しかしながら上述した従来の技術では、大きな振動が入力されてオリフィスが目詰まりし、第1液室が過度の負圧状態になって圧力が液体の飽和水蒸気圧を下回ると、発生した気泡が消滅するときに衝撃音(異音)が生じるという問題点がある。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、異音の抑制と弾性仕切膜の変形による振動の低減とを両立できる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
課題を解決するための手段および発明の効果
この目的を達成するために請求項1記載の液封入式防振装置によれば、第1取付具と筒状の第2取付具とがゴム状弾性体から構成される防振基体で連結される。ゴム状弾性体から構成されるダイヤフラムが第2取付具に取り付けられ、防振基体との間に液体が封入された液室が形成される。仕切体により液室は防振基体側の第1液室とダイヤフラム側の第2液室とに仕切られ、オリフィスは第1液室と第2液室とを連通する。仕切体は、ゴム状弾性体から構成される弾性仕切膜の外縁を保持し、第1部材および第2部材により弾性仕切膜の変位量を規制する。弾性仕切膜は、第1膜面および第1膜面と反対側の第2膜面からそれぞれ筒状に突出する第1弁部および第2弁部により、第1弁部および第2弁部より内側の中央部と外側の外周部とに区画される。貫通孔は外周部を厚さ方向に貫通し、第1突起は中央部の第1膜面から突出する。第1部材は、第1液室の液圧を中央部および外周部にそれぞれ及ぼす第1孔部および外周孔部が厚さ方向に貫通して形成されると共に、振動入力のない静置状態において第1孔部と外周孔部との間に第1弁部および第1突起が密接する。第2部材は、第2液室の液圧を中央部に及ぼす第2孔部が厚さ方向に貫通して形成されると共に、振動入力のない静置状態において第2孔部の周囲に第2弁部が密接する。
弾性仕切膜の第1弁部が、振動入力のない静置状態において第1孔部と外周孔部との間に密接し、弾性仕切膜の第2弁部が第2孔部の周囲に密接する間は、振動入力によって弾性仕切膜が変位しても外周孔部および貫通孔は液体が流通しないので、第1部材に形成された第1孔部および外周孔部、並びに、第2部材に形成された第2孔部は、弾性仕切膜によって液密に塞がれる。液封入式防振装置はオリフィスを流通する液体の共振現象によって振動を減衰し、オリフィスによる共振現象で減衰されない振動を、弾性仕切膜の往復動によって第1液室の圧力を吸収して減衰する。
第1液室が負圧状態になって弾性仕切膜が第1液室側へ大きく撓み変形し、第2部材に密接していた弾性仕切膜の第2弁部が第2部材から離れると、第2液室の液体が、第2孔部、第2弁部と第2部材との隙間、貫通孔、外周孔部を通って第1液室へ流れ込む。これにより第1液室の負圧が解消されるので、キャビテーションによる異音(負圧により発生した気泡が消滅するときに生じる異音)を抑制できる。なお、弾性仕切膜が第1液室側へ大きく撓み変形したときも、中央部の第1膜面から突出する第1突起は、第1部材に押されて第1孔部と外周孔部との間に密接したままなので、弾性仕切膜が第1部材に当たることによって生じる異音を抑制できる。従って、異音の抑制と弾性仕切膜の変形による振動の低減とを両立できる効果がある。
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は中央部の中心へ向かって延びる突条状に形成されるので、弾性仕切膜が第1液室側へ撓み変形すると、第1突起が延びる方向に沿って、第1突起は第1部材に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起の弾性変形によるエネルギーの急激な変化を抑制できるので、請求項1の効果に加え、弾性仕切膜と第1部材とが干渉することによる異音の発生を抑制できる効果がある。
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は中心側の先端が第1孔部の内縁より中心側へ位置する。第1突起の中心側の先端が、弾性仕切膜の第1膜面と第1孔部の内縁との衝突を緩衝するので、請求項2の効果に加え、弾性仕切膜と第1孔部の内縁との干渉による異音の発生を抑制できる効果がある。
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は、中心側の先端から第1孔部の内縁までの長さが、第1孔部の深さの1/2以下であるので、請求項3の効果に加え、異音の抑制効果を確保しつつ、第1突起が第1膜面から突出することによる弾性仕切膜の中央部の剛性の増加を抑制できる効果がある。中央部の剛性の増加を抑制できれば、弾性変形能を確保するために中央部の厚さを必要以上に薄くしなくて済むので、中央部が破れ易くなることを防ぎ、弾性仕切膜の耐久性を確保できる。
請求項5記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は、第1膜面から突出する高さが、第1膜面に沿う幅より大きい。第1膜面から突出する第1突起の高さが第1膜面に沿う幅より小さい場合と比較して、第1突起が第1部材に密接する場合に、弾性仕切膜の第1膜面と第1部材との間隔を大きくできる。よって、請求項2から4のいずれかの効果に加え、弾性仕切膜の第1膜面と第1部材とが当たることによる衝撃音(異音)を抑制できる効果がある。
請求項6記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は、中央部の中心へ向かって延びる方向と直交する断面の幅が、第1膜面から離れるにつれて狭くなるので、弾性仕切膜が第1液室側へ撓み変形すると、第1突起の高さ方向に沿って、第1突起は第1部材に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起の弾性変形によるエネルギーの急激な変化を抑制できるので、請求項2から5のいずれかの効果に加え、弾性仕切膜と第1部材とが干渉することによる異音の発生を抑制できる効果がある。
請求項7記載の液封入式防振装置によれば、第1突起は、第1膜面に沿う幅が、中央部の中心側の先端側では、中央部の中心へ向かうにつれて狭くなるので、弾性仕切膜が第1液室側へ撓み変形すると、第1突起が延びる方向に沿って、第1突起の先端側は第1部材に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起の弾性変形によるエネルギーの急激な変化を抑制できるので、請求項2から6のいずれかの効果に加え、弾性仕切膜と第1部材とが干渉することによる異音の発生を抑制できる効果がある。
請求項8記載の液封入式防振装置によれば、弾性仕切膜は、中央部の第2膜面から突出する第2突起が、第2弁部から中央部の中心へ向かって延びる突条状に形成されている。これにより、請求項2から7のいずれかの効果に加え、弾性仕切膜の第1膜面の剛性と第2膜面の剛性との偏りを抑制できる効果がある。また、第1突起は、外側の端部が第1弁部と一体化し、弾性仕切膜の厚さ方向の投影において、第2突起とは異なる位置に設けられているので、異音の抑制効果を確保しつつ、第1突起および第2突起が設けられることによる弾性仕切膜の中央部の剛性の増加を抑制できる効果がある。中央部の剛性の増加を抑制できれば、弾性変形能を確保するために中央部の厚さを必要以上に薄くしなくて済むので、中央部が破れ易くなることを防ぎ、弾性仕切膜の耐久性を確保できる。
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して液封入式防振装置10の構造について説明する。図1は本発明の一実施の形態における液封入式防振装置10の軸方向断面図である。なお、図1では、エンジンを支持する前の状態(即ち、エンジンの重量が負荷される前の状態)を図示している。
液封入式防振装置10は、自動車のエンジン(振動体、図示せず)を支持固定しつつ、そのエンジン振動を車体フレーム(図示せず)へ伝達させないようにするための防振装置であり、図1に示すように、エンジン側に取り付けられる第1取付具11と、エンジン下方の車体フレーム側に取付けられる筒状の第2取付具13と、これらを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体17と、第2取付具13に取付けられて防振基体17との間に液室(第1液室23及び第2液室24)を形成すると共にゴム状弾性体から構成されるダイヤフラム20とを備えている。
第1取付具11は、アルミニウム合金などの金属材料から略円柱状に形成される部材であり、その上端面にボルトが螺着されるねじ穴12が形成されている。ねじ穴12に螺着されるボルトを介して第1取付具11はエンジン側に取り付けられる。第2取付具13は、防振基体17が加硫成形される筒状金具14と、その筒状金具14の下方にかしめ加工により固着される底金具15とを備えている。筒状金具14は上広がりの開口を有する筒状に、底金具15は底部を有するカップ状に、それぞれ鉄鋼材料などから形成されている。底金具15の底部にボルト16が下向きに突設されている。このボルト16を介して第2取付具13は車体側に取り付けられる。
防振基体17は、ゴム状弾性体から円錐台形状に形成される部材であり、第1取付具11の下面側と筒状金具14の上端開口部との間に加硫接着されている。防振基体17の下端部には、筒状金具14の内周面を覆うゴム膜18,19が連なっている。ゴム膜19は、内径が、ゴム膜18の内径より大きい段差状に形成されている。
ダイヤフラム20は、ゴム状弾性体から蛇腹状に屈曲したゴム膜として形成されており、上面視円環状の取付板21に外周が加硫接着されている。ダイヤフラム20は、取付板21が、筒状金具14により底金具15と共にかしめ加工により狭持固定されることで、第2取付具13に取着される。その結果、ダイヤフラム20の上面側と防振基体17の下面側との間に液室が形成される。液室には、エチレングリコール等の不凍性の液体(図示せず)が封入される。
仕切体30は液室を区画するための部材であり、第2部材40、弾性仕切膜50及び第1部材60を備え、防振基体17とダイヤフラム20との間に配置されている。仕切体30は、第2部材40の外周面がゴム膜19に密着することで、防振基体17が室壁の一部を構成する第1液室23と、ダイヤフラム20が室壁の一部を構成する第2液室24との2室に液室を仕切る。第2部材40の外周面がゴム膜19に密着することで、第2部材40と筒状金具14との間に第1液室23と第2液室24とを連通するオリフィス25が形成される。
仕切体30は、上面視円環状の固定板22と、ゴム膜18,19の境界(段差部分)との間に挟まれており、固定板22が底金具15及びダイヤフラム20の取付板21と共に筒状金具14によりかしめ固定されることで、仕切体30の軸方向の位置が固定される。本実施の形態では、第1部材60及び第2部材40は合成樹脂製であり、弾性仕切膜50はゴム状弾性体から構成されている。弾性仕切膜50を挟んだ状態で第1部材60及び第2部材40が互いに溶着(本実施の形態では超音波溶着)されて仕切体30が形成される。
次に図2から図6を参照して、仕切体30を構成する第2部材40、弾性仕切体50及び第1部材60について説明する。まず図2を参照して仕切体30の概略構成について説明する。図2は仕切体30の分解立体図である。
第2部材40は、第1液室23(図1参照)及び第2液室24に面する部材であり、円筒状に形成された筒部41を備えている。筒部41は、筒部41の周方向に沿って外周面に略1周の長さの周溝42が凹設され、周溝42の両端から軸方向に沿って筒部41の外周面に溝部43,44が凹設されている。溝部43,44は、筒部41の軸方向の両端面にそれぞれ開口するので、筒部41の外周面をゴム膜19(図1参照)に密着させることで、周溝42及び溝部43,44により、第2部材40と筒状金具14との間に第1液室23と第2液室24とを連通するオリフィス25が形成される。オリフィス25は、例えば車両走行時のシェイク振動を減衰するため、シェイク振動に対応した周波数域(例えば5〜15Hz程度)で減衰係数が大きくなるように、周溝42や溝部43,44の断面積や流路長などが設定される。
第2部材40は、筒部41の内周面の内側に張り出す第1板部45、第2板部46及び第3板部48が設けられている。第3板部48は、厚さ方向(軸方向)に貫通する第2孔部49が中央に形成されている。第2孔部49は、軸方向視して円形状に形成されている。
弾性仕切膜50は、第2部材40の第2板部46及び第3板部48に外周が支持される円盤状の部材であり、第1膜面51から軸方向へ突出する円筒状の第1弁部53が設けられている。第1弁部53により弾性仕切膜50は、第1弁部53より径方向の内側の円形状の中央部55と、第1弁部53より径方向の外側の円環状の外周部56とに区画される。外周部56は、厚さ方向に貫通する長円状の貫通孔57が形成されており、中央部55は、弾性仕切膜50の中心へ向かって延びる突条状の第1突起58が第1膜面51から突出している。
第1部材60は、第2部材40の筒部41の内側に配置されることで、第1液室23(図1参照)に面する部材である。第1部材60は、円筒状に形成された筒部61を備えている。筒部61は、弾性仕切膜50が、第2部材40の第2板部46及び第3板部48に載置された状態で、第2部材40の第1板部45に設置される部位である。第1部材60は、軸方向に開口する溝状の凹部61aが、筒部61の外周面に形成されている。第2部材40の筒部41の内周面に形成された凸部41aに凹部61aを嵌めることで、第2部材40に対する第1部材60の周方向の位置決めができる。
筒部61は、径方向の外側から内側へ向かって張り出す張出部62が、壁の一部に形成されている。張出部62は、軸方向の端面を軸方向および周方向へ窪ませた段差部63が形成されている。段差部63は、第1部材60が第2部材40に設置された状態で、溝部43に繋がる部位である。張出部62及び段差部63が筒部61に形成されているので、第2部材40に第1部材60を固着した状態で、オリフィス25(図1参照)を第1液室23に開口できる。
第1部材60は、筒部61の内周面の内側に張り出す板部64が設けられている。板部64は、厚さ方向に貫通する第1孔部65が中央に形成されている。第1孔部65は、軸方向視して円形状に形成されている。板部64は、第1孔部65の径方向の外側に、厚さ方向に貫通する長円状の外周孔部66が形成されている。板部64は筒部61に繋がる複数のリブ67が設けられているので、板部64の強度を確保できる。
図3を参照して第2部材40について説明する。図3(a)は第2部材40の平面図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における第2部材40の断面図である。図3(a)及び図3(b)に示すように第2部材40は、筒部41の内周面に円環状の第1板部45が設けられており、第1板部45の径方向の内側であって第1板部45よりも軸方向の第1方向(図3(b)下方)側に、円環状の第2板部46が設けられている。第2板部46は、軸方向の第2方向(図3(b)上方)側へ向かって突出する係止部47が、径方向の内側の端部に設けられている。係止部47は、軸方向から見て円環状に形成されている。第2部材40は、第2板部46の径方向の内側であって第2板部46よりも軸方向の第1方向(図3(b)下方)側に、円環状の第3板部48が設けられている。第3板部48は、貫通孔49が中央に形成されている。
図4及び図5を参照して弾性仕切膜50について説明する。図4(a)は弾性仕切膜50の平面図であり、図4(b)は弾性仕切膜50の底面図である。図5(a)は図4(a)のVa−Va線における弾性仕切膜50の断面図であり、図5(b)は図4(a)のVb−Vb線における弾性仕切膜50の断面図である。
図4(a)及び図4(b)に示すように弾性仕切膜50は、軸方向から見て円形状に形成された第1膜面51及び第2膜面52を備える円盤状の部材である。図4(a)及び図5(a)に示すように第1膜面51は、軸方向の第2方向(図5(a)上方)側へ向かって突出する円筒状の第1弁部53が設けられている。第1弁部53は、軸方向から見て円環状に形成されている。図4(b)及び図5(a)に示すように第2膜面52は、軸方向の第1方向(図5(a)下方)側へ向かって突出する円筒状の第2弁部54が設けられている。第2弁部54は、軸方向から見て円環状に形成されている。
図5(a)に示すように、第1弁部53及び第2弁部54よりも径方向の内側(中心O側)に位置する中央部55は、第1弁部53及び第2弁部54よりも径方向の外側に位置する外周部56より厚さ(軸方向の寸法)が大きく設定されている。外周部56は、外周縁が、第2部材40の係止部47及び第1部材60の係止部68(後述する)に挟まれて液密に保持される部位である。第1弁部53及び第2弁部54は、外周部56側の裾の傾斜が、中央部55側の裾の傾斜より緩やかになるように形成されている。外周部56は、厚さ方向に貫通する貫通孔57が形成されている。本実施の形態では、貫通孔57は周方向に長く延びる長円状に形成されており、外周部56の4箇所に等間隔に設けられている。
中央部55は、第1膜面51に第1突起58が設けられている。第1突起58は、弾性仕切膜50の第1膜面51と第1部材60との衝突を防ぐための部位であり、第1弁部53から中央部55の中心Oへ向かって延びる突条状に形成されている。本実施の形態では、第1突起58は第1膜面51を周方向に等分した12カ所に設けられており(図4(a)参照)、互いに同一幅かつ同一高さに形成されている。また、第1突起58は、第1膜面51に沿う幅が、中央部55の中心O側の先端側では、中央部55の中心Oへ向かうにつれて狭くなるように形成されている。
中央部55は、第2膜面52に第2突起59が設けられている。第2突起59は、弾性仕切膜50の第2膜面52の剛性を確保するための部位であり、第2弁部54から中央部55の中心Oへ向かって延びる突条状に形成されている。本実施の形態では、第2突起59は第2膜面52を周方向に等分した12カ所に設けられており(図4(b)参照)、互いに同一幅かつ同一高さに形成されている。また、第2突起59は、第1突起58と同一の形状かつ同一の大きさに形成されている。
図5(a)に示すように中央部55は、中心Oから外周部56へ向かうにつれて次第に厚くなるように第1膜面51及び第2膜面52が曲面状に形成されている。第1弁部53は、第1膜面51から突出する高さが、第2弁部54が第2膜面52から突出する高さと同一に設定されている。また、第1突起58は、第1膜面51から突出する高さが、第1弁部53が第1膜面51から突出する高さと同一に設定されている。
第2突起59が第2膜面52から突出する高さは、第1突起58が第1膜面51から突出する高さと同一である。第2突起59が、第1突起58と同様に第2弁部54から中央部55の中心Oへ向かって延びる突条状に形成されているので、第1突起53が形成された第1膜面51の剛性と第2膜面52の剛性との偏りを抑制できる。
図5(b)に示すように第1突起58は、第1膜面51から突出する高さが、第1膜面51に沿う幅より大きく設定されている。また第1突起58は、断面の幅が、第1膜面51から離れるにつれて狭くなるように形状が設定されている。第1突起58は、第1弁部53と一体化し、弾性仕切膜50の厚さ方向の投影において、第2突起59とは異なる位置に設けられている。よって、第1突起58と第2突起59とが重なる位置に形成される場合と比較して、第1突起58及び第2突起59が設けられることによる弾性仕切膜50の中央部55の剛性の増加を抑制できる。中央部55の剛性の増加を抑制できれば、弾性変形能を確保するために中央部55の厚さを必要以上に薄くしなくて済むので、中央部55が破れ易くなることを防ぎ、弾性仕切膜50の耐久性を確保できる。
図6を参照して第1部材60について説明する。図6(a)は第1部材60の平面図であり、図6(b)は図6(a)のVIb−VIb線における第1部材60の断面図である。図6(a)及び図6(b)に示すように第1部材60は、筒部61の内周面に円環状の板部64が設けられている。板部64は、第1孔部65が中央に形成されており、第1孔部65の外側の4カ所に外周孔部66が等間隔に形成されている。板部64は、軸方向の第1方向(図6(b)下方)側へ向かって突出する係止部68が、外周孔部66より径方向の外側に設けられている。係止部68は、軸方向から見て円環状に形成されている。
図7は仕切体30の分解図である。図7では、同じ尺度で描かれた第1部材60、弾性仕切膜50及び第2部材40が互いに分離されて共通軸上に配置された状態(共通軸を含む断面)が図示されている。
弾性仕切膜50は、第2部材40の係止部47と第1部材60の係止部68との間に外周部56の外周縁が挟まれることで、第1部材60及び第2部材40に外周部56が液密に固定される。振動入力のない静置状態において、第2部材40の第3板部48に弾性仕切膜50の第2弁部54が液密に押し付けられ、第1部材60の板部64に弾性仕切膜50の第1弁部53が液密に押し付けられることで、中央部55が、第2部材40の第2孔部49と第1部材60の第1孔部65との間の液体の流通を阻止する。
弾性仕切膜50は、外周部56の径方向の寸法(外周部56の外径−中央部55の外径)が、第1孔部49及び第2孔部65の内径より小さく設定されている。これにより、シェイク振動より周波数の高い小振幅振動の入力時に、弾性仕切膜50の中央部55を軸方向に往復動変形させ易くできる。
弾性仕切膜50の第1突起58は、中心O側の先端が、第1孔部65の内縁より中心O側へ位置するように長さが設定されている。特に第1突起58は、共通軸を含む断面において、中心O側の先端から第1孔部65の内縁までの長さLが、第1孔部65の深さ(軸方向寸法)Dの1/2以下に設定されている。
図8及び図9を参照して仕切体30の動作について説明する。図8は仕切体30の軸方向断面図であり、図9は仕切体30の一部の軸方向断面図である。なお、図8及び図9では、仕切体30以外の液封入式防振装置10の各構成の図示が省略されている。
図8に示すように弾性仕切膜50は、振動入力のない静置状態において、第1弁部53、第2弁部54、第1突起58及び第2突起59に軸方向の予圧縮を与えた状態で仕切体30に保持される。第2弁部54は、外周部56側の裾の傾斜が、中央部55側の裾の傾斜より緩やかになるように形成されているので、第2弁部54は軸方向へ変形して中央部55側に倒れた状態で第3板部48(第2部材40)に密接する。
液封入式防振装置10は、車両への装着状態において、エンジンのシェイク振動に相当する低周波(例えば5〜15Hz程度)の大振幅振動が入力されると、第1液室23と第2液室24との間でオリフィス25を通じて液体が流動する。オリフィス25を流通する液体の共振現象により、液封入式防振装置10は振動を減衰する。特に、中央部55は、中心Oから外周部56へ向かうにつれて次第に厚くなるように第1膜面51及び第2膜面52が曲面状に形成されているので、中央部55の外周部分の剛性を高めることができる。その結果、弾性仕切膜50の弾性変形によって第1液室23の圧力損失(即ち防振性能の低下)が生じることを抑制できる。
なお、低周波大振幅振動の入力時には、弾性仕切膜50の中央部55の弾性変形が入力振動の振幅に追随しきれないので、第1弁部53及び第2弁部54がそれぞれ板部64及び第3板部48に密接した状態が維持される。これにより第2孔部49が閉鎖されるので、第1液室23の液体が第2孔部49を通じて第2液室24へ逃げることを阻止できる。オリフィス25を流通する液体の量を確保できるので、オリフィス25の液柱共振による振動減衰効果が得られる。
シェイク振動より周波数の高い小振幅振動の入力時には、オリフィス25が実質的に目詰まり状態となるが、弾性仕切膜50の中央部55が微小な軸方向の往復動変形を生じる。これにより、オリフィス25が目詰まりして第1液室23が密閉されることによる高動ばね化を抑制できる。その結果、高周波の小振幅振動の絶縁効果が得られる。特に、中央部55は、外周部56側から中心Oへ向かうにつれて次第に薄くなるように第1膜面51及び第2膜面52が曲面状に形成されているので、中央部55の中心O部分の剛性を低下させ、中央部55の中心O付近を弾性変形させ易くできる。よって、中央部55の往復動変形による振動の絶縁効果を確保できる。
なお、車両の走行時に段差を乗り越える等の大きな振動が液封入式防振装置10に入力されると、第1液室23の圧力が著しく低下することがある。第1液室23の圧力が液体の飽和水蒸気圧を下回ると、キャビテーションによる気泡が発生する。この気泡が消失するときに生じる衝撃波のエネルギーが筒状金具14を介して車体(図示せず)に伝達されることで異音が発生する。
図9に示すように液封入式防振装置10は、第1液室23の圧力が著しく低下すると、弾性仕切膜50が第1液室23側へ大きく撓み変形する。第2部材40の第3板部48に密接していた弾性仕切膜50の第2弁部54が第3板部48から離れると、第2液室24の液体が、第2孔部49、第2弁部54と第3板部48との隙間、貫通孔57、外周孔部66を通って第1液室23へ流れ込む。これにより第1液室23の負圧が解消されるので、キャビテーションによる異音の発生を防止できる。
弾性仕切膜50は、第1突起58が予圧縮により第1部材60(板部64)に押し付けられているので、第1液室23の圧力が低下して弾性仕切膜50が第1液室23側へ大きく撓み変形したときは、第1突起58が板部64に押し付けられる面積がさらに広がる。予圧縮された第1突起58が、弾性仕切膜50の第1膜面51と板部64との間に介在するので、第1膜面51が第1部材60(板部64)に当たることによって生じる異音を抑制できる。従って、異音の抑制と弾性仕切膜50の弾性変形(微小な往復動変形)による振動の低減とを両立できる。
なお、第1突起53は中央部55の中心Oへ向かって延びる突条状に形成されているので、第1液室23の圧力低下によって弾性仕切膜50が第1液室23側へ撓み変形すると、第1突起53が延びる方向に沿って、第1突起53は第1部材60(板部64)に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起53の弾性変形による消費エネルギーの急激な変化を抑制できるので、弾性仕切膜50と第1部材60とが干渉することによる異音の発生を抑制できる。
また、第1突起53は中心O側の先端が第1孔部65の内縁より中心O側へ位置するので(図7参照)、第1突起53の中心O側の先端が、弾性仕切膜50の第1膜面51と第1孔部65の内縁との衝突を緩衝する。よって、弾性仕切膜50と第1孔部65の内縁との干渉による異音の発生を抑制できる。
なお、第1突起53は、中心O側の先端から第1孔部65の内縁までの長さが、第1孔部65の深さの1/2以下である(図7参照)。第1突起53を必要以上に長くしないことで、異音の抑制効果を確保しつつ、第1突起53が第1膜面51から突出することによる弾性仕切膜50の中央部55の剛性の増加を抑制できる。中央部55の剛性の増加を抑制できれば、弾性変形能を確保するために中央部55の厚さを必要以上に薄くしなくて済むので、中央部55が破れ易くなることを防ぎ、弾性仕切膜50の耐久性を確保できる。
弾性仕切膜50の第2弁部54が第3板部48から離間して第1液室23の負圧が解消されると、弾性仕切膜50は初期位置に復元し、再び第2弁部54が第3板部48に密接する。その復元力は弾性仕切膜50のゴム弾性によるものなので、第2弁部54が第3板部48に衝突するときの衝撃力を小さくできる。よって、弾性仕切膜50は初期位置に復元するときの異音を抑制できる。
第2弁部54は、軸方向へ変形して中央部55側に倒れた状態で第3板部48(第2部材40)に密接するので、第2弁部54が第3板部48に接した後も軸方向へ弾性変形可能である。第2弁部54の弾性変形による消費エネルギーの分だけ第2部材40への伝達エネルギーを低減できるので、異音の発生をさらに抑制できる。
第1突起53は、第1膜面51から突出する高さが、第1膜面51に沿う幅より大きいので(図5(b)参照)、第1膜面51から突出する第1突起53の高さが第1膜面51に沿う幅より小さい場合と比較して、第1突起53が第1部材60(板部64)に密接する場合に、弾性仕切膜50の第1膜面51と第1部材60(板部64)との間隔を大きくできる。第1突起53が潰れて第1部材60(板部64)が第1膜面51に当たるまでの距離を稼ぐことができるので、弾性仕切膜50の第1膜面51と第1部材60(板部64)とが当たることによる衝撃音(異音)を抑制できる。
第1突起53は、中央部55の中心Oへ向かって延びる方向と直交する断面の幅が、第1膜面51から離れるにつれて狭くなるので(図5(b)参照)、弾性仕切膜50が第1液室23側へ撓み変形すると、第1突起53の高さ方向に沿って、第1突起53は第1部材60に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起53の弾性変形による消費エネルギーの急激な変化を抑制できるので、弾性仕切膜50と第1部材60とが干渉することによる異音の発生を抑制できる。
第1突起53は、第1膜面51に沿う幅が、中央部55の中心O側の先端側では、中央部55の中心Oへ向かうにつれて狭くなるので(図4(a)参照)、弾性仕切膜50が第1液室23側へ撓み変形すると、第1突起53が延びる方向に沿って、第1突起53は第1部材60に押されて潰れる面積が徐々に増加する。第1突起53の弾性変形による消費エネルギーの急激な変化を抑制できるので、弾性仕切膜50と第1部材60とが干渉することによる異音の発生を抑制できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、第1部材60及び第2部材40に形成された第1孔部65及び第2孔部49の形状や大きさ、第1部材60に形成された外周孔部66の形状や大きさ、数量、弾性仕切膜50に形成された貫通孔57の形状や大きさ、数量、弾性仕切膜50に形成された第1突起58及び第2突起59の形状や大きさ、数量などは、この実施形態に限定されるものではなく種々の変更が可能である。
上記実施の形態では、自動車のエンジンを弾性支持するエンジンマウントとして液封入式防振装置10を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ボディマウント、デフマウント等、任意の振動体の振動を抑制する防振装置に液封入式防振装置10を適用することは当然可能である。