明 細 書 微弱電力によるスぺクトル拡散通信方法及びシステム、 高周波無線機 技術分野
この発明は、 微弱電力を用いてデータの送受信を行うスぺクトル拡散通信方法 及びシステム、 並びに、 高周波無線機に関する。 発明の背景
高周波無線機におけるキャリアの周波数は、 周囲の温度、 部品の個別偏差や経 年変化等によって度々変動する。 このような場合、 受信したキャリアの周波数が 自己のキャリアの周波数とどの程度ずれているかを検出する方法として、 従来、 アンテナを含む無線部からの受信 I F ( I Fは中間周波信号の略、 以下同じ) の 周波数成分を髙速クロックにてカウントし、 その位相変化点を検出する方法が知 られている。 また、 受信したキャリアに対して遅延検波を行い、 遅延検波後の複 素ベースバンド信号の幾何学的処理によって周波数ズレ量を算出する方法もある。 前者の方法では、 受信 I Fの位相変化点を検出するために非常に高速のカウン ト用クロックが必要となる。 そのため、 必然的に通信システム全体の消費電流が 増加する。
後者の方法の場合は、 周波数ズレ量の検出範囲が非常に狭いので、 周波数の精 度が非常に高い局部発振器が必要となる。 すなわち、 複素べ一スバンド信号の幾 何学的処理から求められる周波数ズレ量は、 必然的に広い範囲が検出可能な B P S K変復調方式であっても、 シンポルレ一卜の絶対値の 1 / 2の範囲に限定され てしまう。 そのため、 Q P S Kや QAMといった多値の変復調方式になればなる ほど、 その検出範囲は大幅に狭まり、 低伝送レートのシステムの場合、 より高い 局部発振周波数精度が求められる。 そのため、 微弱電力を用いたスペクトル拡散 通信を行う場合、 従来の手法を採用することはできない。
周波数シンセサイザに補正デ一夕を設定し、 局部発振周波数の調整を行う方法 fcあるが、 このような方法では、 高価な周波数シンセサイザを使用することにな
り、 高周波無線機の小型化を阻むとともに通信システム全体のコストアップをも 招く。
本発明は、 高周波無線機における従来の問題点であった受信したキヤリァの周 波数ズレに対して低コストで対応することができ、 かつ、 法律の規制を受けない 微弱電力であっても通信品質に優れたスぺクトル拡散通信を低コス卜で容易に実 現することができる通信方法及びその方法の実施に適した高周波無線機を提供す ることをその課題とする。 発明の開示
本発明は、 上記の課題を解決する微弱電力によるスぺクトル拡散通信方法を提 供する。
この方法は、 それぞれ法律の規制を受けない微弱電力でスぺクトル拡散通信に より通信しあう一対の高周波無線機の一方を親機、 他方を子機とし、 子機が、 予 め決められた間欠通信タイミングで、 自己に割り当てられた拡散符号を親機に送 信する段階と、 親機が、 子機からの拡散符号を受信したときに受信データに含ま れる信号成分の周波数分析を行うことで子機のキャリア周波数と自己のキャリア 周波数との差分を検出し、 検出した差分が小さくなるように自己のキャリア周波 数を補正するとともに、 前記子機からの拡散符号の受信タイミングに基づいて決 定した間欠通信タイミングで、 自己に割り当てられた拡散符号を子機に送信する 段階と、 親機及び子機が、 それぞれ他方からの拔散符号を受信したときの受信デ —夕の相関値レベルが予め決められた閾値よりも大きい場合に相関があつたと判 定して通信の同期を確立する段階とを有し、 親機と子機との間で通信の同期が確 立するまで拡散符号のみを送信しあう方法である。
この方法によれば、 例えば子機のキヤリァ生成の精度が悪くてキヤリァ周波数 が変動しても、 あるいは親機のキヤリァ周波数と子機のキヤリァ周波数が異なる 場合であっても、 親機の側で自己のキャリア周波数を補正して通信を行うので、 高価な部品等を使用しなくとも簡易にスぺクトル拡散通信を行うことができる。 前記周波数分析は、 好ましくは、 拡散符号を逆拡散したデ一夕に対して行う高 速フーリエ変換処理とする。 これにより、 従来の高速クロックに関する問題が解
消される。
子機との通信を継続する場合、 キャリア周波数の補正は、 最初だけで足りる。 そのため、 親機は、 子機との間で同期を確立するまでは、 受信データに対して補 正前のキヤリアによりキヤリァ復調を行うことでキヤリァ復調デ一夕を得、 この キャリア復調データに対して遅延検波を行うとともに、 遅延検波後のデータと所 定の遅延検波相当の処理により得られた符号とに基づく逆拡散処理を行い、 同期 確立後は前記遅延検波相当の処理により得られた符号の入力を停止するとともに 逆拡散処理前の遅延検波をスキップするようにすることが望ましい。
親機及び子機は、 それぞれ自己に割り当てられた拡散符号を 1周期分の区間だ け送信しあうことにより、 通信相手側に通信の同期を確立させるようにしても良 レ^ 親機及び子機は、 また、 通信の同期を確立した後は、 送信を行うための送信 区間は拡散符号の 1周期分の区間を維持するとともに、 受信するための受信区間 は、 拡散符号の 2周期分 + αの区間とすることにより、 通信相手側からの受信デ —夕が同期保持のためだけのものか、 同期保持後に送られたアプリケ一ションデ 一夕かを見極める。 「ひ」 は見極めに要する時間である。
親機及び子機は、 通信相手側からの受信データに対して拡散符号を周期毎に相 関値を検出し、 検出した相関値が所定値よりも高いときは、 アプリケーションデ —夕であるとの判断のもとで拡散符号の 1周期分づっ受信区間を延ばしていき、 前の周期との相関が所定値よりも低くなつた受信区間で受信を停止するようにす る。 このようにすれば、 予め長い区間アプリケーションデータ用に確保しておく 必要がなくなり、 効率的な通信が可能になる。
本発明は、 また、 上記のスぺクトル拡散通信方法の実施に適した高周波無線機 を提供する。 この高周波無線機は、 通信相手機から法律の規制を受けない微弱電 力の信号を受信する受信手段と、 この受信手段で受信した信号のキヤリァ周波数 に対する自己のキャリア周波数の差分を検出する差分検出手段と、 この差分検出 手段で検出された差分をもとに自己のキャリア周波数を前記受信した信号のキヤ リァ周波数に近づくように補正するキヤリァ周波数補正手段と、 このキヤリァ周 波数補正手段により補正されたキヤリアを媒介として所定の送信用データを前記 通信相手機に送信する送信手段とを有するものである。
前記差分検出手段は、 例えば、 受信した信号をデフォルトのキャリアデータで 復調したキヤリァ復調データに含まれる同期用信号を検出する同期タイミング検 出部を有しており、 この同期タイミング検出部で検出した同期用信号の周波数成 分を解析することにより前記差分を検出するように構成される。 この同期用信号 は、 例えば、 同期確立及び同期保持用に 1周期分だけ送信される、 前記通信相手 機に固有の拡散符号である。
上述したように、 キャリア周波数の補正は、 同期が確立された後は必ずしも必 要ではない。 そこで、 前記同期タイミング検出部は、 例えば、 通信相手機との間 で同期を確立するまでは前記キヤリァ復調データを遅延検波するとともに、 逆拡 散処理用に予め割り当てられた拡散符号を遅延検波処理により得られた差動符号 にて前記遅延検波されたデータを逆拡散する第 1の回路と、 通信相手機との間で 同期が確立された後は前記遅延検波をスキップして前記キヤリァ復調データを逆 拡散する第 2の回路とを選択的に形成するように構成する。
前記差分検出手段は、 より具体的には、 同期確立動作中、 所定の長さ分のキヤ リア復調データを保存する F I F O形式のメモリと、 前記同期タイミング検出部 で通信相手機からの受信データを検出した場合にこのメモリの当該受信データ部 分を保持する制御回路と、 保持した当該受信データに対して逆拡散処理を行う逆 拡散処理回路と、 この逆拡散処理回路により逆拡散処理されたデータに対して高 速フーリエ変換処理を施してそのピーク値を導出し、 導出したピーク値に基づい て当該データにおける前記差分を検出する検出回路とを有するものとする。 また、 前記送信手段は、 前記送信用データの差動符号化を行う差動符号化回路 と、 前記自己に割り当てられた拡散符号を前記差動符号化回路で差動符号化され た送信デー夕で拡散変調する拡散変調部と、 この拡散変調部で拡散変調されたデ 一夕をデジタル変調するデジタル変調回路と、 デジタル変調されたデータをアナ ログデ一夕に変換する D/A変換回路とを有するものとする。 このように構成さ れる送信手段では、 論理ゲート回路でそれを構成しょうとするときの回路構成が 極めて簡略化される利点がある。
本発明は、 また、 それぞれ法律の規制を受けない微弱電力でスぺクトル拡散通 信により通信しあう一対の高周波無線機の一方を親機、 他方を子機とする、 微弱
電力によるスぺクトル拡散通信システムを提供する。
このスペクトル拡散通信システムにおいて、 子機は、 予め決められた間欠通信 タイミングで、 自己に割り当てられた拡散符号 Bを親機に送信するとともに、 親 機からの拡散符号 Aを待ち受ける通信手段を備えている。 また、 親機は、 子機か らの拡散符号 Bを受信したときに受信データに含まれる信号成分の周波数分析を 行うことで子機のキヤリァ周波数と自己のキヤリァ周波数との差分を検出する検 出手段と、 この検出手段で検出した差分が小さくなるように自己のキヤリァ周波 数を補正するキヤリァ周波数補正手段と、 子機からの拡散符号 Bの受信タイミン グに基づいて決定した間欠通信タイミングで自己に割り当てられた拡散符号 Aを 前記キヤリァ周波数補正手段でその周波数が補正されたキヤリァを媒介として子 機に送信する送信手段とを備えている。 さらに、 親機及び子機が、 それぞれ他方 力 の拡散符号を受信したときの受信データの相関値レベルが予め決められた閾 値よりも大きい場合に相関があつたと判定して通信の同期を確立する同期確立手 段とを備えている。 図面の簡単な説明
図 1は、 本実施形態における通信システムにおける高周波無線機 (親機又は子 機) の状態遷移図である。
図 2は、 非同期ステート、 同期保持ステ一ト、 送受信ステートにおける親機及 び子機の動作タイミング説明図である。
図 3は、 親機及び子機として動作可能な高周波無線機の信号処理部の全体構成 図である。
図 4は、 初期受信段階における親機の信号処理部の構成図である。
図 5は、 同期保持状態における親機の信号処理部の構成図である。
図 6は、 子機として動作するときの信号処理部の構成図である。
図 7は、 信号処理部における主要プロックの詳細構成図である。
図 8において、 (a ) は同期タイミング検出部の同期確立前の構成図であり、 ( b ) は同期保持後の構成図である。
図 9は、 キヤリァ周波数ズレ検出部の動作を具体的に示した説明図である。
図 1 0は、 キヤリァデータ生成回路及びキヤリァ周波数補正回路の構成図であ る。
図 1 1は、 相関値検出回路における相関値検出処理の概要を示した図である。 図 1 2は、 子機として動作するときに起動するキャリア復調部の動作説明図で ある。 発明を実施するための最良の形態
以下、 図面を参照して、 本発明の実施形態を説明する。 この実施形態では、 法 律の規制を受けない微弱電力のキャリア (搬送波) を媒介として、 車両に搭載さ れた高周波無線機 (親機) と、 ユーザが携行する高周波無線機 (子機) との間で、 法律の規制を受けない微弱電力によるスペクトラム拡散通信を行う通信システム の例を示す。
<スペクトラム拡散通信の概要 >
まず、 親機と子機との間で行われる本実施形態によるスぺクトラム拡散通信の 概要を図 1及び図 2を参照して説明する。 図 1は、 子機 (あるいは親機) の通信 状態遷移図、 図 2 ( a ) 〜 (d ) は各状態における親機及び子機の送受信夕イミ ング図である。
図 2 ( a ) 〜 (d) において、'「I D L E」 は送受信に使用しない区間、 「送信」 は送信区間、 「受信」 は受信区間である。 これらの図から明らかなように、本実施 形態の通信システムでは、 親機と子機とで、 それぞれ所定の間欠通信タイミング で双方向の通信を行う。 この場合、 親機と子機の拡散符号は、 違うものを使用す る必要がある。 ここでは、 便宜上、 親機の拡散符号を A、 子機の拡散符号を Bと する。
図 1に示されるとおり、 通信状態 (ステート) には、 非同期ステート S T 1、 同期保持ステート S T 2、 送受信ステートの 3つがある。 これらのステートの概 要は、 以下のとおりである。
[非同期ステ一卜 S T 1 ]
親機又は子機が通信範囲内で電源を投入したて若しくは通信範囲外にある、 い わゆる 「非同期」 の状態である。 この状態では、 親機と子機との間では、 通信の
同期は未だ確立していない。 この非同期ステート S T 1では、 図 2 ( a ) に示さ れるように、 子機は、 予め決められた間欠通信タイミングで、 自己に割り当てら れた拡散符号 Bを送信するとともに、 一定間隔の後、 親機に割り当てられている 拡散符号 Aが送られていないかどうかを待ち受ける。 つまり、 間欠送受信状態と なる。 送信区間は、 1データ長分、 すなわち、 拡散符号 1周期分の長さである。 送信区間と受信区間との間、受信区間と次の送信区間との間の時間は、 「ガードタ ィム」 と呼ばれる。 このガードタイムの長さは、 ランダムに設定することができ る。
親機は、 連続受信の状態で、 子機からの拡散符号 Bを待ち受ける。 子機からの 拡散符号 Bを受信できた場合、 親機は、 子機に対して、 自己に割り当てられた拡 散符号 Aを送信する。 なお、 親機にも、 送信区間及び受信区間の間に、 任意のガ —ドタイムが設定される。
親機は、 また、 子機からの拡散符号 Bを受信することで間欠通信タイミングを 決定し、 また、 拡散符号 Bの受信信号成分から子機のキャリア周波数が自己のキ ャリァ周波数とどの位ずれているかを検出するキヤリァ周波数ズレの検出処理を 行い、 検出したズレ量に応じて自己のキャリア周波数を補正する。 従って、 子機 は、 周波数精度、 温度特性を改善するために周波数シンセサイザ及び T C XOな どの部品を用いなくとも、 安価なローカル発振器を用いることができる。
親機及び子機は、 また、 互いの拡散符号が受信できたかどうかを判断するため に、 相関値の確認 (検出) を行う。 親機による相関値の確認は、 連続受信状態の ときに行われる。 他方、 子機による相関値の確認は、 間欠受信の際に行われる。 いずれも、 拡散符号を表す受信データの相関値レベルが、 予め決められた閾値よ りも大きい場合に相関があった、 つまり当該受信デ一タ (拡散符号) を受信でき たと判断し、 同期保持ステートに移行する。
このように、 親機と子機との間で通信の同期が確立するまでは、 拡散符号 A, Bのみを送信することにより、 消費電流の低減化を図っている。
[同期保持ステート S T 2 ]
親機と子機との間で、 それぞれ通信相手の拡散符号の認識が完了している状態 である。 すなわち、 親機は子機の拡散符号 Bを認識し、 他方、 子機は親機の拡散
符号 Aを認識している。 この状態では親機と子機との間で通信の同期が確立し、 この同期 (間欠通信タイミング) を所定のメモリに保持することにより、 親機及 び子機は、 送受信の間欠通信タイミングを維持することができる。 伹し、 個別の 仕様によっては、 任意に間欠通信タイミングを変更することも可能である。
子機は、 引き続き自己に割り当てられた拡散符号 Bを上記の間欠通信タイミン グで送信し、その後、親機からの拡散符号 Aを受信することで、 同期を保持する。 親機も引き続き前ステートで検出した間欠通信タイミングで子機からの拡散符 号 Bを待ち受け、 その後、 拡散符号 Aを送信する。 その際、 キャリア変復調に使 用するキヤリァ周波数は、 前ステ一トにて算出した子機とのキヤリァ周波数ズレ を補正したものを使用する。 同期保持ステート中においても、 親機は、 子機から の拡散符号 Bを受信した際に、 そのキヤリァ周波数のズレ量及び間欠通信タイミ ングのズレ量を検出し続け、 逐次、 親機自己で、 そのズレ量を補正する。 そのた め、 すべてのステートを通して、 子機は、 キャリア周波数の補正及びタイミング の補正などの複雑な処理を行わう必要がなくなり、 その構成を簡略化することが できる。
この同期保持ステートでは、 親機及び子機は、 非同期ステートと同様、 送信時 は、 1データ分 (拡散符号 1周期分) しか送らない。 しかし、 受信時は、 非同期 ステートと異なり、 2データ分 +ひ (拡散符号 2周期分 + )の区間を受信する。 その理由は、 同期保持のためだけのデータ (拡散符号のみ) なのか、 同期保持後 に送られたアプリケーション上のデータなのかを見極めるためである。 他方、 受 信時は、 1データ区間毎に、 そのデータの相関値を検出する。
上記の見極めは、 次のような手順により行うことができる。 すなわち、 同期保 持だけのデータであれば、 1デ一夕目は相関のピークが得られるが、 2データ目 は相関のピークが得られない。 2データ目の相関ピークが無ければ、 同期保持だ けと判断し、 そこで受信を終了する。 もし、 2データ目も相関のピークが得られ れば、 アプリケーション上のデータが来たものとして扱い、 その後も、 1データ づっ受信区間を延ばしていく。 (「送受信ステート」へ以降)上記で示した +ひは、 受信データの相関値を確認する処理時間に相当する。 このような手順を用いるこ とで、 アプリケーション上のデータを待ち受けるために、 そのデータ長分だけ受
信区間を延ばす必要が無く、 消費電流の低減を図ることができる。
[送受信ステート S T 3 ]
「同期保持ステート」 であることを条件として、 親機若しくは子機からデータ の送受信を開始するステートである。 このステートは、 「同期保持ステート」中に、 親機若しくは子機からデータ送受信を行う必要が生じたときに、 保持している同 期 (間欠通信タイミング) に合わせてデータの送受信を行う。親機、子機ともに、 上記のように、 1データ毎に相関値を確認し、 ピーク (閾値以上の値) が得られ れば、 次のデータ分(+ 0!)、 受信区間を延ばす。 送信区間は、 アプリケーション によって区間の上限を決めても良いし、 区間を無制限にしても良い。 また、 定期 的に受け手側からの A C K (受け取り確認信号) を受け取るハンドシェイク処理 を行っても良い。
親機と子機の片方の送信が終了した場合、 「同期保持ステート」に戻り、次の間 欠通信タイミングから同期保持用の拡散符号の送受信を再開する。
<高周波無線機の構成例 >
次に、 上記のような通信を可能にする親機又は子機として動作する高周波無線 機の構成例を説明する。 親機として動作する高周波無線機も、 子機として動作す る高周波無線機も、 共に、 同じ構成のものを使用することができるが、 動作時に 起動する機能ブロックが親機と子機とで多少異なる。 また、 親機は、 同期確立前 と同期保持後とで、 起動する機能ブロックが異なる。
親機及び子機は、 共に、 アンテナを含む無線部のほか、 送信部と受信部の機能 を併有する信号処理部を備えている。 以後の説明では、 便宜上、 高周波無線機又 は信号処理部を親機又は子機と称して説明する。
図 3は、 信号処理部の全体構成図、 図 4は親機として動作する同期確立前の信 号処理部の構成図、 図 5は親機として動作する同期保持後の信号処理部の構成図 である。図 6は子機として動作する信号処理部の構成図である。 さらに、 図 7は、 図 3〜図 6における主要プロックの詳細構成図である。
[送信部]
まず、 親機及び子機について共通となる送信部の構成について説明する。
送信部は、 図 3〜図 6のうち、 主として下部の機能ブロックを構成要素として
含む。 すなわち、 DBPSK変調部 211、 拡散変調部 212、 及び D/A変換 部 213を含んで送信部を構成している。
DBPS K変調部 211は、 送信データの BPS K変調をデジタル的に行うも ので、 例えば図 7右 2段目に示されるように、 差動符号化回路 2111, BPS K変調回路 2112、 波形整形回路 2113及びキヤリァ変復調回路 (キャリア MOD) 2114の機能ブロックを有する。
差動符号化回路 2111は、 高周波無線機が有する制御部 (図示省略) から送 られる送信データの差動符号化を行い、 その出力を拡散回路 212に送出する。 拡散回路 212は、差動符号化された送信デ一夕に対して拡散変調を行う。なお、 差動符号化回路 2111と拡散回路 212とを一つの回路基板上に設ける構成で あっても良い。
BPSK変調回路 2112は、 拡散回路 212から出力された拡散変調信号の レベル変換を行う。 すなわち、 入力される拡散変調信号のレベルは' 0' と' 1' のみのため、 これらを、 それぞれ' 1, と, —1' にレベル変換する。 通信シス テムの一次変復調が BPS K変復調の場合、 データ' 1' と' 0, (' — と' 1 ') のキャリア位相が 180度のため、送信スプリアスが発生しやすい。波形整 形回路 2113は、 前段で' 1' と' —1' にレベル変換した送信データに対し て、 この送信スプリアスを除去することにより波形整形を行う。 キャリア MOD 2114は、 波形整形された送信データに対してキャリアを乗算することにより 変調を行う。 ここで乗算するキャリアデータは、 後述するキャリアデータ生成部 206からのデ一夕であり、 親機として動作する場合、 このデ一夕は、 キャリア 周波数のズレ補正を行ったものとなる。 他方、 子機として動作する場合、 このデ 一夕は、 デフォルトキャリアデータとなる。 これについては、 後述する。
DBPSK変調部 212は、 従来のこの種の BPS K変調部とは異なる特殊な 構成となっている。従来知られている BPS K変調部ないし BPS K変調回路は、 一般的なスペクトラム拡散通信の文献によれば、 送信データ処理 順番として、 (1)差動符号化、 (2)レベル変換、 (3)BPSK (DBPSK) 変調 (キャリア M〇 D)、 (4)拡散変調、 と記述されており、 拡散変調時点では、 すでに送信データは レベル変換されている。 しかし、 このような構成では、 回路部品を I Cチップ化
したときのゲ一ト規模を抑えることはできない。 本実施形態の D B P S K変調部 2 1 2は、 この点を改善し、 極力、 ゲート規模を抑えるために、 拡散変調時は乗 算器ではなく排他的論理和にて処理を行い、多ビット化も極力後段になるように、 上記の順序でブロック配置を行っている。
0/八変換部2 1 3は、 D B P S K変調部 2 1 1から出力されるデ一夕を DZ A変換し、 これを後段の無線部 (図示省略) へ送る。
親機及び子機共に、 送信部は上記のように構成されるが、 その動作は、 親機の 場合と子機の場合とで多少異なる。
すなわち、 親機の場合は、 後述する受信部において、 子機からの同期信号を検 出できた時点で、 次の間欠通信タイミングで同期が確立できた旨を表す同期確立 通知信号を子機に送出する。 同期確立通知信号としては、 拡散符号 Aのみを送出 する。 すなわち、 送信信号は' 1 ' となる。 使用するキャリアとしては、 後述す る受信部で検出した子機のキヤリア周波数ズレ量を補正したものを使用する。 こ うすることで、 子機側では受信したデ一夕をキャリア復調する際に、 子機自己の キャリアデータにて復調することで、 ズレ成分のない復調データを取得すること が可能となる。 親機からの送信タイミングは、 子機一親機間で予め決めておいた タイミングとする。
子機は、 同期信号を送出した後、 一定時間後に親機から拡散符号 Aを待ち受け ており、 親機は、 子機が受信するタイミングに合わせて拡散符号 Aを送出する。
[同期確立前の親機の構成]
次に、 図 3に示される構成の信号処理部において、 同期確立前の親機として動 作するときの構成、 特に受信部の構成を図 4及び図 7を参照して説明する。
受信部は、 主として図 3のほぼ上部の機能ブロックが該当する。 すなわち、 図 示しない無線部からの受信 I Fが、 AZD変換部 (A/D) 2 0 1に入力される。 受信 I Fは、 受信された信号を例えば 4 8 [ k H z ] の周波数に変換したアナ口 グの中間周波信号である。 八 0変換部2 0 1は、 この受信 I Fをデジタル変換 して、 例えば 5ビットの受信データとした後、 キャリア復調部 2 0 2へ選択的に 送る。
なお、 八/0変換部2 0 1は、 親機と子機とで共通であるが、 動作周波数が異
なる。
AZD変換部 2 0 1の出力のキャリア復調部 2 0 2への切り換えは、 図示しな い制御部により行われる。 キャリア復調部 2 0 2は、 受信データからキャリア成 分を除去し、 データ成分を復調するものであるが、 同期確立前の初期受信段階で は、 親機と子機との間のキャリアの周波数成分のズレ量は把握されていない。 そ のため、 キャリア復調部 2 0 2は、 予め定められているデフォルトのキャリアデ 一夕による復調を行うことになる。
デフォルトのキヤリアデ一夕でキヤリァ復調した受信データは、 同期タイミン グ検出部 2 0 5に導かれ、 ここで同期検出がなされる。
同期検出後は、 キャリア周波数ズレ検出部 2 0 4でキャリア周波数ズレ量を検 出し、 検出結果をキャリアデータ生成部 2 0 6に出力する。 キャリアデータ生成 部 2 0 6は、 上記の補正後のキャリアデータを生成し、 これをデフォルトのキヤ リアデ一夕に代えて、 キヤリァ復調部 2 0 2に送る。
なお、 キヤリァ周波数ズレ検出部 2 0 4、 同期タイミング検出部 2 0 5、 キヤ リアデ一夕生成部 2 0 6の構成及び動作については、 後で詳述する。
補正後のキヤリアデ一タを受け取ったキヤリァ復調部 2 0 2は、 子機からの以 後の受信データに対して、 この補正されたキヤリアデ一夕をキヤリァ MOD部 2 0 2 1で乗算することにより、キャリア復調を行う。乗算するキャリアデータは、 9 0度位相の違う 2種類のデータ、 すなわち同相成分 (I成分) と直交成分 (Q 成分) の複素デ一夕である。 このようにしてキャリア復調された受信データは、 高調波除去フィルタ 2 0 2 2で高調波成分がカツ卜された後、 ダウンサンプル部 2 0 2 3に入力される。 ダウンサンプル部 2 0 2 3は、 後段ブロックの処理周波 数に合わせて、 ダウン ·サンプリング処理を行う。 なお、 この処理は、 アプリケ —シヨン、 使用されるシステムによっては、 削除が可能である。
上述したように初期受信段階では、 親機のキヤリァ周波数と子機のキヤリァ周 波数との間にズレがあっても、 親機では、 その補正ができないため、 子機の拡散 符号を受信できたとしても、 キャリア復調後のデータは、 キャリア周波数ズレに 対応する周波数成分が残る。 そこで、 親機は、 初期受信段階では、 AZD変換部 2 0 1の出力をキヤリァ復調部 2 0 2に導き、 さらに、 その出力を同期タイミン
グ検出部 2 0 5に導いて、 ここで検出した同期検出信号に基づいてキャリア周波 数ズレ検出部 2 0 4で周波数のズレ検出処理を行う。
キャリア周波数ズレ検出部 2 0 4におけるズレ検出処理は、 実際には、 同期夕 イミング検出部 2 0 5にて、 子機からの拡散符号が検出できた後、 次回受信時ま でにオフライン処理で行う。 図 7右上に示されるように、 キャリア周波数ズレ検 出部 2 0 4には、 その初段にバッファ (B u f f ) 2 0 4 1が設けられている。 バッファ 2 0 4 1は、 複数のシフトレジスタにより構成されており、 同期タイミ ング検出部 2 0 5にて子機の拡散符号を待ち受けている間、 常にキャリア復調デ —夕をシフトし続けている。
ノ ッファ 2 0 4 1のシフトレジスタ長は (拡散符号長 Xオーバーサンプル数) + αである。 そして、 同期タイミング検出部 2 0 5から子機の拡散符号検出時に 出力される同期検出信号をトリガとし、 バッファ 2 0 4 1のシフトレジスタへの デ一夕シフト処理を停止することで、 その時点でのキャリア復調データをホール ドする。 従って、 上述したシフトレジスタ長の 「ひ」 は、 相関値のピークを検出 し、 同期検出信号を出力するのに要する時間分ということになり、 ホールド後の 最終段から' (拡散符号長 Xオーバーサンプル数) 分のデータが当該受信データと なる。 この時点での受信データは、 まだキャリア周波数ズレ補正されていないた め、 通信相手 (子機) のキャリア周波数ズレ分 (差分) が、 送信された拡散処理 データに対して残っている。
逆拡散回路 2 0 4 2は、 ホールドされた受信データに対して逆拡散処理を施す ことで、 子機との間のキャリア周波数ズレを表す正弦波成分を取り出す。 なお、 逆拡散処理に使用する拡散符号は、 正規の拡散符号である。 F F T回路 2 0 4 3 は、 高速フーリエ演算処理 (F F T) を行うことで、 上述した正弦波の周波数成 分を算出する。 F F T回路 2 0 4 3の入力データもまた複素デ一夕のため、 I成 分、 Q成分の各々に対して F F Tを施す。 I成分のデータと Q成分のデータとは 9 0度位相がずれているため、 その位相のずれる方向で F F Tにおける周波数ズ レのプラス Zマイナスが変わる。 周波数ズレ推定部 2 0 4 4は、 F F Tにより得 られる周波数成分を分析することによりデフォルトのキヤリァ周波数からどのく らいのズレ量であるのかを数値データとして出力する。
なお、 FFTによる検出周波数間隔 Δ f は、 演算ポイント Nを 1, 024個、 演算処理周波数 (I/A t) を 64 [kHz] とすると、 例えば下記式のような 数値となる。
Δ f = 1/ (Δ t XN) =62. 5 [Hz]
1, 024個の演算における乗算器数 Z加算器数は、 F FTのアルゴリズムを 適用したとしても、理論値でそれぞれ 5, 120個/ 10, 240個必要となる。 そのため、 ゲート数低減を図るため、 以下の措置を講ずるのが好ましい。
(1) 使用するデバイスのスペック (常温偏差や温度偏差) や動作環境等より想 定される周波数ズレ量の範囲内のデータに対してのみ F FTを施す。
(2) 有効データ長から次回データ受信時まで数秒の間隔があるため、 乗算器ノ 加算器を繰り返し使用することで、 ゲート数を節減させる。 節減数は、 受信間隔 に応じて定める。
図 9は、 上記のキャリア周波数ズレ検出部 204の動作をより具体的に示した ものである。各段の図(最下段を除く) において、それぞれ縦軸はデ一タレベル、 横軸は時間( t )である。ここでは、子機と親機のキヤリァ周波数比が 8 (子機): 9 (親機) の例を示してある。 最上段の子機側送信拡散コードにおいて、 正の.レ ベルは' 1 '、 負のレベルは, —1' である。子機側のキャリアデ一夕が図 9の 2 段目に示されるものである場合、 DZ A変換された子機側の送信 I F信号は、 図 9の 3段目のように、 データレベルの変化時に、 位相が反転する。
キャリア復調部 202におけるデフォルトキャリアデータは、 図 9の 4段目の ように、 子機のキャリアデ一夕と多少周波数が異なっている (図示の例では、 子 機の方が僅かに高い)。キャリア復調データは、 図 9の 5段目のように、子機と親 機とのキャリア周波数ズレ成分が残ったものとなる。 なお、 図 9の 6段目におけ る縦軸のデータレベルは、 正が' 1'、 負が' — である。
親機における逆拡散後のデ一タは、 図 9の 7段目のように、 受信 I Fとキヤリ アデ一夕の差分の周波数デ一夕となる。 この周波数デ一夕に対して F FT (高速 フーリエ変換) を施すことにより、 図 9最下段のような波形の離散データ列が得 られる。 図 9最下段の横軸は周波数 (f) である。 この離散データ列のピーク値 がデフオルトのキヤリァ周波数からどのくらいのズレ量であるのかを演算処理に
より導出し、 このズレ量を、 数値データとしてキャリアデ一夕生成部 206へ出 力する。
キャリアデータ生成部 206は、 図 7左 3段目に示されるように、 キャリアデ
—夕生成回路 2061、 周波数ズレ補正回路 2062及び正弦波デ一夕テーブル (キャリアデータテーブル) 2063を有する。 正弦波デ一夕テーブル 2063 には、 キヤリァデータを生成するための基礎データとなる正弦波データが格納さ れている。 正弦波データは、 予め正弦波データテ一ブル 2063にその値を持つ ても良いし、 例えば初期動作時に生成して正弦波データテーブル 2063に蓄え るようにしても良い。
キャリアデ一夕生成回路 2061、 キャリア周波数補正回路 2062は、 例え ば図 10のように構成する。 図 10において、 正弦波データテーブル 2063に おけるキャリアデ一夕のテーブル数を T、 周波数ズレ補正感度を Ac c、 ズレ補 正周波数を f de t、デフォルトキヤリァ周波数を f 1F、動作処理周波数を f とす ると、 まず、 キャリア周波数補正回路 2062は、 以下の関係式に従ったキヤリ ァ生成カウント係数 a 1及び係数積算後の除算係数 D、 積算回路のビット上限値 uを導き出す。
a 1 = f 1F. + f de t) c c
D= f SZ (T* Ac c)
u= 1 o g2 ( f s) - 1 o g2 (Ac c)
上記関係式において、 T=128、 Ac c = 2 [Hz] (最小補正周波数単位を 2 [Hz] に設定)、 f d e t = 1 [kHz], f 1F=49. 152 [kHz], f s = 262. 144 [kHz] とすると、 以下のようになる。
a 1=25, 074
D= 1, 024
u = 17
キャリア周波数補正回路 2062で求めた係数 a 1に対して、 キャリアデータ 生成回路 2061は、 処理周波数 (f s) ステップでビット上限値 uにて積算処 理 (カウント処理) を行う。 この積算処理でのオーバーロー分は無視する。 その 後、 積算回路出力を求められた除算係数 Dにて除算する。
この除算処理は、 Dから求まるビットシフト処理を行うことで容易に演算が可 能となる (本例では、 D=l、 24=101Qのため、 10ビットのシフト処理と なる)。
ビットシフト処理後の値が正弦波データのィンデックス値となるので、 このィ ンデックス値に従って、 正弦波データのインデックス値となるので、 このインデ ックス値に従って、 正弦波デ一タテ一ブル 2063からキャリアデータとして取 り出す。
キャリア周波数補正回路 2062で求めたカウント係数 a 1は、 テ一ブリレ化し た正弦波データを取り出すィンデックス値を算出するための係数であり、 ズレ補 正量の増減にて取り出すインデックスの値も変化する。 例えば、 上記の例に対し て、 fdet=0の場合、 a 1=24, 576となる。
この係数にてカウント処理を行うと、 取り出されるィンデックス値の進みは、 fde t=l [kHz] のときよりも遅くなる。 従って、 取り出すキャリアデ一夕 の周波数も低くなる。キャリアデータの範囲は、 D/A (デジタル Zアナログ)、 A/D (アナログ Zデジタル) のビット数に応じた範囲となるが、 送信時の使用 するキャリアデータの場合、 実使用上は、 フルレンジでの使用は不可能なため、 実現可能な範囲内で用意する。
キャリアデータ生成回路 2061で生成したキャリアデータを上述した D BP S K変調部 212及びキヤリァ復調部 202へ送る。
なお、 補正後のキャリアデータも、 90度位相の違う 2種類のデータ、 すなわ ち同相成分 (I成分) と直交成分 (Q成分) の複素デ一夕である。 従って、 実際 の回路構成では、 90度位相の異なる正弦波のキヤリアデ一夕テーブルを別々に 設けるか、 若しくはインデックスデコーダ回路で一つのインデックス値に対して 90度位相の異なるインデックス値を新たに生成するかして、 同相成分、 直交成 分に対応した 2つのキャリアデータを生成する必要がある。 また、 実際の回路で は、 後述するキャリア周波数ズレ検出部 204及び受信データ復号部 207にて 別々にキヤリア周波数ズレが検出されるため、 それぞれの検出値を加筆したもの を上記の f dc tとして補正処理を行うこととなる。
キャリア復調部 202は、 周波数ズレ量を検出した後は、 上記のキャリア生成
部 206から送られた周波数のズレが補正されたキャリアデータと受信データと をキャリア MOD部 2021で乗算することによりキャリア復調を行う。
次に、 同期タイミング検出部 205について詳述する。
同期タイミング検出部 205は、 親機のみの機能プロックであり、 その詳細な 構成例は、 図 7の最下段に示されている。 同期タイミング検出部 205では、 同 期が確立されていない初期受信段階と、同期確立後とで、その動作内容が変わる。 すなわち、 初期受信段階では、 図 8 (a) のように、 キャリア復調部 202から 出力されるキャリア復調後の受信デ一夕が遅延検波回路 2051を経て逆拡散回 路 2052に入力されるが、 同期が保持された状態では、 図 8 (b) のように、 キヤリァ復調後の受信デ一夕が、 遅延検波回路 2051をスキップして逆拡散回 路 2052に入力されるようにする。 この入力の切り換えは、 同期検出信号を受 信した制御部 (図示省略) が行う。
まず、 図 8 (a) のときの動作を説明する。 親機は、 待ち受け状態のときは、 連続受信状態にて子機からの拡散符号を検出する。 但し、 子機からの拡散符号が 受信されたとしても、 前述の通り、 キャリア周波数がズレていた場合、 キャリア 復調後の受信データには差分の周波数成分が残ってしまうため、 そのままでは逆 拡散処理ができない。 よって、 逆拡散回路 2052で逆拡散を行う前に、 遅延検 波回路 2051で遅延検波することで、 ズレ周波数成分の影響を回避する。 遅延 検波時の遅延量は、 その後に行う逆拡散の処理を踏まえ、 拡散符号レート (1チ ップ) とする。
より詳しく説明すると、 同期タイミング検出部 205に入力されるデ一タは、 キャリア復調部 202において複素デ一夕となっている。そのため、逆拡散前に、 遅延検波回路 2051において、 これらの複素データに対して遅延検波を行う必 要がある。 現時点での入力データを I, Q、 1チップ前の入力データを I d、 Q dとすると、 遅延検波回路 2051は、 下記の式の演算処理により遅延検波を行 う。
( I + j Q) * (I d - j Qcl)
= ( I * I d+Q*Qd) + j (Q* I cl - I *Qd)
上式にて算出した I成分デ一夕 (I * I d+Q*Qd)、 Q成分デ一夕 (Q* I
d— I * Q d) をそれぞれ逆拡散回路 2 0 5 2で逆拡散する。 但し、 ここで使用 する拡散符号は、 前段で遅延検波を施していることから、 子機で使用している拡 散符号を用いることはできない。 そのため、 受信と同様に拡散符号に対しても遅 延検波相当の処理を行った符号を逆拡散に用いる。
拡散符号の遅延検波処理は、 例えば、 図示しない制御部からの拡散符号用デー 夕指定により、 ¾散データ生成部 2 0 9及び拡散符号テーブル 2 0 8 (図 3及び 図 4参照) より入力された符号に対して遅延検波処理回路 2 0 5 6で生成された 遅延検波符号を逆拡散用デ一タテーブル 2 0 5 5に記録し、 その符号を逆拡散符 号として逆拡散回路 2 0 5 2に入力する処理である。 受信デ一夕に対して遅延検 波が施されているため、 最初の 1チップ目は不定値となる。 よって、 逆拡散に際 しては、 最初の 1チップ目の拡散符号は含めない。 従って、 例えば拡散符号長が 1 2 8チップの場合は、 差動処理した 2番目から 1 2 8番目までの 1 2 7チップ の拡散符号を逆拡散に用いることになる。
遅延検波処理回路 2 0 5 6の具体的な処理方法は、入力された拡散符号(' 1 ' 若しくは' 0 ')と 1チップ分シフトした符号とで排他的論理和をとることで遅延 検波符号が得られる。 伹し、 この段階では、 まだ, 若しくは' 0, の符号の ため、 逆拡散処理用に' 若しくは, — Γ にレベル変換してから逆拡散用デ 一夕テーブル 2 0 5 5に記録する必要がある。
逆拡散回路 2 0 5 2で逆拡散されたデータは、 相関値検出回路 2 0 5 3に入力 される。 相関値検出回路 2 0 5 3は、 各チップにおけるデータの相関値を検出す るために、 逆拡散後のそれぞれのデータを拡散符号 1周期分加算し、 I成分デー 夕の加算値と Q成分デ一夕の加算値のベクトル和 (= ( I 2 + Q 2)) を求める。 相関があるデータは、 このべクトル和が大きくなるという性質を利用したもので ある。
なお、同期が確立されていないときのデータの相関値を確認する手法としては、 整合フィルタ方式を採用することもできる。 これにより、 ランダムなタイミング で入力される通信相手からの受信データに対して、 瞬時に相関ピーク値の検出が 可能となる。
図 1 2は、 相関値検出回路 2 0 5 3における相関値検出処理の概要を示した図
'であり、 拡散符号長が 1 2 8チップで、 1チップに対して 8倍オーバーサンプル 処理を行う場合の例を示している。 図では I成分に対する相関値出力の例が示さ れている。 図中の破線は、 1チップに対して 8回サンプリングにて相関値の取得 を行う場合の構成が示されている。 a 1 ' 〜a 1 2 8 ' は逆拡散に用いる符号で あり、 固定的に割り当てられている拡散符号 a 1〜 a 1 2 8に遅延検波処理及び レベル変換したものである。
Q成分の相関値出力値についても同様の要領により得られる。 これらの相関値 出力値についてべクトル和を求めることにより相関ピーク値を検出し、 この相関 ピーク値の位置より受信デ一夕列(· * · (1 1〜(1 1 2 8 ) の先頭を算出する (図 1 1下部参照)。
同期タイミング検出回路 2 0 5 4は、 相関値検出回路 2 0 5 3の検出結果から 予め決められた閾値以上のピーク値を検出した場合、 通信相手からの拡散符号が 確認できたものと判断し、 同期検出信号を出力する。 同期検出信号は、 キャリア 周波数ズレ検出部 2 0 4での当該データ範囲の特定、 及び以降の間欠送受信タイ ミングの特定に使用する信号である。 相関値のピーク値のポイント (位置) に対 して、 通信相手からの拡散符号の先頭は拡散符号の 1周期分前になり、 検出精度 この確認プロックの処理周波数をチップレートよりも速い周波数で処理するォ —バーサンプル処理を行うことで、 ノイズに対する受信感度の向上、 及び上記の 先頭検出精度がプラス/マイナスで 1オーバーサンプル間隔に向上させることが 可能となる。
子機との間で同期が確立したときは、 予め決めてある間欠通信タイミングにて 送受信動作を繰り返す。 但し、 間欠通信タイミングは信号処理部のクロックにて 生成するため、 例えば 3 2. 7 6 8 [ k H z ] の水晶振動子を原振に使用してい る場合、 一般的な部品の精度は、 プラス/マイナス 1 0〜2 0 [ pm] 程度と なる。 そのため、 数秒〜数十秒でかなりの時間的なズレが生じる。 そこで、 同期 タイミング検出部 2 0 5 4では、 同期保持後も子機からの受信信号の相関値を検 出し、 時間的なズレが大きくなつた時点で、 逐次同期検出信号を更新する処理を 行う。
次に、 図 8 ( b) に変化したときの同期タイミング検出部 2 0 5の動作を説明 する。
同期が保持された状態では、 既にキャリア周波数ズレを補正しているため、 キ ャリア復調データに対して遅延検波を行う必要がない。 従って、 同期保持のとき には、 図 8 ( b) のように、 遅延検波回路 2 0 5 1をスキップする。 それに伴い、 逆拡散回路 2 0 5 2における拡散符号は、 遅延検波処理を行わない正規の拡散符 号を用いる。
図 3及び図 4に戻り、 AG C部 (A G C) 2 1 4は、 信号処理部へ入力される 受信 I Fのゲイン (振幅) を一定値に保っための制御を行う。 キャリア復調部 2 0 2からの複素データから受信 I Fの振幅値を予め推定し、 振幅を一定値に保つ 閾値を設ける。 なお、 この閾値は親機と子機とではキャリア復調方式が異なる。 この AG C部 2 1 4に入力される複素データの I成分、 Q成分に対して、 各々の 絶対値をとり、 互いを加算する。 その後、 積和演算を行うことにより、 任意の応 答特性を持たせた後、 PWM変調を行う。
[同期保持後の親機の構成]
同期保持後、 親機の構成は図 5のようになる。 このとき、 同期タイミング検出 部 2 0 5の詳細構成は、 図 8 ( b) のように変化している。
同期保持後は、 受信データ復号部 2 0 7が起動する。
受信データ復号部 2 0 7の詳細構成は、図 7右 3段目のようになる。このうち、 親機固有の機能となるのは、 周波数ズレ検出部 2 0 7 1だけで、 それ以外の機能 は親機、 子機共通の処理となる。
この受信データ復号部 2 0 7は、 親機としては、 上述した同期保持ステ一ト S T 2及び送受信ステ一ト S T 3のときのみ起動する。 上記ステート時では既にキ ャリァ周波数ズレ量及び間欠通信タイミングを親機側で把握しているため、 キヤ リア周波数を補正した上で子機からの当該データを受信することになる。
より具体的には、キャリア復調部 2 0 2にてキャリアを分離した受信デ一夕(複 素データ) に対して、 それぞれ逆拡散回路 2 0 7 1で逆拡散処理を行う。 このと き使用する拡散符号は正規のものを使用する。 そして、 逆拡散処理後の受信デー 夕 (複素データ) に対して、 遅延検波回路 2 0 7 4で遅延検波処理を行う。 この
ときの遅延量は、 予め決められた送受信データのデータレート分とする。 遅延検 波後のデータは、キャリア周波数ズレが補正されているため、 同相成分(I成分) のみ、 値を持つ。 従って、 B P S K復調回路 2 0 7 3で遅延検波後のデータの同 相成分のみを確認することで、 受信デ一タから復号データを得ることが可能とな る。
相関値検出回路 2 0 7 5は、 逆拡散処理後のデータと相関値ピーク閾値テ一ブ ル 2 1 0からのデータの相関値を取り、 その結果を出力する。
なお、 周りの環境によっては、 キャリアの周波数ズレが再度発生する可能性も ある。 そのため、 親機として動作する場合は、 連続的、 あるいは定期的に遅延検 波後の受信データをモニタし、 I成分、 Q成分の示す値からその角度を導き出し、 周波数ズレを周波数ズレ検出回路 2 0 7 2で検出する。 その周波数ズレ成分は、 データレートのプラスノマイナス 1 4となる。
既に述べたように、 送信時に差動符号化処理を行っているため、 受信データ復 号部 2 0 7にて受信データを遅延検波処理することにより、 本来のデータが復号 されることになる。同期保持ステ一ト S T 1の動作概要において説明したとおり、 同期保持ステート S T 2、 送受信ステート S T 3では、 受信側にて最低 2ビット のデータを受信し、 その 1ビットづつに対して逆拡散後の相関値を確認する。 1 ビット毎の相関値が予め決められた閾値よりも高い間、 受信区間を延ばす。
受信データ復号部 2 0 7における逆拡散及び相関値確認はスライディング相関 方式を採用している。 この方式を採用することで、 ゲート規模及び消費電流低減 が可能になる。
なお、 親機として動作するときの相関値の確認処理は、 受信デ一タ復号部 2 0 7の他に、 同期タイミング検出部 2 0 5でも行っているが、 判定に使用する閾値 は、 それぞれに違う値を設定する。 その理由は、 同期タイミング検出部 2 0 5で は逆拡散処理前に遅延検波処理を行っているため、 相関値確認時の受信データが 受信デ一夕復号部 2 0 7とは異なっているためである。 よって、 それぞれに応じ た閾値を予め用意する必要がある。
[子機として動作する場合の構成例]
次に、 図 6及び図 7を参照して子機として動作させるときの信号処理部の構成
例、 特に、 受信部の動作について説明する。
上述したように、 子機のキヤリァ周波数と親機のキヤリァ周波数との間にズレ があるときは、 親機側でそのズレを補正し、 補正後のキャリアデータで送信する し、 同期確立及び保持、 つまり間欠通信タイミングの調整も全て親機側で行うた め、 子機は、 同期確立前か同期保持後かを問わず、 簡易な受信処理を行うだけで スぺクトラム拡散通信を行うことができる。
子機は、 自分に設定されている間欠通信タイミングにて送信した後、 一定時間 をおいてから受信処理を行うことになる。 図 6において、 八 0変換器2 0 1で AZD変換された後のキャリアデータ (AZD出力信号) は、 キャリア復調部 2 0 3に入力される。 キヤリァ復調部 2 0 3は、 例えば図 7の左 2段目のように構 成される。 このキャリア復調部 2 0 3の動作は、図 1 2に示されるとおりとなる。
AZD変換器 2 0 1で AZD変換する際のサンプリング周波数及びキヤリァ復 調部での処理周波数を f s、受信 I F信号のキャリア周波数を f I Fとすると、 f s = 4 * f I FX 3 となるように f sを設定する。
こうした場合、 キャリア周波数をアンダ一サンプリングすることになり、 A/ D変換後は、 図 1 2の 2段目のように、 キャリア周波数が f sZ 4となった波形 の信号が得られる。 この A/D出力信号と、 MODデータテ一ブル 2 0 3 1に記 録されている 「1、 1、 — 1、 一 l j (MO Dデータ:図 1 1の 3段目) の 4つの 値とをキャリア MOD 2 0 3 2で繰り返し乗算し、 図 1 1の 4段目に示されるデ 一夕を得る。
このデータのうち、 I , Q成分セレクタ 2 0 3 3にて、 図 1 1の 5、 6段目に 示されるように、 交互に同相成分(I成分)、 直交成分(Q成分) に振り分ける。 どちらかの成分が 1処理周波数分遅れているため、 その遅れ量に応じて振り分け のタイミングを合わせる (図 1 1最下段)。
このようなキャリア復調の手法を実施することにより、 親機での高調波余去の ためのキヤリァデータの乗算などの複雑な処理やデジタルフィルタリング処理の ための高速処理を行う必要が無く、低消費電流動作を実現することが可能となる。 子機として動作する場合、 受信データ復号部 2 0 7は、 上述した周波数ズレ検 出回路 2 0 7 2以外は、 親機として動作場合と同様の動作内容となる。 従って、
子機として使用する場合においても、ゲート規模及び消費電流低減が可能になる。 なお、 子機における相関値の判定に使用する閾値は親機とは違う値を設定する ことが望ましい。
<本実施形態による効果 >
本実施形態の通信システムでは、 親機と子機のキャリア周波数にズレがあった としても、 親機側で、 自己のキャリア周波数を子機側のものに適応させて通信を 行うことができるため、子機側の構成を簡略化することができる。親機は、 また、 広範囲なキャリア周波数ズレの検出及び補正が可能となるため、 子機として、 従 来方式の高周波無線機の様な高精度な局部発振周波数を得るために T C XOや P L Lといった高価な部品を使用する必要がなく、 安価な局部発振器で、 スぺクト ラム拡散通信を実現することが可能となる。
また、 本実施形態の通信システムでは、 F F Tにてキヤリァ周波数ズレの検出 を行うので、 低速のクロックのみでも高精度の検出処理が可能となり、 さらに、 広範囲な周波数で周波数ズレを検出することができるので、 通信システム全体の 低消費電流化、 低コスト化が実現可能となる。