本発明の態様に係るパターン描画装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下に詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更または改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
[第1の実施の形態]
図1は、ロール・ツー・ロール方式の基板処理装置(パターン露光装置)の全体的な構成を正面側から見た斜視図である。図1の基板処理装置による処理は、チャンバーCBで囲まれた露光部本体(露光装置、描画装置)EX内で、電子デバイス用のパターンをシート基板P(以下単に基板Pと呼ぶこともある)の表面のレジスト層や感光性シランカップリング層、或いは紫外線硬化樹脂の膜等の感光層(感光性機能層)に露光する。図1において、基板処理装置の全体が設置される工場の床面と平行な面を直交座標系XYZのXY面とし、XY面と垂直なZ方向を重力方向とする。
感光層が塗布されてプリベイク(予備加熱)された長尺のフレキシブルなシート基板Pは、供給ロールFRに巻かれた状態で、供給ロール装着部EPC1から-Y方向に突出した回転軸に装着される。供給ロール装着部EPC1は、巻出し/巻取り部10の-X側の側面に設けられ、全体として±Y方向に微動できるように構成される。供給ロールFRから引き出されたシート基板Pは、巻出し/巻取り部10のXZ平面と平行な側面に取付けられたエッジセンサーEps1、Y軸と平行な回転軸を有する複数のローラ、および、テンション付与とテンション計測を行うテンションローラRT1を介して、+X方向に隣り合ったクリーナー部11に取付けられたクリーニングローラCUR1に送られる。クリーニングローラCUR1は、外周面が粘着性を持つように加工されて、シート基板Pの表面と裏面との各々と接触して回転することで、シート基板Pの表裏面に付着した微粒子や異物を除去する2本のローラで構成される。
クリーナー部11のクリーニングローラCUR1を通ったシート基板Pは、張力調整部12のXZ面から-Y方向に突出して設けられるニップローラNR1と、テンションローラRT2とを介して、露光部本体EXのチャンバーCBの側壁にY方向にスロット状に延びて形成された開口部CP1を通って、露光部本体EX内に搬入される。シート基板Pの感光層が形成された面は、開口部CP1を通る際に上向き(+Z方向)になっている。露光部本体EX内で露光処理されたシート基板Pは、開口部CP1の-Z側であって、チャンバーCBの側壁にY方向にスロット状に延びて形成された開口部CP2を通って搬出される。その際、シート基板Pの感光層が形成された面は、下向きになっている。開口部CP2を通って搬出されるシート基板Pは、張力調整部12のXZ面から-Y方向に突出して設けられるテンションローラRT3とニップローラNR2とを介して、-X方向に隣り合ったクリーナー部11のクリーニングローラCUR2に送られる。クリーニングローラCUR2は、クリーニングローラCUR1と同様に構成される。
クリーナー部11のクリーニングローラCUR2を通ったシート基板Pは、巻出し/巻取り部10のXZ面と平行な側面の下段部に取付けられたテンションローラRT4、エッジセンサーEps2、および、Y軸と平行な回転軸を有する複数のローラを介して、回収ロールRRで巻き取られる。回収ロールRRは、巻出し/巻取り部10の-X側の側面の下部に設けられ、全体として±Y方向に微動できるように構成される回収ロール装着部EPC2の回転軸に装着される。回収ロールRRは、シート基板Pの感光層が外周面側に向くようにシート基板Pを巻き上げる。このように、図1の基板処理装置では、供給ロールFRから引き出されて回収ロールRRで巻き取られるまで、シート基板Pの表面(被処理面)の幅方向(長尺方向と直交した短尺方向)が常にY方向になるような状態でシート基板Pを長尺方向に搬送している。さらに、図1の基板処理装置の構成においては、供給ロールFRと回収ロールRRとを巻出し/巻取り部10にZ方向に並べて配置したので、ロール交換の作業が簡便になる。
なお、図1中において、クリーナー部11のクリーニングローラCUR1、CUR2を通った後のシート基板P、或いはニップローラNR1、NR2を通った後のシート基板Pには、数千ボルト程度の静電気が帯電することがある。その為、シート基板Pの搬送路の適当な位置に、帯電した静電気を中和させるイオナイザーを設けたり、搬送ローラの一部やローラ周囲に除電機能(放電用の電極部やブラシ等)を設けたりするのが良い。
本実施の形態では、基板処理装置の単体がロール・ツー・ロール方式でシート基板Pに露光処理を施す構成とするが、シート基板Pの表面に感光層を塗布する塗布部と乾燥部とを、供給ロールFRと露光部本体EXとの間に設けたり、露光処理後のシート基板Pに現像処理やメッキ処理等の湿式処理を施す湿式処理部と乾燥部とを、露光部本体EXと回収ロールRRの間に設けたりしてもよい。なお、供給ロール装着部EPC1と回収ロール装着部EPC2の各々には、シート基板Pの被処理面を保護するための保護シートが巻かれたロールを装着するための回転軸が、供給ロールFRや回収ロールRRの回転軸と平行に設置されている。
供給ロール装着部EPC1は、供給ロールFRに所定の回転トルクを与えるサーボモータやギアボックス(減速器)を備えており、そのサーボモータは、テンションローラRT1で計測されるテンション量に基づいて搬送機構の制御ユニットによってサーボ制御される。同様に回収ロール装着部EPC2は、回収ロールRRに所定の回転トルクを与えるサーボモータやギアボックス(減速器)を備えており、そのサーボモータはテンションローラRT4で計測されるテンション量に基づいて搬送機構の制御ユニットによってサーボ制御される。さらに、シート基板Pの一方の端部(エッジ部)のY方向の変位を計測するエッジセンサーEps1からの計測情報は、供給ロール装着部EPC1(および供給ロールFR)を±Y方向に移動させるサーボモータの駆動制御部に送られ、エッジセンサーEps1を通って露光部本体EXに向かうシート基板PのY方向の位置ずれを常に所定の許容範囲内に抑える。同様に、シート基板Pの一方の端部(エッジ部)のY方向の変位を計測するエッジセンサーEps2からの計測情報は、回収ロール装着部EPC2(および回収ロールRR)を±Y方向に移動させるサーボモータの駆動制御部に送られ、エッジセンサーEps2を通るシート基板PのY方向の位置ずれに応じて回収ロールRRをY方向に移動させることで、シート基板Pの巻きムラを抑えている。
図1に示した搬送機構を構成する巻出し/巻取り部10、クリーナー部11、張力調整部12の各々の-Y方向側には、X方向に延びて工場床面に設置される段部13が設けられる。この段部13は、その上に作業者が上がって調整作業や保守作業を行えるように、Y方向に数十cmの幅を持たせてある。また、段部13の内部には、各種の電気配線、空調気体用の配管、冷却液体用の配管等の付帯設備が収納されている。段部13の+Y方向側には、電源ユニット14と、露光用ビームを発生するレーザ光源(後の図3参照)を制御するレーザ制御ユニット15と、レーザ光源、パターン描画用のポリゴンミラー(後の図5参照)、および、ビームスイッチング用の光学変調器等の発熱部を冷却するための冷却液(クーラント)を循環させるチラーユニット16と、露光部本体EXのチャンバーCB内に温調された気体を供給する空調ユニット17等とが配置される。
以上の構成において、張力調整部12に取付けられたニップローラNR1とテンションローラRT2によって、露光部本体EXの上流側のシート基板Pには、長尺方向(搬送方向)に略一定のテンションが付与される。テンションローラRT2は、テンション計測部(センサー)を備え、計測したテンション量が指令された値になるように、サーボモータによって図1中で±Z方向に移動可能となっている。ニップローラNR1は、2本の平行なローラを一定の押圧力で対峙させ、その間でシート基板Pを挟持しつつ、一方のローラをサーボモータで回転駆動させることで、ニップローラNR1の上流側と下流側とでシート基板Pに付与されるテンションを分断することができる。ニップローラNR1の一方のローラのサーボモータによる回転駆動により、シート基板Pの搬送速度をアクティブに制御することができ、例えば、ニップローラNR1のサーボモータの回転を停止状態(速度ゼロ)にサーボロックすると、シート基板PをニップローラNR1の位置に係止(係留)することができる。
同様に、張力調整部12に取付けられたニップローラNR2とテンションローラRT3によって、露光部本体EXの下流側のシート基板Pには、長尺方向(搬送方向)に略一定のテンションが付与される。テンションローラRT3は、テンション計測部(センサー)を備え、計測したテンション量が指令された値になるように、サーボモータによって図1中で±Z方向に移動可能となっている。ニップローラNR2は、ニップローラNR1と同様にサーボモータによってアクティブに回転制御されるため、ニップローラNR2の上流側と下流側とでシート基板Pに付与されるテンションを分断することができる。ニップローラNR2のサーボモータの回転を停止状態(速度ゼロ)にサーボロックすることで、シート基板PはニップローラNR2の位置に係止(係留)されることになる。
さらに本実施の形態では、供給ロールFRを回転駆動するサーボモータと、ニップローラNR1を回転駆動するサーボモータとを、テンションローラRT1で計測されるテンション量に応じて同期制御することで、供給ロールFRからニップローラNR1までの搬送経路において、シート基板Pに所定のテンションが与えられる。同様に、回収ロールRRを回転駆動するサーボモータと、ニップローラNR2を回転駆動するサーボモータとを、テンションローラRT4で計測されるテンション量に応じて同期制御することで、ニップローラNR2から回収ロールRRからまでの搬送経路において、シート基板Pに所定のテンションが与えられる。なお、図1に示した供給ロールFRや回収ロールRR、及び巻出し/巻取り部10、クリーナー部11、張力調整部12の各種ローラは、シート基板Pを搬送路に沿って通したり(通紙)、搬送路から取り外したりすることを容易にするため、片持ち方式のローラ(ロール)となっている。しかしながら、扱うシート基板Pの幅(短尺方向の寸法)が大きい場合(例えば1メートル以上の場合)には、両持ち方式のローラ(ロール)とすることによって、各種ローラ間の平行性を安定に維持することができる。
図2は、図1の基板処理装置(パターン露光装置)の全体的な構成を裏側(-Y方向側)から見た斜視図である。図2において、図1に示した部材や機構と同じものには同じ符号を付してある。本実施の形態の露光部本体EX内には、後で説明するが、シート基板Pを長尺方向に巻き付けて支持する回転ドラム(ロールステージ)が設けられている。その回転ドラムの回転中心軸は、Y軸と平行に配置され、図2に示すチャンバーCBの後方の開口部CP4を貫通して回転駆動用のモータ30の軸に結合されている。モータ30は、回転ドラムを直接回転させるダイレクトドライブ方式であり、低速回転ではあるが、大きな回転トルクを安定的に発生するブラシレスモータである。モータ30は、シート基板Pを露光処理する間は、目標となるシート基板Pの送り速度に対応した回転速度(角速度)で回転し続けるようにサーボ制御される。その為、モータ30の発熱による影響を避けるため、モータ30はチャンバーCBの外壁の外に配置され、チャンバーCBの開口部CP4はモータ30の軸部を通る程度の大きさに設定されている。
回転ドラムとモータ30とは不図示のマウント部材上に一体に取付けられ、そのマウント部材は、図2中でY方向に延びたベース部材20の上面に形成されたスライドレール部21上をY方向に移動させることができる。すなわち、モータ30と回転ドラムとが一体になったロールステージユニットを、チャンバーCB内からチャンバーCBの外(裏側)に移動させることができる。これは、露光部本体EX内の各部のメンテナンスや調整作業を容易にすると共に、シート基板Pの通紙作業や取り外し作業を容易にする為である。ロールステージユニットをチャンバーCBの外部に引き出す為に、チャンバーCBの外壁のうちで開口部CPの周囲部分は部分的に脱着可能に構成されている。また、チャンバーCB内から引き出されたロールステージユニットはベース部材20の上に設置されるが、そのままだと、チャンバーCB内への作業者のアクセスが困難なので、ベース部材20の底部には工場の床面上をY方向(又はX方向)に移動可能なキャスターが設けられ、ロールステージユニットを搭載したベース部材20をチャンバーCBから離すことができる。このように、回転ドラムで構成されるロールステージユニットを、回転中心軸(モータ30の軸)の方向にスライド可能とする構成は、例えば特開2015-145990号公報に示されている。
ロールステージユニットを搭載するベース部材20のX方向の両側には、露光部本体EX内の各種の駆動源の制御、センサ類からの信号の処理、各種の演算処理を行う為の制御用基板(CPUボード)を収納する制御ラック部22A、22Bが配置される。さらに、チャンバーCBの+X方向側の外壁には、チャンバーCB内の回転ドラムに枚葉のシート基板やテスト露光用のドライフィルム(枚葉)を人手によって巻付けたり、回転ドラムの上方(+Z方向)の露光ユニット(描画ヘッド、描画モジュール)から投射されるビームの状態(光強度、フォーカス誤差、スポット形状の誤差等)を計測してキャリブレーションを行ったり、或いは光源装置から露光ユニットに送られるビームの少なくとも一部を保守点検用に取り出したりする為の開口部(窓部)CP5が形成される。この開口部CP5は通常は扉板CBhによって塞がれ、扉板CBhは、例えば、チャンバーCBの外壁に沿ってZ方向にスライド可能、或いはヒンジによって回動可能に設けられる。扉板CBhを開くことにより、作業者は開口部CP5を介して露光部本体EXの回転ドラムまでアクセスすることができる。
〔パターン描画装置EX〕
次に、図3の斜視図を参照して露光部本体(以下、パターン描画装置とも呼ぶ)EXの全体構成を説明する。図3における直交座標系XYZは、先の図1、図2の直交座標系XYZと同じに設定される。従って特に断わりのない限り、直交座標系XYZのZ方向を重力方向として説明する。
パターン描画装置EXは、可撓性のシート基板Pに露光処理を施して、電子デバイスを製造するデバイス製造システムで使われる。デバイス製造システムは、例えば、電子デバイスとしてのフレキシブル・ディスプレイ、フィルム状のタッチパネル、液晶表示パネル用のフィルム状のカラーフィルター、フレキシブル配線、または、フレキシブル・センサなどを製造する製造ラインが構築された製造システムである。フレキシブル電子デバイスの一例として、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどの表示パネルやウェアラブルセンサシート等がある。シート基板Pは、例えば、樹脂フィルム、若しくは、ステンレス鋼などの金属または合金からなる箔(フォイル)などが用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、および酢酸ビニル樹脂のうち、少なくとも1つ以上を含んだものを用いてもよい。また、シート基板Pの厚みや剛性(ヤング率)は、デバイス製造システムやパターン描画装置EXの搬送路を通る際に、シート基板Pに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であればよい。シート基板Pの母材として、厚みが25μm~200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)などのフィルムが使われる。
シート基板Pは、デバイス製造システム内で施される各処理において熱を受ける場合があるため、熱膨張係数が顕著に大きくない材質を選定することが好ましい。例えば、無機フィラーを樹脂フィルムに混合することによって熱膨張係数を抑えることができる。無機フィラーは、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、または酸化ケイ素などでもよい。また、シート基板Pは、フロート法などで製造された厚さ100μm程度の極薄ガラスの単層体であってもよいし、この極薄ガラスに上記の樹脂フィルムや箔などを貼り合わせた積層体であってもよい。
また、セルロースナノファイバー(CNF)を含有した数百μm以下の厚みのフィルム(以下、CNFシート基板とも呼ぶ)は、PET等のフィルムに比べて高温(例えば200℃程度)の処理にも耐え、CNFの含有率を高めることで線熱膨張係数を銅やアルミニウム程度にすることができる。従って、CNFシート基板は、銅による配線パターンを形成して電子部品(半導体素子、抵抗器、コンデンサ等)を実装したり、高温処理が必要とされる薄膜トランジスタ(TFT)を直接形成したりしてフレキシブル電子デバイスを製造する場合の基板として適している。特に、電子デバイスを製造する場合、湿式処理の後には乾燥加熱処理が必要になり、その際の耐熱性が高められることから、長尺のシート基板を連続して複数の処理装置に通すロール・ツー・ロール方式の製造ラインの構築が容易になり、生産性の向上が期待できる。
ところで、シート基板Pの可撓性(flexibility)とは、シート基板Pに自重程度の力を加えてもせん断したり破断したりすることはなく、そのシート基板Pを撓めることが可能な性質をいう。また、自重程度の力によって屈曲する性質も可撓性に含まれる。また、シート基板Pの材質、大きさ、厚さ、基板P上に成膜される層構造、温度、または、湿度などの環境などに応じて、可撓性の程度は変わる。いずれにしろ、デバイス製造システム(パターン描画装置EX)内の搬送路に設けられる各種の搬送用ローラ、回転ドラムなどの搬送方向転換用の部材にシート基板Pを正しく巻き付けた場合に、座屈して折り目がついたり、破損(破れや割れが発生)したりせずに、シート基板Pを滑らかに搬送できれば、可撓性の範囲といえる。パターン描画装置EXに送られてくるシート基板Pには、前工程の処理によって、その表面に感光性機能層(光感応層)が形成されている。
その感光性機能層は、溶液として基板P上に塗布され、乾燥することによって層(膜)となる。感光性機能層の典型的なものはフォトレジスト(液状またはドライフィルム状)であるが、現像処理が不要な材料として、紫外線の照射を受けた部分の親撥液性が改質される感光性シランカップリング剤(SAM)、或いは紫外線の照射を受けた部分にメッキ還元基が露呈する感光性還元剤などがある。感光性機能層として感光性シランカップリング剤を用いる場合は、シート基板P上の紫外線で露光されたパターン部分が撥液性から親液性に改質される。そのため、親液性となった部分の上に導電性インク(銀や銅などの導電性ナノ粒子を含有するインク)または半導体材料を含有した液体などを選択塗布することで、薄膜トランジスタ(TFT)などを構成する電極、半導体、絶縁、或いは接続用の配線となるパターン層を形成することができる。なお、感光性機能層は、紫外波長域(250~400nm程度)に感度を有するものであれば、その他のもの、例えば紫外線硬化樹脂を薄膜状に塗布した層であっても良い。
感光性機能層として、感光性還元剤を用いる場合は、シート基板P上の紫外線で露光されたパターン部分にメッキ還元基が露呈する。そのため、露光後、シート基板Pを直ちにパラジウムイオンなどを含む無電解メッキ液中に一定時間浸漬することで、パラジウムによるパターン層が形成(析出)される。このようなメッキ処理はアディティブ(additive)なプロセスであるが、その他、サブトラクティブ(subtractive)なプロセスとしてのエッチング処理を前提にしてもよい。その場合、パターン描画装置EXへ送られるシート基板Pは、母材をPETやPENとし、その表面にアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属性薄膜を全面または選択的に蒸着し、さらにその上にフォトレジスト層を積層したものとするのがよい。
パターン描画装置EXは、前工程のプロセス装置から搬送されてきたシート基板Pを後工程のプロセス装置(単一の処理部または複数の処理部を含む)に向けて所定の速度で搬送しつつ、シート基板Pに対して露光処理(パターン描画)を行う。パターン描画装置EXは、シート基板Pの表面(感光性機能層の表面、すなわち、感光面)に、電子デバイス用のパターン(例えば、電子デバイスを構成する配線パターン、TFTの電極や配線などのパターン)に応じた光パターンを照射する。これにより、感光性機能層に前記パターンに対応した潜像(改質部)が形成される。
図3に示すように、本実施の形態におけるパターン描画装置EXは、マスクを用いない直描方式の露光装置、いわゆるスポット走査方式の露光装置(描画装置)である。描画装置EXは、副走査のために基板Pを支持して長尺方向に搬送する回転ドラムDRと、回転ドラムDRで円筒面状に支持された基板Pの部分ごとにパターン露光を行う複数(ここでは6個)の描画ユニットUn(U1~U6)とを備え、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々は、光源装置LSから射出される露光用のパルス状のビームLB(パルスビーム)のスポット光を、基板Pの被照射面(感光面)上で所定の走査方向(Y方向)にポリゴンミラー(走査部材)PMで1次元に走査(主走査)しつつ、スポット光の強度をパターンデータ(描画データ、パターン情報)に応じて高速に変調(オン/オフ)する。これにより、基板Pの被照射面に電子デバイス、回路または配線などの所定のパターンに応じた光パターンが描画露光される。つまり、基板Pの副走査とスポット光の主走査とで、スポット光が基板Pの被照射面(感光性機能層の表面)上で相対的に2次元走査されて、基板Pの被照射面に所定のパターンが描画露光される。なお、基板Pは、回転ドラムDRの回転によって長尺方向に指令された速度で搬送されるので、描画装置EXによってパターンが描画される被露光領域は、基板Pの長尺方向に沿って所定の間隔をあけて複数設けられることになる。この被露光領域に電子デバイスが形成されるので、被露光領域はデバイス形成領域でもある。
図3に示すように、回転ドラムDRは、Y方向に延びるとともに重力が働く方向と交差した方向に延びた中心軸AXoと、中心軸AXoから一定半径の円筒状の外周面とを有する。回転ドラムDRのY方向の両端には中心軸AXoと同軸にシャフトが設けられ、回転ドラムDRは、そのシャフトによって描画装置EX内の支持部材(図2で説明したマウント部材)にベアリングを介して軸支される。シャフトは、図2に示したモータ30の回転軸と同軸に結合される。回転ドラムDRは、この外周面(円周面)に倣って基板Pの一部を長尺方向に円筒面状に湾曲させて支持しつつ(巻き付けつつ)、中心軸AXoを中心に回転して基板Pを長尺方向に搬送する。回転ドラムDRは、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々からの走査ビーム(スポット光)が投射される基板P上の領域(スポット光による描画ラインSL1~SL6を含む部分)をその外周面で支持する。回転ドラムDRは、電子デバイスが形成される面(感光面が形成された側の面)とは反対側の面(裏面)側から基板Pを支持(密着保持)する。
光源装置(パルス光源装置)LSは、パルス状のビーム(パルスビーム、パルス光、レーザ)LBを発生して射出する。このビームLBは、シート基板Pの感光層に対する感度を有し、240~400nm程度の紫外波長帯域にピーク波長を有する紫外線光である。光源装置LSは、ここでは不図示の描画制御装置200(後の図7で説明する)の制御にしたがって、周波数(発振周波数、所定周波数)Faでパルス状に発光するビームLBを射出する。この光源装置LSは、赤外波長域のパルス光を発生する半導体レーザ素子、ファイバー増幅器、および、増幅された赤外波長域のパルス光を355nmの紫外波長のパルス光に変換する波長変換素子(高調波発生素子)などで構成されるファイバーアンプレーザ光源とする。このように光源装置LSを構成することで、発振周波数Faが数百MHzで、1パルス光の発光時間が数十ピコ秒以下の高輝度な紫外線のパルス光が得られる。なお、光源装置LSから射出されるビームLBは、そのビーム径が1mm程度、若しくはそれ以下の細い平行光束になっているものとする。光源装置LSをファイバーアンプレーザ光源とし、描画データを構成する画素の状態(論理値で「0」か「1」)に応じてビームLBのパルス発生を高速にオン/オフする構成については、例えば、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
光源装置LSから射出されるビームLBは、複数のスイッチング素子としての選択用光学素子OSn(OS1~OS6)と、複数の反射ミラーM1~M12と、複数の選択ミラーIMn(IM1~IM6)と、吸収体TR等で構成されるビーム切換部を介して、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に選択的(択一的)に供給される。選択用光学素子OSn(OS1~OS6)は、ビームLBに対して透過性を有するものであり、超音波信号で駆動されて、入射したビームLBの1次回折光(主回折ビーム)を描画用のビームLBnとして所定の角度で偏向して射出する音響光学変調素子(音響光学偏向素子)(AOM:Acousto-Optic Modulator)で構成される。複数の選択用光学素子OSnおよび複数の選択ミラーIMnは、複数の描画ユニットUnの各々に対応して設けられている。例えば、選択用光学素子OS1と選択ミラーIM1は、描画ユニットU1に対応して設けられ、同様に、選択用光学素子OS2~OS6および選択ミラーIM2~IM6は、それぞれ描画ユニットU2~U6に対応して設けられている。
光源装置LSからビームLBは、反射ミラーM1~M12によってその光路がXY面と平行な面内でつづらおり状に曲げられつつ、選択用光学素子OS5、OS6、OS3、OS4、OS1、OS2の順に透過して、吸収体TRまで導かれる。以下、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がいずれもオフ状態(超音波信号が印加されずに、1次回折光が発生していない状態)の場合で詳述する。なお、図3では図示を省略したが、反射ミラーM1から吸収体TRまでのビーム光路中には複数のレンズ(光学素子)が設けられ、この複数のレンズは、ビームLBを平行光束から収斂したり、収斂後に発散するビームLBを平行光束に戻したりする。その構成は後で図5を用いて説明する。
図3において、光源装置LSからのビームLBは、X軸と平行に-X方向に進んで反射ミラーM1に入射する。反射ミラーM1で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM2に入射する。反射ミラーM2で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS5を直線的に透過して反射ミラーM3に至る。反射ミラーM3で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM4に入射する。反射ミラーM4で-X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS6を直線的に透過して反射ミラーM5に至る。
反射ミラーM5で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM6に入射する。反射ミラーM6で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS3を直線的に透過して反射ミラーM7に至る。反射ミラーM7で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM8に入射する。反射ミラーM8で-X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS4を直線的に透過して反射ミラーM9に至る。反射ミラーM9で-Y方向に反射されたビームLBは反射ミラーM10に入射する。反射ミラーM10で+X方向に反射されたビームLBは、選択用光学素子OS1を直線的に透過して反射ミラーM11に至る。
反射ミラーM11で-Y方向に反射されたビームLBは、反射ミラーM12に入射する。反射ミラーM12で-X方向に反射したビームLBは、選択用光学素子OS2を直線的に透過して吸収体TRに導かれる。この吸収体TRは、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がいずれもオフ状態のときに、ほとんど減衰することなく透過してくる光源装置LSからの高輝度のビームLBが外部に漏れることを抑制するための光トラップである。
各選択用光学素子OSnは、超音波信号(高周波信号)が印加されると、入射したビーム(0次光)LBを、高周波の周波数に応じた回折角で回折させた1次回折光(主回折ビーム)を射出ビーム(描画用のビームLBn)として発生させるものである。したがって、選択用光学素子OS1から1次回折光として射出されるビームがLB1となり、同様に選択用光学素子OS2~OS6から1次回折光として射出されるビームがLB2~LB6となる。このように、各選択用光学素子OSn(OS1~OS6)は、光源装置LSからのビームLBの光路を偏向する機能を奏する。本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)がオン状態となって1次回折光としてのビームLBn(LB1~LB6)を発生している状態のことを、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)が光源装置LSからのビームLBを偏向(又は選択)した状態として説明する。
但し、実際の音響光学変調素子は、1次回折光の最大の発生効率が0次光の70~80%程度であるため、選択用光学素子OSnの各々で偏向されたビームLBn(LB1~LB6)は、元のビームLBの強度より低下している。また、本実施の形態では、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)のうちの選択された1つだけが一定時間だけオン状態(偏向状態)となるように、描画制御装置200(図7参照)によって制御される。選択された1つの選択用光学素子OSnがオン状態のとき、その選択用光学素子OSnで回折されずに直進する0次光(0次回折ビーム)が20%程度残存するが、それは最終的に吸収体TRによって吸収される。
選択用光学素子OSnの各々は、偏向された1次回折光である描画用のビームLBn(LB1~LB6)を、入射するビームLBに対して-Z方向に偏向するように設置される。選択用光学素子OSnの各々で偏向されて射出するビームLBn(LB1~LB6)は、選択用光学素子OSnの各々から所定距離だけ離れた位置に設けられた選択ミラーIMn(IM1~IM6)に投射される。各選択ミラーIMnは、入射したビームLBn(LB1~LB6)を-Z方向に反射することで、ビームLBn(LB1~LB6)をそれぞれ対応する描画ユニットUn(U1~U6)に導く。
各選択用光学素子OSnの構成、機能、作用などは互いに同一のものを用いるものとする。複数の選択用光学素子OSnの各々は、描画制御装置200(図7参照)からの駆動信号(超音波信号)のオン/オフにしたがって、入射したビームLBを回折させた回折光(ビームLBn)の発生をオン/オフする。例えば、選択用光学素子OS5は、描画制御装置200からの駆動信号(高周波信号)が印加されずにオフ状態のとき、入射した光源装置LSからのビームLBを偏向(回折)させずに透過する。したがって、選択用光学素子OS5を透過したビームLBは、反射ミラーM3に入射する。一方、選択用光学素子OS5がオン状態のとき、入射したビームLBを偏向(回折)させて選択ミラーIM5に向かわせる。つまり、この駆動信号のオン/オフによって選択用光学素子OS5によるスイッチング(ビーム選択)動作が制御される。
このようにして、各選択用光学素子OSnのスイッチング動作により、光源装置LSからのビームLBをいずれか1つの描画ユニットUnに導くことができ、且つ、ビームLBnが入射する描画ユニットUnを切り換えることができる。このように、複数の選択用光学素子OSnを光源装置LSからのビームLBが順番に通るように直列(シリアル)に配置して、対応する描画ユニットUnに時分割でビームLBnを供給する構成については、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
ビーム切換部を構成する選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々が一定時間だけオン状態となる順番は、例えば、OS1→OS2→OS3→OS4→OS5→OS6→OS1→・・・のように、予め定められている。この順番は、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に設定されるスポット光による走査開始タイミングの順番によって定められる。すなわち、本実施の形態では、6つの描画ユニットU1~U6の各々に設けられるポリゴンミラーPMの回転速度の同期と共に、回転角度の位相も同期させることで、描画ユニットU1~U6のうちのいずれか1つにおけるポリゴンミラーPMの1つの反射面RPが、基板P上で1回のスポット走査を行うように、時分割に切り替えることができる。そのため、描画ユニットUnの各々のポリゴンミラーPMの回転角度の位相が所定の関係で同期した状態であれば、描画ユニットUnのスポット走査の順番はどの様なものであってもよい。図3の構成では、基板Pの搬送方向(回転ドラムDRの外周面が周方向に移動する方向)の上流側に3つの描画ユニットU1、U3、U5がY方向に並べて配置され、基板Pの搬送方向の下流側に3つの描画ユニットU2、U4、U6がY方向に並べて配置される。
この場合、基板Pへのパターン描画は、上流側の奇数番の描画ユニットU1、U3、U5から開始され、基板Pが一定長送られたら、下流側の偶数番の描画ユニットU2、U4、U6もパターン描画を開始することになるので、描画ユニットUnのスポット走査の順番を、U1→U3→U5→U2→U4→U6→U1→・・・に設定することができる。そのため、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々が一定時間だけオン状態となる順番は、OS1→OS3→OS5→OS2→OS4→OS6→OS1→・・・のように定められる。なお、描画すべきパターンがない描画ユニットUnに対応した選択用光学素子OSnがオン状態となる順番のときであっても、その選択用光学素子OSnのオン/オフの切り替え制御を描画データに基づいて行うことによって、その選択用光学素子OSnは強制的にオフ状態に維持されるので、その描画ユニットUnによるスポット走査は行われない。
図3に示すように、描画ユニットU1~U6の各々には、入射してきたビームLB1~LB6を主走査するためのポリゴンミラーPMが設けられる。本実施の形態では、各描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの各々が、同一の回転速度で精密に回転しつつ、互いに一定の回転角度位相を保つように同期制御される。これによって、描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の各々の主走査のタイミング(スポット光SPの主走査期間)を、互いに重複しないように設定することができる。したがって、ビーム切換部に設けられた選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えを、6つのポリゴンミラーPMの各々の回転角度位置に同期して制御することで、光源装置LSからのビームLBを複数の描画ユニットUnの各々に時分割で振り分けた効率的な露光処理ができる。
6つのポリゴンミラーPMの各々の回転角度の位相合わせと、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えタイミングとの同期制御については、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されているが、8面ポリゴンミラーPMの場合、走査効率として、1つの反射面RP分の回転角度(45度)のうちの1/3程度が、基板P上でのスポット光SPの1走査に対応するので、6つのポリゴンミラーPMを相対的に15度ずつ回転角度の位相をずらして回転させると共に、各ポリゴンミラーPMが8つの反射面RPを一面飛ばしでビームLBnを走査するように選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々のオン/オフの切り替えが制御される。このように、ポリゴンミラーPMの反射面RPを1面飛ばしで使った描画方式についても、国際公開第2015/166910号パンフレットに開示されている。
図3に示すように、描画装置EXは、同一構成の複数の描画ユニットUn(U1~U6)を配列した、いわゆるマルチヘッド型の直描露光装置となっている。描画ユニットUnの各々は、回転ドラムDRの外周面(円周面)で支持されている基板PのY方向に区画された部分領域ごとにパターンを描画する。各描画ユニットUn(U1~U6)は、ビーム切換部からのビームLBnを基板P上(基板Pの被照射面上)に投射しつつ、基板P上でビームLBnを集光(収斂)する。これにより、基板P上に投射されるビームLBn(LB1~LB6)はスポット光となる。また、各描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの回転によって、基板P上に投射されるビームLBn(LB1~LB6)のスポット光は主走査方向(Y方向)に走査される。このスポット光の走査によって、基板P上に、1ライン分のパターンの描画のための直線的な描画ライン(走査ライン)SLn(なお、n=1、2、・・・、6)が規定される。描画ラインSLnは、ビームLBnのスポット光の基板P上における走査軌跡でもある。
描画ユニットU1は、スポット光を描画ラインSL1に沿って走査し、同様に、描画ユニットU2~U6は、スポット光を描画ラインSL2~SL6に沿って走査する。図3に示すように、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の描画ラインSLn(SL1~SL6)は、回転ドラムDRの中心軸AXoを含みYZ面と平行な中心面を挟んで、回転ドラムDRの周方向に2列に千鳥配列で配置される。奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5は、中心面に対して基板Pの搬送方向の上流側(-X方向側)の基板Pの被照射面上に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6は、中心面に対して基板Pの搬送方向の下流側(+X方向側)の基板Pの被照射面上に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。そのため、複数の描画ユニットUn(U1~U6)も、中心面を挟んで基板Pの搬送方向に2列に千鳥配列で配置され、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5と、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6とは、XZ平面内でみると、中心面(中心軸AXoを含むYZ面と平行な面)に対して対称に設けられている。
X方向(基板Pの搬送方向、或いは副走査方向)に関しては、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6とが互いに離間しているが、Y方向(基板Pの幅方向、主走査方向)に関しては互いに分離することなく継ぎ合わされるように設定されている。描画ラインSL1~SL6は、基板Pの幅方向、つまり、回転ドラムDRの中心軸AXoと略並行となっている。なお、描画ラインSLnをY方向に継ぎ合わせるとは、Y方向に隣り合った描画ラインSLnの各々で描画されるパターンが基板P上でY方向に継ぎ合わされるように、描画ラインSLnの端部同士のY方向の位置を隣接または一部重複させるような関係にすることを意味する。描画ラインSLnの端部同士を重複させる場合は、例えば、各描画ラインSLnの長さに対して、描画開始点、または描画終了点を含んでY方向に数%以下の範囲で重複させるとよい。
このように、複数の描画ユニットUn(U1~U6)は、全部で基板P上の露光領域の幅方向の寸法をカバーするように、Y方向の走査領域(主走査範囲の区画)を分担している。例えば、1つの描画ユニットUnによるY方向の主走査範囲(描画ラインSLnの長さ)を30~60mm程度とすると、計6個の描画ユニットU1~U6をY方向に配置することによって、描画可能な露光領域(パターン形成領域)のY方向の幅を180~360mm程度まで広げられる。なお、各描画ラインSLn(SL1~SL6)の長さ(描画範囲の長さ)は、原則として同一とする。つまり、描画ラインSL1~SL6の各々に沿って走査されるビームLBnのスポット光の走査距離も、原則として同一とする。
本実施の形態の場合、光源装置LSからのビームLBが、数十ピコ秒以下(発振周波数Faの周期Tfに対して1/10以下)の発光時間のパルス光である為、主走査の間に描画ラインSLn上に投射されるスポット光は、ビームLBの発振周波数Fa(例えば、400MHz)に応じて離散的になる。そのため、ビームLBの1パルス光によって投射されるスポット光と次の1パルス光によって投射されるスポット光とを、主走査方向にオーバーラップさせる必要がある。そのオーバーラップの量は、スポット光の実効的なサイズφ、スポット光の走査速度(主走査の速度)Vs、および、ビームLBの発振周波数Faによって設定される。スポット光の実効的なサイズ(直径)φは、スポット光SPの強度分布がガウス分布で近似される場合、スポット光SPのピーク強度の1/e2(または半値全幅の1/2)の強度となる幅寸法で決まる。
本実施の形態では、実効的なサイズ(寸法)φに対して、スポット光がφ×1/2程度でオーバーラップするように、スポット光の走査速度Vs(ポリゴンミラーPMの回転速度)および発振周波数Faが設定される。したがって、パルス状のスポット光の主走査方向に沿った投射間隔はφ/2となる。そのため、副走査方向(描画ラインSLnと交差した方向)に関しても、描画ラインSLnに沿ったスポット光の1回の走査と、次の走査との間で、基板Pがスポット光の実効的なサイズφの略1/2の距離だけ移動するように設定することが望ましい。さらに、Y方向に隣り合う描画ラインSLnを主走査方向に継ぐ場合も、φ/2だけオーバーラップさせることが望ましい。本実施の形態では、スポット光の基板P上での実効的なサイズ(寸法)φを、描画データ上で設定される1画素の寸法と同程度の2~4μmとする。
各描画ユニットUn(U1~U6)は、XZ平面内でみたとき、各ビームLBnが回転ドラムDRの中心軸AXoに向かって進むように設定される。これにより、各描画ユニットUn(U1~U6)から基板Pに向かって進むビームLBnの光路(ビーム主光線)は、XZ平面において、基板Pの被照射面の法線と平行となる。また、各描画ユニットUn(U1~U6)から描画ラインSLn(SL1~SL6)に照射されるビームLBnは、円筒面状に湾曲した基板Pの表面の描画ラインSLnでの接平面に対して、常に垂直となるように基板Pに向けて投射される。すなわち、スポット光の主走査方向に関して、基板Pに投射されるビームLBn(LB1~LB6)はテレセントリックな状態で走査される。
図3に示す描画ユニット(ビーム走査装置)Unは、同一構成となっていることから、図3中の描画ユニットU1についてのみ簡単に説明する。描画ユニットU1の詳細構成は後で図4を参照して説明する。描画ユニットU1は、反射ミラーM20~M24、ポリゴンミラーPM、および、fθレンズ系(描画用走査レンズ)FTを少なくとも備えている。なお、図3では図示していないが、ビームLB1の進行方向からみて、ポリゴンミラーPMの手前には第1シリンドリカルレンズCYa(図4参照)が配置され、fθレンズ系(f-θレンズ系)FTの後に第2シリンドリカルレンズCYb(図4参照)が設けられている。第1シリンドリカルレンズCYaと第2シリンドリカルレンズCYbにより、ポリゴンミラーPMの各反射面RPの倒れ誤差によるスポット光(描画ラインSL1)の副走査方向への位置変動が補正される。
選択ミラーIM1で-Z方向に反射されたビームLB1は、描画ユニットU1内に設けられる反射ミラーM20に入射し、反射ミラーM20で反射したビームLB1は、-X方向に進んで反射ミラーM21に入射する。反射ミラーM21で-Z方向に反射したビームLB1は、反射ミラーM22に入射し、反射ミラーM22で反射したビームLB1は、+X方向に進んで反射ミラーM23に入射する。反射ミラーM23は、入射したビームLB1がポリゴンミラーPMの反射面RPに向かうように、XY平面と平行な面内でビームLB1を折り曲げる。
ポリゴンミラーPMは、入射したビームLB1を、fθレンズ系FTに向けて+X方向側に反射する。ポリゴンミラーPMは、ビームLB1のスポット光を基板Pの被照射面上で走査するために、入射したビームLB1をXY平面と平行な面内で1次元に偏向(反射)する。具体的には、ポリゴンミラー(回転多面鏡、走査部材)PMは、Z軸方向に延びる回転軸AXpと、回転軸AXpの周りに回転軸AXpと平行に形成された複数の反射面RP(本実施の形態では反射面RPの数Npを8とする)とを有する回転多面鏡である。回転軸AXpを中心にこのポリゴンミラーPMを所定の回転方向に回転させることで反射面RPに照射されるパルス状のビームLB1の反射角を連続的に変化させることができる。
これにより、1つの反射面RPによってビームLB1が偏向され、基板Pの被照射面上に照射されるビームLB1のスポット光を主走査方向(基板Pの幅方向、Y方向)に沿って走査することができる。このため、ポリゴンミラーPMの1回転で、基板Pの被照射面上にスポット光が走査される描画ラインSL1の数は、最大で反射面RPの数と同じ8本となる。ポリゴンミラーPMの反射面RPを1面飛ばしで使った場合は、ポリゴンミラーPMの1回転で基板Pの被照射面上にスポット光が走査される描画ラインSL1の数は4本になる。
fθレンズ系(走査系レンズ、走査用光学系)FTは、ポリゴンミラーPMによって反射されたビームLB1を、反射ミラーM24に投射するテレセントリック系のスキャンレンズである。fθレンズ系FTを透過したビームLB1は、反射ミラーM24(及び、図4で説明する第2シリンドリカルレンズCYb)を介してスポット光となって基板P上に集光される。このとき、反射ミラーM24は、XZ平面に関して、ビームLB1が回転ドラムDRの中心軸AXoに向かって進むように、ビームLB1を基板Pに向けて反射する。ビームLB1のfθレンズ系FTへの入射角θ(fθレンズ系FTの光軸からの偏角)は、ポリゴンミラーPMの回転角(θ/2)に応じて変わる。
fθレンズ系FTは、反射ミラーM24を介して、その入射角θに比例した基板Pの被照射面上の像高位置にビームLB1を投射する。fθレンズ系FTの焦点距離をfoとし、像高位置をyoとすると、fθレンズ系FTは、yo=fo×θ、の関係(歪曲収差)を満たすように設計されている。したがって、このfθレンズ系FTによって、ビームLB1をY方向に正確に等速で走査することが可能になる。なお、fθレンズ系FTに入射するビームLB1がポリゴンミラーPMによって1次元に偏向される面(XY面と平行)は、fθレンズ系FTの光軸を含む面となる。
〔描画ユニットUn内の光学構成〕
次に、図4を参照して描画ユニットUn(U1~U6)の光学的な構成について説明するが、ここでも代表して描画ユニットU1の構成を説明する。図4に示すように、描画ユニットU1内には、ビームLB1の入射位置から被照射面(基板P)までのビームLB1の進行方向に沿って、反射ミラーM20、反射ミラーM20a、偏光ビームスプリッタBS1、反射ミラーM21、反射ミラーM22、第1のシリンドリカルレンズCYa、反射ミラーM23、ポリゴンミラーPM、fθレンズ系FT、反射ミラーM24、第2のシリンドリカルレンズCYbが一体となるようにユニットフレーム内に設けられる。ユニットフレームは装置本体から単独に取り外せるように構成される。さらに描画ユニットU1内には、反射ミラーM20で-X方向に反射されて反射ミラーM20aに向かうビームLB1の光路中に、2つのレンズBe1、Be2によるビームエキスパンダ系BEが設けられる。このビームエキスパンダ系BEは、入射してくるビームLB1(直径が1mm以下)の断面の直径を数mm(一例としては8mm)程度に拡大した平行光束に変換する。ビームエキスパンダ系BEで拡大されたビームLB1は、反射ミラーM20aで-Y方向に反射された後、偏光ビームスプリッタBS1に入射する。ビームLB1は、偏光ビームスプリッタBS1で-X方向に効率的に反射されるような直線偏光に設定されている。
偏光ビームスプリッタBS1で反射されたビームLB1は、反射ミラーM21と反射ミラーM22との間に配置された円形開口を有する絞りFAPによって、ビームLB1の強度プロファイル上の周辺部(例えば裾野の1/e2以下の強度部分)がカットされる。反射ミラーM22で+X方向に反射されたビームLB1は、1/4波長板QWによって円偏光に変換された後、第1のシリンドリカルレンズCYaに入射する。さらに、描画ユニットU1内には、描画ユニットU1の描画開始可能タイミング(スポット光の走査開始タイミング)を検出するために、ポリゴンミラーPMの各反射面RPの角度位置を検知する原点センサ(原点検出器)としてのビーム送光系60aとビーム受光系60bとが設けられる。また、描画ユニットU1内には、基板Pの被照射面(または回転ドラムDRの表面)で反射したビームLB1の反射光を、fθレンズ系FT、ポリゴンミラーPM、および、偏光ビームスプリッタBS1等を介して検出するためのレンズ系G10と光検出器(光電センサ)DT1が設けられる。
描画ユニットU1に入射するビームLB1は、Z軸と平行な光軸(軸線)AX1に沿って-Z方向に進み、XY平面に対して45°傾いた反射ミラーM20に入射する。反射ミラーM20で反射したビームLB1は、反射ミラーM20からビームエキスパンダ系BEを通って-X方向に離れた反射ミラーM20aに向けて進む。反射ミラーM20aは、YZ平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLBnを偏光ビームスプリッタBS1に向けて-Y方向に反射する。偏光ビームスプリッタBS1の偏光分離面はYZ平面に対して45°傾いて配置され、P偏光のビームを反射し、P偏光と直交する方向に偏光した直線偏光(S偏光)のビームを透過する。描画ユニットU1に入射するビームLB1をP偏光のビームとすると、偏光ビームスプリッタBS1は、反射ミラーM20aからのビームLB1を-X方向に反射して反射ミラーM21側に導く。
反射ミラーM21はXY平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLB1を反射ミラーM21から絞りFAPを介して-Z方向に離れた反射ミラーM22に向けて-Z方向に反射する。反射ミラーM22は、XY平面に対して45°傾いて配置され、入射したビームLB1を反射ミラーM23に向けて+X方向に反射する。反射ミラーM22で反射したビームLB1は、λ/4波長板QWと第1のシリンドリカルレンズCYaを介して反射ミラーM23に入射する。反射ミラーM23は、入射したビームLB1をポリゴンミラーPMに向けて反射する。
ポリゴンミラーPMは、入射したビームLB1をX軸と平行な光軸AXfを有するfθレンズ系FTに向けて+X方向側に反射する。ポリゴンミラーPMは、ビームLB1のスポット光SPを基板Pの被照射面上で走査するために、入射したビームLB1をXY平面と平行な面内で1次元に偏向(反射)する。ポリゴンミラーPMは、Z軸方向に延びる回転軸AXpの周りに形成された複数の反射面(本実施の形態では正八角形の各辺)RPを有し、回転軸AXpと同軸の回転モータRMによって回転される。回転モータRMは、描画制御装置200(図7参照)に設けられるポリゴン回転制御部によって、一定の回転速度(例えば、3万~4万rpm程度)で回転する。先に説明したように、描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な長さ(例えば、50mm)は、このポリゴンミラーPMによってスポット光SPを走査することができる最大走査長(例えば、52mm)以下の長さに設定されており、初期設定(設計上)では、最大走査長の中央に描画ラインSLnの中心点(fθレンズ系FTの光軸AXfが通る点)が設定されている。
第1のシリンドリカルレンズCYaは、ポリゴンミラーPMによる主走査方向(回転方向)と直交する副走査方向(Z方向)に関して、入射したビームLB1をポリゴンミラーPMの反射面RP上に収斂する。つまり、シリンドリカルレンズCYaは、ビームLB1をポリゴンミラーPMの反射面RP上でXY平面と平行な方向に延びたスリット状(長楕円状)に収斂する。母線がY方向と平行となっているシリンドリカルレンズCYaと、後述のシリンドリカルレンズCYbとによって、ポリゴンミラーPMの反射面RPがZ軸(回転軸AXp)と平行な状態から傾いた場合であっても、基板Pの被照射面上に照射されるビームLB1(描画ラインSL1)の照射位置が副走査方向にずれることを抑制できる。
ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θ(光軸AXfに対する角度)は、ポリゴンミラーPMの回転角(θ/2)に応じて変わる。ビームLBnのfθレンズ系FTへの入射角θが0度のとき、fθレンズ系FTに入射したビームLBnは、光軸AXf上に沿って進む。fθレンズ系FTからのビームLBnは、反射ミラーM24で-Z方向に反射され、シリンドリカルレンズCYbを介して基板Pに向けて投射される。fθレンズ系FTおよび母線がY方向と平行なシリンドリカルレンズCYb、さらにはビームエキスパンダ系BEの作用によって、基板P上に投射されるビームLB1は基板Pの被照射面上で直径数μm程度(例えば、2~3μm)の微小なスポット光SPに収斂される。以上のように、描画ユニットU1に入射したビームLB1は、XZ平面内でみたとき、反射ミラーM20から基板Pまでコの字状にクランクした光路に沿って折り曲げられ、-Z方向に進んで基板Pに投射される。
図4に示した軸線AX1は、反射ミラーM20に入射するビームLB1の中心線を延長したものであるが、この軸線AX1は、反射ミラーM24で-Z方向に折り曲げられたfθレンズ系FTの光軸AXfと同軸になるように配置される。このように配置することによって、描画ユニットU1の全体(反射ミラーM20~第2のシリンドリカルレンズCYb)を軸線AX1の回りに微少回転させることができ、描画ラインSL1のXY面内での微小な傾きを高精度に調整することができる。以上の描画ユニットU1の構成は、他の描画ユニットU2~U6の各々についても同じに構成される。これによって、6つの描画ユニットU1~U6の各々がビームLB1~LB6の各スポット光SPを主走査方向(Y方向)に一次元に走査しつつ、基板Pを長尺方向に搬送することによって、基板Pの被照射面がスポット光SPによって相対的に2次元走査され、基板P上には描画ラインSL1~SL6の各々で描画されるパターンがY方向に継ぎ合わされた状態で露光される。
一例として、描画ラインSLn(SL1~SL6)の実効的な走査長LTを50mm、スポット光SPの実効的な直径φを4μm、光源装置LSからのビームLBのパルス発光の発振周波数Faを400MHzとし、描画ラインSLn(主走査方向)に沿ってスポット光SPが直径φの1/2ずつオーバーラップするようにパルス発光させる場合、スポット光SPのパルス発光の主走査方向の間隔は基板P上で2μmとなり、これは発振周波数Faの周期Tf(=1/Fa)である2.5nS(1/400MHz)に対応する。また、この場合、描画データ上で規定される画素サイズPxyは、基板P上で4μm角に設定され、1画素は主走査方向と副走査方向の各々に関してスポット光SPの2パルス分で露光される。したがって、スポット光SPの主走査方向の走査速度Vspと発振周波数Faは、Vsp=(φ/2)/Tf=(φ/2)・Faの関係になるように設定される。一方、走査速度Vspは、ポリゴンミラーPMの回転速度VR(rpm)と、実効的な走査長LTと、ポリゴンミラーPMの反射面RPの数Np(=8)と、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RPによる走査効率1/αとに基づいて、以下のように定められる。
Vsp=(8・α・VR・LT)/60〔mm/秒〕 ・・・ 式1
したがって、発振周波数Fa(周期Tf)と回転速度VR(rpm)とは、以下の関係になるように設定される。
(φ/2)/Tf=(8・α・VR・LT)/60 ・・・ 式2
以上のことから、発振周波数Faを400MHz(Tf=2.5nS)、スポット光SPの直径φを4μmとしたとき、発振周波数Faから規定される走査速度Vspは、0.8μm/nS(=2μm/2.5nS)となる。この走査速度Vspに対応させるためには、走査効率1/αを0.3(α≒3.33)、走査長LTを50mmとしたとき、式2の関係から、8面のポリゴンミラーPMの回転速度VRを36000rpmに設定すればよい。なお、この場合の走査速度Vsp(0.8μm/nS)は、時速に換算すると2880Km/hである。また、本実施の形態では、ビームLBnの2パルス分を主走査方向と副走査方向の各々に関して、スポット光SPの直径φの1/2だけオーバーラップさせて1画素とするが、露光量(DOSE量)を高める為に、スポット光SPの直径φの2/3だけオーバーラップさせた3パルス分、又はスポット光SPの直径φの3/4だけオーバーラップさせた4パルス分を1画素とするように設定しても良い。従って、1画素当りのスポット光SPのパルス数をNspとすると、先の式2の関係式は、一般化して以下の式3のように表せる。
(φ/Nsp)/Tf=(Np・α・VR・LT)/60 ・・・ 式3
この式3の関係を満たす為に容易に調整できるパラメータは、光源装置LSの発振周波数Faで決まる周期TfとポリゴンミラーPMの回転速度VRである。
ところで、図4に示す原点センサを構成するビーム受光系60bは、ポリゴンミラーPMの反射面RPの回転角度位置が、反射面RPによる描画用のビームLBnのスポット光SPの走査が開始可能とされる直前の所定位置(規定角度位置、原点角度位置)にきた瞬間に波形変化する原点信号(同期信号、タイミング信号とも呼ばれる)SZnを発生する。ポリゴンミラーPMは、8つの反射面RPを有するので、ビーム受光系60bは、ポリゴンミラーPMの1回転中に8回の原点信号SZn(8回の波形変化)を出力することになる。原点信号SZnは、描画制御装置200(図7参照)に送られ、原点信号SZnが発生してから、所定の遅延時間Tdnだけ経過した後にスポット光SPの描画ラインSLnに沿った描画が開始される。
〔ビーム切換部内のリレー光学系〕
図5は、選択用光学素子OSn(OS1~OS6)および選択ミラーIMn(IM1~IM6)回りの具体的な構成を示す図であるが、ここでは説明を簡単にする為、図3で示したビーム切換部のうちで、光源装置LSからのビームLBを最後に入射する選択用光学素子OS2と、その1つ手前の選択用光学素子OS1との回りの構成を代表して示す。選択用光学素子OS1には、光源装置LSから射出されるビームLBが、例えば直径1mm以下の微小な径(第1の径)の平行光束としてブラッグ回折の条件を満たすように入射する。
高周波信号(超音波信号)である駆動信号DF1が入力されていない期間(駆動信号DF1がオフ)では、入射したビームLBが選択用光学素子OS1で回折されずにそのまま透過する。透過したビームLBは、その光路上に光軸AXaに沿って設けられた集光レンズGaおよびコリメートレンズGbを透過して、後段の選択用光学素子OS2に入射する。このとき選択用光学素子OS1を通って集光レンズGaおよびコリメートレンズGbを通過するビームLBは、光軸AXaと同軸になっている。集光レンズGaは、選択用光学素子OS1を透過したビームLB(平行光束)を、集光レンズGaとコリメートレンズGbとの間に位置する面Psの位置でビームウェストとなるように集光する。コリメートレンズGbは、面Psの位置から発散するビームLBを平行光束にする。コリメートレンズGbによって平行光束にされたビームLBの径は第1の径となる。
ここで、集光レンズGaの後側焦点位置とコリメートレンズGbの前側焦点位置とは、所定の許容範囲内で面Psと一致しており、集光レンズGaの前側焦点位置は選択用光学素子OS1内の回折点と所定の許容範囲内で一致するように配置され、コリメートレンズGbの後側焦点位置は選択用光学素子OS2内の回折点と所定の許容範囲内で一致するように配置される。従って、集光レンズGaとコリメートレンズGbは、選択用光学素子OS1内の回折点(ビームの偏向領域)と選択用光学素子OS2内の回折点(ビームの偏向領域)とを、光学的に共役な関係にする等倍のリレー光学系(倒立結像系)として機能する。そのため、面Psの位置にはリレー光学系(レンズGa、Gb)の瞳面が形成される。
一方、高周波信号である駆動信号DF1が選択用光学素子OS1に印加されるオン状態の期間では、ブラッグ回折の条件で入射したビームLBは選択用光学素子OS1によって回折されたビームLB1(1次回折光、主回折ビーム)と、回折されなかった0次のビームLB1zとに分かれる。ブラッグ回折の条件を満たすようにビームLBの選択用光学素子OS1への入射角度を設定すると、0次のビームLB1zに対して、回折角が例えば正方向の+1次回折ビーム(LB1)のみが強く発生し、負方向の-1次回折ビームや、他の2次回折ビーム等はほとんど発生しない。その為、ブラッグ回折の条件を満たす場合、入射するビームLBの強度を100%とし、選択用光学素子OS1の透過率による低下を無視したとき、回折されたビームLB1の強度は最大で70~80%程度であり、残りの30~20%程度が0次のビームLB1zの強度となる。
0次のビームLB1zは、集光レンズGaとコリメートレンズGbによるリレー光学系を通り、さらに後段の選択用光学素子OS2を透過して吸収体TRで吸収される。高周波の駆動信号DF1の周波数に応じた回折角で-Z方向に偏向されたビームLB1(平行光束)は、集光レンズGaを透過して、面Ps上に設けられた選択ミラーIM1に向かう。集光レンズGaの前側焦点位置が選択用光学素子OS1内の回折点と光学的に共役であるので、集光レンズGaから選択ミラーIM1に向かうビームLB1は、光軸AXaから偏心した位置を光軸AXaと平行に進み、面Psの位置でビームウェストとなるように集光(収斂)される。そのビームウェストの位置は、描画ユニットU1を介して基板P上に投射されるスポット光SPと光学的に共役になるように設定されている。
選択ミラーIM1の反射面を面Psの位置又はその近傍に配置することによって、選択用光学素子OS1で偏向(回折)されたビームLB1は、選択ミラーIM1で-Z方向に反射され、コリメートレンズGcを介して軸線AX1(先の図4参照)に沿って描画ユニットU1に入射する。コリメートレンズGcは、集光レンズGaによって収斂/発散されたビームLB1を、コリメートレンズGcの光軸(軸線AX1)と同軸の平行光束にする。コリメートレンズGcによって平行光束にされたビームLB1の径は第1の径とほぼ同じになる。集光レンズGaの後側焦点とコリメートレンズGcの前側焦点とは、所定の許容範囲内で、選択ミラーIM1の反射面またはその近傍に配置される。
以上のように、集光レンズGaの前側焦点位置と選択用光学素子OS1内の回折点とを光学的に共役し、集光レンズGaの後側焦点位置である面Psに選択ミラーIM1を配置すると、選択用光学素子OS1で回折されたビームLB1(主回折ビーム)がビームウェストとなる位置で、確実に選択(スイッチング)することができる。他の選択用光学素子OS3~OS6の間、すなわち、選択用光学素子OS5とOS6の間、選択用光学素子OS6とOS3の間、選択用光学素子OS3とOS4の間、及び選択用光学素子OS4とOS1の間においても、同様の集光レンズGaとコリメートレンズGbとで構成される等倍のリレー光学系(倒立結像系)が設けられる。
〔描画ユニットUn内の光電センサ〕
図6は、図4に示した描画ユニットU1内に設けられ、ビームLB1の強度を検出する為の光電センサの配置可能な例を説明する図である。図6Aは、描画ユニットU1内の光路のうち反射ミラーM20から反射ミラーM23までの光路をXZ面内で見た図であり、図6Bは、描画ユニットU1内の光路のうち反射ミラーM20から反射ミラーM21までの光路をXY面内で見た図である。描画ユニットU1内のポリゴンミラーPMまでのビーム光路には、ビームLB1の進行方向を折り曲げる反射ミラーM20、M20a、M21、M22、M23が設けられる。これらの反射ミラーは、ビームLB1が紫外波長域のレーザ光であることから、紫外波長域の光に対する反射率が高く、紫外波長のレーザ光に対する耐性が高い誘電体薄膜による反射面を持つもの(レーザミラーとも呼ばれる)が使われる。
そのため、反射ミラーM20、M20a、M21、M22、M23の各々は、入射したビームLB1の強度の大部分(例えば99%程度)を反射するが、残りの1%程度の強度は反射面で反射されずに裏側に透過していく。そこで、図6A、図6Bに示すように、反射ミラーM20の裏側に配置される光電センサSM1a、反射ミラーM20aの裏側に配置される光電センサSM1b、反射ミラーM21の裏側に配置される光電センサSM1c、反射ミラーM22の裏側に配置される光電センサSM1d、及び反射ミラーM23の裏側に配置される光電センサSM1eのいずれか1つを用いて、ビームLB1の強度に応じた光電信号を得ることができる。
これらの光電センサSM1a~SM1eは、いずれか1つを設ければ良いが、特に、偏光ビームスプリッタBS1の後の反射ミラーM21の裏側に配置される光電センサSM1c、或いは絞りFAPの後の反射ミラーM22の裏側に配置される光電センサSM1dのいずれか一方を利用するのが良い。本実施の形態では、絞りFAPによってビームLB1の断面内強度分布のうちの裾野部分がカットされるので、カット後の強度(光量)を検出するために、光電センサSM1dを用いるものとする。光電センサSM1dから出力される光電信号をSS1とする。他の描画ユニットUn(U2~U6)の各々についても同様に、絞りFAPの後の反射ミラーM22の裏側に配置される光電センサSMnd(nは2~6)の各々からの光電信号SSn(nは2~6)によって、ビームLBn(nは2~6)の各強度(光量)を検出するものとする。
また、図4の説明では、反射ミラーM20aで反射して偏光ビームスプリッタBS1に入射したビームLB1が、ほぼ100%の強度で偏光分離面で反射されて反射ミラーM21に向かうとしたが、実際は入射するビームLB1の直線偏光の乱れや偏光ビームスプリッタBS1の消光比に応じた比率で、偏光分離面で反射されずに透過する漏れ光成分が存在する。そこで、図6Bに示すように、偏光ビームスプリッタBS1を透過してくる漏れ光成分を光電センサSM1fで受光して、ビームLB1の強度(光量)をモニターしても良い。
以上で説明した光電センサSMna~SMnf(nは1~6)は、描画ユニットUn内に組み込み可能な小型の半導体光電素子が望ましく、紫外波長域(300~400nm)のパルス光に対して感度があり、応答性の高いものが好ましい。例えば、PINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、金属-半導体-金属(MSM)フォトダイオード等が利用できる。図3で説明した光源装置LSをファイバーアンプレーザ光源とした場合、波長355nmのパルス光を、例えば400MHz(周期2.5nS)程度で発振可能であるが、1パルス光の発光時間は数十ピコ秒程度しかない。このような極めて短い発光時間の紫外パルス光を、1パルス単位で正確に強度(光量)検出することは難しいが、MSMフォトダイオードの中には、立ち上り応答時間(10%→90%)が数十ピコ秒のものもあるので、そのようなMSMフォトダイオードを使うことにより、パルス毎の強度(光量)を比較的に誤差が少ない状態で計測できる。
〔描画制御系〕
次に、本実施の形態の描画ユニットU1~U6の各々によるパターン描画の制御、及びスポット光SPの強度や露光量を調整する為の制御を行う描画制御系の概略構成を、図7を用いて説明する。図7は、図3に示した光源装置LSからのビームLBを描画ユニットU1~U6の各々に選択的に供給するビーム切換部(選択用光学素子OS1~OS6、反射ミラーM1~M12、選択ミラーIM1~IM6、リレー光学系等を含む)の模式的な配置を示すと共に、光源装置LS、描画制御装置(描画制御部)200、及び光量計測部202の接続関係を示す。図3で説明したように、光源装置LSからのビームLBは、反射ミラーM1、M2で反射されて、選択用光学素子OS5、OS6、OS3、OS4、OS1、OS2を順に通った後、図3に示した吸収体TRに入射するが、図7では、光路中の反射ミラーM1、M7、M8のみを示し、選択用光学素子OS2と吸収体TRとの間に反射ミラーM13を設ける。反射ミラーM13は、選択用光学素子OS2を通って選択ミラーIM2で反射されなかった0次回折ビームを吸収体TRに向けて反射する。ビーム切換部に含まれる反射ミラーM1~M13や選択ミラーIM1~IM6は、描画ユニットUn内の反射ミラーM20~M24と同様のレーザミラーであり、ビームLBの波長355nmにおいて僅かながら透過率(例えば1%以下)を有している。
そこで、図7に示すように、光源装置LSから射出したビームLBの強度(光量)を検出する光電センサDTaを反射ミラーM1の裏面側に設け、全ての選択用光学素子OS1~OS6がオフ状態のときに透過してくるビームLB自体、またはオン状態の選択用光学素子OSnで回折されなかったビームLBの0次回折ビームを検出する光電センサDTbを、反射ミラーM13の裏面側に設ける。光電センサDTa、DTbは、先に説明したようなPINフォトダイオード、アバランシェ・フォトダイオード(APD)、MSMフォトダイオードのいずれかで構成される。光電センサDTaから出力される光電信号Saは、光源装置LSから射出されるビームLBの元の強度(光量)をモニターする為に光量計測部202に送られ、光電センサDTbから出力される光電信号Sbは、6つの選択用光学素子OS1~OS6の透過率の変動や回折効率の変動をモニターする為に光量計測部202に送られる。なお、図7では、選択用光学素子OS4のみが駆動信号DF4に応答してオン状態になったときの様子を示し、選択用光学素子OS4で回折された光源装置LSからのビームLBの1次回折ビームは、ビームLB4となって描画ユニットU4に供給される。
〔光源装置LS〕
先に説明したように、光源装置LSは、図8に示すようなファイバーアンプレーザ光源(光増幅器と波長変換素子によって紫外パルス光を発生するレーザ光源)とする。図8のファイバーアンプレーザ光源(LS)の構成は、例えば国際公開第2015/166910号パンフレットに詳しく開示されているので、ここでは簡単に説明する。図8において、光源装置LSは、ビームLBを周波数Faでパルス発光させる為のクロック信号LTCを生成する信号発生部120aを含む制御回路120と、クロック信号LTCに応答して赤外波長域でパルス発光する2種類の種光S1、S2を生成する種光発生部135とを含む。
種光発生部135は、DFB半導体レーザ素子130、132、レンズGLa、GLb、偏光ビームスプリッタ134等を含み、DFB半導体レーザ素子130は、クロック信号LTC(例えば、400MHz)に応答してピーク強度が大きく峻鋭、若しくは尖鋭のパルス状の種光S1を発生し、DFB半導体レーザ素子132は、クロック信号LTCに応答してピーク強度が小さく緩慢(時間的にブロード)なパルス状の種光S2を発生する。種光S1と種光S2は発光タイミングが同期(一致)していると共に、ともに1パルス当たりのエネルギー(ピーク強度×発光時間)が略同一となるように設定される。
さらにDFB半導体レーザ素子130が発生する種光S1の偏光状態はS偏光に設定され、DFB半導体レーザ素子132が発生する種光S2の偏光状態はP偏光に設定される。偏光ビームスプリッタ134は、DFB半導体レーザ素子130からのS偏光の種光S1を透過させて電気光学素子(ポッケルスセル、カーセル等によるEO素子)136に導くと共に、DFB半導体レーザ素子132からのP偏光の種光S2を反射させて電気光学素子136に導く。
電気光学素子136は、図7の描画制御装置200から送られてくる描画データ(スポット光SPの1走査中に描画される画素数分に対応した描画ビット列データ)SDn(nは描画ユニットU1~U6のいずれかに対応した数)に応じて、2種類の種光S1、S2の偏光状態を駆動回路136aにより高速に切り換える。描画制御装置200は、描画データを記憶する記憶部としても機能する。駆動回路136aに入力される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)状態のとき、電気光学素子136は種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導き、描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)状態のとき、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光方向を90度回転させて偏光ビームスプリッタ138に導く。
従って、電気光学素子136は、描画ビット列データSDnの画素の論理情報がH状態(「1」)のときは、S偏光の種光S1をP偏光の種光S1に変換し、P偏光の種光S2をS偏光の種光S2に変換する。偏光ビームスプリッタ138は、P偏光の光を透過してレンズGLcを介してコンバイナ144に導き、S偏光の光を反射させて吸収体140に導くものである。偏光ビームスプリッタ138を透過する種光(S1とS2のいずれか一方)を種光ビームLseとする。光ファイバー142aを通ってコンバイナ144に導かれる励起光源142からの励起光(ポンプ光、チャージ光)は、偏光ビームスプリッタ138から射出してくる種光ビームLseと合成されて、ファイバー光増幅器146に入射する。
ファイバー光増幅器146にドープされているレーザ媒質を励起光で励起することにより、ファイバー光増幅器146内を通る間に種光ビームLseが増幅される。増幅された種光ビームLseは、ファイバー光増幅器146の射出端146aから所定の発散角を伴って放射され、レンズGLdを通って第1の波長変換光学素子148に集光するように入射する。第1の波長変換光学素子148は、第2高調波発生(Second Harmonic Generation:SHG)によって、入射した種光ビームLse(波長λ)に対して、波長がλの1/2の第2高調波を生成する。種光ビームLseの第2高調波(波長λ/2)と元の種光ビームLse(波長λ)とは、レンズGLeを介して第2の波長変換光学素子150に集光するように入射する。第2の波長変換光学素子150は、第2高調波(波長λ/2)と種光ビームLse(波長λ)との和周波発生(Sum Frequency Generation:SFG)により、波長がλの1/3の第3高調波を発生する。この第3高調波が、370mm以下の波長帯域(例えば、355nm)にピーク波長を有する紫外パルス光(ビームLB)となる。第2の波長変換光学素子150から発生するビームLB(発散光束)は、レンズGLeによって、ビーム径が1mm程度の平行光束に変換されて光源装置LSから射出する。
駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がL(「0」)の場合(当該画素を露光しない非描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えずにそのまま偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S2由来のものとなる。ファイバー光増幅器146は、そのようなピーク強度が低く、時間的にブロードな鈍った特性の種光S2に対する増幅効率が低いため、光源装置LSから射出されるP偏光のビームLBは、露光に必要なエネルギーまで増幅されないパルス光となる。このような種光S2由来で生成されるビームLBのエネルギーは極めて低く、基板Pに照射されるスポット光SPの強度は極めて低レベルとなる。このように、光源装置LSからは非描画状態のときも、微弱ではあるが紫外パルス光のビームLBが射出し続けるので、そのような非描画状態のときに射出されるビームLBを、オフ・ビーム(オフ・パルス光)とも呼ぶ。
一方、駆動回路136aに印加される描画ビット列データSDnの1画素分の論理情報がH(「1」)の場合(当該画素を露光する描画状態のとき)、電気光学素子136は入射した種光S1、S2の偏光状態を変えて偏光ビームスプリッタ138に導く。そのため、コンバイナ144に入射する種光ビームLseは種光S1由来のものとなる。種光S1由来の種光ビームLseの発光プロファイルは、ピーク強度が大きく尖鋭なので、種光ビームLseはファイバー光増幅器146によって効率的に増幅され、光源装置LSから出力されるP偏光のビームLBは基板Pの露光に必要なエネルギーを持つ。描画状態のときに光源装置LSから出力されるビームLBは、非描画状態のときに射出されるオフ・ビーム(オフ・パルス光)と区別するために、オン・ビーム(オン・パルス光)とも呼ぶ。このように、光源装置LSとしてのファイバーアンプレーザ光源内に、2種類の種光S1、S2のいずれか一方を描画用光変調器としての電気光学素子136で選択してから光増幅することにより、ファイバーアンプレーザ光源を、描画データ(SDn)に応答して高速にバースト発光する紫外パルス光源とすることができる。
ところで、図8の信号発生部120aからのクロック信号LTCは、図7に示すように、描画制御装置200と光量計測部202にも供給される。描画制御装置200は、描画ユニットU1~U6の各々からの原点信号SZ1~SZ6を入力して、描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMの回転速度を一致させると共に、その回転角度位置(回転の位相)を互いに所定の関係とするようにポリゴンミラーPMの回転を同期制御する。光源装置LSと描画制御装置200とは、光源装置LS内の制御回路120に接続されるインターフェイスバス(シリアルバスでも良い)SJを介して、各種の制御情報(コマンドやパラメータ)をやり取りする。描画制御装置200は、原点信号SZ1~SZ6に基づいて、描画ユニットU1~U6の各々のスポット光SPによる描画ラインSL1~SL6で描画すべき描画ビット列データSDnを記憶するメモリを含む。さらに描画制御装置200には、メモリに記憶された描画ビット列データSDnの1画素分のデータ(1ビット)をビームLBの何パルス分で描画するかが予め設定されている。例えば、1画素をビームLBの2パルス(主走査方向と副走査方向との各々に2つのスポット光SP)で描画すると設定されている場合、描画ビット列データSDnのデータは、クロック信号LTCの2クロックパルス毎に1画素分(1ビット)ずつ読み出されて、図8の駆動回路136aに印加される。
〔描画制御装置200内のドライブモジュール〕
また、描画制御装置200内には、選択用光学素子(AOM)OS1~OS6の各々に駆動信号DF1~DF6を供給するドライブモジュール(回路)が設けられている。図9は、そのドライブモジュールの構成の一例を説明するブロック図である。図9において、ドライブモジュールには、描画ユニットU1~U6の各々からの原点信号SZ1~SZ6に応答して、選択用光学素子OS1~OS6のうちのいずれか1つをオン状態にする為のスイッチ信号LP1~LP6を生成すると共に、駆動信号DF1~DF6の各々の強度(高周波信号の振幅)を所定の調整可能範囲のどこに設定するかを制御する強度調整制御部250が設けられる。選択用光学素子OS1~OS6の各々に駆動信号DF1~DF6を印加する6つの高周波アンプ回路251a~251fの各々には、信号源RFから一定の基準周波数(例えば、数十MHz~100MHz)の高周波信号が共通に印加され、高周波アンプ回路251a~251fは、それぞれスイッチ信号LP1~LP6に応答して、駆動信号DF1~DF6を選択用光学素子OS1~OS6に印加する状態と印加しない状態とに切り換える。
さらに、高周波アンプ回路251a~251fの各々は、ゲイン設定回路252a~252fで生成された設定信号Pw1~Pw6を入力して、駆動信号DF1~DF6の各々の強度(振幅、ゲイン)を調整する。設定すべき駆動信号DF1~DF6の各々の強度は、強度調整制御部250内のCPU、或いは描画制御装置200内のCPUによって演算されるが、その演算の元となる情報は、図6で説明した光電センサSMnd(nは1~6)からの光電信号SSn(nは1~6)、図7に示した光電センサDTa、DTbからの光電信号Sa、Sbである。選択用光学素子OS1~OS6の各々がAOMである場合、駆動信号DF1~DF6によってAOMに供給される高周波電力(RF電力)と、回折効率β(入射したビームLBの強度に対する1次回折ビームLBnの強度の比率)は、一例として図10のような特性を持っている。図10において、横軸はAOMに投入されるRF電力(駆動信号DFnの振幅)を表し、縦軸はブラッグ回折で使われるAOMの1次回折ビームの回折効率β(%)を表している。図10のように、AOMによっては、回折効率βはRF電力の増加にともなって最大の回折効率βmaxに達し、それ以上にRF電力を増加させても回折効率βが減少する特性を持つ。従って、選択用光学素子OS1~OS6の各々の回折効率の調整(駆動信号DFnの振幅設定)は、最大の回折効率βmaxを考慮して行われる。図9に示した強度調整制御部250は、図10のような特性に基づいて、駆動信号DFnの振幅変化と、選択用光学素子OSnの回折効率βの変化(及びその回折効率βの変化から推定される1次回折ビームとしてのビームLBnの強度変化)との相関関係を予め求めて、テーブル又は関数式で記憶している。
〔光量計測部202〕
次に、図7に示した光量計測部202の構成を図11の回路ブロック図に基づいて説明する。光量計測部202は、描画ユニットUnの各々に設けられている光電センサSMnd(図6参照)からの光電信号SSn(SS1~SS6)、及び光電センサDTa、DTbからの光電信号Sa、Sbの各々を入力して、描画ユニットUnの各々に供給される描画用のビームLBn(LB1~LB6)の各々の光量(又は強度)を計測して、その計測結果をデジタル値で出力する8つの計測回路部CCBn(CCB1~CCB8)、計測回路部CCBnの各々の計測動作、計測結果の収集、描画制御装置200とのデータ通信等を統括的に制御するMPU(マイクロプロセッサ)300、計測結果を高速に保存するダイナミックメモリ(DRAM)302、計測回路部CCBnの各々からの計測結果を選択的にDRAM302に記憶する為のマルチプレクサ回路部304とで構成される。さらに、計測回路部CCBn(CCB1~CCB8)の各々は、光電信号SSn(SS1~SS6)、Sa、Sbを増幅するアンプ回路306と、パルス状に発生する光電信号SSn、Sa、Sbのピーク値を所定時間(クロック信号LTCの周波数Faの周期程度)だけホールドして積算するサンプルホールド(S/H)型の積分回路307と、積分回路307で積算された積分出力値をデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換回路(ADC)308とで構成される。マイクロプロセッサMPU300は、クロック信号LTCに基づいて、計測回路部CCBn(CCB1~CCB8)の各々の積分回路307とADC308に対して、それぞれの動作タイミングを指令する制御信号CS1を送出すると共に、マルチプレクサ回路部304に対して選択動作のタイミングを指令する制御信号CS2を送出する。
〔回転ドラムDRの制御系とアライメント系〕
図12は、図3に示した回転ドラムDRの回転角度位置を計測するエンコーダ計測系と、基板Pに形成されたアライメント用のマークパターンの位置を検出するマーク検出系との概略的な構成を示す。図12において、回転ドラムDRには中心軸AXoと同軸にY方向に延びたシャフトSftが設けられ、このシャフトSftは、図2で示したモータ30の回転軸と同軸に結合されている。回転ドラムDRのY方向の端部側にはシャフトSft(中心軸AXo)と同軸に、円盤状または円環状のスケール部材ESDが固定され、回転ドラムDRと共にXZ面内で回転する。スケール部材ESDの中心軸AXoと平行な外周面には、その周方向に沿って一定ピッチ(例えば20μm程度)で格子状の目盛が刻設されている。図12では、スケール部材ESDの直径を回転ドラムDRの外周面の直径よりも小さく示したが、スケール部材ESDの中心軸AXoからの半径は、回転ドラムDRの外周面の半径に対して±5%程度の範囲内で揃えておくのが良い。なお、図12において、中心軸AXoを含むYZ面と平行な面を中心面pccとする。
図12のように、回転ドラムDRをXZ面内で見た場合(Y方向から見た場合)、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々から投射されるビームLB1、LB3、LB5は、中心面pccに対して角度-θuだけ傾くように設定され、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々から投射されるビームLB2、LB4、LB6は、中心面pccに対して角度+θuだけ傾くように設定される。角度θuは10°~20°程度に設定される。回転ドラムDRに巻き付けられて搬送される基板Pの進行方向に関して奇数番のビームLB1(LB3、LB5)の上流側には、基板Pに形成された十字状のアライメントマーク(或いは回転ドラムDRの外周面に形成された基準マーク)の位置を検出する為のアライメント系AMSが設けられる。
アライメント系AMSの対物レンズOBLは基板P上で200~500μm角程度の検出視野(検出領域)を有し、アライメント系AMSは検出領域内に現れるマークの像を高速シャッタースピードで撮像するCCD又はCMOSによる撮像素子を備える。撮像素子で撮像(キャプチャー)されたマークの像を含む画像信号は、アライメント計測系500によって画像解析され、撮像されたマーク像の中心位置と検出領域内の基準位置(中心点)との相対的な2次元(主走査方向と副走査方向)の位置ずれ量に関する情報が生成される。なお、対物レンズOBLの光軸の延長線は、所定の誤差範囲内で回転ドラムDRの中心軸AXoと交差するように配置される。
さらに、スケール部材ESDの周囲には、その外周面と対向するように、目盛の移動を読み取るための3つのエンコーダヘッド(読取ヘッド、検出ヘッド)EH1、EH2、EH3が設けられる。XZ面内において、エンコーダヘッドEH1は中心軸AXoから見たとき対物レンズOBLの検出領域と同じ方位となるように設定され、エンコーダヘッドEH2は中心軸AXoから見たとき奇数番のビームLB1(LB3、LB5)の投射位置(描画ラインSL1、SL3、SL5)と同じ方位となるように設定され、エンコーダヘッドEH3は中心軸AXoから見たとき偶数番のビームLB2(LB4、LB6)の投射位置(描画ラインSL2、SL4、SL6)と同じ方位となるように設定される。
エンコーダヘッドEH1、EH2、EH3の各々は、スケール部材ESDの目盛の周方向の移動に応じて周期的にレベル変化すると共に90度の位相差を有する2相信号をカウンタ回路部502に出力する。カウンタ回路部502は、エンコーダヘッドEH1からの2相信号に基づいて、目盛の移動量(位置変化)をサブミクロン(例えば0.2μm)の分解能でデジタル計数した計測値CV1をアライメント計測系500に出力する。アライメント計測系500は、アライメント系AMSの撮像素子が検出領域内でマークの像を画像キャプチャーした瞬間の計測値CV1をラッチして記憶すると共に、画像解析によって求められるマーク像の相対的な位置ずれ量とラッチした計測値CV1とに基づいて、基板P上のマークの位置を回転ドラムDRの回転角度位置(計測値CV1の値)としてサブミクロンの精度で対応付けて算出した位置情報Damを図7に示した描画制御装置200に出力する。
同様に、カウンタ回路部502は、エンコーダヘッドEH2とEH3の各々からの2相信号に基づいて、目盛の移動量(位置変化)をサブミクロン(例えば0.2μm)の分解能でデジタル計数した計測値CV2、CV3を描画制御装置200に出力する。描画制御装置200は、計測値CV2に基づいて、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5による副走査方向の描画位置(タイミング)を制御し、計測値CV3に基づいて、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6による副走査方向の描画位置(タイミング)を制御する。さらに、カウンタ回路部502で計数される計測値CV1~CV3のうちの少なくとも1つ、又は少なくとも2つの平均値に基づいて、モータ30の回転速度を精密にサーボ制御する駆動回路部504が設けられる。
なお、カウンタ回路部502内には、エンコーダ計測システムにおける固有の誤差(スケール部材ESDの偏心誤差、真円度誤差、目盛のピッチ誤差等)をスケール部材ESDの一周に渡って事前に計測して補正する為の補正マップが記憶されており、計測値CV1、CV2、CV3は、その補正マップでリアルタイムに補正された状態で、アライメント計測系500や描画制御装置200に出力される。
〔描画動作例〕
以上の図2~図12の構成によって、各描画ユニットUn(U1~U6)は、図7の描画制御装置200に記憶されている描画データ(SDn)に基づいて、電子デバイス用のパターンを描画する。その際の描画ユニットUnの描画動作の一例を、図13のタイムチャートを用いて簡単に説明する。図13において、描画ユニットUn内の原点センサ(図4のビーム受光系60b)からの原点信号SZnは、例えばポリゴンミラーPMの8つの反射面RPのうちの1つの反射面RPaと次の反射面RPbの各々に対応して、原点パルスSZna、SZnbを発生する。原点パルスSZna、SZnbは、ポリゴンミラーPMの回転速度に対応してポリゴンミラーPMが45°回転する時間間隔TPabで発生する。原点信号SZnには、ポリゴンミラーPMが1回転する間、図13に示す原点パルスSZna、SZnbに続けて時間間隔TPabで発生する6つの原点パルスSZnc~SZnhが含まれる。
先に説明したように、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RPによる走査効率1/αを1/3とした場合、図9に示した強度調整制御部250から出力されるスイッチ信号LPn(LP1~LP6)は、図13に示すように、原点信号SZnの1つの原点パルスSZnaの発生時から所定の遅延時間ΔTaが経過してから、選択用光学素子OSnをオン状態にすべく「L」から「H」に切り替わり、原点パルスSZnaの発生から時間TPab/3の経過直前に「H」から「L」に切り替わる。
他の原点パルスSZnb~SZnhの各々に関しても同様に、遅延時間ΔTb~ΔThの経過後に、スイッチ信号LPn(LP1~LP6)は「L」から「H」に切り替わり、原点パルスSZnb~SZnhの各々の発生から時間TPab/3の経過直前に「H」から「L」に切り替わる。但し、図3に示したように1つの光源装置LSからのビームLBを6つの描画ユニットU1~U6のいずれか1つに供給するようにスイッチングする場合、1つの描画ユニットUnは、ポリゴンミラーPMの8つの反射面RPの1面置きにビームLBnを走査するように制御される。その為、連続して発生する8つの原点パルスSZna~SZnhのうち、例えば4つの原点パルスSZna、SZnc、SZne、SZngの各々に応答して、スイッチ信号LPn(LP1~LP6)は「L」から「H」に切り替わり、時間TPab/3の経過直前に「H」から「L」に切り替わる。
図13に示すように、スイッチ信号LPnが「H」になる時間TPab/3の間、描画ビット列データSDnに応答して強度変調されたスポット光SP(ビームLBn)が描画ラインSLnに沿って1回走査される。描画ビット列データSDnは、1画素を1ビットで表すビットシリアル信号として描画制御装置200から図8の光源装置LS内の駆動回路136aに印加される。図13において、一例として示す描画ビット列データSDnの波形部分Wfsのように、描画ビット列データSDnと光源装置LSからのクロック信号LTCとは、描画制御装置200によって1画素分がクロック信号LTCの2クロックパルスに対応するように制御される。
ここで、描画ビット列データSDn中の1ビットが「0」の画素をOff画素、ハッチングした「1」の画素をOn画素とすると、光源装置LSは、Off画素に対してはビームLBの2パルス分(クロック信号LTCの2つのクロックパルス分)を極めて低い強度で出力し、On画素に対してはビームLBの2パルス分を高い強度で出力する。従って、描画ラインSLnに沿ったスポット光SPの1走査中に基板Pに投射されるスポット光SP(ビームLBn)のパルス数は、描画ラインSLnに沿った総画素数のうちのOn画素の数の2倍として描画データ(SDn)から予め求めておくことができる。
図14は、基板P上に描画するパターンを主走査方向と副走査方向との2次元の画素の配列に分割し、1画素の主走査方向の寸法Pyと副走査方向の寸法Pxとを2μm角としたときに、一例として主走査方向に8μmの線幅のライン&スペースパターンに対応した描画ビット列データSDnとスポット光SP(ビームLBn)のパルスとの関係を示すタイムチャートである。図14では、副走査方向に並ぶ2画素分のパターン部分を、副走査方向に並ぶ4本の描画ラインSLn1~SLn4で描画する様子を示す。1画素を2μm角としたので、スポット光SPの実効的な直径は2μm程度、基板Pの副走査方向への移動に伴う描画ラインSLn1~SLn4の間隔(ピッチ)は1μmになる。図8の光源装置LSは、図7の描画制御装置200からの描画ビット列データSDn中の画素のビットデータ(「1」又は「0」)とクロック信号LTCとの論理積(AND)に応じて、スポット光SPをオン・パルス光又はオフ・パルス光として基板Pに投射する。従って、図14のように、8μm線幅(4つのOn画素)のパターンはスポット光SPの連続した8つのオン・パルス光で描画される。
〔光量計測動作例〕
図15は、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に設けられた光電センサSMnd(SM1d~SM6d)からの光電信号SSn(SS1~SS6)、又は図7に示した光電センサDTa、DTbからの光電信号Sa、Sbの信号波形WFpを模式的に示した波形図である。図15において、横軸は時間(pS)を表し、縦軸は光電信号SSn、Sa、Sbの規格化された強度を表し、波形WFpは光電センサSMnd、DTa、DTbをMSMフォトダイオードとした場合に光源装置LSからのビームLB(又はLBn)の1パルス光に応答して得られるものとする。MSMフォトダイオードは応答性(立上り時間)として数十pS程度と高いが、ビームLB(LBn)の1パルス光の発光時間に比べると長いため、実際の1パルス光の強度変化に対応した波形WFp’に対して、光電信号SSn、Sa、Sbの波形WFpは鈍った波形となる。
従って、ビームLB(LBn)の1パルス光のピーク強度Vdpは、実際のピーク強度Vdp’に対して大きく減衰したものとなる。しかしながら、実際のピーク強度Vdp’と光電信号SSn、Sa、Sbのピーク強度Vdpとの間には一定の比例関係がある為、図11に示した光量計測部202内のマイクロプロセッサMPU300によって、ピーク強度Vdpの変化を継続的に計測することで、ビームLB(LBn)のパルス光の強度変動をモニターすることができる。なお、光電信号SSn、Sa、Sbの波形WFpは、実際の1パルス光の波形WFp’との相似性を保っていないが、波形WFp’の光量に対応した面積値と、光電信号SSn、Sa、Sbの波形WFpの面積値との間にも、一定の比例関係がある。
以上のことから、本実施の形態では、図11に詳細に示した図7中の光量計測部202によって、On画素として基板P上に投射されるビームLBnのパルス光の強度に対応した光電信号SSn、Sa、Sbの波形WFpのピーク強度Vdpを積算(加算)し、その積算値が描画データ上のOn画素の数から推定される値(設計値)に対して所定の誤差範囲内か否かを判定することにより、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に供給されるビームLBn(LB1~LB6)の強度変動、又は光源装置LSからのビームLBの強度変動を計測する。なお、MSMフォトダイオードとして、例えば浜松ホトニクス株式会社製のG4176シリーズでは、紫外波長域(400nm以下)での感度が赤外波長域(800nm前後)での感度に対して1/10程度に減衰したような分光感度特性を持つ。しかしながら、図6に示した各反射ミラーM20~M23に投射されるビームLBnや、図7に示した反射ミラーM1、M13に投射されるビームLBは、元々のビーム強度(パワー)が数ワット以上と高く設定されるため、各反射ミラーの透過率が1%程度だとしても、光電センサの受光面では数十mW~数mW程度のビーム強度が得られる。
図16は、描画ラインSLnに沿ったスポット光SPの1回の走査期間(図13中の時間TPab/3)に、描画ユニットUn(U1~U6)の各々に供給されるビームLBn(LB1~LB6)の強度変動を計測する際に使用される特性グラフである。図16において、横軸は、描画ラインSLnに沿った実効的な走査長LTが50mmのときに設定される2μm角の画素の総数25000に対するOn画素の数を表し、縦軸は、On画素の数に対応したビームLBnのパルス光の受光で得られる光電信号SSnのピーク強度Vdpを積算したときの積算値(積分値)FXnを表す。図16の直線CRFは、予め露光量(強度)設定の為のキャリブレーション等によって設定されるOn画素数と設計上の積算値FXn(目標積分値、又は目標積分光量)との比例関係の係数(傾き)ΔEfを表す。総数25000の画素の全てがOn画素の場合に得られる設計上の積算値FXを最大値Fmaxとする。直線CRFの係数(傾き)ΔEfは、基板P上の感光性機能層の感度に応じて設定される露光量に基づいて最大値Fmaxを調整することで設定される。直線CRa、CRbは、設計上の係数(傾き)ΔEfで設定される直線CRFに対して所定の比率(%)で傾いた許容ラインであって、積算値FXnの設計値(目標積分値、又は目標積分光量)に対して設定される誤差範囲±ΔKe(%)を表す。なお、図16の特性グラフにおける総画素数の値(25000)、設計上の最大値Fmax、係数(傾き)ΔEf、誤差範囲±ΔKeは、図11のプロセッサMPU300内に記憶されている。
図11のプロセッサMPU300は、描画制御装置200内で生成される原点信号SZnとスイッチ信号LPn(図13)の入力に基づいて、6つの描画ユニットU1~U6のうちで描画動作を開始する1つの描画ユニットUnに対応した図11中の計測回路部CCBnに対して制御信号CSnを出力する。ここで、一例として、描画ユニットU1が描画開始するタイミング(原点信号SZ1の1つの原点パルスが発生したタイミング)に至ったものとすると、プロセッサMPU300は計測回路部CCB1内の積分回路307にホールドされていた積分値を、原点信号SZ1の原点パルスに応答して零リセットしてから、スイッチ信号LP1が図13のように「H」レベルの間だけ、積分回路307が光電信号SS1のピーク強度Vdp(図15)を積分するような制御信号CS1を送出する。それに応答して、積分回路307は、図13に示したOn画素の際に光源装置LSから発生してビームLB1となって描画ユニットU1に入射するオン・パルス光の強度(光量)値を逐次加算した値に対応した積分値をADC308に出力する。
プロセッサMPU300は、スイッチ信号LP1が図13のように「L」レベルになった瞬間に、ADC308が積分回路307から出力されている積分値をデジタル値に変換してマルチプレクサ回路部304に出力するような制御信号CS1を送出する。さらにプロセッサMPU300は、マルチプレクサ回路部304を介して計測回路部CCB1のADC308からの積分値のデジタル値をDRAM302に記憶させる。以上の動作は、他の描画ユニットU2~U6の各々に対応した計測回路部CCB2~CCB6においても同様に実行される。ここで、光電信号SS1~SS6に基づいて計測回路部CCB1~CCB6の各々で計測された積分値(実積分値、実積分光量)をFX1~FX6とする。
プロセッサMPU300は、計測された実積分値FX1~FX6の各々が、図16に示した特性グラフに基づいて、ビームLB1~LB6の各々が適正強度(適正光量)範囲であるか否かを計算する。例えば、描画ラインSL1に沿ったスポット光SPの1回の走査で描画されるOn画素の数がPK1のとき、係数(傾き)ΔEfと誤差範囲±ΔKe(%)とに基づいて、プロセッサMPU300は、PK1・ΔEfを設計積分値FXD1として、以下の比較演算により実積分値FX1の適否を判定する。
FXD1・(1-ΔKe/100)≦FX1≦FXD1・(1+ΔKe/100)
同様に、描画ラインSL2に沿ったスポット光SPの1回の走査で描画されるOn画素の数がPK2のとき、係数(傾き)ΔEfと誤差範囲±ΔKeとに基づいて、プロセッサMPU300は、PK2・ΔEfを設計積分値FXD2として、以下の比較演算により実積分値FX2の適否を判定する。
FXD2・(1-ΔKe/100)≦FX2≦FXD2・(1+ΔKe/100)
すなわち、プロセッサMPU300は、nを描画ユニットUnに対応して1~6としたとき、実積分値FXnが設計積分値FXDnに対して誤差範囲±ΔKe(%)に入っているとき、実積分値FXnが適正範囲、すなわち、ビームLBnのオン・パルス光の光量(ピーク強度)が適正な範囲であると判定する。
以上のように、描画ユニットUnの各々によるスポット光SPの1走査中に投射されるオン・パルス光の光量に対応した実積分値FXnが、1走査で描画される総画素数25000に占めるOn画素数の比率である描画密度(図16)に比例して得られる。描画密度(%)は描画ビット列データSDnに基づいて予め求めておくことができる。従って、実積分値FXn/描画密度(%)の値を描画ユニットUn毎にプロセッサMPU300で算出し、その値が描画ユニットUn間で許容範囲内に揃っているか否かを判定することにより、描画ラインSLnの各々で描画されるパターンの露光量の差異(ムラ)をほぼリアルタイムに計測することができる。
また、本実施の形態では、描画ラインSLnに沿ったスポット光SPの1回の走査ごとに、実積分値FXnを計測することが可能である。しかしながら、その場合、プロセッサMPU300として処理能力が高く高速のものが必要となる。そこで処理能力に余裕を持たせるように、スポット光SPの複数回の走査のうちの1回の走査ごとに実積分値FXnを計測しても良い。具体的には、描画ユニットUnのポリゴンミラーPMの8つの反射面RPのうちの1つの反射面RPによってビームLBnが走査される走査期間(図13の時間TPab/3の間)、ポリゴンミラーPMが複数回転するごとの1回転中の描画期間(時間TPab/3)、または原点信号SZnの原点パルスが複数回発生するごとの描画期間(時間TPab/3)のいずれか1つの期間中に、実積分値FXnを計測しても良い。
さらに、図14に示したように、スポット光SPの連続した4回の走査による描画ラインSLn1~SLn4の各々で投射されるビームLBnのオン・パルス光による光量の実積分値FXnをまとめて計測するようにしても良い。具体的には、図13に示したスイッチ信号LPnが連続して4回だけ「H」レベルとなる期間中に積分回路307による光電信号SSnのピーク強度の積分を継続し、4本の描画ラインSLn1~SLn4による描画期間中に得られる実積分値FXnを計測する。この場合、4本の描画ラインSLn1~SLn4の各々におけるオン画素の数の合計値と総画素数4×25000との比率である描画密度(%)と、計測された4回の走査分の実積分値FXnとに基づいて、実積分値FXn/描画密度(%)の値が予め設定される基準値に対して所定の誤差範囲内か否かが判定される。
以上のようにして計測された実積分値FXnに基づいて推定される描画中のビームLBnによる露光量(強度)が目標値から変動している場合、プロセッサMPU300はその変動量(誤差量)に関する情報を図7の描画制御装置200に送出する。描画制御装置200は、変動量(誤差量)に関する情報に基づいて、図9に示した強度調整制御部250を介して、高周波アンプ回路251a~251fに印加されるゲイン設定回路252a~252fからの設定信号Pw1~Pw6を調整する。設定信号Pw1~Pw6の調整は、図10に示した選択用光学素子OSn(OS1~OS6)の各々に供給される駆動信号DFn(DF1~DF6)の高周波電力(RF電力)と選択用光学素子OSnの回折効率βとの特性に基づいて行われる。
本実施の形態では、6つの描画ユニットU1~U6による描画ラインSL1~SL6の各々で描画されるパターンが主走査方向(Y方向)に継がれるため、露光されるパターンの露光量に差があると、Y方向に延びた線状パターンの線幅が継ぎ部のY方向の両側で変化してしまうことがある。そのため、特に描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の相互の強度を、所定の許容範囲(例えば±2~5%)内に揃えておくことが重要となる。さらに、基板Pに投射されるビームLB1~LB6の強度の絶対値も、基板P上の感光性機能層の感度に対応した値に維持されることも重要である。プロセッサMPU300は計測された実積分値FXn(FX1~FX6)に基づいて、ビームLB1~LB6の相互の強度差と強度の絶対値とを推定し、描画制御装置200は相互の強度差と強度の絶対値とが許容範囲から外れてきた場合はゲイン設定回路252a~252fからの設定信号Pw1~Pw6を調整する。
〔変形例1〕
図12に示したように、奇数番のビームLB1、LB3、LB5が投射される基板Pの副走査方向の位置はエンコーダヘッドEH2によって計測され、偶数番のビームLB2、LB4、LB6が投射される基板Pの副走査方向の位置はエンコーダヘッドEH3によって計測される。そこで、基板Pが副走査方向に一定距離、例えば5mmだけ送られるごとに、図11に示した光量計測部202によって、スポット光SPの1回又は複数回の走査の間に実積分値FXnを計測し、その実積分値FXnに基づいて描画ユニットUnの各々から基板Pに投射されるビームLBnの強度変動を推定しても良い。図17は、基板P上に長手方向(X’方向)に沿って形成される矩形状のパターン領域WQ1、WQ2、WQ3とアライメント用のマークMK1、MK2、MK3、MK4との配置の一例を示すと共に、6つの描画ラインSL1~SL6とY方向に並べた4つのアライメント系AMSn(AMS1~AMS4)の各々の対物レンズOBLによる検出領域(検出視野)Vw1、Vw2、Vw3、Vw4との配置を示す。
図17において、十字状のマークMK1は、検出領域Vw1内で捕捉されるように、基板Pの-Y方向の端部付近にX’方向に沿って一定間隔で設けられ、十字状のマークMK4は、検出領域Vw4内で捕捉されるように、基板Pの+Y方向の端部付近にX’方向に沿って一定間隔で設けられる。十字状のマークMK2、MK3は、それぞれ検出領域Vw2、Vw3内で捕捉されるように、X’方向のパターン領域WQ1とWQ2の間、及びパターン領域WQ2とWQ3の間の余白領域Aspに設けられる。余白領域Aspには、基本的に描画ユニットU1~U6の各々に対応した描画ラインSL1~SL6によるパターン露光は行われない。図17は、描画ラインSL1~SL6の各々によってパターン領域WQ1に対するパターン露光が行われている途中で、パターン領域WQ1の-X’方向側(上流側)に付随して形成された4ヶ所のマークMK1~MK4の各々が、4つの検出領域Vw1~Vw4で検出されている状態を示す。パターン領域WQ1は、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5による描画から開始され、その位置から基板Pが+X’方向に距離XSLだけ移動した後に、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6による描画が開始される。
そこで、本変形例では、パターン領域WQ1内でY方向に直線的に延びた領域Aewを露光する際の露光量を計測する。領域AewのX’方向の位置は、エンコーダヘッドEH1による計測値CV1(図12)と、少なくとも2つのアライメント系AMS1、AMS4の各々によって検出されるマークMK1、MK4の位置情報とに基づいて特定される。なお、図17では、パターン領域WQ1内に設定される領域Aewは、X’方向に関して1ヶ所だけにしたが、X’方向に所定間隔で離間した複数の位置の各々に設定しても良い。また、領域Aewは、描画ラインSLnの各々に沿ってスポット光SPが1回走査するだけの領域、スポット光SPが連続して複数回走査する範囲の領域、或いは、スポット光SPが連続して複数回(例えばポリゴンミラーPMの反射面RP数と同じ8回)走査される毎に1回の走査が行われるX’方向に離散した複数の位置の各々を含む領域として設定される。
図17において、基板PがX’方向(副走査方向)に移動して、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5がパターン領域WQ1の+X’方向側の端部に位置すると、描画制御装置200は、描画ユニットU1、U3、U5の各々によるパターン描画の動作を開始し、エンコーダヘッドEH2による計測値CV2に基づいて、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5が基板P上の領域Aewに達すると、先の図11に示した光量計測部202内のプロセッサMPU300に、描画ユニットU1、U3、U5の各々から基板Pに投射されるビームLB1、LB3、LB5のそれぞれによる露光量(又は強度)の計測を指示する。それに応答して、光量計測部202内のプロセッサMPU300は、領域Aew内において、図13~図16で説明したような実積分値FX1、FX3、FX5を計測し、実積分値FX1、FX3、FX5の各々に基づいて露光量(又は強度)を推定演算する。
同様に、描画制御装置200は、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6の各々によるパターン描画の動作中に、エンコーダヘッドEH3による計測値CV3に基づいて、偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6が基板P上の領域Aewに達すると、プロセッサMPU300に、描画ユニットU2、U4、U6の各々から基板Pに投射されるビームLB2、LB4、LB6のそれぞれによる露光量(又は強度)の計測を指示する。それに応答して、光量計測部202内のプロセッサMPU300は、領域Aew内での実積分値FX2、FX4、FX6を計測し、実積分値FX2、FX4、FX6の各々に応じた露光量(又は強度)を推定演算する。
以上の計測動作により、領域Aew内に描画ユニットU1~U6の各々で描画されたパターンの露光量(又はビーム強度)の相対誤差が求められる。露光量(又は強度)の相対誤差が許容範囲(例えば±3%)から外れそうな場合、描画制御装置200(図9の強度調整制御部250)は、露光量(又は強度)がオーバー気味又はアンダー気味になっている描画ユニットUnに対応した選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの振幅を変化させて、対応したビームLBnの強度を調整する。
以上の変形例1によれば、パターン領域WQ1内の領域Aewにパターンが描画されたときの露光量(又は強度)を求めるので、Y方向(主走査方向)に関する露光量の一様性や均一性をモニターし、一様性や均一性が劣化する傾向を示した場合には、直ちに露光量を調整することができる。その為、パターン領域WQ1(WQ2、WQ3も同様)内に露光される電子デバイス用の全体パターンにおいて、配線パターン等の線幅が部分的に変動することが抑制され、高品質なパターン形成が可能となる。また、1つのパターン領域WQn内に、X’方向に所定間隔で離散した複数の領域Aewを設定し、複数の領域Aewの各々で計測される実積分値FXnから推定される露光量(又はビーム強度)を逐次比較することにより、光源装置LSからのビームLB(オン・パルス光)の強度に緩やかな変動(ドリフト)が発生した場合でも、パターン領域WQn内のX’方向の露光量のムラを許容範囲内に抑制することができる。
なお、以上の説明では、パターン領域WQn内で領域Aewを指定し、その領域Aewで走査される描画ラインSLnに沿って描画される描画ビット列データSDnの描画密度に対応した実積分値FXnを計測するとしたが、描画ラインSLnに沿った全画素(25000)がOn画素となるパターン領域WQn内の位置(X’方向の位置)を、予め描画データ(SDn)中から求めておき、その位置での描画中に実積分値FXnを計測しても良い。また、描画ラインSLnに沿った全画素数のうちの任意の数、例えば半数以上がOn画素となるようなパターン領域WQn内の位置(X’方向の位置)を、予め描画データ(SDn)中から選んでおき、その位置での描画中に実積分値FXnを計測しても良い。
〔変形例2〕
先の図13や図16で説明したように、第1の実施の形態では、描画ラインSLnに沿ったスポット光SP(ビームLBn)の1回の走査中に、描画ビット列データSDnに基づいて、On画素となるタイミングで基板Pに投射されるビームLBnのオン・パルス光の実積分値FXnを計測している。その為、スポット光SPの1回の走査に対応した描画ビット列データSDn中のOn画素の数が極めて少ない場合、すなわち図16で説明した描画密度が極めて小さい場合、ノイズ等の影響による実積分値FXn自体のばらつきが増大して計測精度が低下し、図16中の直線CRFの特性から大きくずれた計測結果となることがある。このことは、図16に示した直線CRFの係数(傾き)ΔEfにおいて、描画密度の低い領域では信頼性が低下し得ることを意味する。
そこで、本変形例では、図18に示すように、描画密度が低い領域、例えば描画密度が20%以下の領域では、予備的なテスト露光やキャリブレーション等で得られる実積分値FXnと描画密度との関係に基づいて、直線CRFの傾向を、例えば非線形な特性(補正特性)CRgに補正する。図18において、横軸は描画密度(%)を表し、縦軸は積分値FXnを表し、非線形な特性CRgは誇張して示してある。特性CRgは、描画密度が20%以下の領域では、理論上の直線CRFに対して下方に偏移するように補正されている。
図18において、例えば、描画密度が12%のときのOn画素の数をPK3とし、そのときに計測される実積分値FXnをFX3とする。プロセッサMPU300は、実積分値FX3が、On画素数PK3に対応した特性CRg上の値に対して、誤差範囲±ΔKe内であれば、基板Pが適正露光量で描画されたと判断する。このように、描画密度が低い領域(On画素の数が少ない範囲)では、描画密度と理論上で得られる積分値FXnとの間の線形関係が崩れる場合があるので、キャリブレーションやテスト露光等を行って、直線CRFと非線形な特性CRgとを定めるのが良い。なお、図18に示した特性CRgは説明を判り易くするために誇張した一例であって、必ずしもこのような特性CRgになるものではない。
〔変形例3〕
先の図17に示したように、基板Pの長手方向(X’方向)にパターン領域WQnが繰り返し複数形成される場合、パターン領域WQnの間には一定幅の余白領域Aspが形成される。そこで、本変形例では、図17に示した領域(計測領域)Aewを余白領域Asp内に設定し、パターン領域WQnに対するパターン露光が開始される直前に、余白領域Asp内にダミーパターンを描画露光することで、描画ユニットU1~U6の各々によるパターン描画の際の露光量(ビーム強度)の適正値からの誤差、描画ユニットU1~U6間の相対的な露光量(ビーム強度)の差、或いは図16、図18で示した直線CRF、特性CRgの変動等の露光量の設定性能を確認する。そして、許容範囲以上の誤差や変動が生じている場合は、それらが補正されるように、図9の強度調整制御部250によって、選択用光学素子OS1~OS6の各々に印加される駆動信号DF1~DF6の各振幅を調整する。
余白領域Asp内に描画されるダミーパターン(テストパターン)TEGは、一例として、図19に示すように、描画ラインSLnに沿って並ぶ全画素(例えば25000画素)のうちの全ての画素がOn画素(斜線部)となる描画ビット列データSDna、全画素のうちの90%(22500画素)がOn画素となる描画ビット列データSDnb、全画素のうちの80%(20000画素)がOn画素となる描画ビット列データSDnc、・・・、全画素のうちの50%(12500画素)がOn画素となる描画ビット列データSDnf、・・・、及び全画素のうちの10%(2500画素)がOn画素となる描画ビット列データSDnjの10列分を、副走査方向(X’方向)に並べたものする。
1画素の基板P上での寸法を2μm×2μmとすると、テストパターンTEGの副走査方向の全幅は、20μm程度になる。さらに、On画素の数の比率(描画密度)を5%ずつ異ならせた20列分の描画ビット列データSDna~SDntによるテストパターンとした場合でも、テストパターンTEGの副走査方向の全幅は40μm程度に過ぎない。描画ユニットUnから投射されるビームLBn(スポット光SP)の強度を変調して、このようなテストパターンTEGを描画する間、副走査方向に並ぶ画素列ごとに、図11に示した光量計測部202によって10列分の実積分値FXna~FXnj(又は20列分の実積分値FXna~FXnt)を計測する。その際、実積分値FXnaは、全画素(25000画素)の全てがOn画素の描画ビット列データSDnaに基づいたパターン描画(50000個のオン・パルス光の照射)なので、図16に示した最大値Fmaxに対応する。
プロセッサMPU300(又は描画制御装置200)は、テストパターンTEGの露光中に計測された実積分値FXna~FXnj(又はFXna~FXnt)の各々を、図16、又は図18に示した直線CRFや非線形な特性CFgに当てはめて、描画ユニットUnの各々が指定された露光量でテストパターンTEGを描画したか否かを推定する。これにより、描画制御装置200は、6つの描画ユニットU1~U6の各々によるパターン描画の際の相互の露光量の差を、基板P上のパターン領域WQnの露光直前に把握して、露光量の差が許容範囲内に収まるように、選択用光学素子OSnの各々の回折効率を調整して、ビームLBnの各々の強度を調整することができる。
従って、基板P上に長手方向に繰り返し形成される複数のパターン領域WQnの各々は、いずれも指定された適正露光量で露光されると共に、パターン領域WQn内の継ぎ部での露光ムラの発生を抑えることができる。なお、テストパターンTEGの1列分において、全画素(25000画素)中のOn画素の位置は、所定の描画密度が得られれば、図19のように連続している必要はなく、どのような配置であっても構わない。例えば、列ごとに設定する描画密度の変化率を10%にする場合(10列分とする場合)、1列内の全画素(25000画素)を250画素ごとに区切り、その250画素の中でOn画素の数を列ごとに25画素ずつ増減させた描画ビット列データSDna~SDnjにしても良い。或いは、トータルのOn画素数が設定すべき描画密度になるように、全画素中のランダムな位置にOn画素を振分けて配置しても良い。
〔変形例4〕
先の図7に示したビーム切換部(選択用光学素子OS1~OS6、選択ミラーIM1~IM6等を含む)の構成では、光源装置LSから射出した直後のビームLBの強度(光量)を検出する光電センサDTaと、全ての選択用光学素子OS1~OS6を直列に透過してくるビームLB自体、またはオン状態の選択用光学素子OSnで回折されなかったビームLBの0次回折ビームの強度(光量)を検出する光電センサDTbとが設けられている。さらに、図11に示したように、光電センサDTa、DTbの各々からの光電信号Sa、Sbは光量計測部202内の計測回路部CCB7、CCB8によって、描画ユニットU1~U6の各々から送出される光電信号SS1~SS6の計測と同様に、プロセッサMPU300からの制御信号CS1によって計測される。本変形例では、6つの選択用光学素子OSnのうちのいずれか1つだけがオン状態になるという条件から、光電センサDTa、DTbの各々の光電信号Sa、Sbに基づいて、選択用光学素子OSnの回折効率の変動、すなわち選択用光学素子OSnの各々で回折されて描画ユニットUnの各々に供給されるビームLBnの強度の変動等を計測することができる。
その為に、全ての選択用光学素子OSnがオフ状態のときに、光源装置LSから所定の短時間、或いは所定パルス数分のビームLBをダミー発振させ、その間に光電センサDTa、DTbの各々から出力される光電信号Sa、Sbのパルス波形の各積分値を、図11の計測回路部CCB7、CCB8の各々によって、実積分値FX7a、FX8aとして計測する。プロセッサMPU300(又は描画制御装置200)は、実積分値FX7a、FX8aの比Kε(FX8a/FX7a)を算出する。比Kεは、光源装置LSからのビームLBを直列に通すように配置した6つの選択用光学素子OSnの各々の透過率εn(ε1~ε6)の積に対応している。そこで、以下、比Kεのことを全透過率Kεとする。もちろん、全透過率Kεには、光源装置LSから最下流の選択用光学素子OS2(図7参照)までの光路に配置される反射ミラーM1~M12(図3参照)の反射率や、集光レンズGaとコリメートレンズGbで構成されるリレー光学系(図5参照)の透過率も含まれるが、ここでは経時的な変化が大きいと予想される選択用光学素子OSnの透過率εnのみを対象に説明する。
次に、例えば、図17に示した領域Aewに対してデバイス用のパターンを露光している間、或いは、図19に示したテストパターンTEGを露光している間、図11の計測回路部CCB7、CCB8の各々によって、スポット光SPの1回又は複数回の走査期間中の実積分値FX7n、FX8nを計測する。その際、計測回路部CCB7、CCB8は、制御信号CS1に基づいて、6つの描画ユニットUnのうちの1つを描画状態にするように順番にオン状態となる選択用光学素子OSnに対応して、順次6つの実積分値FX7n(FX71~FX76)、FX8n(FX81~FX86)を計測する。ここで、選択用光学素子OSnの回折効率を、βn(β1~β6)とすると、実積分値FX7nとFX8nは、nを1~6として、FX8n=Kε(1-βn)FX7nの関係になっている。
従って、選択用光学素子OSnの各々の回折効率βnは、βn=1-(FX8n)/(Kε・FX7n)=1-(FX7a・FX8n)/(FX8a・FX7n)で算出される。選択用光学素子OSnの各々の回折効率βnの変化は、基板Pに投射されるビームLBnの各々の強度変化となり、露光量の誤差となるので、パターン領域WQnを露光している適当なタイミングで領域Aewを設定したり、余白領域AspにテストパターンTEGを露光したりして、ときどき選択用光学素子OSnの各々の回折効率βnの変動や変動の傾向等を確認して、図9の強度調整制御部250によって選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの振幅を調整することで、描画ユニットUn間での露光量の変動を長期的に抑制できる。
また、本変形例では、各描画ユニットUn内に設けられた光電センサSM1d等(図6参照)からの光電信号SSnを利用しないので、描画ユニットUn内で生じるビームLBnの強度(光量)変動はモニターできない。しかしながら、描画ユニットUn内でビームLBnの強度(光量)を短期に変動させる要因が無い場合は、本変形例のようにビーム切換部(図7参照)に設けた2つの光電センサDTa、DTbを用いて、ビームLBnの強度変動の大きな要因となり得る選択用光学素子(AOM)OSnの回折効率βnの変化をモニターして、ビームLBnの強度を調整するだけでも、パターン領域WQnの各々は、いずれも指定された適正露光量で露光されると共に、パターン領域WQn内の継ぎ部での露光ムラの発生を良好に抑えることができる。
また、先の第1の実施の形態のように、各描画ユニットUn内に光電センサSM1d等を設ける場合、描画ユニットUn毎に基板Pに与える露光量の相対誤差を±2~5%以内にする為には、描画ユニットUnの各々の光電センサSM1d等からの光電信号SSnのレベルとビームLBnの強度(光量)との関係を予めキャリブレーションする(図11中のアンプ回路306のゲインを調整する)必要がある。これに対し本変形例では、1つの光電センサDTbによって、選択用光学素子OSnの各々の回折効率βnの相対変動によるビームLBnの相対的な強度変化を推定できるので、そのようなキャリブレーションが不要であり、計測精度を高めることができる。
〔変形例5〕
第1の実施の形態による描画ユニットUnの各々は、図4に示したように、基板P又は回転ドラムDRの外周面に投射されるスポット光SP(ビームLBn)の反射光を、fθレンズ系FT、ポリゴンミラーPM、偏光ビームスプリッタBS1を介して検出する光電センサDT1が設けられている。光電センサDT1を、光電センサSM1d、DTa、DTbと同様のMSMフォトダイオードとすると、その光電信号は描画用のビームLBnのオン・パルス光に応答して、図15で示したパルス状の波形WFpとして出力される。但し、光電センサDT1が受光する反射光(正規反射光)は、基板Pの表面の反射率や回転ドラムDRの外周表面の反射率に応じた分だけ、元のビームLBnの強度(光量)に対して減衰している。
基板Pの表面のビームLBnの波長(例えば355nm)に対する反射率は、表面に形成される層(感光性機能層やその下地の層構造)の材料に応じて色々に変化する。一方、回転ドラムDRの外周表面の反射率は、表面に金属系薄膜や誘電体薄膜による多層膜を形成することにより、所定の値、例えば、描画用のビームLBnの波長に対する反射率を50%以下に抑えた一定値にすることができる。回転ドラムDRの外周表面の反射率を、そのように設定する為の多層膜構造の一例は、例えば国際公開第2014/034161号パンフレットに開示されている。
本変形例では、回転ドラムDRの外周面に基板Pが巻き付いていない状態、或いは表面に遮光性又は吸光性の層が形成されていない透明な基板Pが回転ドラムDRに巻き付けられた状態のときに、描画ユニットUnの各々からオン・パルス光となるビームLBnを描画ラインSLnに沿って走査し、その際に回転ドラムDRの外周表面で発生する反射光を光電センサDT1で受光し、その光電信号のパルス状の波形の実積分値を図11に示した計測回路部CCBnと同様の計測回路部によって計測する。各描画ユニットUnの光電センサDT1からの光電信号に基づいて計測される実積分値をFXRn(FXR1~FXR6)とする。実積分値FXRnは、適正露光量が得られるように調整された状態のときに、同時に発生する他の光電信号SSnに基づいて計測された実積分値FXn(FX1~FX6)、或いは同時に発生する光電信号Saに基づいて計測された実積分値FX7n(FX71~FX76)に対して、一定の比率を有している。
そこで、装置のキャリブレーションのとき、または基板P上に遮光性や吸光性の層構造が形成されていない透明部分が回転ドラムDRに巻き付いているときに、各描画ユニットUnの各々によるパターン描画が適正露光量で行われるように、強度調整制御部250によって、各選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの振幅を調整した後、例えば、光電センサDT1からの光電信号に基づいて計測される実積分値FXRnと、光電センサDTaからの光電信号Saに基づいて計測される実積分値FX7nとの比率(FXRn/FX7n)を記憶しておく。以降、ときどき、基板Pの透明部分が回転ドラムDRに巻き付くタイミングで、適当なダミーパターンの描画データでビームLBnを基板Pの透明部分を介して回転ドラムDRの外周面に投射し、実積分値FXRnと実積分値FX7nとの比率(FXRn/FX7n)を計測する。描画ユニットUnの各々に関して計測された比率(FXRn/FX7n)のうち、記憶された比率(FXRn/FX7n)に対して変動が発生した場合、変動を起こした描画ユニットUnに対応するビームLBnの一連の光路(光源装置LSから、選択用光学素子OSnと描画ユニットUn内とを通って基板Pに至る光路)中で、選択用光学素子OSnの回折効率βn、他の光学素子(レンズやミラー等)の透過率や反射率に何らかの変動が発生したことが判る。
〔変形例6〕
先の第1の実施の形態、又はその各変形例では、図11に示した計測回路部CCBnによって、ビームLB、LBnのオン・パルス光で各光電センサから発生する光電信号SSn、Sa、Sb等の図15のようなパルス状の波形WFpを、On画素の数に渡って積分するものとした。しかしながら、描画用のビームLBn(スポット光SP)のオン・パルス光が、光源装置LSの発光間隔を設定するクロック信号LTCのクロック周期で一定時間ΔTeeに渡って連続して発生する場合、その連続して発生している間のオン・パルス光の波形WFpのピーク強度Vdp(図15参照)をサンプル/ホールドし、記憶したピーク強度Vdpを先の実積分値FXnの代わりに用いて、露光量制御(強度調整)を行っても良い。光源装置LS(又はLS1、LS2)をファイバー・レーザ光源とした場合、オン・パルス光となるビームLBを連続発振させると、オン・パルス光のピーク強度Vdpがほぼ一定値に安定し、パルス光間の強度バラツキも少なくなる。そこで、例えば、描画ビット列データSDn中で、描画時に一定時間ΔTeeに渡ってOn画素が連続する部分、或いは全画素(25000画素)に渡ってOn画素となる主走査方向に延びたラインパターンを描画する描画ビット列データSDnを予め選択し、連続したOn画素が描画される際に発振されるビームLBnのオン・パルス光のピーク強度Vdpを、図11の計測回路部CCBnで計測するようにしても良い。
On画素が一定時間ΔTeeに渡って連続する部分、或いは全画素がOn画素となる描画ビット列データSDnの情報は、図7の描画制御装置200によって設定され、図11のプロセッサMPU300に送られ、プロセッサMPU300は、その情報に基づいた制御信号CS1を各計測回路部CCBnに送出し、ピーク強度Vdpのサンプリング期間を設定する。また、On画素が連続する一定時間ΔTeeは、各光電センサの応答時間(立上り時間)に応じて設定される。先の図15に示したように、各光電センサを数十pS程度の応答特性を持つMSMフォトダイオードとした場合、一定時間ΔTeeは、On画素の数個程度が連続する時間で良い。光電センサとして、アバランシェ・フォトダイオード(APD)を用いる場合は、MSMフォトダイオードよりも応答時間が長いので、一定時間ΔTeeも長めに設定するのが良い。
〔変形例7〕
以上の第1の実施の形態やその変形例では、ビーム切換部内の選択用光学素子OSnを介して描画ユニットUnの各々に供給される描画用のビームLBn(LB1~LB6)の強度(光量)は、図9に示した強度調整制御部250によって選択用光学素子OSnの各々の駆動信号DFnの振幅を変更することで調整した。この場合、描画用のビームLBnの強度が調整できるので、描画ユニットUn毎に基板P上に描画されるパターン間の相互の露光量の差をきめ細かく調整することができる。しかしながら、選択用光学素子OSnに投入されるRF電力(駆動信号DFnの振幅)に対する効率βの調整特性が、図10で示したような傾向を持つこと、そして選択用光学素子OSnが光源装置LSからのビームLBの光路に沿って直列(タンデム)に設けられていることから、基板Pに投射されるビームLBn(LB1~LB6)の強度を一律に比較的大きく調整する場合、選択用光学素子OSnの各々に対して印加される駆動信号DFnの振幅を、図10の特性(効率βの上限βmaxや下限値)を考慮した煩雑な演算に基づいて決定することになる。そこで、本変形例では、光源装置LSから出射して、ビーム切換部(図3の構成では反射ミラーM1以降)に入射する前に、ビームLBの強度(光量)を光学的に調整する為の光量調整部材を設ける。
光量調整部材の典型的な構成は、透過率(或いは反射率)が段階的又は連続的に変化するように、材料、厚み、積層数を調整した誘電体膜を石英板等に蒸着した可変NDフィルターである。この可変NDフィルターは石英板上の領域に応じてビームLBに対する透過率(或いは反射率)が異なるように構成され、ビームLBの光路に対する可変NDフィルターの位置を調整することで、透過したビームLBの強度(光量)を段階的又は連続的に減衰させることができる。石英板の誘電体膜が蒸着されていない領域では、透過率として99%以上(反射率として1%以下)が得られる。
また、光量調整部材は、ビームLBの光路に対して誘電体膜を蒸着した石英板(平行平板)を傾斜可能に配置した構成でも良い。この場合、石英板へのビームLBの入射角の変化によって、透過ビームの強度と反射ビームの強度の比率が変化すること(入射角に依存した透過率又は反射率の変化)を利用して光量調整することができる。
〔変形例8〕
先の第1の実施の形態、又はその各変形例では、図8に示した1台の光源装置LSからのビームLBが、6つの描画ユニットUnのいずれか1つに選択的に供給されるように、図7に示したビーム切換部の直列に配置した6つの選択用光学素子OSnの1つを順番にオン状態にスイッチングさせていた。しかしながら、ポリゴンミラーPMの1つの反射面RP当たりの走査効率1/αが1/4以上で1/3未満の場合、国際公開第2015/166910号パンフレットにも開示されているように、図8に示した光源装置LSを2台設けることで、効率的な描画が可能である。
図20は、図3に示したビーム切換部の各光学部材の配置をほとんど変えることなく、2台の光源装置を設ける場合の構成をXY面内で示した図である。本変形例では、1台目の光源装置LS1からのビームLBを、図3と同じ反射ミラーM1の位置から、反射ミラーM2、選択用光学素子OS5、反射ミラーM3、M4、選択用光学素子OS6、反射ミラーM5、M6、選択用光学素子OS3の順番で通して、図3中の反射ミラーM7の代わりに配置した吸収体TR1で吸収させる。図20では図示を省略してあるが、2台目の光源装置LS2からのビームLBは、例えば、図3に示した反射ミラーM8の位置から、選択用光学素子OS4、反射ミラーM9、M10、選択用光学素子OS1、反射ミラーM11、M12、選択用光学素子OS2の順番で通して、図3中の吸収体TRで吸収させる。従って、第1の光源装置LS1は、3つの描画ユニットU3、U5、U6の各々に供給すべきビームLB3、LB5、LB6を発生し、第2の光源装置LS2は、3つの描画ユニットU1、U2、U4の各々に供給すべきビームLB1、LB2、LB4を発生する。
このように、2台の光源装置LS1、LS2を設けることにより、各描画ユニットUnは、スポット光SPの走査をポリゴンミラーPMの反射面RPの1面飛ばしで行う必要が無くなり、全ての反射面RPの各々でスポット光SPの走査ができる。それにより、基板Pの副走査方向(X’方向、長尺方向)への移動速度を、1台の光源装置LSのときと比べて倍にすることができ、生産性を飛躍的に向上させることができる。なお、図20に示した光源装置LS1と反射ミラーM1との間の光路中には、先の変形例7で説明した光量(強度)調整用の光量調整部材等を含む調整光学系FAOが設けられる。また、図20に示した吸収体TR1は、選択用光学素子OS3を透過したビームLBの進行方向(+X方向)と交差したY方向に移動可能に構成される。吸収体TR1の後方(+X方向)には、例えばXY面に対して45°傾いた反射面RPを有する反射ミラーM40が固定されている。その為、吸収体TR1が選択用光学素子OS3からのビームLBの光路から外れると、ビームLBは、反射ミラーM40に投射される。反射ミラーM40で反射されたビームLBは、光源装置LS(LS1、LS2)やビーム切換部の各光学部材を保持する支持定盤の開口部DHを通って-Z方向に進み、装置メンテナンスの際に、描画ユニットUn単体の光学性能、例えばビーム(スポット光)の断面内での強度分布(ビームプロファイル)、球面収差、像面傾斜や像面湾曲等の光学諸特性を計測したり、調整したりする作業の為に利用される。
〔第2の実施の形態〕
描画ユニットUnの各々から基板Pに投射されるビームLBn(LB1~LB6)は、各描画ラインSLn(SL1~SL6)上でスポット光SPとして集光されるが、各スポット光SPが最も収斂するベストフォーカス位置(ビームウェスト位置)のフォーカス方向の前後には、所定の焦点深度(DOF:Depth Of Focus)範囲が存在する。初期設定として、描画ユニットUnの各々から基板Pに投射されるビームLBnのスポット光SPのベストフォーカス位置が回転ドラムDRで支持された基板Pの表面と一致するように調整される。先の実施の形態で例示したように、ビームLBnの波長を355nm、スポット光SPのベストフォーカス位置での直径(実効的なスポット径)を2μmとする場合、図4に示したfθレンズFTとシリンドリカルレンズCYbを通って基板Pに向かうビームLBnの開口数(NA)は、例えばNA<0.1と小さいため、DOF範囲はベストフォーカス位置に対して±数十μm~±100μm程度得られる。
一方、基板Pを支持する回転ドラムDRの外周面の真円度や偏心といった機械的な誤差は加工精度の向上により、それぞれ±数μm程度に抑えることができる。さらに回転ドラムDRのシャフトSft(図12)を装置本体に支持するベアリングのガタ(遊び公差)量も数μm以下である。また、基板P自体の厚みムラは、PETやPENによるフィルム材であれば、公称の厚みに対して±数%以下であり、公称で100μm厚の基板Pであれば、厚みムラは高々±数μm以下である。従って、描画ラインSLnが位置する基板Pの表面は、回転ドラムDRの機械的な誤差、ベアリングのガタ、或いは基板Pの厚みムラの影響によって±十数μm程度の範囲でフォーカス方向に変位し得るが、その量はDOF範囲に比較すると十分に小さい。
しかしながら、描画装置を組み上げた直後のテスト露光の際、或いは当初予定されていた厚み範囲と大きく異なる厚みの基板Pを露光するときには、描画ユニットUnの各々からのビームLBnのスポット光SPのベストフォーカス位置を基板Pの表面と合わせる為の調整作業(フォーカス調整)が必要となる。フォーカス調整は、例えば、図12に示した構成において、回転ドラムDRのZ方向の高さ位置、或いは6つの描画ユニットU1~U6のZ方向の高さ位置を機械的に微調整することで可能である。回転ドラムDRをZ方向に位置調整することは比較的に簡単であるが、その場合、エンコーダヘッドEH1~EH3の位置を同じ量だけZ方向に変位させ、さらにアライメント系AMS(対物レンズOBL)の位置を調整する必要があり、それらの調整作業は煩雑で長い時間を要する。
また、描画ユニットU1~U6(図4参照)のZ方向の高さ位置を微調整する場合は、図5で説明したように、ビーム切換部内の各選択ミラーIMnの反射面の位置(面Ps)が、基板P上に収斂されるビームLBnのスポット光SPと共役になるように設定されているため、描画ユニットU1~U6のみをZ方向に位置調整すると、調整量によってはその共役関係が崩れる。さらに、回転ドラムDRをZ方向に位置調整した場合も、描画ユニットU1~U6をZ方向に位置調整した場合も、基板P上では、図17に示した奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6との副走査方向の間隔距離XSLが変化し得るので、テスト露光で描画された計測用パターンの解像状態、位置決め精度、重ね合せ精度、継ぎ精度等の計測情報を取得するキャリブレーション作業によって、距離XSLを精密に計測する作業が必要となる。
そこで第2の実施の形態では、図21に示すように、光源装置LS(又はLS1、LS2)から出射してビーム切換部に入射する前(図3、図20中の反射ミラーM1の手前、又は初段の選択用光学素子OS5の手前)に、フォーカス調整光学部材としてのレンズGLg、GLhを設ける。このレンズGLg、GLhは、先の図20に示した構成では調整光学系FAO内に設けられる。図21では、先の図8に示した光源装置LS内の光学構成のうち、第2の波長変換光学素子150からレンズGLfまでの光路を示す。第2の波長変換光学素子150には、種光ビームLse(波長λ)の第2高調波(波長λ/2)と種光ビームLse(波長λ)との混合ビームSB(2ω)が収斂するように入射する。波長変換光学素子150から発散して発生するビームのうち、第3高調波として紫外波長域にピークを有するビームLBは、波長分離素子としてのダイクロイックミラーDCMによって、元の混合ビームSB(2ω)や他の波長のビームと分離され、レンズGLfによって平行光束に変換されて光源装置LSの窓BWから射出する。
光源装置LS(又はLS1、LS2)からの平行なビームLBを入射する正の屈折力を持つレンズGLgは、設計上の基準位置から±ΔFCの範囲で光軸に沿った方向に移動可能に構成される。レンズGLgに入射したビームLBは、レンズGLgの後側焦点距離の位置の面Ps’でビームウェストとなるように収斂された後、発散して正の屈折力を持つレンズGLhに入射する。設計上、面Ps’はレンズGLhの前側焦点距離の位置に設定され、レンズGLhを通ったビームLBは再びビーム径が1mm程度の平行光束となって、図3又は図20中の反射ミラーM1、又は初段の選択用光学素子OS5に向かう。ビームLBがビームウェストとなる面Ps’は、初期設定では、波長変換光学素子150と光学的に共役に設定され、さらに図5に示した面Ps、及び基板Pに投射される6つのビームLB1~LB6の各々のベストフォーカス面の各々とも共役に設定される。なお、図21において、レンズGLgの前側焦点距離の位置は、光源装置LSの窓BWの位置になるように設定され、レンズGLhの後側焦点距離の位置は、初段の選択用光学素子OS5の位置、又はその共役位置となるように設定される。
以上の構成により、レンズGLgを基準位置から±ΔFCの範囲で光軸方向に移動させると、ビームLBのビームウェスト位置である面Ps’も、±ΔFCの範囲で光軸方向に変位する。その結果、描画ユニットU1~U6から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の各々のベストフォーカス位置(ビームウェスト位置)は、基板P上の奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5を含む接平面、及び偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6を含む接平面のそれぞれと垂直なフォーカス方向に、一斉に同じ量だけ変位する。このように、レンズGLgを移動させる簡単な機構を設けるだけで、基板Pに投射される6つのビームLB1~LB6の各フォーカス位置を迅速に調整することができる。その為、各描画ユニットUnの各々のフォーカス状態をファインに調整する為のテスト露光を含むキャリブレーション作業の時間を短縮することができる。なお、描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに投射されるビームLB1~LB6の個々のベストフォーカス位置は、例えば、図4に示した描画ユニットUn内のビームエキスパンダ系BEのレンズBe1、Be2の少なくとも一方を光軸方向に微動させることで調整可能である。
〔第2の実施の形態の変形例〕
上記の第2の実施の形態では、光源装置LS(又はLS1、LS2)から射出されるビームLBがビームウェストとなる面Ps’を、レンズGLgの移動によって初期設定時(設計時)の位置から光軸方向に変位させている。その為、レンズGLhから射出するビームLBは、初期設定(設計)状態では平行光束であったものが、レンズGLgの初期設定位置(設計位置)からの移動量に応じて、僅かではあるが発散性または収斂性の光束になる。レンズGLhから射出するビームLBは、図5(図3、図20)に示したように、初段の選択用光学素子OS5からレンズGa、Gbによるリレー光学系を挟んで互いに共役になるように直列に配置された6つの選択用光学素子OSnに入射する。
初段の選択用光学素子OS5に入射するビームLBの特性(平行度)が、レンズGLgの移動によるフォーカス調整によって僅かに変化した場合(発散や収斂の度合いが変わった場合)、後段の全ての選択用光学素子OS6、OS3、OS4、OS1、OS2の各々に入射するビームLBの特性(平行度)も同様に変化する。すなわち、レンズGLgの移動によってフォーカス調整を行うと、選択用光学素子OSnの各々に入射するビームLBの平行度が変化すること(発散性または収斂性の光束となること)によって、各選択用光学素子OSnを通るビームLBの直径も僅かに変化することになる。
このように、選択用光学素子OSnに入射するビームLBの特性(平行度やビーム直径)が変化すると、選択用光学素子OSnの回折効率βが初期設定の状態から変化することになり、同じRF電力で各選択用光学素子OSnをオン状態にしたとしても、基板Pに投射されるビームLBnの強度(光量)が変化することになる。
そこで、本変形例では、基板Pに投射されるスポット光SP(ビームLBn)のフォーカス位置を調整する為に、図21のように光源装置LSとビーム切換部(選択用光学素子OSnを含む)との間にレンズGLg、GLhによるフォーカス調整光学部材(調整光学系FAO)を設けた場合は、フォーカス調整に応じて、選択用光学素子OSnの各々に印加するRF電力(駆動信号DFnの振幅)を、図9の強度調整制御部250によって調整する。その際、フォーカス調整量は図21のレンズGLgの移動位置に対応するので、フォーカス調整に伴うビームLBnの強度(光量)変化量とレンズGLgの移動位置とを対応付けたテーブルや関数、或いは、レンズGLgの移動位置とRF電力(駆動信号DFnの振幅)の補正量とを対応付けたテーブルや関数を予め実験等により求めておく。そして、例えば厚みが2倍程度に大きく異なる基板Pが装着されたときは、フォーカス調整を行うと共に、テーブルや関数に基づいて、選択用光学素子OSnの各々の回折効率βを調整してビームLBnの強度(光量)を調整することで、良好なフォーカス状態のパターンを適正露光量の下で描画することができる。
〔第3の実施の形態〕
先の図20に示したように、2台の光源装置LS1、LS2を用いる場合、光源装置LS1からのビームLBは、3つの選択用光学素子OS5、OS6、OS3の各々を通して、反射ミラーM40を介して、実際のパターン描画以外の用途の為に利用することができる。反射ミラーM40は、XY面内では、先の図2に示した露光部本体EXのチャンバーCBの-X方向の外壁に形成された開口部CP5の近くに位置する。その為、装置のメンテナンス等の際に、開口部CP5を塞いでいる扉板CBhを開けると、図20に示した開口部DHを通った光源装置LS1からのビームLBを利用することができる。
図22は、装置メンテナンス時にビームLBを用いて描画ユニットUnを光学調整する際の構成例を示す図であり、露光部本体EXのうち、図20中の反射ミラーM40と開口部DHとを含み、XZ面と平行な面における部分断面を示す。図22において、図20に示した吸収体TR1、反射ミラーM40、及びその他の各種光学部材や光源装置LS1は、支持定盤BF上に取付けられている。支持定盤BFの開口部DHの下方には、反射ミラーM40で反射されたビームLBの光路を覆うように-Z方向に延びたパイプ部材IUaが取り付けられ、パイプ部材IUaの下端部には調整又は検査すべき描画ユニットUnのビーム入射部Jpeと接続される環状のジョイント部材IUbが設けられる。図22に示した描画ユニットUnは、図4に示した描画ユニットUnを-Y方向からみたものであり、装置本体から取り外してドッキング機構(計測用支持台座)DKSに取り付けられる。ドッキング機構DKSには、検査すべき描画ユニットUnのfθレンズFT、反射ミラーM24、シリンドリカルレンズCYbを通ってきたビームLBnによるスポット光SPのプロファイルやテレセン特性(ビームLBnのZ軸に対する傾斜誤差)、フォーカス特性(ベストフォーカス位置とDOF範囲)等を計測可能なビームプロファイラー(光学計測器)OMUが設けられている。
ドッキング機構DKSは、fθレンズFTの光軸AXfがXY面と平行、即ち反射ミラーM40で反射されて-Z方向に進むビームLBの主光線と垂直になるように描画ユニットUnを着脱可能に取り付ける。さらにドッキング機構DKSは、メンテナンス時にチャンバーCBの開口部CP5の近傍に位置する装置本体フレーム部(コラム部)に±数十μm程度の精度で着脱可能に取り付けられる。また、ドッキング機構DKSは、装着した描画ユニットUnをドッキング機構DKS(本体フレーム部)に対してX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各々に±数μm以下の位置決め精度で微動する第1の移動機構MV1を有している。ドッキング機構DKSは、ビームLBn(スポット光SP)に対する光学計測器OMUの位置をX軸方向とY軸方向とに変位させる第2の移動機構MV2を有すると共に、光学計測器OMUをZ軸方向(フォーカス方向)に微動させるZ微動機構(第3の移動機構)MV3を有する。
以上の構成において、メンテナンスの際には、チャンバーCBの開口部CP5に光学計測器OMUを有するドッキング機構DKSを装着し、調整又は検査すべき描画ユニットUnの1つ(ユニットフレーム)を装置本体から取り外してドッキング機構DKSに取り付ける。ドッキング機構DKSに取り付けた描画ユニットUn内のポリゴンミラーPMには、手動で反射面RPを任意の角度位置に設定できる治具(ポリゴンミラー固定治具)が装着される。その後、図22の吸収体TR1をビームLBの光路から退避させ、選択用光学素子OS3を透過して反射ミラーM40で反射されたビームLBが、描画ユニットUnの入射部Jpeを介して反射ミラーM20に正確に入射し、ビームLBn(スポット光SP)が光学計測器OMUに入射するように、ドッキング機構DKSの第1の移動機構MV1と第2の移動機構MV2の少なくとも一方を用いて位置調整する。その際、光学計測器OMUは、ビームLBnの入射部がfθレンズFTの光軸AXfの位置、すなわちスポット光SPによる描画ラインSLnの主走査方向の中央位置に設定されるように、第2の移動機構MV2によって位置決めされている。
光学計測器OMUによってスポット光SP(ビームLBn)のプロファイルを計測する際は、光源装置LS1からオン・パルス光のビームLBを発振周波数Faで出力し続けると共に、3つの選択用光学素子OS5、OS6、OS3の全てをオフ状態にホールドする。さらに、第2の移動機構MV2によって、スポット光SP(ビームLBn)がXY方向の所定位置で光学計測器OMUの計測窓に正確に入射するように、光学計測器OMUの出力信号(計測信号)のレベルに基づいて微調整を行う。光学計測器OMUは、第3の移動機構MV3によるZ方向の微動により、ビームLBnのZ方向(フォーカス方向)の複数の位置、例えば20μmの位置ごとに、ビームLBnの断面内のXY方向の強度分布や寸法を計測する。その計測結果に基づいて、ビームLBn(スポット光SP)のベストフォーカス位置(ビームウェスト位置)やスポット光SPのディストーション(球面収差やコマ収差)等の光学諸性能を確認することができる。
ビームLBnのベストフォーカス位置やディストーションの計測は、描画ラインSLnの中央位置の他に、主走査方向の両端側の位置の各々でも行われるように、第2の移動機構MV2によって光学計測器OMUを位置決めすると共に、ポリゴンミラー固定治具によってポリゴンミラーPMの反射面RPの角度を調整する。以上のように、描画ラインSLnの中央位置、両端位置の3ヶ所の各々で計測されたビームLBnのベストフォーカス位置(DOF範囲)やディストーションの計測結果に基づいて、ベストフォーカス位置やディストーションが所定の許容範囲から外れている場合は、ドッキング機構DKSに搭載された状態で、描画ユニットUn内のレンズ(ビームエキスパンダ系BE、シリンドリカルレンズCYa、CYb、又はfθレンズFT等)の位置や姿勢を微調整する。レンズの調整が終わったら、再び、光学計測器OMUによって、ベストフォーカス位置やディストーションを確認する。なお、光学計測器OMUによって、描画ラインSLnの中央位置、両端位置の3ヶ所の各々でのスポット光SPの強度やベストフォーカス位置等を計測することで、fθレンズFTの像面でのfθ特性の誤差、スポット光SPの主走査方向の位置における強度ムラ等も把握できる。
以上、本実施の形態によれば、パターン描画装置(露光部本体)EXに搭載されているチューニング済みの光源装置LS1からのビームLBを用いて、描画ユニットUnを検査又は調整することができる。その為、検査や調整の為に別の同等の光源装置を用意する必要がなく、パターン描画装置(露光部本体)EXの設置現場(製造ライン内)で検査作業や調整作業を効率的にできる。なお、光学計測器OMUは、ビームLBnの精密なビーム光量(ピーク値)、スポット光SPの副走査方向の位置誤差(描画ラインSLnの直線性)等を精密に計測する専用の計測器に載せ替えることもできる。
また、本実施の形態では、光源装置LS1からのビームLBを利用する際に、光源装置LS1から反射ミラーM40までの各光学部材(選択用光学素子OS5、OS5、OS3、反射ミラーM1~M6、M40、リレー光学系のレンズGa、Gb、選択ミラーIM5、IM6、IM3)は固定状態に維持され、位置設定精度が厳しくない吸収体TR1のみを光路から退避させる構成とした。その為、ビームLBを利用した描画ユニットUnの検査や調整の作業が終わった後、吸収体TR1を元の位置に戻すだけで、再び元の精度でビームLBを送光させることができる。
なお、図20では、ビームLBの取り出しを吸収体TR1の位置としたが、反射ミラーM3と反射ミラーM4の間(或いは反射ミラーM1と反射ミラーM2の間)に、反射ミラーM3(或いは反射ミラーM1)で反射して-Y方向に進むビームLBを+X方向に反射するような可動ミラーを光路中に挿脱可能に設け、その可動ミラーから+X方向に進むビームLBの進行方向に、反射ミラーM40と開口部DHを設けても良い。
〔第4の実施の形態〕
先の実施の形態のように、複数の描画ユニットUnを用いて継ぎ露光を行うパターン描画装置EXでは、各描画ユニットUnの各々によって描画されるパターンのフォーカス状態が揃っていることが必要とされ、その為には、電子デバイス用のパターンを基板Pに露光する前に、テスト露光等によってフォーカス状態の適否や描画ユニットUn間のフォーカス差を確認する作業が行われる。その他、テスト露光によって、主走査方向と副走査方向の各々に関する継ぎ誤差(継ぎ精度)、下地パターン上に新たに描画されるパターンの重ね合せ誤差、露光量の適否等を確認することもある。そのようなテスト露光では、テスト露光用のシート基板を使って、テストパターンが種々の条件設定の下で描画される。テスト露光用のシート基板としては、例えば、PETやPENのフィルム上に銅又はアルミニウム等の金属層を蒸着し、その金属層の上にフォトレジスト層を塗布したものが使われる。テスト露光されたシート基板は、現像処理、乾燥処理の後に、光学顕微鏡を有する検査装置によって、テストパターンのレジスト像を観察したり、線幅寸法や間隔寸法等を計測したりして、描画時に設定された条件(初期条件)に基づいて推定される描画状態からの差異(誤差)を確認する。その差異(誤差)が許容範囲から外れているときは、初期条件に対してオフセットを与えたり、関連する駆動部や調整機構を微調整したりするキャリブレーション作業が行われる。
そこで、本実施の形態では、テスト露光時に設定される各種の初期条件を、文字やバーコードによる情報パターンにして、テスト露光用のシート基板に付加的に描画することによって、検査装置を用いた検査の作業効率を向上させる。図23は、露光量の適否とフォーカス状態の適否とを確認する為に、テスト露光用のシート基板(以下、P’とする)上に描画ユニットUnの1つによって描画されるテストパターン領域TPEa、TPEb、TPLn、TPCn、TPRnと、情報パターン領域PIFa、PIFa’、PIFb、PIFb’との配置の一例を示す図である。図23においても、描画ラインSLnが延びる主走査方向をY方向とし、シート基板P’が送られる副走査方向を先の図17と同様にX’方向とする。テストパターン領域TPEa、TPEbの各々には、露光量の制御精度を確認する為に、先の図19に示したようなテストパターン(ダミーパターン)TEGが描画される。図23では、副走査方向(シート基板P’の送り方向)に離れた2ヶ所にテストパターン領域TPEa、TPEbが設定される。
テストパターン領域TPLn、TPCn、TPRn(それぞれ、nは1~6)の各々には、線幅を段階的に異ならせた縦方向(X’方向)のライン&スペースの格子パターンと、線幅を段階的に異ならせた横方向(Y方向)のライン&スペースの格子パターンとが複数描画される。これらの格子パターンは、解像力、フォーカス状態、露光量の状態の各々を確認するのに適している。また、テストパターン領域TPL1~TPL6は、描画ラインSLnの+Y方向側の端部付近の位置に設定され、テストパターン領域TPC1~TPC6は、描画ラインSLnの中央付近の位置に設定され、テストパターン領域TPR1~TPR6は、描画ラインSLnの-Y方向側の端部付近の位置に設定される。テストパターン領域TPLn、TPCn、TPRnの各々に描画される複数の格子パターンに関する描画データ(描画ビット列データSDn)は、同じもので良い。ここで、描画ラインSLnの両端部付近と中央付近との3ヶ所にテストパターン領域TPLn、TPCn、TPRnを設けたのは、ベストフォーカス面のX’軸回りの傾斜誤差、各領域でのディストーション誤差、fθレンズFTのf-θ特性の誤差等を把握する為である。
図23において、X’方向に3列分に渡って配列されるテストパターン領域TPL1~TPL3、TPC1~TPC3、TPR1~TPR3は、その列ごとに露光量(ビームLBnの強度)を変えて露光し、描画された複数の格子パターンのレジスト像を比較することで、シャープな解像が得られる露光量を確認する為に使われる。また、X’方向に3列分に渡って配列されるテストパターン領域TPL4~TPL6、TPC4~TPC6、TPR4~TPR6は、その列ごとにフォーカス状態(ビームLBnのベストフォーカス位置)を一定量ずつ変えて露光し、描画された複数の格子パターンのレジスト像を比較することで、シャープな解像が得られるフォーカス位置を確認する為に使われる。本実施の形態では、露光量の変更は、選択用光学素子OSnの駆動信号DFnの振幅の変更、又は先の変形例7で説明した光量調整部材の調整(駆動)によって行われ、フォーカス状態の変更は、図21で説明した調整光学系FAO内のレンズGLgの微動によって行われるものとする。
回転ドラムDRの回転によりシート基板P’が一定の速度でX’方向に送られ、テスト露光が開始されると、描画制御装置200(図7参照)は、標準的に設定されている露光量(ビームLBnの強度)と、標準的に設定されているフォーカス状態のもとで、テスト露光に関する条件やパラメータ値(設定値)に関する情報を、情報パターン領域PIFa内に描画する。情報パターン領域PIFa内には、例えば、光学顕微鏡等によって観察可能な大きさの文字パターン(縦14画素、横8画素を英数字の1文字とする大きさ)を、横方向(Y方向)に10~20文字、縦方向(X’方向)に6行分並べられる程度の情報量が描画できる。描画ユニットUnで描画可能な1画素の寸法を、2×2μm角とした場合、1文字は縦28μm、横16μmとなり、文字間、行間を2画素分(4μm)とすると、シート基板P’上で、情報パターン領域PIFaの横方向は200~400μm程度、縦方向は200μm程度の寸法となる。この寸法は、図12に示したアライメント系AMSの対物レンズOBLによる検出領域(検出視野)Vwn(図17参照)で観察可能な大きさとなっている。
情報パターン領域PIFa内に描画される情報(文字パターンの並び)は、テスト露光の条件として、露光量(ビーム強度)を異なる複数の値に設定する場合は、その複数の値の各々に対応した情報、例えば、標準的に設定されるビーム強度からの変更比率(±○○%)の文字列で表わされる。さらに、情報パターン領域PIFa内に描画される情報としては、シート基板P’の搬送速度(mm/S)、ポリゴンミラーPMの回転速度(rpm)、或いは標準的に設定されているフォーカス状態(初期フォーカス位置)に対応したレンズGLg(図21参照)の光軸方向の位置(mm)等がある。その為、描画制御装置200(図7)は、それらのテスト露光時の条件やパラメータに関する情報(数値)を表す文字列に対応した描画データ(描画ビット列データSDn)を生成する機能を備えている。
情報パターン領域PIFaに必要な情報(文字パターン列)が描画されると、描画ユニットUnは描画制御装置200の制御によって、テストパターン領域TPEa内に図19で示したようなテストパターンTEGを描画する。同時に、図11に示した光量計測部202のプロセッサMPU300は、テストパターンTEGを描画するビームLBnのオン・パルス光の実積分値FXnを逐次計測し、テストパターンTEGの描画完了後に、直ちに、計測された実積分値FXnと描画密度との相関に基づいた演算より、ビームLBnの強度に関する情報(ビーム強度情報)を求めて、描画制御装置200に送る。
テストパターンTEGの描画完了後、描画制御装置200(図7)は、1列目のテストパターン領域TPL1、TPC1、TPR1の各々に複数の格子パターンを含むテストパターンが描画されるような描画データを用意し、描画ユニットUnによる描画動作を開始する。1列目のテストパターン領域TPL1、TPC1、TPR1の各々にテストパターン(格子パターン)を描画する際の露光量(ビームLBnの強度)は、テストパターンTEGの描画時に得られたビーム強度に対して変更比率(±○○%)だけ変わるように、選択用光学素子OSn又は光量調整部材によって調整される。その調整時間を確保する為、テストパターン領域TPEaの終端(-X’方向の端部)と、1列目のテストパターン領域TPL1、TPC1、TPR1の先端(+X’方向の端部)とは、シート基板P’上で送り方向(X’方向)に距離ΔXTaだけ離される。
以下同様にして、2列目のテストパターン領域TPL2、TPC2、TPR2と、3列目のテストパターン領域TPL3、TPC3、TPR3の各々に順次テストパターンが描画される。その際、2列目のテストパターン領域TPL2、TPC2、TPR2の各々にテストパターンを描画する際の露光量(ビームLBnの強度)は、1列目のテストパターン領域TPL1、TPC1、TPR1の描画時に設定されたビーム強度に対して、さらに変更比率(±○○%)に応じた値だけ変わるように、選択用光学素子OSn又は光量調整部材によって調整される。3列目のテストパターン領域TPL3、TPC3、TPR3の各々にテストパターンを描画する際の露光量(ビームLBnの強度)は、2列目のテストパターン領域TPL2、TPC2、TPR2の描画時に設定されたビーム強度に対して、さらに変更比率(±○○%)に応じた値だけ変わるように、選択用光学素子OSn又は光量調整部材によって調整される。また、1列目のテストパターン領域と2列目のテストパターン領域とのX’方向の間隔、2列目のテストパターン領域と3列目のテストパターン領域とのX’方向の間隔は、いずれも距離ΔXTaに設定される。
引き続き、フォーカス状態を確認する為のテスト露光を行う為に、描画制御装置200は、描画ユニットUnが先に描画した情報パターン領域PIFaと同じY方向の位置に、情報パターン領域PIFbを描画するように各部を制御する。情報パターン領域PIFbに描画すべき情報が、情報パターン領域PIFa内に描画した情報と同じ場合、情報パターン領域PIFbへの情報の描画は省略される。さらに、描画制御装置200は、テストパターン領域TPEa内にテストパターンTEGを描画したときに計測されたビーム強度情報を表す描画データを生成して、描画ユニットUnが図23の情報パターン領域PIFa’内にビーム強度情報に応じた文字列等を描画するように各部を制御する。続いて、露光量(ビームLBnの強度)を確認する為に、テストパターン領域TPEb内にテストパターンTEGを描画し、その描画のときのビーム強度情報が計測される。次に、4列目のテストパターン領域TPL4、TPC4、TPR4の各々に、標準的に設定されているフォーカス状態(ビームLBnのベストフォーカス位置とシート基板P’の表面とが大よそ揃っているとみなされる状態)から一定量だけフォーカス位置をずらしてテストパターンが描画される。フォーカス位置をずらす一定量に対応した値は、情報パターン領域PIFb(或いはPIFa)内に文字列として描画されるが、ここでは図21に示したレンズGLgの光軸方向の移動量(又は設定位置)に関する数値の文字列として描画されている。
4列目のテストパターン領域TPL4、TPC4、TPR4の各々にテストパターン(格子パターン)を描画する際のフォーカス位置(レンズGLgの移動位置)は、テストパターンTEGを描画したときの標準的なフォーカス位置(初期位置)から一定量だけ負方向にシフトするように、レンズGLgの位置が調整される。その調整時間を確保する為、テストパターン領域TPEbの終端(-X’方向の端部)と、4列目のテストパターン領域TPL4、TPC4、TPR4の先端(+X’方向の端部)とは、シート基板P’上で送り方向(X’方向)に距離ΔXTbだけ離される。以下同様にして、距離ΔXTbだけシート基板P’上でX’方向に間隔を空けて、5列目のテストパターン領域TPL5、TPC5、TPR5、6列目のテストパターン領域TPL6、TPC6、TPR6の各々にテストパターンが描画される。その際、5列目のテストパターン領域TPL5、TPC5、TPR5に対してテストパターンを描画する際は、フォーカス状態を初期の状態、すなわち、テストパターン領域TPEb内にテストパターンTEGを描画したときのフォーカス位置(レンズGLgの設定位置)に戻される。さらに、6列目のテストパターン領域TPL6、TPC6、TPR6に対してテストパターンを描画する際は、テストパターン領域TPEb内にテストパターンTEGを描画したときの標準的なフォーカス位置(初期位置)から一定量だけ正方向にシフトするように、レンズGLgの位置が調整される。
以上のようにして、6列目のテストパターン領域TPL6、TPC6、TPR6に対するテストパターンの描画が完了すると、描画制御装置200は、テストパターン領域TPEb内にテストパターンTEGを描画したときに計測されたビーム強度情報(数値等)の文字列を表す描画データを生成して、描画ユニットUnが図23の情報パターン領域PIFb’内にビーム強度情報に応じた文字列等を描画するように各部を制御する。なお、情報パターン領域PIFb’内に描画する情報(数値等の文字列)は、ビーム強度情報に限られず、4~6列目のテストパターン領域の各々を描画している間にフォーカス状態を変動させ得る要因に関する情報、例えば、複数のエンコーダヘッドによって計測される回転ドラムDRの真円度や偏心による誤差情報、或いは光源装置LS(LS1、LS2)内の光学部品のドリフト等で生じる射出ビームLBの平行度の変動をモニターするセンサからの計測情報等を文字列として描画しても良い。
本実施の形態によれば、テスト露光用のシート基板P’上に設定されるテストパターン領域TPLn、TPCn、TPRnの各々に露光されたテストパターン(複数の格子パターン等)を検査装置の光学顕微鏡、又はパターン描画装置EXに設けられたアライメント系AMSで観察して、露光量の設定状態やフォーカス状態を確認する際、シート基板P’上に記録された、テスト露光の際の条件やパラメータ値の情報、テスト露光時に得られる各種の情報(ビーム強度情報、回転ドラムDRの誤差情報、或いは光源装置LSのドリフトによるビーム平行度の計測情報等)を、顕微鏡(対物レンズOBL)を介して目視確認できる。その為、テスト露光の結果に基づくキャリブレーション作業を簡単に実施できる。
なお、本実施の形態では、情報パターン領域PIFa、PIFa’PIFb、PIFb’の各々には、数値等を文字パターンにして描画するとしたが、バーコードパターンとしても良い。さらに、調整すべき露光量(ビーム強度)やフォーカス位置の変化ステップを、例えば10段階に設定し、その5段階目が標準的に設定される初期状態(初期位置)に相当するような場合、情報パターン領域PIFa、PIFa’PIFb、PIFb’の各々に描画されるパターンは、それらの段階に合せた本数の線状パターン(格子状)にしても良い。このように、露光量の調整の過不足やフォーカス位置の調整量を、単純な線状パターンの本数で表す場合、線状パターンの線幅を比較的に太くしておくことができ、デフォーカスが大きくなった状態でパターン描画された場合でも、レジスト像として容易に観察することができる。
〔第4の実施の形態の変形例〕
以上の第4の実施の形態では、フォーカス状態を確認するテスト露光の際に、パターン描画装置EX内の光源装置LS(LS1、LS2)から射出されるビームLBを収斂/発散させる図21の調整光学系FAOのレンズGLgを移動させて、シート基板P’に投射されるビームLBnのベストフォーカス位置(ビームウェスト位置)をフォーカス方向に段階的にシフトさせた。しかしながら、調整光学系FAOのレンズGLgを光軸方向に移動できるように構成する場合、その移動に伴ってレンズGLgの姿勢が僅かに変化すると、調整光学系FAO以降のビームLBnが横シフトしたり、僅かに傾きを持って進んだりするおそれがある。
そこで、本変形例では、調整光学系FAOのレンズGLgや他の光学部材を微動させることなく、フォーカス状態を確認する為のテスト露光が行えるように、図24に示すようなシート基板PFCを用意する。図24は、シート基板PFCをX’Y面と平行な面内に展開した様子を示し、シート基板PFCは回転ドラムDRの外周面に巻き付けて粘着テープ等で仮止めして使えるように枚葉になっている。シート基板PFCのY方向の寸法(短尺寸法)は、回転ドラムDR上に設定される6つの描画ラインSL1~SL6のY方向(主走査方向)の合計の長さよりも長く設定され、シート基板PFCのX’方向の寸法(長尺寸法)LLxは、回転ドラムDRの直径DCに対応して、LLx≦π・DCに設定されている。
シート基板PFCは、回転ドラムDRの外周面に密着するベースとなるシート基板PF1の上に、X’方向の端部EEに揃えて7枚の矩形状のシート基板PF2~PF8を重ね合せた積層体として構成される。シート基板PFCの表面をX’方向に8つの領域に等分割し、その1つの領域のX’方向の寸法をΔXJとすると、シート基板PF1はX’方向に寸法LLxに設定され、シート基板PF2は端部EEからのX’方向の寸法がLLx-ΔXJに設定され、シート基板PF3は端部EEからのX’方向の寸法がLLx-2・ΔXJに設定される。このように、シート基板PFn(nは1~8)の端部EEからのX’方向の寸法は、LLx-(n-1)・ΔXJに設定されて、熱圧着するラミネーター等によって積層される。
なお、寸法ΔXJは、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5と偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6とのX’方向(副走査方向)の間隔距離XSL(図17参照)よりも長く設定することが望ましい。さらに、ベースとなるシート基板PF1以外のシート基板PF2~PF8の各々は、例えば、公称の厚みが20μmのPET又はPENのフィルムである。シート基板PF1の厚さは、パターン描画装置EXで露光可能な基板Pの標準的な厚さに応じて設定される。例えば、電子デバイス用のパターンが描画される基板Pの厚みが公称値で100μmの場合、その基板Pの表面がベストフォーカス位置になるように設定(調整)されているので、ベースとなるシート基板PF1の厚さは約30μmに設定される。
以上のことから、シート基板PFCは図25のような積層体となる。図25は、シート基板PFCの積層構造を模式的に表した断面図であり、縦軸は厚み(μm)を表し、横軸はX’方向の長さを表す。厚みがゼロの高さ位置は、回転ドラムDRの外周面の位置であり、長さがゼロの位置は端部EEの位置である。このようなシート基板PFCを回転ドラムDRに密着させて巻き付けたとすると、回転ドラムDRの外周面から100μmだけ上方に設定されるベストフォーカス位置に対して、シート基板PF1~PF4の各々の表面は、それぞれ-70μm、-50μm、-30μm、-10μmのデフォーカス位置になる。同様に、シート基板PF5~PF8の各々の表面は、ベストフォーカス位置に対して、それぞれ+10μm、+30μm、+50μm、+70μmのデフォーカス位置となる。なお、シート基板PF1~PF8の各々は、銅やアルミニウム等の金属層を上面側に蒸着したものを、図25のようにラミネートしても良い。また、ベースとなるシート基板PF1は、平坦性が良く剛性(ヤング率)が高い、金属製のシート(フォイル)や極薄の曲がるガラスシートにしても良い。
図24、図25に示したシート基板PFCの表面(シート基板PF2~PF8が積層された側の面)には、フォトレジストが所定の厚さ(例えば1μm)で塗布され、必要に応じてプリベイクが行われる。シート基板PFCの表面には、シート基板PF2~PF8の各々の厚み20μmによる段差が生じているので、そのような段差があっても良好にフォトレジストが塗布できる方式、例えばフォトレジスト液を外周面に一様に塗り付けた転写ローラをシート基板PFCの表面に押し付けて回転させる印刷方式、フォトレジスト液をミスト状にして吹き付けるスプレー方式、フォトレジスト液を多数の液滴ノズルから噴射させるインクジェット方式等によって、シート基板PFC上にフォトレジストによる感光層が形成される。
感光層が形成されたシート基板PFCは、回転ドラムDRの外周面に巻き付けて粘着テープ等で外周面に固定する。その際、シート基板PFCの端部EEが、図12に示した円盤状又は円環状のスケール部材ESDの外周の1ヶ所に刻設されている原点パターン(360度回転するたびに原点信号を発生させる)の角度位置に揃うように、シート基板PFCを手動で位置決めして回転ドラムDRに巻き付ける。スケール部材ESDに刻設された原点パターンの角度位置を表す為に、中心軸AXoからみて原点パターンが刻設されている角度位置と同じ方位に位置する回転ドラムDRの外周面上の部分、又は回転ドラムDRの側面部には、目視可能なマーカーが形成されている。従って、そのようなマーカーを頼りにシート基板PFCを位置決めすることができる。
シート基板PFCが回転ドラムDRに固定されると、パターン描画装置EXは、シート基板PFCの積層されたシート基板PF1~PF8の各々の寸法ΔXJの領域に、図23で説明したテストパターン領域TPL1~TPL3、TPC1~TPC3、TPR1~TPR3、或いはTPEaを設定して、各テストパターンを描画する。その際、パターン描画装置EXの各描画ユニットUnの各々に設定されているベストフォーカス位置(スポット光SPがビームウェストとなるフォーカス方向の位置)を変更する必要がないので、図23で説明したテストパターン領域TPEb、TPL4~TPL6、TPC4~TPC6、TPR4~TPR6を設定してテストパターンを露光する必要はない。
シート基板PFCのシート基板PF1~PF8の各々の表面に、テストパターン領域TPL1~TPL3、TPC1~TPC3、TPR1~TPR3、或いはTPEaが露光されたら、シート基板PFCを回転ドラムDRから取り外して、現像処理、乾燥処理を施し、検査装置にて、シート基板PFC上に形成されたテストパターン(ライン&スペース状の格子パターン)のレジスト像を計測する。シート基板PFCを構成するシート基板PF1~PF8の各々の表面は、20μmずつ段階的にフォーカス方向にずれているので、シート基板PF1~PF8の各表面には、ベストフォーカス位置を含むフォーカス方向の-70μm~+70μmの範囲で、20μmずつ相対的にフォーカス位置をシフトさせた状態でテストパターン像が露光される。
従って、シート基板PF1~PF8の各々の表面に形成されたテストパターンのレジスト像を順次観察し、例えば、設計上でクリティカルな線幅(例えば3画素=6μm)で描画されるライン&スペース状の格子パターンの線幅の変化を計測すると、ベストフォーカス位置が、図25中のように、厚みが100μmの基板Pの表面と許容誤差範囲(例えば±15μm)内で一致しているか否かを確認することができる。確認の結果、例えば、シート基板PF2とシート基板PF3のそれぞれの表面に形成されたテストパターン(格子パターン)のクリティカルな線幅が、最も設計値(6μm)に近いものとして計測された場合、真のベストフォーカス位置は、厚み100μmに対応したフォーカス位置ではなく、厚みでほぼ60μmに対応したフォーカス位置に存在していると判断される。このような計測結果に基づいて、ベストフォーカス位置が上方に+40μmだけ変位するように、図21の調整光学系FAOのレンズGLgの位置が光軸方向に調整される。或いは、回転ドラムDRのZ方向の位置が-40μmだけ位置調整される。
以上のように、本変形例では、テスト露光の際にパターン描画装置EX側でフォーカス位置を光学部材(レンズGLg等)の移動でシフトさせてテストパターンを描画する必要が無いので、テスト露光の時間が短縮されると共に、テストパターンの描画精度が変わらないので真のベストフォーカス位置の変化を求める為の計測精度も向上する。また、図24、図25に示したテスト露光用のシート基板PFCは、スポット光SPをポリゴンミラーで直線走査する直描方式の露光装置の他に、平面状又は円筒状のマスクに形成されたマスクパターンを投影光学系を介して基板Pに投影するマスク投影露光装置、又は多数の可変マイクロミラーを電子デバイス用のパターンのCADデータ等に基づいて高速に変調して、基板P上にパターンに応じた光強度分布を投影するマスクレス露光装置でも、同様に使用可能である。特に、マスク投影露光装置やマスクレス露光装置では、基板Pに投影されるマスク像や光強度分布の投影領域が2次元の大きさを有する為、直描方式の露光装置に比べて、焦点深度(DOF)が狭くなり、ベストフォーカス位置に対するデフォーカス許容量も小さい。その為、ベストフォーカス位置の変動を比較的に短い間隔で確認する状況が発生し易い。そのような場合でも、本変形例によるシート基板PFCを用いれば、簡単に真のベストフォーカス位置の変動を求めて、直ちに調整することができる。
なお、図24では図示を省略したが、シート基板PF1~PF8の各々に、図12に示したアライメント系AMSの対物レンズOBLによる観察領域、すなわち、図17に示した4つの検出領域Vw1~Vw4のいずれかによって検出可能なマークパターンを形成しておいても良い。マークパターンが形成されたシート基板PFCを使ってテスト露光を行う際に、アライメント系AMSによってマークパターンの位置を計測し、その計測された位置に基づいて、各テストパターンの描画位置を補正して露光することにより、ファーストパターン(マークパターン)に対するセカンドパターン(テストパターン)の重ね合せ精度を確認することもできる。また、図24のシート基板PFCは、回転ドラムDRの外周面の全周長よりも短い寸法LLxの枚葉としたが、ベースとなるシート基板PF1を長尺とし、その上面に、図24のようなシート基板PF2~PF8の積層体を、シート基板PF1の長尺方向に繰り返し貼り合せた構成とし、それをロールに巻いた状態にして、図1に示した供給ロール装着部EPC1の供給ロールFRの替りに装着してパターン描画装置EXに供給することもできる。
〔その他の変形例〕
上記の各実施の形態やその変形例では、ビーム切換部に含まれる選択用光学素子OSnを音響光学変調素子(AOM)として説明したが、回折現象を使わない電気光学偏向部材、例えばポッケルス効果やカー効果を利用した電気光学素子(EO素子)としても良い。EO素子は、印加される電界強度の1乗、又は2乗で屈折率が変化する結晶媒体又は非結晶媒体で構成される。EO素子を用いる場合は、光源装置LS(LS1、LS2)からの細い平行なビームLBは、縦方向又は横方向のいずれかに偏光した直線偏光にされてEO素子、偏光ビームスプリッタ(PBS)の順に通される。EO素子に駆動信号(直流の高電圧)を印加していない状態と印加した状態とに交互に切替えると、EO素子から射出するビームLBの偏光方向が交互に90度だけ回転する。その為、偏光ビームスプリッタ(PBS)に入射したビームLBは、その直線偏光の方向に応じて、偏光分割面で反射と透過のいずれか一方の状態で射出される。そこで、複数(6つ或いは3つ)の描画ユニットUnの各々に対応して、EO素子とPBSのセットを、光源装置LS(LS1、LS2)からのビームLBが直列に通るように配置し、EO素子に駆動信号が印加されていないときは、PBSがビームLBを透過させ、EO素子に駆動信号が印加されたときは、PBSがビームLBを反射させるように構成することにより、ビームLBを描画ユニットUnのいずれか1つに選択的に供給することができる。
その他、選択用光学素子OSnとしては、化学組成として、KDP(KH2PO4)、ADP(NH4H2PO4)、KD*P(KD2PO4)、KDA(KH2AsO4)、BaTiO3、SrTiO3、LiNbO3、LiTaO3等で表される材料による結晶媒体を、プリズム状(三角形)に形成した透過性の電気光学素子でも良い。このような結晶媒体は、印加する電圧に応じて媒体内の屈折率が変化するため、入射したビームLBのプリズムでの偏向角(屈折角)を変えることができる。さらに、入射してくるビームの進行方向を印加電圧に応じた角度で偏向させる電気光学素子として、例えば、特開2014-081575号公報、国際公開第2005/124398号パンフレットに開示されているようなKTN(KTa1-xNbxO3)結晶を用いることもできる。
また、各実施の形態や変形例では、1台の光源装置LSからのビームLBを、6つの描画ユニットU1~U6の各々に時分割で択一的に供給する場合、或いは、1台の光源装置LS1(又はLS2)からのビームLB1(又はLB2)を、3つの描画ユニットU5、U6、U3(又はU4、U1、U2)の各々に時分割で択一的に供給する場合を例示したが、描画ユニットUnの構成(fθレンズFTの口径の大型化等)によって、描画ラインSLnの主走査方向の寸法を長くできる場合は、基板Pの幅方向(主走査方向)に並べる描画ユニットUnを、例えば図3に示した描画ユニットU5、U6の2つだけにして、1台の光源装置LS(LS1)からのビームLB(LB1)を2つの描画ユニットU5、U6の各々に時分割で択一的に供給するようにしても良い。その場合、2つの描画ラインSL5、SL6の各々で描画されるパターンを主走査方向(Y方向)に継ぐ必要があるときは、2つの描画ユニットU5、U6が主走査方向と副走査方向との各々にずらして配置される。しかしながら、描画ラインSL5、SL6の各々で描画されるパターンを基板P上で重ね合せる2重露光(ダブルパターニング)方式によって精密なパターン描画を行う場合、2つの描画ユニットU5、U6は主走査方向の位置を同じにして副走査方向のみにずらして配置される。