この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
〔第1実施形態〕
この発明を適用した複合遊星歯車装置の一例を図1に示してある。図1に示す複合遊星歯車装置1は、いわゆるギヤードモータ2に組み込まれている。ギヤードモータ2は、電気モータ3と、例えばギヤヘッドと称される減速機構4とを組み合わせた駆動装置である。複合遊星歯車装置1は、従来のギヤヘッドと比較し、より大きな減速比を設定する減速機構4として、電気モータ3と組み合わされている。
電気モータ3は、駆動トルクまたは回生トルクを発生する。電気モータ3は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。電気モータ3は、後述する回転軸線AL上に配置されている。すなわち、電気モータ3と複合遊星歯車装置1とは、互いに同軸上に配置されている。
複合遊星歯車装置1は、基本的な構成要素として、第1ギヤ5、第2ギヤ6、第3ギヤ7、第1プラネタリギヤ8、第2プラネタリギヤ9、第3プラネタリギヤ10、第4プラネタリギヤ11、および、キャリア12を備えている。
第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7は、いずれも、同一の回転軸線AL上で直列に(すなわち、回転軸線AL方向に並んで)配置されている。図1に示す実施形態では、図1の左から、第1ギヤ5、第2ギヤ6、第3ギヤ7の順で配列されている。第1ギヤ5に対して、第2ギヤ6および第3ギヤ7が、いずれも、相対回転可能に支持されている。したがって、第2ギヤ6と第3ギヤ7とは、互いに相対回転可能である。第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7は、いずれも、外歯歯車または内歯歯車のいずれかによって構成される。
図1に示す実施形態では、第1ギヤ5は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う外歯歯車の第1サンギヤ13によって構成されている。第2ギヤ6は、第2プラネタリギヤ9および第3プラネタリギヤ10の両方と噛み合う外歯歯車の第2サンギヤ14によって構成されている。そして、第3ギヤ7は、第4プラネタリギヤ11と噛み合う外歯歯車の第3サンギヤ15によって構成されている。
第1サンギヤ13は、回転不可能に、複合遊星歯車装置1のケース16に固定されている。なお、ケース16は、ギヤードモータ2のケースを兼ねている。第2サンギヤ14は、第1サンギヤ13との間に設けた軸受(図示せず)によって回転自在に支持されている。したがって、第2サンギヤ14は、第1サンギヤ13に対して相対回転可能である。第3サンギヤ15は、第2サンギヤ14を挟んで第1サンギヤ13とは反対側に配置されており、第1サンギヤ13に対して相対回転可能である。したがって、第2サンギヤ14と第3サンギヤ15とは、互いに相対回転可能である。また、第3サンギヤ15は、出力軸17に連結されており、ケース16との間に設けた軸受(図示せず)によって、出力軸17と共に、ケース16に対して回転自在に支持されている。第3サンギヤ15と出力軸17とは、一体に回転する。出力軸17は、各サンギヤ13,14,15と同軸上(すなわち、回転軸線AL上)で、中空形状の電気モータ3の回転軸18の中空部分に配置(挿入)されており、先端(図1の右側の端部)がケース16から外部に突出している。したがって、減速機構4すなわち複合遊星歯車装置1で増幅されるトルクは、出力軸17から外部に出力される。
第1プラネタリギヤ8は、第1ギヤ5と噛み合い、自転しつつ回転軸線ALの周りを公転する。第2プラネタリギヤ9は、第2ギヤ6と噛み合い、自転しつつ回転軸線ALの周りを公転する。第3プラネタリギヤ10は、第2プラネタリギヤ9と共に第2ギヤ6と噛み合い、自転しつつ回転軸線ALの周りを公転する。そして、第4プラネタリギヤ11は、第3ギヤ7と噛み合い、自転しつつ回転軸線ALの周りを公転する。
図1に示す実施形態では、第1プラネタリギヤ8は、第1サンギヤ13と噛み合い、自転しつつ第1サンギヤ13の外周を公転する。第2プラネタリギヤ9は、第2サンギヤ14と噛み合い、自転しつつ第2サンギヤ14の外周を公転する。第3プラネタリギヤ10は、第2プラネタリギヤ9と共に第2サンギヤ14と噛み合い、自転しつつ第2サンギヤ14の外周を公転する。そして、第4プラネタリギヤ11は、第3サンギヤ15と噛み合い、自転しつつ第3サンギヤ15の外周を公転する。
第1プラネタリギヤ8と第2プラネタリギヤ9とは、同軸上に配置され、一体に自転する。すなわち、第1プラネタリギヤ8と第2プラネタリギヤ9とは、自転方向および公転方向に一体に回転する。同様に、第3プラネタリギヤ10と第4プラネタリギヤ11とは、同軸上に配置され、一体に自転する。すなわち、第3プラネタリギヤ10と第4プラネタリギヤ11とは、自転方向および公転方向に一体に回転する。第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9の回転軸19と、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11の回転軸20とは、互いに異なっている。
なお、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9と回転軸19とは、一体に回転してもよい。あるいは、固定された回転軸19に対して、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9が相対回転してもよい。同様に、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11と回転軸20とは、一体に回転してもよい。あるいは、固定された回転軸20に対して、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11が相対回転してもよい。図1では、回転軸19、および、回転軸20に対して、それぞれ、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11が相対回転する構成を示してある。
キャリア12は、回転軸線AL上に配置され、第1ギヤ5に対して軸受(図示せず)を介して相対回転可能に支持され、他の軸受(図示せず)を介してケース16に回転可能に支持されてている。また、第2ギヤ6および第3ギヤ7とキャリア12とは、互いに相対回転可能である。キャリア12は、各プラネタリギヤ8,9の回転軸19、および、各プラネタリギヤ10,11の回転軸20を支持し、各プラネタリギヤ8,9、および、各プラネタリギヤ10,11を、それぞれ、自転および公転可能に保持している。
したがって、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9ならびに回転軸19によって構成される第1プラネタリセット21と、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11ならびに回転軸20によって構成される第2プラネタリセット22とは、公転軌道(円軌道)の円周上に、回転軸線AL方向で並列に配置されている。第1プラネタリセット21および第2プラネタリセット22は、それぞれ、少なくとも一組ずつ設けられていればよい。例えば、公転軌道の径方向に対向して、言い換えれば、公転軌道の円周上に等間隔を空けて、二組または三組ずつの第1プラネタリセット21と第2プラネタリセット22とが設けられる。図1では、第1プラネタリセット21と第2プラネタリセット22とが、公転軌道の径方向に対向して、一組ずつ設けられた構成を示してある。
キャリア12は、電気モータ3の回転軸18に連結されている。回転軸18は、キャリヤ12と同軸上に設けられた中空軸であって、前述した出力軸17の外周側を覆った状態で、キャリヤ12から図1の右方向に延びている。キャリア12と回転軸18とは、一体に回転する。したがって、キャリア12は、複合遊星歯車装置1の入力回転要素となっている。また、ケース16に固定された第1サンギヤ13は、複合遊星歯車装置1の反力要素となっている。また、出力軸17に連結された第3サンギヤ15は、複合遊星歯車装置1の出力回転要素となっている。第2サンギヤ14は、第3サンギヤ15に対する一種のカウンタギヤとして機能する。すなわち、第2サンギヤ14は、第3サンギヤ15が回転する際には、第3サンギヤ15の回転方向と逆の方向に回転する。
要するに、複合遊星歯車装置1は、第2ギヤ6を共用して、四組の遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の構成になっている。あるいは、第2ギヤ6を共用して、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1ギヤ5および第2ギヤ6から構成される複合遊星歯車機構(説明上、“第1の複合遊星歯車機構”とする)と、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2ギヤ6および第3ギヤ7から構成される複合遊星歯車機構(説明上、“第2の複合遊星歯車機構”とする)との二組の複合遊星歯車機構を組み合わせた構成となっている。そのため、複合遊星歯車装置1は、回転軸線ALに三組の遊星歯車機構を配置した構造に相当するコンパクトな体格で構成できる。そして、後述するように、実質的には、四組の遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の構成、あるいは、二組の複合遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の機能を得ることができる。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8と第1ギヤ5との間のギヤ比と、第2プラネタリギヤ9と第2ギヤ6との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2ギヤ6との間のギヤ比と、第4プラネタリギヤ11と第3ギヤ7との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。図1に示す実施形態では、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ13との間のギヤ比と、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ14との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ14と間のギヤ比と、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ15との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。
具体的には、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ13との間のギヤ比u1と、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ14との間のギヤ比u2とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ14との間のギヤ比u3と、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ15との間のギヤ比u4とを、互いに異ならせている。なお、この発明の実施形態では、第1サンギヤ13の歯数zs1に対する第1プラネタリギヤ8の歯数zp1の比率を、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ13との間のギヤ比u1とし、第2サンギヤ14の歯数zs2に対する第2プラネタリギヤ9の歯数zp2の比率を、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ14との間のギヤ比u2とする。また、第2サンギヤ14の歯数zs2に対する第3プラネタリギヤ10の歯数zp3の比率を、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ14との間のギヤ比u3とし、第3サンギヤ15の歯数zs3に対する第4プラネタリギヤ11の歯数zp4の比率を、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ15との間のギヤ比u4とする。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図1に括弧内の数値で示すように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1を“20”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2を“19”とし、第1サンギヤ13の歯数zs1を“41”、第2サンギヤ14の歯数zs2を“39”として構成されている。この場合、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ13との間のギヤ比u1、および、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ14との間のギヤ比u2は、それぞれ、
u1=zp1/zs1=20/41≒0.4878
u2=zp2/zs2=19/39≒0.4871
となる。上記のとおり、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1と第2プラネタリギヤ9の歯数zp2とを、“1歯”異ならせてあり、第1サンギヤ13の歯数zs1と第2サンギヤ14の歯数zs2とを、“2歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u1とギヤ比u2とは、一致することはなく、わずかな値ではあるが異なっている。
同様に、複合遊星歯車装置1は、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3を“20”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4を“19”とし、第2サンギヤ14の歯数zs2を“39”、第3サンギヤ15の歯数zs3を“37”として構成されている。この場合、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ14との間のギヤ比u3、および、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ15との間のギヤ比u4は、それぞれ、
u3=zp3/zs2=20/39≒0.5128
u4=zp4/zs3=19/37≒0.5135
となる。上記のとおり、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3と第4プラネタリギヤ11の歯数zp4とを、“1歯”異ならせてあり、第2サンギヤ14の歯数zs2と第3サンギヤ15の歯数zs3とを、“2歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u3とギヤ比u4とは、一致することはなく、わずかな値ではあるが異なっている。
前述したように、複合遊星歯車装置1は、“第1の複合遊星歯車機構”と、“第2の複合遊星歯車機構”とを組み合わせた構成となっている。図1に示す実施形態では、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1サンギヤ13および第2サンギヤ14から“第1の複合遊星歯車機構”が構成され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2サンギヤ14および第3サンギヤ15から“第2の複合遊星歯車機構”が構成されている。
“第1の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u1とギヤ比u2とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u1とギヤ比u2とを等しくすると、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比(入力回転要素の回転数に対する出力回転要素の回転数の比率)が無限大になってしまう。そのような場合には、“第1の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図1に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u1とギヤ比u2とを互いに異ならせることにより、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u1とギヤ比u2との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u1とギヤ比u2との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
図1に示す複合遊星歯車装置1では、“第1の複合遊星歯車機構”の減速比R1は、
R1=1/{1-(zs1/zp1)×(zp2/zs2)}
=1/{1-(41/20)×(19/39)}
≒780
となる。従来の一般的な遊星歯車機構で実現可能な減速比が、概ね“4”から“10”程度であることと比較して、相対的に、大きな減速比が得られている。
同様に、“第2の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u3とギヤ比u4とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u3とギヤ比u4とを等しくすると、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比は無限大になってしまう。そのような場合には、“第2の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図1に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u3とギヤ比u4とを互いに異ならせることにより、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u3とギヤ比u4との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u3とギヤ比u4との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
図1に示す複合遊星歯車装置1では、“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R2は、
R2=1/{1-(zs2/zp3)×(zp4/zs3)}
=1/{1-(39/20)×(19/37)}
≒-740
となる。従来の一般的な遊星歯車機構で実現可能な減速比が、概ね“4”から“10”程度であることと比較して、相対的に、大きな減速比が得られている。なお、この“第2の複合遊星歯車機構”においては、入力回転要素に相当する第2サンギヤ14の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第3サンギヤ15が逆の方向に回転する。そのため、この“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R2に、便宜上、負(-)の符号を付けている。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、複合遊星歯車装置1の全体の入力回転要素であるキャリア12の回転数に対して、第2ギヤ6(図1に示す実施形態では、第2サンギヤ14)の回転数を減少させ、その第2ギヤ6の回転数に対して、更に、複合遊星歯車装置1の全体の出力回転要素である第3ギヤ7(図1に示す実施形態では、第3サンギヤ15)の回転数を減少させる。言い換えると、キャリア12に入力されるトルクは、“第1の複合遊星歯車機構”で増幅されて第2ギヤ6に伝達され、更に、“第2の複合遊星歯車機構”で増幅されて第3ギヤ7に伝達される。したがって、上記のようにして算出される“第1の複合遊星歯車機構”の減速比R1、および、“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R2から、複合遊星歯車装置1の全体の減速比Rは、
R=1/{1/R1+(1-1/R1)/R2)}
=1/{1/780+(1-1/780)/(-740))}
≒-14800
となる。例えば不思議遊星歯車装置や波動歯車装置などで実用化されている減速比を大きく上回る高減速比が得られている。なお、この図1に示す複合遊星歯車装置1では、入力回転要素であるキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素である第3サンギヤ15が逆の方向に回転する。そのため、複合遊星歯車装置1の減速比Rに、便宜上、負(-)の符号を付けている。
上記のように、図1に示す複合遊星歯車装置1では、例えば、電気モータ3が正回転(CW;clock wise)方向に回転する際に、入力回転要素であるキャリア12の回転方向を正転方向とすると、出力回転要素である第3サンギヤ15が、正転方向と逆の逆転方向に回転する。この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、各ギヤ5,6,7の歯数、ならびに、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数をそれぞれ調整することにより、所望する減速比を設定するとともに、出力回転要素である第3ギヤ7の回転方向を、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
図1に示す複合遊星歯車装置1のように、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7として、それぞれ、第1サンギヤ13、第2サンギヤ14、および、第3サンギヤ15を設けた場合は、各ギヤの歯数の関係について、以下に示す各関係式が規定されている。下記の各関係式がいずれも成立するように各ギヤの歯数をそれぞれ設定することにより、第3サンギヤ15の回転方向を、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
具体的には、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各サンギヤ13,14,15の歯数zs1,zs2,zs3を、それぞれ、
zp1=zp3
zp2=zp4=zp1+1
zs1=zp1×2-1
zs2=zp1×2+1
zs3=zp1×2+3
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第3サンギヤ15を、正転方向に回転させることができる。すなわち、トルクが入力されて回転するキャリア12に対して、出力軸17を正転方向に減速させることができる。
一方、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各サンギヤ13,14,15の歯数zs1,zs2,zs3を、それぞれ、
zp1=zp3
zp2=zp4=zp1-1
zs1=zp1×2+1
zs2=zp1×2-1
zs3=zp1×2-3
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第3サンギヤ15を、逆転方向に回転させることができる。すなわち、トルクが入力されて回転するキャリア12に対して、出力軸17を逆転方向に減速させることができる。
図2および図3の各図表および線図に、三つのサンギヤ13,14,15、および、四つのプラネタリギヤ8,9,10,11を用いた複合遊星歯車装置1における、各サンギヤ13,14,15の歯数zs1,zs2,zs3と、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4との関係、ならびに、それに対応する減速比Rを示してある。図2の図表および線図は、出力軸17を正転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比Rを示している。図3の図表および線図は、出力軸17を逆転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比Rを示している。これら図2、図3の各図表および線図に示すように、図1に示す複合遊星歯車装置1では、“約30”から“約33000”にわたる広範囲で減減速比Rを適宜設定することができる。そして、“30000”を超える相当に大きな減速比Rを設定することが可能である。
また、図1に示す複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7が、それぞれ、外歯歯車の第1サンギヤ13、第2サンギヤ14、および、第3サンギヤ15で構成される。すなわち、それぞれ、リングギヤを用いない“第1の複合遊星歯車機構”および“第2の複合遊星歯車機構”(もしくは、四組の遊星歯車機構)を組み合わせて、複合遊星歯車装置1が構成される。そのため、リングギヤを設けていない分、径方向の体格を小型化したコンパクトな複合遊星歯車装置1を構成できる。
図1で示した複合遊星歯車装置1の他の実施形態を、図4から図6に示してある。なお、図4から図6に示す各複合遊星歯車装置1において、上述した図1で示した複合遊星歯車装置1と構成や機能が同じ部材もしくは部品等については、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付けてある。
図4に示す複合遊星歯車装置1は、第2サンギヤ14および第3サンギヤ15の回転軸部に、スラストベアリングを用いている。具体的には、第1サンギヤ13の固定軸部23と、第2サンギヤ14の回転軸24との対向部分に、スラストベアリング25が設けられている。第1サンギヤ13の固定軸部23は、第1サンギヤ13と一体に形成されていて、ケース16に回転不可能に固定されている。また、第2サンギヤ14の回転軸24と、第3サンギヤ15の回転軸26との対向部分に、スラストベアリング27が設けられている。第3サンギヤ15の回転軸26は、出力軸17と連結されている。回転軸26と出力軸17とは一体に回転する。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、各ギヤ5,6,7(図1、図4に示す実施形態では、各サンギヤ13,14,15)、および、各プラネタリギヤ8,9,10,11を、それぞれ、ヘリカルギヤで形成するのが好適である。ヘリカルギヤを用いることにより、スパーギヤを用いた場合と比較して、ギヤの噛み合い率を高め、複合遊星歯車装置1の静粛性を向上させることができる。一方で、ヘリカルギヤを用いた場合には、トルク伝達時に、各ギヤの軸線方向(回転軸線AL方向)にスラスト力が発生する。そのため、この図4に示す複合遊星歯車装置1では、上記のように、各回転軸24,26の対向部分に、それぞれ、スラストベアリング25,27を設けている。スラストベアリング25,27を用いることにより、ヘリカルギヤで発生するスラスト力による摩擦を抑制し、異音や騒音の発生を防止することができる。また、複合遊星歯車装置1の耐久性を向上させることができる。
図5に示す複合遊星歯車装置1は、電気モータ3の組み付け性(後付け)を考慮して構成されている。具体的には、この図5に示す実施形態では、第1サンギヤ13の固定軸部28、および、第2サンギヤ14の回転軸29は、それぞれ、中空形状に形成されている。第3サンギヤ15の回転軸30は、出力軸17と連結されている。回転軸30と出力軸17とは一体に回転する。第3サンギヤ15の回転軸30、および、出力軸17は、中空形状の固定軸部28の中空部分、および、回転軸29の中空部分に配置されており、出力軸17の先端(図5の左側の端部)が、複合遊星歯車装置1のケース31から外部に突出している。キャリア12の回転軸32は、出力軸17の突出方向と反対側(図5の右側)で、ケース31から突出している。回転軸32は、その突出部分で電気モータ3の回転軸33と、例えばスプライン(図示せず)を用いて接合されている。したがって、回転軸32およびキャリア12と、回転軸33とは一体に回転する。そして、電気モータ3のモータケース34が、ケース31に連結されている。すなわち、図5に示す実施形態では、複合遊星歯車装置1、すなわち、ギヤードモータ2における減速機構のケース31と、電気モータ3のモータケース34とが、別個に形成されている。そのため、複合遊星歯車装置1に対して電気モータ3の後付けが可能になっている。したがって、この図5に示す複合遊星歯車装置1によれば、例えば、ギヤードモータ2の組み立て作業や、電気モータ3の交換作業等を容易に行うことができる。
図6に示す複合遊星歯車装置1は、電気モータ3の内周部分に配置されている。具体的には、この図6に示す実施形態では、電気モータ3のロータ35は、中空形状に形成されている。ロータ35は、キャリア12と一体的に形成されており、その内周部分で、各プラネタリギヤ8,9、および、各プラネタリギヤ10,11を、それぞれ、自転および公転可能に保持している。したがって、複合遊星歯車装置1は、ロータ35の中空部分に配置されている。この図6に示す実施形態のように複合遊星歯車装置1を配置することにより、特に、回転軸線AL方向に小型化した、コンパクトなギヤードモータ2を構成できる。すなわち、ギヤードモータ2の全体としての軸長を短くすることができる。
以下の各図面に、この発明を適用した複合遊星歯車装置1の他の実施形態を示してある。なお、以下に図示して説明する複合遊星歯車装置1において、上述した図1、あるいは、既出の図面で示した複合遊星歯車装置1と構成や機能が同じ部材もしくは部品等については、図1、あるいは、既出の図面で用いた参照符号と同じ参照符号を付けてある。
〔第2実施形態〕
図7に示す複合遊星歯車装置1は、一つの入力軸に対して二つの出力軸を有し、かつ、二つの出力軸を互いに逆方向に回転させる反転機構41を構成している。前述の図1に示す実施形態で説明したように、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、第2サンギヤ14が第3サンギヤ15に対するカウンタギヤとして機能し、第2サンギヤ14と第3サンギヤ15とが互いに逆方向に回転する。この図7に示す複合遊星歯車装置1では、第2サンギヤ14に反転軸42が設けられることにより、第3サンギヤ15に連結した出力軸17と反転軸42とを互いに逆方向に回転させる反転機構41が構成されている。
具体的には、図7に示す複合遊星歯車装置1は、第1サンギヤ13の固定軸部43、および、キャリア12の回転軸44は、それぞれ、中空形状に形成されている。第2サンギヤ14の回転軸45に、反転軸42が連結されている。回転軸45および第2サンギヤ14と反転軸42とは一体に回転する。反転軸42および回転軸45は、中空形状の固定軸部43の中空部分に配置されており、反転軸42の先端(図7の左側の端部)が、複合遊星歯車装置1のケース46から外部に突出している。一方、第3サンギヤ15に連結された出力軸17は、中空形状の回転軸44の中空部分に配置されており、出力軸17の先端(図7の右側の端部)が、複合遊星歯車装置1のケース(図示せず)から外部に突出している。
出力軸17と反転軸42とは、回転軸線AL上で対向して配置されている。また、出力軸17と反転軸42とは、互いに相対回転可能である。反転軸42は、出力軸17が回転する際に、出力軸17の回転方向と逆の方向に回転する。そして、反転軸42は、第2サンギヤ14に伝達された入力トルクを、第2サンギヤ14から外部に出力する。また、反転軸42を介して、外部から所定のトルクを第2サンギヤ14に入力することも可能である。
このように、図7に示す複合遊星歯車装置1では、第2サンギヤ14に反転軸42が連結される。第2サンギヤ14は、第3サンギヤ15に対するカウンタギヤとして機能する。そのため、反転軸42は、第3サンギヤ15すなわち出力軸17が回転する際には、出力軸17の回転方向と逆の方向に回転する。したがって、この図7に示す複合遊星歯車装置1によれば、入力トルクを増幅して出力軸17および反転軸42から出力するとともに、一方の出力軸17の回転方向に対して他方の反転軸42の回転方向を反転させる反転機構41を、コンパクトに構成できる。
また、反転軸42は、外部から複合遊星歯車装置1にトルクを入力する入力軸としても機能する。すなわち、出力軸17の回転方向と逆の方向に反転軸42を回転させるトルクを反転軸42から入力することにより、出力軸17から出力されるトルクを増大させることができる。例えば、反転軸42からアシストトルクを入力するアシストモータ(図示せず)を容易に設けることができる。
なお、上記のように、複合遊星歯車装置1に反転軸42を設けて反転機構41を構成する場合に、図8に示すように、第1プラネタリギヤ8および第4プラネタリギヤ11にそれぞれ対応する二つのプラネタリギヤを追加してもよい。それにより、第2サンギヤ14、第3サンギヤ15、および、キャリア12の回転や支持状態を安定させることができる。具体的には、図8に示すように、複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8に対応する第5プラネタリギヤ47、および、第4プラネタリギヤ11に対応する第6プラネタリギヤ48を備えている。
第5プラネタリギヤ47は、第1プラネタリギヤ8と同形で、歯数およびモジュールが等しい外歯歯車によって構成されている。第5プラネタリギヤ47は、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11と同軸上に配置されている。すなわち、第5プラネタリギヤ47は、回転軸20上に配置され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11と一体に回転する。第5プラネタリギヤ47は、第1サンギヤ13と噛み合っている。すなわち、第1サンギヤ13は、第1プラネタリギヤ8および第5プラネタリギヤ47の両方に噛み合っている。したがって、第5プラネタリギヤ47は、キャリア12が回転する場合、第1プラネタリギヤ8と同じ回転数で自転し、第1プラネタリギヤ8と同様に第1サンギヤ13の外周を公転する。
同様に、第6プラネタリギヤ48は、第4プラネタリギヤ11と同形で、歯数およびモジュールが等しい外歯歯車によって構成されている。第6プラネタリギヤ48は、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9と同軸上に配置されている。すなわち、第6プラネタリギヤ48は、回転軸19上に配置され、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9と一体に回転する。第6プラネタリギヤ48は、第3サンギヤ15と噛み合っている。すなわち、第3サンギヤ15は、第4プラネタリギヤ11および第6プラネタリギヤ48の両方に噛み合っている。したがって、第6プラネタリギヤ48は、キャリア12が回転する場合、第4プラネタリギヤ11と同じ回転数で自転し、第4プラネタリギヤ11と同様に第3サンギヤ15の外周を公転する。
したがって、この図8に示す複合遊星歯車装置1では、反転機構41に、第5プラネタリギヤ47および第6プラネタリギヤ48を追加することにより、第1プラネタリセット21の回転軸19と、第2プラネタリセット22の回転軸20とで、それぞれ、各プラネタリギヤ8,9,48、および、各プラネタリギヤ10,11,47の支持位置や支持状態が等しくなる。そのため、キャリア12が回転する際のバランスが良好になり、キャリア12、ならびに、第2サンギヤ14および第3サンギヤ15の回転状態が安定する。すなわち、出力軸17および反転軸42から、それぞれ、安定してトルクを出力することができる。
〔第3実施形態〕
図9に示す複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7は、いずれも、内歯歯車が用いられている。なお、図9に示す実施形態では、図9の左から、第3ギヤ7、第2ギヤ6、第1ギヤ5の順で配列されている。具体的には、第1ギヤ5は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う内歯歯車の第1リングギヤ51によって構成されている。第2ギヤ6は、第2プラネタリギヤ9および第3プラネタリギヤ10の両方と噛み合う内歯歯車の第2リングギヤ52によって構成されている。そして、第3ギヤ7は、第4プラネタリギヤ11と噛み合う内歯歯車の第3リングギヤ53によって構成されている。
第1リングギヤ51は、回転不可能に、複合遊星歯車装置1のケース16に固定されている。なお、ケース16は、ギヤードモータ2のケースを兼ねている。第2リングギヤ52は、回転自在に支持されている。第2リングギヤ52は、第1リングギヤ51に対して相対回転可能である。第3リングギヤ53は、第1リングギヤ51に対して相対回転可能である。したがって、第2リングギヤ52と第3リングギヤ53とは、互いに相対回転可能である。また、第3リングギヤ53は、出力軸54に連結されており、出力軸54と共に回転自在に支持されている。第3リングギヤ53と出力軸54とは、一体に回転する。出力軸54は、各リングギヤ51,52,53と同軸上(すなわち、回転軸線AL上)に配置されており、先端(図9の左側の端部)がケース16から外部に突出している。したがって、減速機構4すなわち複合遊星歯車装置1で増幅されるトルクは、出力軸54から外部に出力される。
図9に示す複合遊星歯車装置1では、第1プラネタリギヤ8は、第1リングギヤ51と噛み合い、自転しつつ第1リングギヤ51の内周を公転する。第2プラネタリギヤ9は、第2リングギヤ52と噛み合い、自転しつつ第2リングギヤ52の内周を公転する。第3プラネタリギヤ10は、第2プラネタリギヤ9と共に第2リングギヤ52と噛み合い、自転しつつ第2リングギヤ52の内周を公転する。そして、第4プラネタリギヤ11は、第3リングギヤ53と噛み合い、自転しつつ第3リングギヤ53の内周を公転する。
この図9に示す複合遊星歯車装置1においても、前述の図1で示した複合遊星歯車装置1と同様に、キャリア12は、複合遊星歯車装置1の入力回転要素となっている。また、ケース16に固定された第1リングギヤ51は、複合遊星歯車装置1の反力要素となっている。また、出力軸54に連結された第3リングギヤ53は、複合遊星歯車装置1の出力回転要素となっている。第2リングギヤ52は、いずれの回転部材にも連結されておらず、第3リングギヤ53に対する一種のカウンタギヤとして機能する。すなわち、第2リングギヤ52は、第3リングギヤ53が回転する際には、第3リングギヤ53の回転方向と逆の方向に回転する。
要するに、図9に示す複合遊星歯車装置1は、第2リングギヤ52を共用して、四組の遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の構成となっている。あるいは、第2リングギヤ52を共用して、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1リングギヤ51および第2リングギヤ52から構成される複合遊星歯車機構(説明上、“第1の複合遊星歯車機構”とする)と、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2リングギヤ52および第3リングギヤ53から構成される複合遊星歯車機構(説明上、“第2の複合遊星歯車機構”とする)との二組の複合遊星歯車機構を組み合わせた構成となっている。そのため、複合遊星歯車装置1は、回転軸線ALに三組の遊星歯車機構を配置した構造に相当するコンパクトな体格で構成できる。そして、実質的には、四組の遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の構成、あるいは、二組の複合遊星歯車機構を組み合わせた構成と同等の機能を得ることができる。
図9に示す複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ51との間のギヤ比と、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ52との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ52と間のギヤ比と、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ53との間のギヤ比とを、互いに異ならせている。
具体的には、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ51との間のギヤ比u11と、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ52との間のギヤ比u12とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ52との間のギヤ比u13と、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ53との間のギヤ比u14とを、互いに異ならせている。なお、この発明の実施形態では、第1リングギヤ51の歯数zr1に対する第1プラネタリギヤ8の歯数zp1の比率を、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ51との間のギヤ比u11とし、第2リングギヤ52の歯数zr2に対する第2プラネタリギヤ9の歯数zp2の比率を、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ52との間のギヤ比u12とする。また、第2リングギヤ52の歯数zr2に対する第3プラネタリギヤ10の歯数zp3の比率を、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ52との間のギヤ比u3とし、第3リングギヤ53の歯数zr3に対する第4プラネタリギヤ11の歯数zp4の比率を、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ53との間のギヤ比u14とする。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図9に括弧内の数値で示すように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1を“17”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2を“18”とし、第1リングギヤ51の歯数zr1を“66”、第2リングギヤ52の歯数zr2を“70”として構成されている。この場合、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ51との間のギヤ比u11、および、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ52との間のギヤ比u12は、それぞれ、
u11=zp1/zr1=17/66≒0.2576
u12=zp2/zr2=18/70≒0.2571
となる。上記のとおり、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1と第2プラネタリギヤ9の歯数zp2とを、“1歯”異ならせてあり、第1リングギヤ51の歯数zr1と第2リングギヤ52の歯数zr2とを、“4歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u1とギヤ比u2とは、一致することはなく、わずかな値ではあるが異なっている。
同様に、複合遊星歯車装置1は、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3を“17”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4を“18”とし、第2リングギヤ52の歯数zr2を“70”、第3リングギヤ53の歯数zr3を“74”として構成されている。この場合、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ52との間のギヤ比u13、および、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ53との間のギヤ比u14は、それぞれ、
u13=zp3/zr2=17/70≒0.2428
u14=zp4/zr3=18/74≒0.2432
となる。上記のとおり、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3と第4プラネタリギヤ11の歯数zp4とを、“1歯”異ならせてあり、第2リングギヤ52の歯数zr2と第3リングギヤ53の歯数zr3とを、“4歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u13とギヤ比u14とは、一致することはなく、わずかな値ではあるが異なっている。
前述したように、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、“第1の複合遊星歯車機構”と、“第2の複合遊星歯車機構”とを組み合わせた構成となっている。図9に示す複合遊星歯車装置1では、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1リングギヤ51および第2リングギヤ52から“第1の複合遊星歯車機構”が構成され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2リングギヤ52および第3リングギヤ53から“第2の複合遊星歯車機構”が構成されている。
“第1の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u11とギヤ比u12とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u11とギヤ比u12とを等しくすると、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比は無限大になってしまう。そのような場合には、“第1の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図9に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u11とギヤ比u12とを互いに異ならせることにより、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u11とギヤ比u12との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u11とギヤ比u12との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
図9に示す複合遊星歯車装置1では、“第1の複合遊星歯車機構”の減速比R11は、
R11=1/{1-(zr1/zp1)×(zp2/zr2)}
=1/{1-(66/17)×(18/70)}
≒595
となる。従来の一般的な遊星歯車機構で実現可能な減速比が、概ね“4”から“10”程度であることと比較して、相対的に、大きな減速比が得られている。
同様に、“第2の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u13とギヤ比u14とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u13とギヤ比u14とを等しくすると、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比は無限大になってしまう。そのような場合には、“第2の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図9に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u13とギヤ比u14とを互いに異ならせることにより、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u13とギヤ比u14との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u13とギヤ比u14との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
図9に示す複合遊星歯車装置1では、“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R12は、
R12=1/{1-(zr2/zp3)×(zp4/zr3)}
=1/{1-(70/17)×(18/74)}
≒-629
となる。従来の一般的な遊星歯車機構で実現可能な減速比が、概ね“4”から“10”程度であることと比較して、相対的に、大きな減速比が得られている。なお、この“第2の複合遊星歯車機構”においては、入力回転要素に相当する第2リングギヤ52の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第3リングギヤ53が逆の方向に回転する。そのため、この“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R12に、便宜上、負(-)の符号を付けている。
図9に示す複合遊星歯車装置1では、複合遊星歯車装置1の全体の入力回転要素であるキャリア12の回転数に対して、第2リングギヤ52の回転数が減少し、その第2リングギヤ52の回転数に対して、更に、複合遊星歯車装置1の全体の出力回転要素である第3リングギヤ53の回転数が減少する。言い換えると、キャリア12に入力されるトルクは、“第1の複合遊星歯車機構”で増幅されて第2リングギヤ52に伝達され、更に、“第2の複合遊星歯車機構”で増幅されて第3リングギヤ53に伝達される。したがって、上記のようにして算出される“第1の複合遊星歯車機構”の減速比R11、および、“第2の複合遊星歯車機構”の減速比R12から、複合遊星歯車装置1の全体の減速比Rは、
R=1/{1/R11+(1-1/R11)/R12)}
=1/{1/595+(1-1/595)/(-629))}
≒10693
となる。例えば不思議遊星歯車装置や波動歯車装置などで実用化されている減速比を大きく上回る高減速比が得られている。なお、この図9に示す複合遊星歯車装置1では、入力回転要素であるキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素である第3リングギヤ53が同じ方向に回転する。
上記のように、図9に示す複合遊星歯車装置1では、例えば、電気モータ3が正回転(CW)方向に回転する際に、入力回転要素であるキャリア12の回転方向を正転方向とすると、出力回転要素である第3リングギヤ53が、キャリア12と同じ正転方向に回転する。この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、各リングギヤ51,52,53の歯数、ならびに、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数をそれぞれ調整することにより、所望する減速比を設定するとともに、出力回転要素である第3リングギヤ53の回転方向を、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
図9に示す複合遊星歯車装置1のように、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7として、それぞれ、第1リングギヤ51、第2リングギヤ52、および、第3リングギヤ53を設けた場合は、各ギヤの歯数の関係について、以下に示す各関係式が規定されている。下記の各関係式がいずれも成立するように各ギヤの歯数をそれぞれ設定することにより、第3リングギヤ53の回転方向を、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
具体的には、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各リングギヤ51,52,53の歯数zr1,zr2,zr3を、それぞれ、
zp1=zp3
zp2=zp4=zp1+1
zr1=(zp1×2-1)×2
zr2=(zp1×2+1)×2
zr3=(zp1×2+3)×2
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第3リングギヤ53を、正転方向に回転させることができる。すなわち、トルクが入力されて回転するキャリア12に対して、出力軸54を正転方向に減速させることができる。
一方、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各リングギヤ51,52,52の歯数zr1,zr2,zr3を、それぞれ、
zp1=zp3
zp2=zp4=zp1-1
zr1=(zp1×2+1)×2
zr2=(zp1×2-1)×2
zr3=(zp1×2-3)×2
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第3リングギヤ53を、逆転方向に回転させることができる。すなわち、トルクが入力されて回転するキャリア12に対して、出力軸54を逆転方向に減速させることができる。
図10および図11の各図表および線図に、三つのリングギヤ51,52,53、および、四つのプラネタリギヤ8,9,10,11を用いた複合遊星歯車装置1における、各リングギヤ51,52,53の歯数zr1,zr2,zr3と、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4との関係、ならびに、それに対応する減速比Rを示してある。図10の図表および線図は、出力軸54を正転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比Rを示している。図11の図表および線図は、出力軸54を逆転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比Rを示している。これら図10、図11の各図表および線図に示すように、図9に示す複合遊星歯車装置1では、“約30”から“約33000”にわたる広範囲で減速比Rを適宜設定することができる。そして、“30000”を超える相当に大きな減速比Rを設定することが可能である。
また、図9に示す複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7が、それぞれ、内歯歯車の第1リングギヤ51、第2リングギヤ52、および、第3リングギヤ53で構成される。すなわち、それぞれ、サンギヤを用いない“第1の複合遊星歯車機構”および“第2の複合遊星歯車機構”(もしくは、四組の遊星歯車機構)を組み合わせて、複合遊星歯車装置1が構成される。そのため、サンギヤを設けていない分、径方向の体格を小型化したコンパクトな複合遊星歯車装置1を構成できる。
〔第4実施形態〕
図12に示す複合遊星歯車装置1は、図9で示した複合遊星歯車装置1と同様に、三つのリングギヤ51,52,53、および、四つのプラネタリギヤ8,9,10,11を用いて構成されている。この図12に示す複合遊星歯車装置1では、各プラネタリギヤ8,9、および、各プラネタリギヤ10,11は、それぞれ、キャリア61によって、自転および公転可能に保持されている。キャリア61は、いずれの回転部材にも連結されておらず、回転自在に支持されている。そして、この図12に示す複合遊星歯車装置1は、複合遊星歯車装置1、すなわち、ギヤードモータ2の減速機構4に対してトルクを入力する入力サンギヤ62を有している。
入力サンギヤ62は、各リングギヤ51,52,53、および、キャリア61と同軸上(すなわち、回転軸線AL上)に配置されている。入力サンギヤ62は、外歯歯車であり、第1リングギヤ51と共に、第1プラネタリギヤ8と噛み合っている。すなわち、第1プラネタリギヤ8は、第1リングギヤ51および入力サンギヤ62の両方に噛み合っている。したがって、この図12に示す複合遊星歯車装置1では、入力サンギヤ62、第1リングギヤ51、第1プラネタリギヤ8、および、キャリア61から、シングルピニオン型の遊星歯車機構(説明上、“入力遊星歯車機構”とする)が形成されている。
入力サンギヤ62は、電気モータ3の回転軸18に連結されている。入力サンギヤ62と回転軸18とは一体に回転する。したがって、電気モータ3が出力するトルクは、入力トルクとして、入力サンギヤ62を介して、複合遊星歯車装置1のキャリア12に入力される。言い換えると、電気モータ3が出力するトルクは、入力サンギヤ62から、“入力遊星歯車機構”を介して、複合遊星歯車装置1に伝達される。そのため、図12に示す複合遊星歯車装置1は、上記のような“入力遊星歯車機構”で得られる減速比の分、複合遊星歯車装置1の全体としての減速比Rが大きくなる。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図12に括弧内の数値で示すように、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4を、それぞれ、“17”,“18”,“17”,“18”として構成されている。前述の図9で示した複合遊星歯車装置1と同じである。また、複合遊星歯車装置1は、各リングギヤ51,52,53の歯数zr1,zr2,zr3を、それぞれ、“66”,“70”,“74”として構成されている。こちらも、前述の図9で示した複合遊星歯車装置1と同じである。そのため、この図12に示す複合遊星歯車装置1の減速比Rは、前述の図9で示した複合遊星歯車装置1で得られる減速比に“入力遊星歯車機構”で得られる減速比を乗じた値になる。
入力サンギヤ62の歯数z62は、図12に括弧内の数値で示すように、“32”となっている。この場合、“入力遊星歯車機構”の減速比R62は、
R62=zr1/z62+1
=66/32+1=3.0625
となる。
したがって、図12に示す複合遊星歯車装置1の減速比Rは、前述の図9で示した複合遊星歯車装置1の減速比が“10693”であることから、
R=10693×R62
=10693×3.0625≒32747
となる。
このように、図12に示す複合遊星歯車装置1では、各ギヤ5,6,7を、それぞれ、内歯歯車の各リングギヤ51,52,53を用いて構成する場合に、第1プラネタリギヤ8と噛み合う入力サンギヤ62が設けられる。そして、入力サンギヤ62を介して、入力トルクがキャリア12に入力される。そのため、例えば、前述の図9で示した複合遊星歯車装置1のような入力サンギヤ62を設けていない構成と比較して、より大きな減速比Rを設定できる。
〔第5実施形態〕
図13に示す複合遊星歯車装置1は、一つの入力軸に対して二つの出力軸を有し、かつ、二つの出力軸を互いに逆方向に回転させる反転機構71を構成している。前述の図9に示す実施形態で説明したように、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、第2リングギヤ52が第3リングギヤ53に対するカウンタギヤとして機能し、第2リングギヤ52と第3リングギヤ53とが互いに逆方向に回転する。この図13に示す複合遊星歯車装置1では、第2リングギヤ52に反転軸72が設けられ、第3リングギヤ53に連結した出力軸54と反転軸72とを互いに逆方向に回転させる反転機構71が構成されている。なお、図13に示す実施形態では、図13の左から、第1リングギヤ51、第3リングギヤ53、第2リングギヤ52の順で配列されている。
具体的には、図13に示す複合遊星歯車装置1では、第1リングギヤ51の固定軸部73、および、キャリア12の回転軸74は、それぞれ、中空形状に形成されている。第2リングギヤ52の回転軸75に、反転軸72が連結されている。回転軸75および第2リングギヤ52と反転軸72とは一体に回転する。反転軸72および回転軸75は、中空形状の固定軸部73および回転軸74の中空部分に配置されており、反転軸72の先端(図13の左側の端部)が、複合遊星歯車装置1のケース31から外部に突出している。この図13に示す実施形態では、第3リングギヤ53に連結された出力軸54は、先端(図13の右側の端部)が、複合遊星歯車装置1のケース(図示せず)から外部に突出している。
出力軸54と反転軸72とは、回転軸線AL上で対向して(同軸上に並んで)配置されている。また、出力軸54と反転軸72とは、互いに相対回転可能である。反転軸72は、出力軸54が回転する際に、出力軸54の回転方向と逆の方向に回転する。そして、反転軸72は、第2リングギヤ52に伝達された入力トルクを、第2リングギヤ52から外部に出力する。また、反転軸72を介して、外部から所定のトルクを第2リングギヤ52に入力することも可能である。
このように、図13に示す複合遊星歯車装置1は、第2リングギヤ52に反転軸72が連結される。第2リングギヤ52は、第3リングギヤ53に対するカウンタギヤとして機能する。そのため、反転軸72は、第3リングギヤ53すなわち出力軸54が回転する際には、出力軸54の回転方向と逆の方向に回転する。したがって、この図13に示す複合遊星歯車装置1によれば、入力トルクを増幅して出力軸54および反転軸72から出力するとともに、一方の出力軸54の回転方向に対して他方の反転軸72の回転方向を反転させる反転機構71を、コンパクトに構成できる。
また、反転軸72は、外部から複合遊星歯車装置1にトルクを入力する入力軸としても機能する。すなわち、出力軸54の回転方向と逆の方向に反転軸72を回転させるトルクを反転軸72から入力することにより、出力軸54から出力されるトルクを増大させることができる。例えば、反転軸72からアシストトルクを入力するアシストモータ(図示せず)を容易に設けることができる。
なお、上記のように、複合遊星歯車装置1に反転軸72を設けて反転機構71を構成する場合に、図14に示すように、第1プラネタリギヤ8および第4プラネタリギヤ11にそれぞれ対応する二つのプラネタリギヤを追加してもよい。それにより、第2リングギヤ52、第3リングギヤ53、および、キャリア12の回転や支持状態を安定させることができる。具体的には、図14に示すように、複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8に対応する第5プラネタリギヤ76、および、第4プラネタリギヤ11に対応する第6プラネタリギヤ77が設けられている。
第5プラネタリギヤ76は、第1プラネタリギヤ8と同形で、歯数およびモジュールが等しい外歯歯車によって構成されている。第5プラネタリギヤ76は、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11と同軸上に配置されている。すなわち、第5プラネタリギヤ76は、回転軸20上に配置され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11と一体に回転する。第5プラネタリギヤ76は、第1リングギヤ51と噛み合っている。すなわち、第1リングギヤ51は、第1プラネタリギヤ8および第5プラネタリギヤ76の両方に噛み合っている。したがって、第5プラネタリギヤ76は、キャリア12が回転する場合、第1プラネタリギヤ8と同じ回転数で自転し、第1プラネタリギヤ8と同様に第1リングギヤ51の内周を公転する。
同様に、第6プラネタリギヤ77は、第4プラネタリギヤ11と同形で、歯数およびモジュールが等しい外歯歯車によって構成されている。第6プラネタリギヤ77は、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9と同軸上に配置されている。すなわち、第6プラネタリギヤ77は、回転軸19上に配置され、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9と一体に回転する。第6プラネタリギヤ77は、第3リングギヤ53と噛み合っている。すなわち、第3リングギヤ53は、第4プラネタリギヤ11および第6プラネタリギヤ77の両方に噛み合っている。したがって、第6プラネタリギヤ77は、キャリア12が回転する場合、第4プラネタリギヤ11と同じ回転数で自転し、第4プラネタリギヤ11と同様に第3リングギヤ53の内周を公転する。
したがって、この図14に示す複合遊星歯車装置1は、反転機構71に、第5プラネタリギヤ76および第6プラネタリギヤ77を追加することにより、第1プラネタリセット21の回転軸19と、第2プラネタリセット22の回転軸20とで、それぞれ、各プラネタリギヤ8,9,77、および、各プラネタリギヤ10,11,76の支持位置や支持状態が等しくなる。そのため、キャリア12が回転する際のバランスが良好になり、キャリア12、ならびに、第2リングギヤ52および第3リングギヤ53の回転状態が安定する。すなわち、出力軸54および反転軸72から、それぞれ、安定してトルクを出力することができる。
〔第6実施形態〕
図15に示す複合遊星歯車装置1は、車両に搭載することを想定し、車両の左右の駆動輪(図示せず)に対するデファレンシャル機構100を構成している。この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5を回転可能に支持し、所定の動力源(図示せず)が出力する駆動トルクを、第1ギヤ5に入力するように構成できる。その場合に、第2ギヤ6および第3ギヤ7に、それぞれ、第1回転軸101、および、第2回転軸102を設けて、車両に搭載するデファレンシャル機構100を構成できる。
図15に示す実施形態では、図15の左から、第1ギヤ5、第2ギヤ6、第3ギヤ7の順で配列されている。第1ギヤ5に対して、第2ギヤ6および第3ギヤ7が、いずれも、相対回転可能に支持されている。したがって、第1ギヤ5と第2ギヤ6と第3ギヤ7とは、互いに相対回転可能である。そして、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7は、いずれも、外歯歯車によって構成されている。具体的には、第1ギヤ5は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う外歯歯車の第1サンギヤ103によって構成されている。第2ギヤ6は、第2プラネタリギヤ9および第3プラネタリギヤ10の両方と噛み合う外歯歯車の第2サンギヤ104によって構成されている。そして、第3ギヤ7は、第4プラネタリギヤ11と噛み合う外歯歯車の第3サンギヤ105によって構成されている。
第1サンギヤ103は、回転自在に、複合遊星歯車装置1のケース106に支持されている。なお、ケース106は、デファレンシャル機構100のケースを兼ねている。第2サンギヤ104は、回転自在に支持されている。第2サンギヤ104は、第1サンギヤ103に対して相対回転可能である。第3サンギヤ105は、第1サンギヤ103に対して相対回転可能である。したがって、第1サンギヤ103と第2サンギヤ104と第3サンギヤ105とは、互いに相対回転可能である。
第1サンギヤ103の回転軸107に、デフリングギヤ108が取り付けられている。デフリングギヤ108と回転軸107および第1サンギヤ103とは一体に回転する。デフリングギヤ108は、大径のかさ歯車であり、車両(図示せず)のプロペラシャフト109の先端(図15の下側の端部)に設けられたドライブピニオン110に噛み合っている。ドライブピニオン110は、デフリングギヤ108よりも小径で歯数の少ないかさ歯車である。したがって、ドライブピニオン110、および、デフリングギヤ108によって、車両の終減速装置(ファイナルギヤ)が構成されている。プロペラシャフト109の他方の端部(図示せず)は、所定の動力源(図示せず)が連結される。したがって、デファレンシャル機構100は、デフリングギヤ108、および、プロペラシャフト109を介して、動力源に連結される。動力源は、例えば、エンジンやモータ、あるいは、ブレーキ装置などであり、車両を加速するトルクあるいは車両を制動するトルクなどの正負の駆動トルクを発生する。
第2サンギヤ104に、第1回転軸101が連結されている。第2サンギヤ104と第1回転軸101とは一体に回転する。また、第3サンギヤ105に、第2回転軸102が連結されている。第3サンギヤ105と第2回転軸102とは一体に回転する。第1回転軸101と第2回転軸102とは、同軸上(すなわち、回転軸線AL上)で対向して配置され、互いに相対回転可能である。第1回転軸101は、突出側(図15の左側)の端部が、ケース106に回転可能に支持されており、その先端に、車両の左右いずれか一方の駆動輪(図示せず)が連結される。第2回転軸102は、突出側(図15の右側)の端部が、ケース106に回転可能に支持されており、その先端に、他方の駆動輪(図示せず)が連結される。
キャリア12は、回転軸線AL上に配置され、回転自在に支持されている。キャリア12と各サンギヤ103,104,105とは、互いに相対回転可能である。そして、キャリア12の回転軸111に、制御用モータ112の回転軸、すなわち、制御トルク出力軸113が連結されている。回転軸111およびキャリア12と制御トルク出力軸113とは一体に回転する。
制御用モータ112は、駆動トルクを発生する動力源動力源とは異なる電気モータであり、第1回転軸101と第2回転軸102との間の差動状態を制御するための制御トルクを発生する。制御用モータ112は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。制御用モータ112は、回転軸線AL上に配置されている。すなわち、制御用モータ112と複合遊星歯車装置1とは、互いに同軸上に配置されている。
図15に示す複合遊星歯車装置1は、所定の動力源から第1サンギヤ103に入力される駆動トルクを、第2サンギヤ104すなわち第1回転軸101と、第3サンギヤ105すなわち第2回転軸102とに分配して伝達する。それとともに、制御用モータ112からキャリア12に入力される制御トルクを、キャリア12と第2サンギヤ104との間、および、キャリア12と第3サンギヤ105との間で、それぞれ増幅して、第1回転軸101および第2回転軸102に伝達する。更に、図15に示す複合遊星歯車装置1は、制御用モータ112からキャリア12に制御トルクが入力されることにより、第1回転軸101と第2回転軸102とが差動回転する。そして、第1回転軸101と第2回転軸102とが差動回転する際には、第1回転軸101および第2回転軸102が互いに逆方向に回転する。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8と第1ギヤ5との間のギヤ比と、第2プラネタリギヤ9と第2ギヤ6との間のギヤ比とが互いに異なり、第3プラネタリギヤ10と第2ギヤ6との間のギヤ比と、第4プラネタリギヤ11と第3ギヤ7との間のギヤ比とが互いに異なるように構成されている。
図15に示す複合遊星歯車装置1では、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ103との間のギヤ比u21と、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ104との間のギヤ比u22とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ104との間のギヤ比u23と、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ105との間のギヤ比u24とを、互いに異ならせている。なお、この発明の実施形態では、第1サンギヤ103の歯数zs11に対する第1プラネタリギヤ8の歯数zp1の比率を、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ103との間のギヤ比u21とし、第2サンギヤ104の歯数zs12に対する第2プラネタリギヤ9の歯数zp2の比率を、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ104との間のギヤ比u22とする。また、第2サンギヤ104の歯数zs12に対する第3プラネタリギヤ10の歯数zp3の比率を、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ104との間のギヤ比u23とし、第3サンギヤ105の歯数zs13に対する第4プラネタリギヤ11の歯数zp4の比率を、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ105との間のギヤ比u24とする。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図15に括弧内の数値で示すように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1を“18”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2を“19”とし、第1サンギヤ103の歯数zs11、および、第2サンギヤ104の歯数zs12を、いずれも、“35”として構成されている。この場合、第1プラネタリギヤ8と第1サンギヤ103との間のギヤ比u21、および、第2プラネタリギヤ9と第2サンギヤ104との間のギヤ比u22は、それぞれ、
u21=zp1/zs11=18/35≒0.514
u22=zp2/zs12=19/35≒0.543
となる。上記のとおり、第1サンギヤ103の歯数zs11と第2サンギヤ104の歯数zs12とを等しくし、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1と第2プラネタリギヤ9の歯数zp2とを、“1歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u21とギヤ比u22とは、一致することなく、異なっている。
同様に、複合遊星歯車装置1は、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3を“19”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4を“17”とし、第2サンギヤ104の歯数zs12、および、第3サンギヤ105の歯数zs13を、いずれも、“35”として構成されている。この場合、第3プラネタリギヤ10と第2サンギヤ104との間のギヤ比u23、および、第4プラネタリギヤ11と第3サンギヤ105との間のギヤ比u24は、それぞれ、
u23=zp3/zs12=19/35≒0.543
u24=zp4/zs13=17/35≒0.486
となる。上記のとおり、第2サンギヤ104の歯数zs12と第3サンギヤ105の歯数zs13とを等しくし、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3と第4プラネタリギヤ11の歯数zp4とを、“2歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u23とギヤ比u24とは、一致することなく、異なっている。
上記のように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1に対して第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が“1歯”多い。また、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3に対して第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“2歯”少ない。第2プラネタリギヤ9の歯数zp2および第3プラネタリギヤ10の歯数zp3は、いずれも“19”で等しい。したがって、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1に対して、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3が“1歯”多く、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“1歯”少なくなっている。
また、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、“第1の複合遊星歯車機構”と、“第2の複合遊星歯車機構”とを組み合わせた構成となっている。図15に示す実施形態では、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1サンギヤ103および第2サンギヤ104から“第1の複合遊星歯車機構”が構成され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2サンギヤ104および第3サンギヤ105から“第2の複合遊星歯車機構”が構成されている。
“第1の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u21とギヤ比u22とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u21とギヤ比u22とを等しくすると、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比(入力回転要素の回転数に対する出力回転要素の回転数の比率)は無限大になってしまう。そのような場合には、“第1の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図15に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u21とギヤ比u22とを互いに異ならせることにより、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u21とギヤ比u22との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u21とギヤ比u22との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
同様に、“第2の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u23とギヤ比u24とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u23とギヤ比u24とを等しくすると、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比は無限大になってしまう。そのような場合には、“第2の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図15に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u23とギヤ比u24とを互いに異ならせることにより、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u23とギヤ比u24との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u23とギヤ比u24との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
上記のように構成された複合遊星歯車装置1、すなわち、デファレンシャル機構100では、第1サンギヤ103に入力された駆動トルクが第2サンギヤ104および第3サンギヤ105に伝達される際に、第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数とが等しい場合には、第1回転軸101と第2回転軸102とが一体に回転する。
第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数とが等しい場合、すなわち、第2サンギヤ104の回転数と第3サンギヤ105の回転数とが等しい場合は、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が第1プラネタリギヤ8の歯数zp1よりも“1歯”多いことにより、第2プラネタリギヤ9と噛み合う第2サンギヤ104は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う第1サンギヤ103よりも“1歯”分速く回転しようとする。一方、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が第1プラネタリギヤ8の歯数zp1よりも“1歯”少ないことにより、第4プラネタリギヤ11と噛み合う第3サンギヤ105は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う第1サンギヤ103よりも“1歯”分遅く回転しようとする。したがって、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105とが、相対的に、互いに逆方向に回転しようとする。この場合、共に第2サンギヤ104に噛み合う第2プラネタリギヤ9と第3プラネタリギヤ10とは、第2サンギヤ104の外周を等しく公転する。第3プラネタリギヤ10と、第3サンギヤ105に噛み合う第4プラネタリギヤ11とは、一体に自転かつ公転する。そのため、第2サンギヤ104と第2プラネタリギヤ9との噛み合い部、および、第3サンギヤ105と第4プラネタリギヤ11との噛み合い部に、互いに逆方向のトルクが作用し、各噛み合い部が互いに干渉する。その結果、複合遊星歯車装置1全体が、実質的に係合状態となり、一体となって回転する。したがって、第1回転軸101および第2回転軸102は、差動回転することなく、一体となって回転する。
それに対して、第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数との間に回転数差がある場合、すなわち、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105とが差動回転する場合には、上記のような各噛み合い部の干渉による複合遊星歯車装置1の実質的な係合状態が解消される。そのため、第1サンギヤ103から第2サンギヤ104に至る動力伝達経路、および、第1サンギヤ103から第3サンギヤ105に至る動力伝達経路では、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105とを差動回転させつつ、それぞれ、駆動トルクを伝達する。その場合、第2サンギヤ104と第2プラネタリギヤ9との噛み合い部、および、第3サンギヤ105と第4プラネタリギヤ11との噛み合い部には、上記のように、互いに逆方向のトルクが作用する。したがって、第2サンギヤ104および第3サンギヤ105が、互いに逆方向に相対回転する。すなわち、第3サンギヤ105に対して第2サンギヤ104が反転するように、それら第2サンギヤ104および第3サンギヤ105がそれぞれ回転する。その結果、第1回転軸101および第2回転軸102は、差動回転しつつ、互いに逆方向に相対回転する。
更に、図15に示す複合遊星歯車装置1は、キャリア12と第2サンギヤ104との間の減速比(第1減速比とする)と、キャリア12と第3サンギヤ105との間の減速比、すなわち、複合遊星歯車装置1全体の減速比(第2減速比とする)とが、互いに等しいもしく近似するように構成されている。第1減速比は、キャリア12の回転数に対する第2サンギヤ104の回転数の比率である。第2減速比は、キャリア12の回転数に対する第3サンギヤ105の回転数の比率である。なお、第2サンギヤ104の回転数に対する第3サンギヤ105の回転数の比率、すなわち、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105との間の減速比を、中間減速比とする。
また、図15に示す複合遊星歯車装置1は、キャリア12の回転数に対して第2サンギヤ104の回転数、および、第3サンギヤ105の回転数が、いずれも、減少するように構成されている。すなわち、上記のような第1減速比、中間減速比、および、第2減速比は、いずれも、(絶対値が)“1”よりも大きくなる。したがって、複合遊星歯車装置1は、キャリア12に入力される制御用モータ112の制御トルクを増幅して、第2サンギヤ104、および、第3サンギヤ105に伝達する。
例えば、前述したように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1が“18”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が“19”、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3が“19”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“17”であり、各サンギヤ103,104,105の歯数zs11,zs12,zs13が、いずれも、“35”である場合には、キャリア12と第2サンギヤ104との間の第1減速比R21は、
R21=1/{1-(zs11/zp1)×(zp2/zs12)}
=1/{1-(35/18)×(19/35)}
≒-18
となる。この場合は、入力回転要素に相当するキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第2サンギヤ104が逆の方向に回転する。そのため、この第1減速比R21に、便宜上、負(-)の符号を付けている。
同様に、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105との間の中間減速比R20は、
R20=1/{1-(zs12/zp3)×(zp4/zs13)}
=1/{1-(35/19)×(17/35)}
≒9.5
となる。
そして、複合遊星歯車装置1全体の減速比、すなわち、キャリア12と第3サンギヤ105との間の第2減速比R22は、上記の第1減速比R21、および、中間減速比R20から、
R22=1/{1/R21+(1-1/R21)/R20)}
=1/{1/(-18)+(1-1/(-18))/9.5)}
≒18
となる。この場合は、入力回転要素に相当するキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第3サンギヤ105が同じ方向に回転する。
したがって、複合遊星歯車装置1は、キャリア12に制御トルクが入力され、キャリア12が回転することにより、第2サンギヤ104と第3サンギヤ105とが差動回転する。それとともに、第2サンギヤ104および第3サンギヤ105は、互いに逆方向に回転する。その場合、キャリア12の回転数に対する第2サンギヤ104の回転数の比率、すなわち、第1減速比R21の大きさと、キャリア12の回転数に対する第3サンギヤ105の回転数の比率、すなわち、第2減速比R22の大きさとが、互いに等しいもしく近似している。図15に示す実施形態では、第1減速比R21と第2減速比R22とは、大きさがほぼ等しくなっている。そのため、制御用モータ112が出力する制御トルクは、互いに、ほぼ同じ増幅率で増大されて、第2サンギヤ104および第3サンギヤ105に伝達される。
上記のように、図15に示す複合遊星歯車装置1では、例えば、制御用モータ112が正回転(CW;clock wise)方向に回転する際に、入力回転要素であるキャリア12の回転方向を正転方向とすると、出力回転要素である第2サンギヤ104が、正転方向と逆の逆転方向に回転し、第3サンギヤ105が、正転方向に回転する。この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、各ギヤ5,6,7の歯数、ならびに、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数をそれぞれ調整することにより、所望する減速比を設定するとともに、出力回転要素である第2ギヤ6および第3ギヤ7の回転方向を、それぞれ、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
図15に示す複合遊星歯車装置1のように、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7として、それぞれ、第1サンギヤ103、第2サンギヤ104、および、第3サンギヤ105を設けた場合は、各ギヤの歯数の関係について、以下に示す各関係式が規定されている。下記の各関係式がいずれも成立するように各ギヤの歯数をそれぞれ設定することにより、第2サンギヤ104および第3サンギヤ105の回転方向を、それぞれ、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
具体的には、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各サンギヤ103,104,105の歯数zs11,zs12,zs13を、それぞれ、
zp2=zp3=zp1+1
zp4=zp1-1
zs11=zs12=zs13
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第2サンギヤ104を、逆転方向に回転させるとともに、第3サンギヤ105を、正転方向に回転させることができる。
一方、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各サンギヤ103,104,105の歯数zs11,zs12,zs13を、それぞれ、
zp2=zp3=zp1-1
zp4=zp1+1
zs11=zs12=zs13
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第2サンギヤ104を、正転方向に回転させるとともに、第3サンギヤ105を、逆転方向に回転させることができる。
図16および図17の各図表および線図に、三つのサンギヤ103,104,105、および、四つのプラネタリギヤ8,9,10,11を用いた複合遊星歯車装置1における、各サンギヤ103,104,105の歯数zs11,zs12,zs13と、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4との関係、ならびに、それに対応する第1減速比R21、中間減速比R20、および、第2減速比R22を示してある。図16の図表および線図は、第3サンギヤ105を正転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比を示している。図17の図表および線図は、第3サンギヤ105を逆転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比を示している。これら図16、図17の各図表および線図に示すように、図15に示す複合遊星歯車装置1では、“25”を超える大きな減速比R21,R22を設定することが可能である。そのため、大きな増幅率で制御トルクを増幅することができ、その分、制御用モータ112の小型化を図ることができる。
また、図15に示す複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7が、それぞれ、外歯歯車の第1サンギヤ103、第2サンギヤ104、および、第3サンギヤ105で構成される。すなわち、それぞれ、リングギヤを用いない“第1の複合遊星歯車機構”および“第2の複合遊星歯車機構”(もしくは、四組の遊星歯車機構)を組み合わせて、複合遊星歯車装置1が構成される。そのため、リングギヤを設けていない分、径方向の体格を小型化したコンパクトな複合遊星歯車装置1を構成できる。したがって、図15に示す複合遊星歯車装置1によれば、制御用モータ112、および、複合遊星歯車装置1本体の小型化を図り、コンパクトなデファレンシャル機構100を構成できる。
〔第7実施形態〕
図18に示す複合遊星歯車装置1は、上記の図15で示した複合遊星歯車装置1およびデファレンシャル機構100と同様に、車両の左右の駆動輪(図示せず)に対するデファレンシャル機構120を構成している。更に、この図18に示す複合遊星歯車装置1は、制御用モータ112の連れ回りを抑制するための機構を備えている。
前述したように、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1回転軸101と第2回転軸102とが同方向に等速で回転する場合、複合遊星歯車装置1が一体になって連れ回りする。その場合に、仮に、制御用モータ112も一緒に連れ回りしてしまうと、複合遊星歯車装置1の動力伝達効率の低下を招いてしまう可能性がある。そのため、この図18に示す複合遊星歯車装置1には、上記のような制御用モータ112の連れ回りを回避または抑制するために、減速遊星歯車機構121、および、増速遊星歯車機構122が設けられている。
減速遊星歯車機構121は、制御用モータ112と、複合遊星歯車装置1のキャリア123との間に配置されており、制御用モータ112が出力する制御トルクを増幅してキャリア123に伝達する。また、減速遊星歯車機構121は、デフリングギヤ108、ならびに、第1回転軸101および第2回転軸102が一体となって回転する際に、制御用モータ112の制御トルク出力軸113の回転数に対してキャリア123の回転数を減少させる減速機構として機能する。なお、この図18に示す複合遊星歯車装置1では、キャリア123は、いずれの回転部材にも連結されておらず、回転自在に支持されている。キャリア123は、各プラネタリギヤ8,9、および、各プラネタリギヤ10,11を、それぞれ、自転および公転可能に保持している。
減速遊星歯車機構121は、第1回転軸101および第2回転軸102と同軸上、すなわち、回転軸線AL上に配置されている。減速遊星歯車機構121は、シングルピニオン型の遊星歯車機構から構成されており、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを有している。この発明の実施形態では、他の遊星歯車機構の各回転要素と区別するために、減速遊星歯車機構121のサンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを、それぞれ、減速サンギヤ124、減速キャリア125、および、減速リングギヤ126と呼称する。
減速サンギヤ124は、中空形状の回転軸の外周部分に形成されており、ケース106に回転可能に支持されている。減速サンギヤ124は、制御用モータ112の制御トルク出力軸113に連結されている。減速サンギヤ124と制御トルク出力軸113とは一体に回転する。
減速キャリア125は、減速遊星歯車機構121のプラネタリギヤ127を自転かつ公転可能に支持している。減速キャリア125は、複合遊星歯車装置1のキャリア123と兼用されており、それら減速キャリア125とキャリア123とは一体に回転する。後述するように、減速キャリア125は、デフリングギヤ108、ならびに、第1回転軸101および第2回転軸102が一体となって回転する際に、減速リングギヤ126の回転数に対して回転数が減少する。
減速リングギヤ126は、プラネタリギヤ127に噛み合う内歯歯車であり、ケース106に回転可能に支持されている。減速リングギヤ126は、複合遊星歯車装置1を覆うカバー状に形成された連結部材128を介して、後述する増速遊星歯車機構122の増速リングギヤ131に連結されている。減速リングギヤ126と連結部材128および増速リングギヤ131とは一体に回転する。
したがって、減速遊星歯車機構121は、制御トルク出力軸113から制御トルクが伝達されて減速サンギヤ124が回転する場合、減速リングギヤ126が反力要素となり、減速サンギヤ124の回転数に対して減速キャリア125の回転数が減少する。すなわち、減速遊星歯車機構121は、制御用モータ112の減速ギヤ機構として機能する。したがって、減速遊星歯車機構121は、制御用モータ112とキャリア123との間で、制御用モータ112が出力する制御トルクを増幅して、キャリア123に伝達する。
図18に示す実施形態では、図中に括弧内の数値で示すように、減速遊星歯車機構121における減速サンギヤ124の歯数が“24”、減速リングギヤ126の歯数が“60”、プラネタリギヤ127の歯数が“18”となっており、この減速遊星歯車機構121の減速比は“3.5”となる。したがって、この減速遊星歯車機構121の減速比を加味した、複合遊星歯車装置1の実質的な減速比R’は、前述の図15で示した複合遊星歯車装置1の減速比(キャリア12と第3サンギヤ105との間の第2減速比R22)が“18”であることから、
R’=18×3.5=63
となる。減速遊星歯車機構121の減速機能により、より一層大きな減速比R’を得ることができる。
一方、増速遊星歯車機構122は、第1回転軸101および第2回転軸102と同軸上、すなわち、回転軸線AL上に配置されている。増速遊星歯車機構122は、シングルピニオン型の遊星歯車機構から構成されており、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを有している。この発明の実施形態では、他の遊星歯車機構の各回転要素と区別するために、増速遊星歯車機構122のサンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを、それぞれ、増速サンギヤ129、増速キャリア130、および、増速リングギヤ131と呼称する。
増速サンギヤ129は、中空形状の軸部材の外周部分に形成されており、回転不可能に固定されている。例えば、ケース106と一体に形成されたフランジ部分(図示せず)に取り付けられている。
増速キャリア130は、増速遊星歯車機構122のプラネタリギヤ132を自転かつ公転可能に支持している。増速キャリア130は、第1サンギヤ103の回転軸107を介して、第1サンギヤ103およびデフリングギヤ108に連結されている。したがって、増速キャリア130は、第1サンギヤ103およびデフリングギヤ108と一体に回転する。
増速リングギヤ131は、プラネタリギヤ132に噛み合う内歯歯車であり、減速遊星歯車機構121の減速リングギヤ126と共に、ケース106に回転可能に支持されている。増速リングギヤ131は、連結部材128を介して、減速リングギヤ126に連結されている。増速リングギヤ131と減速リングギヤ126とは一体に回転する。増速リングギヤ131は、増速キャリア130が回転する際に、増速キャリア130の回転数に対して回転数が増大する。
したがって、増速遊星歯車機構122は、デフリングギヤ108から駆動トルクが伝達されて増速キャリア130が回転する場合、増速サンギヤ129が反力要素となり、増速キャリア130の回転数に対して増速リングギヤ131の回転数を増大させる増速機構として機能する。
図18に示す複合遊星歯車装置1では、図中に括弧内の数値で示すように、増速遊星歯車機構122における増速サンギヤ129の歯数が“24”、増速リングギヤ131の歯数が“60”、プラネタリギヤ132の歯数が“18”となっている。すなわち、増速サンギヤ129の歯数、増速リングギヤ131の歯数、および、プラネタリギヤ132の歯数は、それぞれ、上記の減速遊星歯車機構121おける減速サンギヤ124の歯数、減速リングギヤ126の歯数、および、プラネタリギヤ127の歯数と等しい。したがって、増速遊星歯車機構122と、減速遊星歯車機構121とは、ギヤ比(または、速度伝達比、速度比)が互いに等しくなっている。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1回転軸101と第2回転軸102とが同方向に等速で回転する場合には、複合遊星歯車装置1の全体が一体となって連れ回りする。それに伴い、増速遊星歯車機構122の増速キャリア130と減速遊星歯車機構121の減速キャリア125とは、同方向に等速で回転する。その場合、増速遊星歯車機構122は、増速サンギヤ129の回転を止めた状態で、増速キャリア130の回転数に対して増速リングギヤ131の回転数を増大させる増速機構として機能する。一方、減速遊星歯車機構121は、減速リングギヤ126の回転数に対して減速キャリア125の回転数を減少させる減速機構として機能する。増速キャリア130の回転速度および減速キャリア125の回転速度は互いに等しい。また、増速リングギヤ131と減速リングギヤ126とが連結されていることから、それら増速リングギヤ131の回転数および減速リングギヤ126の回転数も互いに等しい。そのため、増速遊星歯車機構122の増速比の絶対値と、減速遊星歯車機構121の減速比の絶対値とが等しくなる。この場合、増速サンギヤ129の回転速度が“0”であることから、減速遊星歯車機構121では、減速遊星歯車機構121のギヤ比に応じて、減速リングギヤ126の回転数に対して減速サンギヤ124の回転数が“0”または“0”近傍の回転数に減少する。図18に示す実施形態では、増速遊星歯車機構122のギヤ比と減速遊星歯車機構121のギヤ比とが等しいので、減速サンギヤ124の回転数は“0”になる。したがって、上記のように第1回転軸101と第2回転軸102とが同方向に等速で回転し、複合遊星歯車装置1が一体となって連れ回りする場合に、減速サンギヤ124に連結している制御用モータ112の制御トルク出力軸113は、回転数が“0”になる。すなわち、制御用モータ112の連れ回りが抑制される。
したがって、この図18に示す複合遊星歯車装置1によれば、制御トルクを出力する制御用モータ112の連れ回りを抑制して、デファレンシャル機構120の動力伝達効率を向上させることができる。ひいては、デファレンシャル機構120を搭載する車両のエネルギ効率を向上させることができる。また、例えば、車両が直進走行している状態で急加速または急減速する場合に、制御用モータ112の連れ回りが抑制されることから、制御用モータ112の慣性トルクの影響を排除することができる。そのため、例えば、制御用モータ112が連れ回る場合の慣性トルクを相殺または減殺するトルクの制御を別途実行しなくともよく、その分、制御用モータ112を制御する装置の負荷を軽減できる。ひいては、このデファレンシャル機構120および制御用モータ112によるトルクベクタリング制御の制御性を向上させることができる。
〔第8実施形態〕
図19に示す複合遊星歯車装置1は、上記の図18で示した複合遊星歯車装置1と同様に、デファレンシャル機構120を構成している。それとともに、この図19に示すデファレンシャル機構120は、動力源と共に、トルクベクタリング機能を有する動力ユニット140を構成している。
図19に示す実施形態では、動力源として、動力モータ141、および、ブレーキ機構142が設けられている。具体的には、動力軸143の一方(図19の右側)の端部に、動力モータ141の出力軸144が連結されている。動力モータ141は、車両を加速する駆動トルク、または、車両を制動する回生トルクを発生する。動力モータ141は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。動力軸143の他方(図19の左側)の端部には、ブレーキ機構142の回転軸145が連結されている。ブレーキ機構142は、いわゆる負の駆動トルクとして制動トルクを発生する。ブレーキ機構142は、例えば、通電されることにより発生する磁気吸引力を利用して所定の回転部材を制動する励磁作動型の電磁ブレーキ、あるいは、電動モータによって駆動される送りねじ機構を用いて摩擦制動力を発生させる電動ブレーキ、あるいは、モータで発電する際に発生する抵抗力を利用して所定の回転部材を制動する回生ブレーキなどによって構成されている。したがって、この図19に示す実施形態では、動力源として、ブレーキ機能付きモータがデファレンシャル機構120に組み付けられ、ユニット化されている。
動力軸143の中央部分には、ピニオン146が取り付けられている。ピニオン146と動力軸143とは一体に回転する。ピニオン146は、第1カウンタギヤ147と噛み合っている。第1カウンタギヤ147と同軸上、すなわち、カウンタ軸148上に、第2カウンタギヤ149が設けられている。第1カウンタギヤ147と第2カウンタギヤ149とカウンタ軸148とは、ケース106に回転可能に支持されていて、全て一体に回転する。第2カウンタギヤ149は、入力ギヤ150と噛み合っている。入力ギヤ150は、複合遊星歯車装置1における第1サンギヤ103の回転軸107に連結されている。したがって、入力ギヤ150と第1サンギヤ103とは一体に回転する。
上記の第1カウンタギヤ147は、ピニオン146よりも径が大きく、歯数が多い。第2カウンタギヤ149は、入力ギヤ150よりも径が小さく、歯数が少ない。そのため、ピニオン146、第1カウンタギヤ147、第2カウンタギヤ149、および、入力ギヤ150による歯車列は、ピニオン146の回転数に対して入力ギヤ150の回転数を減少させる減速歯車機構を形成している。したがって、動力軸143に入力される動力源(図19に示す例では、動力モータ141、および、ブレーキ機構142)の駆動トルクは、上記のような減速歯車機構で増幅されて、複合遊星歯車装置1の第1サンギヤ103に伝達される。
上記のように、動力モータ141およびブレーキ機構142を、共に、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1と一体に組み付けることにより、トルクベクタリング機能を有する動力ユニット140を構成できる。なお、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、動力源として、動力モータ141だけを組み付けた構成であってもよい。その場合、トルクベクタリング機能を有するモータ駆動ユニット(図示せず)を構成できる。あるいは、動力源として、ブレーキ機構142だけを組み付けた構成であってもよい。その場合、トルクベクタリング機能を有するブレーキユニット(図示せず)を構成できる。
〔第9実施形態〕
図20に示す複合遊星歯車装置1は、四輪駆動車両に搭載することを想定し、いわゆるセンターデファレンシャル機構160を構成している。すなわち、この図20に示す複合遊星歯車装置1は、第1回転軸101、および、第2回転軸102が、それぞれ、車両(図示せず)の全長方向(回転軸線AL方向、図20の左右方向)に同軸上で、全長方向の前後に対向して(同一軸線上に並んで)配置される。
図20に示すセンターデファレンシャル機構160は、動力源として動力モータ161を備えている。動力モータ161は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。動力モータ161は、第1回転軸101および第2回転軸102と同軸上、すなわち、回転軸線AL上に、一体的に配置されている。動力モータ161は、第1回転軸101および第2回転軸102を駆動または制動する駆動トルクを出力する。
動力モータ161は、中空形状のロータ162、および、ロータ162を回転可能に支持する中空形状のロータ軸163を有している。ロータ軸163は、ケース164に回転可能に支持されている。なお、ケース164は、動力モータ161のケース、複合遊星歯車装置1のケース、および、制御用モータ112のケースを全て兼ねている。ロータ軸163の内周部分に、第1回転軸101が配置されている。ロータ軸163と第1回転軸101とは、互いに相対回転する。ロータ軸163は、減速ギヤ機構165を介して、複合遊星歯車装置1の第1サンギヤ103に連結されている。
減速ギヤ機構165は、動力モータ161が出力する駆動トルクを増幅して、複合遊星歯車装置1の第1サンギヤ103に伝達する。減速ギヤ機構165は、サンギヤ166、キャリア167、および、リングギヤ168を有するシングルピニオン型の遊星歯車機構から構成されている。
サンギヤ166は、中空形状の回転軸の外周部分に形成されて、動力モータ161のロータ軸163に連結されている。サンギヤ166とロータ軸163とは一体に回転する。キャリア167は、減速ギヤ機構165を構成する遊星歯車機構のプラネタリギヤ169を自転かつ公転可能に支持している。キャリア167は、複合遊星歯車装置1における第1サンギヤ103の回転軸107に連結されている。キャリア167と第1サンギヤ103とは一体に回転する。リングギヤ168は、プラネタリギヤ169に噛み合う内歯歯車である。リングギヤ168は、ケース164の内壁部分に、回転不可能に固定されている。
したがって、減速ギヤ機構165は、動力モータ161が出力する駆動トルクがサンギヤ166に伝達されると、リングギヤ168が反力要素となり、サンギヤ166の回転数に対して第1サンギヤ103に連結されたキャリア167の回転数が減少する。すなわち、減速ギヤ機構165は、動力モータ161が出力した駆動トルクを増幅して、第1サンギヤ103へ伝達する。
上記のように、この図20に示す複合遊星歯車装置1を用いて、動力源として動力モータ161を同軸上に一体に内蔵したセンターデファレンシャル機構160を構成することができる。そして、この図20に示す一軸構造のセンターデファレンシャル機構160を、動力ユニットとして、四輪駆動車両に搭載できる。すなわち、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1を用いて、センターデファレンシャル機構160の機能とトルクベクタリング装置の機能とを兼ね備えた、コンパクトな動力ユニットを構成することができる。
〔第10実施形態〕
図21に示す複合遊星歯車装置1は、前述の図15で示した複合遊星歯車装置1およびデファレンシャル機構100と同様に、車両に搭載することを想定し、車両の左右の駆動輪(図示せず)に対するデファレンシャル機構170を構成している。図21に示す実施形態では、図21の左から、第3ギヤ7、第2ギヤ6、第1ギヤ5の順で配列されている。第1ギヤ5に対して、第2ギヤ6および第3ギヤ7が、いずれも、相対回転可能に支持されている。したがって、第1ギヤ5と第2ギヤ6と第3ギヤ7とは、互いに相対回転可能である。そして、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7は、いずれも、内歯歯車によって構成されている。具体的には、第1ギヤ5は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う内歯歯車の第1リングギヤ171によって構成されている。第2ギヤ6は、第2プラネタリギヤ9および第3プラネタリギヤ10の両方と噛み合う内歯歯車の第2リングギヤ172によって構成されている。そして、第3ギヤ7は、第4プラネタリギヤ11と噛み合う内歯歯車の第3リングギヤ173によって構成されている。
第1リングギヤ171は、回転自在に、複合遊星歯車装置1のケース106に支持されている。なお、ケース106は、デファレンシャル機構170のケースを兼ねている。第2リングギヤ172は、回転自在に支持されている。第2リングギヤ172は、第1リングギヤ171に対して相対回転可能である。第3リングギヤ173は、第1リングギヤ171に対して相対回転可能である。したがって、第1リングギヤ171と第2リングギヤ172と第3リングギヤ173とは、互いに相対回転可能である。
第1リングギヤ171の回転軸174に、デフリングギヤ108が取り付けられている。デフリングギヤ108と回転軸174および第1リングギヤ171とは一体に回転する。デフリングギヤ108は、大径のかさ歯車であり、車両(図示せず)のプロペラシャフト109の先端(図21の下側の端部)に設けられたドライブピニオン110に噛み合っている。ドライブピニオン110は、デフリングギヤ108よりも小径で歯数の少ないかさ歯車である。したがって、ドライブピニオン110、および、デフリングギヤ108によって、車両の終減速装置(ファイナルギヤ)が構成されている。プロペラシャフト109の他方の端部(図示せず)は、所定の動力源(図示せず)が連結される。したがって、デファレンシャル機構170は、デフリングギヤ108、および、プロペラシャフト109を介して、動力源に連結される。動力源は、例えば、エンジンやモータ、あるいは、ブレーキ装置などであり、車両を加速するトルクあるいは車両を制動するトルクなどの正負の駆動トルクを発生する。
第2リングギヤ172に、第1回転軸101が連結されている。第2リングギヤ172と第1回転軸101とは一体に回転する。また、第3リングギヤ173に、第2回転軸102が連結されている。第3リングギヤ173と第2回転軸102とは一体に回転する。第1回転軸101と第2回転軸102とは、同軸上(すなわち、回転軸線AL上)で対向して配置され、互いに相対回転可能である。第1回転軸101は、突出側(図21の左側)の端部が、ケース106に回転可能に支持されており、その先端に、車両の左右いずれか一方の駆動輪(図示せず)が連結される。第2回転軸102は、突出側(図21の右側)の端部が、ケース106に回転可能に支持されており、その先端に、他方の駆動輪(図示せず)が連結される。
キャリア12は、回転軸線AL上に配置され、回転自在に支持されている。キャリア12と各リングギヤ171,172,173とは、互いに相対回転可能である。そして、キャリア12の回転軸111に、制御用モータ112の回転軸、すなわち、制御トルク出力軸113が連結されている。回転軸111およびキャリア12と制御トルク出力軸113とは一体に回転する。
図21に示す複合遊星歯車装置1は、所定の動力源から第1リングギヤ171に入力される駆動トルクを、第2リングギヤ172すなわち第1回転軸101と、第3リングギヤ173すなわち第2回転軸102とに分配して伝達する。それとともに、制御用モータ112からキャリア12に入力される制御トルクを、キャリア12と第2リングギヤ172との間、および、キャリア12と第3リングギヤ173との間で、それぞれ増幅して、第1回転軸101および第2回転軸102に伝達する。更に、図21に示す複合遊星歯車装置1は、制御用モータ112からキャリア12に制御トルクが入力されることにより、第1回転軸101と第2回転軸102とが差動回転する。そして、第1回転軸101と第2回転軸102とが差動回転する際には、第1回転軸101および第2回転軸102が互いに逆方向に回転する。
この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、第1プラネタリギヤ8と第1ギヤ5との間のギヤ比と、第2プラネタリギヤ9と第2ギヤ6との間のギヤ比とが互いに異なり、第3プラネタリギヤ10と第2ギヤ6との間のギヤ比と、第4プラネタリギヤ11と第3ギヤ7との間のギヤ比とが互いに異なるように構成されている。
図21に示す複合遊星歯車装置1では、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ171との間のギヤ比u31と、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ172との間のギヤ比u32とを、互いに異ならせている。また、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ172との間のギヤ比u33と、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ173との間のギヤ比u34とを、互いに異ならせている。なお、この発明の実施形態では、第1リングギヤ171の歯数zr11に対する第1プラネタリギヤ8の歯数zp1の比率を、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ171との間のギヤ比u31とし、第2リングギヤ172の歯数zr12に対する第2プラネタリギヤ9の歯数zp2の比率を、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ172との間のギヤ比u32とする。また、第2リングギヤ172の歯数zr12に対する第3プラネタリギヤ10の歯数zp3の比率を、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ172との間のギヤ比u33とし、第3リングギヤ173の歯数zr13に対する第4プラネタリギヤ11の歯数zp4の比率を、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ173との間のギヤ比u34とする。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図21に括弧内の数値で示すように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1を“18”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2を“19”とし、第1リングギヤ171の歯数zr11、および、第2リングギヤ172の歯数zr12を、いずれも、“72”として構成されている。この場合、第1プラネタリギヤ8と第1リングギヤ171との間のギヤ比u31、および、第2プラネタリギヤ9と第2リングギヤ172との間のギヤ比u32は、それぞれ、
u31=zp1/zr11=18/72=0.25
u32=zp2/zr12=19/72≒0.264
となる。上記のとおり、第1リングギヤ171の歯数zr11と第2リングギヤ172の歯数zr12とを等しくし、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1と第2プラネタリギヤ9の歯数zp2とを、“1歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u31とギヤ比u32とは、一致することなく、異なっている。
同様に、複合遊星歯車装置1は、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3を“19”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4を“17”とし、第2リングギヤ172の歯数zr12、および、第3リングギヤ173の歯数zr13を、いずれも、“72”として構成されている。この場合、第3プラネタリギヤ10と第2リングギヤ172との間のギヤ比u33、および、第4プラネタリギヤ11と第3リングギヤ173との間のギヤ比u34は、それぞれ、
u33=zp3/zr12=19/72≒0.264
u34=zp4/zr13=17/72≒0.236
となる。上記のとおり、第2リングギヤ172の歯数zr12と第3リングギヤ173の歯数zr13とを等しくし、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3と第4プラネタリギヤ11の歯数zp4とを、“2歯”異ならせてある。それにより、ギヤ比u33とギヤ比u34とは、一致することなく、異なっている。
上記のように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1に対して第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が“1歯”多い。また、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3に対して第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“2歯”少ない。第2プラネタリギヤ9の歯数zp2および第3プラネタリギヤ10の歯数zp3は、いずれも“19”で等しい。したがって、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1に対して、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3が“1歯”多く、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“1歯”少なくなっている。
また、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、“第1の複合遊星歯車機構”と、“第2の複合遊星歯車機構”とを組み合わせた構成となっている。図21に示す実施形態では、第1プラネタリギヤ8および第2プラネタリギヤ9、ならびに、第1リングギヤ171および第2リングギヤ172から“第1の複合遊星歯車機構”が構成され、第3プラネタリギヤ10および第4プラネタリギヤ11、ならびに、第2リングギヤ172および第3リングギヤ173から“第2の複合遊星歯車機構”が構成されている。
“第1の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u31とギヤ比u32とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u31とギヤ比u32とを等しくすると、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比(入力回転要素の回転数に対する出力回転要素の回転数の比率)は無限大になってしまう。そのような場合には、“第1の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図21に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u31とギヤ比u32とを互いに異ならせることにより、“第1の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u31とギヤ比u32との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u31とギヤ比u32との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
同様に、“第2の複合遊星歯車機構”では、上記のようにギヤ比u33とギヤ比u34とがわずかに異なっている。仮に、ギヤ比u33とギヤ比u34とを等しくすると、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比は無限大になってしまう。そのような場合には、“第2の複合遊星歯車機構”は成立しない。それに対して、この図21に示す複合遊星歯車装置1では、上記のようにギヤ比u33とギヤ比u34とを互いに異ならせることにより、“第2の複合遊星歯車機構”における減速比が無限大になってしまう状態を回避しつつ、相対的に大きな減速比を設定している。ギヤ比u33とギヤ比u34との差が大きくなると減速比は小さくなる。したがって、ギヤ比u33とギヤ比u34との差を小さくするほど、大きい減速比を設定できる。
上記のように構成された複合遊星歯車装置1、すなわち、デファレンシャル機構170では、第1リングギヤ171に入力された駆動トルクが第2リングギヤ172および第3リングギヤ173に伝達される際に、第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数とが等しい場合には、第1回転軸101と第2回転軸102とが一体に回転する。
第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数とが等しい場合、すなわち、第2リングギヤ172の回転数と第3リングギヤ173の回転数とが等しい場合は、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が第1プラネタリギヤ8の歯数zp1よりも“1歯”多いことにより、第2プラネタリギヤ9と噛み合う第2リングギヤ172は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う第1リングギヤ171よりも“1歯”分速く回転しようとする。一方、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が第1プラネタリギヤ8の歯数zp1よりも“1歯”少ないことにより、第4プラネタリギヤ11と噛み合う第3リングギヤ173は、第1プラネタリギヤ8と噛み合う第1リングギヤ171よりも“1歯”分遅く回転しようとする。したがって、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173とが、相対的に、互いに逆方向に回転しようとする。この場合、共に第2リングギヤ172に噛み合う第2プラネタリギヤ9と第3プラネタリギヤ10とは、第2リングギヤ172の内周を等しく公転する。第3プラネタリギヤ10と、第3リングギヤ173に噛み合う第4プラネタリギヤ11とは、一体に自転かつ公転する。そのため、第2リングギヤ172と第2プラネタリギヤ9との噛み合い部、および、第3リングギヤ173と第4プラネタリギヤ11との噛み合い部に、互いに逆方向のトルクが作用し、各噛み合い部が互いに干渉する。その結果、複合遊星歯車装置1全体が、実質的に係合状態となり、一体となって回転する。したがって、第1回転軸101および第2回転軸102は、差動回転することなく、一体となって回転する。
それに対して、第1回転軸101の回転数と第2回転軸102の回転数との間に回転数差がある場合、すなわち、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173とが差動回転する場合には、上記のような各噛み合い部の干渉による複合遊星歯車装置1の実質的な係合状態が解消される。そのため、第1リングギヤ171から第2リングギヤ172に至る動力伝達経路、および、第1リングギヤ171から第3リングギヤ173に至る動力伝達経路では、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173とを差動回転させつつ、それぞれ、駆動トルクを伝達する。その場合、第2リングギヤ172と第2プラネタリギヤ9との噛み合い部、および、第3リングギヤ173と第4プラネタリギヤ11との噛み合い部には、上記のように、互いに逆方向のトルクが作用する。したがって、第2リングギヤ172および第3リングギヤ173が、互いに逆方向に相対回転する。すなわち、第3リングギヤ173に対して第2リングギヤ172が反転するように、それら第2リングギヤ172および第3リングギヤ173がそれぞれ回転する。その結果、第1回転軸101および第2回転軸102は、差動回転しつつ、互いに逆方向に相対回転する。
更に、図21に示す複合遊星歯車装置1は、キャリア12と第2リングギヤ172との間の減速比(第1減速比とする)と、キャリア12と第3リングギヤ173との間の減速比、すなわち、複合遊星歯車装置1全体の減速比(第2減速比とする)とが、互いに等しいもしく近似するように(例えば、それらの減速比の差が予め定めた小さい所定値以下となるように)構成されている。第1減速比は、キャリア12の回転数に対する第2リングギヤ172の回転数の比率である。第2減速比は、キャリア12の回転数に対する第3リングギヤ173の回転数の比率である。なお、第2リングギヤ172の回転数に対する第3リングギヤ173の回転数の比率、すなわち、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173との間の減速比を、中間減速比とする。
また、図21に示す複合遊星歯車装置1は、キャリア12の回転数に対して第2リングギヤ172の回転数、および、第3リングギヤ173の回転数が、いずれも、減少するように構成されている。すなわち、上記のような第1減速比、中間減速比、および、第2減速比は、いずれも、(絶対値が)“1”よりも大きくなる。したがって、複合遊星歯車装置1は、キャリア12に入力される制御用モータ112の制御トルクを増幅して、第2リングギヤ172、および、第3リングギヤ173に伝達する。
例えば、前述したように、第1プラネタリギヤ8の歯数zp1が“18”、第2プラネタリギヤ9の歯数zp2が“19”、第3プラネタリギヤ10の歯数zp3が“19”、第4プラネタリギヤ11の歯数zp4が“17”であり、各リングギヤ171,172,173の歯数zr11,zr12,zr13が、いずれも、“72”である場合には、キャリア12と第2リングギヤ172との間の第1減速比R31は、
R31=1/{1-(zr11/zp1)×(zp2/zr12)}
=1/{1-(72/18)×(19/72)}
≒-18
となる。この場合は、入力回転要素に相当するキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第2リングギヤ172が逆の方向に回転する。そのため、この第1減速比R31に、便宜上、負(-)の符号を付けている。
同様に、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173との間の中間減速比R30は、
R30=1/{1-(zr12/zp3)×(zp4/zr13)}
=1/{1-(72/19)×(17/72)}
≒9.5
となる。
そして、複合遊星歯車装置1全体の減速比、すなわち、キャリア12と第3リングギヤ173との間の第2減速比R32は、上記の第1減速比R31、および、中間減速比R30から、
R32=1/{1/R31+(1-1/R31)/R30)}
=1/{1/(-18)+(1-1/(-18))/9.5)}
≒18
となる。この場合は、入力回転要素に相当するキャリア12の回転方向に対して、出力回転要素に相当する第3リングギヤ173が同じ方向に回転する。
したがって、複合遊星歯車装置1は、キャリア12に制御トルクが入力され、キャリア12が回転することにより、第2リングギヤ172と第3リングギヤ173とが差動回転する。それとともに、第2リングギヤ172および第3リングギヤ173は、互いに逆方向に回転する。その場合、キャリア12の回転数に対する第2リングギヤ172の回転数の比率、すなわち、第1減速比R31の大きさと、キャリア12の回転数に対する第3リングギヤ173の回転数の比率、すなわち、第2減速比R32の大きさとが、互いに等しいもしく近似している。図21に示す実施形態では、第1減速比R31と第2減速比R32とは、大きさがほぼ等しくなっている。そのため、制御用モータ112が出力する制御トルクは、互いに、ほぼ同じ増幅率で増大されて、第2リングギヤ172および第3リングギヤ173に伝達される。
上記のように、図21に示す複合遊星歯車装置1では、例えば、制御用モータ112が正回転(CW)方向に回転する際に、入力回転要素であるキャリア12の回転方向を正転方向とすると、出力回転要素である第2リングギヤ172が、正転方向と逆の逆転方向に回転し、第3リングギヤ173が、正転方向に回転する。この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、各ギヤ5,6,7の歯数、ならびに、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数をそれぞれ調整することにより、所望する減速比を設定するとともに、出力回転要素である第2ギヤ6および第3ギヤ7の回転方向を、それぞれ、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
図21に示す複合遊星歯車装置1のように、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7として、それぞれ、第1リングギヤ171、第2リングギヤ172、および、第3リングギヤ173を設けた場合は、各ギヤの歯数の関係について、以下に示す各関係式が規定されている。下記の各関係式がいずれも成立するように各ギヤの歯数をそれぞれ設定することにより、第2リングギヤ172および第3リングギヤ173の回転方向を、それぞれ、正転方向または逆転方向に適宜設定することが可能である。
具体的には、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各リングギヤ171,172,173の歯数zr11,zr12,zr13を、それぞれ、
zp2=zp3=zp1+1
zp4=zp1-1
zr11=zr12=zr13
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第2リングギヤ172を、逆転方向に回転させるとともに、第3リングギヤ173を、正転方向に回転させることができる。
一方、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4、ならびに、各リングギヤ171,172,173の歯数zr11,zr12,zr13を、それぞれ、
zp2=zp3=zp1-1
zp4=zp1+1
zr11=zr12=zr13
の各関係式が全て成立するように設定する。それにより、第2リングギヤ172を、正転方向に回転させるとともに、第3リングギヤ173を、逆転方向に回転させることができる。
図22および図23の各図表および線図に、三つのリングギヤ171,172,173、および、四つのプラネタリギヤ8,9,10,11を用いた複合遊星歯車装置1における、各リングギヤ171,172,173の歯数zr11,zr12,zr13と、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4との関係、ならびに、それに対応する第1減速比R31、中間減速比R30、および、第2減速比R32を示してある。図22の図表および線図は、第3リングギヤ173を正転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比を示している。図23の図表および線図は、第3リングギヤ173を逆転方向に減速させる場合の各ギヤの歯数および減速比を示している。これら図22、図23の各図表および線図に示すように、図21に示す複合遊星歯車装置1では、“25”を超える大きな減速比R21,R22を設定することが可能である。そのため、大きな増幅率で制御トルクを増幅することができ、その分、制御用モータ112の小型化を図ることができる。
また、図21に示す複合遊星歯車装置1は、第1ギヤ5、第2ギヤ6、および、第3ギヤ7が、それぞれ、内歯歯車の第1リングギヤ171、第2リングギヤ172、および、第3リングギヤ173で構成される。すなわち、それぞれ、サンギヤを用いない“第1の複合遊星歯車機構”および“第2の複合遊星歯車機構”(もしくは、四組の遊星歯車機構)を組み合わせて、複合遊星歯車装置1が構成される。そのため、サンギヤを設けていない分、径方向の体格を小型化したコンパクトな複合遊星歯車装置1を構成できる。したがって、図21に示す複合遊星歯車装置1によれば、制御用モータ112、および、複合遊星歯車装置1本体の小型化を図り、コンパクトなデファレンシャル機構170を構成できる。
〔第11実施形態〕
図24に示す複合遊星歯車装置1は、上記の図21で示した複合遊星歯車装置1およびデファレンシャル機構170と同様に、車両の左右の駆動輪(図示せず)に対するデファレンシャル機構180を構成している。更に、この図24に示す複合遊星歯車装置1は、制御用モータ112の連れ回りを回避または抑制するために、減速遊星歯車機構181、および、増速遊星歯車機構182が設けられている。
減速遊星歯車機構181は、制御用モータ112と、複合遊星歯車装置1のキャリア183との間に配置されており、制御用モータ112が出力する制御トルクを増幅してキャリア183に伝達する。また、減速遊星歯車機構181は、デフリングギヤ108、ならびに、第1回転軸101および第2回転軸102が一体となって回転する際に、制御用モータ112の制御トルク出力軸113の回転数に対してキャリア183の回転数を減少させる減速機構として機能する。なお、この図24に示す複合遊星歯車装置1では、キャリア183は、いずれの回転部材にも連結されておらず、回転自在に支持されている。キャリア183は、各プラネタリギヤ8,9、および、各プラネタリギヤ10,11を、それぞれ、自転および公転可能に保持している。
減速遊星歯車機構181は、第1回転軸101および第2回転軸102と同軸上、すなわち、回転軸線AL上に配置されている。減速遊星歯車機構181は、シングルピニオン型の遊星歯車機構から構成されており、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを有している。この発明の実施形態では、他の遊星歯車機構の各回転要素と区別するために、減速遊星歯車機構181のサンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを、それぞれ、減速サンギヤ184、減速キャリア185、および、減速リングギヤ186と呼称する。
減速サンギヤ184は、中空形状の回転軸の外周部分に形成されており、ケース106に回転可能に支持されている。減速サンギヤ184は、制御用モータ112の制御トルク出力軸113に連結されている。減速サンギヤ184と制御トルク出力軸113とは一体に回転する。
減速キャリア185は、減速遊星歯車機構181のプラネタリギヤ187を自転かつ公転可能に支持している。減速キャリア185は、複合遊星歯車装置1のキャリア183と兼用されており、それら減速キャリア185とキャリア183とは一体に回転する。後述するように、減速キャリア185は、デフリングギヤ108、ならびに、第1回転軸101および第2回転軸102が一体となって回転する際に、減速リングギヤ186の回転数に対して回転数が減少する。
減速リングギヤ186は、プラネタリギヤ187に噛み合う内歯歯車であり、ケース106に回転可能に支持されている。減速リングギヤ186は、後述する増速遊星歯車機構122の増速リングギヤ191に連結されている。または、減速リングギヤ186は、増速リングギヤ191と一体に形成されている。減速リングギヤ126と増速リングギヤ191とは一体に回転する。
したがって、減速遊星歯車機構181は、制御トルク出力軸113から制御トルクが伝達されて減速サンギヤ184が回転する場合、減速リングギヤ186が反力要素となり、減速サンギヤ184の回転数に対して減速キャリア185の回転数が減少する。すなわち、減速遊星歯車機構181は、制御用モータ112の減速ギヤ機構として機能する。したがって、減速遊星歯車機構181は、制御用モータ112とキャリア183との間で、制御用モータ112が出力する制御トルクを増幅して、キャリア183に伝達する。
図24に示す実施形態では、図中に括弧内の数値で示すように、減速遊星歯車機構181における減速サンギヤ184の歯数が“36”、減速リングギヤ186の歯数が“72”、プラネタリギヤ187の歯数が“18”となっており、この減速遊星歯車機構181の減速比は“3”となる。したがって、この減速遊星歯車機構181の減速比を加味した、複合遊星歯車装置1の実質的な減速比R’は、前述の図21で示した複合遊星歯車装置1の減速比(キャリア12と第3リングギヤ173との間の第2減速比R32)が“18”であることから、
R’=18×3=54
となる。減速遊星歯車機構181の減速機能により、より一層大きな減速比R’を得ることができる。
一方、増速遊星歯車機構182は、第1回転軸101および第2回転軸102と同軸上、すなわち、回転軸線AL上に配置されている。増速遊星歯車機構182は、キャリア183の一方(図24の右側)のプレート部188を挟んで、減速遊星歯車機構181の反対側(図24の右側)に配置されている。増速遊星歯車機構182は、シングルピニオン型の遊星歯車機構から構成されており、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを有している。この発明の実施形態では、他の遊星歯車機構の各回転要素と区別するために、増速遊星歯車機構182のサンギヤ、リングギヤ、および、キャリアを、それぞれ、増速サンギヤ189、増速キャリア190、および、増速リングギヤ191と呼称する。
増速サンギヤ189は、中空形状の軸部材の外周部分に形成されており、回転不可能に固定されている。例えば、ケース106と一体に形成されたフランジ部分(図示せず)に取り付けられている。
増速キャリア190は、増速遊星歯車機構182のプラネタリギヤ192を自転かつ公転可能に支持している。増速キャリア190は、第1リングギヤ171の回転軸174を介して、第1リングギヤ171およびデフリングギヤ108に連結されている。したがって、増速キャリア190は、第1リングギヤ171およびデフリングギヤ108と一体に回転する。
増速リングギヤ191は、プラネタリギヤ192に噛み合う内歯歯車であり、減速遊星歯車機構181の減速リングギヤ186と共に、ケース106に回転可能に支持されている。増速リングギヤ191と減速リングギヤ186とは一体に回転する。増速リングギヤ191は、増速キャリア190が回転する際に、増速キャリア190の回転数に対して回転数が増大する。
したがって、増速遊星歯車機構182は、デフリングギヤ108から駆動トルクが伝達されて増速キャリア190が回転する場合、増速サンギヤ189が反力要素となり、増速キャリア190の回転数に対して増速リングギヤ191の回転数を増大させる増速機構として機能する。
図24に示す複合遊星歯車装置1では、図中に括弧内の数値で示すように、増速遊星歯車機構182における増速サンギヤ189の歯数が“36”、増速リングギヤ191の歯数が“72”、プラネタリギヤ192の歯数が“18”となっている。すなわち、増速サンギヤ189の歯数、増速リングギヤ191の歯数、および、プラネタリギヤ192の歯数は、それぞれ、上記の減速遊星歯車機構181おける減速サンギヤ184の歯数、減速リングギヤ186の歯数、および、プラネタリギヤ187の歯数と等しい。したがって、増速遊星歯車機構182と、減速遊星歯車機構181とは、ギヤ比(または、速度伝達比、速度比)が互いに等しくなっている。
このように、減速遊星歯車機構181、および、増速遊星歯車機構182は、それぞれ、前述の図18で示した複合遊星歯車装置1における減速遊星歯車機構121、および、増速遊星歯車機構122と同様に構成され、同様に機能する。したがって、この図24に示す複合遊星歯車装置1によれば、制御トルクを出力する制御用モータ112の連れ回りを抑制して、デファレンシャル機構180の動力伝達効率を向上させることができる。ひいては、デファレンシャル機構180を搭載する車両のエネルギ効率を向上させることができる。また、例えば、車両が直進走行している状態で急加速または急減速する場合に、制御用モータ112の連れ回りが抑制されることから、制御用モータ112の慣性トルクの影響を排除することができる。そのため、例えば、制御用モータ112が連れ回る場合の慣性トルクを相殺または減殺するトルクの制御を別途実行しなくともよく、その分、制御用モータ112を制御する装置の負荷を軽減できる。ひいては、このデファレンシャル機構180および制御用モータ112によるトルクベクタリング制御の制御性を向上させることができる。
〔第12実施形態〕
図25に示す複合遊星歯車装置1は、前述の図21で示した図21で示した複合遊星歯車装置1およびデファレンシャル機構170と同様に、車両に搭載することを想定したデファレンシャル機構200を構成している。それとともに、この図25に示すデファレンシャル機構200は、動力源と共に、トルクベクタリング機能を有する動力ユニット201を構成している。また、この図25に示す複合遊星歯車装置1は、デファレンシャル機構200に対してトルクを入力する入力サンギヤ202を有している。
入力サンギヤ202は、各リングギヤ171,172,173、および、キャリア183と同軸上(すなわち、回転軸線AL上)に配置されている。入力サンギヤ202は、外歯歯車であり、第1リングギヤ171と共に、第1プラネタリギヤ8と噛み合っている。すなわち、第1プラネタリギヤ8は、第1リングギヤ171および入力サンギヤ202の両方に噛み合っている。したがって、この図25に示す複合遊星歯車装置1では、入力サンギヤ202、第1リングギヤ171、第1プラネタリギヤ8、および、キャリア183から、シングルピニオン型の遊星歯車機構(説明上、“入力遊星歯車機構”とする)が形成されている。
入力サンギヤ202は、制御用モータ112の制御トルク出力軸113に連結されている。入力サンギヤ202と制御トルク出力軸113とは一体に回転する。したがって、制御用モータ112が出力する制御トルクは、入力サンギヤ202を介して、複合遊星歯車装置1のキャリア183に入力される。言い換えると、制御トルクは、入力サンギヤ202から、“入力遊星歯車機構”を介して、複合遊星歯車装置1に伝達される。そのため、図25に示す複合遊星歯車装置1は、上記のような“入力遊星歯車機構”で得られる減速比の分、複合遊星歯車装置1の全体としての減速比が大きくなる。
複合遊星歯車装置1は、例えば、図25に括弧内の数値で示すように、各プラネタリギヤ8,9,10,11の歯数zp1,zp2,zp3,zp4を、それぞれ、“18”,“19”,“19”,“17”として構成されている。前述の図21で示した複合遊星歯車装置1と同じである。また、複合遊星歯車装置1は、各リングギヤ171,172,173の歯数zr11,zr12,zr13を、いずれも、“72”として構成されている。こちらも、前述の図21で示した複合遊星歯車装置1と同じである。そのため、この図25に示す複合遊星歯車装置1の減速比、すなわち、“入力遊星歯車機構”の減速比を加味した実質的な減速比R’は、前述の図21で示した複合遊星歯車装置1で得られる減速比(キャリア12と第3リングギヤ173との間の第2減速比R32)に“入力遊星歯車機構”の減速比を乗じた値になる。
入力サンギヤ202の歯数z202 は、図25に括弧内の数値で示すように、“36”となっている。この場合、“入力遊星歯車機構”の減速比R202 は、
R202 =zr11/z202 +1
=72/36+1=3
となる。
したがって、図25に示す複合遊星歯車装置1の減速比R’は、前述の図21で示した複合遊星歯車装置1の第2減速比R32が“18”であることから、
R’=18×R202
=18×3=54
となる。
このように、図25に示す複合遊星歯車装置1では、入力サンギヤ202を介して、制御トルクをキャリア183に入力することにより、例えば、前述の図21で示した複合遊星歯車装置1のような入力サンギヤ202を設けていない構成と比較して、より大きな減速比を設定できる。
また、この図25に示す複合遊星歯車装置1では、動力モータ141およびブレーキ機構142を、共に、複合遊星歯車装置1を用いたデファレンシャル機構200と一体に組み付けることにより、トルクベクタリング機能を有する動力ユニット201を構成できる。なお、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1は、動力源として、動力モータ141だけを組み付けた構成であってもよい。その場合、トルクベクタリング機能を有するモータ駆動ユニット(図示せず)を構成できる。あるいは、動力源として、ブレーキ機構142だけを組み付けた構成であってもよい。その場合、トルクベクタリング機能を有するブレーキユニット(図示せず)を構成できる。
〔第13実施形態〕
図26に示す複合遊星歯車装置1は、四輪駆動車両に搭載することを想定し、いわゆるセンターデファレンシャル機構210を構成している。すなわち、この図26に示す複合遊星歯車装置1は、第1回転軸101、および、第2回転軸102が、それぞれ、車両(図示せず)の全長方向(回転軸線AL方向、図26の左右方向)に同軸上で、全長方向の前後に対向して配置される。
図26に示すセンターデファレンシャル機構210は、上述の図25で示した実施形態と同様に、入力サンギヤ202を設けた複合遊星歯車装置1を用いて構成されている。したがって、入力サンギヤ202を設けていない複合遊星歯車装置1を用いてセンターデファレンシャル機構210を構成した場合と比較して、より大きな減速比を設定できる。
図26に示す複合遊星歯車装置1は、減速ギヤ機構165を介して、動力モータ161に連結されている。すなわち、動力モータ161のロータ軸163に、減速ギヤ機構165のサンギヤ166が連結されている。そして、減速ギヤ機構165のキャリア167に、第1リングギヤ171の回転軸174が連結されている。キャリア167と回転軸174および第1リングギヤ171とは一体に回転する。
したがって、この図26に示すセンターデファレンシャル機構210では、動力モータ161が出力する駆動トルクが、減速ギヤ機構165で増幅されて、デファレンシャル機構およびトルクベクタリング装置として機能する複合遊星歯車装置1に伝達される。
上記のように、この図26に示す複合遊星歯車装置1を用いて、動力源として動力モータ161を同軸上に一体に内蔵したセンターデファレンシャル機構210を構成することができる。そして、この図26に示す一軸構造のセンターデファレンシャル機構210を、動力ユニットとして、四輪駆動車両に搭載できる。すなわち、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1を用いて、センターデファレンシャル機構210の機能とトルクベクタリング装置の機能とを兼ね備えた、コンパクトな動力ユニットを構成することができる。
なお、上述した各実施形態においては、各軸や各ギヤなどを回転可能に支持する軸受、および、ケースの内部を液密状態にするシール部材等については特には説明していないが、これらの軸受やシール部材は、前掲の各図にそれぞれのシンボルによって記載してあるように配置されている。また、この発明の実施形態における複合遊星歯車装置1では、上述した制御用モータ112の他に、制御トルクとして、複合遊星歯車装置1の入力回転要素(例えば、キャリア12、キャリア123、キャリア183)を制動するトルクを発生するブレーキ機構を用いてもよい。例えば、図27に示すように、制動トルクを発生するブレーキ機構として、コイル221に通電されることにより発生する磁気吸引力を利用して、複合遊星歯車装置1の入力回転要素を制動する励磁作動型の電磁ブレーキ220を用いてもよい。あるいは、図28に示すように、電気モータ231によって駆動される送りねじ機構232を用いて摩擦制動力を発生させる電動ブレーキ230などを用いてもよい。