【発明の詳細な説明】
歯のプラク中和作用を有するあめ玉
本発明は、歯のプラク(歯垢)中和作用を有するあめ玉、歯を清潔にするため
のあめ玉の使用、ならびにあめ玉を製造する方法および装置に関する。「あめ玉
」という用語は一般に楕円形の圧縮成形されたあめ、噛みキャンディ、トローチ
、カプセル、錠剤、および類似する体裁をとるものを意味するものと理解された
い。
食物や興奮性飲料(コーヒー、酒類等)を取った後、歯のプラクはその結果生
じる酸によって特に危険な状態になる。特に、糖類は虫歯を発生させかつ進行さ
せるもので、現在では腐蝕病巣は歯の硬い材質に外部から影響を与える経過の結
果生じることが科学的に証明されたと考えられる。口からとった炭水化物が細菌
性歯垢内で醗酵して有機酸になり、それに伴う歯垢のpHの低下が主に虫歯の形
成の重要な原因である。
歯のプラクの酸を中和するため、炭酸ナトリウム、重炭酸塩、およびリン酸ア
ンモニウム等のアルカリ性化合物や尿素などが、炭水化物の醗酵によって形成さ
れる有機酸に対抗するものとして推奨されているが、これらの緩衝剤は塩辛く、
苦みを含むこともあるので使いにくいものであった。
虫歯を機械的に抑制する最も効果的な方法は興奮性飲料や食物を口にする度そ
の後でねり歯磨きと歯ブラシで歯を磨くことである。しかしながら、毎食後また
は食物を口に
する度に常にねり歯磨きと歯ブラシとで歯を磨くことができるわけではない。特
に自宅から離れて旅行中であったり仕事中の場合などには難しい。
EP−525 388は錠剤の製造および組成について述べたもので、特にカ
ルシウムおよびマグネシウムといった薬効成分を含むこの錠剤の味を、わずかに
泡立たせる作用によって改良することを目的としている。US−4 409 2
02は、口臭を隠すまたは中和することを目的とする錠剤またはキャンディを記
載する。その主要有効成分は植物油である。US−5 250 569では、口
からとるアルミニウム化合物の不快な味を避けるため、煉歯磨きとの関連におい
て使用する場合を含めアミノ酸の使用について提案されている。これによってア
ルミニウムを含む特殊な鼻炎用薬剤を製造できると考えられている。同米国特許
のもう1つの目的はアルミニウムについて徐放性作用を生じさせることである。
JP−A−60237947の目的はキャンディについての特殊な外観を固有の
方法で製造することである。最終製品の特殊な外観は空気の泡を封じ込めること
によって得られるが、これは明らかにキャンディに清涼感を与えることを意図し
ている。最後に、JP−A−62132815は、口腔を清潔にしかつ息の臭い
を取除く錠剤の製造を提案している。しかしながら、現状の技術および提案され
ている方法は虫歯の効果的な抑制に適しているとはいえない。
このような状況を背景に、いわゆるプラクを中和するチューイングガムが入手
可能になって久しいが、これは噛む動作によって唾液の分泌を促進しかつ上に述
べた有効成分を含めて、唾液に緩衝作用を起こすかまたは炭水化物の醗酵の間に
生成される酸を中和するものである。これらのチューイングガムは、食後すぐに
使用できかつ少なくとも歯を損傷させる酸をかなりの程度まで中和させることが
できるという利点を有する。これは唾液の分泌を促進して緩衝能力を高め、プラ
クの酸の中和を促進し、届きにくい歯と歯の空間での唾液が行きわたる度合を高
め、口腔からの食物の粒子の除去を改善し、歯のエナメル質の再石灰化を促進す
るpH値を作り出し、または最終的に無機質の含有量を増やしながら唾液の分泌
を促進して再石灰化を促進することによって行なわれる。
このようなチューイングガムは一次的または慢性的に動きが不自由で、一般に
口腔衛生状態が悪い患者にも有効である。また、唾液の分泌が抑制される薬剤を
投与されている場合には上記のようなチューイングガムは口腔衛生状態を改善す
るための有益な道具となり得る。
しかしながら、このプラク中和チューイングガムは、ガムを噛むことが社会的
に受入れ難いとする人が多く、あるいはたとえば義歯、合成樹脂の歯があるなど
の理由で使用できないという問題がある。したがって、本発明の目的は酸性プラ
クの中和を促進して、プラクの存在下での虫歯の
形成を予防または少なくとも抑制する、チューイングガムに代わるものを提供す
ることである。
上記の目的は本発明に従い、請求項1に記載するあめ玉によって達成される。
たとえば上記のチューイングガムから知られている、酸をかなりの程度まで中
和する少なくとも1つの有効成分を含むプラク中和作用を有するあめ玉を提案す
る。
本発明に従うあめ玉の利点は、1つには上に述べたようなチューイングガムに
関する問題がなくなる点である。さらに、チューイングガムの場合含まれる有効
成分は最初の1、2分間強く噛むことによって放出されるが、約2分後にはチュ
ーイングガムから放出される他の有効中和物質は非常に少なくなり、当然中和作
用も減少する。対照的に、あめ玉であれは中和作用のある有効成分の有効量をよ
りよく行きわたらさせ5、6分間作用を持続させることができる。さらに、唾液
の分泌促進についてはチューイングガムを使用した場合とほとんど同様の効果が
得られる。
本発明による有効成分とはアンモニウム塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土
類金属塩類、特にリン酸塩、炭酸塩、炭化水素塩、およびリン酸水素塩等、およ
び尿素または過酸化尿素である。
これら酸中和有効成分の時として塩辛く、石鹸のような、または苦い味を隠す
ため、本発明では好ましくは砂糖の代替品または代用品および甘味料をあめ玉に
添加する。これ
についてはイソマルト(isomalt)、ソルビトール、アセスルファム(acesulfam
)、リカシン(lycasine)、シクラマート、アスパルテーム等を含む甘味料など
が含まれる。
さらに、この酸中和有効成分に添加物としてキシリトールを加えることが有効
なことがわかっていたが、これはキシリトールもプラクの形成に対しある種の抑
制作用、特に上に述べた有効成分と組合せた場合にそのような作用を有するため
である。
上記の物質または有効成分に加えて、本発明のあめ玉は少なくとも1つの担体
と、ペーパーミント味、オレンジ味等の味を出す1つまたはそれ以上のフレーバ
ー剤を含む。
本発明によるあめ玉における酸中和有効成分の割合は、あめ玉の全重量に対し
て、少なくとも0.1重量%で、0.2から15重量%の範囲であることが好ま
しい。しかしながら実際には酸中和有効成分の割合は0.5から3重量%の範囲
にある必要があり、好ましくは1から2.5重量%の範囲であることがわかって
いる。これはこれ以外の割合では苦くて、塩辛いまたは石鹸のような味を「中和
する」ことが難しいためである。
本発明によるあめ玉の好ましい変形例では、リン酸水素二アンモニウムおよび
炭酸水素ナトリウムまたはこれらの混合物を酸中和有効成分として使用すること
を提案する。
あめ玉で歯のプラクを中和したり、中和有効成分を有するあめ玉を提供するこ
とは基本的に新規な着想である。
本発明によるあめ玉の製造では、キャンディを製造するための基本的に既知の
方法を用いるが、キャンディの製造量に対して酸中和有効成分を計量して添加す
る間135℃を超えない温度を選択する。一般に、本発明に必須の有効物質は1
35℃という特定レベルより高い温度では少なくとも部分的に分解したり破壊さ
れることが実験上わかっている。
したがって、本発明では、通常あめ玉を製造するのに使用される装置または装
備を基本とするあめ玉製造用装置または装備を提案する。本発明では、クッキン
グコイル等の調理用容器で、さまざまな基本材料、たとえば担体、水、砂糖代替
物等を約160℃で加熱混合した後、追加架設の冷却器で全体をおよそ130℃
から135℃の温度にまで冷却する。このような装備には一般に提案のような追
加架設の冷却器は含まれていない。この付加的な冷却の後、先に述べた通り、酸
中和有効成分を計量しながら添加する。
本発明のさらに好ましい特徴については、特許請求の範囲の従属項2から従属
項8に記載する。
さてここでデンタル・インスティテュート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ
・チューリッヒ(Dental Institute of the University of Zurich)で本発明に
従って中和用キャンディが一連のテスト被験者に与えられ、キャンディの中和効
果を確認した実験を例に取り発明を詳細に説明する。同大学での実験結果は添付
の図面により、より詳細に
説明されまた確認される。
図1はスクロース醗酵により酸化された歯と歯の間のプラクに対するキャンデ
ィの中和作用を示す図である。
図2は本発明によるあめ玉すなわち中和用キャンディの中和作用と既知の、歯
を清潔にするチューイングガムとを比較する図である。
本発明の出願人は、ディビジョン・オブ・プリベンティブ.デンティストリ、
ペリオダントロジー・アンド・キャリーズ・オブ・ザ・デンタル・インスティテ
ュート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・チューリッヒ(Division of Preven
tive Dentistry,Periodontology and Caries of the Dental Institute of the
University of Zurich)と契約し本発明に従って上記中和キャンディのサンプル
にさまざまな試験を行ない、その歯を保護する特徴およびプラク中和作用につい
て測定した。
使用した中和キャンディのレシピには以下の成分が含まれていた。
中和キャンディのレシピ
試験は8人の健康状態が良好な被験者に対して行なわれた。被験者は以前に行
なわれた試験にも参加しており、研究者は彼らの口腔の生理学的状態について詳
細に把握していた。数年間にわたって得られた10%スクロースでゆすいだ後の
被験者の個々のプラクのpH曲線の平均値は比較のためデンタル・インスティテ
ュートのコンピュータデータベースに保存してある。被験者全員が下顎に遠隔測
定の義歯と、歯間腔にはめられた1つの小型pHガラス電極を取付けられた。
試験用義歯は洗浄して挿入され、被検者は試験の間通常の食習慣を継続するよ
うに指示されたが、下顎についてはいかなる口腔内を清潔にする動作をも行なわ
ないように指示された。被検者は、食物の残り滓を取除くため水でゆすぎ上顎に
ついては歯磨き粉を付けないで歯ブラシを使用す
ることが許可された。義歯を外さないため歯の間に取付けられた電極の膜面上で
のプラクの成長は妨げられない。以下の2つの試験順序で行なわれ、pH値が以
下の2つの試験順序で得られた。一方0.3モル/LI0%スクロースゆすぎ液
または糖を含むキャンディを正の制御として使用した。
試験手順1 図1 分
−パラフィンを噛む 3
−安静期間 4
−モニタ期間 15
−15mlの0.3 mol/Lスクロースでゆすぐ 2
−モニタ期間 15
−628/2あめ玉をなめる 個々
−モニタ期間 30
−水でゆすぐ 2
−パラフィンを噛む 3
−安静期間 4
試験手順2 図2 分
−パラフィンを噛む 3
−安静期間 4
−モニタ期間 15
−15mlの0.3 mol/Lスクロースでゆすぐ 2
−モニタ期間 15
−628/2あめ玉をなめる 個々
−モニタ期間 15
−水でゆすぐ 2
−パラフィンを噛む 3
一安静期間 4
−15mlの0.3 mol/Lスクロースでゆすぐ 2
−モニタ期間 15
−キャンディーダ(Candida)チューイングガムを噛む あめ玉毎
−モニタ期間 15
−水でゆすぐ 2
−パラフィンを噛む 3
−安静期間 4
試験手順1は、プラク中和作用を判定するために行ない、かつ試験手順2は、
本発明によるキャンディのプラク中和作用を中和用チューイングガムの作用と比
較するために行なった。試験手順1については図1にグラフで示し、かつ試験手
順2については図2にグラフで示す。当然8人の被験者各々について対応の図を
準備したが、代表的なもの1つだけを図1および図2に示している。
図1および図2の試験結果によれば、本発明によるキャンディに添加した緩衝
作用のある食品添加物はスクロースでゆすいだ後の炭水化物の醗酵により引起こ
される酸性化したプラクを素早く中和して、スクロースの有害な作用を制限でき
ることがわかる。また、図2は試験に使ったキャンディのプラク中和作用をキャ
ンディーダ(Candida)と
いう名称の既存のチューイングガムの作用と比較している。チューイングガムは
、機械的刺激(噛む動作)によりより高い唾液分泌率を発生するが、あめ玉の場
合、含まれる緩衝物質によって同じ効果を達成することができる。
もちろん、本件のあめ玉または中和作用のあるキャンディを製造するために設
定された上記のレシピは本発明をより詳細に説明しかつ本発明による処方を用い
て試験が行なわれ得ることを示す一例にすぎない。この処方を請求項に示す方法
に従い、変更し、修正しまたは手を加えることができることは明らかである。中
和または洗浄作用を有するあめ玉を用いて、先に述べたチューイングガムを用い
て得られるものと実質的に同じ結果が得られることは基本的に驚くべきことであ
る。あめ玉を口に含むことはチューイングガムの場合に比べてかなり許容される
度合が高いので、少なくとも特定の状況または特定の条件下では食物または興奮
性飲料を口にした後に口腔に形成される酸を中和させる解決策が提供されたと言
える。もちろん、本発明によるあめ玉が歯ブラシで歯を綺麗にするという究極的
な方法に取って代わることはできない。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年3月7日
【補正内容】
請求の範囲
1.酸を中和する有効成分によってプラクを中和するためのあめ玉であって、
アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、特にリン酸塩、炭酸
塩、炭酸水素塩、および/またはリン酸水素塩等といった有効成分のうち少なく
とも1つを含む、あめ玉。
2.酸を中和する有効成分によってプラクを、中和するためのあめ玉であって、
尿素が有効成分として含まれるあめ玉。
3.前記あめ玉が少なくとも1つの砂糖代替品または砂糖代用品および/または
甘味料を含む、請求項1または請求項2のいずれかに記載のあめ玉。
4.前記あめ玉がキシリトールを含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載
のあめ玉。
5.前記あめ玉が少なくとも1つの担体と、味を出すフレーバー剤を1以上含む
、請求項1から請求項4のいずれかに記載のあめ玉。
6.酸中和有効成分の比率があめ玉の全重量に対して、少なくとも0.1重量%
で、好ましくは0.2から15重量%である、請求項1から請求項5のいずれか
に記載のあめ玉。
7.酸を中和する有効成分の比率があめ玉の全重量に対して0.5から3重量%
であり、好ましくは1から2.5重
量%である、請求項1から請求項6のいずれかに記載のあめ玉。
8.最低限リン酸水素二アンモニウムおよび/または炭酸水素ナトリウムが有効
成分として含まれる、請求項1から請求項7のいずれかに記載のあめ玉。
9.あめ玉を製造するのに通常使用される担体、水および砂糖代替品を混合また
は分散させかつ80℃まで加熱して、その後160℃を超える温度で調理し、そ
の後調理した全体を付加的に設けた冷却器で135℃を下回る温度まで冷却し、
単一または複数の酸中和有効成分、たとえばリン酸水素二アンモニウム、炭酸水
素ナトリウム、およびキシリトール等を計量して添加する際に、これらが材料全
体の過度に高い温度によって分解しないようにし、その後フレーバー付けした材
料全体をたとえば鋼鉄のバンド上に広げ冷却して最終的にあめ玉の形にできるよ
うにする、請求項1から請求項8のいずれかに記載のプラク中和用のあめ玉を製
造するための酸中和有効成分の使用。
10.あめ玉を製造する際に通常使用する装備を使用し、同装備が担体、水、砂
糖代替品および他の成分を約160℃で調理しかつ混合する調理用容器の後に、
調理された材料全体を冷却する付加的な冷却器と、その後材料を運んで水分が除
去される真空チェンバと、その後フレーバー剤および酸中和有効成分を加えるい
わゆるインラインミキサとをさらに含む、請求項1から請求項8のいずれかに記
載の
あめ玉を製造する装置。