本発明の一形態によれば、厚みが125μm以下である基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置された、ポリシラザンおよび長周期型周期表の第2族、第13族、および第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、ケイ素および炭素を除く)を含有する塗布液を塗布し塗膜層を得た後、前記塗膜層に改質処理を施すことにより形成される第1のガスバリア層と、前記第1のガスバリア層と隣接するように配置された、真空成膜法により形成される第2のガスバリア層とを有する、ガスバリア性フィルムが提供される。
このような構成とすることにより、薄膜基材を備え、ポリシラザン改質膜と蒸着膜とが隣接配置されてなるガスバリア性フィルムにおいて、基材とガスバリア層との密着性を向上させるとともにガスバリア層の割れを防止することにより、経時的なガスバリア性の低下を防止することができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上述したような効果が発現する詳細なメカニズムは不明であるが、以下のような理由によるものと考えられる。
まず、厚みが125μm以下の薄膜基材に対して特許文献4に記載されているようなガスバリア層の構成をそのまま適用すると、基材の耐屈曲性がそもそも低く、また、基材とガスバリア層との密着性が低下したり、ガスバリア層に割れが生じたりする結果、経時的にガスバリア性が著しく低下してしまう。このことについては上述した通りであるが、これは、物理的ストレスに対する基材自身の耐性が小さいことから、外部から基材に対して加えられる物理的ストレスに基材が耐え切れず、ガスバリア層における上記のような劣化現象を生じさせているものと考えられる。
これに対し、本発明に係るガスバリア性フィルムによって上記のような現象の発生が防止される理由について考察したところ、ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥し塗膜層を得た後に改質処理を施してガスバリア層を形成する従来の製造方法では、塗膜層の表面から改質が進行するために塗膜層内部に酸素や水分が入ってゆかず、塗膜層内部や、塗膜層と基材との界面までの酸化が進みにくかった。
このため、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布乾燥して形成された塗膜層であって、本発明に係る上記所定の元素(以下、「添加元素」とも称する)を含有していないものに対し、改質処理として活性エネルギー線の照射等を行うと、上述したようにダングリングボンドが増大するためか250nm以下の吸光度が増大してゆき、層内部まで活性エネルギー線が徐々に侵入しにくくなる等によって層表面しか改質されないことになる。これに対し、理由は明らかではないが、添加元素を含有させると、改質処理が進行するにつれて低波長側の吸光度が減少することが判明している。これにより、塗膜層が添加元素を含むことで、塗膜層の表層部分だけではなく内部まで膜厚方向に改質が均一に行われ、もともと耐屈曲性が高くない基材を用いた場合であっても、基材とガスバリア層との密着性の向上やガスバリア層の割れが防止されるなどのメカニズムによって、外部からの物理的ストレスに起因するガスバリア性フィルムの劣化が抑えられ、ガスバリア性能の経時的な劣化を防止することができるものと推定している。ただし、本発明の技術的範囲は当該メカニズムによってなんら制限されるものではない。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
[ガスバリア性フィルム]
本発明に係るガスバリア性フィルムは、基材と、第1のガスバリア層と、第2のガスバリア層とを必須の構成要素として有する。
基材は、厚みが125μm以下であることが必須である。また、第1のガスバリア層は、基材の少なくとも一方の面に配置され、ポリシラザンおよび長周期型周期表の第2族、第13族、および第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、ケイ素および炭素を除く)を含有する塗布液を塗布し塗膜層を得た後、前記塗膜層に改質処理を施すことにより形成されるものである。さらに、第2のガスバリア層は、上記第1のガスバリア層と隣接するように配置され、真空成膜法により形成されるものである。なお、本発明に係るガスバリア性フィルムは、他の部材をさらに含むものであってもよい。本発明に係るガスバリア性フィルムは、例えば、基材といずれかのガスバリア層との間に、いずれかのガスバリア層の上に、他の部材を有していてもよい。ここで、他の部材としては、特に制限されず、従来のガスバリア性フィルムに使用される部材が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用されうる。具体的には、平滑層、アンカーコート層、中間層、保護層、デシカント層(吸湿層)や帯電防止層の機能化層などが挙げられる。上記他の部材は、単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。また、上記他の部材は、単層として存在してもまたは2層以上の積層構造を有していてもよい。
さらに、本発明では、基材の同一の側の面に上記第1のガスバリア層および第2のガスバリア層が隣接するように配置されることが必須である。この規定を満足する限り、基材の他方の面に少なくとも1つのガスバリア層が配置されてもよい。ただし、本発明に係るガスバリア性フィルムにおいては、生産性や製造コストなどの観点から、基材の一方の面のみにガスバリア層が形成されることが好ましい。
〔基材〕
本発明に用いられる基材としては、ガスバリア層などの層を保持することができるものであれば、その材質は特に限定されない。
例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の各樹脂フィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(製品名Sila−DEC、チッソ株式会社製)、さらには前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、等が好ましく用いられ、特に、低リタデーションの観点からシクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーおよびポリカーボネート(PC)が特に好ましい。また、光学的透明性、耐熱性、ガスバリア層との密着性の点においては、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムを好ましく用いることができる。その他にも、耐熱基材としてポリイミド等を用いることも好ましい。これは、耐熱基材(ex.Tg>200℃)を用いることにより、デバイス作製工程で200℃以上の温度での加熱が可能となり、デバイスの大面積化やデバイスの動作効率向上のために必要な透明導電層若しくは金属ナノ粒子によるパターン層の低抵抗化が達成可能となる。
本発明において、基材の厚みは、125μm以下であることが必須である。これは、本発明により解決される課題が、特に上記厚みを有する薄膜基材を用いた場合に特有のものであるためである。すなわち、基材の厚みが125μmを超えると、本発明の解決課題が存在しない。また、実質的には、基材の厚みが125μmを超えると、ガスバリア性フィルムやこれが適用される電子デバイス等の薄膜化の要請に十分に応えることができないという問題がある。これに対し、基材の厚みが125μm以下であれば、上述したような薄膜化の要請に応えることができることから、本発明に係るガスバリア性フィルムは、フレキシブルな電子デバイスの基板等として用いられると特に有用である。なお、基材の厚みは、好ましくは15〜50μmである。
本発明において、基材は、透明であることが好ましい。基材が透明であり、基材上に形成する層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
また、上記に挙げた樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。さらに、本発明に用いられる基材は、市販品であってもよい。なお、市販品の中で、片面または両面に易接着加工されたものであってもよく、片面または両面にクリアハードコート層を施したものであってもよい。また、本発明に係る基材は、ガスバリア層を形成する前にコロナ処理を施されたものであってもよい。
〔ガスバリア層〕
(第1のガスバリア層)
本発明に係るガスバリア性フィルムは、上述した基材の少なくとも一方の面に、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布し乾燥して塗膜層を得た後、前記塗膜層に改質処理を施すことにより形成されるガスバリア層(第1のガスバリア層)を有する。そして、当該第1のガスバリア層を形成する際に用いられる上記塗布液は、添加元素を含有する点に特徴がある。
第1のガスバリア層は上記構成を有することで、ガスバリア性を有する。ここで、第1のガスバリア層のガスバリア性は、基材上に第1のガスバリア層を形成させた積層体で算出した際に、水蒸気透過量が0.1g/(m2・24h)以下であることが好ましく、0.01g/(m2・24h)以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、水蒸気透過量としては、以下の手法により測定された値を採用するものとする。
(水蒸気透過量の測定方法)
MOCON社製AQUATRAN MODEL1を用い、40℃90%RHの条件下で数値が安定するのを待って水蒸気透過率WVTR(g/m2/day)を測定する。
以下、塗膜層形成に用いられる塗布液に含まれるポリシラザン、および添加化合物について説明する。
(ポリシラザン)
本発明において用いられる「ポリシラザン」とは、構造内にケイ素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO2、Si3N4および両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
上述した基材を損なわないように、ポリシラザンからガスバリア層を形成するためには、特開平8−112879号公報に記載されているように、比較的低温で酸化ケイ素、窒化珪素、および/または酸窒化珪素に変性するポリシラザンが好ましい。
かようなポリシラザンとしては、下記の構造を有するものが好ましく用いられる。
式中、R1、R2、R3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、またはアルコキシ基を表す。
本発明では、得られるガスバリア層の、膜としての緻密性の観点からは、R1、R2およびR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)が特に好ましい。
一方、そのSiと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより、下地基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。
用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
なお、パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および/または8員環を中心とする環構造とが共存した構造を有していると推定されている。
ポリシラザンの分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体または固体の物質であり、分子量により異なる。
これらのポリシラザン化合物は有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン化合物含有塗布液として使用することができる。
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
(ポリシラザンを含有する塗布液)
ポリシラザンを含有する塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応してしまうようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは避けることが好ましい。かような有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等、目的にあわせて選択し、複数の有機溶剤を混合してもよい。
ポリシラザンを含有する塗布液におけるポリシラザンの濃度は、目的とする第1のガスバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
また、ポリシラザンを含有する塗布液には、酸化ケイ素、窒化珪素、および/または酸窒化珪素への変性を促進するために、アミンや金属の触媒を添加することもできる。例えば、市販品としてのAZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のNAX120−20、NN120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140のような触媒が含まれるポリシラザン溶液を用いることができる。また、これらの市販品は単独で使用されてもよく、2種以上混合して使用されてもよい。
なお、ポリシラザンを含有する塗布液中において、触媒の添加量は、触媒による過剰なシラノール形成、及び膜密度の低下、膜欠陥の増大のなどを避けるため、ポリシラザンに対して2質量%以下に調整することが好ましい。
ポリシラザンを含有する塗布液には、ポリシラザン以外にも無機前駆体化合物を含有させることができる。ポリシラザン以外の無機前駆体化合物としては、塗布液の調製が可能であれば特に限定はされない。例えば、特開2011−143577号公報の段落「0110」〜「0114」に記載のポリシラザン以外の化合物が適宜採用されうる。
(添加元素)
本発明において、第1のガスバリア層を形成するための塗布液には、添加元素が含まれる。添加元素の例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられる。これらの中でも、高いガスバリア性および高い酸化耐性を有する第1のガスバリア層を得る観点から、アルミニウム、インジウム、ガリウム、マグネシウム、カルシウム、ゲルマニウム、およびホウ素からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。より好ましくはアルミニウムまたはホウ素であり、さらに好ましくはアルミニウムである。これら添加元素は、1種単独であってもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
本発明に係るガスバリア性フィルムのガスバリア層における添加元素の含有量は、ガスバリア層全体の質量に対して0.001〜50質量%であることが好ましく、0.1〜40質量%であることがより好ましい。なお、本発明のガスバリア性フィルムが添加元素を含有するガスバリア層を2層以上有する場合は、それぞれの層の添加元素の含有量を合計したものをガスバリア性フィルムにおける添加元素の含有量とする。
(添加化合物)
第1のガスバリア層を形成する場合は、添加元素を含む化合物(添加化合物)を添加した塗膜層形成用塗布液を塗布乾燥した塗膜層を形成し、後述する活性エネルギー線による改質に供すればよい。添加化合物の例としては、金属アルコキシド化合物が挙げられる。
金属アルコキシド化合物のさらに具体的な例としては、例えば、ベリリウムアセチルアセトネート、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリn−プロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリn−ブチル、ホウ酸トリtert−ブチル、マグネシウムエトキシド、マグネシウムエトキシエトキシド、マグネシウムメトキシエトキシド、マグネシウムアセチルアセトネート、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリn−プロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリsec−ブトキシド、アルミニウムトリtert−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジn−ブチレート、アルミニウムジエチルアセトアセテートモノn−ブチレート、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ビス(エチルアセトアセテート)(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムオキサイドイソプロポキサイドトリマー、アルミニウムオキサイドオクチレートトリマー、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、カルシウムイソプロポキシド、カルシウムアセチルアセトネート、ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムイソプロポキシド、ガリウムアセチルアセトナート、ゲルマニウムメトキシド、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムイソプロポキシド、ゲルマニウムn−ブトキシド、ゲルマニウムtert−ブトキシド、エチルトリエトキシゲルマニウム、ストロンチウムイソプロポキシド、トリス(2,4−ペンタンジオナト)インジウム、インジウムイソプロポキシド、インジウムn−ブトキシド、インジウムメトキシエトキシド、スズn−ブトキシド、スズtert−ブトキシド、スズアセチルアセトネート、バリウムジイソプロポキシド、バリウムtert−ブトキシド、バリウムアセチルアセトネート、タリウムエトキシド、タリウムアセチルアセトネート、鉛アセチルアセトネートなどが挙げられる。
これら金属アルコキシド化合物の中でも、反応性、溶解性等の観点から分岐状のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、2−プロポキシ基、またはsec−ブトキシ基を有する化合物がより好ましい。また、ガスバリア性能、密着性等の観点から、エトキシ基を有する化合物が好ましい。
さらに、アセチルアセトナート基を有する金属アルコキシド化合物もまた好ましい。アセチルアセトナート基は、カルボニル構造によりアルコキシド化合物の中心元素と相互作用を有するため、取り扱い性が容易になり好ましい。さらに好ましくは上記のアルコキシド基、またはアセチルアセトナート基を複数種有する化合物が反応性や膜組成の観点からより好ましい。
さらに好ましい金属アルコキシド化合物は、具体的には、マグネシウムエトキシド、ホウ酸トリイソプロピル、アルミニウムトリsec−ブトキシド、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、カルシウムイソプロポキシド、インジウムイソプロポキシド、ガリウムイソプロポキシド、アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジn−ブチレート、またはアルミニウムジエチルアセトアセテートモノn−ブチレートである。
金属アルコキシド化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。市販品の具体的な例としては、例えば、AMD(アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート)、ASBD(アルミニウムセカンダリーブチレート)、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、ALCH−TR(アルミニウムトリスエチルアセトアセテート)、アルミキレートM(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、アルミキレートD(アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)、アルミキレートA(W)(アルミニウムトリスアセチルアセトネート)(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、プレンアクト(登録商標)AL−M(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、味の素ファインケミカル株式会社製)、オルガチックスシリーズ(マツモトファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
なお、金属アルコキシド化合物を用いる場合は、ポリシラザンを含む塗布液と不活性ガス雰囲気下で混合することが好ましい。金属アルコキシド化合物が大気中の水分や酸素と反応し、激しく酸化が進むことを抑制するためである。
また、金属アルコキシド化合物以外では、下記に示すような化合物を使用することができる。
・アルミニウム化合物
アノーソクレース、アルミナ、アルミノケイ酸塩、アルミン酸、アルミン酸ナトリウム、アレキサンドライト、アンモニウム白榴石、イットリウム・アルミニウム・ガーネット、黄長石、尾去沢石、オンファス輝石、輝石、絹雲母、ギブス石、サニディン、サファイア、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、臭化アルミニウム、十二ホウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、白雲母、水酸化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、杉石、スピネル、ダイアスポア、ヒ化アルミニウム、ピーコック(顔料)、微斜長石、ヒスイ輝石、氷晶石、普通角閃石、フッ化アルミニウム、沸石、ブラジル石、ベスブ石、Bアルミナ固体電解質、ペツォッタイト、方ソーダ石、有機アルミニウム化合物、リシア輝石、リチア雲母、硫酸アルミニウム、緑柱石、緑泥石、緑簾石、リン化アルミニウム、リン酸アルミニウム等;
・マグネシウム化合物
亜鉛緑礬、亜硫酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、カーナライト、過塩素酸マグネシウム、過酸化マグネシウム、滑石、頑火輝石、カンラン石、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、蛇紋石、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、スピネル、普通角閃石、普通輝石、フッ化マグネシウム、硫化マグネシウム、硫酸マグネシウム、菱苦土鉱等;
・カルシウム化合物
アラレ石、亜硫酸カルシウム、安息香酸カルシウム、エジプシャンブルー、塩化カルシウム、塩化水酸化カルシウム、塩素酸カルシウム、灰クロム柘榴石、灰重石、灰鉄輝石、灰簾石、過酸化カルシウム、過リン酸石灰、カルシウムシアナミド、次亜塩素酸カルシウム、シアン化カルシウム、臭化カルシウム、重過リン酸石灰、シュウ酸カルシウム、臭素酸カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、普通角閃石、普通輝石、フッ化カルシウム、フッ素燐灰石、ヨウ化カルシウム、ヨウ素酸カルシウム 、ヨハンセン輝石、硫化カルシウム、硫酸カルシウム、緑閃石、緑簾石、緑簾石、燐灰ウラン石 、燐灰石、リン酸カルシウム等;
・ガリウム化合物
酸化ガリウム(III)、水酸化ガリウム(III)、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヨウ化ガリウム(III)、リン酸ガリウム等;
・ホウ素化合物
酸化ホウ素、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ジボラン、ホウ酸、ホウ酸トリメチル、ホウ砂、ボラジン、ボラン、ボロン酸等;
・ゲルマニウム化合物
有機ゲルマニウム化合物、無機ゲルマニウム化合物、酸化ゲルマニウム等;
・インジウム化合物
酸化インジウム、塩化インジウム等。
添加化合物を用いる場合の塗膜層形成用塗布液における添加化合物の使用量は、特に制限されないが、ポリシラザンの固形分質量に対して、0.01〜10倍の質量であることが好ましく、0.06〜6倍の質量であることがより好ましい。
また、塗膜層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルもしくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
(塗布方法)
本発明において、上述したポリシラザンを含有する塗布液の塗布方法としては、任意の公知な適切な方法が採用されうる。例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、ダイコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。これらのうち、生産効率が高く、安定して塗膜形成できることから、特にダイコート法が好ましい。
塗布厚さは、特に限定されず、ガスバリア性フィルムの使用目的に応じて、乾燥膜厚を考慮して適宜調整されうる。また、乾燥膜厚としては、例えば、0.01μm以上1μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.6μm以下であることがより好ましく、0.04μm以上0.4μm以下であることがさらに好ましい。乾燥膜厚が0.01μm以上であれば、十分なガスバリア性を得ることができ、また1μm以下であれば、ガスバリア層形成時に安定した塗布液を得ることができるという点で好ましい。
また、ポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布した後に、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適なガスバリア膜が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。
乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を基材として用いる場合には、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は、短時間に設定することが好ましく、例えば、乾燥温度が150℃である場合には30分以内に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
また、上述したポリシラザンを含有する塗布液を塗布し、形成された塗膜(以下、「改質前のガスバリア層」とも称する)は、後述する改質処理の前または改質処理中に水分を除去する工程をさらに含んでいてもよい。
(改質処理)
本発明において、改質処理とは、ポリシラザンの一部または一部または全部が、酸化珪素または酸化窒化珪素への転化する反応(セラミックス化)を指し、また本発明のガスバリア性フィルムが全体としてガスバリア性を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜(すなわち、第1のガスバリア層)を形成する処理をいう。
かような改質処理は、ポリシラザンの転化反応に基づく公知の方法を選ぶことができる。例えば、プラズマ処理、活性エネルギー線照射処理等が挙げられる。中でも、低温で改質可能であり基材種の選択の自由度が高いという観点から、活性エネルギー線照射による処理が好ましい。
・プラズマ処理
本発明において、改質処理として用いることのできるプラズマ処理は、公知の方法を用いることができるが、好ましくは大気圧プラズマ処理等を挙げることが出来る。大気圧近傍でのプラズマCVD処理を行う大気圧プラズマCVD法は、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために成膜速度が速く、更には通常のCVD法の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて均質の膜が得られる。
大気圧プラズマ処理の場合は、放電ガスとしては窒素ガスまたは長周期型周期表の第18族原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
・活性エネルギー線照射処理
活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等が使用可能であるが、電子線または紫外線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線(「紫外光」または「VUV」と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性とを有するガスバリア層を形成することが可能である。
この紫外線照射により、セラミックス化に寄与するO2およびH2Oや、紫外線吸収剤、ポリシラザン化合物自身が励起、活性化される。そして、励起したポリシラザン化合物のセラミックス化が促進され、得られるセラミックス膜(すなわち、第1のガスバリア層)が緻密になる。紫外線照射は、上述した塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
なお、本発明でいう紫外線とは、一般には、10〜400nmの波長を有する電磁波をいうが、後述する真空紫外線(10〜200nm)処理以外の紫外線照射処理の場合は、好ましくは210〜375nmの紫外線を用いる。紫外線照射処理においては、通常使用されているいずれの紫外線発生装置を使用することも可能である。
紫外線の照射は、照射される改質前のガスバリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。
紫外線の照射は、照射される改質前のガスバリア層の塗膜を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度や照射時間を設定することが好ましい。基材としてのプラスチックフィルムを用いた場合を例にとると、例えば、2kW(80W/cm×25cm)のランプを用い、基材表面の強度が20〜300mW/cm2、好ましくは50〜200mW/cm2になるように、基材−紫外線照射ランプ間の距離を設定し、0.1秒〜10分間の照射を行うことができる。
一般に、紫外線照射処理時の基材温度が150℃以上になると、プラスチックフィルム等の場合には、基材が変形したり、その強度が劣化したりする等、基材の特性が損なわれることになる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いフィルムや、金属等の基板の場合には、より高温での改質処理が可能である。したがって、この紫外線照射時の基材温度としては、一般的な上限はなく、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。また、紫外線照射処理の雰囲気は特に制限されない。
このような紫外線の発生手段としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、エキシマランプ(172nm、222nm、308nmの単一波長、例えば、ウシオ電機株式会社製や株式会社エム・ディ・コム製)、UV光レーザー等が挙げられるが、特に限定されない。また、発生させた紫外線を改質前のガスバリア層に照射する際には、効率向上と均一な照射を達成する観点から、発生源からの紫外線を反射板で反射させてから改質前のガスバリア層に当てることが望ましい。
紫外線照射は、バッチ処理にも連続処理にも適合可能であり、使用する基材の形状によって適宜選定することができる。例えば、バッチ処理の場合には、改質前のガスバリア層を表面に有する積層体を上記のような紫外線発生源を具備した紫外線焼成炉で処理することができる。紫外線焼成炉自体は一般に知られており、例えば、アイグラフィクス株式会社製の紫外線焼成炉を使用することができる。また、改質前のガスバリア層を表面に有する積層体が長尺フィルム状である場合には、これを搬送させながら上記のような紫外線発生源を具備した乾燥ゾーンで連続的に紫外線を照射することによりセラミックス化することができる。紫外線照射に要する時間は、使用する基材や改質前のガスバリア層の組成、濃度にもよるが、一般に0.1秒〜10分であり、好ましくは0.5秒〜3分である。
・真空紫外線照射による改質処理
本発明において、上述した改質処理として、真空紫外線を照射することにより行われることが最も好ましい。これは、ポリシラザンの転化反応がより効率的に行われるためである。
真空紫外線照射による改質処理は、ポリシラザン化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、好ましくは100〜180nmの波長の光のエネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみの作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で酸化珪素膜の形成を行う方法である。これに必要な真空紫外線源としては、Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。
なお、Xe、Kr、Ar、Ne等の希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。しかし、放電等によりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→e+Xe*
Xe*+Xe+Xe→Xe2 *+Xe
となり、励起されたエキシマ分子であるXe2 *が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光(真空紫外光)を発光する。
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動・再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
真空紫外線を照射する際の、酸素濃度は300〜10000体積ppm(1体積%)とすることが好ましく、500〜5000体積ppmとすることがより好ましい。このような酸素濃度の範囲に調整することにより、酸素過多のガスバリア層の生成を防止してバリア性の劣化を防止することができる。
真空紫外線を照射する際に、酸素以外のガスとしては乾燥不活性ガスを用いることが好ましく、特にコストの観点から乾燥窒素ガスにすることが好ましい。また、酸素濃度の調整は照射装置チャンバー内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
真空紫外線を照射する際に、照射される改質前のガスバリア層を担持している基材がダメージを受けない範囲で、照射強度または照射時間もしくは照射エネルギー量を調整することが好ましい。
本発明において、改質前のガスバリア層の塗膜面が受ける真空紫外線の照度は、1mW/cm2〜10W/cm2であると好ましく、30mW/cm2〜200mW/cm2であることがより好ましく、50mW/cm2〜160mW/cm2であるとさらに好ましい。1mW/cm2以上であれば、改質効率を確保することができ、また10W/cm2以下であれば、基材のダメージの心配がないからである。
改質前のガスバリア層の塗膜面における真空紫外線の照射エネルギー量(積算光量)は、10〜30000mJ/cm2が好ましく、100〜15000mJ/cm2であるとより好ましく、200〜12000mJ/cm2であるとさらに好ましい。10mJ/cm2以上であれば、十分に改質することができ、また30000mJ/cm2以下であれば、過剰改質によるクラック発生や基材の熱変形の心配がないからである。
エキシマ発光を得るには、誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは、両電極間に誘電体(エキシマランプの場合は透明石英)を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じる雷に似た非常に細いmicro dischargeと呼ばれる放電である。
また、効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外には無電極電界放電も知られている。無電極電界放電とは、容量性結合による放電であり、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は、基本的には誘電体バリア放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られる。
そして、Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから発光効率に優れている。この光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを高濃度で発生することができる。また、有機物の結合を解離させる波長の短い172nmの光のエネルギーは能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン膜の改質を実現できる。従って、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べて高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板、樹脂フィルム等への照射を可能としている。
また、エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光による温度上昇の要因となる波長の長い光は発せず、紫外線領域で単一波長のエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を有する。このため、熱の影響を受けやすいとされるポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを基材とするガスバリア性フィルムへの照射に適している。
本発明での真空紫外光照射処理には、常用されているいずれの紫外線発生装置を使用することが可能である。例えば、図1で示す装置を使用することができる。
図1は、真空紫外線照射装置の一例を示す断面模式図である。装置チャンバー10の中には、172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有するXeエキシマランプ12と、外部電極を兼ねるエキシマランプのホルダー13と、試料ステージ14と、遮光板16と、を備えている。また、装置チャンバー10の中には、図示しないガス供給口から内部に窒素と酸素とを適量供給し、図示しないガス排出口から排気することで、チャンバー内部から実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度を所定の濃度に維持することができる。
試料ステージ14は、図示しない移動手段により装置チャンバー10内を水平に所定の速度で往復移動することができる。また、試料ステージ14は図示しない加熱手段により、所定の温度に維持することができる。15は改質前のガスバリア層が形成された試料である。試料ステージが水平移動する際、試料の塗布層表面と、エキシマランプ管面との最短距離が3mmとなるように試料ステージの高さが調整されている。遮光板16は、Xeエキシマランプ12のエージング中に試料の塗布層に真空紫外光が照射されないようにしている。
改質前のガスバリア層の塗膜面における真空紫外線の照射エネルギーは、例えば浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、172nmのセンサヘッドを用いて測定できる。測定に際しては、Xeエキシマランプ管面とセンサヘッドの測定面との最短距離が、3mmとなるようにセンサヘッドを試料ステージ14中央に設置し、かつ、装置チャンバー10内の雰囲気が、真空紫外線照射工程と同一の酸素濃度となるように窒素と酸素とを供給し、試料ステージ14を0.1〜50m/minの速度で移動させて測定を行うことができる。また測定に先立ち、Xeエキシマランプ12の照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後にエージング時間を設け、その後試料ステージを移動させて測定を開始することが好ましい。
上記の測定で得られた照射エネルギーを元に、試料ステージ14の移動速度を調整することにより所望の照射エネルギーとなるように調整することができる。なお、真空紫外線照射に際しては、照射エネルギー測定時と同様に、エージング後に行うことが好ましい。
(後処理)
改質処理して形成された第1のガスバリア層は、その前段階である塗布液を塗布した後または改質処理した後、特には改質処理した後、後処理を施すことが好ましい。ここで述べる後処理とは、温度10℃以上800℃未満の温度処理(熱処理)、あるいは相対湿度0%RH以上100%RH以下、または水浴に浸漬した湿度処理も含み、処理時間は、5秒から48日の範囲より選択される範囲と定義する。温度と湿度との両方の処理を施してもよく、どちらか一方だけでもよい。ガスバリア性向上、密着性向上等の観点から、好ましくは温度処理である。温度処理を施す際は、ホットプレート上に置く等の接触方式、オーブンにつるして放置する非接触方式等特に方式は問わず、併用でも、単式でもよい。生産性と装置上の負荷や基材の耐性も考えると、好ましい条件は、温度30〜300℃、相対湿度30〜85%RH、処理時間は30秒〜100時間である。
(第2のガスバリア層)
第2のガスバリア層は、上記第1のガスバリア層と隣接するように配置され、真空成膜法により形成されるものである。なお、第2のガスバリア層は、上記第1のガスバリア層に隣接していればよい。ただし、より優れたガスバリア性を発揮しうるという観点から、第2のガスバリア層は、上記基材と上記第1のガスバリア層との間に配置されることがより好ましい。
(第2のガスバリア層の成膜方法)
第2のガスバリア層を形成するための真空成膜法としては、化学気相蒸着法(CVD法)または物理蒸着法(PVD法)が挙げられる。
真空成膜法により形成される第2のガスバリア層は、無機化合物を含む。第2のガスバリア層に含まれる無機化合物としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、アルミニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物の少なくとも1種を含む。ケイ素、アルミニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物としては、具体的には、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素(SiON)、酸炭化ケイ素(SiOC)、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、およびアルミニウムシリケートなどのこれらの複合体が挙げられる。このうち好ましくは酸窒化ケイ素(SiON)、窒化ケイ素(SiN)、酸炭化ケイ素(SiOC)、酸化ケイ素(SiO2)、アルミニウムシリケート(SiAlO)および酸窒化炭化ケイ素(SiONC)である。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
第2のガスバリア層の厚みは、5〜600nmであることが好ましい。第2のガスバリア層の膜厚が5nm以上であれば十分なガスバリア性を得ることができ、600μm以下であれば、高い光線透過性を実現できる。また、ガスバリア性により優れるという観点から、第2のガスバリア層の厚みは、より好ましくは10〜500nmであり、さらに好ましくは50〜400nmである。
第2のガスバリア層は上記化合物を有することで、ガスバリア性を有する。ここで、第2のガスバリア層のガスバリア性は、基材上に第2のガスバリア層を形成させた積層体で算出した際に、上述の方法により測定される水蒸気透過量が0.1g/(m2・24h)以下であることが好ましく、0.01g/(m2・24h)以下であることがより好ましい。
物理蒸着法(PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタリング法(DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング、およびマグネトロンスパッタリング等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
原料化合物としては、ケイ素化合物、チタン化合物、およびアルミニウム化合物を用いる。これらは、従来公知の化合物を用いることができ、好ましくはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)である。
また、金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気などが挙げられる。また、上記分解ガスを、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスと混合してもよい。
以下、CVD法のうち、好適な形態であるプラズマCVD法について具体的に説明する。
図2は、本発明に係る第一無機層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図2において、真空プラズマCVD装置101は、真空槽102を有しており、真空槽102の内部の底面側には、サセプタ105が配置されている。また、真空槽102の内部の天井側には、サセプタ105と対向する位置にカソード電極103が配置されている。真空槽102の外部には、熱媒体循環系106と、真空排気系107と、ガス導入系108と、高周波電源109が配置されている。熱媒体循環系106内には熱媒体が配置されている。熱媒体循環系106には、熱媒体を移動させるポンプと、熱媒体を加熱する加熱装置と、冷却する冷却装置と、熱媒体の温度を測定する温度センサと、熱媒体の設定温度を記憶する記憶装置とを有する加熱冷却装置160が設けられている。図2に記載の真空プラズマCVD装置の詳細については、国際公開第2012/014653号パンフレットを参照することができる。
(第2のガスバリア層の他の好適な形態)
また、本発明の第2のガスバリア層の他の好適な一実施形態として、構成元素に炭素、ケイ素、および酸素を含む層がある。より好適な形態は、以下の(i)〜(ii)の要件を満たす無機層である。
(i)第2のガスバリア層の膜厚方向における第一無機層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する、
(ii)炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値と最小値との差の絶対値が3at%以上である。
かような組成をもつことで、ガスバリア性と屈曲性を高度に両立する観点から好ましい。
さらに、第2のガスバリア層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の平均原子比率が、下記式(A)または(B)で表される序列の大小関係を有することが、屈曲性に優れるという点で好ましい。
式(A)
(炭素平均原子比率)<(ケイ素平均原子比率)<(酸素平均原子比率)
式(B)
(酸素平均原子比率)<(ケイ素平均原子比率)<(炭素平均原子比率)
以下、上記好適な実施形態について説明する。
(i)前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することが好ましい。上記第2のガスバリア層は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有することが好ましく、少なくとも4つの極値を有することがより好ましいが、5つ以上有してもよい。炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することで、炭素原子比率が濃度勾配を有して連続的に変化し、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、炭素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。極値の数は、ガスバリア層の膜厚にも起因するため、一概に規定することはできない。
ここで、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値(以下、単に「極値間の距離」とも称する)が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが特に好ましい。このような極値間の距離であれば、第2のガスバリア層中に炭素原子比が多い部位(極大値)が適度な周期で存在するため、第2のガスバリア層に適度な屈曲性を付与し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において極値とは、前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)に対する元素の原子比の極大値または極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、第2のガスバリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上減少していればよい。これは、第2のガスバリア層の膜厚により変動する。例えば、第2のガスバリア層が300nmである場合は、第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離を20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点が好ましい。さらに、本明細書において極小値とは、第2のガスバリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上増加していればよい。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、極値間の距離が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されない。
さらに、該第2のガスバリア層は、(ii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることが好ましく、5at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることで、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、本明細書において、「最大値」とは、各元素の分布曲線において最大となる各元素の原子比であり、極大値の中で最も高い値である。同様にして、本明細書において、「最小値」とは、各元素の分布曲線において最小となる各元素の原子比であり、極小値の中で最も低い値である。
また、第2のガスバリア層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C)ことが好ましい。かような条件となることで、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性や屈曲性が十分となる。ここで、上記炭素分布曲線において、上記(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)および(炭素の原子比)の関係は、ガスバリア層の膜厚の、少なくとも90%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましく、少なくとも93%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましい。ここで、ガスバリア層の膜厚の少なくとも90%以上とは、ガスバリア層中で連続していなくてもよく、単に90%以上の部分で上記した関係を満たしていればよい。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線、および前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)に概ね相関することから、「第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される第2のガスバリア層の表面からの距離を採用することができる。なお、本発明では、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線および酸素炭素分布曲線は、下記測定条件にて作成した。
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+);
エッチング速度(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec;
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm;
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名”VG Theta Probe”;
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
膜面全体において均一でかつ優れたガスバリア性を有する第2のガスバリア層を形成するという観点から、第2のガスバリア層が膜面方向(第2のガスバリア層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。ここで、第2のガスバリア層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により第2のガスバリア層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線および前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。ここで、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記第2のガスバリア層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該第2のガスバリア層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(1)で表される条件を満たすことをいう。
なお、第2のガスバリア層がサブレイヤーを有する場合、上記条件(i)〜(ii)を全て満たすサブレイヤーが複数積層されて第2のガスバリア層を形成していてもよい。サブレイヤーを2層以上備える場合には、複数のサブレイヤーの材質は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
第2のガスバリア層の好適な形態である、(i)〜(ii)の要件を満たす層は、プラズマCVD(PECVD)法により形成される層であることが好ましく、さらに対向ロール型のロール・トゥ・ロール真空成膜装置を用いたプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。かような構成とすることで、ガスバリア層の膜厚方向に向かって炭素原子の存在比を連続的(擬周期的)に変化させることができ、ガスバリア性フィルムの屈曲耐性を向上させてたわみの発生を防止できるという利点がある。なお、前記プラズマCVD法はペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であってもよい。
プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、通常のローラーを使用しないプラズマCVD法と比較して成膜レートを倍にでき、なおかつ、略同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(ii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量未満であることが好ましい。また、本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記ガスバリア層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
また、ロール・トゥ・ロール方式で第2のガスバリア層を形成させることは生産性の観点からも好ましい。また、このようなプラズマCVD法により第2のガスバリア層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図3に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロール・トゥ・ロール方式で製造することも可能となる。
以下、図3を参照しながら、第2のガスバリア層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、図3は、第2のガスバリア層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図3に示す製造装置31は、送り出しローラー32と、搬送ローラー33、34、35、36と、成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、成膜ローラー39および40の内部に設置された磁場発生装置43、44と、巻取りローラー45とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、磁場発生装置43、44とが図示を省略した真空チャンバ内に配置されている。さらに、このような製造装置31において前記真空チャンバは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバ内の圧力を適宜調整することが可能となっている。装置に関する詳細は従来公知の文献、例えば、特開2011−73430号公報を参照することができる。
上記したように、本実施形態の一つの好ましい態様としては、第2のガスバリア層を、図3に示す対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロール・トゥ・ロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜する。これは、対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールツーロールでの搬送時の耐久性と、バリア性能とが両立する第2のガスバリア層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められるガスバリア性フィルムを、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア層(第1のガスバリア層および第2のガスバリア層)の層数は特に制限されず、基材の少なくとも一方の面に第1および第2のガスバリア層が隣接するように存在していれば、その他の形態は問わない。ガスバリア性の観点から、ガスバリア層の層数は、基材の両面合わせて好ましくは2層〜10層であり、より好ましくは3層〜6層である。特に好ましくは、上述したように基材の一方の面のみにガスバリア層が存在する形態であり、この場合の好ましい実施形態では、基材の一方の面のみにガスバリア層が2層〜10層、より好ましくは3層〜6層存在する。
上述したガスバリア層のうち、添加元素を含有するガスバリア層(つまり、第1のガスバリア層)は、少なくとも1層あればよいが、2層以上含まれることが好ましく、特には、基材の一方の面に、第1のガスバリア層が2層〜3層含まれていることが好ましい。
第1のガスバリア層および第2のガスバリア層の積層方向の位置は、特に制限されない。ただし、本発明の好ましい実施形態では、基材の少なくとも一方の面に、第1のガスバリア層/第2のガスバリア層/第1のガスバリア層の構成、または第2のガスバリア層/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層の構成が少なくとも1つ存在することが好ましい。かような構成とすることにより、ガスバリア性に特に優れたガスバリア性フィルムを構成することが可能となる。なお、ガスバリア性フィルム中に上記構成は少なくとも1つ存在することが好ましいが、のべ少なくとも2つ存在することがより好ましく、のべ少なくとも3つ存在する(例えば、後述する実施例におけるガスバリア性フィルム11〜20を参照)ことがさらに好ましい。
本発明において、ガスバリア層は、適度な表面の平滑性を有することが好ましい。具体的には、ガスバリア層の表面の平滑性としては、ガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)が、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このようなガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)の下限は、特に制限されないが、実用上、0.01nm以上であり、0.1nm以上であることが好ましい。このようなRaを有するガスバリア層であれば、当該ガスバリア層中の凹凸に良好に対応して当該ガスバリア層上にさらに別のガスバリア層を形成することもできる。このため、ガスバリア層に生じるクラックやダングリングボンド等の欠陥を別のガスバリア層がより効率よく被覆して、密な表面を形成することができる。ゆえに、高温高湿条件下でのガスバリア性(例えば、低酸素透過性、低水蒸気透過性)の低下をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において、ガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を使用し、試料の表面を測定したAFMトポグラフィー像につき傾斜自動補正処理を行い、次いで3次元粗さ解析を行うことにより求めることができる。
〔その他の層〕
本発明に係るガスバリア性フィルムは、その他の層(中間層)をさらに有していてもよい。中間層としては、アンカーコート層、平滑層、ブリードアウト防止層およびクリアハードコート層等が挙げられる。これらのうち、基材上にクリアハードコート層を形成することが好ましい。特に、基材の両面にクリアハードコート層を有することが好ましい。
(クリアハードコート層(CHC層))
クリアハードコート層は、基材とガスバリア層との密着性向上、高温高湿下での基材とガスバリア層との膨張・収縮の差から生じる内部応力の緩和、ガスバリア層を設ける下層の平坦化、主基材からのモノマー、オリゴマー等の低分子量成分のブリードアウト防止等の機能を有する。このような機能を有するクリアハードコート層は、感光性樹脂組成物(通常、感光性樹脂、光重合開始剤、および溶媒を含む)を基材上に塗布した後、硬化させることによって形成されうる。
クリアハードコート層の厚さとしては、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜7μmである。クリアハードコート層の厚さが1μm以上であると、ガスバリア性フィルムの耐熱性が向上しうることから好ましい。一方、クリアハードコート層の厚さが10μm以下であると、ガスバリア性フィルムの光学特性が好適に調整され、また、ガスバリア性フィルムのカールを抑制しうることから好ましい。
(平滑層(下地層、プライマー層))
平滑層は、突起等が存在する基材の粗面を平坦化するために、または、基材に存在する突起に起因してガスバリア層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、いずれの材料で形成されてもよいが、炭素含有ポリマーを含むことが好ましく、炭素含有ポリマーから構成されることがより好ましい。すなわち、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法においては、基材とガスバリア層との間に、炭素含有ポリマーを含む平滑層をさらに設けてもよい。
平滑層の平滑性は、JIS B 0601:2001年で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。
(アンカーコート層)
本発明に係る基材の表面には、接着性(密着性)の向上を目的として、アンカーコート層を易接着層として形成してもよい。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。上記アンカーコート剤は、市販品を使用してもよい。具体的には、シロキサン系UV硬化型ポリマー溶液(信越化学工業株式会社製、「X−12−2400」の3%イソプロピルアルコール溶液)を用いることができる。なお、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
(ブリードアウト防止層)
表面に平滑層が形成された基材は、加熱処理の際にその内部から表面に未反応のオリゴマー等が移行して、表面が汚染されうる。ブリードアウト防止層は、当該基材表面の汚染を抑制する機能を有する。当該ブリードアウト防止層は、通常、平滑層が配置された基材の当該平滑層とは反対側の面に設けられる。
ブリードアウト防止層は、上記機能を有していれば、平滑層と同じ構成であってもよい。すなわち、ブリードアウト防止層は、感光性樹脂組成物を基材上に塗布した後、硬化させることによって形成されうる。
基材上に、上述のクリアハードコート層、平滑層、アンカーコート層、およびブリードアウト防止層からなる群から選択される少なくとも1つの中間層が形成される場合、基材および中間層の総膜厚は、5〜500μmであることが好ましく、25〜250μmであることがより好ましい。
上述したように、本発明に係るガスバリア性フィルムによれば、薄膜基材を備え、ポリシラザン改質膜と蒸着膜とが隣接配置されてなるガスバリア性フィルムにおいて、基材とガスバリア層との密着性を向上させるとともにガスバリア層の割れを防止することにより、経時的なガスバリア性の低下を防止することが可能となる。ガスバリア性フィルムの水蒸気透過率は低いほど好ましいが、本発明に係るガスバリア性フィルムの水蒸気透過率の値は、1×10−2g/m2/day以下であることが好ましく、より好ましくは3×10−3g/m2/day以下であり、さらに好ましくは5×10−4g/m2/day以下である。
〔電子デバイス〕
上記したような本発明に係るガスバリア性フィルムは、優れたガスバリア性、透明性、耐屈曲性を有する。このため、本発明に係るガスバリア性フィルムは、電子デバイス等のパッケージ、光電変換素子(太陽電池素子)や有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、液晶表示素子等の等の電子デバイスに用いられるガスバリア性フィルムおよびこれを用いた電子デバイスなど、様々な用途に使用することができる。
(電子素子本体)
電子素子本体は電子デバイスの本体であり、ガスバリア性フィルムのガスバリア層側に配置される。電子素子本体としては、ガスバリア性フィルムによる封止が適用されうる公知の電子デバイスの本体が使用できる。例えば、有機EL素子、太陽電池(PV)、液晶表示素子(LCD)、電子ペーパー、薄膜トランジスタ、タッチパネル等が挙げられる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、該電子素子本体は、有機EL素子または太陽電池であることが好ましい。これらの電子素子本体の構成についても、特に制限はなく、従来公知の構成を有しうる。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける方法である。ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
(有機EL素子)
ガスバリア性フィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリア性フィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In−Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
(太陽電池)
本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリア性フィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
<光学部材>
本発明のガスバリア性フィルムは、光学部材としても用いることができる。光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリア性フィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−86554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
《ガスバリア性フィルムの作製》
[ガスバリア性フィルム1の作製]
(第1のガスバリア層の形成)
両面ハードコート層(中間層)付き透明樹脂基材(きもと社製クリアハードコート層(CHC)付ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ハードコート層はアクリル樹脂を主成分としたUV硬化樹脂より構成、PETフィルムの厚み150μm)を準備した。
一方、20質量%のパーヒドロポリシラザンを含む無触媒のジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ NN120−20)と、1質量%のアミン触媒および19質量%パーヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、アクアミカ NAX120−20)とを4:1の質量割合で混合し、さらにジブチルエーテル溶媒で塗布液の固形分が3質量%になるように希釈調整して、ポリシラザン含有塗布液を調製した。
上記で準備した基材の一方の表面に、上記調製したポリシラザン含有塗布液をスピンコーターにて塗布した。これを2分間放置した後、80℃のホットプレートで1分間追加加熱処理を行って、ポリシラザン含有塗膜層を形成した。
上記形成したポリシラザン塗膜層に、真空紫外線(エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長172nm、ステージ温度100℃、積算光量2500mJ/cm2、酸素濃度0.1%)を照射して、乾燥膜厚75nmの第1のガスバリア層を形成した。なお、真空紫外線の照射は、図1に示す装置を用いて行った。また、真空紫外線照射工程でポリシラザン含有塗膜層表面に照射されるエネルギー量(積算光量)は、浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、172nmのセンサヘッドを用いて測定した。測定に際しては、Xeエキシマランプ管面とセンサヘッドの測定面との最短距離が、3mmとなるようにセンサヘッドを試料ステージ14中央に設置し、かつ、装置チャンバー10内の雰囲気が、真空紫外線照射工程と同一の酸素濃度となるように窒素と酸素とを供給し、試料ステージ14を0.5m/minの速度で移動させて測定を行った。測定に先立ち、Xeエキシマランプ12の照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設け、その後試料ステージを移動させて測定を開始した。
この測定で得られた照射エネルギーを元に、試料ステージの移動速度を調整することで2500mJ/cm2の照射エネルギーとなるように調整した。なお、真空紫外線照射に際しては、照射エネルギー測定時と同様に、10分間のエージング後に行った。
(第2のガスバリア層の形成)
大気圧プラズマ製膜装置(特開2008−56967号の図2に記載、ロール・トゥ・ロール形態の大気圧プラズマCVD装置)を用いて、大気圧プラズマ法により、上記第1のガスバリア層の露出表面上に、以下の薄膜形成条件で酸化珪素(SiOC)からなる第2のガスバリア層(厚み50nm)を形成した。
(混合ガス組成物)
放電ガス:窒素ガス 94.9体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.1体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
(成膜条件)
〈第1電極側〉
電源種類:ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 :100kHz
出力密度:10W/cm2
電極温度:120度
〈第2電極側〉
電源種類:パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 :13.56MHz
出力密度:10W/cm2
電極温度:90度
[ガスバリア性フィルム2の作製]
基材であるPETフィルムの厚みを125μmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム1の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム2を作製した。
[ガスバリア性フィルム3の作製]
基材であるPETフィルムの厚みを25μmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム1の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム3を作製した。
[ガスバリア性フィルム4の作製]
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製を以下のようにして行ったこと以外は、ガスバリア性フィルム2の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム4を作製した。
(ポリシラザン含有塗布液の調製)
20質量%のパーヒドロポリシラザンを含む無触媒のジブチルエーテル溶液(アクアミカ NN120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)と、1質量%のアミン触媒および19質量%パーヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ NAX120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)とを4:1の質量割合で混合した。この溶液を2.318g採取したところに、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、川研ファインケミカル株式会社製)0.306gおよびジブチルエーテル12.776gを添加混合して、ポリシラザン含有塗布液を調製した。
[ガスバリア性フィルム5の作製]
基材であるPETフィルムの厚みを25μmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム4の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム5を作製した。
[ガスバリア性フィルム6の作製]
第1のガスバリア層の形成と第2のガスバリア層の形成との順序を入れ替え、基材(CHC層付き)/第2のガスバリア層/第1のガスバリア層の積層構成としたこと以外は、ガスバリア性フィルム4の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム6を作製した。
[ガスバリア性フィルム7の作製]
基材であるPETフィルムの厚みを25μmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム6の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム7を作製した。
[ガスバリア性フィルム8の作製]
ガスバリア性フィルム1における第2のガスバリア層の露出表面上に、ガスバリア性フィルム1におけるのと同様の手法により第1のガスバリア層、第2のガスバリア層、および第1のガスバリア層をこの順にさらに形成して、基材(CHC層付き)/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層/第1のガスバリア層/第2のガスバリア層/第1のガスバリア層の積層構成を有するガスバリア性フィルム8を作製した。
[ガスバリア性フィルム9の作製]
最表層に位置する第1のガスバリア層を、ガスバリア性フィルム4における第1のガスバリア層と同様の手法により形成したこと以外は、ガスバリア性フィルム8の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム9を作製した。
[ガスバリア性フィルム10の作製]
中間に位置する第1のガスバリア層を、ガスバリア性フィルム4における第1のガスバリア層と同様の手法により形成したこと以外は、ガスバリア性フィルム9の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム10を作製した。
[ガスバリア性フィルム11の作製]
最も基材側に位置する第1のガスバリア層を、ガスバリア性フィルム4における第1のガスバリア層と同様の手法により形成したこと以外は、ガスバリア性フィルム10の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム11を作製した。
[ガスバリア性フィルム12の作製]
2層の第2のガスバリア層の厚みを5nmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム12を作製した。
[ガスバリア性フィルム13の作製]
2層の第2のガスバリア層の厚みを600nmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム13を作製した。
[ガスバリア性フィルム14の作製]
3層の第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製において、ALCHに代えてガリウム(III)イソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム14を作製した。
[ガスバリア性フィルム15の作製]
3層の第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製において、ALCHに代えてインジウム(III)イソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム15を作製した。
[ガスバリア性フィルム16の作製]
3層の第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製において、ALCHに代えてマグネシウムエトキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム16を作製した。
[ガスバリア性フィルム17の作製]
3層の第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製において、ALCHに代えてカルシウムイソプロポキシド(シグマ−アルドリッチ社製)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム17を作製した。
[ガスバリア性フィルム18の作製]
3層の第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製において、ALCHに代えてホウ酸トリイソプロピル(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム18を作製した。
[ガスバリア性フィルム19の作製]
2層の第2のガスバリア層の厚みを150nmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム19を作製した。
[ガスバリア性フィルム20の作製]
2層の第2のガスバリア層の厚みを400nmとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム11の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム20を作製した。
《ガスバリア性フィルムの評価》
[耐屈曲性の評価]
ユアサシステム機器株式会社製のDLDM111LのU字折り返し試験機を用いて、耐屈曲性の評価を実施した。具体的には、曲げ半径50mm、ストローク±50mm、往復速度60往復/分を合計3600回実施した後、ガスバリア層の露出表面を顕微鏡で観察し(倍率200倍)、ガスバリア層におけるクラックの発生度合いを以下の基準によりランク付けした。結果を下記の表1に示す。
5:クラック発生なし
4:クラック発生がごくわずかにあるが、実用上問題なし
3:クラック発生が少しあり、実用上問題少しあり
2:クラック発生があり、実用上問題あり
1:クラック発生が多数あり、実用上問題非常にあり。
[負荷試験後の各種特性の評価]
上記作製したガスバリア性フィルムのそれぞれを90℃の熱水中に20分間浸漬した後、80℃のオーブン中に1時間放置した。その後、ガスバリア性フィルムを、ガスバリア層の露出表面が上になるようにして、曲率半径3mmで180°の角度に1000回の屈曲を繰り返した。その後、以下の評価を行った。
(密着力の評価)
JIS 5400に規定されるクロスカット法の100マス試験を実施した。この試験では、100マス中剥離のないマス目の数が多い方が密着力が良いことになる。結果(剥離のないマス目の数)を下記の表1に示す。
(ガスバリア性の評価)
ガスバリア性の評価は、厚み120nmの金属カルシウムをガスバリア性フィルムのガスバリア層の露出表面上に蒸着製膜し、その50%の面積になる時間を劣化時間として評価することで行った。この試験では、劣化時間が長い方がガスバリア性が良いことになる。結果(劣化時間(時間))を下記の表1に示す。なお、当該試験の具体的な条件等は以下の通りである。
(金属カルシウム製膜装置)
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
(原材料)
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)
(ガスバリア性評価試料の作製)
真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、作製したガスバリア性フィルムのガスバリア層の露出表面に、マスクを通して12mm×12mmのサイズで金属カルシウムを蒸着させた。この際、蒸着膜厚は120nmとなるようにした。
その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムを蒸着させて仮封止をした。次いで、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下に移して、アルミニウム蒸着面に封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス社製)を介して厚さ0.2mmの石英ガラスを張り合わせ、紫外線を照射して樹脂を硬化接着させて本封止することで、ガスバリア性評価試料を作製した。
得られた試料を85℃90%RHの高温高湿下で保存し、保存時間に対して金属カルシウムが腐食してゆく様子を観察した。観察は12mm×12mmの金属カルシウム蒸着面積に対する金属カルシウムが腐食した面積が50%になる時間を観察結果から直線で内挿して求めた。
表1に示す結果を見ると、まず、ガスバリア性フィルム1では、基材厚みが150μmと大きいことから、フィルムの耐屈曲性の低下や、基材とガスバリア層との密着性・ガスバリア性の経時的な低下といった課題は存在しないことがわかる。ただし、基材厚みが大きすぎることから、ガスバリア性フィルムやこれが用いられる電子デバイス等の薄膜化の要請に十分に応えることができないという問題が残ってしまう。
また、ガスバリア性フィルム1に対して基材の厚みを小さくしただけのガスバリア性フィルム2やガスバリア性フィルム3では、フィルムの耐屈曲性や基材とガスバリア層との密着性、経時的なガスバリア性能などがいずれも著しく低下してしまう。このことは、ガスバリア層を5層設けたガスバリア性フィルム8についても同様である。これに対し、本発明に係るガスバリア性フィルムによれば、薄膜の(厚みが125μm以下の)基材を備え、ポリシラザン改質膜と蒸着膜とが隣接配置されてなるガスバリア性フィルムにおいても、基材とガスバリア層との密着性を向上させるとともにガスバリア層の割れを防止することにより、経時的なガスバリア性の低下を防止できることがわかる。