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JP7648517B2 - 脳機能調整剤、およびこれを含む飲食品 - Google Patents

脳機能調整剤、およびこれを含む飲食品 Download PDF

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Description

本発明は、脳機能調整剤、およびこれを含む飲食品に関する。
コラーゲン加水分解物(以下、「コラーゲンペプチド混合物」とも記す)は、生体に対して様々な生理活性を示すことが公知である。最近、コラーゲンペプチド混合物が脳神経細胞などに対しても生理活性を示し、記憶力などの脳機能を改善する効果(以下、「脳機能改善効果」とも記す)を有することが報告され始めた。たとえば特開2010-105996号公報(特許文献1)は、Gly-Pro-Argで表されるペプチドをはじめとする合計9つのコラーゲン由来ペプチドを含有する神経新生促進剤を開示している。特開2011-111440号公報(特許文献2)は、コラーゲン由来であってGly-Pro-Alaで表されるペプチドに神経新生促進作用があることを開示している。非特許文献1は、魚由来のコラーゲンペプチド混合物を老化モデルマウスに投与することにより、海馬におけるBDNF(脳由来神経栄養因子)の発現量が増加し、もって空間学習記憶能力および受動的回避能力が高まることを報告している。非特許文献2は、ラットを用いた実験においてコラーゲン由来のPro-Hypで表されるジペプチドが、脳脊髄液に移行することにより抗うつ効果を発揮したことを報告している。非特許文献3は、コラーゲン加水分解物が海馬の神経新生を促進したことを報告している。
特開2010-105996号公報 特開2011-111440号公報
Pei Xinrong et al., "Preventive Effect of Marine Collagen Peptide on Learning and Memory Impairment in SAMP8 Mice", Food and Fermentation Industries, 2009, Vol 135(07),p.1-5 永井ら、「コラーゲン由来抗うつペプチドの同定およびその脳脊髄液への移行」、2017年度農芸化学会大会講演要旨集、2017年3月5日、p.997 C.Kakoi et al., "Collagen peptides enhance hippocampal neurogenesis and reduce anxiety related behavior in mice", Biomedical Research 33(5), 2012, p.273-279
上記非特許文献1および非特許文献3に開示された脳機能改善効果、または神経新生作用は、コラーゲン由来のどのようなペプチドによって得られるのかが特定されていない。上記特許文献1に開示された神経新生促進作用は、9つのコラーゲン由来のペプチドのうち、どのペプチドによるのかが特定されていない。上記特許文献2に開示された神経新生促進作用は、ラットの副腎褐色細胞腫由来のPC12細胞を用いた実験から得られた知見であり、脳神経細胞を対象とした実験から得られた知見ではない。さらに上記非特許文献2が開示するPro-Hypは、海馬歯状回における神経新生作用を有することを示唆するが、Pro-Hypによって脳神経細胞が分化および成長することにより脳機能が改善するかどうかについては確認されていない。したがって、未だホルモンなどの生体内シグナル伝達物質を介することなく脳神経細胞に直接作用することによって脳機能改善効果を奏するコラーゲン由来のペプチドは知られておらず、その開発が切望されている。
上記実情に鑑み、本発明は、脳神経細胞に直接作用することにより脳機能改善効果または脳機能低下予防効果の少なくともいずれかを奏するペプチドなどを含む脳機能調整剤、およびこれを含む飲食品を提供することを目的とする。
本発明者らは、脳神経細胞に直接作用することにより脳機能改善効果または脳機能低下予防効果の少なくともいずれかを奏するペプチドなどを含む脳機能調整剤を開発する中で、コラーゲンペプチド混合物に含まれるペプチドのアミノ酸配列のうちGlu-Hyp-Gly(グルタミン酸-ヒドロキシプロリン-グリシン、以下、アミノ酸を一文字で表記する略号を用いて「EOG」とも記す場合がある)に注目した。Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドを含有するコラーゲンペプチド混合物、具体的にはGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドなどを脳神経細胞に作用させた結果、これらが脳神経細胞の分化を促進し、もって脳機能改善効果および脳機能低下予防効果を奏することを知見し、本発明に到達した。本発明は、具体的には以下のとおりである。
本発明に係る脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。
上記ペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体は、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体であることが好ましい。
上記ペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。
上記ペプチドは、その重量平均分子量が315以上10000以下であることが好ましい。
上記脳機能調整剤は、脳機能改善剤または脳機能低下予防剤であることが好ましい。
上記脳機能調整剤は、脳神経細胞の分化促進作用を有することが好ましい。
上記脳機能調整剤は、脳神経細胞の細胞死抑制作用を有することが好ましい。
上記脳機能調整剤は、記憶力または認知機能の改善作用を有することが好ましい。
本発明に係る飲食品は、上記脳機能調整剤を含む。
本発明によれば、脳神経細胞に直接作用することにより脳機能改善効果または脳機能低下予防効果の少なくともいずれかを奏するペプチドなどを含む脳機能調整剤、およびこれを含む飲食品を提供することができる。
図1は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの血漿(試料a)中のEOG量を表すグラフである。 図2は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの脳脊髄液(試料b)中のEOG量を表すグラフである。 図3は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの脳(試料c)中のEOG量を表すグラフである。
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
[脳機能調整剤]
本発明に係る脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。このような特徴を備える脳機能調整剤は、脳神経細胞に直接作用することにより脳神経細胞の分化を促進し、もって脳機能改善効果および脳機能低下予防効果を奏することができる。
<Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体>
上述のとおり脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。本明細書において「アミノ酸」は、特に明示しない限り、L型アミノ酸を意味する。「Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチド」とは、当該ペプチドを構成するアミノ酸配列中に「Glu-Hyp-Gly(グルタミン酸-ヒドロキシプロリン-グリシン)」で表されるアミノ酸配列が1箇所以上含まれていることを意味する。
上記脳機能調整剤において、上記ペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体は、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体であることが好ましい。この場合、脳機能調整剤は、脳神経細胞の分化を促進する作用をより顕著に示すことができる。
上記ペプチドの「塩」は、たとえば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機塩基塩などとして形成されることができる。
上記ペプチドの「化学修飾体」とは、構成単位であるアミノ酸残基が有する遊離の官能基が化学修飾されたペプチドをいう。化学修飾は、たとえばヒドロキシプロリンの水酸基、N末(アミノ末端)側のアミノ酸のアミノ基およびC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸のカルボキシル基に対して実行することができる。化学修飾の具体的手段およびその処理条件は、従来公知のペプチドの化学修飾技術が適用される。このような化学修飾によって、上記ペプチドの化学修飾体は、弱酸性から中性で溶解性が向上する効果、他の有効成分との相溶性が向上する効果などを奏することができる。
たとえばGlu-Hyp-Glyのトリペプチドに対し、ヒドロキシプロリンにおける水酸基の化学修飾として、O-アセチル化などを行うことができる。このO-アセチル化は、たとえば水溶媒中または非水溶媒中で無水酢酸を作用させることによって実行することができる。グリシンにおけるカルボキシル基の化学修飾として、エステル化、アミド化などを行うことができる。上記エステル化は、上記ペプチドをメタノールに懸濁した後、これに乾燥塩化水素ガスを通気することによって実行することができる。上記アミド化は、上記ペプチドにカルボジイミドなどを作用させることによって実行することができる。
さらに上記トリペプチド中の遊離のアミノ基の化学修飾として、メチル化を行うことができる。上記トリペプチド中の遊離の水酸基の化学修飾として、リン酸化および硫酸化の少なくともいずれかを行うことができる。
上記ペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。この場合、原料としてのコラーゲンは、たとえば牛、豚、羊、鶏、ダチョウなどに代表される動物の皮、皮膚、骨、軟骨、腱など、あるいは魚類の骨、皮、鱗などに対して従来公知の脱脂または脱灰処理、抽出処理などを実行することにより得ることができる。さらに上記ペプチドの原料として、ゼラチンを用いることもできる。ゼラチンは、上述のようにして得たコラーゲンを熱水抽出などの従来公知の方法で処理することにより得ることができる。コラーゲンおよびゼラチンは、市販のものを原料として用いることもできる。
上記ペプチドは、上記コラーゲンおよびゼラチンの両方またはいずれか一方に対し、エンド型プロテアーゼおよびエキソ型プロテアーゼの2種以上を組み合わせて加水分解することによって得ることができる。上記ペプチドは、上記の加水分解によって他のコラーゲンペプチドとともに混在するコラーゲンペプチド混合物として得られるが、このコラーゲンペプチド混合物自体、およびこれを部分精製した混合物を本発明に係る脳機能調整剤として用いることができる。さらに、上記コラーゲンペプチド混合物をさらに精製することにより、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドを高純度で得ることができる。上記ペプチドは、コラーゲン由来である場合、後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより得ることが好ましい。
さらに上記ペプチドは、その重量平均分子量が315以上10000以下であることが好ましい。上記ペプチドの重量平均分子量は、より好ましくは315以上5000以下であり、さらに好ましくは315以上2000以下である。上記ペプチドの重量平均分子量が上述した範囲内である場合、脳機能調整剤は、脳神経細胞の分化を促進する作用をより顕著に示し、もって脳機能改善効果および脳機能低下予防効果をより十分に得ることができる。上記ペプチドの重量平均分子量が10000を超える場合、脳機能調整剤は、脳機能改善効果および脳機能低下予防効果が不十分と恐れがある。
上記ペプチドの重量平均分子量は、以下の測定条件の下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実行することにより求めることができる。
機器 :高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(東ソー株式会社製)
カラム:TSKGel(登録商標)G2000SWXL
カラム温度:40℃
溶離液:45質量%アセトニトリル(0.1質量%TFAを含む)
流速 :1.0mL/min
注入量:10μL
検出 :UV214nm
分子量マーカー:以下の5種を使用
Cytochrom C Mw:12000
Aprotinin Mw:6500
Bacitracin Mw:1450
Gly-Gly-Tyr-Arg Mw:451
Gly-Gly-Gly Mw:189。
具体的には、約0.2gの上記ペプチドを含む試料(コラーゲンペプチド混合物)を約100mlの蒸留水に添加し、撹拌した後、0.2μmフィルターを用いてろ過することにより、重量平均分子量を測定する試料(被測定物)を調製する。この被測定物を上述したサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより、上記ペプチドの重量平均分子量を求めることができる。なお、上記ペプチドがGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドである場合、その分子質量を重量平均分子量とすることができる。
<脳機能調整剤の製造方法>
脳機能調整剤に含まれるGlu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、従来公知の液相または固相のペプチド合成方法、あるいはコラーゲンまたはゼラチンを加水分解する方法を用いることにより得ることができる。たとえば上記ペプチドは、効率性の観点から後述するアミノ酸を用いた化学合成方法、あるいは後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより製造することが好ましい。さらに上記ペプチドは、コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法に代えて、1次酵素を省略し2次酵素のみにより酵素処理する方法、1次酵素および2次酵素による酵素処理を同時に行う方法を用いることにより製造することも可能である。
(化学合成方法)
上記ペプチドは、一般的なペプチド合成法を用いて得ることができる。このペプチド合成法としては、固相合成法および液相合成法が公知である。固相合成法には、Fmoc法とBoc法とが知られている。上記ペプチドは、Fmoc法およびBoc法のいずれの方法を用いても得ることができる。以下、ペプチドの固相合成法として、たとえばGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドの合成方法について説明する。
まず表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズを固相として準備する。縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミドを別途準備する。次に、上記アミノ酸配列においてC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸であるグリシンのアミノ基をFmoc(fluorenyl-methoxy-carbonyl)基で保護するとともに、上記縮合剤を用いた脱水反応により上記グリシンのカルボキシル基と上記固相の上記アミノ基とをペプチド結合させる。さらに上記固相を溶媒で洗浄することにより、残存する縮合剤およびアミノ酸を除去した後、上記固相にペプチド結合しているグリシンのアミノ基の保護基を除去(脱保護)する。
続いて、Fmoc基でアミノ基を保護したヒドロキシプロリンを準備し、このヒドロキシプロリンのカルボキシル基と、上記グリシンの脱保護したアミノ基とを上記縮合剤を用いることによりペプチド結合させる。以後、同様の要領で上記ヒドロキシプロリンのアミノ基の脱保護、Fmoc基で保護したグルタミン酸の準備、ならびにこのグルタミン酸と上記ヒドロキシプロリンとをペプチド結合させる反応を実行することにより、上記固相にGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを合成する。最後に、上記グルタミン酸のアミノ基の脱保護を行い、かつ室温にてトリフルオロ酢酸を含む溶液を加えるとともに、一定時間振盪することによって上記固相から上記トリペプチドを切り離す。これにより上記トリペプチドを製造することができる。
(コラーゲンまたはゼラチンを用いた製造方法)
以下、上記ペプチドの製造方法の一例として、コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理することにより、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチド(以下、「特定のペプチド」とも記す)を製造する方法について説明する。
ここでコラーゲンまたはゼラチンを「2段階で酵素処理する」とは、次のことを意味する。すなわち、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断する従来公知の方法により1次酵素処理を実行した後に、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せにより2次酵素処理を実行することをいう。1次酵素処理を実行することにより、コラーゲンペプチド混合物前駆体を得ることができる。さらに2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体から上記特定のペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法について、以下さらに詳述する。
-1次酵素処理-
1次酵素処理で用いる酵素としては、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断することが可能な酵素であれば、特に限定されるべきではなく、任意のタンパク質分解酵素を用いることができる。具体的には、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記チオールプロテアーゼとしては、植物由来のキモパパイン、パパイン、ブロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどを用いることができる。セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどを用いることができる。酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモトリプシンなどを用いることができる。1次酵素処理で用いる酵素としては、本発明に係る脳機能調整剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
1次酵素処理における酵素量としては、たとえばコラーゲンまたはゼラチン100質量部に対し上述した酵素を0.1~5質量部とすることが好ましい。1次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は10分~72時間とすることが好ましい。上記1次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、好ましくは500~10000、より好ましくは500~5000、さらに好ましくは500~2000である。重量平均分子量が上述の範囲にあれば、分子量が適切なペプチドが十分に生成しているといえる。1次酵素処理の後に、必要に応じて酵素を失活させることができる。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。コラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
-2次酵素処理-
2次酵素処理で用いる酵素としては、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せを挙げることができる。ここで本明細書において「アミノペプチダーゼN活性を有する酵素」とは、ペプチド鎖のN末側からアミノ酸を遊離させる働きを有するペプチダーゼであって、N末側から2番目にプロリンあるいはヒドロキシプロリン以外のアミノ酸が存在する場合に作用する酵素をいう。本明細書において「プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素」とは、N末側から3番目がプロリンあるいはヒドロキシプロリンであるペプチドから、N末側の3アミノ酸残基のみを遊離するペプチダーゼをいう。2次酵素処理で用いる酵素も、本発明に係る脳機能調整剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
アミノペプチダーゼN活性を有する酵素としては、たとえばアミノペプチダーゼN(EC3.4.11.2.;T.Yoshimoto et al., Agric. Biol. Chem., 52:217-225(1988))などを挙げることができる。またたとえば、Aspergillus属由来のアミノペプチダーゼN活性を有する酵素を挙げることができる。プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素としては、たとえばプロリルトリぺプチジルアミノペプチダーゼ(EC3.4.14.;A.Banbula et al., J.Biol. Chem., 274:9246-9252(1999))などを挙げることができる。
2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれていなかったペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。具体的には、上記特定のペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。
2次酵素処理における酵素量としては、たとえば上記コラーゲンペプチド混合物前駆体100質量部に対して上述した酵素を0.01~5質量部とすることが好ましい。2次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は1~72時間とすることが好ましい。上記2次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、好ましくは315~10000、より好ましくは315~5000、さらに好ましくは315~2000である。コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量も、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
2次酵素処理は、上述した特定のペプチドを生成することを主たる目的として実行される。このため上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれるペプチドが過剰に加水分解されてしまわないように、2次酵素処理における酵素量、処理温度、処理時間およびpHを調整することが好ましい。これによりコラーゲンペプチド混合物を上述した重量平均分子量の範囲内とすることが好ましい。2次酵素処理の後に、酵素を失活させる必要がある。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。さらに120℃で数秒以上の殺菌処理を行うことが好ましい。また、これに200℃以上の熱をかけて噴霧乾燥させることも可能である。
2次酵素処理では、上記アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の他に、異なる活性を併有する酵素を用いることができ、かつ異なる活性を有する酵素を2種以上併用することもできる。これにより副生成物を分解し除去することが可能となる。この場合において用いる酵素としては、原料となるコラーゲンの種類、1次酵素処理に用いる酵素の種類に応じて適宜選択することが好ましい。上述した異なる活性としては、たとえばプロリダーゼ活性、ヒドロキシプロリダーゼ活性などのジペプチダーゼ活性を挙げることができる。これにより副生成物となるジペプチドなどを分解除去することができる。
さらにアミノペプチダーゼN活性は、基本的にN末端側のアミノ酸を1つずつ遊離させる活性である。このため1次酵素処理によって得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体に分子量が極めて大きいペプチドが含まれる場合、2次酵素処理をアミノペプチダーゼN活性を有する酵素のみで実行したとき、その処理時間が著しく長期化する。このような場合に対応するため、2次酵素処理では、たとえばプロリンのカルボキシル基側を加水分解する活性(プロリダーゼ活性)を有するエンドペプチダーゼであるプロリルオリゴペプチダーゼを用いることができる。これにより2次酵素処理を効率的に行うことができる。
コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法では、1次酵素処理によって比較的分子量の大きなペプチドを生成することができる。このペプチドは、たとえば[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly](X1およびX2≠Hyp)で表されるアミノ酸配列を有することができる。続く2次酵素処理では、上記[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドにアミノペプチダーゼN活性を有する酵素が作用し、N末端のX1が遊離することにより[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが得られる。次に、上記[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドに、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素が2度作用し、グリシンおよびX2が遊離することにより、[Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドが得られる。以上から、特定のペプチドを生成することができる。
-コラーゲンペプチド混合物の精製-
上述した2段階での酵素処理を実行することにより、特定のペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物を製造することができる。上記コラーゲンペプチド混合物には、特定のペプチド以外のペプチド、すなわちGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチド以外のペプチドも含まれているため、必要に応じて精製することが好ましい。この場合の精製方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの各種液体クロマトグラフィーなどを用いることができる。
具体的には、コラーゲンペプチド混合物を以下の操作により精製することができる。すなわち上記コラーゲンペプチド混合物の約2g/10mLをイオン交換カラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)DEAE-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第1ボイドボリューム画分を回収する。次いで、第1ボイドボリューム画分を上記イオン交換カラムとは逆のイオン交換基を有するカラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)SP-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第2ボイドボリューム画分を回収する。
次に、第2ボイドボリューム画分をゲル濾過カラム(たとえば商品名:「セファデックスLH-20」、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に負荷し、30質量%メタノール水溶液で溶出することにより、上記特定のペプチドが含まれる画分を回収する。最後に、この画分に対して逆相カラム(たとえば商品名:「μBondasphere 5μC18 300Åカラム」、ウォーターズ社製)を装填した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む32質量%以下のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配で分画することにより、特定のペプチドを高純度で得ることができる。
<脳機能改善剤または脳機能低下予防剤>
本発明に係る脳機能調整剤は、脳機能改善剤または脳機能低下予防剤であることが好ましい。脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩、もしくはその化学修飾体を含有し、もって後述する[評価試験1]および[評価試験2]で説明するように、脳神経細胞に直接作用することにより脳神経細胞の分化促進作用を示すことができる。これにより脳機能調整剤は、脳機能改善効果および脳機能低下予防効果を奏することができる。したがって脳機能調整剤は、脳機能改善剤として脳機能が低下した患者の治療に用いることができる。脳機能調整剤は、脳機能低下予防剤として加齢などによる脳機能の低下を予防する目的で用いることもできる。
上記脳機能調整剤は、脳神経細胞の分化促進作用を有することが好ましい。さらに脳機能調整剤は、脳神経細胞の細胞死抑制作用を有することが好ましい。脳機能調整剤は、記憶力または認知機能の改善作用を有することも好ましい。脳機能調整剤は、後述する[評価試験1]および[評価試験2]で説明するように、脳神経細胞に直接作用することにより脳神経細胞の分化促進作用を示すことができる。脳機能調整剤は、後述する[評価試験1]および[評価試験2]から、脳神経細胞の細胞死抑制作用を有することも考慮することができる。これらの作用を通じて脳機能調整剤は、記憶力または認知機能の改善作用を奏することができる。
上記脳機能調整剤は、経口的にまたは非経口的に種々の形態で投与することができる。その形態としては、経口的に投与する場合、たとえば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉剤、液剤、懸濁製剤、乳化製剤などの剤型とすることができる。さらに上述した剤型の脳機能調整剤を、飲食品に混合することもできる。
上記脳機能調整剤は、非経口的に投与する場合、たとえば脳内への注入、注射剤、経皮剤、坐剤、点鼻剤および吸入剤などの剤型とすることができる。脳機能調整剤の好ましい剤型としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉剤、脳内へ直接注入するための液剤などを挙げることができる。脳機能調整剤は、たとえば上述したGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを含むが、このトリペプチドは、腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。
上記脳機能調整剤の投与量は、対象者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、製剤の種類などによって異なる。上記脳機能調整剤を経口投与する場合、当該投与量は、たとえば成人1日あたり0.0001~2500mg/kgであることが好ましく、0.0001~500mg/kgであることがより好ましい。上記脳機能調整剤は、その剤型がたとえば錠剤である場合、1錠当たり0.001~80質量%で脳機能調整剤が含まれる錠剤とし、たとえば粉剤である場合、0.001~100質量%で脳機能調整剤が含まれる粉剤とすることができる。上記投与量は、非経口的に投与する場合、その他の形態の製剤によって投与する場合などにおいて、経口投与の場合の投与量を参考にして適宜決めることができる。脳機能調整剤は、1日1~数回に分けて投与することができ、あるいは1~数日に1回投与することもできる。
上記脳機能調整剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、他の有効成分、製剤用の担体などを適宜含有させることができる。他の有効成分として、たとえばドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アスタキサンチン、イチョウ葉エキス、アラキドン酸などを挙げることができる。さらに医薬製剤に製剤化する際に用いる薬学上許容される担体としては、希釈剤、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(乳糖、ショ糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(バレイショデンプン)および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などを挙げることができる。
<用途発明>
本発明に係る脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。脳機能調整剤は、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、たとえばGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドの未知の属性として脳神経細胞の分化促進作用を有し、もって脳機能改善効果または脳機能低下予防効果の少なくともいずれかの効果を得ることができる。換言すれば本発明は、脳機能調整用のGlu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体であるといえる。
[飲食品]
本発明に係る飲食品は、上記脳機能調整剤を含む。たとえば脳機能調整剤に含まれることが好ましいGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドは、上述のとおり腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。したがって、本発明は、上記脳機能調整剤を含む飲食品として食事または飲料に混ぜて摂取することができる。さらに本発明に係る飲食品は、特定保健用食品、または機能性表示食品として用いることもできる。飲食品に含まれる脳機能調整剤の濃度としては、0.001~100質量%であることが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[評価試験1:臨床試験]
<試験食品(脳機能調整剤を含む飲食品)>
試験食品として、Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むコラーゲンペプチド混合物(商品名:「コラーゲンペプチドCP-B」、新田ゼラチン株式会社製)を用いた。後述する試験期間中、被験者に対し1日1回5gの上記試験食品を、任意の飲料に添加することにより摂取させた。上記飲料の摂取時間については、特定しなかった。
<試験デザイン>
試験期間は2016年10月20日から11月21日までの期間から選ばれる連続した4週間とした。オープンラベル介入前後の比較試験を、京都大学こころの未来研究センターで実行した。本試験では世界医師会の「ヘルシンキ宣言」の主旨の下、被験者全員に対してインフォームドコンセントを実施し、被験者全員から書面による同意を得た。本試験に対し、2015年9月18日に京都大学心の先端研究ユニット倫理審査委員会から承認(承認番号:27-P-13)を得た。
本試験では、灰白質量-脳健康管理指数(GM-BHQ:Gray Matter Volume-Brain Healthcare Quotient)スコア、神経線維の異方性-脳健康管理指数(FA-BHQ:Fractional Anisotropy-Brain Healthcare Quotient)スコア、軽度認知障害(MCI)スコアおよび標準的言語対関連学習(S-PA)スコアを得ることにより、上記試験食品の脳機能に対する作用効果を評価した。
<被験者>
本試験では、49歳から63歳(平均56.1±3.6歳)の健康な30名を被験者とした。被験者の主な採用基準としては、「コラーゲン加水分解物を試験開始以前1カ月間摂取していない者」、「ゼラチンを含め、主な食物アレルギーの既往歴がない者」、「脳梗塞および認知症などの神経疾患、精神疾患の既往歴のない者」である。その他、「https://www.acrin.org/Portals/0/Protocols/6684/ACRIN6684_Amend7_012412_master_ForOnline.pdf」のsection6に記載された事項を、被験者から除外する基準とした。試験期間中において、被験者の自己都合を理由とする1名の脱落者があった。さらに上記S-PAスコアを得るための試験を、5名の被験者が自己都合により受けなかった。このためS-PAスコアを得るための試験については24名、それ以外の試験については29名により、各プロトコールに従って統計解析を行った。
<評価方法および評価結果>
(MRIスキャン)
磁気共鳴画像(MRI)スキャンは、上記試験食品の摂取開始日の前日(以下、「介入前」とも記す)および上記試験食品の摂取終了日の翌日(摂取開始日から29日目、以下、「介入後」とも記す)に実施した。介入前のMRIの撮像は、2016年10月20日から10月24日までの間に実行し、介入後のMRIの撮像は、2016年11月18日から11月21日までの間に実行した。MRIの撮像は、京都大学こころの未来研究センターで実行した。具体的なMRIスキャンの方法については、『Nemoto K et al., "MRI-based Brain Healthcare Quotients: A bridge between neural and behavioral analyses for keeping the brain healthy", PLoS ONE, 2017, 12(10): e0187137(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0187137)』に記載された方法に従った。
MRI装置は独Siemens社の3Tスキャナー「Verio」を使用し、32チャンネルヘッドアレイコイルを用いて撮像した。3次元T1強調画像は、MP-RAGEパルスシーケンスを使用した。パラメータは次のとおりである。反復時間(TR) 1900ms; エコー時間(TE) 2.52ms; 反転時間(TI) 900ms; フリップ角 9°; マトリクスサイズ 256×256; 視野(FOV) 256mm; スライス厚 1mmである。拡散テンソル画像(DTI)については、GRAPPAを用いたスピンエコー・エコープレナーイメージング(SE-EPI)を用いることにより収集した。拡散テンソル画像のスライスは、OM lineに平行とした。
パラメータは次のとおりである。反復時間(TR) 14100ms; エコー時間(TE) 81ms; フリップ角 90°; マトリクスサイズ 114×114; 視野(FOV) 224mm; スライス厚 2mmである。ベースライン画像(b=0s/mm2)およびb=1000s/mm2の30軸の拡散方向の画像を得た。
T1強調画像から脳機能マッピングツールであるSPM12を用いて灰白質を抽出し、灰白質容積と頭蓋内容積とを用いて全脳のGM-BHQスコアを算出した。拡散テンソル画像からソフトウエアであるFSL 5.0.11を用いてfractional anisotropy(FA)画像を生成し、これに基づいて全脳のFA-BHQスコアを算出した。
ここでGM-BHQスコア、およびFA-BHQスコアを算出する過程で行う統計処理に用いたツールは、医学用統計プログラムである「STAT MateIII」である。有意性の評価は、介入前後の群内比較をウィルコクソンの順位和検定に基づいて行い、有意水準(P値)が0.05以下である場合に介入前後で有意性ありと判断した。GM-BHQスコアおよびFA-BHQスコアの介入前後の値、その差、Pvalue(P値)を下記表1に示す。表1中、「N」が被験者数を意味し、「Baseline」が介入前を意味し、「Post」が介入後を意味し、「Δ」が介入前後の差を示す。
Figure 0007648517000001
表1によれば、FA-BHQスコアにおいて介入前後で有意性のある改善が見られた。GM-BHQスコアにおいて有意性のある改善は得られなかった。したがって、上記試験食品(脳機能調整剤としてのGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物)には、脳機能を調整する作用を有することが分かった。
(MCIスコア)
認知機能確認スケールである「あたまの健康チェック(ミレニア株式会社製)」を用いることにより、軽度認知障害(MCI)スコアを算出した。具体的には、被験者に10個の単語を覚えさせ、試験とは無関係の解説をはさんだ後、上記10個の単語のうち何個を口頭で回答できるかを測定した。各被験者のMCIスコアは、被験者の性別、年齢、学習年数、人種などの情報を基に、各被験者の試験結果を同年齢グル―プと比較し、人口統計学的に客観評価することにより校正した。本試験については、各被験者に対してMRIスキャンが行われた日と同日に実施した。
(S-PAスコア)
標準的言語対関連学習(S-PA)スコアは、ヒトの言語性記憶を把握する目的で日本高次脳機能障害学会によって開発された。S-PAスコアの具体的な試験の内容は、次のとおりである。まず有関係対語(意味的に関連のある単語)10対と、無関係対語(意味的関連が希薄な単語)10対より構成されたシートが準備される。次に、そのシートに記載された10対の有関係対語を検査者が読み上げ、被験者に記憶してもらう。その後、これらの対となる単語の一方を提示し、これと対をなしていた他方の単語を回答させる。さらに、上記シートに記載された10対の無関係対語を検査者が読み上げ、被験者に記憶してもらう。その後、これらの対となる単語の一方を提示し、これと対をなしていた他方の単語を回答させる。最後に、回答の正答数から各被験者のS-PAスコアが算出される。なお介入前および介入後においては、それぞれ異なる10対の有関係対語および10対の無関係対語が記載されたシートが準備される。本試験についても、各被験者に対してMRIスキャンが行われた日と同日に実施した。
ここでMCIスコアおよびS-PAスコアを算出する過程で行う統計処理に用いたツールも上記「STAT MateIII」とした。有意性の評価は、介入前後の群内比較をウィルコクソンの順位和検定に基づいて行い、有意水準(P値)が0.05以下である場合に介入前後で有意性ありと判断した。MCIスコアおよびS-PAスコアの介入前後の値、その差、Pvalue(P値)を下記表2に示す。表2中、「N」が被験者数を意味し、「Baseline」が介入前を意味し、「Post」が介入後を意味し、「Δ」が介入前後の差を示す。
Figure 0007648517000002
表2によれば、MCIスコアおよびS-PAスコアの両者において介入前後で有意性のある改善が見られた。表2の結果を、表1の結果を踏まえて考察すれば、上記試験食品は、脳機能を調整する作用を通じて記憶力または認知機能の改善作用を有し、もって脳機能改善効果が得られることが示唆される。さらに上述の結果から試験食品は、脳機能低下予防効果も得られることが示唆される。このため脳機能調整剤は、脳機能改善剤または脳機能低下予防剤として用いることができる。
(被験者個々人の脳機能に対する脳機能調整剤の作用効果)
被験者個々人におけるGM-BHQスコアの増減およびFA-BHQスコアの増減と、MCIスコアの増減およびS-PAスコアの増減との相関性の有無を調べることにより、被験者個々人の脳機能に対して、脳機能調整剤が及ぼす作用効果について検討した。上記の相関性については、各測定値を用いてスピアマンの順位相関係数(r)を算出し、介入前後で統計処理を行った。この統計処理に用いたツールも上記「STAT MateIII」とした。rが0.2以下である場合を「相関なし」と、rが0.2超過0.4以下である場合を「低い相関あり」と、rが0.4超過0.7以下である場合を「相関あり」と、rが0.7超過1未満を「強い相関あり」と、rが1である場合を「完全な相関」とそれぞれ評価した。その結果であるrの値を表3に示す。
Figure 0007648517000003
表3によれば、GM-BHQスコアの増減とMCIスコアの増減との間に相関が認められ、FA-BHQスコアの増減とS-PAスコアの増減との間に相関が認められた。
<考察>
上記によれば、特定のペプチドを含有する脳機能調整剤は、被験者個々人の脳機能に及ぼす作用効果に注目すれば、FA-BHQスコアが改善することによってS-PAスコアが改善し、GM-BHQスコアが改善することによってMCIスコアが改善することが推定された。このため脳機能調整剤は、脳機能改善剤または脳機能低下予防剤として用いることができる。
[評価試験2:細胞生物学的試験(in vitro試験)]
<試料の準備>
すべての実験動物は、総理府の「実験動物の飼育および保管などに関する基準」および城西大学生命科学研究センターの「動物実験に関するガイドライン」に従った。15~25週齢雄性および雌性Wistar系ラットを日本クレア株式会社から購入することにより準備した。その後、上記ラットを温度23±2℃、相対湿度55±10%、照明サイクル12時間、明期7:00~19:00、固形飼料(商品名:「CE-2」、日本クレア株式会社製)および自由飲水の条件の下で飼育するとともに、同じ条件下で交配させることにより生後7日齢ラットを得た。さらに生後3~8日齢の上記Wistar系ラットを日本クレア株式会社から購入することにより準備した。
(初代培養小脳顆粒細胞(CGC)の調製および培養)
上記Wistar系ラットを上述した条件下で生後7~9日齢まで飼育した後、これらから小脳を摘出し、これを表4に示す各分散溶液(I液~V液)を用いた後述の方法により分散することにより、上記小脳から顆粒細胞およびその他の脳神経細胞(以下、これらの細胞を総称して「小脳顆粒細胞(CGC)」とも記す)を含む分散液を得た。この小脳顆粒細胞(CGC)は、脳神経細胞である。その後、当該分散液に含まれるCGCを培養した。上記分散溶液の「溶液名」、「含有試薬」および「その量」を表4に示す。小脳顆粒細胞(CGC)の調製方法は、次のとおりである。
Figure 0007648517000004
まず、生後7~9日齢の上記ラット10匹を断頭し、クリーンベンチ内で小脳を摘出し、余分な組織、血管、漿膜などを除去した後、それをカミソリでミンチ状のペーストにした。このペーストにI液を添加することにより懸濁液とし、この懸濁液を1000rpmで30秒間遠心することにより上清と細胞群と含む第1分離液を得た。この第1分離液から上清を除去した後、残存する細胞群に対し、あらかじめ恒温槽内で37℃に加温しておいたII液を少量ずつ加え撹拌し、これを50mLメディウム瓶に移し、さらに37℃で15分間撹拌することによりtrypsinによる組織消化を行った。
次に、上記メディウム瓶にIV液を加えて上記trypsinを失活させ、さらに1000rpmで30秒間遠心することにより、上清と細胞群と含む第2分離液を得た。この第2分離液から上清を除去した後、残存する細胞群に対しパスツールピペットを用いて少量のIII液を添加することにより、これを分散させた。その後、15分間静置することにより上清と細胞群と含む第3分離液を得、その上清をV液中に採取した。さらに第3分離液中に残存する細胞群に対し少量のIII液を添加することにより、これを再分散させた。その後、5~10分間静置することにより上清と細胞群と含む第4分離液を得、その上清を第3分離液の上清を含む上記V液に採取した。
第3分離液の上清および第4分離液の上清を含む上記V液を、1000rpmで5分間遠心することにより上清と細胞群と含む第5分離液を得た。この第5分離液から上清を除去した後、残存する細胞群に対して基礎培地(BME:Basal Medium Eagle、シグマアルドリッチ社製)を添加し、撹拌することにより、小脳顆粒細胞(CGC)およびBMEを含む混合液を得た。その後、この混合液を0.4質量%濃度のtrypan Blue液で染色し、染色された細胞数と、その生存率を計測した。
次に、上記混合液に対し、生存している細胞の細胞密度が1.2×105cell/mLとなるようにK+5mM血清(+)BMEを添加し、懸濁することにより培養用試料を得た。この培養用試料を、あらかじめ50μg/mL濃度のpoly-L-lysin(PLL)でコーティングされた12wellプレートに0.766mLずつ播種し、37℃、5体積%濃度のCO2としたインキュベーターの環境下で培養した(この日を「培養0日目」とする)。
培養1日目に各wellに対し、CGCのみを維持し、非神経細胞の増殖を抑制する目的で、最終濃度が10μMとなるようにcytosine β-D-arabinofuranoside(AraC)を添加した。さらにKClを、後述する対照試料において最終濃度が25mMとなるように添加し、それ以外の試料(後述する表5~7に示すペプチドまたはアミノ酸を添加した試料)においては、最終濃度が15mMとなるように調整して添加した。
さらに培養1日目および培養4日目に、下記表5~7に示すペプチドまたはアミノ酸を、それぞれ表5~7に示す最終濃度となるように添加することにより各試料を調製した。
培養7日目には、MTTアッセイ法を用い、CGCの細胞生存率(Viability)を計測することにより、各試料のCGCに対する分化促進作用の有無を調べた。具体的には、KCl濃度が25mMである対照試料の細胞生存数に対する各試料の細胞生存数の百分率を求め、これを統計処理することにより、CGCに対する分化促進作用の有意性を評価した。この有意性の評価は、統計処理としてソフトウエア(商品名:「エクセル統計(Ver2.1)」、株式会社社会情報サービス製」を用い、Smirnov-Grubbs(両側検定)を実行し、かつ有意水準(P値)を0.05として棄却した。その後、Student’s t-test(t検定)を実行することにより判断した。結果を表5~表7示す。表5~7中「*(アスタリスク)」が付された試料において、CGCの分化促進作用を有する(有意性がある)と判断された。
ここで表5中、「対照(K+)」は、対照試料を意味する。「NMDA」(商品名:「M3262」、シグマアルドリッチ社製)は、N-メチル-D-アスパラギン酸を添加した試料を意味し、「BDNF」(商品名:「SRP3014」、シグマアルドリッチ社製)は、脳由来神経栄養因子を添加した試料を意味する。「NMDA」および「BDNF」は、脳神経細胞の分化に関与することが知られ、いずれも本試験において参考例となる。
さらに表5~表7中に表されるペプチドについては、アミノ酸を一文字で表記する略号を用いる。Cは環状(Cyclic)を表し、Hはヒスチジンを表し、Pはプロリンを表し、Gはグリシンを表し、Oはヒドロキシプロリンを表し、Eはグルタミン酸を表し、Aはアラニンを表す。すなわち表5中、「C-HP」は、ヒスチジン-プロリンからなる環状ジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を、「C-GP」は、グリシン-プロリンからなる環状ジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を、「TRH」は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料をそれぞれ意味する。これらは、血液脳関門を通過することが知られ、いずれも比較例となる。表5中、「グルタミン酸」は、抗酸化作用が知られるグルタミン酸(商品名:「G1251」、シグマアルドリッチ社製)を添加した試料を意味する。「グルタチオン」は、Glu-Hyp-Gly(EOG)に化学構造が類似するグルタチオン(商品名:「G6013」、シグマアルドリッチ社製)を添加した試料を意味する。「GPO」は、グリシン-プロリン-ヒドロキシプロリンからなるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を意味する。「グルタミン酸」、「グルタチオン」および「GPO」は、いずれも比較例となる。
表6中、「C-PO」は、プロリン-ヒドロキシプロリンからなる環状ジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を、「C-OG」は、ヒドロキシプロリン-グリシンからなる環状ジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を、「C-EO」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリンからなる環状ジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料をそれぞれ意味する。表6中、「PO」は、プロリン-ヒドロキシプロリンからなるジペプチド(商品名:「G-3025」、BACHEM社製)を添加した試料を、「OG」は、ヒドロキシプロリン-グリシンからなるジペプチド(商品名:「G-2365」、BACHEM社製)を添加した試料を、「AO」は、アラニン-ヒドロキシプロリンからなるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料をそれぞれ意味する。「PO」については、血液脳関門を通過することが知られている。「C-PO」、「C-OG」、「C-EO」、「PO」、「OG」および「AO」は、いずれも比較例となる。
表7中、「GP」は、グリシン-プロリンからなるジペプチド(商品名:「G-3015」、BACHEM社製)を添加した試料を、「EO」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリンからなるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料をそれぞれ意味する。「GP」および「EO」は、いずれも比較例となる。「EOG」は、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)を添加した試料を意味し、本試験において実施例となる。
Figure 0007648517000005
Figure 0007648517000006
Figure 0007648517000007
<考察>
表5~7によれば、EOGは、NMDAおよびBDNFを添加した参考例と同様に、直接CGCに作用することにより、CGCの分化を促進する作用を有することが分かった。表5~7からEOGは、CGCの細胞死を抑制する作用を有することも示唆された。
<評価試験1および評価試験2から得られる考察>
上述した評価試験1および評価試験2によれば、本発明に係る脳機能調整剤およびそれを含む飲食品は、脳神経細胞に直接作用することにより、脳神経細胞の分化を促進することができる。このような作用により脳機能調整剤およびそれを含む飲食品は、記憶力または認知機能の改善作用を奏することができる。もって脳機能調整剤は、脳機能改善剤または脳機能低下予防剤として用いることができる。
[評価試験3:EOGの有効濃度を分析するin vitro試験]
培養1日目および培養4日目にEOGを、表8に示す最終濃度となるように添加した以外は、評価試験2と同じ方法を用いることにより、CGCに対して分化促進作用を奏することができるEOGの有効濃度を調べた。結果を表8に示す。
Figure 0007648517000008
<考察>
表8によれば、EOGは、その濃度が7μM以上である場合、CGCに対して分化促進作用を有意に奏することができる。
[評価試験4:経口摂取したEOGの脳実質への送達性を分析する評価試験]
<試料の準備>
すべての実験動物は、総理府の「実験動物の飼育および保管などに関する基準」に従った。8週齢ddy系雄性マウスを三協ラボサービス株式会社から2匹購入した。その後、上記雄性マウスを1週間順化させて9週齢雄性マウスとした後、12時間絶食させた。次いで、上記雄性マウスに対しEOG(Glu-Hyp-Gly、株式会社ピーエイチジャパン製、純度95%以上)20mgを、250μLの水溶液として強制的に経口投与することにより、EOGの脳実質への送達性を分析する雄性マウスを2匹準備した。
上記雄性マウスに対し、経口投与前(0時間)、経口投与1時間経過後、2時間経過後および4時間経過後の各10分前に麻酔剤を皮下注射した。上記麻酔剤は、三種混合麻酔と呼ばれ、塩酸メデトミジン0.3mg/kgと、ミダゾラム4mg/kgと、酒石酸ブトルファノール4mg/kgとを含む。上記麻酔剤を注射した時点から10分後に、上記雄性マウスからそれぞれ脳脊髄液を0.5~7μL採取し、尾静脈から血液を20~80μL採取し、さらに脳実質の一部(以下、単に「脳」とも記す)を0.28~0.33mg摘出した。
上記血液に対しては、まず4℃、遠心加速度20400Gで10分間遠心分離することにより血漿を得、これを一時的に-80℃で保存した。次いで、上記血漿の液量の3倍量のエタノールと混合した後、4℃、遠心加速度1000Gおよび10分間の条件で遠心分離を行うことにより上清を得た。その後、上記上清に対して50mMに調製した重炭酸アンモニウムを上記上清の液量の4倍量加えて混合した。さらに上記重炭酸アンモニウムを含む上記上清を0.2μmフィルター(ザルトリウス株式会社製)で濾過することにより、上記雄性マウスの血漿中のEOG量を測定するための各試料(経口投与前(0時間)、経口投与1時間経過後、2時間経過後および4時間経過後の各試料。これらを総称して以下、「試料a」とも記す)を得た。
上記脳脊髄液に対しては、上記脳脊髄液の液量の3倍量のエタノールと混合した後、4℃、遠心加速度1000Gおよび10分間の条件で遠心分離を行った。その後、上記遠心分離を行った脳脊髄液に対して50mMに調製した重炭酸アンモニウムを50μL加えて混合した。さらに上記重炭酸アンモニウムを含む上記脳脊髄液を0.2μmフィルター(ザルトリウス株式会社製)で濾過することにより、上記雄性マウスの脳脊髄液中のEOG量を測定するための各試料(経口投与前(0時間)、経口投与1時間経過後、2時間経過後および4時間経過後の各試料。これらを総称して以下、「試料b」とも記す)を得た。
上記脳に対しては、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄した後、アルミホイルで包み、次いで液体窒素中で凍結後、冷凍庫(-80℃)で凍結保存した。その後上記脳を解凍し、上記脳と等量のPBSでホモジネートし、さらに上記脳の重量に対して3倍量のアセトニトリルと混合した後、4℃、遠心加速度1000Gおよび10分間の条件で遠心分離を行うことにより懸濁液を得た。次に、上記懸濁液に対して50mMに調製した重炭酸アンモニウムを上記懸濁液の液量の2倍量加えて混合した。さらに上記重炭酸アンモニウムを含む上記懸濁液を0.2μmフィルター(ザルトリウス株式会社製)で濾過することにより、脳中のEOG量を測定するための各試料(経口投与前(0時間)、経口投与1時間経過後、2時間経過後および4時間経過後の各試料。これらを総称して以下、「試料c」とも記す)を得た。
上記試料a、試料bおよび試料c中のEOG量を、後述する条件のLC-MS/MSにより定量解析した。各試料については適宜希釈されているため、以下の計算式を用いて補正することにより実際のEOG量を求めた。
実際のEOG量(μM)=分析値(nM)×希釈換算係数/1000(単位換算)。
結果を、図1、図2および図3に示す。図1は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの血漿(試料a)中のEOG量を表すグラフである。図2は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの脳脊髄液(試料b)中のEOG量を表すグラフである。図3は、雄性マウスに対しEOGを強制的に経口投与した後、所定時間後の雄性マウスの脳(試料c)中のEOG量を表すグラフである。また図1~図3に示すEOG量は、2匹の雄性マウスから得られた平均値である。
なお、LC-MS/MSによる定量解析は、次の条件で実行した。
HPLC装置:ACQUITY UPLC H-Class Bio(Waters Corporation製)
カラム:Hypersil GOLD PFP 2.1×150mm、5μm(Thermo Fisher Scientific. Inc製)
カラム温度:40℃(リニアグラジエント)
移動相:(A)0.2%ギ酸および2mM酢酸アンモニウム含有水溶液
(B)100%メタノール
(グラジエント設定)
Time(分) 流速(μL/分) 移動相(A)の質量%
イニシャル 200 98
3.50 200 98
3.51 400 5
7.00 400 5
7.10 200 98
17.00 200 98
注入量:0.5μl。
MS/MS装置:「Xevo TQ-XS」、Waters Corporation社製
イオン化法:Positive ESI
Capilary (kV):1
Desolvation temperature(℃):500
Source temperature(℃):150
MRM条件:
ペプチド(略号) precursor ion(m/z) product ion(m/z)
Glu-Hyp-Gly(EOG) 318 225。
<考察>
図1~図3によれば、強制的にEOGが経口投与された雄性マウスでは、EOGが血液中に移行し、次いで脳脊髄液に移行することが理解される。脳脊髄液に移行したEOGは、経口投与後1時間程度の短時間で脳組織にも移行することが理解される。以上より、経口摂取したEOGは血液を介することにより、その一部が脳脊髄液を経て脳組織に送達されることが示唆された。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (5)

  1. Glu-Hyp-Glyで表されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその塩を含有し、
    前記ペプチドまたはその塩は、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドまたはその塩である脳機能調整剤であって
    記脳機能調整剤は、血液脳関門を通過して脳神経細胞に直接作用することにより前記脳神経細胞の分化を促進す作用を通じた記憶力または認知機能の改善用であり、
    前記脳神経細胞は、小脳顆粒細胞である、小脳の脳機能調整剤。
  2. 前記脳機能調整剤の濃度は、7μM以上である、請求項1に記載の脳機能調整剤。
  3. 前記ペプチドは、コラーゲン由来である、請求項1または2に記載の脳機能調整剤。
  4. 前記脳機能調整剤は、前記脳神経細胞の細胞死抑制作用を有する、請求項1~3のいずれかに記載の脳機能調整剤。
  5. 請求項1~3のいずれかに記載の脳機能調整剤を含み、
    血液脳関門を通過して脳神経細胞に直接作用することにより前記脳神経細胞の分化を促進する作用を通じた記憶力または認知機能の改善用であり、
    前記脳神経細胞は、小脳顆粒細胞である、飲食品。
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