以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、本明細書において、高周波領域とは、0.3GHz~300GHzの領域を指し、特にミリ波レーダーに用いられる周波数領域は3GHz~300GHzを指すものとする。
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)マレイミド基及びマレイミド基に結合する2価の基を有する化合物であって、2価の基が、マレイミド基に結合する飽和又は不飽和の2価の炭化水素基及びマレイミド基以外の少なくとも2つのイミド基を含む、化合物と、(B)シリル基を有する化合物と、を含む。
<(A)マレイミド基及びマレイミド基に結合する2価の基を有する化合物>
本実施形態に係る、マレイミド基及びマレイミド基に結合する2価の基を有する化合物であって、2価の基が、マレイミド基に結合する飽和又は不飽和の2価の炭化水素基及びマレイミド基以外の少なくとも2つのイミド基を含む、化合物を「(A)成分」ということがある。また、(A)成分のうち、マレイミド基を「構造(a)」、マレイミド基に結合する2価の基を「構造(b)」、マレイミド基に結合する飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を「構造(b1)」及びマレイミド基以外の少なくとも2つのイミド基を「構造(b2)」ということがある。(A)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができる。
構造(a)は特に限定されず、一般的なマレイミド基である。構造(a)は、後述する構造(b)のうち構造(b1)と結合するが、構造(a)における構造(b1)との結合位置は限定されない。構造(a)における構造(b1)との結合位置としては、例えば、下記式(XIV)で表されるように、マレイミド基の窒素原子が挙げられる。なお、下記式(XIV)において、(b1)は構造(b1)を示す。
構造(b)は、構造(b1)及び構造(b2)を含む。これらのうち構造(b1)が上記構造(a)と結合する。
構造(b1)における飽和又は不飽和の2価の炭化水素基は、特に限定されず、飽和又は不飽和の2価の直鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の2価の分岐状炭化水素基、及び飽和又は不飽和の2価の環状炭化水素基のいずれであってもよい。また、不飽和の2価の環状炭化水素基は、芳香族基であってもよい。飽和又は不飽和の2価の炭化水素基の炭素数は、8~300、8~250、8~200又は8~100であってもよい。構造(b1)は、炭素数8~300、8~250、8~200又は8~100の分岐を有していてもよいアルキレン基であることが好ましく、炭素数10~70の分岐を有していてもよいアルキレン基であるとより好ましく、炭素数15~50の分岐を有していてもよいアルキレン基であると更に好ましい。(A)成分が構造(b1)を有することで、本実施形態に係る樹脂組成物の可とう性が向上し、樹脂組成物から作製される樹脂フィルムの取扱性(タック性、割れ、粉落ち等)及び強度を高めることが可能となる。また、上記の炭素数を有する構造(b1)は、分子構造を三次元化し易く、ポリマーの自由体積を増大させて低密度化、すなわち低誘電率化できるため好ましい。
構造(b1)としては、例えば、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基等のアルキレン基;ベンジレン基、フェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基;フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、ベンジルプロピレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基等のアリーレンアルキレン基;フェニレンジメチレン基、フェニレンジエチレン基等のアリーレンジアルキレン基などが挙げられる。
高周波特性、低熱膨張特性、導体との接着性、耐熱性及び低吸湿性の観点から、構造(b1)として下記式(II)で表される基が特に好ましい。
式(II)中、R2及びR3は各々独立に炭素数4~50のアルキレン基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R2及びR3は各々独立に、炭素数5~25のアルキレン基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキレン基であることが更に好ましい。
式(II)中、R4は炭素数4~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R4は炭素数5~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数6~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数7~10のアルキル基であることが更に好ましい。
式(II)中、R5は炭素数2~50のアルキル基を示す。柔軟性の更なる向上及び合成容易性の観点から、R5は炭素数3~25のアルキル基であることが好ましく、炭素数4~10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5~8のアルキル基であることが更に好ましい。
流動性及び回路埋め込み性の観点からは、構造(b1)は、(A)成分中に複数存在すると好ましい。その場合、構造(b1)はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、(A)成分中に2~40の構造(b1)が存在することが好ましく、2~20の構造(b1)が存在することがより好ましく、2~10の構造(b1)が存在することが更に好ましい。
構造(b2)としては特に限定されないが、例えば、下記式(I)で表される基が挙げられる。
式(I)中、R1は4価の有機基を示す。R1は4価の有機基であれば特に限定されないが、例えば、取扱性の観点から、炭素数1~100の炭化水素基であってもよく、炭素数2~50の炭化水素基であってもよく、炭素数4~30の炭化水素基であってもよい。
R1は、置換されていてもよく、置換又は非置換のシロキサン基を含んでいてもよい。シロキサン基としては、例えば、ジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン等に由来する基が挙げられる。
R1が置換されている場合、置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、水酸基、アルコキシ基、メルカプト基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、ヘテロ環基、置換ヘテロ環基、アリール基、置換アリール基、ヘテロアリール基、置換ヘテロアリール基、アリールオキシ基、置換アリールオキシ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、アミド基、-C(O)H、-NRXC(O)-N(RX)2、-OC(O)-N(RX)2、アシル基、オキシアシル基、カルボキシル基、カルバメート基、スルホンアミド基等が挙げられる。ここで、RXは水素原子又はアルキル基を示す。これらの置換基は目的、用途等に合わせて、1種類又は2種類以上を選択できる。
R1としては、例えば、1分子中に2個以上の無水物環を有する酸無水物の4価の残基、すなわち、酸無水物から酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)を2個除いた4価の基であることが好ましい。酸無水物としては、後述するような化合物が例示できる。
機械強度の観点から、R1は芳香族基であることが好ましく、無水ピロメリット酸から2つの酸無水物基を取り除いた残基であることがより好ましい。すなわち、構造(b2)は下記式(III)で表される基であることがより好ましい。
流動性及び回路埋め込み性の観点からは、構造(b2)は、(A)成分中に複数存在することが好ましい。その場合、構造(b2)は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。(A)成分中の構造(b2)の数は、2~40であることが好ましく、2~20であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましい。
誘電特性の観点から、構造(b2)は、下記式(IV)又は下記式(V)で表される基であってもよい。
(A)成分は、例えば、下記式(XIII)で表される化合物であってもよい。
式(XIII)中、Rは飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を示し、飽和又は不飽和の2価の炭化水素基は、上記構造(b1)と同じものが使用できる。R1は式(I)中のR1と同様の4価の有機基を示し、nは1~10の整数を表す。
(A)成分としては市販されている化合物を使用することもできる。市販されている化合物としては、例えば、デジグナーモレキュールズインコーポレイテッド社製の製品が挙げられ、具体的には、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000(いずれも商品名)等が挙げられる。より良好な高周波特性を得る観点から、(A)成分としてBMI-3000を使用することがより好ましい。
樹脂組成物中の(A)成分の含有量は特に限定されない。耐熱性の観点から(A)成分の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として2質量%以上又は10質量%以上であってもよい。また、低熱膨張係数の観点から(A)成分の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として98質量%以下、50質量%以下、30質量%以下又は20質量%以下であってもよい。耐熱性の観点から、(A)成分の含有量は樹脂組成物の全質量を基準として2~98質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。
(A)成分の分子量は特に限定されない。流動性の観点から(A)成分の重量平均分子量(Mw)の下限値は、500以上、1000以上、1500以上、1700以上、2000以上、2500以上又は3000以上であってもよい。また、取扱性の観点から(A)成分のMwの上限値は、10000以下、9000以下、7000以下又は5000以下であってもよい。取扱性、流動性及び回路埋め込み性の観点より(A)成分のMwは、500~10000であることが好ましく、1000~9000であることがより好ましく、1500~9000であることが更に好ましく、1500~7000であることがより一層好ましく、1700~5000であることが特に好ましい。
(A)成分のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
なお、GPCの測定条件は下記のとおりである。
ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
ガードカラム及びカラム:TSK Guardcolumn HHR-L+TSKgel G4000HHR+TSKgel G2000HHR[すべて東ソー株式会社製、商品名]
カラムサイズ:6.0×40mm(ガードカラム)、7.8×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
(A)成分を製造する方法は限定されない。(A)成分は、例えば、酸無水物とジアミンとを反応させてアミン末端化合物を合成した後、該アミン末端化合物を過剰の無水マレイン酸と反応させることで作製してもよい。
酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの酸無水物は目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。なお、前述のとおり、上記式(I)のR1として、上記に挙げられるような酸無水物に由来する4価の有機基を用いることができる。より良好な誘電特性の観点から、酸無水物は、無水ピロメリット酸であることが好ましい。
ジアミンとしては、例えば、ダイマージアミン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビフェニル、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、ポリオキシアルキレンジアミン、[3,4-ビス(1-アミノヘプチル)-6-ヘキシル-5-(1-オクテニル)]シクロヘキセン等が挙げられる。これらは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
<(B)シリル基を有する化合物>
本実施形態に係る(B)シリル基を有する化合物を(B)成分ということがある。(B)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができる。なお、上記(A)成分及び(B)成分の双方に該当し得る化合物は、(A)成分に帰属するものとする。
シリル基としては、例えば、-SiRaRbRc(式中、Ra、Rb及びRcは各々独立に1価の有機基を示す。)で示されるシリル基が挙げられる。
Ra、Rb及びRcとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル(トリル)基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル(キシリル)基、ナフチル基、メチルナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。Ra、Rb及びRcは、更に1又は複数の他の置換基(例えば、アルコキシ基など)で置換されていてもよい。
上記シリル基としては、トリアルキルシリル基、トリアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、アリールジアルキルシリル基、トリアラルキルシリル基、トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。これらの中でも、入手が容易である観点から、シリル基は、トリアルコキシシリル基及びアルキルジアルコキシシリル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基及びトリエトキシシリル基からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
シリル基を有する化合物は、シリル基の他に、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロイル基、イソシアヌル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有していてもよい。これらの中でも、上記(A)成分並びに必要に応じて後述する(C)成分及び無機充填剤との反応性、導体とのより高い接着性等の観点から、シリル基を有する化合物は、アミノ基及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、アミノ基を有することがより好ましい。アミノ基及びシリル基を有する化合物を用いることで、加水分解により生成したシラノールが金属基材の表面と水素結合的に吸着するとともに、アミノ基の作用により樹脂と金属基材との密着性が高まるため、導体とのより高い接着性が得られるものと考えられる。
上記アミノ基は、シリル基を有する化合物中に1又は2以上存在していてもよく、一級アミノ基、二級アミノ基及び三級アミノ基のいずれであってもよい。中でも、導体とのより高い接着性等の観点から、アミノ基は、一級アミノ基及び/又は二級アミノ基であることが好ましく、反応性を制御しやすくする観点から、一級アミノ基であることがより好ましい。
アミノ基及びシリル基を有する化合物としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの部分加水分解物、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの部分加水分解物、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは塩酸塩であってもよい。上記(A)成分並びに必要に応じて後述する(C)成分及び無機充填剤との反応性及び導体とのより高い接着性の観点から、アミノ基及びシリル基を有する化合物は、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
樹脂組成物中の(B)成分の含有量は特に限定されない。接着性の観点から、(B)成分の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として0.05質量%以上、0.1質量%以上又は0.2質量%以上であってもよい。また、誘電特性の観点から、(B)成分の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下であってもよい。接着性の観点から、(B)成分の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として0.05~3質量%であることが好ましく0.1~2質量%であることがより好ましく、0.2~1質量%であることが更に好ましい。
<(C)マレイミド基を有する化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、(C)マレイミド基を有する化合物を更に含むことができる。本実施形態に係る(C)マレイミド基を有する化合物を(C)成分ということがある。なお、上記(A)成分及び(C)成分の双方に該当し得る化合物は、(A)成分に帰属するものとする。また、上述した(B)成分及び(C)成分の双方に該当し得る化合物は、(C)成分に帰属するものとする。(C)成分を用いることで、樹脂組成物は、特に低熱膨張特性に優れるものとなる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分と(C)成分とを併用することにより、良好な誘電特性を維持しつつ、低熱膨張特性等を更に向上させることができる。この理由として、(A)成分と(C)成分とを含む樹脂組成物から得られる硬化物は、低誘電特性を備える(A)成分からなる構造単位と、低熱膨張特性を備える(C)成分からなる構造単位とを備えるポリマーを含むためと推測される。
(C)成分は、(A)成分よりも熱膨張係数が低いことが好ましい。(A)成分よりも熱膨張係数が低い(C)成分としては、例えば、(A)成分よりも分子量が小さい化合物、(A)成分よりも多くの芳香環を有する化合物、主鎖が(A)成分よりも短い化合物等が挙げられる。
樹脂組成物中の(C)成分の含有量は特に限定されない。低熱膨張特性の観点から、(C)成分の含有量の下限値は、樹脂組成物の全質量を基準として1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上であってもよい。また、誘電特性の観点から(C)成分の含有量の上限値は、樹脂組成物の全質量を基準として95質量%以下、90質量%以下又は85質量%以下であってもよい。低熱膨張特性の観点から、(C)成分の含有量は樹脂組成物の全質量を基準として1~95質量%であることが好ましく、3~90質量%であることがより好ましく、5~85質量%であることが更に好ましい。
樹脂組成物中の(A)成分と(C)成分との配合割合は特に限定されない。誘電特性及び低熱膨張係数の観点から、(A)成分と(C)成分の質量比(C)/(A)が0.01~3であることが好ましく、0.03~2であることがより好ましく、0.05~1であることが更に好ましい。
樹脂組成物中の(A)成分及び(C)成分の含有量の合計は特に限定されない。耐熱性の観点から、(A)成分及び(C)成分の含有量の合計の下限値は、樹脂組成物の全質量を基準として2質量%以上又は10質量%以上であってもよい。また、低熱膨張係数の観点から(A)成分及び(C)成分の含有量の合計の上限値は、樹脂組成物の全質量を基準として98質量%以下、50質量%以下、30質量%以下又は20質量%以下であってもよい。耐熱性の観点から、(A)成分及び(C)成分の含有量の合計は、樹脂組成物の全質量を基準として2~98質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましく、10~20質量%であることがより一層好ましい。
このような(C)成分は特に限定されず、マレイミド基の他に、マレイミド基に結合する芳香族基、マレイミド基に結合する脂肪族基等を有する化合物を含んでいてもよい。熱膨張係数をより効果的に低減させる観点から、(C)成分は、マレイミド基及びマレイミド基に結合する芳香族基を有する化合物を含むことが好ましい。芳香族基は剛直で低熱膨張であるため、マレイミド基及びマレイミド基に結合する芳香族基を有する化合物を用いることで、更に熱膨張係数を低減させることができる。また、マレイミド基を有する化合物は、マレイミド基を2個以上有するポリマレイミド化合物であることも好ましい。
(C)成分としてのマレイミド基を有する化合物の具体例としては、1,2-ジマレイミドエタン、1,3-ジマレイミドプロパン、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,7-ジマレイミドフルオレン、N,N’-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(1,3-(4-メチルフェニレン))ビスマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、ビス(4-マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4-マレイミドフェニル)エ-テル、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(4-マレイミドフェニル)ケトン、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(2-(3-マレイミドフェニル)プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(1-(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)-1-プロピル)ベンゼン、ビス(マレイミドシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス[4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス(マレイミドフェニル)チオフェン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、吸湿性及び熱膨張係数をより低下させる観点からは、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンを用いることが好ましい。樹脂組成物から形成される樹脂フィルムの破壊強度及び金属箔引きはがし強さを更に高める観点からは、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンを用いることが好ましい。低誘電特性の観点からは、ビス(4-マレイミドフェニル)メタンを用いることが好ましい。
成形性の観点からは、(C)成分は、例えば、下記式(VI)で表される、ポリアミノビスマレイミド化合物を含むことが好ましい。
式(VI)中、A4は下記式(VII)、(VIII)、(IX)又は(X)で表される基を示し、A5は下記式(XI)で表される基を示す。
式(VII)中、R10は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。
式(VIII)中、R11及びR12は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A6は炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基、単結合又は下記式(VIII-1)で表される基を示す。
式(VIII-1)中、R13及びR14は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A7は炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
式(IX)中、iは1~10の整数を表す。
式(X)中、R15及びR16は各々独立に、水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示し、jは1~8の整数を表す。
式(XI)中、R17及びR18は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基又はハロゲン原子を示し、A8は、炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基、フルオレニレン基、単結合、下記式(XI-1)で表される基又は下記式(XI-2)で表される基を示す。
式(XI-1)中、R19及びR20は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A9は、炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、m-フェニレンジイソプロピリデン基、p-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
式(XI-2)中、R21は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、A10及びA11は各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルホニル基、ケトン基又は単結合を示す。
(C)成分は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、上記式(VI)で表されるポリアミノビスマレイミド化合物として用いることが好ましい。ポリアミノビスマレイミド化合物は、例えば、末端に2個のマレイミド基を有する化合物と、分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とを有機溶媒中でマイケル付加反応させることにより得られる。
分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物は特に限定されないが、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-ジフェニルメタン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、1,3-ビス(2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
また、有機溶媒への溶解性が高く、合成時の反応率が高く、かつ耐熱性を高くできる観点からは、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチル-ジフェニルメタン又は1,3-ビス(2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼンが好ましい。これらは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
ポリアミノビスマレイミド化合物を製造する際に使用される有機溶媒は特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、ブトキシエチルアセテート、酢酸エチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素類などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、これらの中でも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドが溶解性の観点から好ましい。
(触媒)
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分の硬化を促進するための触媒を更に含有してもよい。触媒の含有量は特に限定されないが、樹脂組成物の全質量を基準として0.1~5質量%であってもよい。触媒としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。
過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、2-ブタノンパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエイト、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブタンニトリル)及び1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)が挙げられる。
(熱硬化性樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分及び(C)成分とは異なる熱硬化性樹脂を更に含有することができる。なお、(A)成分又は(C)成分に該当し得る化合物は、熱硬化性樹脂に帰属しないものとする。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂を含むことで、樹脂組成物の低熱膨張特性等を更に向上させることができる。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有させる場合、特に制限されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂、2官能ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、高周波特性及び熱膨張特性の観点からは、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂又はビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂としてシアネートエステル樹脂を含有させる場合、特に限定されないが、例えば、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エタン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、α,α’-ビス(4-シアナトフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化合物、フェノールノボラック型シアネートエステル化合物、クレゾールノボラック型シアネートエステル化合物等が挙げられる。これらは1種類を用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、安価である点、高周波特性及びその他特性の総合バランスを考慮すると、2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパンを用いることが好ましい。
(硬化剤)
本実施形態の樹脂組成物は、上記熱硬化性樹脂の硬化剤を更に含有してもよい。これにより、樹脂組成物の硬化物を得る際の反応を円滑に進めることができるとともに、得られる樹脂組成物の硬化物の物性を適度に調節することが可能となる。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては特に制限されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジシアンジアミド等のポリアミン化合物;ビスフェノールA、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等のポリフェノール化合物;無水フタル酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物;各種カルボン酸化合物;各種活性エステル化合物などが挙げられる。
熱硬化性樹脂としてシアネートエステル樹脂を用いる場合、硬化剤としては特に限定されないが、例えば、各種モノフェノール化合物、各種ポリフェノール化合物、各種アミン化合物、各種アルコール化合物、各種酸無水物、各種カルボン酸化合物等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
(硬化促進剤)
本実施形態の樹脂組成物には、上記熱硬化性樹脂の種類に応じて硬化促進剤を更に配合してもよい。エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、例えば、潜在性の熱硬化剤である各種イミダゾール類、BF3アミン錯体、リン系硬化促進剤等が挙げられる。硬化促進剤を配合する場合、樹脂組成物の保存安定性、半硬化の樹脂組成物の取扱性及びはんだ耐熱性の観点から、イミダゾール類及びリン系硬化促進剤が好ましい。
(無機充填剤)
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填剤を更に含有してもよい。任意に適切な無機充填剤を含有させることで、樹脂組成物の低熱膨張特性、高弾性率性、耐熱性、難燃性等をより効果的に向上させることができる。無機充填剤としては特に制限されないが、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
無機充填剤の形状及び粒径についても特に制限はない。無機充填剤の粒径は、例えば、0.01~20μmであっても、0.1~10μmであってもよい。ここで、粒径とは、平均粒子径を指し、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めた時、体積50%に相当する点の粒子径のことである。平均粒径はレーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
無機充填剤を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、例えば、樹脂組成物中の固形分を全量として無機充填材の含有比率が3~75体積%であることが好ましく、5~70体積%であることがより好ましい。樹脂組成物中の無機充填剤の含有比率が上記の範囲である場合、良好な硬化性、成形性及び耐薬品性が得られ易くなる。
無機充填剤を用いる場合、無機充填剤の分散性、有機成分との密着性を向上させる等の目的で、必要に応じ、カップリング剤を併用できる。このようなカップリング剤としては特に限定されず、例えば、チタネートカップリング剤、各種のシランカップリング剤等を用いることができる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、カップリング剤の使用量も特に限定されず、例えば、使用する無機充填剤100質量部に対して0.1~5質量部としてもよいし、0.5~3質量部としてもよい。この範囲であれば、諸特性の低下が少なく、無機充填剤の使用による特長を効果的に発揮し易くなる。
カップリング剤を用いる場合、樹脂組成物中に無機充填剤を配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予め無機充填剤にカップリング剤を、乾式又は湿式で表面処理した無機充填剤を使用する方式が好ましい。この方法を用いることで、より効果的に上記無機充填剤の特長を発現できる。なお、インテグラルブレンド処理方式でカップリング剤を添加する場合には、使用するカップリング剤は、上記(B)成分以外のカップリング剤を使用するものとし、予めカップリング剤で表面処理した無機充填剤を使用する場合には、上記(B)成分に該当するカップリング剤も使用し得るものとする。
(熱可塑性樹脂)
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂フィルムの取扱い性を高める観点から、熱可塑性樹脂を更に含有してもよい。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、分子量も限定されないが、(A)成分との相溶性をより高める点から、数平均分子量(Mn)が200~60000であることが好ましい。
フィルム形成性及び耐吸湿性の観点から、熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマであることが好ましい。熱可塑性エラストマとしては飽和型熱可塑性エラストマ等が挙げられ、飽和型熱可塑性エラストマとしては化学変性飽和型熱可塑性エラストマ、非変性飽和型熱可塑性エラストマ等が挙げられる。化学変性飽和型熱可塑性エラストマとしては、無水マレイン酸で変性されたスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等が挙げられる。化学変性飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、タフテックM1911、M1913、M1943(全て旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名)等が挙げられる。一方、非変性飽和型熱可塑性エラストマとしては、非変性のスチレン-エチレン-ブチレン共重合体等が挙げられる。非変性飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、タフテックH1041、H1051、H1043、H1053(全て旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名)等が挙げられる。
フィルム形成性、誘電特性及び耐吸湿性の観点から、飽和型熱可塑性エラストマは、分子中にスチレンユニットを有することがより好ましい。なお、本明細書において、スチレンユニットとは、重合体における、スチレン単量体に由来する単位を指し、飽和型熱可塑性エラストマとは、スチレンユニットの芳香族炭化水素部分以外の脂肪族炭化水素部分が、いずれも飽和結合基によって構成された構造を有するものをいう。
飽和型熱可塑性エラストマにおけるスチレンユニットの含有比率は、特に限定されないが、飽和型熱可塑性エラストマの全質量に対するスチレンユニットの質量百分率で、10~80質量%であると好ましく、20~70質量%であるとより好ましい。スチレンユニットの含有比率が上記範囲内であると、フィルム外観、耐熱性及び接着性に優れる傾向にある。
分子中にスチレンユニットを有する飽和型熱可塑性エラストマの具体例としては、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体が挙げられる。スチレン-エチレン-ブチレン共重合体は、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体のブタジエンに由来する構造単位が有する不飽和二重結合に水素添加を行うことにより得ることができる。
熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されないが、誘電特性を更に良好にする観点からは樹脂組成物の固形分を全量として0.1~15質量%であることが好ましく、0.3~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが更に好ましい。
(難燃剤)
本実施形態の樹脂組成物には、難燃剤を更に配合してもよい。難燃剤としては特に限定されないが、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物等が好適に用いられる。臭素系難燃剤としては、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化エポキシ樹脂;ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2-ジブロモ-4-(1,2-ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、2,4,6-トリス(トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン等の臭素化添加型難燃剤;トリブロモフェニルマレイミド、トリブロモフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、テトラブロモビスフェノールA型ジメタクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレート、臭素化スチレン等の不飽和二重結合基含有の臭素化反応型難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ-2,6-キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族系リン酸エステル;フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル、フェニルホスホン酸ビス(1-ブテニル)等のホスホン酸エステル;ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド誘導体等のホスフィン酸エステル;ビス(2-アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物;リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウム、リン含有ビニルベンジル化合物、赤リン等のリン系難燃剤などが挙げられる。金属水酸化物難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの難燃剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、上記した各成分を、必要に応じて溶剤を用いて均一に分散及び混合することによって得ることができ、その調製手段、条件等は特に限定されない。例えば、所定配合量の各種成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練し、更に得られた混練物を冷却及び粉砕する方法が挙げられる。なお、混練形式についても特に限定されない。溶剤については特に限定されないが、トルエン、キシレン、メシチレン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が好適に用いられる。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物の比誘電率は特に限定されないが、高周波帯で好適に用いる観点から、10GHzでの比誘電率は3.6以下であることが好ましく、3.1以下であることがより好ましく、3.0以下であることが更に好ましい。比誘電率の下限については特に限定はないが、例えば、1.0程度であってもよい。また、高周波帯で好適に用いる観点から、本実施形態の樹脂組成物の硬化物の誘電正接は0.004以下であることが好ましく、0.003以下であることがより好ましい。比誘電率の下限については特に限定はなく、例えば、0.0001程度であってもよい。比誘電率及び誘電正接は下記実施例で示す方法で測定できる。
積層板のそりを抑制する観点から、本実施形態の樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数の上限値は、90ppm/℃以下であることが好ましく、45ppm/℃以下であることがより好ましく、40ppm/℃以下であることが更に好ましい。熱膨張係数の下限値は特に限定されないが、例えば、10ppm/℃以上であってよい。熱膨張係数はIPC-TM-650 2.4.24に準拠して測定できる。
本実施形態の樹脂組成物の硬化物の銅箔引きはがし強さは特に限定されないが、導体との接着性の観点から、樹脂との接着面側の表面粗さが非常に小さいロープロファイル銅箔使用時の銅箔引きはがし強さの下限値は、0.6kN/m以上であることが好ましく、0.7kN/m以上であることがより好ましく、0.8kN/m以上であることが更に好ましい。銅箔引きはがし強さの上限値は特に限定されないが、例えば、5kN/m以下であってよい。銅箔引きはがし強さは銅張積層板試験規格JIS-C-6481に準拠して測定できる。
本実施形態の樹脂組成物は、優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、導体との接着性及び耐熱性をも高い水準で備えることから、プリント配線板の層間絶縁層を形成するために用いられる樹脂組成物として特に有用である。
[樹脂層付き支持体]
本実施形態では、上記の樹脂組成物を用いて、樹脂層付き支持体を製造することができる。なお、樹脂層付き支持体とは、支持基材と、支持基材上に設けられた上記の樹脂組成物を含む樹脂層と、を備える。樹脂層とは、フィルム状の、未硬化又は半硬化の樹脂組成物を指し、樹脂フィルムともいう。
樹脂層付き支持体の製造方法は限定されないが、例えば、樹脂組成物を支持基材上に塗布して形成された樹脂層を乾燥することで得られる。具体的には、上記樹脂組成物をキスコーター、ロールコーター、コンマコーター等を用いて支持基材上に塗布した後、加熱乾燥炉中等で、例えば70~250℃、好ましくは70~200℃の温度で、1~30分間、好ましくは3~15分間乾燥してもよい。これにより、樹脂層が半硬化した状態の樹脂層付き支持体を得ることができる。
なお、半硬化した状態の樹脂層を、加熱炉で更に、例えば、170~250℃、好ましくは185~230℃の温度で、60~150分間加熱させることによって樹脂層を熱硬化させ、硬化樹脂層を得ることができる。
本実施形態に係る樹脂層の厚さは特に限定されないが、1~200μmであることが好ましく、2~180μmであることがより好ましく、3~150μmであることが更に好ましい。樹脂層の厚さを上記の範囲とすることにより、本実施形態に係る樹脂層付き支持体を用いて得られるプリント配線板の薄型化と良好な高周波特性、を両立し易い。
支持基材は特に限定されないが、ガラス、金属箔及びPETフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。樹脂層付き支持体が支持基材を備えることにより、保管性及びプリント配線板の製造に用いる際の取扱性が良好となる傾向にある。本実施形態に係る樹脂層付き支持体は、使用される際には支持基材から剥離してもよい。
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、繊維基材と、繊維基材に含浸している上記の樹脂組成物と、を備える。このようなプリプレグは、例えば、本実施形態の樹脂組成物を補強基材である繊維基材に含浸させ、含浸された樹脂組成物を乾燥させて得られる。
本実施形態のプリプレグは、繊維基材に本実施形態の樹脂組成物を塗工した後、塗工された樹脂組成物を乾燥させて得てもよい。具体的には、樹脂組成物が付着した繊維基材を、乾燥炉中で通常、80~200℃の温度で、1~30分間加熱乾燥することで、樹脂組成物が半硬化したプリプレグを得られる。良好な成形性の観点からは、繊維基材に対する樹脂組成物の付着量は、乾燥後のプリプレグ中の樹脂含有率として30~90質量%となるように塗工又は含浸することが好ましい。
繊維基材としては限定されないが、シート状繊維基材が好ましい。シート状繊維基材としては、例えば、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている公知のものが用いられる。その材質としては、例えば、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Qガラス等の無機繊維;ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン等の有機繊維などが挙げられる。シート状繊維基材として、織布、不織布、チョップドストランドマット等の形状を有するものが使用できる。また、シート状繊維基材の厚みは特に制限されず、例えば、0.02~0.5mmのものを用いることができる。また、シート状繊維基材としては、カップリング剤等で表面処理したもの、又は、機械的に開繊処理を施したものが、樹脂組成物の含浸性、積層板とした際の耐熱性、耐吸湿性及び加工性の観点から好ましい。
[積層板]
本実施形態の積層板は、導体層と、導体層上に設けられた上記の樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂層と、を備える。例えば、上記樹脂層付き支持体又はプリプレグを用い、金属張積層板を製造することができる。
金属張積層板の製造方法は限定されないが、例えば、本実施形態の樹脂層付き支持体から支持基材を剥離した樹脂層又はプリプレグを1枚又は複数枚重ね、少なくとも一つの面に導体層となる金属箔を配置し、例えば、170~250℃、好ましくは185~230℃の温度及び0.5~5.0MPaの圧力で60~150分間加熱及び加圧することにより、絶縁層となる樹脂層又はプリプレグの少なくとも一つの面に金属箔を備える金属張積層板が得られる。加熱及び加圧は、例えば、真空度は10kPa以下、好ましくは5kPa以下の条件で実施でき、効率を高める観点からは真空中で行うことが好ましい。加熱及び加圧は、開始から30分間~成形終了時間まで実施することが好ましい。
[多層プリント配線板]
本実施形態の多層プリント配線板は、少なくとも3層の回路層と、隣り合う1組の回路層間にそれぞれ設けられた2層以上の層間絶縁層と、を備え、層間絶縁層のうちの少なくとも1層が、上記樹脂組成物の硬化物を含む硬化樹脂層である。回路層の数は特に限定されず、3層~20層であってもよい。多層プリント配線板は、例えば、上記の樹脂層付き支持体、プリプレグ又は金属張積層板を用いて製造することもできる。
多層プリント配線板の製造方法としては特に限定されないが、例えば、まず、回路形成加工されたコア基板の片面又は両面に、樹脂層付き支持体を配置するか、あるいは複数枚のコア基板の間に樹脂層付き支持体を配置し、加圧及び加熱ラミネート成形、又は加圧及び加熱プレス成形を行って各層を接着した後、レーザー穴開け加工、ドリル穴開け加工、金属めっき加工、金属エッチング等による回路形成加工を行うことで、多層プリント配線板を製造することができる。樹脂層付き支持体の支持基材は、コア基板上又はコア基板間に配置する前に剥離しておくか、あるいは、樹脂層をコア基板に張り付けた後に剥離することができる。
本実施形態に係る多層プリント配線板の製造方法を、図1に沿って説明する。図1は、本実施形態に係る多層プリント配線板の製造工程を模式的に示す図である。本実施形態に係る多層プリント配線板の製造方法は、(a)内層回路基板に樹脂フィルムを積層して樹脂層を形成する工程(以下、「工程(a)」という)と、(b)樹脂層を加熱・加圧して硬化する工程(以下、「工程(b)」という)と、(c)硬化した樹脂層上にアンテナ回路層を形成する工程(以下、「工程(c)」という)とを有する。
図1の(a)に示すように、工程(a)では、内層回路基板11に本実施形態に係る樹脂フィルム12を積層して樹脂フィルム12からなる樹脂層を形成する。
積層方法は特に限定されないが、例えば、多段プレス、真空プレス、常圧ラミネーター、真空下で加熱加圧するラミネーターを用いて積層する方法等が挙げられ、真空下で加熱加圧するラミネーターを用いる方法が好ましい。これにより、内層回路基板11が表面に微細配線回路を有していてもボイドがなく回路間を樹脂で埋め込むことができる。ラミネート条件は特に限定されないが、圧着温度が70~130℃、圧着圧力が1~11kgf/cm2であって、減圧又は真空下で積層するのが好ましい。ラミネートは、バッチ式であってもよく、また、ロールでの連続式であってもよい。
内層回路基板11としては、特に限定されず、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等を使用することができる。内層回路基板11の樹脂フィルムが積層される面の回路表面は予め粗化処理されていてもよい。
内層回路基板11の回路層数は限定されない。図1では6層の内層回路基板としたが、この層数に限定されず、例えば、ミリ波レーダー用プリント配線板を作製する場合、その設計に応じて2層~20層等と自由に選択することができる。本実施形態の多層プリント配線板は、ミリ波レーダーの作製へ応用することができる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、回路層とを備える、ミリ波レーダー用プリント配線板を作製することができる。
後述するアンテナ回路層14をエッチングにより樹脂層12a上に形成する場合、樹脂フィルム12上に更に金属箔13を積層して金属層13aを形成してもよい。金属箔としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、亜鉛等が挙げられ、導電性の観点からは銅が好ましい。金属箔は合金であってもよく、例えば、銅合金として、ベリリウム又はカドミウムを少量添加した高純度銅合金が挙げられる。金属箔の厚みは、3~200μmが好ましく、5~70μmがより好ましい。
図1の(b)に示すように、工程(b)では、工程(a)で積層した内層回路基板11及び樹脂層12aを加熱加圧して熱硬化させる。条件は特に限定されないが、温度100℃~250℃、圧力0.2~10MPa、時間30~120分間の範囲が好ましく、150℃~220℃がより好ましい。
図1の(c)に示すように、工程(c)では、樹脂層12a上にアンテナ回路層14を形成する。アンテナ回路層14の形成方法は特に限定されず、例えば、サブトラクティブ法等のエッチング法、セミアディティブ法等によって形成してもよい。
サブトラクティブ法は、金属層13aの上に、所望のパターン形状に対応した形状のエッチングレジスト層を形成し、その後の現像処理によって、レジストの除去された部分の金属層を薬液で溶解し除去することによって、所望の回路を形成する方法である。薬液としては、例えば、塩化銅溶液、塩化鉄溶液等を使用することができる。
セミアディティブ法は、無電解めっき法により樹脂層12aの表面に金属被膜を形成し、金属被膜上に所望のパターンに対応した形状のめっきレジスト層を形成し、次いで、電解めっき法によって金属層を形成した後、不要な無電解めっき層を薬液等で除去し、所望の回路層を形成する方法である。
また、樹脂層12aには、必要に応じてビアホール15等のホールを形成してもよい。ホールの形成方法は限定されないが、NCドリル、炭酸ガスレーザー、UVレーザー、YAGレーザー、プラズマ等を適用できる。
ここで、内層回路基板11は、図2に示す工程(p)~(r)によって製造することもできる。図2は、内層回路基板の製造工程を模式的に示す図である。すなわち、本実施形態に係る多層プリント配線板の製造方法は、工程(p)、工程(q)、工程(r)、工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有していてもよい。以下、工程(p)~(r)について説明する。
まず、図2の(p)に示すように、工程(p)では、コア基板41及びプリプレグ42を積層する。コア基板としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等を使用できる。プリプレグとしては、例えば、日立化成株式会社製「GWA-900G」、「GWA-910G」、「GHA-679G」、「GHA-679G(S)」、「GZA-71G」「GEA-75G」(いずれも商品名)等を使用することができる。
次に、図2の(q)に示すように、工程(q)では、工程(p)で得られたコア基板41及びプリプレグ42の積層体を加熱加圧する。加熱する温度は、特に限定されないが、120~230℃が好ましく、150~210℃がより好ましい。また、加圧する圧力は、特に限定されないが、1~5MPaが好ましく、2~4MPaがより好ましい。加熱時間は特に限定されないが30~120分が好ましい。これにより、誘電特性、高温多湿化での機械的、電気的接続信頼性に優れた内層回路基板を得ることができる。
さらに、図2の(r)に示すように、工程(r)では、必要に応じて内層回路基板にスルーホール43を形成する。スルーホール43の形成方法は特に限定されず、上述するアンテナ回路層を形成する工程と同一であってもよいし、公知の方法を用いてもよい。
上記の工程により、本実施形態の多層プリント配線板を製造できる。また、上記工程を経て製造されたプリント配線板を内層回路基板として更に工程(a)~(c)を繰り返してもよい。
図3は、図1に示す工程により製造された多層プリント配線板を内層回路基板として用いた多層プリント配線板の製造工程を模式的に示す図である。図3の(a)と図1の(a)が、図3の(b)と図1の(b)が、図3の(c)と図1の(c)が、それぞれ対応する。
具体的には、図3の(a)は、内層回路基板21に樹脂フィルム22を積層して樹脂層22sを形成し、必要に応じて金属箔23を樹脂フィルム22に積層して金属層23aを形成する工程である。図3の(b)は、樹脂層22aを加熱・加圧して硬化する工程であり、図3の(c)は硬化した樹脂層上にアンテナ回路層24を形成する工程である。
図1及び図3では、アンテナ回路パターン等を形成する目的で内層回路基板上に積層する樹脂層の層数を1層又は2層としたが、これに限定されず、アンテナ回路設計に応じて3層又はそれ以上の層数としてもよい。アンテナ回路層を多層とすることで、広帯域特性を有するアンテナ及び使用周波数帯域でアンテナ放射パターンの角度変化が少ない(ビームチルトレス)アンテナの設計が容易となる。
本実施形態に係る多層プリント配線板の製造方法では、マレイミド基、少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基及び飽和又は不飽和の2価の炭化水素基を有する化合物を含有する樹脂組成物を用いて樹脂層を形成しているため、高周波特性に優れる層の他に接着層を設けずに積層体を作製することができる。これにより、工程の簡略化及び更なる高周波特性の向上効果が得られる。
上記のような本実施形態の樹脂組成物を用いた樹脂層付き支持体、プリプレグ、積層板及び多層プリント配線板は、1GHz以上の高周波信号を扱う電子機器に好適に用いることができ、特に10GHz以上の高周波信号を扱う電子機器に好適に用いることができる。
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
[樹脂組成物]
下記手順に従って、各種の樹脂組成物を調製した。実施例1~12及び比較例1~2の樹脂組成物の調製に用いた各原材料の使用量(質量部)は、表1及び表2にまとめて示す。
温度計、還流冷却管及び攪拌装置を備えた300mLの4つ口フラスコに、表1又は表2に示す各成分を投入し、25℃で1時間撹拌した後、#200ナイロンメッシュ(開口75μm)によりろ過して樹脂組成物を得た。
なお、表1及び表2における各材料の略号等は、以下のとおりである。
(1)BMI-3000[Mw:約3000、Designer Molecules Inc.製、商品名]
(2)BMI-5000[Mw:約5000、Designer Molecules Inc.製、商品名]
(3)BMI-1000[ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、大和化成工業株式会社製、商品名)
(4)BMI-4000[2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、大和化成工業株式会社製、商品名]
(5)KBM-602[N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(6)KBM-603[N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(7)KBE-903[3-アミノプロピルトリエトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(8)KBM-903[3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(9)KBM-573[N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(10)KBM-403[3-グリシドキリプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン株式会社製、商品名]
(11)ビスアニリンM[1,3-ビス(2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、三井化学ファインケミカル株式会社製、商品名]
(12)シリカスラリー[球状溶融シリカ、表面処理:フェニルアミノシランカップリング剤(1質量%/スラリー中の全固形分)、分散媒:メチルイソブチルケトン(MIBK)、固形分濃度:70質量%、平均粒子径:0.5μm、密度:2.2g/cm3、株式会社アドマテックス製、商品名「SC-2050KNK」]
(13)パーブチルP[1,4-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製、商品名]
上記(A)成分として用いた化合物(BMI-3000及びBMI-5000)の推定される構造は下記式(XII-3)のとおりである。式(XII-3)において、nは1~10の整数を表す。
[樹脂層付き支持体]
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を、コンマコーターを用いて、支持基材として厚さ38μmのPETフィルム(G2-38、帝人株式会社製)上に塗工し(乾燥温度:130℃)、PETフィルム上に半硬化状態の樹脂層(半硬化樹脂フィルム)を備える樹脂層付き支持体を作製した。樹脂層付き支持体の樹脂層の厚さは50μmであった。
[樹脂層付き支持体の評価]
実施例及び比較例の樹脂層付き支持体の外観及び取扱性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
外観は目視により下記の基準で評価した。
A:半硬化樹脂フィルムの表面にムラ、スジ等がない。
B:半硬化樹脂フィルムの表面に多少なりともムラ、スジ等があり、表面平滑性に欠ける。
取扱性は、目視及び触感により下記の基準で評価した。
(1)25℃における表面のべたつき(タック)の有無。
(2)カッターナイフで切断した際の状態の樹脂割れ又は粉落ちの有無。
A:上記(1)及び(2)のいずれもない。
B:上記(1)及び(2)のいずれか一方でもある。
[多層プリント配線板]
上述した樹脂層付き支持体を用い、以下の手順で多層プリント配線板を作製した。
回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板とし、その両面に、上記樹脂層付き支持体からPETフィルムを剥離した半硬化樹脂フィルムを1枚乗せ、その上に厚さ12μmの電解銅箔(日本電解株式会社製、商品名「YGP-12」)を配置した後、その上に鏡板を載せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱及び加圧成形して、4層プリント配線板を作製した。
次いで、作製された4層プリント配線板の最外層の銅箔をエッチングし、回路埋め込み性(多層化成形性)を評価した。多層化成形性は目視により下記基準で評価した。
A:回路にボイド、カスレが存在しない。
B:ボイド、カスレが多少なりとも存在する。
[両面金属張硬化樹脂フィルム]
上述の樹脂層付き支持体からPETフィルムを剥離した半硬化樹脂フィルムを2枚重ねた後、その両面に、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(M面Rz:3μm、古河電気工業株式会社製、商品名「F3-WS」)をその粗化面(M面)が接するように配置し、その上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱及び加圧成形して、両面金属張硬化樹脂フィルム(厚さ:0.1mm)を作製した。
上述の両面金属張硬化樹脂フィルムについて、取扱性(耐折曲げ性)、誘電特性、銅箔引きはがし強さ及びはんだ耐熱性を評価した。その評価結果を表3及び表4に示す。両面金属張硬化樹脂フィルムの特性評価方法は以下のとおりである。
[取扱性(耐折曲げ性)]
取扱性(耐折曲げ性)は、両面金属張硬化樹脂フィルムの外層銅箔をエッチングしたものを180度折り曲げることにより、下記基準により評価した。
A:折り曲げた際、割れ又はクラックが発生しない。
B:折り曲げた際、割れ又はクラックが多少なりとも発生する。
[誘電特性]
誘電特性である比誘電率及び誘電正接は、両面金属張硬化樹脂フィルムの外層銅箔をエッチングし、長さ60mm、幅2mm、厚み約1mmに切断したものを試験片として空洞共振器摂動法により測定した。測定器にはアジレントテクノロジー社製ベクトル型ネットワークアナライザE8364B、空洞共振器には株式会社関東電子応用開発製CP129(10GHz帯共振器)及びCP137(20GHz帯共振器)、測定プログラムにはCPMA-V2をそれぞれ使用した。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
[銅箔引きはがし強さ]
銅箔引きはがし強さは、銅張積層板試験規格JIS-C-6481に準拠して測定した。測定温度は25℃とした。
[はんだ耐熱性]
はんだ耐熱性は、両面金属張硬化樹脂フィルムの片側の銅箔をエッチングし、50mm角に切断したものを試験片として、その常態及びプレッシャークッカーテスト(PCT)装置(条件:121℃、2.2気圧)において、所定時間(1、3、5時間)処理した後のものを288℃の溶融はんだ上に20秒間フロートし、処理時間が異なる3枚の硬化樹脂フィルムのそれぞれの外観を下記基準により目視で評価した。なお、表3及び表4においては、1時間の処理を行ったものをPCT-1hと表記し、3時間の処理を行ったものをPCT-3hと表記し、5時間の処理を行ったものをPCT-5hと表記する。また、表3及び表4において、「A(3/3)」との表記は、3枚の硬化樹脂フィルムのうち3枚ともA評価であったことを示す。
A:フィルム内部及びフィルムと銅箔間に膨れ又はミーズリングの発生が認められない。
B:フィルム内部及びフィルムと銅箔間に膨れ又はミーズリングの発生が認められる。
[熱膨張係数(CTE)]
熱膨張係数(板厚方向)は、両面金属張硬化樹脂フィルムの両面の銅箔をエッチングし、5mm角に切断したものを試験片として、熱機械分析装置TMA(TAインスツルメント社製、Q400)(温度範囲:30~150℃、荷重:5g)により、IPC規格(IPC-TM-650 2.4.24)に準拠して測定した。
表3及び表4に示した結果から明らかなように、実施例1~12の樹脂組成物を用いて作製された半硬化樹脂フィルムによれば、外観(表面均一性)、取扱性(タック性、割れ、粉落ち等)に問題がなく、多層化成形性も良好であることが確認された。加えて、実施例1~12の樹脂組成物の硬化物である硬化樹脂フィルムは、いずれも比誘電率、誘電正接がともに優れており、はんだ耐熱性及び銅箔引きはがし強さに関しても優れていた。
一方、表3及び表4に示した結果から明らかなように、比較例1の樹脂組成物の硬化物である硬化樹脂フィルムは、銅箔引きはがし強さに関して、実施例のものより劣っていた。また、比較例2の樹脂組成物の半硬化樹脂フィルムは樹脂割れが発生し、フィルム取扱性が悪かった。さらにその硬化物である硬化樹脂フィルムは、比誘電率及び誘電正接に関して、実施例のものより劣っていた。
[ミリ波レーダー用プリント配線板]
(実施例13)
図2に示す工程で内層回路基板11を作製した後、実施例1の樹脂組成物を用いて図1に示す工程でミリ波アンテナ回路層を1層含む計7層構造のミリ波レーダー用プリント配線板を作製した。
まず、工程(p)で、厚さ18μmの銅箔を両面に貼り合わせた厚さ0.1mmのガラス布基材エポキシ銅張積層板(日立化成株式会社製、商品名「MCL-E-75G」)の不要な銅箔をエッチング除去して内層回路基板を作製した後、0.1mmのガラス布基材エポキシプリプレグ(日立化成株式会社製、商品名「GEA-75G」)を銅張積層板間に重ねて配置し構造体を作製した。次いで、工程(q)で、工程(p)にて作製した構造体に対し、180℃/3.0MPa/60分のプレス条件で加熱加圧成形して一体化基板を形成した。そして、工程(r)で、工程(q)にて作製した一体化基板に対し、所望の位置にドリルにより穴を開け、ホール内に銅めっきを施して内層回路基板11を作製した。
工程(a)では、内層回路基板11の表面に、実施例1の樹脂組成物を用いて作製した半硬化樹脂フィルム(厚さ130μm)を真空ラミネーターにて仮接着し、更に厚さ18μmのロープロファイル銅箔(古河電気工業株式会社製、商品名「F3-WS」)を配置し構造体を作製した。次いで、工程(b)では、工程(a)にて作製した構造体の上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱加圧成形した。そして、工程(c)で、工程(b)にて作製した構造体に対し、所望の位置にレーザーにて不要な樹脂の除去及びビアホール(IVH)の形成を行った後、めっき及びエッチングを施してアンテナ回路層14を形成し、ミリ波アンテナ回路層を1層含む計7層構造の多層プリント配線板を得た。
(実施例14)
実施例2の樹脂組成物を用い、図3に示す工程でミリ波アンテナ回路層を2層含む計8層構造のミリ波レーダー用プリント配線板を作製した。
工程(a)では、実施例1にて作製したミリ波レーダー用プリント配線板を内層回路基板21として用い、その表面に実施例2の樹脂組成物を用いて作製した半硬化樹脂フィルム(厚さ130μm)を真空ラミネーターにて仮接着した後、「F3-WS」を配置し構造体を作製した。次いで、工程(b)で、工程(a)にて作製した構造体の上に鏡板を乗せ、200℃/3.0MPa/70分のプレス条件で加熱加圧成形した。そして、工程(c)で、工程(b)にて作製した構造体に対し、所望の位置にレーザーにて不要な樹脂の除去及びビアホール(IVH)の形成を行った後、めっき及びエッチングを施してアンテナ回路層24を形成し、ミリ波アンテナ回路を層2層含む計8層構造のミリ波レーダー用プリント配線板を得た。
(比較例3)
実施例2の樹脂組成物に代えて、フッ素系樹脂材料(Rogers社製、商品名「RO3003」)を用い、従来の手法である図4で示す工程でミリ波アンテナ回路層を2層含む計8層構造のミリ波レーダー用プリント配線板を作製した。
まず、図4の工程(a’)では、上記工程(p)~(r)で作製した内層回路基板31上に、0.1mmのガラス布基材エポキシプリプレグ(GEA-75G)33及び0.13mmのフッ素系樹脂基材銅張積層板(Rogers製、商品名「RO-3003」)の不要な銅箔をエッチング除去した銅張積層板32を重ねて配置し構造体を作製した。次いで、工程(b’)で、工程(a’)にて作製した構造体に対し、180℃/3.0MPa/60分のプレス条件で加熱加圧成形し、アンテナ回路を1層含む計7層構造の多層配線板を作製した。次に、工程(c’)で、工程(b’)にて作製した多層配線板上に、0.1mmのガラス布基材エポキシプリプレグ(GEA-75G)33及び0.13mmのフッ素系樹脂基材銅張積層板(RO-3003)の不要な銅箔をエッチング除去した銅張積層板32を重ねて配置し構造体を作製した。そして、工程(d’)で、工程(c’)にて作製した構造体に対し、180℃/3.0MPa/60分のプレス条件で加熱加圧成形した後、スルーホール穴あけ~めっき~エッチングにより所望の回路を形成し、アンテナ回路を2層含む計8層構造のミリ波レーダー用プリント配線板を得た。
比較例3の方法によれば、フッ素系樹脂基材銅張積層板を用いても多層構造のアンテナ回路を形成可能であるが、フッ素系樹脂の間にプリプレグ等の接着層が必要となる。その際、一般的なプリプレグ等の接着層はミリ波帯での比誘電率及び誘電正接がフッ素系樹脂材料と比較して悪いため、フッ素系樹脂間の接着層の存在により、多層構造のアンテナ回路特性は劣化し易い。
これに対して、実施例14の方法では、ミリ波帯での比誘電率及び誘電正接に優れた材料のみで多層構造のアンテナ回路が構成されるため、比較例3と比べて特性に優れた多層構造のアンテナ回路を形成できる。