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JP7524664B2 - Fe基合金組成物、Fe基合金組成物の粉末及び磁心 - Google Patents

Fe基合金組成物、Fe基合金組成物の粉末及び磁心 Download PDF

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Description

本発明は、Fe基合金組成物、Fe基合金組成物の粉末及び磁心に関する。
FeCuNbSiB系合金を代表とするFe基ナノ結晶合金は、低損失で高い透磁率を有するという優れた磁気特性のため、特に高周波領域での磁性部品として使用されている。
前記Fe基ナノ結晶合金は、合金溶湯を単ロール法等により急冷凝固させてアモルファス合金の薄帯を得た後、熱処理により(Fe-Si)bcc相の微細な結晶粒を析出させることにより、優れた磁気特性を得ることができる(例えば、特許文献1を参照)。以下、(Fe-Si)bcc相の微細な結晶を微細結晶、その粒を微細結晶粒と呼ぶ場合がある。
単ロール法により得られる合金の形態が薄帯であるため、それを使用して作製される磁心の形状は限定的である。例えば、所望とする磁心の高さに相当する幅に合金薄帯をスリットし、所望とする内径及び外径に合わせて合金薄帯を巻回して成形される巻磁心では、その形状は、トロイダル形状、レーストラック形状等の環状に限定される。
他方、要求される磁心形状は環状に限定されず様々である。このため、プレスや押し出し等の成形方法を適用して、複雑な形状の磁心を作製することが出来るように、前記FeCuNbSiB系を含むFe基ナノ結晶合金の粉末化の検討がなされている。
粉末化の方法として、例えば、高圧水アトマイズ法や高速回転水流アトマイズ法(特許文献2)を用いることが出来る。また特許文献3に開示された、溶融金属にフレームジェットを噴射する方法(以下ジェットアトマイズ法とも呼ぶ)を採用しようとする試みもある。
特公平4-4393号公報 特開2017-95773号公報 特開2014-136807号公報
しかしながら、単ロール法により合金の薄帯を得る場合に比べて、前述の方法ではFe基ナノ結晶合金の前段階にある合金粉末を得るのに、以下のような課題がある。
(a)単ロール法により得られる合金の薄帯では、鋳造される合金溶湯が、冷却された銅合金のロールに直接接触することで急冷凝固される。一方、前述の高圧水アトマイズ法等のアトマイズ法では、合金溶湯の粒子が冷却媒体である水に接触し冷却される。冷却の際に発生する水蒸気被膜により、合金から水への熱伝達が阻害され、冷却速度が制限される。高速回転水流アトマイズ法では、高速な水流を供給し水蒸気被膜の形成を抑制するが、原理的に水蒸気被膜の発生を無くすことはできないため、単ロール法に比べて冷却速度が制限される傾向がある。
また単ロール法により得られる合金薄帯では、合金薄帯の厚さを20μm前後に制御することにより、冷却速度を再現性良く一定に維持し、アモルファス合金とすることが容易である。それに対して、アトマイズ法で得られる合金粉末では、粒径の制御や粒度の均一化は困難であり、粒子の大きさがばらつき、サブμmから数100μm程度の粒度分布を持った粉末となり易い。
得られる合金粉末の理想的な組織は、アモルファス相、又はアモルファス相の一部に微細結晶相の(Fe-Si)bcc相が析出した混合組織(ナノヘテロ構造の初期微結晶合金)である。
一般的に小さい粒子は冷却速度が速く、大きい粒子(特にその内部)では冷却速度が遅くなる。相対的に小粒径の粒子では理想的な組織の合金粉末が得られ易い。一方、大粒径の粒子では冷却速度の不足から、磁気特性を劣化させるFeBの結晶が析出した合金となり易い傾向がある。
組織にFeBの結晶が多く含まれる合金粉末では、後工程で熱処理により微細な結晶粒を析出させても、磁気特性は低コアロスとならない場合がある。
(b)高周波用途の磁心に使用する場合、高周波の磁束が粒子の表面近傍しか流れない現象(表皮効果)が顕著となる。粉末の形態では、比表面積が小さい大粒径の粒子ほど、その影響が大きい。粉末の表面近傍が磁気飽和に至った場合、粒子は磁性材料としての機能を失うため、高飽和磁束密度Bsの合金組成物を用いた粒子とするのが好ましい。しかしながら、このような合金組成物は、Feの組成量が多く、理想的な組織の合金が得られ難い問題がある。
従って、本発明の課題は、溶湯を急冷凝固させて合金粉末としたときに、アモルファス相、又は、アモルファス相と微細結晶相との混合組織を有し、FeBの結晶の生成が抑制されている合金粉末を安定して得ることが可能なFe基合金組成物を提供することである。また、上記した合金粉末を熱処理して得られFe基合金組成物の粉末を提供することである。また、そのFe基合金組成物の粉末を用いて、優れた磁気特性を備える磁心を得ることである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、以下のFe基合金組成物、Fe基合金組成物の粉末及び磁心により前記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。
すなわち本発明は、
合金組成:Fe100-a-b-c-d-e-fCuSiCrSn(ここで、MはNb、Moの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、原子%で、0.6≦a≦1.8、2.0≦b≦10.0、11.0≦c≦17.0、0≦d≦2.0、0.01≦e≦1.5、及び0<f<1.0を満たす。)を有し、Feが77原子%以上であるFe基合金組成物である。
また、合金粉末は、Crの量が0.1≦d≦2.0である、又は前記Mの量が0.1≦f<1.0であることが好ましい。
前記Fe基合金組成物からなる粉末は、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径である平均粒径d50が30μm以下であることが好ましい。
そして、合金組織中に平均結晶粒径が10~50nmの(Fe-Si)bcc相の微細結晶粒を20体積%以上有する、Fe基合金組成物の粉末であるのが好ましい。
本発明の磁心は、前記Fe基合金組成物の粉末を用いて作製した磁心である。
前記磁心は、コアロス(2MHz,30mT)が10000kW/m未満であることが好ましい。
本発明のFe基合金組成物によれば、溶湯を急冷凝固させて合金粉末としたときに、アモルファス相、又はアモルファス相と微細結晶相との混合組織を有し、FeBの結晶の生成が抑制された合金粉末を得ることが可能となる。この合金粉末を熱処理して得られるFe基合金組成物の粉末を用いることにより、優れた磁気特性を備える磁心が得られる。
実施例2の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像である 実施例2の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像であり、図1の拡大図である。 実施例2の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンである。 実施例7の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。 実施例7の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像であり、図4の拡大図である。 実施例7の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンである。 比較例1の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。 比較例1の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像であり、図7の拡大図である。 比較例1の合金粉末の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンである。 実施例2と比較例1の熱処理後のFe基ナノ結晶合金粉末のX線回折パターンであり、上側が実施例2を、下側が比較例1を示す。
以下、本発明のFe基合金組成物、Fe基合金組成物の粉末及び磁心について、実施形態を具体的に説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
[1]組成
本実施形態のFe基合金組成物は、合金組成:Fe100-a-b-c-d-e-fCuSiCrSn(ここで、MはNb、Moの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、原子%で、0.6≦a≦1.8、2.0≦b≦10.0、11.0≦c≦17.0、0≦d≦2.0、0.01≦e≦1.5、及び0<f<1.0を満たす。)を有し、Feが77原子%以上である。また、本実施形態のFe基合金組成物の粉末の合金組成も同一である。
前記Fe基合金組成物によれば、単ロール法と比べて冷却速度が制限されやすいアトマイズ法であっても、溶湯を急冷凝固させることにより、理想的なアモルファス相(単相)の合金、又はアモルファス相の一部に微細結晶相の(Fe-Si)bcc相が析出した混合組織の合金(ナノヘテロ構造の初期微結晶合金)が得られやすい。(Fe-Si)bcc相は、体心立方格子(body-centered cubic)構造のFeSi固溶体である。また合金の組織中においてFeBの結晶の生成が抑制されたFe基合金組成物の粉末を得ることができる。
微細結晶相は微細な(Fe-Si)bcc相であり、溶湯を急冷凝固させた状態では、透過型電子顕鏡(TEM)で10nm未満の粒状に観察される。クラスターとも呼ばれ、FeとSiに富む領域となっている。本願明細書において、特に断りのない限り、溶湯から急冷凝固によって得られたFe基合金組成物の合金の粉末のことを「合金粉末」と言い、後述するように、この「合金粉末」を熱処理して得られ、相対的に合金粉末よりも合金組織中に多くの微細結晶相の(Fe-Si)bcc相を含む合金組織を有する合金粉末のことを「Fe基ナノ結晶合金粉末」と言う。
ここで、FeBの結晶の生成が抑制されている合金粉末とは、FeBの結晶が生成されていない状態か、ごく微量のFeBの微細結晶が析出した状態のことである。
FeBの結晶が生成されていない状態とは、X線回折(XRD)測定の結果、FeBのピークは確認されず、回折ピークのピーク強度は、ベースラインを形成するノイズレベル(不回避的に得られるX線散乱)と同等か、又はそれより低くノイズレベル以下である状態を言う。ごく微量のFeBの微細結晶が析出した状態とは、FeBの回折ピークのピーク強度が、ベースラインを形成するノイズレベル(不回避的に得られるX線散乱)よりもわずかに高い状態である。混合相であれば、合金粉末のX線回折(XRD)測定で、(Fe-Si)bcc相(110面)の回折ピークの強度(100%)に対して、FeBの(002面)の回折ピークの強度が3%以下である状態を言う。本実施形態の合金粉末において、これらの回折ピークの強度は、2%以下がより好ましい。
前記合金粉末に後述する熱処理を施すことによって、平均結晶粒径Dが10~50nmの微細結晶相を有するFe基ナノ結晶合金粉末を得ることができる。微細結晶相は(Fe-Si)bcc相であって、アモルファス相からCuクラスター(Cuに富む領域)を起点に結晶化させることによって得られるものや、前記混合組織の微細結晶相が成長したものである。本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末の合金組織は、微細結晶相のみからなっていてもよく、微細結晶相とアモルファス相とからなる混合組織となっていてもよい。すなわち、このFe基ナノ結晶合金粉末は、その粉末の合金組織の全ての領域で平均結晶粒径Dが10~50nmの微細結晶組織となっていなくてもよく、20体積%以上で有すればよい。好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、より好ましくは50体積%以上、最も好ましくは60体積%以上の領域で、平均結晶粒径Dが10~50nmの微細結晶組織となっていればよい。
微細結晶相の平均結晶粒径Dは、Fe基ナノ結晶合金粉末のX線回折(XRD)パターンから、(Fe-Si)bccの回折面(110)でのピークの半値幅(ラジアン角度)を求め、以下Scherrerの式:
D=0.9×λ/((半値幅)×cosθ)
[λ:X線源のX線波長。例えば、X線源CoKαではλ=0.1789nm、X線源CuKα1ではλ=0.15406nm、θはブラッグ角(Bragg angle:回折角2θの半分)を表す。〕]
により求めることができる。
また微細結晶相の体積分率は、合金組織を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、微細結晶相の面積を合計し、観察視野面積に対する比率から算出した値である。
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末では、その粉末の合金組織の全領域に対して、平均結晶粒径Dが10~50nmの微細結晶相の体積分率は20%以上であるが、20%~60%程度であってもよいし、60%以上であってもよい。微細結晶組織以外の部分は主にアモルファス相の組織である。また、磁気特性に影響しない程度で一部にデンドライト相等の粗大結晶粒が存在していても良い。
上記したFe基合金組成物の組成範囲について、以下詳細に説明する。
Feは、飽和磁束密度Bsを決定する主元素である。高い飽和磁束密度Bsを得るためには、Fe含有量は77.0原子%以上が好ましい。Fe含有量は、より好ましくは79.0原子%以上である。なお、前記合金組成を表す式において、(100-a-b-c-d-e-f)の値には、Fe以外に、前記合金組成を規定する元素以外の不純物を含んでいる。この不純物の含有量は、合計量として、0.2原子%以下が好ましく、0.1原子%以下がより好ましい。
アモルファス相からの微細結晶相の形成の起点となるCuクラスターを合金組織内に均一に生成させるために、Cu含有量は0.6原子%以上とする。Cu含有量は、好ましくは0.7原子%以上であり、さらに好ましくは0.8原子%以上であり、さらに好ましくは1.0原子%以上であり、さらに好ましくは1.15原子%以上である。他方、Cu含有量が1.8原子%を超えると、急冷凝固後(熱処理前)の合金粉末中に比較的大きな結晶が生成しやすくなり、熱処理後に粗大結晶粒に成長し、Fe基ナノ結晶合金粉末の磁気特性劣化に到るおそれがある。従って、熱処理後の粗大結晶粒発生を抑制するために、Cu含有量は1.8原子%以下とする。Cu含有量は、好ましくは1.6原子%以下であり、さらに好ましくは1.5原子%以下である。
Snは、微細結晶相の形成の起点となるCuクラスターを合金組織内に均一に生成させる作用効果を高める元素である。また、熱処理後の粗大結晶粒の生成を抑制する作用効果を有する。つまり、アモルファス相においてCu濃度が比較的低い領域であってもSnの存在によって合金組織内で均一な微細結晶の生成を容易にすることができる。さらに、Snを含有するFe基ナノ結晶合金粉末を用いて作製した磁心はコアロスが小さいものとなりやすい。
Sn含有量は、前記作用効果を顕在化させるために0.01原子%以上とする。Sn含有量は、好ましくは0.05原子%以上であり、より好ましくは0.10原子%以上であり、さらに好ましくは0.15原子%以上であり、さらに好ましくは0.20原子%以上である。他方、Sn含有量は、高い飽和磁束密度を得るために、1.5原子%以下とする。Sn含有量は、より好ましくは1.0原子%以下であり、さらに好ましくは0.8原子%以下であり、さらに好ましくは0.7原子%以下である。Sn含有量がCu含有量を超えると前記作用効果が抑制されるので、SnはCu含有量を超えない範囲(つまり、e≦aである)とするのが好ましい。
Siは、熱処理により微細結晶相としてFeと合金を生成し、(Fe-Si)bcc相を形成する元素である。また、急冷凝固時にアモルファス形成能に作用する元素である。再現性良く急冷凝固後にアモルファス相を形成させるため、Si含有量は2.0原子%以上とする。Si含有量は、好ましくは3.0原子%以上であり、さらに好ましくは3.5原子%以上である。他方、合金溶湯の粘度の再現性確保、及び急冷生成する合金粉末の粒径の均一性・再現性のためには、Si含有量は10.0原子%以下とする。Si含有量は、好ましくは8.0原子%以下であり、さらに好ましくは7.0原子%以下である。
B(ホウ素)は、Siと同様に、急冷凝固時にアモルファス形成能に作用する元素である。また、Bは、微細結晶の核となるCu原子を合金組織内(アモルファス相中)に偏在化させず、均一に存在させる作用においても主要な元素である。再現性良く急冷凝固後にアモルファス相を形成させ、前記アモルファス相中にCu原子を均一に存在させるために、B含有量は11.0原子%以上とする。B含有量は、好ましくは11.5原子%以上であり、より好ましくは11.7原子%以上である。また、高い飽和磁束密度Bsを得るために、後述するSi量との合計量とも関係するが、B含有量は17.0原子%以下とする。B含有量は、好ましくは15.5原子%以下である。
Si及びBは合金組成中の含有量が比較的多いため、Fe含有量に大きな影響を与える。すなわち、Si含有量及びB含有量が増えると相対的にFe含有量が減少するため、得られるFe基ナノ結晶合金粉末の飽和磁束密度Bsが低下する。高い飽和磁束密度Bsを得るためは、Si含有量及びB含有量の合計量は20.0原子%以下(つまり、b+c≦20.0)が好ましく、19.0原子%以下(b+c≦19.0)がより好ましく、18.5原子%以下(b+c≦18.5)がさらに好ましい。
Crは合金粉末の耐蝕性向上に効果がある。また、CrはFe基ナノ結晶合金粉末を用いて作製した磁心の直流重畳特性の向上に効果がある。このため、上記の効果を得るためには、Crを含有させることが好ましい。なお、Crは選択元素であり、0原子%でもかまわない。Crを含有させる場合、上記の効果を得るために、Cr含有量は0.1原子%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.2原子%以上であり、さらに好ましくは0.3原子%以上であり、さらに好ましくは0.4原子%以上である。他方、Crは飽和磁束密度向上に寄与しないため、2.0原子%以下とする。Cr含有量は、好ましくは1.5原子%以下であり、より好ましくは1.3原子%以下であり、より好ましくは1.2原子%以下であり、より好ましくは1.0原子%以下である。
Nb,Moはともに、アモルファス相中に含まれると、アモルファス相の熱的安定性を向上させる効果がある元素である。FeをNbで置換することにより、溶湯を急冷凝固させて合金粉末とする急冷過程におけるFeBの析出を回避しやすくなる。また、1原子%あたり約30℃ほどアモルファス相からFeBが析出を開始する温度(析出開始温度Tx2)を上昇させる効果がある。FeをMoで置換した場合はその効果は若干劣るが、1原子%あたり15~20℃程度、Tx2を上昇させる効果がある。これにより、急冷過程におけるFeBの析出を回避しやすくなることに加え、結晶化を目的とした熱処理時にも、熱処理温度範囲が広くなるため、熱処理時の温度管理幅も広がり、製造効率を向上させる効果が期待できる。また、本発明者の研究で特にMoには、Tx2を上昇させる効果だけでなく、粉末の形状をより真球に近づける傾向が確認されており、合金粉末を圧縮成形した際の充填率を上昇させる上で有効であると考えられる。他方、Nb,Moともに、常磁性元素で、原子量が大きい元素であるため、1原子%置換することで、飽和磁束密度が約4%程度減少してしまう。上記の傾向を勘案すると、M(Nb,Moの少なくとも一方)の含有量は0<f<1.0原子%が良く、Tx2の上昇、形状安定化の効果を十分得るためには0.1原子%以上が好ましく、さらに好ましくは0.25原子%以上である。他方、飽和磁束密度降下の影響を少なくするためには、0.9原子%以下が好ましく、さらに好ましくは0.75原子%以下である。
[2]合金粉末
(1)製造方法
本実施形態の合金粉末は、アトマイズ法等により、前記合金組成を有する合金溶湯を急冷凝固させて得ることができる。この製造方法について、以下詳細に説明する。
まず、所望とする合金組成になるように純鉄、フェロボロン、フェロシリコン等の各元素原料を配合し、誘導加熱炉等で加熱し、融点以上として溶融することで、前記合金組成を有する合金溶湯を得る。
この合金溶湯を、アトマイズ法等により急冷凝固させて、合金粉末を製造する。アトマイズ法は種々の方式が知られており、その製造条件は、公知の製造技術から適宜選択することができる。
上記の方法により得られたFe基合金組成物の合金粉末はアモルファス相単相、又はアモルファス相中に(Fe-Si)bcc相の微細結晶が析出した混合組織で、FeBの結晶の生成が抑制されている。
アトマイズ法で得られる粒子は球形に近く、冷却速度は粒径に大きく依存することが知られている。大気よりも熱交換効率が高い液体中や気体中(例えば、水、Heや水蒸気)を、粉砕された溶湯が高速で通過すると、その表面は高い冷却速度で冷却される。熱伝導に従い内部も冷却されるが、冷却速度にはばらつきがあって、先に固まる表層部と遅れて固まる中心部とで冷却速度に差が発生する。得られる合金粒子が相対的に大径である程に、冷却速度のばらつきは顕著に現れる。そのため、本発明のFe基合金組成物は本製法に適合した組成範囲を定めている。
[3]Fe基ナノ結晶合金粉末
(1)熱処理
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末は、合金粉末を熱処理し微細結晶化することによって得られる。微細結晶化の熱処理条件は以下の通りである。
(a)昇温速度
1)微細結晶化に必要な熱処理を施す際には、0.1~1000℃/秒程度の昇温速度が好ましい。
2)合金粉末を合金粉末と反応をしない容器にいれ、一つのバッチで熱処理する。単位面積当たりの合金粉末の深さが10mmを超える場合、微細結晶化による発熱による温度上昇を考慮して、昇温速度を0.1~1℃/秒程度に制御するのが好ましい。
3)合金粉末をロータリーキリルン等で連続的に熱処理する際には、単位時間あたりに運搬される合金粉末の体積(合金粉末の流量)によって、1~1000℃/秒の制御を施すのが好ましい。
(b)保持温度(微細結晶化温度)
保持温度は、示差走査熱量計(DSC)によって測定(昇温速度20℃/分)される、第1(低温側)の発熱ピーク(微細結晶相の析出による発熱ピーク)が現れる温度Tx1(微細結晶化温度)以上で、かつ第2(高温側)の発熱ピーク(FeBの結晶や粗大結晶析出による発熱ピーク)が現れる温度Tx2未満の温度であるのが好ましい。
(c)保持時間
保持温度における保持時間は、合金粉末を一つのバッチで熱処理する際には、合金粉末が、前記保持温度に到達するように処理量によって適宜設定すれば良く、5分間~60分間が好ましい。合金粉末を連続的に熱処理する際は、一つのバッチで熱処理する場合よりも短時間で良い。最高到達温度で保持される時間は、1~300秒の間が好ましい。
(d)降温速度
Fe基ナノ結晶合金粉末は100℃程度の温度以下となるまで冷却されるが、降温速度は合金粉末の磁気特性に対する影響が小さいため、特に制御する必要はない。生産性を考慮すれば、例えば、200~1000℃/時間で行えば良い。
(e)熱処理雰囲気
熱処理雰囲気は、窒素ガス等、非酸化性雰囲気が好ましい。
上記熱処理条件によれば、再現性良く、安定してFe基ナノ結晶合金粉末を得ることができる。
(f)平均粒径d50
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末は、平均粒径d50が30μm以下であることが好ましい。なお、Fe基ナノ結晶合金粉末の平均粒径d50は、微細結晶化の熱処理前後で、実質的に変わらないので、合金粉末の平均粒径d50としてみることもできる。
アトマイズ等の方法により得られた本実施形態の合金粉末は、粒子の大きさが一定ではなく、広い粒度分布を有している場合が多い。そのため、所望の平均粒径d50とするためには、分級を行うのが好ましい。なお、平均粒径d50は、レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径(メジアン径)のことである。測定装置としては、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製LA-920)を用いることが出来る。
合金粉末あるいはFe基ナノ結晶合金粉末を分級し、粒径の大きい粒子を除くオーバーカットを行うことで平均粒径d50を調整し、30μm以下とすることが好ましい。より好ましくは29μm以下であり、さらに好ましくは28μm以下である。
この合金粉末あるいはFe基ナノ結晶合金粉末の平均粒径d50は、分級により、例えば、平均粒径d50を20μm以下とすること、あるいは15μm以下とすること、あるいは10μm以下とすること、さらには5μm以下、1μm以下とすることもできる。一方、あまりにも小さい平均粒径d50とすることは、Fe基ナノ結晶合金粉末としての所望の磁気特性が得られない可能性もある。例えば、平均粒径d50は一般に磁区幅として定義される0.05μmを超える0.1μm以上であって、好ましくは、0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上としても良い。
合金粉末あるいはFe基ナノ結晶合金粉末は、用途によって好適な大きさが異なるため、用途に応じて好適な粒径の粉末となるように分級を行うのが好ましい。したがって、合金粉末あるいはFe基ナノ結晶合金粉末の平均粒径d50は、その用途に応じて、適宜設定することができる。また、分級により、粒径の幅(粒径の上限と下限)を適宜設定することもできる。
(g)粒径が調節された合金粉末
例えば、合金粉末(あるいはFe基ナノ結晶合金粉末)を篩いで分級して、40μm超の粒径の粉末が粉末全体の10質量%以下であり、20μm超40μm以下の粒径の粉末が粉末全体の30質量%以上90質量%以下であり、20μm以下の粒径の粉末が粉末全体の5質量%以上60質量%以下とすることもできる。40μm超の粒径の合金粉末は、安定してアモルファス相、又はアモルファス相と微細結晶相との混合組織が得られにくい場合があるため、40μm超の粒径の粉末は10質量%以下とするのが好ましい。40μm超の粒径の粉末は、5質量%以下であるのがより好ましく、0質量%であるのが最も好ましい。つまり本実施形態の合金粉末やFe基ナノ結晶合金粉末では、一部にアモルファス相、又はアモルファス相と微細結晶相との混合組織となっていない粉末、あるいは合金組織中に平均結晶粒径が10~50nmの(Fe-Si)bcc相の微細結晶粒を20体積%以上有する組織となっていない粉末を含んでいても良い。
Fe基ナノ結晶合金粉末の粒度分布を調整することで所望の磁気特性を得ることができる。例えば、20μm以下の粒径の粒子を多く含めば、高周波用途の磁心に好適なFe基ナノ結晶合金粉末が得られ、20μm超40μm以下の粒径の粒子を多く含めば、高い初透磁率μi及び優れた直流重畳特性を有する磁心に好適なFe基ナノ結晶合金粉末を得られやすい。
[4]磁心
(1)磁心用粉末
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末は、それ単独で、磁心用粉末として用いることができる。また、本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末と、さらに他の軟磁性材料の粉末との混合粉末にすることで、それぞれの異なる磁気的特徴を活用・補完し、磁心として用いた場合に、磁心損失の増加、透磁率の低下を抑えながら、重畳特性を改善する磁心用粉末とすることもできる。
他の軟磁性材料の粉末としては、Fe系非晶質合金粉末や、純鉄、Fe-Si、Fe-Si-Crの結晶質の金属系軟磁性材料の粉末等が挙げられる。
(2)磁心の作製
Fe基ナノ結晶合金粉末に、シリコーン樹脂等のバインダーと、有機溶剤を加えて、混錬し、造粒した後、有機溶剤を蒸発させて顆粒とする。前記顆粒をプレス金型に充填し、プレス成型して成形体とする。成形体を加熱し、バインダーを硬化して磁心を得る。
バインダーとしては、他に、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、水ガラス等などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。磁心用粉末とバインダーとの混合物に、必要に応じて、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を混ぜても良い。油圧プレス成形機等で1MPa~2GPa程度の成形圧力で所定の形状に成形する。次いで、成形体を300℃~微細結晶化温度Tx1未満の温度で、1時間程度で熱処理して、成形歪みを除去するとともにバインダーを硬化させて磁心を得る。この場合の熱処理雰囲気は不活性雰囲気でも酸化雰囲気でも良い。得られる磁心は、円環状や、矩形枠状等の環状体であってもよいし、棒状や板状、更に複雑な形状であっても良く、その形態は目的に応じて様々に選択することができる。
磁心用粉末とバインダーとを含む混合物中にコイルを埋没させて一体成形しても良い。例えばバインダーに熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を適宜選択すれば、射出成形等の公知の成形手段で容易にコイルを封止したメタルコンポジットコア(コイル部品)とすることができる。
いずれの場合も、得られる磁心は磁気特性に優れたものと成り、インダクタ、ノイズフィルタ、チョークコイル、トランス、リアクトルなどに好適に用いられる。
(3)飽和磁束密度Bs
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末は、飽和磁束密度Bsが1.45T以上であることが好ましい。さらに好ましくは1.47T以上であり、さらに好ましくは1.48T以上であり、さらに好ましくは1.50T以上である。なお、飽和磁束密度Bsは、磁場Hを800kA/mまで印加して得られたB-HループでのBの最大値とする。また、VSM(振動試料型磁束計)で、磁場Hを800kA/mまで印加して得られたM-Hループ(磁化曲線)での飽和磁化Msから算出しても良い。
(4)コアロス
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末を用いて作製した磁心は、周波数2MHz、磁束密度30mTの条件で、コアロスが10000kW/m未満であることが好ましい。より好ましくは、9500kW/m以下であり、さらに好ましくは9000kW/m以下である。
(5)直流重畳特性
本実施形態のFe基ナノ結晶合金粉末を用いて作製した磁心に、絶縁被覆導線を所定のターン数で巻回した後、導線の2端を、LCRメータ及び直流電流源に接続することで、各重畳電流におけるインダクタンスLを測定できる。磁心形状から、磁路長及び断面積を算出し、前記インダクタンスLから、透磁率μを求めることができる。直流重畳電流を流さない場合、初透磁率μi(磁場強度H=0A/m)を測定できる。また、磁場強度H=10kA/mの直流磁場が発生する重畳電流では、透磁率μ10kを測定できる。
本実施形態の磁心において、磁心の透磁率μ10kは、12.5以上が好ましく、12.8以上がより好ましく、13.5以上がより好ましい。μ10k/μi(増分透磁率Δμともいわれる指標)は、0.88以上が好ましく、0.89以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましい。初透磁率μiは、9.0以上が好ましく、10.0以上がより好ましく、11.0以上がさらに好ましく、12.0以上がさらに好ましく、13.0以上がさらに好ましく、14.0以上がさらに好ましく、14.5以上がさらに好ましく、15.0以上がさらに好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(1) 実施例1~5及び比較例1
Fe基合金組成物として、表1に示す合金A~Fの合金組成になるように、純鉄、フェロボロン、フェロシリコン等の各元素原料を配合し、誘導加熱炉で加熱し、融点以上として溶融した合金溶湯を、特許文献3に記載の急冷凝固装置(ジェットアトマイズ装置)を用いて、急冷凝固させ、合金粉末を得た。フレームジェットの推定温度は1300~1600℃、水の噴射量は4~5リットル/分で行った。
示差走査熱量計(DSC)によって測定(昇温速度20℃/分)した、第1の発熱ピークが現れる温度Tx1(微細結晶化温度)と第2(高温側)の発熱ピークが現れる温度Tx2も表1に示す。
得られた合金粉末を目開き32μmの篩いで分級した。篩を通過したそれぞれの合金粉末の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-920)を用いて評価した。それぞれの合金粉末の平均粒径d50は、表2に示す値であった。また積算頻度90体積%に対応する粒子径であるd90も表2に示した。
X線回折(XRD)測定の結果、実施例1~5の合金粉末は、アモルファス相と微細結晶相の(Fe-Si)bccピークとの混合組織からなることを確認した。なおFeBのピークは、確認できなかった。ここで、(Fe-Si)bccピークとは、前述の(Fe-Si)bcc相(110面)の回折ピークのことであり、FeBのピーク(2θ=50°近傍、及び67°近傍)はそれぞれFeBの(002面)の回折ピーク、及び(022面)と(130面)とが合成された回折ピークのことである。
比較例1の合金Fの合金粉末は、前記XRD測定によりアモルファス相であることを確認した。またFeBのピークは確認できなかった。
前記の分級した合金A~Fの合金粉末を、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)により、500倍で観察した結果、視野内の合金粉末は概ね球状であった。ここで概ね球状とは、最大径を最小径で除した数値が1.25以下の卵形状などを含んだ形状を意味する。
Figure 0007524664000001
Figure 0007524664000002
実施例1~5および比較例1の合金粉末を、合金粉末と反応をしないアルミナ製の容器にいれ、300~400℃の間を平均昇温速度0.1~0.2℃/秒で昇温し、保持温度400℃で30分保持し、その後、室温まで約1時間で降温することにより熱処理を行い、Fe基ナノ結晶合金粉末を得た。この熱処理は、バッチ式の電気炉を使用し非酸化性雰囲気中で行った。
<Fe基ナノ結晶合金粉末の評価>
得られた、実施例1~5、比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末について、その断面を観察した。また、X線回折測定(XRD)で、回折パターンから、(Fe-Si)bccピーク(2θ=53°近傍)の半値幅(ラジアン角度)を求め、Scherrerの式により平均結晶粒径を求めた。
図1、2は実施例2のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図1では、図中、右下の黒いバーの長さが100nmである。図2は、図1の拡大図であり、図中、右下の黒いバーの長さが50nmである。図2においては不明瞭だが、直接観察されるTEM像では粒径が10~50nmの、ほぼ球状の形態が観察できる。
図3は、実施例2のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンである。また、図10に、実施例2のFe基ナノ結晶合金粉末のX線回折パターンを示す。なお、図10には、比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末のX線回折パターンも示す。図10において、上側が実施例2であり、下側が比較例1である。実施例2では、FeBのピークはノイズレベルでほとんど見られない。実施例2は、FeB相が無く、微細結晶相とアモルファス相の混相となっていることがわかる。
また、Scherrerの式により求めた実施例2のFe基ナノ結晶合金粉末の平均結晶粒径Dは22nmであった。
実施例1,3~5のFe基ナノ結晶合金粉末も、実施例2と同様に、微細結晶組織が得られており、FeBは観察されなかった。実施例2と同様に、Scherrerの式により求めた実施例1,3~5の微細結晶合金粉末の平均結晶粒径Dは、それぞれ30nm、22nm、26nm及び25nmであった。
比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末のScherrerの式により求めた平均結晶粒径は23nmであった。
比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)像を図7,8に示す。図7では、図中、右下の黒いバーの長さが100nmである。図8は、図7の拡大図であり、図中、右下の黒いバーの長さが50nmである。また。図9に、比較例1のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンを示す。これによれば、鮮明なパターンが観察され、結晶粒の粗大化が見込まれる。
また、図10に示すように、比較例1では、FeBのピークが見られる。(Fe-Si)bcc相(110面)の回折ピークの強度(100%)に対して、FeBの(002面)の回折ピークの強度は、6.4%であった。
実施例1~5及び比較例1においては、X線回折測定(XRD)は以下の装置及び測定条件で行った。
装置:
株式会社リガク製RINT2500PC
測定条件:
X線源:CoKα(波長λ=0.1789nm)
走査軸:2θ/θ
サンプリング幅:0.020°
スキャンスピ-ド:2.0°/分
発散スリット:1/2°
発散縦スリット:5mm
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.3mm
電圧:40kV
電流:200mA
また実施例1~5及び比較例1の各Fe基ナノ結晶合金粉末の飽和磁束密度Bsは、理研電子株式会社製のVSM(振動試料型磁束計)で、磁場Hを800kA/mまで印加して得られたM-Hループ(磁化曲線)での飽和磁化Msと、表1に示した合金A~Fの真密度から算出した。
得られた結果を纏めて表3に示す。
Figure 0007524664000003
実施例1~5の飽和磁束密度Bsは、1.48~1.54Tと高い。一方、Nbを含まない比較例1も1.55Tと高い飽和磁束密度を有する。実施例1~5は、アモルファス形成能を改善するためにFeをNbで置換したにも関わらず、飽和磁束密度Bsの減少は最小限に抑えられ、比較例に対して95%以上の値が得られている。
<Fe基ナノ結晶合金粉末を用いた磁心の磁気特性の測定>
Fe基ナノ結晶合金粉末(実施例1~5及び比較例1)と、シリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン製H44)及びエタノールとを、合金粉末100:シリコーン樹脂5:エタノール5.8の質量比とし、混錬後、エタノールを蒸発させて顆粒とし、圧力1MPaでプレス成型し、外径13.5mm×内径7mm×高さ2mmの磁心形状の成形体を得た。その後、300℃で樹脂を加熱硬化して測定用の磁心とした。
その磁心に一次側と二次側とで、それぞれ18ターンの巻線を行った。岩崎通信機株式会社製のB-Hアナライザ(SY-8218)によって、周波数0.5MHz、1MHz、2MHzの3点、磁束密度30mTの条件でコアロスを測定した。表4に、その測定結果を示す。
また、前記磁心に30ターンの巻線を行った。アジレント・テクノロジー社製4284A:LCRメータ、及び同社製4184A:Bias Current Sourceを使って、0A~10.5Aの範囲で直流電流を重畳させた。印加電圧1V、周波数100kHzの条件で、電流値0A及び10.5Aの重畳電流(IDC=0A及び10.5A)におけるインダクタンスL(H)を求めた。10.5Aの直流電流の重畳により磁場強度H=10kA/mの直流磁場が発生する。
磁心の寸法形状から、磁路長(m)及び断面積(m)を算出した。
透磁率μ=(L(H)×磁路長(m))/(4π×10-7×断面積(m)×(巻数:30ターン))の式を用いて、透磁率μを求めた。なお、(4π×10-7)は、真空の透磁率μ(単位:H/m)である。
条件IDC=0AのインダクタンスLの測定値より、初透磁率μiを求め、条件IDC=10.5Aの測定値より、透磁率μ10kを求めた。初透磁率μi、透磁率μ10k、及び透磁率μ10kを初透磁率μiで除した値:μ10k/μiを表4に示す。
Figure 0007524664000004
実施例1~5では、初透磁率μi(100kHz)が14.16~15.25であった。また、実施例1~5のμ10k(100kHz)は12.96~13.57、μ10k/μi(100kHz)も0.89~0.92であり、比較例1と同等の結果を得た。一方、コアロスは比較例1と比べて実施例1~5の何れも小さく、比較例1は、周波数2MHzでのコアロスが10890kW/mであり、10000kW/mを超えているが、実施例1~5では、10000kW/m未満の値が得られた。実施例1~5では、9000kW/m以下のコアロスが得られている。
実施例1~5のコアロスが比較例1よりも小さい原因は、実施例1~5では、FeB化合物などの結晶磁気異方性が高い組織の含有率が低いことに起因して、比較例1よりも大幅に低くなっていると予想される。
以上述べたように、本発明によるFe基ナノ結晶合金粉末は、アモルファス形成能を改善するためにFeをNbで置換したにも関わらず、1.45T以上の高い飽和磁束密度Bsが得られ、周波数0.5kHzから2MHz、磁束密度30mTの条件で、コアロスの低い磁心が得られた。
(2)実施例6,7、比較例2
Fe基合金組成物として、表5に示す合金G,Hの合金組成になるように、純鉄、フェロボロン、フェロシリコン等の各元素原料を配合し、誘導加熱炉で加熱し、融点以上として溶融した合金溶湯を、特許文献3に記載の急冷凝固装置(ジェットアトマイズ装置)を用いて、急冷凝固させ、合金粉末を得た。フレームジェットの推定温度は1300~1600℃、水の噴射量は4~5リットル/分で行った。
示差走査熱量計(DSC)によって測定した、第1の発熱ピークが現れる温度Tx1と第2の発熱ピークが現れる温度Tx2も表5に示す。
得られた合金G,Hの合金粉末と、前記合金Fの合金粉末とを目開き53μmの篩いで分級した。篩を通過したそれぞれの合金粉末の平均粒径d50は、表6に示す値であった。また積算頻度90体積%に対応する粒子径であるd90も表6に示した。なお、いずれの評価も実施例1~5、比較例1で用いた評価装置及び測定条件で行っている。
X線回折(XRD)測定の結果、実施例6,7の合金粉末は、アモルファス相と微細結晶相の(Fe-Si)bcc相との混合組織からなることを確認した。なおFeBのピークは、確認できなかった。
比較例2の合金Fの合金粉末は、前記XRD測定により微細結晶相とアモルファス相の一部にFeB相が析出した組織であることを確認した。
前記の分級した合金G~Fの合金粉末を、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)により、500倍で観察した結果、視野内の合金粉末は概ね球状であった。
Figure 0007524664000005
Figure 0007524664000006
実施例6,7および比較例2の合金粉末を、合金粉末と反応をしないアルミナ製の容器にいれ、300℃~400℃まで平均昇温速度0.1~0.2℃/秒で昇温し、保持温度400℃で30分保持し、その後、室温まで約1時間で降温することにより熱処理を行い、Fe基ナノ結晶合金粉末を得た。この熱処理は、バッチ式の電気炉を使用し非酸化性雰囲気中で行った。
<Fe基ナノ結晶合金粉末の評価>
得られた、実施例6,7、比較例2のFe基ナノ結晶合金粉末について、その断面を観察したところ、粒径が10~50nmの、ほぼ球状の形態が観察できた。
また、X線回折測定(XRD)で、回折パターンから、(Fe-Si)bccピーク(2θ=53°近傍)の半値幅(ラジアン角度)を求め、Scherrerの式により平均結晶粒径を求めた。評価は実施例1~5、比較例1で用いた評価装置及び測定条件で行った。
図4,5に、実施例7のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。図4は、図中、右下の黒いバーの長さが100nmであり、図5は、図4の拡大図であり、図中、右下の黒いバーの長さが50nmである。また、図6に、実施例7のFe基ナノ結晶合金粉末の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した電子回折パターンを示す。
Scherrerの式により求めた実施例6(合金G)、実施例7(合金H)のFe基ナノ結晶合金粉末の平均結晶粒径Dはともに23nmであった。また、比較例2のFe基ナノ結晶合金粉末の平均結晶粒径は24nmであった。
実施例6、7のFe基ナノ結晶合金粉末ではFeBは観察されなかった。比較例2では、X線回折測定(XRD)でFeBのピークが見られた。(Fe-Si)bcc相(110面)の回折ピークの強度(100%)に対して、FeBの(002面)の回折ピークの強度は、3.5%であった。
また、実施例6,7及び比較例2のFe基ナノ結晶合金粉末の飽和磁束密度Bsは飽和磁化Msをもとに算出した。
得られた結果を纏めて表7に示す。
Figure 0007524664000007
実施例6、7の飽和磁束密度Bsは、アモルファス形成能を改善するためにFeをNb、Moで置換したにも関わらず、1.53T、1.57Tと高かった。
<Fe基ナノ結晶合金粉末を用いた磁心の磁気特性の測定>
Fe基ナノ結晶合金粉末(実施例6,7及び比較例2)と、リコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン製H44)及びエタノールとを、合金粉100:シリコーン樹脂5:エタノール5.8の質量比として混錬後、エタノールを蒸発させて顆粒とし、圧力1MPaでプレス成型し、外径13.5mm×内径7mm×高さ2mmの成形体を得た。その後、300℃で樹脂を加熱硬化させて測定用の磁心とした。
その磁心を用い、コアロス(kW/m)を測定した。また、電流値0A及び10.5Aの重畳電流(IDC=0A及び10.5A)におけるインダクタンスL(H)を求めた。測定条件IDC=0AのインダクタンスLの値より、初透磁率μiを求め、IDC=10.5AのインダクタンスLの値より、透磁率μ10kを求めた。表8に、その測定結果を示す。
Figure 0007524664000008
実施例6,7では、初透磁率μi(100kHz)がともに15.6であり、μ10k(100kHz)はそれぞれ13.8、14.0であり、μ10k/μi(100kHz)は0.89、0.90であった。り、いずれも比較例2よりも高い初透磁率μiとなった。コアロスは比較例2と比べて小さく、実施例6、7の何れも実施例1~5よりも小さいコアロスが得られている。
特に実施例6ではNb量を他の実施例の半分以下にしていて、飽和磁束密度Bsが高い。実施例7はM元素としてMoを使用しているが、Nbを使用する実施例2と比較して、飽和磁束密度Bs、初透磁率μiが高く、小さいコアロスが得られていて、軟磁気特性改善効果が高い。

Claims (6)

  1. 合金組成:Fe100-a-b-c-d-e-fCuSiCrSn(ここで、MはNb、Moの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、原子%で、0.6≦a≦1.8、2.0≦b≦10.0、11.0≦c≦17.0、0≦d≦2.0、0.01≦e≦1.5、及び0<f<1.0を満たす。)を有し、Feが77原子%以上であるFe基合金組成物。
  2. 前記Crの量が0.1≦d≦2.0である、又は前記Mの量が0.1≦f<1.0である請求項1に記載のFe基合金組成物。
  3. 請求項1または2に記載のFe基合金組成物からなる粉末であって、
    レーザー回折法によって求められる、粒子径と小粒子径側からの積算頻度との関係を示す積算分布曲線において、積算頻度50体積%に対応する粒子径である平均粒径d50が30μm以下である、Fe基合金組成物の粉末。
  4. 請求項3に記載のFe基合金組成物の粉末であって、
    合金組織中に平均結晶粒径が10~50nmの(Fe-Si)bcc相の微細結晶粒を20体積%以上有する、Fe基合金組成物の粉末。
  5. 請求項3または4に記載のFe基合金組成物の粉末を用いた磁心。
  6. コアロス(2MHz,30mT)が10000kW/m未満である、請求項5に記載の磁心。
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