本発明は、強化ガラスおよびその製造方法に関し、特に薄膜化合物太陽電池の基板(基材、カバーガラスの双方を含む)に好適な強化ガラスおよびその製造方法に関する。
薄膜化合物太陽電池は、ガラス基板(基材)上に電極層、光電変換層、バッファ層等を積層した太陽電池セルを有しており、太陽電池セルは、ガラス基板(カバーガラス)で保護されている。近年、薄膜化合物太陽電池は、光電変換効率が徐々に向上しているが、単結晶、多結晶シリコン太陽電池の光電変換効率に未だ及んでいないのが実情である。
薄膜化合物太陽電池として、Cu(In1−x,Gax)Se2等のCIS系材料を使用したCIS系太陽電池が有望であり、CIS系太陽電池は、理論的な光電変換効率が単結晶シリコン太陽電池よりも高いことが知られている。また、CIS系太陽電池は、光電変換層の厚さを数μmにすることができるため、部材コストおよび製造コストを低廉化することができる。
ところで、500〜550℃の熱処理により、ガラス基板上にCIS系薄膜を製膜すれば、CIS系太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
一般的に、CIS系太陽電池用ガラス基板には、高い機械的強度が要求される。ガラス基板を強化処理すると、ガラス基板の機械的強度を高めることができる。
しかし、高温で強化ガラスを熱処理すると、圧縮応力が消失し、熱処理前の機械的強度を維持できなくなる。圧縮応力の消失を防止するためには、強化ガラスの耐熱性を向上させる必要があるが、強化ガラスの耐熱性を向上させると、高温粘度が上昇しやすくなり、溶融性が低下しやすくなる。具体的には、ガラスを化学強化するためには、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を導入する必要があるが、アルカリ金属酸化物を導入すると、耐熱性が低下しやすくなる。一方、アルカリ金属酸化物の含有量を低下させると、耐熱性は向上するが、イオン交換性能が低下することに加えて、溶融性が低下しやすくなる。
そこで、本発明は、高温、例えば500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れた強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
本発明者は、種々の検討を行った結果、強化ガラスのガラス組成範囲を下記のように規制すれば、高温で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性を向上できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50〜80%、Al2O3 4〜16%、B2O3 0〜5%、Na2O 0.1〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.5〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.05〜2であることを特徴とする。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中のSiO2、Al2O3、B2O3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を所定範囲に規制している。このようにすれば、イオン交換性能、耐熱性、溶融性を高いレベルで両立することができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成において、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を0.05〜2に規制している。このようにすれば、各種特性の低下を防止した上で、歪点を高めることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にAs2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にSb2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のSb2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス組成中のFの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
第二に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 8〜14%、B2O3 0〜5%、Na2O 7〜15%、K2O 1〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 5〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.3〜1.5であることを特徴とする。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、BaOの合量を意味している。また、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O、K2Oの合量を意味している。
第三に、本発明の強化ガラスは、歪点が550℃以上であることを特徴とする。このようにすれば、強化ガラスの耐熱性が向上する。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
第四に、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることを特徴とする。なお、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計で干渉縞の本数とその間隔を観察することで算出することができる。
第五に、本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下であることを特徴とする。ここで、「圧縮応力値の低下率」とは、([熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]−[熱処理後の圧縮応力層の圧縮応力値])/[熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]で計算される値であり、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
第六に、本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることを特徴とする。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
第七に、本発明の強化ガラスは、熱膨張係数(30〜380℃)が40〜100×10−7/℃であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数(30〜380℃)」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。このようにすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等の不具合を防止することができる。
第八に、本発明の強化ガラスは、液相温度が1400℃以下であることを特徴とする。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
第九に、本発明の強化ガラスは、液相粘度が103.0dPa・s以上であることを特徴とする。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
第十に、本発明の強化ガラスは、基板形状を有することを特徴とする。
第十一に、本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板に用いること特徴とする。
第十二に、本発明の強化ガラスは、薄膜化合物太陽電池の基板に用いること特徴とする。
第十三に、本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板に用いることを特徴とする。
第十四に、本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 4〜16%、B2O3 0〜5%、Na2O 0.1〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2であることを特徴とする。
第十五に、本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 4〜16%、B2O3 0〜5%、Na2O 0.1〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料(カレットを含む)を溶融、成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成することを特徴とする。なお、イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO3溶融塩中のKイオンとガラス基板中のNa成分をイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
第十六に、本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することを特徴とする。
本発明の強化ガラスは、その表面近傍に圧縮応力層を有する。ガラスに圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、歪点以下の温度でイオン交換することにより、イオン半径の大きいアルカリイオンをガラスの表面近傍に導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、所望の機械的強度を得ることができる。また、風冷強化法等の物理強化法とは異なり、化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、強化処理後にガラス基板を切断しても、ガラス基板が容易に破損することがない。
本発明の強化ガラスにおいて、ガラス組成範囲を上記のように規制した理由を下記に示す。なお、以下のガラス組成に関する説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは55〜75%、より好ましくは58〜70%、更に好ましくは60〜70%である。SiO2の含有量が多過ぎると、溶融、成形が困難になることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。一方、SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎ、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
Al2O3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点およびヤング率を高くする成分であり、その含有量は4〜16%である。Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、ガラス基板を成形し難くなる。また、Al2O3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなったり、高温粘度が高くなり、ガラスを溶融し難くなる。一方、Al2O3の含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。Al2O3含有量の下限範囲は7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、10.5%以上、11%以上であり、上限範囲は16%以下、15%以下、14%以下、13.5%以下、13%以下である。
Li2O+Na2O+K2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合があるとともに、高温で熱処理すると、圧縮応力が消失しやすくなる。さらに、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは14%以下である。一方、Li2O+Na2O+K2Oが少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は5%以上、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上である。
Li2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。また、Li2Oは、ヤング率を向上させる成分である。さらに、Li2Oは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い成分である。しかし、Li2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。さらに、Li2Oの含有量が多過ぎると、低温粘度が低下し過ぎて、応力緩和が生じやすくなり、逆に圧縮応力値が低下する場合がある。したがって、Li2Oの含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜1%、更に好ましくは0〜0.5%、特に好ましくは0〜0.1%である。
Na2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分であるとともに、耐失透性を改善する成分である。Na2Oの下限範囲は0.1%以上であり、3%以上、5%以上、6%以上、特に7%以上が好ましく、上限範囲は20%以下であり、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に9%以下が好ましい。Na2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Na2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下する。
K2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分である。また、K2Oは、アルカリ金属酸化物の中では歪点を低下させずに高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果が高い成分である。さらに、K2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。しかし、K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。上記点を考慮すると、K2Oの含有量の上限範囲は15%以下であり、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下が好ましく、下限範囲は0.5%以上、1%以上、1.4%以上、2%以上、3%以上、特に3.5%以上が好ましい。
MgO+CaO+SrO+BaOは、歪点をあまり低下させることなく、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下しやすくなったり、イオン交換性能が低下しやすくなる。したがって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.5〜13%、好ましくは1〜13%、より好ましくは5〜13%、更に好ましくは6〜12%、最も好ましくは8〜12%である。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜3%、最も好ましくは0〜2%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、しかも耐失透性を向上させる成分でもあり、その含有量は0〜13%、好ましくは1〜13%、より好ましくは2〜10%、更に好ましくは3〜10%、特に好ましくは4〜10%である。CaOの含有量が多過ぎると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成のバランスが損なわれて、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。SrOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。特に、SrOの含有量は8%以下(好ましくは5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.2%以下)が望ましい。
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特に、Al2O3の含有量が多いガラス組成系において、ガラスを安定化させて、耐失透性を向上させる効果が高い成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。よって、BaOの含有量の下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、特に1.5%以上が好ましく、上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下が好ましい。
本発明者は、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を所定範囲に規制すれば、密度の上昇、或いは耐失透性の低下を防止した上で、歪点を高めることができることを見出した。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値は0.05〜2、好ましくは0.1〜1.8、より好ましくは0.2〜1.5、更に好ましくは0.3〜1、特に好ましくは0.3〜0.9、最も好ましくは0.4〜0.8である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が上記範囲外になると、上記効果を得難くなる。
本発明の強化ガラスは、上記成分のみでガラス組成を構成してもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を40%まで添加してもよい。
B2O3は、高温粘度、密度を低下させる効果を有し、ガラスを安定化させて、結晶を析出し難くし、液相温度を低下させる効果を有する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。B2O3の含有量が多過ぎると、歪点が低下したり、イオン交換によってガラスの表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
TiO2は、イオン交換性能を向上させる成分であるとともに、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透しやすくなるため、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.1%、最も好ましくは0〜0.05%である。
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させるとともに、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは0〜8%、0〜3%、0〜2.6%、0〜2%、0.1〜1.7%)である。ZrO2の含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高くする効果が大きい成分であるとともに、低温粘度を低下させずに高温粘度を低下させる成分であり、その含有量は0〜6%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
P2O5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下)である。しかし、P2O5の含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下する。
清澄剤としてSnO2、CeO2、Cl、SO3の群から選択された一種または二種以上を0〜3%、好ましくは0.001〜1%、より好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.4%添加することができる。特に、SnO2は、清澄効果の点で好ましく、その含有量は0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%が好ましい。
Nb2O5やLa2O3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると、耐失透性が低下する。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
Co、Ni等の遷移金属酸化物は、ガラスを強く着色させ、ガラスの透過率を低下させる。特に、タッチパネルディスプレイや太陽電池用途の場合、遷移金属酸化物の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれたり、太陽電池の光電変換効率が低下する。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下(好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下)になるように、ガラス原料の使用量を調製することが望ましい。
なお、既述の通り、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。さらに、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にBi2O3を含有しないことが好ましい。「実質的にBi2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のBi2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は550℃以上が好ましく、560℃以上がより好ましく、570℃以上がより好ましく、590℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましく、620℃以上が最も好ましい。歪点は、耐熱性の指標になる特性であり、歪点が高い程、耐熱性に優れ、強化ガラスを熱処理しても、圧縮応力が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換時に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を得やすくなる。歪点を高くするためには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量を低減、或いはアルカリ土類金属酸化物、Al2O3、ZrO2、P2O5の含有量を増加すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は300MPa以上(望ましくは400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に900MPa以上)が好ましい。圧縮応力層の圧縮応力値が高い程、機械的強度が高くなる。一方、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生し、逆に機械的強度が低下する虞がある。また、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、内部の引っ張り応力が極端に高くなる虞があるため、圧縮応力層の圧縮応力値は1300MPa以下とするのが好ましい。なお、ガラス組成中のAl2O3、TiO2、ZrO2、MgO、ZnOの含有量を増加、或いはSrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げると、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、30μm以上が特に好ましく、40μm以上が最も好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷がついても、強化ガラスが破損し難くなる。一方、強化ガラスを切断加工しやすくするために、圧縮応力層の厚みを500μm以下とするのが好ましい。ガラス組成中のK2O、P2O5の含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を上げると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下、60%以下、30%以下、特に10%以下になるのが好ましい。500℃−30分間の熱処理条件で、圧縮応力値の低下率が80%より高いと、500〜550℃の熱処理で機械的強度が低下しやすくなる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上(好ましくは130MPa以上、300MPa以上、500MPa以上、特に800MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上(好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上)になるのが好ましい。熱処理後に、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みが上記範囲外になると、機械的衝撃等により強化ガラスが破損しやすくなる。
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.7g/cm3以下が好ましく、2.65g/cm3以下がより好ましく、2.6g/cm3以下が更に好ましく、2.55g/cm3以下が特に好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO2、P2O5、B2O3の含有量を増加、或いはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO2、TiO2の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、熱膨張係数(30〜380℃)は45〜100×10−7/℃が好ましく、75〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜96×10−7/℃が更に好ましく、80〜90×10−7/℃が特に好ましい。熱膨張係数を上記範囲とすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等を防止することができる。熱膨張係数を上昇させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1620℃以下、1600℃以下、1570℃以下、1540℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融炉等の製造設備に与える負荷が小さくなるとともに、ガラスの泡品位を向上させることができ、結果として、強化ガラスを安価に製造することができる。高温粘度102.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B2O3、TiO2の含有量を増加、或いはSiO2、Al2O3の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1150℃以下、特に1100℃以下が好ましい。液相温度を低下させるには、ガラス組成中のNa2O、K2O、B2O3の含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は103.0dPa・s以上、104.0dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上が好ましい。液相粘度を上昇させるには、ガラス組成中のNa2O、K2Oの含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、5Å以下、特に2Å以下が好ましい。ここで、「表面の平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。ガラスの理論強度は、本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破損に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ない難くなり、ガラス基板が破損し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破損し難くなる。さらに、本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の切断面から破損に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、未研磨で表面精度が良好なガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、板厚が3.0mm以下(望ましくは1.5mm以下、1.0mm、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下)が好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラスは、板厚を薄くしても、破損し難い利点を有している。つまり、ガラス基板の板厚が薄い程、本発明の効果を享受しやすくなる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、研磨処理等を省略しても、表面精度が良好で、且つ薄いガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。既述の通り、本発明の強化ガラスは、500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れているため、本用途に好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすく、膜剥がれ等が生じ難いため、本用途に好適である。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板、特にタッチパネルディスプレイのカバーガラス、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。本発明の強化ガラスは、機械的強度に優れるとともに、生産性に優れているため、本用途に好適である。
本発明のガラスは、430℃のKNO3溶融中でイオン交換したとき、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上(好ましくは500MPa以上、特に600MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上(好ましくは30μm以上、特に40μm以上)になることが好ましい。このような圧縮応力層を得るには、KNO3の温度を400〜550℃、イオン交換時間を2〜10時間(好ましくは4〜8時間)に調製すればよい。
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 4〜16%、B2O3 0〜5%、Na2O 0.1〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2である。本発明のガラスの技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、本発明の強化ガラスの説明の欄に既に記載されている通りである。例えば、本明細書の段落[0029]〜[0051]、[0056]、[0064]における本発明の強化ガラスの説明は、本発明のガラスの説明に読み替えることができる。
本発明の強化ガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 4〜16%、B2O3 0〜5%、Na2O 0.1〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料を溶融、成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成する。本発明の強化ガラスの製造方法の技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、既述、或いは後述の通りであり、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすい性質を有している。
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。例えば、プレス法でガラス基板を成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、強化処理をイオン交換処理で行う。イオン交換処理は、例えば400〜550℃のKNO3溶融塩中にガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
強化処理前にガラスを切断加工してもよいが、製造コストの観点から、強化処理後に強化ガラスを切断加工することが好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜10)および比較例(No.11、12)を示している。なお、表中の「未」の表示は、その特性が未測定であることを意味している。
表1〜3の各試料は次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して基板形状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
なお、未強化ガラスと強化ガラスは、ガラスの表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、全体としてガラス組成が実質的に相違していない。したがって、密度、粘度等の特性値は、未強化ガラスと強化ガラスで実質的に相違しない。
試料No.1〜12の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は、試料No.1については455℃-2時間、試料No.2〜5、11、12については410℃−4時間、試料No.6〜10については440℃-6時間の条件で、KNO3溶融塩中に各試料を浸漬することで行った。次に、各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)で干渉縞の本数とその間隔を観察し、ガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に際し、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
熱処理した後に、上記方法でガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温した。
表1、2から明らかなように、試料No.1〜10は、熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上であり、圧縮応力層の厚みが10μm以上であった。また、試料No.1〜10は、歪点が571℃以上と高いため、熱処理しても、圧縮応力層の圧縮応力値が低下し難く、CIS系太陽電池等の基板を作製する際に圧縮応力が消失し難いと考えられる。さらに、試料No.1〜10は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1650℃以下であるため、溶融性に優れている。
一方、試料No.11は、歪点が高いものの、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1747℃であるため、溶融性が劣っていた。試料No.12は、歪点が460℃であるため、熱処理すると、圧縮応力が消失しやすいと考えられる。
以上の説明から明らかなように、本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。また、本発明の強化ガラスは、これらの用途以外にも、携帯電話、デジタルカメラ、携帯端末(PDA)、タッチパネルディスプレイ等のカバーガラスに好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、高い機械的強度が要求される用途、例えば、窓ガラス、磁気ディスク基板、フラットパネルディスプレイ用基板、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。
本発明は、強化ガラスおよびその製造方法に関し、特に薄膜化合物太陽電池の基板(基材、カバーガラスの双方を含む)に好適な強化ガラスおよびその製造方法に関する。
薄膜化合物太陽電池は、ガラス基板(基材)上に電極層、光電変換層、バッファ層等を積層した太陽電池セルを有しており、太陽電池セルは、ガラス基板(カバーガラス)で保護されている。近年、薄膜化合物太陽電池は、光電変換効率が徐々に向上しているが、単結晶、多結晶シリコン太陽電池の光電変換効率に未だ及んでいないのが実情である。
薄膜化合物太陽電池として、Cu(In1−x,Gax)Se2等のCIS系材料を使用したCIS系太陽電池が有望であり、CIS系太陽電池は、理論的な光電変換効率が単結晶シリコン太陽電池よりも高いことが知られている。また、CIS系太陽電池は、光電変換層の厚さを数μmにすることができるため、部材コストおよび製造コストを低廉化することができる。
ところで、500〜550℃の熱処理により、ガラス基板上にCIS系薄膜を製膜すれば、CIS系太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
一般的に、CIS系太陽電池用ガラス基板には、高い機械的強度が要求される。ガラス基板を強化処理すると、ガラス基板の機械的強度を高めることができる。
しかし、高温で強化ガラスを熱処理すると、圧縮応力が消失し、熱処理前の機械的強度を維持できなくなる。圧縮応力の消失を防止するためには、強化ガラスの耐熱性を向上させる必要があるが、強化ガラスの耐熱性を向上させると、高温粘度が上昇しやすくなり、溶融性が低下しやすくなる。具体的には、ガラスを化学強化するためには、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を導入する必要があるが、アルカリ金属酸化物を導入すると、耐熱性が低下しやすくなる。一方、アルカリ金属酸化物の含有量を低下させると、耐熱性は向上するが、イオン交換性能が低下することに加えて、溶融性が低下しやすくなる。
そこで、本発明は、高温、例えば500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れた強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
本発明者は、種々の検討を行った結果、強化ガラスのガラス組成範囲を下記のように規制すれば、高温で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性を向上できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50〜80%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.05〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中のSiO2、Al2O3、B2O3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を所定範囲に規制している。このようにすれば、イオン交換性能、耐熱性、溶融性を高いレベルで両立することができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成において、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を0.05〜2に規制している。このようにすれば、各種特性の低下を防止した上で、歪点を高めることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にAs2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にSb2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のSb2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス組成中のFの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 8〜14%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜15%、K2O 1〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.3〜1.5である。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、BaOの合量を意味している。また、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O、K2Oの合量を意味している。
本発明の強化ガラスは、歪点が550℃以上であることが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの耐熱性が向上する。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることが好ましい。なお、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計で干渉縞の本数とその間隔を観察することで算出することができる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下であることが好ましい。ここで、「圧縮応力値の低下率」とは、([熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]−[熱処理後の圧縮応力層の圧縮応力値])/[熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]で計算される値であり、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることが好ましい。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
本発明の強化ガラスは、熱膨張係数(30〜380℃)が40〜100×10−7/℃であることが好ましい。ここで、「熱膨張係数(30〜380℃)」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。このようにすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等の不具合を防止することができる。
本発明の強化ガラスは、液相温度が1400℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の強化ガラスは、液相粘度が103.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
本発明の強化ガラスは、基板形状を有する。
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板に用いることが好ましい。
本発明の強化ガラスは、薄膜化合物太陽電池の基板に用いることが好ましい。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板に用いることが好ましい。
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料を溶融し、板厚1.5mm以下の基板形状に成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成することを特徴とする。なお、イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO3溶融塩中のKイオンとガラス基板中のNa成分をイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい。
本発明の強化ガラスは、その表面近傍に圧縮応力層を有する。ガラスに圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、歪点以下の温度でイオン交換することにより、イオン半径の大きいアルカリイオンをガラスの表面近傍に導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、所望の機械的強度を得ることができる。また、風冷強化法等の物理強化法とは異なり、化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、強化処理後にガラス基板を切断しても、ガラス基板が容易に破損することがない。
本発明の強化ガラスにおいて、ガラス組成範囲を上記のように規制した理由を下記に示す。なお、以下のガラス組成に関する説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは55〜75%、より好ましくは58〜70%、更に好ましくは60〜70%である。SiO2の含有量が多過ぎると、溶融、成形が困難になることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。一方、SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎ、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
Al2O3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点およびヤング率を高くする成分であり、その含有量は7〜16%である。Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、ガラス基板を成形し難くなる。また、Al2O3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなったり、高温粘度が高くなり、ガラスを溶融し難くなる。一方、Al2O3の含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。Al2O3含有量の下限範囲は7%以上であり、好ましくは8%以上、9%以上、10%以上、10.5%以上、11%以上であり、上限範囲は16%以下であり、好ましくは15%以下、14%以下、13.5%以下、13%以下である。
Li2O+Na2O+K2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合があるとともに、高温で熱処理すると、圧縮応力が消失しやすくなる。さらに、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは14%以下である。一方、Li2O+Na2O+K2Oが少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上である。
Li2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。また、Li2Oは、ヤング率を向上させる成分である。さらに、Li2Oは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い成分である。しかし、Li2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。さらに、Li2Oの含有量が多過ぎると、低温粘度が低下し過ぎて、応力緩和が生じやすくなり、逆に圧縮応力値が低下する場合がある。したがって、Li2Oの含有量は0〜1%であり、好ましくは0〜0.5%、特に好ましくは0〜0.1%である。
Na2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分であるとともに、耐失透性を改善する成分である。Na2Oの下限範囲は7%以上であり、上限範囲は20%以下であり、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に9%以下が好ましい。Na2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Na2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下する。
K2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分である。また、K2Oは、アルカリ金属酸化物の中では歪点を低下させずに高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果が高い成分である。さらに、K2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。しかし、K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。上記点を考慮すると、K2Oの含有量の上限範囲は15%以下であり、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下が好ましく、下限範囲は0.5%以上、1%以上、1.4%以上、2%以上、3%以上、特に3.5%以上が好ましい。
MgO+CaO+SrO+BaOは、歪点をあまり低下させることなく、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下しやすくなったり、イオン交換性能が低下しやすくなる。したがって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は6.4〜13%、好ましくは6.4〜12%、最も好ましくは8〜12%である。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜3%、最も好ましくは0〜2%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、しかも耐失透性を向上させる成分でもあり、その含有量は0〜13%、好ましくは1〜13%、より好ましくは2〜10%、更に好ましくは3〜10%、特に好ましくは4〜10%である。CaOの含有量が多過ぎると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成のバランスが損なわれて、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。SrOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。特に、SrOの含有量は8%以下(好ましくは5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.2%以下)が望ましい。
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特に、Al2O3の含有量が多いガラス組成系において、ガラスを安定化させて、耐失透性を向上させる効果が高い成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。よって、BaOの含有量の下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、特に1.5%以上が好ましく、上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下が好ましい。
本発明者は、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を所定範囲に規制すれば、密度の上昇、或いは耐失透性の低下を防止した上で、歪点を高めることができることを見出した。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値は0.05〜2、好ましくは0.1〜1.8、より好ましくは0.2〜1.5、更に好ましくは0.3〜1、特に好ましくは0.3〜0.9、最も好ましくは0.4〜0.8である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が上記範囲外になると、上記効果を得難くなる。
本発明の強化ガラスは、上記成分のみでガラス組成を構成してもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を40%まで添加してもよい。
B2O3は、高温粘度、密度を低下させる効果を有し、ガラスを安定化させて、結晶を析出し難くし、液相温度を低下させる効果を有する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。B2O3の含有量が多過ぎると、歪点が低下したり、イオン交換によってガラスの表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
TiO2は、イオン交換性能を向上させる成分であるとともに、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透しやすくなるため、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.1%、最も好ましくは0〜0.05%である。
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させるとともに、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは0〜8%、0〜3%、0〜2.6%、0〜2%、0.1〜1.7%)である。ZrO2の含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高くする効果が大きい成分であるとともに、低温粘度を低下させずに高温粘度を低下させる成分であり、その含有量は0〜6%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
P2O5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下)である。しかし、P2O5の含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下する。
清澄剤としてSnO2、CeO2、Cl、SO3の群から選択された一種または二種以上を0〜3%、好ましくは0.001〜1%、より好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.4%添加することができる。特に、SnO2は、清澄効果の点で好ましく、その含有量は0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%が好ましい。
Nb2O5やLa2O3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると、耐失透性が低下する。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
Co、Ni等の遷移金属酸化物は、ガラスを強く着色させ、ガラスの透過率を低下させる。特に、タッチパネルディスプレイや太陽電池用途の場合、遷移金属酸化物の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれたり、太陽電池の光電変換効率が低下する。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下(好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下)になるように、ガラス原料の使用量を調製することが望ましい。
なお、既述の通り、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。さらに、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にBi2O3を含有しないことが好ましい。「実質的にBi2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のBi2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は550℃以上が好ましく、560℃以上がより好ましく、570℃以上がより好ましく、590℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましく、620℃以上が最も好ましい。歪点は、耐熱性の指標になる特性であり、歪点が高い程、耐熱性に優れ、強化ガラスを熱処理しても、圧縮応力が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換時に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を得やすくなる。歪点を高くするためには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量を低減、或いはアルカリ土類金属酸化物、Al2O3、ZrO2、P2O5の含有量を増加すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は300MPa以上(望ましくは400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に900MPa以上)が好ましい。圧縮応力層の圧縮応力値が高い程、機械的強度が高くなる。一方、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生し、逆に機械的強度が低下する虞がある。また、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、内部の引っ張り応力が極端に高くなる虞があるため、圧縮応力層の圧縮応力値は1300MPa以下とするのが好ましい。なお、ガラス組成中のAl2O3、TiO2、ZrO2、MgO、ZnOの含有量を増加、或いはSrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げると、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、30μm以上が特に好ましく、40μm以上が最も好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷がついても、強化ガラスが破損し難くなる。一方、強化ガラスを切断加工しやすくするために、圧縮応力層の厚みを500μm以下とするのが好ましい。ガラス組成中のK2O、P2O5の含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を上げると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下、60%以下、30%以下、特に10%以下になるのが好ましい。500℃−30分間の熱処理条件で、圧縮応力値の低下率が80%より高いと、500〜550℃の熱処理で機械的強度が低下しやすくなる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上(好ましくは130MPa以上、300MPa以上、500MPa以上、特に800MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上(好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上)になるのが好ましい。熱処理後に、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みが上記範囲外になると、機械的衝撃等により強化ガラスが破損しやすくなる。
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.7g/cm3以下が好ましく、2.65g/cm3以下がより好ましく、2.6g/cm3以下が更に好ましく、2.55g/cm3以下が特に好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO2、P2O5、B2O3の含有量を増加、或いはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO2、TiO2の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、熱膨張係数(30〜380℃)は45〜100×10−7/℃が好ましく、75〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜96×10−7/℃が更に好ましく、80〜90×10−7/℃が特に好ましい。熱膨張係数を上記範囲とすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等を防止することができる。熱膨張係数を上昇させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1620℃以下、1600℃以下、1570℃以下、1540℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融炉等の製造設備に与える負荷が小さくなるとともに、ガラスの泡品位を向上させることができ、結果として、強化ガラスを安価に製造することができる。高温粘度102.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B2O3、TiO2の含有量を増加、或いはSiO2、Al2O3の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1150℃以下、特に1100℃以下が好ましい。液相温度を低下させるには、ガラス組成中のNa2O、K2O、B2O3の含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は103.0dPa・s以上、104.0dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上が好ましい。液相粘度を上昇させるには、ガラス組成中のNa2O、K2Oの含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、5Å以下、特に2Å以下が好ましい。ここで、「表面の平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。ガラスの理論強度は、本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破損に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ない難くなり、ガラス基板が破損し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破損し難くなる。さらに、本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の切断面から破損に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、未研磨で表面精度が良好なガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、板厚が1.5mm以下(望ましくは1.0mm、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下)である。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラスは、板厚を薄くしても、破損し難い利点を有している。つまり、ガラス基板の板厚が薄い程、本発明の効果を享受しやすくなる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、研磨処理等を省略しても、表面精度が良好で、且つ薄いガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。既述の通り、本発明の強化ガラスは、500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れているため、本用途に好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすく、膜剥がれ等が生じ難いため、本用途に好適である。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板、特にタッチパネルディスプレイのカバーガラス、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。本発明の強化ガラスは、機械的強度に優れるとともに、生産性に優れているため、本用途に好適である。
本発明のガラスは、430℃のKNO3溶融中でイオン交換したとき、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上(好ましくは500MPa以上、特に600MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上(好ましくは30μm以上、特に40μm以上)になることが好ましい。このような圧縮応力層を得るには、KNO3の温度を400〜550℃、イオン交換時間を2〜10時間(好ましくは4〜8時間)に調製すればよい。
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。本発明のガラスの技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、本発明の強化ガラスの説明の欄に既に記載されている通りである。例えば、本明細書の段落[0029]〜[0051]、[0056]、[0064]における本発明の強化ガラスの説明は、本発明のガラスの説明に読み替えることができる。
本発明の強化ガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li 2 O 0〜1%、Na2O 7〜20%、K2O 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料を溶融し、板厚1.5mm以下の基板形状に成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成することを特徴とする。本発明の強化ガラスの製造方法の技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、既述、或いは後述の通りであり、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすい性質を有している。
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。例えば、プレス法でガラス基板を成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、強化処理をイオン交換処理で行う。イオン交換処理は、例えば400〜550℃のKNO3溶融塩中にガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
強化処理前にガラスを切断加工してもよいが、製造コストの観点から、強化処理後に強化ガラスを切断加工することが好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1〜3は、試料No.1〜12を示している。なお、表中の「未」の表示は、その特性が未測定であることを意味している。
表1〜3の各試料は次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して基板形状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
なお、未強化ガラスと強化ガラスは、ガラスの表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、全体としてガラス組成が実質的に相違していない。したがって、密度、粘度等の特性値は、未強化ガラスと強化ガラスで実質的に相違しない。
試料No.1〜12の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は、試料No.1については455℃-2時間、試料No.2〜5、11、12については410℃−4時間、試料No.6〜10については440℃-6時間の条件で、KNO3溶融塩中に各試料を浸漬することで行った。次に、各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)で干渉縞の本数とその間隔を観察し、ガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に際し、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
熱処理した後に、上記方法でガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温した。
表1、2から明らかなように、試料No.1〜10は、熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上であり、圧縮応力層の厚みが10μm以上であった。また、試料No.1〜10は、歪点が571℃以上と高いため、熱処理しても、圧縮応力層の圧縮応力値が低下し難く、CIS系太陽電池等の基板を作製する際に圧縮応力が消失し難いと考えられる。さらに、試料No.1〜10は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1650℃以下であるため、溶融性に優れている。
一方、試料No.11は、歪点が高いものの、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1747℃であるため、溶融性が劣っていた。試料No.12は、歪点が460℃であるため、熱処理すると、圧縮応力が消失しやすいと考えられる。
以上の説明から明らかなように、本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。また、本発明の強化ガラスは、これらの用途以外にも、携帯電話、デジタルカメラ、携帯端末(PDA)、タッチパネルディスプレイ等のカバーガラスに好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、高い機械的強度が要求される用途、例えば、窓ガラス、磁気ディスク基板、フラットパネルディスプレイ用基板、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。
本発明は、強化ガラスおよびその製造方法に関し、特に薄膜化合物太陽電池の基板(基材、カバーガラスの双方を含む)に好適な強化ガラスおよびその製造方法に関する。
薄膜化合物太陽電池は、ガラス基板(基材)上に電極層、光電変換層、バッファ層等を積層した太陽電池セルを有しており、太陽電池セルは、ガラス基板(カバーガラス)で保護されている。近年、薄膜化合物太陽電池は、光電変換効率が徐々に向上しているが、単結晶、多結晶シリコン太陽電池の光電変換効率に未だ及んでいないのが実情である。
薄膜化合物太陽電池として、Cu(In1−x,Gax)Se2等のCIS系材料を使用したCIS系太陽電池が有望であり、CIS系太陽電池は、理論的な光電変換効率が単結晶シリコン太陽電池よりも高いことが知られている。また、CIS系太陽電池は、光電変換層の厚さを数μmにすることができるため、部材コストおよび製造コストを低廉化することができる。
ところで、500〜550℃の熱処理により、ガラス基板上にCIS系薄膜を製膜すれば、CIS系太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
一般的に、CIS系太陽電池用ガラス基板には、高い機械的強度が要求される。ガラス基板を強化処理すると、ガラス基板の機械的強度を高めることができる。
しかし、高温で強化ガラスを熱処理すると、圧縮応力が消失し、熱処理前の機械的強度を維持できなくなる。圧縮応力の消失を防止するためには、強化ガラスの耐熱性を向上させる必要があるが、強化ガラスの耐熱性を向上させると、高温粘度が上昇しやすくなり、溶融性が低下しやすくなる。具体的には、ガラスを化学強化するためには、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物を導入する必要があるが、アルカリ金属酸化物を導入すると、耐熱性が低下しやすくなる。一方、アルカリ金属酸化物の含有量を低下させると、耐熱性は向上するが、イオン交換性能が低下することに加えて、溶融性が低下しやすくなる。
そこで、本発明は、高温、例えば500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れた強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
本発明者は、種々の検討を行った結果、強化ガラスのガラス組成範囲を下記のように規制すれば、高温で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性を向上できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層を有する強化ガラスにおいて、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50〜80%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜20%、K2O 3〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.05〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中のSiO2、Al2O3、B2O3、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を所定範囲に規制している。このようにすれば、イオン交換性能、耐熱性、溶融性を高いレベルで両立することができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成において、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を0.05〜2に規制している。このようにすれば、各種特性の低下を防止した上で、歪点を高めることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にAs2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のAs2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にSb2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のSb2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス組成中のFの含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 8〜14%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜15%、K2O 3〜10%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.3〜1.5である。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、BaOの合量を意味している。また、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O、K2Oの合量を意味している。
本発明の強化ガラスは、歪点が550℃以上であることが好ましい。このようにすれば、強化ガラスの耐熱性が向上する。ここで、「歪点」は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値を指す。
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることが好ましい。なお、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計で干渉縞の本数とその間隔を観察することで算出することができる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下であることが好ましい。ここで、「圧縮応力値の低下率」とは、([熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]−[熱処理後の圧縮応力層の圧縮応力値])/[熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値]で計算される値であり、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上であることが好ましい。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温する。
本発明の強化ガラスは、熱膨張係数(30〜380℃)が40〜100×10−7/℃であることが好ましい。ここで、「熱膨張係数(30〜380℃)」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。このようにすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等の不具合を防止することができる。
本発明の強化ガラスは、液相温度が1400℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
本発明の強化ガラスは、液相粘度が103.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
本発明の強化ガラスは、基板形状を有する。
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板に用いることが好ましい。
本発明の強化ガラスは、薄膜化合物太陽電池の基板に用いることが好ましい。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板に用いることが好ましい。
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜20%、K2O 3〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜20%、K2O 3〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料を溶融し、板厚1.5mm以下の基板形状に成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成することを特徴とする。なお、イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO3溶融塩中のKイオンとガラス基板中のNa成分をイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい。
本発明の強化ガラスは、その表面近傍に圧縮応力層を有する。ガラスに圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、歪点以下の温度でイオン交換することにより、イオン半径の大きいアルカリイオンをガラスの表面近傍に導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス基板の板厚が薄くても、所望の機械的強度を得ることができる。また、風冷強化法等の物理強化法とは異なり、化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、強化処理後にガラス基板を切断しても、ガラス基板が容易に破損することがない。
本発明の強化ガラスにおいて、ガラス組成範囲を上記のように規制した理由を下記に示す。なお、以下のガラス組成に関する説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは55〜75%、より好ましくは58〜70%、更に好ましくは60〜70%である。SiO2の含有量が多過ぎると、溶融、成形が困難になることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。一方、SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎ、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。
Al2O3は、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点およびヤング率を高くする成分であり、その含有量は7〜16%である。Al2O3の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、ガラス基板を成形し難くなる。また、Al2O3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなったり、高温粘度が高くなり、ガラスを溶融し難くなる。一方、Al2O3の含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。Al2O3含有量の下限範囲は7%以上であり、好ましくは8%以上、9%以上、10%以上、10.5%以上、11%以上であり、上限範囲は16%以下であり、好ましくは15%以下、14%以下、13.5%以下、13%以下である。
Li2O+Na2O+K2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合があるとともに、高温で熱処理すると、圧縮応力が消失しやすくなる。さらに、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは14%以下である。一方、Li2O+Na2O+K2Oが少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上である。
Li2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分である。また、Li2Oは、ヤング率を向上させる成分である。さらに、Li2Oは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い成分である。しかし、Li2Oの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。さらに、Li2Oの含有量が多過ぎると、低温粘度が低下し過ぎて、応力緩和が生じやすくなり、逆に圧縮応力値が低下する場合がある。したがって、Li2Oの含有量は0〜1%であり、好ましくは0〜0.5%、特に好ましくは0〜0.1%である。
Na2Oは、イオン交換成分であり、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させる成分であるとともに、耐失透性を改善する成分である。Na2Oの下限範囲は7.6%以上であり、上限範囲は20%以下であり、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、特に9%以下が好ましい。Na2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、Na2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。一方、Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低くなり過ぎたり、イオン交換性能が低下する。
K2Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分である。また、K2Oは、アルカリ金属酸化物の中では歪点を低下させずに高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果が高い成分である。さらに、K2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。しかし、K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、K2Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下する傾向がある。上記点を考慮すると、K2Oの含有量の上限範囲は15%以下であり、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下が好ましく、下限範囲は3%以上、特に3.5%以上が好ましい。
MgO+CaO+SrO+BaOは、歪点をあまり低下させることなく、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下しやすくなったり、イオン交換性能が低下しやすくなる。したがって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は6.4〜13%、好ましくは6.4〜12%、最も好ましくは8〜12%である。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜6%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜3%、最も好ましくは0〜2%である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特にアルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い成分であり、しかも耐失透性を向上させる成分でもあり、その含有量は0〜13%、好ましくは1〜13%、より好ましくは2〜10%、更に好ましくは3〜10%、特に好ましくは4〜10%である。CaOの含有量が多過ぎると、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成のバランスが損なわれて、ガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。SrOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。特に、SrOの含有量は8%以下(好ましくは5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.2%以下)が望ましい。
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高める成分であり、特に、Al2O3の含有量が多いガラス組成系において、ガラスを安定化させて、耐失透性を向上させる効果が高い成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下する傾向があることに加えて、密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。よって、BaOの含有量の下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、特に1.5%以上が好ましく、上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、特に3%以下が好ましい。
本発明者は、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値を所定範囲に規制すれば、密度の上昇、或いは耐失透性の低下を防止した上で、歪点を高めることができることを見出した。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値は0.05〜2、好ましくは0.1〜1.8、より好ましくは0.2〜1.5、更に好ましくは0.3〜1、特に好ましくは0.3〜0.9、最も好ましくは0.4〜0.8である。モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が上記範囲外になると、上記効果を得難くなる。
本発明の強化ガラスは、上記成分のみでガラス組成を構成してもよいが、ガラスの特性を大きく損なわない範囲で他の成分を40%まで添加してもよい。
B2O3は、高温粘度、密度を低下させる効果を有し、ガラスを安定化させて、結晶を析出し難くし、液相温度を低下させる効果を有する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。B2O3の含有量が多過ぎると、歪点が低下したり、イオン交換によってガラスの表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
TiO2は、イオン交換性能を向上させる成分であるとともに、高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透しやすくなるため、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.1%、最も好ましくは0〜0.05%である。
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させるとともに、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは0〜8%、0〜3%、0〜2.6%、0〜2%、0.1〜1.7%)である。ZrO2の含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高くする効果が大きい成分であるとともに、低温粘度を低下させずに高温粘度を低下させる成分であり、その含有量は0〜6%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、更に好ましくは0〜1%、最も好ましくは0〜0.1%である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。
P2O5は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする効果が高い成分であり、その含有量は0〜10%(好ましくは3%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下)である。しかし、P2O5の含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下する。
清澄剤としてSnO2、CeO2、Cl、SO3の群から選択された一種または二種以上を0〜3%、好ましくは0.001〜1%、より好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.4%添加することができる。特に、SnO2は、清澄効果の点で好ましく、その含有量は0〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%が好ましい。
Nb2O5やLa2O3等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると、耐失透性が低下する。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
Co、Ni等の遷移金属酸化物は、ガラスを強く着色させ、ガラスの透過率を低下させる。特に、タッチパネルディスプレイや太陽電池用途の場合、遷移金属酸化物の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれたり、太陽電池の光電変換効率が低下する。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下(好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下)になるように、ガラス原料の使用量を調製することが望ましい。
なお、既述の通り、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有しない。さらに、本発明の強化ガラスは、環境的観点から、ガラス組成中に実質的にBi2O3を含有しないことが好ましい。「実質的にBi2O3を含有しない」とは、ガラス組成中のBi2O3の含有量が0.1質量%以下の場合を指す。
本発明の強化ガラスにおいて、歪点は550℃以上が好ましく、560℃以上がより好ましく、570℃以上がより好ましく、590℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましく、620℃以上が最も好ましい。歪点は、耐熱性の指標になる特性であり、歪点が高い程、耐熱性に優れ、強化ガラスを熱処理しても、圧縮応力が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換時に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を得やすくなる。歪点を高くするためには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量を低減、或いはアルカリ土類金属酸化物、Al2O3、ZrO2、P2O5の含有量を増加すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の圧縮応力値は300MPa以上(望ましくは400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に900MPa以上)が好ましい。圧縮応力層の圧縮応力値が高い程、機械的強度が高くなる。一方、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生し、逆に機械的強度が低下する虞がある。また、ガラスの表面近傍に極端に大きな圧縮応力が形成されると、内部の引っ張り応力が極端に高くなる虞があるため、圧縮応力層の圧縮応力値は1300MPa以下とするのが好ましい。なお、ガラス組成中のAl2O3、TiO2、ZrO2、MgO、ZnOの含有量を増加、或いはSrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げると、圧縮応力層の圧縮応力値を高めることができる。
本発明の強化ガラスにおいて、圧縮応力層の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましく、30μm以上が特に好ましく、40μm以上が最も好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷がついても、強化ガラスが破損し難くなる。一方、強化ガラスを切断加工しやすくするために、圧縮応力層の厚みを500μm以下とするのが好ましい。ガラス組成中のK2O、P2O5の含有量を増加、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を上げると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理条件で、圧縮応力層の圧縮応力値の低下率が80%以下、60%以下、30%以下、特に10%以下になるのが好ましい。500℃−30分間の熱処理条件で、圧縮応力値の低下率が80%より高いと、500〜550℃の熱処理で機械的強度が低下しやすくなる。
本発明の強化ガラスは、500℃30分間の熱処理後において、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上(好ましくは130MPa以上、300MPa以上、500MPa以上、特に800MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが5μm以上(好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上)になるのが好ましい。熱処理後に、圧縮応力層の圧縮応力値と厚みが上記範囲外になると、機械的衝撃等により強化ガラスが破損しやすくなる。
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.7g/cm3以下が好ましく、2.65g/cm3以下がより好ましく、2.6g/cm3以下が更に好ましく、2.55g/cm3以下が特に好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO2、P2O5、B2O3の含有量を増加、或いはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO2、TiO2の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、熱膨張係数(30〜380℃)は45〜100×10−7/℃が好ましく、75〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜100×10−7/℃がより好ましく、80〜96×10−7/℃が更に好ましく、80〜90×10−7/℃が特に好ましい。熱膨張係数を上記範囲とすれば、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすくなり、膜剥がれ等を防止することができる。熱膨張係数を上昇させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1620℃以下、1600℃以下、1570℃以下、1540℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。また、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融炉等の製造設備に与える負荷が小さくなるとともに、ガラスの泡品位を向上させることができ、結果として、強化ガラスを安価に製造することができる。高温粘度102.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B2O3、TiO2の含有量を増加、或いはSiO2、Al2O3の含有量を低減すればよい。
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、1150℃以下、特に1100℃以下が好ましい。液相温度を低下させるには、ガラス組成中のNa2O、K2O、B2O3の含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は103.0dPa・s以上、104.0dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上が好ましい。液相粘度を上昇させるには、ガラス組成中のNa2O、K2Oの含有量を増加、或いはAl2O3、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減すればよい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、5Å以下、特に2Å以下が好ましい。ここで、「表面の平均表面粗さ(Ra)」は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法で測定した値を指す。ガラスの理論強度は、本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破損に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。よって、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ない難くなり、ガラス基板が破損し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破損し難くなる。さらに、本発明の強化ガラスにおいて、ガラス基板の切断面から破損に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、未研磨で表面精度が良好なガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、ガラス基板として用いる場合、板厚が1.5mm以下(望ましくは1.0mm、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下)である。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラスは、板厚を薄くしても、破損し難い利点を有している。つまり、ガラス基板の板厚が薄い程、本発明の効果を享受しやすくなる。なお、オーバーフローダウンドロー法で成形すれば、研磨処理等を省略しても、表面精度が良好で、且つ薄いガラス基板を得ることができる。
本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。既述の通り、本発明の強化ガラスは、500〜550℃で熱処理しても、高い機械的強度を維持することができ、且つ溶融性に優れているため、本用途に好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、CIS系薄膜等の部材の熱膨張係数に整合しやすく、膜剥がれ等が生じ難いため、本用途に好適である。
本発明の強化ガラスは、ディスプレイの基板、特にタッチパネルディスプレイのカバーガラス、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。本発明の強化ガラスは、機械的強度に優れるとともに、生産性に優れているため、本用途に好適である。
本発明のガラスは、430℃のKNO3溶融中でイオン交換したとき、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上(好ましくは500MPa以上、特に600MPa以上)、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上(好ましくは30μm以上、特に40μm以上)になることが好ましい。このような圧縮応力層を得るには、KNO3の温度を400〜550℃、イオン交換時間を2〜10時間(好ましくは4〜8時間)に調製すればよい。
本発明のガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜20%、K2O 3〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbOおよびFを含有せず、モル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2であると共に、基板形状であり、その板厚が1.5mm以下であることを特徴とする。本発明のガラスの技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、本発明の強化ガラスの説明の欄に既に記載されている通りである。例えば、本明細書の段落[0029]〜[0051]、[0056]、[0064]における本発明の強化ガラスの説明は、本発明のガラスの説明に読み替えることができる。
本発明の強化ガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを成形し、徐冷することにより製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 55〜70%、Al2O3 7〜16%、B2O3 0〜5%、Li2O 0〜1%、Na2O 7.6〜20%、K2O 3〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 6.4〜13%含有し、実質的にAs2O3、Sb2O3、PbO、Fを含有せず、且つモル比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.1〜2になるように、ガラス原料を溶融し、板厚1.5mm以下の基板形状に成形した後、イオン交換処理を行うことにより、ガラスに圧縮応力層を形成することを特徴とする。本発明の強化ガラスの製造方法の技術的特徴(好適な数値範囲、好適な態様等)は、既述、或いは後述の通りであり、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の強化ガラスの製造方法は、オーバーフローダウンドロー法で基板形状に成形することが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。樋状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形しやすい性質を有している。
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。例えば、プレス法でガラス基板を成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
本発明の強化ガラスの製造方法は、強化処理をイオン交換処理で行う。イオン交換処理は、例えば400〜550℃のKNO3溶融塩中にガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
強化処理前にガラスを切断加工してもよいが、製造コストの観点から、強化処理後に強化ガラスを切断加工することが好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1〜3は、試料No.1〜12を示している。なお、表中の「未」の表示は、その特性が未測定であることを意味している。
表1〜3の各試料は次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して基板形状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
なお、未強化ガラスと強化ガラスは、ガラスの表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、全体としてガラス組成が実質的に相違していない。したがって、密度、粘度等の特性値は、未強化ガラスと強化ガラスで実質的に相違しない。
試料No.1〜12の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は、試料No.1については455℃-2時間、試料No.2〜5、11、12については410℃−4時間、試料No.6〜10については440℃-6時間の条件で、KNO3溶融塩中に各試料を浸漬することで行った。次に、各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)で干渉縞の本数とその間隔を観察し、ガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に際し、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
熱処理した後に、上記方法でガラス表面近傍の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。なお、熱処理に際し、室温から500℃まで5℃/分で昇温し、500℃30分間保持した後、500℃から室温まで10℃/分で降温した。
表1、2から明らかなように、試料No.1〜10は、熱処理前の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上であり、圧縮応力層の厚みが10μm以上であった。また、試料No.1〜10は、歪点が571℃以上と高いため、熱処理しても、圧縮応力層の圧縮応力値が低下し難く、CIS系太陽電池等の基板を作製する際に圧縮応力が消失し難いと考えられる。さらに、試料No.1〜10は、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1650℃以下であるため、溶融性に優れている。
一方、試料No.11は、歪点が高いものの、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1747℃であるため、溶融性が劣っていた。試料No.12は、歪点が460℃であるため、熱処理すると、圧縮応力が消失しやすいと考えられる。
以上の説明から明らかなように、本発明の強化ガラスは、太陽電池の基板、特に薄膜化合物太陽電池の基板、更にはCIS系太陽電池の基板に好適である。また、本発明の強化ガラスは、これらの用途以外にも、携帯電話、デジタルカメラ、携帯端末(PDA)、タッチパネルディスプレイ等のカバーガラスに好適である。さらに、本発明の強化ガラスは、高い機械的強度が要求される用途、例えば、窓ガラス、磁気ディスク基板、フラットパネルディスプレイ用基板、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。