。
上記の原材料をアルミナるつぼに入れ、高周波誘導加熱により1.0気圧のアルゴンガス雰囲気中で1400℃まで加熱した。原材料を1400℃で10分間保持して溶湯を調製した。溶湯を銅製の鋳型に流し込み冷却凝固させて母合金を作製した。母合金をジョークラッシャで粉砕し、次いで、ジェットミルで粉砕した。
粉砕後の合金粒子を振動ふるい器で分級し、目開き20μmのふるいと目開き53μmのふるいとの間の合金粒子を回収した。
次に、実施例59、60および比較例22、23の合金粒子の作製方法を示す。溶解時のスラグ発生に起因する化学組成の変化を考慮した上で合金粒子が表4に示す化学組成になるように原材料を秤量した。原材料の合計の重量は、150gとした。Fe源として、東邦亜鉛株式会社製のマイロン(純度99.95wt%)を用いた。また、Si源、B源、C源、Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、株式会社高純度化学研究所製の材料を使用した。P源およびFe源として、塊状リン化鉄Fe3P(純度99wt%)を用いた。B源として、粒状硼素(純度99.5wt%)を用いた。C源として、粉末状黒鉛(純度99.95wt%)を用いた。Cr源、Mo源、W源、Zr源、Co源として、純金属(純度99wt%以上)を用いた。
上記の原材料をアルミナるつぼに入れ、高周波誘導加熱により1.0気圧のアルゴンガス雰囲気中で1400℃まで加熱した。原材料を1400℃で10分間保持して溶湯を調製した。この溶湯をるつぼ下部の穴から流下させ、水アトマイズ法によって溶湯から合金粒子を作製し、沈殿槽中に合金粒子を回収した。
アトマイズ後、沈殿槽を30分間静置して溶解槽中の合金粒子を沈降させ、泥状の合金粒子を回収した。この泥状の合金粒子では、合金粒子の質量100に対して水の質量が50であった。泥状の合金粒子を1Pa以下の圧力で200℃まで加熱後、200℃に180分維持し、合金粒子を乾燥させた。乾燥後の合金粒子を振動ふるい器で分級し、目開き20μmのふるいと目開き53μmのふるいとの間の合金粒子を回収した。
次いで、合金粒子を赤外線ランプアニール装置(株式会社アルバック、RTA-4000)を用いてアルゴンガス雰囲気中で表4に記載の温度で熱処理した。昇温速度は400℃/分とした。熱処理保持時間は10分とした。実施例59、60および比較例22、23の合金粒子の結晶化開始温度は440℃であった。
実施例59および60では、合金粒子が本発明の化学組成ならびに組織を有しており、高い飽和磁束密度Bsと優れた耐食性とを備えている。
比較例21~23は非晶質相の体積割合Vaが70%未満であり、保磁力Hcが大きい。
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は、前述した説明によって限定されず、請求項の範囲によって限定される。