ここで、回転電機は、ロータ(回転子)を内側に収容し、ステータ(固定子)を外側に配置したインナーロータ型の回転電機が良く用いられる。そして、このようなインナーロータ型の回転電機では、ロータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を採用することが知られている。このスキュー構造を採用した回転電機では、急激な磁束の変化を抑制することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
しかしながらその一方で、上記スキュー構造を採用した回転電機ではトルクが低下する問題があった。
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、スキュー構造を採用した回転電機に配置される永久磁石について、磁束を集中させることによって最大磁束密度を向上させ、回転電機のトルクや発電量の増加を実現した回転電機用永久磁石、回転電機用永久磁石の製造方法、該回転電機用永久磁石を用いた回転電機及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る回転電機用永久磁石は、セグメント形状を有するとともに、回転電機のロータ又はステータの表面において周方向に所定間隔で離間して配置された複数の永久磁石を有し、前記複数の永久磁石の夫々が、配置対象となる前記ロータ又は前記ステータの径方向で且つエアギャップ側に設定された集束軸に沿った方向へと集束するように磁化容易軸が傾斜して配向され、前記集束軸は、前記回転電機の回転軸に対して所定角度傾斜した螺旋方向に沿って列状に配置され、且つ該列の数は配置対象となる前記ロータ又は前記ステータが備える極数に応じて設定されることを特徴とする。
また、請求項2に係る回転電機用永久磁石は、請求項1に記載の回転電機用永久磁石であって、前記集束軸は、螺旋方向に沿って直線状又は階段状に配置されることを特徴とする。
また、請求項3に係る回転電機用永久磁石は、請求項1又は請求項2に記載の回転電機用永久磁石であって、配置対象となる前記ロータ又は前記ステータの軸方向に沿って複数に分割して構成され、分割された各分割体を配置対象となる前記ロータ又は前記ステータに対して周方向に段階的に位置をずらして配置することを特徴とする。
また、請求項4に係る回転電機用永久磁石は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の回転電機用永久磁石であって、磁極が形成された表面の周方向における磁束密度分布の形状が正弦波形状となることを特徴とする。
また、請求項5に係る回転電機用永久磁石は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転電機用永久磁石であって、磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、前記混合物に対して磁場を印加することにより磁場配向する工程と、磁場配向された前記混合物の成形体を焼成温度で保持することにより焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
また、請求項6に係る回転電機用永久磁石は、請求項5に記載の回転電機用永久磁石であって、前記磁場配向する工程では、前記混合物に対して磁場を印加するとともに、磁場の印加された前記混合物を前記成形体へと変形することによって磁化容易軸の方向を操作して、磁場配向を行うことを特徴とする。
また、請求項7に係る回転電機用永久磁石は、請求項6に記載の回転電機用永久磁石であって、前記磁場配向する工程では、前記混合物をシート状に成形した後に、シート状の前記混合物に磁場を印加することを特徴とする。
また、請求項8に係る回転電機用永久磁石は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の回転電機用永久磁石であって、前記回転電機の前記ロータ又は前記ステータに配置され且つ着磁された場合に、エアギャップ側へと磁石内部の磁束が集中することを特徴とする。
また、請求項9に係る回転電機は、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の回転電機用永久磁石をロータ又はステータに配置したことを特徴とする。
また、請求項10に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、セグメント形状を有するとともに、回転電機のロータ又はステータの表面において周方向に所定間隔で離間して配置された複数の永久磁石を有する回転電機用永久磁石の製造方法であって、磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、前記混合物に対して磁場を印加することにより磁場配向する工程と、磁場配向された前記混合物の成形体を焼成温度で保持することにより焼結する工程と、を有し、前記磁場配向する工程では、前記複数の永久磁石の夫々が、配置対象となる前記ロータ又は前記ステータの径方向で且つエアギャップ側に設定された集束軸に沿った方向へと集束するように磁化容易軸を傾斜して配向し、前記集束軸は、前記回転電機の回転軸に対して所定角度傾斜した螺旋方向に沿って列状に配置され、且つ該列の数は配置対象となる前記ロータ又は前記ステータが備える極数に応じて設定されることを特徴とする。
また、請求項11に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項10に記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記集束軸は、螺旋方向に沿って直線状又は階段状に配置されることを特徴とする。
また、請求項12に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項10又は請求項11に記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記回転電機用永久磁石は、配置対象となる前記ロータ又は前記ステータの軸方向に沿って複数に分割して構成され、分割された各分割体を配置対象となる前記ロータ又は前記ステータに対して周方向に段階的に位置をずらして配置することを特徴とする。
また、請求項13に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項10乃至請求項12のいずれかに記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記磁場配向する工程では、製造された回転電機用永久磁石の磁極が形成された表面の周方向における磁束密度分布の形状が正弦波形状となるように配向することを特徴とする。
また、請求項14に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項10乃至請求項13のいずれかに記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記磁場配向する工程では、前記混合物に対して磁場を印加するとともに、磁場の印加された前記混合物を前記成形体へと変形することによって磁化容易軸の方向を操作して、磁場配向を行うことを特徴とする。
また、請求項15に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項14に記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記磁場配向する工程では、前記混合物をシート状に成形した後に、シート状の前記混合物に磁場を印加することを特徴とする。
また、請求項16に係る回転電機用永久磁石の製造方法は、請求項10乃至請求項15のいずれかに記載の回転電機用永久磁石の製造方法であって、前記回転電機の前記ロータ又は前記ステータに配置され且つ着磁された場合に、エアギャップ側へと磁石内部の磁束が集中することを特徴とする。
更に、請求項17に係る回転電機の製造方法は、回転電機の製造方法であって、請求項10乃至請求項16のいずれかの製造方法で製造された回転電機用永久磁石をロータ又はステータに配置することにより製造することを特徴とする。
前記構成を有する請求項1に記載の回転電機用永久磁石によれば、回転電機のスキュー構造を実現するとともにロータ又はステータの径方向で且つエアギャップ側に設定された集束軸に沿った方向へと集束するように磁化容易軸が傾斜して配向されるので、磁極の形成された表面では着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。特に、回転電機のロータやステータに永久磁石を配置することとすれば、エアギャップ側に磁束を集中させることによって最大磁束密度を向上させ、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させるとともに、トルクリップルの軽減も可能となる。
また、永久磁石の配置された回転電機では、スキュー構造を採用することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
また、請求項2に記載の回転電機用永久磁石によれば、集束軸は螺旋方向に沿って直線状又は階段状に配置されるので、ロータやステータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を実現することが可能となる。
また、請求項3に記載の回転電機用永久磁石によれば、ロータやステータの軸方向に沿って複数に分割して構成し、分割された各分割体をロータやステータに対して周方向に段階的に位置をずらして配置するので、ロータやステータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を容易な構成によって実現することが可能となる。
また、請求項4に記載の回転電機用永久磁石によれば、磁極が形成された表面の周方向における磁束密度分布の波形を理想的な正弦波形状に近づけることが可能となる。その結果、トルクリップルを減少させ、更に回転電機に設置した場合に回転電機の駆動制御を正確に行うことができる。
また、請求項5に記載の回転電機用永久磁石によれば、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を成形するように構成することによって、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。
また、バインダーとの混合物を成形するので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。
また、バインダーとの混合物に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。そして、配向後に配向方向を補正することとすれば、高配向かつバラつきの少ない配向を確保することが可能となる。
更に、バラつきの少ない高配向が実現できる事は、焼結による収縮のバラつきの低減に繋がる。即ち、焼結後の製品形状の均一性が確保できる。その結果、焼結後の外形加工に対する負担が軽減され、量産の安定性が大きく向上する事が期待できる。
また、請求項6に記載の回転電機用永久磁石によれば、一旦磁場配向された混合物を変形することによって、配向方向を補正し、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、高配向かつバラつきの少ない配向を行うことが可能となる。また、混合物を成形体へと成形する際に、成形体への変形を行うと同時に配向方向を補正することが可能となる。その結果、永久磁石の成形工程と配向工程とを一の工程で行うことが可能となり、生産性を向上させることが可能となる。
また、請求項7に記載の回転電機用永久磁石によれば、混合物を一旦シート状に成形した後に磁場配向を行い、その後に成形体への変形を行うので、成形工程や磁場配向工程を連続工程で効率よく行うことが可能であり、生産性を向上させることが可能となる。
また、請求項8に記載の回転電機用永久磁石によれば、回転電機のロータやステータの周方向に沿ってエアギャップ側へと磁化容易軸を傾斜させるので、ロータやステータに配置され且つ着磁された場合においてエアギャップ側へと磁束をより集中させることが可能となる。その結果、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させることが可能となる。
また、請求項9に記載の回転電機によれば、スキュー構造を有する回転電機において、従来に比べて発電機の発電力の向上、モータの高トルク化、小型化、低トルクリップル化、高効率化を実現することが可能となる。
また、請求項10に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、製造された永久磁石は、回転電機のスキュー構造を実現するとともにロータやステータの径方向で且つエアギャップ側に設定された集束軸に沿った方向へと集束するように磁化容易軸が傾斜して配向されるので、磁極の形成された外周表面では着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。特に、回転電機のロータやステータに永久磁石を配置することとすれば、エアギャップ側に磁束を集中させることによって最大磁束密度を向上させ、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させるとともに、トルクリップルの軽減も可能となる。
また、永久磁石の配置された回転電機では、スキュー構造を採用することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
また、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を成形するように構成することによって、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。
また、バインダーとの混合物を成形するので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。
また、バインダーとの混合物に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。そして、配向後に配向方向を補正することとすれば、高配向かつバラつきの少ない配向を確保することが可能となる。
更に、バラつきの少ない高配向が実現できる事は、焼結による収縮のバラつきの低減に繋がる。即ち、焼結後の製品形状の均一性が確保できる。その結果、焼結後の外形加工に対する負担が軽減され、量産の安定性が大きく向上する事が期待できる。
また、請求項11に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、集束軸は螺旋方向に沿って直線状又は階段状に配置されるので、ロータやステータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を実現することが可能となる。
また、請求項12に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、ロータやステータの軸方向に沿って複数に分割して構成し、分割された各分割体をロータやステータに対して周方向に段階的に位置をずらして配置するので、ロータやステータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を容易な構成によって実現することが可能となる。
また、請求項13に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、永久磁石の磁極が形成された表面の周方向における磁束密度分布の波形を理想的な正弦波形状に近づけることが可能となる。その結果、トルクリップルを減少させ、更に回転電機に設置した場合に回転電機の駆動制御を正確に行うことができる。
また、請求項14に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、一旦磁場配向された混合物を変形することによって、配向方向を補正し、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、高配向かつバラつきの少ない配向を行うことが可能となる。また、混合物を成形体へと成形する際に、成形体への変形を行うと同時に配向方向を補正することが可能となる。その結果、永久磁石の成形工程と配向工程とを一の工程で行うことが可能となり、生産性を向上させることが可能となる。
また、請求項15に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、混合物を一旦シート状に成形した後に磁場配向を行い、その後に成形体への変形を行うので、成形工程や磁場配向工程を連続工程で効率よく行うことが可能であり、生産性を向上させることが可能となる。
また、請求項16に記載の回転電機用永久磁石の製造方法によれば、回転電機のロータやステータの周方向に沿ってエアギャップ側に磁化容易軸を傾斜させるので、ロータやステータに配置され且つ着磁された場合においてエアギャップ側へと磁束をより集中させることが可能となる。その結果、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させることが可能となる。
更に、請求項17に記載の回転電機の製造方法によれば、スキュー構造を有する回転電機において、従来に比べて発電機の発電力の向上、モータの高トルク化、小型化、低トルクリップル化、高効率化を実現することが可能となる。
以下、本発明に係る回転電機用永久磁石及び回転電機用永久磁石の製造方法、並びに該回転電機用永久磁石を用いた回転電機及び回転電機の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る回転電機用永久磁石に相当する永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示すように本発明に係る永久磁石1は円環形状を有する異方性リング磁石である。そして、図2に示すように表面磁石型のモータ(又は発電機)2のロータ3の表面に配置され、表面磁石型のモータ(又は発電機)2を構成する。尚、以下の実施例では永久磁石1を極異方性リング磁石とした例について説明するが、永久磁石1の形状(例えば径の大きさ)や極数等については後述のように永久磁石の成形態様、配向態様によって適宜変更可能である。
また、本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系磁石からなる。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素を少量含んでも良い。
また、図1に示すように永久磁石1は複数の扇型形状(セグメント型)の焼結部材4が円環状に組み合わされた後に互いに樹脂等からなる接着剤(例えば樹脂と溶媒の混合物)によって接合され、その後、着磁されることによって構成されている。尚、焼結部材4の接合は、接着剤以外に可塑剤、熱圧着により行うことも可能である。また、焼結部材4の数は永久磁石1の極数に応じた数となり、例えば永久磁石1の極数を4極とする場合には、図1に示すように4個の焼結部材4から構成される。但し、後述の図4や図5に示すように永久磁石1を構成する焼結部材4を軸方向に分割する場合には、極数×分割数(図4に示す例では12個)の焼結部材4から構成されることとなる。尚、本発明に係るモータ2は後述のようにスキュー構造を有する。即ち、永久磁石1の磁極が、軸方向に対して傾斜するように構成される。
更に、永久磁石1を構成する各焼結部材4は、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物を成形した成形体(グリーン成形体)によって形成される。尚、混合物を直接に図1に示すセグメント型形状に成形するのではなく、一旦セグメント型形状以外(例えば、シート形状、ブロック形状等)に成形し、その後に打ち抜き加工、切削加工、変形加工等を行うことによってセグメント型形状とする構成としても良い。また、特に混合物を一旦シート形状とした後にセグメント型形状に加工する構成とすれば連続工程で生産することによって生産性を向上でき、また、成形の精度についても向上させることができる。混合物をシート形状とする場合には、例えば0.05mm〜10mm(例えば1mm)の厚さを備えた薄膜状のシート部材とする。尚、シート形状とした場合であっても、複数枚積層することとすれば、大型の永久磁石1を製造することも可能である。
また、本発明に係る永久磁石1は異方性磁石であり、図3に示すように永久磁石1を構成する各焼結部材4は、磁石表面を通過する集束軸Pに沿った一方向(図3ではエアギャップ側となる凸面方向)へと磁化容易軸(C軸)が集束するように配向されている。その結果、焼結部材4を組み合わせたリング形状の永久磁石1の配向は、後述のように極異方性を有することとなる。
また、集束軸Pは、ロータ3の回転軸に対して所定角度(例えば30度)傾斜した螺旋方向に沿って列状に配置される。それによって、着磁後の永久磁石1の磁極が軸方向に対して傾斜するように形成され、従来のように磁石形状自体を螺旋形状にしなくとも、モータ2のスキュー構造を実現することが可能となる。更に、集束軸Pが配置される列5の数は、ロータ3が備える極数に応じて設定される。即ち、ロータ3の極数を4極とする場合には、集束軸Pは4つの列5に配置されることとなる。また、螺旋方向に沿って配置される集束軸Pの列5は、図3に示すように直線状であっても良いし、図4や図5に示すような階段状であっても良い。
例えば、図3は、一例として螺旋方向に沿って集束軸Pが直線状に配置される例を示す。また、図3では永久磁石1の周方向に沿って切断した断面X、断面Y、断面Zにおける磁化容易軸の配向方向を示した模式図を示す。尚、図3では永久磁石1を構成する一の焼結部材4の配向方向のみを示しているが、永久磁石1を構成する他の焼結部材4の配向方向も同様の構成を有する。図3に示すように、断面X、断面Y、断面Zでは、磁化容易軸が集束する集束軸Pの位置が異なる。具体的には、断面Xでは集束軸Pが焼結部材4の左寄りを通過するように設定され、断面Yでは集束軸Pが焼結部材4の中央付近を通過するように設定され、断面Zでは集束軸Pが焼結部材4の右寄りを通過するように設定される。図3に示すように焼結部材4の磁化容易軸を、螺旋方向に沿って集束軸Pの位置が移動するように配向させることによって、着磁後の永久磁石1の磁極が軸方向に対して傾斜するように形成される(即ちスキュー構造を実現する)こととなる。
一方、図4は、一例として螺旋方向に沿って集束軸Pが階段状に配置される例を示す。図4に示す例では、永久磁石1を構成する焼結部材4を軸方向に複数個(例えば上中下の3段に)分割する。尚、軸方向に分割された焼結部材4は、互いに固定しても良いし、固定しなくても良い。また、図4では永久磁石1の周方向に沿って切断した断面X、断面Y、断面Zにおける磁化容易軸の配向方向を示した模式図を示す。尚、図4では永久磁石1を構成する一部の焼結部材4の配向方向のみを示しているが、永久磁石1を構成する他の焼結部材4の配向方向も同様の構成を有する。図4に示すように、断面X、断面Y、断面Zでは、磁化容易軸が集束する集束軸Pの位置が異なる。具体的には、最も上段に位置する焼結部材4の断面Xでは集束軸Pが焼結部材4の左寄りを通過するように設定され、中段に位置する焼結部材4の断面Yでは集束軸Pが焼結部材4の中央付近を通過するように設定され、最も下段に位置する焼結部材4の断面Zでは集束軸Pが焼結部材4の右寄りを通過するように設定される。図4に示すように焼結部材4の磁化容易軸を、螺旋方向に沿って集束軸Pの位置が階段状に移動するように配向させることによって、着磁後の永久磁石1の磁極が軸方向に対して傾斜するように形成される(即ちスキュー構造を実現する)こととなる。
また、図5は、図4と同じく螺旋方向に沿って集束軸Pが階段状に配置される例を示す。しかしながら、図5に示す例では、永久磁石1を構成する焼結部材4を軸方向に分割し、且つ周方向に段階的に位置をずらして配置する。尚、軸方向に分割された焼結部材4は、互いに固定しても良いし、固定しなくても良い。その結果、永久磁石1を構成する全ての焼結部材4の磁化容易軸の配向方向を同一方向とした場合であっても、焼結部材4を組み合わせた永久磁石1は螺旋方向に沿って集束軸Pの位置が階段状に移動するように配向される。従って、着磁後の永久磁石1の磁極が軸方向に対して傾斜するように形成される(即ちスキュー構造を実現する)こととなる。尚、図5に示す例では集束軸Pは、焼結部材4の中央付近を通過するように設定しているが、中央付近ではなく右側寄り又は左側寄りに設定しても良い。
また、図4や図5に示す例では、列5は軸方向に平行となっているが、列5を軸方向に対して傾斜させても良い。その場合には、焼結部材4を組み合わせた永久磁石1は、図3に示す例のように螺旋方向に沿って集束軸Pの位置が直線状に移動するように配向させることも可能である。
また、永久磁石1がロータ3に配置された場合には、図3〜図5に示すようにロータ3の周方向に沿って、径方向且つ外側方向(即ちエアギャップ側)に磁化容易軸(C軸)が傾斜するように配向される。より具体的には、磁化容易軸が指数曲線に沿って形成されることとなる。その結果、永久磁石1がロータ3に配置され且つ着磁された場合に、スキュー構造を実現しつつロータ3の径方向に沿って回転軸方向から外側方向(即ちエアギャップ側)へと磁石内部の磁束が集中する(即ち、磁石の外側表面の磁束密度が高くなる)こととなる。
また、磁化容易軸が直線状に集束軸Pに沿った一方向へ集束するように配向しても良い。その場合であっても、焼結部材4を組み合わせた永久磁石1の配向は極異方性を有することとなる。
また、本発明に係る永久磁石1では、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物に対して磁場を印加して配向するので、圧粉成形のように配向後に付加された圧力によって磁石粒子が回動することがなく、配向度を向上させることが可能である。また、PLP法のように磁石粉末の密度分布にばらつきが生じることがないので、ニアネットシェイプ性が向上する。更に、製品形状(例えば図1に示すセグメント型)への成形前の混合物に対して磁場を印加して一旦配向を行った後に、混合物の磁化容易軸の方向を考慮して混合物を成形(例えば変形加工)し、製品形状へと成形することとすれば、製品形状への成形過程において磁化容易軸の方向を操作することができる。即ち、製造者の意図する方向へ磁化容易軸を適切に配向させることが可能となる。その結果、複雑な方向へと磁化容易軸を配向した永久磁石(例えば図3に示すような磁化容易軸を特定方向に集束させるように配向した異方性リング磁石)を容易且つ精度良く実現することが可能となる。
尚、永久磁石1に対する磁場配向では、上述したように製品形状(例えば図1に示すセグメント型)への成形前の混合物に対して磁場を印加して一旦配向を行った後に、その後に成形を行うことによって成形体に対する磁場配向を行う構成としても良いし、製品形状へと成形した後に磁場を印加して配向を行っても良い。
そして、特に図3〜図5に示すように磁化容易軸が配向された焼結部材4を円環状に接合した永久磁石1は、図6に示すような極異方配向を実現することが可能となる。それによって、磁極の形成される外周表面の周方向における磁束密度分布について、正弦波的な磁束密度分布を得ることが可能である。そして、極異方配向を有する永久磁石を備えた回転電機では、回転電機のトルクや発電量を向上させ、更に、トルクリップルを制限させ、回転電機の駆動制御を正確に行うことができるメリットがある。また、永久磁石1の外周表面の周方向における磁束密度分布(即ち、回転電機のエアギャップにおける磁束密度分布)の波形を理想的な正弦波形状に近づけることによって、トルクリップルをより減少させ、回転電機の静音化や低振動化を実現することが可能となる。
更に、図3〜図5に示すように磁化容易軸が配向された焼結部材4を円環状に接合した永久磁石1は、ロータ3の磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造についても実現できる。その結果、急激な磁束の変化を抑制することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
また、本発明では特に永久磁石1を製造する場合において、磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を所望形状(例えばセグメント型)に成形する際に生じた混合物の残余物を再利用する為、及び混合物を加熱して軟化した状態で磁場配向を行う為に、熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には以下の一般式(1)に示されるモノマーから選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが該当する。
(但し、R1及びR2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
尚、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は流動開始温度が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を長鎖炭化水素のガラス転移点又は流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
また、バインダーに脂肪酸エステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を脂肪酸エステルの流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とする。
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドを成形する際に成形体の厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
[回転電機の構成]
また、上記永久磁石1がロータ3の外周面に配置される表面磁石型のモータ2は、図2に示すようにステータ8と、ステータ8の内側で回転自在に配置されたロータ3とから基本的に構成される。
また、ステータ8は、電磁鋼板等の磁性材料からなるステータコア9と、ステータコア9に巻装された複数の巻線10とから基本的に構成される。更に、ステータコア9は、円環状のヨークと、ヨークから径方向外側に突出する複数のティースからなり、巻線10はティースに巻き付けられている。尚、巻線10の巻装形態には、集中巻き方式と分布巻き方式がある。集中巻き方式とは、ティース毎に巻線10が巻装される形態であり、分布巻き方式とは、複数のティースに跨って巻線10が巻装される形態である。
一方、ロータ3は前述したように外側表面にリング形状の永久磁石1が配置される。そして、永久磁石1は、S極とN極とが交互に配置されるように着磁され、ステータ8に所定の間隔を介して対向するように配置されている。更に、図6に示すように永久磁石1は、ロータ3の周方向に沿って回転軸方向から外側方向へと磁石内部の磁束が集中するとともに、磁極が軸方向に対して傾斜されるように構成されている。
一方、ロータ3の中央には、ロータ3に一端が固定された回転軸11を備える。そして、回転軸11はロータ3が回転するとロータ3の回転に伴って回転するように構成される。
そして、上記構成を有するモータ2において、ステータ8の巻線10に電流を印加すると、ロータ3とステータ8との間に磁気による吸引力と反発力が生じ、回転軸11を中心にロータ3が回転する。特に、本発明ではロータ3の周方向に沿って回転軸11方向から外側方向へと磁石内部の磁束が集中するように構成することによって、高トルクを得ることができる。また、スキュー構造を採用することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
[永久磁石及び永久磁石を用いた回転電機の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1及び永久磁石1を用いた回転電機の製造方法について図7及び図8を用いて説明する。図7及び図8は本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1を用いた回転電機の製造工程を示した説明図である。
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末15を得る。
次いで、粗粉砕磁石粉末15をビーズミル16による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル16による湿式法を用いた微粉砕では溶媒中で粗粉砕磁石粉末15を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒が用いられる。
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば0.7μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
次に、ビーズミル16等で微粉砕された磁石粉末を所望形状に成型する。尚、磁石粉末の成形には、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を成形することにより行う。以下の実施例では、混合物を一旦製品形状以外に成形した状態で磁場を印加して磁場配向を行い、その後に打ち抜き加工、切削加工、変形加工等を行うことによって製品形状(例えば図1に示すセグメント型)とする。特に、以下の実施例では混合物をシート形状のグリーン成形体(以下、グリーンシートという)に一旦成形した後に製品形状とする。また、混合物を特にシート形状に成形する場合には、例えば磁石粉末とバインダーとが混合したコンパウンドを加熱した後にシート形状に成形するホットメルト塗工や、磁石粉末とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形が有る。
以下では、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明する。
先ず、ビーズミル16等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粘土状の混合物(コンパウンド)17を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸エステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド17における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%となる量とする。
また、上記コンパウンド17には、後に行われる磁場配向工程での配向度を向上させる為に配向を助長する添加剤を添加しても良い。配向を助長する添加剤としては例えば炭化水素系の添加剤が用いられ、特に極性を有する(具体的には酸解離定数pKaが41未満の)添加剤を用いるのが望ましい。また、添加剤の添加量は磁石粉末の粒子径に依存し、磁石粉末の粒子径が小さい程、添加量を多くする必要がある。具体的な添加量としては、磁石粉末に対して0.1部〜10部、より好ましくは1部〜8部とする。そして、磁石粉末に添加された添加剤は、磁石粒子の表面に付着し、後述の磁場配向処理において、磁石粒子の回動を補助する役目を有する。その結果、磁場を印加した際に配向が容易に行われ、磁石粒子の磁化容易軸方向を同一方向に揃えること(即ち、配向度を高くすること)が可能となる。特に、磁石粉末にバインダーを添加する場合には、粒子表面にバインダーが存在するため、配向時の摩擦力が上がり、粒子の配向性が低下する為、添加剤を添加する効果がより大きくなる。
尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーの混合は、例えば磁石粉末とバインダーをそれぞれ攪拌機に投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。また、混練性を促進する為に加熱攪拌を行っても良い。また、磁石粉末とバインダーの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを溶媒中に添加して混練し、その後に溶媒を揮発させ、後述のコンパウンド17を得る構成としても良い。
続いて、コンパウンド17をシート状に成形することによりグリーンシートを作成する。特に、ホットメルト塗工では、コンパウンド17を加熱することによりコンパウンド17を溶融し、流体状にしてからセパレータ等の支持基材18上に塗工する。その後、放熱して凝固させることにより、支持基材18上に長尺シート状のグリーンシート19を形成する。尚、コンパウンド17を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの流動開始温度よりも高い温度とする必要がある。尚、スラリー塗工を用いる場合には、多量の溶媒中に磁石粉末とバインダー(更に配向を助長する添加剤を含めても良い)を分散させ、スラリーをセパレータ等の支持基材18上に塗工する。その後、乾燥して溶媒を揮発させることにより、支持基材18上に長尺シート状のグリーンシート19を形成する。
ここで、溶融したコンパウンド17の塗工方式は、スロットダイ方式やカレンダーロール方式等の層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。特に、高い厚み精度を実現する為には、特に層厚制御性に優れた(即ち、基材の表面に高精度の厚さの層を塗工できる方式)であるダイ方式やコンマ塗工方式を用いることが望ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流体状にしたコンパウンド17をギアポンプにより押し出してダイに挿入することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本ロールのギャップにコンパウンド17を一定量仕込み、ロールを回転させつつ支持基材18上にロールの熱で溶融したコンパウンド17を塗工する。また、支持基材18としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いる。更に、消泡剤を用いたり、加熱真空脱泡を行うこと等によって展開層中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。また、支持基材18上に塗工するのではなく、押出成型や射出成形によって溶融したコンパウンド17をシート状に成型するとともに支持基材18上に押し出すことによって、支持基材18上にグリーンシート19を成形する構成としても良い。
また、スロットダイ方式によるグリーンシート19の形成工程では、塗工後のグリーンシート19のシート厚みを実測し、実測値に基づいてダイ20と支持基材18間のギャップをフィードバック制御することが望ましい。また、ダイ20に供給する流体状のコンパウンド17の量の変動は極力低下させ(例えば±0.1%以下の変動に抑える)、更に塗工速度の変動についても極力低下させる(例えば±0.1%以下の変動に抑える)ことが望ましい。それによって、グリーンシート19の厚み精度を更に向上させることが可能である。尚、形成されるグリーンシート19の厚み精度は、設計値(例えば1mm)に対して±10%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。尚、他方のカレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいて制御することで、支持基材18へのコンパウンド17の転写膜厚を制御することが可能である。
尚、グリーンシート19の設定厚みは、0.05mm〜20mmの範囲で設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、多層積層しなければならないので生産性が低下することとなる。
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材18上に形成されたグリーンシート19の磁場配向を行う。具体的には、先ず支持基材18とともに連続搬送されるグリーンシート19を加熱することによりグリーンシート19を軟化させる。具体的には、グリーンシート19の粘度が1〜1500Pa・s、より好ましくは1〜500Pa・sとなるまで軟化させる。それによって、磁場配向を適切に行わせることが可能となる。
尚、グリーンシート19を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100〜250℃で0.1〜60分とする。但し、グリーンシート19を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は流動開始温度以上の温度とする必要がある。また、グリーンシート19を加熱する加熱方式としては、例えばホットプレートによる加熱方式や熱媒体(シリコーンオイル)を熱源に用いた加熱方式が有る。次に、加熱により軟化したグリーンシート19の面内方向且つ長さ方向に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。印加する磁場の強さは5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とする。その結果、グリーンシート19に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。尚、磁場を印加する方向としてはグリーンシート19の面内方向且つ幅方向に対して磁場を印加することとしても良い。また、複数枚のグリーンシート19に対して同時に磁場を印加する構成としても良い。
更に、グリーンシート19に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であってグリーンシートが凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、ホットメルト塗工により塗工されたグリーンシート19が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、加熱工程は不要となる。
次に、図9を用いてグリーンシート19の加熱工程及び磁場配向工程についてより詳細に説明する。図9はグリーンシート19の加熱工程及び磁場配向工程を示した模式図である。尚、図9に示す例では、加熱工程と同時に磁場配向工程を行う例について説明する。
図9に示すように、上述したスロットダイ方式により塗工されたグリーンシート19に対する加熱及び磁場配向は、ロールによって連続搬送された状態の長尺シート状のグリーンシート19に対して行う。即ち、加熱及び磁場配向を行う為の装置を塗工装置(ダイ等)の下流側に配置し、上述した塗工工程と連続した工程により行う。
具体的には、ダイ20やコーティングロール22の下流側において、搬送される支持基材18及びグリーンシート19がソレノイド25内を通過するようにソレノイド25を配置する。更に、ホットプレート26をソレノイド25内においてグリーンシート19に対して上下一対に配置する。そして、上下一対に配置されたホットプレート26によりグリーンシート19を加熱するとともに、ソレノイド25に電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート19の面内方向(即ち、グリーンシート19のシート面に平行な方向)で且つ長さ方向に磁場を生じさせる。それによって、連続搬送されるグリーンシート19を加熱により軟化させるとともに、軟化したグリーンシート19の面内方向且つ長さ方向(図9の矢印27方向)に対して磁場を印加し、グリーンシート19の適切且つ均一な磁場配向を実現することが可能となる。特に、磁場を印加する方向を面内方向とすることによって、グリーンシート19の表面が逆立つことを防止できる。
また、磁場配向した後に行うグリーンシート19の放熱及び凝固は、搬送状態で行うことが好ましい。それによって、製造工程をより効率化することが可能となる。
尚、磁場配向をグリーンシート19の面内方向且つ幅方向に対して行う場合には、ソレノイド25の代わりに搬送されるグリーンシート19の左右に一対の磁場コイルを配置するように構成する。そして、各磁場コイルに電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート19の面内方向で且つ幅方向に磁場を生じさせることが可能となる。
また、磁場配向をグリーンシート19の面に対して垂直方向とすることも可能である。磁場配向をグリーンシート19の面に対して垂直方向に行う場合には、例えばポールピース等を用いた磁場印加装置により行う。尚、磁場配向方向をグリーンシート19の面に対して垂直方向とする場合には、グリーンシート19に対して支持基材18が積層された反対側の面にもフィルムを積層することが好ましい。それによって、グリーンシート19の表面の逆立ちを防止することが可能となる。
また、上述したホットプレート26による加熱方式の代わりに熱媒体(シリコーンオイル)を熱源とした加熱方式を用いても良い。
ここで、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等によりスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート19を成形した場合には、磁場の勾配が生じているところにグリーンシート19が搬入されると、磁場が強い方にグリーンシート19に含まれる磁石粉末が引き寄せられることとなり、グリーンシート19を形成するスラリーの液寄り、即ち、グリーンシート19の厚みの偏りが生じる虞がある。それに対して、本発明のようにコンパウンド17をホットメルト成形によりグリーンシート19に成形する場合には、室温付近での粘度は数万〜数十万Pa・sに達し、磁場勾配通過時の磁性粉末の寄りが生じることが無い。更に、均一磁場中に搬送され、加熱されることでバインダーの粘度低下が生じ、均一磁場中の回転トルクのみで、一様なC軸配向が可能となる。
また、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等により有機溶媒を含むスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート19を成形した場合には、厚さ1mmを越えるシートを作成しようとすると乾燥時においてスラリー等に含まれる有機溶媒が気化することによる発泡が課題となる。更に、発泡を抑制する為に乾燥時間を長時間化すれば、磁石粉末の沈降が生じ、それに伴って重力方向に対する磁石粉末の密度分布の偏りが生じ、焼成後の反りの原因となる。従って、スラリーからの成形では、厚みの上限値が実質上規制される為、1mm以下の厚みでグリーンシートを成形し、その後に積層する必要がある。しかし、その場合にはバインダー同士の絡まり合いが乏しくなり、その後の脱バインダー工程(仮焼処理)で層間剥離を生じ、それがC軸(磁化容易軸)配向性の低下、即ち残留磁束密度(Br)の低下原因となる。それに対して、本発明のようにコンパウンド17をホットメルト成形によりグリーンシート19に成形する場合には、有機溶媒を含まないので、厚さ1mmを越えるシートを作成した場合でも上述したような発泡の懸念が解消する。そして、バインダーが十分に絡まり合った状態にあるので、脱バインダー工程での層間剥離が生じる虞が無い。
また、複数枚のグリーンシート19に対して同時に磁場を印加させる場合には、例えばグリーンシート19を複数枚(例えば6枚)積層した状態で連続搬送し、積層したグリーンシート19がソレノイド25内を通過するように構成する。それによって生産性を向上させることが可能となる。
そして、図9に示す方法によりグリーンシート19の磁場配向を行った後に、グリーンシート19に荷重をかけてグリーンシート19を変形させ、製品形状へと成形する。尚、上記変形によって、最終的な製品で要求される磁化容易軸の方向となるように磁化容易軸の方向を変位させる。それによって、図3〜図5に示すように螺旋方向に沿って列状に配置された集束軸Pに沿った方向へと磁化容易軸が集束するように磁化容易軸の方向を操作することが可能となる。尚、グリーンシート19は変形させる前に、最終製品形状と最終製品で要求される磁化容易軸の方向を考慮した形状(即ち、変形させることによって最終製品形状にした場合に最終製品で要求される磁化容易軸の方向が実現できる形状)に予め打ち抜き、その後に変形させる。
また、大きな形状の磁石を製造する場合には、同形状に変形させた複数枚のグリーンシート19を積層し、樹脂などで互いに固定することにより成形しても良い。例えば、図3に示すように集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸(C軸)が集束するように配向した永久磁石1を製造する場合には、図10に示すように面内方向に磁場配向されたグリーンシート19を厚み方向の断面が円弧形状となるように湾曲させ、積層する。その結果、図3に示すような配向を実現することが可能となる。尚、グリーンシート19を変形した後に積層しても良いし、積層した後に変形させても良い。
また、以下の方法により磁場配向及び成形体への成形を行っても良い。
先ず、円筒形状を有する型の周囲に、適度な長さに切断した磁場配向を行う前のシート状のグリーンシート19を巻き付ける。そして、型に巻き付けた状態のグリーンシート19に対して、グリーンシート19の面に対向する一方向から磁場を印加する。その結果、グリーンシート19に含まれる各磁石粒子の磁化容易軸が、磁場の印加方向に沿って平行に配向される。その後、グリーンシート19に対して荷重をかけて変形させることにより製品形状へと成形するとともに、該変形によって集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸が集束するように磁化容易軸の方向を補正する。例えば、図3に示すようなセグメント型を製品形状とする場合には、型に沿って湾曲状態となっているグリーンシート19を直線状にするとともに、幅方向の左右から荷重をかけてセグメント型形状とする。その結果、グリーンシート19の変形に伴ってグリーンシート19の磁化容易軸の方向も補正され、図3に示すような配向を実現することが可能となる。尚、グリーンシート19は1枚のみを変形させても良いし、複数枚積層させた状態で変形させても良い。
また、荷重をかけて変形させる前のグリーンシート19の形状は円筒形状以外の形状であっても良い。例えば、弓型形状、扇型形状、直方体形状であっても良い。
また、製品形状に対応する成形体を成形した後に、成形体に磁場を印加して磁場配向を行う構成としても良い。例えば、ソレノイドコイルの一方の開口を成形体に対向して隣接して配置し、ソレノイドコイルに電流を流すことによって形成される磁場を成形体に印加する。尚、ソレノイドコイルの開口付近では、磁力線が左右方向に拡散する磁場が形成される。従って、成形体は、図3〜図5に示すように集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸(C軸)が集束するように配向される。また、ソレノイドコイルの代わりに、永久磁石や電磁石を用いて配向しても良い。更に、混合物をリング形状に成形した後に、成形体に磁場を印加して磁場配向を行う構成としても良い。
その後、成形並びに磁場配向された成形体30を大気圧、又は大気圧より高い圧力や低い圧力(例えば、1.0Paや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間〜数十時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダー等の有機化合物を解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体30中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、仮焼処理は、成形体30中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で成形体30の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。尚、加圧条件は大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば特に炭素量軽減の効果が期待できる。
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば450℃)とする。
また、上記仮焼処理は、一般的な磁石の焼結を行う場合と比較して、昇温速度を小さくするのが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下(例えば1.5℃/min)とする。従って、仮焼処理を行う場合には、図11に示すように2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間〜数十時間保持することにより仮焼処理を行う。上記のように仮焼処理において昇温速度を小さくすることによって、成形体30中の炭素が急激に除去されず、段階的に除去されるので、焼結後の永久磁石の密度を上昇させる(即ち、永久磁石中の空隙を減少させる)ことが可能となる。そして、昇温速度を2℃/min以下とすれば、焼結後の永久磁石の密度を95%以上とすることができ、高い磁石特性が期待できる。
また、仮焼処理によって仮焼された成形体30を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮焼処理によって生成された成形体30中のNdH3(活性度大)を、NdH3(活性度大)→NdH2(活性度小)へと段階的に変化させることによって、仮焼処理により活性化された成形体30の活性度を低下させる。それによって、仮焼処理によって仮焼された成形体30をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、磁石結晶の構造をNdH2等からNd2Fe14B構造へと戻す効果も期待できる。
続いて、仮焼処理によって仮焼された成形体30を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体30の焼結方法としては、真空中での無加圧焼結、一軸方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結、2軸方向に加圧した状態で焼結する2軸加圧焼結、等方に加圧した状態で焼結する等方加圧焼結等がある。例えば、成形体30をロータ3表面に配置した際にロータ3の軸方向と同方向となる方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結を用いる。また、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、一軸方向に加圧可能であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが好ましい。尚、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧値を例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分で上昇させ、その後5分保持することが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、焼結体31が製造される。
その後、上記工程によりセグメント型に成形され、且つ集束軸Pに沿った一方向へ磁化容易軸が集束するように配向された焼結体31を円環状に接合する。それによって、リング形状の焼結体(以下、リング焼結体32という)を作製する。尚、リング焼結体32の接合は、接着剤、可塑剤、熱圧着により行われる。
また、上記実施例ではセグメント型の成形体30を焼結した後に円環状に接合することによってリング焼結体32を作製する構成としているが、焼結処理を行う前の成形体30を円環状に接合することによってリング形状の成形体とした後に、焼結処理を行うことによってリング焼結体32を作製する構成としても良い。
その後、図8に示すように極異方性となるようにC軸に沿って着磁を行う。その結果、異方性リング磁石である永久磁石1を製造することが可能となる。また、永久磁石1の磁極は軸方向に対して傾斜されるように構成される。尚、永久磁石1の着磁には、例えば着磁コイル、着磁ヨーク、コンデンサー式着磁電源装置等が用いられる。尚、永久磁石1の着磁は、回転電機のロータ3に配置した後に行う構成としても良い。また、円環状に接合される前の焼結体31に対して行う構成としても良い。
その後、永久磁石1をロータ3の外周面に配置し、ステータ8や回転軸11等のロータ3以外の部材を組み付けることによりスキュー構造を有する表面磁石型のモータ2が製造される。尚、着磁後の永久磁石1は、ロータ3の径方向に沿って回転軸方向から外側方向へと磁石内部の磁束を集中させる(即ち、磁石表面の磁束密度を高くする)ことが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、磁石原料を磁石粉末に粉砕し、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド17を生成する。そして、生成したコンパウンド17をシート状に成形したグリーンシート19を作製する。その後、成形したグリーンシート19に対して磁場を印加することにより磁場配向を行い、磁場配向されたグリーンシート19の磁場配向方向を考慮しつつグリーンシート19を変形させることによって製品形状へと成形する。その後、焼結することにより永久磁石1を製造する。また、永久磁石1は、回転電機のスキュー構造を実現するとともにロータの径方向で且つ外側方向に設定された集束軸に沿った方向へと集束するように磁化容易軸が傾斜して配向されるので、磁極の形成された外周表面では着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。特に、回転電機のロータに永久磁石を配置することとすれば、エアギャップ側に磁束を集中させることによって最大磁束密度を向上させ、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させるとともに、トルクリップルの軽減も可能となる。
また、永久磁石1の配置された回転電機では、スキュー構造を採用することによって、トルクリップルの軽減、並びにコギングトルクの分散によるトルク変動の低下を実現することが可能である。
また、集束軸Pは螺旋方向に沿って直線状又は階段状に配置されるので、ロータ3の磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造を実現することが可能となる。
更に、図5に示すようにロータ3の軸方向に沿って複数に分割して構成し、分割された各分割体をロータ3に対して周方向に段階的に位置をずらして配置すれば、ロータの磁極を軸方向に対して傾斜させるスキュー構造をより容易な構成によって実現することが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を成形するように構成することによって、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、着磁後において適切に磁束を集中させることが可能となり、最大磁束密度を向上させるとともに磁束密度のバラつきも防止できる。
また、バインダーとの混合物を成形するので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。
また、バインダーとの混合物に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。そして、配向後に配向方向を補正することとすれば、高配向かつバラつきの少ない配向を確保することが可能となる。
更に、バラつきの少ない高配向が実現できる事は、焼結による収縮のバラつきの低減に繋がる。即ち、焼結後の製品形状の均一性が確保できる。その結果、焼結後の外形加工に対する負担が軽減され、量産の安定性が大きく向上する事が期待できる。
また、永久磁石1の外周表面のロータ周方向における磁束密度分布の波形を理想的な正弦波形状に近づけることによって、トルクリップルを減少させ、更に回転電機に設置した場合に回転電機の駆動制御を正確に行うことができる。
また、磁場配向する工程では、磁石粉末とバインダーとの混合物に対して磁場を印加するとともに、磁場の印加された混合物を成形体へと変形することによって磁化容易軸の方向を操作して、磁場配向を行うので、一旦磁場配向された混合物を変形することによって、配向方向を補正し、集束軸に沿った一方向へと磁化容易軸を適切に集束させるように配向することが可能となる。その結果、高配向かつバラつきの少ない配向を行うことが可能となる。また、混合物を成形体へと成形する際に、成形体への変形を行うと同時に配向方向を補正することが可能となる。その結果、永久磁石の成形工程と配向工程とを一の工程で行うことが可能となり、生産性を向上させることが可能となる。
また、混合物を一旦シート状に成形した後に磁場配向を行い、その後に成形体への変形を行うので、成形工程や磁場配向工程を連続工程で効率よく行うことが可能であり、生産性を向上させることが可能となる。
また、回転電機のロータ3の周方向に沿ってエアギャップ側に磁化容易軸を傾斜させるので、ロータ3に配置され且つ着磁された場合においてエアギャップ側へと磁束をより集中させることが可能となる。その結果、永久磁石が配置された回転電機のトルクや発電量を向上させることが可能となる。
更に、永久磁石1がロータ3に配置されたスキュー構造を有する回転電機では、従来に比べて発電機の発電力の向上、モータの高トルク化、小型化、低トルクリップル化、高効率化を実現することが可能となる。
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、成形条件、磁場配向工程、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例ではビーズミルを用いた湿式粉砕により磁石原料を粉砕しているが、ジェットミルによる乾式粉砕により粉砕することとしても良い。また、仮焼を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。また、仮焼処理を省略しても良い。その場合には、焼結処理の過程で脱炭素が行われることとなる。
また、上記実施例では、磁石粉末とバインダーとの混合体を一旦シート形状のグリーン成形体に成型した後に磁場配向を行う構成としているが、シート形状以外の形状に成型した後に磁場配向を行う構成としても良い。例えば、ブロック形状のグリーン成形体に成型しても良い。そして、磁場配向されたブロック形状のグリーン成形体を更に加工することによってセグメント型形状の成形体30へと成形する。
また、上記実施例では、磁石粉末とバインダーとの混合体に対して磁場配向を行った後に、セグメント型形状の成形体30へと成形する構成としているが、セグメント型形状の成形体30に成型した後に磁場配向を行っても良い。また、磁場の配向方向は最終的に製造するリング磁石の種類によって変更する。
更に、上記実施例では、グリーンシート19を複数のセグメント型形状に成形した後に、それらを接合してリング形状としているが、グリーンシート19をセグメント型形状とせずに直接リング形状に成型するように構成しても良い。その場合には、磁場配向されたグリーンシート19を打ち抜き加工等することによりリング形状に成形しても良いし、磁石粉末とバインダーの混合物をシート状とせずに直接リング形状に成形した後に磁場配向しても良い。
また、上記実施例では、永久磁石の外周表面の周方向における磁束密度分布の形状が正弦波形状となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計しているが、正弦波形状以外の形状となるように永久磁石の磁化容易軸の配向方向を設計することも可能である。尚、実現する磁束密度分布の形状は、永久磁石の種類や用途によって適宜変更することが可能である。
また、上記実施例では、永久磁石1をリング形状としているがセグメント形状としても良い。即ち、ロータ3の周方向に沿って隣り合う焼結部材4の間に隙間を形成しても良い。その場合にはセグメント形状の永久磁石1を、ロータ3の表面に対して極数に応じた数だけ張り付けるように構成する。また、永久磁石1の形状は集束軸Pの傾斜に沿った螺旋形状としても良い。例えば、図12は永久磁石1を螺旋形状のセグメント磁石により構成した例を示す。図12に示す永久磁石1においても、螺旋方向に沿って集束軸Pの位置が移動するので、着磁後の永久磁石1の磁極が軸方向に対して傾斜するように形成される(即ちスキュー構造を実現する)こととなる。
また、永久磁石1をロータ側では無くステータ側に配置する回転電機に対しても適用することが可能である。また、インナーロータ型の回転電機に限らず、アウターロータ型の回転電機にも適用可能である。例えば、アウターロータ型の回転電機のステータに永久磁石を配置する場合には、ステータの径方向で且つエアギャップ側(ロータのある外側方向)に設定された集束軸Pに沿った方向へと集束するように磁化容易軸を傾斜して配向する。その結果、中心方向からエアギャップ側へと磁石内部の磁束が集中することとなる。また、アウターロータ型の回転電機のロータに永久磁石を配置する場合には、ロータの径方向で且つエアギャップ側(ステータのある中心方向)に設定された集束軸Pに沿った方向へと集束するように磁化容易軸を傾斜して配向する。その結果、外側方向からエアギャップ側へと磁石内部の磁束が集中することとなる。更に、永久磁石1はデュアルロータ型の回転電機や永久磁石を平面状に配置したリニアモータに対しても適用可能である。また、本発明に係る永久磁石1はモータ以外に、発電機や磁気減速機等の各種回転電機に対して適用可能である。尚、本発明に係る回転電機を磁気減速機に適用する場合には、ステータ8をステータコア9や巻線10に代えて磁性材料からなる所定数の磁極片により構成する。
また、上記実施例では、ステータコア9に巻線10を巻装したステータ8を有する回転電機としているが、ステータコア9は磁性体以外に非磁性体により構成しても良い。更に、回転電機はステータコアを有さないコアレスモータとしても良い。その場合には、巻線10を樹脂等によりカップ状に固定したものをステータ8とする。このようなコアレスモータでは、鉄損を無くすことができるので回転電機の効率を高めることが可能となる。
また、上記実施例では、磁石粉末を成形した後に水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気において仮焼を行っているが、成形前の磁石粉末に対して仮焼処理を行い、仮焼体である磁石粉末を成形体に成形し、その後に焼結を行うことによって永久磁石を製造することとしても良い。このような構成とすれば、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、仮焼対象となる磁石の表面積を大きくすることができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。但し、バインダーを仮焼処理で熱分解させる為に、成形後に仮焼処理を行うことが望ましい。
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石(例えばサマリウム系コバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石等)を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。